修習給付金の課税関係に関する大阪国税局の見解

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◯修習給付金の課税関係に関する大阪国税局の見解を示すものとして,大阪国税局課税部個人課税課審査指導係が作成した,「R1.9.4司法修習生が受ける修習給付金に係る課税関係について」の本文は以下のとおりです(反対説については,「修習給付金の課税関係に関する審査請求の理由書」を参照してください。)。

【事案概要】
   当時司法修習生(現・弁護士)であった納税者は修習給付金の給付を受けており、これについて7万円程度の必要経費を控除し雑所得として確定申告書を提出した。その後、当該修
習給付金は学資金にあたり非課税である旨の内容を記載した「事情説明書」及び領収書等を添付した更正の請求書を通知弁護士に委任し提出した。また、「事情説明書」において予備
的主張として修習給付金は必要経費を伴う雑所得である旨主張している。更に、税務署からの求めに応じて「事情説明書(2)」(証拠書類の説明)及び「事情説明書(3)」(追加の証拠書類及び説明並びに旅費及び移転給付金は非課税である旨の追加主張)を追加提出している。
   なお、修習給付金について司法研修所事務局総務課・経理課が発行する「修習給付金案内」のp27において、「修習給付金のうち基本給付金及び住居給付金は、所得税法上の「雑所得」に該当するため、確定申告の対象となります。・・・必要経費として控除することができる経費はありません」と記載がある。
【問題点】
   納税者が主張する司法修習生が支給を受ける給付金が非課税となるか、又は、雑所得の計算上必要経費と認められるものはあるか。
【検討】
   修習給付金は支給目的から①移転給付金②住居給付金③基本給付金に分かれている。

1 修習給付金の非課税該当性について
(1) 移転給付金、旅費及び住居給付金について
ア 移転給付金について
   納税者は、旅費及び移転給付金は国家公務員等の旅費に関する法律(以下、国家公務員等旅費法という。) (同法1条参照)が、司法修習生が二級の職務に相当するとした上で、司法修習生に準用されていることから、司法修習生としての採用は所得税法9①四の就職にあたり、司法修習は同号の職務に当たると言え、所基通9-3に挙げられる運賃や移転料に該当するため非課税である旨主張する。
   これについて所得税法9①四は「給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは脂肪による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの」と定めている。
   これを本件についてみるに、移転給付金は給与でないことは明らかであるが、納税者の主張する国家公務員等旅費法に関する法律が、司法修習生が二級の職務に相当するとした上で司法修習生に準用されている事実はなく、高等長官、地方・家庭所長あて事務総長依命通達(改正平成26年経監第1524号)の「内国旅行の旅費について」において司法修習生が二級の職務に相当するとした記載があり、これにより当該旅費及び移転給付金は国家公務員等旅費法に準じて支給されているものであり、裁判所HPにおいても司法修習生は国家公務員に準じる立場である旨記載がある上、就職と言う字句が表すところは職業に就く、すなわち一般に生計を維持するために行う仕事に従事することを指すことから、司法修習生としての採用は就職と解することはできない。
   ところで、移転給付金は司法修習生がその修習に伴い住所又は居所を移転することが必要と認められる場合に支給するものであり、そうであれば当該給付金は、生活維持のためではなく、修習を受けるために移転費用の実費相当額が支給されるものと観念できることから収入と経費が一致し、結果として課税対象とはならないこととなる。
イ 旅費について
   司法修習について給与支払を受けていない修習生が支給を受ける当該旅費は所法9①四の「給与所得を有する者」に該当せず、転居のための旅行にも当たらないため非課税とはならない。ところで、当該納税者が支給を受ける旅費には交通費、日当、日額旅費等が含まれているのであるが、旅費業務に関する標準マニュアルVer.2-0 (各府省等申合せ2016年12月)において交通費は実際に支出した額、日当は目的地内を巡回するための交通費がおおむね半分を占め(内国旅行においては、鉄道賃等を実費支給し、目的地内巡回交通費相当分の交通費は支給しない)、もう半分は旅行中の昼食や官署への電話代を含み、日額旅費は交通費や日当に代えて長期間の研修、講習、訓練その他これらに類する目的のための旅行について財務大臣がこれを支給することを適当と認めて指定する旅費である旨規定されている。これについて旅費各内容を見るに、これらの支給は所得税法に定める利子所得ないし一時所得のいずれにも該当しない所得であると言えることから、全て雑所得の計算上総収入金額となり、これらに係る支出は実費相当額が支給されたものであると観念できるためその支出した旅費が必要経費となるのであるから結果として所得は発生しないこととなる。
ウ 住居給付金について
   住居給付金について当該納税者は受給していないため所得区分の判断は不要であるが、強いて判断を行うとすれば、毎月定額で支払われ、一時に支払われるものでなく、他の8種の所得のいずれにも該当せず、非課税規定のいずれにも当てはまらないため雑所得であると考えられ、住居費として支出される金額は所法45①一の家事費であり、雑所得の計算上必要経費に算入することはできない。
(2) 基本給付金について
ア 学資金としての性質を有するか
   納税者は、修習給付金について修習専念義務(裁判所法67②、司法修習生に関する規則2条)を負っている修習期間中の生活費及び教育費に充てるために国から支給される金員であって、非課税所得に該当する給付型奨学金と同じようなものといえるから、学資金としての性質を有するといえると主張する。
   しかし、学費の負担を前提としている奨学金と基本給付金(1(1)記載のとおり当該事案の基本給付金以外の課税関係の判断はこれ以上不要であるため、以下基本給付金について述べる。)はその性質が異なる。すなわち、裁判所法67条の2③「基本給付金の額は、司法修習生がその修習期間中の生活を維持するために必要な費用であって、その修習に専念しなければならないことその他の司法修習生の置かれている状況を勘案して最高裁判所が定める額とする。」とあるとおり、基本給付金は生活を維持するために必要な費用を給付する旨定めており、教育費に充てることを目的としている旨の規定はなく、所得税法9条①十五規定の「学資に充てるため給付される金品」にあたると解することはできない。
イ 職業訓練受講給付金が非課税所得であるにもかかわらず、修習給付金が非課税所得ではないのは憲法14条1項に違反するか
   職業訓練受講給付金は、雇用保険を受給できない求職者について職業訓練期間中の生活を支援するための給付で非課税とされている一方で、司法修習という職業訓練期間中の生活を支援するための給付である修習給付金が非課税でないのは平等原則を定めた憲法14条1項に違反するといえると納税者は主張する。
   しかし、職業訓練受講給付金は、失業が長期化するほど就業意欲の減退や職業能力の衰退が進行し、人材の質の劣化及び社会経済の生産性の低下につながることから、こうした状態に陥るのを防ぐために、できるだけ短い失業期間で再就職を可能にすることが雇用対策として不可欠であることから職業訓練を推進しているものであり、このような政策的背景のある職業訓練受講給付金と、修習期間中の生活を維持するための基本給付金ではその給付の趣旨が異なるものであるため、これらの課税上の取り扱いが異なることには合理性があり修習給付金が非課税所得とならないことが憲法14条1項に違反しているとはいえない。
ウ 修習給付金について公租公課禁止規定がないことだけを理由として非課税所得ではないと判断することはできないこと
   犯罪被害者に係る被害回復給付金については公租公課禁止規定がないにも関わらず非課税であるため、同様に修習給付金についても公租公課禁止規定がないことを理由として非課税所得ではないと判断することはできない旨納税者は主張するが、所得税施行令30条1項3号にあるとおり被害回復給付金は「心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金」にあたると考えられるため非課税規定が適用されるものであるのに対し、当該修習給付金は所得税法9条各号及び関連法令等のいずれにも当てはまらないため非課税とは考えられない。
(3) 修習専念資金について
   裁判所法67の3において最高裁判所は司法修習生の修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間無利息で修習専念資金を貸与するものとする定めがあるところ、所法36において経済的利益の価額を収入すべき旨定めており、経済的利益の計算に当たっては所基通36-15(3)にあるとおり通常の利率により計算した利息の額を求める必要がある。
   当該修習専念資金は無利息であることから通常の利率により計算した利息の額に相当する利益は、経済的利益として所得税の課税対象となると考えられる。また、所基通36-49において、使用者が役員又は使用人に対して行う貸付に係る利息相当額については他から借り入れて貸し付けたものである場合を除いて特例基準割合による利率により評価する旨定めているところ、逐条解説において特例基準割合を採用している理由として「①利子税の割合は税法上の基準金利と考えられ、客観性を有すること ②利子税の特例基準割合は現在の超低金利の状況を踏まえて設けられたものであること ③利子税の特例基準割合は、国民にとって最もわかりやすい基準割引率を基準とし、かつ、変動要素をもった利率であること」とある。また、改正税法のすべてによると特例基準割合は、「諸外国の延滞利子が期限内納付のしょうよう等のために市中貸出金利等に一定の割合を上乗せしたものとなっていることを参考としつつ、我が国においては、国民にとって最も明白で分かりやすい公定歩合を基準とし、公定歩合と市中貸出金利等との差及び諸外国で市中貸出金利等に上乗せしている割合を勘案し」としている。
   当該修習専念資金は使用者が役員又は使用人に対して行う貸付には当たらないものの、所基通36-49において特例基準割合を用いて経済的利益を評価する趣旨に照らすと、当該修習専念資金についても特例基準割合を用いて経済的利益を評価することが可能であると考えられる。
   なお、所基通36-28は使用者が役員又は使用人に対し金銭を無利息で貸付けたことに係るその年における利益の合計額が5,000円以下の場合は課税しなくて差し支えない旨規定しているが、当該貸付けは使用者が役員又は使用人に対してするものではないため本通達の適用はない。

2 修習給付金は必要経費を伴う雑所得であるか(予備的主張)
   所得税法37①において、「その年分の・・・雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする。」とあるとおり、雑所得の必要経費と認められるのは、当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年におけるこれらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額である。
   これを本件についてみるに、たとえ修習期間中に書籍購入代金、懇親会費や衣服購入費がかかったとしても、基本給付金は修習期間中の生活を維持するために必要な費用を賄うことを目的として司法修習生という立場であることのみを要件として支給されており、基本給付金の支給を受けるため、つまり、司法修習生という立場であるために当該書籍購入費等の費用を直接に要するとは認められないし、司法修習はこれらの所得を生ずべき業務であると解することはできず、当該書籍購入費等は所得税法45条①一の家事費にあたるものと解される。

* 「修習給付金の確定申告に関する記事の一覧」も参照してください。


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