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弁護士費用特約(AIリライト)

◯山中弁護士への事件のご依頼・ご相談は「交通事故のお問い合わせ」から可能です。

第1 弁護士費用特約の仕組み

1 弁護士費用特約とは何か

弁護士費用特約は,交通事故等の被害にあった者が,①弁護士に法律相談をする際の法律相談費用,及び②弁護士に依頼して損害賠償請求をする際の弁護士報酬及び実費について,保険会社に負担してもらうことを内容とする特約である。

利用できる場合には,被害者は,弁護士費用を自ら負担することなく弁護士に依頼できることになる。

弁護士費用の支払原資と,依頼人又は事件の経済的価値との関係については,「弁護士の財力は依頼人と事件の財力を反映するか(AI作成)」で整理している。

もっとも,どの費用がどの限度で支払われるかは,特約名ではなく,事故日に適用される保険証券,普通保険約款,特約条項及び保険金算定基準によって決まる。

2 最初に確認するのは事故日に適用される約款である

ウェブサイトやパンフレットは概要を知る資料であり,通常は約款と異なる場合に約款が優先すると記載されている。

同じ保険会社の商品でも,契約の始期,個人用又は事業用の別,補償対象を自動車事故に限定するか日常生活事故まで広げるかによって内容が異なる。

したがって,事故後に最新版だけを見るのではなく,事故日に適用された版を保険会社から取り寄せる必要がある。

3 保険金額300万円と法律相談費用10万円は一例である

現在の自動車保険では,被保険者1名につき弁護士費用等300万円,法律相談費用10万円を上限とする例が多い。

例えば,三井住友海上の2026年1月1日以降始期契約用資料は,実際に負担した弁護士・損害賠償請求等費用について被保険者1名につきそれぞれ300万円を限度に,実際に負担した法律相談費用について被保険者1名につきそれぞれ10万円を限度に,各保険金を支払うとしている。

しかし,この金額はすべての保険及び共済に共通する法定額ではない。

一般民事型の商品には異なる保険金額,自己負担額又は待機期間を設けるものがあるため,300万円又は10万円を当然の上限として扱うべきではない。

4 補償され得る費用

(1) 相談料,着手金,報酬金及び実費

典型的な補償対象は,法律相談料,着手金,報酬金,訴訟費用,仲裁・和解・調停に要する費用及び弁護士が委任事務を処理するために必要な実費である。

交通事故の損害賠償請求では,具体的には次のような費用が支払対象となり得る。

① 弁護士の着手金及び報酬金

② 訴えを提起する際の印紙代及び郵便切手代

③ 相手方の保険会社又は依頼者に郵便物を送るときの郵便切手代

④ 文書送付嘱託の申立てにより医療機関の診療録等を取り寄せる際の手数料

⑤ 控訴を提起する際の印紙代及び郵便切手代

もっとも,鑑定費用,事故状況の調査費用,医療記録の取得費用,出張日当又は遠隔地への交通費がどの費目に入り,どの限度で支払われるかは約款と承認内容による。

保険会社の承認額が弁護士との報酬契約額を下回る場合,差額は依頼者負担になり得る。

(2) 上級審,刑事手続及び相談のみの利用

控訴審又は上告審で新たな着手金が認められるか,成功報酬をどの時点で算定するかは,適用される約款及び報酬基準を確認する必要がある。

実務上,上告受理申立て等のための弁護士費用は,補償の対象から外れることがある(「高裁の各種事件数,及び最高裁における民事・行政事件の概況」参照)。

刑事告訴,被害者参加又は刑事弁護は,民事上の損害賠償請求を対象とする特約から当然に支払われるものではない。

これらを補償する別商品もあるため,手続名だけで判断せず,補償対象となる法律事務の定義を確認すべきである。

弁護士への委任に至らず法律相談だけで終了した場合でも,法律相談費用の補償を利用できる契約がある。

5 利用と等級の取扱い

弁護士費用特約だけを利用してもノンフリート等級に影響しないと案内する自動車保険がある。

ただし,車両保険等を同時に請求した場合の事故件数の取扱いは別問題であるため,自分の契約について保険会社へ確認する必要がある。

6 利用の実情

弁護士費用特約の普及は,民事交通訴訟の件数にも影響を与えていると指摘されている。

赤い本講演録2018年(下巻・講演録編)2頁に収録された東京地方裁判所民事第27部の部総括裁判官の講演には,民事交通訴訟の新受件数が顕著な増加傾向を示している原因の一つとして,「自動車保険における弁護士費用補償特約の普及により,訴訟経済的には見合わないように思われる事件を含め,少額の訴訟の提起及び控訴も増加していること」が,かねてより指摘されている旨の記載がある。

他方で,付帯していても使われていないという指摘もあるため,少しでも適用の可能性がある場合には,保険会社又は損害保険代理店に問い合わせた方がよい。

第2 弁護士費用特約を利用できる人

1 記名被保険者とその家族

個人用自動車保険では,次の者を被保険者とする例がある。

① 記名被保険者(保険証券記載の被保険者のことである。)

② 記名被保険者の配偶者

③ 記名被保険者又はその配偶者の同居の親族

④ 記名被保険者又はその配偶者の別居の未婚の子

三井住友海上の現行資料も,これらの者を典型的な被保険者として掲げている。

③の者が含まれる結果,例えば,父親の自動車に弁護士費用特約が付いている場合には,同居の子が歩行中に交通事故にあったときでも利用できることがある。

④の者が含まれる結果,例えば,親元を離れて一人暮らしをしている未婚の子が歩行中に交通事故にあったときでも利用できることがある。

もっとも,「配偶者」,「親族」,「同居」及び「未婚の子」の定義は約款に置かれているため,日常語だけで判断すべきではない。

2 契約自動車の搭乗者,運転者及び所有者

前記1の者のほかに,次の者を被保険者に含める契約がある(前記の三井住友海上の資料は,自動車事故についてこの①から⑦までを被保険者としている。)。

⑤ ①から④まで以外の者で,契約自動車の正規の乗車装置又はその装置のある室内に搭乗中の者

⑥ ①から⑤まで以外の者で,①から④までの者が運転中の契約自動車以外の自動車の正規の乗車装置又はその装置のある室内に搭乗中の者

⑦ ①から⑥まで以外の者で,契約自動車の所有者

⑤の者が含まれる結果,例えば,友人の自動車に同乗中に交通事故にあったときでも,その自動車の弁護士費用特約を利用できることがある。

この場合,相手方の自動車に過失がないときは,同乗していた自動車側に対してだけ損害賠償請求をすることになるが,そのための弁護士費用も同じ契約から支払われることがある。

⑥の者が含まれる結果,例えば,同居の家族が運転する他人名義の自動車に同乗中に交通事故にあったときでも利用できることがある。

他方,家族については車に乗っていない日常生活事故まで対象とし,家族以外の搭乗者については契約自動車の事故に限定するなど,被保険者ごとに対象事故を分ける約款もある。

したがって,「誰の保険か」だけでなく,「事故時の立場」と「事故の種類」を組み合わせて確認する必要がある。

3 自動車保険以外の保険から利用できる場合

事故車両の契約に特約がなくても,同居家族又は別居の親の自動車保険,火災保険,傷害保険,共済又は勤務先の団体保険を利用できることがある。

火災保険では,例えば,あいおいニッセイ同和損保の「タフ 住まいの保険」や,Chubb損害保険の「リビングプロテクト総合保険」が,弁護士費用に関する補償を用意している。

いずれも商品改定が重ねられているため,加入している契約の証券及び約款で,補償の有無と範囲を個別に確認する必要がある。

4 複数の特約が見つかった場合

同じ事故について利用可能な特約が複数見つかった場合,保険金額を単純に合算して自由に重複取得できるとは限らない。

他の保険契約がある場合の按分,先行支払又は求償を定める条項があるため,すべての契約を各保険会社へ申告し,支払方法を調整すべきである。

第3 補償される事故と対象外になり得る事故

1 自動車事故限定型と日常生活事故型

自動車事故限定型は,自動車の所有,使用又は管理に起因する事故等を対象とする。

日常生活事故型は,自動車事故に加えて,自転車事故,歩行中の事故又は日常生活上の偶然な事故による被害を対象とすることがある。

自動車保険ガイドHP「弁護士費用特約の補償金額や範囲」は,チューリッヒや共栄火災が日常生活の事故まで対象としていること,及び三井住友海上では自動車事故に限る特約と日常生活事故まで含む特約とを選択できることを紹介している。

ただし,商品名が似ていても,物損だけの事故,物の欠陥による損害,名誉・プライバシー侵害又は契約紛争を含むかは異なる。

事故の類型を約款上の「被害事故」,「対象事故」又は「原因事故」の定義に当てはめる必要がある。

2 業務中又は通勤中の事故

弁護士費用特約には,「労働災害により生じた身体の障害」に該当する被害による損害について保険金を支払わないとする免責条項を置くものがある。

大阪地裁令和元年5月23日判決・平成30年(ワ)第7687号(判例タイムズ1466号163頁,金融・商事判例1574号38頁,判例時報2428号114頁,金融法務事情2126号57頁。判例秘書L07450716)は,勤務先からの帰宅途中に横断歩道を歩行中に自動車と衝突した事故について,労働者災害補償保険法7条1項2号の通勤災害に該当する以上,特約の免責条項にいう「労働災害により生じた身体の障害」に当たるとして,弁護士費用相当額の保険金請求を棄却した。

すなわち,被保険者が自動車に乗っていない歩行中の事故であっても,通勤途上であることを理由に免責となり得る。

大阪地裁平成30年9月21日判決・平成29年(ワ)第10388号(判例秘書L07350851)も,同種の免責条項について,通勤途上の事故は同法7条1項2号の通勤災害に当たり,ひいては特約にいう労働災害に当たるとした。

もっとも,同判決は,免責の対象となるのは身体の障害に関する部分であるから,特約が適用されるのは物損部分に限られるとして,物損部分に対応する割合を乗じた額の限度で保険会社の支払義務を認めた。

したがって,人損部分について特約を使えない場合であっても,物損部分については使える余地があるが,支払われる額は按分によって大きく圧縮され得る。

商品によっては,そもそも業務災害又は通勤災害に該当する交通事故を対象外とするものもある(ソニー損保の自動車保険の重要事項説明書(2012年11月以降始期用)参照)。

いずれの裁判例も裁判所ウェブサイト未掲載であり,免責条項を置かない約款にそのまま一般化することはできないが,業務中又は通勤中の事故では,まず免責条項の有無と文言を確認し,使用目的,事業用車両,使用者の保険及び労災保険との関係を個別に検討すべきである。

3 飲酒運転と免責条項

(1) 道路交通法上の規制

道路交通法65条1項は,何人も酒気を帯びて車両等を運転してはならないと定めており,同項自体に呼気1リットル中0.15ミリグラムという数値は置かれていない。

呼気1リットル中0.15ミリグラム以上という数値は,道路交通法施行令44条の3が定める酒気帯び運転の処罰基準である。

したがって,処罰基準未満であることだけから,道路交通法上の酒気帯びでない,又は保険約款上の免責事由に当たらないとは断定できない。

(2) 保険約款上の免責

飲酒,無免許,薬物の影響又は故意・重大な過失に関する免責条項の文言は,保険の種類によって異なる。

免許取消し中若しくは免許停止期間中の運転,又は酒気帯び運転をしている時に発生した事故については,弁護士費用特約を使用できないのが通常である。

名古屋地裁令和4年5月24日判決・令和3年(ワ)第139号,同第1999号(判例秘書L07751613)は,自動車保険契約の免責条項にいう「酒気を帯びて」とは,通常の状態で身体に保有する程度を超えてアルコールを保有し,そのことが外部的徴表により認知し得る状態で車両を運転する場合を指すと解した。

そのうえで,同判決は,呼気検査で検出された0.03ミリグラム毎リットルという呼気濃度は人が通常の状態で身体に保有するアルコール濃度と評価しうること,警察官が認識したかすかな酒臭も同様に評価できることを理由に,免責条項の適用を否定した。

このように,約款の免責条項が道路交通法の処罰基準をそのまま取り込んでいるとは限らず,「酒気を帯びて」の解釈自体が争点になる。

同判決も裁判所ウェブサイト未掲載であり,契約文言,飲酒量,経過時間,運転状況及び証拠関係を離れて結論だけを一般化すべきではない。

保険会社が免責を主張した場合は,適用条項と認定事実の提示を求める必要がある。

(3) 飲酒の発覚と証拠の収集

治療のために採取された血液を病院が警察に任意提出した結果,飲酒運転が発覚することがある。

大阪高裁平成15年9月12日判決・平成15年(う)第849号は,医師が診療契約に基づき保管していた被告人の血液を警察官の求めに応じて任意提出した措置について,診療契約上の義務に反する行為であるとしつつ,そのような私法上の義務違反が直ちに刑事訴訟法上の違法となるものではないとした。

そのうえで,同判決は,刑事訴訟法221条により,所持者又は保管者が任意に提出した物については,これらの者が任意提出する私法上の権限を有しているか否かにかかわらず,原則として捜査機関はこれを適法に領置することができるとして,控訴を棄却した。

4 共済の場合

共済の場合には,弁護士費用に関する補償の利用について,自動車保険とは異なる運用がされていることがある。

共済相談所HP共済相談所活動報告(平成29年度)6頁には,「自動車共済に弁護士費用補償特約を付帯している。現在の契約で同特約を使うと、次回更新する契約に付帯できなくなると聞いた。そのような規定はどこにあるのか教えてほしい。」という相談が掲載されている。

したがって,共済に加入している場合には,利用後の更新の取扱いについても併せて確認しておくべきである。

第4 自分で選んだ弁護士を利用する手続

1 弁護士を自分で選ぶことができる

弁護士費用特約は,保険会社が紹介した弁護士だけに利用できる制度ではない。

被害者は,自分が被保険者となっている保険会社に弁護士の紹介を依頼することもできるし,自分で選んだ弁護士に依頼した上で,その弁護士費用を保険会社に負担してもらうこともできる。

保険会社の紹介による弁護士が,日常的に交通事故事件を取り扱っているとは限らない。

例えば,大阪弁護士会所属の弁護士は,弁護士会が指定する研修を受けていれば,交通事故に関する実務経験がない場合であっても,日弁連のLAC制度に基づいて交通事故事件の紹介を受けることができる。

依頼者は自分で弁護士を選ぶことができるが,多くの約款は,弁護士への委任又は費用負担について保険会社の事前同意又は承認を求めている。

相談又は委任の前に,弁護士名,請求の相手方,対象となる手続,見積額及び報酬方式を保険会社へ伝え,承認の範囲をメール等で残すことが安全である。

緊急に保全処分又は時効対応が必要な場合は,先に手続を進める必要性と事後承認の可否を直ちに協議すべきである。

2 保険会社から弁護士へ直接支払う場合

保険会社が認定した弁護士費用を弁護士へ直接支払う運用は広く用いられており,この場合,依頼者が弁護士費用を立て替える必要はない。

もっとも,直接払いは依頼者と弁護士との委任契約を消滅させるものではなく,保険会社が弁護士の依頼者になるものでもない。

保険会社の認定額を超える報酬又は補償対象外の費用は,委任契約に従って依頼者が負担することがある。

先に依頼者が支払い,領収書等を提出して保険金を受け取る方式もあるため,支払方法を委任時に確認すべきである。

3 弁護士を変更する場合

弁護士を変更できるかと,変更前後の弁護士費用がすべて保険金の対象になるかは別問題である。

新たに委任する弁護士について着手金が改めて発生する結果,弁護士費用の総額が増えることがあるから,変更の前に保険会社へ確認した方がよい。

変更前の弁護士との報酬精算,新しい弁護士の着手金,既に支払われた保険金及び残りの保険金額を確認する必要がある。

弁護士間の引継ぎ,記録返還及び委任終了の時期も明確にし,保険会社の承認を得てから変更することが望ましい。

第5 LAC制度と弁護士報酬基準

1 LAC制度の概要

日弁連リーガル・アクセス・センターの権利保護保険制度は,日弁連と協定を結んだ保険会社等の加入者に弁護士紹介等を行う制度であり,LACと呼ばれる(日弁連HPの「権利保護保険(日弁連リーガル・アクセス・センター)」参照)。

東京弁護士会『LIBRA』2025年5月号によれば,LACは2000年10月に発足し,2025年1月時点の協定会社は21社である。

保険会社からLACを通じて紹介を受ける方法のほか,加入者が選んだ弁護士を通じて制度を利用する方法もある。

協定を結んだ損害保険会社の弁護士費用特約を利用する場合には,日弁連LACが関与した書式の委任契約書を作成することになる。

2 LAC基準と保険契約の関係

協定会社の案件では,日弁連の弁護士費用保険における弁護士費用の保険金支払基準が尊重される。

しかし,すべての弁護士費用特約がLAC制度の対象ではなく,非協定会社の契約では独自基準が用いられることがある。

また,LAC基準による算定額と弁護士との報酬契約額が常に一致するとは限らない。

両者に差がある場合の依頼者負担を,委任契約書で明確にする必要がある。

3 2025年基準の主な変更点

日弁連リーガル・アクセス・センター『LACマニュアル改訂第7版』は,2025年1月からの新基準について,経済的利益が125万円以下の場合の着手金を10万円,報酬金を20万円とし,経済的利益がない場合の報酬金を0円としている。

この取扱いは,対象案件,受任時期,保険会社及び上級審への移行等によって適用関係の確認が必要である。

「少額事件なら必ず着手金10万円,報酬金20万円」と一律に説明するのは正確でない。

4 弁護士会に対する負担金会費

権利保護保険制度を利用した場合,受任弁護士は,所属弁護士会に対して負担金会費を納入することがある。

大阪弁護士会の場合,権利保護保険制度に基づく法律相談の相談料並びに同制度により事件を受任した者(直接依頼者から事件を受任し,同制度を利用した場合を含む。)の着手金,報酬金,手数料及び日当の7%が負担金会費とされている(大阪弁護士会の負担金会費参照)。

これは弁護士側の負担であって依頼者の負担ではないが,直接受任の場合にも日弁連LACへの連絡と指定書式の委任契約書の作成が求められる点で,手続の流れに関わる。

第6 弁護士費用特約から当然には支払われない手続

1 自分の保険会社に対する保険金請求

被害事故型の弁護士費用特約は,通常,事故の相手方に対する損害賠償請求を主な対象とする。

そのため,自分の人身傷害保険,車両保険又は傷害保険に対する保険金請求のための弁護士費用は,当然には補償されない。

もっとも,約款が権利の保全又は行使に必要な手続費用を別に補償する場合や,一般民事型の保険が使える場合がある。

なお,人身傷害保険を先に利用すると,加害者に対する損害賠償請求額が減少する結果,判決による遅延損害金及び弁護士費用相当損害金を得られる範囲も狭くなることがあるため,利用の順序と時期を検討する必要がある。

人身傷害保険と加害者への賠償請求の関係については,人身傷害補償保険に関する記事も参照されたい。

2 相手方から受けた損害賠償請求への対応

被保険者に過失があり,相手方から損害賠償請求を受けた場合の防御費用は,被害事故型の弁護士費用特約ではなく,対人賠償責任保険又は対物賠償責任保険の示談代行・争訟費用の問題となるのが通常である。

損害賠償請求をする側の費用と,請求を受けて防御する側の費用を区別する必要がある。

相手方について労災保険の適用がある場合には,労働基準監督署から立替金の支払を求められることもある(「第三者行為災害としての交通事故」参照)。

法律上の賠償責任がないのに請求を受けた場合を対象とする別特約もあるため,賠償責任保険を含めて確認すべきである。

3 労災保険給付と政府の求償

労災保険給付の請求は,加害者に対する損害賠償請求とは別の手続であり,被害事故型の弁護士費用特約では通常対象にならない。

第三者行為災害では,労働者災害補償保険法12条の4第1項により,政府は保険給付の価額の限度で,被災者の第三者に対する損害賠償請求権を取得する。

同条2項は,被災者が同一の事由について第三者から損害賠償を受けた場合,政府がその価額の限度で保険給付をしないことができると定める。

制度の基礎資料については,労災保険の第三者行為災害に関する記事も参照されたい。

第7 判決又は和解による解決と費用の精算

1 判決で認められる弁護士費用相当損害金

最高裁昭和44年2月27日第一小法廷判決・昭和41年(オ)第280号(民集23巻2号441頁)は,不法行為の被害者が権利擁護のため訴えを提起し,弁護士に委任することを余儀なくされた場合,事案の難易,請求額,認容額その他の事情を考慮した相当額の弁護士費用が,不法行為と相当因果関係のある損害になるとした。

この判例は,相手方が現実の弁護士報酬全額を当然に負担する,又は認容額の10%が常に認められると判示したものではない。

交通事故訴訟で認められる弁護士費用相当額は,個別事件の裁判所の判断による。

2 弁護士費用保険金との二重回収

弁護士費用保険金と,加害者から支払われる弁護士費用相当損害金は,発生根拠が異なる。

したがって,被害者が弁護士費用特約を利用したことは,加害者に対する弁護士費用相当額の損害の発生を否定する理由にならない。

大阪地裁平成21年3月24日判決・平成20年(ワ)第12006号(交通事故民事裁判例集42巻2号418頁。判例秘書L06451068)は,弁護士費用が被害者の加入する任意保険の弁護士費用特約保険金によって賄われているから損害は発生しないとの加害者の主張に対し,「この保険金は原告(保険契約者)が払い込んだ保険料の対価であり,保険金支払義務と損害賠償義務とはその発生原因ないし根拠において無関係と解される」として,これを採用しなかった。

東京地裁平成21年4月14日判決・平成19年(ワ)第18221号(判例秘書L06430262)も,被害者が弁護士費用特約を用いて訴訟の遂行を委任した事実をもって直ちに弁護士費用相当の損害が発生していないとする加害者の主張を採用しなかった。

もっとも,両者の合計が現実の弁護士費用負担を超える部分まで二重に取得できるとは限らない。

東京高裁平成25年12月25日判決・平成25年(ネ)第5376号(判例秘書L06821128)は,別訴の判決で弁護士費用相当額の賠償が認められた事案において,特約は,被保険者が賠償義務者から弁護士費用相当額の損害賠償金の支払を受けることができず弁護士報酬額の自己負担を生じる場合のリスクを対象とするものであり,その自己負担の範囲を超える保険金の支払を要するものではないとして,特約に基づく保険金請求を棄却した原判決を維持した。

同判決は裁判所ウェブサイト未掲載であり,約款の文言によって結論が変わり得るが,適用約款には,既払額の控除,保険会社への返還又は保険代位に関する条項が置かれていることがある。

判決又は和解で弁護士費用相当額を回収したときは,未払報酬,既払保険金及び依頼者の自己負担額を精算する必要がある。

3 和解と判決の優劣は一律に決まらない

弁護士費用特約を利用しているから,訴訟上の和解が判決より常に有利になるわけではない。

和解には,早期解決,履行確保及び紛争の終局的解決という利点がある。

他方,争点に対する公的判断,遅延損害金,弁護士費用相当損害金及び上級審の見込みを考慮すると,判決を求める実益がある場合もある。

和解案を受けるかは,和解金額,判決見込み額,解決までの期間,控訴の可能性,保険会社との精算及び依頼者の意向を総合して判断すべきである。

第8 保険金の不払い又は減額を受けた場合

1 保険会社に確認する事項

日本損害保険協会『損害保険の保険金支払に関するガイドライン』は,保険金を支払えない場合,根拠となる約款条項と調査結果を分かりやすく説明することなどを求めている。

同ガイドラインは,保険金を支払わない事由に該当するか否かの判断について,調査の結果確認できた事実等に基づいて判断を行い,特に慎重な判断を要する事案については弁護士・医師・鑑定人等の専門家の見解を確認するなど公平・公正な対応を行うものとしている。

また,契約者等又は被害者から了解を得られない場合には,日本損害保険協会そんぽADRセンター,交通事故紛争処理センター,日弁連交通事故相談センター等の各種相談機関を案内するなど,適切な対応を行うものとしている。

金融庁の保険会社向けの総合的な監督指針も,適時・適切な保険金支払のための十分な査定,支払判断の公平性及び顧客への説明を確保する管理態勢を求めている。

不払い又は減額の連絡を受けた場合は,次の事項を書面又はメールで確認すべきである。

① 適用された特約の名称,版及び条項番号

② 保険会社が認定した事実

③ 対象外又は免責とした理由

④ 弁護士報酬の算定基準と計算過程

⑤ 再審査又は苦情申出の窓口

2 そんぽADRセンター

保険会社との話合いで解決しない場合,対象会社について,日本損害保険協会のそんぽADRセンターに苦情解決手続又は紛争解決手続を申し立てることができる。

同センターは保険業法上の指定紛争解決機関であり,利用費用は原則として無料であるが,通信費,交通費又は資料作成費等は利用者負担である。

同協会は,2025年6月30日以降,そんぽADRセンターの電話番号を03-4332-5241(全国共通)に一本化しており,受付は祝日・休日及び12月30日から翌年1月4日までを除く月曜日から金曜日の午前9時15分から午後5時までである。

係属中の訴訟と同一の請求等は手続の対象外になり得るため,申立前に利用条件を確認する必要がある。

3 保険金請求権の消滅時効

保険法95条1項は,保険給付を請求する権利について,行使することができる時から3年間行使しないときは時効によって消滅すると定める。

保険会社との協議が続いていることだけで,当然に時効の完成が止まるとは限らない。

事故日,弁護士費用の負担日,保険金請求日及び保険会社の回答日を記録し,必要に応じて時効完成猶予又は更新の措置を検討すべきである。

4 約款の解釈

保険約款は,民法548条の2第1項にいう定型約款に当たるものとされている(法務省HPの「約款(定型約款)に関する規定の新設」参照)。

同資料は,定型約款に当たるものとして鉄道・バスの運送約款,電気・ガスの供給約款,保険約款及びインターネットサイトの利用規約を挙げる一方,一般的な事業者間取引で用いられる一方当事者の準備した契約書のひな形及び労働契約のひな形は定型約款に当たらないとしている。

また,約款の条項の意味が文言上一義的に明らかでない場合の解釈が問題となることがある(最高裁平成26年12月19日第二小法廷判決・平成25年(受)第1833号(集民248号189頁)参照)。

第9 弁護士への直接払いと源泉徴収

1 源泉徴収の要否を判断する支払者

居住者である弁護士に報酬を支払う者が法人又は源泉徴収義務を負う個人である場合,所得税法204条1項2号により,原則として所得税及び復興特別所得税の源泉徴収が必要である。

給与等について源泉徴収義務を負わない一般の個人が自ら弁護士報酬を支払う場合は,同条2項2号により源泉徴収を要しない。

保険会社が弁護士へ直接支払う場合は,保険会社が支払者として源泉徴収の要否と金額を処理する運用がある。

委任契約額,保険会社の認定額,源泉徴収額及び実際の振込額を区別して確認すべきである。

2 対象額と税率

国税庁のタックスアンサーNo.2798によれば,弁護士業務に関する謝金,調査費,日当及び旅費等の名目による支払も,原則として源泉徴収の対象となる。

ただし,支払者が交通機関又はホテル等へ直接支払い,その額が通常必要な範囲内である交通費又は宿泊費等は,対象に含めなくてもよい。

請求書で報酬額と消費税額が明確に区分されている場合,報酬額だけを源泉徴収の対象とすることができる。

同一人に1回に支払う金額が100万円以下の部分の税率は10.21%であり,100万円を超える部分は国税庁所定の算式で計算する。

個別の処理は,実際の支払者又は税理士に確認すべきである。

第10 交通事故以外に適用される弁護士費用保険

交通事故以外の分野を対象とする弁護士費用保険も存在する。

二弁フロンティア2017年6月号48頁の「権利保護保険(弁護士保険)の新たな展開」は,交通事故に関する弁護士保険以外に他の分野にも適用可能な弁護士保険として,プリベント少額短期保険株式会社の「Mikata」と損害保険ジャパン日本興亜株式会社の「弁護のちから」を紹介し,前者が自動車保険や傷害保険の特約ではない単体保険であって一部を除き民事事件全般を対象とし,法律相談料と着手金の一部を保険対象とする(報酬は保険対象外である。)のに対し,後者が企業の団体契約に付帯する特約であって対象となるトラブルを限定していることなどを説明している。

もっとも,これは同記事執筆時点の紹介であり,その後の商品改定,社名変更及び販売終了があり得る。

加入を検討する場合には,保険料と補償範囲のほか,免責金額,待機期間,対象外となる紛争類型及び保険会社の承認が必要な範囲を,現在の各社の資料で確認する必要がある。

第11 利用前の確認事項

弁護士費用特約を利用するときは,次の順序で確認するとよい。

① 本人,配偶者,同居親族,別居の未婚の子,運転者,車両所有者及び勤務先の団体保険を含め,利用できる保険と共済を洗い出す。

② 事故日に適用される保険証券,約款,特約名及び保険金算定基準を入手する。

③ 被保険者の範囲,対象事故,免責事由,保険金額及び自己負担額を確認する。

④ 委任前に,依頼予定の弁護士,請求の相手方,対象手続及び報酬方式を保険会社へ伝え,承認内容を記録する。

⑤ 保険会社の認定額を超える報酬,実費,上級審費用及び弁護士変更時の費用を誰が負担するか,委任契約書に明記する。

⑥ 判決又は和解で弁護士費用相当額を回収したときの精算方法を確認する。

⑦ 不払い又は減額を受けたときは,約款条項,認定事実及び算定過程を確認し,必要に応じて再審査又はそんぽADRセンターを利用する。

第12 関連記事

・ 大阪弁護士会の負担金会費

・ 人身傷害補償保険

・ 労災保険の第三者行為災害

第13 出典

1 法令及び公的指針

① 保険法95条(e-Gov法令検索)

② 所得税法204条(e-Gov法令検索)

③ 道路交通法65条(e-Gov法令検索)

④ 道路交通法施行令44条の3(e-Gov法令検索)

⑤ 労働者災害補償保険法12条の4(e-Gov法令検索)

⑥ 民法548条の2(e-Gov法令検索)

⑦ 金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針 II-4-4-3 保険金等支払管理態勢」

⑧ 国税庁「No.2798 弁護士や税理士等に支払う報酬・料金」

⑨ 法務省「約款(定型約款)に関する規定の新設」

2 裁判例

① 最高裁昭和44年2月27日第一小法廷判決・昭和41年(オ)第280号,民集23巻2号441頁

② 最高裁平成26年12月19日第二小法廷判決・平成25年(受)第1833号,集民248号189頁

③ 大阪高裁平成15年9月12日判決・平成15年(う)第849号

④ 東京高裁平成25年12月25日判決・平成25年(ネ)第5376号,判例秘書L06821128(裁判所ウェブサイト未掲載)

⑤ 大阪地裁令和元年5月23日判決・平成30年(ワ)第7687号,判例タイムズ1466号163頁,金融・商事判例1574号38頁,判例時報2428号114頁,金融法務事情2126号57頁,判例秘書L07450716(裁判所ウェブサイト未掲載)

⑥ 大阪地裁平成30年9月21日判決・平成29年(ワ)第10388号,判例秘書L07350851(裁判所ウェブサイト未掲載)

⑦ 名古屋地裁令和4年5月24日判決・令和3年(ワ)第139号,同第1999号,判例秘書L07751613(裁判所ウェブサイト未掲載)

⑧ 大阪地裁平成21年3月24日判決・平成20年(ワ)第12006号,交通事故民事裁判例集42巻2号418頁,判例秘書L06451068(裁判所ウェブサイト未掲載)

⑨ 東京地裁平成21年4月14日判決・平成19年(ワ)第18221号,判例秘書L06430262(裁判所ウェブサイト未掲載)

3 書籍及び弁護士会資料

① 狩倉博之・渡部英明・三浦靖彦・杉原弘康編著『弁護士費用特約を活用した物損交通事故の実務』学陽書房,2020年,10頁~15頁

② 大塚英明・古笛恵子編著『交通事故事件対応のための保険の基本と実務』学陽書房,2018年,260頁~264頁

③ 西原正騎ほか『〔改訂版〕弁護士のためのイチからわかる交通事故対応実務』日本法令,2022年,41頁

④ 羽成守編著『「交通事故」実務入門』司法協会,2021年,157頁

⑤ 小野裕樹『被害者側弁護士のための交通賠償法実務』日本評論社,2025年,127頁~129頁

⑥ 日弁連リーガル・アクセス・センター『LACマニュアル改訂第7版』2025年1月

⑦ 公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 下巻(講演録編)』2018年,2頁

⑧ 東京弁護士会『LIBRA』2025年5月号「弁護士費用保険(LAC制度)のいまとこれから」2頁~16頁

⑨ 第二東京弁護士会『NIBEN Frontier』2017年6月号「権利保護保険(弁護士保険)の新たな展開」48頁

4 保険及び相談機関の資料

① 三井住友海上「主な補償・特約のご説明(2026年1月1日以降始期契約用)」

② 三井住友海上「その他の補償に関する特約」

③ ソニー損保「自動車保険の重要事項説明書(2012年11月以降始期用)」

④ あいおいニッセイ同和損保「タフ 住まいの保険」

⑤ Chubb損害保険「リビングプロテクト総合保険」

⑥ 自動車保険ガイド「弁護士費用特約の補償金額や範囲」

⑦ 日本損害保険協会『損害保険の保険金支払に関するガイドライン』

⑧ 日本損害保険協会「相談対応,苦情・紛争の解決」

⑨ 日本弁護士連合会「権利保護保険(日弁連リーガル・アクセス・センター)」

⑩ 東京弁護士会「弁護士費用保険」

⑪ 共済相談所「共済相談所活動報告(平成29年度)」