第1 この記事の対象と結論
住居給付金は,司法修習生が自ら居住する住宅を自ら賃借し,その家賃を負担している場合に,1給付期間につき3万5000円を支給する制度である。
支給を受けるには,住居届(新規)及び賃貸借契約書等の証明書類を提出し,最高裁判所による要件の確認を受ける必要がある。
住居届(新規)は,要件具備日の翌日から起算して7日以内に提出するのが原則である。
期限に遅れた場合は,将来の全期間について受給資格を失うのではなく,原則として支給開始時期が後ろへずれる。
もっとも,司法研修所の寮,自ら又は父母等が所有する住宅,父母名義の賃貸借契約,複数の住宅の家賃が重なる場合には,単に家賃を支払っているだけでは結論を出せない。
本記事では,裁判所法,司法修習生の修習給付金の給付に関する規則及び第79期司法修習生向け修習給付金案内に基づき,これらの分岐を整理する。
第2 支給要件と1給付期間3万5000円
1 三つの支給要件
住居給付金の支給対象となるには,①司法修習生がその住宅に実際に居住し,生活の本拠としていること,②司法修習生が自らその住宅を賃借していること,③司法修習生が自ら家賃を支払っていることが必要である。
ホテル,マンスリーマンション等であっても直ちに対象外になるわけではないが,短期滞在場所にすぎず,生活の本拠と認められない場合は対象にならない。
無償で提供された住宅,司法修習生が自ら所有する住宅及び住宅ローンを返済している住宅は,「自ら居住するため住宅を借り受け,家賃を支払っている」という要件を満たさない。
水道光熱費,管理費その他の費用だけを負担していても,それ自体は家賃の負担にならない。
2 配偶者・父母等の住宅
配偶者,父母又は配偶者の父母が所有する住宅は,司法修習生がこれらの者に金銭を支払っていても,原則として住居給付金の対象外である。
これらの者が賃借し,かつ,居住している住宅も同様であり,事実上婚姻関係と同様の事情にある者も配偶者に含まれる。
したがって,「実家」が父母所有の住宅である場合だけでなく,父母が借りて父母自身も居住する住宅である場合も,対象外となる。
他方,父母が契約名義人であるものの父母は居住せず,司法修習生だけが生活の本拠としている場合は,後記第4の3のとおり,例外的な認定の余地がある。
3 支給額と日割計算
住居給付金の額は,実際の家賃額と同額を精算する仕組みではなく,1給付期間につき3万5000円である。
そのため,二つの賃貸借契約が重なって家賃負担が増えても,契約数に応じて住居給付金が加算されることはない。
給付期間の途中で支給要件を満たし,又は満たさなくなった場合は,規則所定の日割計算が行われる。
実務修習終了後に司法研修所での修習のため寮へ入る場合,自ら又は父母等の住宅に移る場合その他の所定の場合も,対象日数に応じた計算となる。
第3 住居届(新規)の7日期限
1 要件具備日
住居届(新規)の提出期限を計算する起点は,要件具備日である。
賃貸借契約の開始日と実際に住み始めた日が異なる場合は,原則として,家賃負担のある賃貸借期間が始まった日と,その住宅を生活の本拠として実際に居住し始めた日のうち遅い日が要件具備日となる。
フリーレント期間がある場合は,実際に居住していても家賃負担が始まる前は要件を満たさない。
採用前から要件を満たしている住宅については,司法修習生として採用された日が要件具備日となる。
2 電子届出と郵送
7日の期間は,要件具備日の翌日から起算し,初日は数えない。
7日目が裁判所の休日に当たる場合は,その翌日が期限となる。
電子届出では,期限までに送信が完了している必要がある。
郵送では消印日ではなく司法研修所への到着日が提出日となるため,配達状況を追跡できる方法を利用し,余裕をもって発送する必要がある。
3 契約書が届かない場合
住居届(新規)には,原則として,約款を含む賃貸借契約書の全頁の写しを添付する。
期限までに契約書を入手できない場合は,住居届(新規)だけを7日以内に提出し,契約書を入手した後,速やかに追完する取扱いが案内されている。
ただし,契約書の追完前に要件確認や支給処理が完了するわけではない。
また,契約書以外の書類の不足についても同じ取扱いになるとは限らないため,個別に司法研修所へ確認する必要がある。
4 期限後の届出と支給開始
期限内に住居届(新規)を提出した場合,原則として,要件具備日が属する給付期間の次の給付期間から支給され,要件具備日が給付期間の初日であるときは,その給付期間から支給される。
7日を過ぎて提出した場合は,原則として,住居届(新規)が受理された日が属する給付期間の次の給付期間から支給され,受理日が給付期間の初日であるときは,その給付期間から支給される。
したがって,「7日を過ぎると以後一切支給されない」と理解するのは正確ではないが,遅れた期間の支給は回復しないため,期限管理が重要である。
第79期案内の標準例では,6月12日に要件を具備し,6月20日に住居届(新規)が受理された場合,期限後の届出となり,7月19日から支給されると説明されている。
5 実務修習開始時の特例
実務修習開始日の前日までに住居給付金の要件を満たし,実務修習開始日から7日以内に住居届(新規)を提出した場合は,実務修習開始日を含む給付期間から支給される特例がある。
実務修習地で新たに住宅を借りる司法修習生は,通常の支給開始規定だけでなく,この特例の要件も確認する必要がある。
第4 寮,実家及び契約名義
1 司法研修所の寮
実務修習終了後に司法研修所での修習のため司法研修所の寮に入る期間は,実務修習地の住宅を解約せず,その家賃を払い続けていても,住居給付金の支給対象にならない。
住居給付金は実際の家賃負担をすべて補塡する制度ではなく,その時点で生活の本拠としている対象住宅について支給される制度だからである。
司法研修所の寮へ移るために実務修習地の対象住宅を離れ,寮を退去した後に同じ住宅へ戻る予定である場合,第79期案内では,例外的に住居届の提出は不要とされている。
ただし,寮に居住する期間について住居給付金が支給されるという意味ではない。
2 自宅・実家
司法修習生が所有する住宅へ移った場合は,自ら住宅を賃借して家賃を負担する要件を欠くため,住居給付金の対象外となる。
父母等が所有する実家又は父母等が借りて居住する実家へ移った場合も,同様に対象外である。
実務修習地の賃貸住宅を維持したまま,司法研修所での修習期間中に自宅又は実家で生活する場合,第79期案内は住居届(変更)の提出を求めている。
この期間は,実務修習地の家賃を負担し続けていても,住居給付金の支給対象にならない。
3 親名義契約の原則と例外
賃貸借契約の名義が父母である場合は,原則として,司法修習生が「自ら住宅を借り受けている」という要件を満たさない。
司法修習生が父母へ家賃相当額を渡しているだけでは,この要件を満たすことにはならない。
もっとも,第79期案内は,低収入等のため本人名義で契約できなかったなどのやむを得ない事情があり,契約名義人である父母がその住宅に居住しておらず,司法修習生が実質的に家賃を負担している場合には,例外的に支給対象となることがあると説明している。
この場合は,賃貸借契約書の全頁の写しに加え,申述書(住居給付金)及び通帳や領収証等の支払証明資料を提出し,個別の認定を受ける必要がある。
4 共同名義・ルームシェア
配偶者との共同名義契約では,司法修習生が世帯の生計を主として維持している場合など,事情によって支給対象となり得る。
夫婦の双方が司法修習生であり,双方が共同名義人である場合は,双方へ重ねて支給されるのではなく,いずれか一方だけが支給対象となる。
他方,友人だけが賃貸借契約の名義人であり,司法修習生が友人へ家賃の半額を渡すルームシェアは,原則として「自ら住宅を借り受けている」という要件を満たさない。
共同名義,転貸借その他の契約形態では,契約書面と実際の家賃負担の双方を提出前に確認する必要がある。
第5 二重家賃と住居給付金
1 旧住宅と新住宅の契約が重なる場合
「二重家賃」は,住居給付金の規則上の独立した支給区分ではない。
旧住宅の解約日より前に新住宅へ転居して契約期間が重なった場合,生活の本拠を新住宅へ移した後は,旧住宅の家賃を払い続けていても,旧住宅について自ら居住する要件を満たさない。
したがって,旧住宅と新住宅の両方について住居給付金が支給されたり,3万5000円が二重に支給されたりすることはない。
転居時には,契約期間の重なりだけでなく,実際にどの日から生活の本拠を移したかを確認し,住居届(変更)へ正確に記載する必要がある。
2 実務修習地の住宅と寮費等が重なる場合
実務修習地の住宅を維持したまま司法研修所の寮に入る場合も,二つの住居費を負担しているという理由だけで住居給付金が増額されることはない。
寮に居住する期間は,実務修習地の家賃を払い続けていても住居給付金の対象外であり,対象期間の始期又は終期に応じて日割計算が行われる。
この取扱いは,司法修習生が実際に負担する二重家賃の全部を補償する制度ではないことを意味する。
住居給付金の支給要件と,賃貸借契約上の解約予告期間や退去費用の問題は,分けて検討する必要がある。
3 二つの住宅を同時に使用する場合
二つの住宅を同時に使用しているだけでは,どちらが住居給付金の対象住宅であるかは決まらない。
滞在日数,日常生活の実態,実務修習地との関係その他の事情から,生活の本拠がどこにあるかを確認する必要がある。
第79期案内は,通常の転居例及び司法研修所の寮等との重複例を示しているが,生活の本拠が二つあるように見える全ての事例の判断基準までは公表していない。
判断に迷う場合は,契約締結又は届出の前に,具体的な利用状況を示して司法研修所へ確認するのが安全である。
第6 届出区分と提出前の確認
1 新規・変更・喪失
新たに住居給付金の要件を満たした場合は住居届(新規)を提出し,対象住宅,契約関係その他の届出事項が変わった場合は住居届(変更)を速やかに提出する。
対象住宅に居住しなくなり,他に支給対象となる住宅がない場合は,住居届(喪失)を速やかに提出する。
司法研修所の寮へ移る場合で,実務修習地の対象住宅を維持し,寮退去後に同じ住宅へ戻るときは,前記第4の1の例外を確認する必要がある。
これに対し,自宅又は実家へ移る場合は,実務修習地の対象住宅を維持していても,住居届(変更)が必要と案内されているため,両者を混同してはならない。
2 提出前チェック
提出前には,少なくとも次の事項を確認する必要がある。
① 対象住宅が実際の生活の本拠であるか。
② 司法修習生自身が賃貸借契約の当事者であるか。
③ 司法修習生自身が家賃を支払っているか。
④ 要件具備日が,実際の入居日と家賃負担開始日のうち遅い日になっているか。
⑤ 要件具備日の翌日から7日目の提出期限を計算したか。
⑥ 約款を含む賃貸借契約書の全頁を準備したか。
⑦ 新規,変更又は喪失の届出区分が合っているか。
⑧ 寮,自宅又は実家へ移る予定がある場合,その期間の届出方法を確認したか。
個別の認定や届出方法については,最高裁判所の修習給付金案内ページに掲載された司法研修所事務局人事課の問合せ先(048-235-8971)へ確認できる。
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住居給付金を含む制度全体の沿革と給費制・貸与制との違いについては,司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金(AIリライト)を参照されたい。
第79期の採用,導入修習,実務修習等の日程については,第79期司法修習の日程(AIリライト)を参照されたい。
修習地での住宅確保と集合修習中の二重家賃の具体例については,岡山修習の情報――第79期の日程,配属人数,住居,希望倍率と実務修習(AI作成)を参照されたい。
修習給付金の税務及び社会保険上の取扱いについては,修習給付金を受ける司法修習生の社会保険及び税務上の取扱い(AIリライト)を参照されたい。
第8 出典・参考資料
1 法令・最高裁判所規則
① 裁判所法(昭和22年法律第59号)第67条の2
② 裁判所の休日に関する法律(昭和63年法律第93号)第2条
③ 司法修習生の修習給付金の給付に関する規則(平成29年最高裁判所規則第3号)
2 最高裁判所・司法研修所の制度解説・運用資料
① 修習給付金について(最高裁判所ウェブサイトの制度案内)
② 第79期司法修習生向け修習給付金案内(司法研修所事務局,第79期向け運用案内。資料上6頁~9頁,12頁~14頁及び20頁~22頁)