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裁判所の手続案内チャットボットと生成AI―法律相談との境界,誤案内及び本人サポート(AI作成)

第1 研究会が検討した手続案内へのAI利用

裁判所の手続案内をチャットボットで受けられることと,生成AIから事件の解決方法について法律相談を受けられることは,区別する必要がある。
公益社団法人商事法務研究会に設置された「AI時代における民事司法を考える研究会」の取りまとめは,裁判所ウェブサイトのチャットボットを紹介した上で,将来の生成AI利用による手続案内の可能性と課題を検討している。
本記事では,取りまとめの記述と裁判所の公式案内を手掛かりに,案内の範囲,誤案内への備え及び人による支援へのつなぎ方を整理する。

1 資料の位置付けと参照箇所

研究会の公式掲載ページから,取りまとめ,概要及び公開された議事概要を確認できる。
チャットボットの主な記述は,取りまとめの第3の3「当事者によるAIの利用」中の裁判所によるサポートにある(本文28~29頁,PDFの32~33枚目)。
研究会の提案は,そのまま現在の裁判所サービスの仕様や,利用者の法的権利を定めた規則になるものではない。

研究会の作成主体,全体の論点及び検証資料の限界については,「AI時代における民事司法を考える研究会」取りまとめの要点と限界を参照されたい。

2 取りまとめが説明する既存の仕組み

令和8年8月の取りまとめは,裁判所ウェブサイトに導入されたチャットボットについて,選択肢をたどる案内と,登録済みの問答から質問に対応する回答を選ぶ仕組みを説明している。
自由な文字入力を受け付けることだけで,回答本文を生成AIが作っているとはいえない。
取りまとめが紹介する時点の仕組みは,生成AIによる回答生成ではない。

これは資料の公表時点における説明である。
その後の画面表示,機能及び運用の変更は,裁判所の公式ウェブサイトと利用画面の案内で確認する必要があり,サービス提供会社の一般的な製品説明だけから裁判所での利用方式を判断することはできない。

第2 手続案内と法律相談の境界

1 裁判所の公式案内が示す範囲

裁判所は,裁判手続の案内ページで,どの申立てをすべきか,どうすれば請求が認められるかといった法律相談には応じられないことを説明している。
手続の種類,申立書の書式,窓口及び一般的な進め方の案内と,個別の事実関係に基づく有利な手段の選択とは,役割が異なる。
チャットボットが分かりやすい文章で回答しても,裁判所の役割や中立性に関するこの境界が消えるわけではない。

質問の例確認先と注意点
申立書の書式はどこで確認するか公式の手続案内や書式の掲載先を確認する。自分の事件にその書式が適合するかは別に判断する。
提出先,費用,必要書類を知りたい該当する手続の公式案内と担当窓口を確認する。事件の種類や事情で扱いが異なり得る。
この事実ならどの請求をすべきか個別の法律相談に関わる。弁護士等に事実と資料を示して相談する。
相手の主張にどう反論すれば勝てるか証拠評価や法的戦略に関わる。手続案内の回答から勝敗を判断しない。

2 境界にある質問の扱い

「いつまでに提出すればよいか」「この裁判所に出してよいか」という質問も,常に単純な案内に収まるとは限らない。
一般的な制度の説明と,送達日,通知の内容,請求の性質等を踏まえた個別事件の判断とは分けて考える必要がある。
利用者に事情がある場合は,案内の文章だけで期限や管轄を確定せず,裁判所から届いた書面と該当する公式案内を確認し,必要に応じて担当窓口や法律相談につなぐことが大切である。

裁判所の窓口に確認しても,法律相談に当たる部分まで回答が得られるとは限らない。
窓口の案内と代理人・相談担当者による法的助言を組み合わせることが,本人の判断を支える。

第3 生成AIを導入する場合の課題

1 自然な説明と正確な説明は別に確認する

生成AIは,質問の言い換えや説明の平易化に役立つ可能性がある一方で,存在しない手続や誤った条件を,確かな説明のように示すことがある。
研究会は,手続案内に求められる中立性と正確性を踏まえ,回答の範囲や確認の仕組みを検討している。
分かりやすさに加え,案内の根拠を利用者が確認できることが重要となる。

取りまとめは,参照すべき情報を検索して回答生成に用いるRAGの利用可能性にも言及する。
しかし,公式資料を参照対象にしても,検索漏れ,旧資料の参照,質問の読み違い及び要約時の誤りまで当然に解消されるわけではない。
参照元,更新時点,回答できない質問及び人に確認する経路を併せて示す運用が望ましい。

2 誤案内を想定して人につなぐ

以下は,導入や利用の際に備えるべき場面を示した例であり,裁判所のチャットボットで実際に発生した事故を報告するものではない。

想定される困り事利用者の確認と運用上の備え
一般的な期限の説明を自分の事件の期限と受け取る届いた通知,送達等の具体的事情及び公式案内を確認する。個別判断が必要な場合は法律相談へつなぐ。
関係のない申立書や提出先を示される手続名,対象事件及び担当窓口を確認する。案内画面から人の窓口へ移れるようにする。
入力完了を正式な提出完了と取り違える案内,書類作成,正式な提出及び受理の各段階を区別する。提出に用いる正式なシステムの表示を確認する。
回答同士や公式書面の内容が食い違うどちらかの文章を選んで済ませず,食い違いと参照元を窓口・相談担当者に伝える。

誤った案内を信じた場合に期限徒過等が必ず救済されるとはいえない。
個々の救済の可否は,適用される手続と具体的事情に応じて判断する必要がある。
利用者側で確認できる情報を明示するとともに,運営側が誤りの申告を受け,案内を修正できる仕組みも検討すべきである。

第4 入力する情報と本人への支援

1 最初から詳しい事件情報を入力しない

手続の概要を知る段階では,まず手続名や一般的な質問を用いることが考えられる。
実名,住所,連絡先,健康情報及び第三者の秘密などを入力する前に,利用画面の注意事項と個人情報の取扱いを確認する必要がある。
チャットボットであるというだけで,入力が保存されない,学習に使われない,外部に送られないと判断することはできない。

具体的資料を相談担当者に示す必要がある場面では,その相談窓口が案内する適切な方法を用いる。
一般公開の案内画面と,個別相談や正式な申立てのための提出経路を使い分けることが大切である。

2 チャットボットを使いにくい人にも経路を残す

本人が手続を進める場合,文字入力が難しい,制度の言葉が分からない,回答を自分の事情に当てはめられないといった問題が生じる。
研究会が検討するサポートも,AIの回答だけで全ての利用者を支えるという考え方ではない。
公式の案内ページ,よくある質問,裁判所の担当窓口及び法律相談を利用できるようにすることが重要である。

裁判手続についてのQ&Aや各地の裁判所の所在地・電話番号も確認先となる。
電子化の経緯と現在の関連システムについては,裁判所の情報化の流れを参照されたい。

第5 利用前に確認したい事項

チャットボットを利用する際は,まず何を案内するサービスか,回答の参照先はどこか,分からない場合に誰へ確認できるかを確認する。
申立てや提出の場面では,案内を受けたことと正式な手続を完了したことを分けて確かめる必要がある。
生成AIを将来導入する場合も,これらの確認を利用者任せにせず,画面の説明と人による支援を組み合わせることが課題となる。

本記事は令和8年10月5日に確認した公式資料に基づく。
裁判所の個別サービスの最新仕様,利用条件及び事件ごとの取扱いは,利用時の公式案内で確認されたい。