第1 この記事の対象と医事関係訴訟の概況
1 この記事の対象
この記事は,医療の結果に疑問を持った患者側と,事故対応又は訴訟対応を行う医療側の双方を念頭に,医療過誤事件の調査,過失及び因果関係の立証,説明義務,転送義務,消滅時効並びに主要裁判例を整理するものである。
個別事件の結論は,診療時点の医学的知見,医療機関の役割,患者の病態,時間的制約及び当時入手できた情報によって変わるため,悪い結果だけから過失を推定することはできない。
本記事の最高裁判例一覧は,大島眞一「医療訴訟の現状と将来―最高裁判例の到達点―」判例タイムズ1401号20頁~86頁の医事関係最高裁判例を出発点とし,裁判所ウェブサイトで本文及び書誌を確認した57件と,同サイト未掲載のため判例秘書で判決本文を確認した民事3件を合わせ,民事58件と刑事2件の合計60件を収録した。
裁判所ウェブサイトは全判決を収録していないため,全国の下級審判例を網羅した一覧ではなく,本文で扱う下級審判例は,同サイトで全文を確認でき,実務上の論点が明確なものに限っている。
2 集中部と事件数
東京地方裁判所と大阪地方裁判所は,いずれも平成13年4月に医事関係訴訟を集中的に担当する部を発足させた。
大阪地方裁判所では当初2部が担当し,平成19年4月に第3の担当部が加わったのであり,東京が大阪より先に発足したわけではない。
東京地裁医療集中部の担当部,発足経緯,審理運営及び鑑定制度については,東京地裁医療集中部とは-担当部,発足経緯,審理運営及び鑑定制度(AI作成)を参照されたい。
最高裁判所医事関係訴訟委員会が令和8年5月27日の第37回委員会の資料として公表した統計によれば,令和7年の全国の医事関係訴訟の新受件数は676件,既済件数は674件,平均審理期間は24.1月(地裁民事第一審通常訴訟事件は8.9月)であり,いずれも速報値である。
令和7年に終局した事件のうち和解は51.3%,判決は35.8%であり,判決総数に対する認容(一部認容を含む。)の割合は23.9%であった(平成28年から令和7年までは17.0%~23.9%の範囲で推移している。)。
令和6年の新受件数は,令和7年6月30日公表の統計では661件(速報値)とされていたが,令和8年公表の統計では664件に改められている。
同統計の診療科別件数は医療事故の起こりやすさを示すものではなく,認容率も判決で終局した事件を母集団とするため,相談事件全体の勝訴可能性と読み替えてはならない。
年ごとの数値と診療科目別の推移は,医療訴訟の統計(令和7年)にまとめている。
令和6年に終局した事件については,最高裁判所事務総局「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)」(令和7年7月)が,既済事件676件の平均審理期間を24.9月,審理期間が2年を超える事件の割合を42.9%としている(同報告書63頁~64頁)。
同報告書によれば,鑑定を実施した事件の割合は4.4%で,鑑定を実施した事件の平均審理期間は54.8月であり,和解で終局した事件の割合は51.5%であった(同報告書64頁~69頁)。
同報告書は事件票で「医療損害賠償」に区分された訴訟を集計しており(同報告書63頁注1),委員会統計の令和6年の平均審理期間(24.7月)とは集計の範囲と時点が異なる。
第2 相談から提訴までの調査
1 患者側の資料収集
(1) 診療録等を早期に確保する
最初に収集すべき資料は,診療録,看護記録,検査結果,画像及び読影報告,処方・投薬記録,手術・麻酔記録,救急搬送記録,説明同意文書並びに退院時要約である。
電子カルテでは,画面表示と交付された印刷物の範囲が一致しないことがあるため,更新履歴,監査ログ,波形,画像の原データその他の電磁的記録が争点に関係するかを確認する。
まず任意開示を求めるのが通常であるが,改変又は廃棄の具体的なおそれ,保存期間,緊急性及び費用を踏まえ,民事訴訟法234条以下の証拠保全を申し立てるかを判断する。
証拠保全は,責任を認めさせる手続ではなく,後日の証拠調べが困難になる事情を疎明して資料を確保する手続である。
医療機関の閉院・破産,電子カルテ事業者との契約終了又はリース機器の返却が予定されている場合は,通常の保存期間だけでなく,データを読み出せなくなる具体的な日を確認する。紙への印刷だけで足りると即断せず,原データ,画像・波形,添付ファイル,更新履歴,監査ログ,患者索引,閲覧ソフト,ライセンス,暗号鍵及び復元手順の保全を検討する。閉院側の体制と患者側の確認事項は,医療機関が破産・閉院した場合のカルテ等の保存・開示・廃棄で整理している。
(2) 医療機関外の資料も時系列化する
他院の診療録,薬局の調剤情報,救急隊の活動記録,介護記録,学校又は勤務先の記録,患者又は家族のメッセージ,写真及び動画も,症状の発現時期,説明内容又は損害を裏付けることがある。
記憶に基づくメモは作成日時と情報源を明記し,後から得た知識を診療当時の認識として混入させない。
診療経過表は,日時,主訴及び所見,検査,診断,治療,説明,患者側の応答並びに転帰を同一の時間軸に置く。
各記載には資料名と頁を付し,客観的記録,患者側の供述,医療側の供述及び医学的評価を区別する。
(3) 診療録は情報源・評価・計画・実施を分けて読む
診療録を読む際は,患者・家族の申告,医療者の観察又は検査結果,医療者の評価及び今後の計画を区別する。SOAPはこの区別に有用であるが,SOAP形式自体が法的な証拠評価基準ではなく,採用されていないことだけで記録が不適切になるものでもない。
時系列では,症状又は診療行為が生じた時刻,医療者が認識した時刻,記録を入力・確定した時刻及び追記・訂正時刻を分ける。急変後に判明した病態又は退院時要約の確定的な表現を,診療時点で既に認識されていた情報として扱わない。
検査又は処置は,計画,指示,実施,患者の反応及び再評価をつなげて確認する。計画又は指示の記載だけで実施済みとせず,医師記録,看護記録,投薬・検査システム,画像,機器データ及び他院記録を照合する。
追記・訂正又は不記載がある場合も,直ちに改ざん又は不実施と決めず,通常の記録運用,作成者,作成時刻,変更前後の記載,周辺資料及び説明の合理性を検討する。具体的な読解表と下級審裁判例は,弁護士のためのカルテの読み方で整理している。
2 医療側の初動
医療側は,事故を認識した時点で診療録,画像,機器データ,監査ログ,インシデント報告及び関係者の勤務情報を保全し,通常業務による上書きの可能性を確認する。
診療録に追記又は訂正をする場合は,元の記載を消さず,追記日時,追記者及び理由が分かる方法によるべきである。
患者又は家族への説明,院内調査,医療事故調査制度,医療安全上の改善及び民事責任の評価は,目的と根拠が異なる。
謝罪,事実説明及び法的責任の認否を混同せず,判明した事実と未確認事項を分けて説明する必要がある。
訴訟で過失を基礎づける事実を認める陳述をすると,その事実は証明を要しないものとして扱われる(民事訴訟法179条)。
事故の後にカルテを改ざんしたと認められると,本来の注意義務違反等とは別個の不法行為として慰謝料が認められることがある(東京地裁令和3年4月30日判決・平成29年(ワ)第42453号)。
日本医師会医師賠償責任保険の範囲と報告前の初動は医師賠償責任保険(日医医賠責)の仕組みと医療事故の初動で,改ざんが争われた裁判例はカルテ改ざんの法的効果で扱っている。
3 争点は5段階で整理する
医療過誤事件は,①診療経過,②結果発生の医学的機序,③誰がいつ何をすべきであったかという注意義務違反,④その行為をしていれば結果を回避できたかという因果関係,⑤損害の5段階で整理すると見通しが立てやすい。
「もっと注意すべきであった」又は「適切な治療をすべきであった」という抽象的主張では,争点を特定したことにならない。
不作為を問題にするときは,実施すべき検査又は治療,その実施可能時刻,予想された検査結果,それに基づく治療選択及び結果回避の見込みを順に仮定する。
複数の過失を主張するときは,各過失から結果に至る因果の流れを個別に示し,単に過失を列挙しない。
第3 医療水準と過失判断
1 結果保証ではなく診療時の医療水準が基準となる
診療契約は,通常,一定の治癒結果を保証する契約ではない。
医療従事者が負うのは,診療当時の臨床医学の実践における医療水準に適合した診療を行う義務である。
最高裁平成4年6月8日判決・昭和62年(オ)第362号は,診療当時,未熟児網膜症に対する光凝固法等の有効性が一般臨床眼科医の医療水準として確立・普及していなかった事案である。最高裁は,注意義務の基準は一般に診療当時の臨床医学の実践における医療水準であり,患者との特別の合意がない限り,医療水準を超えた医療行為を前提とする注意義務までは負わないとした。
担当医が専門雑誌から未熟児網膜症について一応の知識を持ち,数例の臨床経験があり,患者側が同症を心配して受診したことを知っていたという事情も認定されていた。それでも,治療法の有効性が医療水準として確立・普及しておらず,他に有効な治療法もなかったという事実関係の下では,光凝固法等の受療機会を与えることを前提とした法的責任を否定した。医師が抽象的な知識を持っていたことだけから,当時の医療水準を超える義務を直ちに導くべきではない。
最高裁平成7年6月9日判決・平成4年(オ)第200号は,未熟児網膜症に対する新規治療法の普及過程を踏まえ,医療水準を判断する際に,当該医療機関の性格,所在地域の医療環境,医師の専門分野及び類似施設への知見の普及程度等を考慮する枠組みを示した。知見と,実施に必要な技術・設備とは同じ速度で普及するとは限らない。
大学病院,専門病院,地域の中核病院及び一般診療所に常に同一の設備又は治療能力を要求するものではないが,類似施設に知見が相当程度普及し,当該施設にも知見の獲得を期待するのが相当な場合には,その知見が医療水準となり得る。自院に技術・設備がない場合は,実施可能な医療機関への転医等が問題となる。裁判所公式判決全文を確認した。
過失は,後に判明した結果から診療時の判断を逆算せず,当時認識できた症状,検査値,時間及び選択肢から前方視的に判断する。
これに対し,病態の機序及び因果関係は,診療後に得られた病理結果,画像及び医学的知見も含む全証拠から検討できる。
2 医療慣行,ガイドライン及び電子添文
最高裁平成8年1月23日判決・平成4年(オ)第251号は,現に広く行われていた医療慣行に従ったことだけでは注意義務を尽くしたことにならない場合があるとし,医薬品の添付文書上の注意事項に従わなかったときは,合理的理由がない限り過失が推定されるとした。判決本文は裁判所ウェブサイト及び判例秘書(L05110000)で確認した。
現在はPMDAの「電子化された添付文書(電子添文)」と,緊急安全性情報,安全性速報及び改訂情報を診療時点に即して確認する必要がある。
実務では,①診療時点の電子添文の版,②改訂情報・緊急安全性情報・安全性速報,③投与指示,④実施・検査・監視記録,⑤電子添文から外れた合理的理由,⑥事故・因果関係・損害を順に固定する。電子添文から外れたという一事で責任が自動的に確定するわけではなく,逸脱の合理的理由及び因果関係を別に審理する必要がある。
診療ガイドラインは重要な証拠であるが,法令又は個別患者に対する自動的な正解ではない。
作成主体,対象患者,推奨の強さ,根拠の確実性,版及び診療時点を確認し,患者の併存疾患,禁忌,緊急性及び医療資源に照らして,当てはまる理由又は外れる理由を示す。
ガイドラインと異なる診療が行われた場合の過失について,東京地裁平成23年12月9日判決・平成21年(ワ)第37543号は,医療ガイドラインは担当医の医療行為の決定を支援するための指針にすぎないとしながら,作成経緯と実施状況に鑑み,予防ガイドライン等に従った医療行為が実施されなかった場合には,特段の合理的理由があると認められない限り医師としての合理的裁量の範囲を逸脱するとした。
同判決は,子宮脱の手術の後に肺血栓塞栓症を発症した事案で,弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法による予防措置を講じなかった注意義務違反を認め,後遺障害が残らなかった相当程度の可能性の侵害として800万円の支払を命じた。
この事案と判断の内容は,東京地裁が医療機関及び弁護士会と開いた「第9回 医療界と法曹界の相互理解のためのシンポジウム」(平成28年10月3日。判例タイムズ1439号10頁~61頁)で,ガイドラインと異なる医療行為の過失を考える事例1として取り上げられたモデル事件と一致する。
同シンポジウムで裁判所側は,診療ガイドラインは策定当時の医療水準を認定するための資料の一つであり,その記載のみによって医療水準を認定することはなく,作成経緯,記載の趣旨,推奨度及び患者の病態を総合して判断すると説明している。
仙台地裁平成21年1月27日判決・平成19年(ワ)第250号は,発行から4か月後の急性胆道炎の診療ガイドラインの内容を,総合病院で消化器を担当する医師等にとっての医療水準であったとしつつ,合理的理由がある場合には異なる治療等が行われても医療水準に従った治療等がなされなかったことにはならないとした。
仙台地裁平成22年6月30日判決・平成20年(ワ)第1743号は,診療ガイドラインはあらゆる症例に適応する絶対的なものとまではいえないとしながら,肝硬変と診断された患者に6か月間隔で腫瘍マーカー及び超音波検査を実施すべき義務があったとした。
シンポジウムの事例2は,14cm×7cmの巨大な肝細胞がんについて,直ちに肝切除を行わず,シスプラチンによる肝動注化学療法(TAI)を選んだことの当否が争われた事案である。
紹介された裁判所の判断は,このような巨大な肝細胞がんにガイドラインの治療アルゴリズムを形式的に当てはめることは適切でないとして,治療法の選択は不適切とまではいえないとしつつ,肝切除という選択肢を説明せず,かえって肝切除は困難であると説明した点に説明義務違反を認め,生存の相当程度の可能性の侵害は否定して,自己決定権の侵害の限度で慰謝料を認めたというものである。
モデルとなった判決は論稿中に示されておらず,判例秘書及び裁判所ウェブサイトの検索でも特定できなかった(令和8年9月20日時点)。
医学文献についても,研究デザイン,対象集団,アウトカム,診療当時の利用可能性及び当該患者との異同を確認する。
検索結果の要約,匿名サイト又は出典不明の文章だけで医療水準を立証することはできない。
3 協力医,意見書及び鑑定
協力医には,結論だけでなく,どの診療録記載とどの医学的根拠から,どの推論過程で結論に至るかを尋ねる。
専門分野,臨床経験,確認資料,利益相反,反対説への応答及び診療当時の知見を明らかにした意見の方が検証可能性が高い。
意見書又は鑑定が対立した場合,人数又は肩書だけで決めるのではなく,前提事実の正確性,医学文献との整合性,推論の飛躍及び反対仮説の検討を比較する。
最高裁平成18年1月27日判決・平成15年(受)第1739号及び最高裁平成18年11月14日判決・平成16年(受)第2226号は,医学的意見の具体的内容を吟味せずに採否を決めることの危険を示す。
医療訴訟を含む民事訴訟の鑑定人に示す質問事項の設計については,民事訴訟の鑑定事項書の作り方を参照されたい。
地元の医療機関で鑑定人が見つからない場合には,裁判所が最高裁判所の医事関係訴訟委員会を通じて学会に鑑定人候補者の推薦を依頼する方法がある。
推薦依頼書には避けてほしい候補者の範囲を書く欄があるが,範囲を広げすぎると推薦が難しくなるため,被告病院や当事者の医師の出身医局など具体的な利害関係に絞って裁判所に伝える必要がある。
鑑定を入れると審理が1年程度延びうること,鑑定人が複数になると鑑定費用が増えること,鑑定書が出た後は法廷での鑑定人質問よりも書面の補充鑑定(民事訴訟法215条3項)が中心であることも,依頼者に説明しておくべきである。
推薦の流れ,所要期間及び鑑定事項の注意点は,医療訴訟の鑑定人はどう選ばれるかで整理している。
第4 説明義務,療養指導及び転送義務
1 説明義務の目的を区別する
説明義務には,患者が治療方法を選択するための自己決定支援,退院後の危険を避けるための療養指導,診療経過又は結果の報告等があり,目的によって相手方,時期及び内容が異なる。
「説明が足りなかった」というだけでなく,誰に,いつ,どの危険又は選択肢を,どの程度具体的に説明すべきであったかを特定する。
最高裁平成13年11月27日判決・平成10年(オ)第576号は,乳房温存療法が当時未確立であっても,一定の施設で実施され,患者が強い関心を示し,適応可能性がある場合には,説明すべき選択肢となり得るとした。
もっとも,研究段階の全治療法を漏れなく列挙する義務を一般化したものではなく,選択肢の成熟度,実施可能性及び患者の関心が重要である。
最高裁平成17年9月8日第一小法廷判決・平成14年(受)第989号は,骨盤位の分娩方法について妊婦が帝王切開を強く希望していた事案で,患者の意向を踏まえた具体的説明の必要性を示した。
この判決が重視したのは,一般的に経腟分娩と帝王切開の長所・短所を説明したかだけではない。診療経過の中で変化した胎児の推定体重・胎位等の最新状態,担当医が経腟分娩を選択する理由,経腟分娩に伴う具体的な危険,緊急事態が生じたときに帝王切開へ移行するまでに時間を要し得ることなどを,妊婦が自ら分娩方法を選ぶために理解できる形で説明し,熟慮と意思決定の機会を与えたかが問題となった。
説明義務の主張立証では,①妊婦本人がいつ,どの分娩方法を希望したか,②その希望を医療側が認識した資料,③各診察時点の推定体重・胎位・検査結果,④医療側が選択した方法とその理由,⑤説明した具体的危険・代替手段・緊急移行の限界,⑥説明から同意までの時間,⑦同意書だけでなく診療録,助産記録,バースプラン,面談メモ,超音波記録,手術室・麻酔科の対応可能性を時系列で対応させる必要がある。
なお,同判決は原判決を破棄して差し戻したものであり,最高裁が最終的な損害賠償責任まで確定した判決ではない。最高裁が示した説明義務の規範と,差戻審で審理すべき具体的説明の有無,因果関係及び損害を分けて読む必要がある。平成17年度の他の破棄事件との横断的な位置付けは,平成17年度最高裁民事破棄判決等の実情(AI作成)で整理している。
最高裁平成20年4月24日判決・平成18年(受)第1632号(民集62巻5号1178頁)は,チーム医療の総責任者には,説明が十分に行われるよう配慮すべき義務がある一方,十分な知識・経験を有する主治医に説明を委ね,必要に応じて指導・監督することも許されるとした。主治医の説明が不十分であっても,主治医に十分な知識・経験があり,総責任者が必要に応じて指導・監督していた場合は,総責任者が直ちに不法行為責任を負うものではない。
もっとも,同判決は総責任者の一般的な免責を認めたものではなく,主治医の具体的説明内容,知識・経験及び総責任者の指導・監督内容を審理しないまま責任を認めた原判決を破棄し,審理を差し戻したものである。したがって,手術チームの役割分担,説明者・説明日時・内容,同意書及び診療録の記載,カンファレンス記録,説明担当者の経験,総責任者の指示・確認・監督を証拠化する必要がある。
最高裁平成12年2月29日判決・平成10年(オ)第1081号は,宗教上の理由で輸血を拒む患者について,輸血以外に救命手段がない事態になれば輸血するという病院の方針を説明しなかったことが,手術を受けるか否かの意思決定をする権利を奪うものであるとした。
輸血を拒む患者に対する説明の内容・時期と,同意書・免責証書の作り方は,病院が「相対的無輸血」の方針を採るときの説明と同意書―最高裁平成12年判決・大阪地裁平成17年判決から考える説明文書と免責証書で扱っている。
2 退院時の療養指導
最高裁平成7年5月30日判決・平成3年(オ)第2030号は,未熟児として出生し,退院時にも黄疸が残っていた新生児について,「何か変わったことがあれば医師の診察を受けるように」という一般的な注意だけでは不十分であったとした。
母親は黄疸を心配して血液型検査を依頼していたが,医師は血液型を誤って判定し,血液型不適合はなく未熟児だから心配ない旨を説明していた。この先行説明により両親が黄疸を楽観視したという具体的経過を踏まえ,医師は,黄疸が増強し得ること,哺乳力低下等が重篤な疾患につながる危険,そのような症状が出た場合に速やかに受診すべきことを具体的に説明・指導する義務を負うとした。
最高裁は,適切な説明・指導がなかったことが両親の認識・判断を誤らせ,受診を遅らせて交換輸血の時機を失わせたと評価した。自己決定のための説明と,結果回避のための療養指導では,因果関係及び損害の構成も異なるため,何を説明すべきで,説明があれば誰がいつどの医療機関を受診したかを具体化する必要がある。
ただし,同判決は退院患者にあらゆる稀な疾患を詳細に説明すべきだとするものではない。患者側が懸念していた具体的危険,医師の安心させる説明,退院後に観察を患者側へ委ねる事情,重篤化までの時間及び受診遅延との因果関係を一体として評価した判決である。
名古屋高裁令和6年4月18日判決・令和5年(ネ)第426号は,気管切開を受けた乳児の在宅療養移行に際し,退院前のカニューレ事故歴と両親の経験を踏まえ,事故予防,緊急時対応,心肺蘇生及び気道確保について具体的に指導すべき義務を認めた。
同判決は原判決を変更して損害賠償を認めたものであり,説明又は指導の内容を患者側の理解能力,家庭環境及び既発生事故に即して具体化した近時の例である。
3 転送義務と救急医療
自院で必要な検査又は治療を実施できず,より高次の医療機関であれば結果回避の現実的可能性がある場合,転送又は紹介の義務が問題となる。
判断要素は,病態の緊急性,自院の設備及び人員,搬送時間,受入可能性,搬送自体の危険並びに当時得られた情報である。
最高裁平成15年11月11日判決・平成14年(受)第1257号は,開業医の転送義務違反と,重大な後遺障害を避けられた相当程度の可能性を認めた。
救急医療では時間と情報が限られるが,そのことが当然に注意義務を免除するわけではなく,緊急度に応じた観察,初期対応,応援要請及び転送判断が検討される。
厚生労働省医政局長令和元年12月25日通知は,医師法19条1項の応招義務を,医師個人が国に対して負う公法上の義務と整理している。
診療を断ったことから患者に対する民事責任が直ちに生じるわけではなく,医療機関と患者との私法上の責任は,緊急性,代替医療機関,診療可能性及び説明等の個別事情から別途判断する。
4 終末期の予後説明とACP
終末期の説明では、診断名又は余命の数値だけでなく、予測の幅と不確実性、今後起こり得る状態変化、治療・緩和の選択肢、急変時の連絡方法及び本人が大切にすることを、状態に応じて繰り返し確認する必要がある。
最高裁平成14年9月24日第三小法廷判決(集民207号175頁)は、医師が末期がんの患者本人には告知すべきでないと判断した事案について、容易に連絡でき告知に適した家族がいたなどの事情の下では、家族等へ接触して告知の適否を検討し、適切な家族へ病状等を説明すべき診療契約上の付随義務を認めた。
ただし、この判決は、現在において本人への説明を家族への説明で常に代替できるとしたものではない。厚生労働省の決定プロセスガイドラインは、本人の意思決定を基本とし、本人・家族等と医療・ケアチームが繰り返し話し合い、その内容を都度文書化・共有することを重視している。
終末期説明を請求構造に落とすときは、①説明があれば死亡を回避できた高度の蓋然性、②適切な治療又は延命を得た相当程度の可能性、③結果が変わったとまではいえなくても、説明を受けて選択・準備・熟慮する利益を区別する。死亡との因果関係が否定されたことから、直ちにすべての慰謝料請求が否定されるわけではないが、第三の利益についても、説明があれば現実にどの治療・療養又は家族との過ごし方を選べたかを具体化する必要がある。
また、家族への説明義務が認められる場合でも、保護される利益が患者本人に帰属し、家族は患者本人の慰謝料請求権を相続するという構造になることがある。家族自身の固有慰謝料が当然に認められるわけではない。
一般的な予後説明とACPの実務は「がん終末期の急変と予後説明・ACP―家族説明、記録、医療紛争で確認する事項(AI作成)」を、死亡との因果関係が認められない場合の下級審裁判例、療養機会喪失及び自己決定権の整理は「終末期の予後説明義務違反と慰謝料―死亡との因果関係、療養機会喪失及び自己決定権の下級審裁判例(AI作成)」を参照されたい。
第5 因果関係,相当程度の可能性及び期待権
1 因果関係の高度の蓋然性
最高裁昭和50年10月24日判決・昭和48年(オ)第517号は,訴訟上の因果関係の立証は自然科学的証明ではなく,全証拠を総合し,特定の事実が特定の結果を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであるとした。
その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度の真実性の確信を持ち得ることを必要とし,単なる可能性又は統計上の関連だけでは足りない。
不作為型では,適切な診療をした仮想経過と現実の経過を比較する。
基礎疾患の自然経過,他の原因,治療開始可能時刻,治療効果及び救命後の予後を検討し,過失がなければ死亡又は後遺障害を高度の蓋然性をもって回避できたかを判断する。
(1) 最高裁平成9年2月25日判決―原因薬剤の特定と経験則違反
最高裁平成9年2月25日第三小法廷判決(平成7年(オ)第1205号,民集51巻2号502頁)は,顆粒球減少症の副作用を有する複数の薬剤を投与された患者について,鑑定だけからネオマイゾンを唯一単独の起因剤とし,発症日を4月13日から14日朝と限定した原審認定を経験則違反とした。
同判決は,民事上の因果関係の立証を自然科学的に一薬剤まで確定することと同一視していない。複数投薬と発症との関係について全証拠から高度の蓋然性を示す必要がある一方,病因論が未完成で個々の症例の起因剤決定が困難であるという医学的知見を無視し,一つの薬剤だけを原因と限定することはできない。
また,発症を確認できる検査所見・症候が記録にないことについて,必要な問診・診察がされなかった結果である可能性を指摘した。記録の不存在を症状の不存在と直ちに同一視せず,未問診,未検査又は記録不備のどれが情報欠落を生じさせたかを確認する必要がある。
さらに,多種の薬剤を長期間継続的に投与された患者に薬疹の可能性のある発疹を認めた開業医には,自院又は他の診療機関で必要な検査・治療を速やかに受けられるよう相応の配慮をすべき義務があるとした。詳しい主張立証の組立ては、薬剤性疾患の原因薬剤を一つに特定できない場合の医療過誤訴訟―最高裁平成9年2月25日判決と因果関係・経験則違反(AI作成)で,年度全体の位置付けは平成9年度最高裁民事破棄判決の実情で整理している。
(2) 最高裁平成3年4月19日判決―予防接種後障害と禁忌者該当性の推定
最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決(昭和61年(オ)第1493号,民集45巻4号367頁)は,痘そう予防接種によって重篤な後遺障害が生じたと認められる場合,必要な予診を尽くしても禁忌事由を発見できなかったこと,被接種者の個人的素因その他の特段の事情がない限り,接種当時の禁忌者であったことを推定する趣旨の判断を示し,原判決を破棄して差し戻した。
この判決を医療事件で用いるときは,①接種と障害との医学的因果関係,②接種時の禁忌者該当性,③問診・診察等の予診が尽くされたか,④適切な予診をすれば接種を回避できたかを分ける。旧制度下の痘そう接種事件であり,現在の各ワクチンについて因果関係又は過失を一律に推定するものではない。現行法及び証拠収集を含む詳細は,予防接種後障害と禁忌者該当性の推定を参照されたい。
2 相当程度の可能性
最高裁平成12年9月22日判決・平成9年(オ)第42号は,医療水準に適合する診療を受けていれば死亡時点でなお生存していた相当程度の可能性が証明された場合,患者の法益侵害を認めた。
最高裁平成15年11月11日判決は重大な後遺障害を回避できた相当程度の可能性に,最高裁平成16年1月15日判決・平成14年(受)第1937号は診療契約上の債務不履行に,それぞれ法理を展開した。
相当程度の可能性は,死亡又は後遺障害そのものについて因果関係が証明できないときに,損害全体を確率で按分する制度ではない。
適切な診療を受けることによって結果を回避できた可能性それ自体を別個の保護利益として扱うため,慰謝料等の評価では,可能性の程度,過失の内容及び結果の重大性を考慮する。
3 期待権侵害の射程
最高裁平成23年2月25日判決・平成21年(受)第65号は,適切な医療を受ける期待権の侵害のみを理由とする不法行為責任について,医療行為が著しく不適切なものである事案で検討の余地があり得ると述べたが,当該事案ではそのような医療ではないとして請求を退けた。
したがって,同判決を,一般的な「期待権侵害」の成立を肯定した判例として扱うことはできない。
最高裁平成28年7月19日判決・平成26年(オ)第1476号(判例秘書L07110050)も,術後に適時の頭部CT検査が実施されなかったといえるとしても,ICUで看護師と連携して経過観察等を行った医師の医療行為が著しく不適切であったとはいえず,適切な医療を受ける利益の侵害のみを理由とする不法行為責任を否定した。
同判決は,重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性も証明されていないとして,慰謝料等1100万円を認容した原判決の病院側敗訴部分を破棄し,患者側の控訴を棄却した。
同判決の山崎敏充裁判官補足意見は,脳内出血の機序,徴候及びCT検査の実施可能性等について医学的な専門知見を適切に活用する必要があると指摘し,匿名の協力医意見書に相当程度依拠して注意義務を認定することには慎重な検討を要するとした。
医師意見書の肩書又は結論だけでなく,前提事実,医学的根拠,反対資料への応答及び中立性を吟味すべきことを示す実務上重要な指摘である。
期待権を主張するときも,過失,因果関係又は相当程度の可能性の立証不足を抽象語で補うことはできない。
まず従来の法理で構成できるかを検討し,期待権のみを独立の請求根拠とする場合は,最高裁判例の限定的な表現と下級審の動向を踏まえて慎重に評価する必要がある。
4 複数原因と共同不法行為
最高裁平成13年3月13日判決・平成10年(受)第168号は,交通事故とその後の医療過誤が競合して一つの不可分な死亡結果を生じさせ,双方の行為と死亡との相当因果関係が認められた事案について,共同不法行為の成立を認めた。この判決を医療過誤事件で用いるときは,次の三つを分けて検討する必要がある。
- 被害者に対する責任:事故側・医療側とも自己の行為について不法行為が成立し,双方と不可分な結果との因果関係が認められる場合,寄与度だけを理由に被害者に対する賠償額を切り分けることはできない。
- 過失相殺:交通事故側の被害者過失と,医療側との関係で考慮される被害者側の事情は,性質が異なるため各加害者との関係ごとに評価する。
- 内部求償:最終的な負担割合は,被害者に対する外部責任とは別に,共同不法行為者間の求償問題として検討する。
もっとも,交通事故後の治療結果が悪かっただけで医療側の不法行為が成立するわけではない。各医療行為の注意義務違反,結果との因果関係及び損害の不可分性を,診療録,画像,ガイドライン及び鑑定意見等により個別に立証する必要がある。計算例と最高裁平成15年7月11日判決との違いは,交通事故と後続医療過誤が重なった場合の損害賠償で整理している。
第6 精神科医療,身体拘束及び自殺
1 自殺の具体的予見可能性
最高裁平成31年3月12日判決・平成30年(受)第269号は,精神科通院患者の自殺について,医師が症状悪化の可能性を認識していたとしても,患者の具体的言動,直接診察の機会及び家族からの情報等から自殺を具体的に予見できなかったとして,自殺防止措置義務を否定した。
診断名又は一般的な自殺リスクだけでなく,直近の希死念慮,自殺企図,手段への接近,生活環境及び医療者が把握できた情報が重要である。
最高裁令和5年1月27日判決・令和3年(受)第968号は,任意入院患者が無断離院後に自殺した事案で,無断離院を防止するため閉鎖病棟への転棟を勧めるべき義務及び家族に常時付添いを求めるべき義務を否定した。
任意入院の性質,患者の病状,行動制限の必要性及び医療機関が把握した具体的危険を総合する必要がある。
2 身体拘束に関する裁量と記録
最高裁平成22年1月26日判決・平成20年(受)第2029号は,精神科病院の入院患者に対する身体的拘束について,医師の専門的裁量を前提としつつ,必要性及び相当性を具体的に検討した。
拘束開始時だけでなく,継続の必要性,代替手段,解除の試行,観察頻度及び見直しの記録が重要である。
東京高裁令和4年10月31日判決・令和3年(ネ)第3368号は,神経性やせ症の入院患者に対する77日間の身体拘束について,一審の一部認容判決を変更し,精神科医の判断に注意義務違反はないとした。
同判決は,拘束判断が将来予測を伴うこと,人権への配慮を要すること,段階的な解除及び頻回の観察が行われたことを具体的に評価しており,拘束期間だけで適法性を決めたものではない。
第7 消滅時効と経過措置
1 現行民法の期間
診療契約上の債務不履行に基づく請求権は,民法166条1項により,権利を行使することができることを知った時から5年,又は権利を行使することができる時から10年で時効により消滅する。
人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権では,民法167条により,この客観的期間が20年となる。
不法行為に基づく請求権は,民法724条により,損害及び加害者を知った時から3年,又は不法行為の時から20年で時効により消滅する。
人の生命又は身体を害する不法行為では,民法724条の2により,主観的期間の3年が5年となる。
2 令和2年4月1日前後の経過措置
平成29年法律第44号による改正民法の原則施行日は令和2年4月1日である。
診療日又は事故日が平成29年4月1日より前か後かで一律に新旧法を分ける説明は誤りである。
債務不履行については,改正法附則10条4項により,施行日前に債権が生じた場合の消滅時効期間は原則として旧法による。
施行日後に債権が生じても,原因となる法律行為が施行日前にされた場合を含むため,診療契約の成立時期及び債権の発生時期を確認する必要がある。
生命又は身体を害する不法行為については,附則35条2項により,施行日時点で旧民法724条前段の3年の時効が既に完成していた場合には民法724条の2を適用しない。
反対に,施行日時点で完成していなければ5年期間が適用され得るので,損害及び加害者を知った時期を具体的に確定する。
時効の完成猶予又は更新には,裁判上の請求,催告及び協議を行う旨の書面又は電磁的記録による合意等があるが,要件と効力期間が異なる。
期限が迫る事件では,単なる交渉継続を当てにせず,請求原因,新旧法,起算点及び完成猶予措置を早期に検討する必要がある。
債務不履行構成と不法行為構成の期間の組合せは人身損害の消滅時効の特則で,新旧法の振り分けは消滅時効は改正前民法と改正後民法のどちらで判断するかで,催告と協議を行う旨の合意の使い方は内容証明による催告と協議を行う旨の合意で説明している。
第8 訴訟手続と実務上の確認事項
1 提訴前の見通し評価
提訴前には,①義務違反を具体化できるか,②診療時点の医学文献があるか,③協力医の意見が得られるか,④因果関係又は相当程度の可能性をどこまで立証できるか,⑤損害及び費用に見合うかを確認する。
医学的疑問があることと,法的責任を立証できることは同じではない。
医療側の反論としては,当時の医療水準への適合,患者の基礎疾患,合併症,診療情報の限界,治療選択の合理性,因果関係の不存在及び損害の限定が想定される。
患者側は,反論を予想した上で,診療時点の情報と後から判明した情報を分け,代替原因を検討する。
2 訴訟上の資料取得
訴訟提起後は,民事訴訟法186条の調査嘱託,223条の文書提出命令及び226条の文書送付嘱託等が検討対象となる。
もっとも,申立てをすれば全ての院内資料が取得できるわけではなく,対象文書の特定,必要性,所持者,提出義務及び除外事由について裁判所が判断する。
専門委員,鑑定及び医師調停委員の活用も,争点,費用及び必要な専門性によって選択する。
裁判所に「医学的に調べてもらう」ことを期待するのではなく,当事者が診療経過,医学的機序及び質問事項を具体化することが前提となる。
3 相談時のチェックポイント
相談時には,①診療日と結果発生日,②受診した全医療機関,③現在確保している記録,④問題と考える具体的行為,⑤医療側から受けた説明,⑥現在の症状及び後遺障害,⑦他の専門家への相談歴,⑧交渉又は通知の有無,⑨時効に関係する認識時期を確認する。
死亡事案では,相続関係,診療契約上の請求権の承継,遺族固有の損害及び遺族への説明に関する主張を区別する。
第9 出典・参考資料
1 法令,公的資料及び判例データベース
① e-Gov法令検索・民法166条,167条,724条及び724条の2
② 民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)及び附則10条,35条
③ 法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」
④ e-Gov法令検索・民事訴訟法186条,223条,226条及び234条以下
⑤ 最高裁判所医事関係訴訟委員会
⑥ 最高裁判所医事関係訴訟委員会「医事関係訴訟に関する統計」(令和8年5月27日の第37回委員会配付),1頁~9頁及び令和7年6月30日公表の同統計,1頁~8頁
⑦ 大阪地方裁判所「大阪地方裁判所医事部」及び「大阪地裁医事部の誕生」
⑧ 厚生労働省医政局長令和元年12月25日通知「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」
⑨ PMDA「医療用医薬品情報」,「電子化された添付文書」及び「緊急安全性情報・安全性速報」
⑩ 判例秘書(裁判所ウェブサイト未掲載の最高裁昭和43年6月18日判決,最高裁昭和43年7月16日判決及び最高裁平成28年7月19日判決の本文,事件番号,判例番号及び掲載誌を確認)
⑪ 最高裁判所事務総局「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)」(令和7年7月)第3章62頁~71頁
2 書籍及び論文
① 髙橋譲編著『医療訴訟の実務〔第2版〕』(商事法務,2019年)23頁~58頁,81頁~125頁,143頁~258頁,291頁~364頁及び553頁~660頁
② 大島眞一「医療訴訟の現状と将来―最高裁判例の到達点―」判例タイムズ1401号20頁~86頁
③ 村主隆行「医療訴訟の審理運営について」判例タイムズ1505号5頁~13頁
④ 「第9回 医療界と法曹界の相互理解のためのシンポジウム」判例タイムズ1439号10頁~61頁(判例秘書の判例タイムズ電子復刻版で本文を確認)
3 本文を確認した医事関係最高裁判例60件
次の一覧のうち57件は裁判所ウェブサイトの個別詳細画面で,裁判所ウェブサイト未掲載の3件は判例秘書で,事件番号,裁判年月日,法廷,結果,掲載誌及び判決本文を確認したものである。
争点欄は判決の射程を示す索引であり,判決要旨の代用ではない。
| No. | 裁判例・事件番号・掲載誌 | 主な争点 | 結果・本文 |
|---|---|---|---|
| 1 | 最高裁昭和32年5月10日判決・昭和30年(オ)第155号・民集11巻5号715頁 | 注射事故の過失原因の選択的認定 | 棄却・裁判所 |
| 2 | 最高裁昭和36年2月16日判決・昭和31年(オ)第1065号・民集15巻2号244頁 | 輸血時の具体的問診義務 | 棄却・裁判所 |
| 3 | 最高裁昭和39年7月28日判決・昭和38年(オ)第714号・民集18巻6号1241頁 | 消毒不完全部位を特定しない過失認定 | 棄却・裁判所 |
| 4 | 最高裁昭和39年11月24日判決・昭和37年(オ)第306号・民集18巻9号1927頁 | 狂犬病予防接種の適応判断 | 棄却・裁判所 |
| 5 | 最高裁昭和43年6月18日判決・昭和42年(オ)第887号・判例時報521号50頁 | ラヂウム照射後の皮膚障害と医師の過失 | 棄却・判例秘書L02310152(裁判所HP未掲載) |
| 6 | 最高裁昭和43年7月16日判決・昭和42年(オ)第1191号,第1192号・判例時報527号51頁 | 気管支成形手術における医師の過失 | 上告・附帯上告棄却・判例秘書L02310206(裁判所HP未掲載) |
| 7 | 最高裁昭和44年2月6日判決・昭和41年(オ)第1116号・民集23巻2号195頁 | 放射線照射と皮膚がんの因果関係 | 棄却・裁判所 |
| 8 | 最高裁昭和50年10月24日判決・昭和48年(オ)第517号・民集29巻9号1417頁 | 訴訟上の因果関係の高度の蓋然性 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 9 | 最高裁昭和51年9月30日判決・昭和50年(オ)第140号・民集30巻8号816頁 | 予防接種の問診義務と予見可能性 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 10 | 最高裁昭和54年11月13日判決・昭和52年(オ)第915号・集民128号97頁 | 未熟児網膜症と当時の酸素管理 | 棄却・裁判所 |
| 11 | 最高裁昭和56年6月19日判決・昭和56年(オ)第26号・集民133号145頁 | 緊急開頭手術の説明義務 | 棄却・裁判所 |
| 12 | 最高裁昭和57年3月30日判決・昭和54年(オ)第1386号・集民135号563頁 | 未熟児網膜症の治療,説明及び転医 | 棄却・裁判所 |
| 13 | 最高裁昭和57年4月1日判決・昭和51年(オ)第1249号・民集36巻4号519頁 | 集団検診と国・地方公共団体の責任 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 14 | 最高裁昭和57年7月20日判決・昭和55年(オ)第948号・集民136号723頁 | 未熟児網膜症の眼底検査と転医 | 棄却・裁判所 |
| 15 | 最高裁昭和60年3月26日判決・昭和57年(オ)第1112号・民集39巻2号124頁 | 未熟児網膜症の専門医への転医義務 | 棄却・裁判所 |
| 16 | 最高裁昭和60年4月9日判決・昭和57年(オ)第374号・集民144号433頁 | アレルギー体質の問診義務 | 棄却・裁判所 |
| 17 | 最高裁昭和60年12月13日判決・昭和59年(オ)第43号・集民146号251頁 | 証拠に基づかない医学的認定 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 18 | 最高裁昭和61年5月30日判決・昭和58年(オ)第621号・集民148号139頁 | 未熟児網膜症の検査結果の説明 | 破棄自判・裁判所 |
| 19 | 最高裁昭和61年10月16日判決・昭和57年(オ)第929号・集民149号27頁 | 注射と大腿四頭筋拘縮症の医療水準 | 棄却・裁判所 |
| 20 | 最高裁昭和63年1月19日判決・昭和57年(オ)第1127号・集民153号17頁 | 未熟児網膜症の治療水準 | 棄却・裁判所 |
| 21 | 最高裁昭和63年3月31日判決・昭和57年(オ)第1345号・集民153号603頁 | 未熟児網膜症の転医義務 | 破棄自判・裁判所 |
| 22 | 最高裁平成3年4月19日判決・昭和61年(オ)第1493号・民集45巻4号367頁 | 痘そう予防接種による重篤障害と禁忌者該当性の推定 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 23 | 最高裁平成4年6月8日判決・昭和62年(オ)第362号・集民165号11頁 | 医療水準を超える注意義務の限界 | 破棄自判・裁判所 |
| 24 | 最高裁平成7年4月25日判決・平成3年(オ)第168号・民集49巻4号1163頁 | がん告知と家族への説明 | 棄却・裁判所 |
| 25 | 最高裁平成7年5月30日判決・平成3年(オ)第2030号・集民175号319頁 | 退院時の療養指導 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 26 | 最高裁平成7年6月9日判決・平成4年(オ)第200号・民集49巻6号1499頁 | 医療機関の性格と医療水準 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 27 | 最高裁平成8年1月23日判決・平成4年(オ)第251号・民集50巻1号1頁 | 医療慣行と添付文書 | その他(裁判所表示)・裁判所 |
| 28 | 最高裁平成8年9月3日判決・平成6年(オ)第1130号・集民180号205頁 | 精神科入院患者による第三者加害 | 棄却・裁判所 |
| 29 | 最高裁平成9年2月25日判決・平成7年(オ)第1205号・民集51巻2号502頁 | 複数薬剤・発症時期の経験則違反と検査・治療への配慮義務 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 30 | 最高裁平成11年2月25日判決・平成8年(オ)第2043号・民集53巻2号235頁 | 不作為型の因果関係 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 31 | 最高裁平成11年3月23日判決・平成8年(オ)第609号・集民192号165頁 | 脳内血腫の原因と鑑定評価 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 32 | 最高裁平成12年2月29日判決・平成10年(オ)第1081号・民集54巻2号582頁 | 輸血拒否と人格権・説明義務 | 棄却・裁判所 |
| 33 | 最高裁平成12年9月22日判決・平成9年(オ)第42号・民集54巻7号2574頁 | 死亡時点で生存した相当程度の可能性 | 棄却・裁判所 |
| 34 | 最高裁平成13年3月13日判決・平成10年(受)第168号・民集55巻2号328頁 | 交通事故と医療過誤の共同不法行為 | その他(裁判所表示)・裁判所 |
| 35 | 最高裁平成13年6月8日判決・平成9年(オ)第968号・集民202号277頁 | 外傷後の感染予防と医学的知見 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 36 | 最高裁平成13年11月27日判決・平成10年(オ)第576号・民集55巻6号1154頁 | 乳房温存療法と説明義務 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 37 | 最高裁平成14年9月24日判決・平成10年(オ)第1046号・集民207号175頁 | 末期がんと家族への説明 | 棄却・裁判所 |
| 38 | 最高裁平成14年11月8日判決・平成12年(受)第1556号・集民208号465頁 | 添付文書と最新医学知見 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 39 | 最高裁平成15年11月11日判決・平成14年(受)第1257号・民集57巻10号1466頁 | 転送義務と相当程度の可能性 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 40 | 最高裁平成15年11月14日判決・平成14年(受)第592号・集民211号633頁 | 気管内挿管と気道確保 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 41 | 最高裁平成16年1月15日判決・平成14年(受)第1937号・集民213号229頁 | 診療契約上の相当程度の可能性 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 42 | 最高裁平成16年9月7日判決・平成13年(受)第164号・集民215号63頁 | アナフィラキシーショック時の措置 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 43 | 最高裁平成17年9月8日判決・平成14年(受)第989号・集民217号681頁 | 分娩方法の選択と説明義務 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 44 | 最高裁平成17年12月8日判決・平成17年(受)第715号・集民218号1075頁 | 拘置所患者と相当程度の可能性 | 棄却・裁判所 |
| 45 | 最高裁平成18年1月27日判決・平成15年(受)第1739号・集民219号361頁 | 抗菌薬選択と医学的意見の評価 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 46 | 最高裁平成18年4月18日判決・平成16年(受)第1147号・集民220号111頁 | 冠動脈バイパス手術の時期 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 47 | 最高裁平成18年6月16日判決・平成16年(受)第672号・民集60巻5号1997頁 | 集団予防接種とB型肝炎 | その他(裁判所表示)・裁判所 |
| 48 | 最高裁平成18年10月27日判決・平成17年(受)第1612号・集民221号705頁 | 予防的手術の選択と説明義務 | その他(裁判所表示)・裁判所 |
| 49 | 最高裁平成18年11月14日判決・平成16年(受)第2226号・集民222号167頁 | 術後出血と医学的意見の評価 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 50 | 最高裁平成19年4月3日判決・平成18年(受)第1547号・集民224号35頁 | 誤嚥死と転送・気道確保義務 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 51 | 最高裁平成20年4月24日判決・平成18年(受)第1632号・民集62巻5号1178頁 | チーム医療と説明義務 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 52 | 最高裁平成21年3月27日判決・平成19年(受)第783号・集民230号285頁 | 麻酔薬投与量と因果関係 | 破棄差戻し・裁判所 |
| 53 | 最高裁平成22年1月26日判決・平成20年(受)第2029号・民集64巻1号219頁 | 入院患者の身体拘束 | 破棄自判・裁判所 |
| 54 | 最高裁平成23年2月25日判決・平成21年(受)第65号・集民236号183頁 | 適切な医療を受ける期待権 | 破棄自判・裁判所 |
| 55 | 最高裁平成23年4月26日判決・平成21年(受)第733号・集民236号497頁 | 精神科医の言動とPTSD | 破棄自判・裁判所 |
| 56 | 最高裁平成28年7月19日判決・平成26年(オ)第1476号・LLI/DB判例秘書登載 | 術後CT検査,適切な医療を受ける利益及び相当程度の可能性 | 破棄自判・判例秘書L07110050(裁判所HP未掲載) |
| 57 | 最高裁平成31年3月12日判決・平成30年(受)第269号・集民261号107頁 | 精神科通院患者の自殺 | 破棄自判・裁判所 |
| 58 | 最高裁令和5年1月27日判決・令和3年(受)第968号・集民270号1頁 | 任意入院患者の無断離院後の自殺 | 破棄自判・裁判所 |
| 59 | 最高裁平成17年11月15日決定・平成16年(あ)第385号・刑集59巻9号1558頁 | 抗がん剤過剰投与と診療科長の監督責任 | 棄却・裁判所 |
| 60 | 最高裁平成19年3月26日決定・平成15年(あ)第1033号・刑集61巻2号131頁 | 患者取違えと重畳的本人確認義務 | 棄却・裁判所 |
4 本文で取り上げた主要下級審判例
① 東京高裁令和4年10月31日判決・令和3年(ネ)第3368号・身体拘束の必要性及び相当性
② 名古屋高裁令和6年4月18日判決・令和5年(ネ)第426号・気管切開児の退院時指導義務
③ 東京地裁平成23年12月9日判決・平成21年(ワ)第37543号・予防ガイドラインに従わなかった注意義務違反と相当程度の可能性
④ 仙台地裁平成21年1月27日判決・平成19年(ワ)第250号・急性胆道炎の診療ガイドラインと医療水準
⑤ 仙台地裁平成22年6月30日判決・平成20年(ワ)第1743号・肝癌診療ガイドラインとサーベイランスの義務
⑥ 東京地裁令和3年4月30日判決・平成29年(ワ)第42453号・カルテの改ざんと別個の不法行為