平成29年11月に始まった修習給付金制の下では,司法修習生(71期以降)は,修習期間中,健康保険は市区町村の国民健康保険に加入し,年金は国民年金の第1号被保険者になります。
修習給付金のうち基本給付金と住居給付金は雑所得に当たり確定申告が必要で,移転給付金は課税されません。
この記事は,司法修習生本人とその家族に向けて,加入することになる社会保険とその手続,修習給付金の課税関係,会社を退職して修習生になる場合の健康保険の選び方を,法令と公的資料に基づいて整理します(令和8年7月時点の制度によります。)。
第1 修習給付金と司法修習生の位置づけ
1 給費制から貸与制を経て修習給付金制へ
司法修習生の経済的な処遇は,これまで3つの時期に分かれます。
昭和22年に給費制が導入され,司法修習生には修習期間中,国庫から給与が支給されていました。
しかし,司法制度改革に伴う財政事情などから,給費制は平成23年10月末に廃止され,同年11月からは修習資金を貸与する貸与制に切り替わりました。
その後,平成29年11月に修習給付金制が導入され,71期以降の司法修習生には,修習のため通常必要な期間,修習給付金が支給されることになりました(裁判所法67条の2第1項)。
給費も修習給付金も受けられなかった世代は「谷間世代」と呼ばれます。
日本弁護士連合会の照会資料によれば,谷間世代の会員は約9,800人に上ります。
2 修習給付金の3種類と金額
修習給付金は,基本給付金,住居給付金及び移転給付金の3種類です(裁判所法67条の2第2項)。
金額は最高裁判所が規則で定めており,令和8年7月時点では次のとおりです。
| 種類 | 根拠 | 内容・金額 | 所得税の扱い |
|---|---|---|---|
| 基本給付金 | 裁判所法67条の2第3項 | 修習期間中の生活費として月額13万5000円 | 雑所得(申告必要) |
| 住居給付金 | 裁判所法67条の2第4項 | 自ら家賃を負担して住宅を借りている場合に月額3万5000円 | 雑所得(申告必要) |
| 移転給付金 | 裁判所法67条の2第5項 | 修習に伴う転居について,路程に応じた額 | 課税されない |
基本給付金は,一律に支給されるのに対し,住居給付金は自分で家賃を負担している場合に限られ,移転給付金は転居が必要と認められる場合に支給されます。
金額の詳しい根拠は,別稿「月額13万5000円の基本給付金の根拠」で扱っています。
第2 健康保険——国民健康保険に加入する
司法修習生は,勤め人向けの被用者保険(協会けんぽや共済組合)に入ることも,家族の被扶養者になることもできないため,結局,市区町村の国民健康保険に自分で加入することになります。
以下では,その理由と手続を順に説明します。
1 裁判所共済組合に加入できない理由
給費制の時代には,司法修習生は国から給与を受ける身分だったため裁判所共済組合に加入していました。
しかし,国家公務員共済組合の組合員となる「職員」は,「常時勤務に服することを要する国家公務員」を前提としています(国家公務員共済組合法2条1項1号)。
司法修習生は,そもそも国家公務員ではなく,国から給与を受ける立場でもないため,この「職員」に当たりません。
したがって,裁判所共済組合には加入できません。
2 家族の被扶養者にもなれない理由
親などの家族が協会けんぽや健康保険組合に加入している場合,その被扶養者になれれば保険料の負担なく健康保険を使えます。
もっとも,健康保険の被扶養者は「主としてその被保険者により生計を維持するもの」であることが必要です(健康保険法3条7項)。
協会けんぽの実務では,被扶養者と認められる収入の目安は原則として年間130万円未満とされています。
基本給付金だけでも月額13万5000円,年額に直すと162万円となり,この目安を上回るため,司法修習生は家族の被扶養者になることはできません。
3 国民健康保険への加入手続
共済組合にも被扶養者にもなれない結果,司法修習生は住所地の市区町村で国民健康保険に加入します。
それまで家族の被扶養者だった場合は,まず家族(会社員である親など)が勤務先を通じて被扶養者から外す届(被扶養者(異動)届)を提出する必要があります。
届出をしないままだと,協会けんぽが毎年行う被扶養者資格の再確認(健康保険法施行規則50条)の際に,被扶養者でなくなっていたことを指摘されることになります。
国民健康保険への加入には,健康保険の資格を失った日などを証する書類が必要です。
通常は,勤務先が発行する「健康保険・厚生年金保険被保険者資格等取得(喪失)連絡票」を市区町村の窓口に提出すれば加入できます。
勤務先から書類が得られないときは,年金事務所に「健康保険・厚生年金保険資格取得・資格喪失等確認通知書」の交付を請求する方法もあります。
被扶養者の異動手続や資格喪失を証する書類の請求方法は,日本年金機構と協会けんぽの案内ページで確認できます(本文末尾の出典欄を参照)。
第3 年金——国民年金の第1号被保険者になる
健康保険と同じ整理により,司法修習生は年金についても被用者年金(厚生年金)に入らないため,国民年金の第1号被保険者になります(国民年金法7条1項1号)。
第2号被保険者(厚生年金の加入者)でも,第3号被保険者(第2号に扶養される配偶者)でもないため,20歳以上60歳未満の間は第1号被保険者として,自分で国民年金保険料を納めることになります。
保険料の納付が難しい場合の免除・納付猶予については,第6で触れます。
第4 修習給付金の税務上の取扱い
1 基本給付金・住居給付金は雑所得
修習給付金は,貸与金と異なり返済が予定されていないため,所得税法上の「所得」に当たります。
非課税とされる「学資に充てるため給付される金品」(所得税法9条1項15号)とすることも考えられましたが,その金額規模などから,非課税の学資金には当たらないものとして扱われています。
また,給与所得は,雇用契約またはこれに類する関係に基づき,使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として受ける給付をいうところ,修習給付金は労務の対価ではなく,司法修習生の身分を雇用契約類似のものと整理することも難しいため,給与所得にも当たりません。
以上から,基本給付金と住居給付金は雑所得として扱われ,これらの収入については確定申告が必要になります。
2 移転給付金は課税されない
移転給付金は,修習に伴う転居のための旅費に相当するものとして,所得税の課税対象とはならず,確定申告に含める必要はありません。
このため,確定申告で申告するのは,基本給付金と住居給付金の合計額が中心になります。
3 必要経費として差し引けるか
雑所得では,収入を得るために直接要した費用を必要経費として差し引くのが原則です。
もっとも,司法修習は無償で提供され,修習給付金はこれと独立して一律に支給されるものであるため,修習のための交通費などを必要経費として差し引くことは,一般に難しいと考えられます。
必要経費の考え方を掘り下げた検討として,別稿「修習給付金は必要経費を伴う雑所得であると仮定した場合の取扱い」があります。
4 住民税と確定申告
雑所得に当たる以上,住民税も課税されます。
修習給付金の金額規模からすると,住民税が非課税となる要件を満たさないのが通常です。
したがって,司法修習生は,基本給付金と住居給付金を雑所得として確定申告し,あわせて住民税も負担することになります。
給費制の時代の給与所得者と,修習給付金制の下の司法修習生とでは,社会保険や税務の扱いが大きく異なります。この違いを一覧にした投稿を掲げます。
フルタイムの労働者:最低賃金以上,社会保険あり,有給あり,産休・育休あり,休職あり,給与所得控除ありの給与所得で確定申告不要
71期以降の修習生:最低賃金割れ,国保への加入強制,有給なし,産休はないので妊娠すると依願罷免で1年遅れに,休職なし,必要経費なしの雑所得で確定申告必要
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) January 3, 2019
第5 会社を退職して修習生になる場合の健康保険の選び方
1 3つの選択肢と修習生に残る2つ
会社員として健康保険に加入していた人が退職して修習生になる場合,退職後の健康保険には,一般に次の3つの選択肢があります。
- ① これまでの健康保険を任意継続する。
- ② 市区町村の国民健康保険に加入する。
- ③ 家族の健康保険の被扶養者になる。
もっとも,第2で述べたとおり,司法修習生は修習給付金を受けるため③の被扶養者にはなれません。
したがって,実際には①任意継続と②国民健康保険の2つから選ぶことになります。
2 任意継続の手続
これまでの健康保険を任意継続したい場合は,退職日の翌日から20日以内に手続をする必要があります。
協会けんぽであれば,退職日を確認できる書類(離職票など)と任意継続被保険者資格取得申出書を,協会けんぽの支部に提出します。
20日という期限は短いため,退職前から準備しておくとよいです。
3 国民健康保険と任意継続の保険料の比較
どちらが有利かは,保険料の額によって変わります。
国民健康保険の保険料は市区町村によって異なりますが,加入者一人ひとりに保険料がかかる仕組みです。
これに対し,任意継続では被扶養者の分に保険料がかからないため,配偶者や子どもといった扶養家族がいる場合は,任意継続の方が保険料が安くなることが多いです。
実際の金額は,住所地の国民健康保険料と,退職時の標準報酬月額に基づく任意継続の保険料とを試算して比べるのが確実です。
第6 修習後を見据えた年金の論点
1 国民年金保険料の免除・納付猶予
第1号被保険者として国民年金保険料を納めることになりますが,収入が少ないうちは,保険料の免除や納付猶予の制度を利用できる場合があります。
司法修習生に即した免除・納付猶予の考え方は,別稿「司法修習生と国民年金保険料の免除制度及び納付猶予制度」で扱っています。
なお,これまでの年金加入履歴は,年金事務所で発行される被保険者記録照会回答票で確認できます。
2 日本弁護士国民年金基金
二回試験に合格して弁護士登録をすると,弁護士会の新人研修などの機会に,日本弁護士国民年金基金への加入を勧められることがあります。
これは弁護士など国民年金の第1号被保険者向けの任意加入の年金制度です。
予定利率は加入した時期によって異なり,平成7年3月31日までに加入した場合は現在でも5.5パーセント,平成26年4月1日以降に加入した場合は1.5パーセントで,令和8年7月時点でも新規加入の予定利率は1.5パーセントです。
いったん加入すると,掛金の口数を減らす減口はできますが,1口目(終身年金)を任意に解約することはできません。
加入者の内訳などの詳しいデータは,別稿「日本弁護士国民年金基金」で整理しています。
第7 関連記事
修習給付金の税務上の取扱いは,制度の導入時には国税庁との協議事項とされていました。
その後の整理を含め,前提の置き方ごとの検討を,次の記事で扱っています。
- ① 修習給付金に関する司法研修所の公式見解を前提とした場合の取扱い
- ② 修習給付金は非課税所得であると仮定した場合の取扱い
- ③ 修習給付金は必要経費を伴う雑所得であると仮定した場合の取扱い
- ④ 司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金に関する記事の一覧
出典
1 法令
- 裁判所法(昭和22年法律第59号)67条の2 e-Gov法令検索
- 国家公務員共済組合法(昭和33年法律第128号)2条1項1号 e-Gov法令検索
- 健康保険法(大正11年法律第70号)3条7項 e-Gov法令検索
- 健康保険法施行規則(大正15年内務省令第36号)50条 e-Gov法令検索
- 国民年金法(昭和34年法律第141号)7条1項1号 e-Gov法令検索
- 所得税法(昭和40年法律第33号)9条1項15号 e-Gov法令検索
2 公文書・公的資料
- 最高裁判所「司法修習生の修習給付金について」(基本給付金・住居給付金・移転給付金の内容と金額)
- 司法研修所「修習給付金案内」(修習給付金の社会保険及び所得税等の取扱い)
- 法務省大臣官房司法法制部「裁判所法の一部を改正する法律案【説明資料】」(平成29年1月付)
3 ウェブ資料(社会保険の手続)
- 日本年金機構「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき,被扶養者に異動があったときの手続き」
- 日本年金機構「国民健康保険等へ切り替えるときの手続き」
- 協会けんぽ「被扶養者資格の再確認について」
- 砺波市「健康保険・厚生年金保険被保険者資格等取得(喪失)連絡票について」
- 協会けんぽ「退職後の健康保険について」
- 協会けんぽ「任意継続の加入手続きについて」
- 協会けんぽ「任意継続被保険者資格取得申出書」
- 「国保と任意継続の保険料をシミュレーション」(保険料の試算の参考)
4 ウェブ資料(年金)
- 日本弁護士国民年金基金(予定利率・加入要件)
- リーガレット「被保険者記録照会回答票の申請方法」(年金加入履歴の確認方法の参考)