第1 「対応関係」の意味
1 基準となるのは職制上の段階であること
司法行政部門の役職と裁判所書記官等の役職との間で,法令上確認できる共通の基準は,官職が属する「職制上の段階」である。
これは,採用,昇任,降任,転任その他の人事管理に用いられる官職の区分であり,職務の複雑さ,困難さ及び責任の程度を基礎としている。本記事では,この職制上の段階が同じであることを「対応」と表現する。
したがって,対応表は,司法行政部門の職員が裁判部門の職員を指揮命令する関係又はその逆の関係を示すものではない。また,「裁判部門」は説明上の便宜的な表現であり,表に掲げる裁判所書記官等も司法行政事務を担当することがある。

2 給与,指揮命令関係又は叙勲との違い
職制上の段階,給与上の俸給表・級・号俸,予算上の級別定数及び叙勲は,目的も根拠も異なる。例えば,同じ職制上の段階に属する官職であっても,同じ俸給表,同じ級又は同じ号俸になるとは限らない。
また,叙勲は個人の功労を評価して授与されるものであり,官職そのものの法的な序列ではない。叙勲の運用については,「春秋叙勲の候補者の選考及び勲章の種類」を参照されたい。
第2 法令,規則及び依命通達
1 国家公務員法と裁判所職員臨時措置法
裁判所職員臨時措置法は,裁判官及び裁判官の秘書官以外の裁判所職員について,その性質に反しない限り,国家公務員法等の規定を準用している。
国家公務員法34条は,昇任を「職員をその職員が現に任命されている官職より上位の職制上の段階に属する官職に任命すること」と定義し,降任も同じ基準で定義している。職制上の段階は,給与だけでなく,人事管理上の基礎となる概念である。
2 標準的な官職を定める最高裁判所規則
最高裁判所規則である「裁判官及び裁判官の秘書官以外の裁判所職員の標準的な官職を定める規則」は,平成21年4月1日に施行された。
同規則が定める標準的な官職は,上位から,①事務総長,②局長,③課長,④課長補佐,⑤係長,⑥裁判所事務官の6段階である。旧来の個別役職の呼称をそのまま並べるのではなく,まずこの6段階を軸に整理する必要がある。
3 官職を各段階へ当てはめる依命通達
個々の官職を前記6段階へ当てはめているのが,平成21年3月31日付け最高裁人任A第000563号事務総長依命通達「裁判官及び裁判官の秘書官以外の裁判所職員の官職の属する職制上の段階等について」である。
同通達の別表は,最高裁判所,高等裁判所及び下級裁判所の官職を,所属組織と職務の違いに応じて各段階へ配置している。なお,同通達の記2から記5までは,一部の教官,係長,検察審査会事務局長及び高等裁判所の家庭裁判所調査官について,直前の官職等を基準とする個別の取扱いを定めている。
第3 司法行政部門の官職が属する職制上の段階
1 事務総長及び局長の段階
司法行政部門の官職について,依命通達の別表を要約すると,事務総長及び局長の段階は次のとおりである。ここでいう「事務総局の課長」と,次項に掲げる「事務総局の局の課長」は,別表上区別されている。
| 標準的な官職 | 司法行政部門の官職 |
|---|---|
| 事務総長 | 最高裁判所事務総長,最高裁判所事務次長,司法研修所長,裁判所職員総合研修所長 |
| 局長 | 最高裁判所事務総局の局長・課長,審議官,家庭審議官,司法研修所事務局長,裁判所職員総合研修所事務局長,最高裁判所図書館長,高等裁判所事務局長・事務局次長 |
2 課長以下の段階
課長以下の段階には,同じ又は近い呼称であっても,勤務する裁判所や組織によって異なる段階に位置付けられる官職がある。次表は,検索しやすさを保つため,別表の官職を組織別にまとめたものである。
| 標準的な官職 | 最高裁判所等 | 高等裁判所 | 下級裁判所等 |
|---|---|---|---|
| 課長 | 事務総局の局の課長,室長,参事官,職員管理官,審査官,首席技官,次席技官,司法研修所の事務局次長・課長,裁判所職員総合研修所の事務局次長・課長・研究企画官・所定の教官,最高裁判所図書館の副館長・課長 | 事務局課長,総括企画官,文書企画官,知的財産高等裁判所事務局長 | 事務局長,事務局次長,事務部長,所定の検察審査会事務局長 |
| 課長補佐 | 課長補佐,室長補佐,職員管理官補佐,厚生管理官補佐,訟廷首席書記官補佐,企画官,専門官,工務検査官,主任技官,営繕企画官,班長,裁判所職員総合研修所の教官,所定の係長 | 課長補佐,企画官,専門官,庶務課長,知的財産高等裁判所の課長,首席技官,主任技官 | 課長,文書企画官,課長補佐,企画官,専門官,検察審査会事務局長・課長 |
| 係長 | 係長,専門職,主任,調査員 | 係長,専門職,主任,調査員,営繕専門職 | 係長,専門職,主任,調査員,検察審査会の係長・主任 |
| 裁判所事務官 | 裁判所事務官,裁判所技官 | 裁判所事務官,裁判所技官 | 裁判所事務官,検察審査会事務官,法廷警備員 |
個別取扱いの対象となる官職については,官職名だけで段階を断定できない場合がある。具体的な人事案件では,依命通達の本文,別表及び記2から記5までを併せて確認する必要がある。
第4 裁判所書記官等の官職との対応関係
1 最高裁判所
最高裁判所に置かれる裁判所書記官等の官職と職制上の段階との対応は,次のとおりである。
| 標準的な官職 | 最高裁判所の裁判所書記官等の官職 |
|---|---|
| 局長 | 大法廷首席書記官,小法廷首席書記官,訟廷首席書記官 |
| 課長・課長補佐・係長にまたがる別表の結合欄 | 裁判所書記官,裁判所調査官,訟廷首席書記官補佐,係長 |
第2行は,4つの官職が一律に3つの段階すべてへ属するという意味ではない。依命通達の別表が課長,課長補佐及び係長の3行にまたがる結合欄で表示しているため,公開されている別表だけから,個々の官職を1段階へ一律に割り切ることはできない。
2 下級裁判所
高等裁判所,地方裁判所及び家庭裁判所等に置かれる裁判所書記官等については,依命通達の別表から次の対応を確認できる。
| 標準的な官職 | 下級裁判所の裁判所書記官等の官職 |
|---|---|
| 課長 | 首席書記官,知的財産高等裁判所首席書記官,次席書記官,総括主任書記官,裁判所調査官 |
| 課長補佐 | 訟廷管理官,裁判員調整官,訟廷副管理官,主任書記官,裁判部企画官,速記管理官,速記副管理官,主任速記官 |
| 係長 | 裁判所書記官,係長,裁判所速記官 |
この表により,例えば,下級裁判所の首席書記官は課長段階,主任書記官は課長補佐段階,裁判所書記官は係長段階にそれぞれ対応することが分かる。ただし,同じ「裁判所書記官」の官名を有する職員が主任書記官等を命ぜられる場合があるため,身分上の官名と職務上の役職を区別する必要がある。
3 対応する官職が置かれていない段階
依命通達の別表では,裁判所書記官等の官職について,事務総長段階及び最下位の裁判所事務官段階に対応する欄がない。したがって,「どの司法行政部門の役職にも,必ず同段階の裁判所書記官の役職がある」という関係ではない。
また,最高裁判所の裁判所書記官等については,前記のとおり3段階にまたがる結合欄がある。公開資料が示す粒度を超えて,個々の官職を機械的に1対1で対応させるべきではない。
第5 平成30年当時の指定職号俸
1 指定職号俸の一覧
最高裁判所裁判官会議は,平成30年6月6日,「指定職俸給表の準用を受ける職員の号俸について」を決定し,同年7月1日から実施した。公開されている同決定による主な官職は,次のとおりである。
| 指定職号俸 | 主な官職 |
|---|---|
| 8号俸 | 最高裁判所事務総長 |
| 3号俸 | 最高裁判所事務総局の審議官,大法廷首席書記官,家庭審議官,東京高等裁判所事務局次長 |
| 2号俸 | 小法廷首席書記官,訟廷首席書記官,裁判所職員総合研修所事務局長,東京高等裁判所以外の高等裁判所事務局次長,東京地方裁判所事務局長,指定された家庭裁判所の首席家庭裁判所調査官 |
この表は平成30年7月1日時点の指定職号俸を示す資料である。現在の官職別号俸を示す最新の裁判官会議決定は,公開資料から確認できなかったため,現在の号俸として引用することはできない。
2 大阪高裁事務局次長の位置付け
平成30年決定では,大阪高等裁判所事務局次長だけを独立した区分にはしていない。東京高等裁判所事務局次長は3号俸である一方,大阪を含むその他の高等裁判所事務局次長は2号俸であり,小法廷首席書記官及び訟廷首席書記官と同じ号俸である。
もっとも,指定職号俸が同じであることは,職制上の段階が同じであることの根拠ではない。依命通達上は,東京,大阪その他の高等裁判所事務局次長はいずれも局長段階であり,号俸の違いは給与制度上の別問題である。
第6 令和7年度の級別定数
1 級別定数の意味
一般職の職員の給与に関する法律6条3項及び8条は,俸給表ごとに職務の級を設け,級別定数を定める仕組みを採用している。級別定数は,各級へ置くことのできる職員数の枠であり,個々の職員の職制上の段階又は役職名を直接決める表ではない。
最高裁判所の令和5年2月27日付け「令和4年度答申第30号」も,級別定数の資料と裁判所データブックは作成目的が異なり,両者の数値には直接の対応関係がないと説明している。役職別の級別定数は,職制上の段階の対応表とは分けて読む必要がある。
2 下級裁判所の役職別内訳
最高裁判所が公表した「令和7年度予算における下級裁判所職員の級別定数等」によれば,主な役職の定数と級の幅は次のとおりである。
| 役職 | 定数 | 職務の級 |
|---|---|---|
| 事務局長 | 74人 | 10級~8級 |
| 事務局次長 | 107人 | 8級~7級 |
| 課長 | 592人 | 8級~5級 |
| 課長補佐 | 345人 | 6級~4級 |
| 係長 | 1300人 | 4級~3級 |
| 首席書記官 | 144人 | 10級~7級 |
| 次席書記官 | 218人 | 8級~7級 |
| 主任書記官 | 2364人 | 7級~5級 |
| 裁判所書記官 | 7104人 | 5級~2級 |
例えば,課長は5級から8級まで,首席書記官は7級から10級までに分布しており,両者の級は重なっている。この重なりは,役職名から職務の級を1対1で推定できないことを示している。
第7 令和6年新設の裁判部企画官
令和6年最高裁判所規則第5号による改正後の「大法廷首席書記官等に関する規則」6条の3は,指定された高等裁判所,地方裁判所及び家庭裁判所に裁判部企画官を置く制度を新設し,令和6年4月1日に施行された。
裁判部企画官は,一定の基準に該当する裁判所書記官の中から命ぜられ,首席書記官の命を受けて,裁判所書記官及び裁判所速記官の一般執務についての指導監督並びに訟廷事務の企画及び立案に参画する。配置裁判所と員数は,令和6年3月11日付け最高裁総一第272号「裁判部企画官を置く高等裁判所等の指定及び裁判部企画官の員数の定めについて」に定められている。
これに伴い,職制上の段階を定める依命通達の別表も改正され,裁判部企画官は課長補佐段階に追加された。この役職は,裁判所書記官の職務に基礎を置きつつ,指導監督及び企画立案を担うため,「裁判部門」と「司法行政部門」を完全に二分できないことを示す例でもある。
なお,「大法廷首席書記官等に関する規則」8条は,同規則の規定が裁判官,裁判所書記官その他の裁判所職員の権限に影響を及ぼし,又はこれを制限するものと解してはならない旨を定めている。役職間の対応表を,裁判手続上の権限の優劣へ読み替えることはできない。
第8 関連する記事
①「司法行政を担う裁判官と司法行政の仕組み(AIリライト)」
②「裁判所書記官の役職」
⑥「裁判所書記官,裁判所調査官及び裁判所事務局の役職名に関する規則等」
⑦「裁判所の事務局」
⑧「下級裁判所の幹部職員名簿」
出典・参考資料
1 法令・規則
② 国家公務員法
④ 裁判官及び裁判官の秘書官以外の裁判所職員の標準的な官職を定める規則
2 公文書・データ
① 平成21年3月31日付け最高裁人任A第000563号事務総長依命通達「裁判官及び裁判官の秘書官以外の裁判所職員の官職の属する職制上の段階等について
② 平成30年6月6日最高裁判所裁判官会議決定「指定職俸給表の準用を受ける職員の号俸について
③ 最高裁判所「令和7年度予算における下級裁判所職員の級別定数等」
④ 最高裁判所令和5年2月27日付け「令和4年度答申第30号」
⑤ 令和6年3月11日付け最高裁総一第272号「裁判部企画官を置く高等裁判所等の指定及び裁判部企画官の員数の定めについて」
3 文献
① 宇賀克也『行政法概説Ⅲ 行政組織法/公務員法/公物法 第5版』(有斐閣,2019年)373頁