第1 死亡診断書が弁護士実務で問題となる場面
1 この記事の対象と基準時
この記事は,弁護士が死亡診断書又は死体検案書に接する場面を想定し,交付義務,記載事項の意味,死亡届及び火葬許可との関係,医師法21条の届出義務並びに資料収集の方法を整理するものである。
医学的な死因判定の当否そのものではなく,法令上の枠組みと,事案の見通しを立てるために確認すべき事項に主眼を置く。
記載は,令和8年8月30日現在のe-Gov法令検索の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された裁判例及び厚生労働省が公表している令和8年度版の記入マニュアルによる。
2 死亡診断書が関わる四つの場面
第1に,戸籍手続である。
戸籍法86条2項は,死亡の届書に死亡の年月日時分及び場所等を記載し,診断書又は検案書を添付しなければならないと定めている。
死亡診断書は死亡届の添付書類として戸籍への死亡の記載と火葬許可の前提になり,民法882条により相続が開始する時点を示す資料としても機能する。
第2に,相続である。
死亡時刻の記載は,複数人が死亡した事案において相続の先後を決する場面で意味を持つ。
第3に,給付請求である。
死因及び死因の種類の記載は,生命保険金の請求,労働者災害補償保険の業務起因性の判断,交通事故における損害賠償の各場面で,当事者の主張の出発点になる。
第4に,医師又は医療機関の責任である。
死体に異状があると認めたときの警察署への届出義務(医師法21条)と,死亡診断書の記載の当否は,医療事故の刑事責任と直接に結び付く。
第2 交付義務,記載事項及び死体検案書との使い分け
1 医師法19条2項の交付義務と罰則の不存在
医師法19条2項は,「診察若しくは検案をし,又は出産に立ち会つた医師は,診断書若しくは検案書又は出生証明書若しくは死産証書の交付の求があつた場合には,正当の事由がなければ,これを拒んではならない」と定めている。
死亡診断書の交付は,この規定に基づく医師の義務である。
もっとも,この義務には罰則が伴わない。
医師法33条の3第1号が罰則(50万円以下の罰金)の対象とするのは,6条3項,18条,20条,21条,22条1項及び24条の違反であり,19条は列挙されていない。
そのため,交付義務の履行を直接に強制する手段は限られており,交付が得られない事案では,後記第3の2の代替手段の検討へ移ることになる。
交付が得られない背景には,死亡と診療との関係の評価や,死体の異状の有無の判断があることが多い。
依頼者からの聴取に当たっては,交付されない理由を医師がどのように説明しているかを具体的に確認しておくとよい。
2 記載事項及び様式
医師法施行規則20条1項は,医師は,その交付する死亡診断書又は死体検案書に,次に掲げる事項を「記載し,署名しなければならない」と定め,13の事項を列挙している。
すなわち,①死亡者の氏名,生年月日及び性別,②死亡の年月日時分,③死亡の場所及びその種別,④死亡の原因となった傷病の名称及び継続期間,⑤④の傷病の経過に影響を及ぼした傷病の名称及び継続期間,⑥手術の有無並びに手術が行われた場合の部位,主要所見及び年月日,⑦解剖の有無及び解剖が行われた場合の主要所見,⑧死因の種類,⑨外因死の場合の追加事項,⑩生後1年未満で病死した場合の追加事項,⑪診断又は検案の年月日,⑫当該文書を交付した年月日,⑬当該文書を作成した医師の所属する病院等の名称及び所在地又は医師の住所並びに医師である旨である。
同条2項は,これらの記載が第四号書式によらなければならないとしている。
「死亡したところ」の欄には,種別を選択したうえで,その住所が記載される。
死亡の場所が争点となる事案や,死亡時に同居していた者の所在を確認する必要がある事案では,この欄が最も確実な手掛かりになる。
記入マニュアルは,書式欄内に記入した内容を訂正する場合の方法として,誤記載を二重線で消し,正しい記載をした後に周辺の余白に署名することを求め,記名押印は原則として不可であるとしている。
記名押印が例外的に許されるのは,押印を求める手続の見直し等のための厚生労働省関係省令の一部を改正する省令(令和2年厚生労働省令第208号)による改正前の様式をやむを得ず使用する等の特段の事情がある場合に限られる。
3 死亡診断書と死体検案書の使い分け
死亡診断書と死体検案書は,戸籍法86条2項の添付書類としては等価である。
どちらを交付するかは,医師の判断による。
記入マニュアルは,医師は,診療管理下にある患者が生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合には死亡診断書を,それ以外の場合には死体検案書を交付するものとしている。
この基準は法令上の定義規定ではなく,行政実務上の運用指針として示されたものである。
交付される書類が死亡診断書であるか死体検案書であるかを問わず,異状を認める場合には所轄警察署に届け出るべきことは共通する。
同マニュアルは,届け出た場合には,捜査機関による検視等の結果も踏まえた上で死亡診断書又は死体検案書を交付することを求めている。
したがって,標題が死亡診断書か死体検案書かという別だけで法的な評価を決めることはできない。
死亡と診療との関係,警察への届出の有無及び検視の経過を併せて確認する必要がある。
検視及び解剖の手続については,検視,解剖,調査及び検査並びに病理解剖等で整理している。
4 医師法20条ただし書の「24時間」の意味
医師法20条本文は,「医師は,自ら診察しないで治療をし,若しくは診断書若しくは処方せんを交付し,自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し,又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない」と定め,ただし書は,「診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については,この限りでない」としている。
このただし書は,最終の診察から24時間以内であれば改めて診察しなくても死亡診断書を書けるという趣旨に誤解されることがあるが,正確ではない。
厚生労働省の「医師法第20条ただし書の適切な運用について(通知)」(平成24年8月31日付け医政医発0831第1号)は,同ただし書について,診療中の患者が診察後24時間以内に当該診療に関連した傷病で死亡した場合には改めて診察をすることなく死亡診断書を交付し得ることを認めるものであるとしたうえで,医師が死亡の際に立ち会っておらず,生前の診察後24時間を経過した場合であっても,死亡後改めて診察を行い,生前に診療していた傷病に関連する死亡であると判定できる場合には死亡診断書を交付することができるとしている。
すなわち,24時間という時間は死後の診察を省略できる例外の要件であって,24時間を超えれば死亡診断書を交付できないという意味ではない。
もっとも,この例外は広くない。
記入マニュアルは,死亡後に改めて診察を行うことなく「生前に診療していた傷病に関連する死亡であること」を判定できる場合として,当該患者の死亡に立ち会っていた別の医師から死亡状況の詳細を聴取することができる等,ごく限られた場合であることに留意を求め,そのような場合であっても死亡診断書の内容に正確を期するため死亡後改めて診察するよう努めることを求めている。
同マニュアルは,死亡に立ち会えなかった医師が死後診察を経て死亡診断書を交付する場合として,二つの類型を示している。
第1は,生前に自ら診療を担当していた医師が死後診察を行う場合であり,生前に診療していた傷病に関連する死亡であると判定できるときは,死体検案書を交付する必要はないとされている。
第2は,生前に診療を担当していなかった医師が死後診察を行う場合であり,同一医療機関内での情報共有や,生前に診療が行われていた別の医療機関若しくは担当医師からの診療情報の共有又は提供により,死亡した患者の生前の心身の状況に関する情報を正確に把握できた場合に限り,死亡診断書を交付することが可能であるとされている。
前記通知は,診療中の患者が死亡した後に改めて診察し,生前に診療していた傷病に関連する死亡であると判定できない場合には死体の検案を行うこととなり,死体に異状があると認められる場合には警察署へ届け出なければならないとしている。
在宅で療養していた患者が死亡した事案などでは,この分岐が,死亡診断書と死体検案書のいずれが交付されるか,警察への届出がされるかを左右する。
依頼者から死亡の経緯を聴取する際には,最終の診察時期,死亡時の立会いの有無及び死後の診察の有無を確認しておくとよい。
第3 死亡届,火葬許可証及び記載事項証明書
1 届出期限,届出義務者及び届出地
戸籍法86条1項は,死亡の届出を,届出義務者が死亡の事実を知った日から7日以内(国外で死亡があったときはその事実を知った日から3箇月以内)にしなければならないと定めている。
届出義務者は,戸籍法87条1項により,第1に同居の親族,第2にその他の同居者,第3に家主,地主又は家屋若しくは土地の管理人であり,同項ただし書はこの順序にかかわらず届出をすることができるとしている。
同条2項は,同居の親族以外の親族,後見人,保佐人,補助人,任意後見人及び任意後見受任者も届出をすることができるとしている。
届出人の詳細は,死亡届の届出人で整理している。
届出地については,戸籍法88条1項が死亡地でも届出をすることができるとし,同条2項が,死亡地が明らかでないときは死体が最初に発見された地,汽車その他の交通機関の中で死亡があったときは死体をその交通機関から降ろした地,航海日誌を備えない船舶の中で死亡があったときはその船舶が最初に入港した地でも届出をすることができるとしている。
死亡届が受理されると,市区町村長は墓地,埋葬等に関する法律5条2項により火葬の許可を行い,同法8条により火葬許可証を交付する。
火葬許可証は火葬の際に提出され,火葬済の証印を受けて返還されるのが通例であり,納骨の際に墓地又は霊園へ提出する書類になる。
死亡から火葬までの流れは,火葬許可証及び葬儀・火葬の実施で整理している。
2 診断書又は検案書を得られないとき
戸籍法86条3項は,やむを得ない事由によって診断書又は検案書を得ることができないときは,死亡の事実を証すべき書面をもってこれに代えることができるとし,その場合には診断書又は検案書を得ることができない事由を届書に記載すべきものとしている。
どのような書面が「死亡の事実を証すべき書面」に当たるかは個別の判断になるため,管轄の市区町村又は法務局への確認が必要になる。
死体が発見されず,死亡の事実自体を証明できない場合には,別の制度による。
水難,火災その他の事変によって死亡した者がある場合には,戸籍法89条により,その取調べをした官庁又は公署が死亡地の市町村長に死亡の報告をし,同法91条により,その報告書には86条2項に掲げる事項を記載することとされている。
これに対し,生死不明の状態が続く場合は,民法30条の失踪の宣告によることになり,同法31条により,普通失踪では7年の期間が満了した時に,危難失踪ではその危難が去った時に死亡したものとみなされる。
いずれの場合も死亡診断書は作成されないため,死亡の時期をどの資料によって確定するかが,その後の相続手続の出発点になる。
3 原本は手元に残らない
実務上見落とされやすいのは,死亡診断書の原本が死亡届に添付されて市区町村へ提出され,遺族の手元に残らないことである。
他方で,生命保険金の請求,勤務先への届出,金融機関の手続その他の場面では,死亡診断書の写しの提出を求められることが少なくない。
したがって,死亡届を提出する前に,鮮明な複写を必要部数取っておくことが有用である。
提出後に必要となった場合には,戸籍法48条2項が,利害関係人は特別の事由がある場合に限り届書その他市町村長の受理した書類の閲覧を請求し,又はその書類に記載した事項について証明書を請求することができると定めている。
これに基づいて交付されるのが死亡届の記載事項証明書であり,法務局の案内によれば,請求できるのは届出事件の本人,届出人及び届出事件本人の親族などの利害関係人であって特別の事由があると認められる者に限られる。
特別の事由の例としては,国民年金,厚生年金及び共済年金の遺族年金の請求,簡易生命保険金の請求並びに婚姻,離婚,養子縁組,養子離縁等の身分行為の無効確認の裁判が挙げられている。
請求先は届出の時期によって異なる。
令和6年2月29日までにされた届出については本籍地の市区町村を管轄する法務局又はその支局であり,令和6年3月1日以降にされた届出については届出をした市区町村又は本籍地の市区町村である。
年金関係の手続との関係は,遺産分割と未支給年金及び遺族厚生年金の生計維持要件で整理している。
第4 記載事項が紛争で持つ意味
1 死亡時刻の記載と同時死亡の推定
記入マニュアルは,「死亡したとき」の欄には死亡確認時刻ではなく死亡時刻を記入することを原則とし,一部が不明の場合でも分かる範囲で記入するものとしている。
そのうえで,付記の方法として,①死体検案によって死亡時刻を推定した場合は「時分」の余白に「(推定)」,②救急搬送中の死亡につき医療機関において行った死亡確認時刻を記入する場合は「(確認)」,③死亡した年及び月も全く分からない場合は「(不詳)」と,それぞれ記入するものとしている。
一時点で明確に推定できない場合は「頃」と記入する例も示されている。
臓器の移植に関する法律の規定に基づき脳死判定を行った場合について,同マニュアルは,脳死した者の死亡時刻は第2回目の検査終了時となるから,脳死判定に係る検査の第2回目の検査終了時刻を記入するものとしている。
同法6条4項は,この判定を,これを的確に行うために必要な知識及び経験を有する2人以上の医師の判断の一致によって行うものとしている。
死亡時刻の記載は,複数人が死亡した事案において相続の先後を決する場面で意味を持つ。
民法32条の2は,数人の者が死亡した場合において,そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは,これらの者は同時に死亡したものと推定すると定めている。
死亡時刻が「(推定)」とされ,又は時分が不詳とされている事案では,死亡の先後を主張する側がこれを立証する必要が生じ,立証がされない限り同時死亡の推定が働く。
もっとも,これは法律上の推定であり,反証によって覆すことができる。
死亡診断書の死亡時刻の記載は反証のための一資料となり得るが,それ自体が先後を確定するものではない。
救急搬送記録,診療録,関係者の供述その他の資料と併せて検討することになる。
2 死因の記載構造
記入マニュアルは,死亡の原因欄を,直接の死因からその原因へと医学的因果関係の順に記入するⅠ欄と,直接には死因に関係しないがⅠ欄の傷病等の経過に影響を及ぼした傷病を記入するⅡ欄とで構成している。
Ⅰ欄では,直接の死亡の原因となった傷病名等を(ア)欄に,(ア)欄の原因となる傷病名等があれば(イ)欄に,(イ)欄の原因となる傷病名等があれば(ウ)欄に記入する。
同マニュアルは,Ⅰ欄及びⅡ欄のいずれについても,疾患の終末期の状態としての「心不全」,「呼吸不全」等は記入しないものとしている。
明らかな病態としての心不全又は呼吸不全を記入すること自体は問題がないとされているが,終末期の状態となる心停止あるいは呼吸停止が生じたことをもってこれらを記入することは,世界保健機関が正しい死亡原因の記入方法ではないとしていること,及び我が国の死因統計が不正確になることを理由に,避けるものとされている。
死因としての「老衰」については,高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない,いわゆる自然死の場合にのみ用いるものとされている。
老衰から他の病態を併発して死亡した場合は医学的因果関係に従って記入することとされ,直接死因を誤嚥性肺炎,その原因を老衰とする記載例が示されている。
また,傷病名ではない「寝たきり」,「交通事故」,「転倒」等の記入は避けるものとされている。
これらの運用は,死亡診断書の記載が医学的因果関係の順序を示す構造を持つことを意味する。
死因の評価が争点となる事案では,Ⅰ欄の(ア)から(ウ)までの並びと,Ⅱ欄に何が記載されているかを分けて把握するとよい。
3 死因の種類の区分
死因の種類は,記入マニュアルにより次の12区分から1つを選択するものとされている。
| 区分 | 番号と名称 | マニュアルが示す内容 |
|---|---|---|
| 病死及び自然死 | 1 病死及び自然死 | 疾病による死亡及び老齢,老化による自然死 |
| 不慮の外因死 | 2 交通事故 | 運転者,同乗者,歩行者のいずれかを問わず,交通機関の関与による不慮の死亡 |
| 不慮の外因死 | 3 転倒・転落 | 同一平面上での転倒又は階段・ステップ・建物等からの転落による不慮の死亡 |
| 不慮の外因死 | 4 溺水 | 溺水による不慮の死亡(場所を問わない。水上交通機関の事故によるものは交通事故に分類する。) |
| 不慮の外因死 | 5 煙,火災及び火焰による傷害 | 火災による不慮の死亡及び火焰による火傷での不慮の死亡 |
| 不慮の外因死 | 6 窒息 | 頚部や胸部の圧迫,気道閉塞,気道内異物等による不慮の窒息死 |
| 不慮の外因死 | 7 中毒 | 薬物又はその他の有害物質への接触,吸入,服用,注射等による不慮の死亡 |
| 不慮の外因死 | 8 その他 | 熱中症,凍死等の異常な温度環境への曝露,潜函病,感電,機械による事故,落下物による事故,落雷,地震等による不慮の死亡 |
| その他及び不詳の外因死 | 9 自殺 | 死亡者自身の故意の行為に基づく死亡で,手段,方法を問わない |
| その他及び不詳の外因死 | 10 他殺 | 他人の加害による死亡で手段,方法を問わない |
| その他及び不詳の外因死 | 11 その他及び不詳の外因 | 刑の執行,戦争行為による死亡及び外因死であることは明確であるが不慮の外因死か否かの判別がつかない場合 |
| 不詳の死 | 12 不詳の死 | 病死及び自然死か外因死か不詳の場合 |
自殺の場合は手段の如何によらず「9自殺」を選択するものとされ,首つりによる自殺は「6窒息」ではなく「9自殺」,ガス中毒による自殺は「7中毒」ではなく「9自殺」になるとの注意が示されている。
死因の種類が外因死である場合には,「外因死の追加事項」欄にその状況を記入することとされている。
疾病と外因がともに死亡に影響している場合について,同マニュアルは,最も死亡に近い原因から医学的因果関係のある限りさかのぼって疾病か外因かで判断するものとしている。
「病死及び自然死」か「外因死」かを判断できない場合は「12不詳の死」として取り扱い,書式下部の「その他特に付言すべきことがら」欄に詳しくその状況を記入するものとされている。
Ⅰ欄に「不詳」,「不詳の内因死」,「不詳(検索中)」などと記載する場合にも,死因の種類として「12不詳の死」を選択するものとされている。
これらの区分は,人口動態統計における死因分類を目的とするものである。
したがって,死因の種類の記載は,後記4の保険給付の要件への該当性を直接に決定するものではない。
4 保険金請求における主張立証責任
生命保険約款にいう「不慮の事故」等の給付要件への該当性は,約款の定義とその解釈によって判断される。
この点について,最高裁判所第二小法廷平成13年4月20日判決は,生命保険契約に付加された災害割増特約における災害死亡保険金の支払事由を不慮の事故による死亡とする約款に基づき保険者に対して災害死亡保険金の支払を請求する者は,発生した事故が偶発的な事故であることについて主張,立証すべき責任を負うと判示した。
同日の最高裁判所第二小法廷平成13年4月20日判決は,普通傷害保険契約における死亡保険金の支払事由を急激かつ偶然な外来の事故による死亡とする約款についても,請求する者が,発生した事故が偶然な事故であることについて主張,立証すべき責任を負うと判示している。
この二つの判決からは,死因の種類の欄に外因死の区分が選択されていることが,そのまま給付要件の充足を意味するものではないことが分かる。
請求する側は,約款の定義に即して偶発性又は偶然性を主張立証する必要があり,死亡診断書の記載はその一資料にとどまる。
逆に,死因の種類が「1病死及び自然死」とされている場合であっても,約款上の要件を満たす余地がないとは限らないから,記載だけを理由に請求を断念すべきではない。
5 証拠力と反証の方法
死亡診断書は,民事訴訟においては医師の医学的判断を記載した書証として扱われる。
死因及び死亡時刻の記載は,民事訴訟法247条が定める自由心証主義の下で他の証拠と併せて証明力が評価されるものであり,記載内容が当事者又は裁判所を法的に拘束するものではない。
したがって,死因又は死亡時刻を争う事案では,死亡診断書の記載を前提とするのではなく,その基礎資料に遡って医学的に再構成する作業が必要になることがある。
反証の手掛かりとなり得る資料としては,解剖の所見,死亡時画像診断の結果,診療録,看護記録及び救急搬送記録が考えられる。
死亡診断書の記載自体が後に変更され得ることも押さえておくとよい。
記入マニュアルは,医師が諸検査の結果等により死因等を確定又は変更したときは厚生労働省に報告するものとしており,交付時点の記載が最終のものとは限らないことを前提としている。
死因の記載には一定の誤りが生じ得ることが医学研究においても指摘されており,特に直接の死亡の機序と原因となった傷病とを取り違える例が知られている。
これらの資料の収集には,診療録の開示請求のほか,民事訴訟法上の証拠保全その他の方法が用いられ得る。
死者の診療情報の取扱いについては,死者の医療情報の二次利用で,医療過誤事件における調査及び立証の方法については,医療過誤事件の調査・立証・判例・消滅時効で,それぞれ整理している。
死因又は死亡時刻が結論を左右する事案では,早期に基礎資料の所在を把握し,必要に応じて医学的な意見を得ることが有用である。
第5 医師法21条の異状死体届出義務
1 「検案」の意義と届出義務者の範囲
医師法21条は,「医師は,死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは,二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」と定めている。
この「検案」の意義及び届出義務を負う医師の範囲について,最高裁判所第三小法廷平成16年4月13日判決は,「医師法21条にいう死体の『検案』とは,医師が死因等を判定するために死体の外表を検査することをいい,当該死体が自己の診療していた患者のものであるか否かを問わない」と判示した。
この判断からは,届出義務が自己の診療していた患者の死体についても及ぶこと,及び届出義務の発生が死体の外表の検査による異状の認識を基準とすることが読み取れる。
もっとも,同判決は,公立病院の医師による死亡診断書等の虚偽記載等が問われた刑事事件における判断である。
その射程を検討する際には,事案の性質を踏まえる必要がある。
なお,同事件の控訴審は東京高等裁判所平成15年5月19日判決(平成13年(う)第2491号,第3刑事部)であり,一般に都立広尾病院事件と呼ばれている。
厚生労働省は,「医師による異状死体の届出の徹底について」(平成31年2月8日医政医発0208第3号)を発出したうえ,その解釈について「『医師による異状死体の届出の徹底について』に関する質疑応答集(Q&A)について」(平成31年4月24日付け厚生労働省医政局医事課事務連絡)を示している。
同質疑応答集は,同通知が,医師が検案して異状を認めるか否かを判断する際に考慮すべき事項を示したものであり,医師法21条の届出を義務付ける範囲を新たに拡大するものではないとしている。
また,同法21条の「検案」に死体の外表の検査以外の行為を含ませようとするものではなく,届出の要否の判断は個々の状況に応じて死体を検案した医師が個別に判断するという従来からの解釈を変えるものでもないとしている。
2 自己負罪拒否特権との関係
前記最高裁判決は,死体を検案して異状を認めた医師は,自己がその死因等につき診療行為における業務上過失致死等の罪責を問われるおそれがある場合にも届出義務を負うとすることは,憲法38条1項に違反するものではないと判示した。
その理由として,同判決は,届出義務が,警察官が犯罪捜査の端緒を得ることを容易にするほか,場合によっては緊急に被害の拡大防止措置を講ずるなどして社会防衛を図ることを可能にするという役割をも担った行政手続上の義務であり,公益上の必要性が高いことを挙げている。
そのうえで,届出によって「届出人と死体とのかかわり等,犯罪行為を構成する事項の供述までも強制されるものではない」こと,及び医師免許が人の生命を直接左右する診療行為を行う資格を付与するとともにそれに伴う社会的責務を課するものであることを指摘し,一定の不利益を負う可能性があっても医師免許に付随する合理的根拠のある負担として許容されるとした。
この判断は,医療事故により医師又は医療機関が刑事責任を問われ得る場面においても,死体の外表に異状を認めた以上は届出義務が生じ得ることを意味する。
届出を怠った場合には,医師法33条の3第1号により50万円以下の罰金に処せられ得る。
3 医療事故調査制度との関係
診療に関連した死亡については,医療法に基づく医療事故調査制度が別に設けられている。
医療法6条の10第1項は,病院等の管理者は,医療事故が発生した場合には,厚生労働省令で定めるところにより,遅滞なく,当該医療事故の日時,場所及び状況その他厚生労働省令で定める事項を医療事故調査・支援センターに報告しなければならないと定めている。
ここでいう医療事故とは,当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し,又は起因すると疑われる死亡又は死産であって,当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったものとして厚生労働省令で定めるものをいう。
医療法6条の11第1項は,管理者が速やかにその原因を明らかにするために必要な調査を行わなければならないとし,同条4項は,調査を終了したときは遅滞なくその結果を同センターに報告しなければならないとしている。
同法6条の10第2項及び6条の11第5項は,これらの報告に当たり,あらかじめ遺族に対し厚生労働省令で定める事項を説明しなければならないとしている。
注意を要するのは,医療法に基づく報告先が医療事故調査・支援センターであって警察ではないことである。
医療事故調査制度は,医師法21条による警察への届出義務とは要件,対象及び届出先を異にする別個の制度であり,医師法21条は同制度の導入によっても改正されていない。
このことは,制度創設前の国会答弁及び検討部会の発言からも確認できる。
平成26年6月10日の参議院厚生労働委員会において,田村厚生労働大臣は,医師法21条について「殺人,傷害致死,さらには死体損壊,堕胎等の犯罪の痕跡をとどめている場合があるわけでありまして,司法上の便宜のために,それらの異状を発見した場合には届出義務,これを課している」と述べ,「医師法第二十一条は,医療事故等々を想定しているわけではないわけでありまして,これは法律制定時より変わっておりません」としている。
平成24年10月26日の第8回医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会において,田原医事課長は,「検案をして,死体の外表を見て,異状があるという場合に警察署のほうに届け出るということでございます。これは診療関連死であるかないかにかかわらないと考えております」と述べている。
したがって,診療関連死の事案では,死体の外表の異状を基準とする医師法21条の届出の要否と,予期しなかった死亡か否かを基準とする医療事故調査・支援センターへの報告の要否とを,それぞれ別に検討する必要がある。
第6 訂正,死因等の変更及び虚偽記載
1 誤記の訂正と死因等の確定・変更報告
死亡診断書の記載を直す場面は,誤記の訂正と,諸検査の結果等による死因等の確定又は変更との二つに分かれ,手続の相手方が異なる。
記入マニュアルは,誤記の訂正については,医師が死亡届の提出された市区町村の窓口に連絡するものとしている。
これに対し,諸検査の結果等により死因等を確定又は変更した場合については,「医師による死因等確定・変更報告の取扱いについて」(平成30年12月5日付け医政発1205第1号政統発1205第1号)に基づき,厚生労働省へ報告するものとしている。
この取扱いは平成31年1月1日から実施されており,それ以前は,死因等を確定又は変更した場合も誤記訂正と同様の方法により人口動態調査票(死亡票)の記載内容を修正していた。
死因の記載が争点となる事案では,交付された死亡診断書の記載のほかに,その後の報告によって死因が変更されていないかを確認する意味がある。
書式欄内に記入した内容を訂正できるのは,原則として死亡診断書又は死体検案書を作成した医師又は歯科医師本人のみである。
記入マニュアルは,作成した医師等がやむにやまれぬ事情で訂正を行うことが不可能な場合には,作成した本人から情報の共有又は提供を受ける等して訂正に必要な情報を正確に把握できた場合に限り,作成していなかった医師等でも訂正を行うことが可能であるとしている。
2 虚偽記載の刑事責任
死亡診断書に虚偽の記載がされた場合の刑事責任は,作成した医師の立場によって適用条文が分かれる。
刑法160条は,医師が,公務所に提出すべき診断書,検案書若しくは死亡証書に虚偽の記載をし,又は公務所に提出すべき電磁的記録文書等であって診断書,検案書若しくは死亡証書の全部若しくは一部として用いられるものに虚偽の記録をしたときは,3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処すると定めている。
これは,私人としての医師が作成する診断書等を対象とする規定である。
これに対し,公立病院に勤務する医師が職務上作成する死亡診断書は公文書に当たるため,虚偽の記載は刑法156条の虚偽公文書作成等の問題となる。
前記の都立広尾病院事件は,公立病院の医師による死亡診断書等の虚偽記載が虚偽有印公文書作成及び同行使として問われた事案であり,この類型に位置付けられる。
死亡診断書の記載の当否が争われる事案では,作成者が公務員に当たるか否かによって適用される罰条が異なる点に留意を要する。
3 情報通信機器を用いた死亡診断と電子的作成
医師が死亡に立ち会えず,かつ対面での死後診察も困難な場面に対応するため,厚生労働省は「情報通信機器(ICT)を用いた死亡診断等の取扱いについて」(平成29年9月12日)を発出し,情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドラインを策定した。
同ガイドラインは令和6年6月に改訂されている。
同ガイドラインは,医師が直接対面での死後診察を行わずに死亡診断書を交付し得る場合を,次の要件をすべて満たす場合に限っている。
すなわち,①医師による直接対面での診療の経過から早晩死亡することが予測されていること,②終末期の際の対応について事前の取決めがあるなど,医師と看護師の十分な連携が取れており,患者や家族の同意があること,③医師間や医療機関・介護施設間の連携に努めたとしても,医師による速やかな対面での死後診察が困難な状況にあること,④法医学等に関する一定の教育を受けた看護師が,死の三徴候の確認を含め医師とあらかじめ決めた事項など,医師の判断に必要な情報を速やかに報告できること,⑤看護師からの報告を受けた医師が,テレビ電話装置等のICTを活用した通信手段を組み合わせて患者の状況を把握することなどにより,死亡の事実の確認や異状がないと判断できることである。
ここでいう異状がないとは,医師法21条にいう異状死体に該当しないことを指す。
死亡診断書の作成自体の電子化も進んでいる。
記入マニュアルは,死亡診断書又は死体検案書を電子的に作成することが読みやすく正確な文書を作成する一助となるとしたうえで,ガイド付きの電子入力により作成し印刷して市区町村へ提出することができるソフトが日本医師会ORCA管理機構のウェブサイトに掲載されており,無料で利用できることを紹介している。
他方で,死亡届及び死亡診断書そのものをオンラインで提出する仕組みは,全国的な制度としての確立には至っていない。
死亡から相続に至る手続の電子化は行政の各施策として進められているものの,適用の可否及び時期は個別に確認を要する。
第7 依頼者からの聴取事項と資料収集
死亡診断書が関係する事案では,標題の別及び記載内容を手掛かりに,次の事項を確認しておくとよい。
いずれも,前記の各論点と対応するものである。
①交付された書類が死亡診断書か死体検案書か,及び作成した医師と死亡時の診療との関係
②最終の診察時期,死亡時の立会いの有無並びに死後の診察の有無及びその実施者
③死亡の年月日時分の記載と,「(推定)」,「(確認)」又は「(不詳)」の付記の有無
④「死亡したところ」の欄の種別及び住所
⑤死亡の原因欄(Ⅰ欄及びⅡ欄)の記載内容並びに死因の種類の区分
⑥外因死の追加事項欄及び「その他特に付言すべきことがら」欄の記載
⑦解剖及び死亡時画像診断の有無並びにその結果
⑧死体の異状の有無,警察への届出及び検視の経過
⑨診療録,看護記録及び救急搬送記録の所在並びに開示請求又は証拠保全の要否
⑩生命保険約款の給付要件等,死因の評価が影響し得る契約関係の有無
⑪複数人が死亡した事案における死亡の先後及び同時死亡の推定の適用の有無
⑫診療関連死の場合における医療事故調査制度の対象該当性
⑬死亡診断書の写しを確保しているか,及び記載事項証明書の請求の要否
死亡診断書以外の資料を集めるに当たり,生前の入通院先自体が分からない場合の調査手順は,亡くなった家族の入通院先を調べる方法―遺族のレセプト開示とカルテの取得で整理している。
死亡診断書は,死亡から相続へ移る局面で最初に手に入る資料であることが多い。
その記載を出発点としつつ,基礎資料に遡って事実関係を検討することが,主張及び立証の準備と相手方の反論への備えにつながる。
その後の相続手続については,法定相続情報一覧図の作成方法,被相続人の財産を調べる方法及び相続放棄の3か月はいつからかで,それぞれ整理している。
出典・参考資料
1 法令
①医師法(昭和23年法律第201号)19条2項,20条,21条,33条の3(e-Gov法令検索)
②医師法施行規則(昭和23年厚生省令第47号)20条(e-Gov法令検索)
③戸籍法(昭和22年法律第224号)48条2項,86条,87条,88条,89条,91条(e-Gov法令検索)
④墓地,埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号)5条,8条(e-Gov法令検索)
⑤民法(明治29年法律第89号)30条,31条,32条の2,882条(e-Gov法令検索)
⑥民事訴訟法(平成8年法律第109号)247条(e-Gov法令検索)
⑦刑法(明治40年法律第45号)156条,160条(e-Gov法令検索)
⑧医療法(昭和23年法律第205号)6条の10,6条の11(e-Gov法令検索)
⑨臓器の移植に関する法律(平成9年法律第104号)6条(e-Gov法令検索)
⑩死因究明等推進基本法(令和元年法律第33号)2条(死因究明の定義)(e-Gov法令検索)
2 裁判例
①最高裁判所第三小法廷平成16年4月13日判決(平成15年(あ)第1560号,医師法違反,虚偽有印公文書作成,同行使被告事件,刑集58巻4号247頁,裁判所ウェブサイト)
②最高裁判所第二小法廷平成13年4月20日判決(平成10年(オ)第897号,保険金請求事件,民集55巻3号682頁,裁判所ウェブサイト)
③最高裁判所第二小法廷平成13年4月20日判決(平成12年(受)第458号,保険金請求事件,集民202号161頁,裁判所ウェブサイト)
④東京高等裁判所平成15年5月19日判決(平成13年(う)第2491号,第3刑事部。都立広尾病院事件の控訴審。裁判所HP未掲載。前記①の上告審判決及び厚生労働省の質疑応答集における引用により確認)
3 行政資料
①厚生労働省「令和8年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」(死亡診断書と死体検案書の使い分け,死亡に立ち会えなかった場合の交付,死亡時刻及び死因の記載方法,死因の種類の区分,訂正の方法,死因等確定・変更報告,電子的作成,並びに参考④に収録された質疑応答集及び国会答弁・検討部会発言の抄録)
②厚生労働省「医師法第20条ただし書の適切な運用について(通知)」(平成24年8月31日付け医政医発0831第1号。前記①の参考として全文を収録)
③厚生労働省「医師による異状死体の届出の徹底について」(平成31年2月8日医政医発0208第3号)及び「『医師による異状死体の届出の徹底について』に関する質疑応答集(Q&A)について」(平成31年4月24日付け厚生労働省医政局医事課事務連絡。前記①の参考④に抄録)
④厚生労働省「医師による死因等確定・変更報告の取扱いについて」(平成30年12月5日付け医政発1205第1号政統発1205第1号。前記①による)
⑤厚生労働省「情報通信機器(ICT)を用いた死亡診断等の取扱いについて」(平成29年9月12日。令和6年6月改訂)(対面での死後診察を経ずに死亡診断書を交付し得る要件)
⑥厚生労働省「医療事故調査制度について」(医療法6条の10等に基づく制度の概要)
⑦東京法務局「戸籍届書類の記載事項証明書の交付請求について」(戸籍法48条2項に基づく請求権者,特別の事由の例及び請求先の区分)
⑧日本医師会ORCA管理機構「死亡診断書作成支援」(前記①の参考③が紹介する無償の作成ソフト)
4 文献
①死亡診断書における死因記載の誤りに関する研究として,Brooks EG, Reed KD, “Principles and Pitfalls: a Guide to Death Certification,” Clinical Medicine & Research, 2015, 13(2), 74頁~82頁(PMC4504663)
②情報通信機器を用いた遠隔での死亡診断に関する報告として,Sugiyama K et al., “Remote Death Certification Using Telemedicine in Japan,” Internal Medicine, 2021, 61(8), 1291頁~1294頁(PMC9107988)