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カルテ改ざんの法的効果―記載の信用性の否定,別個の不法行為としての慰謝料,改ざんが認められなかった例及び患者側の記録(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 対象と基準日

本記事は,医療事故の後に診療録(カルテ)が書き加えられ,又は書き換えられたと疑われる場合に,民事の損害賠償請求訴訟でどのような効果が生じるかを,裁判例に即して扱う。
取り上げる裁判例は3件であり,うち2件は裁判所ウェブサイトの判決全文で,残る1件は裁判所ウェブサイトに掲載されていないため判例データベース(判例秘書)の判決全文で,令和8年9月28日に確認した。
法令は令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。

カルテの記載を読むときの一般的な型(SOAP,時刻の区別,追記・訂正とログの確認)は,弁護士のためのカルテの読み方―SOAP・時系列・追記訂正・退院時要約の証拠評価で扱っている。
本記事は,そのうち改ざんが争われた場面に絞って,裁判所が何を手掛かりにしたか,改ざんが認められたときに何が起きるかを整理するものである。
刑事責任や医師の行政処分は扱わない。

2 結論

①改ざんが疑われる記載は,意図的な改ざんと断定されなくても,信用性が極めて乏しいとして事実認定で重きを置かれなくなることがある。
東京地方裁判所平成24年10月25日判決は,新生児が大動脈弁狭窄症で死亡した事案で,カルテの該当部分の信用性を否定した上で,診療所側の注意義務違反を認めた。

②改ざんが認められると,それ自体が,本来の過失や説明義務違反とは別個の不法行為となり得る。
東京地方裁判所令和3年4月30日判決は,カルテの改ざんを説明義務違反とは別個の不法行為とし,慰謝料100万円と弁護士費用10万円を認めた。

③裁判所は,手術記録,看護記録,診療報酬明細書,母子手帳等の同時期の記録との整合・食い違い,挿入やはみ出しといった体裁,同じ医師の他の記載との書きぶりの違い,訂正前の記載が読めなくなる訂正の方法等を手掛かりにしている。

④他方,記載が途中から詳しくなったことや,診療報酬の請求との食い違いがあることだけでは,改ざんとは認められないことがある。
東京地方裁判所平成21年3月18日判決は,医師が家族の対応に不信感を持って記載を詳しくすることは後日の紛争に備えた対応として考えられるとして,改ざんを認めず,逆に,遺族が作成したメモについて,事後に書き替えが可能であり,書き替えが疑われる箇所もあること等から,遺族の供述の信用性を支えるものとはいえないとした。

⑤医療側は,訂正するなら元の記載が分かる方法で行い,事故の後に記載を変えない。
患者側は,改ざんの疑いを主張するなら,カルテ以外の同時期の客観的な記録を先に集め,記録の原本の状態を早期に確保する。

第2 カルテの記載義務と訂正

医師法24条1項は,医師は,診療をしたときは,遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならないと定める。
同条2項は,病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関する診療録はその病院又は診療所の管理者が,その他の診療録はその医師が,5年間保存しなければならないとする。
医師法施行規則23条は,診療録の記載事項として,診療を受けた者の住所・氏名・性別・年齢,病名及び主要症状,治療方法(処方及び処置)並びに診療の年月日を定めている。

カルテは,医療訴訟で診療経過を認定するための中心的な証拠になる。
そのため,事故の後に書き加えられた記載や書き換えられた記載は,医療側に有利な事実を後から作ったものではないかが争われる。
訂正や追記があること自体は直ちに改ざんを意味しないが,訂正の方法によっては,それが改ざんを疑わせる事情として扱われる(第4の2)。

第3 信用性が否定された例(東京地方裁判所平成24年10月25日判決)

1 事案

産科診療所で平成19年9月29日に出生し,退院後も通院していた新生児が,同年11月6日に死亡した。
死体の解剖では,直接の死因は急性左心不全,その原因は大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症,さらにその原因は二尖大動脈弁とされた。
両親は,診療所の医師が聴診によって大動脈弁狭窄症を診断し,専門病院に転送すべきであったのに,これを怠ったとして,診療所を開設する法人に損害賠償を求めた。
両親は,カルテの一部が死亡の後に改ざんされたと主張し,判決はこれを争点1(本件カルテの信用性)として最初に判断した。

2 判決が挙げた不自然な点

判決は,問題とされた部分について,次の点等を挙げた。
①ほぼすべての記載が日本語で,ごく例外的にしか略語を使わず,字体は小さく整然として罫線の行間に収まり,長文の記載もあるなど,同じ院長が記載した母親のカルテ(ドイツ語や略語を中心にごく簡単に記載)と記載ぶりが大きく異なっていること
②薬剤処方の記載があるのに,レセプト作成担当職員が押すべき「薬剤情報提供料」のスタンプや担当職員の個人印が押されていないことについて,合理的な説明がされていないこと
③母子手帳の1か月健康診査の欄では「健康」に○が付されているのに,問題の部分には,再検査の結果によって今後の方針を決定し,2~3週経過観察する旨の記載があり,同じ時点の記載として整合しないこと
④新生児が医師の診察を受けていない日に体重の正確な数値が記載されており,院長が廊下で母親に出会った際の会話を記載したものであるとの医院側の説明は,通常想定し難いこと

判決は,被告の反論(日本人医師が日本語でカルテを書くことや,略語を使わないことは改ざんの根拠にならない等)に対し,同一人の記載による時期が近接したカルテにつき,基本的な記載ぶりの多くが大きく異なることは不自然というほかないとした。

3 判断

判決は,「いわゆる意図的な改ざんがあったか否かについてはさておくにしても,本件改ざん部分の信用性は極めて乏しいものというべきであり,以下の判断に際して本件改ざん部分に重きを置くことはできない。」と述べた。
その上で,解剖所見等に照らせば,実際に聴診を行い,又は真剣に心雑音を聞こうとすれば大動脈弁狭窄症と診断できたはずであり,全身症状の悪化を把握して直ちに専門病院に転送すべきであったとして注意義務違反を認め,両親それぞれに2940万円の支払を命じた。

この判決で重要なのは,改ざんの有無を確定しないまま信用性を否定し,それが医療側の反論の前提を崩した点である。
診療所側の反論と,これを支える医師の意見書は,入院中に心雑音が聴取されなかったこと等を前提にしていたが,その前提となる記載の信用性が否定されたことで,反論の土台が失われた。
医療訴訟では医学的な意見の対立に目が向きやすいが,その前に,意見の前提となる記録が信用できるかが争点になることがある。

第4 改ざんを認定し,別個の不法行為とした例(東京地方裁判所令和3年4月30日判決)

1 事案

患者が大学病院の医療センターで白内障手術を受けた後,左眼が失明した。
患者は,手術の適応の前提となる説明義務違反,眼圧を管理する注意義務違反とともに,担当医によるカルテの改ざん及び虚偽の説明を主張した。
判決は,争点の最初に「カルテの改ざん及び虚偽説明の有無」を置いた。

2 改ざんと認めた記載と認めなかった記載

判決は,次の記載について,担当医が事実認識と異なる内容を意図的に追記し,又は修正したと認めた。
①右眼のチン小帯の脆弱性とこれを踏まえた説明についての記載
手術記録にはチン小帯の脆弱性に関する記載が全くないのに,カルテにはあり,しかもその記載は,他の記載をした後に右上方に挿入するような形で書かれていたり,検査用紙の上に書かれていたりした。
②左眼のチン小帯がもともと断裂していたとする記載とその旨の説明の記載
手術記録には,チン小帯が手術の術中に半周断裂したとの記載があるのに,カルテにはもともと断裂していた旨の記載があり,その記載は,押印の右上方に隣の日の記載欄にはみ出す形で書かれていたり,カルテの右側に枠囲いで挿入されていたりした。
③左眼の眼圧の数値
カルテには36mmHgとあったが,看護記録には56mmHgの記載が2か所あり,カルテの「3」の文字には上からなぞられた形跡があった。
判決は,患者の症状と担当医の説明が56mmHgと整合すること等に加え,「カルテの記載を訂正する場合,訂正前の記載が分かるように訂正すべきであるにもかかわらず」,担当医が訂正前の記載の上からなぞり,訂正前の記載が判明しないような方法で訂正したことを指摘した。

他方,左眼の前房出血及び硝子体出血の時期については,カルテに事実認識と異なる記載をしたとは認めなかった。
改ざんの主張は記載ごとに判断され,全部が認められるとは限らない。

3 別個の不法行為と慰謝料

判決は,説明義務違反による損害(後遺症慰謝料等)とは別に,カルテの改ざんによる損害を認めた。
判決は,「上記の各カルテの改ざんは,説明義務違反とは別個に不法行為を構成する」とした上で,その態様は主として説明事項に係る改ざんであり,「この改ざんの事実が発覚しなければ,A医師の責任(説明義務違反)が否定されることにつながり得る悪質なもの」であることや,改ざん箇所が多数に及ぶこと等を考慮して,慰謝料を100万円とし,弁護士費用10万円を加えた。

遅延損害金の起算日は,担当医が遅くとも患者と代理人に対する説明会の日までにカルテの改ざんの不法行為を行ったものとして,その説明会の日とされた。
病院側は使用者責任に基づいて,説明義務違反による損害と合わせて合計963万円余の支払を命じられている。

第5 改ざんが認められなかった例と患者側の記録(東京地方裁判所平成21年3月18日判決)

1 事案

在宅で往診を受けていた高齢の女性が,脳梗塞の後に誤嚥性肺炎を発症して死亡した。
遺族は,往診をしていた医師が脳梗塞の発症を見落とし,入院を勧めなかったと主張した。
これに対し医師は,脳梗塞の可能性を診断して入院を勧めたが,家族がこれを拒んだと主張し,カルテにもその旨の記載があった。
遺族は,そのカルテは,他の病院で脳梗塞と診断された後に改ざんされたものであると主張した。

2 改ざんを認めなかった理由

判決は,次の理由で改ざんを認めなかった。
①ある時期からカルテの記載が詳細になっていることについて,医師が患者又はその家族の対応に不信感を持った場合に,カルテの記載を詳細にすることは後日の紛争に備えた対応として十分考えられる。
②往診をしたとする日に往診料が計上されていない等の診療報酬との食い違いは,往診の診療報酬の請求の取扱いによって生じ得るものであり,改ざんの根拠にならない。
③判決は,診療内容を認定した理由の補足説明の中で,診療報酬明細書は毎月定期的に公的機関に提出されて控えが保管されるもので,提出済みの明細書の控えに医師が改ざんを加えることは,提出済みの明細書との間に齟齬が生じて容易に発覚するから,およそ考え難いとした。
その診療報酬明細書に脳梗塞の病名と診療開始日が記載されていたことが,カルテの記載を裏付けた。

3 遺族側のメモの評価

遺族は,医師から入院を勧められたことはないとする供述を支える証拠として,自分で作成したメモや日記を提出した。
判決は,そのうち2通はパソコンで作成され,2通は鉛筆書きで,「いずれも事後にその書き替えが可能なものであること」,鉛筆書きのものには「文字が掠れているなど,実際に書き替えが行われたのではないかと疑われる箇所が複数存在すること」等を挙げて,それらがその供述の信用性を支えるものとはいえないとした。
結論として,判決は遺族の請求を棄却した。

記録の信用性の吟味は,医療側のカルテだけでなく,患者側が提出する記録にも同じように向けられる。
改ざんの主張は,主張する側の記録の作り方も問われる主張である。

第6 裁判例から見える判断の手掛かり

3件の判決が手掛かりにした事情を,本記事では次のように整理する。

手掛かり具体例裁判例
同時期の他の記録との整合手術記録,看護記録,母子手帳,診療報酬明細書令和3年,平成24年,平成21年
記載の体裁他の記載の後の挿入,隣の欄へのはみ出し,枠囲い,検査用紙の上への記載令和3年
書きぶりの一貫性同じ医師の他のカルテと比べた言語,略語,字体,詳しさ平成24年
記載できた状況か診察していない日の正確な数値平成24年
訂正の方法訂正前の記載が読めなくなるなぞり書き令和3年
客観資料の改ざんの困難さ提出済みの診療報酬明細書の控え平成21年
記録の性質事後に書き替えが可能なパソコン文書や鉛筆書き平成21年

これらは,どれか一つがあれば改ざんが認められるというものではない。
平成21年判決が示すように,記載が詳しくなったことには紛争に備えたという別の説明があり得るし,令和3年判決も,主張された記載の一部については改ざんを認めなかった。
弁護士は,手掛かりを記載ごとに組み合わせて主張し,又は反論することになる。

第7 訴訟での扱いと予防

1 事実認定への影響

信用性が否定された記載は,事実認定の資料として重きを置かれなくなる。
その結果,医療側は,その記載を前提にした反論や意見書を使えなくなり,他の記録や供述で経過を立証しなければならなくなる(第3)。

2 損害賠償の対象

改ざんが認められると,本来の過失や説明義務違反とは別個の不法行為として慰謝料が認められることがある(第4)。
医療機関は,使用者責任(民法715条)により,担当医の改ざんについても責任を負い得る。

3 文書の使用を妨げた場合の規定

民事訴訟法224条2項は,当事者が相手方の使用を妨げる目的で提出の義務がある文書を滅失させ,その他これを使用することができないようにしたときも,同条1項と同様に,裁判所は当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができると定める。
カルテの廃棄や改ざんがこの規定に当たるかは事案によるものであり,本記事の3件の判決は,この規定ではなく,記載の信用性と別個の不法行為として判断している。
この規定を適用した医療訴訟の裁判例までは,本記事では調べていない。

4 患者側の準備

改ざんの疑いを主張するときは,カルテの記載だけを攻撃するのではなく,手術記録,看護記録,検査結果,画像,母子手帳,他院の記録,診療報酬明細書等,同時期に作られた別の記録を先に集めて突き合わせる。
記録の原本の状態(挿入,なぞり書き,電子カルテの更新履歴)を早期に確保するには,提訴前の証拠保全(民事訴訟法234条)が検討対象になる。
訴訟提起後の記録の取り寄せは,医療記録の文書送付嘱託―申立ての対象指定、カルテ・画像の回収確認、患者同意と提出拒否で扱っている。

また,平成21年判決が示すとおり,家族が作ったメモや日記は,作成の時期と方法が問われる。
送信記録の残るメールのように,作成した日時が客観的に記録される方法で残しておくと,後に信用性を争われにくい。

5 医療側の予防

訂正や追記が必要なときは,元の記載を消さず,訂正者,日時及び理由が分かる方法で行う。
令和3年判決は,訂正前の記載が判明しない方法での訂正を,改ざんを認める事情の一つにしている。
事故の後に,経過を整理するための文書が必要なら,カルテの記載を変えるのではなく,作成日を明記した別の文書として作る。
医療事故が起きたときの保険と初動は,医師賠償責任保険(日医医賠責)の仕組みと医療事故の初動で扱っている。

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第9 出典

1 裁判例

①東京地方裁判所令和3年4月30日判決(平成29年(ワ)第42453号,損害賠償請求事件(医療過誤))
②東京地方裁判所平成24年10月25日判決(平成20年(ワ)第37026号,判例秘書の判例番号 L06730681)
③東京地方裁判所平成21年3月18日判決(平成19年(ワ)第26540号,損害賠償請求事件)

2 法令

①医師法24条(e-Gov法令検索)
②医師法施行規則23条(e-Gov法令検索)
③民事訴訟法224条・234条(e-Gov法令検索)
④民法715条(e-Gov法令検索)