第1 教授会の審議と最終決定を分けて確認する
大学の人事,組織改編,学生の在籍又は学位に関する相談では,教授会が審議したかだけでなく,誰が決定権を持ち,どの意見聴取が必要かを確認することが出発点となる。
大学の自治から,すべての案件について教授会の最終決定権を当然に導くことはできない。
本記事は,令和8年10月4日に確認した学校教育法93条,文部科学省の施行通知及び内部規則の点検資料に基づき,規程と意思決定記録の確認方法を説明する。
国立大学,公立大学,私立大学では法人の機関構成が異なるため,共通の学校教育法と,各法人の法制・内部規程を分けて読む必要がある。
第2 学校教育法93条の二つの役割
1 学長の決定に当たり意見を述べる事項
同条2項は,①学生の入学,卒業及び課程の修了,②学位の授与,③その他の教育研究上の重要事項で教授会の意見聴取が必要なものとして学長が定める事項について,学長の決定に当たり教授会が意見を述べる仕組みを定める。
文部科学省の平成26年8月29日施行通知4頁~5頁は,教授会に意見を述べる義務があり,学長にも意見を述べさせる義務がある一方,学長はその意見に拘束されないと説明している。
したがって,意見と異なる結論を選べることと,必要な意見聴取を省略できることは別である。
実務では,意見の有無,審議対象,決定前に意見が示されたか,最終判断と理由をそれぞれ確認する必要がある。
2 教育研究事項の審議と求めに応じた意見
同条3項は,2項の事項以外についても,教授会が学長等のつかさどる教育研究事項を審議し,その求めに応じて意見を述べられると定める。
従来の審議事項をすべて2項3号の事項として扱うと,学長の決定に先立つ必須の意見聴取の範囲を広げることになるため,大学が意図する運営との対応を確認すべきである。
文部科学省の内部規則の総点検・見直しにおける留意事項は,学長が定める事項と,3項に基づく審議事項の書き分けを求めている。
学則の制定権が理事会にある場合にも,2項3号の事項を学長自身が定めることが担保されるよう,学長裁定等で明確にする必要があると説明している。
第3 人事,退学,学部再編の確認方法
1 選考,審議,任命を一つにしない
教員の採用・昇任,学部長の選任,教員の解雇等では,候補者推薦,専門的な評価,教授会の審議,法人の決定及び任命・契約上の通知を分ける。
処分時点の寄附行為又は定款,学則,教授会規程,人事規程,就業規則及び契約から,各段階の担当者と必要な手続を確認することが有用である。
教授会の意見が最終決定を拘束しないという学校教育法上の説明だけで,個別の人事措置の有効性が確定するものではない。
労働契約,内部規程,処分理由及び事実関係の別途の検討が必要である。
2 自主退学と懲戒退学を分ける
平成27年4月1日施行の改正で,学生の入退学等について一律に教授会の議を経るとしていた学校教育法施行規則旧144条は削除された。
文部科学省の留意事項は,この削除が退学・転学等の教授会審議を禁止するものでも,学生の希望を無条件に受理するよう求めるものでもないと説明している。
自主退学,休学,転学の申請と,懲戒としての退学は,根拠と手続を分けて確認する。
懲戒については,施行通知が示す手続の整備に加え,現行の学則・懲戒規程で告知,説明の機会及び決定権者を確認する必要がある。
3 教学と法人経営の両方を確認する
学部改編や予算配分では,教学上の専門的な検討と,法人としての経営判断・法定手続が重なることがある。
同じ議題を複数の会議が扱った場合も,単なる報告,諮問への回答,必須の意見聴取及び決議を区別し,決裁文書と議事録を対応させることが有用である。
私立学校法人については,令和7年4月1日を中心とする制度改正により,理事会,監事及び評議員会の権限配分等が見直されている。
2013年の機関図を現在の規程点検に流用せず,令和6年6月14日の施行通知と現行の寄附行為・法令を確認すべきである。
第4 相談時にそろえる資料と記録
本記事では,大学・法人の担当部署と法律相談の準備として,次の整理を提案する。
これは資料保存の実務提案であり,以下の書式を法律が一律に義務付けているという趣旨ではない。
①問題となる決定日と,その日に適用された法令・内部規程の版を確定する。
②案件ごとに,提案者,審議機関,意見聴取先,決定権者,通知担当を一枚の表にする。
③招集通知,議案,事前配布資料,議事録,意見書,決裁文書及び通知を時系列で保存する。
④教授会の意見と異なる判断では,専門的な意見をどのように検討したかが分かる理由を記録する。
⑤人事・学生情報を含む議事録の保存と,外部への公表の可否を分けて扱う。
決定権限が不明,必要な意見聴取を行っていない,規程の版が食い違う又は不利益措置の期限が迫る場合には,執行前に手続と救済方法について具体的な相談へ切り替えるべきである。
内部規程違反の効果や裁判での救済は,設置形態・措置・契約等によって異なるため,本記事のみで結論を出すことはできない。
第5 2013年の参考資料を読む際の注意
文部科学省の参考資料2「各部会等の審議内容に関する参考資料(2/4)」7頁~17頁は,当時の教授会制度,運用及び調査結果を説明する歴史資料である。
本文中の「現行制度」は資料作成当時の意味であり,旧93条・旧144条の説明を現在の制度として転載してはならない。
同資料の調査には平成25年6月又は8月の速報値があり,設問ごとに回答対象・回答数が異なる。
審議事項の精選,報告事項の事前周知,他の会議との役割分担は規程点検の着眼点になるが,当時の割合から現在の全国的な運用や改革効果を判断することはできない。
第6 教授会手続と人事措置の有効性を裁判例で比較する
1 手続違反の主張と裁判所の認定を区別する
教授会手続が争点になった事件でも,手続違反が認められたとは限らない。
次の比較は,各事件の規程と事実を前提とした判断である。
神戸・岡山・東京の3判決は裁判所公開の原文で確認した。甲南大学・愛知教育大学の2判決は原文を照合した上で,公開資料で裏付けられる判断の範囲を紹介する。
後者2件の判決全文は,今回,裁判所HPでは確認できていない。
いずれも下級審の判断であり,本記事では上訴結果・確定状況を確認していない。
| 裁判例 | 教授会等の扱い | 人事措置の判断 |
|---|---|---|
| 大阪高裁平成10年11月26日 | 当該規程の下で教授会の解任決定を有効要件とはせず,意見具申の機会も確認 | 懲戒解雇を有効と判断 |
| 神戸地裁平成14年1月29日 | 審議不存在の主張を退け,規程所定の教授会付議等を認定 | 停職処分を有効と判断 |
| 岡山地裁平成29年3月28日 | 教育課程編成の教授会審議等は実施されていた | 教育から外す職務変更命令等を無効と判断 |
| 東京地裁令和元年5月23日 | 配置転換には教授会の承諾が必要という法人側の主張を採用せず | 解雇回避努力等を踏まえて解雇を無効と判断 |
| 名古屋地裁令和3年1月27日 | 規程が要求する教授会審議を省き,重大な手続欠缺を認定 | 停職を無効と判断。賃金請求と不法行為は別に判断 |
2 神戸地裁―質疑がなかったことと審議不存在は同じではない
神戸地裁平成14年1月29日判決・平成11年(ワ)第1800号は,大学教員の停職1年の懲戒処分について,教授会の審議が存在しないなどの主張を検討した。
判決8頁~9頁は,本人への弁明の機会,教授のみで構成する教授会の定足数,判断に足りる配布資料,出席者に意見を求めた経過及び理事長と学長の協議を認定し,手続と処分の相当性を肯定した。
これは,認定された手続違反を軽微として救済した事件ではなく,審議不存在等の主張を事実と規程に照らして退けた事件である。
質疑が出なかったことだけで審議の不存在を断定することも,この判決から招集通知・資料・弁明の準備を一般的に省略してよいと解することもできない。
平成27年の学校教育法改正前の事件であることにも注意が必要である。
3 岡山地裁―教授会の審議を経ても,職務変更の合理性は別に審査される
岡山地裁平成29年3月28日判決・平成28年(ワ)第274号は,短期大学教員に対する職務変更命令等を扱う。
判決32頁~33頁は,教授会の審議と学長の教育課程編成という学則上の手続を踏まえ,教員が従来の特定授業を当然に担当する具体的な法的地位を有するとは認めなかった。
一方,判決41頁~42頁は,教育活動から排除する職務変更について必要性・合理性がなく,重大な不利益もあるとして,人事権の濫用を認めた。
主文では職務変更命令と研究室明渡し命令に従う義務がないことを確認している。
特定授業を担当する地位の確認が認められなかったことと,不利益な命令が有効であることは同義ではない。
4 淑徳大学事件―教授会の承諾を理由に解雇回避を断念できるか
東京地裁令和元年5月23日判決・平成29年(ワ)第10969号は,学部廃止に伴う教員の解雇を扱う。
判決35頁は,新学部への配置転換に教授会の承諾が必要だったとする法人側の主張について,当時は教員採用に教授会の議決を要しない扱いになっていたことなどから採用せず,学部に所属させず他学部の授業を担当させる方法も検討した。
判決36頁は,人員削減の必要性が高度とはいえないこと,新学部への応募機会を与えていないこと,他学部の授業担当等の解雇回避努力を尽くしていないこと及び説明・協議の不十分さを総合して,解雇を無効とした。
教授会の抽象的な権限を説明するだけで,実際の規程と人事運用を確認せずに代替配置ができないと判断することは適切でない。
5 甲南大学事件―最終決定権と意見具申の機会を分ける
大阪高裁平成10年11月26日判決・平成10年(ネ)第1295号(労働判例757号59頁)は,甲南大学教員の懲戒解雇について,当該寄附行為・規程の下で,教授会の解任決定を当然に有効要件とすることを否定した。
この点は,提供資料である文部科学省の2013年参考資料211頁にも引用されている。
全国労働基準関係団体連合会の公開判例情報は,教授会に数回の審議と意見集約の機会があったが最終的に意見を表明できなかった経過,及び懲戒解雇が有効とされた判断を掲載している。
教授会の決定が有効要件でないことから,規程の点検や意見聴取の機会が不要と一般化することはできない。
平成27年改正前の規程・事実に即した事件であり,現在の大学の人事へ結論だけを移さない。
6 愛知教育大学事件―重大な手続欠缺と事後報告の限界
名古屋地裁令和3年1月27日判決・平成31年(ワ)第1665号(労働判例1307号64頁)は,国立大学法人愛知教育大学の停職6週の懲戒処分を扱う。
事件番号・事件名・判決日は,名古屋地裁の特別保存事件一覧でも確認できる。
原文の「第3 当裁判所の判断」3は,就業規則等が要求する教授会審議を省いた重大な手続欠缺により,停職を無効とした。
この判断は,弁護士法人ALG&Associatesの公開解説のⅢ(2)とも照合した。
教授会に最終決定権がないことと,その構成員の意見を判断材料とするために必要な手続を省けることは別である。
処分後の報告と,後に行われた教授会でのやり取りによる是正も否定された。
公開解説と原文を照合すると,実質的な審議を行ったと評価できないことが理由であり,どのような事後手続でも一切是正できないという一般論ではない。
また,処分の無効と賃金請求は認められた一方,不法行為による慰謝料請求は認められていない。無効確認・賃金と損害賠償の成立は分けて検討する。
7 比較から導く確認手順と救済の選択
本記事では,以上の比較から,①必要な手続の根拠,②実際に行われた手続,③措置の必要性・相当性,④求める救済を分けて検討する方法を提案する。
これは全大学・全人事措置に共通する判決の定式ではなく,相談と証拠整理の手順である。
①「意見を聴く」「議を経る」「同意を得る」「報告する」の文言と,当時の規程の改定・運用を確認する。
②不開催,定足数不足,資料不足,弁明の欠如又は決定後の追認のうち,どの事実が問題なのか特定する。
③手続の目的がどの程度損なわれたか,規程の趣旨と審議の実態を確認する。事後の会議を開けば当然に是正できるとは扱わない。
④解雇・懲戒・配転等に応じ,措置の根拠事実,不利益の程度,代替措置及び説明・協議を別に検討する。
⑤地位・賃金,命令に従う義務の不存在,損害賠償又は急を要する仮処分のいずれが必要か検討する。特定授業の担当を求める請求と,一切の教育活動から外す命令を争う請求を混同しない。
第7 関連記事と出典
①公立大学における学問の自由と大学の自治
②国立大学の学長選考―誰が決めるか,意向投票と公表義務
出典は,学校教育法93条,平成26年8月29日施行通知,内部規則の総点検・見直しにおける留意事項,令和6年6月14日の私立学校法改正施行通知,2013年参考資料2及び第6の3判決の裁判所公開原文,甲南大学事件の公開判例情報,愛知教育大学事件の裁判所公表の事件一覧・公開解説である。
公開資料に裏付けられる範囲で判断を説明し,非公開データベースの本文・編集注記は転載していない。
残る掘り下げテーマは,事後手続で是正が認められる条件と,軽微な手続違反の評価である。
愛知教育大学事件の事後対応を否定した判断を,全大学・全処分に共通する是正不能の規則として扱うことはできない。
各事件の上訴結果・確定状況,甲南大学事件で引用される第一審理由全体,具体的大学の規程への当てはめ及び仮処分の要件は別途の検討事項である。