第1 裁判所は何をするところか
裁判所は,法律に基づいて紛争を解決し,刑事事件を裁判するなど,司法権を行使する機関である。日本には,最高裁判所,高等裁判所,地方裁判所,家庭裁判所及び簡易裁判所の5種類がある。
初めて利用するときは,「何の事件か」「どの地域の裁判所か」「本庁・支部のどの部署へ提出するか」を順に確かめるとよい。近くに庁舎があるというだけでは,その事件の提出先とは限らない。
憲法76条1項は司法権の帰属を定め,裁判所法2条は4種類の下級裁判所を,3条は法律上の争訟等についての権限を定める。裁判所は,あらゆる相談に答える総合相談窓口というわけではなく,法律が定めた手続の中で審理・判断を行う。
「裁判所」という言葉は,司法機関の名称だけでなく,裁判官が事件を判断する裁判体や,建物を指す意味でも使われる。例えば,同じ合同庁舎に高裁・地裁・簡裁が入っていても,それぞれの裁判所の担当事件や提出窓口は異なる。
裁判所の管理運営については,司法行政を担う裁判官会議,最高裁判所事務総長及び下級裁判所事務局長で詳しく説明している。
第2 5種類の裁判所の違い
| 種類 | 主な役割 | 利用場面の例 |
|---|---|---|
| 最高裁判所 | 上告などを扱う最上級の裁判所 | 法律が認める上告理由等に基づく不服申立て |
| 高等裁判所 | 地裁・家裁の判決,簡裁の刑事判決に対する控訴など | 地裁で始まった通常民事訴訟の控訴。一部の事件では第一審も扱う |
| 地方裁判所 | 民事・刑事の第一審の多くと,簡裁の民事判決に対する控訴など | 訴額が140万円を超える通常の金銭請求など |
| 家庭裁判所 | 家事審判・調停,人事訴訟,少年の保護事件など | 離婚調停,遺産分割,成年後見,離婚訴訟など |
| 簡易裁判所 | 訴額が140万円を超えない民事請求の第一審や,一定の刑事事件など | 少額の金銭請求,民事調停,支払督促。少額訴訟には別の要件がある |
家庭裁判所を初めて利用する場合は,家庭裁判所の役割・扱う事件・手続と費用の調べ方を参照されたい。
離婚,養育費,相続,成年後見,少年事件のどの問題かを確認し,家事調停・家事審判・人事訴訟・少年審判を区別して手続を選ぶことが重要である。
地方裁判所で扱う事件と,簡裁・家裁との違い,管轄や提出先を調べる順序は,地方裁判所とは―扱う事件・他の裁判所との違い・管轄の調べ方で詳しく説明している。民事・刑事以外の手続も含めて確認できる。
この表は主な役割を示したものであり,事件の全てを列挙したものではない。簡裁の民事の第一審管轄から行政事件訴訟は除かれ,不動産に関する訴訟は訴額が140万円以下でも地裁にも第一審の裁判権がある(裁判所法24条1号,33条1項1号)。また,民事調停や支払督促の利用条件を,通常訴訟の140万円という基準だけで決めることはできない。
少額訴訟は,簡裁で行う60万円以下の金銭支払請求を対象とする手続であり,簡裁の全ての民事訴訟が少額訴訟になるわけではない。違いと事件に応じた選び方は,簡易裁判所の民事訴訟―地方裁判所との違いと交通事故事件の争点整理を参照されたい。
家庭内の問題でも,家事調停・審判と離婚訴訟では手続が違う。裁判所の種類を知った後は,具体的に利用する手続の案内を読む必要がある。家裁の運営上の課題を資料から調べたい場合は,実務協議会「家庭裁判所の現状と課題」で対象年度と資料の性質を整理している。
高等裁判所の役割,全国8高裁の本庁と管轄地域,通常の6支部と知財高裁の位置付けは,高等裁判所とは―役割・地裁や最高裁との違い・全国8高裁と支部の一覧で詳しく説明している。
第3 三審制と控訴・上告
1 第一審の裁判所によって経路が違う
三審制は,原則として第一審,第二審,第三審の裁判所が不服申立てを審査する仕組みである。第一審判決への不服申立てが控訴,第二審判決への不服申立てが上告である。ただし,事件の種類や裁判の形式によって,不服申立ての名称・要件・経路は異なる。
| 例 | 原則的な経路 |
|---|---|
| 地裁で始まる通常の民事訴訟 | 地裁の第一審 → 高裁への控訴 → 最高裁への上告 |
| 簡裁で始まる通常の民事訴訟 | 簡裁の第一審 → 地裁への控訴 → 高裁への上告 |
| 簡裁で始まる刑事事件 | 簡裁の第一審 → 高裁への控訴 → 最高裁への上告 |
| 家裁で始まる離婚訴訟など | 家裁の第一審 → 高裁への控訴 → 最高裁への上告 |
簡裁の通常民事訴訟では,第三審は原則として高裁である。さらに最高裁へ申し立てることができる制度もあるが,要件が限定されており,全事件が同じ経路で最高裁まで進むものではない。民事訴訟法311条,327条等を,対象となる裁判に即して確認する必要がある。
2 同じ内容を必ず3回審理するわけではない
上告には法律が定める理由が必要であり,民事の最高裁は,事実認定を最初からやり直す審級ではない。上告と上告受理申立ての要件も同じではない(民事訴訟法312条,318条)。不服があれば,期限と申立先に加えて,どの制度で何を争えるかを確かめる。
少額訴訟の終局判決には控訴ができず,同じ簡裁に異議を申し立てる仕組みがある。異議後の判決にも控訴はできない(民事訴訟法377条,378条,380条)。また,家事審判などの決定に対する不服申立てへ,上の「判決→控訴→上告」の表をそのまま当てはめることはできない。
最高裁で民事口頭弁論が開かれる場合の実務は,最高裁判所における民事事件の口頭弁論期日を参照されたい。
第4 管轄と提出先の調べ方
1 事件・地域・取扱部署の順に確認する
まず,通常訴訟,調停,審判,支払督促,執行など,利用する手続を特定する。次に,当事者の住所,義務履行地その他の管轄原因,専属管轄,合意管轄等を,その手続の法律と公式案内で確認する。
通常の民事訴訟でも,請求額だけでは地域の管轄は決まらない。「自宅に一番近い裁判所」「相手の近くの裁判所」という説明だけで提出先を確定しないことが大切である。
その上で,裁判所公式の管轄区域表と,対象庁の事件別案内・取扱部署を確認する。区域表で支部名が出ても,事件によって本庁や拠点支部で取り扱うことがある。郵送,窓口,オンライン提出のいずれを利用できるかも,対象手続と最新の案内に従う。
2 本庁・支部・出張所を区別する
支部は,本庁の事務の一部を扱う組織であり,第6の種類の裁判所ではない。家裁出張所と簡裁も同じ組織ではない。庁舎の看板に複数の名称がある場合は,裁判所名,事件の種類,担当部署まで確認する。
具体的な提出先の確認手順は,裁判所支部とは―本庁・支部・出張所の違いと管轄・提出先の調べ方を参照されたい。全国の配置は,地裁・家裁支部の一覧と高裁支部の一覧で調べられる。
問い合わせる際には,裁判所から届いた書類にある事件番号,担当部・係,書類名を手元に用意すると,担当窓口を確認しやすい。窓口への問い合わせだけで,法律上の管轄や提出期限が変更されるものではない。
第5 裁判官と裁判所職員の仕事
裁判官は審理・裁判を行い,裁判所職員はそれぞれの専門的な職務で手続や管理運営を支える。「裁判所職員が案内した」という理由で,案内の全てを裁判官の判断と受け取らないようにする。
| 職種 | 主な役割と詳説 |
|---|---|
| 裁判官 | 当事者の主張と証拠等を踏まえ,法律に基づいて裁判を行う |
| 裁判所書記官 | 記録の作成・保管,調書,法律で定められた手続上の事務など。書記官の仕事内容となり方 |
| 裁判所事務官 | 裁判部の事務や総務・人事・会計等。配属先により担当が異なる。事務官の仕事内容と採用 |
| 家庭裁判所調査官 | 家事・少年事件について,人間関係や生活環境等を調査し報告する。家裁調査官の職務 |
採用,給与,研修や職員制度をまとめて調べる場合は,裁判所事務官・書記官等の記事一覧から目的に合う記事へ進める。
第6 目的別の利用案内
1 裁判を見たいとき
公開の法廷で行われる民事の口頭弁論・判決,刑事の公判・判決は,原則として一般の人も傍聴できる。家事調停や少年審判など,公開しない手続もある。傍聴と庁舎見学は別の利用方法である。
公式の見学・傍聴案内で,近くの裁判所の案内,開廷期日情報,傍聴券交付情報を確認できる。初めて行く場合も,対象手続,日時,法廷,集合時刻や持ち物の条件を確かめる。
予定の調べ方,予約と傍聴券,服装・持ち物,当日の流れは,裁判所の傍聴方法―初めての人のための案内で詳しく説明している。
2 手続や費用を調べたいとき
貸金,契約,交通事故等の紛争について,利用する手続から調べる場合は,民事事件の具体例・解決方法と相談の準備へ進める。通常訴訟での提出書類と各段階の役割は,民事裁判の流れで確認できる。裁判所の種類を調べることと,具体的な請求・反論に合う手続を選ぶことを分けて検討する。
裁判所の手続案内で手続の概要を調べ,対象となる申立ての書式・必要書類・提出先を確認する。申立手数料,送達等に要する費用,弁護士へ依頼する場合の費用は別に考える。申立手数料等は,公式の手数料・申立書提出先一覧と各手続の最新案内を確認する。
手続案内と,請求が認められるか,どの証拠を出すべきかといった法律相談は異なる。チャットボットの表示だけで期限・提出先・法的結論を確定せず,根拠の公式案内と担当窓口を照合する。裁判所の手続案内チャットボットと生成AIでは,案内と相談の境界を説明している。
3 裁判例や裁判所の資料を読みたいとき
裁判所公式の裁判例検索で公表された裁判例を調べられる。ただし,全ての判決・決定が掲載されるわけではない。検索結果に見当たらないことだけで,事件や判決が存在しないとは判断できない。
検索の使い方や旧URLの扱いは,裁判所ウェブサイトの判例・裁判例検索とURLの書き換えを参照されたい。裁判の傍聴,公表裁判例の検索,事件記録の閲覧・謄写はそれぞれ別の制度である。
第7 主な出典
法令と公式案内は令和8年10月11日に確認した。各裁判所の期日,窓口,提出方法等は変わり得るため,利用する際は対象庁の最新案内を確認されたい。
日本国憲法76条・82条:
https://laws.e-gov.go.jp/law/321CONSTITUTION
裁判所法2条・3条・16条・24条・31条の3・33条・58条・60条・61条の2:
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000059
民事訴訟法311条・312条・318条・327条・368条・377条・378条・380条:
https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109
裁判所「裁判所の組織」:
https://www.courts.go.jp/about/sosiki/index.html
裁判所「概要」:
https://www.courts.go.jp/about/sosiki/gaiyo/index.html
裁判所「下級裁判所」:
https://www.courts.go.jp/about/sosiki/kakyusaibansyo/index.html
裁判所「裁判所の管轄区域」:
https://www.courts.go.jp/about/sosiki/kankatu/index.html