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過失割合の基準(別冊判例タイムズ39号)の当てはめ方―図の選択,表の「*」と二重評価,中間の割合及び裁判所の裁量(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 対象とする資料と基準日

この記事は,交通事故の過失割合を検討するときに参照される『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂6版〕』(別冊判例タイムズ39号,判例タイムズ社,令和8年3月30日発売)を,実際の事故にどのように当てはめるかを整理するものである。
同書は,令和5年度及び令和6年度に東京地裁民事第27部(交通専門部)に在籍した裁判官が中心となって検討及び執筆をしたものである(はしがき2頁)。
個々の事故類型の数値や前版(全訂5版・別冊判例タイムズ38号)からの改訂点は扱わず,どの類型にも共通する読み方を扱う。
法令及び裁判例は,令和8年9月28日時点で確認した内容に基づく。

改訂点は別冊判例タイムズ39号(過失相殺率の認定基準・全訂6版)の改訂点で整理している。
全訂6版では事故類型の番号が【Ⅰ-34】のような章番号付きの形式で表示されているので(28頁),この記事の番号も全訂6版のものである。

2 結論

(1) 三つの段階を分けて検討する

同書の基準を当てはめるときは,次の三つの段階を分けて検討するのが安全である。
①その事故が,選んだ図(事故類型)の想定する事故態様と前提条件に当てはまるか
②その図の修正要素のうち,証拠で裏付けられるものはどれか
③主張しようとする事情が,その図では「*」とされ,又は基本の過失相殺率に既に織り込まれていないか

どの図にもぴったり当てはまらない事故については,近い図の数値の中間の値を採ることに同書自身が言及している場面がある。

(2) 最終的には裁判所の裁量で決まる

民法722条2項により,被害者の過失をどの程度考慮するかは裁判所の裁量に属する。
同書の数値は,その裁量を行使するための目安であり,数字を足し引きすれば自動的に答えが出る計算表ではない。
同書も,画一的に当てはめる姿勢は相当でないと繰り返し述べている。

第2 基準の性質

1 民法722条2項と最高裁判例

(1) 条文

民法722条2項は,「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」と定めている。
条文は「できる」と定めており,被害者の過失を考慮するかどうか,どの程度考慮するかを裁判所に委ねている。

(2) 裁量に属するとした最高裁判例

最高裁昭和34年11月26日判決(昭和32年(オ)第877号,民集13巻12号1562頁)は,慰謝料請求の事件で,「本件のような場合において、被害者の過失を斟酌すると否とは裁判所の自由裁量に属すること」であると述べた。
ただし,この判決は,原審が被害者の過失を認定していなかった事案についてのものであり,この部分は上告理由を退ける理由の一つとして述べられたものである。

最高裁昭和41年5月6日判決(昭和40年(オ)第221号,集民83号477頁)は,事故で死亡した者に関する損害賠償の事件で,上記の昭和34年の判決を引いた上で,「被害者の過失をどの程度しんしやくして損害額を算出するかということも裁判所の自由裁量に属する」と述べた。
同判決は,慰謝料額の算出で考慮する被害者の過失の割合と,物質的損害の賠償額で考慮する割合とが同一である必要はないとも判断している。

(3) 当事者の主張がなくても考慮される

最高裁昭和41年6月21日判決(昭和39年(オ)第437号,民集20巻5号1078頁)は,約束手形に関する不法行為の事件で,裁判所は訴訟に現れた資料に基づき被害者に過失があると認めるべき場合には職権で過失相殺をすることができ,「賠償義務者から過失相殺の主張のあることを要しないものである」と判断した。
交通事故の訴訟でも,被害者の過失を基礎付ける事実が証拠に現れていれば,加害者側が過失相殺を主張していなくても考慮され得ることになる。

2 同書自身が述べる使い方

(1) 適用の前提条件をおろそかにしない

同書のはしがきは,各事故類型を適用する前提として条件が設定されており,その条件について誤った認識の下で適用すると同書が想定する過失相殺率とは異なる結果となりかねないため,「当該事故類型の適用の前提となる条件の検討をおろそかにしないようくれぐれもご留意願いたい」と述べている(はしがき1頁)。
その詳細は,各章の冒頭のほか,序章・用語集に記載されているとされる(同頁)。

(2) 画一的に当てはめない

はしがきは,基本の過失相殺率が典型的な事故態様を前提として定めたものであり,実際の事故の態様や個別事情を捨象して「本書記載の各事故類型に画一的に当てはめようとする姿勢は相当とは思われない」としている(はしがき1頁)。
その上で,類似する事故類型の基本の過失相殺率と修正要素のそれぞれの背景にある考え方を理解し,柔軟に基準を適用する姿勢を求めている(はしがき1頁~2頁)。

序論も,実際に生じる事故は千差万別であるから,事案により「各基準が想定している事故態様にそもそも該当するのかという点についても十分吟味した上で」,修正要素の意味を正しく捉え,必要な場合には数値を増減して適用することも検討する柔軟な態度で同書を利用することが望まれるとしている(22頁)。

(3) 過失相殺率と過失割合は同じではない

同書は,被害者の「過失相殺率」の判断基準を定めるものであり,各当事者の「過失割合」の判断基準を定めるものではないとしている(はしがき1頁)。
過失相殺率を定めるに当たっては,純粋な過失の割合だけでなく,被害者の要保護性,危険責任の原則及び優者危険負担の原則も考慮されるからである(同頁,22頁~23頁)。
そのため,事故車両の種別が異なるだけで他の事故態様が同じであっても,過失相殺率が異なることがあるとされる(はしがき1頁)。

第3 第一段階―どの図を使うか

1 図は一定の過失を前提にしている

(1) 前提は注に書かれている

各図の下の注には,その図が想定する事故態様と,基本の過失相殺率の前提となっている過失が書かれていることが多い。
例えば【Ⅲ-9】は,一方の道路の信号が赤であるのに減速せずに交差点に進入したⒷ車と,歩行者用信号が青であることを信頼して減速せずに交差道路から進入したⒶ車との出合い頭の事故の図であり,基本はⒶ20:Ⓑ80である(232頁)。
その注は,Ⓐ車に軽度の前方不注視又は発見後の回避措置の懈怠があることを前提とし(注①),双方の車両とも徐行ないしそれに近い減速をせずに同程度の速度で進入していることを想定し(注⑦),Ⓐ車に一時停止義務違反があることを前提としている(注⑧)(232頁~233頁)。

(2) 前提と違う事実は修正要素か別の図で扱われる

前提と違う事実があるときは,その違いが修正要素として用意されていることがある。
【Ⅲ-9】では,Ⓐ車が減速した場合は10%の減算修正を,Ⓐ車が一時停止した後に進入した場合は15%の減算修正をするとされている(233頁)。
これに対し,前提と違う事実が図の選択そのものに関わることもある。
例えば【Ⅴ-1】・【Ⅴ-2】(信号機のある交差点での自転車と四輪車等の出合い頭の事故)の注は,歩行者用信号機等のある交差点で,歩行者用信号機の設置された横断歩道や自転車横断帯により道路の横断を始めた普通自転車との事故については,その図ではなく,それぞれ【Ⅴ-66】,【Ⅴ-70】によるとしている(392頁)。
保険会社や相手方が示した数値が,どの図のどの前提に立ったものかを先に特定すると,争うべき点が修正要素なのか図の選択なのかを分けることができる。

2 被害者に過失が認められないとき

同書の事故類型には,被害者にも過失ないし落ち度があったことを前提として基本の過失相殺率を定めているものが多い(はしがき2頁)。
しかし,はしがきは,個別具体的な事情を踏まえると被害者に過失ないし落ち度があったと認められないときは,「修正要素を考慮するまでもなく,当該事故類型を適用して過失相殺をするのは相当でないことになる」としている(同頁)。
図に基本の過失相殺率が書かれていることは,その事故で被害者に過失があったことを意味しない。

3 事故と因果関係のない違反

序論は,無免許運転等の違法行為についても,他の修正要素と同様に,事故と相当因果関係のある場合に考慮すべきであるとしている(24頁)。
もっとも,酒気帯び運転や酒酔い運転をした場合,一度も運転免許を取得したことがない者が無免許運転をした場合等は,事故と相当因果関係があると事実上推定されるであろうとし,事故態様によっては相当因果関係が事実上推定されることが多いとも述べている(同頁)。
例として,昼間に赤信号に従って停車中に追突された車両の運転者がたまたま酒気を帯びていたとしても,その事実が事故と相当因果関係があるとは考え難いことや,自賠責保険の未加入や車検切れもそれ自体で相当因果関係を肯定することはできないと思われることを挙げている(同頁)。
違反の存在だけを理由に修正を主張されたときは,その違反が事故の発生や損害の拡大とどう関係したかを確かめる必要がある。

第4 第二段階と第三段階―修正要素と表の「*」

1 「*」は修正要素として考慮しない印

各図の修正要素の表では,数値の代わりに「*」と書かれている欄がある。
修正要素の表がある各頁の欄外には「*は修正要素として考慮しないものである。」と記載されている(例えば95頁,110頁,232頁)。
「*」の欄にある事情は,その図ではそもそも加算・減算の対象にならない。
保険会社の計算書や相手方の主張で,「*」の欄にある事情が加算されていないかを確かめることが,点検の第一歩である。

2 基本の過失相殺率に織り込み済みの事情(二重評価を避ける)

(1) 織り込み済みとされる事情

「*」とされる事情や,注で修正要素としないと説明されている事情の中には,基本の過失相殺率を定める段階で既に考慮されているものがある。
同じ事情を基本の過失相殺率と修正要素の両方で考慮すると,同じ過失を二度数えることになるからである。
同書の注から,その例を挙げると次のとおりである(「表の扱い」欄は,修正要素の表で「*」とされているか,表にはなく注で説明されているかを示す)。

図事故の場面修正要素としない事情(表の扱い)同書の説明
【Ⅰ-10】歩行者が安全地帯のある横断歩道を青信号で横断し始め,その後安全地帯の付近で赤信号に変わり,安全地帯の先で青信号で進行してきた車と衝突幹線道路(表で*)安全地帯のある場所は幹線道路で交通量の多いところが想定されているから,「基本の過失相殺率に織り込み済み」(95頁)
【Ⅰ-21】信号機のある横断歩道の直近(横断歩道通過後)で,赤信号で直進してきた車と歩行者が衝突横断禁止の規制あり(表で*)歩行者が横断歩道によって横断すべき規制に違反していることを前提に基本の過失相殺率を定めているから,加算すると「過失の二重評価に当たるおそれがある」ので,原則として加算しない(110頁)
【Ⅲ-9】一方道路の信号が赤なのに進入した車と,交差道路から進入した車の出合い頭Ⓐ車の明らかな先入(表で*)基本の過失相殺率において考慮済み(233頁)
【Ⅲ-37】交差点で左折する車と対向方向から右折する車の衝突左折車の明らかな先入(表で*)双方とも徐行又はそれに近い減速を前提とすると,ほとんどの場合に左折車が先入することになるから,既に考慮されている(269頁)
【Ⅲ-38】追越しが禁止される交差点で,追越しのため中央線を越えた直進車と右折車の衝突おおむね時速20km程度に満たない速度違反(表の修正要素は「著しい速度違反」+10のみで,注で説明)追越中であることを考慮し,基本の過失相殺率の中に織り込み済み(271頁)
【Ⅳ-54】直進する単車と,その前を先行して左折する四輪車の衝突単車の軽度の前方不注視(表の修正要素は「著しい前方不注視」+10のみで,注で説明)基本の過失相殺率において考慮されているから,加算の対象は前方不注視の程度が著しい場合(354頁)
【Ⅴ-1】・【Ⅴ-2】信号機のある交差点での自転車と四輪車等の出合い頭自転車の右側通行(表に項目がなく,注で説明)基本の過失相殺率において考慮済み(392頁)

「*」の理由は織り込み済みに限られず,例えば【Ⅲ-9】で「Ⓐが狭路・非優先車」が「*」とされているのは,Ⓑ車が交差点に進入してくることはないとのⒶ車の信頼を保護する観点から基準化しているためである(232頁)。
歩行者と自転車の事故の【Ⅱ-21】にも,【Ⅰ-21】と同じ理由で横断禁止の規制による加算を原則としてしないとの説明がある(176頁)。

(2) 修正要素どうしでも重ねない

修正要素どうしでも,同じ事情を二度数えないよう注で調整されていることがある。
【Ⅲ-9】では,一時停止後に進入した場合は減速しているのが通常であるから,「Ⓐ減速」の修正要素を重ねて適用しないとされている(233頁)。
【Ⅲ-37】では,右折車が片側2車線の交差道路の第1車線に進入した場合の修正要素は,右折車が大回り右折をしていることが前提となるから,大回り右折について重ねて修正しないとされている(269頁)。

3 「著しい過失」「重過失」の使い方

序論は,修正要素をあらゆる場面について網羅的に抽出することは不可能であるから,最後に「著しい過失」「重過失」という抽象的な要素を設けて具体的妥当性を図る途を残しているとしている(22頁)。
他方で,【Ⅳ-54】の注は,軽度の前方不注視は基本の過失相殺率において考慮されているとし,単車の運転者が頭を下げて前を全く見なかった場合や,横向きになって後部同乗者と話していた場合等,前方不注視の程度が著しい場合が考えられるとしている(354頁)。
「前を見ていなかった」という事実だけで直ちに「著しい過失」の加算が認められるわけではなく,その程度が基本の過失相殺率の前提を超えるかが問われる。

第5 どの図にもぴったり当てはまらないとき

1 中間の値が予定されている場面

同書は,いくつかの場面で,二つの基準の中間の値を採ることに言及している。
①歩行者と四輪車の事故で,信号機のある横断歩道の「直近」に当たらない場合について,距離に応じて「両者の中間値が妥当する場合もあろう」としている(108頁)。
②歩行者と自転車の事故でも,信号機の設置されている横断歩道の付近の事故で横断歩道の直近に当たらない場合について,状況により,横断歩道との距離等を斟酌して「中間的な基本の過失相殺率」を採用するような運用をすることもあり得るとしている(188頁)。
③自転車同士の事故で,交差点以外の場所を横断した自転車の事故については,交差点の直近としては処理できないがそれに近い場所の事故では「中間的な値が採用されるべきである」としている(541頁)。

2 同書の対象外の事故

同書の基準がそもそも用意されていない事故類型もある。
その場合は,近い図の考え方を参考にしつつ,道路交通法上の優先関係や裁判例を基に検討することになる。
当ブログでは,救急車・パトカー等の緊急自動車との事故,ETCレーン内の追突事故及び非接触交通事故について整理している。

第6 保険会社の提示や訴訟で点検する順序

1 点検の順序

保険会社から「判例タイムズの○番の図で○対○」と示されたときや,訴訟で相手方が同書を引いて過失割合を主張したときは,次の順序で点検すると,争点を絞りやすい。
①どの版のどの図を使ったか(全訂5版の図番号のままでないか)
②その図の注が想定する事故態様と前提となる過失が,本件の証拠と合っているか
③前提と違う事実があるとき,それが修正要素で調整されるものか,別の図を選ぶべきものか
④加算・減算された事情が,その図で「*」とされ,又は基本の過失相殺率に織り込み済みでないか
⑤同じ事情が二つの修正要素で重ねて数えられていないか
⑥被害者に有利な修正要素(被害者が児童・高齢者であること,相手方の著しい過失等)が落ちていないか
⑦違反があるとされた事情が,事故と相当因果関係のあるものか

2 証拠との対応

それぞれの事情は,ドライブレコーダーの映像,実況見分調書等の刑事記録,現場の写真及び車両の損傷状況と一つずつ対応させる必要がある。
映像の扱いは交通事故のドライブレコーダー映像を民事訴訟で使う方法で説明している。
保険会社の示談案の読み方は保険会社から届いた交通事故の示談案の見方で,生成AIで調べた過失割合を確かめる方法は生成AIで調べた交通事故の慰謝料・後遺障害等級・過失割合を弁護士に確認するときで整理している。

3 同書の数値と裁判所の判断

同書の数値に沿った主張であっても,裁判所は,前記の最高裁判例のとおり,被害者の過失をどの程度考慮するかを裁量で判断する。
同書自身が必要な場合には数値を増減して適用することを予定している以上,図の数値との違いを主張するときは,前提となる事実の違いを証拠で示し,その違いが同書の注や用語集の説明のどこに当たるかを示すと説得力が増す。

第7 関連記事

①別冊判例タイムズ39号(過失相殺率の認定基準・全訂6版)の改訂点-自転車同士の事故の新設,新しい事故類型,基本の過失相殺率の変更及び高齢者の年齢
②自転車同士の事故の過失割合―交差点・追抜き・進路変更・追突・横断の基準
③左折車と直進・横断自転車の事故の過失割合―全訂6版の類型選択と信号・通行位置・巻込みの証拠
④駐車場内事故の過失割合と証拠保全―通路進行車・駐車区画退出車・歩行者の事故
⑤保険会社から届いた交通事故の示談案の見方――慰謝料・休業損害・逸失利益・既払金・過失割合・清算条項の確認
⑥生成AIで調べた交通事故の慰謝料・後遺障害等級・過失割合を弁護士に確認するとき―AIの回答で確かめる点と初回相談への持って行き方
⑦簡易裁判所の民事訴訟―地方裁判所との違いと交通事故事件の争点整理
⑧交通事故事件のご相談・ご依頼の流れ(お問い合わせからご依頼まで)

第8 出典・参考資料

1 法令

①民法(明治29年法律第89号)722条(e-Gov法令検索)

2 裁判例

①最高裁昭和34年11月26日判決(昭和32年(オ)第877号,民集13巻12号1562頁)(裁判所HP)
②最高裁昭和41年5月6日判決(昭和40年(オ)第221号,集民83号477頁)(裁判所HP)
③最高裁昭和41年6月21日判決(昭和39年(オ)第437号,民集20巻5号1078頁)(裁判所HP)

3 文献

①『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂6版〕』(別冊判例タイムズ39号,判例タイムズ社,令和8年)はしがき1頁~2頁,22頁~24頁,28頁,95頁,108頁,110頁,176頁,188頁,232頁~233頁,268頁~269頁,271頁,354頁,392頁,541頁
②判例タイムズ社「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂6版〕別冊判例タイムズ39号」