司法行政を担う裁判官会議,最高裁判所事務総長及び下級裁判所事務局長


目次
第1 総論
第2 最高裁判所の司法行政の担い手
1 最高裁判所裁判官会議
2 最高裁判所事務総長
3 最高裁判所事務総局
第3 高等裁判所の司法行政の担い手
1 高等裁判所の裁判官会議
2 高等裁判所事務局長
3 高等裁判所事務局及び高等裁判所支部庶務課
第4 地方裁判所の司法行政の担い手
1 地方裁判所の裁判官会議
2 地方裁判所事務局及び地方裁判所支部庶務課
第5 家庭裁判所の司法行政の担い手
1 家庭裁判所の裁判官会議
2 家庭裁判所事務局及び家庭裁判所支部庶務課
第6 簡易裁判所の司法行政の担い手
1 簡易裁判所の司法行政事務掌理裁判官
2 簡易裁判所事務部及び庶務課
第7 裁判所の司法行政に関する国会答弁
第8 明治憲法下の取扱いとの比較
1 司法行政権の主体の違い
2 裁判事務の分配方法の違い
3 代理順序等の定め方等の違い
4 裁判所法では,司法行政専任の裁判官を認めることは避けるべきとされたこと
5 戦前の大審院が下級裁判所に対する監督権を有していなかった理由
第9 司法行政部門の意思決定
第10 下級裁判所の裁判官会議に関する下級裁判所事務処理規則の条文
第11 関連記事その他

第1 総論
1 最高裁判所及び下級裁判所の組織は,裁判部門及び司法行政部門に分かれます。
2 裁判所HPの「裁判所の組織について」には以下の記載があります。
① 司法行政部門では,事務局(総務課,人事課,会計課等)が設置され,裁判事務の合理的・効率的な運用を図るため,人や設備などの面で裁判部門を支援する職務を行っています。
② 裁判部門では,各種の事件を裁判官が審理・裁判しますが,その裁判を支える職種として裁判所事務官,裁判所書記官,家庭裁判所調査官が置かれています。
3 昭和34年頃から昭和35年頃にかけて,全国各地の裁判所において,長官・所長,常置委員会に対して大幅な権限の委任が決議された結果,裁判官会議の形骸化は決定的になり,下級裁判所の場合,裁判官会議は年2回程度開催されるだけであり,正式な議題は裁判事務に関する事項に限られ,常置委員会の決定事項の報告・承認などを加えても,裁判官会議の所要時間は1時間にも満たないといわれています(判例時報2141号17頁参照)。
4 西川伸一Onlineの「司法行政からみた裁判官」も参考になります。


第2 最高裁判所の司法行政の担い手
1 最高裁判所裁判官会議
(1) 最高裁判所の司法行政の担い手は,最高裁判所裁判官会議であり(裁判所法12条1項),最高裁判所長官がその議長となります(裁判所法12条2項)。
(2) 最高裁判所裁判官会議は,毎年12月,翌年分の,各小法廷の裁判官の配置,裁判官に差支あるときの代理順序及び各小法廷に対する事務の分配を定めています(最高裁判所裁判事務処理規則4条)。
(3) 最高裁判所裁判官会議の議事録に関する平成30年度(最情)答申第32号(平成30年9月21日答申)には以下の記載があります。
    本件不開示部分のうち最高裁判所長官及び秘書課長の署名及び印影については,法5条1号に規定する個人識別情報と認められる。裁判官会議の議事録の署名及び押印は,その固有の形状が文書の真正を示す認証的機能を有していることからすれば,これらを公にすれば,偽造され,悪用されるなどして,特段の支障が生じるおそれがあるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえず,同号ただし書ロ及びハに相当する事情も認められない。
(4) 以下の裁判所職員の任免又は勤務場所の指定は,最高裁判所が行います(裁判所法64条及び65条,並びに裁判官以外の裁判所職員の任免等に関する規則2条)。
① 最高裁裁判所事務総長
② 最高裁判所長官秘書官及び最高裁判所判事秘書官
③ 司法研修所教官
④ 裁判所職員総合研修所教官
⑤ 裁判所調査官
⑥ 高裁,地裁,家裁又は簡裁の首席書記官,次席書記官又は総括主任書記官
    知財高裁首席書記官
⑦ 首席家裁調査官,次席家裁調査官又は総括主任家裁調査官
⑧ 高裁,地裁又は家裁の事務局長又は事務局次長
    知財高裁事務局長
⑨ 簡易裁判所事務部長
⑩ 最高裁判所に勤務する裁判所書記官,裁判所速記官,裁判所事務官,裁判所技官及び廷吏
⑪ 弁護士職務従事職員たる裁判所事務官
2 最高裁判所事務総長
(1) 最高裁判所の庶務を掌る機関として,最高裁判所事務総局が設置されていて(裁判所法13条),そのトップが最高裁判所事務総長となります(裁判所法53条)。
(2) 最高裁判所事務総長(「裁判官以外の裁判所職員」を定める裁判所法53条1項参照)に就任する場合,いったん,裁判所事務官となります(平成30年度(最情)答申第83号(平成31年3月15日答申)参照)。
(3) 31期の瀬木比呂志裁判官が著した絶望の裁判所には以下の記載があります。
(54頁の記載)
    私の知る限り、やはり、良識派は、ほとんどが地家裁所長、高裁裁判長止まりであり、高裁長官になる人はごくわずか、絶対に事務総長にはならない(最高裁判所事務総局のトップであるこのポストは、最高裁長官の言うことなら何でも聴く、その靴の裏でも舐めるといった骨の髄からの司法官僚、役人でなければ、到底務まらない)し、最高裁判事になる人は稀有、ということで間違いがないと思う。
(88頁の記載)
    現在では、所長や所長代行時代に事務総局に対して言うべきだと思うことをきちんと言っていたら、まず、その人のその後の人事はよい方向へは向かわないといって間違いはないと思う。
3 最高裁判所事務総局
(1) 裁判所法逐条解説上巻109頁及び110頁には以下の記載があります。
    「庶務」とは事務一般を意味する。主として、司法行政権の主体としての最高裁判所の事務を補佐する事務であって、裁判権の主体としての最高裁判所の事務を補助する事務は、原則として、ふくまれない。具体的事件の審理及び裁判に関して必要な調査は、別に置かれる裁判所調査官(五六)の掌るところであり、訴訟記録の保管等は裁判所書記官(六〇)の掌るところであるから、具体的事件の処理に関する事務総局の職務の範囲は、調査官や書記官の職務に属さないきわめて事務的、機械的な事項にかぎられる。
(2) 最高裁判所とともに(著者は高輪1期の矢口洪一 元最高裁判所長官)82頁には以下の記載があります。
    司法行政というと大袈裟だが、どこにでもある内部管理であって、裁判に対するサービスの提供を任務とするに過ぎない。しかも、最終責任は最高裁の裁判官会議にあり、事務総長はその命を受けて、許された範囲内で職務を行うに過ぎず、固有の権限などは何もない。ここが裁判と違うところである。
    ただ最高裁の本来の仕事が「裁判」である以上、裁判官方が些事に煩わされることのないよう心掛けなければならないが、重要な事項は、すべて報告して裁判官会議の議決を受けるのである。
(3) 令和元年6月13日付の理由説明書には以下の記載があります。
    最高裁判所は,我が国唯一の最上級裁判所として裁判手続及び司法行政を行う機関であり,最高裁判所判事や事務総局の各局課館長は,裁判所の重大な職務を担う要人として,襲撃の対象となるおそれが高く,その重大な職務が全うされるように,最高裁判所の庁舎全体に極めて高度なセキュリティを確保する必要がある。そのため,最高裁判所では,各門扉に警備員を配し,一般的に公開されている法廷等の部分を除き,許可のない者の入構を禁止している。
    この点,本件対象文書中,原判断において不開示とした部分は,各門における入構方法に関する具体的な運用が記載されており, この情報を公にすると警備レベルの低下を招くことになり,警備事務の適正な遂行に支障を及ぼすことになるから, 当該部分は,行政機関情報公開法第5条第6号に定める不開示情報に相当する。
    よって,原判断は相当である。

第3 高等裁判所の司法行政の担い手
1 高等裁判所の裁判官会議
(1) 各地の高等裁判所の司法行政の担い手は,各地の高等裁判所裁判官会議であり(裁判所法20条1項),高等裁判所長官がその議長となります(裁判所法20条2項)。
(2) 裁判所法逐条解説上巻167頁には以下の記載があります。
    とくに、高等裁判所は、同等の任命資格および権限を有する長官および判事で構成されているので、最高裁判所の場合と同様、その司法行政事務は、裁判官全員で組織する裁判官会議により行うものとすることが相当である。
(3) 以下の裁判所職員の任免又は勤務場所の指定は,高等裁判所が行います(裁判所法64条及び65条,並びに裁判官以外の裁判所職員の任免等に関する規則3条)。
① 高等裁判所長官秘書官
② 高裁管内の地裁,家裁又は簡裁の主任書記官又は訟廷管理官
    高裁管内の地裁の裁判員調整官
③ 高裁管内の地裁の主任速記官又は速記管理官
④ 高裁管内の家裁の主任家裁調査官
⑤ 高裁管内の地裁,家裁又は簡裁の課長又は課長補佐
    高裁管内の地裁の文書企画官又は企画官
⑥ 高裁に勤務する裁判所書記官,裁判所速記官,家裁調査官,裁判所事務官,裁判所技官及び廷吏
2 高等裁判所事務局長
(1) 高等裁判所の庶務を掌る機関として,高等裁判所事務局が設置されていて(裁判所法21条),そのトップが高等裁判所事務局長となります(裁判所法59条)。
(2) 高等裁判所事務局長に就任するのは常に裁判官であり,高等裁判所事務局次長に就任するのは常に裁判官以外の裁判所職員です。
(3) 早稲田大学HPに載ってある「河合健司元仙台高裁長官講演会講演録 裁判官の実像」には「司法研修所の教官として, 4年間,刑事裁判教官をいたしました。それが終わった後は,札幌高裁の事務局長を 4 年間経験しました。皆さんは,「高裁の事務局長というのは一体何だ?」と思われるのではないでしょうか。これは,要するに,北海道管内の司法行政,つまり裁判官や職員の人事関係事務,会計事務,一般の庶務などの責任者です。裁判は全くしません。そういう仕事ばかりを 4 年間やりました。」と書いてあります(リンク先のPDF4頁)。
3 高等裁判所事務局及び高等裁判所支部庶務課
(1) 高等裁判所事務局には,総務課,人事課及び会計課が設置されています(下級裁判所事務処理規則24条1項)。
(2) 高等裁判所支部には庶務課が設置されています(下級裁判所事務処理規則24条2項)。
    ただし,知財高裁事務局には庶務第一課及び庶務第二課が設置されています(下級裁判所事務処理規則24条3項)。


第4 地方裁判所の司法行政の担い手
1 地方裁判所の裁判官会議
(1) 各地の地方裁判所の司法行政の担い手は,各地の地方裁判所裁判官会議であり(裁判所法29条2項),地方裁判所長がその議長となります(裁判所法29条3項)。
    そして,地方裁判所の庶務を掌る機関として,地方裁判所事務局が設置されていて(裁判所法30条),そのトップが地方裁判所事務局長となります(裁判所法59条)。
(2) 地方裁判所の裁判官会議につき,判事及び特例判事補がその構成員となります(裁判所法29条3項参照)。
    ただし,判事補は所属の裁判所の裁判官会議に出席して意見を述べることができます(下級裁判所事務処理規則14条2項)。
(3) 日本の裁判所―司法行政の歴史的研究110頁及び111頁には以下の記載があります。
各地方裁判所が定める地方裁判所事務処理規則では,従来,明文で列挙された事項についてのみ,裁判官会議から地方裁判所長へ権限の委任がなされるという形式がとられていた。ところが,1982年に東京地方裁判所は,従来の形式とは逆に,権限の委任をしない司法行政事務を列挙し,その他の事務は所長に委任するという原則委任の形式をとるにいたった(全司法労働組合「司法行政からみた最近の司法政策の特徴」法と民主主義174号(1983年)12頁)。この後,全国の地方裁判所は,所長への権限委任について,改正された東京地方裁判所事務処理規則の規定の仕方にならったと考えられる。
(4) 地裁及び管内の簡裁に勤務する裁判所書記官,裁判所速記官,裁判所事務官,裁判所技官及び廷吏の任免又は勤務場所の指定は,地方裁判所が行います(裁判所法64条及び65条,並びに裁判官以外の裁判所職員の任免等に関する規則4条)。
(5) 以下の資料を掲載しています。
・ 東京地方裁判所司法行政事務処理規程(昭和57年6月17日東京地方裁判所規程第1号)
・ 大阪地方裁判所司法行政事務処理規程(平成16年9月15日大阪地方裁判所規程第1号)
(6) 検察審査会に勤務する者の任免又は勤務検察審査会の指定は,検察審査会の所在地を管轄する地方裁判所が行います(裁判所法64条及び65条,並びに裁判官以外の裁判所職員の任免等に関する規則6条)。
2 地方裁判所事務局及び地方裁判所支部庶務課
(1) 地方裁判所事務局長に就任するのは常に裁判官以外の裁判所職員です。
(2) 地方裁判所事務局には総務課及び会計課が設置されています(下級裁判所事務処理規則24条1項)。
(3) 地方裁判所支部には庶務課が設置されています(下級裁判所事務処理規則24条2項)。

第5 家庭裁判所の司法行政の担い手
1 家庭裁判所の裁判官会議
(1) 各地の家庭裁判所の司法行政の担い手は,各地の家庭裁判所裁判官会議であり(裁判所法31条の5・29条2項),家庭裁判所長がその議長となります(裁判所法31条の5・29条3項)。
    そして,家庭裁判所の庶務を掌る機関として,家庭裁判所事務局が設置されていて(裁判所法31条の5・30条),そのトップが家庭裁判所事務局長となります(裁判所法59条)。
(2) 家庭裁判所の裁判官会議につき,判事及び特例判事補がその構成員となります(裁判所法31条の5・29条3項参照)。
    ただし,判事補は所属の裁判所の裁判官会議に出席して意見を述べることができます(下級裁判所事務処理規則14条2項)。
(3) 家裁に勤務する裁判所書記官,裁判所速記官,家裁調査官,家裁調査官補,裁判所事務官,裁判所技官及び廷吏の任免又は勤務場所の指定は,家庭裁判所が行います(裁判所法64条及び65条,並びに裁判官以外の裁判所職員の任免等に関する規則5条)。
2 家庭裁判所事務局及び家庭裁判所支部庶務課
(1) 家庭裁判所事務局長に就任するのは常に裁判官以外の裁判所職員です。
(2) 家庭裁判所事務局には総務課及び会計課が設置されています(下級裁判所事務処理規則24条1項)。
(3) 家庭裁判所支部には庶務課が設置されています(下級裁判所事務処理規則24条2項)。

第6 簡易裁判所の司法行政の担い手
1 簡易裁判所司法行政事務掌理裁判官
(1) 簡易裁判所の司法行政事務は,簡易裁判所の裁判官が一人のときはその裁判官が,2人以上のときは,最高裁判所の指名する一人の裁判官(=司法行政事務掌理裁判官)がこれを掌理します。
(2) 東京簡裁の場合,専属の東京簡裁司法行政事務掌理裁判官が設置されているのに対し,大阪簡裁の場合,大阪地裁民事上席裁判官(=大阪地裁第1民事部部総括判事)が大阪簡裁司掌裁判官を兼任しています。
2 簡易裁判所事務部及び庶務課
(1) 簡易裁判所には事務部又は庶務課が設置されています(下級裁判所事務処理規則24条2項及び4項)。
    そして,簡易裁判所事務部には,事務部長が設置されています(下級裁判所事務処理規則24条7項)。
(2) 事務部を設置されている簡易裁判所は,東京簡易裁判所及び大阪簡易裁判所だけです(事務部を置く簡易裁判所の指定について(平成6年7月21日付の最高裁判所総務局長通知)参照)。

第7 裁判所の司法行政に関する国会答弁
・ 21期の竹崎博允最高裁判所事務総長は,平成16年3月25日の衆議院憲法調査会最高法規としての憲法のあり方に関する調査小委員会において以下の答弁をしています。
    まず、裁判所の建前で申しますと、先ほど御指摘のとおり、それぞれの裁判所における司法行政事務はそれぞれの裁判所の裁判官会議が行うというのが建前でございます。
    ただ、ここでいいます司法行政事務といいますのは、言うならば、その庁における固有の司法行政事務というように考えられるわけでありまして、例えば開廷の日割りであるとか、あるいは事務の分配であるとかそういうことで、裁判官人事、特に裁判官に対する評価というのが、そのそれぞれの裁判官会議にゆだねられていたものではないというように理解しておりまして、これはやはり任免権を持っております、あるいは任免権というよりも指名権を持っております最高裁判所が、人事の評価については一元的に管理をしてきたのではないかというように思っているところでございます。
    ただ、この司法制度改革の過程で裁判官人事の問題が取り上げられまして、私どもも、裁判官につきましては、これまでもそうでありますが、これからますます重要な職責を果たしていかなければならないというように思っておりますので、そういう意味での裁判官人事のあり方について、国民的理解を得ることは必要であろうと。
    ただ、事柄の性質上、本人のプライバシーの関係もありますから、その調和を図りながら、言うならば、国民的理解の得られるような人事体制を築いていく必要があるということで、今回、新たに、最高裁判所規則によりまして、裁判官指名諮問委員会という委員会を最高裁の外に設けたわけでございます。
    また、裁判官の人事評価につきましても、一定の評価のシステムを明らかにいたしまして、例えば、裁判所の外部からの意見についても根拠のはっきりしているものについてはこれを受け付けるとか、あるいは人事評価の結果は希望があれば本人に開示をする、また人事評価をするに当たっては評価権者が本人と面接をするといった手続の透明化を図っているところでございます。


第8 明治憲法下の取扱いとの比較
1 司法行政権の主体の違い
(1) 日本国憲法下の取扱い
    最高の司法行政権は,最高裁判所長官ではなく,最高裁判所裁判官会議が掌握し(裁判所法12条1項),各裁判所における司法行政事務は,それぞれの裁判所の長ではなく,その裁判所の裁判官会議が行うべきものとされています(裁判所法20条1項,29条2項及び31条の5)。
(2) 明治憲法下の取扱い
    最高の司法行政権は,行政府の一員である司法大臣が掌握し(裁判所構成法135条第一),各裁判所における司法行政事務は,その裁判所ではなく,それぞれその裁判所の長が行うべきものとされていました(裁判所構成法135条第二ないし第五)。
    実際,大審院長は大審院の行政事務を監督する権限を有し(裁判所構成法44条2項),控訴院長は控訴院の行政事務を監督する権限を有し(裁判所構成法35条2項),地方裁判所長は地方裁判所の行政事務を監督する権限を有していました(裁判所構成法20条2項)。
2 裁判事務の分配方法の違い
(1) 日本国憲法下の取扱い
・ 最高裁判所の裁判事務の分配については,毎年12月の最高裁判所裁判官会議が定めています(最高裁判所裁判事務処理規則4条)。
・ 下級裁判所の裁判事務の分配については,毎年あらかじめ当該裁判所の裁判官会議が定めています(下級裁判所事務処理規則6条1項)。
・ 部内の事務分配は,各部の裁判官の申合せで定められていると思います(広島地裁の,裁判事務の分配等に関する申合せ集(平成27年7月2日現在)参照)。
(2) 明治憲法下の取扱い
・   大審院の裁判事務は,大審院長が大審院部長と協議した上で分配していて,部内の事務分配は各部の部長が定めていました(裁判所構成法44条3項)。
・   控訴院の裁判事務は,司法大臣が定めた通則に従い,毎年あらかじめ,所長,部長及び部の上席判事の会議に基づき,各部に分配され(裁判所構成法36条・22条1項及び3項),部内の事務分配は各部の部長が定めていました(裁判所構成法35条3項)。
・   地裁の裁判事務は,司法大臣が定めた通則に従い,毎年あらかじめ,所長,部長及び部の上席判事の会議に基づき,各部に分配され(裁判所構成法22条1項及び3項),部内の事務分配は各部の部長が定めていました(裁判所構成法20条3項)。
3 代理順序等の定め方等の違い
(1) 日本国憲法下の取扱い
・ 裁判官の配置及び裁判官に差し支えのあるときの代理順序については,毎年あらかじめ当該裁判所の裁判官会議が定めています(下級裁判所事務処理規則6条1項)。
(2) 明治憲法下の取扱い
・ 大審院の判事に差し支えのあるときの代理順序については,毎年あらかじめ,大審院長が大審院部長と協議した上で決めていました(裁判所構成法45条1項)。
・  控訴院の判事の配置及び判事に差し支えのあるときの代理順序については,毎年あらかじめ,所長,部長及び部の上席判事の会議に基づき定められました(裁判所構成法36条・22条2項及び3項)。
・  地裁の判事の配置及び判事に差し支えのあるときの代理順序については,毎年あらかじめ,所長,部長及び部の上席判事の会議に基づき定められました(裁判所構成法22条2項及び3項)。
4 裁判所法では,司法行政専任の裁判官を認めることは避けるべきとされたこと
・ 裁判所法逐条解説上巻168頁には以下の記載があります。
    官僚機構は、行政上の監督権者を非常に重視し、その地位を高くすることに特色をもっている。しかし、このことは、裁判所のようなところでは、もっとも望ましくないことである。わが国のように、旧憲法下ながく裁判官が官僚機構のなかに組み入れられていたところでは、とかく官僚一般に共通な右の思想が知らず知らずの間に裁判官の間にも流れ込んでくる危険があり、旧制度の下では、その弊害が特に著しかったといえよう。それは、行政を行う者の地位を裁判事務のみを行う者のそれよりも高いと考え、ひいては行政重視裁判軽視の傾向を生みかねない。その意味で、司法行政権を所長等の特定の裁判官に一任せず、裁判官会議にこれを与えたことは、裁判所における官僚制を打破する上において画期的な変革であったといえる。裁判所における官僚制の打破がきわめて望ましい要請である以上、司法行政専任の裁判官を認めることは、あくまで避けなければならない。
5 戦前の大審院が下級裁判所に対する監督権を有していなかった理由
 「司法権独立の歴史的考察」(昭和37年7月30日出版)103頁には以下の記載があります。
    明治憲法下の裁判所構成法によれば、大審院長は大審院を監督するのみで、下級裁判所に対する監督権を与えられていなかった。長島毅は前引「裁判所構成法」において、その理由を想像し、「大審院は上告審の裁判に依て下級裁判所の裁判に対し具体的の批評を下しつつある。此批評は実際に於て肢も痛切な監督である。此監督で充分である。是以上に行政上の監督権迄を大審院の手に収めることは、左なきだに判例に畏伏する傾向を有する下級裁判所を益其傾向に導かんとする」虞のあることを、立法理由の一つであろうと言っているが、裁判所構成法において、長島の想像したような配慮が存在したのであったとしたならば、現在の最高裁判所が最高上級裁判権と司法行政権とを併有しているのは、まさにその配慮をあえて度外視したものといわねばなるまい。


第9 司法行政部門の意思決定
・ 文書事務における知識付与を行うためのツールの改訂版(平成31年3月7日付の配布文書)の「司法行政部門の意思決定」には以下の記載があります。
【権限】
・ 司法行政事務を行う主体は,当該事務を行う権限を持つ者であるから,ある事務を行おうとするときは,その事務を行う権限を有する者が意思決定をする。つまり,意思決定の権限を有する者は,その事務を行う権限を有する者である。
・ 司法行政事務を行う権限を有する者は,法令,通達等によって定まる。
・ 例えば,ある事務が,通達等で各裁判所が行うものとして定められている場合には,各裁判所の裁判官会議がその事務を行う権限を有する者となる(裁判所法第20条第1項,第29条第2項,第31条の5)が,各裁判所で定める司法行政事務処理規程等によって,長官又は所長に当該事務を行う権限が委任されている場合(下級裁判所事務処理規則第20条第1項参照)には,長官又は所長がその事務を行う権限を有する主体となる。ただし,庁によっては,当該裁判所の長から事務局長等の下位の者に更に委任されている場合がある。
【決裁】
・ 司法行政事務の意思決定は「決裁」によって行われる。
・ 「決裁」とは,意思決定の権限を有する者が,押印,署名又はこれらに類する行為を行うことにより,その内容を裁判所の意思として決定し,又は確認する行為をいう。
・ 最終決裁者は,意思決定の権限を有する者(その事務を行う権限を有する者)である。
・ 決裁文書を起案するときは,決裁事項の内容に応じて,法令,通達その他の資料を調査して,当該意思決定の権限を有する者を確認する必要がある。
【専決】
・ 通常は,最終決裁者は,法令,通達等で定められているその事務を行う権限を有する者(本来の意思決定の権限を有する者)であるが,本来の意思決定の権限を有する者があらかじめ補助者に本来の意思決定の権限を有する者の名において決裁し得る権限を付与している場合がある。このような場合に,補助者が決裁することを専決といい,最終決裁者は補助者となる。
・ 専決により文書を発出するときは,文書の発出名義は,本来の意思決定の権限を有する者の名となることに留意する。
・ 例えば,所長から事務局長に対して専決権限が与えられている場合には,発出名義が所長である文書の決裁を事務局長が行うことになる。
【補助者の名において事務を行う権限の委任】
・ 本来の意思決定の権限を有する者があらかじめ補助者に補助者の名において事務を行う権限を委任している場合がある。この場合には,最終決裁者は,委任された補助者となり,文書の発出名義も補助者となる。
・ 例えば,所長から事務局長に対して補助者の名において事務を行う権限が委任されている場合には,発出名義が事務局長である文書の決裁を事務局長が行うことになる。
【代決】
・ 最高裁実施通達記第3の5の(1)では,本来の意思決定の権限を有する者が出張等により不在であるときに,特に緊急に処理しなければならない決裁文書について,本来の意思決定の権限を有する者の直近下位の者が内部的に代理の意思表示をして決裁することの意味で用いられている。
・ 代決により文書を発出するときは,文書の発出名義は,本来の意思決定の権限を有する者の名となることに留意する。
・ 例えば,事務局長が所長不在時の代決者と指定されている場合には,発出名義が所長である文書の決裁を事務局長が行うことになる。


第10 下級裁判所の裁判官会議に関する下級裁判所事務処理規則の条文
・ 下級裁判所事務処理規則(平成24年3月12日最終改正)には以下の条文があります。
第十二条 裁判官会議は、高等裁判所においては高等裁判所長官が、地方裁判所においては地方裁判所長が、家庭裁判所においては家庭裁判所長が、必要に応じてこれを招集する。
第十三条 各高等裁判所、各地方裁判所又は各家庭裁判所の判事(判事の権限を有する判事補を含む。 )の三分の一以上が会議の目的及び招集の理由を明らかにして請求したときは、高等裁判所長官、地方裁判所長又は家庭裁判所長は、速やかに裁判官会議を招集しなければならない。
第十四条 裁判官会議の議に付すべき事項は、あらかじめ、当該裁判官会議を組織する各裁判官にこれを通知しなければならない。但し、緊急やむを得ない場合は、この限りでない。
第十五条 裁判官会議は、公開しない。但し、裁判官会議の許可を受けた者は、 これを傍聴することができる。
② 判事補(判事の権限を有する者を除く。 )及び高等裁判所、地方裁判所又は家庭裁判所の裁判官の職務を行う裁判官は、所属の裁判所又は当該職務を行う裁判所の裁判官会議に出席して、意見を述べることができる。
③ 事務局長は、裁判官会議に出席して、意見を述べることができる。但し、裁判官会議において適当と認めるときは、その出席を拒み、又はこれを退席させることができる。
④ 首席書記官及び首席家庭裁判所調査官は、所管事務に関し、裁判官会議に出席して、意見を述べることができる。 この場合においては、前項但書の規定を準用する。
⑤ 裁判官会議において適当と認めるときは、当該裁判官会議を組織する裁判官以外の者の出席を求めて、説明又は意見を聞くことができる。
第十五条の二 検察審査会事務局長は、当該検察審査会の所在地を管轄する地方裁判所の定めるところにより、検察審査会の事務局の職員に関する事項について、裁判官会議に出席して、意見を述べることができる。
第十六条 裁判官会議は、当該裁判官会議を組織する裁判官の半数以上が出席しなければ決議をすることができない。
第十七条 裁判官会議の議事は、出席裁判官の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
第十八条 裁判官会議の議事については、議事録を作らなければならない。
② 議事録には、出席者の氏名、議事の経過の要領及びその結果を記載し、議長及びこれを作った者が、 これに署名しなければならない。
第十九条 緊急の事情のため裁判官会議を開くことができない場合には、高等裁判所長官、地方裁判所長又は家庭裁判所長は、応急の措置を講ずることができる。この場合には、次の裁判官会議において承認を得なければならない。
第二十条 司法行政事務は、裁判官会議の議により、その一部を当該裁判官会議を組織する一人又は二人以上の裁判官に委任することができる。
② 裁判官が、前項の規定により、その委任された事務を処理したときは、次の裁判官会議にこれを報告しなければならない。
第二十条の二 第十二条から前条まで(第十五条の二を除く。 )の規定は、知的財産高等裁判所に勤務する裁判官の会議について準用する。この場合において、第十二条中「高等裁判所においては高等裁判所長官が、地方裁判所においては地方裁判所長が、家庭裁判所においては家庭裁判所長が」 とあるのは「知的財産高等裁判所長が」 と、第十三条中「各高等裁判所、各地方裁判所又は各家庭裁判所の判事(判事の権限を有する判事補を含む。 ) 」 とあるのは「知的財産高等裁判所に勤務する判事」 と、同条及び第十九条中「高等裁判所長官、地方裁判所長又は家庭裁判所長」 とあるのは「知的財産高等裁判所長」と、第十五条第二項中「判事補(判事の権限を有する者を除く。)及び高等裁判所、地方裁判所又は家庭裁判所の裁判官の職務を行う裁判官」とあるのは「高等裁判所の裁判官の職務を行う裁判官のうち知的財産高等裁判所に勤務する裁判官」と、同条第三項中「事務局長」とあるのは「知的財産高等裁判所事務局長」と、同条第四項中「首席書記官及び首席家庭裁判所調査官」 とあるのは「知的財産高等裁判所首席書記官」 と読み替えるものとする。

第11 関連記事その他
1 「「法の番人」内閣法制局の矜持」(著者は阪田雅裕 元内閣法制局長官)22頁及び23頁には,筆者が北海道の苫小牧税務署長をしていた当時の体験として,以下の記載があります。
    組織というのはどうしても、上部組織の嫌がるようなことを耳に入れないようにする習性があるのです。だから不祥事などはできるだけ末端でもみ消して上に伝えない。たとえば、こんな施策をやってみたらどうかと企画立案をして現場で試行してもらう。後で「どうだった?」と聞くとたいてい「うまくいっています」という話になるのですが、本当はそうではない。そういう声は、組合交渉のような場を通じてしか上がってこないのです。だから組合というのは-御用組合ではない本当の組合が-とても大事だということを学ばせてもらいました。
2 裁判官の人事評価制度に関して,40期の浅見宣義裁判官らが平成13年12月までに提出した意見書が,裁判所HPの「最高裁判所事務総局に直接寄せられた裁判官の意見」に載っていますところ,例えば,裁判官の人事評価情報の本人開示に関して以下の発言をしています(リンク先26頁)。
    これまで日本の裁判官は、他の人の訴訟指揮は知らない、判決も知らない。唯我独尊的で、こもりたがる、それで何とか済んできた。ほかのことは全部無視していいから、司法行政なんかでもね。何があっても、とにかく殻に閉じこもれば済んできたんですけど、これからはお互いに批判すべきところは批判し合って、特に当事者からの批判意見もちゃんと聞いて、自分を変えていくというようなことがもう義務とならざるを得ない。非常につらいし、こんなことを言うと,みんなから嫌われるというか、うらまれる可能性もあるけども。
3 司法制度改革審議会の質問に対する最高裁判所の回答として,以下の記載があります(判例時報2144号(平成24年5月21日号)40頁)。
・ 最高裁人事局に各裁判官の人事関係記録があるほか、高裁、地家裁にも、所属裁判官の人事関係記録がある。下級裁判所の人事関係記録は、異動に伴って移転される。高裁長官、高裁事務局長、所長のように裁判官の人事に関与する者が、この記録を見ることができる。
・ 異動計画原案は、高裁管内の異動については主として各高裁が、全国単位の異動については最高裁人事局が立案し、いずれについても最高裁と各高裁との協議を経て異動計画案が作成される。
4(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 裁判官及び裁判官の秘書官以外の裁判所職員の勤務時間等について(平成28年3月25日付の最高裁判所事務総長の通達)
→ 略称は「勤務時間等総長通達」です。
・ 裁判官及び裁判官の秘書官以外の裁判所職員の育児休業等について(平成28年3月25日付の最高裁判所事務総長通達)
→ 略称は「育児休業等総長通達」です。
・ 最高裁判所に勤務する裁判官及び裁判官の秘書官以外の裁判所職員の勤務時間等について(平成28年3月30日付の最高裁判所事務総長通達)
・ 最高裁判所に勤務する裁判官及び裁判官の秘書官以外の裁判所職員の勤務時間等の運用について(平成28年3月30日付の最高裁判所人事局長通達)
・ 裁判所の庁舎等の管理に関する規程(昭和43年6月10日最高裁判所規程第4号)
・ 裁判所の庁舎等の管理に関する規程の運用について(昭和60年12月28日付の最高裁判所経理局長依命通達)
(2) 以下の記事も参照してください。
(最高裁判所関係)
・ 最高裁判所裁判官会議
・ 最高裁判所裁判官会議の議事録
・ 最高裁判所事務総局の各係の事務分掌(平成31年4月1日現在)
・ 最高裁判所事務総局の組織に関する法令・通達
・ 最高裁判所に設置されている常置委員会は全く開催されていないこと
・ 裁判所の指定職職員
・ 司法行政の監督権
(高等裁判所関係)
・ 東京高裁の歴代の代表常置委員
・ 大阪高裁の歴代の上席裁判官
・ 下級裁判所事務局の係の事務分掌
・ 司法行政部門における役職と,裁判部門における裁判所書記官の役職の対応関係
・ 下級裁判所の裁判官会議に属するとされる司法行政事務
・ 下級裁判所の裁判官会議から権限を委任された機関
(地方裁判所関係)
・ 東京地裁の所長代行者
・ 大阪地裁の所長代行者,上席裁判官等


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