第1 移転給付金の要点
移転給付金は,司法修習生が修習に伴って住所又は居所を移転する必要があると認められ,現に移転した場合に,最高裁判所が定める路程に応じた定額を支給する制度である(裁判所法67条の2第5項)。
確認すべき点は,①修習に伴う移転の必要性,②現実の移転及び③期限内の移転届であり,住民票の異動,入寮手続又は引越費用の負担だけで支給が決まるものではない。
移転届は,原則として,移転の原因となった修習の開始日から7日以内に届け出る必要があり,開始日は算入しない。
この期限を過ぎたときは,住居給付金のように支給開始が後ろにずれるのではなく,原則として,当該移転について移転給付金が支給されない。
本記事は,令和8年8月29日現在の法令及び最高裁判所が公表している第79期向け「修習給付金案内」に基づく。
第80期以降の届出方法及び日程は,各期の最新案内で改めて確認する必要がある。
第2 移転給付金の支給要件
1 法律及び規則上の位置付け
裁判所法67条の2第5項は,司法修習生が修習に伴って住所又は居所を移転する必要があると認められる場合に,その移転について移転給付金を支給し,その額を路程に応じて最高裁判所が定めるとしている。
司法修習生の修習給付金の給付に関する規則10条ないし12条は,①路程に応じた別表の定額,②移転の実情の届出及び③最高裁判所による事実確認と支給認定を定めている。
したがって,移転給付金は,実際に支払った引越代を領収書どおりに精算する制度ではない。
修習に必要な移転であると認定された場合に,実際の引越費用の多寡にかかわらず,所定の路程区分による定額が支給される。
2 現に住所又は居所を移転したこと
第79期向け「修習給付金案内」は,支給対象者を,修習に伴う移転の必要性が認められ,かつ,現に移転して移転給付要件を具備し,移転届により移転の実情を届け出た者としている。
形式的に住所の記載を変更しただけでは足りず,生活の本拠又は現実の滞在場所を移した実情が必要となる。
住所だけでなく居所の移転も対象となり得るため,賃貸住宅への転居だけを対象とする制度ではない。
もっとも,住宅の種類を問わず,修習に伴う必要性と現実の移転について確認を受けることになる。
3 修習に伴う移転であること
現実に転居していても,その転居が導入修習,分野別実務修習,集合修習又は対象となる選択型実務修習に伴って必要となったものでなければ,移転給付金の対象とはならない。
個人的な都合による住替えや,修習場所から遠ざかる転居は,実際に引越費用が発生していても対象外となり得る。
第3 対象となる移転と路程別の支給額
1 実際の旧居と新居の間の距離ではない
第79期向け「修習給付金案内」が示す路程は,実際の旧居から新居までの距離ではなく,修習区分ごとに定められた次の起点と終点との間の路程である。
この違いは,転居先の住所だけから支給額を計算できないことを意味する。
| 対象となる移転 | 移転給付金の算定に用いる路程 |
|---|---|
| 導入修習に伴う移転 | 採用内定時の住所又は居所の所在地を管轄する地方裁判所(支部を除く。)から司法研修所まで |
| 分野別実務修習に伴う移転 | 司法研修所から実務修習地の地方裁判所(支部を除く。)まで |
| 集合修習に伴う移転 | 実務修習地の地方裁判所(支部を除く。)から司法研修所まで |
| 選択型実務修習に伴う移転 | A班について,司法研修所から実務修習地の地方裁判所(支部を除く。)まで |
同案内は,導入修習に伴い大阪府内から東京都内その他の近郊へ転居した例について,大阪地方裁判所から司法研修所までの路程を用いるとしている。
この例では,鉄道500キロメートル以上1000キロメートル未満の区分に当たり,支給額は10万8000円となる。
2 路程別の支給額
規則10条及び別表による支給額は,鉄道50キロメートル未満の4万6500円から,鉄道2000キロメートル以上の14万1000円までの8区分である。
全区分は次のとおりである。
| 路程の区分 | 支給額 |
|---|---|
| 鉄道50キロメートル未満 | 4万6500円 |
| 鉄道50キロメートル以上100キロメートル未満 | 5万3500円 |
| 鉄道100キロメートル以上300キロメートル未満 | 6万6000円 |
| 鉄道300キロメートル以上500キロメートル未満 | 8万1500円 |
| 鉄道500キロメートル以上1000キロメートル未満 | 10万8000円 |
| 鉄道1000キロメートル以上1500キロメートル未満 | 11万3500円 |
| 鉄道1500キロメートル以上2000キロメートル未満 | 12万1500円 |
| 鉄道2000キロメートル以上 | 14万1000円 |
路程の計算では,水路及び陸路の4分の1キロメートルを鉄道1キロメートルとみなす。
実際の引越代が上表の金額より多くても増額されず,少なくても差額を精算する制度ではない。
第4 移転届は原則として修習開始日から7日以内である
1 期限の起算日
移転届は,住所又は居所の移転の原因となった修習の開始日から7日以内に届け出る必要があり,開始日は算入しない。
7日目が土曜日,日曜日又は祝日に当たるときは,第79期向け「修習給付金案内」によれば,その翌日まで期限が延長される。
入院その他のやむを得ない事情により修習開始日後に移転した場合は,実際の移転日が起算日となる。
やむを得ない事情に当たるかは個別に判断されるため,修習開始日までに転居できない事情が判明した段階で,司法研修所事務局経理課経理係に確認するのが安全である。
2 第79期の主な届出期限
第79期向け「修習給付金案内」に掲載された主な修習開始日及び移転届の期限は,次のとおりである。
集合修習と選択型実務修習は,A班とB班で日程が異なる。
| 移転の原因となる修習 | 修習開始日 | 移転届の期限 |
|---|---|---|
| 導入修習 | 令和8年3月19日 | 令和8年3月26日 |
| 分野別実務修習 | 令和8年4月14日 | 令和8年4月21日 |
| 集合修習(A班) | 令和8年11月24日 | 令和8年12月1日 |
| 選択型実務修習(A班) | 令和9年1月12日 | 令和9年1月19日 |
| 集合修習(B班) | 令和9年1月13日 | 令和9年1月20日 |
第79期の修習課程全体は,第79期司法修習の日程で整理している。
移転届と住居届では期限の効果が異なるため,届出の名称も併せて確認する必要がある。
3 電子届出と郵送の期限判定
第79期では,別途案内される入力フォームによる電子届出が原則であり,送信が完了した日時により期限内かどうかが判断される。
やむを得ず郵送する場合は,消印日ではなく司法研修所に到着した日で判断されるため,簡易書留,特定記録郵便又はレターパック等の追跡可能な方法を用い,配達日数を見込んで発送する必要がある。
4 事前届出はできない
移転届は移転の実情を届け出るものであるため,次の修習開始に伴う転居について,実際の移転前に事前届出をすることは認められていない。
移転日以後,7日の期限を待たずに速やかに電子届出をするのが基本である。
5 証明書類
規則11条は,移転給付要件を証明する書類を添付して移転の実情を届け出る旨を定めている。
もっとも,第79期向け「修習給付金案内」は,現在の届出方法について,賃貸借契約書の写し等を届出時に添付する必要はないとしつつ,認定に疑義が生じた場合には別途疎明資料の提出を求めることがあるとしている。
賃貸借契約書,転居日を確認できる資料,宿泊証明書及び領収書等は,届出時の一律の添付書類ではない。
ただし,追加提出を求められる場合に備え,少なくとも認定が終わるまでは保管しておくのが安全である。
第5 寮,実家,ホテル,同居及び対象外例
1 司法研修所の寮への入寮及び退寮
司法研修所の寮への入寮及び退寮は,原則として移転に含まれる。
ただし,入寮手続をしただけでは足りず,現に住所又は居所を移したことが必要である。
2 実家その他の自宅等への移転
裁判所法67条の2第5項は,住宅の賃借又は家賃の支払を移転給付金の要件としていない。
第79期向け「修習給付金案内」も,旧住所又は現住所が自宅等である場合に実家又は親戚宅等の詳細を移転届へ記載するよう求めているため,実家等であることだけから当然に対象外とはいえず,修習に伴う必要性と現実の移転が個別に確認される。
3 ホテル等への長期滞在
ホテル等への滞在も,ホテルを生活の本拠としたと認め得る程度に長期間滞在した場合には,対象と認められることがある。
同案内は各修習に係る全期間の滞在を例に挙げており,宿泊証明書又は領収書等の疎明資料の提出を求められる場合があるとしている。
4 司法修習生同士の同居
司法修習生同士が同居する場合でも,各人が移転届を提出し,各人について支給要件が認められれば,それぞれに移転給付金が支給される。
賃貸借契約の名義や家賃負担の分担だけで一人分にまとめられる制度ではなく,各人について移転の実情が確認される。
5 対象外となる移転の例
第79期向け「修習給付金案内」は,修習に伴う移転の必要性が認められない例として,次の移転を挙げている。
①司法研修所又は実務修習地の地方裁判所から遠ざかる移転
②司法研修所又は実務修習地の地方裁判所からおおむね8キロメートル圏内の在勤地内での移転
③東京都特別区内又は同一市町村内という同一地域内での移転
これらは同案内が示す運用上の例であり,裁判所法又は規則が一律の不支給距離を定めたものではない。
該当するおそれがある場合には,同案内に従い,転居前に司法研修所事務局経理課経理係へ問い合わせることになる。
第6 住居給付金との違いと関連記事
移転給付金は修習に伴う転居について一回ごとに定額を支給する制度であるのに対し,住居給付金は自ら居住するために住宅を借り受け,家賃を支払っている場合に給付期間ごとに支給する制度である。
両者は要件,届出書及び期限徒過の効果が異なるため,移転届を提出しただけで住居届を提出したことにはならず,住居給付金の要件を満たすことにもならない。
住居給付金の要件,住居届及び寮・実家・親名義の住宅等の取扱いは,司法修習生の住居給付金で取り上げている。
移転給付金の所得税上の取扱いは,司法修習生の旅費及び移転給付金から課税所得が生じない理由を参照されたい。
制度全体の沿革及び基本給付金・修習専念資金との関係は,司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金で整理している。
第7 出典
1 法令及び最高裁判所規則
①e-Gov法令検索・裁判所法(昭和22年法律第59号)67条の2第5項(令和8年8月29日現在)
②最高裁判所「司法修習生の修習給付金の給付に関する規則」(平成29年8月4日最高裁判所規則第3号)10条~12条及び別表
2 最高裁判所及び司法研修所の運用資料
①最高裁判所「司法修習生の修習給付金について」(制度概要及び手続案内,令和8年8月29日確認)
②司法研修所事務局「修習給付金案内(第79期)」(資料上16頁,17頁及び23頁,PDFビューア上20頁,21頁及び27頁並びに巻末別表・PDFビューア上32頁)