第1 制度の違いと選び方
1 最初に確認する事項
相続財産に関する「管理人」には,似た名称の制度が併存している。しかし,選任の前提,管理対象,法的主体及び目的は異なる。本記事では,①相続人のあることが明らかでない場合,②相続人はいるが所在不明の場合,③相続人は判明しているが遺産の保存が必要な場合,④特定の訴訟又は執行だけに代表者が必要な場合を区別した上で,債権者による相続登記と競売の手順を説明する。
| 制度 | 主な前提 | 管理対象・目的 | 選任等をする裁判所 |
|---|---|---|---|
| 相続財産清算人 | 相続人のあることが明らかでない | 相続財産法人の財産全体を清算する | 家庭裁判所 |
| 民法897条の2の相続財産管理人 | 相続財産の保存が必要である | 相続財産を一時的に保存する | 家庭裁判所 |
| 不在者財産管理人 | 従来の住所又は居所を去った者が財産管理人を置いていない | 不在者本人の財産を管理し,必要に応じて本人を代理する | 家庭裁判所 |
| 家事事件手続法200条の財産管理者 | 遺産分割の審判又は調停が係属している | 本案審判が効力を生ずるまで遺産を管理する | 遺産分割事件を扱う家庭裁判所 |
| 民事訴訟・民事執行の特別代理人 | 個別事件に必要な代表者等がいない | 当該訴訟又は執行を追行する | 受訴裁判所又は執行裁判所 |
2 相続財産清算人
相続人のあることが明らかでない場合,相続財産は法人とされ,家庭裁判所は,利害関係人又は検察官の請求により,相続財産清算人を選任する(民法951条及び952条)。戸籍上相続人がいない場合だけでなく,相続人全員が相続放棄をした結果,相続する者がいなくなった場合も対象となる。
令和5年4月1日より前の民法952条では「相続財産管理人」と呼ばれていたが,現行法上の名称は「相続財産清算人」である。そのため,旧法下で選任された者又は古い裁判例・文献に出てくる民法952条の「相続財産管理人」と,現行民法897条の2の「相続財産管理人」とを区別しなければならない。裁判所HP「相続財産清算人の選任」には,申立人,申立先,費用及び標準的な添付書類が掲載されている。
3 民法897条の2の相続財産管理人
家庭裁判所は,利害関係人又は検察官の請求により,いつでも,相続財産管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる(民法897条の2)。もっとも,相続人が1人でその相続人が単純承認をした場合,共同相続人間で遺産全部の分割がされた場合又は相続財産清算人が選任されている場合には,同条の処分を命ずることができない。
この管理人は,相続人の不存在を前提とする清算機関ではなく,相続財産を保存するための機関である。令和5年4月1日施行の改正により,旧民法918条2項等に分散していた相続財産の保存制度が民法897条の2に統合された。相続人の一部が判明しているため相続財産清算人を選任できないものの,相続人調査又は財産の引継ぎまで中立的な管理が必要な場合などに利用が検討される。大阪家庭裁判所HP「相続財産管理人の選任」には,同条に基づく申立ての手引及び書式が掲載されている。
4 不在者財産管理人
従来の住所又は居所を去った者が財産管理人を置いていない場合,家庭裁判所は,利害関係人又は検察官の請求により,その財産の管理に必要な処分を命ずることができる(民法25条)。裁判所の手続案内は,不在者を「従来の住所又は居所を去り,容易に戻る見込みのない者」と説明している。単に連絡に応じないというだけではなく,所在調査を尽くしてもこの状態が続いていることを具体的に示す必要がある。
不在者が共同相続人である場合,不在者財産管理人は,家庭裁判所の権限外行為許可を得て,不在者に代わり遺産分割協議又は不動産売却をすることができる。申立ては,不在者の従来の住所地又は居所地を管轄する家庭裁判所にする(家事事件手続法145条)。制度と所在調査の内容は,裁判所HP「不在者財産管理人選任」及び大阪家庭裁判所の申立ての手引で確認できる。
5 遺産分割中の財産管理者と特別代理人
遺産分割の審判又は調停の申立てがあった場合,家庭裁判所は,財産管理のため必要があるとき,申立て又は職権により,遺産分割の審判が効力を生ずるまでの間,財産管理者を選任できる(家事事件手続法200条)。これは遺産分割事件の係属を前提とする本案前の保全処分であり,民法897条の2の一般的な保存処分とは根拠及び利用場面が異なる。
これに対し,民事訴訟法上の特別代理人は,法定代理人又は法人等の代表者がいないなどのため個別訴訟を進められず,遅滞による損害のおそれがある場合に,受訴裁判所の裁判長が選任する(民事訴訟法35条及び37条)。また,強制執行開始後に債務者が死亡し,その相続人の存在又は所在が明らかでない場合,執行裁判所は,相続財産又は相続人のために特別代理人を選任できる(民事執行法41条2項)。同項は「強制執行の開始後」に債務者が死亡した場合の規定であるから,死亡時期を確認する必要がある。
第2 管理人等の権限と訴訟上の表示
1 保存行為と権限外行為
民法897条の2の相続財産管理人,不在者財産管理人及び相続財産清算人については,民法28条が適用又は準用される。これらの者は,保存行為並びに物又は権利の性質を変えない範囲の利用・改良行為をすることができ,その範囲を超える行為には家庭裁判所の許可が必要となる(民法28条及び103条)。
不動産の売却,遺産分割協議,訴えの取下げ,請求の放棄・認諾又は和解は,通常,権限外行為許可が問題となる。他方,相続財産の現状を維持するための応訴又は不利益な判決に対する上訴は,保存行為として許可を要しない場合がある。個々の訴訟行為について,名称だけでなく,財産に及ぼす効果と選任審判で定められた権限を確認すべきである。
2 相続財産法人と相続財産清算人
相続人のあることが明らかでない場合の法的主体は,相続財産清算人個人ではなく,民法951条の相続財産法人であり,清算人はその代表者である。当事者表示は,例えば「亡甲野太郎相続財産 上記代表者相続財産清算人 乙野花子」となり,「相続財産清算人乙野花子」を当事者本人とする表示は,相続財産法人と代表者を混同する。
最高裁昭和36年10月31日判決(昭和35年(オ)第1321号)は,相続財産法人のために選任された特別代理人の権限は,相続財産管理人が選任されただけで当然に消滅せず,裁判所による解任まで存続すると判示した。したがって,後に清算人が選任された場合でも,個別訴訟の特別代理人が解任されたかを確認する必要がある。
3 相続財産管理人,不在者財産管理人及び限定承認の管理人
民法897条の2又は家事事件手続法200条の管理人が選任されても,相続人が権利義務の帰属主体であることは変わらない。最高裁昭和47年7月6日判決(昭和46年(オ)第773号,民集26巻6号1133頁)は,旧家事審判規則106条による相続財産管理人について,相続人の法定代理人として相続財産に関する訴えに応訴することは保存行為であり,家庭裁判所の許可を要しないと判示した。旧制度に関する判例であるため,現行制度へ用いるときは管理人の選任根拠と権限を確認しなければならない。
不在者財産管理人が選任されても,不在者本人が権利義務の帰属主体である。当事者表示は,例えば「被告 丙野一郎 上記法定代理人不在者財産管理人 丁野二郎」となる。最高裁昭和47年9月1日判決(昭和46年(オ)第474号,民集26巻7号1289頁)は,不在者財産管理人が不在者に不利益な判決に対して上訴することは保存行為に当たり,家庭裁判所の許可を要しないと判示した。もっとも,請求の放棄・認諾,和解又は訴え・上訴の取下げは,通常,権限外行為許可の対象となる。
最高裁昭和47年11月9日判決(昭和47年(オ)第585号,民集26巻9号1566頁)は,共同相続人が限定承認をした場合に選任される相続財産管理人について,相続財産の帰属主体は相続人であり,管理人は共同相続人全員の法定代理人であって,管理人個人に当事者適格があるものではないと判示した。相続財産清算人,保存のための相続財産管理人及び限定承認の場合の管理人は,名称が似ていても根拠規定と法的地位が異なる。
4 公示送達との関係
公示送達は,当事者の住所,居所その他送達をすべき場所が分からず,通常の方法による送達ができない場合に,訴訟書類を送達したものと扱う制度である(民事訴訟法110条)。不在者財産管理人は,不在者の財産を管理し,必要な場合に本人を代理する制度であり,公示送達とは機能が異なる。
送達場所の問題だけで訴訟を進められる事案であるか,遺産分割,財産処分又は継続的な管理のため本人を代理する者が必要な事案であるかにより,採るべき手続は変わる。「手続保障を重視すれば常に不在者財産管理人を選任すべきである」と一律にいうことも,「公示送達ができれば財産管理人は不要である」と一律にいうこともできない。
第3 債権者による相続登記と競売
1 相続人が判明している場合
債権者は,債務者名義の不動産について相続が開始したとき,自己の債権を保全するため必要があれば,相続人に代位して相続登記を申請できる(民法423条及び不動産登記法59条7号)。代位登記では,代位者と代位原因,相続人の氏名・住所・法定相続分及び相続原因を申請情報とし,戸籍関係書類,住所証明情報及び代位原因証明情報等を添付する(幸良秋夫『全訂 設問解説 相続法と登記』432頁~435頁)。
大阪地方裁判所HP「競売申立時の代位登記について」によれば,担保不動産競売では,競売申立てを先に行い,競売申立受理証明書を取得して代位登記をした後,登記事項証明書を提出する取扱いがある。これに対し,強制競売では,債務名義に基づく競売申立てに先立ち,代位による相続登記をするのが通常である。競売の種類によって順序が異なるため,申立裁判所の現行案内を確認する必要がある。
2 相続人の住所が分からない場合
相続人の現在の住所が分からないことだけで,代位による相続登記のため不在者財産管理人を選任する必要が生ずるわけではない。住民票の除票又は戸籍の附票等によっても最後の住所を確認できない場合に,本籍を住所として登記申請をすることを認めた登記先例がある(幸良秋夫・前掲書432頁~435頁)。もっとも,必要な所在調査,添付情報及び表示方法は事案により異なるため,申請先法務局への事前相談が安全である。
不在者財産管理人が必要となるのは,代位登記の申請自体ではなく,所在不明の相続人を代理して遺産分割,不動産処分又は訴訟行為を行う必要がある場合である。この区別をせずに「相続人の住所不明」という一事だけで選任申立てをすると,必要な手続と管理範囲が一致しないことがある。
3 相続人のあることが明らかでない場合
相続人のあることが明らかでない場合,民法951条により相続財産法人が成立する。相続財産清算人が選任されたときは,清算人が,不動産の登記名義人の表示を「亡甲野太郎相続財産」等へ変更する登記を申請し,その後,相続財産法人を債務者兼所有者として競売手続を進めることができる。
大阪地方裁判所の前記案内は,事案によっては,申立債権者が競売申立受理証明書に基づき相続財産法人に代位して表示変更登記を申請し,特別代理人を選任して競売を進める取扱いも示している。財産全体の調査,換価,配当及び国庫引継ぎまで必要なら相続財産清算人が制度目的に合うが,個別の訴訟又は執行に必要な代表者だけを確保すれば足りる事案では,特別代理人を利用できる余地がある。両者を固定的な原則・例外の関係として扱うべきではない。
4 全部包括受遺者がいる場合
最高裁平成9年9月12日判決(平成6年(オ)第2052号,民集51巻8号3887頁)は,相続財産全部の包括受遺者がいる場合,民法951条の相続財産法人は成立しないと判示した。相続人が戸籍上見当たらない場合でも,遺言及び全部包括受遺者の有無を確認せず,相続財産清算人選任の前提があると判断してはならない。
第4 相続財産清算手続
1 選任公告と債権申出公告
家庭裁判所は,相続財産清算人を選任したとき,清算人選任の事実と,相続人があるなら一定期間内に権利を主張すべき旨を公告する。この相続人捜索の公告期間は,6か月を下ることができない(民法952条2項)。
清算人は,この公告があったとき,全ての相続債権者及び受遺者に対し,2か月以上の期間内に請求を申し出るべき旨を公告し,知れている債権者には個別に催告する(民法957条)。債権申出期間は,家庭裁判所が定めた相続人捜索の公告期間内に満了しなければならない。令和5年4月1日施行の改正前は複数段階の公告によって少なくとも10か月を要したが,現在は家庭裁判所の公告が一本化され,最短6か月の枠内で清算を進める制度となっている。
2 相続人が現れた場合
相続人のあることが明らかになったとき,相続財産法人は成立しなかったものとみなされる。ただし,相続財産清算人が権限内でした行為の効力は妨げられない(民法955条)。これに対し,清算人の代理権が消滅するのは,相続人が相続を承認した時であり,清算人は遅滞なく相続人に清算の計算をしなければならない(民法956条)。相続人の存在が判明する時点と,相続承認によって代理権が消滅する時点は区別されている。
3 債権者,特別縁故者及び国庫帰属
公告と債権申出の手続を経て相続債権者及び受遺者に弁済し,なお残余財産がある場合,特別縁故者は,相続人捜索の公告期間満了後3か月以内に財産分与を申し立てることができる(民法958条の2)。特別縁故者への分与後も処分されなかった相続財産は,国庫に帰属する(民法959条)。
したがって,相続財産清算人は単なる不動産売却の代理人ではない。相続財産の調査,債権者・受遺者の確認,換価・弁済,特別縁故者手続への対応及び残余財産の国庫引継ぎまでを担う清算機関である。
第5 相続放棄と相続登記義務
1 相続放棄者の保存義務
相続放棄をした者が保存義務を負うのは,放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有している場合に限られる(民法940条)。その者は,相続人又は相続財産清算人に財産を引き渡すまで,自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存しなければならない。
相続放棄をしたというだけで,遠隔地の空き家その他の相続財産について当然に全面的な管理義務を負うわけではない。他方,現に占有する財産を引き渡す先がなく,保存を継続する必要があるときは,民法897条の2の相続財産管理人又は民法952条の相続財産清算人の選任を検討することになる。
2 相続登記申請義務と代位登記
令和6年4月1日から,相続により不動産の所有権を取得した相続人は,原則として,その取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務を負う(法務省HP「相続登記の申請義務化」及び不動産登記法76条の2)。令和6年4月1日より前に開始した相続も未登記であれば対象となり,原則として令和9年3月31日までに申請する必要がある。
もっとも,不動産登記法76条の2第3項によれば,代位者その他の者の申請又は嘱託により相続登記がされた場合,同条1項又は2項の申請義務は,当該登記について適用されない。代位登記は債権者の執行準備等のために行われる登記であり,遺産分割後に法定相続分を超えて所有権を取得した場合など,後の事情によって別の登記義務が生ずることはある。
第6 特定の不動産又は共有持分だけが問題となる場合
1 所有者不明土地・建物管理命令
調査を尽くしても土地又は建物の所有者を知ることができず,又はその所在を知ることができない場合,地方裁判所は,利害関係人の請求により,所有者不明土地管理命令又は所有者不明建物管理命令を発することができる(民法264条の2~264条の8)。管理命令が発せられると,対象不動産等の管理・処分権は管理人に専属し,保存行為等の範囲を超える行為には裁判所の許可を要する。
不在者財産管理人は不在者という人を単位とし,相続財産清算人は相続財産全体を単位とするのに対し,所有者不明土地・建物管理制度は特定の土地又は建物を単位とする。隣地への危険除去,空き家管理又は特定不動産の用地取得だけが目的である場合には,この制度の方が目的に適合することがある。他方,所有者不明土地・建物管理人は所有者本人の一般的な代理人ではなく,相続人の地位に代わるものでもないため,遺産分割協議に参加するための不在者財産管理人の代替にはならない。
2 所在等不明共有者に関する裁判
共有者の氏名又は所在を知ることができない場合,裁判所の決定を得て,残りの共有者だけで一定の変更又は管理行為をする制度がある(民法251条2項及び252条2項1号)。不動産については,所在等不明共有者の持分を時価相当額で取得する裁判又は残りの共有者全員の持分とともに所在等不明共有者の持分を第三者へ譲渡する権限を付与する裁判もある(民法262条の2及び262条の3)。
所在等不明共有者の持分が遺産共有持分である場合,相続開始から10年を経過していないと,持分取得又は持分譲渡権限付与の裁判を利用できない。制度の要件と現行書式は,大阪地方裁判所HP「共有・土地建物の管理に関する事件」及び東京地方裁判所HPの申立書式一覧で確認できる。
3 制度選択の整理
① 相続人のあることが明らかでなく,財産全体を清算する必要がある場合は,相続財産清算人を検討する。
② 相続財産の一時的な保存又は相続人調査までの管理が必要な場合は,民法897条の2の相続財産管理人を検討する。
③ 所在不明の自然人の財産全般を管理し,本人を代理する必要がある場合は,不在者財産管理人を検討する。
④ 特定の所有者不明土地・建物だけを管理又は処分する必要がある場合は,所有者不明土地・建物管理命令を検討する。
⑤ 特定の共有物について変更,管理,持分取得又は第三者への譲渡だけが必要な場合は,所在等不明共有者に関する裁判を検討する。
第7 出典・参考資料
1 法令及び公的資料
⑫ 法務省「民法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について」
2 裁判例
① 最高裁昭和36年10月31日判決(昭和35年(オ)第1321号)
② 最高裁昭和47年7月6日判決(昭和46年(オ)第773号,民集26巻6号1133頁)
③ 最高裁昭和47年9月1日判決(昭和46年(オ)第474号,民集26巻7号1289頁)
④ 最高裁昭和47年11月9日判決(昭和47年(オ)第585号,民集26巻9号1566頁)
⑤ 最高裁平成9年9月12日判決(平成6年(オ)第2052号,民集51巻8号3887頁)
3 書籍
① 七戸克彦『論点解説 改正民法・不動産登記法』ぎょうせい,2024年,183頁~192頁
② 幸良秋夫『全訂 設問解説 相続法と登記』日本加除出版,2023年,432頁~435頁
③ 松原正明『全訂第2版 判例先例 相続法Ⅲ』日本加除出版,2023年,310頁~318頁
④ 正影秀明『相続財産管理人,不在者財産管理人に関する実務』日本加除出版,2018年,571頁~574頁
⑤ 梶村太市監修『最新裁判書式体系 第4巻 民事執行 第Ⅰ巻』青林書院,2025年,62頁~66頁