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被疑者の実名報道と無罪の推定-匿名報道・捜査情報の公表・名誉回復(AI作成)

第1 問題の整理

被疑者の実名報道を検討するときは,①捜査機関が逮捕等の事実を公表すること,②報道機関が氏名を報道すること,③不起訴又は無罪となった後も記事や検索結果が残ることを区別する必要がある。
逮捕された事実は有罪が確定したことを意味せず,実名が報道されたことも犯罪事実の証明にはならない。

第2 無罪の推定

市民的及び政治的権利に関する国際規約14条2項は,刑事上の罪に問われている者が法律に基づいて有罪とされるまでは無罪と推定される権利を定めている。
無罪の推定は裁判所の証明基準だけの問題ではなく,公的機関が有罪との結論を先取りしないこと及び報道が逮捕と有罪を混同しないことを考える際の基本となる。

被疑者は捜査の対象となった者であり,被告人は起訴された者である。
不起訴処分には嫌疑なし,嫌疑不十分,起訴猶予その他の理由があり,無罪判決とも異なるため,「逮捕されたが処罰されなかった」という一括りの説明は正確でない。

第3 実名報道と匿名報道

1 実名を公表する法的効果

捜査機関の発表又は報道機関の記事に氏名が記載されても,その氏名公表自体に有罪を確定する効力はない。
他方,氏名,勤務先,顔写真その他の情報が結び付くと,刑事手続の結論前から社会的評価,家族関係及び就業に大きな影響が生じ得る。

2 匿名報道の判断

事件を実名で報道するか匿名で報道するかは,事件の公共性,被疑者の地位,嫌疑の内容,取材の確度,被害者の保護及び将来の不利益等を踏まえた報道機関の判断となる。
逮捕された事件は必ず実名で報道しなければならない,または不起訴の可能性がある事件は必ず匿名にしなければならない,という一律の法令上の基準があるわけではない。

第4 捜査情報の公表と報道

警察又は検察の発表は,捜査段階で把握した被疑事実や処分を説明するものであり,裁判所による有罪認定ではない。
報道では,「逮捕されたこと」,「捜査機関が被疑事実を発表したこと」,「本人が認めた又は否認したと捜査関係者が説明したこと」を分けて記載する必要がある。

捜査関係者の説明だけを根拠に本人の有罪を断定すると,無罪の推定との緊張が生じる。
本人又は弁護人の説明を取材できない場合でも,嫌疑が争われている可能性及び刑事手続が未確定であることを読者に分かる形で示すことが重要である。

捜査に関して報道機関に発表を行うのは,警察本部長若しくは警察署長又はその指定する者とされている(犯罪捜査規範25条)。
捜査に当たっては,被疑者その他の者の名誉を害しないように注意しなければならない(刑事訴訟法196条,犯罪捜査規範9条1項)。

捜査機関の記者発表や記者への情報提供で名誉を害されたとして国家賠償を求めた事件では,名誉毀損の一般的な判断枠組み(公共の利害・公益目的・真実性又は相当性)が当てはめられている(横浜地裁平成8年5月8日判決,東京高裁平成14年5月22日判決)。
他方,否認している被疑者について,容疑を認めているとの印象を与える回答をした不正確な広報を違法とし,国家賠償を認めた裁判例もある(神戸地裁平成14年10月29日判決)。
判断枠組みと裁判例の詳細は,警察・検察が報道機関に捜査情報を伝えたら違法か―記者発表・情報提供と名誉毀損,国家賠償の裁判例(AI作成)で整理している。

第5 名誉回復と記事の削除

不起訴処分又は無罪判決となっても,過去の逮捕報道が自動的に削除される制度はない。
まず,不起訴又は無罪という後続事情の追記,見出しの修正,検索結果に表示される説明の更新,匿名化又は記事削除のいずれを求めるのかを区別する必要がある。

最高裁令和4年6月24日第二小法廷判決(令和2年(受)第1442号,投稿記事削除請求事件)は,逮捕歴に関する投稿の削除請求を認めた事例である。
もっとも,同判決から,逮捕歴を含む全ての実名記事が一定期間後に当然削除されるという一般規則を導くことはできず,公表されない利益と投稿を一般の閲覧に供し続ける理由に関する個別事情の比較が必要である。

第6 刑事手続の結論後に確認する事項

① 不起訴処分告知書,判決書その他の結論を示す公的資料を確保すること。
② 逮捕報道,起訴報道及び結論報道の掲載先,見出し,本文及び掲載日を記録すること。
③ 事実の訂正,後続事情の追記,匿名化又は削除のうち,求める対応を整理すること。
④ 検索結果だけでなく,元記事,転載記事及びSNS投稿を分けて確認すること。
⑤ 時効,証拠保全及び申入れの相手方について弁護士に相談すること。

第7 関連記事

司法修習生の実名報道事例及び被疑者補償等を含む従来記事として,司法修習生の逮捕及び実名報道(AIリライト)がある。
被疑者補償の制度については,被疑者補償規程とは-補償要件・金額・申出・刑事補償法との違い(AI作成)を参照されたい。
刑事記録については,刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧を参照されたい。

出典

① 外務省「市民的及び政治的権利に関する国際規約」14条2項。
② 最高裁令和4年6月24日第二小法廷判決(令和2年(受)第1442号,投稿記事削除請求事件)「判決全文」。
③ 法務省「刑事事件フローチャート」。
④ 東京弁護士会「座談会 続・司法記者は語る」東弁リブラ2015年9月号2頁~20頁。
⑤ e-Gov法令検索「刑事訴訟法」196条,「犯罪捜査規範」9条1項・25条。
⑥ 横浜地裁平成8年5月8日判決(平成元年(ワ)第2867号,判例秘書の判例番号 L05150234)。裁判所HP未掲載。
⑦ 東京高裁平成14年5月22日判決(平成14年(ネ)第112号)「判決全文」。
⑧ 神戸地裁平成14年10月29日判決(平成11年(ワ)第1826号)「判決全文」。