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警察・検察が報道機関に捜査情報を伝えたら違法か―記者発表・情報提供と名誉毀損,国家賠償の裁判例(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 対象とする場面

逮捕や処分の直後に,警察又は検察が報道機関に被疑事実や捜査の状況を伝え,それが報道されることがある。
本記事は,その報道によって名誉を害されたと考える者が,国又は都道府県に国家賠償を求める場合の判断枠組みを,裁判例に即して整理する。
警察本部長等が行う公式の発表(記者発表・広報)と,記者の取材への回答や非公式の情報提供(いわゆるリーク)とを区別して検討する。

報道機関自身に対する請求,記事の削除及び実名報道の是非は,被疑者の実名報道と無罪の推定-匿名報道・捜査情報の公表・名誉回復で扱う。
本記事の条文は,令和8年9月28日時点の現行法をe-Gov法令検索で確認した。

2 結論の要点

①捜査機関の発表や情報提供にも,名誉毀損の一般的な判断枠組み(公共の利害・公益目的・真実性又は相当性)が当てはまるとした裁判例がある(横浜地裁平成8年5月8日判決,東京高裁平成14年5月22日判決)。
②相当性は,捜査で得た資料に照らして,嫌疑を信じるについて相当の理由があったかで判断されている。
③被疑者が否認しているのに,認めているかのような印象を与える回答をした「不正確な広報」を違法とし,国家賠償を認めた裁判例がある(神戸地裁平成14年10月29日判決)。
④報道機関が独自の取材で得た情報を加え,記事の内容が変わった部分は,捜査機関の行為による名誉侵害ではないとされたことがある。
⑤もっとも,警察発表のような官公庁の情報は裏付け取材なしに報道されることが多く,提供者は記事になることを容易に予見できると述べた裁判例もある(大阪地裁平成10年3月31日判決)。

以上から,「報道機関が独自に取材して記事を書けば,捜査機関の情報提供は責任を問われない」とまではいえないと本記事では整理する。
ただし,ここで取り上げるのは下級審の裁判例であり,これらから裁判所全体の一般的な傾向を断定することはできない。

第2 捜査機関の発表を規律する規定

1 捜査に当たって名誉を害しない注意

刑事訴訟法196条は,「検察官、検察事務官及び司法警察職員並びに弁護人その他職務上捜査に関係のある者は、被疑者その他の者の名誉を害しないように注意し、且つ、捜査の妨げとならないように注意しなければならない。」と定める。
警察官が捜査を行うに当たって守るべき準則である犯罪捜査規範(国家公安委員会規則)9条1項も,「捜査を行うに当たつては、秘密を厳守し、捜査の遂行に支障を及ぼさないように注意するとともに、被疑者、被害者(犯罪により害を被つた者をいう。以下同じ。)その他事件の関係者の名誉を害することのないように注意しなければならない。」と定める。

2 報道機関への発表を行う者

犯罪捜査規範25条は,「捜査に関し、新聞その他の報道機関等に発表を行うときは、警察本部長若しくは警察署長(捜査本部を設置した場合においては捜査本部長)又はその指定する者がこれに当たらなければならない。」と定める。
同条は発表を行う者を定めるものであり,何をどこまで発表するかの基準は同条には書かれていない。
そのため,発表の内容や範囲が適法かどうかは,後記の裁判例のように,名誉毀損の判断枠組みや公益上の必要性との比較によって判断されることになる。

3 守秘義務と訴訟書類の非公開

都道府県警察の職員のうち,警視正以上の階級にある警察官は一般職の国家公務員とされ(警察法56条1項),それ以外の職員には地方公務員法が適用される。
地方公務員法34条1項は「職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする。」と定め,国家公務員法100条1項も同じ趣旨を定める。
また,刑事訴訟法47条は,「訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。但し、公益上の必要その他の事由があつて、相当と認められる場合は、この限りでない。」と定める。

組織として発表しないこととされた情報を,職員が個人的に報道機関へ伝えることは,国家賠償の問題とは別に,守秘義務違反の問題にもなりうる。
本記事では,以下,国家賠償での判断に絞って裁判例を見る。

第3 名誉毀損の判断枠組みと捜査機関への適用

1 国家賠償法と名誉毀損の一般法理

(1) 国家賠償法1条1項

国家賠償法1条1項は,「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」と定める。
本記事で取り上げる裁判例では,警察官の情報提供については県が,検察官の記者発表については国が,それぞれ被告とされている。
公務員個人に対する請求が認められない点は,公務員個人に損害賠償を請求できるかで扱っている。

(2) 最高裁昭和41年6月23日判決の判断枠組み

最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決(昭和37年(オ)第815号,民集20巻5号1118頁)は,民事上の名誉毀損について,公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的に出た行為は,摘示された事実が真実であると証明されれば違法性がないとした。
さらに,真実であると証明されなくても,行為者がその事実を「真実と信ずるについて相当の理由があるときには、右行為には故意もしくは過失がなく、結局、不法行為は成立しない」とした。
名誉毀損の成否の判断順序は,名誉毀損・プライバシー侵害が民事上違法となる要件で整理している。

2 検察官の記者発表(東京高裁平成14年5月22日判決)

(1) 事案

秋田地方検察庁の次席検事が,起訴猶予処分とした被疑者について,被疑事実は認定でき刑事責任は看過できないが,諸情状を考慮して起訴猶予とした旨を報道機関に発表した。
被疑者は,この記者発表で名誉を害されたとして,国に謝罪広告と慰謝料を求めた。
東京地裁平成13年11月22日判決(平成11年(ワ)第7977号,訟務月報50巻6号1699頁)は請求を棄却し,東京高裁平成14年5月22日判決(平成14年(ネ)第112号,訟務月報50巻6号1683頁)も控訴を棄却した。

(2) 判断枠組み

東京高裁は,最高裁昭和41年判決の判断枠組みが,検察官が犯罪行為に関する捜査情報を報道機関に発表した行為にも「当然に」当てはまるとした。
そのうえで,公共の利害と公益目的については,犯罪捜査と公訴権の行使が公益を図るために行われることから,特段の事情のない限り認められるとした。
相当の理由については,起訴猶予処分時に,検察官が現に収集した証拠資料と,通常要求される捜査をすれば収集し得た証拠資料を総合して,合理的な判断過程により被疑事実が真実であると信ずるについて相当な理由(客観的な嫌疑)があるかで判断するとした。

(3) 発表の必要性と範囲

東京高裁は,検察官による捜査情報の発表は,その必要性,発表内容,方法によっては違法と評価される場合がありうるとも述べた。
そして,犯罪の性質,社会的関心の程度,報道機関の要望等の公益上の必要性と,被疑者,被害者等の関係者のプライバシー等の私的利益を比較衡量し,前者を優先すべき場合に限って,必要な範囲内で行われるべきであるとした。
社会的関心が高く,終局処分について情報を公開することが国民の信頼を得る観点から重要な場合には,相当な方法により起訴猶予処分の結果とその理由を発表することは許されるとし,本件では客観的な嫌疑があったとして責任を否定した。

3 警察の情報提供(横浜地裁平成8年5月8日判決)

(1) 事案

横浜地裁平成8年5月8日判決(平成元年(ワ)第2867号,判例秘書の判例番号 L05150234)は,有印私文書偽造等の被疑事実で逮捕・勾留された者が,神奈川県警の警察官が報道機関に被疑事実と関係のない情報を提供したことなどを理由に国家賠償を求めた事案である。
情報提供の内容には,被疑者が外国の工作員と関係があるかのような事情や,捜査官の見解が含まれていた。
判決は請求をすべて棄却した。
本判決は裁判所HP未掲載で,判例秘書で全文を確認した(控訴審の判決は判例秘書では見当たらなかった)。

(2) 真実性・相当性の法理の適用

判決は,司法警察員が捜査中の事件の情報を報道記者に提供して他人の名誉を害した場合でも,公共の利害に関する事実に係り,専ら公益を図る目的で提供され,その情報が真実であるか,真実と信じるについて相当の理由があるときは,不法行為は成立しないとした。
原告は,この法理は国家機関の情報提供には適用されないと主張したが,判決は,警察官には犯罪予防(警察法2条1項)の見地や国民の知る権利を充足するために被疑者の犯罪事実を公表する必要がある場合があるとして,法理の適用を認めた。
そのうえで,捜査段階では嫌疑が証拠の収集によって次第に客観化されていくことを踏まえ,情報が後に真実でないと分かった場合は,捜査官が通常払うべき注意を尽くして周到な捜査を遂げ,その結果得られた資料によれば嫌疑が極めて濃厚で,誤りも無理からぬと認められることが必要であるとした(刑事訴訟法196条も引用している)。

(3) 捜査官の意見と記事の変容

判決は,捜査官の意見が加えられた情報については,前提となる主要な事実が真実であるか,真実と誤信するについて相当な理由があれば免責されるとした。
また,ある新聞の記事については,記者が独自に取材して得た情報が付け加えられ,「司法警察員の情報は、同新聞社の有する情報や見解による変更が加えられて変容しており、司法警察員の行為による名誉の侵害とはいえない」とした。
プライバシーについては,交遊関係の情報の提供は社会的関心事として認められる範囲を超えるとしながら,その事実は報道されなかったとして,侵害を認めなかった。

第4 違法とされた例――不正確な広報(神戸地裁平成14年10月29日判決)

1 事案と判断

神戸地裁平成14年10月29日判決(平成11年(ワ)第1826号)は,強制わいせつ致傷の被疑事実で逮捕され,否認を続けて起訴猶予となった者が,警察官の属する県を被告として国家賠償を求めた事案である。
警察署は,逮捕の事実と事件の概要を記者クラブ加入の報道各社にファクシミリで広報し,その後の電話取材には副署長が対応した。
判決は,副署長が通信社の記者から容疑を認めているかを問われた際,被疑者が容疑を認めているとの印象を与える趣旨の回答をしたと認定した。
そして,広報担当者は「犯罪事実に関して正確に広報をすべき職務上の義務を負う」とし,否認しているのに認めているかのような不正確な広報をしたことを違法な公権力の行使と認め,過失があるとした。
この点の慰謝料は10万円とされた(判決の認容額は,接見の妨害に対する慰謝料等と合わせて80万円である)。

2 認否の回答と「印象」

副署長は,容疑を認めているか否かは一般に広報しない方針であり,回答を拒否したと証言した。
しかし判決は,他紙にも被疑者の供述内容として認めているかのような記事が出ていたこと,一般に認否を広報しないという広報担当者はほとんどいないとの調査嘱託の結果などから,その証言を信用しなかった。
この判決は,具体的な文言がはっきりしなくても,回答全体が与える印象で不正確な広報と認定しており,認否の伝え方が問題になることを示している。

3 勤務先への情報提供

同じ事件では,警察官が被疑者の勤務先(市の教育委員会)の職員に対して,前歴や捜査の見通し等を伝えたことも争われた。
判決は,勤務先は本人から事情を聴取したうえで懲戒処分をしており,警察官の発言が処分に不当な影響を及ぼしたとは認め難いとして,この点の請求を認めなかった。
報道機関以外への情報提供でも,損害との因果関係が問題になる例である。
本判決の控訴審の判決は,判例秘書では見当たらなかった。

第5 情報提供と記事掲載の因果関係

1 大阪地裁平成10年3月31日判決の一般論

大阪地裁平成10年3月31日判決(平成7年(ワ)第8015号,判例秘書の判例番号 L05350210)は,商店街の協同組合が新聞社に情報を提供し,元理事長の名誉を害する記事が掲載されたとして,元理事長が組合に損害賠償を求めた事案である。
捜査機関の事件ではない。
判決は,情報提供者に責任を問うには,故意又は過失に加え,情報提供と記事の掲載との間に相当因果関係が必要であるとした。
そのうえで,報道機関の情報源を,警察発表のような官公庁の情報と,投書等の一般私人からの情報とに分けた。
前者については,一定の信頼を置ける情報で公共の利益に直結し迅速性も要するため,報道機関が逐一裏付け取材をせずにそのまま報道することが多く,提供者も「当該提供情報に即した記事が掲載される蓋然性が高いことを容易に予見できる」とした。
後者については,報道機関の慎重な裏付け取材と独自の判断で報道されるのが通常であるとし,本件では新聞社が独自に取材して記事を構成したことから,相当因果関係を否定した。
本判決は裁判所HP未掲載で,判例秘書で全文を確認した。

2 捜査機関の情報提供に当てはめるときの注意

大阪地裁判決は私人の情報提供について因果関係を否定したものであり,その一般論は,官公庁の情報についてはむしろ記事になることを予見しやすいという方向を示している。
横浜地裁判決が記事の「変容」を理由に名誉侵害を否定したのも,記者が独自の情報を付け加えた部分についてであり,捜査官の情報に即した部分まで責任を否定したものではない。
そのため,本記事では,「報道機関が独自に裏付け取材や編集をすれば,捜査機関の情報提供は一律に責任を問われない」と一般化することはできないと整理する。
もっとも,捜査機関の情報に即した記事であっても,相当の理由(客観的な嫌疑)があれば責任は否定されるので,実際に争点となるのは,因果関係よりも,提供された情報の正確さと嫌疑の裏付けであることが多いと考えられる。

第6 名誉を害されたと考えるときに確認すること

1 発表と記事の対応関係

まず,①誰が(広報担当者か,個々の捜査員か),②いつ,③どの手段で(ファクシミリ等の広報文,記者会見,電話取材への回答),④何を伝えたかを,記事の文言と一つずつ対応させる。
記事の表現が捜査機関の伝えた内容に即しているのか,報道機関の独自取材によるものかで,誰の責任を問うべきかが変わる。
神戸地裁判決では,広報文には書かれていない認否が電話取材への回答で伝えられたと認定されており,公式の広報文だけで判断しないことが重要である。

2 真実性・相当性と認否

発表された被疑事実が後に不起訴や無罪となっても,それだけで直ちに違法となるわけではない。
東京高裁判決や横浜地裁判決によれば,発表当時に収集され,又は通常の捜査で収集し得た資料から嫌疑を信じる相当の理由があったかが問われる。
これに対し,被疑者の認否,供述内容,前歴等の付随的な事情は,事実と異なる伝え方をすれば,被疑事実そのものに嫌疑があっても違法とされる余地がある(神戸地裁判決)。

3 請求の期間

国家賠償法4条は「国又は公共団体の損害賠償の責任については、前三条の規定によるの外、民法の規定による。」と定めており,消滅時効は民法724条による。
同条1号は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときに時効によって消滅すると定める。
報道の日と,発表者を特定できた日を記録しておく必要がある。
逮捕されたことが勤務先に知られたときの問題は,逮捕されたら会社にばれるか-職場での逮捕,欠勤,懲戒及び解雇で扱っている。

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第8 出典

1 法令

①国家賠償法(e-Gov法令検索)1条1項,4条
②刑事訴訟法(e-Gov法令検索)47条,196条
③犯罪捜査規範(e-Gov法令検索)9条1項,25条
④警察法(e-Gov法令検索)2条1項,56条1項
⑤地方公務員法(e-Gov法令検索)34条1項
⑥国家公務員法(e-Gov法令検索)100条1項
⑦民法(e-Gov法令検索)724条

2 裁判例

①最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決(昭和37年(オ)第815号)民集20巻5号1118頁
②東京地裁平成13年11月22日判決(平成11年(ワ)第7977号)訟務月報50巻6号1699頁
③東京高裁平成14年5月22日判決(平成14年(ネ)第112号)訟務月報50巻6号1683頁
④神戸地裁平成14年10月29日判決(平成11年(ワ)第1826号)
⑤横浜地裁平成8年5月8日判決(平成元年(ワ)第2867号,判例秘書の判例番号 L05150234)(裁判所HP未掲載)
⑥大阪地裁平成10年3月31日判決(平成7年(ワ)第8015号,判例秘書の判例番号 L05350210)(裁判所HP未掲載)