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就業規則とは―記載事項・作成届出・周知・変更・懲戒の基本(AIリライト)

第1 就業規則の二つの役割

1 労働基準法上の作成・届出ルール

本記事は,令和8年8月26日現在の法令及び公表資料に基づき,就業規則の作成義務,記載事項,意見聴取,届出,周知,労働契約上の効力,不利益変更及び懲戒規定の基本を整理するものである。
個々の労働時間制度,休職・復職,解雇又は退職金の要件は,それぞれ固有の法令及び裁判例を検討する必要があるため,本記事では就業規則に共通する仕組みに対象を限定する。

労働基準法89条は,常時10人以上の労働者を使用する使用者に,就業規則を作成し,所轄労働基準監督署長へ届け出る義務を課している。
同法90条は労働者側の意見聴取,同法106条は労働者への周知を定めており,違反には同法120条の罰則がある。

2 労働契約法上の労働条件としての効力

就業規則を労働基準監督署へ届け出たことと,その内容が個々の労働者との労働契約を規律することは,同じ問題ではない。
労働契約法7条は,合理的な労働条件を定めた就業規則を労働者に周知させていた場合に,原則としてその労働条件が契約内容になると定めている。

したがって,就業規則には,労働基準法上の行政的な作成・届出規制と,労働契約法上の契約内容を定める機能という二つの役割がある。
届出の有無だけで私法上の効力を判断せず,規定内容の合理性,周知,個別合意,法令及び労働協約との関係を別々に確認する必要がある。

第2 作成・届出義務が生じる事業場

1 常時10人以上かは事業場ごとに判断する

労働基準法89条の「常時10人以上」は,会社全体ではなく,工場,店舗,支店,営業所その他の事業場ごとに判断する。
同法9条の労働者に当たる者を数えるため,名称が正社員であるか,パートタイマーであるかだけで対象外になるものではない。

例えば,本社に8人,独立した支店に7人を常時使用している場合,会社全体では15人であるが,各事業場が直ちに労働基準法89条の作成・届出義務を負うとは限らない。
反対に,本社とは別の一つの店舗に10人以上を常時使用していれば,その店舗について作成・届出義務を検討することになる。

2 10人未満でも労働契約上の効力が生じ得る

常時10人未満の事業場には労働基準法89条の作成・届出義務がないが,使用者が任意に就業規則を作成することはできる。
厚生労働省の労働契約法施行通達は,労働契約法7条の「就業規則」には,労働基準法89条の作成義務がない使用者が作成したものも含まれると説明している。

そのため,小規模事業場であっても,合理的な労働条件を定めた就業規則が周知されていれば,労働契約の内容になる場合がある。
「10人未満だから就業規則は法的に無関係である」という理解は正確でない。

第3 就業規則に記載する事項

1 必ず記載する事項

労働基準法89条1号から3号までの絶対的必要記載事項は,次のとおりである。
①始業及び終業の時刻,休憩時間,休日,休暇並びに交替制勤務の場合の就業時転換
②臨時の賃金等を除く賃金の決定,計算及び支払の方法,賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給
③退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

これらは制度を採用するかどうかにかかわらず,就業規則に記載しなければならない。
労働日や各日の始業・終業時刻をシフト表で具体化する場合でも,就業規則にはシフトの種類,組合せ,作成手続及び周知方法など,勤務を特定できる枠組みを置く必要がある。

2 制度を設ける場合に記載する事項

労働基準法89条3号の2から10号までの相対的必要記載事項は,その定めを置く場合に記載が必要となる。
対象は,①退職手当,②臨時の賃金等及び最低賃金額,③労働者に負担させる食費,作業用品その他の費用,④安全及び衛生,⑤職業訓練,⑥災害補償及び業務外の傷病扶助,⑦表彰及び制裁,⑧そのほか事業場の全労働者に適用する定めである。

福利厚生制度も,事業場の全労働者に適用するルールを定める場合には,89条10号の対象となり得る。
もっとも,福利厚生制度を就業規則に記載したことから,制度の内容を将来一切変更できなくなると直ちに決まるものではなく,規定の具体性,運用実態及び変更の不利益性を踏まえて判断することになる。

3 賃金規程などの別規程も就業規則の一部になり得る

賃金規程,退職金規程,育児・介護休業規程又は契約社員就業規則のように名称を分けても,労働条件を定める規程は労働基準法上の就業規則の一部となり得る。
厚生労働省のモデル就業規則も,賃金規程を別に定めた場合には,その規程も就業規則の一部として届出が必要になると説明している。

厚生労働省が公表している最新版は,令和7年12月版のモデル就業規則である。
モデルは法令上の最低事項を確認する有用な出発点であるが,事業場の業種,勤務制度,賃金体系及び実際の運用に合わない条項をそのまま採用しても,自社の労働条件を正確に示す就業規則にはならない。

第4 作成・変更・届出の手続

1 過半数組合又は過半数代表者から意見を聴く

使用者は,就業規則を作成し,又は変更するとき,事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があればその組合,なければ労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
所轄労働基準監督署長へ届け出る際には,その意見を記した書面を添付する必要がある。

この手続は意見聴取であって,労働者側の同意を届出の条件とするものではない。
もっとも,不利益変更の有効性を判断する労働契約法10条は労働組合等との交渉状況を考慮要素にしているため,反対意見を形式的に添付すれば私法上の問題も解消するわけではない。

2 過半数代表者の選出方法

労働基準法施行規則6条の2によれば,過半数代表者は,労働基準法41条2号の管理監督者でない者であり,就業規則への意見を述べる者を選ぶことを明らかにして実施する投票,挙手その他の方法によって選出され,使用者の意向に基づいて選ばれた者でないことを要する。
使用者は,過半数代表者であること,なろうとしたこと又は代表者として正当な行為をしたことを理由に,不利益な取扱いをしてはならない。

現行の労働基準法施行規則49条2項は,意見書に労働者代表の氏名を記載させるものとしている。
旧様式や古い解説を参照して,署名又は押印を現行法上の当然の要件と取り違えないようにする必要がある。

3 労働基準監督署への届出と電子申請

常時10人以上となった使用者は,就業規則を作成し,遅滞なく届け出なければならず,記載事項を変更した場合も同様である。
厚生労働省は,就業規則について,e-Govの電子申請に加え,「確かめよう労働条件」労働条件ポータルサイトの届出作成支援ツールによる電子申請を案内している。

届出は,労働基準監督署が就業規則の全条項について私法上の有効性を保証する制度ではない。
法令又は当該事業場に適用される労働協約に反する就業規則については,労働基準法92条に基づく変更命令の対象となり得るが,届出が受理されたことだけを根拠に個別条項の有効性を断定することはできない。

4 本社一括届出

厚生労働省は,令和7年3月28日付け基発0328第9号「就業規則の本社一括届出について」により,本社と各事業場の就業規則の内容が同一である場合の一括届出の取扱いを定め,従前の平成15年通達を廃止した。
書面又はe-Govによる一括届出でも,各事業場の意見書と対象事業場の一覧を添付することが基本であり,本社の意見書だけで全事業場の手続を代替するものではない。

届出作成支援ツールでは,内容が同じ事業場を一つのグループとして代表事業場から申請し,内容が異なる事業場は別のグループ又は単独の申請として整理できる。
「一括届出」という名称だけから,同じ企業のすべての事業場について異なる規則を一件で無条件に届け出られると理解すべきではない。

第5 周知と労働契約上の効力

1 労働基準法上の三つの周知方法

労働基準法106条及び同法施行規則52条の2が定める周知方法は,①各作業場の見やすい場所への掲示又は備付け,②書面の交付,③電子的に記録し,各作業場に労働者が常時確認できる機器を設置する方法である。
作成時に説明会を一度開いただけでその後閲覧できない状態にするのではなく,労働者が必要なときに確認できるようにしておく必要がある。

2 労働契約法上の周知は実質的に判断される

労働契約法7条及び10条の周知は,就業規則の内容を適用される労働者が知り得る状態に置くことを意味する。
厚生労働省の施行通達は,労働基準法106条の方法に限定されず,実質的に判断されると説明している。

最高裁判所第二小法廷平成15年10月10日判決(フジ興産事件)は,使用者が労働者を懲戒するためには懲戒の種別及び事由をあらかじめ就業規則に定める必要があり,就業規則が法的規範として労働者を拘束するためには,その内容を事業場の労働者に周知させる手続が必要であるとした。
労働基準監督署への届出だけで周知に代えることはできない。

3 個別合意・就業規則・労働協約・法令の関係

労働契約法7条ただし書により,就業規則と異なる労働条件を個別に合意した場合は,原則としてその合意が優先する。
ただし,個別合意が就業規則の基準を下回る場合は,同法12条によりその部分が無効となり,就業規則の基準に置き換わる。

就業規則は法令及び当該事業場に適用される労働協約に反することができず,反する部分には労働契約法7条,10条及び12条の効力が及ばない。
どの文書が存在するかを並べるだけでなく,個別合意が就業規則より有利か不利か,労働協約の適用があるか,強行法規に反しないかを順に確認する必要がある。

4 会社が閲覧させない場合の労働基準監督署での開示

労働者は,まず使用者に対し,労働基準法106条に基づく周知を求めるのが通常である。
使用者が周知義務を履行せず,労働関係上の問題が生じている場合には,所轄労働基準監督署へ相談することが考えられる。

厚生労働省労働基準局長の平成13年4月10日付け基発第354号「届出事業場に所属する労働者等からの就業規則の開示要請の取扱いについて」は,現に事業場で働く労働者のほか,その事業場との権利義務をめぐる争いがある退職者についても,一定の要件の下で,監督署が保管する就業規則の閲覧又は内容説明を行う取扱いを示している。
退職者については,争いに関係する規定に対象が限られ,監督署での開示が無条件に認められる制度ではない。

第6 就業規則による労働条件の不利益変更

1 個別合意による変更

労働契約法8条は,労働者と使用者が合意により労働条件を変更できると定めている。
就業規則の改定と同時に個別同意を得る場合でも,賃金や退職金のように重要な権利を不利益に変更するときは,同意書の形式だけでなく,労働者が不利益の内容を理解して自由に判断できたかが問題となる。

最高裁判所第二小法廷平成28年2月19日判決(山梨県民信用組合事件)は,変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく,その行為が自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するかという観点からも,同意の有無を判断すべきであるとした。
署名押印があれば直ちに有効な同意になるという基準ではなく,不利益の内容及び程度,事前の情報提供及び説明などを検討する判断である。

2 合意がない場合の合理性判断

労働契約法9条は,労働者との合意なく,就業規則の変更によって労働条件を不利益に変更することを原則として禁止している。
同法10条は例外として,変更後の就業規則を周知し,変更が合理的である場合に,変更後の労働条件を契約内容とする。

合理性は,①労働者が受ける不利益の程度,②変更の必要性,③変更後の就業規則の内容の相当性,④労働組合等との交渉状況,⑤その他の変更に係る事情に照らして判断される。
賃金又は退職金を大幅に減額する変更では,抽象的な経営上の必要性だけでなく,対象者への不利益,代償措置又は経過措置,説明及び交渉の経緯を具体的に検討する必要がある。

最高裁判所第二小法廷平成9年2月28日判決(第四銀行事件)は,労働契約法制定前の判例であり,不利益の程度,変更の必要性,変更内容の相当性,代償措置,労働組合との交渉経緯その他の事情を総合考慮した。
現在は労働契約法10条の文言に即して判断するが,同判決は,同条の背景となった判例法理と具体的な考慮事情を理解する資料となる。

第7 懲戒規定を適用するための条件

1 懲戒の種類・事由と周知

労働基準法89条9号は,表彰及び制裁について定める場合に,就業規則への記載を要求している。
懲戒処分を行うには,懲戒の種類及び事由をあらかじめ定め,対象労働者が知り得る状態にしておく必要がある。

就業規則に抽象的な服務規律と懲戒事由を置いただけで,あらゆる問題行動を当然に懲戒できるわけではない。
具体的な非違行為がどの懲戒事由に該当するか,規定が行為時に存在し周知されていたか,処分の程度が相当かを確認する必要がある。

2 懲戒権濫用と減給制裁の上限

労働契約法15条は,懲戒が,労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当と認められない場合には,権利濫用として無効になると定めている。
就業規則に懲戒事由が記載されていることは必要であるが,それだけで処分の有効性が確定するものではない。

制裁として減給を定める場合,労働基準法91条により,1回の額は平均賃金の1日分の半額を超えることができず,一賃金支払期における減給総額はその期間の賃金総額の10分の1を超えることができない。
この上限は懲戒としての減給に関するものであり,人事評価又は職務変更に伴う将来の賃金変更と同じ問題として処理することはできない。

3 処分後に新しい理由で補強できるとは限らない

最高裁判所第一小法廷平成8年9月26日判決(山口観光事件)は,懲戒は企業秩序違反行為に対する制裁であり,具体的な懲戒の適否は理由とされた非違行為との関係で判断すべきであるとした。
そのため,使用者が懲戒当時に認識していなかった別の非違行為を,後から懲戒理由として追加して処分を正当化することは,原則としてできないと判断した。

就業規則の懲戒事由を広く記載することと,事実確認をしないまま処分することは別問題である。
処分前に,対象行為,証拠,労働者の説明,同種事例との均衡及び処分理由を特定し,記録化する必要があり,逮捕又は欠勤を理由とする対応については「逮捕されたら会社にばれるか-職場での逮捕,欠勤,懲戒及び解雇(AI作成)」も参照されたい。

第8 個別条項についての二つの例

1 賞与の支給日在籍要件

最高裁判所第一小法廷昭和57年10月7日判決(大和銀行事件)は,従前から,賞与の支給日に在籍する者だけに賞与を支給する慣行があり,就業規則の改定はその合理的な慣行を明文化したにとどまるという事実関係の下で,支給日前に退職した労働者の賞与請求を認めなかった。
この判決は,あらゆる支給日在籍要件を無条件に有効としたものではなく,規定,従前の慣行,支給時期及び退職時期などを確認する必要がある。

厚生労働省の令和7年12月版モデル就業規則も,賞与について一定の日に在籍した者だけを支給対象とする規定を設けることが可能であると説明している。
賞与の算定対象期間に勤務したことだけから当然に受給権が発生すると決め付けず,適用される就業規則及び労働契約を確認すべきである。

2 性別によって異なる定年

最高裁判所第三小法廷昭和56年3月24日判決(日産自動車事件)は,男性60歳,女性55歳とした就業規則のうち,女性の定年を低く定めた部分を,性別のみによる不合理な差別として民法90条により無効とした。
現在は,男女雇用機会均等法6条4号が,退職勧奨,定年及び解雇並びに労働契約の更新について,労働者の性別を理由とする差別的取扱いを禁止している。

就業規則は,記載され周知されていれば,法令又は公序良俗に反する内容まで有効になるものではない。
法改正後も旧規定を放置している場合には,現行法との整合を条項ごとに点検する必要がある。

第9 関連記事

就業規則と併せて確認する記事は,次のとおりである。
労働基準法に関するメモ書き(AIリライト)
中途採用における使用者側の留意点――募集・選考・内定・試用期間の実務(AI作成)
逮捕されたら会社にばれるか-職場での逮捕,欠勤,懲戒及び解雇(AI作成)
能力不足・協調性不足による普通解雇―改善指導・配置転換・解雇回避措置と裁判例(AI作成)

第10 出典・参考資料

1 法令

e-Gov法令検索「労働基準法(昭和22年法律第49号)」9条,89条~93条,106条及び120条
e-Gov法令検索「労働契約法(平成19年法律第128号)」7条~13条及び15条
e-Gov法令検索「労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)」6条の2,49条及び52条の2
e-Gov法令検索「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号)」6条4号

2 裁判例

最高裁判所第二小法廷平成15年10月10日判決(平成13年(受)第1709号,労働判例861号5頁。フジ興産事件,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第一小法廷平成8年9月26日判決(平成8年(オ)第752号,裁判集民事180号473頁,労働判例708号31頁。山口観光事件,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第二小法廷平成9年2月28日判決(平成4年(オ)第2122号,民集51巻2号705頁。第四銀行事件,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第二小法廷平成28年2月19日判決(平成25年(受)第2595号,民集70巻2号123頁,労働判例1136号6頁。山梨県民信用組合事件,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第一小法廷昭和57年10月7日判決(昭和56年(オ)第661号,裁判集民事137号297頁。大和銀行事件,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第三小法廷昭和56年3月24日判決(昭和54年(オ)第750号,民集35巻2号300頁。日産自動車事件,裁判所ウェブサイト)

3 行政資料

①厚生労働省労働基準局監督課「モデル就業規則(令和7年12月版)」2頁~4頁,50頁,67頁及び86頁
②厚生労働省労働基準局長「労働契約法の施行について」(平成24年8月10日基発0810第2号,最終改正平成30年12月28日基発1228第17号)
③厚生労働省労働基準局長「就業規則の本社一括届出について」(令和7年3月28日基発0328第9号)
④厚生労働省「『確かめよう労働条件』労働条件ポータルサイトから電子申請ができます」(令和8年8月26日確認)
⑤厚生労働省「スタートアップ労働条件・就業規則」(令和8年8月26日確認)
⑥厚生労働省労働基準局長「届出事業場に所属する労働者等からの就業規則の開示要請の取扱いについて」(平成13年4月10日基発第354号,1頁~2頁)