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搭乗者傷害保険の補償内容,人身傷害保険との違い及び請求時の確認事項(AI作成)

第1 搭乗者傷害保険の位置付け

1 実損額ではなく約定額を支払う保険

搭乗者傷害保険は,被保険自動車に搭乗中の者が約款所定の事故によって傷害を受けた場合に,契約で定めた保険金を支払う保険である。保険法2条9号が定める傷害疾病定額保険契約に当たるのが基本であり,事故によって現実に生じた損害額をそのまま填補する保険ではない。

この定額給付性から,治療費を相手方の保険会社が支払っている場合や,事故について被保険者にも過失がある場合であっても,それだけで搭乗者傷害保険金が支払われなくなるわけではない。ただし,支払対象となる搭乗者,事故,傷害及び免責事由は約款で定められるため,「自動車に乗っていて負傷すれば必ず支払われる」と理解するのは正確でない。

2 商品名だけでは補償内容を判断できないこと

現在の自動車保険には,「搭乗者傷害保険」又は「搭乗者傷害特約」を独立して設ける商品,人身傷害保険に入通院又は死亡・後遺障害の定額給付を付加する商品及び搭乗者傷害保険を付帯できない商品がある。したがって,保険の名称が似ていても,死亡,後遺障害,入院及び通院のいずれを補償するか,支払額をどのように算定するかは同じではない。

本記事は搭乗者傷害保険に共通する基本構造と主要な最高裁判例を説明するものであり,個別の事故について支払の可否又は金額を確定するものではない。個別の請求では,事故日に適用される保険証券,普通保険約款,特約及び保険会社の支払基準を確認する必要がある。

第2 保険金の支払対象

1 対象となる搭乗者と事故

通常は,被保険自動車の正規の乗車装置又はその装置のある室内に搭乗している者が被保険者となる。車体から身体を大きく乗り出すなど,極めて異常かつ危険な方法で搭乗していた場合や,自動車を業務として受託している者が搭乗していた場合等は,約款により対象外となることがある。

支払対象となる傷害は,一般に,被保険自動車の運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故によって生じたものと定められている。車内又は車外のどちらで負傷したかだけで結論が決まるわけではなく,自動車の運行によって生じた危険が傷害にどのように結び付いたかを確認しなければならない。

2 死亡保険金及び後遺障害保険金

死亡保険金は,事故による傷害を直接の原因として約款所定の期間内に死亡した場合に,1名当たりの保険金額を支払う設計が典型である。事故発生日から180日以内という条件を設ける契約があるが,この期間をすべての商品に共通する法定期間として扱うことはできない。

後遺障害保険金には,後遺障害の程度に応じて死亡・後遺障害保険金額の一定割合を支払う設計のほか,所定の重度後遺障害に限って定額を支払う設計がある。このため,従来の商品にみられた「保険金額の4%から100%」という割合を,現行のすべての契約に共通する説明として用いることはできない。

3 医療保険金及び入通院定額給付金

入院及び通院に関する定額給付には,①入院日数又は通院日数に日額を乗じる日数払,②傷害の部位及び症状に応じた金額を支払う部位・症状別払,③一定日数以上の治療を条件に一時金を支払う方式等がある。日数払では対象期間と入通院日数の上限を,部位・症状別払では短期治療の一律額と傷害区分ごとの金額を,それぞれ約款又は支払額表で確認する必要がある。

部位・症状別払は治療終了前でも金額を確定できる場合があるが,傷害の内容や必要資料によって支払時期は変わるため,常に早期に支払われるとは限らない。また,むち打ち症,腰痛その他の症状について医学的他覚所見がない場合を支払対象外とする約款があるが,これは「5日以上通院すれば他覚所見を条件に通常10万円を支払う」という一般的な支払基準ではない。

第3 人身傷害保険及び損害賠償金との関係

1 人身傷害保険との違い

人身傷害保険は,約款所定の基準で算定した治療費,休業損害,精神的損害,逸失利益等の実損額について,保険金額を限度として支払う保険である。被保険者の過失割合に相当する部分だけを補償する保険ではなく,被保険者の過失の有無又は割合にかかわらず約款基準による損害額を支払うのが基本である。

これに対し,搭乗者傷害保険は,現実の治療費又は休業損害の額ではなく,死亡,後遺障害,入通院日数,傷害の部位・症状等に応じて契約で定めた額を支払う。ただし,人身傷害保険と搭乗者傷害保険の双方を同じ契約に付帯できるか,契約自動車の搭乗中以外の事故も人身傷害保険の対象となるかは,商品によって異なる。

2 損害賠償額から控除されないこと

最高裁平成7年1月30日第二小法廷判決(平成3年(オ)第1038号・民集49巻1号211頁)は,約款所定の搭乗者傷害死亡保険金について,被保険者が被った損害を填補する性質を有しないとして,加害者が賠償すべき損害額からの控除を否定した。したがって,この判例と同様の定額給付型の搭乗者傷害保険金は,加害者からの損害賠償金又は自賠責保険金とは別に受領できるのが原則である。

同判決が対象とした約款には,保険会社が死亡保険金を支払っても,被保険者の相続人が第三者に対して有する損害賠償請求権を代位取得しないとの定めもあった。個別の契約に実損填補部分が含まれる場合又は受領金の充当関係について別の合意がある場合は,定額給付部分と分けて検討する必要がある。

3 他の保険金等との調整

搭乗者傷害保険は,人身傷害保険,無保険車傷害保険又は自損事故保険の対象となる事故でも,それぞれの支払条件を満たせば別に支払われる設計が一般的である。他方,人身傷害保険では,自賠責保険金,相手方からの賠償金その他の既払金を約款に従って控除又は精算し,実損額を超える重複取得を避ける仕組みが設けられている。

労災保険,健康保険又は生命保険等との関係も,保険の性質と約款上の調整条項によって異なる。単に「別の給付を受けた」という事実だけで控除の可否を決めず,給付の目的,填補対象及び代位・調整条項を確認すべきである。

第4 自動車の運行と傷害との因果関係

1 事故後の避難中の死亡を支払対象とした最高裁判例

最高裁平成19年5月29日第三小法廷判決(平成18年(受)第2053号・判例時報1989号131頁,判例タイムズ1255号183頁)は,夜間の高速道路で自損事故を起こした運転者が,走行不能となった車から避難した直後に後続車へ衝突・れき過されて死亡した事案を扱った。同判決は,自損事故によって車内にとどまることが危険となり,避難経路を含む行動が自然であり,死亡が時間的・場所的にも近接していたことから,自損事故と死亡との相当因果関係を認めた。

この判決は,負傷場所が被保険自動車の外であるという一事だけで支払対象外になるものではないことを示す。ただし,事故後に車外で生じたすべての傷害を対象としたのではなく,切迫した危険,避難行動の自然性及び時間的・場所的近接性を具体的に認定した判断である。

2 送迎車から降車中の骨折を支払対象外とした最高裁判例

最高裁平成28年3月4日第二小法廷判決(平成27年(受)第1384号)は,老人デイサービスセンターの送迎車から職員の介助で降車した者が,床ステップから地面へ着地した際に大腿骨頚部を骨折した事案を扱った。同判決は,危険な場所への停車,転倒,足をくじくこと又は想定外の強い衝撃等がなく,車両の運行が本来的に有する危険が顕在化したとはいえないとして,運行起因性を否定した。

もっとも,同判決は,通常使用していた踏み台を使わなかったことについて,施設側の安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求が問題となる余地を示している。施設等の注意義務違反による損害賠償責任と,自動車保険における運行起因性は,別の要件として検討しなければならない。

3 両判例から分かる確認事項

乗降中又は事故後の避難中に生じた傷害では,①最初の自動車事故又は乗降行為が生じさせた具体的な危険,②傷害に至る行動の必要性及び自然性,③時間的・場所的近接性,④別の原因又は注意義務違反の介在,⑤自動車の運行が本来的に有する危険の顕在化を確認する必要がある。車内外という形式的な区分又は第三者の過失の有無だけで,運行起因性を判断することはできない。

第5 免責事由と商品ごとの相違

1 主な免責事由

被保険者に通常の事故過失があることと,約款上の免責事由があることは別である。搭乗者傷害保険では,①被保険者又は保険金受取人の故意若しくは重大な過失,②自殺行為,犯罪行為又は闘争行為,③無免許運転,酒気帯び運転又は麻薬等の影響下の運転,④脳疾患,疾病又は心神喪失,⑤戦争,地震,噴火又は津波,⑥競技,曲技又は試験目的の使用等を免責とする契約がある。

免責の対象となる者と支払対象外になる被保険者の範囲は,約款ごとに確認する必要がある。例えば,運転者について免責事由が認められても,同乗者について同じ理由で当然に免責となるとは限らず,事故と各被保険者の傷害との関係も個別に検討される。

2 金額・期間・他覚所見条項は一律ではないこと

死亡までの期間,後遺障害の区分,入通院の対象期間及び日数上限,短期治療の一律額,部位・症状別の金額並びに他覚所見条項は,契約した商品と始期日により異なる。ウェブ上の一般解説又は別の保険会社の金額表ではなく,事故日に適用される約款及び特約を確認する必要がある。

約款の改定により,同じ保険会社でも旧契約と現行契約の補償構成が異なることがある。また,「搭乗者傷害」という名称がなくても,人身傷害保険に定額給付特約が付いている場合があるため,保険証券上の特約名だけでなく,支払事由及び保険金額まで確認すべきである。

第6 保険金を請求するときの実務

1 事故通知と必要資料

事故後は,搭乗者傷害補償の有無が不明でも,速やかに保険会社又は代理店へ事故を通知し,適用される証券・約款・特約を確認する。請求に用いられる主な資料は,交通事故証明書,事故状況資料,診断書,診療報酬明細書,入通院日を確認できる資料,後遺障害診断書,死亡診断書又は死体検案書及び受取人・相続関係資料であるが,必要書類は保険金の種類によって異なる。

部位・症状別払又は他覚所見条項が問題となる場合は,診断名だけでなく,受傷直後の症状,検査所見,画像,治療経過及び医師の判断が記載された診療記録が支払判断に影響し得る。もっとも,すべての事案で診療録の全部又は医学意見書まで必要になるわけではなく,まず保険会社が求める資料と争点を確認すべきである。

2 支払対象外又は減額とされた場合

保険会社から支払対象外又は減額とされた場合は,結論だけでなく,根拠となる約款・特約の条項,認定した事故経過,対象外とした傷害又は治療及び不足資料を書面で確認する。その上で,事故状況の相違であれば実況見分調書等,搭乗状態であれば車内配置や写真,運行起因性であれば事故から受傷までの時系列,傷害内容であれば診療記録等というように,争点に対応する資料を補う。

適用約款を確認しても給付対象となり得る具体的事情がなく,追加資料によって結論が変わる見込みもない場合は,高負担の医学意見又は訴訟へ進む実益は乏しい。他方,適用約款の取り違え,事故経過の事実誤認又は最高裁判例と関係する運行起因性の争いが支払結果を左右する場合は,保険会社への再検討依頼,そんぽADRセンターへの相談又は法的手続を検討する余地がある。

3 保険金請求権の消滅時効

保険法95条1項は,保険給付を請求する権利について,行使することができる時から3年間行使しないときは時効により消滅すると定める。起算点を常に交通事故当日とみなすのではなく,死亡,後遺障害又は入通院給付のどの請求権か,給付事由がいつ成立したか及び約款上の履行期を確認する必要がある。

事故通知,治療経過の報告又は必要書類の提出について,消滅時効とは別の手続が定められていることもある。期限に余裕があると自己判断せず,事故後早期に請求意思を伝え,保険会社との連絡及び提出資料を記録しておくべきである。

4 ノンフリート等級への影響

搭乗者傷害保険金だけが支払われる事故は,一般にノーカウント事故として扱われ,その支払だけを理由に翌契約の等級が下がるものではない。ただし,同じ事故で車両保険,対人賠償保険又は対物賠償保険等の保険金も支払われる場合は,その補償に応じて1等級ダウン事故又は3等級ダウン事故となることがあるため,事故全体について保険会社へ確認する必要がある。

5 保険金に対する課税

傷害を受けた本人が受け取る医療保険金又は後遺障害保険金は,身体の傷害に基因して支払を受けるものとして,一般に所得税が課されない。これに対し,死亡保険金は,保険料負担者,被保険者及び受取人の関係により,所得税,相続税又は贈与税の対象となり得るため,受領した保険金の名称だけで税目を判断することはできない。

第7 契約内容の確認項目と関連記事

1 事故後に確認すべき契約事項

搭乗者傷害保険金の請求では,次の事項を順に確認すると,約款上の争点を整理しやすい。

  • ① 事故日に適用される保険証券,普通保険約款及び特約
  • ② 被保険者の範囲及び事故時の搭乗位置・搭乗方法
  • ③ 自動車の運行,最初の事故,避難又は乗降と傷害との経過
  • ④ 死亡,後遺障害,入院及び通院についての支払事由・期間・上限
  • ⑤ 日数払,部位・症状別払又は人身傷害の定額給付特約のいずれであるか
  • ⑥ 他覚所見条項,既往症及び疾病の影響
  • ⑦ 故意,重大な過失,酒気帯び運転その他の免責事由
  • ⑧ 人身傷害保険,自賠責保険,相手方の賠償金及び社会保険給付との関係
  • ⑨ 保険会社が求める資料,事故通知等の手続及び消滅時効
  • ⑩ 同一事故で使用する他の補償とノンフリート等級への影響

2 関連記事

第8 出典・参考資料

1 法令

① 保険法(平成20年法律第56号)2条9号,95条1項

2 裁判例

① 最高裁平成7年1月30日第二小法廷判決(平成3年(オ)第1038号・民集49巻1号211頁)

② 最高裁平成19年5月29日第三小法廷判決(平成18年(受)第2053号・判例時報1989号131頁,判例タイムズ1255号183頁,交通民集40巻3号577頁)

③ 最高裁平成28年3月4日第二小法廷判決(平成27年(受)第1384号)

3 文献

① 萩本修編著『一問一答 保険法』(商事法務,2010年)印字16頁,165頁~166頁,194頁~195頁,212頁(PDF実頁31頁,179頁~180頁,208頁~209頁,226頁)

② 甘利公人・福田弥夫・遠山聡『ポイントレクチャー保険法〔第3版〕』(有斐閣,2020年)182頁~187頁

③ 北河隆之『交通事故損害賠償法〔第3版〕』(弘文堂,2023年)395頁~398頁

④ 山下典孝『スタンダード商法III 保険法〔第2版〕』(法律文化社,2025年)162頁

⑤ 藤村和夫・山口斉昭・松島隆弘・大久保拓也編『複雑困難事件と損害賠償Ⅰ』(青林書院,2023年)244頁~250頁

4 ウェブ資料

① 日本損害保険協会「問12 搭乗者傷害保険は,どのような保険ですか。」

② 日本損害保険協会「問23 保険を使うと等級はどうなるのですか。」

③ 損害保険ジャパン「SGPの搭乗者傷害」

④ 三井ダイレクト損害保険「人身傷害保険とは?搭乗者傷害保険との違いや補償内容,メリット,注意点について解説」

⑤ 損害保険ジャパン「人身傷害保険とはどのような保険?搭乗者傷害保険との違いや加入メリットについて」

⑥ 日本損害保険協会「受け取った保険金に税金はかかるのですか。」

⑦ 国税庁「死亡保険金を受け取ったとき」タックスアンサーNo.1750及び「相続税の課税対象になる死亡保険金」タックスアンサーNo.4114

⑧ 日本損害保険協会「相談対応,苦情・紛争の解決(そんぽADRセンター)」