修習給付金を受ける司法修習生の社会保険及び税務上の取扱い


目次
第1 法務省の公式説明
第2 国民健康保険への加入
第3 健康保険の任意継続
第4 関連記事その他

第1 法務省の公式説明
・ 「裁判所法の一部を改正する法律案【説明資料】」(平成29年1月付の,法務省大臣官房司法法制部の文書)の「修習給付金を受ける司法修習生の社会保険及び税務上の取扱いについて」には以下の記載がありますところ,修習給付金案内27頁及び28頁の「所得税等の取扱い」にも同趣旨の記載があります。

1 社会保険の取扱い
(1) 健康保険
〇 国民健康保険に加入することになる(現行貸与制下の司法修習生と同じ。)。
〇 なお,給費制下の司法修習生と同様に裁判所共済組合に加入できないかが問題となるが,国家公務員共済組合法(昭和33年法律第128号)第2条第1項第1号は,国家公務員共済組合の組合員たる「職員」の範囲として,「常時勤務に服することを要する国家公務員」(「政令で定める者」,具体的には,同法施行令(昭和33年政令第207号)第2条第2項第4号所定の「国…から給与を受けない者」等を除く。)であることを前提としている。司法修習生は,国家公務員でない上,国から給与を受けない者であるため,同法第2条第1項第1号所定の「職員」には該当しない。
〇 親族が健康保険に加入している場合,その被扶養者として健康保険の「被保険者」(健康保険法(大正11年法律第70号))第3条第1項)とならないかが問題となるが,修習給付金の支給を受けた場合,「主としてその被保険者により生計を維持するもの」(同条第7項)とはいい難いことから,健康保険の被保険者には該当しない。
(2) 年金
〇 健康保険と同様の整理により,国民年金の第一号被保険者(国民年金法(昭和34年法律第141号)第7条第1項第1号)に当たることになる(現行貸与制下の司法修習生と同じ。)。
2 税務上の取扱い
(1) 所得税の課税の有無
〇 修習給付金は,貸与金と異なり返済が予定されていない以上,所得税法上の「所得」に該当する。
〇 なお,修習給付金が非課税所得である「学資に充てるため給付される金品」(所得税法(昭和40年法律第33号)第9条第15号)に該当しないかが問題となり,この点は,国税庁担当者と協議中である(なお,これまでの法務省と国税庁の担当者協議では,修習給付金の金額規模等から,同号に該当する金品と直ちに解するには難しい面があるのではないかという指摘があった。)。
(2) 所得の性格
〇 仮に,非課税所得に該当しない場合,その性格(雑所得か給与所得か)が問題となる。この点も,国税庁担当者と協議することになる(これまでの法務省と国税庁の担当者協議では回答は得られていない。)が,修習給付金は,基本的に雑所得に当たるのではないかと考えられる。すなわち,「給与所得」とは,雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいうところ,修習給付金は,労務提供の対価ではなく(給与とは明らかに性質の異なるものと整理されている。),司法修習生の任用関係を雇用契約類似と整理することも容易ではないからである。
〇 修習給付金について,雑所得となれば,その収入については確定申告を要することになる。
(3) 住民税の課税の有無
〇 住民税も課税されることになる。修習給付金の金額規模からして,非課税要件は満たさないのが通常と考えられる。



法務省作成の,令和元年6月18日の参議院文教科学委員会の国会答弁資料

第2 国民健康保険への加入
1 協会けんぽの被保険者の被扶養者に削除,氏名変更等があった場合,被保険者(例えば,司法修習生となった子どもを被扶養者としている会社員の父親又は母親)が勤務先(事業主)を経由して「被扶養者(異動)届」を年金事務所に提出する必要があります(日本年金機構HPの「従業員の被扶養者に異動があったときの手続き」参照)。
2 子どもが司法修習生になった時点で,その親が勤務先に被扶養者異動届を提出しなかった場合,健康保険の被扶養者資格の再確認(健康保険法施行規則50条参照)(協会けんぽHPの「被扶養者資格の再確認について」参照)が実施されたときに,被扶養者でなくなったことを指摘されると思います。
3 国民健康保険に加入するため,健康保険被保険者資格の喪失日,被扶養者でなくなった日等を証する書類が必要になった場合,
「健康保険・厚生年金保険資格取得・資格喪失確認通知書」の交付を求める請求書を年金事務所に提出すればいいです(日本年金機構HPの「国民健康保険等へ切り替えるときの手続き」参照)。
   ただし,通常は事業主が発行する「健康保険・厚生年金保険被保険者資格等取得(喪失)連絡票」を市役所等に提出すれば,国民健康保険に加入できます(富山県砺波市(となみし)HP「[お知らせ]健康保険・厚生年金保険被保険者資格等取得(喪失)連絡票について」参照)。
4 会社員をしていて健康保険に加入していた人が会社を退職した場合,①健康保険の任意継続をすること,②国民健康保険に加入すること及び③家族の健康保険の被扶養者となることという三つの選択肢があります(協会けんぽHPの「退職後の健康保険について」参照)。
   しかし,司法修習生は修習給付金を支給されますから,家族の健康保険の被扶養者となることはできません。


第3 健康保険の任意継続
・ 健康保険の任意継続をしたい場合,退職日から20日以内に,協会けんぽ支部において,①退職日を確認できる書類(例えば,離職票)及び②任意継続被保険者資格取得申出書を提出するといった手続をすればいいです(協会けんぽHPの「任意継続の加入手続きについて」参照)。
   居住する市区町村によって国民健康保険の保険料は異なる(国民健康保険HPの「主要都市の保険料を比較しよう」参照)ものの,配偶者及び子供といった扶養家族がいる場合は通常,健康保険の任意継続の方が国民健康保険よりも保険料が安いです(国民健康保険HPの「国保と任意継続の保険料を保険料をシミュレーション」参照)。


第4 関連記事その他
1 二回試験に合格して弁護士登録をした場合,弁護士会の新人研修等の際に,日本弁護士国民年金基金への加入を勧誘されるようになりますところ,日本弁護士国民年金基金の取扱いとして,平成7年3月31日までに加入した弁護士の予定利率は現在でも5.5%であるにもかかわらず,平成26年4月1日以降に加入した弁護士の予定利率は1.5%となっていること,②平成30年3月期における20~29歳の加入者は156人であること(加入者全体の1.8%),及び③いったん加入した場合,減口はできるものの,1口目の任意解約はできないこと等については,「日本弁護士国民年金基金」を参照してください。
 基礎年金番号に紐づけられた、これまでの年金加入履歴等が記載された日本年金機構による書面として,年金事務所で発行してもらえる被保険者記録照会回答票があります(リーガレットHP「被保険者記録照会回答票の申請方法(もらい方)3つと簡単な見方|見本付き」参照)。
3 以下の記事も参照してください。
① 司法修習生と国民年金保険料の免除制度及び納付猶予制度
② 修習給付金に関する司法研修所の公式見解を前提とした場合の,修習給付金に関する取扱い
③ 修習給付金は非課税所得であると仮定した場合の取扱い
④ 修習給付金は必要経費を伴う雑所得であると仮定した場合の取扱い
 司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金


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