第1 被疑者補償規程とは
被疑者補償規程は,被疑者として抑留又は拘禁を受けた者について,公訴を提起しない処分があり,その者が罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由がある場合の補償を定めた法務省訓令である。
不起訴になった者全員に自動的な補償請求権を与える制度ではなく,身体拘束,不起訴処分及び無実を認めるに足りる事情が要件となる。
第2 補償の要件
被疑者補償規程2条は,①被疑者として抑留又は拘禁を受けたこと,②公訴を提起しない処分があったこと,③罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由があることを基本的要件としている。
単に証拠が十分でないという嫌疑不十分の不起訴であれば常に補償される,という規定ではない。
同規程4条は,「罪とならず」又は「嫌疑なし」の不起訴裁定主文による場合のほか,罪を犯さなかったと認めるに足りる事由がある場合及び本人から補償の申出があった場合に立件手続を行うとしている。
不起訴理由の表示と被疑者補償の要件は完全に同じではないため,処分通知だけで結論を決めず,担当検察庁に確認する必要がある。
第3 補償金額
補償金は,抑留又は拘禁の日数に応じ,1日1,000円以上1万2,500円以下の割合で算定される。
具体的な金額を定める際には,拘束の種類と期間,財産上の損失,得られたはずの利益の喪失,精神上の苦痛その他一切の事情が考慮される。
日数に上限額を掛けた金額が当然に支給されるわけではない。
また,規程4条の3は,本人の一定の行為等がある場合に補償の一部又は全部をしないことができると定めている。
第4 申出と手続
規程上,検察官が立件手続を行う場合の一つとして本人の補償の申出が明記されている。
申出を検討する場合は,不起訴処分をした検察庁に対し,対象事件,不起訴処分,身体拘束の期間及び申出方法を確認することになる。
被疑者補償規程は裁判所に対する定型の申立手続を定めた法律ではない。
全国共通の公開申出書式が常に用意されているとは限らないため,提出先,必要資料及び期限を担当検察庁へ確認すべきである。
第5 刑事補償法との違い
刑事補償法は,原則として無罪の裁判を受けた者が未決の抑留又は拘禁を受けた場合等に,裁判所へ補償を請求する制度を定める法律である。
これに対し,被疑者補償規程は,起訴されずに被疑者段階で終わった一定の事件について,検察官が行う補償を定めた法務省訓令である。
したがって,不起訴と無罪判決,検察官による裁定と裁判所による決定,訓令上の制度と法律上の請求手続を区別する必要がある。
憲法40条が定める刑事補償と被疑者補償規程に基づく補償も,同一の根拠を持つ制度ではない。
第6 確認事項
① 逮捕・勾留された事件と不起訴になった事件の対応関係を確認すること。
② 不起訴処分告知書及び不起訴理由の告知内容を確認すること。
③ 身体拘束の開始日,終了日及び拘束の種類を確認すること。
④ 財産上の損失,逸失利益及び精神的苦痛に関する資料を保存すること。
⑤ 申出先,提出方法及び必要資料を担当検察庁へ確認すること。
第7 関連記事
被疑者補償を含む従来記事として,司法修習生の逮捕及び実名報道(AIリライト)がある。
同記事には,被疑者補償規程の運用通達及び過去の立件事例へのリンクも掲載している。
刑事手続全体については,刑事事件に関する記事の一覧も参照されたい。
出典
① 検察庁「被疑者補償規程(法務省訓令)」。
② 検察庁「関係法令等」。
③ e-Gov法令検索「刑事補償法」。
④ e-Gov法令検索「日本国憲法」40条。