第1 生活費は支給額と入金時期を分けて考える
1 給付金の額だけでは資金不足を判断できない
司法修習の生活費を考える際は,毎月の収支に加え,修習開始前の契約費用,給付金が入るまでの支出,集合修習に伴う移動及び修習終了後の支出を確認する必要がある。
年間の収支が合っていても,敷金や引越費用を先に支払う月に預金残高が不足することがあるためである。
本記事は,自分の生活条件を数字に置き換えるための資金計画を扱う。
支給要件や税・社会保険の詳細は「司法修習生に給料はあるか」を参照されたい。
2 第80期の手続と第79期の参考資料を区別する
資料確認日は令和8年10月5日である。
令和8年度司法修習生採用選考要項3頁は,修習専念資金関係を令和8年11月上旬,修習給付金関係を令和9年1月中旬に掲載予定としている。
以下の支給日や届出の考え方には,既に公表されている第79期の案内を参考として用いる。
第79期の支給予定日又は届出期限を,そのまま第80期の確定日として予定表へ転記することはできない。
第2 収入欄に入れるもの
1 給付,借入れ及び預金の取崩しを区別する
最高裁判所の修習給付金の説明によれば,基本給付金は一の給付期間につき13万5000円,住居給付金は要件を満たし所定の届出をした場合に3万5000円である。
通常修習期間の末日を含む給付期間等には日割計算があるため,常に満額が12回又は13回入るものと決め付けてはならない。
| 項目 | 資金計画上の置き方 | 確認先 |
|---|---|---|
| 基本給付金 | 当期の給付期間と支給日に従って記入する | 当期の修習給付金案内 |
| 住居給付金 | 要件,支給対象期間及び入金を確認できた額を記入する | 住居届と給付金案内 |
| 移転給付金 | 定額の支給見込額と認定・支給時期を別に確認する | 移転届と給付金案内 |
| 修習専念資金 | 借入れの欄に記入し,返還予定も別表にする | 当期の貸与案内 |
| 預金の取崩し | 新たな所得ではなく,既存資金の使用として記入する | 自分の預金残高 |
| 家族からの援助等 | 額,時期及び継続性を確認する | 援助する相手との確認 |
最高裁判所の貸与制度の概要では,修習専念資金の基本額は一貸与単位期間につき10万円,扶養加算後の額は12万5000円とされる。
無利息であっても返還を要する借入れであり,生活費に使える入金と,将来の負担を別々に管理する必要がある。
2 初回入金と住居給付金の開始を確認する
第79期修習給付金案内3頁の支給日一覧は,基本給付金と住居給付金を別の列で示している。
家賃を支払った月と,住居給付金が振り込まれる月が同じであるとは限らないため,計画表では「支給対象期間」と「実際の入金月」を分けて記載することが有用である。
同案内1頁は,資料の提出が遅れるなどして予定日に受給できない場合を説明している。
まだ認定又は支給時期を確認できない給付金を,賃貸契約の初期費用を払うための確実な現金として計上することは避けるべきである。
第3 支出欄に入れるもの
1 毎月の支出と一時的な支出
毎月の支出には,家賃,共益費,食費,光熱費,通信費,交通費及び税・社会保険料を入れる。
自動車を利用する場合は,駐車場,燃料,保険,車検等も含め,年払いの費用を見落とさないようにする。
一時的な支出には,賃貸契約の敷金・礼金・仲介手数料・保証料等,引越費用,家具・家電,集合修習時の移動・荷物保管及び修習終了後の住まいの費用を入れる。
敷金は返還される可能性があっても,入居時には支払う現金であるため,収支表から除外することはできない。
2 税・保険料を自分の条件で見積もる
給付金の振込額を,税・保険料を負担した後に自由に使える額と同じものとして扱うべきではない。
第79期案内18頁は,基本給付金・住居給付金の課税と源泉徴収を行わない取扱いを説明しているため,税の支払又は納税資金の確保を別に考える必要がある。
協会けんぽの退職後の健康保険の案内は,任意継続,国民健康保険及び家族の健康保険の被扶養者という選択肢を示している。
加入できる条件と保険料を確認し,修習給付金を受ける場合に家族の被扶養者として認定されるかは,家族が加入する保険者に確認する必要がある。
国民健康保険料は自治体,世帯及び前年所得等により変わる。
大阪市の保険料に関するQ&Aも,退職して所得が減っても,前年の所得に基づく保険料が高くなる場合を説明している。
現在の給付額だけから保険料を見積もらず,転居先の自治体に見込額,納期及び軽減・減免の条件を確認することが有用である。
日本年金機構の免除・納付猶予の案内は,申請と承認を前提とする制度を説明している。
退職したこと又は司法修習生になったことだけで保険料を0円と記入せず,適用を確認できるまでは支払見込額を計上する必要がある。
第4 毎月の収支を試算する
1 仮定の数字で計算方法を確認する
次は,計算方法を示すための架空の例である。
全国の平均生活費,税・保険料の標準額又は司法修習生に必要な最低額を示すものではなく,各金額は自分の見積額に置き換える必要がある。
| 項目 | 例の金額 | 数字の性質 |
|---|---|---|
| 基本給付金 | 13万5000円 | 満額の給付期間という仮定 |
| 住居給付金 | 3万5000円 | 要件を満たし入金があるという仮定 |
| 入金合計 | 17万円 | 上の2項目の合計 |
| 家賃・共益費 | 7万円 | 架空の物件の仮定 |
| 食費 | 3万円 | 任意の仮定 |
| 光熱・通信費 | 1万5000円 | 任意の仮定 |
| 交通・日用品等 | 1万5000円 | 任意の仮定 |
| 税・保険・年金に充てる資金 | 4万円 | 個別計算を代用しない仮定 |
| 支出・確保資金合計 | 17万円 | 上の支出5項目の合計 |
| 差額 | 0円 | 一時的支出は含めていない |
この例は,毎月の差額が0円でも,引越し,契約費用,医療費等に使う追加資金が残らないことを示している。
同じ支出条件で住居給付金の入金がない月は,差額がマイナス3万5000円となる。
2 実際の支払と税のための取置きを二重計上しない
上の表は,日常支出に加え,税などの将来の支払に充てる資金を確保する考え方を示している。
一方,預金残高の推移を計算する際は,実際に口座から出る金額を記入し,同じ税について取置きと納付を二重に差し引かないようにする。
例えば,税のために別口座へ移したお金は,口座ごとの残高では移動であるが,全預金の合計を減らす支出ではない。
ただし,生活費に使ってよい残高からは除いて考える必要がある。
第5 年間の残高表を作る
1 修習開始前から修習終了後まで並べる
次の表を,実際の月ごとに複製して記入する方法が考えられる。
支給日未確認の入金と確定した入金は区別し,予定が変わったら再計算することが必要である。
| 時期 | 主な入金 | 主な出金・残高確認 |
|---|---|---|
| 開始前 | 最終給与,既存預金,確定した援助 | 退職後の税保険,契約費用,引越し,入金前の生活費 |
| 導入修習 | 当期案内で確認した入金 | 和光での滞在,交通,実務修習地の住まいの支払 |
| 分野別実務修習 | 給付金,利用する場合の貸与金 | 家賃,生活費,税保険,年払い費用 |
| 集合・選択型実務修習 | 住居給付金の支給対象期間と入金を再確認 | 住居維持か解約か,移動,保管,再入居の費用 |
| 修習終了前後 | 最終の給付金,確定した就職後の入金 | 次の住まい,登録等に伴う確認済みの費用,初回給与までの支出 |
月末残高は,「月初残高+その月の入金-その月の出金」で計算する。
カード利用日ではなく引落日を記入し,修習終了後の初回給与日がまだ決まっていない場合は,入金が遅い場合の計画も作ることが考えられる。
2 必要な準備資金を自分の不足額から求める
全員に共通する「貯金は何万円あれば足りる」という金額は示せない。
家賃,家族,退職前の所得,車の有無及び転居回数が異なるからである。
まず,今後の入出金だけで残高が最も低くなる時点を調べ,生活費に使えない取置き資金を除いて,どれだけ不足するかを確認する。
そこに,自分が想定する臨時支出や入金の遅れに対応する予備資金を加える方法が考えられる。
第6 不足が見えたときの確認順序
最初に,削減できる支出と,支払時期を変えられる支出を確認する。
次に,給付金の要件・届出,保険料等の制度,家族の援助及び修習専念資金を確認し,利用できると確かめられたものだけを計画へ反映することが有用である。
修習専念資金を利用する場合は,保証方法,申請・入金時期,貸与総額及び返還計画も確認する必要がある。
貸与によって修習中の残高不足が解消しても,返還義務がなくなるわけではない。
住まいの計画は,①契約を維持した場合の家賃,②解約・保管・再契約の費用,③住居給付金の支給対象期間をそろえて比較する必要がある。
住居給付金と移転給付金の詳細は,それぞれ住居給付金の記事と移転給付金の記事で確認できる。
第7 関連記事と出典
①制度全体は「司法修習とは」,開始前の期限は「司法試験合格後から司法修習開始まで」を参照されたい。
②最高裁判所「司法修習生の修習給付金について」。
③司法研修所事務局「修習給付金案内(第79期)」1頁,3頁,6頁~8頁及び18頁。頁数は資料に印刷された頁であり,PDFではそれぞれ5頁,7頁,10頁~12頁及び22頁に当たる。
④最高裁判所「司法修習生に対する修習専念資金の貸与制の概要」。
⑤最高裁判所「令和8年度司法修習生採用選考要項」3頁。
⑥全国健康保険協会「退職後の健康保険」。
⑦日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」。
⑧大阪市「国民健康保険料に関するQ&A」Q5。
資料確認日は令和8年10月5日である。
収支表と残高管理の方法は本記事の提案であり,例の金額は実際の支給認定又は個別の税・保険料計算を示すものではない。