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生命維持治療を終了した後の死亡と医師法21条・医療事故調査制度―病院の院内手順に書くべき事項(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 本記事が扱う場面

救急・集中治療の現場で,人工呼吸器等の生命維持治療を終了し,又は差し控えた後に患者が死亡したとき,病院は二つの判断を迫られる。
一つは,死体を検案した医師が医師法21条により所轄警察署へ届け出るかどうかであり,もう一つは,病院等の管理者が医療法6条の10により医療事故調査・支援センターへ報告するかどうかである。

令和8年9月28日に公表された「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン」は,判断の手順と診療録の記載事項を詳しく示しているが,医師法21条の届出には触れていない(「4学会合同ガイドラインの法的位置付け」)。
本記事は,厚生労働省の通知・Q&A,裁判例及び令和8年の省令改正を基に,この二つの判断を院内手順にどう書き込むかを整理するものである。
基準日は令和8年9月28日である。

2 結論の要旨

①医師法21条の届出と医療事故調査制度の報告は,判断する者,基準及び届出先が異なる別の制度であり,院内手順でも分けて書く必要がある。
②医療事故調査制度では,死亡が「予期しなかった」ものかどうかが中心になり,医療の提供前に,その患者個人の臨床経過を踏まえて死亡が予期されることを説明し,又は記録していたかが問われる。
③医師法21条の届出の要否は,死体を検案した医師が外表の検査を基に個別に判断するものであり,「生命維持治療の終了後の死亡は届出不要」と一律に定めることは,厚生労働省の質疑応答集の考え方と合わない。
④令和8年3月の通知により,病院は,死亡事例が医療事故に当たるかを判断するまでのプロセスを医療安全管理の指針に書き,判断の結果と理由を記録することが求められている。

第2 二つの制度の違い

1 比較

二つの制度の違いは次のとおりである。

項目医師法21条の届出医療事故調査制度の報告
根拠医師法21条医療法6条の10,医療法施行規則1条の10の2の2
判断する者死体を検案した医師病院等の管理者
基準検案して異状があると認めたとき医療に起因し,又は起因すると疑われる死亡で,管理者が予期しなかったもの
届出・報告先所轄警察署医療事故調査・支援センター
期限24時間以内遅滞なく

2 医師法21条の届出

医師法21条は,「医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。」と定めている。
最高裁平成16年4月13日第三小法廷判決(平成15年(あ)第1560号,刑集58巻4号247頁)は,「医師法21条にいう死体の「検案」とは,医師が死因等を判定するために死体の外表を検査することをいい」,自己の診療していた患者の死体であるかどうかを問わないとした。
同判決は,業務上過失致死等の罪責を問われるおそれがある場合にも届出義務を負うとすることは,憲法38条1項に違反しないとしている。

3 医療事故調査制度の報告

医療法6条の10第1項の「医療事故」は,病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し,又は起因すると疑われる死亡又は死産であって,管理者が当該死亡又は死産を「予期しなかつたもの」として厚生労働省令で定めるものである。
厚生労働省の「医療事故調査制度に関するQ&A」は,この二つの要件を満たすものが対象であり,「過誤の有無は問わない」としている(Q2,PDF4頁)。
また,同Q&Aは,制度の施行時の段階で「医師法第21条の届出義務の取り扱いに変更はありません」としている(Q26,PDF29頁)。

第3 医療事故調査制度から見た生命維持治療の終了

1 「医療に起因」の要件

医療事故調査制度の対象は「提供した医療」に起因し,又は起因すると疑われる死亡であり,厚生労働省の「医療事故調査制度の概要について」は,原病の進行による死亡をこれに含まれないものの例として挙げている(PDF10頁)。
もっとも,厚生労働科学研究の研究班が作成し,医療事故調査・支援センターが公開している「医療機関内の医療事故の機能的な報告体制構築のための手引き」は,「原病の進行を認めていた場合にも、その経過中に「提供した医療」に起因して死亡した疑いがある場合は、本制度の対象となり得ます」としている(PDF30頁)。
人工呼吸器の終了や抜管も医療行為であるから,本記事では,生命維持治療の終了後の死亡について「医療に起因」の要件を当然に否定することはできず,次の「予期」の要件が院内の判断の中心になると整理する。

2 「予期しなかった」の判断と3つの類型

医療法施行規則1条の10の2の2第1項は,管理者が次のいずれにも該当しないと認めたものを「予期しなかった」死亡としている。
①医療の提供前に,医療従事者等が本人又はその家族に対して当該死亡が予期されることを説明していたと認めたもの。
②医療の提供前に,当該死亡が予期されることを診療録その他の文書等に記録していたと認めたもの。
③医療従事者等からの事情の聴取等を行った上で,医療の提供前に当該死亡を予期していたと認めたもの。

手引きは,「「当該死亡又は死産を予期しなかったもの」の考え方は、すべて当該医療を提供する前のことになります」としている(PDF30頁)。
生命維持治療の終了についていえば,終了を実施する前に,説明と記録ができているかが問われることになる。
なお,同規則の条番号は,オンライン診療に関する改正により「1条の10の2」が別の規定となっており,平成27年・平成28年の通知やQ&Aが引く「1条の10の2」は,現行の「1条の10の2の2」に当たる(令和8年9月28日にe-Gov法令検索で確認)。

3 一般的な説明では足りないこと

厚生労働省の「医療事故調査制度の概要について」に収録された平成27年5月8日医政発0508第1号の記載は,「一般的な死亡の可能性についての説明や記録ではなく、当該患者個人の臨床経過等を踏まえて、当該死亡又は死産が起こりうることについての説明及び記録であることに留意すること」としている(PDF10頁)。
Q&Aも,「個人の病状等を踏まえない、「高齢のため何が起こるかわかりません」、「一定の確率で死産は発生しています」といった一般的な死亡可能性についてのみの説明又は記録は該当しません」としている(Q4,PDF7頁)。

生命維持治療の終了の場面では,「終末期なので何が起きるか分からない」といった説明だけでは足りず,終了した後にどのような経過で死亡に至ることが見込まれるか(例えば,抜管後に短時間で心停止に至る見込み)を,その患者の病状に即して説明し,記録しておく必要があると考えられる。
4学会合同ガイドラインの緩和ケア別編も,生命維持治療の終了後の過程がどのように進行するかを家族等に説明し,死亡までの時間が短いと想定される場合には心の準備を促す必要があるとしている。

4 手順どおりに実施されなかった場合

手引きの付録は,ステージ4の肺がんで緩和医療を受け,DNARの方針が定められていた患者の死亡事例について,モルヒネやミダゾラムの投与(投与速度の設定を含む)が死亡の原因となった疑いがあるかと,死亡の可能性が説明・記録されていたかを,判断の論点として挙げている(PDF47頁)。
終末期の患者であっても,実施した医療の内容によっては,医療事故への該当性が改めて問題になり得る。
予期していたといえるのは,説明し記録したとおりの手順で終了が実施されたことが前提であるから,実施時の記録(誰が,いつ,何を,どの順序で行ったか)も残しておく必要がある。

第4 医師法21条から見た生命維持治療の終了

1 平成31年の通知と質疑応答集

厚生労働省は,「医師による異状死体の届出の徹底について」(平成31年2月8日医政医発0208第3号)で,「死体外表面に異常所見を認めない場合であっても、死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況等諸般の事情を考慮し、異状を認める場合には、医師法第21条に基づき、所轄警察署に届け出ること」とした。
同年4月24日の質疑応答集(Q&A)は,この通知が「医師法第21条の届出を義務付ける範囲を新たに拡大するものではない」とし,「届出の要否の判断は、個々の状況に応じて死体を検案した医師が個別に判断するものであるとの従来からの解釈を変えるものではない」としている(問1)。
さらに,「医療事故等の事案についての届出についても、従来どおり、死体を検案した医師が個々の状況に応じて個別に判断して異状があると認めるときに届出義務が発生することに変わりない」としている(問4)。
この質疑応答集は,厚生労働省の「令和8年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」の参考資料にも収録されている。

2 一律に届出不要と書かないこと

4学会合同ガイドラインのQ&A集は,適切なプロセスに基づく生命維持治療の終了/差し控えは,通常は警察介入の対象とはならないと考えられるとしている(Q53)。
しかし,医師法21条の届出の要否を判断するのは死体を検案した医師であり,その判断は個別に行うものとされている。
したがって,院内手順に「生命維持治療を終了した後の死亡は医師法21条の届出を要しない」と一律に書くことは避け,「死亡確認に当たって検案した医師が外表と経過を確認し,届出の要否を判断して,その判断と理由を記録する」と書くのが,質疑応答集の考え方と整合すると考えられる。
医師法21条の届出義務の詳細は,「弁護士のための死亡診断書の実務」で整理している。

第5 令和8年の省令改正と通知

1 医療事故の該当性を判断するプロセスの明記

令和8年厚生労働省令第27号による医療法施行規則の改正(令和8年4月1日施行)を受けて,厚生労働省は「病院等における医療の安全を確保するための措置について」(令和8年3月31日医政発0331第72号)を発出した。
同通知は,医療に係る安全管理のための指針に記載すべき事項として,管理者が把握した死亡・死産事例について医療事故に該当する可能性のある事例を抽出し,必要に応じて医療事故調査・支援センター等に支援を求め,「最終的にその該当性を判断するまでのプロセスについて記載すること」を挙げている(PDF2頁)。
また,「判断の結果、判断理由、遺族等への対応等に関する記録を作成し」,適切な期間を定めて保存することを求めている(PDF3頁)。

2 プロセスの例と記録の例

同通知の別添1は,医療事故を判断するプロセスの例として,管理者が「定期的に直近で発生した死亡事例を診療録等から振り返り」,医療事故に該当するか否かを判断する方法と,全死亡事例を院内で報告させてチェックシート等で絞り込み,判断会議を経て管理者が判断する方法を示している。
記録の例としては,管理者による確認結果と理由,会議の議事録(検討結果と理由が記載されているもの)等が挙げられている。
同日付けの留意事項の通知(医政地発0331第1号)も,「医療事故の該当性の判断は最終的に管理者が行うものである」としている(PDF2頁)。

生命維持治療の終了後の死亡も全死亡事例に含まれるから,この振り返りの対象になる。
院内で生命維持治療の終了の手順を定めるときは,この判断プロセスとつなげておく必要がある。

第6 院内手順に書くべき事項

1 終了を決める前

①4学会合同ガイドラインに沿って,多職種による臨床倫理的な検討と,患者・家族等との共同意思決定を行い,その経過を診療録に記載する。
②終了を実施した後にどのような経過で死亡に至ることが見込まれるかを,その患者の病状に即して本人又は家族等に説明し,説明の内容と日時,説明を受けた者を記録する(医療法施行規則1条の10の2の2第1項1号・2号)。
③一般的な死亡の可能性の説明で済ませない。

2 実施するとき

①終了する治療の範囲,順序,鎮痛・鎮静薬の用量と評価,筋弛緩薬の終了時刻等を記録する。
②予定と異なる対応をしたときは,その内容と理由を記録する。

3 死亡した後

①死亡を確認した医師が,外表と経過を確認して医師法21条の届出の要否を判断し,その判断と理由を記録する。
②死亡事例を医療事故の該当性を判断するプロセスに乗せ,管理者が「提供した医療に起因したか(疑いを含む)」と「予期しなかったか」の観点で判断し,結果と理由を記録する。
③遺族等から医療事故ではないかという申出があれば,改めて該当性を判断し,その結果を説明する。
判断に迷うときは,医療事故調査・支援センターへの相談も選択肢になる。

弁護士が病院から相談を受けたときは,これらの手順と記録が整っているかを確認することになる。
遺族から相談を受けたときは,説明と記録が当該患者個人の臨床経過等を踏まえたものか,医療事故の該当性の判断と理由が記録されているかを確認することになる。
生命維持治療の終了が刑事事件で問題となった裁判例は,「東海大学病院事件と川崎協同病院事件」で整理している。

第7 出典・参考資料

1 法令

①医師法(昭和23年法律第201号)21条
②医療法(昭和23年法律第205号)6条の10,6条の11
③医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)1条の10の2の2
いずれも令和8年9月28日にe-Gov法令検索で現行条文を確認した。

2 裁判例

①最高裁判所第三小法廷平成16年4月13日判決・平成15年(あ)第1560号・刑集58巻4号247頁(裁判所HP)

3 行政機関の通知・Q&A

①厚生労働省医政局長「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律の一部の施行(医療事故調査制度)について」平成27年5月8日医政発0508第1号
②厚生労働省医政局総務課医療安全推進室「医療事故調査制度の概要について」PDF10頁
③厚生労働省「医療事故調査制度に関するQ&A」平成27年9月28日更新,Q2,Q4,Q26
④厚生労働省医政局長「医療法施行規則の一部を改正する省令の公布等について」令和8年3月19日医政発0319第1号
⑤厚生労働省医政局長「病院等における医療の安全を確保するための措置について」令和8年3月31日医政発0331第72号,PDF2頁~3頁,別添1「医療事故を判断するプロセスの例」
⑥厚生労働省医政局地域医療計画課長「医療法施行規則の一部を改正する省令の施行に伴う留意事項等について」令和8年3月31日医政地発0331第1号,PDF2頁
⑦厚生労働省医政局医事課長「医師による異状死体の届出の徹底について」平成31年2月8日医政医発0208第3号,同医事課事務連絡「『医師による異状死体の届出の徹底について』に関する質疑応答集(Q&A)について」平成31年4月24日(いずれも令和8年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル及び平成31年4月24日の同マニュアル追補に収録)

4 研究班の手引き・学会のガイドライン

①令和4年~5年度厚生労働科学研究費補助金「医療機関内の医療事故の機能的な報告体制の構築のための研究」「医療機関内の医療事故の機能的な報告体制構築のための手引き」(医療事故調査・支援センター掲載)PDF30頁,47頁
②日本集中治療医学会・日本救急医学会・日本循環器学会・日本緩和医療学会「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン」令和8年9月(Q&A集,緩和ケア別編)