最高裁判所における民事事件の口頭弁論期日


目次
第1 最高裁判所における民事事件の口頭弁論期日
第2 口頭弁論を経た上告棄却判決の実例
第3 口頭弁論を経ない上告棄却判決の実例
第4 上告審の口頭弁論をめぐる運用
第5 関連記事その他

第1 最高裁判所における民事事件の口頭弁論期日
・ 最高裁裁判所裁判部が作成した,民事書記官実務必携(平成28年4月1日現在)24頁ないし27頁には以下の記載があります。

第7 口頭弁論
1 口頭弁論期日の指定,呼出し
   審議の結果,口頭弁論を経ることになったときは,担当調査官から担当書記官に対してその旨の連絡がある。その後の事務処理を次のとおり行う。
(1) 口頭弁論期日の調整
ア 担当書記官は,当該小法廷の所定の開廷予定日中の数日について,裁判官の予定等を確かめた上,答弁書提出までの所要期間(当事者に代理人がいない場合は,選任のための所要期間を含む。)及び代理人等の出頭の便宜を考慮して,期日の調整をする。
イ 期日は,期日呼出に要する期間,答弁書提出に要する期間,答弁書副本送達に要する期間等を考慮し,原則として期日指定の日から約6週間先以降の開廷予定日を相当とする。
ウ 被上告人に代理人が選任されていないときは,原審又は第1審で提出された訴訟委任状に上告又は上告受理申立てに関する特別委任の記載がある場合には,当該代理人に連絡し,上告審においても代理するかどうかを確かめた上で期日の調整をする。
(2) 期日の指定
ア 期日の調整が完了したときは,システムにより口頭弁論期日指定書を作成し(期日のデータは登録しない。後記イ参照),裁判長の決裁を得る。
   なお,上告受理事件の場合には,原則として期日指定と同日付けで受理決定がされる。
イ 指定された期日は,首席書記官及び上席書記官に報告し,期日指定日当日にシステム入カする。
(3) 口頭弁論期日呼出状等の送達
ア システムにより, 「口頭弁論期日呼出状」, 「口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告書」を作成し,特別送達による方法で送達する。
イ 被上告人には期日を指定した事件の理由書副本を,並行申立て事件の場合には双方に上告棄却決定又は上告受理事件の受理決定若しくは不受理決定の正本を同封する。
   補助参加人等に対しても,手続に漏れのないようにする。
ウ 理由書提出期間経過後に提出された理由書の誤記訂正申立書,理由補充書等の送達の要否については,個別に検討する。
   なお,理由書は,当事者による直送可の書面に該当しないので注意する(規則47条,198条,199条2項)。
エ 呼出状等は,口頭弁論期日が指定された日に発送する。
(4) 期日の変更
   指定された口頭弁論期日を変更する必要が生じたときは,個別に検討する。期日変更申請書が提出されているときは,これを記録と共に供閲に付す。
   期日を変更することとなったときは,改めて次回期日の調整をし,上記(2)の処理をする。
2 答弁書等の送付
(1) 原則
   被上告人側が上告人に対してその副本を直送しなければならない(規則83条)。
(2) 例外
   裁判所が送付(この場合,答弁書正本の余白部分に必要事項を記載し,送付したことを明らかにする。)又は送達する場合がある。
ア 直送を困難とする事由その他相当とする事由があり,答弁書の送付又は送達の申出があった場合(規則47条4項)
イ 上記申出がないまま,副本を裁判所に送付してきた場合
被上告人に代理人がいる場合は,上告人に対する直送を依頼する。直送を依頼できない場合は,担当書記官は上告人に対して答弁書副本を送付し,答弁書正本の余白部分に必要事項を記載し,送付したことを記録上明らかにする。
(3) 上告人から相当期間内に受領書面が提出されない場合
上告人に対し,答弁書の直送を受けていることを確認した上,受領書面の提出を促す。
   なお,準備書面の直送をした当事者が,当該書面の欄外に「副本直送」と記載し,押印した準備書面を裁判所に提出したとしても,法161条3項にいう受領書面の提出があったものとして,その準備書面に記載した事実を相手方の在廷しない口頭弁論期日において主張することはできない。
(4) 答弁書提出命令(規則201条)
   答弁書提出命令が発令された場合は,命令書正本を書留郵便により告知する。
   なお,答弁書提出命令は最高裁判所における終局判断の裁判書ではないので, 命令書原本は記録に編年体によりつづり込む。
3 期日前の準備
(1) 訴訟記録等の再点検
ア 当審記録表紙の記載事項を再検討し,新たな事項,例えば,口頭弁論期日,追加された訴訟代理人及び訴訟承継人の氏名等を追加記載する。また,期日呼出状の送達報告書等も点検する。
イ 陳述が予定されている上告状,上告受理申立て書,理由書及び答弁書等については裁判長が法廷で検索しやすいようにするため,記録中の当該書類の箇所に書類名を記載した短冊を挿入する。
(2) 当事者から提出された書面の取扱い
   口頭弁論期日が指定された後,当事者から書面が提出された場合,担当書記官は,提出書面を裁判官及び担当調査官の供閲に付す。
4 口頭弁論期日の開催
(1) 開廷準備
ア 開廷日の前日(休日の場合は,その前執務日)
   担当書記官と法廷事務担当者との間で審理の進行予定その他必要な事項について打合せをする。
イ 法廷事務担当者が行う準備行為
(ア) 法廷出入口の開扉
(イ) 法廷内空調設備の調整
(ウ) 法廷出入口への開廷表の掲示
(エ) 裁判官入退廷扉の開閉点検
(オ) 合議室の整備
(カ) 法卓上の裁判官席札の配列
(キ) 法廷内マイクロホンの設置
(2) 開廷当日
ア 法廷事務担当者の立会い
   法廷事務担当者は,2名で1期日の事務を担当し,1名は法廷内における事件の呼上げ等を,他の1名は合議室と法廷との連絡等を,それぞれ担当する。
イ 訴訟記録の法廷への搬送
   開廷30分前までに搬送して,裁判長法卓上又は書記官席に置く。
ウ 訴訟記録が多いときの取扱い
   訴訟記録の冊数が多いときは,第1・2審判決書等がつづり込まれている記録及び当審記録のみを裁判長の法卓上に,その他の記録及び仮出した民事保管物を立会書記官の卓上に,それぞれ置くことを前提として,これらを区別し,記録を分冊番号順にそろえておく。
エ 訴訟関係人等の入廷
(ア) 訴訟関係人及び傍聴人は,開廷15分前までに入廷する。
(イ) 訴訟関係人は入廷するまでの間は,控室で待機する。
(ウ) 開廷10分前ころに,裁判関係庶務係から傍聴人に対して注意事項等について口頭説明する。
オ 立会書記官
   法廷には書記官2名が立ち会う。立会書記官は,訴訟関係人に先立って入廷し,必要な事務を処理する。
   立会書記官のうち1名は主として弁論経過を記録して口頭弁論調書を作成し,他の1名は主として法廷等の秩序維持に関する事務を担当し,法廷事務を担当する事務官に対して必要な指示を与えるほか,弁論経過以外の法廷内の状況を記録し,必要に応じ法廷等の秩序維持に関する規則9条に定める制裁調書を作成する。
カ 法廷内の写真撮影
   あらかじめ報道機関が広報課を通じて裁判長の許可を得た場合は,報道写真記者により,裁判官入廷開始時から裁判官全員着席後開廷宣言前の2分間,法廷内の写真撮影(スチル,ビデオカメラ)が行われる。
(3) 口頭弁論の実施
ア 裁判官の着席
(ア) 当該事件の主任裁判官が裁判長として中央席に着席し,他の裁判官は,就任順に中央席から傍聴席に向かって順次右,左,右,左と着席し,裁判長が開廷及び閉廷宣言をする。
(イ) 同一期日に裁判長が異なる複数の事件がある場合は,原則として上記切が繰り返される。
イ 調書等の作成
(ア) 口頭弁論調書
   「出頭した当事者等」欄の代理人等の記載は判決前書きの記載に合わせる(別紙5参照)。
(イ) その他の調書(制裁調書)等
    立会書記官のうち法廷等の秩序維持に関する事務を担当した書記官は,法廷の秩序維持に関する規則9条に定める制裁調書等を作成する。


第2 口頭弁論を経た上告棄却判決の実例
1(1) 平成30年10月以降の場合,口頭弁論を経た上告棄却判決の実例として以下のものがあります(カッコ内は最高裁の事件番号です。)。
① 最高裁平成30年10月19日判決
・ 「 共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は,譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き,上記譲渡をした者の相続において,民法903条1項に規定する「贈与」に当たる。」と判示したものです。
② 最高裁令和元年8月9日判決
・ 「 民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいう。」と判示したものです。
③ 最高裁令和2年10月15日判決(777号794号及び1519号
・ いずれも労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるかどうかに関する事例です。
④ 最高裁令和3年5月17日判決(1447号,1448号,1449号及び1452号)
・ 労働大臣が建設現場における石綿関連疾患の発生防止のために労働安全衛生法に基づく規制権限を行使しなかったことが屋内の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した労働者との関係において国家賠償法1条1項の適用上違法であるとされた事例です。
⑤ 最高裁令和3年7月5日判決
・ 「 会社法182条の4第1項に基づき株式の買取請求をした者は,同法182条の5第5項に基づく支払を受けた場合であっても,上記株式の価格につき会社との協議が調い又はその決定に係る裁判が確定するまでは,同法318条4項にいう「債権者」に当たる。」と判示したものです。
⑥ 最高裁令和4年1月18日判決
・ 「不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金は,民法405条の適用又は類推適用により元本に組み入れることはできない。」と判示したものです。
⑦ 最高裁令和4年4月18日判決
・ 「相続税の課税価格に算入される不動産の価額を財産評価基本通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが租税法上の一般原則としての平等原則に違反しないとされた事例」です。
⑧ 最高裁令和4年6月17日判決(1165号)

・ 「国が、津波による原子力発電所の事故を防ぐために電気事業法(平成24年法律第47号による改正前のもの)40条に基づく規制権限を行使しなかったことを理由として国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負うとはいえないとされた事例」である最高裁令和4年6月17日判決と同趣旨のものと思います。
(2) 「最高裁の既済事件一覧表(民事)」も参照してください。
2 54期の村田一広裁判官が執筆した「最高裁判所における口頭弁論の実情等について」(民事訴訟雑誌68巻(2022年3月20日付)46頁及び54頁には以下の記載があります。
     最高裁判所が、口頭弁論を経た上で、上告棄却判決を言い渡すことができることはいうまでもなく、上告棄却判決をする場合に口頭弁論を開くかどうかは、上告裁判所の手続裁量に属する。
(中略)
   当事者(訴訟代理人弁護士)としては、最高裁判所が口頭弁論期日を指定したからといって、原判決が破棄されると受け止めるべきではなく、裁判官にとって分かりやすい弁論のために最善を尽くすことが期待されているといえよう。

第3 口頭弁論を経ない上告棄却判決の実例
1 口頭弁論を経ない上告棄却判決の実例としては以下のものがあります(「最高裁判所における口頭弁論の実情等について」(民事訴訟雑誌68巻(2022年3月20日付)47頁及び48頁)参照)。
① 最高裁平成14年12月17日判決
・ 不適法でその不備を補正することができない訴えを却下する前提として原判決を破棄した事例です。
② 最高裁平成18年9月4日判決
・ 判決で訴訟の終了を宣言する前提として原判決を破棄した事例です。
③ 最高裁平成19年1月16日判決
・ 判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が判決をした裁判官として署名押印していることを理由に原判決を破棄した事例です。
④ 最高裁平成19年3月27日判決
・ 職権探知事項に当たる中断事由が存在することを確認して原判決を破棄した事例です。
⑤ 最高裁平成22年3月16日判決
・ 固有必要的共同訴訟において合一確定の要請に反する判断をした原判決を破棄した事例です。
2 「最高裁判所における口頭弁論の実情等について」(民事訴訟雑誌68巻(2022年3月20日付)48頁には以下の記載があります。
    最高裁判所は、当事者が提出した書面等から原判決破棄の結論を導き出し得ることのみをもって、当事者の意見を聴くことに意味がないと結論付けているわけではなく、口頭弁論期日を指定して弁論の機会を付与することが明らかに訴訟経済に反すること等に鑑みて、飽くまでも例外的に口頭弁論を省略して原判決を破棄し得る場合を認めているものと解される(一般的には、口頭弁論を省略して原判決を破棄することの可否は慎重に判断すべきものであろう。)。


第4 上告審の口頭弁論をめぐる運用
1 「最高裁判所における口頭弁論の実情等について」(民事訴訟雑誌68巻(2022年3月20日付)48頁には以下の記載があります。
    最高裁判所においては、現在、大半の口頭弁論期日において、当事者による実質的な弁論が実施されている(なお、最高裁判所において口頭弁論が実施される事案のほとんどにおいて訴訟代理人弁護士が選任されており、最高裁判所における弁論は、訴訟代理人弁護士によって行われているのが実情である。)。
具体的には、裁判長は、訴訟代理人弁護士に対し、①従前と同様、提出済みの理由書等や答弁書を確認し、形式的に陳述扱いとするが、②これに加え、上告理由又は答弁内容を補足して述べることがあるか否かを確認するなどして、口頭による補足説明を促しており、多くの事件において、訴訟代理人弁護士が高騰による実質的な弁論を行っている。なお、上告人が主張する上告の理由は、法定期間内に提出された理由書等によって画されるから、上告人が、口頭による実質的な弁論において、理由書等に記載していない新たな上告の理由を追加することは予定されていない。また、最高裁判所が論旨排除決定をした場合、当事者は、排除された論旨について弁論することのないように注意する必要がある。
2 税務訴訟の法律実務[第2版]322頁には以下の記載があります。
    最高裁で口頭弁論期日が指定される場合でも、その期日は1回限りであるのが通常である。最高裁の口頭弁論期日では、当事者(代理人)が希望すれば、口頭での弁論(パフォーマンス的なもの)を行うことができるが、新たな主張書面・証拠の提出はできないため、儀礼的に行われる要素が強い。
    もっとも、最高裁での弁論はその場所がかもし出す雰囲気や、最高裁裁判官の目の前で当事者席に座るという緊張感などから、第1審や控訴審の口頭弁論とは違う様相を呈している。筆者も最高裁の小法廷で2回ほど弁論をしたことがあり、また、所属事務所の他の弁護士の弁論を傍聴したこともあるが、最高裁の裁判官の面前で、マイクを通じて口頭での弁論の機会が与えられることは、代理人冥利に尽きる。


第5 関連記事その他
 「判例とその読み方(三訂版)」102頁には「弁論の目的は各自の主張を強調しかつ明確にすることにあるのであって、上告理由書や上告趣意書をそのまま読み上げるのが弁論ではない。」と書いてあります。
2 以下の記事も参照してください。
・ 最高裁判所裁判部作成の民事・刑事書記官実務必携
・ 最高裁判所における刑事事件の弁論期日
・ 最高裁判所の口頭弁論期日で配布された,傍聴人の皆様へ



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