司法修習生の逮捕及び実名報道

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目次
1 第58期司法修習生の事例(対象者は同期と一緒に司法修習を終了しました。)
2 第67期司法修習生の事例(対象者は同期と一緒に司法修習を終了しました。)
3 第71期司法修習生の事例(対象者は同期と一緒に司法修習を終了しました。)
4 司法修習生の逮捕に関する最高裁判所の捉え方等
5 逮捕直後の指紋採取及び写真撮影
6 関連記事その他


1 第58期司法修習生の事例(対象者は同期と一緒に司法修習を終了しました。)
(1) 平成16年12月13日,東京地裁における裁判修習中に女性用トイレに侵入してビデオカメラを設置したということで,平成17年1月5日,第58期司法修習生が建造物侵入罪の容疑で逮捕され,実名報道されました(紀藤正樹弁護士ブログ「なんということでしょう!司法修習生逮捕:東京地裁の女子トイレ侵入,ビデオ設置」参照)。
(2)ア 言いたい放題ブログ「司法修習生のなぞの行動」によれば,平成17年1月26日に釈放されたときの記事は以下のとおりです(氏名及び年齢は伏せました。)。

逮捕の修習生釈放 「アリバイある」と弁護人
   東京地検は26日、隠し撮り目的で東京地裁内の女性用トイレ内にビデオカメラを設置したとして建造物侵入の疑いで逮捕された○○○○・司法修習生(○○)を処分保留のまま釈放した。
   ○○修習生は今月5日、警視庁丸の内署に逮捕された。逮捕前、容疑を認める上申書を出していたが、間もなく否認に転じ「自分はビデオを置いていない」と主張。
   26日記者会見した弁護人の伊東真弁護士らは、事件当夜に○○修習生がさいたま市のスーパーで買い物をしたレシートの時刻などから「アリバイがある」と説明。「今は明かせないが、真犯人に結び付く決定的証拠がある」と話した。
   東京地検は「捜査を継続する」とした。
(共同通信) – 1月26日20時43分更新

イ 平成17年1月27日の毎日新聞朝刊によれば,当該司法修習生は,釈放後の記者会見において,「捜査官から『微罪処分も可能だ』と言われ,早くこの場を逃れたいという一心で(当初)犯行を認めてしまった。慎重に捜査していればこんなことにはならなかった。」と話しました。
(3)   当該司法修習生は嫌疑不十分ということで起訴されませんでしたが,その時期,46期の近藤裕之裁判官「法務省出向中の裁判官の不祥事の取扱い」参照)は東京地裁判事でした。


2 第67期司法修習生の事例(対象者は同期と一緒に司法修習を終了しました。)
(1) 平成26年5月13日午後6時半頃,神戸地裁配属の司法修習生が,神戸電鉄の普通電車内で,通路の向かい側に座っていた女性のスカートや足の写真を数枚,撮影したということで,兵庫県迷惑防止条例違反の疑いにより現行犯逮捕され,実名報道されました。
(2) 秋篠宮家の眞子内親王(20歳になった平成23年10月23日に宝冠大綬章を授与されています。)が,純然たる一般人であった小室圭氏と一緒に電車に乗っていたときの写真が無断で撮影され,平成28年10月発売の週刊誌に掲載されました(外部HPの「【結婚速報】眞子様の婚約者小室圭の顔画像?週刊誌でスクープされた男性か?」参照)。
   また,今井絵理子参議院議員が,神戸市議会議員の男性と一緒に新幹線で寝ていた時の写真が無断で撮影され,平成29年8月発売の週刊誌に掲載されました(外部HPの「【画像】橋本健市議の妻が『Mr.サンデー』で今井絵理子議員と夫に反論「去年8月に一方的に」「結婚生活破綻していない」」参照)。
    週刊誌に写真を掲載するための無断撮影は全く問題とならないのになぜ,司法修習生の無断撮影が現行犯逮捕かつ実名報道の対象となるかは不明です。
(3) 最高裁平成17年11月10日判決の裁判要旨は以下のとおりです。
   人はみだりに自己の容ぼう,姿態を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有し,ある者の容ぼう,姿態をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。
(4)ア 平成28年7月1日施行の改正兵庫県迷惑防止条例の条文ではありますが,同条例3条の2は,以下のとおりです(兵庫県警察HPの「「改正 兵庫県 迷惑防止条例」が平成28年7月1日から施行されます。」参照)。
 (卑わいな行為等の禁止)
第3条の2 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 人に対する、不安を覚えさせるような卑わいな言動
(2) 正当な理由がないのに、人の通常衣服で隠されている身体又は下着を撮影する目的で写真機、ビデオカメラその他これらに類する機器(以下「写真機等」という。)を設置する行為 
2 何人も、集会所、事業所、タクシーその他の不特定又は多数の者が利用するような場所(公共の場所を除く。)又は乗物(公共の乗物を除く。)において、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 正当な理由がないのに、人の通常衣服で隠されている身体又は下着を写真機等を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機等を向ける行為  
(2) 前項第2号に掲げる行為
3 何人も、正当な理由がないのに、浴場、更衣室、便所その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所にいる人を写真機等を用いて撮影し、撮影する目的で写真機等を向け、又は撮影する目的で写真機等を設置してはならない。
イ 通路の向かい側に座っていた女性を撮影したとしても,「人の通常衣服で隠されている身体又は下着」を撮影することはできないと思われますから,これがなぜ兵庫県迷惑防止条例違反に該当したのかはよく分かりません。


3 第71期司法修習生の事例(対象者は同期と一緒に司法修習を終了しました。)
(1)   平成30年9月20日午前2時15分頃,福岡地裁配属(多分)の司法修習生が,酒に酔って叫びながら,駐車場で他人が所有するBMWのフロントワイパー1本を折って壊したということで,器物損壊罪の疑いにより福岡県警中央署に現行犯逮捕され,実名報道されました。
(2) RKB HP「ワイパー損壊か 司法修習生を逮捕」には「○○容疑者は、逮捕直後は「弁護士を呼んで欲しい」などと話し、その後の取り調べでは「酒を飲んでいたので覚えていない」と容疑を否認しています。」と書いてあります。
(3) 平成30年10月18日付で不起訴処分となりました。
(4)ア 平成30年12月20日付の司法行政文書不開示通知書によれば,現行犯逮捕された司法修習生が不起訴処分となったことに関して作成し,又は取得した文書は同年10月24日までに廃棄されました。
イ 平成31年1月23日付の理由説明書には以下の記載があります。
    最高裁判所では,現行犯逮捕された司法修習生が不起訴処分となったことについて,報道機関から照会があり,それに対応するため,本件対象文書(事実関係の問合せへの応答に係る文書)を作成したが,対応終了後は,事務処理上使用することが予定されておらず,保有する必要もない短期保有文書であることから,事務処理上必要な期間が経過したため廃棄した。


4 司法修習生の逮捕に関する最高裁判所の捉え方等
(1) 司法修習生の逮捕に関する最高裁判所の捉え方
・ 令和2年度(最情)答申第27号(令和2年10月27日答申)には以下の記載があります。
     当委員会庶務を通じて確認した結果によれば,「司法修習生採用選考申込書」の「12 不採用事由等の有無」欄に,「(3)審査基準(2)ア(エ)関係」として,「かつて起訴(略式起訴を含む。)又は逮捕(補導)されたことの有無」を記載する箇所があることが認められ,また,「令和元年度司法修習生採用選考要項」には,上記司法修習生採用選考審査基準が掲載されており,同審査基準(2)ア(エ)は,司法修習生の不採用事由の一つとして,「品位を辱める行状により,司法修習生たるに適しない者」を掲げていることが認められる。これらの各文書の記載内容を踏まえれば,「司法修習生採用選考申込書」において逮捕歴及び補導歴を記載させる理由は明らかであるということができるから,このほかに同申込書の記載欄の一つ一つにつき,それぞれ申込者に記載をさせる理由を説明した文書が存在することは通常考え難い。
(2) 東京高裁令和2年10月28日判決の判示事項
ア 東京高裁令和2年10月28日判決(判例秘書に掲載)は以下の判示をしています。
     一般に,被疑者が逮捕されたにとどまる捜査の初期の段階で,被疑者が被疑事実の一部を否認している状況においては,上記の被疑事実及びこれに関連するものとして捜査機関が公表した事実が存在すると直ちに認めることはできず,このことは,弁護士である一審被告においても,十分に理解していたものと推認される。以上に述べたところは,捜査機関の公表したところを基礎とする報道についても同様に考えられ,一件記録を参照しても,一審被告について,上記とは異なる判断をすべき事情を特に把握するなどしていたとの事実は認め難い。
イ 東京高裁令和2年10月28日判決は,伊藤和子弁護士の裁判を応援する会ブログ「裁判記録」にも載っています。


5 逮捕直後の指紋採取及び写真撮影
(1) 刑訴法218条3項は,「身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、第一項の令状によることを要しない。」と定めています。
(2) 犯罪捜査規範131条1項は,「逮捕した被疑者については、引致後速やかに、指掌紋を採取し、写真その他鑑識資料を確実に作成するとともに、指掌紋照会並びに余罪及び指名手配の有無を照会しなければならない。」と定めています。
(3) 付審判請求事件における東京地裁昭和59年6月22日決定(判例秘書に掲載)は以下の判示をしています。
     逮捕されている被疑者が、犯罪捜査の必要のため、司法警察職員が出頭を要求したのにこれに応ぜず留置場から出房しないときは、必要最少限度の有形力を用いて、司法警察職員のもとに出頭させることができることは、刑訴法一九八条一項但書の趣旨により明らかであり、また刑訴法二一八条二項によれば、身体の拘束を受けている被疑者の指紋を採取し、写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、令状を要しないとされており、指紋採取及び写真撮影の性質は身体検査であるから、同法二二二条一項により、その拒否に対する直接強制に関する同法一三九条が準用され、右被疑者が右指紋採取や写真撮影に任意に応じず、これを拒否した場合において、間接強制では効果がないと認められるときは、そのままその目的を達するため必要最小限度の有形力をもって直接強制をすることは許されると解される。


6 関連記事その他
(1)ア 前田恒彦 元検事によれば,捜査当局は捜査情報をマスコミにリークすることがあるみたいです。
① なぜ捜査当局は極秘の捜査情報をマスコミにリークするのか(1)
② なぜ捜査当局は極秘の捜査情報をマスコミにリークするのか(2)
③ なぜ捜査当局は極秘の捜査情報をマスコミにリークするのか(3)
イ ちなみに,ライブドア事件に関して,平成18年1月16日午後4時過ぎ,ライブドアに捜索に入ったとNHKテレビニュースで報道されたものの,ライブドアが入居していた六本木ヒルズに東京地検特捜部の捜査官が到着したのは同日午後6時半過ぎでした(Cnet.Japanの「ライブドアショックの舞台裏とその余震」(2006年1月26日付)参照)。
(2)ア 刑訴法198条2項を受けて,犯罪捜査規範169条1項は,「被疑者の取調べを行うに当たつては、あらかじめ、自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げなければならない。」と定めています。
イ 刑事弁護専門サイトの「黙秘する?しない?判断の参考になる3つのポイント」には以下の記載があります。
     黙秘するか否かは、捜査機関が信用性の高い証拠をどこまで収集しているかによります。捜査機関が信用性の高い証拠を確保しているのであれば、被疑者がどんなに頑張って黙秘しても起訴されてしまうからです。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 司法修習生の罷免
・ 「品位を辱める行状」があったことを理由とする司法修習生の罷免事例及び再採用
・ 司法修習生の罷免理由等は不開示情報であること
・ 司法修習生の守秘義務違反が問題となった事例
・ 報道されずに幕引きされた高松高裁長官(昭和42年4月28日依願退官,昭和46年9月5日勲二等旭日重光章)の,暴力金融業者からの金品受領

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