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企業法務・民事実務

SNS投稿後のログイン通信と発信者情報開示―最も近い1回と残り7回を分けた最高裁令和6年12月23日判決(AI作成)

SNS上の投稿について発信者を特定するため,投稿後のログイン通信に係る情報の開示を求める場合,複数のログイン通信がすべて開示対象になるとは限りません。

最高裁令和6年12月23日第二小法廷判決は,8回のログイン通信のうち,投稿と最も時間的に近接する1回について開示を認める一方,その余の7回については,追加して開示を求める必要性を基礎付ける事情がないとして開示を否定しました。実務では,投稿との関連性と,そのログイン情報を取得する必要性とを,通信ごとに整理する必要があります。

第1 最高裁令和6年12月23日判決の結論
第2 事案と通信の時系列
第3 改正法が施行前の投稿・通信にも適用された理由
第4 侵害関連通信と「相当の関連性」
第5 最も近い1回と残り7回を分けた判断
第6 発信者情報開示を検討する際の確認事項
第7 判決の射程と注意点
第8 出典・参考資料

第1 最高裁令和6年12月23日判決の結論

最高裁令和6年12月23日第二小法廷判決(令和5年(受)第1583号,民集78巻6号1445頁)は,ログイン通信が「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に当たるかについて,次の考え方を示しました。

個々のログイン通信と侵害情報の送信との関連性の程度を検討する。
そのログイン通信に係る情報の開示を求める必要性も検討する。
時間的近接性以外に関連性を示す事情が明らかでない場合,少なくとも投稿と最も時間的に近接するログイン通信が対象となる。
それ以外のログイン通信は,あえて追加して開示を求める必要性を基礎付ける事情がある場合に対象となり得る。

したがって,「同じアカウントへのログインである」というだけで,保存されている全ログイン通信の開示が認められるわけではありません。

第2 事案と通信の時系列

本件では,Instagram上のアカウントに,被害者を被写体とする写真を無断掲載し,人格的利益を侵害する投稿がされました。アカウント運営者はログイン時のIPアドレスと通信日時を記録していましたが,投稿時の通信に係る情報を記録していませんでした。

判決が前提とした主な時系列は次のとおりです。

(続きを読む...)SNS投稿後のログイン通信と発信者情報開示―最も近い1回と残り7回を分けた最高裁令和6年12月23日判決(AI作成)

マンションの建替え決議の要件―令和7年改正区分所有法の4分の3特例,団地一括建替え決議及び最高裁平成21年4月23日判決(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論第2 建替え決議の基本1 多数決の要件2 決議で定める事項3 集会の招集と説明会第3 令和7年改正による変更1 4分の3に緩和される場合2 法務大臣が定める基準の内容3 所在等不明区分所有者の除外4 施行日と経過措置5 改正の趣旨第4 決議後の手続1 参加の催告と売渡し請求2 建替えの合意3 賃借人への賃貸借の終了請求第5 団地内の建物の一括建替え決議1 改正前の規定2 改正後の規定3 新旧の比較第6 最高裁平成21年4月23日判決1 事案2 判断3 改正後の規定との関係第7 建替え以外の再生手法第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 国会会議録4 調査範囲
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,分譲マンション等の区分所有建物を建て替えるための建替え決議について,決議の要件,決議後の手続,団地内の建物の一括建替え決議及びその合憲性を判断した最高裁判所の判決を整理するものである。
建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)は,老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第47号)により改正され,改正後の規定は令和8年4月1日から施行されている。
法令は,令和8年9月27日現在の条文と,同法の施行前日である同年3月31日時点の条文をe-Gov法令検索及びe-Gov法令APIの時点指定で確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトで判決の全文を確認した。

2 結論

①建替え決議は,集会において,区分所有者(議決権を有しないものを除く。)及び議決権の各5分の4以上の多数ですることができる(区分所有法62条1項)。
②令和7年改正により,建物が耐震性・火災に対する安全性の不足,外壁等の剝離・落下のおそれ,給排水管等の劣化又はバリアフリー基準への不適合として法務大臣が定める基準に該当するときは,この要件が4分の3に緩和された(同条2項)。
③所在等不明区分所有者として裁判所の裁判を受けた区分所有者は議決権を有せず(同法38条の2),決議の母数から除かれる。
④建替え決議に参加しない区分所有者に対しては,区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡すべきことを請求することができ(同法63条5項),専有部分の賃借人に対しては賃貸借の終了を請求することができ,賃借人は補償金の提供を受けるまで明渡しを拒むことができる(同法64条の2)。
⑤団地内の建物の一括建替え決議は,改正前は団地全体の5分の4以上の賛成に加えて各棟の3分の2以上の賛成を要したが,改正後は,団地全体の5分の4以上(一定の場合は4分の3以上)の賛成があれば足り,ただし,いずれかの棟で区分所有者又は議決権の3分の1を超える反対があればすることができないという形に改められた(同法70条1項・2項)。
⑥最高裁判所第一小法廷平成21年4月23日判決は,改正前の区分所有法70条について,区分所有権の行使に対する他の区分所有者の意思を反映した制限は区分所有権自体に内在するものであるなどとして,憲法29条に違反しないとした。
⑦建替えのほか,建物更新決議,建物敷地売却決議,建物取壊し敷地売却決議及び取壊し決議も,改正後は多数決ですることができる。

第2 建替え決議の基本
1 多数決の要件

区分所有法62条1項は,集会においては,区分所有者(議決権を有しないものを除く。)及び議決権の各5分の4以上の多数で,建物を取り壊し,かつ,当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議(建替え決議)をすることができると定める。
区分所有者の頭数と議決権の双方について,5分の4以上の賛成が必要である。

2 決議で定める事項

建替え決議においては,①再建建物の設計の概要,②建物の取壊し及び再建建物の建築に要する費用の概算額,③その費用の分担に関する事項,④再建建物の区分所有権の帰属に関する事項を定めなければならない(区分所有法62条4項)。
③と④の事項は,各区分所有者の衡平を害しないように定めなければならない(同条5項)。

3 集会の招集と説明会

建替え決議を会議の目的とする集会の招集通知は,会日より少なくとも2か月前に発しなければならない(区分所有法62条6項本文)。
招集通知では,議案の要領のほか,建替えを必要とする理由,建替えをしない場合に建物の効用の維持又は回復に要する費用の額及びその内訳,修繕計画の内容並びに修繕積立金の額も通知しなければならない(同条7項)。
集会を招集した者は,会日より少なくとも1か月前までに,区分所有者に対する説明会を開催しなければならない(同条8項)。

第3 令和7年改正による変更
1 4分の3に緩和される場合

区分所有法62条2項は,建物が次のいずれかに該当する場合には,同条1項の「五分の四」を「四分の三」とすると定める。
①地震に対する安全性に係る建築基準法等の規定に準ずるものとして法務大臣が定める基準に適合していないとき(1号)
②火災に対する安全性に係る建築基準法等の規定に準ずるものとして法務大臣が定める基準に適合していないとき(2号)

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吸収合併の合併比率が不公正なときの少数株主の手段―事前開示,差止め,株式買取請求,決議取消し及び合併無効の訴え(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論第2 合併比率と少数株主の不利益1 合併比率は合併契約で定める2 親子会社間の合併で問題が生じやすい場面第3 合併の前に使える手段1 事前開示書面の閲覧2 株主総会での説明請求3 合併の差止請求4 反対の通知と総会での反対第4 株式買取請求と価格の決定1 請求の期間2 「公正な価格」3 買取請求の限界4 株式交換完全親会社の反対株主に関する令和8年決定第5 承認決議の取消し1 特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議2 合併比率が「著しく不当」かどうか3 裁量棄却は3号には適用されない第6 合併無効の訴え1 期間と提訴権者2 承認決議の瑕疵と事前開示の不備置を無効原因とした裁判例3 合併比率の不公正それ自体第7 取締役の責任1 株主代表訴訟では会社の損害が問題になる2 株主に対する責任(会社法429条1項)第8 手段と期限の一覧第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 立案過程の資料4 調査範囲
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,株式会社どうしの吸収合併で,消滅する会社の株主に割り当てられる存続会社の株式の数(いわゆる合併比率)が不公正であると考える少数株主が,合併の前と後に使える会社法上の手段を整理する。
親会社が子会社を吸収合併する場合のように,合併の相手方である会社が消滅会社の多数の議決権を持っている場面を主に想定している。
法令は,令和8年9月27日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイト又は判例秘書プラスで判決等の全文又は裁判要旨を確認したものに限って紹介している。

2 結論

①消滅会社の株主は,承認総会の2週間前の日等から,合併契約の内容や合併対価の相当性に関する事項(親子会社間の合併では,少数株主の利益を害さないように留意した事項を含む。)を記載した書面を,持株の数にかかわらず閲覧できる。
②株主総会では,取締役等に合併比率の算定根拠等の説明を求めることができる。
③合併の差止請求は合併が法令又は定款に違反する場合に認められ,合併対価が著しく不当であることを差止めの理由とする規定は,議決権の10分の9以上を持つ会社との略式合併の場合に限られている。
④合併に反対する株主は,総会に先立って反対を通知し,総会で反対しておけば,効力発生日の20日前の日から前日までの間に,公正な価格での株式の買取りを請求できる。
⑤決議について特別の利害関係を有する者(合併の相手方である会社がこれに当たると主張することになる。)が議決権を行使したことによって著しく不当な承認決議がされたときは,決議の日から3か月以内に,決議の取消しを請求できる。
⑥合併の効力が生じた後は効力発生日から6か月以内に合併無効の訴えを提起でき,承認決議に取消事由となる瑕疵がある場合に合併無効の原因が認められると述べた下級審の裁判例(事案は承認決議の不存在)や,存続会社の事前開示書類の不備置を合併無効の原因と認めた下級審の裁判例がある。
⑦他方,合併比率が不当であること自体は合併無効事由にならないとした会社法制定前の下級審の裁判例が複数あるので,合併の効力が生じた後は,比率の不公正だけでなく,承認決議の瑕疵や事前開示の不備を併せて主張できるかを検討することになる。
⑧取締役の責任については,合併比率が不公正でも存続会社自体には損害が生じないとして株主代表訴訟の請求を棄却した下級審の裁判例と,株式移転比率について会社法429条1項に基づく取締役の責任を否定した下級審の裁判例がある。

第2 合併比率と少数株主の不利益
1 合併比率は合併契約で定める

株式会社が存続する吸収合併では,合併契約において,存続会社が消滅会社の株主に対してその株式に代えて交付する金銭等(合併対価)についての事項と,その割当てに関する事項を定めなければならない(会社法749条1項2号・3号)。
合併対価が存続会社の株式であるときは,その数又はその数の算定方法を定める(同項2号イ)。
消滅会社の株式1株に対して存続会社の株式を何株割り当てるかという比率が,いわゆる合併比率である。

合併比率が消滅会社の株式の価値に比べて低く定められると,消滅会社の株主が合併後に持つ存続会社の株式の価値は,合併前に持っていた株式の価値を下回る。
その差額は,存続会社の既存の株主の側に移ることになる。

2 親子会社間の合併で問題が生じやすい場面

消滅会社は,効力発生日の前日までに,株主総会の決議によって合併契約の承認を受けなければならない(会社法783条1項)。
この決議は,定款に別段の定めがなければ,議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し,出席した株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う特別決議である(会社法309条2項12号。消滅会社が公開会社で,合併対価の全部又は一部が譲渡制限株式等である場合は,同条3項2号の決議による。)。

合併の相手方である存続会社が消滅会社の株主でもある場合,存続会社は承認決議で議決権を行使できる。
定款に別段の定めがなければ,存続会社が消滅会社の議決権の3分の2以上を持っている場合,他の株主の全員が出席して反対しても,承認決議は成立する。
存続会社にとっては合併比率が低いほど有利になるので,少数株主の側から見ると,合併比率の決め方と承認決議の成り立ち方の両方を確かめる必要がある。

第3 合併の前に使える手段

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約束手形の支払呈示と裏書人への遡求―呈示期間,休日,拒絶証書,満期の書換え及び手形交換の廃止(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論第2 支払を求めることができる相手1 振出人と裏書人2 裏書人の責任は他の署名の瑕疵に左右されない第3 支払呈示の期間と休日1 呈示期間は支払をなすべき日と次の2取引日2 手形法上の休日3 満期の曜日と呈示期間の末日4 呈示の場所と手形交換所第4 遡求権の保全と行使1 拒絶証書と「拒絶証書不要」の文言2 期間を過ぎた場合の効果3 不可抗力による期間の伸長4 遡求の通知5 請求できる額と時効第5 満期が書き換えられていた場合1 手形法69条2 最高裁昭和50年8月29日判決3 変造前の文言の立証責任4 振出人に対する時効も変造前の満期から進む5 振出人の代表者が書き換えた場合の下級審の例6 具体例第6 呈示期間を過ぎた後の振出人への請求1 振出人に対する権利は残る2 呈示の場所は支払場所ではなく支払地内の振出人の営業所又は住所3 手形訴訟第7 手形交換の廃止後の取立て1 全国銀行協会の公表2 手元に残る手形について確認すること第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 決済制度の資料4 参考文献5 調査範囲
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,紙の約束手形を受け取った者(所持人)が,満期に支払を受けられなかった場合に,振出人と裏書人に対して支払を求めるための要件を整理する。
特に,裏書人に対する請求(遡求)の前提となる支払呈示の期間,休日の扱い,拒絶証書,期間を過ぎた場合の効果,満期が書き換えられていた場合及び手形交換の廃止後の注意点を扱う。
法令は,令和8年9月27日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイト又は判例秘書で判決の全文を確認したものに限って紹介している。

2 結論

①約束手形の所持人は,満期に支払がないときは,振出人だけでなく,裏書人に対しても支払を求めることができる(遡求)。
②裏書人に対する遡求権を保全するには,支払をなすべき日又はこれに次ぐ2取引日内に支払のための呈示をし,拒絶証書の作成が免除されていなければ,同じ期間内に支払拒絶証書を作らせる必要がある。
③手形法上の休日には,日曜日や祝日のほか,政令により土曜日と12月31日が含まれ,満期が休日に当たるときは,次の取引日まで支払を請求することができない。
④呈示期間を過ぎると,裏書人に対する権利は失われるが,振出人に対する権利は失われない。
⑤ただし,呈示期間を過ぎた後に振出人へ支払を求めるときは,手形に記載された支払場所(銀行)ではなく,支払地内にある振出人の営業所又は住所で呈示しなければ,振出人を遅滞に陥らせることができないとするのが最高裁の判例である。
⑥満期が裏書の後に無断で書き換えられた手形では,書換え前に裏書した者に対しては,書換え前の満期に従って呈示等の保全手続をとらなければ遡求できず,振出人の同意なく満期が変造された場合は,振出人に対する請求権の時効も変造前の満期から進行する。
⑦電子交換所における手形・小切手の交換は令和9年3月31日に廃止され,その後は金融機関の間の相対の決済となるため,手元に残る手形の取立ての扱いを,早めに取引金融機関に確認する必要がある。

第2 支払を求めることができる相手
1 振出人と裏書人

約束手形の振出人は,為替手形の引受人と同一の義務を負う(手形法78条1項)。
これに対し,裏書人は,反対の文言がない限り,支払を担保する責任を負う(手形法77条1項1号・15条1項)。

満期に支払がないときは,所持人は,裏書人その他の債務者に対して遡求権を行うことができる(手形法77条1項4号・43条)。
もっとも,裏書人に対する遡求には,次の第3・第4で述べる呈示と拒絶証書の要件がある。
振出人に対する請求と裏書人に対する遡求とでは要件が異なるので,分けて考える必要がある。

2 裏書人の責任は他の署名の瑕疵に左右されない

手形に,行為能力のない者の署名,偽造の署名,仮設人の署名その他の理由により義務を負わせることができない署名があっても,他の署名者の債務の効力は妨げられない(手形法77条2項・7条)。
最高裁判所第一小法廷昭和33年3月20日判決(昭和32年(オ)第926号,民集12巻4号583頁)は,所持人が振出人の代表者名義が真実に反することを知っていたとしても,真正な裏書人について「裏書人としての手形上の責任は何ら消長を来たさないものというべきである。」とした。

なお,最高裁判所第三小法廷昭和46年11月16日判決(昭和41年(オ)第568号,民集25巻8号1173頁)は,流通におく意思で約束手形に振出人として署名した者は,手形が盗難・紛失等のためにその者の意思によらずに流通におかれた場合でも,連続した裏書のある手形の所持人に対しては,所持人の悪意又は重大な過失を主張・立証しない限り,振出人としての手形債務を負うとした。
同判決は振出人についての判断であり,裏書人について直接判断したものではない。

第3 支払呈示の期間と休日
1 呈示期間は支払をなすべき日と次の2取引日

満期が特定の日で記載された確定日払の約束手形の所持人は,支払をなすべき日又はこれに次ぐ2取引日内に,支払のため手形を呈示しなければならない(手形法77条1項3号・38条1項)。

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他人の借金を代わりに返せるか―第三者弁済(民法474条)の要件,本人や債権者が拒む場合,求償と代位及び保証・債務引受・免除による方法(AI作成)

目次第1 この記事の対象と確認の方法1 対象と結論の要旨2 確認の方法と資料の性質第2 第三者弁済の条文1 民法474条の4つの項2 「正当な利益を有する者」の意味第3 改正前の規定と経過措置1 改正前の民法474条2 どちらの規定が適用されるか3 弁済による代位の改正第4 本人や債権者が拒んでいる場合1 本人(債務者)が拒んでいる場合2 債権者が拒んでいる場合3 判断の順序4 第三者弁済と時効の更新は別問題である第5 払った人は本人に請求できるか1 求償の根拠は本人との関係で決まる2 弁済による代位3 援助の趣旨なら求償しないことを書面にする第6 本人が拒んでいても債務を消滅させる方法1 保証2 併存的債務引受3 免責的債務引受4 債権の譲受けと免除5 債権者による免除6 更改7 方法の比較第7 親が子の借金を払った場合の贈与税第8 場面別の確認事項1 親が成人した子の借金を返したい場合2 別れた配偶者名義の住宅ローンを払いたい場合3 個人再生の前に親族が弁済する場合4 確認に使う資料第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例3 法務省の資料4 国税庁の通達
第1 この記事の対象と確認の方法
1 対象と結論の要旨
(1) 取り上げる場面

親が成人した子の借金を返してやりたい,別れた配偶者名義の住宅ローンを払い続けたい,個人再生の前に親族が債権者へ直接払いたい,といった相談がある。
いずれも,債務者本人ではない人(第三者)が他人の債務を弁済する場面であり,民法474条の第三者弁済の問題になる。
本記事では,第三者弁済ができる場合とできない場合,債務者本人や債権者が拒んでいる場合の扱い,払った人が後で本人に請求できるか(求償と代位)を整理する。
あわせて,本人が拒んでいても,債権者との合意によって債務を消滅させる方法(保証,債務引受,債権の譲受けと免除等)と,親が子の借金を払った場合の贈与税の規定を取り上げる。

(2) 結論の要旨

第三者弁済は原則としてできる。
ただし,弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は,債務者の意思に反して弁済をすることができず(債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときを除く),債権者の意思に反して弁済をすることもできない(債務者の委託を受けて弁済をし,そのことを債権者が知っていたときを除く)。
「正当な利益」は,改正前の「利害関係」の表現を改めたものであり,最高裁は改正前の規定について,物上保証人や担保不動産の第三取得者のように弁済をすることに法律上の利害関係を有する者をいうとしている。
親子等の親族関係があるだけで法律上の利害関係を認めた最高裁判例は,裁判所HPの裁判例検索では確認できず,本人が明確に拒んでいる場合には,親族が本人に代わって払うことは難しい。
他方,保証,併存的債務引受,免責的債務引受,債権の譲受けと免除,債権者による免除は,いずれも本人の同意を要件としていないので,債権者の協力が得られれば,本人が拒んでいても債務を消滅させることができる。
なお,令和2年4月1日より前に生じた債務や,同日以後に生じてもその原因となる契約等が同日より前にされた債務の弁済には改正前の民法474条が適用されるので,古い借入れや住宅ローンでは適用される条文を先に確かめる必要がある。

2 確認の方法と資料の性質

令和8年9月27日に,民法及び相続税法・租税特別措置法の現行の条文をe-Gov法令検索で取得した。
改正前の民法の条文は,e-Gov法令APIで平成28年10月13日施行版(e-Govが収録する最も古い版)の本文を取得した。
平成29年の民法改正(民法の一部を改正する法律)の経過措置は,e-Gov法令APIで取得した民法の附則(平成29年法律第44号の附則)で確認した。
最高裁判所の判例は,裁判所HPの裁判例検索で個別ページと判決全文を確認した。
裁判所HPに掲載されていない大審院の判決は,判例秘書(LLI/DB)の大審院判例検索で判決の画像を表示し,引用部分を目で読んで確認した。
国税庁の通達は,国税庁HPに掲載された相続税法基本通達で確認した。
改正の趣旨は,法務省HPに掲載された説明資料「民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-」で確認した。

第2 第三者弁済の条文
1 民法474条の4つの項
(1) 第三者も弁済できるという原則

民法474条1項は,「債務の弁済は、第三者もすることができる。」と定める。
債務者本人でなくても,他人の債務を弁済して消滅させることができるのが原則である。

(2) 債務者の意思に反する弁済

同条2項は,「弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。」と定める。

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使い込まれたお金で借金を返してもらった債権者から取り戻せるか―騙取金・横領金による弁済と不当利得,最高裁昭和49年9月26日判決及び詐害行為取消し(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 問題となる場面1 お金の流れ2 典型的な場面3 金銭の特殊性第3 最高裁昭和49年9月26日判決1 事案2 本件(1)の金員―事情を知らない受領者3 本件(2)の金員―一般論と破棄差戻し4 先行する最高裁昭和42年3月31日判決第4 不当利得返還請求の要件1 損失と利得2 因果関係―社会通念上の連結3 法律上の原因―受領者の悪意又は重大な過失4 下級審で悪意又は重大な過失が否定された例5 債権者ではなく,債務を弁済してもらった者に請求する場合6 返還の範囲7 消滅時効第5 詐害行為取消しとの比較1 弁済が取消しの対象となる場合2 被保全債権と取消しの効果3 二つの請求の違い4 破産手続が開始した場合第6 振込み・誤振込との関係1 振り込まれた金銭は受取人の預金になる2 受取人による払戻しと権利の濫用3 口座の預金を差し押さえた者・相殺した銀行4 振り込め詐欺の被害金第7 場面別の検討1 成年後見人が横領金で自分の借金を返した場合2 親権者が子の財産の売却代金で自分の借金を返した場合3 相続人・親族による預金の使い込み第8 請求する側と請求される側の確認事項1 被害者が請求する場合2 返還を求められた債権者の場合第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,他人からだまし取り(騙取),又は預かって横領した金銭で,自分の借金を返済した者がいる場合に,被害者が,その返済を受けた債権者に対して金銭の返還を求めることができるかを扱う。
成年後見人が被後見人の預金を引き出して自分の借金を返した場合,親権者が子の財産を売った代金で自分の借金を返した場合,会社の経理担当者が会社の資金で自分の借金を返した場合などが典型である。
調査基準日は令和8年9月27日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文で,最高裁判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索に掲載された判決全文又は裁判要旨で確認した。
裁判所ウェブサイトに掲載されていない下級審裁判例は,判例秘書で判決全文を確認した。

2 結論

①横領者や詐欺をした者本人に対しては,不法行為に基づく損害賠償(民法709条)又は不当利得の返還(同法703条・704条)を請求できるが,本人に資力がなければ回収できない。
②最高裁昭和49年9月26日判決は,騙取又は横領された金銭で横領者等が自分の債権者に弁済した場合に,被害者がその債権者に不当利得の返還を請求できる場合を示した。
③因果関係は,金銭が混同され,両替され,預金口座を経由し,一部が費消された後に補填されたときでも,「社会通念上乙の金銭で丙の利益をはかつたと認められるだけの連結」があれば認められる。
④法律上の原因は,債権者がその金銭を受領するにつき悪意又は重大な過失がある場合には欠けるとされる。
同判決の事案でも,事情を知らなかった受領者に対する請求を否定した原審の判断が是認され,それより前の最高裁昭和42年3月31日判決も,善意で受領した債権者の取得は不当利得とならないとしている。
⑤弁済を詐害行為として取り消すこともできるが,既存の債務の弁済の取消しは,債務者が支払不能の時に,債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行った場合に限られる(民法424条の3第1項)。
⑥横領者等について破産手続が開始した後は,破産管財人による偏頗行為否認(破産法162条)との関係も問題になる。
⑦下級審には,受領者が弁済の原資を知っていたとも容易に知り得たとも認められないとして請求を棄却した例がある一方,騙取した者が配偶者の債務を弁済した事案で,弁済によって債務を免れた配偶者に,事情を知らず重大な過失がなくても返還を命じた例がある。
⑧振込みにより受取人の口座に入った金銭は受取人の預金になり,振込依頼人は受取人に対して不当利得の返還を請求し得るにとどまる(最高裁平成8年4月26日判決)。

第2 問題となる場面
1 お金の流れ

問題となるのは,次のようなお金の流れである。
①被害者(乙)の金銭を,横領者又は詐欺をした者(甲)が取得する。
②甲は,その金銭を,自分の債権者(丙)への借金の返済に充てる。
③甲には他に財産がなく,乙が甲に損害賠償等を請求しても回収できない。

甲に対する請求は法律上認められても,甲が無資力であれば実益がない。
そこで,乙の金銭で借金の返済を受けて利益を得た丙に対し,乙が直接返還を求めることができるかが問題になる。

2 典型的な場面

成年後見人は,自己のために被後見人の金銭を消費したときは,その消費の時から利息を付さなければならず,なお損害があるときは賠償の責任を負う(民法873条2項)。
後見人が被後見人の預金を引き出して自分の借金の返済に充てた場合は,後見人に対するこの請求のほか,返済を受けた債権者に対する請求が問題になる。

親権者は,子の財産を管理し,その財産に関する法律行為について子を代表する(民法824条本文)。

(続きを読む...)使い込まれたお金で借金を返してもらった債権者から取り戻せるか―騙取金・横領金による弁済と不当利得,最高裁昭和49年9月26日判決及び詐害行為取消し(AI作成)

不動産登記の登録免許税の納付方法―現金納付(納付書)・収入印紙・電子納付,3万円の基準,台紙及び還付(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 登録免許税の3つの納付方法1 現金納付が原則である2 収入印紙による納付3 電子納付4 クレジットカード等による納付第3 収入印紙で納付できるのは3万円までか1 条文の定め2 政令で定める3つの場合3 実務の案内との関係第4 現金納付の手順(納付書と領収証書)1 どこで納めるか2 納付書の入手と書き方3 領収証書を申請書と一緒に提出する第5 収入印紙で納付する手順(台紙・消印・契印)第6 オンライン申請をした場合の納付1 電子納付の方法2 納付期限は短い3 領収証書は発行されない4 連件申請の一括納付5 オンライン申請でも領収証書・収入印紙で納付できる第7 裁判所等の嘱託による登記の場合第8 税額が不足していた場合1 登記される前に不足が分かった場合2 登記された後に不足が分かった場合第9 納め過ぎた場合・申請を取り下げた場合1 登記機関からの通知による還付2 計算誤りによる過誤納の申出3 再使用証明4 電子納付をした後に登記をやめた場合5 最高裁判所の判断第10 関連記事第11 出典1 法令2 裁判例3 法務省・法務局の資料4 国税庁の資料5 裁判所の案内6 その他
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,不動産登記を申請する際の登録免許税を,どの方法で,どこで,どのように納めるかを扱う。
税額の計算(課税標準・税率・軽減措置)は扱わない。
調査基準日は令和8年9月26日である。
条文はe-Gov法令検索で,最高裁判例は裁判所ウェブサイトで確認し,法務省・法務局・国税庁・裁判所の案内は原本を取得して確認した。

2 結論

①不動産登記の登録免許税は,現金納付,収入印紙による納付及び電子納付のいずれかの方法で納める。
②法律上の原則は現金納付であり,金融機関等で納付書を使って納め,その領収証書を申請書と一緒に登記所へ提出する(登録免許税法21条)。
③税額が3万円以下の場合などには,収入印紙を貼り付けて提出することで納めることもできる(同法22条)。
④オンライン申請をした場合は,インターネットバンキング等による電子納付ができる(同法24条の2)。
⑤登記所の窓口へ現金を持参しても,登録免許税を納めることはできない。
⑥裁判所等が嘱託する登記(仮差押えの登記等)では,収入印紙で納められるのは税額が3万円以下の場合に限られると読め,これを超えるときは納付書で現金納付した領収証書を提出することになる(同法23条)。
⑦納め過ぎた場合や申請を取り下げた場合は,還付を受けるか,使用済みの印紙等について再使用証明を受けることができる(同法31条)。

第2 登録免許税の3つの納付方法
1 現金納付が原則である

登録免許税法21条は,登記を受ける者は,登録免許税を国に納付し,その納付に係る領収証書を申請書に貼り付けて登記所に提出しなければならないと定めている。
これが現金納付であり,法律上の原則である。

法務局の案内も,登録免許税は原則として現金で納付するとしている(法務局「登録免許税はどのような方法で納付しなければならないのですか?」(情報番号1313))。

2 収入印紙による納付

登録免許税法22条は,「当該登記等につき課されるべき登録免許税の額が三万円以下である場合その他政令で定める場合」には,税額に相当する金額の印紙を申請書に貼り付けて提出することにより納付できると定めている。
3万円を超える場合の扱いは,第3で説明する。

3 電子納付

登録免許税法24条の2第1項は,電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって財務省令で定めるものにより納付できると定めている。
財務省令は,その方法を,登記等の申請又は嘱託を行う場合に登記機関から得た納付情報により納付する方法と定めている(登録免許税法施行規則23条1項)。

不動産登記では,登記・供託オンライン申請システムで申請すると,収納機関番号,納付番号及び確認番号からなる納付情報が発行され,これを使ってインターネットバンキング,モバイルバンキング又はATMで納付する。
法務局の案内は,オンライン申請の場合には電子納付できるとしている(前記情報番号1313)。
書面で申請する場合は,現金納付又は収入印紙による納付によることになると考えられる。

4 クレジットカード等による納付

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不動産登記の国籍申出―日本人も対象・必要書類と相続登記の注意点(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 制度の概要1 根拠となる省令と施行日2 国籍等の意味3 制度の目的4 検索用情報の申出との関係第3 誰が申し出るか1 対象となる登記2 自然人に限られる3 国外に住所がある人4 申請人でない人第4 申請書の書き方1 記載例2 書いてはならない記載3 書かなかった場合第5 国籍等を証する情報1 原則2 日本国籍の人3 住民票コードによる省略4 外国籍の人5 相続登記の場合第6 既に登記名義人である人の単独申出1 単独申出2 添付情報と却下3 登記官による職権の記録第7 施行の前後の注意点1 申請日で様式が変わる2 システムの改修3 登記事項証明書には表示されない第8 関連記事第9 出典1 法令2 法務省・法務局の資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,令和8年10月5日から,所有権の保存又は移転の登記等を申請する際に「国籍等」を申し出ることになった制度を扱う。
売買,贈与,相続等で不動産の所有権の登記名義人になる人が対象であり,日本国籍の人も含まれる。
調査基準日は令和8年10月5日である。
改正省令,法務省民事局長通達,法務省のウェブサイト及び法務局の記載例は原本を取得して確認し,条文はe-Gov法令検索で確認した。

国籍等の申出は,令和7年4月21日に始まった「検索用情報」の申出の項目が一つ増えたものである。
検索用情報の申出と,それを使った職権による住所等変更登記(スマート変更登記)の全体像は,令和8年4月から義務化された不動産の住所等変更登記――期限,過料及びスマート変更登記で説明している。

2 結論

①令和8年10月5日以後に所有権の保存又は移転の登記等を申請するときは,所有権の登記名義人となる申請人について,氏名,氏名の振り仮名,住所,生年月日及び電子メールアドレスに加えて,国籍等を申請書に書く。
②国籍等とは,国籍の属する国,又は台湾若しくはヨルダン川西岸地区及びガザ地区をいう。
③国外に住所がある人も,国籍等を含めて申し出る必要がある。
④国籍等を証する情報として,日本国籍の人は,本籍地が記載された住民票の写し又は戸籍の附票の写し等を提供する。
⑤日本に住所がある日本国籍の人が住所を証する情報として住民票コードを提供し,登記官が住基ネットで日本国籍を確認できたときは,国籍等を証する情報は要らない。
⑥相続登記では,法務局の記載例が,日本国籍の相続人については相続人の戸籍の証明書で足りるとしている。
⑦申請書に「日本以外」「国籍不明」と書くことはできず,国籍等を書かなければ補正を求められる。
⑧国籍等は登記事項証明書には表示されず,登記所の内部情報として管理される。

売買では,通常は新たに所有者となる個人の買主について申し出る。売主であるというだけで,同じ申出の対象となるわけではない。法人はこの自然人向けの国籍等申出の対象ではなく,外国法人の設立準拠法国等とは別の手続である。海外居住者も申出の対象だが,スマート変更登記の対象にはならない。

メールアドレスは本人だけが使用するものを記載し,代理人や家族のメールアドレスは記載しない。本人のメールアドレスがない場合又は提供を希望しない場合は「なし」と記載する(法務省の申出案内)。

国籍情報の公開範囲は不動産登記で国籍は公開されるか―登記事項証明書・申請書閲覧と情報管理,記載漏れの補正と既存所有者の対応は不動産登記で国籍を申し出ないとどうなるか―補正・却下と既存所有者の対応で詳しく説明している。

第2 制度の概要
1 根拠となる省令と施行日

根拠は,不動産登記規則の一部を改正する省令(令和8年法務省令第23号)である。
この省令は令和8年3月31日に公布され,附則で令和8年10月5日から施行するとされている。
あわせて,法務省民事局長は,令和8年9月4日付け法務省民二第872号通達「不動産登記規則の一部を改正する省令の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて」で,登記官の取扱いを示している。
以下,この通達を「令和8年通達」という。

主な改正点は,次のとおりである。
①検索用情報管理ファイルに記録する事項に国籍等を加えた(改正後の不動産登記規則158条の38第1項6号)。

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他人の文章や講演を要約してブログ・SNSに載せると著作権侵害か―翻案,要約引用,公開の演説及び時事の事件の報道(AI作成)

目次第1 この記事の対象と確認の方法1 対象と結論の要旨2 確認の方法と資料の性質第2 要約は何の権利の問題になるか1 著作物と翻案2 ブログ・SNSへの掲載と公衆送信権第3 利用者の反論1―そもそも類似していない1 表現上の本質的な特徴を直接感得できるか2 約1万字を1000字程度にした要約3 アニメや映画の内容を文章で説明した記事が翻案とされた刑事事件第4 利用者の反論2―引用(32条1項)1 条文と判断の枠組み2 要約による引用3 出所の明示(48条)第5 利用者の反論3―公開の演説(40条1項)1 40条1項の要件2 裁判手続の陳述と未陳述の書面第6 利用者の反論4―時事の事件の報道(41条)1 41条の要件と要約2 報道に当たるかを判断した裁判例3 設例への当てはめ第7 削除請求と損害賠償の根拠1 削除請求(差止請求)2 損害賠償第8 動画を歪めて表示するソフトと著作者人格権1 問題となる権利2 ときめきメモリアル事件と請求の相手方3 名誉回復等の措置(115条)第9 実務のチェックリスト1 要約を載せる前の確認2 削除請求を受けたとき3 権利者として削除を求めるとき第10 関連記事第11 出典1 法令2 裁判例3 法務省の資料4 その他
第1 この記事の対象と確認の方法
1 対象と結論の要旨
(1) 取り上げる場面

他人の書籍,論文,新聞記事,講演,セミナー又は動画の内容を要約して,自分のブログ,SNS,社内報又は研修資料に載せることは多い。
本記事は,このような要約の掲載が著作権侵害になるかを,権利者の主張と利用者の反論に分けて整理し,削除請求と損害賠償の根拠を示す。
あわせて,動画を歪めて表示するソフトの提供と著作者人格権の問題を短く扱う。

(2) 結論の要旨

①原文の表現上の本質的な特徴を直接感得できるほど詳しい要約は,翻案に当たり得る。
②そのような要約をブログ等に載せることは,二次的著作物の公衆送信であり,原著作者が著作権法28条を介して有する公衆送信権(23条1項)の問題となる。
③要約が短く,事実やアイデアだけが原文と共通するにとどまるときは,翻案に当たらない。
④引用(32条1項)に伴う利用として47条の6第1項2号が挙げるのは翻訳だけであり,要約による引用が許されるかは解釈に委ねられているが,原文の趣旨に忠実な要約による引用を認めた下級審裁判例(東京地裁平成10年10月30日判決)がある。
⑤公開の政治上の演説(40条1項)と時事の事件の報道(41条)は,要件が限られており,一般の講演や記事の紹介に広く使える規定ではない。
⑥権利者は,差止請求(112条)として削除を求め,故意又は過失があれば損害賠償(民法709条,著作権法114条)を求めることができる。
⑦アニメや映画の内容を文章で詳しく説明したウェブサイトの記事が翻案に当たり引用にも当たらないとして,運営会社の代表者に有罪判決が言い渡された下級審裁判例(東京地裁令和8年4月16日判決)もある。

2 確認の方法と資料の性質
(1) 確認日と確認した資料

令和8年9月26日に,e-Gov法令検索の法令APIで著作権法の現行条文と施行前の改正を確認し,裁判所HPの裁判例検索で裁判例の書誌と判決全文を確認した。
裁判所HPに掲載されていない裁判例は,判例データベース(判例秘書)で判決本文を確認したものに限り,事件番号と判例秘書の判例番号を付けて取り上げた。
また,法務省HPに掲載されている令和7年司法試験論文式試験の選択科目(知的財産法)第2問の問題,出題の趣旨及び採点実感を読んだ。
以下で「採点実感」「出題の趣旨」の頁を示すときは,いずれも各PDFに印刷された頁である。

(2) 司法試験の資料の位置付け

出題の趣旨と採点実感は,司法試験考査委員が答案に何を期待したかを示す資料であり,判例でも行政解釈でもない。
本記事では,論点の並べ方と見落としやすい点を知るために用い,結論の根拠には条文と裁判例を用いる。

令和7年司法試験の設例では,政治家を目指すAが約1万字の文章Pを早朝の駅前広場で披露し,その様子を撮影した映像を編集した動画Qを自己のウェブサイトに掲載した。
個人ブロガーBは,動画Qが注目を集めていることを紹介する投稿に,文章Pを1000字程度に要約した文章P’と,これを批判する3000字程度の文章を載せた。
プログラマーCは,インターネット上の動画ファイルを視聴するとその映像が変容して表示される再生ソフトRを公開しており,自己のウェブサイトで再生ソフトRを用いて動画Qを見るよう書き込み,多くの人がこれを用いて動画Qを視聴した(問題21頁)。

(3) 施行前の改正

e-Gov法令検索の改正履歴によれば,著作権法には,確認日の時点で施行されていない改正が三つ登録されている。
令和9年4月1日に施行予定の学校教育法等の一部を改正する法律(令和8年法律第37号)による改正後の本文では,47条の6第1項3号から33条の3第1項が除かれ,48条1項1号と20条2項1号の引用する条項も変わる。

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取締役の報酬の配分を代表取締役に再一任できるか―会社法361条,決定方針及び自分の報酬だけを増やした場合の責任(AI作成)

目次第1 この記事の対象と確認の方法1 対象と結論の要旨2 確認の方法と資料の性質第2 会社法361条と令和元年改正1 会社法361条1項・4項の規律2 令和元年改正で入った361条7項と施行規則98条の53 決定方針が義務付けられる会社と開示第3 最高裁判例が認めてきた一任と再一任1 総額を定めて配分を取締役会に委ねること2 取締役会から社長への再一任3 退職慰労金の一任と再一任4 配分を決める取締役会決議と特別利害関係5 決まった報酬は一方的に減らせない第4 令和7年司法試験の出題の趣旨・採点実感が示した整理1 設例と資料の位置付け2 一任・再一任の許容性と「お手盛り防止」3 361条7項・施行規則98条の5についての誤解第5 代表取締役が自分の報酬だけを増やした場合に会社が主張できること1 善管注意義務違反2 株主総会決議遵守義務と説明義務3 採りにくい構成4 損害の範囲第6 責任追及の手続1 会社の訴えと株主代表訴訟2 期間と責任の免除第7 顧問先・同族会社で再一任を続ける場合の整え方1 株主総会決議と取締役会決議の文言2 配分の記録と説明の整合第8 チェックリスト1 会社又は株主が責任追及を検討するとき2 再一任を続ける会社が整えておくこと第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例3 法務省の資料4 その他
第1 この記事の対象と確認の方法
1 対象と結論の要旨
(1) 扱う場面

株主総会では取締役全員の報酬の総額の上限だけを決め,各取締役への配分を取締役会に一任し,取締役会がさらにその配分を代表取締役に一任する(再一任する)という決め方は,上場会社でも同族会社でも広く見られる。
本記事は,この決め方が会社法上許されるか,また,再一任を受けた代表取締役が自分の報酬だけを大幅に増やした場合に,会社が代表取締役に対して何を主張できるかを扱う。
令和7年司法試験の論文式試験(民事系科目第2問)は,まさにこの場面を設問としており,法務省が公表した出題の趣旨及び採点実感には,実務でも誤りやすい点が具体的に書かれている。

(2) 結論の要旨

①株主総会で報酬総額の上限を定め,配分を取締役会に委ねることは,最高裁判例で認められている。
②取締役会が配分を社長に委ね,社長が自分の報酬額を決めた事案で,最高裁は,社長が一存で自己の報酬額を決めても取締役会の決議の本旨に反しないと判示している。
③令和元年改正に伴って設けられた会社法施行規則98条の5第6号は,会社法361条7項の決定方針で定める事項として,個人別の報酬等の決定を取締役その他の第三者に委任する場合の定め方を定めているが,法務省は,同号は委任をすることができることの根拠となる規定ではないと説明している。
④他方,再一任を受けた代表取締役が自分の報酬だけを増やした場合には,善管注意義務違反,株主総会決議遵守義務違反,株主総会での説明義務違反などを理由に,会社が損害賠償を求める余地がある。
⑤ただし,これらの構成がどこまで認められるかを正面から判断した最高裁判例は確認できず,損害の範囲も増額分全部になるとは限らない。
⑥下級審では,再一任を受けた代表取締役は善管注意義務を負うが,報酬決定に至る判断過程や判断内容に明らかに不合理な点がある場合を除き責任を負わないとして,株主代表訴訟の請求を棄却した東京地裁平成30年4月12日判決(控訴棄却)がある。

2 確認の方法と資料の性質
(1) 確認した資料

令和8年9月26日に,会社法,会社法施行規則,会社計算規則及び民法の条文をe-Gov法令検索のデータで確認した。
裁判例は,裁判所HPの裁判例検索で裁判年月日又は掲載誌から個別ページを開き,判決全文のPDFで該当部分を確認したものを取り上げた。
裁判所HPに掲載されていない裁判例は,判例データベース(判例秘書)で判決本文(大阪地裁昭和28年6月29日判決については,同データベースに収録された要旨形式の本文)を確認したものに限り,事件番号と判例秘書の判例番号を付けて取り上げた。
令和元年改正の経緯は,法務省民事局のページ及び同ページに掲載された法律概要と省令の新旧対照条文で確認した。

(2) 司法試験の資料の位置付け

司法試験の出題の趣旨及び採点実感は,考査委員が答案に何を期待したかを説明した資料であり,判例でも行政解釈でもない。
また,設例の事実は試験のために作られたものである。
それでも,答案に現れた主張が会社の立場としてふさわしいか,用いた言葉の意味を正しく理解しているかを具体的に指摘しており,実務で主張を組み立てるときの点検表として使える。
本記事では,令和7年司法試験の設例に触れるときは,その旨を明示する。

第2 会社法361条と令和元年改正
1 会社法361条1項・4項の規律
(1) 株主総会で定めるもの

会社法361条1項は,「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において『報酬等』という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。」と定めている。
同項1号は,額が確定している報酬等について「その額」を掲げている。

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配偶者の運転する車に同乗中の事故と被害者側の過失―最高裁昭和51年3月25日判決,婚姻破綻の基準時及び運転者の死亡・相続(AI作成)

目次第1 この記事の対象と確認の方法1 対象と結論の要旨2 確認の方法と資料の性質第2 関係する条文1 過失相殺と責任の根拠2 連帯債務,混同及び相続の規定第3 被害者側の過失の一般論1 最高裁昭和42年6月27日判決2 被害者側に当たるとされた例と当たらないとされた例第4 夫婦の場合―最高裁昭和51年3月25日判決1 事案と判示2 合理性として挙げられた求償関係の一挙解決3 「特段の事情」の基準時4 夫婦の間でも損害賠償請求権は成立する第5 相手方の使用者に請求する場合―事業執行性1 外形から判断する類型2 暴行の類型3 業務運転中の口論からの威嚇運転4 使用者に対しても被害者側の過失は主張される第6 運転していた配偶者が死亡し同乗者が相続した場合1 問題の構造2 改正前の判例3 改正後の見解の対立4 自賠責保険への影響第7 実務での進め方1 過失割合の主張立証2 配偶者側の保険から支払を受けた場合の計算3 自分の側の保険4 チェックリスト第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 法務省の資料4 保険約款
第1 この記事の対象と確認の方法
1 対象と結論の要旨
(1) 取り上げる場面

夫又は妻が運転する自動車に同乗していた人が,第三者の運転する自動車との衝突で負傷し,その第三者やその使用者(勤務先の会社等)に損害賠償を請求する場面を取り上げる。
この場面では,運転していた配偶者にも過失があると,相手方から,配偶者の過失の分だけ賠償額を減らすべきであるという反論が出る。
これが民法722条2項のいわゆる「被害者側の過失」の問題である。
あわせて,相手方の運転者が業務中であった場合の使用者責任,事故後に夫婦関係が破綻した場合,運転していた配偶者が死亡して同乗者が相続した場合の法律関係も扱う。

(2) 結論の要旨

最高裁昭和51年3月25日判決は,夫の運転する自動車に同乗した妻の損害賠償について,夫婦の婚姻関係が既に破綻にひんしているなどの特段の事情のない限り,夫の過失を被害者側の過失として考慮できるとした。
内縁の夫婦についても同じ結論の最高裁判例があり,恋愛関係にとどまる男女や職場の同僚については被害者側の過失に当たらないとした最高裁判例がある。
これに対し,事故の後に婚姻関係が破綻した場合に「特段の事情」を事故時と請求時のどちらで判断するかについては,最高裁判例を確認できなかった。
また,運転していた配偶者が死亡し,同乗者が単独で相続した場合に,相手方の債務がどうなるかについては,平成29年の民法改正後の最高裁判例を確認できず,見解が分かれ得る状態にある。
なお,確認した損害保険会社2社の約款では,運転していた配偶者の任意保険の対人賠償責任保険は配偶者に対する賠償責任を補償の対象外としており,配偶者側からの回収は自賠責保険が中心になる。

2 確認の方法と資料の性質
(1) 確認日と資料

令和8年9月26日に,民法及び自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)の条文をe-Gov法令検索で取得し,改正前の条文は同日時点のe-Gov法令APIで令和2年3月31日時点の本文を取得した。
裁判例は,裁判所HPの裁判例検索で個別ページと判決全文を確認したものだけを取り上げる。
平成29年改正の立案段階の資料は,法務省HPに掲載された法制審議会民法(債権関係)部会の資料・議事録と,法務省民事局参事官室が作成した中間試案の補足説明で確認し,自動車保険の約款は保険会社がWebで公開しているPDFで確認した。
以下で「最高裁」とあるのは最高裁判所の判決であり,引用部分は判決全文の文言のとおりである。

(2) 司法試験の資料の位置付け

令和7年司法試験論文式試験の民事系科目第1問の設問1⑴及び⑵は,この記事の論点をほぼそのまま出題している。
本記事では,法務省が公表した「令和7年司法試験論文式試験問題出題の趣旨」と「令和7年司法試験の採点実感(民事系科目第1問)」も紹介する。
これらは考査委員が答案に期待した検討の筋道を示す試験資料であり,判例でも行政解釈でもない。
本文で引用するときも,その位置付けを明示する。

第2 関係する条文
1 過失相殺と責任の根拠
(1) 過失相殺

民法722条2項は,「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」と定める。
条文上は「被害者に過失があったとき」とされており,被害者以外の者の過失を考慮できるかは,後で述べる判例による解釈に委ねられている。

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高齢の親が契約した外貨建て保険―適合性原則違反・説明義務違反の裁判例と損害賠償請求の進め方(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 外貨建て保険に適用される規制1 特定保険契約と金融商品取引法の準用2 保険業法の禁止行為3 金融サービス提供法の説明義務と損害賠償責任4 民事上の請求の根拠第3 最高裁判所の判断枠組み1 適合性の原則からの著しい逸脱は不法行為となる2 契約締結前の説明義務違反は不法行為責任となる第4 外貨建て保険をめぐる下級審の裁判例1 適合性の原則からの逸脱を認めた東京地裁令和2年11月6日判決2 違反を否定した東京地裁令和2年1月31日判決3 書面の記載不足を理由とする錯誤等を否定した東京地裁令和3年2月4日判決4 判断を分けた事情第5 高齢者への保険募集に関する監督上の取組み1 金融庁の監督指針と生命保険協会のガイドライン2 民事責任との関係3 国民生活センターの注意喚起第6 家族として進める手順1 誰が請求するか2 集めるべき資料3 クーリング・オフ4 解約・一括受取りと損害の確定5 相談先と時効第7 相続との関係1 外貨建て保険の死亡保険金2 相続対策として勧められたときの確認点第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関の監督指針・通達4 業界団体・公的機関の資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

高齢の親が銀行や保険代理店の勧めで米ドル建て等の一時払終身保険や個人年金保険を契約し,円高や早期の解約によって,受取額が払い込んだ保険料を下回ることがある。
本記事は,家族の立場から,損害賠償の請求等ができるか,どのような事情が有利・不利に働くか,何を集めてどこに相談するかを整理し,相続対策として勧められた場合の確認点にも触れるものである。
調査基準日は令和8年9月26日であり,条文はe-Gov法令検索,最高裁判所の判決は裁判所ウェブサイト,東京地方裁判所の3件の判決は判例秘書で,それぞれ全文を確認した。

2 結論

①外貨建て保険は保険業法上の「特定保険契約」に当たり,金融商品取引法の適合性の原則等が準用される。
②適合性の原則から著しく逸脱した勧誘は不法行為となるというのが最高裁判所の枠組みであり,証券取引・為替取引の経験がなく為替差益を狙う意向もない81歳ないし82歳の顧客への勧誘について,保険会社に賠償を命じた裁判例がある。
③他方,事業の経験があり,積極的な運用の意向を書面で示していた顧客については,違反を否定した裁判例がある。
④請求するのは契約者である親本人である。判断能力が低下している場合は,本人の意思確認,代理権及び手続上の能力を確認し,必要に応じて成年後見等の利用を検討する。家族であるだけで当然に代理できるわけではない。
⑤勧誘時の説明義務違反を理由とする不法行為請求は,現行法では損害及び加害者を知った時から3年,不法行為の時から20年の時効と起算点を確認する。古い取引の経過措置にも注意する。

第2 外貨建て保険に適用される規制
1 特定保険契約と金融商品取引法の準用
(1) 外貨建て保険は特定保険契約に当たる

保険業法300条の2は,金利,通貨の価格等の変動により損失が生ずるおそれがある保険契約として内閣府令で定めるものを「特定保険契約」とし,金融商品取引法の規定を準用している。
保険業法施行規則234条の2第3号は,「保険金等の額を外国通貨をもって表示する保険契約」を特定保険契約に含めている。

(2) 適合性の原則と契約締結前の情報提供

準用される金融商品取引法40条1号は,「顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘」を行って投資者の保護に欠けることのないように業務を行うことを求めている。
同法37条の3は,契約の締結前に,契約の概要,通貨の価格等の変動により損失が生ずるおそれがあるときはその旨等の情報を提供しなければならないとし,一定の事項については「当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度により、説明をしなければならない」とする(同条2項)。
同条は,令和7年4月1日施行の改正(令和5年法律第79号)の前は書面の交付を求める規定であり,本記事の裁判例はいずれも改正前の契約に関するものである。

2 保険業法の禁止行為

保険業法300条1項は,保険契約者等に「虚偽のことを告げ」る行為(1号),不利益となるべき事実を告げずに既存の保険契約を消滅させて新たな保険契約の申込みをさせる行為(4号),不確実な事項について断定的判断を示す行為(7号)等を禁止している。
もっとも,これらは業務上の規制であり,東京地裁令和3年2月4日判決(後記第4の3)も,「取締法規に違反したからといって直ちに私法上も無効や違法であると即断することができるものではない」としている。

3 金融サービス提供法の説明義務と損害賠償責任

金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律(旧題名は「金融商品の販売等に関する法律」)は,保険契約の締結を「金融商品の販売」に含め(3条1項4号),通貨の価格等の変動を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれがあるときは,その旨等を販売までに説明しなければならないとする(4条1項1号)。
その説明は,「顧客の知識、経験、財産の状況及び当該金融商品の販売に係る契約を締結する目的に照らして、当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度によるものでなければならない」(同条2項)。
説明をしなかったときは,これによって生じた損害を賠償する責任を負い(同法6条),元本欠損額が損害の額と推定される(同法7条1項)。
同法6条は条文上故意又は過失を要件としていないので,民法709条による請求より立証の負担が軽い。

4 民事上の請求の根拠

(続きを読む...)高齢の親が契約した外貨建て保険―適合性原則違反・説明義務違反の裁判例と損害賠償請求の進め方(AI作成)

生前贈与の加算は亡くなった年でどう変わるか―加算額の早見表,100万円の控除,贈与税額控除と還付されない贈与税(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 加算の仕組みと経過措置1 相続税法19条1項2 亡くなった年で加算対象期間が変わる第3 早見表―毎年300万円を5年間贈与した翌年に亡くなった場合1 設例と前提2 死亡年ごとの加算額3 贈与の日をいつとみるか4 毎年の贈与を続ける意味第4 加算された贈与の贈与税と,還付されない贈与税1 控除される贈与税の額2 控除しきれない贈与税は還付されない第5 贈与税を払ってでも移すことの損得1 贈与税の実効税率2 相続税の税率3 比べ方と前提第6 加算の対象になる人とならない人1 相続又は遺贈により財産を取得した人に限られる2 孫を生命保険金の受取人にした場合第7 相続時精算課税との違い1 年110万円の基礎控除と加算の範囲2 暦年課税との比較第8 民法上の扱いは税とは別の物差し1 特別受益と遺留分2 税の7年と民法の10年を混同しない第9 関連記事第10 出典1 法令2 通達・国税庁の解説3 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

令和5年度の税制改正により,相続税の計算に足し戻される生前贈与(暦年課税)の範囲は,相続開始前3年以内から7年以内へ広がった。
もっとも,7年がそのまま適用されるのは令和13年以後の相続であり,それまでは亡くなった年によって範囲が変わる。
本記事は,子に毎年300万円ずつ5年間贈与した翌年に親が亡くなった設例で死亡年ごとの加算額を計算し,加算時の贈与税の扱い,贈与税を払って多めに贈与する損得,孫への贈与及び相続時精算課税との違いを整理する。

調査基準日は令和8年9月26日である。
条文はe-Gov法令検索(未施行の規定は施行日の版)で,国税庁の解説はタックスアンサー及び相続税法基本通達で確認した。
税額は本記事の試算であり,実際の申告では個別の事情により結果が変わる。

本記事の加算対象期間を使う前に,その入金によって贈与が成立し,受贈者に財産が帰属したかを確認する。贈与が成立しておらず,死亡時にも被相続人に帰属する名義預金は,期間内の贈与を足し戻す問題ではなく,本来の相続財産の範囲の問題である。そのため,7年以上前の入金というだけで課税対象から外れるとはいえない。

2 結論

①足し戻される贈与は,死亡の日が令和8年12月31日までなら3年以内,令和9年から令和12年までなら令和6年1月1日以後,令和13年1月1日以後なら7年以内のものである。
②3年より前の贈与は,その合計額から100万円を控除した残額だけが加算される。
③設例の加算額は,令和9年の死亡で800万円又は900万円,令和10年の死亡で1100万円,令和11年以後の死亡で1400万円であり,1500万円全額が足し戻されることはない。
④加算された贈与の贈与税は相続税額から控除されるが,控除しきれない分は還付されない。
⑤足し戻しの対象は,原則として相続又は遺贈により財産を取得した人に限られるが,孫を生命保険金の受取人にすると対象になる。
⑥税の加算期間(最長7年)と,民法の遺留分算定の基礎(相続人への贈与は10年)及び特別受益(期間の限定なし)は別の物差しである。

第2 加算の仕組みと経過措置
1 相続税法19条1項
(1) 加算の対象と期間

相続税法19条1項は,「相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前七年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、」その贈与財産の価額を相続税の課税価格に加算すると定める。
加算するのは贈与の時の価額である。
タックスアンサー「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」は,「基礎控除額110万円以下の贈与財産や死亡した年に贈与されている財産の価額も加算することになります。」としている。

(2) 3年より前の部分から控除する100万円

同項は,加算する価額を,「(加算対象贈与財産のうち当該相続の開始前三年以内に取得した財産以外の財産にあつては、当該財産の価額の合計額から百万円を控除した残額)」としている。
100万円は,毎年の贈与ごとではなく,3年より前の贈与の合計額から1回だけ控除される。
相続税法基本通達19-1の(注)は,財産を取得した者ごとに100万円を控除すること,合計額が100万円以下なら残額は零となることを明らかにしている。

2 亡くなった年で加算対象期間が変わる
(1) 附則19条1項・2項(現行)

7年への延長は,所得税法等の一部を改正する法律(令和5年法律第3号)附則19条の経過措置により段階的に適用される。

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名義預金とは―判断基準・生前贈与との違い・相続税と遺産分割(AI作成)

目次

第1 名義預金とは―判断の出発点1 名義だけで持ち主は決まらない2 結論3 判断材料と確認資料の対応第2 判断基準――東京地裁平成20年10月17日判決1 事案と判断の枠組み2 名義と管理運用の評価3 贈与の手続をした財産との対比4 控訴審――東京高裁平成21年4月16日判決第3 家族名義の口座で資金を回していた事案――東京地裁平成30年4月24日判決第4 国税不服審判所の裁決に見る贈与の成否1 令和3年9月17日裁決の事案2 知らされていなかった子の名義預金――贈与は不成立3 親権者の母が管理していた子の名義預金――贈与が成立4 被相続人名義の預金の移し替えと重加算税5 妻名義の口座への入金を贈与としなかった裁決6 家族名義でも相続財産と認められなかった預金第5 民法の贈与と名義預金第6 生前贈与と認められるための証拠1 証拠の組み方2 年110万円以下の贈与3 相続時精算課税を選ぶ場合第7 生前贈与加算と名義預金の違い1 生前贈与加算は贈与があったことが前提2 名義預金との違い3 手渡しで成立した贈与が加算された例第8 遺産分割調停の合意は税務署を拘束しない第9 遺産分割・遺留分での名義預金1 遺産の範囲の争いと遺産確認の訴え2 贈与と認められる場合の特別受益と遺留分3 税務の判断と民事の判断の関係4 税務調査で名義預金を指摘されたときの資料整理第10 名義預金についてのよくある質問1 子名義なら子の財産になるか2 110万円以下なら名義預金にならないか3 契約書や贈与税申告がないと贈与は無効か4 親が未成年者の通帳を保管していると名義預金か5 7年以上前の入金なら相続税の対象外か6 生前に元の口座へ戻せば必ず非課税か第11 関連記事第12 出典1 法令2 国税庁の資料3 裁判例4 裁決
第1 名義預金とは―判断の出発点
1 名義だけで持ち主は決まらない

名義預金とは,口座の名義人と実質的な財産の持ち主が異なる預金を指す実務上の呼び方であり,法令上の用語ではない。例えば,親が子名義の口座へ積み立てても,贈与の合意がなく,親が自分の財産として管理している場合には,親の財産として相続税の対象になることがある。反対に,贈与が成立して子に帰属している預金まで,一律に名義預金とすることはできない。

判断では,誰が出資したかだけでなく,贈与の申込みと受諾,管理の目的,収益・使用の実態及び名義を付けた経緯を確認する。本記事は,判断基準,贈与の証拠,相続税と遺産分割の関係を裁判例と裁決に即して説明する。生前に整理する具体的な手順は,名義預金を生前に解消する方法で扱う。

令和8年10月11日に定義・証拠の説明及び公開資料へのリンクを見直した。裁判所の判決,国税不服審判所の裁決及び国税庁の税務解説は,それぞれ資料の性質が異なる。

2 結論

①名義預金に当たるかは,出捐者,管理運用の状況,利益の帰属者,名義人との関係,名義の経緯等を総合考慮して判断される(東京地裁平成20年10月17日判決)。
②夫婦間では,妻名義の預金を妻が自ら管理運用していても,それだけでは妻の財産とはされなかった(同判決及びその控訴審判決)。
③受贈者が口座の存在を知らず,通帳等を贈与者が保管していた子の名義預金について,贈与の成立を否定した裁決がある(国税不服審判所令和3年9月17日裁決)。
④贈与契約書,受贈者自身による口座の管理,贈与税の申告及び受贈者による使用が,贈与を示す証拠になる。
⑤遺産分割調停での当事者の合意は,課税庁を拘束しない(前記東京地裁判決)。
⑥名義預金は「贈与がなかった」ために相続財産そのものとされるもので,「贈与があった」上で足し戻す生前贈与加算(相続税法19条)とは別の問題である。

3 判断材料と確認資料の対応

次の項目は点数式のチェックリストではなく,事実を総合して評価するための整理である。一つに該当すれば結論が決まるというものではない。

判断材料確認する資料と注意点資金の出所入金元の通帳,給与・相続・贈与等の資料。親の出資でも,贈与が成立していれば子の財産になり得る。贈与の合意契約書,手紙,メッセージ,受諾・引渡しの経緯。契約書がないことだけで不成立と決めない。管理・運用通帳・印章・カードの保管,取引の指示,代理の目的。未成年者のための親権者管理を区別する。利益と使用利息の入金先,払戻し,生活費・投資等の使途。貯蓄を続けること自体は贈与を否定しない。名義の経緯と申告口座開設資料,家族関係,贈与税・所得税・相続税の申告。名義・申告の一事情だけで帰属を決めない。
第2 判断基準――東京地裁平成20年10月17日判決
1 事案と判断の枠組み

東京地裁平成20年10月17日判決(平成19年(行ウ)第19号,税務訴訟資料258号順号11053)は,平成13年4月15日に亡くなった夫の相続について,妻名義の有価証券及び預金(以下「妻名義預金等」という。)が夫の相続財産に当たるかが争われた事案である。
夫は全財産を妻に相続させる遺言をしており,先妻との子2名が遺留分減殺を請求して遺産分割調停が成立した後,子らの相続税について税務署長が妻名義預金等を遺産に加えて更正処分をし,子らがその取消しを求めた。
妻名義預金等の原資がいずれも夫の出捐によるものであることには,争いがなかった。

同判決は,被相続人以外の者の名義の財産であっても,相続開始時に被相続人に帰属するものであれば相続税の課税対象となるとし,その判断は「当該財産又はその購入原資の出捐者、当該財産の管理及び運用の状況、当該財産から生ずる利益の帰属者、被相続人と当該財産の名義人並びに当該財産の管理及び運用をする者との関係、当該財産の名義人がその名義を有することになった経緯等を総合考慮して判断するのが相当である」とした。

2 名義と管理運用の評価

同判決は,我が国においては「夫が自己の財産を、自己の扶養する妻名義の預金等の形態で保有するのも珍しいことではないというのが公知の事実である」として,妻名義であることの一事をもって妻の所有と断ずることはできないとした。
また,妻が自らの判断で主体的に取引をしていたこと自体は認めたが,妻は夫名義の財産の管理運用も同じようにしていたので,「夫婦間においては、妻が夫の財産について管理及び運用をすることがさほど不自然であるということはできないから、これを殊更重視することはできず」とした。
利息の一部が妻の年金の入金口座に入っていたことも,妻が預金を解約して他の用途に使用した事情がうかがわれないことから,結論を左右しなかった。

3 贈与の手続をした財産との対比

夫は平成2年に土地建物の持分の一部を妻に贈与しており,その際は贈与契約書を作り,妻が贈与税の申告書(納付すべき税額がない旨のもの)を提出していた。
同判決は,自分の死後の妻の生活を案じていた夫が,遺言とは別に財産を妻名義にしておこうと考えたとしても「あながち不自然とはいい難い」とし,妻名義預金等については「そのような手続を何ら採っていない」ことも考慮して,生前贈与を認めなかった。

4 控訴審――東京高裁平成21年4月16日判決

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親の賃貸建物だけを子の資産管理会社へ売る相続対策―無償返還届出,時価での売買,所得税・相続税・法人税及び遺留分(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事が扱う相続対策2 結論第2 この対策で減る部分と減らない部分1 減るのは将来の家賃の蓄積である2 売却の時点で評価額がむしろ増えることがある第3 土地の貸し借りと借地権の認定課税1 相当の地代と無償返還届出書2 親の相続のときの土地の評価3 借地権割合による控除を否定した裁判例第4 売買価額は時価による1 時価の2分の1未満なら親に譲渡所得課税2 2分の1以上でも課税を受けることがある3 死亡の6日前に同族会社へ不動産を売った事件4 時価をどう決めるか第5 同族会社の行為計算否認と評価通達61 相続税法64条と地上権の設定を否認した事件2 評価通達6と貸付用不動産の評価の見直し(案)第6 小規模宅地等の特例1 特定同族会社事業用宅地等には当たらない2 相続開始前3年以内の新たな貸付け第7 民法から見た注意点1 会社に積み上がる家賃は遺産に入らない2 不相当な対価による売買と負担付贈与3 会社の設立資金や株式を親が出した場合第8 実行前に確認する事項と専門家の説明義務1 確認する事項2 スキームを提案する税理士の説明義務第9 関連記事第10 出典1 法令2 通達・通達案3 国税庁の解説4 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事が扱う相続対策

アパート等の賃貸建物とその敷地を持つ親が,子が株主となる会社(いわゆる資産管理会社)を設立し,敷地は親が持ったまま,建物だけをその会社に売るという相続対策がある。
売却後の家賃は会社の収入になるので,親の手元に家賃が積み上がらず,将来の相続財産の増加を抑えられるというのがその狙いである。
本記事は,この対策の効果の範囲,土地の貸借と売買価額に関する課税,同族会社に関する否認規定,小規模宅地等の特例並びに遺留分及び特別受益を,条文,国税庁の通達及び裁判例で確認して整理するものである。

調査基準日は令和8年9月26日である。
条文はe-Gov法令検索で,通達は国税庁ウェブサイトで確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトで全文を確認したもののほか,同ウェブサイト未掲載の2件は判例秘書で全文を確認した。
数値例は本記事の試算であり,個別の物件については税理士による評価と試算が必要である。

2 結論

①この対策で抑えられるのは売却後の家賃の蓄積だけであり,売却の時点では建物が現金に変わるだけである。
②相続税の評価額で比べると,貸家として低く評価されていた建物が額面どおりの現金に変わるので,売却の時点で親の課税財産はむしろ増えることがある。
③会社が親の土地の上に建物を持つので,相当の地代を支払うか「土地の無償返還に関する届出書」を提出して借地権の認定課税を避けるのが通常であり,届出書を提出した土地は,親の相続のときに自用地としての価額の80%(使用貸借なら100%)で評価される。
④売買価額は時価によるべきであり,時価の2分の1未満なら親に時価による譲渡所得課税が及び,2分の1以上でも会社の受贈益と株主である子へのみなし贈与の課税を受けることがある。
⑤会社の事業は不動産の貸付けなので,親の土地は特定同族会社事業用宅地等に当たらず,小規模宅地等の特例を使えるとしても貸付事業用宅地等(200㎡・50%減額)である。
⑥民法上は,会社に積み上がる家賃は遺産にも遺留分を算定するための財産にも入らないが,不相当な対価による売買は負担付贈与とみなされることがあり,会社の設立資金を親が出せば特別受益や遺留分の問題になる。

第2 この対策で減る部分と減らない部分
1 減るのは将来の家賃の蓄積である

建物を会社に売った後の家賃は会社の収入になり,経費,地代及び法人税等を差し引いた残りは会社の財産として積み上がる。
会社の株式を子が持っていれば,その価値は子に帰属し,その分だけ親の財産が将来増えることを抑えられる。
他方で,売却の時点では,親の財産のうち建物が売買代金に置き換わるだけであり,売却そのもので親の財産が減るわけではない。

2 売却の時点で評価額がむしろ増えることがある
(1) 建物と土地の相続税評価

財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)89は,家屋を固定資産税評価額に倍率を乗じて評価するとし,国税庁のタックスアンサー「建築中の家屋の評価」は,その倍率を原則として1.0と説明している。
タックスアンサー「土地家屋の評価」は,「課税時期において貸家の用に供されている家屋は、その家屋の固定資産税評価額に借家権割合と賃貸割合を乗じた価額を、その家屋の固定資産税評価額から控除して評価します。」としている(評価通達93・94)。
貸家の敷地(貸家建付地)は,自用地としての価額から,自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合を控除して評価する(評価通達26)。
建物を会社に売ると,親の側では,建物に代わって売買代金の現金が入り,敷地は貸家建付地から会社に貸している土地に変わる。

(2) 本記事の試算

固定資産税評価額2,000万円,時価3,000万円の賃貸建物(賃貸割合100%,借家権割合30%)と,自用地としての価額1億円,借地権割合60%の敷地を,時価で売った場合の親の財産の評価額は,次のとおりである(譲渡所得税と売却後の地代は考慮していない。)。

項目売却前売却後(無償返還届出・賃貸借)売却後(使用貸借)建物又は現金建物1,400万円(2,000万円×0.7)現金3,000万円現金3,000万円敷地8,200万円(貸家建付地)8,000万円(自用地の80%)1億円(自用地)合計9,600万円1億1,000万円1億3,000万円

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会社を辞めて早期リタイア(FIRE)する前に確認すること―退職の申入れ,失業給付の「労働の意思」,健康保険の任意継続,国民年金及び住民税(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 退職の申入れ1 期間の定めのない雇用2 期間の定めのある雇用3 退職願の撤回第3 雇用保険の基本手当1 働くつもりがなければ受けられない2 後から働く気になった場合第4 健康保険1 三つの選択肢2 任意継続3 国民健康保険4 家族の被扶養者第5 国民年金1 第2号被保険者から第1号被保険者へ2 配偶者の手続3 60歳以上で退職する場合4 確定拠出年金第6 住民税と所得税1 住民税は退職した翌年度も課税される2 年の途中で退職した場合の所得税3 退職金の税第7 家族の扶養義務がある場合第8 関連記事第9 出典1 法令2 通達・通知3 裁判例4 所管行政機関等の案内
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,資産形成の結果として,会社を辞めて働かない生活に入ること(いわゆるFIRE。本記事では「早期リタイア」という。)を考える会社員に向けて,早期リタイアを決める前に確認しておくべき法律,社会保険及び税の扱いを,退職の手続から順に整理するものである。
投資の判断や,早期リタイアに必要な資産額は扱わない。

調査基準日は令和8年9月26日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文で確認し,手続の運用はハローワーク,全国健康保険協会(協会けんぽ)及び日本年金機構の案内で確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイト又は判例秘書で全文を確認したものに限っている。

2 結論

①期間の定めのない雇用は,退職の申入れの日から2週間を経過することによって終了する(民法627条1項)。
②退職願を提出し,退職を承認する権限を持つ者がこれを受理すると,その時点で合意解約が成立し,撤回できなくなることがある。
③雇用保険の基本手当は,「労働の意思及び能力」があるのに職業に就くことができない人に支給されるものなので,働くつもりがない早期リタイアでは受けられない。
④健康保険は,任意継続(資格喪失日から20日以内に申出,期間は2年,保険料は全額自己負担),国民健康保険又は家族の健康保険の被扶養者から選ぶことになる。
⑤60歳未満で退職すると,国民年金の第1号被保険者となり,14日以内に届出をして保険料を自分で納めることになる。
⑥住民税は前年の所得に課税されるので,退職した翌年度も課税される。
⑦国民健康保険料の非自発的失業者の軽減は,倒産・解雇等による離職者等が対象であり,働くつもりのない早期リタイアでは受けられない。
⑧企業型確定拠出年金の資産は,資格喪失の翌月から6か月以内に移換の手続をしないと,国民年金基金連合会へ自動的に移換される。
⑨退職所得の受給に関する申告書を出さないと,退職金から20.42%の所得税等が源泉徴収され,確定申告で精算することになる。

第2 退職の申入れ
1 期間の定めのない雇用
(1) 申入れから2週間で終了する

民法627条1項は,「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」と定める。
同条2項は,期間によって報酬を定めた場合の申入れの時期を制限しているが,その対象は「使用者からの解約の申入れ」に限られている。
したがって,月給制の正社員であっても,労働者からの申入れについては同条1項の2週間が基準になる。

(2) 就業規則の予告期間との関係

東京地裁昭和51年10月29日判決(昭和50年(ワ)第9187号,判例秘書の判例番号 L03130273)は,退職を希望する場合は1か月前(役付者は6か月前)までに退職願を提出し,会社の許可を得なければならないとする就業規則について,「民法第六二七条の予告期間は、使用者のためにはこれを延長できないものと解するのが相当である」とし,同条に抵触しない範囲でのみ有効であるとした。
同判決は,退職に会社の許可を要するとする部分も,効力を有しないとした。
ただし,同判決は,予告期間の延長の可否については説が分かれているとした上での一つの地裁判決であり,当時の民法627条2項は労働者からの申入れにも適用されていた。
就業規則の予告期間に法的な拘束力がない場合でも,引継ぎを含めて円満に退職するため,その定めに沿って早めに申し出ておくことが考えられる。

2 期間の定めのある雇用

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「静かな退職」の社員に会社は何ができるか―最低限の勤務,業務命令違反及び勤務成績不良の区別(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 契約で約束した仕事と「それ以上」の区別1 労働者の義務は労働契約の内容で決まる2 「最低限の仕事」が問題になる場合とならない場合第3 業務命令に従う義務と拒否1 残業命令2 精密検診の受診命令3 通常業務から外して命じる作業4 配転命令5 業務命令の有効性を確かめる順序第4 業務命令違反を懲戒するときの要件1 就業規則の定めと周知2 処分の相当性3 下級審の判断例第5 評価が低いだけでは解雇は難しい1 労働契約法16条2 セガ・エンタープライゼス事件3 指示された業務に就かない状態が続いた場合4 評価と処遇に反映するときの記録第6 精神的な不調が疑われる場合第7 関連記事第8 出典1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

必要最低限の仕事だけをこなし,残業,担当外の仕事,昇進等を避ける働き方は,「静かな退職」と呼ばれることがある。
資産形成が進んだ人に向けて,嫌な仕事は断り,評価や査定を気にせずに働けばよいと勧める発信も見られる。
本記事は,このような働き方をする社員について,使用者が法的に何を求めることができ,何ができないかを,業務命令,懲戒及び解雇の順に整理するものである。
従業員の側から見れば,どこまでが労働契約上の義務で,どこからが断ってよいものかを確かめるための整理でもある。

調査基準日は令和8年9月26日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文で確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で全文を確認したものに限っている。

2 結論

①労働契約で約束した仕事を所定の水準で果たしている限り,それ以上の熱意や無償の貢献がないことは,それだけでは懲戒や解雇の理由になりにくい。
②他方で,就業規則等に根拠があり,内容が合理的な業務命令(残業命令,精密検診の受診命令,通常業務から外して命じる作業,配転命令等)には,労働者が従う義務がある。
③業務命令を拒否した社員を懲戒するには,就業規則に懲戒の種別及び事由を定めて周知していることが必要であり,処分は行為の性質及び態様その他の事情に照らして相当なものでなければならない(労働契約法15条)。
④評価が低いことだけを理由とする解雇は難しく,相対評価で下位にあるというだけでは足りないとした裁判例がある。
⑤精神的な不調が疑われる場合は,懲戒の前に,受診や休職等の対応を検討する必要がある。

第2 契約で約束した仕事と「それ以上」の区別
1 労働者の義務は労働契約の内容で決まる
(1) 労働契約と就業規則

労働契約法6条は,「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」と定める。
同法7条本文は,使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には,労働契約の内容はその就業規則で定める労働条件によるものとしている。
したがって,社員が何をしなければならないかは,個別の労働契約と,周知された合理的な就業規則によって決まる。

(2) 義務を誠実に履行する義務

同法3条4項は,「労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。」と定める。
この規定は,労働者と使用者の双方に,契約上の義務を誠実に履行することを求めるものである。
契約の範囲を超える仕事を無償で引き受けることまで求めるものではないと考えられる。

2 「最低限の仕事」が問題になる場合とならない場合

契約で求められた職務を所定の水準で果たし,正当な指示に従っている社員について,熱意や自発的な提案が乏しいことだけを取り上げて懲戒しても,就業規則所定の懲戒事由に当たらないか,労働契約法15条の相当性を欠くと判断されやすいと考えられる。
これに対し,①正当な業務命令を拒否する,②担当業務を放置する,③期待される水準に達しない状態が続く,という場合は,それぞれ別の法的問題になる。
①と②は主に懲戒の問題として,③は評価・処遇と普通解雇の問題として検討することになる。

第3 業務命令に従う義務と拒否

(続きを読む...)「静かな退職」の社員に会社は何ができるか―最低限の勤務,業務命令違反及び勤務成績不良の区別(AI作成)

令和9年から0歳でも使えるNISA――未成年者のつみたて投資枠の仕組み,払出し制限,親権者の管理,贈与税及び離婚・相続での注意(AI作成)

目次第1 結論――子本人名義の口座を親権者が管理する制度1 制度の概要2 本記事の対象と基準日第2 制度の骨格1 成人と同じ非課税口座の中の勘定2 投資枠と上限3 対象商品4 施行日と政令・省令第3 払出しの制限と18歳以後の扱い1 12歳になるまで――災害等による全額の払出しだけ2 12歳以後――教育費又は生活費のための払出し3 売却代金や分配金の受け皿4 制限に反したとき5 18歳以後と金融機関の変更第4 旧ジュニアNISAとの違い第5 親権者による管理1 子本人の財産を親権者が管理する2 払出しの使い道第6 贈与税と名義預金1 親が出すお金は子への贈与2 名義預金とされないために第7 離婚・相続での注意1 離婚時の財産分与2 親が亡くなった場合3 子が亡くなった場合第8 関連記事第9 出典1 法令2 財務省・金融庁・国税庁の資料3 裁判例4 裁決
第1 結論――子本人名義の口座を親権者が管理する制度
1 制度の概要
(1) 法令上の名称と通称

令和8年度の税制改正(令和8年法律第12号)により,令和9年1月1日から,0歳から17歳までの子もNISAのつみたて投資枠を使えるようになる。
法令上の名称は「未成年者特定累積投資勘定」である。
いわゆる「こどもNISA」は証券会社や報道で使われている通称であり,財務省・金融庁の資料では「未成年者のつみたて投資枠」等と表現されている。

(2) 五つの要点

制度の要点は,次のとおりである。
①口座は子本人の名義であり,成人と同じ非課税口座の中に設けられる。
②年間の投資枠は60万円,非課税で保有できる上限は600万円で,成長投資枠は無い。
③子が12歳になるまでは,災害等の特別な事情による全額の払出ししかできない。
④12歳以後は,子の教育費又は生活費に充てるための払出しができる。
⑤18歳になった後は,成人のつみたて投資枠に移行する。

(3) 子の財産であることの意味

法律上は子の財産であるから,親が出したお金は子への贈与となり,その管理は親権者が子を代表して行うことになる。
そのため,贈与税,いわゆる名義預金,離婚時の財産分与及び相続の場面で,通常の親名義の投資とは違う注意が要る。

2 本記事の対象と基準日

本記事は,令和8年9月26日現在の法令(令和9年1月1日施行の改正後の租税特別措置法,同法施行令及び同法施行規則を含む。)と,財務省・金融庁の公表資料を基に整理するものである。
制度はまだ始まっていないが,国税庁の租税特別措置法関係通達(措置法第37条の14関係)は,令和8年の改正で,この制度を前提とした取扱いを定めている。
他方,同日現在,国税庁のNISAの案内ページと金融庁のNISA特設ウェブサイトには,この制度の説明は掲載されていない。
対象商品の要件を定める告示や,金融機関の実務上の手続は,今後示されるものがあるため,実際に口座を開く際は金融機関の説明を確認する必要がある。

旧ジュニアNISAを含む,名義人が亡くなった場合のNISA口座の扱いは,相続発生時のNISA口座の取扱いで整理している。

第2 制度の骨格
1 成人と同じ非課税口座の中の勘定
(1) 定義

改正後の租税特別措置法37条の14第4項1号は,未成年者特定累積投資勘定を,「特定累積投資勘定のうち、非課税口座を開設している居住者又は恒久的施設を有する非居住者がその年一月一日において十八歳未満である年及び出生した日の属する年の各年において設けられるもの」と定義している。
つまり,旧ジュニアNISAのような別の口座ではなく,成人と同じ「非課税口座」の中の,つみたて投資枠(特定累積投資勘定)のうち,18歳未満の年に設けられるものという位置付けである。

(2) 年齢の下限の撤廃

現行の同条5項1号は,非課税口座を開設できる者を「その年一月一日において十八歳以上である者に限る」としているが,改正後の同号からはこの括弧書が削られた。

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職場の飲み会・歓送迎会・接待は業務か――参加の強制,労働時間,労災及び飲酒の強要(AI作成)

目次第1 結論――参加の強制と業務との結び付きで分かれる1 飲み会であることだけでは決まらない2 本記事の対象第2 労働時間・残業代――参加が義務付けられているか1 労働時間の判断基準2 懇親会の時間が労働時間とされた例と否定された例3 残業代を請求する場合の注意第3 労災――飲み会の最中と帰り道の事故1 業務災害と通勤災害の区別2 行政解釈――会社行事・接待・同僚との懇親会3 最高裁が業務災害と認めた例――行橋労基署長事件4 業務災害を否定した例――会社負担の忘年会5 飲み会の後の帰宅途中の事故6 接待・社員との会合と過労死・精神障害第4 飲酒の強要と宴席でのハラスメント1 ハラスメントの「職場」と勤務時間外の懇親の場2 飲酒の強要と会社の責任3 勤務時間外の会食・懇親会での言動と会社の責任第5 実務上の対応1 従業員の側2 会社の側第6 関連記事第7 出典1 法令2 裁判例3 厚生労働省の指針・通達・資料
第1 結論――参加の強制と業務との結び付きで分かれる
1 飲み会であることだけでは決まらない
(1) 判断の視点

職場の飲み会,歓送迎会,忘年会,接待又は会社の行事が「業務」に当たるかは,飲食を伴う会であるという外形だけでは決まらない。
参加が命じられ又は事実上強制されていたか,会の目的が事業の運営とどの程度結び付いていたか,費用や出勤扱いがどうなっていたかを,問題となる場面ごとに確認する必要がある。

(2) 三つの場面

問題となる場面は,主に次の三つである。
①その時間が労働基準法上の労働時間として賃金の対象になるか
②会の最中や帰り道の事故が労災保険の業務災害又は通勤災害になるか
③会の席での飲酒の強要や嫌がらせについて,パワーハラスメント又はセクシュアルハラスメントとして会社が措置義務を負い,又は損害賠償責任を負うか

三つの場面では,法律上の要件も判断の枠組みも異なる。
たとえば,会の費用を会社が負担していても,それだけで参加時間が労働時間になるわけではない。
他方,参加が任意の会であっても,その席での言動は,実質上職務の延長と評価されればハラスメントの「職場」での言動になり得る。

2 本記事の対象
(1) 基準日と対象

本記事は,令和8年9月26日現在の法令,厚生労働省の指針・通達及び裁判所ウェブサイトに掲載された裁判例を基に,民間企業の労働者を中心に整理するものである。
公務員の公務災害は,地方公務員災害補償法等の別の制度によるため,裁判例を紹介する範囲でのみ触れる。

(2) 条番号の変更

パワーハラスメントの防止措置義務を定める労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「労働施策総合推進法」という。)の条番号は,令和8年10月1日から変わる。
本記事では,現行の30条の2を基本とし,同日以後の条番号を併記する。

第2 労働時間・残業代――参加が義務付けられているか
1 労働時間の判断基準
(1) 最高裁の定義

労働基準法32条は,休憩時間を除き1週間について40時間,1日について8時間を超えて労働させてはならないと定めている。
ここでいう労働時間について,最高裁判所第一小法廷平成12年3月9日判決(三菱重工業長崎造船所事件)は,「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいうとした。
同判決は,労働時間に当たるかどうかは,指揮命令下に置かれたものと評価できるかどうかにより客観的に定まり,労働契約や就業規則等の定めによって決まるものではないとしている。

同判決は,業務の準備行為等を使用者から義務付けられ,又はこれを余儀なくされたときは,所定労働時間外に行うものとされていても,特段の事情のない限り指揮命令下に置かれたものと評価できるとした。
もっとも,同判決の事案は作業服の更衣や保護具の着脱等であり,懇親会を扱ったものではない。

(2) 厚生労働省のガイドライン

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家庭の電気料金の値上げに国の認可は必要か―規制料金(特定小売供給約款)と自由料金の違い,経過措置の現状及び争い方(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 二つの料金はどう違うか1 小売電気事業は登録制であり,料金の認可はない2 規制料金は経過措置として残されている3 対象は低圧の需要家であり,高圧等は既に自由化されていた4 自分の契約がどちらかを確かめる方法第3 規制料金の値上げの手続1 認可の基準2 公聴会と関係閣僚会議3 届出で足りる変更4 令和5年の値上げ認可5 燃料費調整には上限がある第4 規制料金はいつまで続くか1 指定旧供給区域の指定の解除2 令和8年9月時点の状況第5 自由料金の値上げ1 契約と約款の問題になる2 定型約款の変更の要件3 小売電気事業者の説明義務と書面交付義務4 新電力の一方的な撤退と最終保障供給第6 値上げを争う方法1 規制料金の値上げ認可を取消訴訟で争えるか2 自由料金は契約の問題として争う第7 倒産・未払と電気の供給第8 関連記事第9 出典1 法令2 所管官庁等の資料3 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

一般向けの経済解説では,電気は家庭向けの料金に国の認可が要るから値段が崩れない,と説明されることがある。
しかし,平成28年4月の電力小売の全面自由化の後,家庭向けの電気料金には,経済産業大臣の認可を要する「規制料金」と,認可の規制がない「自由料金」とが併存している。
本記事では,両者の違いを条文と所管官庁の資料で確かめたうえで,値上げの手続,規制料金の経過措置がいつまで続くか,値上げを争う方法及び関連する裁判例を整理する。

調査基準日は令和8年9月25日である。
条文は,e-Gov法令検索の現行条文(電気事業法は令和8年8月3日施行分まで反映したもの)で確認した。
平成28年4月の自由化を定めた電気事業法等の一部を改正する法律(平成26年法律第72号。以下「平成26年改正法」という。)の附則は,電気事業法の改正附則として収録されているものを確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で確認したものに限っている。
民事再生手続の中での電気料金の扱いは,民事再生手続開始前後の電気料金と敷金――再生債権,共益債権,民事再生法92条3項及び弁済額の計算で扱っている。

2 結論

結論は次のとおりである。

①電気の小売事業は経済産業大臣の登録制であり(電気事業法2条の2),自由料金の設定や値上げに国の認可は要らない。
②経済産業大臣の認可が要るのは,旧一般電気事業者(大手電力会社)の小売部門である「みなし小売電気事業者」が経過措置として提供している規制料金(特定小売供給約款)だけである(平成26年改正法附則18条1項)。
③規制料金の認可は,料金が「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたもの」であること等を基準とする(同条2項1号)ので,値段を支えるための仕組みではなく,値上げの上限を抑えるための仕組みである。
④規制料金は,令和8年9月の調査時点でも全国で存続しており,令和8年6月の電力・ガス取引監視等委員会の会合で,沖縄エリアだけが解除の基準を満たす蓋然性があるとして精査の対象になった。
⑤自由料金の値上げは,契約と約款の問題であり,定型約款であれば民法548条の4の要件と周知が必要になるほか,小売電気事業者には変更内容の説明と書面の交付が義務付けられている。
⑥規制料金の値上げ認可を需要家が取消訴訟で争った裁判例は,裁判所ウェブサイトでは見当たらず,料金の認可について利用者の原告適格を否定した最高裁判決がある一方,託送料金の認可については小売電気事業者の原告適格を認めた裁判例がある。

第2 二つの料金はどう違うか
1 小売電気事業は登録制であり,料金の認可はない

電気事業法2条の2は,「小売電気事業を営もうとする者は、経済産業大臣の登録を受けなければならない。」と定める。
登録を受けた小売電気事業者が家庭に提示する料金について,同法は認可の規定を置いていない。
資源エネルギー庁の「電気料金の改定について(2023年6月実施)」のページも,自由料金は「原則として事業者の裁量で設定されるものであり、認可等の規制はありません。」と説明している。

2 規制料金は経過措置として残されている

資源エネルギー庁の同じページは,小売が全面自由化された後も,「ご家庭等向けの規制料金については、時限的な経過措置として残し、競争状況を見極めてから撤廃することになった」と説明している。
この経過措置の根拠が平成26年改正法の附則である。

平成26年改正法附則16条1項は,みなし小売電気事業者は,当分の間,経済産業大臣が指定する区域(指定旧供給区域)における一般家庭等の需要に応ずる電気の供給(特定小売供給)を,正当な理由がなければ拒んではならないと定める。
同附則18条1項は,みなし小売電気事業者は,この義務を負う間,特定小売供給に係る料金その他の供給条件について,「特定小売供給約款を定め、経済産業大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。」と定める。
つまり,認可が要るのは,みなし小売電気事業者が特定小売供給約款によって行う供給の料金だけである。

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亡くなった家族についてネットに書き込まれたとき―死者の名誉毀損罪,遺族の敬愛追慕の情と削除・発信者情報開示の裁判例(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論第2 刑事上の扱い―死者の名誉毀損罪1 条文2 告訴第3 民事上の扱い―遺族の敬愛追慕の情1 死者自身の名誉と請求権者2 違法性の判断要素第4 インターネット上の投稿をめぐる裁判例1 敬愛追慕の情の侵害が認められた例2 敬愛追慕の情の侵害が否定された例3 遺族自身の権利の侵害が認められた例第5 削除請求と発信者情報開示1 削除請求2 発信者情報開示請求第6 遺族が確認しておきたい事項1 投稿と経過の記録2 侵害されている権利の整理3 関連する記事第7 出典1 法令2 裁判例
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象
(1) 問題となる場面

亡くなった家族について,SNS,電子掲示板,ブログ又はニュースサイトに,死亡の経緯や生前の行動を書き込まれ,遺族がその削除や書込みをした者への責任追及を考えることがある。
本記事は,この場面で問題となる刑事上の扱いと民事上の扱いを,条文と裁判例に沿って整理する。

(2) 資料と基準日

法令は令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている条文により確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイトに掲載されたものはその全文により,掲載されていないものは判例秘書に収録された全文により確認した。
下級審の判決は,いずれも控訴の有無及び確定の有無を確認していない。

2 結論

①刑事では,死者の名誉毀損罪は,虚偽の事実を摘示した場合に限って処罰される(刑法230条2項)。
②民事では,死者自身の名誉について遺族が権利を行使する法律上の根拠は乏しく,裁判例は,遺族自身の故人に対する敬愛追慕の情という人格的利益の侵害として判断している。
③敬愛追慕の情の侵害が違法となるかは,死亡からの時間,摘示された事実の真偽,投稿の目的・態様等を総合して,受忍限度を超えるかで判断されている。
④遺族自身の名誉,名誉感情又はプライバシーが侵害されている場合は,敬愛追慕の情によらずに削除や発信者情報開示が認められた例がある。

第2 刑事上の扱い―死者の名誉毀損罪
1 条文
(1) 刑法230条

刑法230条1項は,公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した者を,その事実の有無にかかわらず処罰すると定める。
これに対し,同条2項は,「死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。」と定める。
したがって,故人について真実の事実を摘示しただけでは,死者の名誉毀損として処罰されることはない。

(2) 刑法230条の2との関係

刑法230条の2は,公共の利害に関する事実について真実であることの証明があったときは罰しないと定めるが,その対象は「前条第一項の行為」である。
死者の名誉毀損は,虚偽の事実を摘示した場合でなければ処罰されないから,真実であることの証明によって処罰を免れるという刑法230条の2の仕組みとは前提が異なる。

2 告訴

名誉毀損罪は親告罪であり,告訴がなければ公訴を提起することができない(刑法232条1項)。
刑事訴訟法233条1項は,「死者の名誉を毀損した罪については、死者の親族又は子孫は、告訴をすることができる。」と定める。
親告罪の告訴は,犯人を知った日から6か月を経過したときはすることができないとされている(刑事訴訟法235条本文)。

第3 民事上の扱い―遺族の敬愛追慕の情

死者に関する投稿では,①生前に本人に発生した慰謝料債権を相続して請求する場合,②死後の投稿が遺族自身の敬愛追慕の情等を侵害したとして固有の慰謝料を請求する場合,③投稿の削除又は発信者情報開示を求める場合を区別する。本人の債権が相続される問題と,死後の投稿によって誰に新たな損害が生じたかという問題は異なる。

(続きを読む...)亡くなった家族についてネットに書き込まれたとき―死者の名誉毀損罪,遺族の敬愛追慕の情と削除・発信者情報開示の裁判例(AI作成)

預貯金債権の譲渡制限特約と預金契約の法的構造―民法466条の5・666条・591条(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 債権譲渡の一般則1 債権は原則として譲渡できる2 譲渡制限の意思表示があっても譲渡は有効3 悪意又は重過失の譲受人に対する債務者の保護4 改正前の規律と最高裁昭和48年・平成21年判決第3 預貯金債権の特則―民法466条の51 条文2 「対抗することができる」の意味3 なぜ預貯金債権だけに特則があるのか4 差押債権者には対抗できない5 相続・贈与との関係第4 預金契約の法的性質1 預金契約は消費寄託の性質を有する2 消費寄託の規定(民法666条)第5 定期預金の満期前の返還1 寄託の一般則―受寄者は期限前に返還できない2 預貯金契約の特則―金融機関はいつでも返還できる3 特則の趣旨4 預金者の側から満期前に払戻しを求める場合第6 改正の経緯と経過措置1 施行日2 経過措置第7 場面ごとの整理第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 立案資料・公的資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,銀行等の預金又は貯金に係る債権(以下「預貯金債権」という。)について,次の二つの問題を扱う。
①預金規定に譲渡制限特約(譲渡禁止特約)がある場合に,預貯金債権を他人に譲渡することができるか。
②預金契約はどのような性質の契約であり,金融機関は定期預金を満期前に払い戻すことができるか。

どちらの問題も,債権一般又は寄託一般の規定をそのまま当てはめると結論を誤りやすい。
預貯金債権又は預貯金契約だけに適用される特則が民法に置かれているため,一般則の次に特則を確認し,準用される条文を最後まで読む必要がある。

調査基準日は令和8年9月25日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文と改正前の条文を,裁判例は裁判所HPの裁判例検索で全文を確認した最高裁判例を,立案の趣旨は法制審議会民法(債権関係)部会の部会資料と法務省の説明資料を用いた。
相続開始後の預貯金の払戻しは遺産分割前に預貯金を払い戻す二つの方法―民法909条の2と仮分割の仮処分で,預金の仮差押えは預金・給料の仮差押え―取扱店舗の特定,差押禁止の範囲及び陳述催告で扱っている。

2 結論

①債権一般については,譲渡制限の意思表示があっても債権の譲渡は効力を妨げられない(民法466条2項)。
悪意又は重大な過失のある譲受人に対して債務者ができるのは,履行の拒絶と,譲渡人に対する弁済等の対抗にとどまる(同条3項)。
②預貯金債権については,民法466条の5第1項が466条2項の適用を外しており,金融機関は,譲渡制限の意思表示を,悪意又は重大な過失のある譲受人に対抗することができる。
立案過程の部会資料は,この規律を,悪意又は重大な過失のある第三者への譲渡は効力を有しないという特則として提案していた。
改正後の事案で,重大な過失のある譲受人への預金債権の譲渡を同条により無効とした下級審裁判例がある(東京地裁令和4年12月23日判決)。
③預貯金債権に対する強制執行をした差押債権者には,譲渡制限の意思表示を対抗することができない(民法466条の5第2項)。
④預金契約は,消費寄託の性質を有する(最高裁平成21年1月22日判決)。
現行の民法は,消費寄託に原則として寄託の規定を適用し,消費貸借の規定は一部だけを準用する(同法666条)。
⑤寄託の一般則では,返還の時期の定めがあるとき,受寄者は,やむを得ない事由がなければ期限前に返還することができない(民法663条2項)。
しかし,預金又は貯金に係る契約により金銭を寄託した場合には,591条2項・3項が準用される(同法666条3項)。
したがって,金融機関は,返還の時期の定めの有無にかかわらず,いつでも返還をすることができ,満期前の返還によって預金者が損害を受けたときは,預金者が金融機関に賠償を請求することができる。
⑥これらの規定は令和2年4月1日に施行された。
施行日前に債権譲渡の原因である法律行為がされた場合の譲渡と,施行日前に締結された寄託契約には,改正前の民法が適用される(平成29年法律第44号附則22条・34条1項)。

第2 債権譲渡の一般則
1 債権は原則として譲渡できる

民法466条1項は,「債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。」と定める。
債権者は,原則として,債務者の承諾を得ずに債権を第三者に譲渡することができる。

2 譲渡制限の意思表示があっても譲渡は有効

(続きを読む...)預貯金債権の譲渡制限特約と預金契約の法的構造―民法466条の5・666条・591条(AI作成)

借りた土地・建物を他人に使わせたら解除されるか―民法612条の無断転貸・無断譲渡と信頼関係破壊の法理(借地上の建物の賃貸,駐車場部分,会社の経営者交代)(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論の要旨第2 民法612条の条文と二つの段階1 条文2 解除の要件は「第三者に使用又は収益をさせたこと」3 無断で譲り受け・転借した者の立場第3 賃貸人の承諾1 承諾の方式2 承諾料と特約第4 信頼関係破壊の法理1 背信的行為と認めるに足りない特段の事情2 特段の事情が認められた最高裁判所の判決3 判断で見られる事情第5 場面別の判断1 借地上の建物を他人に貸す2 借地のうち建物のない部分を他人に使わせる3 借地上の建物を売る4 借主である会社の株主・経営者が替わる第6 借地借家法19条の承諾に代わる許可1 条文2 使い方第7 貸主側・借主側の実務対応1 貸主(地主・家主)の側2 借主(借地人・借家人)の側第8 関連記事第9 出典と調査範囲1 法令2 最高裁判所の判決3 下級審の判決(いずれも裁判所HP未掲載)4 調査範囲
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象
(1) 問題となる場面

土地や建物を借りている人が,貸主の承諾を得ずに,借りた物を家族,知人,取引先又は自分の会社に使わせることがある。
借地の上の自宅を他人に貸す,借地の一角を駐車場として使わせる,借りた店舗の一部を共同経営者に使わせる,借主である会社の経営者が替わる,といった場面である。
このようなとき,貸主は賃貸借契約を解除して明渡しを求めることができるのか,借主の側はどう反論できるのかが問題になる。

(2) 本記事の資料と基準日

本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている民法及び借地借家法の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の判決の全文,並びに判例秘書に収録された下級審の判決の全文に基づいて整理したものである。
下級審の判決は,いずれも裁判所ウェブサイトには掲載されていない。
最高裁判所の判決には,旧借地法の時代や建物保護法の時代のものが含まれるが,本記事で扱う民法612条の文言は,これらの判決の当時から実質的に変わっていない。

2 結論の要旨

結論は次のとおりである。
①賃借人は,賃貸人の承諾がなければ,賃借権を譲渡し,又は賃借物を転貸することができず,これに違反して第三者に賃借物を使用又は収益させたときは,賃貸人は契約を解除することができる(民法612条)。
②もっとも,最高裁判所は,承諾のない第三者の使用であっても,賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは,解除できないとしている(信頼関係破壊の法理)。
③その特段の事情は,賃借人の側が主張・立証しなければならない。
④借地人が借地上の自分の建物を他人に貸すことは,下級審の判決の上では,原則として土地の転貸に当たらないとされている。
他方,建物を売ることは,通常,土地の賃借権の譲渡又は転貸を伴うので,賃貸人の承諾又は借地借家法19条の裁判所の許可が必要になる。
⑤借主である会社の株主や経営者が替わっても,法人格が同じである限り,原則として賃借権の譲渡には当たらない。
⑥解除できるかどうかは,「承諾があったか」と「背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるか」の二段階で決まるので,当事者双方とも,使用の経緯,範囲,対価及び賃貸人の不利益を具体的な資料で示す必要がある。

第2 民法612条の条文と二つの段階
1 条文

民法612条1項は,「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。」と定める。
同条2項は,「賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。」と定める。

この条文は,土地の賃貸借にも建物の賃貸借にも適用される。
いわゆる又貸し(転貸)と,借主の地位そのものを他人に移すこと(賃借権の譲渡)の両方が対象である。

2 解除の要件は「第三者に使用又は収益をさせたこと」
(1) 契約を結んだだけでは足りない

2項の解除権は,賃借人が第三者との間で転貸や譲渡の約束をしただけでは生じない。
条文は,第三者に賃借物の「使用又は収益をさせたとき」に解除できると定めているからである。

(続きを読む...)借りた土地・建物を他人に使わせたら解除されるか―民法612条の無断転貸・無断譲渡と信頼関係破壊の法理(借地上の建物の賃貸,駐車場部分,会社の経営者交代)(AI作成)

スマホやパソコンを持っているだけでNHKの受信料はかかるか―令和7年10月施行の放送法64条1項2号と「配信の受信開始」の意味(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 受信契約を締結しなければならない者1 放送法64条1項の二つの類型2 世帯で既に受信契約があるとき3 契約の種別と受信料の額第3 「配信の受信を開始した」とはどういう状態か1 受信規約の定義とNHKの義務2 国会答弁3 NHKの運用4 スマホを持っているだけでは足りない理由第4 ワンセグ・カーナビ等の「設置」についての裁判例1 ワンセグ機能付き携帯電話2 ワンセグ放送を受信できるカーナビ3 NHKだけ映らないように加工したテレビ4 裁判例の射程第5 手続,受信料の発生時期,割増金及び解約1 受信契約書の提出期限と契約の成立2 受信料が発生する月3 割増金4 配信の利用をやめたとき5 事業所の場合第6 大法廷平成29年判決との関係と残る論点1 大法廷平成29年判決の合憲判断2 配信への拡大についての政府の説明3 残る論点第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令・受信規約・利用規約2 裁判例3 国会会議録4 NHKの説明
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,テレビを持たずにスマートフォンやパソコンを使っている人が,日本放送協会(以下「NHK」という。)と受信契約を締結しなければならないのはどのような場合かを扱う。
令和7年10月1日に施行された放送法の改正により,NHKのインターネット配信が必須業務となり,NHKの配信の「受信を開始した者」も受信契約の締結義務を負うことになった(放送法64条1項2号)。
本記事では,この規定が何を要件としているのかを,条文,総務大臣の認可を受けた日本放送協会受信規約(以下「受信規約」という。),国会答弁及びワンセグ機能付き携帯電話等をめぐる裁判例によって整理する。

調査基準日は令和8年9月25日である。
放送法の条文はe-Gov法令検索の現行条文(令和7年10月1日施行分まで反映したもの),受信規約はNHKが公表している令和7年10月1日施行のものを確認した。
NHKが公表しているNHKインターネットサービス利用規約(以下「利用規約」という。)は,令和8年4月1日最終改定のもの及び同年10月1日改定予定のものを確認した。
受信料の消滅時効はNHK受信料の消滅時効は5年―最高裁平成26年9月5日判決と大法廷平成29年12月6日判決の起算点で,訪問集金と弁護士法72条の関係はNHK受信料の訪問集金は弁護士法72条違反か―東京地裁令和4年1月24日判決(判タ1508号240頁)ほか東京地裁の判断で扱っている。

2 結論

結論は次のとおりである。

①スマートフォンやパソコンを持っているだけでは,受信契約の締結義務は生じない。
②締結義務が生じるのは,NHKのテレビジョン放送の番組の同時配信・見逃し配信・番組関連情報の配信(ラジオ等を除く。)について,通信端末機器の操作を行って視聴又は閲覧を始めたときである(放送法64条1項2号,受信規約1条3項)。
③同じ世帯で既にテレビについて受信契約を締結しているときは,配信を利用しても新たな契約は要らない(放送法64条2項1号,受信規約2条1項4号)。
④ワンセグ機能付き携帯電話やテレビを受信できるカーナビは,配信ではなく放送の受信設備の問題であり,裁判例は,これらを持つことも「設置」に当たるとして締結義務を認めている。
⑤配信の受信を開始した人は,開始した月の翌々月の末日までに受信契約書を提出する必要があり,正当な理由なく遅れると割増金の対象になり得る(受信規約3条1項,12条2項2号)。
⑥配信の利用をやめても,解約の届出をしてNHKが事実を確認するまでは受信契約は終わらない(受信規約9条)。

第2 受信契約を締結しなければならない者
1 放送法64条1項の二つの類型
(1) 受信設備の設置と配信の受信開始

放送法64条1項は,「次の各号のいずれかに該当する者は、認可契約条項で定めるところにより、協会と受信契約を締結しなければならない。」と定める。
1号は「特定受信設備を設置した者」,2号は「特定必要的配信の受信を開始した者」である。
改正前の同項は受信設備を設置した者だけを対象にしていたから,2号が令和7年10月1日の施行で加わった部分である。

(2) 特定受信設備

「特定受信設備」とは,NHKの放送を受信することのできる受信設備のうち,放送の受信を目的としない受信設備と,ラジオ放送又は多重放送に限り受信することのできる受信設備を除いたものをいう(放送法64条8項3号)。
テレビのほか,ワンセグ機能付きの携帯電話やカーナビのように放送を受信できる機器がこれに当たるかは,後記第4の裁判例の問題である。

(3) 特定必要的配信

NHKは,放送する全ての番組を放送と同時に配信し,放送した全ての番組を一定期間配信し,番組関連情報を配信する業務を行う(放送法20条1項3号~5号)。
これが必要的配信であり,そのうちラジオ放送,多重放送,国際放送及び協会国際衛星放送の番組等の配信を除いたものが「特定必要的配信」である(同法20条の3第9項)。

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登記手続のために実印や権利証を預けた相手が無断で保証や担保設定をしたとき―表見代理(民法109条・110条)と最高裁判例(AI作成)

目次第1 この記事で扱う場面と検討の順序1 この記事の対象2 本記事での検討の順序第2 表見代理の条文と主張立証の構造1 民法109条――代理権を与えた旨の表示2 民法110条――権限外の行為第3 登記手続の依頼は基本代理権になるか1 公法上の行為の代理権は原則として基本代理権にならない2 私法上の契約の履行としての登記申請は基本代理権になり得る3 基本代理権と実際にされた行為の種類が違ってもよい4 登記書類一式が転々とした場合第4 「正当な理由」はどう判断されるか1 実印と印鑑証明書を持参していても足りない場合2 本人と面識のない債権者の調査3 本人自身だと誤信した場合4 近時の下級審の判断例第5 夫婦の一方が他方の財産について契約した場合1 日常の家事に関する代理権2 日常の家事の範囲を越える行為と110条第6 保証契約について現在の民法が定める方式1 書面要件と個人根保証の極度額2 事業のための貸金等債務の保証と公正証書第7 本人,相手方及び預かった者の法律関係1 本人の立場2 相手方の立場3 預かった者の責任第8 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関の解説資料
第1 この記事で扱う場面と検討の順序
1 この記事の対象
(1) 問題となる場面

不動産の贈与,売買又は相続の登記では,本人が,家族や取引の相手方に,実印,印鑑登録証明書及び登記済証(いわゆる権利証)を預けて,登記手続を任せることがある。
預かった者がこれらを使い,本人に無断で,本人を保証人とする保証契約を結んだり,本人の不動産に抵当権を設定したりしたときに,本人がその契約の責任を負うかが問題になる。

(2) 本記事の資料と基準日

本記事は,この場面を,民法109条及び110条の表見代理と,これを適用した最高裁判所の判決に沿って整理する。
法令は令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている条文により,最高裁判所の判決は裁判所ウェブサイトに掲載された全文により,下級審の判決は判例秘書に収録された全文により確認した。
現在の不動産登記法では,登記名義人となる申請人に登記識別情報が通知され(同法21条),共同申請では登記義務者の登記識別情報を提供することとされている(同法22条)。
本記事で紹介する最高裁判所の判決はいずれも昭和期のものであり,事案に現れるのは当時の登記済証である。
このうち昭和45年,昭和46年及び昭和51年の各判決は原判決を破棄して差し戻したものであり,差戻し後の判決は,判例秘書で差戻し先の高等裁判所の判決を検索した範囲では見当たらなかった。

2 本記事での検討の順序
(1) 五つの検討事項

本記事では,次の順序で検討する。
①その契約書等が本人の意思で作られたか(文書の成立の真正)
②本人の意思によらない場合,預かった者に代理権があったか(無権代理)
③代理権がなくても,表見代理によって本人が責任を負うか
④保証契約であれば,現在の民法が定める方式を満たしているか
⑤本人が責任を負わない場合,相手方は誰に何を請求できるか

(2) 文書の成立の真正との関係

①について,民事訴訟法228条4項は,「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」と定める。
実印の印影から文書の成立を推認する二段の推定と,印章の盗用・冒用によってこれが覆る場面は,二段の推定とは──私文書の成立の真正(民事訴訟法228条4項)と実印・認印,立証の実務で整理している。
本記事は,預かった者による冒用が認められた後の②以下を扱う。

第2 表見代理の条文と主張立証の構造
1 民法109条――代理権を与えた旨の表示
(1) 条文

民法109条1項は,「第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。」と定める。
同条2項は,表示された代理権の範囲外の行為についても,第三者にその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り,表示をした者が責任を負うと定めている。

(2) 相手方の悪意・過失は本人の側が主張立証する

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整理解雇は30日前に予告すれば有効か―人員削減の必要性,解雇回避措置,選定基準及び説明・協議(AI作成)

目次

第1 30日前に予告しても整理解雇が有効とは限らない第2 予告手続と解雇の有効性を分ける第3 整理解雇の四つの考慮事項第4 人員削減の必要性第5 解雇回避措置第6 人選の合理性第7 説明・協議の妥当性第8 実施前に確認する別の規制第9 証拠化する資料第10 使用者・労働者別の確認事項第11 関連記事第12 出典・参考資料
第1 30日前に予告しても整理解雇が有効とは限らない

結論として,30日前に解雇を予告し,又は不足日数分の解雇予告手当を支払っただけで,整理解雇が有効になるわけではない。予告は労働基準法20条の手続であり,解雇が客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当と認められるかは労働契約法16条により別に判断される。

整理解雇は労働者側の非違行為ではなく,経営上の事情による人員削減である。そのため,人員削減の必要性,解雇回避措置,人選の合理性及び説明・協議を,計画時から証拠化する必要がある。

第2 予告手続と解雇の有効性を分ける
問題根拠確認内容解雇予告労働基準法20条原則30日前の予告又は不足日数分の平均賃金。解雇の実体的有効性労働契約法16条客観的合理性と社会通念上の相当性。解雇理由証明書労働基準法22条労働者から請求があれば遅滞なく交付する。法定の解雇禁止労働基準法等業務災害療養中,産前産後,申告,妊娠・育休,組合活動等を理由とする禁止。

予告手当を支払えば自由に解雇できるという理解は,手続と実体を混同する。逆に,十分な経営上の理由があっても,予告又は予告手当等の手続を省略してよいわけではない。

第3 整理解雇の四つの考慮事項

厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」は,整理解雇について,①人員削減の必要性,②解雇回避の努力,③人選の合理性,④解雇手続の妥当性を挙げる。

裁判例には「四要件」と表現するものと「四要素」として総合判断するものがある。どれか一つの名称だけで結論を出さず,四つの事項をすべて事実と資料に結び付けるべきである。東京地裁平成18年11月29日判決(東京自転車健康保険組合事件)は四要素を考慮し,黒字・内部留保,新規採用,配置転換等の検討不足などから整理解雇を無効とした。

第4 人員削減の必要性

企業が倒産寸前でなければ整理解雇が常に許されないというわけではない。他方,売上減少又は部門閉鎖という経営判断があるだけで,直ちに特定人数の解雇が必要になるものでもない。

少なくとも,直近の月次・年次損益,資金繰り,受注見込み,固定費,削減対象部門の収支,人員計画,外注・派遣・新規採用,役員報酬及び関連会社への業務移管を確認する。解雇の直前又は直後に同種業務で採用・外注をしていると,人員削減の必要性との整合が問われる。

第5 解雇回避措置

解雇回避措置には,残業削減,新規採用停止,外注見直し,配置転換,出向,一時帰休,賃金・役員報酬の見直し,希望退職募集及び退職勧奨などがある。ただし,これらをすべて機械的に実施すべきという意味ではなく,企業規模,職種,緊急性及び労働条件変更の可否に応じて,実行可能性と効果を具体的に検討する。

希望退職又は退職勧奨は労働者の自由意思による合意退職であり,強迫的な面談,長時間・多数回の勧奨又は不利益の示唆があれば別の違法問題を生む。回避措置の名目で不当な圧力をかけてはならない。

第6 人選の合理性

対象者の選定基準は,解雇対象者を決めた後に作るのではなく,事前に客観化する。職務の消滅,技能,資格,勤務成績,懲戒歴,雇用形態,勤続年数等を用いる場合,各指標の目的,配点,評価期間及び資料を固定する。

年齢,性別,妊娠・出産,育児・介護休業,労働組合加入,労働基準監督署への申告その他の保護される事情を理由に選定してはならない。勤務成績を使う場合,評価者ごとのばらつき,直前だけの低評価,記録のない主観評価及び休業期間の扱いを検証する。

第7 説明・協議の妥当性

使用者は,労働組合又は労働者に対し,人員削減の必要性,時期,規模,選定基準,回避措置及び退職条件を具体的に説明し,質問に答える。単に結論を通知するだけでなく,資料を示し,検討時間を確保し,意見を受けて再検討した過程を記録する。

労働者の同意を常に得なければ整理解雇ができないという意味ではないが,説明内容が抽象的で,選定基準も開示せず,結論だけを急ぐと,手続の相当性を欠く方向に評価される。

第8 実施前に確認する別の規制
就業規則・労働協約の解雇事由,協議条項及び退職金規定業務上災害の療養中及び産前産後休業中の解雇制限妊娠・出産,育児介護休業,組合活動又は行政申告を理由とする不利益取扱いの禁止一定数の離職者が生じる場合の再就職援助計画又は大量雇用変動の届出有期契約の期間途中であれば,労働契約法17条の「やむを得ない事由」障害者,高年齢者及び外国人労働者についての個別法・届出
第9 証拠化する資料
段階主な資料必要性決算・試算表,資金繰り,受注・売上予測,部門別損益,取締役会資料回避措置採用・外注一覧,配置可能職,出向打診,希望退職案,検討メモ人選基準策定日,評価表,配点,評価根拠,選定前後の名簿説明・協議説明資料,議事録,質問回答,労組通知,提案修正履歴解雇手続解雇通知,理由証明書,予告日,予告手当計算,退職金計算
第10 使用者・労働者別の確認事項

使用者側は,対象者決定前に基準と資料を固定し,回避策を実施できない理由を記録する。通知文だけを整えるのではなく,経営資料から選定・協議まで一貫して説明できるようにする。

労働者側は,解雇理由証明書を請求し,会社の説明資料,採用・外注の状況,配置可能な職務,評価資料及び同僚との取扱差を保存する。解雇無効を争う場合,地位確認,賃金請求及び労働審判・仮処分等の手続選択を早期に検討する。

第11 関連記事

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取引先が破産したときの未完成契約―管財人の履行・解除選択,前払金・未払代金及び損害賠償(AI作成)

目次

第1 最初に確認する結論第2 破産法53条が適用される契約1 双方未履行かを契約単位で判断する2 一方の履行が完了している場合第3 管財人の履行・解除選択1 履行を選択した場合2 解除を選択した場合3 相手方から確答を催告する第4 金銭請求を四つに分ける1 履行選択後の代金・報酬2 解除による損害賠償3 反対給付の返還又は価額4 出来高・前払金・未払代金第5 相殺と違約金第6 著しく不公平な解除の限界第7 受任直後の資料と時系列第8 相手方から管財人へ照会する事項第9 関連記事第10 出典・参考資料

第1 最初に確認する結論

取引先が破産して工事,製造,システム開発,役務提供又は売買が未完成のときは,契約書にある倒産解除条項だけで処理してはならない。破産手続開始時に,破産者と相手方の双方に対価関係に立つ未履行債務が残る場合,破産法53条により,破産管財人が契約を解除するか,破産者側の債務を履行して相手方の履行を請求するかを選択できる。

初動では,①契約単位,②双方の未履行内容,③出来高・検収・引渡し,④前払金と未払代金,⑤成果物・材料の所有権,⑥違約金・相殺条項,⑦管財人の選択と裁判所許可を一つの時系列表にする必要がある。

第2 破産法53条が適用される契約
1 双方未履行かを契約単位で判断する

破産法53条1項は,双務契約について破産者と相手方が開始時に共に履行を完了していない場合を対象とする。契約名が請負か売買かだけでなく,どの給付が対価関係に立つかを確定する。

例えば,工事契約では工事完成・引渡しと請負代金,開発契約では成果物・ソースコード・移行支援と報酬,機械売買では引渡し・所有権移転と代金支払を対応させる。基本契約の下に複数の個別契約がある場合,すべてを一契約として扱うか,注文ごとに判断するかは,契約条項と清算方法による。

2 一方の履行が完了している場合

一方が中核的な債務を既に履行し終えているなら,53条の選択問題ではなく,残る代金又は引渡請求権が破産債権,財団債権,取戻権又は別除権のどれになるかを検討する。部分検収又は出来高払があるときは,履行済み部分と未履行部分を分けられるかを契約と事実から確認する。

「9割完成」「ほぼ納品済み」という評価語だけでは足りない。検収条件,補修義務,知的財産権移転,マニュアル・鍵・パスワードの引渡し等が契約目的の本質的部分か,付随的部分かを確定する。

第3 管財人の履行・解除選択
1 履行を選択した場合

管財人が破産者側の債務を履行して相手方に履行を請求する場合,相手方が有する請求権は破産法148条1項7号により財団債権となる。もっとも,履行に必要な資金,従業員,資材,ライセンス又は協力業者が確保できなければ,形式的な履行選択だけで契約目的を達成できない。

相手方は,履行内容,期限,品質保証,未完成部分の費用,契約不適合への対応,裁判所許可の有無及び財団の支払原資を具体的に確認すべきである。

このうち裁判所の許可は,履行を選択する場面に特有の手続である。破産法78条2項9号は,53条1項の規定による履行の請求を,管財人が裁判所の許可を得なければならない行為として掲げている。履行を選択すると相手方の請求権が財団債権となり,破産債権者全体の引当てとなる破産財団から優先して支払われることになるため,その選択の当否を裁判所が確認する趣旨と考えられる。

もっとも,最高裁判所規則で定める額以下の価額を有するものに関するときは,許可を要しない(同条3項1号)。破産規則25条は,この額を100万円と定めている。裁判所が許可を要しないものとしたものに関するときも同様である(同項2号)。

許可を得ないでした行為は無効となるが,その無効を善意の第三者に対抗することはできない(同条5項)。相手方は,管財人から履行の請求を受けたときは,許可の有無と許可決定の日付を確認し,記録に残しておくべきである。なお,同条2項は,契約の解除を許可を要する行為として掲げていない。

2 解除を選択した場合

管財人が解除すると,将来の履行請求関係は解消する。相手方の解除損害は破産法54条1項により破産債権となり,原則として破産手続で届出をする。

契約を解除したからといって,前払金全額が当然に優先返還されるわけではない。解除損害,原状回復,財団に現存する反対給付及び取戻権を分ける必要がある。

3 相手方から確答を催告する

相手方は管財人に対し,相当期間を定めて,解除するか履行を請求するかを確答するよう催告できる。管財人が期間内に確答しないときは,解除したものとみなされる(破産法53条2項)。

催告前には,契約番号,未完成部分,現在の保管物,緊急保全の要否,回答期限の根拠及び回答先を明確にする。稼働停止,データ消失,資材劣化等の危険がある場合,確答待ちと並行して保全措置を協議する。

第4 金銭請求を四つに分ける
1 履行選択後の代金・報酬

管財人が履行を選択した後に相手方が有する対価請求権は財団債権である。開始前に既に発生していた別の未払代金と混ぜず,契約・期間・出来高ごとに請求書を分ける。

(続きを読む...)取引先が破産したときの未完成契約―管財人の履行・解除選択,前払金・未払代金及び損害賠償(AI作成)

古物営業法の「古物」の範囲―未使用品・原材料・工業用貴金属と犯罪収益移転防止法の「貴金属等」の違い(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 「古物」の定義1 条文2 「使用」と「使用のために取引されたもの」3 「幾分の手入れ」第3 13の区分と原材料・化学薬品1 古物の区分2 原材料・化学薬品の扱い3 古物に当たる場合に生じる義務第4 犯罪収益移転防止法の「貴金属等」1 貴金属等売買業者2 金化合物への適用と行政解釈の確認3 取引時確認の対象第5 毒物及び劇物取締法の販売業登録と業務上取扱者1 販売目的の貯蔵・運搬には登録が必要である2 登録は店舗ごとに行われる3 売る側の登録4 営業登録と業務上取扱者の届出を分ける第6 工業用の貴金属含有物の買取りで問題になる点1 義務が品目ごとに異なる2 記録が残っているとは限らない3 個人からの継続的な買取り第7 出典・参考資料1 法令2 行政資料3 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,古物営業法の「古物」がどこまでの物を含むかを,未使用品,原材料,化学薬品,工業用の貴金属含有物に即して整理し,あわせて,貴金属の買取業者に適用される犯罪収益移転防止法と毒物及び劇物取締法の規制範囲との違いを説明するものである。
基準日は令和8年9月18日であり,法令は同日にe-Gov法令検索で確認した現行条文による。
警察庁の解釈は,警察庁生活安全局長の通達「古物営業法等の解釈運用基準について」(令和6年8月14日。以下「解釈運用基準」という。)による。

2 結論

①「古物」には,一度使用された物品だけでなく,使用されない物品で使用のために取引されたもの(一度でも使用する目的で購入された未使用品)も含まれる。
②古物営業法施行規則2条は,古物を13の区分に分けているが,化学薬品や工業用の原材料に当たる区分はなく,これらが「古物」に当たるかは,解釈運用基準にも明示の記載がない。
③犯罪収益移転防止法施行令4条1項の「貴金属」は,「金、白金、銀及びこれらの合金」とされている。金化合物は金単体・合金とは異なるが,法の「これらの製品」への該当性と実際の取引の評価を含め,適用を断定する前に行政解釈を確認する必要がある。
④毒物に当たる工業薬品を販売目的で貯蔵・運搬するには,毒物劇物販売業の登録が必要であり,登録は店舗ごとに行われる(毒物及び劇物取締法3条3項,4条1項)。
⑤したがって,工業用の貴金属含有物の買取りでは,どの法律の義務がかかるかが品目ごとに異なり,本人確認や取引記録が当然に残っているとは限らない。

第2 「古物」の定義
1 条文

古物営業法2条1項は,「この法律において「古物」とは、一度使用された物品(鑑賞的美術品及び商品券、乗車券、郵便切手その他政令で定めるこれらに類する証票その他の物を含み、大型機械類(船舶、航空機、工作機械その他これらに類する物をいう。)で政令で定めるものを除く。以下同じ。)若しくは使用されない物品で使用のために取引されたもの又はこれらの物品に幾分の手入れをしたものをいう。」と定める。
古物は,①一度使用された物品,②使用されない物品で使用のために取引されたもの,③これらの物品に幾分の手入れをしたもの,の三つからなる。

2 「使用」と「使用のために取引されたもの」

解釈運用基準(第2の1(1))は,「使用」とは物品をその本来の用法に従って使用することをいうとし,衣類であれば着用すること,自動車であれば運行の用に供すること等を例に挙げている。
また,解釈運用基準(第2の1(2))は,「使用のために取引されたもの」とは,自己が使用し,又は他人に使用させる目的で購入等されたものをいい,小売店等から一度でも一般消費者の手に渡った物品は,未使用であっても「古物」に該当するとしている。
そのため,消費者が贈答目的で購入した商品券や食器セットのように,未開封・未使用の物品であっても,いったん使用目的で取引された後は古物として扱われる。

3 「幾分の手入れ」

解釈運用基準(第2の1(3))は,「幾分の手入れ」とは,物品の本来の性質,用途に変化を及ぼさない形で修理等を行うことをいうとし,絵画の表面の修補や刀の研ぎ直しを例に挙げている。
逆にいえば,物品の本来の性質や用途を変えてしまうほどの加工をした物は,この類型には当たらない。

第3 13の区分と原材料・化学薬品
1 古物の区分

古物商の許可申請書には,取り扱う古物の区分を記載する(古物営業法5条1項3号)。
古物営業法施行規則2条は,その区分を次の13としている。
①美術品類(書画,彫刻,工芸品等)
②衣類(和服類,洋服類,その他の衣料品)
③時計・宝飾品類(時計,眼鏡,宝石類,装身具類,貴金属類等)

(続きを読む...)古物営業法の「古物」の範囲―未使用品・原材料・工業用貴金属と犯罪収益移転防止法の「貴金属等」の違い(AI作成)

特許無効を争う三つの手続―無効審判・審決取消訴訟・侵害訴訟の無効の抗弁(AI作成)

目次

第1 三つの手続の違い第2 特許無効審判第3 審決取消訴訟第4 侵害訴訟における無効の抗弁第5 訂正請求・訂正審判との関係第6 並行手続と中止第7 無効理由と証拠の作り方第8 手続選択のチェックリスト第9 調査範囲と限界第10 関連記事第11 出典・参考資料
第1 三つの手続の違い

特許の有効性を争う手続として,特許庁の特許無効審判,その審決に対する知的財産高等裁判所の審決取消訴訟,特許権侵害訴訟における特許法104条の3の無効の抗弁がある。機関,目的,結果の効力及び提出できる主張の範囲が異なるため,「どこでも同じ無効理由を主張すればよい」と考えてはならない。

本記事は,令和8年9月25日現在の法令,特許庁・裁判所の公表資料及び裁判例本文に基づく。

手続判断機関主な目的結果
特許無効審判特許庁審判部特許を対世的に無効とする審決を求める。無効審決が確定すれば原則として特許権は初めから存在しなかったものとみなされる。
審決取消訴訟知的財産高等裁判所特許庁の審決の違法を審査し,取り消す。取消判決確定後,特許庁で再度審理する。裁判所が自ら無効審決をする手続ではない。
無効の抗弁侵害訴訟の裁判所当該侵害訴訟で特許権の行使を制限する。請求棄却等につながるが,判決だけで特許登録が対世的に消滅するわけではない。

第2 特許無効審判

特許法123条は,特許が新規性・進歩性等の特許要件に違反してされた場合,記載要件を満たさない場合,冒認その他の法定事由がある場合に,無効審判を請求できることを定める。請求人適格は条文上の「利害関係人」等の要件を無効理由ごとに確認する。

請求書では,無効を求める請求項,無効理由,事実及び証拠を具体的に特定する。進歩性を争う場合,主引用発明,副引用発明,周知技術,技術常識,組合せの動機付け,阻害要因及び予測困難な効果を区別する。複数の引用例を並べるだけでは,どの構成をどの証拠から導くのかが不明になる。

無効審決が確定すると,特許法125条により,原則として特許権は初めから存在しなかったものとみなされる。確定審決後の再請求制限は同法167条の当事者・参加人,同一の事実及び同一の証拠という要件を確認する。

第3 審決取消訴訟

特許無効審判の審決に対する訴えは知的財産高等裁判所の専属管轄であり,審決の謄本送達日から30日以内という出訴期間を確認する。裁判所は審決の違法性を審理し,取消判決が確定したときは,行政事件訴訟法33条及び特許法181条に沿って特許庁が再度審理する。

最高裁昭和51年3月10日大法廷判決は,審判で審理判断されなかった公知事実との対比における無効原因を,審決取消訴訟で新たに主張することを許さないとした。もっとも,審判で審理された無効原因について,その判断の当否を明らかにする補充的な主張・証拠まで一律に排除されるわけではない。新しい証拠を提出できるかは,証拠が新しいかだけでなく,別個の無効原因を持ち込むことになるかで判断する。

特許権が共有に係る場合は,審判の当事者と訴訟の当事者を分けて考える。共有者が共有に係る権利について審判を請求するときは,共有者の全員が共同して請求しなければならず(特許法132条3項),共有に係る特許権について特許権者に対し審判を請求するときは,共有者の全員を被請求人としなければならない(同条2項)。

他方,取消訴訟については,最高裁平成14年3月25日判決(平成13年(行ヒ)第154号,民集56巻3号574頁)が,特許異議の申立てに基づく特許取消決定の取消訴訟を特許権の共有者の一人が単独で提起できるとし,最高裁平成14年2月22日判決(平成13年(行ヒ)第142号,民集56巻2号348頁)も,商標登録の無効審決の取消訴訟について,商標権の共有者の一人による単独の提起を認めた。これに対し,最高裁平成7年3月7日判決(平成6年(行ツ)第83号,民集49巻3号944頁)は,実用新案登録を受ける権利の共有者が拒絶査定不服審判の請求不成立審決に対して提起する取消訴訟を,固有必要的共同訴訟とした。

特許無効審決の取消訴訟は,権利が成立した後の共有に関する点で前二者に近く,共有者の一人が単独で提起できると考えられる。もっとも,出訴期間は30日と短いため,共有者間で審決送達後の対応を事前に取り決め,共同で提起するか単独で提起するかを早期に決めておくのが安全である。

審決取消訴訟は,所定の場合に知財高裁が行政事件の第一審として取り扱う。地裁判決に対する民事控訴事件とは別である。東京高裁の特別の支部という位置付け,専属管轄,移送の例外及び大合議の対象は,知的財産高等裁判所の組織・取扱事件・管轄を参照されたい。

第4 侵害訴訟における無効の抗弁

特許法104条の3は,特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとき,特許権者は相手方に対して権利を行使できないと定める。被告は無効審判を請求していなくても抗弁を提出できる。

この判断は当該訴訟における権利行使を制限するものであり,特許登録を対世的に消滅させる無効審決とは異なる。差止めを将来にわたり安定して排除したい,第三者との関係でも特許を消滅させたい,又は侵害訴訟が終わっても無効判断を得る必要がある場合は,無効審判を併用する意味がある。

裁判所は,当事者の審理を不当に遅延させる目的でされた無効の抗弁を却下できる。侵害論の進行に合わせ,主引用例,対比表,技術説明及び証拠を早期に整える。

第5 訂正請求・訂正審判との関係

特許権者は,無効審判の中で特許法134条の2の訂正請求を行うことがある。訂正は,特許請求の範囲の減縮,誤記・誤訳の訂正,明瞭でない記載の釈明等の法定目的に限られ,新規事項の追加や実質的な拡張・変更は許されない。

訂正には承諾を要する者がある。特許権者は,専用実施権者又は質権者があるときは,これらの者の承諾を得た場合に限り訂正審判を請求でき(特許法127条),無効審判における訂正の請求にも同条が準用される(同法134条の2第9項)。令和3年法律第42号による改正前は,職務発明に基づく通常実施権者及び許諾による通常実施権者(同法35条1項,77条4項,78条1項)の承諾も必要とされていたが,同改正により,令和4年4月1日から通常実施権者は承諾を要する者から外れた。同日前にした訂正の請求及び訂正審判の請求については,なお従前の例による(同改正法附則2条9項)。

そのため,改正前の解説で「通常実施権者の承諾が必要」とされている記述を,現在の案件へそのまま当てはめることはできない。専用実施権や質権が設定されている特許では,訂正への協力をライセンス契約・担保権設定契約で定めておくかを検討する。

侵害訴訟で無効の抗弁を受けた場合も,現在の請求項だけでなく,訂正後の請求項が無効理由を解消するか,かつ被告製品・方法が訂正後も技術的範囲に属するかを同時に検討する。訂正の請求・審判をいつ行えるかは,無効審判・審決取消訴訟の進行段階によって制限されるため,答弁・反論の前に手続日程を確認する。

第6 並行手続と中止

(続きを読む...)特許無効を争う三つの手続―無効審判・審決取消訴訟・侵害訴訟の無効の抗弁(AI作成)

相続した譲渡制限株式を会社が買い取る方法―会社法174条から177条,定款,株主総会,価格決定及び期限(AI作成)

目次第1 制度を使うための入口1 対象は一般承継で取得した譲渡制限株式である2 定款の定めが必要である第2 株主総会で売渡請求を決定する1 その都度決議する事項2 対象者の議決権は原則として排除される第3 1年以内に売渡しを請求する1 起算点は会社が一般承継を知った日である2 請求株式を明らかにする第4 売買価格を決める1 まず会社と対象者が協議する2 裁判所への申立期限は請求日から20日である第5 資金・分配可能額・税務を確認する1 会社による自己株式取得の制約2 相続税・譲渡所得等は別に確認する第6 実務チェックリスト1 会社側2 相続人側3 日付を一枚にまとめる第7 確認済み事項と未確認事項1 確認済み事項2 個別案件で追加確認する事項第8 出典

非公開会社の株主が死亡すると,相続その他の一般承継によって,会社が予定していなかった者が株主になることがある。会社法174条から177条は,定款に定めがある場合,会社が相続人等に譲渡制限株式の売渡しを請求する手続を設けている。

この制度には,会社が相続を知った日から1年という請求期限と,売渡請求の日から20日という価格申立ての期限がある。対象株式,決議,通知,価格及び資金を一つの工程表で管理する必要がある。

第1 制度を使うための入口
1 対象は一般承継で取得した譲渡制限株式である

会社法174条の対象は,相続その他の一般承継により取得された「譲渡制限株式」に限られる。通常の売買や贈与による特定承継には,この制度ではなく,譲渡承認手続その他の規定を検討する。

相続人が複数で遺産分割前である場合は,株式の準共有関係,権利行使者の指定,遺産分割の進行及び売渡請求の相手方を確認する。戸籍,遺言,遺産分割協議書,株主名簿及び株券の発行状況を照合する。

2 定款の定めが必要である

会社が売渡しを請求できる旨が定款に定められていることが必要である。現行定款,定款変更の株主総会議事録,変更の効力発生日及び対象株式の内容を確認する。

相続後に定款条項を新設した場合に,既に一般承継された株式へ当然に適用できると扱うことは避ける。条項の効力発生時期,決議手続,相続人等の議決権及び個別事情を確認し,紛争予防のためには相続発生前に定款を整備する。

第2 株主総会で売渡請求を決定する
1 その都度決議する事項

会社法175条1項により,会社は,売渡請求をする都度,株主総会で,①売渡しを請求する株式の数と,②その株式を有する者の氏名又は名称を定める。種類株式発行会社では,株式の種類と種類ごとの数も特定する。

この決議には,会社法309条2項所定の特別決議が必要である。定款に一般的な売渡請求条項があるというだけで,取締役の判断のみで個別請求を進めることはできない。

2 対象者の議決権は原則として排除される

会社法175条2項により,売渡請求の対象者は,その株主総会で議決権を行使できない。ただし,その対象者以外の株主全員も議決権を行使できない場合は例外となる。

招集通知,基準日,議決権数,定足数及び決議要件を事前に計算する。対象相続人の議決権を除外したことで決議要件を満たすかを,株主名簿と議決権集計表で確認する。

第3 1年以内に売渡しを請求する
1 起算点は会社が一般承継を知った日である

会社法176条1項ただし書は,会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過すると,売渡請求ができないと定める。死亡日や相続登記日を機械的な起算点とせず,会社が一般承継を知った事実と日付を確認する。

訃報,戸籍,株主名簿書換請求,配当金の連絡,株主総会への出席申出及び会社担当者のメール等を保存し,会社がいつ何を知ったかを記録する。

2 請求株式を明らかにする

売渡請求では,対象株式の数を明らかにする。種類株式発行会社では,種類と種類ごとの数を記載する。対象者,株式数,請求日及び到達日を証明できる書面で行い,株主総会決議の内容と一致させる。

会社法176条3項により,会社は売渡請求をいつでも撤回できる。ただし,撤回が価格協議,資金計画,株主構成及び紛争解決へ与える影響を検討し,権限ある機関による意思決定を記録する。

第4 売買価格を決める
1 まず会社と対象者が協議する

会社法177条1項により,売買価格は会社と売渡請求の対象者との協議で定める。非上場株式では,純資産,収益力,配当,類似会社,支配権又は少数性,会社の将来見通し等が争点となるため,評価基準日と採用資料を合意できるかを検討する。

税務上の評価額と会社法上の売買価格は,目的と評価場面が同じとは限らない。税理士又は公認会計士の評価を用いる場合も,前提条件と法的評価を分ける。

2 裁判所への申立期限は請求日から20日である

会社又は対象者は,売渡請求の日から20日以内に,裁判所へ売買価格決定を申し立てることができる。裁判所は,売渡請求時の会社の資産状態その他一切の事情を考慮する。

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解体・改修工事の石綿事前調査―元請・発注者の義務、結果報告、届出、作業停止命令及び証拠保存(AI作成)

目次

第1 工事前に確認する全体像第2 事前調査と行政報告は同じではない第3 発注者・元請業者・下請業者の役割第4 有資格者による調査第5 事前調査結果の報告基準第6 石綿が判明した後の届出・作業基準第7 行政命令・罰則と工事停止リスク第8 契約・工程・追加費用の整理第9 証拠として残す資料第10 実務チェックリスト第11 調査範囲と限界第12 出典・参考資料
第1 工事前に確認する全体像

建築物等の解体・改造・補修工事では,最初に事前調査の対象か,資格者が必要か,行政への結果報告が必要か,石綿含有建材がある場合に届出・隔離その他の作業基準が必要かを分けて確認する。報告基準に満たない小規模工事であっても,事前調査そのものが不要になるとは限らない。

大気汚染防止法は周辺環境への石綿飛散防止を,労働安全衛生法・石綿障害予防規則は労働者のばく露防止を中心に定める。石綿事前調査結果報告システムは両制度への報告を一体的に行えるが,発注者・元請業者の義務,届出及び保存資料まで同一になるわけではない。

本記事は,令和8年9月25日現在の法令並びに環境省及び厚生労働省の公表資料に基づく。

第2 事前調査と行政報告は同じではない

元請業者又は自主施工者は,解体等工事に着手する前に,設計図書その他の書面と現地の目視により,石綿含有建材の使用の有無を調査する。書面・目視で明らかにならないときは分析調査を行うか,石綿を含有するものとして必要な措置を講じる。

これに対し,行政への「事前調査結果報告」は,後記第5の規模要件を満たす工事について必要となる。したがって,「80平方メートル未満だから調査不要」「100万円未満だから石綿対応不要」という理解は誤りである。

第3 発注者・元請業者・下請業者の役割
主体主な役割確認資料
発注者設計図書・過去の調査記録等を提供し,適正な調査・工事を妨げる条件を付さず,必要な費用・工期に配慮する。対象作業では法定届出の名義人となる。設計図,竣工年,改修履歴,契約書,見積書,説明書,届出控え
元請業者・自主施工者事前調査,発注者への書面説明,結果報告,掲示・備付け,下請への説明,作業計画,完了後の報告・記録保存を行う。調査報告書,資格証,分析結果,システム受付結果,掲示写真,作業記録
下請業者元請から示された調査結果・作業方法に従い,作業基準,ばく露防止措置及び記録作成を実施する。変更・追加範囲を独断で施工しない。施工要領書,作業員名簿,教育記録,保護具,日報,写真

発注者が「石綿なし」と説明しても,元請業者の法定の事前調査が当然に省略できるわけではない。反対に,元請業者が調査を実施することを理由に,発注者が保有資料の提供や適正な費用・工期への配慮をしなくてよいわけでもない。

第4 有資格者による調査

令和5年10月1日以降に着工する建築物の解体・改修工事では,建築物石綿含有建材調査者等の有資格者による事前調査が必要である。一戸建て等石綿含有建材調査者が調査できる範囲には制限がある。分析調査にも,厚生労働大臣が定める知識・技能を有する者という要件がある。

工作物についても,令和8年1月1日以降着工の対象工事から資格者要件が適用される。建築物,工作物,船舶のいずれか,工事対象と調査者資格の対応を着工前に確認する。

第5 事前調査結果の報告基準

環境省が示す報告対象は,次のとおりである。石綿がないとの調査結果であっても,規模要件に該当すれば報告が必要である。

建築物の解体工事で,解体対象の床面積の合計が80平方メートル以上のもの建築物の改造・補修工事で,請負代金の合計額が100万円以上(税込)のもの一定の工作物の解体・改造・補修工事で,請負代金の合計額が100万円以上(税込)のもの

同一の者が二以上の契約に分割して請け負う場合は,一つの契約として判断される。請負代金は材料費を含む工事全体の額で,事前調査費用を含めないとされている。報告は原則として石綿事前調査結果報告システムにより行う。

第6 石綿が判明した後の届出・作業基準

事前調査で石綿含有建材が判明した場合は,建材の種類,工法及び工事内容に応じ,特定粉じん排出等作業の届出,労働安全衛生法上の計画届又は石綿障害予防規則上の作業届を確認する。大気汚染防止法上の届出者と労働安全衛生法上の届出者が異なる場合があるため,システム報告だけで全ての手続が完了したと扱わない。

作業では,石綿含有建材を原則として切断等せず除去すること,必要な隔離・負圧,湿潤化,集じん・排気,作業中の点検,取り残し確認,作業後清掃,廃棄物処理等を,建材区分と工法に応じて実施する。事前調査結果と作業内容は公衆・作業者に見やすい場所に掲示し,現場に備え付ける。

第7 行政命令・罰則と工事停止リスク

都道府県等は,報告徴収,立入検査,届出内容に対する計画変更命令,作業基準適合命令及び作業の一時停止命令等を行い得る。事前調査結果の未報告・虚偽報告,届出違反,命令違反,隔離等を行わずに作業した場合等には,違反類型に応じた罰則が問題となる。

実務上は,命令・罰則に至らなくても,追加調査,行政協議,近隣対応及び除去工法の変更により工程が止まる。着工直前に調査するのではなく,見積・契約・工程作成前に調査期間と分析期間を組み込む。

第8 契約・工程・追加費用の整理
事前調査を誰が発注し,誰が費用を負担するか。設計図書・過去の調査記録をいつ提供するか。石綿が発見された場合の追加見積,工期延長及び施工停止の手順。分析結果確定前に着工できない範囲と,石綿含有みなしで施工する場合の条件。行政届出・近隣説明・廃棄物処理の担当者。契約不適合,表明保証,既知・未知の石綿及び追加費用の分担。

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放置車両の撤去を所有権留保会社・登録名義人に請求できるか―土地所有権に基づく妨害排除と最高裁判例(AI作成)

目次第1 最初に確認する結論の分岐1 車両を置いた者と撤去権限を持つ者を分ける2 請求内容も分ける第2 土地所有権に基づく車両撤去請求1 妨害排除請求の対象2 登録自動車と軽自動車等を区別する第3 所有権留保会社に対する撤去請求1 最高裁平成21年3月10日判決2 撤去義務と損害賠償責任の時点第4 登録名義人に対する請求と建物判例の射程1 最高裁平成6年2月8日判決2 車両について確認する事情第5 請求前に確保する証拠1 土地と車両の特定資料2 相手方の権限と認識を示す資料3 損害資料第6 実務上の進め方1 任意撤去の催告2 訴訟と強制執行第7 確認済み事項と未確認事項1 確認済み事項2 未確認事項第8 出典

私有地に車両が放置された場合,土地所有者が誰に撤去を請求できるかは,車検証上の名義だけでは決まらない。現実に車両を置いた者,使用者,登録名義人,所有権留保会社及び実質的所有者を分け,所有権留保契約の内容と残債務の弁済期も確認する必要がある。

本記事は,土地所有権に基づく妨害排除請求を中心に,所有権留保会社の撤去義務を判断した最高裁平成21年3月10日第三小法廷判決と,建物の登記名義人に関する最高裁平成6年2月8日第三小法廷判決の射程を整理する。

第1 最初に確認する結論の分岐
1 車両を置いた者と撤去権限を持つ者を分ける

車両を実際に駐車した者が判明する場合は,賃貸借契約,使用貸借,駐車場利用契約又は不法占有の終了を根拠に,その者への撤去請求を検討する。ただし,その者が所在不明である,車両を処分する権限を失っている,又は所有権留保会社が引揚げ・換価の権限を取得している場合には,別の相手方も検討する。

したがって,①土地の利用関係,②車両の現実の占有者,③登録名義,④売買・ローン契約上の所有権,⑤期限の利益喪失と残債務弁済期,⑥相手方が放置を知った時点を一つの時系列にする。

2 請求内容も分ける

土地所有者の請求としては,車両撤去による土地明渡し,賃料・使用料,使用料相当損害金及び撤去費用等が問題となる。撤去義務が認められる時点と,不法行為による損害賠償責任が生じる時点は同じとは限らない。

第2 土地所有権に基づく車両撤去請求
1 妨害排除請求の対象

民法206条を基礎とする土地所有権に基づく妨害排除請求では,車両による土地所有権の妨害を除去する権限と責任を有する者が相手方となる。単に過去に車両を所有していた者,登録名義を残す者又はローン会社であるという一事だけで結論を出さず,車両を占有・使用・処分できる法的地位を確認する。

土地所有者が自力で車両を公道へ移動し,又は廃棄すると,車両所有者等から損害賠償を請求される危険がある。緊急性がない限り,証拠保全,催告,訴訟,強制執行という順序を基本とする。

2 登録自動車と軽自動車等を区別する

道路運送車両法5条1項は,登録を受けた自動車の所有権の得喪について,登録を第三者対抗要件としている。他方,軽自動車等は同じ登録制度の対象ではないため,車両の区分を確認する。

登録名義は重要な出発点であるが,撤去義務者を常に名義人だけで決める規定ではない。名義が残った理由,名義人が車両を取得した経緯,譲渡の有無,現実の支配及び名義変更に必要な書類の保有状況を確認する。

第3 所有権留保会社に対する撤去請求
1 最高裁平成21年3月10日判決

最高裁平成21年3月10日第三小法廷判決(平成20年(受)第422号・民集63巻3号385頁)は,駐車場の土地所有者が,車両代金を立替払いして所有権を留保した会社に,車両撤去・土地明渡しと使用料相当損害金を求めた事案である。

同判決は,ローン債務の期限の利益喪失による残債務全額の弁済期の前後で,所有権留保会社の権能が異なることを重視した。弁済期前は,所有権留保会社は原則として車両の交換価値を把握するにとどまり,車両を占有・使用する権原を持たない。そのため,特段の事情がない限り,第三者の土地上に車両があっても撤去義務や不法行為責任を負わないとした。

これに対し,残債務弁済期の経過後は,所有権留保会社が車両を占有し,売却して残債務へ充当できる権能を有するため,留保所有権が担保権の性質を持つことを理由に撤去義務を免れることはできないとした。

2 撤去義務と損害賠償責任の時点

最高裁判決は,弁済期経過後であっても,所有権留保会社が車両による妨害を知らなければ,原則として不法行為責任を負わず,土地所有者から放置の事実を告げられるなどして知った時から責任を負うとした。

したがって,通知書では,土地の表示,車両の登録番号・車台番号,駐車位置,土地利用権原が終了した経緯,現況写真,撤去期限及び連絡先を示し,到達日を証拠化する。併せて,ローン契約,支払状況,期限の利益喪失通知及び引揚げ権限を確認する。

第4 登録名義人に対する請求と建物判例の射程
1 最高裁平成6年2月8日判決

最高裁平成6年2月8日第三小法廷判決(平成4年(オ)第602号・民集48巻2号373頁)は,他人の土地上の建物を取得し,自らの意思で所有権取得登記をした者について,その後建物を譲渡しても,登記名義を保有する限り,土地所有者に所有権喪失を主張して建物収去・土地明渡義務を免れることはできないとした。

この判決は建物についての判断であり,登録自動車の撤去義務を直接判示したものではない。建物は土地を離れて存立できないこと,土地所有者が登記を信頼して請求相手を定める必要があることなどが理由とされているため,車両への適用は類推の可否を検討する問題として扱う。

2 車両について確認する事情

車両では,登録名義人が自らの意思で名義を取得・維持したか,所有権留保のための名義か,名義人が譲渡・抹消登録に必要な権限と書類を持つか,現実の車両所在地を知っているかを確認する。最高裁平成21年判決のような所有権留保会社であれば,残債務弁済期の前後が重要になる。

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示談金・解決金・和解金に税金はかかるか―名目ではなく補填対象・所得区分・権利確定時期で判断する(AI作成)

目次

第1 結論―名称ではなく何を補填する金銭かを見る第2 最初に分ける五つの項目第3 個人が受け取る場合第4 法人が受け取る場合第5 所得が帰属する時期第6 源泉徴収の有無1 支払金の実質に即して判断する2 総額・控除額・振込額を別々に確認する3 和解条項と支払資料を対応させる第7 消費税の取扱い第8 示談書・和解条項の作り方第9 確認資料と実務チェックリスト第10 調査範囲と限界第11 関連記事第12 出典・参考資料
第1 結論―名称ではなく何を補填する金銭かを見る

示談金,解決金又は和解金という名目だけで,所得税が課税されるか,非課税となるかは決まらない。受領者が誰か,どの権利・損害・費用を補う金銭か,役務や権利移転の対価を含むか,いつ権利が確定したかを項目ごとに判断する。

同じ一つの振込に,慰謝料,治療費,逸失利益,営業損失,未払賃金,退職金,弁護士費用,遅延損害金等が含まれることがある。税務上は,振込額全体を一括して扱うのではなく,各項目の実質に沿って所得区分,非課税,必要経費,源泉徴収及び消費税を検討する。

本記事は,令和8年9月25日現在の法令及び国税庁公表資料に基づく。

第2 最初に分ける五つの項目
確認項目主な資料税務上の意味
受領者当事者表示,振込先,代理受領の有無個人と法人では非課税規定・益金算入が異なる。
発生原因事故,契約違反,退職,明渡し,知財侵害等心身又は資産の損害か,所得・費用・対価の補填かを決める。
内訳請求書,訴状,準備書面,計算表,和解条項課税・非課税及び所得区分を項目別に判断する。
権利確定時期示談成立日,判決確定日,条件,分割払条項どの年分・事業年度に計上するかを判断する。
支払方法支払日,源泉徴収,消費税,遅延条項控除額,納付義務及び受取額を確定する。

第3 個人が受け取る場合
1 心身に加えられた損害

所得税法9条1項18号及び所得税法施行令30条は,心身に加えられた損害について支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金等を非課税とする。国税庁タックスアンサーNo.1700は,事故による治療費,慰謝料及び負傷して働けないことによる収益の補償等を例示する。ただし,治療費の補填額は医療費控除の計算で支払医療費から控除する。

2 資産に加えられた損害

不法行為その他突発的な事故により,家財,自家用車,着衣その他の私用資産に加えられた損害を補う損害賠償金等は,所得税法施行令30条2号の範囲で原則として非課税となる。交通事故の携行品について,修理費又は事故直前の時価を基礎に賠償額を算定することは民事上の損害額の問題であり,所得税の減価償却費又は税務上の帳簿価額とは目的が異なる。民事上の事故時価を税務上の簿価だけで決めず,反対に,非課税であることから新品再調達額の全額が民事上の損害になるとも考えない。

事業用資産では,受領金の対象をさらに分ける。国税庁タックスアンサーNo.1700は,①棚卸資産の損害に対する賠償金は収入金額に代わる性質があるため事業所得の収入金額となること,②仮店舗の賃借料等の必要経費を補填する金額も事業所得の収入金額となること,③事業用車両を廃車にする場合の車両自体の損害賠償金は非課税である一方,資産損失の計算では補填額を損失額から控除することを示している。したがって,「事業用資産だから全額課税」又は「資産損害だから損失の全額控除と非課税収入を重ねられる」と一律に処理しない。

交通事故によるヘルメット,高機能ウェア,靴及び救助時切断衣類の民事上の査定は,交通事故のヘルメット・高機能ウェア・靴の損害を,事業用車両の修理費,保険金,全損・除却,休車損害及び消費税は,事業用車両の交通事故の会計・税務を参照されたい。

3 失われた所得,契約上の対価その他の経済的利益

本来所得となるべき金額,役務の対価,事業上の必要経費,借家権の消滅又は資産・権利の譲渡等を補う部分は,単に「解決金」と記載しても当然には非課税とならない。事業所得,給与所得,退職所得,譲渡所得,一時所得又は雑所得のいずれに該当するかを,紛争前の法律関係と補填対象から判定する。

売買の解除を和解で精算するときは,代金の原状回復と,売主が別に取得する違約金を分ける。返還義務と違約金債権を相殺して差額を振り込んでも,差引額だけで所得区分や対象年分を決めることはできない。違約金も,業務との関係,継続性,対価性及び補填対象を確認して,一時所得等の区分又は非課税の要件を判断する。解除と原状回復による過年度の譲渡所得の検討は,違約金の所得計算と別の問題である。詳しくは売買契約を解除した後の所得税―原状回復,未収代金の貸倒れ,違約金と更正の請求を参照されたい。

遅延損害金は元本と別に検討する。元本が非課税でも,遅延損害金が当然に同じ取扱いになるとは限らない。

4 投資・貸付被害の返金と自主補償

投資詐欺や不正な金銭勧誘について返金・賠償・会社の自主補償を受けるときは,返還元本,資産損害の補填,約定利息,遅延損害金及び費用補填を区分する。「自主補償」という名称や,入金額が元本以下であることだけで,全額非課税と判断しない。支払者と受領者,対象資産,所得・必要経費の補填,権利移転等の対価及び過年度の損失処理との対応を確認する。

認定通知,実際の補償合意書,金額計算書,既返金の明細及び通帳を対応させる。例えば,同じ振込に元本の回復と利息相当額が含まれる場合は,その内訳と根拠を確認し,課税関係を別々に検討する。会社の補償方針や調査報告書は,税務当局による当該補償金の個別の課税判断とは区別する。ここでの確認手順は,所得税法施行令30条及び国税庁No.1700の実質による区分を,資料収集へ応用したものである。

損失の控除,返金・自主補償及び過年度処理の対応は,投資詐欺・金銭不祥事の被害と税務で具体的に説明している。

第4 法人が受け取る場合

個人についての所得税法9条の非課税所得を,法人へそのまま当てはめることはできない。法人税法22条2項により,資本等取引以外の取引に係る収益は原則として益金の額に算入される。損害賠償金又は和解金を受け取った法人は,損害に係る損失,修繕費その他の損金と,受取賠償金の益金をそれぞれ検討する。

(続きを読む...)示談金・解決金・和解金に税金はかかるか―名目ではなく補填対象・所得区分・権利確定時期で判断する(AI作成)

買収防衛策としての新株予約権無償割当てを差し止められるか―会社法109条・247条と株主総会判断(AI作成)

目次第1 結論第2 新株予約権無償割当てと差止請求第3 株主平等原則のルート第4 著しく不公正な方法のルート第5 ブルドックソース事件の判断第6 株主総会判断を尊重する限界第7 必要性・相当性の確認項目第8 出典と調査範囲

第1 結論

買収防衛策として差別的な行使条件又は取得条項を付けた新株予約権を株主に無償割当てする場合、主な差止事由は、①株主平等原則の趣旨に反する法令違反として会社法247条1号に当たるか、②発行目的・決定過程・手段が「著しく不公正な方法」として同条2号に当たるか、の二つである。

両者は重なるが同じではない。1号では会社法109条1項の株主平等原則の趣旨と差別的取扱いの必要性・相当性が中心となり、2号では経営陣の保身目的、決定主体、発動時期、手続、情報開示及び手段の過剰性が中心となる。

最高裁平成19年8月7日決定(ブルドックソース事件)は、株主総会の承認があれば買収防衛策が常に適法になるとしたものではない。株主総会判断の正当性を失わせる重大な瑕疵がないこと、企業価値・株主共同の利益を守る必要性、買収者への価値補償及び措置の相当性を具体的に検討した決定である。

第2 新株予約権無償割当てと差止請求

会社法277条以下は、株主に対する新株予約権無償割当てを定めている。会社は、割り当てる新株予約権の内容・数、効力発生日その他の事項を会社法278条に従って決定する。

会社法247条は、新株予約権の発行が、①法令又は定款に違反する場合、又は②著しく不公正な方法により行われる場合に、株主が不利益を受けるおそれがあるとき、発行をやめるよう請求できると定めている。差止めを求める株主は、発行前に迅速に保全手続を選択する必要がある。

防衛策の仕組みを先に図解する。誰に何個を割り当て、誰が行使できず、会社がどの新株予約権をどの対価で取得し、結果として持株比率がどの程度変わるのかを数値で示さなければ、法的評価の前提が定まらない。

第3 株主平等原則のルート

会社法109条1項は、株式会社が株主を、その有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱わなければならないと定めている。最高裁平成19年8月7日決定は、この原則の趣旨が新株予約権の無償割当てにも及ぶとした。

同決定によれば、特定株主による経営支配権取得によって企業価値が毀損され、株主共同の利益が害される場合、その防止のために当該株主を差別的に取り扱うことは、衡平の理念に反し相当性を欠くものでない限り、株主平等原則の趣旨に反しない。

したがって、①企業価値・株主共同の利益を害する具体的危険、②差別的取扱いによってその危険を防ぐ必要性、③買収者が被る経済的不利益、④価値補償、⑤より制限的でない代替手段を検討する。

第4 著しく不公正な方法のルート

会社法247条2号では、発行目的と手段を検討する。防衛策が企業価値・株主共同の利益を守るためではなく、専ら現経営陣又はこれを支持する特定株主の支配権を維持するために行われる場合、著しく不公正な方法に当たる方向に働く。

判断要素は、①取締役会だけで決定したか株主総会の承認を得たか、②買収提案と防衛策について十分な情報が開示されたか、③買収者に意見を述べる機会があったか、④利害関係を有する株主の議決権をどのように扱ったか、⑤発動期間と撤回条件、⑥希釈化の程度、⑦買収者への補償、⑧対抗措置の必要性が失われた場合に撤回できるか、である。

1号で株主平等原則の趣旨に反しないとしても、2号の目的・方法の審査を省略することはできない。

第5 ブルドックソース事件の判断

最高裁判所第二小法廷平成19年8月7日決定(平成19年(許)第30号、民集61巻5号2215頁)は、買収者及びその関係者には行使できない新株予約権を割り当てる一方、会社がその新株予約権を金銭で取得できる設計を対象とした。

最高裁は、買収者側を除くほとんどの株主が、適法に開催された株主総会で防衛策を承認したこと、買収者側が経営方針や投下資本の回収方針を十分に明らかにしていなかったこと、買収者側にも意見を述べる機会があったこと、会社が交付する金員が新株予約権の価値に見合うことなどを重視した。

その上で、株主総会の判断に正当性を失わせる重大な瑕疵はなく、差別的取扱いは衡平の理念に反して相当性を欠くものではないとして、会社法247条1号に当たらないとした。また、緊急の事態に対処するため株主総会が必要と判断した措置で、専ら経営陣等の支配権維持を目的とするものではないとして、同条2号にも当たらないとした。

第6 株主総会判断を尊重する限界

同決定は、特定株主による経営支配権取得が企業価値を毀損し株主共同の利益を害するかについて、株主総会における株主自身の判断の正当性を失わせる重大な瑕疵がない限り、その判断を尊重すべきであるとした。

もっとも、尊重の対象となるのは、十分な情報と適正な手続に基づく株主判断である。重要情報が欠落又は歪曲されていた、買収者の説明機会が不当に奪われた、利害関係者だけで結論が形成された、必要性が消滅したのに発動を続けたなどの事情があれば、尊重の前提が失われ得る。

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採用後・解雇後に経歴詐称が判明した場合―懲戒解雇・普通解雇・理由の後付けと証拠(AI作成)

目次

第1 結論と検討順序
第2 経歴詐称だけで直ちに解雇できるわけではない
第3 懲戒解雇と普通解雇を区別する
第4 採用後に判明した場合
第5 解雇後に判明した場合
第6 調査と弁明
第7 解雇予告・証明書・退職金
第8 証拠保存
第9 確認済み事項と未確認事項
第10 出典・関連記事

第1 結論と検討順序

採用後に学歴,職歴,資格,賞罰その他の申告が事実と異なると判明しても,虚偽があるという一点だけで懲戒解雇が当然に有効になるわけではない。確認すべきなのは,①会社が何を質問したか,②回答が虚偽又は重要な不告知か,③採否・配置・賃金・資格要件にどのような影響があったか,④就業規則の根拠と周知,⑤本人の認識・動機,⑥判明までの期間と勤務実績,⑦調査・弁明手続,⑧処分の均衡である。

さらに,解雇後に初めて経歴詐称が判明した場合は,元の解雇理由への後付け,新たな普通解雇,新たな懲戒解雇,労働契約の取消しを同じものとして扱わない。本記事は令和8年9月24日現在の法令と公表裁判例を基準とする。

第2 経歴詐称だけで直ちに解雇できるわけではない
1 「重要な経歴」か

経歴の重要性は,抽象的な信頼だけでなく,募集職種,採用条件,賃金体系,配置,法令上の資格,顧客への表示,安全性及び企業秩序との関係から判断する。応募書類に質問がなく,面接でも確認しておらず,真実を知っても採用・配置が変わらなかった事項は,重要性が弱い。

これに対し,必須資格を有すると偽った場合,真実の職歴では担当できない業務へ配置された場合,又は会社が合理的な範囲で明確に質問した重要事項へ積極的な虚偽回答をした場合は,処分を基礎づける方向に働く。

2 最高裁平成3年9月19日判決

炭研精工事件の最高裁第一小法廷平成3年9月19日判決は,二回の懲役刑と学歴の虚偽が就業規則上の懲戒解雇事由に該当し,他の言動も情状として考慮した原審判断を是認した。ただし,この判決は,全ての経歴不一致について懲戒解雇を認めたものではない。申告を求めた範囲,虚偽の内容,職務及び情状を確認する必要がある。

仙台地裁昭和60年9月19日判決(マルヤタクシー事件,昭和55年(ワ)第378号)は,普通のタクシー運転手としての採用に当たり,刑の言渡しの効力が失われた前科について,特段の事情がなければ告知すべき信義則上の義務はないとした。
同判決は,その他の学歴・職歴の不一致等も具体的に検討し,解雇を無効とした。炭研精工事件とは,質問内容,刑の効力,職務との関連性及びほかの解雇事由が異なるため,結論だけを比較しない。判決本文6~7頁で前科告知義務に関する判断を確認できる。

3 日本版DBSの防止措置と解雇を区別する

令和8年12月25日施行のこども性暴力防止法による確認の結果,特定性犯罪事実該当者に当たることが分かった場合は,対象業務に従事させない防止措置が必要となる。しかし,それだけで懲戒解雇・普通解雇の要件が満たされるわけではなく,配置転換等の可能性と労働契約法15条・16条等の要件を検討する。
同制度は,対象事業・対象業務に関する特別の犯罪事実確認制度であり,一般企業が応募者又は従業員の犯罪歴を広く調査する根拠ではない。対象事業者,対象従事者及び施行準備の全体像は,子ども性暴力防止法とは―「こども性暴力防止法」(日本版DBS)の対象・義務・令和8年12月25日の施行準備を参照されたい。

同法施行前からの現職者に対し,採用後に初めて性犯罪歴の有無を尋ねる誓約書を出させ,回答が虚偽だった場合について,令和8年9月29日改訂Q&A応用編7-3は,採用時の重要な経歴を詐称して雇用された場合には当たらないと説明している。採用時の質問・回答と,採用後の新たな誓約を混同して「採用時の経歴詐称」と決め付けない。これは行政資料の説明であり,虚偽回答に関するあらゆる服務上の問題や処分の可否を一律に否定する判例ではない。

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建築請負で完成・未完成建物の所有権は誰に帰属するか―材料提供・出来高払い・引渡し・中途解除(AI作成)

目次第1 結論第2 建物として独立したかを先に確認する第3 当事者の合意が出発点である第4 材料提供と代金支払の意味第5 完成・引渡し・中途解除を区別する第6 元請負人と下請負人がいる場合1 最高裁平成5年10月19日判決の考え方2 下請負人側から考えられる反対論拠3 令和8年度司法試験の事例への当てはめ第7 立証資料と実務チェックリスト第8 出典と調査範囲

第1 結論

建築請負で完成又は未完成の建物が誰の所有になるかは、「代金を払った者が所有者になる」「材料を出した者が所有者になる」と一つの事情だけで決めることはできない。

検討の順序は、①建築途中の物が不動産として独立した建物になったか、②請負契約に所有権帰属の明示又は黙示の合意があるか、③合意が明確でない場合に誰が主要な材料を提供したか、④工事代金がどの程度支払われ、その支払が材料費を実質的に負担したと評価できるか、⑤完成、検査、引渡し又は中途解除のどの時点か、⑥元請・下請関係があるか、である。

特に、工事代金の全額又は大部分を支払ったことを、直ちに所有権取得の結論へ結び付けてはならない。支払済み代金を「注文者が材料を提供したのと同視する」構成と、「請負人に代金債権を担保する必要がなく、注文者帰属の黙示の合意が認められる」構成は、理由も必要な支払水準も異なり得るからである。

第2 建物として独立したかを先に確認する

所有権帰属を論じる前提として、建築途中の工作物が、土地から独立した不動産である「建物」になったかを確認する。基礎や資材の集合にすぎない段階と、屋根・壁その他の構造を備え、目的とする用途に応じて社会通念上独立した建物と評価できる段階とでは、所有権の対象そのものが異なる。

建築確認上の完成、請負契約上の完成、固定資産税上の家屋認定及び民法上の独立した建物性は、それぞれ目的が異なる。検査済証がないこと又は工事に瑕疵があることだけで、民法上の建物性が当然に否定されるわけではない。

第3 当事者の合意が出発点である

建物所有権の帰属時期を定める条項が請負契約書又は約款にある場合、まずその文言、適用条件及び契約終了時の処理を確認する。「出来形部分の所有権は支払済み代金の割合に応じて注文者に帰属する」「完成又は引渡し時に注文者へ移転する」「解除時の出来形は注文者へ帰属する」など、条項の内容は一様でない。

明示の条項がなくても、代金支払方法、注文者の土地上で建築する趣旨、請負人に敷地利用権を与えたか、工事保険・公租公課・危険負担の扱い、建築確認申請上の建築主、完成後の使用開始、鍵の交付その他の事情から、黙示の合意が認定される余地がある。

もっとも、建築主名義、土地所有、融資又は固定資産税の申告は、それぞれ重要な間接資料ではあるが、それだけで私法上の所有権帰属を決めるものではない。

第4 材料提供と代金支払の意味
1 注文者が主要な材料を提供した場合

注文者が主要な材料を提供し、請負人が労務を提供して建築した場合、出来上がった建物を注文者の所有と捉える方向に働く。材料の一部だけを提供した場合は、その材料が建物の主要部分を構成するか、請負人が提供した材料との比率、契約上の扱いを確認する。

2 請負人が材料を提供した場合

古くからの判例理論では、請負人が材料全部を提供して注文者の土地上に建物を建築した場合、特段の合意がなければ、完成した建物は請負人に帰属し、引渡しによって注文者へ移転するという整理が用いられてきた。ただし、現在の具体的紛争では、契約条項と取引実態を先に確認し、この一般論を機械的に適用しないことが重要である。

3 工事代金が全額又は大部分支払われた場合

第一の構成は、支払済み代金が材料費を実質的に賄っており、注文者が材料を提供したのと同視できるというものである。この構成では、単なる支払割合だけでなく、支払時期、出来高、材料費の内訳及び支払金が当該材料の調達へ充てられたかを検討する。

第二の構成は、請負人が所有権を留保して代金債権を確保する必要がなく、完成又は出来形部分を注文者に帰属させる黙示の合意があったというものである。この構成では、全額又はほぼ全額の支払、引渡し予定、注文者による占有使用、請負人の言動その他の事情が問題となる。

「半額を超えたから注文者の所有になる」などの一律の数値基準は置かない。どの法律構成によるのかを明示し、その構成に対応する事実を示す必要がある。

第5 完成・引渡し・中途解除を区別する
1 完成前

完成前は、建物性の有無、出来高、契約上の出来形帰属条項及び支払済み代金を確認する。工事が進んでいても、独立した建物になっていなければ、建物所有権ではなく、材料の所有権、付合、加工、不当利得又は契約清算の問題となる。

2 完成後・引渡し前

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法人が資産を時価より低額で譲り受けた場合の税務―受贈益・時価・取得価額・相手方課税(AI作成)

目次

第1 結論と対象
第2 法人側に受贈益が生じる基本構造
第3 時価と取得価額
第4 完全支配関係がある法人間の例外
第5 売主が個人の場合

1 法人への著しい低額譲渡
2 自己創作の著作権を法人へ低額譲渡した場合
3 役員・株主から会社への移転

第6 売主が法人の場合
第7 実務上の確認資料
第8 確認済み事項と未確認事項
第9 出典・関連記事

第1 結論と対象

法人が資産を時価より低い対価で譲り受けた場合,買主法人には,原則として,取得時の適正な価額と実際の対価との差額に相当する受贈益が生じ得る。対価を支払っているため「贈与ではない」と直ちに処理することはできない。

検討の順序は,①取得した資産と取引単位,②取得時の時価,③実際の対価,④当事者の関係,⑤完全支配関係に関する益金不算入の有無,⑥売主側の課税,⑦買主側の取得価額である。本記事は令和8年9月28日現在の法令及び公表資料を基準とする。

第2 法人側に受贈益が生じる基本構造

法人税法22条2項は,各事業年度の所得計算上の益金に,有償又は無償による資産の譲渡,役務の提供,無償による資産の譲受けその他の取引に係る収益を含める。国税庁が公表する平成27年の税務訴訟資料(順号12643)は,適正な額より低い対価で資産を譲り受けた場合にも,対価と譲受時の適正な価額との差額が無償による資産の譲受けに類する受贈益として収益を構成すると判断している。

したがって,仕訳だけで結論は変わらない。契約書に売買と記載され,代金の支払があっても,税務上は低額部分を独立して認識する必要がある。反対に,時価との差があるように見えても,数量,支払条件,瑕疵,処分費用,換金制約その他の条件差を合理的に説明できれば,そもそも比較した価格が同じ条件の時価でない可能性がある。

第3 時価と取得価額
1 基準時は取得時である

比較するのは,原則として,法人が資産を取得した時点における適正な価額と実際の対価である。契約締結日,引渡日,所有権移転日又は停止条件成就日が異なるときは,契約の効力発生と資産取得の時点を資料から確定する。

2 評価方法は資産の性質に応じる

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賃貸不動産が譲渡された場合,既に譲渡された将来賃料債権は誰に帰属するか―民法605条の2・債権譲渡・対抗要件(AI作成)

目次第1 結論第2 まず賃貸人たる地位の移転を確認する第3 将来賃料債権の譲渡は別の法律関係である第4 不動産譲受人と債権譲受人が競合する場合第5 時系列で整理する第6 賃借人と契約当事者の実務対応第7 出典と調査範囲

第1 結論

賃貸不動産の所有者が、将来の賃料債権を第三者へ譲渡した後に不動産を別の者へ譲渡した場合、債権譲渡の通知と所有権移転登記の先後だけで結論を出すことはできない。

検討すべき法律関係は、①賃貸借に対抗力があるか、②不動産譲渡によって賃貸人たる地位が誰に移転したか、③旧所有者がした将来賃料債権の譲渡は有効か、④不動産譲渡後の賃料債権が旧所有者の下で発生するのか、⑤債権譲渡の通知又は承諾及び不動産の所有権移転登記がいつされたか、という五つである。

核心は、同じ賃料債権を二重に譲渡した場面ではなく、不動産譲受人が賃貸人たる地位を取得する一方、債権譲受人が旧賃貸人から将来債権を取得したと主張する場面である。そのため、民法467条の確定日付ある通知と不動産登記の単純な先後関係へ置き換えてはならない。

第2 まず賃貸人たる地位の移転を確認する

民法605条の2第1項は、民法605条、借地借家法10条若しくは31条その他の法令による賃貸借の対抗要件を備えた不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位が譲受人へ移転すると定めている。

ただし、譲渡人と譲受人が、①賃貸人たる地位を譲渡人に留保し、②譲受人が譲渡人へ当該不動産を賃貸する旨を合意した場合は、同条2項による留保が問題となる。同条3項により、賃貸人たる地位の移転を賃借人へ対抗するには、譲受人が不動産の所有権移転登記を備える必要がある。

対抗力ある賃貸借でない場合でも、民法605条の3により、譲渡人と譲受人の合意で賃貸人たる地位を移転できる。この場合も、賃借人の承諾は不要であるが、同条が準用する605条の2第3項の登記を確認する必要がある。

賃貸人たる地位が移転すると、民法605条の2第4項により、同法608条の費用償還債務及び622条の2第1項の敷金返還債務も譲受人が承継する。賃料請求権だけを切り離して考えると、敷金、修繕及び賃貸人の義務との対応関係を見失う。

第3 将来賃料債権の譲渡は別の法律関係である

民法466条の6第1項は、債権譲渡の時に債権が現に発生していることを要しないと定め、同条2項は、譲受人が発生した債権を当然に取得すると定めている。したがって、対象となる賃貸借、賃借人、賃料、期間その他の事項によって将来賃料債権を特定できる場合、将来債権であることだけを理由に譲渡が無効になるわけではない。

もっとも、債権譲渡を賃借人その他の第三者へ対抗するには、民法467条1項の通知又は承諾が必要であり、賃借人以外の第三者へ対抗するには同条2項の確定日付ある証書が必要である。債権譲渡登記を利用した場合は、動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律も確認する。

ここで重要なのは、将来債権譲渡の有効性・特定性・対抗要件と、その債権が将来誰の下で発生するかとは別問題であることである。契約書に「今後発生する全賃料債権」と書かれていても、不動産譲渡後に旧所有者の下で賃料債権が発生しないと解されれば、債権譲受人が取得する対象も生じないことになる。

第4 不動産譲受人と債権譲受人が競合する場合
1 不動産譲受人からの主張

不動産譲受人は、対抗力ある賃貸借について民法605条の2第1項により賃貸人たる地位を承継し、その後の使用収益の対価として発生する賃料債権も自らに帰属すると主張することになる。この構成では、旧賃貸人には不動産譲渡後の賃料債権が発生せず、旧賃貸人から譲渡を受けた者も当該債権を取得しない。

最高裁判所第三小法廷平成24年9月4日判決(平成22年(受)第1280号)は、賃料債権の差押えの効力が生じた後に、賃貸人が賃借人へ建物を譲渡した事案である。原審は、賃料債権が差押えという第三者の権利の目的となっているから、民法520条ただし書により混同によって消滅しないとして、譲渡後の賃料の取立てを認めた。これに対し同判決は、建物の譲渡により賃貸借契約が終了した以上、その終了が差押えの効力発生後であっても、賃借人が賃料債権の発生しないことを主張することが信義則上許されないなどの特段の事情がない限り、差押債権者は、譲渡後に支払期が到来する賃料債権を取り立てることができないとし、原判決のうちこの部分を破棄して原審に差し戻した。同判決は債権譲渡と不動産譲渡の競合を直接判示したものではないが、「将来債権の処分後も、発生原因が失われれば債権は発生しない」という検討の参考になる。

2 債権譲受人からの主張

債権譲受人は、債権譲渡時に存在した同一の賃貸借から将来発生する債権が特定され、民法466条の6第2項により発生時に当然取得すると主張し得る。また、不動産譲受人は既存の賃貸借関係を承継する以上、債権譲渡によって賃料の受領先が変更された状態も引き受けると構成する余地がある。

この構成を採る場合、債権譲渡の対象期間・上限額・賃貸借の同一性、確定日付ある通知の有無、不動産譲受人が債権譲渡を知っていたか、不動産取引で賃料帰属をどのように価格へ反映したかが重要になる。

3 単純な優先関係ではない

不動産譲受人は、旧所有者から賃料債権を譲り受けた第二譲受人ではない。したがって、債権譲渡の確定日付と所有権移転登記を機械的に比較して優先者を決めることはできない。まず、賃貸人たる地位の移転後に、誰の下で、どの契約に基づき賃料債権が発生するのかを確定し、その後に債権譲渡の効力と対抗要件を検討する。

令和8年9月24日までに裁判所ウェブサイトで公開された裁判例を検索した範囲では、この競合を直接判示する最高裁判例本文を確認できなかった。裁判所の公開データベースには全裁判例が掲載されているわけではないため、これは判例の不存在を意味しない。個別案件では、判例秘書その他の商用データベース及び文献を追加調査する必要がある。

第5 時系列で整理する

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廃棄物の不適正処理を止める手段―措置命令・事業停止・民事差止め・義務付け・仮処分(AI作成)

目次

第1 最初に決めること第2 行政命令の名宛人を分ける第3 許可取消し後の未処理廃棄物第4 民事差止めと仮処分第5 非申請型義務付けと仮の義務付け第6 住民訴訟が代替経路となる場合第7 証拠保全と優先順位第8 調査範囲と限界第9 関連記事第10 出典・参考資料
第1 最初に決めること

廃棄物の不適正処理による危険を止めたいときは,誰に何をさせるか,損害は既に発生したか,行政命令の要件は満たされるか,公金支出が問題かを先に固定する。
損害賠償を列挙するより,現在の危険に最短で効く差止め,仮処分,措置命令,義務付けを優先する。

本記事は,令和8年9月25日現在の法令,法務省公式資料,環境省の通知,裁判所ウェブサイト掲載の裁判例及び判例秘書で確認した裁判例に基づく。

第2 行政命令の名宛人を分ける主体主な根拠確認事実一般廃棄物の不適正処分者廃棄物処理法19条の4第1項(市町村長の措置命令)一般廃棄物処理基準に適合しない処分,生活環境の保全上の支障又はそのおそれ,行為と支障の因果関係実際の不適正処分者廃棄物処理法19条の5第1項1号,事業停止命令現場,搬入,保管,処分工程,処理基準違反,不法投棄排出事業者等19条の6第1項1号・2号委託料,委託先の異常,知情,注意義務,委託・マニフェストの履行仲介・再委託関係者19条の5第1項の各号名目でなく実際の処理,指示,委託基準違反。適法な再委託だけで当然に対象となるわけではない。

処理基準・保管基準に適合しない処理の是正には,同法19条の3の改善命令も検討する。一般廃棄物は市町村長,産業廃棄物は都道府県知事が所管する。改善命令は基準違反を是正し,生活環境上の支障の発生を未然に防ぐ手段である。支障又はそのおそれが生じた場合の除去・発生防止は,一般廃棄物なら19条の4,産業廃棄物なら19条の5・6の措置命令の要件と名宛人を別に検討する。容量超過だけから処理基準違反や支障を推定せず,違反条項,原因行為,流出経路及び影響を資料で示す。

条文は主体ごとに要件を異にする。
「排出事業者責任」という一語で全員を同じ根拠に入れず,委託契約,許可証,マニフェスト,価格,搬入記録,現場写真を対応させる。

産業廃棄物について排出事業者等に19条の6の措置命令を発するには,①処分者等だけでは支障除去等の措置が困難又は不十分であり,かつ,②当該処分が不当に低い対価で行われたこと,排出事業者等が当該処分を知り又は知ることができたことその他の事情から,排出事業者等に措置を採らせることが相当であることの双方が必要となる。適正な委託をしたという形式だけでも,処理業者が倒産したという結果だけでも直ちに命令対象とはならない。

また,生活環境の保全上の支障又はそのおそれがあり,緊急に措置を講ずる必要があるのに命令するいとまがないときは,都道府県知事は19条の8第1項4号により自ら支障除去等の措置を講ずることができる。ただし,その費用を排出事業者等に負担させるには,同条4項により19条の6第1項各号の要件を満たし,廃棄物の性状,数量,処理方法その他の事情から相当な範囲に限られる。

水質環境基準の超過は重要な判断資料であるが,それだけで廃棄物処理法上の「生活環境の保全上の支障又はそのおそれ」と当然に同義になるわけではない。流出経路,濃度,継続性,周辺住民・井戸水・農作物・生態系への具体的影響を併せて評価する。

第3 許可取消し後の未処理廃棄物

許可取消し・廃止後に未処理の産業廃棄物が残るときは,同法19条の10第2項(許可の更新を受けなかった者は同項1号,事業の廃止等を届け出た者は同項2号,許可を取り消された者は同項3号)を見落とさない。
この命令は,19条の5と異なり,生活環境保全上の支障又はそのおそれを必要とせず,処理基準に適合しない保管に対し,基準に従った保管その他必要な措置を命じる。
環境省の「行政処分の指針について(通知)」(令和3年4月14日付け環循規発第2104141号)38頁~39頁は,旧許可業者等には処理基準が適用されず改善命令の対象にならず,また少なくとも生活環境保全上の支障が生ずるおそれがあるといえる状態でなければ19条の5の措置命令の対象にならないため,強制力のない行政指導によらざるを得なかったことへの対応として設けられた規定であると説明している。
同指針は,この命令はあくまで適正な保管を担保する趣旨であり,自ら処分をすることまでは求めるものではないとしている。

第4 民事差止めと仮処分

住民又は隣接地所有者は,土地・建物所有権に基づく妨害予防請求や人格権に基づく差止めを検討する。
危険が切迫しているときは,民事保全法23条2項の仮処分を併用する。
保全すべき権利,保全の必要性,予想される被害,受忍限度,差止めの具体的内容を証拠で示す。

第5 非申請型義務付けと仮の義務付け

知事が,不適正処分者等に対し,廃棄物処理法19条の5第1項に基づき支障の除去等の措置を講ずべきことを命ずる処分(措置命令)をしない場合は,その措置命令を「一定の処分」として非申請型義務付け訴訟(行政事件訴訟法3条6項1号・37条の2)を検討する。
名宛人,根拠条項及び命ずる措置の内容で処分を特定し,撤去作業そのものを義務付けの対象として書かない。

同法19条の8第1項の支障除去等は,同項各号のいずれかに該当する場合に知事が「自らその支障の除去等の措置の全部又は一部を講ずることができる」とする規定であり,名宛人に義務を課す措置命令とは性質も要件も異なる。
産業廃棄物処分場の周辺住民らが,主位的に知事が同条1項に基づく措置を自ら講ずべき旨を,予備的に知事が19条の5第1項に基づき事業者に措置命令をすべき旨を求めた事案で,福岡高裁平成23年2月7日判決(平成20年(行コ)第11号・判例タイムズ1385号135頁,判例時報2122号45頁)は,19条の8第1項1号は措置命令が既にされていることを前提とするから該当する余地がなく,他の号に当たる具体的事実も認められないとして主位的請求を棄却し,予備的請求を認容して知事に措置命令を命じた。
同判決は,最高裁平成23年7月27日決定(平成23年(行フ)第1号)が県の上告等を却下した福岡高裁の決定を破棄した後,最高裁平成24年7月3日決定(平成23年(行ツ)第348号・平成23年(行ヒ)第387号)による上告棄却・上告不受理により確定した。
両者を一つの「処分」として並べず,別の請求として立てる必要がある。

訴訟要件として,原告適格(行政事件訴訟法37条の2第3項・第4項),重大な損害(同条1項・2項)及び損害を避けるため他に適当な方法がないこと(同条1項)を確認する。
本案では,根拠法令から処分をすべきことが明らかであるか,処分をしないことが裁量権の逸脱・濫用となるか(同条5項)が問われる。

第4の民事差止めを提起できることが,義務付け訴訟の「その損害を避けるため他に適当な方法がないとき」の要件を否定するかは,相手方,請求の内容,強制執行の可否及び判決の効力を比べて検討する。
前記の福岡高裁平成23年2月7日判決は,第三者に対して直接民事上の請求をすることによってある程度の権利救済を図ることが可能であっても,直ちにそのことだけで「他に適当な方法」があるとはいえないとした。
民事の差止判決は加害者を直接拘束するが,義務付け判決は行政庁を拘束するものであり(行政事件訴訟法38条1項による33条の準用),取消判決の第三者効を定める32条1項は準用されていない。
加害者への効果は,判決を受けて行政庁がする措置命令を通じて生じる。
両者の比較は,非申請型義務付け訴訟―行政に是正命令を出させる訴えの一定の処分・重大な損害・補充性・判決効で整理している。

緊急性があるときは行政事件訴訟法37条の5第1項の仮の義務付けも検討する。

自治体の相談窓口への要望は事実上の行動であり,義務付け訴訟の法定要件を満たすことと同じではない。
法令違反の是正のための処分がされていないと考えるときは,行政手続法36条の3に基づき,違反事実,求める処分の内容及び根拠条項等を記載した申出書で処分を求めることができ,申出を受けた行政庁は,必要な調査を行い,その結果に基づき必要があると認めるときは処分をしなければならない(同条3項)。

第6 住民訴訟が代替経路となる場合

事業に地方公共団体の違法な支出,契約,債務負担その他の財務会計行為が関連する場合,住民監査請求・住民訴訟が代替的な経路となり得る。
ただし,住民訴訟は許可や環境評価の違法を直接一般的に争う制度ではなく,対象は特定の財務会計行為又は怠る事実である。
住民監査請求前置,請求期間と出訴期間を見落とさない。

第7 証拠保全と優先順位

①危険の現状を日付入り写真・動画,臭気,粉塵,水質,医療記録で保存する。
②地番,所有者,占有者,排出事業者,収集運搬者,処分者を分ける。

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著作権全部譲渡後の改変と著作者人格権―著作権法20条・59条・61条(AI作成)

目次

第1 結論の要旨第2 著作権と著作者人格権を分ける第3 著作権法61条の譲渡範囲第4 同一性保持権と改変第5 不行使合意,第三者及び著作者の死後1 不行使合意と利用主体2 著作者が死亡した後の人格的利益第6 契約作成と証拠保存第7 差止め・損害賠償・原状回復第8 確認済みと未確認の境界第9 関連記事第10 出典・参考資料
第1 結論の要旨

著作権を全部譲渡しても,著作者人格権は譲渡できない。したがって,譲受人が作品を改変できるかは,財産権の帰属だけでなく,著作権法20条,59条及び61条,著作者の同意・不行使合意,譲渡時に予定された利用の範囲から判断する。

本記事は令和8年9月24日現在の法令と法務省公式資料を確認して作成し,令和8年10月10日に現行の45条・46条と建築物の改変に関する20条2項2号を確認して説明を補った。公式資料が示す解釈方向は裁判例と同じ引用強度ではない。

第2 著作権と著作者人格権を分ける

著作権は,複製権,上映権,公衆送信権,翻案権等の財産的な権利であり,譲渡できる。他方,公表権,氏名表示権と同一性保持権は著作者人格権であり,著作権法59条により著作者の一身に専属し,譲渡できない。

確認対象主な条文契約での確認財産権の帰属61条譲渡対象,地域,期間,対価,再譲渡・再許諾改変の可否20条改変の目的,種類,範囲,媒体,事前確認著作者人格権59条不行使合意の対象行為,期間,利用主体,承継

建物や絵画の原作品の所有権,写真データの保有と,著作権の帰属も区別する。美術の著作物等の原作品の所有者等が原作品を公に展示できる45条1項は,撮影・広告利用・商品化の著作権を一括して取得させる規定ではない。譲渡契約では,物の売買,著作権の譲渡及び利用許諾の対象と対価を分けて確認する。

第3 著作権法61条の譲渡範囲

著作権法61条2項は,著作権譲渡契約で27条の翻訳権・翻案権等又は28条の二次的著作物の利用に関する原著作者の権利を特掲しないとき,譲渡人に留保されたと推定する。「著作権をすべて譲渡する」とだけ書くと,後の翻案・二次利用で紛争になる。

第4 同一性保持権と改変

同法20条1項は,著作者に,その著作物と題号の同一性を保持し,その意に反して変更,切除その他の改変を受けない権利を与える。2項は学校教育の目的上やむを得ない改変,建築物の増築・改築・修繕・模様替えによる改変,プログラムの利用上必要な改変,その他著作物の性質並びに利用の目的及び態様に照らしやむを得ない改変を例外とする。

建築物については20条2項2号の増築・改築・修繕・模様替えによる改変を,4号の「やむを得ない」改変と区別して検討する。2号の適用に4号の要件をそのまま加えたり,修繕という呼び方だけで建物以外の作品の改変まで許されると判断したりしない。また,自己の建物を改変することと,他人の建築の著作物を新築・部分改築で複製することは別であり,後者は複製権と46条2号を検討する。

著作権全部譲渡時に通常予定された改変は,59条の人格権不譲渡性と61条の財産権全部譲渡の趣旨をどう調整するかが問題となる。令和3年司法試験の公式資料は,譲渡事実から改変が「意に反する」かを解釈することを重視する。ただし,これは裁判例ではないため,契約時の説明,利用目的,対価,改変可能性に関する交渉記録を保存する。

第5 不行使合意,第三者及び著作者の死後1 不行使合意と利用主体

著作者人格権は譲渡できないため,実務では不行使合意が用いられる。しかし,不行使合意は基本的に契約当事者間の債権関係である。子会社,委託先,配信プラットフォーム,販売先又は二次取得者が当然に援用できるとは限らない。どの者が,どの利用で,どの種類の改変を行うかを明示する。

2 著作者が死亡した後の人格的利益

著作権法60条は,著作者が死亡した後も,著作者が存していれば著作者人格権の侵害となるべき行為を原則として禁止する。ただし,行為の性質・程度,社会的事情の変動その他により著作者の意を害しないと認められる場合は例外となる。

同法116条は,60条違反の行為又はそのおそれがある場合について,一定の遺族等に差止め及び名誉回復等の請求を認める。著作者の死亡によって改変上のリスクが当然に消滅するわけではないため,譲受人は,生前の利用目的・意思・契約記録,改変の性質・程度及び遺言による請求権者の指定を確認する必要がある。

第6 契約作成と証拠保存著作物と著作者を特定する。原始的な著作権者,職務著作,共同著作の有無を確認する。譲渡する支分権と27条・28条の特掲を書く。予定する改変,媒体,期間,地域,後続版を例示する。不行使合意の対象行為と利用主体を限定する。ラフ,納品版,改変版,指示,確認,対価と利用目的を保存する。
第7 差止め・損害賠償・原状回復

侵害がある場合,著作者は差止め,損害賠償,名誉声望回復等を検討する。利用停止の緊急性があるときは仮処分も問題となる。譲受人側は,改変の必要性,同意・不行使合意,20条2項の例外,著作者の意思と契約目的を資料で示す。

第8 確認済みと未確認の境界

確認済みは,著作権法20条,21条,45条,46条,59条,60条,61条及び116条の条文と,令和3年司法試験の問題・出題の趣旨・採点実感である。著作権全部譲渡後の改変を同じ事実関係で直接判断した最高裁判例の有無・射程は,判例秘書の網羅的検索を本記事で実施していないため未確認である。

第9 関連記事

製品デザインの制作委託では,譲渡対象の形状等が著作物として保護されるかを先に確認する。量産実用品の著作物性と契約による権利処理の関係は,量産実用品のデザインはどこまで著作権で保護されるか-最高裁判決とトリップトラップ(AI作成)で説明している。

特許保証と知財紛争の責任転嫁―発注者指定の設計では誰が責任を負うか(AI作成)も参照されたい。

建物・展示美術の写真を広告や商品に使えるか―著作権法46条と写り込みの判断(AI作成)では,建築の著作物と展示美術を分け,写真の商用利用と写り込みを検討している。

第10 出典・参考資料

①e-Gov法令検索「著作権法」20条,21条,45条,46条,59条~61条,112条~116条
②令和3年司法試験問題(選択科目PDF掲載ページ)
③令和3年司法試験の結果(論文式試験出題の趣旨PDF掲載ページ)
④令和3年司法試験の採点実感(選択科目PDF掲載ページ)

修理・再生品は特許権侵害になるか―消尽,新たな生産,交換部品及び間接侵害(AI作成)

目次

第1 修理と再生品の結論第2 特許権の消尽第3 修理か「新たな生産」か1 最高裁の判断枠組み2 加工・部品交換で確認する事項第4 インクタンク事件第5 交換部品の供給と間接侵害第6 直接侵害・間接侵害・消尽を混同しない第7 事業者が保存すべき資料第8 契約・表示・競争法との関係第9 実務チェックリスト第10 関連記事第11 出典・参考資料
第1 修理と再生品の結論

適法に購入した特許製品を使用し,通常の修理をして再販売する行為には,原則として消尽した特許権の効力は及ばない。他方,加工又は部品交換によって元の製品と同一性を欠く特許製品を新たに製造したと評価される場合,特許権者は権利を行使できる。

「修理」「再生」「リファービッシュ」「リサイクル」という表示だけでは結論は出ない。対象製品,特許請求項,加工前の状態,交換部品の機能・価値・耐用期間,加工の程度,取引実情及び再販売方法を対応させる必要がある。

第2 特許権の消尽

特許法68条は,特許権者が業として特許発明を実施する権利を専有すると定める。他方,特許権者又は許諾を受けた実施権者が日本国内で特許製品を譲渡した場合,その製品について特許権は目的を達成して消尽し,特許権者は当該製品の使用・譲渡等を原則として差し止められないというのが最高裁判例である。

消尽は,製品の流通のたびに許諾を必要とすると取引の安全を害する一方,特許権者には最初の譲渡時に対価確保の機会があることを基礎とする。ただし,消尽するのは譲渡された当該製品についてであり,新たな特許製品の生産まで自由にするものではない。

特許権者が国外で特許製品を譲渡した場合は,国外の対応特許権と日本の特許権が別個の権利であるため,国内での譲渡と同列には論じられない。最高裁判所第三小法廷平成9年7月1日判決(平成7年(オ)第1988号,民集51巻6号2299頁。BBS事件)は,日本の特許権者又はこれと同視し得る者(子会社・関連会社等)が国外で特許製品を譲渡した場合,譲受人に対しては日本を販売先・使用地域から除外する旨を合意したときを除き,転得者に対してはその合意をした上で特許製品にこれを明確に表示したときを除き,日本で特許権を行使できないとした。製品に明確に表示されていれば転得者も制限を認識できることを理由としているので,製品自体に表示がなく,販売者のウェブサイトに掲載しただけの場合は,この要件を満たさないと考えられる。また,最高裁平成19年11月8日判決は,国外で譲渡された特許製品に加工や部材の交換がされ,新たに製造されたと認められるときは,日本で特許権を行使でき,その判断は国内で譲渡された場合と同じ基準によるとしている。

国内でライセンシーから仕入れた製品では,最初の譲渡が許諾範囲内かも確認する。特許法78条2項は,通常実施権者による実施を法律の規定又は設定行為で定めた範囲内で認める。数量上限を超えた販売が判明した場合,数量条項が実施の許諾範囲を画するのか,報告・実施料計算等の契約債務を定めるのかを,契約全体と許諾経緯から検討する。数量違反をすべて特許侵害と扱ったり,契約違反にすぎないと一律に処理したりしない。

実施料の不払いと,許諾が解除・終了したことも区別する。BBS事件の国内譲渡に関する理由は,特許権者の対価確保の機会を基礎としており,実施料が実際に未回収であるだけで,適法に譲渡された製品の消尽が当然に失われるわけではない。同判決は数量超過の譲渡を直接判断した先例ではないため,仕入先がライセンシーであることだけで超過品も適法と決めない。製造番号・ロット,出荷日,数量報告,変更合意と終了通知を対応させる。

超過分の識別,出荷判断,追加許諾と過去の請求清算及び精算金の消費税は,特許ライセンスの数量超過が判明したとき―許諾範囲,消尽,追加実施料及び和解金の消費税(AI作成)で整理している。

第3 修理か「新たな生産」か
1 最高裁の判断枠組み

最高裁平成19年11月8日判決(インクタンク事件)は,加工・部材交換により元の特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたと認められるときは,特許権者が権利を行使できるとした。

その判断では,①製品の属性,②特許発明の内容,③加工・部材交換の態様,④取引の実情等を総合考慮する。単一の部品を交換したか,製品価格の何割かという一つの数字だけで決める枠組みではない。

2 加工・部品交換で確認する事項
考慮領域確認事項製品の属性機能,構造,材質,用途,耐用期間及び通常の使用態様発明の内容請求項の構成,作用効果,加工後に再形成される技術的特徴加工の態様加工前の消耗・破損状態,加工の内容・程度,品質管理交換部品耐用期間,技術的機能,経済的価値及び製品全体との関係取引実情修理市場,純正・再生品の表示,価格,保証,回収・再流通の実態
第4 インクタンク事件

同判決の事案では,使用済みインクタンクを回収し,内部を洗浄し,インクを再充填するための加工をして再販売していた。最高裁は,製品の状態,発明の内容及び加工の態様等から,新たな製造に当たるとして特許権行使を認めた。

この結論を「消耗品への再充填は常に侵害」と一般化してはならない。最高裁は製品属性から取引実情までの総合考慮を示しており,別製品では,通常交換される消耗部品か,製品本体の寿命が残るか,加工が発明の技術的特徴を再形成するか等によって評価が変わり得る。

第5 交換部品の供給と間接侵害

修理業者が完成品を新たに生産したかという直接侵害の問題と,部品供給者が間接侵害責任を負うかは別である。直接侵害が成立せず,特許法101条1号の専用品型にも当たらないときでも,同条2号を順に検討する。
もっとも,1号・2号はいずれも,物の発明について「その物の生産に用いる物」を対象とする。同じ特許について部品供給者の間接侵害を問うには,その部品が,特許製品の新たな製造(生産)と評価される加工又は交換に用いられることが前提となる。
また,直接の実施行為が「業として」の要件を欠く等の理由で直接侵害とならない場合に間接侵害が成立するかは見解が分かれるから,直接侵害を否定した理由を特定して検討する。

1号は,物の発明について,その物の生産にのみ用いる物の業としての生産・譲渡等を対象とする。「のみ」については,単に想定可能な他用途ではなく,経済的,商業的又は実用的な非侵害用途があるかを問う。

2号は,広く一般に流通している物を除き,その物の生産に用いる物であって発明による課題の解決に不可欠なものを,その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら,業として生産・譲渡等する行為を対象とする。警告書到達や訴え提起等により主観的要件が充足した時点の前後を分け,充足前の販売数量を間接侵害の損害に自動的に入れない。

また,部品の一部が適法な修理や非侵害製品にも使用されるなら,その数量は,直接に損害が発生しないこと又は特許法102条2項の推定覆滅の事由として実証する。客先別,用途別,警告前後別の販売記録が重要である。

第6 直接侵害・間接侵害・消尽を混同しない
問題対象行為主な確認直接侵害特許製品の生産・使用・譲渡等請求項の全構成要件,業としての行為,地域消尽適法に譲渡された個別製品の使用・再譲渡等適法な初回譲渡と,新たな生産の有無間接侵害専用品・不可欠品の生産・譲渡等特許法101条の各号,汎用品,知情,用途

修理行為が新たな生産に当たらない場合でも,部品供給に別の特許が及ぶことはあり得る。逆に,部品が101条に該当しないことだけで,完成した再生品の直接侵害が否定されるわけではない。

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身体障害者手帳で受けられる自動車税の減免その他のメリット――消費税・高速道路・駐車・改造助成(AI作成)

第1 結論

1 利用できる可能性がある制度
2 手帳があれば自動的に免除されるわけではない
3 令和8年に廃止された環境性能割

第2 自動車に関する税金

1 自動車税種別割の減免
2 軽自動車税種別割の免除・減免
3 身体障害者用自動車の消費税非課税
4 自動車重量税等

第3 有料道路料金の障害者割引

1 対象者と割引率
2 登録していない車両も利用できる場合
3 ETC利用と更新

第4 駐車に関する制度

1 駐車禁止除外指定車標章
2 公営・民間駐車場の料金割引

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手足のしびれ・腰痛がある製造業社員の復職判断――危険機械・重量物作業の安全確認(AI作成)

第1 結論
第2 製造作業を工程・危険源に分ける

1 職種名だけでは判断できない
2 工程ごとの確認事項

第3 症状・服薬と安全上必要な機能

1 しびれは部位・発症時期・変動を確認する
2 腰痛は立位だけでなく座位・運転も確認する
3 服薬と危険作業

第4 復職判断の手順

1 会社が作業情報を具体化する
2 主治医と産業医等の役割を分ける
3 危険作業は実地の耐久試験にしない
4 配慮は危険源に近い対策から検討する
5 診断書の作成時点と再評価を分ける

第5 判断結果と再評価の記録
第6 法的な位置付け
第7 関連記事
第8 出典・参考資料

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社員が会社の物品を買取業者に売ったときの取戻し―民法193条・194条と古物営業法20条,窃盗と業務上横領の区別(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 即時取得と盗品の特則の関係1 原則としての即時取得2 盗品・遺失物の特則(民法193条)3 代価の弁償(民法194条)4 古物商についての特則(古物営業法20条)5 古物商が個人から直接買い取った場合6 回復期間中の所有権7 民法192条と193条の「占有者」8 回復までの使用利益第3 窃盗か業務上横領か1 「盗品」の範囲2 刑法上の区別3 造幣局の金塊・金貨の事案4 会社が整理しておくべき事実第4 業務上横領に当たる場合1 即時取得の成否が争点になる2 業者の過失を基礎づける事情3 古物商の不正品の申告義務第5 物が精錬・加工・転売された場合1 転売された場合2 精錬・加工された場合3 継続買取りと後続窃盗の損害賠償第6 刑事手続との関係1 警察による手配と保管命令2 押収された物の被害者還付3 盗品等に関する罪(刑法256条)第7 持出しが発覚したときの実務上の手順1 記録の確保2 売却先の記録の保全3 期間の管理4 毒物・劇物では法定届出と安全な受領を分ける第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 文献4 関連記事5 調査範囲
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,社員が会社の物品(在庫品,原材料,工具,貴金属等)を無断で持ち出して買取業者等に売却した場合に,会社が物そのものを取り戻せるかを整理するものである。
社員本人に対する損害賠償請求の範囲や,給料からの天引きの可否は,社員のミスやAIの使いすぎで会社が損害を受けたとき,本人に請求できるか―茨石事件・福山通運事件と労働基準法16条・24条で扱っているので,本記事は物の取戻しに絞る。
基準日は令和8年9月18日であり,法令は同日にe-Gov法令検索で確認した現行条文による。

2 結論

①社員の行為が窃盗に当たり,その物が「盗品」であれば,会社は,買い受けた者が善意無過失であっても,盗難の時から2年間は現に占有する者に回復を請求できる(民法193条)。
②買い受けたのが古物商であれば,盗難の時から1年間は,代価を弁償せずに回復を求めることができる(古物営業法20条)。
③社員が自ら占有していた物を処分した業務上横領に当たる場合は,その物は一般に「盗品」には当たらないと解されており,買い受けた者が善意無過失であれば即時取得(民法192条)が成立して,取り戻せなくなる。
④したがって,窃盗と業務上横領のどちらに当たるか,つまり社員がその物を「占有」していたかが,民事の取戻しの結論を大きく左右する。
⑤精錬・加工によって原物の同一性が失われた場合は,元の物をそのまま取り戻すことはできない。加工物・混和物の権利と金銭請求を別に検討する。単なる転売の場合は,現物の所在と現在の占有者を確認する。

第2 即時取得と盗品の特則の関係
1 原則としての即時取得

民法192条は,「取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。」と定める。
売主に処分の権限がない場合でも,取引行為に基づく占有取得,平穏・公然,善意・無過失の各要件を満たせば,即時取得が問題となる。善意・無過失であることだけでは足りない。

第三者が物を保管している場合は,民法184条の指図による占有移転,178条の対抗要件及び192条の占有開始を分けて確認する。
指図を受ける保管者と承諾する譲受人,占有の経過及び残す資料は,第三者保管中の動産売買―指図による占有移転,対抗要件と即時取得の確認事項で説明している。

2 盗品・遺失物の特則(民法193条)

民法193条は,「前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。」と定める。
盗品と遺失物については,即時取得の要件を満たす買主に対しても,被害者は2年間は回復を請求できる。
請求の相手方は,同条の「占有者」である。民法192条によって権利を取得した者と,193条に基づく回復請求時の占有者とは常に同一とは限らず,直接占有と間接占有も区別する必要がある(第2の7)。
2年の期間は,転売のたびに数え直すのではなく,盗難の時から数える。

3 代価の弁償(民法194条)

民法194条は,「占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。」と定める。
転得者が,盗品を買い取った業者からさらに善意で買い受けた場合は,その業者が「その物と同種の物を販売する商人」に当たり,会社は代価を弁償しなければ取り戻せない可能性がある。
最高裁平成12年6月27日第三小法廷判決(平成10年(受)第128号,民集54巻5号1737頁)は,同条により盗品の引渡しを拒むことができる占有者は,代価の弁償の提供があるまで盗品の使用収益権を有するとし,被害者が代価を弁償して盗品を回復することを選択して引渡しを受けたときは,占有者は返還後に代価の弁償を請求できるとした。

4 古物商についての特則(古物営業法20条)

古物営業法20条は,「古物商が買い受け、又は交換した古物…のうちに盗品又は遺失物があつた場合においては、その古物商が当該盗品又は遺失物を公の市場において又は同種の物を取り扱う営業者から善意で譲り受けた場合においても、被害者又は遺失主は、古物商に対し、これを無償で回復することを求めることができる。ただし、盗難又は遺失の時から一年を経過した後においては、この限りでない。」と定める。
古物商に対しては,盗難の時から1年間は,民法194条の代価の弁償をせずに回復を求めることができる。

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整理解雇は30日前に予告すれば有効か―民法627条,解雇回避措置・人選基準・説明協議(AI作成)

目次

第1 30日前に予告しても整理解雇が有効とは限らない第2 予告手続と解雇の有効性を分ける第3 整理解雇の四つの考慮事項第4 人員削減の必要性第5 解雇回避措置第6 人選の合理性第7 説明・協議の妥当性第8 実施前に確認する別の規制第9 証拠化する資料第10 使用者・労働者別の確認事項第11 関連記事第12 出典・参考資料
第1 30日前に予告しても整理解雇が有効とは限らない

結論として,30日前に解雇を予告し,又は不足日数分の解雇予告手当を支払っただけで,整理解雇が有効になるわけではない。予告は労働基準法20条の手続であり,解雇が客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当と認められるかは労働契約法16条により別に判断される。

期間の定めのない雇用で使用者が解約の意思表示をする法律上の出発点は民法627条1項である。ただし,雇用の解約は,労働契約法16条の解雇権濫用法理,労働基準法19条・20条,雇用平等・育児介護・組合活動等を理由とする個別の解雇禁止に制約される。民法627条を書いただけで整理解雇が有効になるわけではない。

有期契約の期間途中の解雇は,労働契約法17条1項により「やむを得ない事由」を要し,期間の定めのない契約より厳しい。

整理解雇は労働者側の非違行為ではなく,経営上の事情による人員削減である。そのため,人員削減の必要性,解雇回避措置,人選の合理性及び説明・協議を,計画時から証拠化する必要がある。

第2 予告手続と解雇の有効性を分ける
問題根拠確認内容解雇予告労働基準法20条原則30日前の予告又は不足日数分の平均賃金。解雇の実体的有効性労働契約法16条客観的合理性と社会通念上の相当性。解雇理由証明書労働基準法22条労働者から請求があれば遅滞なく交付する。法定の解雇禁止労働基準法等業務災害療養中,産前産後,申告,妊娠・育休,組合活動等を理由とする禁止。

予告手当を支払えば自由に解雇できるという理解は,手続と実体を混同する。逆に,十分な経営上の理由があっても,予告又は予告手当等の手続を省略してよいわけではない。

第3 整理解雇の四つの考慮事項

厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」は,整理解雇について,①人員削減の必要性,②解雇回避の努力,③人選の合理性,④解雇手続の妥当性を挙げる。

裁判例には「四要件」と表現するものと「四要素」として総合判断するものがある。どれか一つの名称だけで結論を出さず,四つの事項をすべて事実と資料に結び付けるべきである。東京地裁平成18年11月29日判決(東京自転車健康保険組合事件)は四要素を考慮し,黒字・内部留保,新規採用,配置転換等の検討不足などから整理解雇を無効とした。

第4 人員削減の必要性

企業が倒産寸前でなければ整理解雇が常に許されないというわけではない。他方,売上減少又は部門閉鎖という経営判断があるだけで,直ちに特定人数の解雇が必要になるものでもない。

少なくとも,直近の月次・年次損益,資金繰り,受注見込み,固定費,削減対象部門の収支,人員計画,外注・派遣・新規採用,役員報酬及び関連会社への業務移管を確認する。解雇の直前又は直後に同種業務で採用・外注をしていると,人員削減の必要性との整合が問われる。

第5 解雇回避措置

解雇回避措置には,残業削減,新規採用停止,外注見直し,配置転換,出向,一時帰休,賃金・役員報酬の見直し,希望退職募集及び退職勧奨などがある。ただし,これらをすべて機械的に実施すべきという意味ではなく,企業規模,職種,緊急性及び労働条件変更の可否に応じて,実行可能性と効果を具体的に検討する。

希望退職又は退職勧奨は労働者の自由意思による合意退職であり,強迫的な面談,長時間・多数回の勧奨又は不利益の示唆があれば別の違法問題を生む。回避措置の名目で不当な圧力をかけてはならない。

第6 人選の合理性

対象者の選定基準は,解雇対象者を決めた後に作るのではなく,事前に客観化する。職務の消滅,技能,資格,勤務成績,懲戒歴,雇用形態,勤続年数等を用いる場合,各指標の目的,配点,評価期間及び資料を固定する。

年齢,性別,妊娠・出産,育児・介護休業,労働組合加入,労働基準監督署への申告その他の保護される事情を理由に選定してはならない。勤務成績を使う場合,評価者ごとのばらつき,直前だけの低評価,記録のない主観評価及び休業期間の扱いを検証する。

第7 説明・協議の妥当性

使用者は,労働組合又は労働者に対し,人員削減の必要性,時期,規模,選定基準,回避措置及び退職条件を具体的に説明し,質問に答える。単に結論を通知するだけでなく,資料を示し,検討時間を確保し,意見を受けて再検討した過程を記録する。

労働者の同意を常に得なければ整理解雇ができないという意味ではないが,説明内容が抽象的で,選定基準も開示せず,結論だけを急ぐと,手続の相当性を欠く方向に評価される。

第8 実施前に確認する別の規制
就業規則・労働協約の解雇事由,協議条項及び退職金規定業務上災害の療養中及び産前産後休業中の解雇制限妊娠・出産,育児介護休業,組合活動又は行政申告を理由とする不利益取扱いの禁止一定数の離職者が生じる場合の再就職援助計画又は大量雇用変動の届出有期契約の期間途中であれば,労働契約法17条の「やむを得ない事由」障害者,高年齢者及び外国人労働者についての個別法・届出
第9 証拠化する資料
段階主な資料必要性決算・試算表,資金繰り,受注・売上予測,部門別損益,取締役会資料回避措置採用・外注一覧,配置可能職,出向打診,希望退職案,検討メモ人選基準策定日,評価表,配点,評価根拠,選定前後の名簿説明・協議説明資料,議事録,質問回答,労組通知,提案修正履歴解雇手続解雇通知,理由証明書,予告日,予告手当計算,退職金計算
第10 使用者・労働者別の確認事項

使用者側は,対象者決定前に基準と資料を固定し,回避策を実施できない理由を記録する。通知文だけを整えるのではなく,経営資料から選定・協議まで一貫して説明できるようにする。

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注文者が破産した未完成請負―民法642条と出来高・費用・解除損害(AI作成)

目次

第1 最初に確認する結論第2 民法642条の特則1 解除できる主体と時期2 既往の報酬・費用と解除損害第3 解除の主体で効果が変わる第4 解除しない場合と完成後第5 破産法53条・54条との区別第6 旧法判例の使い方第7 受任直後の資料と時系列第8 破産管財人へ照会する事項第9 関連記事第10 出典・参考資料
第1 最初に確認する結論

注文者が破産し,仕事が完成していない請負契約では,一般規定の破産法53条・54条より先に,民法642条の特則を確認する。破産管財人は請負契約を解除でき,請負人も仕事完成前であれば解除できる。

解除後は,請負人が既にした仕事の報酬と報酬に含まれない費用,解除損害,注文者が支払済みの代金,材料・仕掛品・成果物の帰属を別々に整理する。「双方未履行だから破産法53条」とすると,特則の効果を誤る。

本記事は,令和8年9月24日現在の公開法令,裁判例及び法務省公開資料による。

第2 注文者破産の未完成請負は民法642条を先に見る
1 解除できる主体と時期

民法642条1項は,注文者が破産手続開始決定を受けたとき,請負人又は破産管財人が契約を解除できると定める。ただし,請負人が解除できるのは仕事の完成前である。完成時点,検収,引渡しと報酬発生時点を混同しない。

2 既往の報酬・費用と解除損害

同条2項により,請負人は,既にした仕事の報酬とその報酬に含まれない費用について破産財団の配当に加入できる。3項により,解除による損害賠償は,破産管財人が解除した場合の請負人だけが請求でき,その請求権は配当の対象となる。

状態先に見る根拠資料注文者破産・仕事未完成民法642条工程表,出来高,費用内訳,解除通知仕事完成後・未引渡し・未払請負契約の完成・引渡し・支払条項と破産法上の債権分類完了報告,検査,検収,引渡書売買・継続的役務等の双方未履行破産法53条・54条双方の未履行,前払金,現存反対給付,管財人の回答
第3 解除の主体で効果が変わる

請負人が仕事完成前に解除した場合と,破産管財人が解除した場合とを分ける。いずれの場合も,請負人は既往の仕事の報酬と報酬に含まれない費用について配当に加入できる。他方,解除による損害賠償を請求できるのは,破産管財人が解除した場合の請負人だけである。

したがって,解除通知には,誰が,民法642条のどの地位に基づいて,いつ解除したかを明記する。出来高報酬・費用と解除損害は,請求原因と金額を分けて債権届出資料を作る。

第4 解除しない場合と完成後

注文者の破産だけで請負契約が当然に終了するわけではない。解除しない場合の履行方法,報酬の支払時期,材料・仕掛品・成果物の管理は,契約条項と破産手続上の債権分類を確認する。

仕事完成後は請負人から民法642条1項による解除はできない。完成,検査,検収,引渡し及び報酬発生の各時点を区別し,破産管財人からの解除の有無,未払報酬の性質,成果物の帰属及び引渡し条件を整理する。

第5 破産法53条・54条との区別

民法642条は,注文者破産時の請負に関する特則である。この場面を単に「双方未履行の双務契約」として破産法53条・54条だけで処理しない。売買,賃貸借,継続的役務その他の契約,又は請負でも民法642条が直接処理しない問題については,契約類型と双方の履行状況を確定した上で53条・54条の適用を検討する。

破産法53条2項の確答催告や54条2項の反対給付返還・価額請求を使うときは,民法642条の特則が処理する解除・報酬・費用・損害と混同しない。

第6 旧法判例の使い方

最高裁平成12年2月29日判決は旧破産法59条の解除について,解除が著しく不公平な結果を生む場合の考慮要素を示した。注文者破産の未完成請負について民法642条を落としたまま,同判決だけで結論を出してはならない。現在の契約類型,完成状況及び現行法との構造対応を確認した補助資料として用いる。

第7 受任直後の資料と時系列
基本契約,個別契約,仕様書,見積書,注文書及び約款工程表,出来高表,検収書,納品書,補修記録及び写真請求書,入出金明細,前払金の使途及び未払一覧材料・預け品・成果物・データの保管場所と識別情報倒産解除条項,違約金,相殺,所有権,知的財産権及び秘密保持条項支払停止,申立て,開始決定,管財人選任,解除通知及び回答の日付
第8 相手方から管財人へ照会する事項
民法642条による解除の予定と,解除する主体・時期解除しない場合の工事続行,検収,引渡し及び報酬支払の方針既往の出来高報酬・費用と,管財人解除時の損害の届出方法材料・仕掛品・成果物・データの保管,帰属及び引渡方法債権届出,相殺主張及び資料提出の窓口
第9 関連記事

倒産事件全般は倒産事件の実務メモ―破産・個人再生・私的整理(AIリライト),相殺禁止は相殺の抗弁に関するメモ書き(AIリライト),クラウド・AI契約の事業継続はAIベンダーの倒産・支配権変更・事業譲渡に備える契約実務(AI作成)を参照されたい。

第10 出典・参考資料

①e-Gov法令検索「破産法」53条,54条,67条~73条,78条及び148条
②e-Gov法令検索「民法」632条,633条及び642条
③最高裁第三小法廷平成12年2月29日判決(平成8年(オ)第2224号,民集54巻2号553頁,旧破産法59条)
④最高裁第三小法廷令和2年9月8日判決(平成31年(受)第61号,民集74巻6号1643頁,破産法72条2項2号)

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行政による団体観察と公開情報の集約―結社の自由・プライバシー・SNS監視(AI作成)

目次第1 団体観察と公開情報収集を区別する1 団体規制法の観察処分は特別な制度である2 一般的なSNS監視権限を定めた法律ではない第2 現行団体規制法の入口と限界1 目的・解釈適用・必要最小限性2 観察処分の要件3 報告・調査・立入検査第3 個人の違法行為から団体規制へ進むための橋1 人数割合だけでは足りない2 団体の同一性と現在の必要性第4 公開SNSでも集約により新しい影響が生じる1 公開と無制限利用は同じではない2 一覧化・結合・時系列化・共有3 判例上確認できる範囲第5 行政調査を監査するチェックリスト第6 出典、射程及び未確認範囲
第1 団体観察と公開情報収集を区別する
1 団体規制法の観察処分は特別な制度である

無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律(団体規制法)は、団体の活動として役職員又は構成員が無差別大量殺人行為を行った団体について、その活動状況を明らかにし、又は再発を防止するための特別な規制措置を定める法律である。

したがって、過去に構成員が犯罪を犯したというだけで、一般の会社、政治団体、市民団体又は宗教団体を同法上の観察処分に付すことができるわけではない。

2 一般的なSNS監視権限を定めた法律ではない

団体規制法は、あらゆる団体のウェブサイトやSNSを行政が常時監視できるという一般的権限を定めたものではない。通常の公開情報収集、捜査、行政調査、情報公開資料の利用及び同法上の観察処分は、それぞれ根拠、目的、対象、手続及び効果を分けて検討する。

第2 現行団体規制法の入口と限界
1 目的・解釈適用・必要最小限性

団体規制法1条は、国民の生活の平穏を含む公共の安全の確保を目的とする。同法2条は、基本的人権に重大な関係を有するため必要最小限度においてのみ適用し、拡張解釈してはならないとする。同法3条は、規制と調査を目的達成のため必要最小限度に限り、思想、信教、集会、結社、表現等の自由を不当に制限し、又は団体の正当な活動へ介入してはならないと明記する。

2 観察処分の要件

同法5条1項の観察処分は、役職員又は構成員が「団体の活動として」無差別大量殺人行為を行った団体であることを前提とする。その上で、首謀者の影響力、行為関与者又は当時の役員の在籍、殺人を勧める綱領その他の危険性に関する事実のいずれかがあり、活動状況を継続して明らかにする必要があることを要する。期間更新でも、更新時点の要件と必要性を確認しなければならない。

3 報告・調査・立入検査

観察処分を受けた団体には、役職員・構成員、活動施設、資産・負債その他の法定事項に関する報告義務が課される。同法7条は、公安調査庁長官による必要な調査と、特に必要がある場合の土地・建物への立入検査を定める。同法29条以下は調査権、国会報告及び一定の場合の地方公共団体への調査結果提供等を定める。

報告や調査ができるという結論だけでなく、処分要件を満たす団体か、求める情報が活動状況の把握に必要か、対象・期間・利用目的が必要最小限かを個別に確認する。

第3 個人の違法行為から団体規制へ進むための橋
1 人数割合だけでは足りない

複数の構成員に有罪判決があることは重要な事実になり得る。しかし、それだけで、個々の犯罪が団体の活動として行われたこと、団体の意思決定・指示・承認・資金提供等があったこと、現在も危険な要素が残ること、観察の必要性があることまで当然に導かれるわけではない。

実務では、①行為者、②団体内の地位、③意思決定、④指示・承認、⑤資金・設備、⑥広報・事後対応、⑦団体目的との関係、⑧現在の組織・人員・活動への連続性を分けて立証する。

2 団体の同一性と現在の必要性

東京地裁令和6年2月28日判決は、観察処分後に設立された集団が元の団体に含まれるかについて、対内的な帰依・教義の保持、目的実現のための組織構造・修行体系等を具体的に検討した。また、団体規制法5条1項各号と同条4項の更新時の必要性を区別して判断した。

名称、分派又は構成員数だけで同一性を決めず、目的、意思決定、指揮命令、教義・綱領、財産、施設、人員及び活動実態の連続性を確認する必要がある。

第4 公開SNSでも集約により新しい影響が生じる
1 公開と無制限利用は同じではない

ウェブサイトやSNS投稿が公衆に公開されていても、個々の閲覧と、行政がアカウントを網羅的に一覧化し、所属関係を推知し、長期保存し、他機関へ共有することは同じではない。「秘密ではない」という一点だけで、収集方法、結合、保存、利用目的及び活動への萎縮を検討対象から外すべきではない。

2 一覧化・結合・時系列化・共有

公開情報の集約では、①対象アカウントの選定、②本人・団体への帰属の正確性、③交友・組織関係の推知、④過去投稿との時系列化、⑤検索可能性、⑥保存期間、⑦アクセス権限、⑧行政機関間の共有、⑨目的外利用、⑩誤結合の訂正・削除を監査する。

公開情報の集約が常に違法になるという直接の最高裁判例命題を述べるものではない。個別情報が公開されていても、結合・継続把握・共有によって新しい権利制約が生じ得るという分析上の観点である。

影響を受ける主体は、団体と構成員に分けて確認する。構成員と媒体の対応関係が明らかになることは、個人の所属・発信内容だけでなく、団体の組織関係や自律にも関わり得る。情報が誰に関するものかという問題と、誰のどの利益が制約されるかという問題を分ける必要がある。

令和3年司法試験の出題の趣旨の公法系第1問部分及び同年の採点実感第3の1・2も、団体と構成員を区別し、公開媒体の報告による所属等の把握と萎縮効果を検討する視点を示している。これは仮想の法律案に関する試験解説であり、現行法の一般的な情報収集権限や一律の違法性を示すものではない。

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自然公園法上の不許可・条件付許可と損失補償―取消訴訟と補償請求を分ける(AI作成)

目次
第1 結論―取消しと補償を分ける
第2 自然公園法64条の入口
第3 補償が当然に認められるわけではない
第4 通常生ずべき損失の算定
第5 請求先・決定・増額請求訴訟
第6 取消訴訟等との役割分担
第7 証拠収集チェックリスト
第8 関連記事
第9 出典と調査範囲

第1 結論―取消しと補償を分ける

国立公園・国定公園内の建築、土石採取その他の行為が不許可となった場合、最初に「不許可を覆して事業を行いたい」のか、「不許可を前提に損失の補償を求めたい」のかを分ける。前者は不許可処分の違法性と取消し・義務付け等が中心となり、後者は自然公園法64条の補償要件と損失額が中心となる。

不許可であれば常に補償されるわけでも、適法な規制であれば常に補償されないわけでもない。区域指定、地種区分、予定行為、従前利用、代替利用、他法令の規制及び土地価値への影響を証拠で組み立てる必要がある。

第2 自然公園法64条の入口

自然公園法64条1項は、国立公園については国、国定公園については都道府県が、次の場合に通常生ずべき損失を補償すると定める。

同法20条3項、21条3項又は22条3項の許可を得ることができないため損失を受けた場合
同法32条により許可へ条件を付されたため損失を受けた場合
同法33条2項の処分を受けたため損失を受けた場合

したがって、普通地域の届出、区域指定そのもの、他法令だけによる不許可などを、直ちに64条の不許可補償と同一視しない。どの処分・条件により、誰の、どの財産上の利益が制約されたかを固定する。

第3 補償が当然に認められるわけではない

裁判所公開裁判例では、旧自然公園法35条(現64条に対応する旧規定)について、自然公園法上の利用制限をすべて所有権の内在的制約として無補償にするのは相当でないとしつつ、申請行為が公園指定の趣旨に著しく反する場合や、土地の価値低下が立証されない場合に補償を否定した例がある。

別の裁判例は、第一種特別地域の風致・景観、建築による影響、従前又は客観的に予想される用途の可能性等を総合し、当該制限が財産権の内在的制約の範囲内であれば補償を要しないとした。重要なのは、「特別地域だから補償」「自然保護目的だから無補償」というラベルではなく、規制の強度と所有者に集中する負担を具体化することである。

補償方向に働き得る事情否定方向に働き得る事情
従前の適法な営業・利用ができなくなる従前利用がなく、計画が客観的にも予想されにくい
代替利用が乏しく、地価が客観的に低落する代替利用が残り、地価低落の証拠がない
指定後の個別不許可が特定所有者へ重い負担を集中させる地域指定の趣旨に著しく反する大規模行為である
不許可以外の法令障害がない他法令によっても実現不能又は著しく困難である

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訴訟資料に著作物を利用する場合の著作権―複製・mints提出・引用・事件外共有を分ける(AI作成)

目次
第1 結論―一つの資料を五つの行為に分ける
第2 著作物・権利者・入手経路を確認する
第3 裁判手続のための複製
第4 mints提出と公衆送信等
第5 引用として利用する場合
第6 鑑定書・意見書と画像
第7 事件外共有・広報・研修への転用
第8 提出前チェックリスト
第9 関連記事
第10 出典と調査範囲

第1 結論―一つの資料を五つの行為に分ける

訴状、準備書面、証拠説明書、鑑定書又は意見書に他人の論文、写真、図面、ウェブ画面等を使う場合、「裁判だから自由に使える」と一括してはいけない。少なくとも、①資料を取得する、②紙又はPDFへ複製する、③裁判所・相手方へ提出又は送信する、④法廷で表示する、⑤事件外で依頼者・関係者・研修参加者等へ共有する、という行為を分ける。

著作権法41条の2は裁判手続に必要な利用を認める重要な規定であるが、必要な限度と著作権者の利益を不当に害しないことが条件である。違法に入手した資料の取得を適法化したり、事件外の公表・二次利用を当然に許したりする規定ではない。

第2 著作物・権利者・入手経路を確認する
確認事項具体例
著作物性論文本文、写真、図表、設計図、地図、ソフト画面の創作的表現
保護されない部分単なる事実、法令、裁判所の判決そのもの、ありふれた短文
権利者著作者、勤務先、出版社、写真提供者、共同著作者
利用行為複製、公衆送信、上映・口述、譲渡、翻案
入手経路正規購入、契約DB、依頼者提供、公開ウェブ、第三者からの流出
契約条件データベース利用規約、ライセンス、秘密保持、個人情報

著作権法上利用できる場合でも、契約上の利用制限、営業秘密、個人情報、プライバシー、訴訟記録の閲覧等制限は別に検討する。

第3 裁判手続のための複製

著作権法41条の2第1項は、裁判手続のために必要と認められる場合、必要と認められる限度で著作物を複製できる旨を定める。ただし、著作物の種類・用途、複製部数・態様等に照らして著作権者の利益を不当に害する場合は除かれる。

なお、著作権法47条の6第1項2号は、41条の2の規定により著作物を利用することができる場合に、その例により行える利用の方法として「翻訳」だけを定めており、翻案を挙げていない。資料の内容を要約して書面に記載するときは、事実や論旨の要約にとどめ、原文の表現を用いる部分は引用(32条1項)として区別して示すのが無難である。

「必要」は、争点との関連性だけでなく、全文が必要か該当頁で足りるか、カラー高精細画像が必要か、提出部数が適切かという範囲にも及ぶ。証明対象、立証趣旨、必要部分を先に書き出すと、過剰な複製を避けやすい。

裁判手続のための複製は、資料を適法に取得する権利まで与えるものではない。ID・パスワードの不正使用、アクセス制御の回避、秘密情報の不正取得等は別問題である。

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株主総会の議決権代理行使―代理人を株主に限る定款,法人株主の従業員,弁護士と委任状(AI作成)

目次

第1 結論
第2 会社法310条の原則
第3 代理人を株主に限る定款は有効か
第4 法人株主の職員・従業員
第5 弁護士を代理人にする場合
第6 複数の委任状と代理権の撤回
第7 入場拒否・議決権不算入と決議取消し
第8 会社側と株主側の事前準備
第9 関連記事
第10 出典と調査範囲

第1 結論

株主は,会社法310条1項により,代理人によって議決権を行使できる。もっとも,株主総会の撹乱を防ぎ会社の利益を保護する趣旨から,議決権行使の代理人を株主に限る定款は,判例上有効とされている。

ただし,この定款規定は一律の形式判断で完結しない。最高裁昭和51年12月24日判決は,法人である株主が職員又は従業員を代理人とした事案につき,特段の事情のない限り総会が撹乱され会社の利益が害されるおそれはなく,当該定款に反しないとした。

一方,株主でない弁護士なら常に出席できるという最高裁判例は確認できない。公開された東京地裁判決には,非株主である弁護士の代理行使を拒否した会社の対応を適法としたものがある。総会直前の受付で争うのではなく,定款,株主名簿,委任状,代理人の資格及び複数委任状の優劣を事前に整理することが重要である。

第2 会社法310条の原則

会社法310条1項は,株主が代理人によって議決権を行使できると定め,株主又は代理人に代理権を証明する書面の提出を求める。代理権の授与は株主総会ごとにしなければならず(同条2項),会社は出席できる代理人の数を制限できる(同条5項)。

委任状では,委任者の氏名・名称,代理人,対象となる株主総会,議決権数,各議案への賛否,修正動議への対応,復代理の可否及び作成日を確認する。会社が用意した委任状のみが常に有効というわけではなく,個別の委任状による代理権も原文に基づいて判定する。

委任状の提出期限について,東京地裁令和6年9月10日決定(令和6年(ヨ)第30142号,判例秘書の判例番号 L07932609)は,株主総会を招集する者は,会社法298条1項5号及び会社法施行規則63条5号に基づき,代理権を証明する方法,代理人の数その他代理人による議決権の行使に関する事項を決定する権限を有し,いつまでに委任状の提出を要するかは,法令及び定款・株式取扱規程等に定めがなければ招集者の合理的な裁量に委ねられているとした。その上で,委任状の有効性の判断や集計に時間を要することを考慮して,午前9時開会の総会について前日午後5時30分とした期限を,合理的な裁量の範囲内の決定とした。法制審議会の部会資料16(令和8年9月30日)は,この決定を引用して,実質株主(指図権者)が代理出席する場合の証明書類の提出期限も解釈で定められるとしている(実質株主確認制度と大量保有の通知義務違反による議決権の停止―部会資料16の修正案(有事・0.5%・故意重過失)と経済産業省の対案)。

第3 代理人を株主に限る定款は有効か

最高裁昭和43年11月1日判決(昭和40年(オ)第1206号,民集22巻12号2402頁,株主総会決議無効確認請求事件)は,議決権行使の代理人資格を株主に限定する定款規定を有効とした。その趣旨は,株主総会が株主以外の第三者によって撹乱されることを防止し,会社の利益を保護することにある。

したがって,株主側は「310条は代理行使を認めているから,代理人資格の定款制限は常に無効」とは主張できない。会社側も,定款の文言だけでなく,判例が認める例外的な扱い及び従前の受付運用を確認する必要がある。

第4 法人株主の職員・従業員

最高裁昭和51年12月24日判決(昭和48年(オ)第794号,民集30巻11号1076頁)は,株主である県,市及び株式会社の職員・従業員が代理行使した事案を判断した。

同判決は,職員・従業員は組織の一員として上司の命令に服する義務を負い,法人株主の代表者の意図に反する行動をすることができないという事実関係の下で,特段の事情のない限り株主総会が撹乱され会社の利益が害されるおそれはないとした。また,職員・従業員の代理行使を否定すれば,法人株主が意見を総会決議に十分反映させられず,事実上議決権行使の機会を失う不当な結果となることも理由とした。

これは,法人株主の役員・職員であれば無条件に認められるという判断ではない。雇用・所属,法人内部の権限,委任状の作成者,指示内容及び法人の意図に反する行動をするおそれの有無を確認する。

第5 弁護士を代理人にする場合

東京地裁平成13年2月28日判決は,株式譲渡制限のある会社で,代理人を株主に限る定款に従い,非株主である弁護士による議決権行使を拒否したことは違法でないとした。

(続きを読む...)株主総会の議決権代理行使―代理人を株主に限る定款,法人株主の従業員,弁護士と委任状(AI作成)