司法修習生に対する旅費及び移転給付金について課税関係は発生しないこと

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目次
第1 最高裁判所の公式見解
第2 所得税法及び所得税基本通達の条文
1 所得税法の条文
2 所得税基本通達の条文
第3 旅費及び移転給付金の一般的な支給額等
1 旅費(交通費,日当及び日額旅費)
2 移転給付金
第4 旅費及び移転給付金について課税関係は発生しないこと
1 総論
2 所得税法9条1項4号の条文
3 導入修習参加のための旅費及び移転給付金の取扱い
4 導入修習参加のためのものを除く,旅費及び移転給付金の取扱い
第5 関連記事

第1 最高裁判所の公式見解
   最高裁判所としては,司法修習生に対して支給する旅費(交通費及び日当)並びに移転給付金は,実費弁償性があり,雑所得には該当しないと考えているため,源泉徴収をしていません。


第2 所得税法及び所得税基本通達の条文
1 所得税法の条文
   所得税法
9条1項4号は,「給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの」は非課税所得に該当すると定めています。
2 所得税基本通達の条文
   所得税基本通達9-3は,「法第9条第1項第4号の規定により非課税とされる金品は、同号に規定する旅行をした者に対して使用者等からその旅行に必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいう」と定めています。

提出書類確認スケジュール(第73期修習給付金)

第3 旅費及び移転給付金の一般的な支給額等
1 旅費(交通費,日当及び日額旅費)
(1) 交通費
ア 交通費は,原則として,最も経済的な通常の経路及び方法により旅行した場合の旅費により計算された金額で支給されるものです(国家公務員等の旅費に関する法律6条2項ないし5項,及び7条)。
イ 司法修習生の場合,①導入修習に参加するために移動する場合,分野別実務修習に参加するために移動する場合,集合修習に参加するために移動する場合及び選択型実務修習に参加するために移動する場合,並びに②実務修習において各種施設の見学等に参加する場合に支給されるものです。
ウ 司法修習生に対する交通費の金額は,最も経済的な通常の経路及び方法として鉄道,航空機等を利用した場合において実際に負担した運賃です。
(2) 日当
ア 日当は,1日当たりの定額で支給されるものです(国家公務員等の旅費に関する法律6条6項及び20条)。
   また,旅費業務に関する標準マニュアルVer.2-0(2016年12月の各府省等申合せ)10頁及び11頁によれば,おおむね半額は目的地内を巡回する場合の交通費(「目的地内巡回交通費」といいます。)に充てるものとされ,残り半額は諸雑費(旅行中の昼食代や官署との電話代等)に充てるものとされています。
イ 司法修習生の場合,以下の旅費が支給されます。
① 導入修習に参加するために移動する場合(招集旅費)
② 分野別実務修習に参加するために移動する場合(帰任旅費)
③ 実務修習中の見学等のために移動する場合(実務修習旅費)
③ 集合修習に参加するために移動する場合(帰任旅費)
④ 選択型実務修習に参加するために移動する場合(選択型実務修習旅費)
ウ 司法修習生に対する日当の金額は,国家公務員等の旅費に関する法律別表第一に定める日当(二級の職務)の定額1700円の半分となる850円です。
   これは,鉄道賃等を実費支給される関係で,目的地内巡回交通費を支給されないためと思われます(令和2年1月30日付の開示文書参照)。
(3) 日額旅費
ア 日額旅費(国家公務員等の旅費に関する法律26条1項)は,交通費(宿泊先から修習先までの分),宿泊料及び日当に代えて支給されるものです(国家公務員等の旅費に関する法律6条15項参照)。
   また,旅費業務に関する標準マニュアルVer.2-0(2016年12月の各府省等申合せ)16頁によれば,日額旅費には一般業務日額旅費及び研修日額旅費があるところ,司法修習生に対する日額旅費は研修日額旅費(国家公務員等の旅費に関する法律26条1項2号)です。
イ 司法修習生の場合,選択型実務修習(全国プログラム又は自己開拓プログラム)に参加する場合に支給されるものです。
ウ 司法修習生に対する日額旅費の金額は,旅館に宿泊する場合(旅館業法2条2項及び3項の旅館業の用に供する宿泊施設に宿泊する場合),1日当たり5910円であり,下宿その他これに準ずる宿泊施設に宿泊する場合(例えば,旅館業法の許可を受けていないウィークリーマンションや,カプセルホテル,寮,民泊等に宿泊する場合),1日当たり3260円であると思います(研修等の旅行の日額旅費について(平成31年3月15日付の最高裁判所経理局長の通達)参照)。
2 移転給付金
(1)ア 移転給付金は,裁判所法67条の2第5項に基づき,赴任に伴う居住所の移転が行われた場合に支給される旅費(いわゆる引越代)であり,距離区分等に応じた定額を支給されるものであって,国家公務員等に対する移転料(国家公務員等の旅費に関する法律6条9項及び36条)に相当するものです。
   実際,67期ないし70期の司法修習生に対しては,「移転料」という名前で引越代が支給されていました(「司法修習生に対する修習資金等の状況のあらまし」参照)。
イ 国家公務員の場合,着後手当(採用又は転任により居住地の移転が行われた場合に新居住地に到着後の諸雑費に充てるために支給される旅費)を支給される(国家公務員等の旅費に関する法律6条10項及び37条)のに対し,司法修習生の場合,着後手当に相当する手当を支給されません。
   そのため,新居住地に到着後の諸雑費については,基本給付金に対する必要経費として主張できるかもしれません。
(2)ア 司法修習生に対する移転給付金の金額は,国家公務員等の旅費に関する法律23条1項及び別表第二・2項に定める移転料(二級の職務)の半分(赴任の際に扶養親族を移転しない場合に関する同法23条1項2号参照)と同じ額を支給されるものです。
イ 移転給付金の具体的な金額は,移転距離に応じて以下のとおりです(司法修習生の修習給付金の給付に関する規則10条及び別表)。
鉄道          50km未満: 4万6500円
鉄道  50km以上 100km未満: 5万3500円
鉄道 100km以上 300km未満: 6万6000円
鉄道 300km以上 500km未満: 8万1500円
鉄道 500km以上1000km未満:10万8000円
鉄道1000km以上1500km未満:11万3500円
鉄道1500km以上2000km未満:12万1500円
鉄道        2000km以上:14万1000円

第4 旅費及び移転給付金について課税関係は発生しないこと
1 総論
(1)  「修習給付金案内」には,旅費(交通費,日当及び日額旅費),並びに移転給付金について確定申告が必要であるなどとは書いてありません。
   そのため,司法研修所としては,旅費(交通費,日当及び日額旅費),並びに移転給付金について課税関係は発生しないと考えていると思います。
(2) 公務のための旅行について旅費を支給する法律である国家公務員等の旅費に関する法律(同法1条参照)が,司法修習生が二級の職務に相当するとした上で,司法修習生に準用されています(内国旅行の旅費について(昭和61年9月12日付の最高裁判所事務総長依命通達)1(1)及び別表第1)。
   そのため,司法修習生としての採用は所得税法9条1項4号の「就職」に当たり,司法修習生としての司法修習は同号の「職務」に当たると思います。
(3)ア 交通費は,所得税基本通達9-3の「運賃」に該当すると思います。
イ 日当は,所得税基本通達9-3の「運賃等の支出」に該当すると思います。
ウ 研修日額旅費は,所得税基本通達9-3の「運賃,宿泊料等の支出」に該当すると思います。
エ 移転給付金は,国家公務員等に対する移転料と同趣旨で支給されるものですから,所得税基本通達9-3の「移転料」に該当すると思います。
(4) 司法修習生に対する旅費及び移転給付金は,その金額規模からすれば,所得税基本通達9-3「その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品」に該当すると思います(旅費につき令和元年11月25日付の理由説明書,移転給付金につき令和元年12月9日付の理由説明書参照)。
2 所得税法9条1項4号の条文
所得税法9条は柱書で「次に掲げる所得については、所得税を課さない。」と定めていますところ,同条1項4号は以下のとおりです。
 給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの
3 導入修習参加のための旅費及び移転給付金の取扱い
   導入修習参加のための旅費(交通費及び日当)並びに移転給付金は,「就職をした者が就職に伴う転居のための旅行をした場合」に支給されるお金ですし,所得税法9条1項4号の条文上,「給与所得を有する者」に支給したものに限定されているわけではありませんから,所得税法9条1項4号に基づき非課税所得であると思います。
4 導入修習参加のためのものを除く,旅費及び移転給付金の取扱い
(1) 旅費
   司法修習生は「給与所得を有する者」に該当しないとはいえ,司法修習生に対する交通費及び日当(導入修習参加のためのものを除く。)並びに日額旅費は,給与所得を有する他の裁判所職員と同じように,国家公務員等の旅費に関する法律等に準じて支給されるものです(「内国旅行の旅費について」(昭和61年9月12日付の最高裁判所事務総長の依命通達)参照)から,所得税法9条1項4号類推適用に基づき非課税所得になると思います。
(2) 移転給付金
   司法修習生は「給与所得を有する者」に該当しないとはいえ,司法修習生に対する移転給付金(導入修習参加のためのものを除く。)は,国家公務員等に対する移転料と同趣旨で支給されるものですから,所得税法9条1項4号類推適用に基づき非課税所得になると思います。
5 大阪国税局の見解
   司法修習生としての採用は就職ではないため,所得税法9条1項4号の適用はないものの,旅費及び移転給付金については,収入と経費が一致し,結果として課税対象とはならないとしています(「修習給付金の課税関係に関する大阪国税局の見解」参照)。

第5 関連記事
① 修習給付金に関する司法研修所の公式見解を前提とした場合の,修習給付金に関する取扱い
② 司法修習生の司法修習に関する事務便覧
③ 司法修習生の旅費に関する文書

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