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企業法務・民事実務

株主総会決議の不存在―招集通知の欠缺,招集権限のない者の招集,後続決議への連鎖,全員出席総会及び追認(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 決議の瑕疵を争う三つの訴え第3 決議が不存在とされる場合1 招集通知が大部分の株主に全くされなかった場合2 招集の権限のない者が招集した場合3 取消事由にとどまる場合との境界4 判断の視点第4 全員出席総会と招集手続の省略1 全員出席総会2 会社法300条の招集手続の省略3 一部の株主しか出席していない場合第5 後続の決議への連鎖1 不存在の決議で選任された取締役による招集2 先行決議の存否を確認する利益第6 追認・再決議1 取消事由にとどまる決議の再決議2 不存在の決議の追認第7 不存在を主張する場面と期間1 訴えと前提問題としての主張2 解任決議が不存在の場合の報酬請求第8 実務上の確認事項1 会社側2 株主・役員側第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例第11 確認状態
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,株主総会の決議に手続上の瑕疵がある場合に,その決議が「取り消すことができる決議」にとどまるのか,それとも決議が法律上「存在しない」と評価されるのかを,最高裁判所の判例に即して整理する。
決議の不存在は,取消しの訴えと異なり期間の制限がないため,招集手続の瑕疵に後から気付いた株主や解任された役員にとって重要な意味を持つ。
法令は,令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索(法令API)で確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトで判示事項・裁判要旨(一部は判決全文)を確認したものに限って紹介している。

2 結論

①招集手続の瑕疵は原則として決議取消しの事由(会社法831条1項1号)であり,決議の日から3か月以内に訴えで主張しなければならない。
②もっとも,大部分の株主に招集通知が全くされず,一部の株主だけで決議をした場合や,招集の権限のない者が取締役会の決議を経ずに招集した場合には,株主総会の決議があったとはいえないとした最高裁判所の判例がある。
③不存在の決議で選任された取締役らが招集した後続の総会の決議も,全員出席総会であったなどの特段の事情がない限り不存在になるとした判例がある。
④招集手続を欠いても,株主全員が開催に同意して出席した全員出席総会の決議は有効であり,会社法は株主全員の同意による招集手続の省略も認めている(300条)。
⑤取消事由にとどまる決議については,遡って効力を生ずる同一内容の再決議がされると取消しの訴えの利益が失われるとした判例があるが,不存在の決議を追認して遡って有効にすることはできず,追認の決議は新たな決議として効力を持つにとどまると考えられる(本記事の解釈)。

第2 決議の瑕疵を争う三つの訴え
訴え対象となる瑕疵期間条文決議取消しの訴え招集手続・決議方法の法令・定款違反又は著しい不公正,決議内容の定款違反,特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議決議の日から3か月831条1項決議無効確認の訴え決議の内容の法令違反なし830条2項決議不存在確認の訴え決議が存在しないことなし830条1項

いずれも会社を被告とし(会社法834条16号・17号),請求を認容する確定判決は第三者に対しても効力を有する(会社法838条)。
取消しの訴えについては,招集手続・決議方法の法令・定款違反があっても,違反が重大でなく,かつ決議に影響を及ぼさないときは,裁判所は請求を棄却することができる(会社法831条2項)。

第3 決議が不存在とされる場合
1 招集通知が大部分の株主に全くされなかった場合

最高裁判所第二小法廷昭和33年10月3日判決(昭和31年(オ)第396号,民集12巻14号3053頁)は,株主9名・株式総数5000株の会社で,株主の一人である代表取締役が,自己の実子である2名の株主に口頭で招集を伝えただけで,他の6名の株主(持株2100株)には招集の通知を全くせず,親子3名だけで決議をした事案について,株主総会が成立しその決議があったものということはできないとした。
判決文は,手続に瑕疵があっても「決議取消の事由たるに過ぎず」とする上告人の主張に対し,決議は「なんら法律所定の手続によらず単に親子三名によつてなされた」として,不存在とした原審の判断を相当としている。
株式数で4割強(2100株/5000株),株主数で3分の2の株主が総会の開催を知る機会を全く与えられず,出席したのが身内だけであった点が重視されたといえる。

2 招集の権限のない者が招集した場合

最高裁判所第一小法廷昭和45年8月20日判決(昭和44年(オ)第276号,集民100号373頁)は,取締役会の決議を経ることなく,代表取締役以外の取締役によって招集された株主総会は,法律上の意義における株主総会とはいえず,そこで決議がされても,株主総会の決議があったものと解することはできないとした。

3 取消事由にとどまる場合との境界

招集手続の瑕疵のすべてが不存在をもたらすわけではない。
最高裁判所第一小法廷昭和46年3月18日判決(昭和44年(オ)第89号,民集25巻2号183頁)は,招集が取締役会の有効な決議に基づかず,招集の通知もすべての株主に対して法定の期間に2日足りない12日前にされた事案について,決議の取消請求を裁量棄却することの許されない重大な瑕疵があるとした。
この事案では,瑕疵は重大とされたが,扱いは取消しの問題であった。
招集の通知が全株主にされていたかどうかが,前記1との大きな違いである。

4 判断の視点

判例の事案からは,次のような事情が,不存在か取消しかを分ける目安になると考えられる(本記事の整理)。

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見せ金(仮装払込み)による募集株式の発行―会社法213条の2・213条の3の支払義務,議決権行使の制限,新株発行の無効及び株主の対応(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 見せ金とは何か1 典型的な見せ金2 会社の資金が還流する型3 判断に使う事情第3 平成26年改正前の扱い1 旧商法の下での判例2 平成26年改正で置かれた規定第4 現行法の仕組み1 引受人の支払義務2 関与した取締役の支払義務3 支払までの権利行使の制限4 株式を譲り受けた者5 設立の際の仮装払込み第5 既存株主が採れる手段1 責任追及等の訴え2 株主総会決議の取消しの訴え3 新株発行無効の訴え4 新株発行不存在確認の訴え第6 仮装払込みは新株発行の無効原因か1 無効原因の考え方2 否定する見方3 肯定する見方4 本記事の見方第7 会社・取締役の実務上の注意第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例第10 確認状態
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,株式会社が募集株式を発行する際に,引受人が実際には出資をしないまま払込みの外形だけを整える「見せ金」(仮装払込み)が行われた場合に,引受人・取締役の責任,株式の権利行使の制限,新株発行の効力及び既存株主が採れる手段を整理する。
法令は,令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索(法令API)で確認し,平成26年の会社法改正で置かれた規定の文言は,衆議院ウェブサイトに掲載された改正法の本文でも確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイトで判示事項・裁判要旨と判決全文を確認したものに限って紹介している。

2 結論

①一時的な借入金で払込みの外形を整え,直ちに払い戻して借入先に返済するような払込みは,有効な払込みとはいえないとした最高裁判所の判例がある。
②払込みを仮装した引受人は,会社に対し,仮装した払込金額の全額を支払う義務を負い(会社法213条の2第1項1号),この義務は総株主の同意がなければ免除できない(同条2項)。
③仮装に関与した取締役(会社法施行規則46条の2が定める者)も,注意を怠らなかったことを証明しない限り,引受人と連帯して同じ額を支払う義務を負う(会社法213条の3)。
④引受人は,これらの支払がされるまで,仮装した株式について株主の権利を行使できず(会社法209条2項),その株式を譲り受けた者も,悪意又は重大な過失があれば同じく権利を行使できない(同条3項)。
⑤したがって,仮装払込みに係る株式の議決権を算入して成立した株主総会決議は,決議の方法の法令違反として取消しの対象になり得る(会社法831条1項1号)。
⑥仮装払込みが新株発行の無効原因になるかは,現行法の下で直接判断した最高裁判所の判例を確認できず,会社法が株式の成立を前提とする支払義務と権利行使の制限を用意していることから否定する見方と,全額が仮装で関係者が悪意の非公開会社のような場合には肯定する見方が考えられる。
⑦株主は,引受人・取締役の支払義務について責任追及等の訴え(会社法847条1項)を検討できる。

第2 見せ金とは何か
1 典型的な見せ金

最高裁判所第二小法廷昭和38年12月6日判決(昭和35年(オ)第1154号,民集17巻12号1633頁)は,会社設立の際の払込みについて,「当初から真実の株式払込として会社資金を確保する意図なく,一時的借入金を以て単に払込の外形を整え,株式会社成立の手続後直ちに右払込金を払い戻してこれを借入先に返済した場合は,有効な株式払込がなされたものとはいえない」とした。
払込みの前後の資金の動きを全体として見て,払込金が会社の資金として確保されたといえるかを問う考え方である。

2 会社の資金が還流する型

会社自身が第三者に融資した資金が,別の者を経由して引受人に渡り,それで払込みがされる場合も,会社の財産は実質的に増えない。
例えば,会社が乙に5000万円を融資し,乙がそれを引受人丙に融資し,丙がその資金で払い込み,しかも「丙が乙に返済しない限り会社は乙に返済を求めない」と合意しているような場合,会社に残るのは回収の見込みのない貸付債権だけである。
このような場合も,払込金が会社の資金として確保されていないという点で,典型的な見せ金と同じ評価を受けると考えられる(本記事の解釈)。
令和8年司法試験の論文式試験(民事系科目第2問)は,この型の事例を出題している(「令和8年度司法試験民事系第2問の参考答案と予想される評価項目」)。

3 判断に使う事情

仮装かどうかは,一つの事情だけで決まるものではなく,次のような事情を総合して判断することになる(本記事の整理)。

事情仮装を推認させる方向払込資金の出所借入金,とりわけ会社自身や会社の関係者からの資金である払込み後の資金の動き払込みの直後に払い戻され,借入先への返済に充てられる返済の条件会社が回収しない旨の合意がある,又は回収の見込みがない払込金の使途会社の事業資金として使われていない増資の目的取引先や許認可の関係で資本金の額を大きく見せることが目的である
第3 平成26年改正前の扱い
1 旧商法の下での判例

最高裁判所第三小法廷平成9年1月28日判決(平成5年(オ)第317号,民集51巻1号71頁)は,新株発行の無効原因について判断した中で,「いわゆる見せ金による払込みがされた場合など新株の引受けがあったとはいえない場合であっても,取締役が共同してこれを引き受けたものとみなされるから(同法二八〇条ノ一三第一項),新株発行が無効となるものではなく」と述べ,見せ金による払込みは新株発行の無効原因にならないとした。
この部分は判決理由中の判示であり,同判決の裁判要旨は,新株発行に関する事項の公示(公告又は通知)を欠くことが原則として無効原因になるという点である。

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譲渡制限株式の譲渡承認請求と「承認したものとみなされる」場合―会社法136条から145条の期間,指定買取人,撤回,売買価格及び名義書換(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 譲渡制限株式の譲渡と会社の承認の関係1 承認がなくても当事者間では有効である2 会社に対して株主であることを主張するには承認と名義書換が要る第3 承認の請求の二つのルート1 株主からの請求(会社法136条)2 株式取得者からの請求(会社法137条)3 請求で明らかにする事項と買取りの請求第4 会社の決定と通知の期限1 決定する機関2 請求の日から2週間以内の通知3 承認しない場合の会社の買取り又は指定買取人4 買取りの通知と供託第5 会社が承認をしたものとみなされる場合(会社法145条)1 三つの場面2 承認しない旨の通知をした後に放置した場合(145条2号)3 別段の合意第6 請求の撤回と売買価格1 請求の撤回2 売買価格の決め方第7 承認の後の名義書換と二重譲渡1 名義書換の請求2 会社が書換えを拒み又は遅らせた場合3 株式が二重に譲渡された場合第8 会社側・株主側の実務上の確認事項1 会社側2 株主(譲渡人)・譲受人側第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例第11 確認状態
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,定款で株式の譲渡に会社の承認を要すると定めている会社(非公開会社の大半がこれに当たる。)の株式を,株主が第三者に売りたい場合,又は第三者が既に取得した場合に,会社法136条から145条までの譲渡承認の手続がどのように進むかを整理する。
中心となるのは,会社が法定の期間内に必要な通知をしなかったときに,会社が承認をしたものとみなされる場面(会社法145条)である。
法令は,令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索(法令API)で確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトで判示事項・裁判要旨(一部は判決全文)を確認したものに限って紹介している。

2 結論

①譲渡制限株式の譲渡は,会社の承認がなくても譲渡の当事者間では有効であるが,会社の承認がなければ株主名簿の名義書換を請求できず,会社に対して株主であることを主張できない。
②承認の請求は,譲り渡そうとする株主(136条)からも,既に取得した者(137条。原則として株主名簿上の株主と共同して請求する。)からもできる。
③請求の際に「承認しないなら会社又は指定買取人が買い取れ」と請求しておくと(138条1号ハ・2号ハ),会社は承認しないときに,自ら買い取るか,買い取る者を指定しなければならない(140条)。
④会社が請求の日から2週間以内に承認するかどうかを通知しないとき(145条1号),又は承認しない旨の通知の日から40日以内に会社の買取りの通知をせず,指定買取人も10日以内に買取りの通知をしないとき(145条2号)等には,会社は承認をしたものとみなされる。
⑤承認がみなされれば,譲受人は株主名簿の名義書換を請求でき(134条1号),会社が正当な事由なく書換えを拒み,又は過失で書き換えなかったときは,会社は書換えがないことを理由に譲渡を否認できないとした最高裁判所の判例がある。
⑥会社又は指定買取人が買い取る場合の売買価格は,協議が調わなければ,買取りの通知の日から20日以内に裁判所に決定を申し立てることができ,期間内に申立ても協議の成立もなければ,1株当たり純資産額を基準とする額になる(144条)。

第2 譲渡制限株式の譲渡と会社の承認の関係
1 承認がなくても当事者間では有効である

最高裁判所第二小法廷昭和48年6月15日判決(昭和47年(オ)第91号,民集27巻6号700頁)は,定款で株式の譲渡に取締役会の承認を要すると定めている場合に,その承認を得ないで株式が譲渡されても,「右株式の譲渡は,譲渡当事者間においては有効であると解すべきである」とした。
また,最高裁判所第三小法廷平成5年3月30日判決(平成元年(オ)第1006号,民集47巻4号3439頁)は,いわゆる一人会社の株主がした株式の譲渡は,定款所定の取締役会の承認がなくても,会社に対する関係においても有効であるとした。
いずれも会社法制定前の商法204条1項についての判断であるが,譲渡の制限が会社の利益(好ましくない者が株主になることを防ぐこと)のためのものであることを前提とする点で,現行法の下でも同じように考えられている。

2 会社に対して株主であることを主張するには承認と名義書換が要る

株式の譲渡は,取得した者の氏名等を株主名簿に記載しなければ,会社その他の第三者に対抗することができない(会社法130条1項。株券発行会社では会社に対してのみ。同条2項)。
そして,株式取得者が名義書換を請求できるのは,取得した株式が譲渡制限株式である場合には,原則として,その取得について会社の承認を受けているときに限られる(会社法134条1号・2号)。
したがって,承認を受けていない譲受人は,当事者間では株主であっても,会社に対しては株主として権利を行使できない。

第3 承認の請求の二つのルート
1 株主からの請求(会社法136条)

譲渡制限株式の株主は,その株式を他人に譲り渡そうとするときは,会社に対し,その他人が株式を取得することについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる(会社法136条)。
譲渡の相手方が決まった段階で,譲渡の前に請求するのが通常の使い方である。

2 株式取得者からの請求(会社法137条)

譲渡制限株式を既に取得した者も,会社に対し,取得したことについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる(会社法137条1項)。
この請求は,原則として,株主名簿に株主として記載された者(譲渡人)又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない(同条2項)。
共同請求が要らない例外は法務省令で定められており,譲渡人に対して請求をすべきことを命ずる確定判決を得た場合,競売により取得した場合等である(会社法施行規則24条1項)。

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タイムズカー約660万アカウントの個人情報漏えいから考える本人通知―退会者・入会未完了者・法人会員の登録運転者(AI作成)

第1 本記事の対象と結論
第2 第1報から第3報までに判明したこと
第3 約660万「アカウント」と本人の数は同じとは限らない
第4 不正アクセスでは1000人超でなくても報告対象となり得る
第5 公表と本人への個別通知は別の手続である
第6 退会者及び入会未完了者への通知
第7 法人会員,契約担当者及び登録運転者の切り分け
第8 貸渡約款を読むときの注意点
第9 対象者が当面行うこと
第10 事業者が残すべき通知台帳
第11 損害賠償と裁判例
第12 確認済み・公表者の説明・投稿者の説明・推論・未確認事項
第13 関連記事
第14 出典及び調査範囲

第1 本記事の対象と結論

本記事は,タイムズモビリティ株式会社が令和8年9月25日及び同月28日に公表した「タイムズカーWebサイト」への不正アクセスを題材として,個人情報保護法上の漏えい等報告,本人通知,退会者・入会未完了者及び法人会員に関する通知先の切り分け並びに貸渡約款の読み方を整理するものである。基準日は令和8年9月29日であり,今後の続報,個人情報保護委員会の判断又は裁判によって事実関係及び法的評価が変わる可能性がある。

なお,令和8年7月17日に個人情報保護法等の改正法が公布されたが,主要部分は公布日から2年以内の政令で定める日から施行される。本件の報告及び本人通知は,令和8年9月29日現在の施行法を前提に検討する。将来,施行日,委員会規則又はガイドラインが定められた場合には再確認を要する。

結論は次のとおりである。

① 公表された約660万件は「アカウント数」であり,直ちに約660万人の本人を意味しない。
② 不正アクセスによる個人データの漏えい等は,本人が1000人を超えるか否かとは別に,個人情報保護法施行規則7条3号の報告対象となり得る。
③ Webサイトでの公表と,本人に直接知らせる法26条2項の通知は別である。連絡可能な本人への個別案内,通知不能者への代替措置及び各方法の到達記録を分けて管理する必要がある。

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生命維持治療を終了した後の死亡と医師法21条・医療事故調査制度―病院の院内手順に書くべき事項(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事が扱う場面2 結論の要旨第2 二つの制度の違い1 比較2 医師法21条の届出3 医療事故調査制度の報告第3 医療事故調査制度から見た生命維持治療の終了1 「医療に起因」の要件2 「予期しなかった」の判断と3つの類型3 一般的な説明では足りないこと4 手順どおりに実施されなかった場合第4 医師法21条から見た生命維持治療の終了1 平成31年の通知と質疑応答集2 一律に届出不要と書かないこと第5 令和8年の省令改正と通知1 医療事故の該当性を判断するプロセスの明記2 プロセスの例と記録の例第6 院内手順に書くべき事項1 終了を決める前2 実施するとき3 死亡した後第7 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 行政機関の通知・Q&A4 研究班の手引き・学会のガイドライン
第1 本記事の対象と結論
1 本記事が扱う場面

救急・集中治療の現場で,人工呼吸器等の生命維持治療を終了し,又は差し控えた後に患者が死亡したとき,病院は二つの判断を迫られる。
一つは,死体を検案した医師が医師法21条により所轄警察署へ届け出るかどうかであり,もう一つは,病院等の管理者が医療法6条の10により医療事故調査・支援センターへ報告するかどうかである。

令和8年9月28日に公表された「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン」は,判断の手順と診療録の記載事項を詳しく示しているが,医師法21条の届出には触れていない(「4学会合同ガイドラインの法的位置付け」)。
本記事は,厚生労働省の通知・Q&A,裁判例及び令和8年の省令改正を基に,この二つの判断を院内手順にどう書き込むかを整理するものである。
基準日は令和8年9月28日である。

2 結論の要旨

①医師法21条の届出と医療事故調査制度の報告は,判断する者,基準及び届出先が異なる別の制度であり,院内手順でも分けて書く必要がある。
②医療事故調査制度では,死亡が「予期しなかった」ものかどうかが中心になり,医療の提供前に,その患者個人の臨床経過を踏まえて死亡が予期されることを説明し,又は記録していたかが問われる。
③医師法21条の届出の要否は,死体を検案した医師が外表の検査を基に個別に判断するものであり,「生命維持治療の終了後の死亡は届出不要」と一律に定めることは,厚生労働省の質疑応答集の考え方と合わない。
④令和8年3月の通知により,病院は,死亡事例が医療事故に当たるかを判断するまでのプロセスを医療安全管理の指針に書き,判断の結果と理由を記録することが求められている。

第2 二つの制度の違い
1 比較

二つの制度の違いは次のとおりである。

項目医師法21条の届出医療事故調査制度の報告根拠医師法21条医療法6条の10,医療法施行規則1条の10の2の2判断する者死体を検案した医師病院等の管理者基準検案して異状があると認めたとき医療に起因し,又は起因すると疑われる死亡で,管理者が予期しなかったもの届出・報告先所轄警察署医療事故調査・支援センター期限24時間以内遅滞なく
2 医師法21条の届出

医師法21条は,「医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。」と定めている。
最高裁平成16年4月13日第三小法廷判決(平成15年(あ)第1560号,刑集58巻4号247頁)は,「医師法21条にいう死体の「検案」とは,医師が死因等を判定するために死体の外表を検査することをいい」,自己の診療していた患者の死体であるかどうかを問わないとした。
同判決は,業務上過失致死等の罪責を問われるおそれがある場合にも届出義務を負うとすることは,憲法38条1項に違反しないとしている。

3 医療事故調査制度の報告

医療法6条の10第1項の「医療事故」は,病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し,又は起因すると疑われる死亡又は死産であって,管理者が当該死亡又は死産を「予期しなかつたもの」として厚生労働省令で定めるものである。
厚生労働省の「医療事故調査制度に関するQ&A」は,この二つの要件を満たすものが対象であり,「過誤の有無は問わない」としている(Q2,PDF4頁)。
また,同Q&Aは,制度の施行時の段階で「医師法第21条の届出義務の取り扱いに変更はありません」としている(Q26,PDF29頁)。

第3 医療事故調査制度から見た生命維持治療の終了
1 「医療に起因」の要件

医療事故調査制度の対象は「提供した医療」に起因し,又は起因すると疑われる死亡であり,厚生労働省の「医療事故調査制度の概要について」は,原病の進行による死亡をこれに含まれないものの例として挙げている(PDF10頁)。
もっとも,厚生労働科学研究の研究班が作成し,医療事故調査・支援センターが公開している「医療機関内の医療事故の機能的な報告体制構築のための手引き」は,「原病の進行を認めていた場合にも、その経過中に「提供した医療」に起因して死亡した疑いがある場合は、本制度の対象となり得ます」としている(PDF30頁)。
人工呼吸器の終了や抜管も医療行為であるから,本記事では,生命維持治療の終了後の死亡について「医療に起因」の要件を当然に否定することはできず,次の「予期」の要件が院内の判断の中心になると整理する。

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最低賃金の引上げと固定残業代―最低賃金の計算から除かれる賃金,基本給への振替と不利益変更(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象とする場面2 結論の要点第2 最低賃金を満たしているかの計算1 算入する賃金と算入しない賃金2 月給制の時間換算3 改定の効力発生日と違反した場合第3 固定残業代が最低賃金の判断に与える影響1 固定残業代を含めて最低賃金を満たすとはいえない2 基本給が最低賃金を下回る場合の固定残業代(東京地裁令和6年5月17日判決)第4 基本給への振替と労働条件の変更1 総額を変えない振替が不利益になりうる理由2 個別の同意による場合(最高裁平成28年2月19日判決)3 就業規則の変更による場合4 総額を維持した組替えと割増賃金(最高裁令和5年3月10日判決)5 東京地裁令和6年5月17日判決の組替え部分第5 最低賃金の改定前に点検すること1 計算の点検2 下回る場合の対応第6 関連記事第7 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関の資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象とする場面

地域別最低賃金は毎年改定され,改定のたびに,月給のうち基本給を時間額に直すと最低賃金を下回る,という問題が生じることがある。
固定残業代(定額残業代)を支払っている会社では,「固定残業代を含めれば最低賃金を上回っている」「総額を変えずに固定残業代の一部を基本給へ振り替えればよい」と考えられることがある。
本記事は,最低賃金法の計算方法と,固定残業代の有効性及び労働条件の変更の観点から,これらの対応の問題点を整理する。

固定残業代が有効になる要件そのもの(判別可能性・対価性)は,固定残業代が有効になる要件―判別可能性・対価性と最高裁7判決で扱っている。
本記事の条文は,令和8年9月28日時点の現行法をe-Gov法令検索で確認した。
都道府県ごとの最低賃金額と発効年月日は,厚生労働省の地域別最低賃金の全国一覧で確認する必要がある。

2 結論の要点

①時間外労働,休日労働及び深夜労働に対して支払われる賃金は,最低賃金を満たしているかの計算に算入しない(最低賃金法4条3項2号,最低賃金法施行規則1条2項)。
固定残業代を含めて最低賃金を満たしていると考えることはできない。
②基本給等を時間額に直して最低賃金を下回ると,その部分は無効となり,最低賃金と同様の定めをしたものとみなされる(最低賃金法4条2項)。
③基本給等が最低賃金を下回る状態で「固定残業代」とされていた手当について,通常の労働時間の賃金に当たる部分が含まれているとして,固定残業代としての効力を認めなかった裁判例がある(東京地裁令和6年5月17日判決)。
④総額を変えずに固定残業代を減らして基本給を増やす振替は,労働者にとって不利益な変更になりうる。
そのため,労働者の自由な意思に基づく同意か,合理的な就業規則の変更が必要になる。
⑤賃金総額を維持したまま手当を組み替えた賃金体系について,割増賃金の支払を認めなかった最高裁判決がある(最高裁令和5年3月10日判決)。

第2 最低賃金を満たしているかの計算
1 算入する賃金と算入しない賃金
(1) 最低賃金法4条

最低賃金法4条1項は「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。」と定める。
同条3項は,次の賃金を最低賃金を満たしているかの計算に算入しないとする。
①「一月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの」(1号)
②「通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの」(2号)
③「当該最低賃金において算入しないことを定める賃金」(3号)

(2) 最低賃金法施行規則1条

最低賃金法施行規則1条1項は,4条3項1号の賃金を「臨時に支払われる賃金及び一月をこえる期間ごとに支払われる賃金」とする。
同条2項は,4条3項2号の賃金を次のとおりとする。
①「所定労働時間をこえる時間の労働に対して支払われる賃金」(1号)
②「所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金」(2号)

(続きを読む...)最低賃金の引上げと固定残業代―最低賃金の計算から除かれる賃金,基本給への振替と不利益変更(AI作成)

交通事故以外の人身損害で「赤い本」の基準は使われるか―保育園事故・医療事故・犯罪被害・労働災害・原発事故の裁判例(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 参考にしてよいとされた例1 保育園での食物アレルギーの事故2 労働災害によるうつ病3 暴行による傷害4 医療事故5 航空機事故第3 交通事故の基準より高い慰謝料が認められた例1 故意の犯罪による被害2 医療事故第4 赤い本と同列に扱えないとされた例第5 請求し,又は争うときの注意点1 費目ごとに基準との関係を示す2 通院期間の数え方と版3 判決が基準の名前を出さないこともある第6 関連記事第7 出典1 裁判所ウェブサイトに掲載された裁判例2 判例秘書で確認した裁判例(裁判所ウェブサイト未掲載)
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

交通事故の損害賠償では,日弁連交通事故相談センター東京支部の『民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準』(いわゆる「赤い本」)の基準が,慰謝料等の額を決める目安として広く使われている。
本記事は,交通事故以外の事故や事件で人が死亡し,又は負傷した場合に,この基準が請求や判決でどのように使われているかを,裁判例から整理する。
裁判例は,令和8年9月28日に裁判所ウェブサイトの裁判例検索と判例データベース(判例秘書)で「赤い本」「赤本」「損害賠償額算定基準」等の語を検索し,判決の全文を確認したものに限って紹介する。
赤い本の基準の具体的な数値そのものは,本記事では,判決が引用している範囲でしか触れない。

2 結論

①交通事故以外の事件でも,入通院慰謝料については,赤い本の算定表(別表Ⅰ・Ⅱ)を参考にして額を決めた判決が少なくない。
保育園で起きた食物アレルギーの事故について,福岡地方裁判所令和6年4月26日判決は,算定表が「交通事故訴訟以外の訴訟等の損害の算定においても裁判実務上広く用いられている」ことなどから,参考にすることは許容されるとした。
労働災害によるうつ病,暴行による傷害,医療事故についても,判決の中で算定表を参考にした例がある。

②他方,交通事故の基準より高い慰謝料を認めた判決もある。
故意の犯罪による被害では,交通事故の基準の約2倍の慰謝料を認めた判決や,交通事故の基準は加害者と被害者が入れ替わり得る過失の事故を前提にしていると述べて,それをはるかに超える慰謝料を認めた判決がある。
医療事故では,患者が医師を信頼して身を委ねていることから,交通事故より慰謝料が高くなる場合もあり得るとした判決がある。

③身体の傷害を前提にしない慰謝料(原発事故による避難生活の慰謝料)については,赤い本の傷害慰謝料と同列に論じることは困難とした判決がある。

④交通事故以外の事件で賠償を請求し,又は争うときは,赤い本の基準を出発点としつつ,事件の性質(故意か過失か,当事者の間に契約や信頼の関係があったか,身体の傷害を前提にする損害か)から,基準をそのまま使うべきか,増額や別の考え方をとるべきかを主張することになる。

第2 参考にしてよいとされた例
1 保育園での食物アレルギーの事故

福岡地方裁判所令和6年4月26日判決(令和4年(ワ)第3980号)は,保育園で食物アレルギーのある園児に原因となる食材を含む給食を誤って出した事故が2回起きた事案である。
原告は,入通院の日数に比べて負担が大きかったとして,赤い本の傷害慰謝料の算定表を用いるのは相当でないと主張した。
判決は,この算定表について,「相応の合理性及び客観性を備えていると評価されており、交通事故訴訟以外の訴訟等の損害の算定においても裁判実務上広く用いられているものであることに照らすと、事故により被害者が被った精神的苦痛は事案により様々であることを踏まえても、上記算定表を本件各事故のような保育園で生じた事故による園児の慰謝料を算定するに当たり参考とすることは許容されるというべきである」とした。

もっとも,判決は,算定表を形式的に当てはめたわけではない。
判決自身が,「当裁判所は上記算定表を形式的に当てはめず、同表における1日通院及び2日入院の基準額よりも高額な慰謝料を認めている。」と述べている。
算定表を出発点にしながら,事故の内容に応じて額を調整する使い方である。

2 労働災害によるうつ病

福岡地方裁判所令和7年7月16日判決(令和4年(ワ)第2711号,判例秘書の判例番号 L08051053)は,運送会社の長距離トラックの運転手が,会社の安全配慮義務違反によってうつ病を発病したとして損害賠償を求めた事案である。
判決は,傷害慰謝料について,「原告のうつ病による入通院期間は、入院219日、通院1789日であり、赤い本別表Ⅰを参考として、傷害慰謝料は409万2000円とするのが相当である。」とした。

東京地方裁判所令和4年2月22日判決(令和元年(ワ)第35109号)も,長時間労働によるうつ病の事案で,入通院慰謝料と後遺障害慰謝料を認めた。
この事件では,被告が実際に通院した日数の3倍を通院期間とみなして計算すべきであると主張したのに対し,判決は,「通院期間である54箇月を基礎とするのが相当であり、これを大幅に短縮し、実通院日数の3倍を基礎として算定するのは相当ではなく」とした。
精神疾患のように通院が長く続く傷病では,通院期間の数え方が慰謝料の額を大きく左右する。

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医師賠償責任保険(日医医賠責)の仕組みと医療事故の初動―請求額100万円以下の扱い,1事故1億円の上限,カット払い,特約保険及び過失の認め方(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 日医医賠責の基本1 対象となる会員2 対象となる事故と支払限度額3 紛争処理の流れ第3 日医医賠責だけでは足りない場面1 請求額100万円以下と免責金額100万円2 医療法人に対する請求3 日本医師会A会員以外の医師の責任(カット払い)4 高額賠償と刑事事件5 場面ごとの整理第4 日医医賠責特約保険1 加入できる会員と対象となる医療施設2 支払限度額と免責金額3 掛金と加入の時期4 支払例に見る法人責任第5 医療事故が起きたときの初動1 報告の前に確かめること2 医師会・保険会社の承認なしに賠償を約束しない3 謝罪と過失の評価を分ける4 カルテに追記・修正をしない5 勤務医と病院の責任6 勤務医の補助参加と訴訟告知第6 相談を受けたときの確認事項第7 関連記事第8 出典1 保険制度2 裁判例3 法令
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,診療所や病院の医師が患者又は遺族から損害賠償を求められたときに,日本医師会医師賠償責任保険(以下「日医医賠責」という。)でどこまで賄えるか,どこに穴があるか,及び保険や医師会に報告する前後で医師と医療機関が気を付けることを扱う。
日医医賠責と日医医賠責特約保険の内容は,令和8年9月28日に日本医師会のウェブサイトで確認した。
免責金額を埋める都道府県医師会の保険については,日本医師会が作成した案内資料(令和5年3月。日本医師会のウェブサイトではなく地区医師会のウェブサイトに掲載されているもの)と,大阪府・愛知県・岡山県・東京都・福岡県の各医師会の資料(一部は関係団体のウェブサイトに掲載されたもの)で,同日に確認した。
条文は令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索で確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトの判決全文で確認した。

保険の具体的な支払の可否は,日本医師会医師特別約款等の約款と,事案ごとの審査で決まる。
本記事は制度の骨格を説明するものであり,個別の事故で保険金が支払われるかどうかを判断するものではない。

2 結論

①日医医賠責は,日本医師会のA会員(A①,A②(B),A②(C))を対象とし,個別の加入手続は要らない。
対象は,医療行為によって生じた身体の障害について損害賠償を請求され,その請求額が100万円を超えるものであり,支払限度額は1事故1億円,保険期間中3億円,免責金額は1事故100万円である。

②日医医賠責だけでは,少なくとも次の場面に穴がある。
請求額が100万円以下の請求,免責金額の100万円,医療法人(一人医師医療法人を除く。)に対する請求,日本医師会A会員以外の医師に責任がある部分(いわゆる「カット払い」)及び1億円を超える賠償である。

③日医医賠責特約保険(任意加入)は,法人に対する請求(A会員が理事又は管理者である法人で,対象となる医療施設のものに限る。),カット払い及び高額賠償を補い,支払限度額は日医医賠責と合算して1事故3億円,保険期間中9億円である。
免責金額の100万円は,都道府県医師会が用意する100万円を支払限度額とする団体保険(通称「100万円保険」)で補うことになる(日本医師会の案内資料(令和5年3月)と,大阪府・愛知県・岡山県・東京都の各医師会の資料)。
請求額が100万円以下の請求も,大阪府・岡山県・東京都の資料では,この保険の対象とされている。

④医療事故が起きたときは,医師会・保険会社の承認なしに賠償を約束せず,まず所属の医師会に連絡する。
あわせて,記録を保全し,事実と評価を分けて整理する。
患者への謝罪と,法的な過失の有無の評価は別の事柄であり,訴訟で過失を基礎づける事実を認める陳述をすれば,その事実は証明を要しないものになる(民事訴訟法179条)。

⑤カルテには,事故の後に追記や修正をしない。
訂正が必要なときは,元の記載を残し,訂正者,日時及び理由が分かる形で行う。
裁判例には,カルテの改ざんを,説明義務違反とは別個の不法行為として慰謝料の対象にしたものがある。

⑥勤務医と病院の関係では,病院が使用者責任や債務不履行責任を負うことが多く,公立病院では国家賠償法の問題にもなる。
勤務医が病院の訴訟に補助参加すると,その訴訟の裁判の効力(参加的効力)を受ける。

第2 日医医賠責の基本
1 対象となる会員

日本医師会のウェブサイトは,日医医賠責を,日本医師会が契約者となり,A会員のすべてを対象とした医師賠償責任保険であり,個別加入手続きは不要であると説明している。
対象となるA会員は次のとおりである。
①A①:病院・診療所の開設者,管理者及びそれに準ずる会員

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救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン(令和8年9月)―法的位置付け,判断の手順,診療録の記載事項及び裁判例の読み方(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事が扱う資料2 結論の要旨第2 ガイドラインの成立経緯と構成1 平成26年の3学会ガイドラインからの改訂2 4つの文書と作成方法第3 判断の手順1 「終末期」を定義しないこと2 医療・ケアチームによる臨床倫理的な検討3 患者・家族等との共同意思決定4 臨床倫理委員会等の役割第4 生命維持治療への対応と緩和ケア1 差し控えと終了の選択肢2 期限付きの治療の試行(TLT)3 DNARの範囲4 緩和ケアと鎮痛・鎮静薬の使い方第5 診療録に記載すべき事項1 本編が求める記載事項2 記録を読むときの着眼点第6 法的位置付け1 ガイドラインは法規範ではないこと2 東京高裁が求めた「ガイドライン」との関係3 同意殺人罪・自殺関与罪についてのガイドラインの見解4 医師法21条に触れていないこと5 医療事故調査制度との関係6 診療報酬上の意思決定支援指針との関係第7 説明文が紹介する裁判例と不起訴事例の読み方1 東海大学病院事件2 川崎協同病院事件3 射水市民病院事件及び道立羽幌病院事件第8 弁護士が相談を受けたときの使い方1 病院から院内手順の整備について相談を受けたとき2 遺族から相談を受けたとき3 家族・成年後見人から相談を受けたとき第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 学会のガイドライン4 報道(インターネット・アーカイブ保存の記事)5 行政機関の指針と診療報酬の通知
第1 本記事の対象と結論
1 本記事が扱う資料

日本集中治療医学会,日本救急医学会,日本循環器学会及び日本緩和医療学会は,令和8年9月28日,「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン」を公表した(日本緩和医療学会のお知らせ)。
公表されたのは,本編,説明文,緩和ケア別編及びQ&A集の4つの文書である。

本記事は,この4文書を読み,ガイドラインが示す判断の手順,診療録に残すべき事項及び法的な位置付けを,弁護士が病院,遺族又は家族・成年後見人から相談を受ける場面を念頭に整理するものである。
ガイドラインの説明文が紹介する刑事裁判例は,判決・決定の原文と照合した。
基準日は令和8年9月28日である。

2 結論の要旨

①ガイドラインは「終末期」を定義せず,医療・ケアチームによる臨床倫理的な検討と,患者・家族等との共同意思決定という2つの手順を踏むことを求めている。
②治療を始めないこと(差し控え)と,始めた治療を終えること(終了)は,倫理的に同等のものと扱われている。
③診療録には,説明の内容,本人の意思,家族等による推定意思とその根拠,家族等の意向,検討に加わった者等を分けて記載することが求められている。
④ガイドラインは法律ではなく,従えば刑事・民事の責任が当然に否定されるというものではない。
⑤説明文の裁判例の紹介には,川崎協同病院事件の控訴審判決の年と,最高裁決定が扱った行為について,原文と異なる記載がある。

第2 ガイドラインの成立経緯と構成
1 平成26年の3学会ガイドラインからの改訂

本ガイドラインは,日本集中治療医学会,日本救急医学会及び日本循環器学会が平成26年に公表した「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン~3学会からの提言~」を改訂したものであり,今回の改訂で日本緩和医療学会が加わった(説明文2頁)。
旧ガイドラインは,終末期を「集中治療室等で治療されている急性重症患者に対し適切な治療を尽くしても救命の見込みがないと判断される時期」と定義し,4つの類型を例示していた。
旧ガイドラインのQ&A集は,類型の一つにある「近いうち」に死亡することが予測される場合の「近いうち」を,おおよそ2~3日程度以内としていた。

説明文は,この定義と例示について,例示された類型だけが終末期であると受け取られたこと,死の直前まで生命維持治療を終了できない事態を招いたこと等を問題点として挙げている(説明文6頁~7頁)。
また,生命維持治療の終了に伴う法的リスクの懸念が払拭されず,終了後の緩和ケアの具体的な指針もなかったことが,「一度始めたらやめられないのなら、最初から始めない方がよい」という判断につながる危険があったとしている(説明文5頁)。

2 4つの文書と作成方法

4つの文書の役割は次のとおりである。

文書頁数主な内容本編33頁判断の手順,生命維持治療への対応,診療録の記載事項,作成委員とCOI説明文14頁改訂点,用語の整理,作成の経緯,過去の刑事事件と法的位置付け緩和ケア別編34頁生命維持治療の終了/差し控え時の症状緩和,家族ケア,医療・ケア従事者へのケアQ&A集38頁Q1からQ80まで。家族等の範囲,DNAR,法的責任,障害のある人の権利等への回答

本編の冒頭(「本ガイドラインの理念と活用にあたって」)は,ガイドラインを適切に運用するためにはQ&A集を必ずあわせて参照するよう求めている。
作成は,4学会から選ばれた多職種の作成委員による修正デルファイ法で合意を形成し,パブリックコメントを経て確定したとされている(本編3頁)。
説明文は,作成に生命倫理や法律の専門家が加わったとしている(説明文12頁)。

第3 判断の手順
1 「終末期」を定義しないこと

本ガイドラインは,あえて「終末期」を定義せず,救急・集中治療の現場で生命維持治療の終了/差し控えが考慮される患者について,医療・ケアチームがどのように検討し,患者・家族等とともに意思決定をするかというプロセスを示すものとしている(本編2頁)。

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長年黙認されてきた行為を懲戒処分できるか―注意指導をせずに観察・記録を続けた処分と門真市事件(大阪地裁令和8年3月30日判決)(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 事案の概要1 当事者と処分2 勤務時間中の組合活動に関する取決め3 市が問題を把握してから処分までの経過第3 職務専念義務違反は成立するとされた1 職場離脱の事実2 ガイドラインが許す活動に当たらないこと3 上司が咎めなかったことと承認の区別4 公務の運営への具体的な支障は要らないこと第4 それでも処分が取り消された理由1 懲戒処分の裁量と司法審査2 「黙認されている」と受け止めることがあり得た状況3 遅くとも令和元年5月10日以降は注意指導をすべきだったこと4 「非違行為を重ねるのを待」った処分5 事実確認を先行させたという反論が退けられた理由6 判断されなかった争点と戒告の取消し第5 裁決の取消しを求める訴えが却下された理由第6 実務上の注意点1 長年の取扱いを改めるとき2 証拠の集め方3 ルールの周知4 処分を受けた側の争い方5 民間企業の懲戒処分への参考6 民間企業で黙認や注意指導の欠如が考慮された裁判例第7 この判決を読む際の留意点第8 関連記事第9 出典1 裁判例2 報道・報告3 法令
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,職場で長年にわたり事実上見過ごされてきた行為について,使用者がある時点から問題視し,本人に注意をしないまま観察・記録を続けて懲戒処分をした場合に,その処分が有効かという問題を扱う。
素材とするのは,市の職員が勤務時間中に職員団体(公務員の労働組合に当たるもの)の活動をしていたことを理由とする減給処分と戒告処分を取り消した大阪地方裁判所令和8年3月30日判決(令和6年(行ウ)第42号,懲戒処分取消等請求事件)である。
この判決は,令和8年9月28日時点で裁判所ウェブサイトの裁判例検索には掲載されていないため,判例データベース(判例秘書)で判決の全文を確認した。
法令は令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索で確認し,最高裁判例は裁判所ウェブサイトの判決全文で確認した。

本記事では,この判決を,被告となった市の名前から「門真市事件」と呼ぶ。
地方裁判所の判決であり,控訴の有無は確認できていない。

2 結論

①判決は,勤務時間中の組合活動による職場離脱について,職務専念義務違反という懲戒事由があることは認めた。
労使で定めたガイドラインが勤務時間中に許していた活動に当たらず,上司が咎めなかったことも正式な承認とはいえず,公務の運営に具体的な支障が出たことも要らないとした。

②それでも判決は,減給処分と戒告処分の両方を取り消した。
長年にわたり上司から指導も注意も受けない状況が続き,本人が黙認されていると受け止めることがあり得たのに,市は,違反を強く疑い,本人が問題ないと考えていることも知った後,注意指導をせずに5か月以上離席を止めずに記録を続け,その記録を根拠に処分したからである。
判決は,これを,是正の機会を与えることなく「そのまま非違行為を重ねるのを待ち、懲戒処分に及んだ」ものとして,信義則に反し,社会通念上著しく妥当を欠き,裁量権を逸脱・濫用したと判断した。

③市は,注意や指導より事実確認を先行させる必要があったと主張したが,判決は,これからされる非違行為を止めずに観察したものであり,既にされた非違行為の確認にとどまらないとして退けた。

④最も軽い懲戒処分である戒告も取り消されている。
戒告は懲戒権者の裁量の範囲内とされやすい処分であるが(最高裁判所平成24年1月16日判決),処分に至る経過に問題があれば,処分の軽さだけでは適法にならないことを示している。

⑤使用者の側では,長年の取扱いを改めて懲戒の対象にするときは,まず問題であることを告げてルールを示し,是正の機会を与えてから,その後も続いた行為を対象にすることが重要になる。
処分を受けた側では,懲戒事由があることを争うだけでなく,黙認の経緯,注意指導の有無,使用者が問題を把握した時期と処分までの期間を争点にできる。
民間企業でも,使用者が知りながら注意や警告をしてこなかった行為を理由とする懲戒処分を無効とし,又は重すぎるとした裁判例がある(東京高等裁判所昭和54年12月24日判決,函館地方裁判所令和7年8月8日判決等)。

第2 事案の概要
1 当事者と処分

原告は,市の職員として長く勤務し,市の職員団体の役員を務めていた2名である。
1名は平成17年7月から令和3年7月まで執行委員長を務め,もう1名は平成30年7月から書記長を務め,令和2年7月から処分の時までは副委員長の地位にあった。
市は,令和2年10月14日,執行委員長だった職員に対して減給処分(1か月間,給料及び地域手当の合計額の10分の1を減ずる)を,書記長だった職員に対して戒告処分をした。
処分の理由は,いずれも,法令で勤務時間中に行うことが認められていない職員団体の活動を行い,正当な理由なく勤務時間中に職場を離脱し,職務を怠っていたというものである。

原告らは審査請求をしたが,市の公平委員会は,令和5年9月28日,審査請求をいずれも棄却する裁決をした。
原告らは,処分の取消しと裁決の取消しを求めて訴えを起こした。

2 勤務時間中の組合活動に関する取決め

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同族会社への外注費は必要経費になるか―契約書・役務の実体・証拠(AI作成)

目次

第1 結論

第2 必要経費の趣旨と要件

1 所得税法37条
2 会社側で売上計上しただけでは足りない

第3 大阪地裁平成30年4月19日判決

1 事案の特徴
2 判決の判断

第4 必要経費を基礎付ける事実

1 会社が独立した役務を提供したこと
2 契約と対価が具体的であること
3 事業主本人の役割と会社の役割を分ける

第5 否認リスクが高い事情

第6 証拠チェックリスト

第7 別の否認規定

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暗号資産で支給する役員退職給与―時価譲渡・原価・過大給与・仮装経理(AI作成)

目次

第1 結論

第2 暗号資産の移転は時価で把握する

1 法人税法61条1項と22条2項
2 設例

第3 役員退職給与の損金算入

1 退職の事実と支給決議
2 不相当に高額な部分

第4 隠蔽又は仮装による役員給与

第5 第三者口座を経由した場合の証拠

第6 仕訳と税務計算を分ける

第7 出典

第1 結論

法人が保有する暗号資産を役員退職給与として移転した場合,現金支給ではないという理由で法人税の所得計算から外れるものではない。
移転時の時価で役員に経済的利益を供与したものとして,①暗号資産の譲渡損益,②役員退職給与の損金算入限度,③隠蔽又は仮装による経理の有無を別々に計算する。

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会社施設を利用した組合活動―レターケース,組合掲示板,施設管理権及び支配介入(AI作成)

目次第1 施設管理権と組合活動の判断順序第2 無許可の施設利用に関する原則第3 合意・許可・慣行がある場合第4 レターケースへの組合ニュース投函第5 会社による回収の限界第6 組合掲示板の使用停止・許可取消し第7 懲戒処分の予告と支配介入第8 令和8年度司法試験労働法第2問への当てはめ第9 労働委員会に求める救済第10 実務上の確認事項第11 関連記事第12 出典・参考資料

会社施設内の組合活動では,憲法28条上の団結権があることから直ちに会社の施設を自由に使えるわけではない。他方,会社がいったん労働協約又は労使慣行によって掲示板・レターケース等の利用を認めた場合,個別の軽微な違反を理由に別の便宜供与まで全面停止し,懲戒を予告して組合活動を萎縮させることも許されない。施設の目的,許可・慣行の範囲,具体的な業務支障,会社の措置の対象と程度,反組合的な経緯を分けて検討する必要がある。

本記事は,令和8年度司法試験労働法第2問の問題文を手掛かりに,個人用レターケースへの組合ニュース投函,会社による回収,組合掲示板の一か月停止及び懲戒・許可取消しの予告を整理する。令和8年度の出題趣旨及び採点実感は令和8年9月28日時点で公表されておらず,本記事の問題分析ではこれらを参照していない。

第1 施設管理権と組合活動の判断順序

会社施設を使う組合活動は,次の順序で判断する。

①対象物が会社の所有・管理する物的施設かを確認する。
②労働協約,就業規則,施設利用契約,明示の許可又は労使慣行によって,組合利用が認められているかを確認する。
③許可がある場合は,場所,方法,対象者,内容,時間及び手続が許可の範囲内かを確認する。
④許可がない場合は,利用を拒むことが権利濫用となる特段の事情があるかを検討する。
⑤会社の回収・撤去・便宜供与停止・懲戒が,具体的支障を除くために必要か,過大でないか,組合弱体化の意図・効果を持たないかを検討する。

同じ「組合ニュース」でも,許可された掲示板への掲示,組合員のレターケースへの投函,非組合員を含む全員への投函,廊下・ロッカーへの貼付,勤務時間中の手渡し配布は,利用する施設と業務への影響が異なるため,別々に評価する。

第2 無許可の施設利用に関する原則

最高裁昭和54年10月30日第三小法廷判決(国鉄札幌運転区事件)は,企業は,職場環境を適正良好に保持し,規律ある業務運営を確保するため,物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を定め,違反者に中止・原状回復を命じ,就業規則に従って懲戒できるとした。

同判決は,労働組合又は組合員が当然に企業の物的施設を利用する権利を持つわけではなく,企業内組合にとって施設利用の必要性が大きくても,本来は団体交渉等による合意に基づくべきであるとする。そして,使用者の許諾を得ない施設利用は,その利用を許さないことが権利濫用となる特段の事情がある場合を除き,正当な組合活動として許容されないとした。

もっとも,同事件は,許可された組合掲示板以外の多数のロッカーにビラを貼り,管理者が再三制止しても続けた事案である。レターケースの内部に一枚の文書を入れる行為,会社が組合員向け文書の投函を長年黙認していた事案又は労働協約で掲示板利用権が認められている事案へ,結論だけをそのまま当てはめることはできない。

第3 合意・許可・慣行がある場合

労働協約で組合掲示板の利用を認めている場合,その利用権は労働協約の債務的部分に基づく。使用者が利用を一方的に停止・取消しできるかは,協約の文言,違反行為との関連,措置の必要性・相当性及び労使関係の経緯によって判断する。

明示の協約がなくても,会社が長期間,組合員向け連絡文書のレターケース投函を認識しながら異議を述べず,組合もその取扱いを前提に活動していた場合には,黙示の許可又は労使慣行の範囲を検討する。黙認されていたのが「組合員宛て」だけなら,非組合員を含む全従業員への投函まで許可されたとは限らない。

許可・慣行の範囲を超えた場合も,会社は具体的な支障に応じて是正すべきである。支障のあるレターケースだけから文書を一時的に取り出し,組合に返還し,再発防止の協議をすることで足りるのに,全ケースから文書を回収して返還せず,別の掲示板まで停止することは,過大な措置になり得る。

第4 レターケースへの組合ニュース投函

レターケースが会社の指導文書等を配布する業務用什器である以上,組合が当然に全従業員への情宣に使えるわけではない。就業規則が会社施設の私用を禁止し,施設内のビラ配布に許可を求めている場合,非組合員を含む全員への無許可投函は規則違反と評価されやすい。

他方,休憩時間に投函し,A4一枚で,施設を損傷せず,文書の内容も労働時間制度という正当な組合活動に関する場合は,違反の態様は比較的軽い。以前から組合員への連絡文書の投函が黙認されていたなら,組合員のケースについては,組合側に一定の信頼が形成されている。

業務用資料を入れられないほど満杯になったケースでは,会社業務への現実の支障がある。会社は,そのケースの文書を取り出してスペースを確保し,組合に返還し,今後の分量・対象・投函時期を協議することができる。これに対し,空きのあるケースや既に受取人が文書を取得したケースには,同じ支障はない。

第5 会社による回収の限界

会社がレターケースを点検して組合文書を回収する行為は,①回収対象,②回収理由,③保管・返還,④従前の取扱い,⑤他の組合・私的文書との比較,⑥労使対立の経緯から評価する。

静岡地方労働委員会平成7年3月28日命令は,個人別レターケースから組合文書を回収した事案を扱い,会社がそれまで組合文書の無許可投函を知りつつ容認していたこと等を踏まえた。中央労働委員会平成12年6月7日命令は,同事件について,レターケースからの文書回収自体に関する申立てを救済しなかった一方,組合掲示板の貸与及び講習室の使用拒否等を支配介入とし,便宜供与ごとに判断を分けた。

したがって,「無許可投函だから全回収が常に適法」でも,「組合文書だから回収が常に支配介入」でもない。実際に業務資料を入れられないケースから取り出すことには強い必要性がある。これに対し,会社批判文書を従業員に読ませない目的で,空きのあるケースも含めて全件を回収し,返還しない場合は,支配介入と評価される方向に働く。

第6 組合掲示板の使用停止・許可取消し

(続きを読む...)会社施設を利用した組合活動―レターケース,組合掲示板,施設管理権及び支配介入(AI作成)

国庫補助金でソフトウェアを取得した場合の圧縮記帳(AI作成)

目次

第1 結論

第2 圧縮記帳は非課税ではなく課税の繰延べである

第3 法人税法42条の要件

1 国庫補助金等であること
2 目的に適合した固定資産を取得・改良すること
3 返還不要が確定すること
4 確定決算と明細書

第4 設例

第5 ソフトウェア取得で確認する資料

第6 誤りやすい点

第7 出典

第1 結論

法人が国庫補助金等でソフトウェアを取得した場合,補助金収入は原則として益金になる一方,法人税法42条の要件を満たせば,補助金を取得に充てた金額の範囲で圧縮記帳を行い,課税を将来へ繰り延べることができる。

ソフトウェアは法人税法施行令13条8号ヌの無形固定資産であり,事業の用に供する固定資産として取得したものは圧縮記帳の対象となり得る。
単なる保守料,クラウド利用料又は人件費補助とは区別する。

第2 圧縮記帳は非課税ではなく課税の繰延べである

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賞与の会社回答を労働組合が承諾した場合―具体的請求権,労働協約の方式,不誠実団交及び組合員差別(AI作成)

目次第1 賞与請求と不当労働行為救済を分ける第2 具体的な賞与請求権が発生する根拠第3 会社回答と組合の承諾第4 労働組合法14条の方式第5 別の交渉事項への同意を条件とする団交拒否第6 非組合員だけに賞与を支給する行為第7 労働委員会に求める救済第8 令和8年度司法試験労働法第2問への当てはめ1 組合員の賞与請求2 団交拒否3 組合員差別と救済第9 実務上の文書作成第10 関連記事第11 出典・参考資料

賞与をめぐる紛争では,裁判所における個々の労働者の賞与請求と,労働委員会における不当労働行為の救済を分ける必要がある。会社が具体的な賞与額を回答し,労働組合が承諾していても,労働協約として必要な方式を欠けば,その合意に労働契約を規律する効力は生じないことがある。他方,使用者が賞与交渉を別の制度への同意と結び付け,組合員だけに支給しない行為は,民事上の賞与請求権が認められない場合でも,不誠実団交又は組合員差別として救済の対象になり得る。

本記事は,令和8年度司法試験労働法第2問の問題文を手掛かりに,賞与請求権,労働協約の方式,団交事項の不当な連結,非組合員との差別及び労働委員会の救済を整理する。令和8年度の出題趣旨及び採点実感は令和8年9月28日時点で公表されておらず,本記事の問題分析ではこれらを参照していない。

第1 賞与請求と不当労働行為救済を分ける

裁判所で賞与の支払を求めるには,労働契約,就業規則,労働協約,使用者の決定又は確立した労使慣行等により,算定可能な具体的請求権が発生している必要がある。

これに対し,労働組合法7条は,組合員であることを理由とする不利益取扱い,正当な理由のない団交拒否及び支配介入を禁止する。労働委員会の救済は,個々の労働契約上の請求権を確認することだけを目的とせず,不当労働行為がなかった状態を回復し,正常な集団的労使関係を形成することを目的とする。

したがって,「労働協約の方式を欠くため民事上の請求権は発生しない」という結論と,「使用者の差別的な支給拒否は不当労働行為であり,賞与相当額の支払を含む救済が必要である」という結論は両立し得る。

第2 具体的な賞与請求権が発生する根拠

就業規則が賞与を「会社の業績,本人の勤務成績等を勘案して決定する」と定め,業績低下時の不支給も認めているだけでは,額又は算定方法が確定していない。通常は,使用者が支給の有無,算定基礎,支給月数,査定及び支給日を決定して初めて,具体的な賞与請求権が発生する。

労働協約が具体的な支給基準を定めれば,その規範的部分は組合員の労働契約を規律する(労働組合法16条)。また,労働契約又は就業規則が「労使協議で決定した額を支給する」と定め,使用者が最終決定権を行使して支給額を確定したと評価できる場合は,その決定自体を請求権の根拠として主張する余地がある。

毎年,団体交渉の妥結後に協定書を作成・調印してから賞与を支給していたという慣行がある場合,その慣行は,むしろ協定書の成立が支給の前提であることを示すことがある。過去に同じ月数が支給されたというだけで,協定成立前から将来の賞与額が当然に確定するわけではない。

第3 会社回答と組合の承諾

会社が「基礎額の3.5か月」とする回答を出し,組合がこれを承諾した場合,民法上の申込みと承諾に似た外形がある。しかし,労働組合が団体交渉をする権限を持つことと,組合員一人一人を代理して個別の賃金契約を締結する権限を持つことは別である。

組合の承諾が個々の組合員に直接効果を帰属させるには,労働協約として規範的効力が生じるか,組合が各組合員から代理権を与えられているか,又は使用者の回答自体が一方的な最終決定として労働契約の内容を確定させたと解釈できることが必要になる。

会社回答に「別の制度への了解まで賞与交渉をしない」という留保があり,従前は協定書の調印後に支給していた場合,回答だけで無条件の最終決定をしたとはいいにくい。組合が会社回答どおり承諾したとしても,会社が自ら設定した不当な条件を撤回して協定書の作成に進まなければ,民事上の支給義務の成立と不当労働行為の評価が分かれる。

第4 労働組合法14条の方式

労働組合法14条は,労働協約は,書面に作成し,両当事者が署名し,又は記名押印することによって効力を生じると定める。最高裁平成13年3月13日第三小法廷判決(都南自動車教習所事件)は,労働組合と使用者の間に労働条件に関する合意が成立していても,書面に作成され,かつ,両当事者が署名又は記名押印しない限り,労働協約としての規範的効力は生じないとした。

同判決は,労働協約が複雑な交渉の末に妥結した事項を一定期間安定させ,労働契約や就業規則を規律する強い効力を持つため,合意の存在と内容を形式自体によって明確にし,後日の紛争を防ぐ必要があることを理由とする。

したがって,会社作成の「会社回答」と,組合の公印・委員長の署名がある「妥結通告」が別々に存在しても,会社側の署名又は記名押印が確認できず,双方が最終合意文書として調印していない場合は,労働組合法14条の方式を満たす労働協約とは認めにくい。書面の題名は問われないが,どの書面又は一組の書面が最終合意を示し,双方の署名・記名押印を備えるかを確認する必要がある。

都南自動車教習所事件では,引上げ額の合意があり,使用者が協定書未作成を理由に支給を拒むことが信義に反するとしても,労働協約の方式を満たすことにはならないとされた。同事件では,協定書の記載方法という他の重要な交渉事項が解決せず,交渉がとんざしたため,引上げ額だけを切り離した支給義務も否定された。

第5 別の交渉事項への同意を条件とする団交拒否

賞与の支給基準と労働時間制度は,いずれも労働条件に関する義務的団交事項である。使用者は,複数の要求を一括して提案し,パッケージとして交渉すること自体はできる。しかし,一方の制度への同意が得られるまで,他方の団体交渉には一切応じないと固定することは別である。

労働組合法7条2号の誠実交渉義務は,交渉の場を設けるだけでなく,必要に応じて主張の根拠を説明し,資料を提示し,相手方の提案を検討することを求める。賞与の財源,算定基礎及び支給時期を交渉できるのに,計画的残業制度への了解を得るための圧力として賞与交渉を拒む場合は,正当な理由のない団交拒否又は不誠実団交となる可能性が高い。

組合が会社回答どおりの賞与額を受け入れた後も,使用者が別問題の解決を理由に協定作成・支給を拒むときは,賞与額について合意形成が可能な状態にあるのに交渉を閉ざしたものとして,違法性が一層明確になる。

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個人事業廃業後の売掛金貸倒れ―所得税法51条・63条・152条(AI作成)

目次

第1 結論

第2 売掛金は廃業年分の売上げになる

第3 所得税法51条2項の貸倒損失

1 回収不能の類型
2 確認資料

第4 廃業後の損失を遡って算入する

1 所得税法63条
2 廃業年分と前年分

第5 更正の請求の特例

1 所得税法152条の期限
2 添付・保存する資料

第6 設例

第7 消費税は別に判定する

第8 出典・関連記事

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未払賃金を第三者が立替払いした場合―求償権と代位取得した財団債権(AI作成)

第1 結論

第2 最初に二つの権利を分ける

1 求償権
2 代位取得した原賃金債権

第3 破産法149条による財団債権

第4 最高裁平成23年11月22日判決

1 事案
2 判断
3 立替払いの時期・主体と租税債権の場合

第5 現在の民法で確認すべき点

第6 回収方法

第7 保存すべき資料

第8 令和8年司法試験倒産法との関係

第9 出典

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民事再生の担保権消滅許可―売却予定財産も「事業継続に欠くことのできないもの」といえるか(AI作成)

第1 結論

第2 制度の目的と効果

第3 「事業の継続に欠くことのできないもの」

1 典型例
2 売却予定財産に対する担保権者の反論
3 再生債務者の主張

第4 価額をめぐる手続

第5 実務で確認する資料

第6 令和8年司法試験倒産法との関係

第7 出典

第1 結論

民事再生法148条の担保権消滅許可は,別除権の目的財産が再生債務者の事業継続に欠くことのできないものであるとき,裁判所に財産価額相当額を納付して,その財産上の全ての担保権を消滅させる制度である。

再生債務者が財産自体を使用し続けず売却する予定である場合,文言上の「欠くことのできないもの」に当たらないという反論が成り立つ。他方,売却がスポンサー支援の具体的な条件であり,維持費の流出を止めることと併せて事業継続に直結するなら,処分の不可欠性を主張する余地がある。売却代金を事業に使える事案と,その代金は担保権者への弁済に充て,事業資金は別途スポンサーの出資から得る事案とを分けて資金繰りを示す必要がある。

許可要件と財産価額は別の問題である。売買価格が妥当でも不可欠性がなければ許可されず,不可欠性があっても担保権者は民事再生法149条の価額決定請求により納付価額を争うことができる。

第2 制度の目的と効果

再生手続では,抵当権等は別除権として原則として手続外で行使できる(民事再生法53条)。担保権がそのまま実行されると事業継続が困難になる場合に,共同の事業価値を維持しつつ担保権者へ目的物価値を保障する調整制度が担保権消滅許可である。

許可決定だけで直ちに担保権が消滅するわけではない。再生債務者等が裁判所の定める期限までに価額相当額を納付した時に消滅する(民事再生法152条2項)。申立書には財産の表示,申出価額,消滅すべき担保権及び被担保債権額を記載する。

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民事再生計画による100%減資とスポンサーへの第三者割当増資―既存株主を交代させる手続(AI作成)

第1 結論

第2 再生手続における株主の地位

第3 既存株式をゼロにする条項

1 再生計画に定める事項
2 取得自己株式の消却
3 資本金の額の減少

第4 スポンサーへの募集株式発行

1 民事再生法166条の2
2 譲渡制限株式の場合の計画条項
3 譲渡制限がない場合

第5 裁判所許可と株主の手続保障

第6 実行順序

第7 令和8年司法試験倒産法との関係

第8 出典

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青色申告の承認は事業承継できるか―申請・みなし承認・申告書の受理・信義則(AI作成)

目次

第1 結論

第2 青色申告制度と承認の性質

1 制度の目的
2 一身専属であること

第3 期限内に後継者自身が申請する

1 一般の新規開業・営業譲受け
2 青色申告者から相続した場合
3 被相続人が白色申告者であった場合

第4 みなし承認

第5 申告書の受理と信義則

1 受理は内容の是認ではない
2 租税法上の信義則は限定的である

第6 事業承継時の確認資料

第7 出典・関連記事

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小説の登場人物をTシャツ・SNSスタンプに使えるか――キャラクター,翻案権及び二次的著作物の新規部分(AI作成)

目次

第1 結論
第2 抽象的なキャラクターと具体的表現を分ける
第3 小説から映画・漫画になった場合
第4 キャンディ・キャンディ事件と28条
第5 「二次的著作物の新規部分」なら自由か
第6 Tシャツ・SNSスタンプ・場面画像の検討
第7 著作権以外の権利
第8 商品化前のチェックリスト
第9 出典・確認範囲

第1 結論

小説の登場人物について、性格、役割、口癖、人物関係等を抽象化した「キャラクター」自体は、直ちに独立の著作物になるわけではない。もっとも、小説の具体的な文章表現、漫画の絵、映画の映像・台詞等をTシャツやSNSスタンプに再製すれば、複製権、翻案権、公衆送信権等の侵害になり得る。

小説を原著作物として漫画・映画が二次的著作物に当たる場合、原著作者は著作権法28条により、二次的著作物の利用について二次的著作物の著作者と同一の種類の権利を有する。二次的著作物で新たに付加された外見や場面だから原著作者の権利が当然に及ばない、と単純に切り分けることはできない。

第2 抽象的なキャラクターと具体的表現を分ける

最高裁平成9年7月17日判決(ポパイ事件)は、漫画の登場人物のいわゆるキャラクターは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、それ自体は思想又は感情を創作的に表現したものとはいえないとした。

したがって、「無口な渡世人」「眼帯をした海賊」「魔法学校に通う少年」といった抽象的設定だけを利用することと、特定作品の絵、文章、衣装、構図、台詞及び組合せを再現することは区別する。名前だけの利用も著作権侵害にならない場合が多いが、ロゴとしての図案、商標、不正競争防止法上の商品等表示その他の権利は別に検討する。

著作権侵害では、アイデア又は抽象的特徴の共通ではなく、既存作品の創作的表現に依拠し、その表現上の本質的特徴を直接感得できるかが中心となる。

第3 小説から映画・漫画になった場合

著作権法2条1項11号は、二次的著作物を、著作物を翻訳、編曲、変形、脚色、映画化その他翻案することにより創作した著作物と定義する。小説を漫画化・映画化した作品は、原作の創作的表現を維持しつつ新たな表現を加えた二次的著作物になり得る。

映画監督、脚本家、美術担当者、漫画家等は、新たに創作した表現について権利を取得し得る。他方、二次的著作物の創作・利用には原著作者の権利処理も必要である。著作権法28条は、二次的著作物の原著作物の著作者が、その二次的著作物の利用について、二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有すると定める。

したがって、映画の場面画像を商品化する場合、映画製作者側の権利だけでなく、原作小説の著作者の28条上の権利も問題になり得る。

第4 キャンディ・キャンディ事件と28条

最高裁平成13年10月25日判決(キャンディ・キャンディ事件)は、連載漫画が原作原稿を原著作物とする二次的著作物であることを前提に、原作者が著作権法28条により、その漫画の利用について漫画家と同一の種類の権利を有するとした。

この判決の重要点は、漫画の絵が漫画家の創作した新たな表現であっても、二次的著作物である漫画の利用について、原作者の28条上の権利を否定しなかったことにある。原作文章に登場人物の顔の細部が書かれていないというだけで、漫画の商品化を原作者の権利から切り離すことはできない。

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公民館の自主講座で小説を翻訳・投影・配布できるか――著作権法35条・36条・38条・47条の6(AI作成)

目次

第1 結論
第2 公民館と「公民館を借りる自主グループ」は別である
第3 35条が使える場合
第4 36条の試験問題としての利用
第5 38条の非営利・無料の上映等
第6 翻訳と47条の6
第7 投影・配布・オンライン送信を分ける
第8 実施前のチェックリスト
第9 出典・確認範囲

第1 結論

市立公民館が組織的・継続的に行う非営利の自主講座であれば、著作権法35条の「学校その他の教育機関」に当たり、授業の過程で必要な限度の複製・公衆送信等が認められる余地がある。これに対し、市民の読書会やサークルが公民館の一室を借りて活動するだけなら、会場が公民館であることから直ちに35条の教育機関になるわけではない。

小説の翻訳、スクリーン投影、紙の配布、クイズへの利用及びオンライン送信は、それぞれ27条、22条の2、21条、36条及び23条の問題である。非営利・無料だから一括して自由になるのではない。35条、36条、38条及び47条の6の要件を、利用行為ごとに分ける必要がある。

第2 公民館と「公民館を借りる自主グループ」は別である

文化庁の「改正著作権法第35条運用指針」は、学校その他の教育機関を、組織的・継続的に教育活動を営む非営利の機関とし、公民館、博物館、図書館、生涯学習センター等を対象例に挙げる。他方、営利を目的として設置された塾、予備校、文化センター、企業内研修施設等は対象外とする。

重要なのは、誰が講座を設置・運営し、教育課程、講師、受講者及び会場を管理しているかである。市又は公民館が主催し、継続的な教育活動として位置付ける講座と、私的団体が公民館を単に会場として借りる集会は区別する。

会費又は200円程度の会場費を集めているかだけでは決まらない。営利性は一事情であるが、非営利であることだけで35条の「教育機関」になるわけではない。

第3 35条が使える場合

著作権法35条1項は、営利を目的として設置されたものを除く学校その他の教育機関で、教育を担任する者及び授業を受ける者が、授業の過程で必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、又は公衆送信等することを認める。ただし、著作物の種類・用途、複製部数、利用態様等に照らし、著作権者の利益を不当に害する場合は除かれる。

公民館の正規の講座が教育機関の授業に当たるとしても、小説1冊の全文を毎回配布する、市販教材の購入に代えて全員分を複製する、受講者以外も閲覧できるウェブサイトへ掲載するなど、権利者の市場と競合する利用は許されにくい。

必要性と分量は、講座の目的、対象箇所、受講者数、利用期間、アクセス制限及び市販物の入手可能性から判断する。出所を明示することは重要であるが、出所を示せば35条の限度を超えてもよいわけではない。

第4 36条の試験問題としての利用

著作権法36条1項は、公表された著作物を、入学試験その他の学識技能に関する試験又は検定の問題として、目的上必要な限度で複製・公衆送信することを認める。ただし、著作権者の利益を不当に害する場合は除かれ、営利目的の利用者には通常の使用料相当額の補償金支払義務がある。

講座の理解度を確認する簡単なクイズが、同条の「試験又は検定」に当たるとは限らない。裁判例は、試験の公正な実施のため、どの著作物を問題に利用するかを事前に秘密にする必要があり、そのため事前許諾が困難であることを重視する。

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先順位抵当権が競売前に消滅した場合の法定地上権―最高裁平成19年7月6日判決(AI作成)

目次

第1 結論と本判決の位置付け第2 事実関係の時間軸第3 原審の判断と最高裁の訂正第4 平成2年判決との区別第5 受任時の事実確認チェック第6 破棄自判の意味第7 出典及び確認範囲

第1 結論と本判決の位置付け

土地を目的とする先順位抵当権と後順位抵当権が設定された後,先順位抵当権が契約解除などにより競売前に消滅し,後順位抵当権の実行により土地と建物の所有者が異なることになった場合,法定地上権の同一所有者要件は,競売により消滅する最先順位の抵当権の設定時を基準に判断する。

最高裁第二小法廷平成19年7月6日判決(平成18年(受)第1398号)は,先順位抵当権の設定時にまでさかのぼって同一所有者要件を否定した原審を破棄し,第1審判決を取り消して,土地買受人の建物収去土地明渡請求を棄却する破棄自判をした。

第2 事実関係の時間軸

本件の理解には,登記の順位だけでなく,各抵当権の設定時,土地と建物の所有状態,先順位抵当権の消滅時及び競売時を並べる必要がある。

① 昭和44年,土地と建物の所有者が異なる状態で,両方に共同根抵当権(1番抵当権)が設定された。
② その後,相続により,土地所有者が建物共有者の1人となった。
③ 平成4年10月,土地に2番根抵当権が設定された。
④ 同月,1番抵当権の設定契約が解除され,その登記が抹消された。
⑤ その後,2番抵当権が実行され,買受人が土地所有権を取得した。

第3 原審の判断と最高裁の訂正

原審は,後順位抵当権者が「法定地上権の負担のない土地」として担保価値を把握していたと考え,先順位抵当権が後に契約解除で消滅した場合も,法定地上権を成立させなかった。

しかし,抵当権は被担保債権の弁済や設定契約の解除によって消滅することが予定された権利である。最高裁は,後順位抵当権者は,先順位抵当権の消滅による順位上昇の利益と,法定地上権成立の不利益とを予測して担保余力を把握すべきであるとした。

競売前に消滅した先順位抵当権者の利益を考慮する必要はない。そのため,実行される抵当権の設定時に同一所有者要件が満たされていれば,法定地上権の成立が認められる。

第4 平成2年判決との区別

最高裁第二小法廷平成2年1月22日判決は,競売により消滅する複数の抵当権が存在する場合に,その中の最先順位抵当権の設定時を基準とした。平成19年判決は,競売前に既に消滅した抵当権を,競売で消滅する抵当権と同列に扱うことはできないと区別した。

したがって,「先順位抵当権の設定時に土地建物が別所有であった」という事実だけで結論を出してはならない。競売の基礎となる抵当権と,配当又は競売により消滅する権利,競売前に消滅した権利を分ける必要がある。

第5 受任時の事実確認チェック

① 土地と建物の全部事項証明書を取得し,設定,移転,抹消及び競売の時点を一つの時系列にする。
② 各抵当権の被担保債権,共同担保目録,元本確定の有無及び消滅原因を確認する。
③ 各抵当権の設定時に,土地と建物が誰に属していたかを,相続関係も含めて固定する。
④ 競売で消滅する抵当権と,競売前に消滅した抵当権を分ける。
⑤ 建物が共有の場合は,土地所有者が建物共有者の1人であるか,共有持分と利用関係を確認する。

第6 破棄自判の意味

本件は,最高裁が法定地上権の成立を認めた後,事実審に差し戻さず,土地買受人の請求を棄却した。原審が適法に確定した事実と,最高裁が示した法解釈により,追加の事実審理をせず結論を出せたからである。

破棄判決を利用する際は,判示された法理だけでなく,最高裁が記録上の事実だけで自ら結論を出したのか,差戻審で追加審理させたのかを確認する必要がある。

第7 出典及び確認範囲

① 民法388条(e-Gov法令検索)
② 最高裁第二小法廷平成19年7月6日判決(平成18年(受)第1398号,民集61巻5号1940頁)
③ 森英明・絹川泰毅「最高裁民事破棄判決等の実情(上)―平成十九年度」判例時報2009号3頁以下(二次資料)

最高裁判決全文と現行民法の所在は確認済みである。判例秘書は照会0件/ヒット不明/本文確認0件であり,未検索は不存在又は未収録を意味しない。

出向命令の有効性―個別同意,就業規則・出向規程,労働契約法14条,途中交替及び命令拒否後の解雇(AI作成)

目次第1 出向命令の有効性を判断する順序第2 個別同意がなくても出向を命じられる場合第3 労働契約法14条の権利濫用審査第4 出向期間中に出向先を替える場合第5 資格取得・昇進への影響第6 育児・介護,通勤困難及び単身赴任第7 出向命令の拒否と解雇第8 令和8年度司法試験労働法第1問への当てはめ1 X3に対するA社への出向命令2 X1に対するC社への出向命令3 X1の解雇第9 実務上の確認事項第10 関連記事第11 出典・参考資料

在籍出向は,出向元との労働契約を残したまま,労働者が出向先の指揮命令を受けて働く人事措置である。配転と違って指揮命令をする使用者が替わるため,出向命令権の根拠を丁寧に確認する必要がある。他方,詳細な出向規程がある場合には,労働者の個別同意がなくても出向を命じられることがある。命令権がある場合も,業務上の必要性,人選,労働者の不利益及び手続を総合し,労働契約法14条の権利濫用に当たらないかを検討する。

本記事は,令和8年度司法試験労働法第1問の問題文を手掛かりに,出向先の途中交替,資格取得の遅れ,育児中の単身赴任,命令拒否後の普通解雇を一つの判断順序に整理する。令和8年度の出題趣旨及び採点実感は令和8年9月28日時点で公表されておらず,本記事の問題分析ではこれらを参照していない。

第1 出向命令の有効性を判断する順序

出向命令の有効性は,次の順序で判断する。

①在籍出向か,出向元との契約を終了させる転籍かを区別する。
②労働契約,就業規則,労働協約及び出向規程に,個別同意に代わる出向命令権の根拠があるかを確認する。
③対象となる出向先,期間,地位,賃金,賞与,退職金,昇格・昇給,手当及び復職の条件が十分に定められているかを確認する。
④命令権がある場合も,労働契約法14条により,業務上の必要性,人選,労働者の不利益及び命令に至る手続を総合する。
⑤命令拒否を理由に懲戒又は解雇をするときは,出向命令自体の有効性と,処分の根拠・相当性を別に審査する。

転籍は出向元との労働契約を終了させ,別の使用者との労働契約に一本化するものであるため,本人の承諾を要する。これに対し,在籍出向では出向元との労働契約が存続する。本記事でいう「出向」は,特に断らない限り在籍出向を指す。

第2 個別同意がなくても出向を命じられる場合

最高裁平成15年4月18日第二小法廷判決(新日本製鐵〔日鐵運輸〕事件)は,就業規則及び労働協約に社外勤務条項があり,労働協約である社外勤務協定に,社外勤務の定義,出向期間,出向中の社員の地位,賃金,退職金,各種出向手当,昇格・昇給等の査定その他の処遇について,出向労働者の利益に配慮した詳細な規定が設けられていた事案で,個別同意のない出向命令を認めた。

同判決からは,「出向を命じることがある」という抽象的な一文だけで足りると読むべきではない。少なくとも,出向の類型と対象範囲が予測できること,出向中も出向元との契約が実質的に存続すること,処遇及び復職に関する重要事項が具体化され,労働者の利益に配慮されていることが重要である。

また,労働契約法7条によって就業規則の労働条件が労働契約の内容となるためには,合理的な労働条件を定めた就業規則が労働者に周知されていることを要する。採用後に出向規程を新設・変更した場合には,同法10条の合理性及び周知も確認する。

第3 労働契約法14条の権利濫用審査

労働契約法14条は,使用者が労働者に出向を命ずることができる場合でも,その命令が,その必要性,対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして権利を濫用したものと認められる場合には無効とすると定める。

新日本製鐵事件判決も,①業務委託という経営判断及び出向措置の必要性,②人選基準の合理性と具体的人選の不当性の有無,③業務内容・勤務場所及び処遇に関する不利益,④発令手続の相当性を確認した上で,出向命令を権利の濫用ではないとした。したがって,条文の「その他の事情」には,出向先・業務・期間,賃金等の労働条件,職業上・家庭生活上の不利益,軽減措置,説明・協議の経過等が含まれる。

業務上の必要性があっても,その労働者を選ぶ理由がなく,他の候補者と比べて著しく不合理な不利益を集中させる場合や,退職強要・組合活動への報復等の不当な目的がある場合は,濫用が認められ得る。

第4 出向期間中に出向先を替える場合

当初の出向命令が有効でも,出向先Aから出向先Cへ移す命令が当然に有効になるわけではない。出向元へいったん復職させた上で別の出向先へ命じる場合は,新しい出向命令として,命令権の根拠と労働契約法14条を改めて検討する。

就業規則・出向規程で,対象となる出向先が特定され,出向期間の途中で復職させ得ることが定められていることは,新たな命令の予測可能性を高める。他方,規程が「出向期間は原則3年」とだけ定め,出向先交替の条件を定めていないときは,交替の緊急性,出向先との協議,残期間ではなく新たな3年間を命じるのか,処遇の連続性をどう扱うのかを説明する必要がある。

出向先から勤務態度を理由に交替を求められた場面では,交替要請を受けたこと自体と,別の労働者を選ぶことの合理性を分ける。出向元は,事実確認や本人への指導をせず,時間がないという理由だけで最も経験年数の長い者を選ぶと,人選の合理性を争われやすい。

第5 資格取得・昇進への影響

出向によって国家資格の受験に必要な実務経験を積めなくなり,資格取得や昇進が遅れることは,労働契約法14条の「その他の事情」として考慮すべき職業上の不利益である。

もっとも,資格取得の機会が永久に失われるのか,出向期間分だけ遅れるのか,資格が現在の職務に不可欠なのか,将来の昇進に必要なのか,会社が資格取得を具体的に約束・支援していたのかによって重みが異なる。本人の希望だけで出向命令権が消えるわけではない。出向の必要性と人選の合理性が強く,処遇も維持され,資格取得は延期にとどまる場合は,通常,濫用を認める決定的事情にはなりにくい。

使用者は,代替人選の有無,出向期間の短縮,帰任後の配置,資格取得支援等を検討しておくと,人選の合理性と不利益への配慮を説明しやすい。

第6 育児・介護,通勤困難及び単身赴任

(続きを読む...)出向命令の有効性―個別同意,就業規則・出向規程,労働契約法14条,途中交替及び命令拒否後の解雇(AI作成)

共益債権を再生債権として届け出た場合―双方未履行契約の解除・前払金返還と最高裁平成25年11月21日判決(AI作成)

第1 結論

第2 双方未履行の双務契約が解除された場合

1 民事再生法49条の選択権
2 ホテル利用契約等の前払金

第3 最高裁平成25年11月21日判決

1 事案の要点
2 最高裁の判断

第4 どの時点で対応すべきか

1 届出前
2 届出後・付議決定前
3 付議決定後

第5 実務で保存する資料

第6 令和8年司法試験倒産法との関係

第7 出典

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船荷証券の国際裁判管轄条項―運送人の選択権・選択時期・専属性(AI作成)

目次第1 管轄条項を読む順序第2 民事訴訟法3条の7第3 選択権付き条項第4 選択時期と専属性第5 出典

船荷証券には,運送人の本店所在地,船積港又は陸揚港の裁判所から運送人が一つを選ぶ旨の条項が置かれることがある。この条項を理由に日本の訴えを却下できるかは,合意の方式,有効性,専属性,選択の時期及び指定裁判所の管轄を順に検討する必要がある。本記事は令和8年9月28日現在の日本法を前提とする。

第1 管轄条項を読む順序

最初に,①対象となる一定の法律関係,②候補となる国・裁判所,③選択権者,④専属管轄か付加的管轄か,⑤選択の方法と期限,⑥指定裁判所が実際に裁判権を行使できるかを条項の文言から確認する。「訴えることができる」というだけでは専属性が明らかでない場合がある。他方,他の裁判所を排除する趣旨が文言と契約全体から明白なら,専属的合意と解され得る。

第2 民事訴訟法3条の7

民事訴訟法3条の7第1項は,当事者が合意により,いずれの国の裁判所に訴えを提起できるかを定められるとする。同条2項により,合意は一定の法律関係に基づく訴えについて,書面でしなければ効力を生じない。電磁的記録も書面とみなされる(同条3項)。指定された外国裁判所が法律上又は事実上裁判権を行使できないときは,外国裁判所を専属管轄とする合意を援用できない(同条4項)。日本の専属管轄に属する事件を外国裁判所に委ねることもできない(同法3条の10)。

なお,船荷証券のような事業者間の契約と異なり,消費者契約や労働契約について将来生ずる紛争を対象とする管轄合意は,同条5項・6項により,効力を有する場合が限られている。例えば,雇用契約の締結時に外国の裁判所だけを指定した条項は,労働契約の終了の時にされた合意である場合,労働者が合意された国の裁判所に訴えを提起した場合又は事業主から訴えられた労働者が合意を援用した場合でなければ,効力を有しない(同条6項)。労働契約の管轄条項と準拠法については,外国企業に雇われて日本で働く人の労働紛争―管轄条項の効力(民訴法3条の7第6項),準拠法と日本の強行規定(通則法12条),国外払い給与の確定申告で整理している。

最高裁判所第三小法廷昭和50年11月28日判決は,船荷証券の管轄約款について,当事者の一方が作成した書面に特定国の裁判所が明示され,合意の存在と内容が明白であれば方式上足りるとした。また,外国裁判所だけを第一審の管轄裁判所とする合意は,日本の専属管轄事件でなく,指定裁判所がその外国法上管轄を有し,合意がはなはだしく不合理で公序法に違反するとき等の場合は格別,原則として有効であるとした。現在は3条の7の明文も踏まえて判断する。

第3 選択権付き条項

複数の候補地から運送人だけが選べる条項であっても,候補が客観的に特定され,いずれも運送契約と合理的関連を有し,運送人が恣意的に全く無関係の裁判所を指定できないなら,直ちに無効になるとは限らない。

東京地方裁判所平成20年9月24日判決(平成19年(ワ)第30011号)は,運送人が船荷証券所定の候補から台湾の裁判所を訴え提起後に選択し,本案前の抗弁として日本の訴えの却下を求めた事案で,その選択を是認して訴えを却下したと紹介されている。ただし,この判決は裁判所ウェブサイトに掲載されておらず,本記事では公刊資料・専門誌索引による確認である。

第4 選択時期と専属性

訴え提起後の選択を許すと,原告は提訴時にどの国で審理されるかを確定できず,除斥期間又は時効の経過後に外国での再提訴を強いられるおそれがある。そのため,条項の文言に期限がなくても,信義則,権利濫用,予測可能性及び実効的な裁判を受ける機会の観点から,選択時期に限界があるとの議論が成り立つ。

もっとも,前記東京地裁判決は訴え提起後の選択を認めたとされる。個別事件では,候補地の合理性,原告が条項を認識できたか,運送人がいつ選択を通知したか,外国で再提訴できるか,証拠と関係者がどこにあるかを具体的に主張する必要がある。選択権付き条項を一律に有効又は無効と扱うのは適切でない。

第5 出典

①e-Gov法令検索「民事訴訟法」3条の7,3条の9,3条の10。
②最高裁判所第三小法廷昭和50年11月28日判決(昭和45年(オ)第297号,民集29巻10号1554頁)。
③東京地方裁判所平成20年9月24日判決(平成19年(ワ)第30011号。裁判所ウェブサイト未掲載)。判決の概要は,流通経済大学リポジトリ掲載「物流問題研究58号」及び増田史子「選択権付国際裁判管轄条項」ジュリスト1442号120頁以下で確認した。
④経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」の国際裁判管轄合意の整理。

数値限定発明の境界値を下回る製品は特許侵害か――「700以上」と699.91848判決,均等論及びサポート要件(AI作成)

目次

第1 結論
第2 「700以上」と699.91848が争われた判決
第3 文言侵害は数値の丸めでは決まらない
第4 均等論の第1要件・第2要件・第5要件
第5 サポート要件との関係
第6 登録後・公報発行前の実施と損害賠償
第7 数値限定発明を検討する手順
第8 出典・確認範囲

第1 結論

特許請求の範囲が「分子量700以上」と定めているとき、測定値が699.91848の製品は、通常の数学的な丸め方では700と表示できるとしても、それだけで文言上「700以上」に含まれるわけではない。知的財産高等裁判所令和7年3月4日判決(令和6年(ネ)第10026号)は、700未満の数値を文言侵害に含めず、均等侵害についても第5要件を満たさないとして特許権侵害を否定した。

もっとも、境界値をわずかに下回れば常に非侵害になるわけでもない。①請求項の数値の意味、②明細書の測定方法・有効数字・実施例、③作用効果、④出願経過、⑤均等論の5要件、⑥サポート要件等の無効理由を、別々に検討する必要がある。

第2 「700以上」と699.91848が争われた判決

知財高裁令和7年3月4日判決は、紫外線吸収剤(UVA)の分子量を「700以上」とする構成要件について、被告製品のUVAの分子量が699.91848であった事案を扱った。

判決は、構成要件の「分子量700以上」は、その文言どおり700以上であることを求め、699.91848は700未満であるから文言充足を否定した。侵害判断で問題になるのは、商品のラベル表示又は便宜上の丸め値ではなく、請求項を明細書及び図面も参酌して解釈した結果と、採用すべき測定方法による対象製品の値である。

同判決は均等論の第1要件を満たすと判断したが、第5要件を満たさないとして均等侵害を否定した。特に第5要件では、出願人が請求項に小数点以下を付けず「700以上」と記載したことなどから、700未満の構成を特許請求の範囲から客観的・外形的に除外したと評価した。

第3 文言侵害は数値の丸めでは決まらない

特許法70条1項は、特許発明の技術的範囲を特許請求の範囲の記載に基づいて定めるとし、同条2項は明細書及び図面を考慮して用語の意義を解釈すると定める。したがって、数値限定発明では少なくとも次を確認する。

①請求項が整数、小数又は範囲でどのように記載されているか。
②明細書が測定装置、試料調製、測定条件、誤差及び有効数字を定めているか。
③実施例・比較例が境界値をどのように扱っているか。
④出願経過で数値範囲を補正し、又は境界外の構成を区別したか。
⑤当業者が請求項の数値をどの精度で理解するか。

測定誤差があることと、請求項の境界値を丸めてよいことは同じではない。測定方法が複数あり結果が変わるときは、まずクレーム解釈として採用すべき測定方法を確定し、その方法による立証値が境界内かを判断する。

第4 均等論の第1要件・第2要件・第5要件

最高裁平成10年2月24日判決(ボールスプライン事件)は、文言上の相違があっても、①相違部分が本質的部分でないこと、②置換しても目的を達成し同一の作用効果を奏すること、③置換が対象製品の製造時等に容易想到であること、④対象製品等が出願時の公知技術と同一又は容易推考でないこと、⑤意識的除外等の特段の事情がないことという要件の下で均等侵害を認め得るとした。

同判決が原判決を破棄して差し戻したのは、原審が置換可能性及び置換容易性を中心に判断し、対象製品が出願時の公知技術と同一又は当業者が容易に推考できたものかという第4要件を十分に検討しないまま結論を出したためである。均等論は五要件の一部を満たせば足りるものではなく、各要件に対応する主張、証拠、反証及び判断を一つずつ確認する必要がある。

699.91848判決は、請求項の分子量700以上という限定について、第1要件を満たすと判断した。他方、第5要件を満たさないため、その他の均等要件について判断するまでもなく均等侵害を否定した。境界値に近いことや作用効果の同一性だけから、第2要件を裁判所が認定したものと読むことはできない。

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公海上の船舶衝突における国際裁判管轄・準拠法と責任保険の直接請求(AI作成)

目次第1 問題の所在第2 日本の国際裁判管轄第3 公海衝突の準拠法第4 責任保険者への直接請求第5 実務上の確認順序第6 出典と未確定部分

公海上で外国船同士が衝突したときは,「どの国で訴えるか」と「どの国の法を適用するか」を分けて検討する必要がある。さらに,船主の責任保険者に被害者が直接請求できるかは,直接請求権の法性決定を経なければ結論が出ない。本記事は,令和8年10月1日現在の日本法を前提に整理したものである。

第1 問題の所在

公海には領域主権を有する国がない。そのため,陸上の交通事故のように「事故地法」を直ちに選ぶことができない。船舶の旗国,損害船舶が最初に到達した地,船主の本店所在地,当事者の共通常居所地等のうち,どの事実を国際裁判管轄又は準拠法の連結点とするかを区別して考える必要がある。

第2 日本の国際裁判管轄

民事訴訟法3条の3第9号は,船舶の衝突その他海上の事故に基づく損害賠償請求について,「損害を受けた船舶が最初に到達した地が日本国内にあるとき」に日本の裁判所の管轄権を認める。予定された最初の寄港か,事故後の救難・応急修理のための緊急入港かを問わず,条文上は実際に最初に到達した地が基準になると解するのが自然である。ただし,単なる一時的接触しかなく,日本で審理することが当事者間の衡平又は適正・迅速な審理を著しく害する場合には,同法3条の9の「特別の事情」が別に問題になる。

同じ衝突でも,どの船舶が損害を受けた船舶であるか,誰が誰に請求するかにより,同号の適用関係は変わり得る。被告の主たる事務所等が日本にあるときは同法3条の2による管轄も検討する。

第3 公海衝突の準拠法

不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は,原則として加害行為の結果が発生した地の法による(法の適用に関する通則法17条本文)。しかし,公海上の衝突には領域的な結果発生地法がない。この場合の処理について,通則法には海事不法行為専用の明文規定がない。

学説上は,①各船舶を旗国の領域に準じて扱う,②被害船の旗国法による,③双方の船舶が同一旗国ならその法による,④法廷地法による,⑤通則法20条の「明らかにより密接な関係がある地」の法を探す,といった構成が論じられてきた。双方が同一旗国であれば共通旗国法を基礎にする見解が有力である。他方,異なる旗国の船舶が公海上で衝突した事案について,東京高裁平成29年6月30日決定(平成29年(ラ)第310号,判例タイムズ1446号)は,損害賠償請求権の準拠法を双方の旗国法の累積適用とした。
同決定は保険金請求権への先取特権に基づく差押えをめぐる執行抗告事件で,損害賠償請求権の準拠法は先取特権の成立を判断する前提として論じられたものである。
公海衝突一般について最高裁の統一判断が示されたとまではいえないが,異国籍船の事件で日本の裁判所が審理するというだけで日本法を単独適用する説明は,同決定と整合しない。

準拠法が外国法であるときは,通則法22条による二重の制限も確認する。外国法上は不法でも日本法上不法でない行為について請求はできず,日本法が認める処分を超える請求もできない。

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廃棄物最終処分場の容量超過・浸出水流出に対する行政対応―報告徴収,立入検査,措置命令,事業停止及び行政実施(AI作成)

目次

第1 最初に分ける四つの軸

第2 事実を確定する調査権限

第3 処理業に対する停止・取消し

第4 施設設置者に対する改善・使用停止・取消し

第5 処理基準違反の改善命令と支障除去の措置命令

第6 行政による支障除去と費用負担

第7 優先順位と比例原則

第8 関連記事

第9 出典

第1 最初に分ける四つの軸

最終処分場で容量超過や浸出水流出が判明したときは,①一般廃棄物か産業廃棄物か,②処理業の許可と施設設置許可のどちらの問題か,③違反の是正と生活環境上の支障除去のどちらを目的とするか,④命令を先行できる平時か直ちに行政が措置すべき緊急時かを分ける。

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職務発明を従業員が第三者へ譲渡した場合――原始帰属,予約承継,二重譲渡及び特許権移転登録請求(AI作成)

目次

第1 結論
第2 職務発明でも原則は従業者に権利が発生する
第3 35条3項の原始帰属と通知時承継の違い
第4 出願前の二重譲渡と34条1項
第5 背信的悪意者と先願者の扱い
第6 冒認出願・登録後の移転請求
第7 会社・従業者・譲受人が保存すべき証拠
第8 出典・確認範囲

第1 結論

従業者が完成した職務発明について、会社の職務発明規程が「会社が取得すると決定して通知した時に承継する」と定める場合、その規程は、特許法35条3項の「発明完成時から会社に原始帰属する」定めとは異なる。発明完成時には従業者に特許を受ける権利が発生し、会社の決定・通知によって会社へ移転する承継型の規程と解される。

従業者が通知前又は通知後に同じ権利を第三者へ譲渡し、会社と第三者の双方が権利を主張する場合は、①発明完成時の規程、②会社への承継時期、③第三者への譲渡時期、④誰が先に出願したか、⑤第三者が背信的悪意者か、⑥既に特許登録がされたかを時系列で分ける。出願前の特許を受ける権利の承継は、原則として承継人が出願しなければ第三者に対抗できない(特許法34条1項)。

第2 職務発明でも原則は従業者に権利が発生する

特許法29条1項は発明をした者が特許を受けることができるとし、33条1項は特許を受ける権利を移転できると定める。職務発明であっても、35条3項の原始帰属を定める契約・勤務規則等がない限り、特許を受ける権利は発明者である従業者に発生する。

使用者は、職務発明について特許を受ける権利を従業者から承継しなかった場合でも、その従業者又は承継人が取得した特許権について通常実施権を有する(35条1項)。しかし、通常実施権があることと、会社が特許権者であることは別である。

また、発明者であることと権利者であることも別である。従業者が発明者でありながら会社が特許を受ける権利を保有することも、第三者が適法に権利を承継して出願人になることもある。

第3 35条3項の原始帰属と通知時承継の違い

特許法35条3項は、職務発明について、契約、勤務規則その他の定めにより「あらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたとき」は、特許を受ける権利が発生した時から使用者等に帰属すると定める。典型的には、「従業者がした職務発明について、特許を受ける権利は、その発生した時から会社に帰属する」という規程である。

これに対し、特許庁の職務発明制度に関するQ&Aは、「会社が職務発明に係る権利を取得する旨を発明者に通知したときは、会社は当該通知の到達時に取得する」という規程を、35条3項の原始帰属の定めに当たらない例として明示する。この規程では、会社は通知の到達によって従業者から権利を承継する。

両者の違いは、従業者が第三者へ譲渡した場合に重大である。原始帰属型なら、発明完成時から会社が権利者であり、従業者は原則として第三者へ有効に譲渡できない。承継型なら、会社への承継前には従業者が権利者であり、会社と第三者との優劣が34条1項等の問題になる。

職務発明の発明者性と相当の利益については、職務発明の発明者は誰か――上司の指示,実験担当者,共同発明者及び相当の利益(AI作成)で整理している。

第4 出願前の二重譲渡と34条1項

特許法34条1項は、特許出願前における特許を受ける権利の承継は、承継人が特許出願をしなければ第三者に対抗できないと定める。登記ではなく、出願が対抗要件になる。

承継型の職務発明規程の下で、従業者が同じ特許を受ける権利を会社と第三者に二重に譲渡した場合、両者の契約日又は通知日だけで優劣が決まるわけではない。原則として、承継人として先に出願した者が、他方に対して権利取得を主張できる。

(続きを読む...)職務発明を従業員が第三者へ譲渡した場合――原始帰属,予約承継,二重譲渡及び特許権移転登録請求(AI作成)

共同購入・購入価格カルテルと独占禁止法―購入市場、川下市場、共通費用及び一方向の情報提供(AI作成)

目次第1 結論第2 共同購入と購入価格カルテルを分ける第3 二つの市場を検討する1 原材料の購入市場2 川下製品の販売市場第4 共通費用率と独立した競争単位第5 購入価格の目標額・上限額を共同で決める場合第6 情報交換,意思の連絡及び一方的な追随1 意思の連絡2 一方向の情報提供と追随3 従業員の行為の帰属第7 共同購入の設計・証拠・情報遮断第8 令和8年度司法試験経済法から得られる整理第9 一次資料と確認状況
第1 結論

競争事業者が原材料を共同購入することは,取引費用の削減,購入数量の集約,輸送の効率化又は不足する交渉機能の補完につながるため,それ自体が直ちに独占禁止法違反となるものではない。

もっとも,共同購入の参加者が原材料の購入価格,購入数量又は購入先という重要な競争手段を共同で決め,原材料の購入市場又は川下製品の販売市場における競争を実質的に制限する場合は,独占禁止法2条6項の不当な取引制限に当たり,同法3条に違反する。共同購入による効率性と,購入価格カルテルによる競争回避を区別する必要がある。

第2 共同購入と購入価格カルテルを分ける

共同購入では,参加者が何を共同化し,何を各社の独立判断に残しているかを確認する。共同化の対象には,仕様の標準化,需要量の集約,購入先候補の選定,入札の実施,購入価格の交渉,発注,検収及び代金支払がある。

複数社の需要量をまとめて供給者から見積りを取り,規模の利益によって物流費又は取引費用を下げる仕組みには競争促進効果があり得る。他方,各社が個別に購入する場合にも適用する目標価格,購入価格の上限又は供給者への提示条件を競争事業者間でそろえることは,購入価格という競争手段の共同決定に近づく。

公取委「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」も,共同販売,共同購買又は共同生産では,対象商品・役務の価格,数量又は取引先等の重要な競争手段が共同事業の中で決定されるため,他の共同事業より独占禁止法上問題となる可能性が高いとしている。

第3 二つの市場を検討する
1 原材料の購入市場

第一に,共同購入の対象となる原材料について,参加者が買い手として持つ地位を検討する。供給者の数,輸送可能な地域,輸入可能性,品質差,転用可能性,供給余力及び他の需要者の存在を確認し,共同購入参加者が当該原材料の需要全体に占める割合を見る。

購入者側のシェアが高ければ,共同購入参加者が購入条件を支配し,供給者が他の販売先へ切り替えられない可能性が高くなる。川下製品の販売シェアから原材料の購入シェアを当然に導くことはできないため,数量,金額,品質区分及び地域をそろえた購入データが必要である。

例えば,川下の完成品について輸入が増え,販売価格が下がっていても,国内の原材料供給者に他の買手が十分存在するとは限らない。完成品の輸入による販売側の競争圧力と,原材料の購入側における供給者の代替販売先は,それぞれ別の資料で確かめる。

2 川下製品の販売市場

第二に,共同購入する原材料を使用して製造する製品の販売市場を検討する。参加者の合計シェアが高く,共同購入対象の原材料費が製品価格又は製造費用に占める割合も高い場合,共同購入によって各社の費用構造が近づき,川下の販売価格,数量その他の競争条件が同一水準になりやすくなる可能性がある。

公取委「企業間電子商取引市場の設立」は,原材料購入分野と,その原材料を用いた製品の販売分野を分け,購入参加者のシェア,川下のシェア及び製造コストに占める原材料購入額の割合を検討している。

第4 共通費用率と独立した競争単位

原材料費が製品価格の小さな部分しか占めない場合,その費用を共同化しても,各社には人件費,設備費,研究開発費,物流費,販売費等について広い独立性が残る。反対に,共同購入の対象が製品価格又は製造原価の大部分を占めるときは,共通化される費用が各社の販売判断に与える影響が大きくなる。

公取委の相談事例では,自動車部品メーカー5社の川下シェアが約50%であっても,共同購入対象原材料が製造コストに占める割合と原材料需要に占める共同購入参加者の割合がいずれも1%以下であったため,競争への影響が小さいとされた。

ただし,特定の数値を形式的な安全港と扱うことはできない。共同化後も,各社が販売価格,販売数量,販売先,製品仕様,設備投資及び研究開発を独立して決定できるか,原材料価格その他の競争上機微な情報が共有されるかを確認する。

第5 購入価格の目標額・上限額を共同で決める場合

共同購入の参加者が,特定供給者から一括購入する価格を共同で交渉することと,各社が個別購入する場合にも共通して用いる目標価格又は上限額を定めることは区別する必要がある。

共同購入の対象取引に限って価格を共同交渉する場合でも,購入市場における参加者の地位が高ければ不当な取引制限となり得る。他方,個別購入において競争事業者が共通の交渉目標を決める場合も,各社の将来の価格交渉方針をそろえるため,購入価格カルテルの検討を要する。「一定額を超えては購入しない」とまで拘束する合意なら,個別購入の価格決定の自由をさらに強く制約する。

「目標上限値以下の価格で交渉する」という合意と,上限を超えた価格での購入自体を禁止する合意は区別する。前者から後者を推認してはならない。実際の購入価格は,合意の内容とは別に,合意の実施状況,供給者の交渉力及び市場への影響を判断する資料として確認する。

合意どおりの価格で全件購入できなかったことだけで,合意又は相互拘束が否定されるわけではない。ただし,購入市場における競争の実質的制限を判断するときは,参加者の購入シェア,供給者の代替販売先,輸入,供給余力,合意の実施状況及び価格への影響が重要となる。

原材料費の低下が川下価格の低下につながる可能性はあるが,その可能性だけで購入価格の共同決定が当然に適法になるものではない。効率性の内容,実現可能性,消費者への還元及び同じ効果を得られるより競争制限的でない手段を具体化する。

第6 情報交換,意思の連絡及び一方的な追随

意思の連絡を検討する際は,売手が販売価格をそろえる場面と,買手が購入価格をそろえる場面を区別し,どの取引段階で何を共同決定したのかを特定する。価格が同じ時期に動いたという事情だけで合意が確定するわけではない。令和8年10月のビール大手4社による価格カルテル疑惑は販売側の協調を疑う調査であり,本記事の原材料の共同購入とは対象が異なる。以下の合意・一方向の情報提供の区別は分析の枠組みとして参考になるが,今回の4社の行為が認定されたという意味ではない。

1 意思の連絡

独占禁止法2条6項の「共同して」に該当するには,複数の事業者相互の意思の連絡が必要である。公取委審決データベースに掲載された郵便区分機類事件審決は,事業活動が同調的に行われているだけでは足りず,相互に他の事業者の同内容の行為を認識又は予測し,これと歩調をそろえる意思が必要であるとする。

(続きを読む...)共同購入・購入価格カルテルと独占禁止法―購入市場、川下市場、共通費用及び一方向の情報提供(AI作成)

区域外委託された一般廃棄物を受入自治体が処理した場合の費用償還―最高裁令和7年7月14日判決と事務管理(AI作成)

目次

第1 問題の所在と結論
第2 市町村の処理責任は委託で消えない
第3 区域外委託に伴う事前通知と実地確認
第4 最高裁令和7年7月14日判決1 事案2 委託元市町村の法的義務3 行政実施と事務管理は両立し得る
第5 費用償還請求でなお検討すべき事項
第6 倒産した処分業者と委託元自治体を混同しない
第7 実務で保存すべき資料
第8 関連記事
第9 出典

第1 問題の所在と結論

市町村が区域内の一般廃棄物を民間業者に委託し,他の市町村の区域内にある最終処分場で処分させた後,不適正処分による生活環境上の支障が生じた場合,委託元市町村の責任は消えるのであろうか。

最高裁令和7年7月14日第一小法廷判決(令和5年(受)第606号)は,委託元市町村が区域外でも支障除去等を行う法的義務を負い,立地市町村が措置を講じたときは民法上の事務管理が成立し得ると判示した。ただし,同判決は費用全額の償還を認めたものではなく,償還できる費用の額等について審理させるため事件を差し戻している。

第2 市町村の処理責任は委託で消えない

廃棄物処理法4条1項,6条及び6条の2第1項は,市町村に,区域内の一般廃棄物について処理計画を策定し,生活環境の保全上支障が生じないうちに収集・運搬・処分する責任を負わせている。これは,個々の住民に処理責任を負わせるだけでは継続的・安定的な処理を期待できないため,市町村を処理主体としたものである。

市町村は処理を民間業者に委託できるが,委託は事務の実施方法にすぎず,処理主体としての責任を免れさせるものではない。委託先が区域外にある場合も同じである。

第3 区域外委託に伴う事前通知と実地確認

廃棄物処理法施行令4条9号イは,区域外で一般廃棄物を処分させる市町村に,受入市町村へ受託者名,処分場所等をあらかじめ通知することを求め,埋立処分では埋立地の所在地及び残余容量等も通知事項となる。

同号ロ及び施行規則1条の8は,1年以上継続して委託するとき,委託元市町村が処分の実施状況を年1回以上実地に確認することを求める。これらは,区域外委託後も委託元市町村が適正処理を確保する責任を負うことを具体化した規定である。

第4 最高裁令和7年7月14日判決
1 事案

敦賀市内の民間最終処分場では,届出容量を大幅に超える埋立てがされ,浸出液の混じった地下水が河川へ流出した。敦賀市は,廃棄物処理法19条の4に基づく措置命令後,同法19条の7に基づき福井県と対策工事等を実施し,処分を委託していた他の市町村等に事務管理に基づく費用償還等を求めた。

2 委託元市町村の法的義務

最高裁は,委託元市町村が個々の排出者に代わって一般廃棄物の適正処理責任を負い,自区域内で処分する場合の様々な事実上の負担を免れる利益を得ることを重視した。そのため,区域外の不適正処分による支障についても,委託元市町村は本来的に支障除去等を行うべき地位にあり,法的義務を負うとした。

3 行政実施と事務管理は両立し得る

立地市町村が廃棄物処理法19条の7に基づいて措置を行うことは,立地市町村自身の事務である。しかし,委託元市町村の法的義務も残るため,同じ措置が委託元市町村の事務の管理にもなり得る。公法上の権限行使であることだけを理由に民法697条1項の事務管理を否定することはできない。

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販売代理店の値引き・顧客切替えと独占禁止法―再販売価格拘束、リベート及び拘束条件付取引(AI作成)

目次第1 結論第2 推奨価格と再販売価格拘束の境界1 名称でなく実効性を見る2 リベート不支給による価格遵守3 正当な理由と著作物の適用除外第3 顧客切替え・販売先制限と拘束条件付取引1 公取委の販売代理店変更理由書の事例2 サービス向上目的と必要性を分ける第4 スイッチングコストと競争の範囲第5 価格拘束と非価格制限を区別する第6 契約・制度設計で確認する事項第7 令和8年度司法試験経済法から得られる整理第8 一次資料と確認状況
第1 結論

メーカーが販売代理店に希望価格を知らせること自体は,直ちに独占禁止法違反となるものではない。もっとも,値引きをした代理店についてリベートを失わせ,供給を停止し,出荷を遅らせるなどの不利益によって希望価格を守らせる場合は,名称が「推奨価格」であっても再販売価格拘束となり得る。

また,メーカーが,顧客の代理店変更について理由書,事前確認又は従来代理店への通知を求める場合は,サービス改善という目的だけで適法になるわけではない。顧客の切替えを負担にし,従来代理店に引止めの機会を与え,代理店間の値引き競争を弱める仕組みであれば,一般指定12項の拘束条件付取引として問題となり得る。

第2 推奨価格と再販売価格拘束の境界
1 名称でなく実効性を見る

独占禁止法2条9項4号は,正当な理由がないのに,自己の供給する商品を購入する相手方に対し,その販売価格を定めて維持させることなどを再販売価格の拘束として定め,同法19条がその使用を禁止している。

公正取引委員会「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」は,メーカーが希望小売価格又は参考価格を単に示すことと,取引停止等の経済上の不利益を背景に販売価格を守らせることを区別している。メーカーの示した価格が「参考価格」「推奨価格」と表示されていても,販売代理店が実質的に自由に価格を決められなければ,表示だけで適法にはならない。

2 リベート不支給による価格遵守

リベートは,数量割引や販売促進として競争を促す場合もある。しかし,推奨価格より安く販売したことを理由にリベートを与えない仕組みは,代理店に値引きによる損失を予測させ,価格遵守を確保する機能を持ち得る。

次の事情は,単なる価格情報の提供ではなく,実効性を伴う拘束であることを示す。

①値引きの有無をメーカーが監視していること
②値引きをした場合に失うリベートの額が無視できないこと
③違反時の不利益が契約又は運用上あらかじめ定められていること
④代理店が不利益を避けるため実際に値引きをやめていること
⑤従来の販売価格を維持することが制度の目的又は効果となっていること

和光堂事件の最高裁昭和50年7月10日判決は,指示価格を守らない卸売業者への歩戻金算定上の不利益を扱い,契約上の価格遵守義務がなくても,従わない場合の経済上の不利益によって拘束の実効性が確保されれば足りるとした。現在のリベート制度でも,不支給の予告,算定条件,代理店の実際の価格行動を確認する必要がある。ただし,同事件で生じた個別の不利益を,現実の不支給が未確認の事案へそのまま移してはならない(公取委年次報告による判決の説明)。

リベート不支給は,まず再販売価格拘束の実効性確保手段として評価する。さらに,値引き代理店へのリベート差別が実際に行われたときは,一般指定4項の取引条件等の差別取扱いも独立に検討する。将来の不支給を知らせた事実だけから,差別取扱いの実施まで認定しない(公取委指針第1部第1の2(4))。

3 正当な理由と著作物の適用除外

再販売価格拘束の「正当な理由」は,価格を維持すれば販売店の利益又はブランドイメージを守れるというだけで認められるものではない。公取委指針は,消費者利益の増進,競争促進効果,より競争制限的でない代替手段の有無,必要な範囲及び期間などを検討する。

独占禁止法23条4項は,一定の著作物について再販売価格拘束の適用除外を定めているが,すべてのソフトウェア,電子機器又はデジタル商品が当然にこの適用除外となるわけではない。対象商品,取引形態及び同項の要件を個別に確認する。

令和8年7月8日の公取委指針改正は,取引先が単なる取次ぎとして機能し,メーカーが危険と費用を負担して実質的に自らユーザーへ販売する場合の例を追加した。契約を「代理店」「委託販売」と呼ぶだけでは足りず,売れ残り・契約不適合・滅失・代金回収不能の危険と販売前の費用を誰が負担するかを確認する。契約審査の資料と手順は「委託販売・代理店契約でメーカーが販売価格を指定できる場合(AI作成)」にまとめた。

第3 顧客切替え・販売先制限と拘束条件付取引
1 公取委の販売代理店変更理由書の事例

公取委「メーカーによる流通業者に対する販売先制限」は,電子機器メーカーが,取引先販売代理店を変更しようとするユーザーに変更理由の提出を求める制度を検討した相談事例である。

公取委は,類似するパソコン用ソフトが存在しても移行するユーザーが少ないことから,電子機器の顧客獲得をめぐる販売代理店間の競争への影響を検討した。そして,顧客から書面を得られない場合に販売代理店間の競争が阻害される可能性,制度が顧客略奪を防ぐ目的で販売代理店側から求められた経緯,競争回避のために利用される可能性を指摘した。

同事例では類似ソフトを含めたシェアは20%で,既存ユーザーが機器とソフトの間を移行することはほとんどなく,データ移行作業は新しく販売した代理店が担う。令和8年度司法試験経済法第1問ではシェアは25%で,新規ユーザーの製品選択と既存ユーザーの買換えを分け,データ移行を従来代理店が担う。相談事例の結論だけを移植せず,これらの事実差と代理店間競争への影響を検討する。

同事例は旧一般指定13項を記載しているが,現行の一般指定では12項の拘束条件付取引に対応する。現行の一般指定12項は,法2条9項4号又は一般指定11項に該当する行為を除き,相手方とその取引相手との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件を付けて取引する行為を定めている。

2 サービス向上目的と必要性を分ける

顧客の切替理由を知ることは,サービス改善に役立つ場合がある。しかし,目的に合理性があることと,特定の事前手続が不可欠であることは別問題である。

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フランチャイズ本部の仕入代金報告義務―最高裁平成20年7月4日判決と契約・データ管理(AI作成)

目次

第1 問題の所在
第2 最高裁平成20年7月4日判決

1 契約と発注・決済の仕組み
2 準委任と報告義務
3 破棄差戻しの範囲

第3 報告請求の対象を特定する
第4 加盟店側の準備
第5 本部側の契約・データ管理
第6 紛争時の確認事項
第7 一次資料

フランチャイズ契約に「仕入代金の具体的な支払内容を報告する」と明記されていない場合でも、本部が加盟店に代わって仕入先へ代金を支払う仕組みであれば、民法上の報告義務が問題になります。契約書の名称や条項の有無だけでなく、誰が売買当事者で、誰が支払事務を処理し、どこに発注・検品・請求データが集約されるかを確認します。

第1 問題の所在

フランチャイズ本部が、加盟店の発注データを取りまとめ、仕入先から請求データを受け、加盟店に代わって仕入代金を支払い、後に本部・加盟店間の継続的な計算で精算することがあります。この場合、加盟店には仕入先に対する代金支払義務があり、本部はその支払事務を処理しているという法律関係が成立し得ます。

月次損益計算書や商品報告書が交付されていても、支払先、支払日、商品ごとの単価・数量、値引きその他の具体的な支払内容が分からないことがあります。既存資料があるというだけで、加盟店が自ら負担する仕入代金の検証に必要な情報がすべて報告済みとは限りません。

第2 最高裁平成20年7月4日判決
1 契約と発注・決済の仕組み

最高裁第二小法廷平成20年7月4日判決・平成19年(受)第1401号は、コンビニエンスストアの加盟店経営者が本部に対し、本部が加盟店に代わって支払った仕入代金について、支払先、支払日、支払金額、商品名、単価・個数、値引きの有無等の報告を求めた事案です。

この契約では、本部と加盟店は独立の事業者とされ、推薦仕入先からの商品仕入れは加盟店と仕入先との売買でした。本部は、加盟店から発注・検品データを受け、仕入先から請求データを受けて、加盟店に代わって代金を支払い、その金額をオープンアカウントの借方に計上していました。

2 準委任と報告義務

最高裁は、加盟店が自ら負担する仕入代金の支払事務を本部に委託する関係は、民法656条の準委任の性質を有するとしました。そして、具体的な報告条項がなくても、民法656条・645条による受任者の報告義務が認められない理由はないと判断しました。

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所有不動産記録証明制度とは―請求方法,必要書類,手数料及び検索漏れの注意点(AI作成)

目次第1 所有不動産記録証明制度の概要1 令和8年2月2日に始まった全国横断検索2 証明書に記載される情報第2 請求できる人1 所有権の登記名義人2 相続人その他の一般承継人3 代理人第3 請求先と請求方法1 全国の登記所へ請求できる2 書面請求3 オンライン請求第4 必要書類1 登記名義人本人が請求する場合2 相続人その他の一般承継人が請求する場合3 原本還付と補正への対応第5 検索条件と手数料1 氏名又は名称と住所による検索2 異体字と同名異人3 検索条件1件・1通ごとの手数料第6 検索結果に現れない主な場合1 登記上の氏名・住所と検索条件が一致しない場合2 制度上の検索対象外又は未反映の場合3 「該当なし」は不動産不存在の証明ではない第7 証明書を取得した後の調査1 物件ごとの登記事項証明書を確認する2 名寄帳等と組み合わせる3 相続財産調査の中で位置付ける第8 関連記事1 不動産登記制度に関する記事2 法務省の制度案内第9 出典1 法令・告示2 所管行政機関の解説・運用資料
第1 所有不動産記録証明制度の概要
1 令和8年2月2日に始まった全国横断検索

所有不動産記録証明制度は,特定の人又は法人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を登記官が検索し,その結果を一覧にした証明書を交付する制度である。
令和6年4月1日に始まった相続登記の申請義務化に伴い,相続人が被相続人名義の不動産を把握しやすくし,相続登記の漏れを防ぐため,令和8年2月2日に施行された。

本記事は,令和8年9月28日現在の法令及び法務省資料を基準に,請求できる人,請求方法,必要書類,手数料及び検索結果を読む際の注意点を説明する。

2 証明書に記載される情報

証明書には,請求人の資格・氏名又は名称・住所,検索に用いた氏名又は名称・ローマ字氏名・住所・会社法人等番号,検索条件に該当した不動産の管轄登記所・種別・所在事項・不動産番号等が記載される。
証明書は検索結果の一覧であり,各不動産の持分,抵当権,差押え,信託その他の権利関係を網羅する登記事項証明書ではない。

第2 請求できる人
1 所有権の登記名義人

所有権の登記名義人は,自分を検索対象者として証明書の交付を請求できる。
自然人だけでなく,所有権の登記名義人である法人も対象となる。

2 相続人その他の一般承継人

所有権の登記名義人の相続人その他の一般承継人は,被相続人又は被承継人を検索対象者として請求できる。
相続人からの請求では,請求人自身の本人確認に加え,被相続人との相続関係を戸籍謄本,法定相続情報一覧図の写し等で明らかにする必要がある。

3 代理人

本人又は相続人その他の一般承継人は,代理人を通じて請求できる。
委任による代理人の場合,請求人の実印を押した委任状と請求人の印鑑証明書が必要となる。

第3 請求先と請求方法
1 全国の登記所へ請求できる

請求は,法務局・地方法務局の本局,支局及び出張所で取り扱われる。
検索対象となる不動産の所在地を管轄する登記所に限られないため,遠隔地の不動産を調べる場合でも,利用しやすい登記所を請求先に選べる。

2 書面請求

書面請求は,窓口への提出又は郵送によって行う。
郵送による受領を希望するときは,返送用封筒と切手を提出する必要がある。

書面の請求書では,一つの検索条件欄に複数の氏名又は住所をまとめて記載せず,現在の氏名・住所と過去の氏名・住所を別々の検索条件として記載する。

3 オンライン請求

オンライン請求は,登記・供託オンライン申請システムの申請用総合ソフトで「所有不動産記録証明書交付請求書」を選択し,必要事項を入力して電子署名を付して送信する。
必要書類も全てオンラインで提供する必要があり,証明書は郵送又は指定した登記所の窓口で受領できる。

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誤振込・誤送金の民事責任と刑事責任―預金払戻し、権利濫用、不当利得及び口座対応(AI作成)

目次

第1 誤振込を三つの法律関係に分ける
第2 受取人と銀行―預金債権は成立する
第3 送金者と受取人―不当利得返還請求
第4 銀行への払戻請求と権利濫用
第5 刑事責任

1 窓口で事実を秘した払戻し
2 オンライン送金等

第6 送金者・受取人の初動対応
第7 証拠保全と弁護士の確認事項
第8 一次資料

誤振込・誤送金では、「口座に入金された以上、受取人が自由に使える」「誤りなので預金自体が成立しない」という両極端な理解はいずれも危険です。預金債権の成立、不当利得返還義務、銀行に対する告知義務、実際の払戻し・送金行為を分けて検討する必要があります。

第1 誤振込を三つの法律関係に分ける

誤振込の検討では、次の三つの関係を区別します。

受取人と被仕向銀行との預金契約関係
振込依頼人と受取人との不当利得関係
受取人が銀行窓口、インターネットバンキング又は決済サービスを利用した行為の民事・刑事上の評価

一つ目の関係で預金債権が成立することと、二つ目の関係で受取人が返還義務を負うことは両立します。また、預金債権が成立するからといって、誤振込を知った後の具体的な払戻し・送金方法まで常に適法になるわけではありません。

第2 受取人と銀行―預金債権は成立する

最高裁第二小法廷平成8年4月26日判決・平成4年(オ)第413号は、振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係があるかどうかにかかわらず、受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し、受取人が銀行に対して預金債権を取得するとしました。

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社員が私用LINE・私物USB・個人メールで会社の情報を扱ったとき―シャドーITと営業秘密,個人情報保護法,懲戒及び退職時の対応(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 典型的な場面と問題になる法律関係1 典型的な場面2 問題になる法律関係第3 営業秘密としての保護1 秘密管理性2 私物の媒体への複製と刑事罰3 民事の差止めと損害賠償第4 個人データの漏えいと従業者の監督1 安全管理措置と従業者の監督2 紛失・持出しと漏えい等の報告第5 懲戒処分と損害賠償1 懲戒の根拠と相当性2 私用の携帯電話・LINE・パソコンの業務利用3 個人のメールアドレスへの転送4 持出しの目的による違い5 私物のUSBメモリへの持出しと懲戒解雇・退職金6 軽微な持出しと解雇7 裁判例の調査範囲第6 会社が整えておくこと1 規程と誓約書2 私物の機器と個人のサービス3 実態の把握とモニタリング4 退職時の返却と確認第7 関連記事第8 出典1 公的資料2 裁判例3 法令
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,従業員が会社の承認を得ないまま,私用のLINE等のメッセージアプリ,私物のUSBメモリやハードディスク,個人のメールアドレスへの転送,私用のクラウドストレージ等で業務上の情報を扱う場面について,会社側の法的な問題と対応を整理する。
生成AIを使う場面(いわゆるシャドーAI)はシャドーAIの問題点で扱っているので,本記事では生成AI以外の道具を対象にする。
法令は令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索で確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索又は判例データベース(判例秘書)で判決・決定の本文を確認したものに限って紹介する。

「シャドーIT」は法令上の用語ではなく,本記事で確認した公的資料にも定義は見当たらなかった。
本記事では,会社の承認を得ずに業務に用いられる私物の機器や個人のサービスを指す言葉として用いる。

2 結論

①私物の機器への持出しが常態化し,持出しの禁止や許可に関する明確なルールもなかった事案では,営業秘密の秘密管理性が否定されている(大阪地方裁判所令和6年7月30日判決)。
他方,私用のクラウドアカウントへの接続を技術的に遮断していなかった事案でも,体制面で相応の秘密管理措置が採られていたとして秘密管理性を肯定した裁判例がある(東京地方裁判所令和4年12月9日判決・令和3年特(わ)第129号)。
会社で顧客カルテの画像を私用スマートフォンのLINEで共有する取扱いが日常的に行われていた事案では,その取扱いが,顧客カルテが秘密として管理されていなかったことを示すとされた(知的財産高等裁判所令和元年8月7日判決)。

②退職して同業他社へ転職する直前に営業秘密を私物のハードディスクに複製した従業員について,最高裁判所は,業務遂行の目的によるものではなく,その他の正当な目的もうかがわれないことなどから,刑事罰の要件である「不正の利益を得る目的」を認めた(最高裁判所平成30年12月3日決定)。
退職日の前日と当日に営業秘密を私用のGoogleドライブにアップロードし,自分のメールアドレス宛てに転送した従業員も,営業秘密の領得で有罪とされている(東京地方裁判所令和4年12月9日判決)。

③民事でも,最終出社日の直前に社内サーバーから会社の情報を取得した元本部長について,使用・開示の差止め,電子データ等の廃棄及び損害賠償が認められている(東京地方裁判所令和6年4月25日判決)。

④個人データについては,内部規程に違反して外部記録媒体が繰り返し持ち出されていたのを放置した結果漏えいした場合が,個人情報保護委員会のガイドラインで,従業者の監督を怠った例として挙げられている。

⑤就業規則に違反する持出しであっても,違法行為を捜査機関に告発する目的で行われた場合は,違法性が阻却されるとした裁判例がある(東京地方裁判所令和7年12月19日判決)。
懲戒処分や損害賠償請求の前に,持出しの目的を確かめる必要がある。

⑥在宅勤務中に私用の携帯電話やLINEで業務上の連絡をとり,私用パソコンで業務の調べものをしていたことを,秘密情報を漏えいさせる危険を生じさせるものとして懲戒事由に当たるとし,他のルール違反等と併せて降格処分を有効とした裁判例がある(東京地方裁判所令和5年4月26日判決)。
個人のメールアドレスへの転送については,「情報漏洩の原因又は情報漏洩そのもの」と述べた裁判例がある(東京地方裁判所平成30年2月2日判決)。
他方,私物のUSBメモリの使用や情報の持出しを禁止するルールが周知されていなかった事案では,退職前の大量の持出しについても不法行為が否定され,退職金の支払が命じられている(大阪地方裁判所令和8年4月27日判決)。
私用LINEの利用や個人のメールアドレスへの転送だけを理由とする懲戒処分の有効性を正面から判断した裁判例は,確認した範囲では見当たらなかった。

⑦会社の対応としては,「秘密を守る」という規定だけでなく持出禁止や返還・消去まで定めること,私物の機器の業務利用を認めるなら範囲と遵守事項を定めて承諾を得ること,個人のメールアドレスへの転送設定がないかを確認すること等を組み合わせる。

第2 典型的な場面と問題になる法律関係
1 典型的な場面

①私用のLINE等で,顧客の氏名や写真,案件の資料をやり取りする。
②業務データを私物のUSBメモリやハードディスクにコピーし,自宅で作業する。
③業務用のメールを個人のメールアドレスへ自動転送する。
④会社が契約していないクラウドストレージに資料をアップロードする。
⑤私物のスマートフォンで書類や画面を撮影する。

(続きを読む...)社員が私用LINE・私物USB・個人メールで会社の情報を扱ったとき―シャドーITと営業秘密,個人情報保護法,懲戒及び退職時の対応(AI作成)

過去問・入試問題の解説を販売・配信してよいか―塾のテスト問題のライブ解説事件,国語テスト事件及び著作権法36条の射程(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 試験問題の著作権1 問題文と問題の組み立て2 題材の文章の権利は別に残る3 著作物にならない問題もある第3 問題文を載せずに解説する場合1 塾のテスト問題のライブ解説事件(東京地裁令和元年5月15日判決)2 控訴審(知財高裁令和元年11月25日判決)3 生徒が持ってきた問題を使うとき4 他の解説を参考にして自分の解説を書くとき5 塾名・テスト名の表示と一般不法行為(東京地裁平成30年5月11日判決・知財高裁平成30年12月6日判決)6 自由競争の範囲を逸脱するとされた例(将棋の棋譜の配信事件)第4 問題文を載せる場合1 著作権法36条は過去問集には使えない2 引用として載せることも難しい3 塾・予備校での配布(35条・30条)4 問題を複製した教材の裁判例5 過去問を再現しただけの部分は保護されにくい6 英文や古文の全訳を載せる場合7 公民館の自主講座(35条・38条・47条の6)第5 試験の実施者の利用条件1 大学入試センター(大学入学共通テスト)2 京都大学の例3 法務省(司法試験・予備試験)4 資格試験・検定の実施団体第6 場面別の確認表第7 関連記事第8 出典1 法令2 裁判例(裁判所HP掲載)3 裁判例(判例秘書で確認)4 試験の実施者の資料5 国会会議録
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

この記事は,大学入試・中学入試・資格試験の過去問について,解答や解説を作って販売し,動画で配信し,又は塾の教材に使うことが著作権侵害になるかを扱う。
法令は令和8年9月28日にe-Gov法令検索(法令API)で著作権法の現行条文を確認し,裁判例は裁判所HPの裁判例検索と判例秘書で判決本文を確認した。
大学・独立行政法人・法務省の利用条件は,同日に各機関のウェブサイトで確認した内容である。

弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」には,過去問の解答販売,問題文の転載,塾での利用などについての相談と回答が100件以上蓄積されている。
もっとも,過去問や試験問題を扱った裁判例を示した回答は見当たらなかった。
この記事では,実際に争われた裁判例を軸に,場面ごとの結論を整理する。

2 結論
(1) 問題文を載せず,掲載ページにリンクして解答・解説する場合

試験実施者その他の権利者が適法に過去問を公開しているウェブページに通常の方法でリンクを設定し,ブログには問題文,設問,選択肢,図表等を表示せず,自分の言葉で作成した解答又は解説だけを掲載する場合は,原則として,問題の複製又は翻案には当たらない。
通常のリンクは,リンク先の所在を示すものであり,リンク先の問題文を自分のブログ上に複製するものではない。
中学受験塾のテスト問題をライブ配信で解説した他の塾に対する請求は,東京地裁と知財高裁のいずれでも棄却された(第3)。
塾名やテスト名を「○○マンスリーテスト解説」のように表示することも,解説の対象を示すにとどまる限り,不正競争防止法違反にも一般不法行為にもならないとされた(控訴審も一般不法行為を否定)。
ただし,解答の中で問題文を実質的に再現した場合や,他人の解答・解説の創作的表現を利用した場合は,別途,複製権又は翻案権の侵害が問題となり得る。また,他人が費用を投下して得た情報をそのまま逐次提供してその営業と競合するような態様では,著作物でなくても不法行為が認められた例がある(第3の6)。

(2) 問題文を載せる場合

問題文そのものを載せる場合は,原則として権利者の許諾が要る。
著作権法36条(試験問題としての複製等)は,これから実施する試験の出題のための規定であり,過去問集,市販の問題集,教材への掲載には使えない(第4の1)。
引用(32条1項)も,問題文を問題として出題する形では主従関係を欠くので通りにくい(第4の2)。
塾・予備校は営利目的で設置されているので,学校の授業のための複製を認める35条も使えない(第4の3)。
英文や古文の全訳を公開・販売することも,題材の文章の翻訳に当たる(第4の6)。

(3) 利用条件の確認

大学入試センター,京都大学,法務省,資格試験の実施団体などは,試験問題の利用条件をウェブサイトで公表している。
問題文を使うときは,まずその利用条件を確かめる(第5)。

第2 試験問題の著作権
1 問題文と問題の組み立て

著作権法2条1項1号は,著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定めている。
文章で出題される問題は,作成者の個性が表れていれば言語の著作物になる。

これとは別に,著作権法12条1項は「編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。」と定めている。

(続きを読む...)過去問・入試問題の解説を販売・配信してよいか―塾のテスト問題のライブ解説事件,国語テスト事件及び著作権法36条の射程(AI作成)

サポート詐欺(偽のセキュリティ警告)に遭ったとき―画面の閉じ方,遠隔操作された端末の扱い,支払方法別の対応及び事業者の漏えい等報告(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 手口と被害の状況1 手口2 統計第3 警告画面が表示されたとき1 画面が表示されただけならウイルスには感染していない2 画面の閉じ方第4 電話をかけて遠隔操作を許したとき1 個人のパソコン2 会社や法律事務所のパソコンは保存して調査する第5 支払ってしまったとき1 インターネットバンキングで送金させられた場合2 プリペイド型電子マネーで支払った場合3 クレジットカードで支払った場合4 サポート契約の扱い第6 事業者・法律事務所で起きたとき1 個人データの漏えい等の報告2 行政機関等で指導が行われた例3 法律事務所の場合第7 平時の備え第8 刑事上の位置付けと裁判例の調査結果1 刑事上の位置付け2 裁判例の調査結果第9 関連記事第10 出典1 公的機関の資料2 裁判例3 法令・会規
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,パソコンでインターネットを閲覧している最中に「ウイルスに感染した」等の偽の警告画面が表示され,画面上の電話番号に電話をかけさせられ,遠隔操作ソフトを導入させられた上でサポート料金等の名目で金銭を支払わされる手口(いわゆるサポート詐欺)について,個人,会社及び法律事務所が行うべき対応を整理する。
統計及び公的機関の注意喚起は,令和8年9月28日に各機関のウェブサイトで原文を確認したものである。
法令は,同日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。
裁判例の調査結果は,第8で示す。

2 結論

①警告画面が表示されただけであれば,パソコンはウイルスに感染しておらず,画面を閉じれば足りる(情報処理推進機構)。
画面に表示された電話番号には電話をかけない。

②画面を閉じられないときは,ESCキーを長押しして表示される「閉じる」ボタンでブラウザを閉じる(情報処理推進機構)。

③電話をかけて遠隔操作ソフトを入れてしまった個人のパソコンについては,そのソフトのアンインストールと,Windowsの「システムの復元」が推奨されている(情報処理推進機構)。

④会社や法律事務所のパソコンが遠隔操作された場合は,情報漏えいの調査を行うのであれば,調査が終わるまで端末を保存し,復元や初期化は調査の後に行う(情報処理推進機構)。
遠隔操作されたかどうかが,情報漏えいの可能性があるかどうかの分かれ目となる(同)。

⑤インターネットバンキングで送金させられた場合は,至急,振込先の銀行に連絡し,自分の口座のある銀行と警察にも連絡する(情報処理推進機構)。
プリペイド型電子マネーで支払った場合は相手より早くチャージするか発行業者に連絡し,クレジットカードで支払った場合はカード会社に相談する(国民生活センター)。

⑥サポート契約を取り消せるかは,消費生活センター(局番なしの188)に相談する(情報処理推進機構)。
偽の警告画面で電話をかけさせ,その電話で有償サポート契約を勧誘した場合は,特定商取引法の電話勧誘販売に当たり得るが,公的機関がサポート詐欺への適用を明示した資料は見当たらず,事業者の実体が不明なことも多いため,実際の返金は難しい場合が多い。

⑦個人データを扱う端末が遠隔操作された事業者は,個人情報保護法26条の報告及び本人通知の対象となる事態に当たるかを検討する必要がある。
個人情報保護委員会は,サポート詐欺で遠隔操作ソフトを入れてしまった学校の事案を,個人情報の漏えいのおそれが生じた事案として扱っている。

⑧令和8年9月28日時点で,裁判所ウェブサイトの裁判例検索と判例秘書では,サポート詐欺そのものを扱った裁判例を確認できなかった。
遠隔操作ウイルス等で取得した識別符号を使ってインターネットバンキングで不正送金した行為について,電子計算機使用詐欺罪の成立を認めた裁判例はある(東京地方裁判所平成29年4月27日判決)。

第2 手口と被害の状況
1 手口

国民生活センターは,サポート詐欺を,「パソコンでインターネットを使用中に突然『ウイルスに感染している』等の警告画面や警告音が出て、それらをきっかけに警告画面上に表示されている電話番号に電話をかけさせ、偽のサポートに誘導し、サポート料金を支払わせる手口」と説明している(令和6年3月27日公表の報道発表)。
同センターは,新たな手口として,インターネットバンキングで送金を指示されるケースも確認されているとしている。

消費者庁は,偽の警告表示にMicrosoftのロゴを用いて信用させ,ウイルス駆除等を称して多額の金銭を支払わせる事業者について,消費者安全法38条1項に基づく注意喚起を令和3年2月19日と令和5年9月28日に行っている。
令和5年の注意喚起は,事業者の実体は不明であり,実在する日本マイクロソフト株式会社やその関係者は本件とは全く無関係であるとしている。

2 統計

警察庁は,パソコンのウイルス除去をサポートするなどの名目で電子マネー等をだまし取る手口を,特殊詐欺のうち架空料金請求詐欺の「サポート名目」として集計している。

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吸収合併消滅会社の反対株主の株式買取請求―事前通知・株主総会・委任状(AI作成)

目次第1 反対株主の株式買取請求とは第2 事前通知と株主総会での反対1 二つの行為は別々に必要である2 委任状による事前通知第3 株式買取請求の期間と方法1 請求期間2 請求時に明らかにする事項第4 価格協議と価格決定申立て1 協議が成立した場合2 裁判所への価格決定申立て第5 実務上の確認事項1 株主側2 会社側第6 一次資料と調査範囲第7 参考リンク

吸収合併に反対する消滅会社の株主が株式買取請求をするためには,効力発生日の20日前から前日までの請求期間だけでなく,株主総会に先立つ会社への通知と,株主総会における反対という二段階の手続を意識する必要がある。本記事では,会社法785条・786条と最高裁令和5年10月26日決定(令和4年(許)第11号)を中心に,委任状を利用する場合の注意点を整理する。

第1 反対株主の株式買取請求とは

吸収合併により消滅する株式会社の反対株主は,会社に対し,自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求できる(会社法785条1項)。

この制度は,合併に反対する株主に投下資本を回収する機会を保障するものである。ただし,株主総会の決議に反対しただけで当然に買取請求権を行使できるわけではない。株主総会で議決権を行使できる株主については,原則として,次の二つを満たす必要がある(会社法785条2項1号イ)。

1 株主総会に先立って,吸収合併に反対する旨を会社に通知すること

2 株主総会で吸収合併に反対すること

第2 事前通知と株主総会での反対
1 二つの行為は別々に必要である

事前通知は,株主総会より前に会社へ到達する必要がある。また,株主総会でも反対の議決権行使をする必要がある。

この二つは目的が異なる。事前通知により,会社は買取請求をする可能性のある株主の規模を予測できる。他方,株主総会での反対は,合併契約承認に対する株主の意思を議決権行使として表明するものである。

したがって,株主総会で反対票を投じる予定であっても,事前通知を失念すれば,原則として会社法785条2項1号イの反対株主には当たらない。

2 委任状による事前通知

最高裁令和5年10月26日決定(令和4年(許)第11号)は,会社が株主に送付した委任状用紙に,吸収合併契約承認議案について「賛」「否」を選択する欄があり,株主が「否」に丸を付けて会社へ返送した事案を扱った。

最高裁は,この委任状の返送を,会社法785条2項1号イにいう「吸収合併等に反対する旨」の通知に当たると判断した。そして,事前通知に当たらないとした原決定を破棄し,事件を原審に差し戻した。

重要なのは,書面の表題が「事前通知書」であるかどうかではなく,株主総会に先立って,会社に対し,当該吸収合併に反対する意思が明確に伝えられたかという点である。

もっとも,委任状の文言や提出先,提出時期,議案の特定状況によって結論が変わり得る。実務上は,委任状だけに依存せず,対象議案を特定した独立の事前通知書を期限に余裕をもって提出し,到達の証拠を残す方が安全である。

第3 株式買取請求の期間と方法
1 請求期間

株式買取請求は,吸収合併の効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までに行う必要がある(会社法785条5項)。

事前通知及び株主総会での反対を済ませていても,この期間内に株式買取請求をしなければならない。事前通知,株主総会での反対,株式買取請求という三つの段階を,それぞれ別の期限管理項目として扱う必要がある。

2 請求時に明らかにする事項

株式買取請求をする株主は,請求に係る株式の数を明らかにする必要がある(会社法785条5項)。また,株式買取請求は,会社の承諾を得なければ撤回できない(同条7項)。

そのため,請求前に,対象株式数,名義,取得経緯,担保権その他の権利関係を確認する必要がある。

第4 価格協議と価格決定申立て
1 協議が成立した場合

会社と株主の間で株式の価格について協議が調ったときは,会社は,吸収合併の効力発生日から60日以内に代金を支払わなければならない(会社法786条1項)。

2 裁判所への価格決定申立て

効力発生日から30日以内に協議が調わないときは,株主又は会社は,その期間満了後30日以内に,裁判所に価格決定の申立てをすることができる(会社法786条2項)。

この申立期間は短いため,協議中であっても,申立期限を別に管理する必要がある。本記事は事前通知と手続要件を中心とするものであり,「公正な価格」の具体的な算定方法や企業価値評価は別問題である。株式交換完全親会社の反対株主について,公正な交換比率,市場株価,競合公開買付け及びDCF法の関係を判断した最高裁令和8年9月30日決定は,株式交換完全親会社の反対株主による株式買取請求で扱っている。

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北朝鮮映画事件―ベルヌ条約,未承認国及び著作権法6条3号(AI作成)

目次

第1 結論と本記事の射程
第2 北朝鮮映画事件の事案と結論

1 放送の内容
2 原告の請求
3 最高裁の結論

第3 著作権法6条の三つの保護経路

1 三つの保護経路
2 本判決で否定された範囲

第4 ベルヌ条約と未承認国

1 WIPOの締約国情報
2 未承認国との条約関係
3 日本と北朝鮮への当てはめ

第5 一般不法行為による保護

1 最高裁の判断枠組み
2 本件への当てはめと判決の射程
3 後続裁判例

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国民年金基金の掛金を支払えないとき―払込停止、減口、資格喪失及び任意脱退の違い(AI作成)

第1 結論
第2 四つの手続の違い
第3 掛金の払込停止
第4 2口目以降の減口
第5 資格喪失
第6 任意脱退と解約返戻金
第7 判断手順
第8 確認資料と期限
第9 関連記事
第10 出典

第1 結論

国民年金基金の掛金を支払うことが難しくなっても,加入者の都合だけで任意に脱退して解約返戻金を受け取ることはできない。ただし,加入資格を維持したまま掛金の払込みを停止すること,及び2口目以降を減口することはできる。

これに対し,厚生年金に加入した,職能要件を失った,海外転出等により国内の第1号被保険者でなくなったなど,法令又は基金規約の資格喪失事由が生じた場合は,任意の選択ではなく加入員資格を喪失する。資格喪失までに納付した掛金は原則として返還されず,将来の年金給付に結び付く。

したがって,「支払えない」という相談では,①一時的な資金不足,②恒常的に掛金額を下げたい場合,③法定の資格喪失事由が生じた場合を分けて,払込停止,減口又は資格喪失届のいずれかを選ぶ必要がある。

第2 四つの手続の違い

手続加入員資格掛金納付済掛金将来給付

払込停止維持する停止する返還されない停止期間に応じて減少する
2口目以降の減口維持する減額する返還されない減口後の設計に応じて減少する
資格喪失喪失する喪失後は納付しない原則として返還されない加入期間に応じた将来給付となる
任意脱退制度上できない―解約返戻金制度はない―

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勤務先が負担した国民年金基金掛金相当額は給与所得となるか―東京地判平成16年11月24日と社会保険料控除(AI作成)

第1 結論
第2 東京地裁平成16年11月24日判決

1 事件と争点
2 判決の判断
3 判決の射程

第3 現行法上の整理

1 給与所得への算入
2 社会保険料控除
3 源泉徴収・年末調整

第4 法律事務所・企業の実務チェックリスト
第5 判決及び資料の確認範囲
第6 関連記事
第7 出典

第1 結論

勤務先が,本来は役員又は従業員本人が負担すべき国民年金基金の掛金又はその相当額を負担した場合,その勤務先負担額は,原則として本人に対する経済的利益,すなわち給与所得として取り扱われる。国民年金基金掛金が社会保険料控除の対象であることから,直ちに勤務先負担額が非課税になるわけではない。

東京地裁平成16年11月24日判決(平成13年(行ウ)第359号・所得税更正処分取消請求事件)は,使用者が被用者本人の負担すべき保険料又は掛金を支払った場合の所得区分を検討し,国民年金基金掛金の勤務先負担額を給与所得とする税務処理を是認した。ただし,この判決は,勤務先が別個の退職年金制度を設けた場合一般や,業務委託先が独立事業者の費用を支払った場合一般を判断したものではない。

実務では,①誰が法令上・契約上の掛金負担者か,②勤務先が基金へ直接納付したのか本人へ手当を支給したのか,③給与課税と源泉徴収をしたか,④社会保険料控除を誰がどの年に適用できるかを分けて確認する必要がある。

第2 東京地裁平成16年11月24日判決

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医療法人の社員が臨時社員総会を開く方法―最高裁令和6年3月27日決定と補足意見(AI作成)

◯本ブログ記事は専らAIで作成したものです。
◯以下の記事も参照してください。
・ 平成21年度から令和6年度までの許可抗告事件の分析(AI作成)
・ 最高裁判所に係属した許可抗告事件一覧表(平成25年分以降),及び許可抗告事件の実情

目次

第1 結論
第2 医療法46条の3の2第4項の招集請求
第3 最高裁令和6年3月27日決定

1 事案及び争点
2 法廷意見
3 判断の射程

第4 渡邉惠理子裁判官の補足意見
第5 社員側の実務手順
第6 訴訟を検討するときの主な論点
第7 理事長及び医療法人側の対応
第8 出典及び未確認事項

第1 結論
社団たる医療法人では,総社員の5分の1以上の社員が,社員総会の目的である事項を示して臨時社員総会の招集を請求したとき,理事長は請求の日から20日以内に招集しなければならない(医療法46条の3の2第4項)。

しかし,理事長が招集しない場合でも,社員は,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律37条2項を類推適用し,裁判所の許可を得て自ら社員総会を招集することはできない。最高裁令和6年3月27日第三小法廷決定が明確に否定した。

同決定の補足意見は,社員が訴訟により理事長に臨時社員総会の招集を命ずる判決を求める方法を示した。ただし,これは法廷意見の判示ではなく,判決を得た後の執行方法を含め,具体的な実現方法には未解決の部分が大きい。したがって,「社員が必ず自ら招集できる」「招集命令訴訟が確立した」と理解してはならない。
第2 医療法46条の3の2第4項の招集請求

(続きを読む...)医療法人の社員が臨時社員総会を開く方法―最高裁令和6年3月27日決定と補足意見(AI作成)

医薬品の副作用と因果関係の立証―添付文書・処方歴・薬物動態・PMDA救済制度(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論

1 対象
2 結論

第2 最初に分けるべき三つの問題

1 薬が使用されたか
2 その薬が症状を生じさせたか
3 誰がどの義務又は制度上の要件を満たすか

第3 薬理学からみた因果関係の検討順序

1 薬剤を特定する
2 用量だけでなく曝露量を考える
3 薬物動態と患者側の条件を確認する
4 薬力学と具体的機能を結び付ける
5 併用薬・相互作用・代替原因を検討する
6 中止・減量後の変化を慎重に評価する

第4 証拠収集と時系列表

1 受任直後に確保する資料
2 添付文書は当時版と現在版を分ける

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KSK2とは何か-令和8年9月24日の国税システム更改,AI活用,e-Tax変更及び障害(AI作成)

目次第1 KSK2の位置付け1 KSK2とは何か2 更改の三つの開発コンセプト3 分かることと公表資料の限界第2 KSK2が扱う事務と情報1 申告から債権管理までの主な機能2 外部システムとの連携3 ガバメントクラウドと外部ネットワーク非接続端末第3 AI-OCR,予測AI及びデータ分析1 AI-OCRによる書面のデータ化2 調査選定と滞納整理を支援するデータ分析3 予測AIと生成AIは別の用途であること第4 納税者及び事業者に見える変更1 申告書等の様式と控用2 13桁の「お問い合わせ番号」3 e-Taxの接続先と文字の取扱い4 提出年月日の表示と電子交付の一括同意第5 更改前後に公表された不具合等1 e-Taxの不具合と解消公表2 税務署窓口での手続遅延3 更改前に判明した仕様書の掲載誤り第6 税務実務で区別しておきたいこと1 システム更改と税法上の義務は別であること2 データの整合性が重要になること3 障害時に残しておく記録4 セキュリティ資料の読み方第7 関連する記事1 提出の証明と申告書の閲覧2 国税庁資料の法的な位置付け第8 出典1 国税庁による制度及び更改の説明2 個人情報,システム機能及び情報連携3 更改前後のお知らせ
第1 KSK2の位置付け
1 KSK2とは何か

KSK2は,国税総合管理システムの次世代版であり,全国の国税局と税務署を結び,申告・納税の事績,各種資料,国税債権等を地域や税目を越えて管理し,税務調査や滞納整理を含む国税事務に利用する基幹システムです。
国税庁は令和8年9月24日に国税システムを更改したと公表しており,本記事では同月27日を調査基準日として,国税庁の公表資料をAIで整理した上で原資料と照合しました。

KSK2は,納税者向けの一つの新サービスの名称ではありません。
内部の賦課・徴収事務,書面の収受・入力,e-Tax,マイナポータル,eLTAX等との連携を支えるシステム群として理解するのが適切です。

2 更改の三つの開発コンセプト

国税庁が開発段階で示したコンセプトは,紙を前提とした処理からデータ中心の事務処理へ移ること,税目別のデータベース及びアプリケーションを統合すること,独自OSのメインフレームから汎用的なOSを使うオープンシステムへ刷新することの三つです。
旧KSKも地域や税目を越えた情報の一元管理を目的とするシステムでしたが,KSK2では,その内部に残っていた税目別のデータベース及びアプリケーションを統合することが開発課題とされました。

3 分かることと公表資料の限界

公表資料からは,KSK2の目的,主な機能,取り扱う情報の類型,外部システムとの連携,AI-OCR及びデータ分析の概略を確認できます。
一方,個別の納税者について用いる抽出条件,モデルの重み,職員画面の具体的な表示内容その他の詳細な内部運用は,確認した公表資料だけでは分かりません。

第2 KSK2が扱う事務と情報
1 申告から債権管理までの主な機能

国税庁の全項目評価書は,主な機能として,納税者ごとの部内番号の確認・付番,申告書等の入力,納税者の基本情報及び関係者情報の管理,各税目の申告・申請・届出情報の管理,法定調書等の資料情報の管理,国税の債権債務の管理,納税証明書の作成並びに税務調査対象者の選定等を挙げています。
したがって,KSK2は単なる電子申告の受付システムではなく,収受後の処理,課税,徴収,証明及び調査選定を横断する基盤です。

2 外部システムとの連携

全項目評価書には,e-Tax,eLTAX,住民基本台帳ネットワークシステム,マイナポータル,口座情報登録システム,日本銀行のシステム等との情報連携が記載されています。
例えば,地方公共団体との間ではeLTAXを経由して課税・滞納情報を照会・提供し,マイナポータルとの関係ではお知らせの通知や自己情報の連携にKSK2が関与します。

外部連携があることは,すべての情報を無条件に共有することを意味しません。
どの情報をどの目的で取り扱うかは,税法,番号法その他の根拠と個別の連携仕様によって区別して読む必要があります。

3 ガバメントクラウドと外部ネットワーク非接続端末

全項目評価書は,KSK2に加え,ガバメントソリューションサービス,ガバメントクラウド及び外部ネットワークに接続しない高性能パソコンを併用してデータ分析を行う構成を示しています。
ガバメントクラウドでは各種納税者情報を含むデータを加工・分析し,高性能パソコンではKSK2内の各税目データや調査で取得したデータを分析するとされています。

この記載から分かるのは,国税事務の全情報が一つの公開クラウドへ単純に移されたということではなく,目的に応じて複数の環境を組み合わせる構成であることです。
外部ネットワーク非接続端末からデータを移動する場合の媒体限定,暗号化及び不要データ削除も,同評価書に記載されています。

第3 AI-OCR,予測AI及びデータ分析
1 AI-OCRによる書面のデータ化

令和8年9月24日の更改後は,一部の書面申告書,申請書等について,AI-OCRがフリーピッチ枠の文字を認識し,データ化及びイメージ化を行います。

(続きを読む...)KSK2とは何か-令和8年9月24日の国税システム更改,AI活用,e-Tax変更及び障害(AI作成)

交通事故と後続医療過誤が重なった場合の損害賠償-共同不法行為,相対的過失相殺及び求償(AI作成)

交通事故で負傷した被害者が,搬送先又はその後の病院で医療過誤に遭い,死亡又は重い後遺障害に至った場合,事故加害者と医療機関のどちらが,どの範囲の損害を負担するかが問題になります。

この問題では,①事故側と医療側の各不法行為が成立するか,②両方の行為と最終結果との因果関係があるか,③損害が分けられるか,④被害者側の過失を誰との関係でどのように控除するか,⑤加害者間の最終負担をどう調整するかを順番に検討する必要があります。

本記事は,最高裁平成13年3月13日判決及び最高裁平成15年7月11日判決を対比し,交通事故と後続医療過誤が競合する場合の共同不法行為,過失相殺,既払金及び求償を実務的に整理するものです。

目次

交通事故と後続医療過誤が重なる場合の結論
民法719条と722条2項を別々に考える
最高裁平成13年3月13日判決
最高裁平成15年7月11日判決
二つの最高裁判決の違い
損害額の計算例
共同不法行為にならない場合
相談・訴訟で集める資料
示談,既払金及び求償の注意点
関連記事
根拠資料と調査範囲

1 交通事故と後続医療過誤が重なる場合の結論

交通事故と後続医療過誤の双方が最終的な死亡又は後遺障害を生じさせ,各行為と結果との相当因果関係が認められ,損害を分けることができない場合,事故加害者と医療側は共同不法行為者として被害者に対する責任を負い得ます。

ただし,次の三つの問題は同じではありません。

被害者に対する責任:誰が被害者に対してどの範囲を賠償するか。
被害者側の過失相殺:事故時の過失又は治療過程における被害者側の事情を,誰との関係で控除するか。
加害者間の内部負担:事故加害者と医療側の最終的な負担を,求償によりどう調整するか。

「医療過誤の寄与が小さいから,被害者に対する賠償額もその割合だけでよい」と直ちに結論付けることはできません。逆に,治療結果が悪かったというだけで医療側が共同不法行為責任を負うわけでもありません。

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破産管財人の免責調査報告-債権者の反対意見,調査結果及び裁量免責の整理(AI作成)

目次第1 この記事の対象1 免責についての調査と意見を取り上げます2 先に結論を示します第2 免責調査の法的な枠組み1 破産法250条の調査報告2 破産法251条の意見申述3 破産法252条の二段階第3 債権者の反対意見1 具体的事実を示す必要があります2 債権者集会への出席とは別です3 債権者の意見だけで免責は決まりません第4 破産管財人の調査1 債務者の説明をそのまま記載するだけではありません2 事実認定と法的評価を分けます第5 書面報告と口頭報告1 調査結果は書面で報告します2 すべての主張への逐一回答を明記した条文はありません第6 報告書の構成例1 争点ごとに整理する方法2 結論の根拠を追えるようにします第7 懲戒事例を読む際の注意1 免責判断と懲戒判断を区別します2 関連する記事第8 参照資料1 法令2 裁判所の案内
第1 この記事の対象
1 免責についての調査と意見を取り上げます

この記事は,個人破産において,債権者が免責に反対する意見を提出した場合を中心に,裁判所,破産管財人,債務者及び債権者の役割を整理したものです(令和8年10月12日現在)。

免責不許可事由の有無と,免責不許可事由がある場合の裁量免責は,別の判断段階です。破産管財人の調査報告も,裁判所の免責判断そのものではありません。

2 先に結論を示します

裁判所は,破産管財人に対し,免責不許可事由及び裁量免責に関する事情を調査させ,その結果を書面で報告させることができます(破産法250条1項)。本人には調査への協力義務があります(同条2項)。免責について意見を述べる期間を定める手続は同法251条に規定されており,調査報告,意見申述及び裁判所の免責判断を区別する必要があります。

破産法251条の対象となる債権者は,指定された期間内に免責について意見を述べられます。破産規則76条1項は,期日で述べる場合を除き,意見申述を書面ですることを求めています。同条2項により,破産法252条1項各号に該当する具体的事実を明らかにする必要もあります。

主体この場面での役割債務者本人必要な説明と資料提出を行い,免責調査に協力する。不明な点と確認できる点を分ける破産管財人裁判所の指示に基づき必要な事情を調査し,結果を報告する。免責許否を決定する者ではない意見申述の対象となる破産債権者指定された期間と方式に従い,具体的事実と根拠資料を示して意見を述べる裁判所調査結果及び意見等を踏まえ,免責不許可事由と裁量免責を判断する

管財人と申立代理人の違い,面談・資料提出への備え,費用や手続の流れは,破産管財人とはで説明しています。資金使途の説明方法は,破産者の資金使途をどのように説明するかも参照してください。

第2 免責調査の法的な枠組み
1 破産法250条の調査報告

破産法250条1項は,裁判所が破産管財人に対し,免責不許可事由及び裁量免責を判断するために必要な事情を調査させ,その結果を書面で報告させることができると定めています。同条2項が定めるのは,債務者本人の調査への協力義務です。書面報告の根拠と,本人の協力義務の根拠を混同しないことが重要です。

この報告の目的は,債務者又は債権者の主張をそのまま採用することではなく,裁判所が免責を判断するための事実資料を提出することにあります。

2 破産法251条の意見申述

裁判所は,免責許可の申立てがあったとき,破産管財人及び破産債権者が免責について意見を述べることのできる期間を定めます(破産法251条1項)。ただし,同法253条1項各号の非免責債権を有する者は,この意見申述の対象となる破産債権者から除かれています。意見申述期間は,同法251条2項による公告から1か月以上とされます。同条は意見を述べる機会を定めた規定であり,管財人に口頭で意見を聴くことを一律に義務付けた規定ではありません。

東京地方裁判所の案内では,債権者はこの期間内に免責についての意見書を提出でき,書式の指定はないものの,事件番号,債務者名,作成日及び作成者等を明記するよう案内されています。

3 破産法252条の二段階

破産法252条1項は,財産の不利益処分,著しい浪費・賭博,帳簿隠滅,虚偽の債権者名簿,調査への説明拒否又は虚偽説明等の免責不許可事由を列挙しています。

同条2項は,免責不許可事由がある場合でも,破産手続開始に至った経緯その他一切の事情を考慮し,裁判所が免責を許可することを相当と認めるときは,免責を許可できると定めています。したがって,「免責不許可事由が認められるか」と「裁量免責を認めるか」を区別する必要があります。

第3 債権者の反対意見
1 具体的事実を示す必要があります

破産規則76条1項は,破産法251条による意見申述について,期日で述べる場合を除き,書面ですることを求めています。同条2項は,破産法252条1項各号に該当する具体的事実を明らかにすることを求めています。したがって,意見書には,どの不許可事由とどの事実・資料が対応するかを示す必要があります。

単に「誠意がない」「返済しないので免責に反対する」と述べるだけでは,法定の免責不許可事由との関係が分かりません。いつ,誰が,どの財産又は取引について,何をしたのか,どの資料で確認できるのかを示すことが重要です。

2 債権者集会への出席とは別です

東京地方裁判所は,債権者が債権者集会に出席して,破産管財人の報告を聴き,質問できると案内しています。他方,出席するかどうかは債権者の判断であり,出席しなければ意見書を提出できないという関係にはありません。

3 債権者の意見だけで免責は決まりません

免責についての反対意見は,裁判所と破産管財人が調査すべき具体的な手掛かりになります。しかし,債権者の評価が直ちに裁判所の認定になるわけではありません。債務者の説明,客観資料,破産管財人の調査結果及び裁量免責の事情を合わせて判断します。

第4 破産管財人の調査
1 債務者の説明をそのまま記載するだけではありません

破産管財人は,債務者から事情を聴取し,預貯金,取引履歴,契約書,帳簿,申立資料その他の客観資料と照合します。債権者から具体的な事実と資料が提出されたときは,その法的な位置付けと調査可能性を確認します。

ただし,調査の範囲や方法は,争点の重要性,資料の入手可能性,費用,手続の進行及び裁判所の指示によって変わります。債権者が求めた調査をすべて同じ方法で実施しなければならないという規定ではありません。

(続きを読む...)破産管財人の免責調査報告-債権者の反対意見,調査結果及び裁量免責の整理(AI作成)

破産管財人による破産法人の消費税申告-不動産売却,課税期間,申告・納付及び無申告の問題(AI作成)

目次第1 この記事の対象1 破産法人の消費税を取り上げます2 先に結論を示します第2 納税義務者と申告手続を行う者1 納税義務者は破産法人です2 申告・納付の手続は破産管財人が行います第3 不動産等を換価した場合の課税関係1 土地と建物は区分します2 任意売却であることだけでは課税関係は消えません3 課税売上げと控除対象仕入れを別々に確認します第4 課税期間,申告期限及び財団債権1 破産手続の開始日だけでは申告期限は決まりません2 財団債権となるかは発生原因と時期を確認します第5 無申告・期限後申告の問題1 本税だけで終わらないことがあります2 帳簿等の不備は税額計算にも影響します第6 破産管財人が作る確認表1 換価前に確認する事項2 換価後に確認する事項第7 懲戒事例を読む際の注意1 税務上の判断と懲戒判断は別です2 関連する記事第8 参照資料1 法令2 国税庁資料3 裁判例資料
第1 この記事の対象
1 破産法人の消費税を取り上げます

この記事は,法人の破産手続開始後に破産管財人が不動産その他の資産を換価した場合を中心に,消費税の納税義務者,課税・非課税の区分,申告・納付及び無申告となった場合の問題を整理したものです(令和8年9月27日現在)。

個人破産における所得税・消費税や,破産法人の法人税については,制度と計算構造が異なるため,必要な範囲を除いて扱いません。また,個別案件の課税関係は,基準期間,課税事業者選択,簡易課税,インボイス登録,売買契約及び換価費用等により変わります。

2 先に結論を示します

破産手続開始後も,破産法人が当然に消費税の納税義務者でなくなるわけではありません。国税庁は,破産財団に属する課税資産の譲渡等について,破産法人の基準期間により納税義務を判定し,破産管財人が申告・納付の手続を行うと説明しています。

したがって,管財実務では,換価時点で売買代金をそのまま配当原資とみなさず,土地・建物等の区分,課税期間,仕入税額控除に必要な帳簿・請求書等及び申告期限を早期に確認する必要があります。

第2 納税義務者と申告手続を行う者
1 納税義務者は破産法人です

国税庁の質疑応答事例は,破産財団は独立した法主体ではなく,破産財団に属する財産を課税資産として譲渡した場合の納税義務者は破産法人であると整理しています。納税義務の有無も,原則として破産法人の基準期間における課税売上高等によって判断します。

破産手続の開始は,財産の管理処分権を破産管財人に移しますが,破産法人とは別の納税主体として「破産財団」が新設されるわけではありません。

2 申告・納付の手続は破産管財人が行います

破産財団に属する課税資産の譲渡等について破産法人に消費税の申告・納付義務があるときは,その手続を破産管財人が行います。ここでは,「納税義務者」と「申告・納付の事務を担当する者」を区別する必要があります。

平成20年6月16日の名古屋高裁金沢支部判決は,破産会社の課税資産の譲渡に関する申告・納付について,破産管財人がその職務として行うべきことを前提に判断しました。この裁判例は,国税庁の「税務訴訟資料」に収録されています。

第3 不動産等を換価した場合の課税関係
1 土地と建物は区分します

土地の譲渡は消費税の非課税取引です。他方,事業者が事業として行う建物,機械,備品その他の資産の譲渡は,原則として課税取引となります。

土地と建物を一括して売却した場合でも,土地部分まで一律に課税されるわけではありません。国税庁は,契約で価額が区分されていない場合,譲渡時の時価や固定資産税評価額等を基礎とする合理的な方法で区分する必要があると説明しています。

2 任意売却であることだけでは課税関係は消えません

担保権者の同意を得て行う任意売却や,破産管財人による換価であっても,資産の譲渡に該当する限り,通常の消費税の判定から外れるわけではありません。裁判所の許可,担保権者との別除権協定及び配当見込みは,換価の適法性や経済性に関係しますが,それだけで消費税が非課税となるものではありません。

3 課税売上げと控除対象仕入れを別々に確認します

納付税額は,原則として課税売上げに係る消費税額から控除対象仕入税額を差し引いて計算します。そのため,売却代金だけでなく,仲介手数料,測量費,解体費その他の換価費用について,課税関係と保存書類を確認する必要があります。

仕入税額控除を受けるための帳簿・請求書等の要件は,取引時期やインボイス制度の適用関係によって異なります。破産開始前の経理資料が散逸している場合でも,保存資料の有無を確認しないまま控除可能であると扱うことはできません。

第4 課税期間,申告期限及び財団債権
1 破産手続の開始日だけでは申告期限は決まりません

法人の消費税の課税期間は,原則として事業年度です。確定申告と納付は,原則として課税期間の末日の翌日から2か月以内に行います。課税期間の特例や申告期限の延長がある場合は,それぞれ別に確認します。

破産手続が開始したことや,法人の営業を停止したことだけで,消費税の課税期間や申告期限が当然に消滅するわけではありません。開始決定日,事業年度末,換価日及び申告期限を同じ年表に置くと,確認漏れを防ぎやすくなります。

2 財団債権となるかは発生原因と時期を確認します

破産法148条1項は,一定の租税等の請求権及び破産管財人が破産財団に関してした行為によって生じた請求権を財団債権としています。

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1筆の土地の一部を保全する処分禁止仮処分-土地全部を対象とできる場合(最高裁令和5年10月6日決定)

◯本記事はAIを利用して作成し,裁判所が公表する決定全文,現行の民事保全法及び裁判所の手続案内を確認して手直ししたものです。
◯以下の記事も参照してください。
・ 平成21年度から令和6年度までの許可抗告事件の分析(AI作成)
・ 最高裁判所に係属した許可抗告事件一覧表(平成25年分以降),及び許可抗告事件の実情
・ 令和5年度最高裁民事破棄判決等の実情-19判決・8決定の一覧と代表判例(AI作成)

目次

第1 問題の所在
第2 最高裁令和5年10月6日決定

1 事案と原審判断
2 最高裁の原則
3 特段の事情がある場合

第3 申立て・審理で確認すべき事項
第4 決定の射程と注意点
第5 まとめ
第6 出典と確認範囲

第1 問題の所在

本記事は,土地の一部を対象とする登記請求権の保全に関する個別の最高裁決定を解説するものです。処分禁止の仮処分の目的,仮差押えとの違い,登記の効力と申立て前の確認事項は,処分禁止の仮処分とはで説明しています。

1筆の土地の一部分について所有権移転登記請求権を有する者が,その権利を保全するために処分禁止の仮処分を申し立てる場合,仮処分の対象は原則としてその一部分です。

(続きを読む...)1筆の土地の一部を保全する処分禁止仮処分-土地全部を対象とできる場合(最高裁令和5年10月6日決定)