人が病院外で亡くなった場合などには、検視、検案、検証、死体の調査、司法解剖等の言葉が同時に使われます。しかし、これらは実施主体、目的、法的根拠及び遺族の承諾の要否が異なる別の手続です。本記事では、令和8年9月23日現在の法令及び警察庁資料に基づき、最初に全体像を整理します。
第1 最初に確認する用語の違い
| 用語 | 主な目的 | 主な主体 | 主な根拠 |
|---|---|---|---|
| 検視 | 死亡が犯罪に起因するかを外表等から見分する | 検察官。命令により検察事務官又は司法警察員 | 刑事訴訟法229条、検視規則 |
| 検案 | 医師が死体を医学的に検査し、死亡及び死因等を判断する | 医師 | 医師法19条、21条等 |
| 検証 | 場所、物又は身体の状態を五官で認識する証拠収集 | 捜査機関又は裁判所 | 刑事訴訟法128条以下、218条等 |
| 死体の調査 | 犯罪捜査の手続が行われない死体の死因・身元を明らかにする | 警察官等 | 警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律 |
| 解剖 | 体内を調べて死因、病態等を明らかにする | 法医学者、監察医、病理医等 | 刑事訴訟法、死体調査法、死体解剖保存法等 |
「行政検視」は実務上用いられることがある説明用語であり、刑事訴訟法229条の検視と同じ法定手続ではありません。犯罪性が認められない死体については、平成24年法律第34号に基づく警察の調査、医師の検案、監察医による検案等のどの手続を指しているのかを具体的に確認する必要があります。
第2 刑事訴訟法229条の検視
1 対象と目的
刑事訴訟法229条1項は、変死者又は変死の疑いのある死体があるとき、その所在地を管轄する地方検察庁又は区検察庁の検察官が検視をしなければならないと定めています。検視は、背後に犯罪があるかを早期に見極めるため、死体の外表、発見場所、着衣及び所持品等を見分する手続です。
検視の段階で犯罪の嫌疑が認められれば、現場や死体について捜査としての検証、鑑定その他の手続へ進みます。したがって、「検視が行われた」という事実だけで犯罪死と決まったことにはなりません。
2 誰が行うか
検視を行う法定主体は検察官ですが、同条2項により、検察官は検察事務官又は司法警察員に検視をさせることができます。警察官が現場で行うことが多いのは、この代行の仕組みによります。検視規則は、司法警察員が検視をしたときの報告、検視調書及び写真の作成等を定めています。
第3 検案、検証及び警察の死体調査
1 医師の検案
検案は、医師が死体を医学的に検査し、死亡の事実、死因、死亡時刻、異状の有無等を判断する行為です。医師は、自ら検案をしないで死体検案書を交付することができません。検案して異状があると認めたときは、医師法21条により24時間以内に所轄警察署へ届け出る義務があります。
死亡診断書と死体検案書の使い分け、医師法20条の「24時間」の意味及び死亡届の資料取得については、弁護士のための死亡診断書の実務で詳しく説明しています。
2 検証との違い
検証は、場所、物又は身体の存在・形状・状態を五官の作用によって認識する証拠収集手続です。検視が犯罪の発見を目的とする緊急の手続であるのに対し、検証は犯罪の嫌疑を前提とする捜査又は公判上の証拠調べです。同じ現場で連続して行われることがあっても、法的性質は別です。
3 警察が取り扱う死体の調査
犯罪行為により死亡したと認められる死体又は変死体以外の死体についても、警察官は、死因及び身元を明らかにするため、外表、発見場所、所持品及び関係者への質問等の調査を行います。必要があれば薬毒物検査、死亡時画像診断、DNA型検査、歯牙調査又は調査法解剖が行われます。
詳しい手順と遺族が受けられる説明は、警察が取り扱う死体の調査と死因究明で整理しています。
第4 解剖の種類と遺族の承諾
| 種類 | 目的・根拠 | 遺族の承諾 |
|---|---|---|
| 司法解剖 | 犯罪捜査上の鑑定。刑事訴訟法223条、225条等 | 法的要件ではない |
| 調査法解剖 | 犯罪捜査手続の対象外の死体の死因究明。死体調査法6条 | 承諾は法的要件ではないが、原則として事前通知 |
| 監察医による解剖 | 政令指定地域で死因不明死体の死因を明らかにする。死体解剖保存法8条 | 法律上の例外として承諾不要 |
| 病理解剖 | 診療上の死因・病態の解明、医療の検証 | 原則として遺族の承諾が必要 |
根拠、費用、臓器・組織の保存及び結果の入手方法は、司法解剖・行政解剖・調査法解剖の違いで比較しています。病理解剖については、病理解剖(剖検)とはも参照してください。
第5 遺族への説明と資料の確認
警察等は、死体を遺族へ引き渡す際、死因その他参考となるべき事項を説明することとされています。警察庁の令和6年3月1日付け通達は、遺族等の求めに応じ、捜査への支障や第三者の権利を考慮しつつ、客観的事実を簡潔に記載した書面、解剖結果を記載した書面の写し、死亡時画像診断の画像データ等を提供する取扱いを示しています。
遺族は、次の事項を分けて確認すると整理しやすくなります。
- 刑事訴訟法229条の検視か、死体調査法による調査か。
- 検案した医師及び死体検案書の交付元はどこか。
- 解剖の種類、実施日及び実施機関は何か。
- 死因の暫定説明と、薬毒物検査・病理検査後の最終説明はいつか。
- 書面、解剖結果、画像又は写真の提供を申し出る窓口はどこか。
- 刑事事件記録としての開示申請を別途要する資料は何か。
不起訴事件記録の開示は、警察からの死因説明とは別制度です。刑事記録が必要な場合は、不起訴事件記録の入手方法も確認する必要があります。
第6 死亡後の手続と関連ページ
検視又は調査が終わり死体が引き渡された後は、死亡届、火葬許可、葬儀、遺品整理等の手続へ進みます。これらは検視・解剖の法的根拠とは別の問題です。