第1 所有不動産記録証明制度の概要
1 令和8年2月2日に始まった全国横断検索
所有不動産記録証明制度は,特定の人又は法人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を登記官が検索し,その結果を一覧にした証明書を交付する制度である。
令和6年4月1日に始まった相続登記の申請義務化に伴い,相続人が被相続人名義の不動産を把握しやすくし,相続登記の漏れを防ぐため,令和8年2月2日に施行された。
本記事は,令和8年9月28日現在の法令及び法務省資料を基準に,請求できる人,請求方法,必要書類,手数料及び検索結果を読む際の注意点を説明する。
2 証明書に記載される情報
証明書には,請求人の資格・氏名又は名称・住所,検索に用いた氏名又は名称・ローマ字氏名・住所・会社法人等番号,検索条件に該当した不動産の管轄登記所・種別・所在事項・不動産番号等が記載される。
証明書は検索結果の一覧であり,各不動産の持分,抵当権,差押え,信託その他の権利関係を網羅する登記事項証明書ではない。
第2 請求できる人
1 所有権の登記名義人
所有権の登記名義人は,自分を検索対象者として証明書の交付を請求できる。
自然人だけでなく,所有権の登記名義人である法人も対象となる。
2 相続人その他の一般承継人
所有権の登記名義人の相続人その他の一般承継人は,被相続人又は被承継人を検索対象者として請求できる。
相続人からの請求では,請求人自身の本人確認に加え,被相続人との相続関係を戸籍謄本,法定相続情報一覧図の写し等で明らかにする必要がある。
3 代理人
本人又は相続人その他の一般承継人は,代理人を通じて請求できる。
委任による代理人の場合,請求人の実印を押した委任状と請求人の印鑑証明書が必要となる。
第3 請求先と請求方法
1 全国の登記所へ請求できる
請求は,法務局・地方法務局の本局,支局及び出張所で取り扱われる。
検索対象となる不動産の所在地を管轄する登記所に限られないため,遠隔地の不動産を調べる場合でも,利用しやすい登記所を請求先に選べる。
2 書面請求
書面請求は,窓口への提出又は郵送によって行う。
郵送による受領を希望するときは,返送用封筒と切手を提出する必要がある。
書面の請求書では,一つの検索条件欄に複数の氏名又は住所をまとめて記載せず,現在の氏名・住所と過去の氏名・住所を別々の検索条件として記載する。
3 オンライン請求
オンライン請求は,登記・供託オンライン申請システムの申請用総合ソフトで「所有不動産記録証明書交付請求書」を選択し,必要事項を入力して電子署名を付して送信する。
必要書類も全てオンラインで提供する必要があり,証明書は郵送又は指定した登記所の窓口で受領できる。
第4 必要書類
1 登記名義人本人が請求する場合
本人請求では,①印鑑証明書を提出し,請求書に実印を押す方法,又は②マイナンバーカード,運転免許証等の本人確認書類の写しを提出する方法のいずれかを用いる。
本人確認書類の写しを用いる方法は書面請求に限られ,窓口で原本を提示する必要がある。
現在の氏名・住所だけでなく過去の氏名・住所も検索条件にする場合,戸除籍謄本,住民票の写し,戸籍の附票の写し等,その履歴を証する資料も必要となる。
2 相続人その他の一般承継人が請求する場合
相続人は,本人請求に必要な資料に加え,被相続人との相続関係を証する戸籍謄本,法定相続情報一覧図の写し等を提出する。
被相続人の過去の氏名・住所を検索条件に加える場合は,除籍謄本,除かれた戸籍の附票の写し等によって履歴をつなぐ。
法定相続情報番号,戸籍電子証明書提供用識別符号又は除籍電子証明書提供用識別符号を利用できる場合は,法務省の案内に従い,対応する書類の提出に代えることができる。
3 原本還付と補正への対応
必要書類は原則として原本を提出する。
印鑑証明書及び委任状を除き,原本と相違ない旨及び請求人本人の記名を付したコピーを原本とともに提出すれば,手続完了後に原本の返却を受けられる。
請求書又は添付書類に不足があると,訂正又は補完を求められることがある。
一定期間内に対応しなければ証明書が交付されない場合があるため,請求先からの連絡を受けられる状態にしておく必要がある。
第5 検索条件と手数料
1 氏名又は名称と住所による検索
自然人については,氏名の前方一致に加え,住所の市区町村まで又は住所の末尾5文字が一致するものがシステム上の抽出対象となる。
外国人についてローマ字氏名を検索条件に加えた場合は,ローマ字氏名の完全一致と,住所の市区町村まで又は末尾5文字の一致を組み合わせて検索する。
法人について会社法人等番号を検索条件に加えた場合は,会社法人等番号の完全一致による検索も行われる。
2 異体字と同名異人
一部の異体字は,文字情報基盤の縮退マップ等に基づいて変換した上で検索されるため,字形が異なる登記名義も抽出されることがある。
もっとも,全ての異体字が変換されるわけではなく,氏名・住所等が一致する同名異人の不動産が抽出される場合もある。
証明書に物件が記載されたときは,所在地,取得経緯及び物件ごとの登記事項証明書を確認し,検索対象者の不動産であるかを個別に判断する必要がある。
3 検索条件1件・1通ごとの手数料
手数料は,検索条件1件につき,証明書1通ごとに計算される。
現在住所と複数の旧住所を別々の検索条件にすると,条件数に応じて手数料が増える。
| 請求方法 | 交付方法 | 手数料 |
|---|---|---|
| 書面請求 | 窓口又は郵送 | 1,600円 |
| オンライン請求 | 郵送 | 1,500円 |
| オンライン請求 | 窓口 | 1,470円 |
書面請求で検索条件を4件指定し,証明書を1通請求する場合は,4件×1通×1,600円で6,400円となる。
該当する不動産が抽出されなかった場合でも手数料は返却されない。
第6 検索結果に現れない主な場合
1 登記上の氏名・住所と検索条件が一致しない場合
検索は請求書に記載された検索条件に基づくため,婚姻前の氏名,旧字体,転居前の住所その他の登記記録上の表記を検索条件に入れなければ,該当する不動産が抽出されない場合がある。
戸籍の附票,住民票の除票,権利証,固定資産税の通知書等から過去の名義情報を確認し,必要な氏名・住所の組合せを検索条件ごとに指定することが重要である。
2 制度上の検索対象外又は未反映の場合
検索対象は,所有権の登記がされている不動産に限られる。
未登記建物,表示に関する登記だけがあり所有権の登記がない不動産,登記簿がコンピュータ化されていない不動産は検索結果に現れない。
検索時点で登記記録に反映されていない情報も証明書には含まれない。
例えば,所有権移転登記の申請が審査中であれば,その申請結果はまだ検索結果に反映されていないことがある。
3 「該当なし」は不動産不存在の証明ではない
証明書に該当不動産がない旨が記載されても,その人が不動産を一切所有していないと断定することはできない。
検索条件の不一致,検索対象外の登記又は未登記建物等が残り得るためである。
検索結果がゼロであっても,手元の資料や固定資産税情報に物件の手掛かりがある場合は,調査を打ち切らず,別の氏名・住所による再検索,市区町村への照会又は物件ごとの登記調査を検討する。
第7 証明書を取得した後の調査
1 物件ごとの登記事項証明書を確認する
所有不動産記録証明書で分かるのは,検索条件に合致した物件の所在等である。
所有者,持分,原因・日付,差押え,抵当権,信託等を確認するには,各物件の登記事項証明書又は登記情報を取得する必要がある。
相続登記を申請するときは,証明書の一覧だけで申請内容を決めず,最新の登記記録と戸籍・遺言・遺産分割の内容を突き合わせる。
2 名寄帳等と組み合わせる
所有不動産記録証明書は全国の登記記録を横断検索できる一方,未登記建物や検索条件から外れた物件を拾えないことがある。
市区町村の名寄帳,固定資産評価証明書,固定資産税納税通知書には未登記でも課税されている家屋が現れる場合があるため,両者は補完関係にある。
名寄帳と固定資産評価証明書の違い及び使い分けは,固定資産評価証明書と名寄帳の違い-相続・登記・訴訟での使い分け(AI作成)で説明している。
3 相続財産調査の中で位置付ける
相続人が被相続人の財産を調べる場合は,①戸籍等で調査権限を確認する,②旧氏名・旧住所を含む検索条件を整理する,③所有不動産記録証明書を請求する,④判明した物件の登記記録を確認する,⑤名寄帳・固定資産税資料・現地資料と突き合わせる,という順序が分かりやすい。
不動産以外の財産・債務を含む調査全体は,被相続人の財産を調べる方法―相続人が被相続人の死亡後に行う財産・債務調査(AI作成)を参照されたい。
第8 関連記事
1 不動産登記制度に関する記事
所有権の登記名義人の氏名・住所が変わった場合の期限,過料及びスマート変更登記は,不動産の住所等変更登記義務化―期限・過料・スマート変更登記で説明している。
不動産登記に関する判例,制度解説及び調査資料への入口は,不動産登記の主要判例・調査資料・関連記事一覧(AIリライト)にまとめている。
2 法務省の制度案内
請求書様式,記載例,委任状記載例,証明書見本及び最新の注意事項は,法務省「所有不動産記録証明制度について」で確認できる。
実際に請求する時点で,様式,手数料及び必要書類に変更がないかを同ページで確認するのが安全である。
第9 出典
1 法令・告示
不動産登記法119条の2(所有不動産記録証明書の交付等)
不動産登記規則195条から195条の4まで及び199条(請求情報,請求方法,原本還付,オンライン請求及び証明事項)
登記手数料令(交付手数料)
民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号,令和3年4月28日公布)
不動産登記規則等の一部を改正する省令(令和8年法務省令第5号,令和8年2月2日公布)
不動産登記法第119条の2第3項の規定する法務大臣の指定する登記所を定める件(令和8年法務省告示第11号,令和8年2月2日告示)
2 所管行政機関の解説・運用資料
法務省「所有不動産記録証明制度について」
法務省「所有不動産記録証明制度」パンフレット
法務省「所有不動産記録証明書の見本・検索条件の記載例」
法務省民事局長令和8年2月2日付け法務省民二第81号通達