この記事の要点
駐車場内事故では、まず「通路を進行中か」「駐車区画へ進入中か」「駐車区画から退出中か」を双方について固定します。別冊判例タイムズ39号の基本割合は出発点にすぎず、発進時期、方向指示器・後退灯、見通し、速度、路面表示などにより個別に修正されます。防犯カメラ映像は上書きされやすいため、事故直後の保存要請が重要です。
目次
1 結論―割合の議論より先に事故類型と証拠を固定する
駐車場内事故では、相手方の保険会社から示された数字だけを見て結論を出すのではなく、最初に次の三点を確認する必要があります。
- 双方の車両が、通路進行・駐車区画への進入・駐車区画からの退出のいずれであったか
- どちらの動きが先に始まり、相手方がその動きをいつ認識できたか
- 防犯カメラ、ドライブレコーダー、現場写真、車両の損傷などの客観証拠が残っているか
別冊判例タイムズ39号(全訂6版)は、駐車場内事故を独立の事故類型として整理しています。ただし、そこに記載された基本割合は、具体的事情を検討するための出発点であり、裁判所を法的に拘束するものではありません。
2 駐車場内事故の基本的な考え方
同書は、不特定又は多数の者が利用する駐車場について、低速で走行する車両、駐車区画へ進入する車両、駐車区画から退出する車両及び歩行者が不規則に交錯する場所であることを、駐車場内事故の判断の前提としています。
駐車場内の通路が道路交通法上の「道路」に当たるかどうかは、施設の利用実態などによって個別に判断されます。他方、道路に当たるかどうかにかかわらず、通路の矢印、一時停止線、進行方向の表示、駐車区画線などは、事故当事者の注意義務や予見可能性を判断する重要な事情となります。
実務上の注意
公道の交差点事故と同じ感覚で、通路の優先関係だけから直ちに割合を決めることはできません。駐車場特有の低速走行義務、駐車車両の出入りへの注意、歩行者の存在を予測すべき程度を併せて検討します。
3 事故類型を三つの走行状態に分ける
四輪車同士の事故は、双方の走行状態を次の三つに分けると整理しやすくなります。
- 通路進行車:駐車区画への出入りをせず、駐車場内の通路を進行している車両
- 駐車区画進入車:通路から駐車区画へ入ろうとしている車両
- 駐車区画退出車:駐車区画から通路へ出ようとしている車両
前進か後退かだけで基本割合が別に設定されているわけではありません。もっとも、前進・後退の別、車体の向き、方向指示器、後退灯、動き始めた位置は、相手方が進入又は退出を予見できたかを判断する材料になります。
4 四輪車同士の基本の過失割合
別冊判例タイムズ39号の駐車場内事故の章が示す基本割合を、双方の割合が分かる形で整理すると、次のとおりです。
| 事故類型 | 一方の車両 | 相手車両 | 基本割合 |
|---|---|---|---|
| 通路交差部分 | 通路進行車A | 通路進行車B | A 50:B 50 |
| 通路と駐車区画退出 | 通路進行車A | 退出車B | A 30:B 70 |
| 双方が駐車区画から退出 | 退出車A | 退出車B | A 50:B 50 |
| 通路と駐車区画進入 | 通路進行車A | 進入車B | A 80:B 20 |
| 双方が駐車区画へ進入 | 進入車A | 進入車B | A 50:B 50 |
| 駐車区画進入と退出 | 進入車A | 退出車B | A 20:B 80 |
たとえば、通路進行車と駐車区画退出車の事故では、通路に出る退出車の注意義務が重いことから、通路進行車30・退出車70が基本とされます。これに対し、通路進行車と駐車区画進入車の事故では、駐車場の通路を走る車両には、前方車が駐車区画へ入る可能性を予測して安全な速度と間隔を保つことが求められるため、通路進行車80・進入車20が基本とされています。
5 歩行者と四輪車の基本の過失割合
歩行者と四輪車の事故については、駐車区画内の事故(類型VIII-7)も、通路上の事故(類型VIII-8)も、基本割合は歩行者10・四輪車90とされています。
駐車場は歩行者が車両へ乗り降りし、通路を横断することが通常予定される場所です。このため車両側には、歩行者の存在を予測し、直ちに停止できる程度の速度で進行することが強く求められます。
修正要素の例として、歩行者の急な飛び出しは歩行者側に10加算、歩行者用通路上の事故は歩行者側から20減算とされています。ただし、年齢、行動態様、照明、死角、車両の速度などを総合して判断する必要があります。
6 基本割合を修正する主な事情
駐車場内事故では、次の事情が特に重要です。
- 動き始めた時期:一方が明らかに先に進行・進入・退出を開始し、相手方が十分に認識できたか
- 客観的な予見可能性:方向指示器、後退灯、ブレーキ灯、車体の向き、ハンドル操作、停止位置から相手の次の動きを予測できたか
- 見通しと死角:柱、壁、植栽、駐車車両、勾配、カーブ、照明の有無により相互の発見が難しくなっていなかったか
- 速度と徐行:駐車場の状況に応じて直ちに停止できる速度であったか
- 通路表示:進行方向の矢印、一時停止線、停止表示、歩行者用通路などに従っていたか
- 衝突部位と車両位置:双方の車両のどの部分が衝突し、衝突時にどこまで通路又は駐車区画へ進んでいたか
基本割合の中に既に評価されている注意義務違反を、別の修正要素として二重に評価しないことも重要です。また、二つの車両の始動時期に大きな差がある場合は、形式的な事故類型に当てはめるだけでは足りず、具体的な発見可能性と回避可能性に即して検討します。
7 事故直後に保全すべき証拠
事故直後は、次の証拠を可能な限り早く確保します。
- 防犯カメラ映像:施設管理者に対し、事故日時・場所・対象カメラを特定した上で上書き前の保存を求める。
- ドライブレコーダー:自車だけでなく、相手車両や同乗者、周辺車両の記録の有無を確認し、元データを保存する。
- 現場全体の写真・動画:双方の進行方向、通路幅、駐車区画、柱、壁、植栽、照明、路面表示及び標識が一つの位置関係として分かるように撮影する。
- 車両の位置と損傷:移動前の停止位置、タイヤの向き、衝突部位、擦過痕、破片の位置を撮影する。
- 施設の図面・案内図:平面図、場内案内、出入口の位置、進行方向の指定を入手する。
- 目撃者と事故報告:氏名・連絡先を確認し、警察への届出、施設管理者の事故報告書の有無を確認する。
- 時間情報:事故時刻、入出庫記録、精算記録、買物記録、スマートフォンの位置・写真情報などを保存する。
防犯カメラについて
映像の保存期間は施設ごとに異なり、短期間で上書きされることがあります。管理者が任意に交付しない場合でも、少なくとも映像を消去せず保存するよう速やかに求め、必要に応じて証拠保全等の手続を検討します。
8 示談交渉・訴訟での検討手順
実務では、次の順序で整理すると、割合の根拠と争点が明確になります。
- 事故現場がどのような利用実態の駐車場であったかを確認する。
- 双方の車両又は歩行者の動きを時系列にし、前記の事故類型に当てはめる。
- 別冊判例タイムズ39号の基本割合を、交渉上の出発点として確認する。
- 方向指示器、後退灯、路面表示、見通し、速度、始動時期などの修正事情を、証拠と一対一で対応させる。
- 相手方の主張する事故態様と両立しない損傷、映像、位置関係を指摘する。
- 映像がなく双方の供述が対立する場合は、双方の主張を前提とした複数の事故態様と過失割合を示し、証明できない部分を区別する。
「相手が後退していたから全面的に悪い」「自車が止まっていたから過失はゼロである」といった一事情だけでは結論は出ません。停止した時期、停止位置、停止前の走行、相手方が回避できる時間があったかまで検討する必要があります。
9 この基準の限界と留意点
本記事の割合は、別冊判例タイムズ39号が示す典型的な事故類型の基本割合です。個別事件では、事故現場の構造、当事者の動き、証拠の信用性及び損害発生との因果関係により異なる判断となり得ます。
また、駐車場の構造又は管理に問題があるとして施設所有者・管理者の責任を問う論点は、運転者・歩行者間の過失割合とは別に、民法717条その他の要件を検討する必要があります。本記事は、その施設管理責任を網羅的に扱うものではありません。
10 関連記事
- 別冊判例タイムズ39号(過失相殺率の認定基準・全訂6版)の改訂点―自転車同士の事故の新設、新しい事故類型、基本の過失相殺率の変更及び高齢者の年齢(AI作成)
- 交通事故の将来介護費と公的給付―日額、平均余命、余命短縮、定期金及び年金・労災・介護保険・NASVA介護料の控除(AI作成)
11 参照資料
- 東京地裁民事交通訴訟研究会編『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂6版』(別冊判例タイムズ39号)573頁~590頁
- 日弁連交通事故相談センター東京支部『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』2011年版講演録「駐車場内の事故の過失割合」
- 道路交通法(e-Gov法令検索)
- 民法(e-Gov法令検索)
(2026年9月27日現在。個別事件の過失割合は、事故態様及び証拠により異なります。)