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賃料債権への物上代位と相殺―抵当権設定登記,差押え及び担保不動産収益執行(AI作成)

第1 賃料の差押えでは,抵当権設定登記の時期も確認する

1 通常の差押えとの違い

賃借人Bが賃貸人Aに対して貸金債権などを持ち,賃料と相殺したいと考えているところ,抵当権者Cから物上代位に基づく賃料債権の差押えを受けた場合が,本記事の対象である。
通常の債権差押えに関する民法511条の説明だけでは,結論を出せない。
抵当権者との関係では,賃料を差し押さえられた時だけでなく,Bの反対債権を取得した時と抵当権設定登記の先後が重要になる。

民法372条・304条に基づく物上代位と,民法371条及び民事執行法180条・188条に関係する担保不動産収益執行は,区別して検討する。
本記事は令和8年10月3日時点の法令と,裁判所公開全文を確認した平成21年7月3日・令和5年11月27日判決を中心に整理する。

2 登記,取得,差押え,賃料の対象期間を並べる

①抵当権・根抵当権の設定登記日
②賃借人の反対債権の取得日と発生原因
③物上代位による差押命令の送達日,又は収益執行開始決定の効力発生時
④相殺の意思表示・相殺合意の時
⑤相殺対象とされた各月の賃料の対象期間と弁済期

とりわけ,差押え後の期間に対応する将来賃料と,差押え前の期間に対応する賃料を一括して扱わない。
複数の反対債権がある場合は,どの債権から相殺・弁済の充当をしたかも,結論を左右する。

第2 物上代位による賃料差押えと相殺

1 登記後取得債権と将来賃料

最高裁令和5年11月27日第二小法廷判決(令和3年(受)第1620号,民集77巻8号2188頁)は,抵当権設定登記後に取得した賃貸人に対する債権と,物上代位による差押え後の期間に対応する賃料債権との相殺を扱った。
同判決は,物上代位によって抵当権の効力が賃料債権に及ぶことが,設定登記によって公示されていると説明する。
そのため,登記後取得債権と将来賃料を相殺するという賃借人の期待を,抵当権の効力に優先させて保護することはできないとした。

同判決が先例として参照する最高裁平成13年3月13日第三小法廷判決(平成11年(受)第1345号,民集55巻2号363頁)についても,令和5年判決の理由中で,登記後取得債権による相殺と,あらかじめ相殺適状になる都度相殺する旨の合意をした場合の扱いが確認されている。
本記事でこの先例に触れる部分は,確認した令和5年判決本文の引用・説明によるものである。

2 差押え前に直ちに相殺する合意をした場合

令和5年判決では,賃借人と賃貸人が,差押え前に,登記後取得債権と将来賃料を直ちに相殺する旨の合意をしていた。
最高裁は,このような合意でも,将来賃料を相殺対象にする状態を作り出して差押え前に清算したというだけで,抵当権者への対抗を認めればその利益を不当に害するとし,対抗を認めなかった。
「差押え前に相殺契約を済ませたから安全」という説明は,本判決の対象となる場面では成り立たない。

ただし,同判決を,「登記後はすべての賃料の相殺が禁止される」と読み替えてはならない。
判決が問題としたのは,登記後取得債権と,差押え後の期間に対応する将来賃料との相殺合意である。
各月の賃料がどの期間に対応するか,差押え前の清算の対象は何かを特定する必要がある。

第3 令和5年判決では,反対債権への充当も重要だった

1 登記前の貸金と登記後の保証債権

事案では,賃借人は根抵当権設定登記前の990万円の貸金債権と,登記後の連帯保証債権を有していた。
最高裁は,既に弁済された10万円と,差押命令送達前の期間に対応する990万円の賃料が,まず登記前の貸金債権に充当されると判断した。
その結果,登記前債権は全部消滅し,訴訟対象の将来賃料と相殺される債権は,登記後の連帯保証債権のみとなった。
根抵当権者の取立請求2790万円が認容されたのは,この充当関係を踏まえた結論である。

2 現在の事件では適用法と充当合意を確認する

同判決の補足意見は,平成29年法律第44号による改正前の民法512条・489条によって充当関係を説明している。
現在の事件では,相殺の意思表示の時,改正附則26条4項,現行民法512条・512条の2及び当事者の別段の合意を確認する。
判決の金額や充当順序だけを,契約・時期の異なる事件に移してはならない。

第4 担保不動産収益執行では賃料債権は誰に帰属するか

1 管理人に移るのは管理収益権である

最高裁平成21年7月3日第二小法廷判決(平成19年(受)第1538号,民集63巻6号1047頁)は,収益執行の管理人が賃借人へ賃料を請求した事案を扱った。
最高裁は,管理人が取得するのは賃料債権等を行使する権限であり,権利自体は開始決定の効力発生後も所有者に帰属するとした。
このことは,開始決定後に弁済期が到来する賃料でも変わらない。

そのため,所有者である賃貸人は,相殺の意思表示を受領する資格を失わない。
賃料を受け取る権限が管理人に移ったことと,債権自体が管理人へ移転したことを混同してはならない。
一方,賃料の支払先は管理人となるので,従前どおり賃貸人へ支払ってよいという意味ではない。

2 登記前に取得した保証金返還債権

平成21年判決は,抵当権設定登記前に取得した賃貸人に対する債権による相殺を,収益執行開始決定の効力発生後も管理人に対抗できるとした。
事案の保証金返還債権は登記前に取得され,相殺の意思表示時点で,保証金返還残債権と賃料債権は相殺適状にあった。
「保証金を預けていた」というだけで,明渡し前の敷金返還請求権や未到来の返還債権まで直ちに相殺できるとはいえない。
返還条件,弁済期,期限の利益喪失条項とその事由を確認する。

手続・債権判決で確認できる結論特に見る資料
物上代位の差押え/登記後取得債権と将来賃料差押え前の即時相殺合意も対抗できない(令和5年判決)登記,差押命令,各月の対象期間,相殺合意
収益執行/登記前取得の反対債権相殺適状にあれば管理人へ対抗できる(平成21年判決)登記,返還条件,開始決定,相殺通知
収益執行の賃料債権の帰属債権自体は所有者に帰属し,管理人は行使権限を取得賃貸借契約,開始決定,管理人の選任資料

第5 相談時の資料と関連する問題

登記事項証明書,賃貸借契約書,保証金・敷金の授受記録,貸付・保証契約書,差押命令又は収益執行開始決定,相殺合意書・通知書をそろえる。
その上で,賃料台帳と反対債権の残高表に,各月の対象期間,弁済,相殺,充当及び残額を記載する。
複数の反対債権について「どれも登記前」とまとめず,貸付け・保証・譲受けごとに取得日を確定する。

転貸賃料に物上代位できるかという別の問題は,抵当権者は転貸賃料を差し押さえられるかで扱う。
一般債権者の差押えとの関係は,差し押さえられた債権と相殺できるか,訴訟上の主張と既判力は,相殺の抗弁と既判力を参照されたい。

第6 出典

①e-Gov法令検索・民法304条,371条・372条,505条・506条,512条・512条の2及び平成29年法律第44号附則26条
②e-Gov法令検索・民事執行法180条,188条,193条
③最高裁平成21年7月3日判決・裁判所公開全文
④最高裁令和5年11月27日判決・裁判所公開全文