相続財産管理人,不在者財産管理人及び代位による相続登記


目次
第1 相続財産管理人

1 総論
2 相続財産管理人の権限
3 強制執行開始前に債務者である所有者が死亡し、相続人不存在となっている場合における例外的取扱い
4 相続財産管理人が選任されている場合における当事者目録の記載例
5 特別縁故者に対する相続財産の分与
6 その他
第2 不在者財産管理人
1 総論
2 不在者財産管理人の権限
3 相続人の生死不明又は行方不明の場合の取扱い
4 公示送達と適用場面が重なる場合があること
5 不在者財産管理人が選任されている場合における当事者目録の記載例
6 その他
第3 代位による相続登記
1 相続人がいる場合
2 相続人がいない場合
3 抵当権設定者である在日韓国人が死亡した場合の対処方法
第4 関連記事その他

第1 相続財産管理人
1 総論
(1) 令和5年4月1日以降については,①相続財産の保存に必要な場合は相続財産管理人(民法897条の2)が選任され,②相続人のあることが明らかでない場合は相続財産清算人(民法951条及び民法952条)が選任されています。
イ 令和5年3月31日以前は,相続財産管理人が選任される場合としては,①相続財産の保存に必要な処分として選任される場合(民法918条2項),及び②相続人のあることが明らかでない場合(民法951条)がありました。
(2) 遺言者に相続人は存在しないが相続財産全部の包括受遺者が存在する場合,民法952条にいう「相続人のあることが明かでないとき」に当たりません(最高裁平成9年9月12日判決)。
(3) ①民事訴訟の被告,②民事執行の債務者又は③家事事件の相手方となる自然人に相続人がいない場合,相続財産管理人又は特別代理人を利用することとなると思いますところ,東京地裁21民(執行部)の取扱いとしては,少なくとも民事執行の債務者については相続財産清算人が原則となります。
2 相続財産管理人の権限
(1) 家庭裁判所が家事審判規則106条1項(現在の家事事件手続法200条1項)に基づき選任した相続財産管理人の場合,民法28条類推適用に基づき民法103条所定の範囲内の行為をすることができ,相続財産に関して提起された訴えにつき,相続人の法定代理人の資格において,保存行為として,家庭裁判所の許可なくして応訴することができます(最高裁昭和47年7月6日判決)。
(2) 「相続財産管理人 不在者財産管理人に関する実務」196頁によれば,家庭裁判所より権限外行為許可審判書主文例(訴え提起)は「相続財産管理人である申立人が,◯◯◯に対する別紙訴状案記載の訴状をもって訴訟提起を行うことを許可する。」となっています。
(3) 国税庁HPの「民法上の相続人が不存在の場合の準確定申告の手続」には以下の記載があります。
① 相続財産法人は、国税通則法第5条第1項《相続による国税の納付義務の承継》の規定に基づき納税義務を承継することとされていますから、所得税法第125条の規定を類推解釈して相続財産法人に対して適用することが合理的であると考えられます。
② 相続財産法人が準確定申告書を提出する場合の申告期限は、管理人が確定した日(裁判所から管理人に通知された日)の翌日から4か月を経過した日の前日とすることが相当です。
3 強制執行開始前に債務者である所有者が死亡し、相続人不存在となっている場合における例外的取扱い
(1) 民事訴訟法35条1項は「法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、未成年者又は成年被後見人に対し訴訟行為をしようとする者は、遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して、受訴裁判所の裁判長に特別代理人の選任を申し立てることができる。」と定めていて,当該条文は,民事訴訟法37条1項に基づき法人の代表者について準用されています。
(2) 強制執行開始前に債務者が死亡し,債務者の相続財産清算人が選任された場合に相続財産清算人に対する承継執行文の付与を禁止する規定はありませんから,民事執行法上,相続財産法人に帰属する相続財産に対しても相続債権者が強制執行をしてその権利の実現を図ることができることが予定されています(東京高裁平成7年10月30日決定(判例秘書に掲載)参照)。
    ただし,強制執行開始前に債務者である所有者が死亡し、相続人不存在となっている場合につき,①相続財産清算人の選任を待っていたのでは,時効による消滅等により損害が生じる可能性がある場合,及び②物件がガソリンスタンドで速やかな処分が要求される場合,例外的に特別代理人の選任申立てができます(外部ブログの「所有者が死亡し、相続人が不存在となった場合の不動産競売(改訂)」参照)。
(3) 強制執行における債務者側の特別代理人の根拠は,民事執行法20条に基づく民事訴訟法37条及び35条の準用とされています(大審院昭和6年12月9日決定(判例秘書に掲載)のほか,関口法律事務所ブログの「訴える相手方が死亡し、相続人がいない場合の訴訟や強制執行手続について(相続財産管理人・特別代理人)」参照)ところ,理屈としては,相続財産法人について代表者である相続財産清算人がいない状態であるということだと思います。
4 相続財産清算人が選任されている場合における当事者目録の記載例
・ 債務者兼所有者について相続財産清算人が選任されている場合,担保不動産競売開始の申立ての当事者目録としては,以下のような記載になります。
〒◯◯◯-◯◯◯◯ 大阪市北区(以下省略)
          債務者兼所有者 亡◯◯◯◯相続財産
          相続財産清算人 山中理司
送達場所
〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号
          冠山ビル3階 林弘法律事務所
5 特別縁故者に対する相続財産の分与
(1) 相続人の捜索の公告後,6か月以内に相続人としての権利を主張する者がない場合において,相当と認めるときは,家庭裁判所は,被相続人と生計を同じくしていた者,被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者(いわゆる「特別縁故者」です。)の3か月以内の請求によって,これらの者に,清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができます(民法958条の2)。
(2) 相続人不存在の場合において,特別縁故者に分与されなかつた相続財産は,相続財産清算人がこれを国庫に引き継いだ時に国庫に帰属し,相続財産全部の引継が完了するまでは,相続財産法人は消滅せず,相続財産清算人の代理権も引継未了の相続財産につき存続します(最高裁昭和50年10月24日判決)。
(3)ア  共有者の一人が死亡し,相続人の不存在が確定し,相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了したときは,その持分は,民法958条の3(令和5年4月1日以降の民法958条の2)に基づく特別縁故者に対する財産分与の対象となり,右財産分与がされないときに,同法255条により他の共有者に帰属します(最高裁平成元年11月24日判決)。
イ 区分所有建物の敷地利用権の場合,民法255条は適用されません(建物の区分所有等に関する法律24条・22条1項)。
6 その他

(1) 大阪家裁HPの「家事事件の各種申請で使う書式について」には,「相続放棄・限定承認の申述の有無の照会書」等の書式が載っています。
(2) 裁判所HPに「相続財産管理人の選任の申立書」(民法952条の場合です。)が載っています。
(3) 地方公共団体の長は,所有者不明土地につき,その適切な管理のため特に必要があると認めるときは,家庭裁判所に対し,民法952条1項に基づく相続財産清算人の選任の請求ができます(所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法38条)。
(4) 大阪地裁HPの「競売申立時の代位登記について」には「相続財産管理人(山中注:令和5年4月1日以降は「相続財産清算人」です。)が選任された場合,相続財産管理人が,所有者について「亡○○○○相続財産」と登記名義人表示変更登記をしますので,登記が完了した後に競売を申し立ててください。不動産登記簿にこの登記名義人が表示されていないと差押登記ができません。」と書いてあります。

第2 不在者財産管理人
1 総論

(1) 従来の住所又は居所を去り,容易に戻る見込みのない者(不在者)に財産管理人がいない場合,家庭裁判所は,利害関係人(例えば,債権者)の申立てにより,不在者自身や不在者の財産について利害関係を有する第三者の利益を保護するため,不在者財産管理人を選任できます(裁判所HPの「不在者財産管理人選任」参照)。
(2) 相続会議HPの「遺産分割協議に関わる不在者財産管理人とは 音信不通の相続人がいる場合の対処法」には,「不在者財産管理人を選任できるのは、本人が行方不明で「不在者」といえる場合のみです。「まったく連絡がとれず、どこにいるのかもわからず、当面は帰ってくる見込みが一切ない状態」が必要と考えましょう。」と書いてあります。
(3) 不在者財産管理人の選任申立ては,不在者の従来の住所地又は居所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属します(家事事件手続法145条)。
(4) 後述することからすれば,①民事訴訟において被告となる死亡者の相続人が行方不明である場合,又は②民事執行において債務者となる死亡者の相続人が行方不明である場合,不在者財産管理人又は公示送達を利用することとなります。
2 不在者財産管理人の権限
(1) 家庭裁判所が選任した不在者財産管理人の場合,民法28条に基づき民法103条所定の範囲内の行為をすることができ,相続財産に関して提起された訴えにつき,相続人の法定代理人の資格において,保存行為として,家庭裁判所の許可なくして応訴することができると思います。
(2) 国税庁HPの「不在者財産管理人が家庭裁判所の権限外行為許可を得て、不在者の財産を譲渡した場合の申告」には「不在者財産管理人が家庭裁判所の権限外行為許可を得て、不在者の財産を譲渡した場合、当該譲渡についての納税申告は保存行為に該当すると解されますから、不在者財産管理人は、家庭裁判所の権限外行為許可を得ることなく、不在者の代理人として納税申告を行うことができます。」と書いてあります。
3 相続人の生死不明又は行方不明の場合の取扱い
(1) 民法951条にいわゆる「相続人のあることが明らかでないとき」とは相続人の存否不明をいうのであって,相続人の生死不明又は行方不明等は含まれないと解されています(東京高裁昭和50年1月30日決定(判例秘書に掲載))。
    そのため,戸籍上相続人が一人でも存在する場合,相続人の不存在に該当しませんから,債権者としては,不在者財産管理人の選任申立て(民法25条1項)を求めることとなります。
(2) 相続専門みかち司法書士事務所HP「不在者財産管理人と失踪宣告の違いを5つの項目で比較」が載っていますところ,債権者は失踪宣告(民法30条)の申立てをすることはできません。
4 公示送達と適用場面が重なる場合があること
(1) 不在者管理人選任の要件は「従来の住所又は居所を去った者がその財産の管理人を置かなかったとき」(民法25条1項)です。
    そのため,①民事訴訟として例えば,不動産の取得時効を原因とする所有権移転登記請求訴訟をするような場合,及び②民事執行として例えば,担保不動産競売開始の申立てをするような場合,「当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない」こと(民事訴訟法110条1項1号・民事執行法20条)を要件とする公示送達と適用場面が重なると思います。
(2) 被告又は債務者の手続保障を重視した場合,公示送達ではなく,事前に家庭裁判所に対して不在者財産管理人の選任申立てをすべきこととなります。
(3) 東京地裁21民HPの「申立債権者の方へ」に,公示送達申立書・調査書の書式が載っています。
5 不在者財産管理人が選任されている場合における当事者目録の記載例
・ 債務者兼所有者について不在者財産管理人が選任されている場合,担保不動産競売開始の申立ての当事者目録としては,以下のような記載になります。
〒◯◯◯-◯◯◯◯ 大阪市北区(以下省略)
          債務者兼所有者  ◯◯◯◯
          不在者財産管理人 山中理司
送達場所
〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号
          冠山ビル3階 林弘法律事務所
6 その他
(1) 「裁判上の各種目録記載例集―当事者目録、物件目録、請求債権目録、差押・仮差押債権目録等」(2010年9月9日付)80頁及び81頁に,「不在者である債務者に対し競売の申立てや保全命令の申立てをしようとする際に,当事者目録を作成する場合」における当事者目録の記載例が載っています。
(2) 債務者が行方不明であるとしても,「法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合」(民事訴訟法35条1項)に当たりませんから,特別代理人の選任申立てはできないと思います。
(3) 担保不動産競売開始の申立てをする場合における「担保権・被担保債権・請求債権目録」につき,例えば,死亡した債務者に2人の子がいる場合,「被担保債権及び請求債権」の末尾に以下の記載をすればいいです(不動産競売申立ての実務と記載例(2005年8月1日付)161頁参照)。
(1) 元 本  ◯◯◯万円
 ただし,平成◯◯年◯◯月◯◯日の金銭消費貸借契約に基づく貸付金◯◯◯◯万円の残元金
(2) 損害金
 ただし,上記元金に対する平成◯◯年◯月◯日から支払済みまでの,約定の年◯◯%の割合による遅延損害金
以上(1),(2)について,令和◯年◯月◯日に✕✕✕✕が死亡したことにより,債務者両名が,各2分の1の割合で債務を承継している。

第3 代位による相続登記1 相続人がいる場合

(1) 所有者が死亡していて相続人がいるにもかかわらず相続登記がなされていない場合,担保不動産競売の申立てを行う債権者としては,債権者代位権を行使して相続登記を経る必要がありますところ,不動産競売申立ての実務と記載例(2005年8月1日付)182頁には,その手順として以下の記載があります。
① まず債権者は,執行裁判所に対し,被相続人(死者)名義のままの登記事項証明書を添付して,相続人を所有者とする担保不動産競売申立書(【記載例III-24】参照)を提出する(その際,相続を証する書面として戸籍謄本,戸籍の附票等が必要となる(民執規則173条1項, 23条1号参照)。そのほか,後述の相続放棄の申述のない旨の家庭裁判所の証明書を提出したほうがより望ましいであろう)。執行裁判所は, この申立てをそのまま受理する。
    申立ての際債権者は,競売申立書受理証明申請書(【記載例III-25】と,「速やかに代位による相続登記手続をし,その登記事項証明書を提出する」旨の上申書(【記載例III-26】)を併せて提出する。
② 申立債権者は,競売申立書受理証明申請書に裁判所書記官の証明をもらいこれを代位原因証書として相続登記をしたうえ,裁判所に相続人名義となった不動産登記事項証明書を提出する。
③ 裁判所は, この登記事項証明書を確認のうえ,開始決定を行い差押登記嘱託をする。
(2) 大阪地裁HPの「競売申立時の代位登記について」には,代位による相続登記を行う場合の必要書類が載っています。
(3) 相続人の住所が分かる場合,同人を債務者として競売手続を進めることができますが,相続人の住所が分からない場合,同人の手続保障にかんがみ,不在者財産管理人の選任が必要であると思います。
2 相続人がいない場合
(1) 相続人が不分明の不動産について,相続財産管理人を選任することなく,その不動産の登記名義人の債権者が,登記名義人の氏名等を相続財産法人に変更する代位の登記を申請することができます(佐藤正樹司法書士事務所HPの「相続人が不分明の不動産について、相続財産管理人を選任することなく、当該不動産の被相続人の債権者が、競売申立受理証明を代位原因を証する情報として、当該不動産の登記名義人の表示を相続財産法人に変更する代位の登記の申請の可否について」参照)。
(2) その後の競売手続を進めるためには,相続財産管理人(原則)又は特別代理人(例外)の選任が必要であると思います。

第4 関連記事その他

1 岡山地裁HPに「当事者目録記載例」が載っています。
2 令和5年4月1日以降の民法940条(相続の放棄をした者による管理)は以下のとおりです。
① 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
② 第六百四十五条、第六百四十六条並びに第六百五十条第一項及び第二項の規定は、前項の場合について準用する。
3  抵当権の実行のための競売開始決定(現在の担保不動産競売開始決定)が所有者に対して送達されないかしがあっても,競落許可決定(現在の売却許可決定)が確定すれば,右かしを理由として同決定の無効を主張することは許されません(最高裁昭和46年2月25日判決)。
4(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 相続財産管理人選任申立ての手引(申立てを検討している人向けの説明文書)
・ 相続財産管理人選任申立ての手引(民法918条2項用)
・ 相続財産管理人選任申立ての手引(成年後見人・保佐人・補助人用)
 自治体向け財産管理人選任事件申立てQ&A(令和元年11月改訂の,大阪家庭裁判所家事第4部財産管理係書記官室の文書)
・ 相続による納税義務の承継マニュアル(令和3年7月の大阪国税局徴収部徴収課の文書)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 訴訟能力,訴状等の受送達者,審判前の保全処分及び特別代理人
・ 家事事件に関する審判書・判決書記載例集(最高裁判所が作成したもの)
 大阪家裁後見センターだより
 裁判所関係国賠事件
 後見人等不正事例についての実情調査結果(平成23年分以降)
 平成17年以降の,成年後見関係事件の概況(家裁管内別件数)


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