第1 自動運転タクシーの法務で最初に決めること
自動運転タクシーの事業では,車両の安全性,公道での特定自動運行及び旅客運送事業の手続を分けて確認する必要がある。
運転者がいなくなることから,運送事業者の許可や運行管理の責任までなくなるわけではない。
事業を始める会社は,乗客との運送契約を引き受ける者,特定自動運行の許可を受ける者,車両・システムを提供する者及び遠隔監視等を担う者を,実際の業務に沿って特定することが出発点となる。
本記事は,令和8年10月18日に確認した法令と,国土交通省の令和7年3月31日付け「特定自動運行旅客運送の管理の受委託について」及び同年4月30日の損害賠償責任に関する検討会報告書を中心に,事業者が許認可・契約・事故対応を組み立てる際の確認事項を整理するものである。
以下では,一般乗用旅客自動車運送事業として運営するタクシーを主な対象とし,バス,自家用有償旅客運送及び日本版ライドシェアの手続と混同しない。
利用時期・運行地域・料金は自動運転タクシーは日本でいつから乗れる?料金・運行地域・レベル4の仕組み,交通違反や事故についての詳しい責任論は自動運転車が交通違反・事故を起こしたら誰が責任を負うかを参照されたい。
第2 営業に必要な許可・認可をどう分けるか
1 旅客運送事業の許可と運賃・運送約款
道路運送法3条1号ハは,一般乗用旅客自動車運送事業を一般旅客自動車運送事業の一類型として定め,同法4条1項は一般旅客自動車運送事業の経営に国土交通大臣の許可を求めている。
自動運転車を使う場合も,誰がこの事業を経営するかを定め,事業計画・運行管理体制等を確認する必要がある。
既存のタクシー会社が参加する場合も,既存の許可があるという事実だけで,新しい車両・営業区域・業務体制に必要な手続が全て済んだと判断してはならない。
一般乗用旅客自動車運送事業の運賃・料金については同法9条の3,運送約款については11条を確認する。
同条には標準運送約款と同一の約款を定めた場合の認可のみなし規定もあるため,常に個別認可が必要と一律に説明するのは正確ではない。
運賃等にも法定の届出による場合があるので,採用する制度と地域の規律に沿って確認する必要がある。
2 特定自動運行の許可と車両の安全性
道路交通法75条の12は,特定自動運行を行う場所を管轄する都道府県公安委員会の許可を求めている。
申請では,使用する自動車,運行する場所,運行方法,主任者の配置や事故時の措置等を特定自動運行計画に記載する。
これは,道路運送法上の旅客運送事業の許可とは別の手続である。
道路運送車両法41条は,自動運行装置を含めた装置の保安基準を定める枠組みを置いている。
特定の車両が使用できる走行環境条件と,公安委員会に申請する経路・時間帯・運行方法を対応させ,安全性の確認と運行計画に食違いが生じないようにする必要がある。
「レベル4対応」という製品の説明だけで,個々の公道走行や営業の手続が完了するわけではない。
| 確認する事項 | 主な根拠 | 準備する内容 |
|---|---|---|
| 誰が旅客運送事業を経営するか | 道路運送法3条・4条 | 事業主体,事業計画,運送契約の相手方 |
| どの条件で無人運行するか | 道路交通法75条の12以下 | 車両,経路,主任者配置,事故時の措置 |
| 車両・装置が条件に適合するか | 道路運送車両法41条等 | 適用される安全基準,装置の使用条件,整備・更新の管理 |
| 管理を他社へ委託するか | 道路運送法35条・令和7年通達 | 委託範囲,受託者,契約書,運用マニュアル |
表は確認の入口であり,個別案件に必要な申請書類を網羅するものではない。
運送形態や営業区域,車両,委託範囲が決まった段階で,所管行政庁の案内と照合することが必要である。
第3 遠隔監視に関わる役割を混同しない
1 主任者・保安員・運行管理者
特定自動運行主任者は道路交通法上の役割であり,特定自動運行保安員及び運行管理者という旅客運送の安全確保に関する役割とは区別する必要がある。
同じ人が複数の業務を担う計画であっても,資格,配置,具体的業務及び緊急時の対応について,それぞれの要件を確認する。
道路交通法75条の20は,遠隔監視のための車外の場所に主任者を配置する方式と,車内に主任者を乗車させる方式を定めている。
したがって,運転者のいない特定自動運行であることと,車内に乗務員が全くいないことは同じではない。
遠隔監視方式の主任者は,装置の作動状態を監視し,正常に作動していないと認めたときは,直ちに特定自動運行を終了させる措置を講じなければならない(同法75条の21第1項)。
事故時の消防機関への通報,現場措置業務実施者の手配及び警察官への報告は,同法75条の23に沿って確認する。
人の死傷がないことが明らかな場合の扱いや車内乗車方式の措置は異なるため,全ての事故に一つの手順を当てはめない。
2 通信途絶・同時異常を想定した体制
法務担当者が確認すべきなのは,監視画面があるかだけではなく,異常を認識した後に誰が終了措置を行い,誰が現場へ向かい,誰が乗客や警察等へ連絡するかである。
通信途絶,複数台の同時停止,乗客の急病及び停車後の避難等について,指示権限と代替連絡経路を具体化しておくことが実務上有用である。
1人で監視できる台数を契約書に書くだけで,必要な配置・対応体制が充足するわけではない。
対象車両,運行条件,申請内容と実際の業務量を基に体制を確かめ,応援要員や現場到着までの対応も運用マニュアルに落とし込むべきである。
第4 運行管理を外部へ委託するときの確認
1 委託契約だけで完了しない
道路運送法35条1項は,一般旅客自動車運送事業の管理の委託及び受託について許可を求めている。
特定自動運行旅客運送については,令和7年3月31日通達が,特定自動運行保安員及び運行管理者の業務を対象に,具体的な判断・対応を計画,契約書,運用マニュアル等で事前に取り決めたものに限って受委託できると定めている(PDF2頁「2.受委託の範囲」)。
受託者の範囲にも条件があり,特定自動運行計画に記載した者以外への再委託を自由に認める仕組みではない(同3頁7(5),5頁別紙1の2)。
契約上の再委託条項と,許可・計画上認められる受託者の範囲を別々に確認し,両者が矛盾しないようにする必要がある。
2 旅客への責任と会社間の求償
同通達は,受委託事業を委託者の名義で実施し,旅客に対する契約上の責任を委託者が負担するとしている。
また,委託者・受託者の双方が被害者等に不法行為による損害賠償責任を負う場合には,受託者が委託者と連帯して責任を負う旨を管理の受委託契約で規定することとし,委託者から受託者への求償を妨げないとしている(PDF2頁「4」)。
これは,全ての受託者がどの事故でも当然に同じ責任を負うという意味ではない。
誰が被害者に対して法的責任を負うかを確認した上で,会社間では調査費用,補償費用及び求償の扱いを定める必要がある。
第5 事故責任と保険はどの順序で検討するか
1 人身事故の被害者に対する責任
自賠法3条は,自己のために自動車を運行の用に供する者が,その運行によって他人の生命又は身体を害した場合の賠償責任を定めている。
国土交通省の令和7年4月30日報告書は,自動運転タクシー等についても,旅客運送の運送主体を運行供用者として責任追及する整理を示している(PDF10頁・本文8頁)。
管理を委託する事業形態について,同報告書は,通常の事前の取決めに沿って業務を担う受託者には,原則として運行供用者としての運行支配が帰属しないと整理している。
一方,指示に従わず私用のため無断で車両を使用するような場合等には別の評価があり得る(PDF9頁・本文7頁)。
配車アプリの運営者についても,単に車両を手配するだけの場合と,実際に運行を支配する場合を同じに扱うべきではない。
2 物損・製造物責任・保険契約
自賠法3条の対象は生命・身体の被害であり,車両や物だけの損害は,契約や民法上の不法行為等の要件に沿って検討する。
車両・装置の欠陥を理由とするメーカー等への請求についても,運行供用者に対する請求と区別して,製造物責任法等の要件と証拠を確認する必要がある。
責任を負う者が判明しても,特定の保険契約から当然に全損害が支払われるとは限らない。
被保険者,対象業務,管理委託先の位置付け,物損の補償,免責事由,支払限度額及び求償の扱いを,約款・特約と事業形態に照らして確認することが必要である。
第6 車内映像・録音・位置情報をどう扱うか
車内カメラの映像でも,特定の個人を識別できる画像は個人情報に該当する。
個人情報保護委員会のカメラ画像に関するQ&Aは,利用目的をできる限り特定し,その範囲で利用することを求めている。
位置情報や音声も,予約情報等と結び付いて個人を識別できるかを含め,実際に取り扱うデータごとに検討する必要がある。
安全監視,事故調査,苦情対応及びAI学習への利用は,同じ目的として一括せず,何を誰のために取得・保存・利用するのかを具体化すべきである。
予約者だけでなく同乗者も撮影され得るため,アプリの案内と車内表示,問い合わせ先及びアクセス権限を組み合わせて設計することが実務上有用である。
全ての撮影・録音に一律に同意が必要又は不要と断定せず,取得方法,利用目的及び第三者提供等の場面に応じて確認する。
外部への委託では委託先の監督を,外国にある第三者への個人データ提供では個人情報保護法28条等を検討する。
外国のクラウドを使う場合も,サービス提供者が個人データを取り扱うか否か等で評価が異なり,サーバが外国にあることだけで結論は決まらない(個人情報保護委員会Q&A7-53,12-3)。
保存期間は,データの種類,目的,法定義務及び具体的な紛争の有無を踏まえて決める。
旅客自動車運送事業運輸規則26条の2の事故記録の3年間保存を,あらゆる映像・音声・ログの一律3年保存義務に読み替えてはならない。
事故に関わる必要なデータの保全と,通常時の不要な個人データの消去を両立させる運用が必要となる。
第7 契約書と運用マニュアルで対応させる事項
以下の表は,事業者間の契約を確認するための実務上の提案である。
全ての条項が一律の法定記載事項であるという意味ではなく,通達上必要な事項と,事業の具体的リスクに応じて補う事項を分けて検討する。
| 場面 | 契約で確認すること | 運用で確かめること |
|---|---|---|
| 通常運行 | 業務範囲,指示権限,日々の報告,委託料 | 計画・契約・マニュアルの役割分担が一致しているか |
| 異常・通信途絶 | 終了措置,代替連絡,現場対応,旅客対応 | 複数台の同時異常にも対応できるか |
| 事故 | 通報・報告の担当,調査協力,費用負担,保険,求償 | 救護等を優先し,各社の記録を同じ時系列で確認できるか |
| ソフトウェア等の変更 | 更新通知,事前確認,許可・計画との整合,障害時の対応 | 更新後に走行条件や現場の説明と食違いが生じないか |
| データ利用・契約終了 | 利用目的,アクセス権,保存・返還・消去,再委託 | 事故保全対象と通常消去対象を区別できるか |
令和7年通達の別紙1は,事故・故障時の委託者への連絡,緊急連絡系統の冗長性,被害者等への対応及び保険加入について具体的に定めている(PDF6~7頁)。
契約の責任分担条項だけを読み,現場に連絡先や対応要員がない状態を見落とさないことが重要である。
事故報告書の提出と記録については,自動車事故報告書の提出期限・速報・事故記録を参照されたい。
第8 よくある質問
1 特定自動運行の許可があればタクシー営業もできるか
特定自動運行の許可と,旅客運送事業を経営するための許可は別である。
一般乗用旅客自動車運送事業として営業する場合は,道路運送法上の手続,運賃・運送約款及び運行管理体制も確認しなければならない。
2 遠隔監視を外注すればタクシー会社の責任はなくなるか
管理を委託しても,旅客に対する契約上の責任や,運送主体としての運行供用者責任が当然になくなるわけではない。
委託できる業務,必要な許可,受託者の範囲及び委託後の連絡・監督を確認する必要がある。
3 自動運転タクシーの事故ではメーカーだけが責任を負うか
メーカーだけが責任を負うという整理ではない。
人身事故では自賠法3条の運行供用者責任を基本に,メーカー等の責任,会社間の求償及び保険の適用を区別して検討する。
第9 関連記事と出典
タクシー事業一般の許可・運賃・運行管理は,タクシー事業の法規制・労務・事故対応の全体像を参照されたい。
1 道路運送法3条・4条・9条の3・11条・23条・35条
https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0000000183
2 道路交通法2条・75条の12~75条の23
https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000105
3 道路運送車両法41条
https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0000000185
4 国土交通省物流・自動車局長「特定自動運行旅客運送の管理の受委託について」(令和7年3月31日,国自安第207号・国自旅第352号・国自整第271号)
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001890421.pdf
5 国土交通省物流・自動車局「ロボットタクシー導入等に向けた自動運転における自賠法上の損害賠償責任に関する検討会報告書」(令和7年4月30日)
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001888339.pdf
6 自動車損害賠償保障法3条
https://laws.e-gov.go.jp/law/330AC0000000097
7 個人情報保護法17条・18条・21条~23条・25条・27条・28条
https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057
8 個人情報保護委員会「従来型防犯カメラ」に関するQ&A1-13及びガイドラインに関するQ&A7-53,12-3
https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq1-q1-13_/
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/faq/APPI_QA/
9 旅客自動車運送事業運輸規則26条の2・48条の2・48条の3
https://laws.e-gov.go.jp/law/331M50000800044
10 警察庁「自動運転」
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/selfdriving/index.html
PDF頁は,ファイルの先頭を1頁として数えている。
法令は令和8年10月18日を基準日とするe-Gov法令APIの施行済み版で確認した。