目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 決議の瑕疵を争う三つの訴え第3 決議が不存在とされる場合1 招集通知が大部分の株主に全くされなかった場合2 招集の権限のない者が招集した場合3 取消事由にとどまる場合との境界4 判断の視点第4 全員出席総会と招集手続の省略1 全員出席総会2 会社法300条の招集手続の省略3 一部の株主しか出席していない場合第5 後続の決議への連鎖1 不存在の決議で選任された取締役による招集2 先行決議の存否を確認する利益第6 追認・再決議1 取消事由にとどまる決議の再決議2 不存在の決議の追認第7 不存在を主張する場面と期間1 訴えと前提問題としての主張2 解任決議が不存在の場合の報酬請求第8 実務上の確認事項1 会社側2 株主・役員側第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例第11 確認状態
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,株主総会の決議に手続上の瑕疵がある場合に,その決議が「取り消すことができる決議」にとどまるのか,それとも決議が法律上「存在しない」と評価されるのかを,最高裁判所の判例に即して整理する。
決議の不存在は,取消しの訴えと異なり期間の制限がないため,招集手続の瑕疵に後から気付いた株主や解任された役員にとって重要な意味を持つ。
法令は,令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索(法令API)で確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトで判示事項・裁判要旨(一部は判決全文)を確認したものに限って紹介している。
2 結論
①招集手続の瑕疵は原則として決議取消しの事由(会社法831条1項1号)であり,決議の日から3か月以内に訴えで主張しなければならない。
②もっとも,大部分の株主に招集通知が全くされず,一部の株主だけで決議をした場合や,招集の権限のない者が取締役会の決議を経ずに招集した場合には,株主総会の決議があったとはいえないとした最高裁判所の判例がある。
③不存在の決議で選任された取締役らが招集した後続の総会の決議も,全員出席総会であったなどの特段の事情がない限り不存在になるとした判例がある。
④招集手続を欠いても,株主全員が開催に同意して出席した全員出席総会の決議は有効であり,会社法は株主全員の同意による招集手続の省略も認めている(300条)。
⑤取消事由にとどまる決議については,遡って効力を生ずる同一内容の再決議がされると取消しの訴えの利益が失われるとした判例があるが,不存在の決議を追認して遡って有効にすることはできず,追認の決議は新たな決議として効力を持つにとどまると考えられる(本記事の解釈)。
第2 決議の瑕疵を争う三つの訴え
訴え対象となる瑕疵期間条文決議取消しの訴え招集手続・決議方法の法令・定款違反又は著しい不公正,決議内容の定款違反,特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議決議の日から3か月831条1項決議無効確認の訴え決議の内容の法令違反なし830条2項決議不存在確認の訴え決議が存在しないことなし830条1項
いずれも会社を被告とし(会社法834条16号・17号),請求を認容する確定判決は第三者に対しても効力を有する(会社法838条)。
取消しの訴えについては,招集手続・決議方法の法令・定款違反があっても,違反が重大でなく,かつ決議に影響を及ぼさないときは,裁判所は請求を棄却することができる(会社法831条2項)。
第3 決議が不存在とされる場合
1 招集通知が大部分の株主に全くされなかった場合
最高裁判所第二小法廷昭和33年10月3日判決(昭和31年(オ)第396号,民集12巻14号3053頁)は,株主9名・株式総数5000株の会社で,株主の一人である代表取締役が,自己の実子である2名の株主に口頭で招集を伝えただけで,他の6名の株主(持株2100株)には招集の通知を全くせず,親子3名だけで決議をした事案について,株主総会が成立しその決議があったものということはできないとした。
判決文は,手続に瑕疵があっても「決議取消の事由たるに過ぎず」とする上告人の主張に対し,決議は「なんら法律所定の手続によらず単に親子三名によつてなされた」として,不存在とした原審の判断を相当としている。
株式数で4割強(2100株/5000株),株主数で3分の2の株主が総会の開催を知る機会を全く与えられず,出席したのが身内だけであった点が重視されたといえる。
2 招集の権限のない者が招集した場合
最高裁判所第一小法廷昭和45年8月20日判決(昭和44年(オ)第276号,集民100号373頁)は,取締役会の決議を経ることなく,代表取締役以外の取締役によって招集された株主総会は,法律上の意義における株主総会とはいえず,そこで決議がされても,株主総会の決議があったものと解することはできないとした。
3 取消事由にとどまる場合との境界
招集手続の瑕疵のすべてが不存在をもたらすわけではない。
最高裁判所第一小法廷昭和46年3月18日判決(昭和44年(オ)第89号,民集25巻2号183頁)は,招集が取締役会の有効な決議に基づかず,招集の通知もすべての株主に対して法定の期間に2日足りない12日前にされた事案について,決議の取消請求を裁量棄却することの許されない重大な瑕疵があるとした。
この事案では,瑕疵は重大とされたが,扱いは取消しの問題であった。
招集の通知が全株主にされていたかどうかが,前記1との大きな違いである。
4 判断の視点
判例の事案からは,次のような事情が,不存在か取消しかを分ける目安になると考えられる(本記事の整理)。
(続きを読む...)株主総会決議の不存在―招集通知の欠缺,招集権限のない者の招集,後続決議への連鎖,全員出席総会及び追認(AI作成)