平成29年11月に始まった修習給付金制の下では,司法修習生(71期以降)に支給されるのは給与ではなく,基本給付金,住居給付金及び移転給付金からなる修習給付金である。基本給付金は給付期間ごとに13万5000円であり,住居給付金は要件を満たす場合に給付期間ごとに3万5000円である。
修習給付金のうち基本給付金と住居給付金は雑所得に当たり,確定申告の対象となるが,給与のような源泉徴収は行われない。したがって,振込額から所得税等を差し引いた「手取り」が定められているわけではなく,所得税・住民税,健康保険料及び国民年金保険料は別途負担することになる。移転給付金は所得税の課税対象外である。
この記事は,司法修習生本人とその家族に向けて,修習給付金の支給額と「手取り」の考え方,健康保険・年金・税金・扶養判定を,法令及び所管機関の公表資料に基づいて整理する(令和8年8月29日時点)。
第1 修習給付金と司法修習生の位置づけ
1 給費制から貸与制を経て修習給付金制へ
司法修習生の経済的な処遇は,これまで3つの時期に分かれます。
昭和22年に給費制が導入され,司法修習生には修習期間中,国庫から給与が支給されていました。
しかし,司法制度改革に伴う財政事情などから,給費制は平成23年10月末に廃止され,同年11月からは修習資金を貸与する貸与制に切り替わりました。
その後,平成29年11月に修習給付金制が導入され,71期以降の司法修習生には,修習のため通常必要な期間,修習給付金が支給されることになりました(裁判所法67条の2第1項)。
給費も修習給付金も受けられなかった世代は「谷間世代」と呼ばれます。
日本弁護士連合会の照会資料によれば,谷間世代の会員は約9,800人に上ります。
2 修習給付金の3種類と金額
修習給付金は,基本給付金,住居給付金及び移転給付金の3種類です(裁判所法67条の2第2項)。
金額は最高裁判所が規則で定めており,令和8年7月時点では次のとおりです。
| 種類 | 根拠 | 内容・金額 | 所得税の扱い |
|---|---|---|---|
| 基本給付金 | 裁判所法67条の2第3項 | 修習期間中の生活費として月額13万5000円 | 雑所得(確定申告の対象・源泉徴収なし) |
| 住居給付金 | 裁判所法67条の2第4項 | 自ら家賃を負担して住宅を借りている場合に月額3万5000円 | 雑所得(確定申告の対象・源泉徴収なし) |
| 移転給付金 | 裁判所法67条の2第5項 | 修習に伴う転居について,路程に応じた額 | 課税されない |
基本給付金は,原則として給付期間ごとに13万5000円が支給される(第13回等には日割りがある)のに対し,住居給付金は自分で家賃を負担している場合に限られ,移転給付金は転居が必要と認められる場合に支給されます。
金額の詳しい根拠は,別稿「月額13万5000円の基本給付金の根拠」で扱っています。
第79期の「修習給付金案内」3頁(PDF7頁)の支給日等一覧表(予定)では,令和8年中の支給予定は,基本給付金が4月15日から12月15日までの9回,住居給付金が5月15日から12月15日までの8回である。各回が満額で支給される場合,基本給付金は121万5000円,住居給付金は28万円となる。住居給付金は支給要件を満たす期間によって金額が異なるため,家賃を支払っていれば必ずこの総額になるわけではない。
上記は予定表から計算した入金予定額である。税務上その年分に算入する収入金額は,原則としてその年に「収入すべき金額」によるため,入金日だけで年分を決めない(所得税法36条1項)。個別の支払通知書等は発行されないため,金額を確認する資料として,同案内の支給日等一覧表と預貯金通帳等を保存しておくとよい。
第2 健康保険——裁判所共済組合には加入できない
司法修習生は,裁判所共済組合には加入できないが,健康保険の切替が必要かどうかは,修習開始前の加入状況及び任意継続の可否によって異なる。
以下では,裁判所共済組合,被扶養者認定及び国民健康保険の手続を順に説明する。
1 裁判所共済組合に加入できない理由
給費制の時代には,司法修習生は国から給与を受ける身分だったため裁判所共済組合に加入していました。
しかし,国家公務員共済組合の組合員となる「職員」は,「常時勤務に服することを要する国家公務員」を前提としています(国家公務員共済組合法2条1項1号)。
司法修習生は,そもそも国家公務員ではなく,国から給与を受ける立場でもないため,この「職員」に当たりません。
したがって,裁判所共済組合には加入できません。
2 家族の健康保険の被扶養者になることは通常難しい
親などの家族が協会けんぽや健康保険組合に加入している場合,その被扶養者になれれば保険料の負担なく健康保険を使えます。
もっとも,健康保険の被扶養者は「主としてその被保険者により生計を維持するもの」であることが必要です(健康保険法3条7項)。
協会けんぽの実務では,被扶養者と認められる収入の目安は原則として年間130万円未満であり,19歳以上23歳未満の者については,配偶者を除き年間150万円未満である。
基本給付金だけでも月額13万5000円,年額に直すと162万円となり,この目安を上回るため,司法修習生は通常,家族の健康保険の被扶養者とは認定されない。ただし,被扶養者資格を認定するのは加入先の保険者であるため,資格を失う日及び必要な手続は,家族の勤務先又は保険者に確認する必要がある。
3 国民健康保険への加入手続
修習開始前から国民健康保険の被保険者であった者は,原則としてその資格を継続する。勤務先の健康保険等の資格を失った者又は家族の健康保険の被扶養者でなくなった者は,他の医療保険に加入しない場合,住所地の市区町村の国民健康保険の被保険者となる。任意継続の要件を満たす場合は,第5のとおり,任意継続と国民健康保険を比較することになる。
それまで家族の被扶養者だった場合は,被保険者である家族が勤務先を通じて被扶養者(異動)届を提出する。被扶養者でなくなる日及び資格喪失を証する書類は,加入先の保険者に確認する必要がある。
国民健康保険の被保険者となった場合は,原則として14日以内に,住所地の市区町村へ関係書類を提出する必要がある。
提出書類及び申請方法は市区町村によって異なるため,資格喪失を証する書類の名称を含め,住所地の市区町村へ事前に確認するのが確実である。
被扶養者の異動手続や資格喪失を証する書類の請求方法は,日本年金機構と協会けんぽの案内ページで確認できます(本文末尾の出典欄を参照)。
第3 年金——国民年金の第1号被保険者になる
修習開始前から国民年金の第1号被保険者であった者は,引き続き第1号被保険者となる。勤務先の厚生年金に加入していた第2号被保険者又は第2号被保険者に扶養されていた第3号被保険者は,原則として第1号被保険者への変更手続が必要となる(国民年金法7条1項1号)。
20歳以上60歳未満の第1号被保険者は,自分で国民年金保険料を納付する。退職により第2号被保険者から第1号被保険者になる場合の届出期限は,原則として退職日の翌日から14日以内である。
保険料の納付が難しい場合の免除・納付猶予については,第6で扱う。
第4 修習給付金の税務上の取扱い
1 基本給付金・住居給付金は雑所得
司法研修所の「修習給付金案内(第79期)」によれば,基本給付金及び住居給付金は,所得税法上の雑所得として確定申告の対象となる。
修習給付金は給与ではないため,所得税の源泉徴収は行われない。このため,確定申告によって納付すべき所得税が生じる場合は,司法修習生が自ら納付することになる。
ただし,確定申告書を提出する義務があるかどうかは,その年の修習給付金以外の所得,所得控除その他の事情を含めて判定される。
令和8年分の所得税について,合計所得金額が489万円以下の居住者の基礎控除は104万円となる。これは令和8年12月1日施行の改正によるものであり,令和8年分から適用される(所得税法86条1項1号,租税特別措置法41条の16の2第1項1号イ。国税庁「源泉所得税の改正のあらまし」〔令和8年4月〕1頁〔PDF1頁〕参照)。雑所得である修習給付金から給与所得控除を差し引くことはできない。
以下は,令和8年分の雑所得が①162万円又は②204万円で,ほかの所得がなく,同年中に本人が支払った国保・国民年金等の社会保険料が30万円である居住者の試算である。基礎控除・社会保険料控除以外の所得控除,税額控除,源泉徴収及び予定納税はないものとする。社会保険料30万円は計算用の仮定であり,一般的な保険料額を示すものではない。
① 基本給付金12給付期間分に相当する162万円の場合,課税所得は162万円-104万円-30万円=28万円である。所得税1万4000円と復興特別所得税294円を合算し,100円未満を切り捨てた納付額は1万4200円となる。社会保険料とこの税額を差し引いた残額は130万5800円である。
② 基本給付金と住居給付金の各12給付期間分に相当する204万円の場合,課税所得は204万円-104万円-30万円=70万円である。所得税3万5000円と復興特別所得税735円を合算し,100円未満を切り捨てた納付額は3万5700円となる。社会保険料とこの税額を差し引いた残額は170万4300円である。
この2例は計算方法を示すための仮定であり,第79期の令和8年中の入金予定額を示したものではない。また,残額は住民税と生活費を差し引く前の金額である。実際の健康保険料は第5の3により確認し,年金の免除・納付猶予については第6の1を参照されたい。社会保険料を家族が支払った場合,その額を当然に本人の社会保険料控除へ算入することはできない(所得税法74条1項)。
2 移転給付金は課税されない
移転給付金は,修習に伴う転居のための旅費に相当するものとして,所得税の課税対象とはならず,確定申告に含める必要はありません。
このため,確定申告で申告するのは,基本給付金と住居給付金の合計額が中心になります。
3 必要経費として差し引けるか
司法研修所の同案内は,基本給付金及び住居給付金について,必要経費として控除できる経費はないと案内している。
必要経費の考え方を掘り下げた検討として,別稿「修習給付金は必要経費を伴う雑所得であると仮定した場合の取扱い」があります。
4 住民税と確定申告
基本給付金及び住居給付金は,住民税の課税対象にもなる。住民税の所得割は前年の所得を基礎とするため,令和8年中の所得は原則として令和9年度の住民税に反映される。所得税の基礎控除104万円を住民税の計算にそのまま用いることはできない。住民税額及び住民税申告の要否は,住所地の市区町村に確認する必要がある。
また,税法上,配偶者控除又は扶養控除の対象とされていた司法修習生は,修習給付金の支給を受けることにより,通常はこれらの控除の対象から外れる。家族の勤務先に扶養控除等申告書を提出している場合は,異動の申告が必要となることがある。
健康保険の被扶養者認定と,所得税の配偶者控除・扶養控除の判定は別の制度であり,判定基準及び手続も異なる。
第5 会社を退職して修習生になる場合の健康保険の選び方
1 退職後の3つの選択肢
会社員として健康保険に加入していた人が退職して修習生になる場合,退職後の健康保険には,一般に次の3つの選択肢があります。
- ① これまでの健康保険を任意継続する。
- ② 市区町村の国民健康保険に加入する。
- ③ 家族の健康保険の被扶養者になる。
基本給付金を12給付期間分受ける場合の年額は162万円であり,健康保険の被扶養者に関する一般的な収入要件を上回るため,通常は③の被扶養者とは認定されない。ただし,最終的な認定は加入先の保険者が行う。
このため,多くの場合は,任意継続の加入要件を満たすときは①任意継続と②国民健康保険を比較し,任意継続を選ばないときは国民健康保険へ加入することになる。
2 任意継続の手続
これまでの健康保険を任意継続したい場合は,退職日の翌日から20日以内に手続をする必要があります。
協会けんぽであれば,退職日を確認できる書類(離職票など)と任意継続被保険者資格取得申出書を,協会けんぽの支部に提出します。
20日という期限は短いため,退職前から準備しておくとよいです。
3 国民健康保険と任意継続の保険料の比較
どちらが有利かは,保険料の額によって変わります。
国民健康保険料は世帯単位で賦課され,市区町村ごとの料率,前年所得,国民健康保険の被保険者数等によって異なる。
これに対し,任意継続の保険料は退職時の標準報酬月額等を基礎として算定され,被扶養者の人数による追加保険料はない。このため,扶養家族がいる場合に任意継続が安くなることはあるが,常に任意継続が有利とは限らない。
実際の金額は,住所地の市区町村と退職前の保険者からそれぞれ保険料額を確認し,同じ加入期間を前提として比較するのが確実である。
第6 修習後を見据えた年金の論点
1 国民年金保険料の免除・納付猶予
第1号被保険者として国民年金保険料を納めることになりますが,収入が少ないうちは,保険料の免除や納付猶予の制度を利用できる場合があります。
司法修習生に即した免除・納付猶予の考え方は,別稿「司法修習生と国民年金保険料の免除制度及び納付猶予制度」で扱っています。
なお,これまでの年金加入履歴は,年金事務所で発行される被保険者記録照会回答票で確認できます。
2 日本弁護士国民年金基金
二回試験に合格して弁護士登録をすると,弁護士会の新人研修などの機会に,日本弁護士国民年金基金への加入を勧められることがあります。
これは弁護士など国民年金の第1号被保険者向けの任意加入の年金制度です。
予定利率は加入した時期によって異なり,平成7年3月31日までに加入した場合は現在でも5.5パーセント,平成26年4月1日以降に加入した場合は1.5パーセントで,令和8年7月時点でも新規加入の予定利率は1.5パーセントです。
いったん加入すると,掛金の口数を減らす減口はできますが,1口目(終身年金)を任意に解約することはできません。
加入者の内訳などの詳しいデータは,別稿「日本弁護士国民年金基金」で整理しています。
第7 関連記事
修習給付金の税務上の取扱いは,制度の導入時には国税庁との協議事項とされていました。
その後の整理を含め,前提の置き方ごとの検討を,次の記事で扱っています。
- ① 修習給付金に関する司法研修所の公式見解を前提とした場合の取扱い
- ② 修習給付金は非課税所得であると仮定した場合の取扱い
- ③ 修習給付金は必要経費を伴う雑所得であると仮定した場合の取扱い
- ④ 司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金に関する記事の一覧
- ⑤ 司法修習生の住居給付金――支給要件,7日以内の住居届,寮・実家・親名義及び二重家賃(AI作成)
- ⑥ 「司法試験合格後から司法修習開始まで―採用申込み,実務修習地,住居・社会保険及び就職活動の期限」
- ⑦ 司法修習生の欠席・休暇・修習停止―病気,妊娠・出産,忌引,就職活動及び修習給付金への影響(AI作成)
申込書の職業欄の書き方と,身分を示す資料・収入資料の区別は,司法修習生の職業欄・身分証明書で整理している。
出典
1 法令
- 裁判所法(昭和22年法律第59号)67条の2 e-Gov法令検索
- 国家公務員共済組合法(昭和33年法律第128号)2条1項1号 e-Gov法令検索
- 健康保険法(大正11年法律第70号)3条7項 e-Gov法令検索
- 健康保険法施行規則(大正15年内務省令第36号)50条 e-Gov法令検索
- 国民年金法(昭和34年法律第141号)7条1項1号 e-Gov法令検索
- 所得税法(昭和40年法律第33号)9条1項15号,28条2項,35条,36条1項,74条1項,86条1項1号及び89条1項 e-Gov法令検索
- 租税特別措置法(昭和32年法律第26号)41条の16の2第1項1号イ e-Gov法令検索(令和8年12月1日施行版)(所得税法86条の改正と併せて令和8年分に適用)
- 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法(平成23年法律第117号)13条及び24条2項 e-Gov法令検索
- 地方税法(昭和25年法律第226号)313条1項,314条の2第2項1号及び318条 e-Gov法令検索
2 公文書・公的資料
- 最高裁判所「司法修習生の修習給付金について」(基本給付金・住居給付金・移転給付金の内容と金額)
- 司法研修所「修習給付金案内(第79期)」(資料上2頁~3頁〔PDF6頁~7頁〕及び18頁~19頁〔PDF22頁~23頁〕。支給額・日割り・支給予定日,修習給付金の税務,健康保険,国民年金,税法上の扶養及び支払通知書等の取扱い)
- 法務省大臣官房司法法制部「裁判所法の一部を改正する法律案【説明資料】」(平成29年1月付)
3 ウェブ資料(社会保険の手続)
- 日本年金機構「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき,被扶養者に異動があったときの手続き」
- 日本年金機構「国民健康保険等へ切り替えるときの手続き」
- 協会けんぽ「被扶養者資格の再確認について」
- 砺波市「健康保険・厚生年金保険被保険者資格等取得(喪失)連絡票について」
- 協会けんぽ「退職後の健康保険について」
- 協会けんぽ「任意継続の加入手続きについて」
- 協会けんぽ「任意継続被保険者資格取得申出書」
- 「国保と任意継続の保険料をシミュレーション」(保険料の試算の参考)
- 厚生労働省「国民健康保険の加入・脱退について」(国民健康保険の加入資格及び14日以内の届出)
- 厚生労働省「19歳以上23歳未満の被扶養者に係る認定について」(令和7年7月4日付け保発0704第1号・年管発0704第1号)
- 厚生労働省「国民健康保険条例準則について」(国民健康保険料の賦課方法)
4 ウェブ資料(年金)
- 日本弁護士国民年金基金(予定利率・加入要件)
- リーガレット「被保険者記録照会回答票の申請方法」(年金加入履歴の確認方法の参考)
- 日本年金機構「会社を退職し,第2号被保険者から種別変更する場合の届出」(第1号被保険者への変更手続及び届出期限)
5 ウェブ資料(税務)
- 国税庁「確定申告が必要な方」(所得税の確定申告が必要となる条件)
- 国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」(基礎控除及び扶養親族等の所得要件。原則として令和8年12月1日施行,令和8年分から適用)