目次
第1 修理と再生品の結論第2 特許権の消尽第3 修理か「新たな生産」か1 最高裁の判断枠組み2 加工・部品交換で確認する事項第4 インクタンク事件第5 交換部品の供給と間接侵害第6 直接侵害・間接侵害・消尽を混同しない第7 事業者が保存すべき資料第8 契約・表示・競争法との関係第9 実務チェックリスト第10 関連記事第11 出典・参考資料
第1 修理と再生品の結論
適法に購入した特許製品を使用し,通常の修理をして再販売する行為には,原則として消尽した特許権の効力は及ばない。他方,加工又は部品交換によって元の製品と同一性を欠く特許製品を新たに製造したと評価される場合,特許権者は権利を行使できる。
「修理」「再生」「リファービッシュ」「リサイクル」という表示だけでは結論は出ない。対象製品,特許請求項,加工前の状態,交換部品の機能・価値・耐用期間,加工の程度,取引実情及び再販売方法を対応させる必要がある。
第2 特許権の消尽
特許法68条は,特許権者が業として特許発明を実施する権利を専有すると定める。他方,特許権者又は許諾を受けた実施権者が日本国内で特許製品を譲渡した場合,その製品について特許権は目的を達成して消尽し,特許権者は当該製品の使用・譲渡等を原則として差し止められないというのが最高裁判例である。
消尽は,製品の流通のたびに許諾を必要とすると取引の安全を害する一方,特許権者には最初の譲渡時に対価確保の機会があることを基礎とする。ただし,消尽するのは譲渡された当該製品についてであり,新たな特許製品の生産まで自由にするものではない。
特許権者が国外で特許製品を譲渡した場合は,国外の対応特許権と日本の特許権が別個の権利であるため,国内での譲渡と同列には論じられない。最高裁判所第三小法廷平成9年7月1日判決(平成7年(オ)第1988号,民集51巻6号2299頁。BBS事件)は,日本の特許権者又はこれと同視し得る者(子会社・関連会社等)が国外で特許製品を譲渡した場合,譲受人に対しては日本を販売先・使用地域から除外する旨を合意したときを除き,転得者に対してはその合意をした上で特許製品にこれを明確に表示したときを除き,日本で特許権を行使できないとした。製品に明確に表示されていれば転得者も制限を認識できることを理由としているので,製品自体に表示がなく,販売者のウェブサイトに掲載しただけの場合は,この要件を満たさないと考えられる。また,最高裁平成19年11月8日判決は,国外で譲渡された特許製品に加工や部材の交換がされ,新たに製造されたと認められるときは,日本で特許権を行使でき,その判断は国内で譲渡された場合と同じ基準によるとしている。
国内でライセンシーから仕入れた製品では,最初の譲渡が許諾範囲内かも確認する。特許法78条2項は,通常実施権者による実施を法律の規定又は設定行為で定めた範囲内で認める。数量上限を超えた販売が判明した場合,数量条項が実施の許諾範囲を画するのか,報告・実施料計算等の契約債務を定めるのかを,契約全体と許諾経緯から検討する。数量違反をすべて特許侵害と扱ったり,契約違反にすぎないと一律に処理したりしない。
実施料の不払いと,許諾が解除・終了したことも区別する。BBS事件の国内譲渡に関する理由は,特許権者の対価確保の機会を基礎としており,実施料が実際に未回収であるだけで,適法に譲渡された製品の消尽が当然に失われるわけではない。同判決は数量超過の譲渡を直接判断した先例ではないため,仕入先がライセンシーであることだけで超過品も適法と決めない。製造番号・ロット,出荷日,数量報告,変更合意と終了通知を対応させる。
超過分の識別,出荷判断,追加許諾と過去の請求清算及び精算金の消費税は,特許ライセンスの数量超過が判明したとき―許諾範囲,消尽,追加実施料及び和解金の消費税(AI作成)で整理している。
第3 修理か「新たな生産」か
1 最高裁の判断枠組み
最高裁平成19年11月8日判決(インクタンク事件)は,加工・部材交換により元の特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたと認められるときは,特許権者が権利を行使できるとした。
その判断では,①製品の属性,②特許発明の内容,③加工・部材交換の態様,④取引の実情等を総合考慮する。単一の部品を交換したか,製品価格の何割かという一つの数字だけで決める枠組みではない。
2 加工・部品交換で確認する事項
考慮領域確認事項製品の属性機能,構造,材質,用途,耐用期間及び通常の使用態様発明の内容請求項の構成,作用効果,加工後に再形成される技術的特徴加工の態様加工前の消耗・破損状態,加工の内容・程度,品質管理交換部品耐用期間,技術的機能,経済的価値及び製品全体との関係取引実情修理市場,純正・再生品の表示,価格,保証,回収・再流通の実態
第4 インクタンク事件
同判決の事案では,使用済みインクタンクを回収し,内部を洗浄し,インクを再充填するための加工をして再販売していた。最高裁は,製品の状態,発明の内容及び加工の態様等から,新たな製造に当たるとして特許権行使を認めた。
この結論を「消耗品への再充填は常に侵害」と一般化してはならない。最高裁は製品属性から取引実情までの総合考慮を示しており,別製品では,通常交換される消耗部品か,製品本体の寿命が残るか,加工が発明の技術的特徴を再形成するか等によって評価が変わり得る。
第5 交換部品の供給と間接侵害
修理業者が完成品を新たに生産したかという直接侵害の問題と,部品供給者が間接侵害責任を負うかは別である。直接侵害が成立せず,特許法101条1号の専用品型にも当たらないときでも,同条2号を順に検討する。
もっとも,1号・2号はいずれも,物の発明について「その物の生産に用いる物」を対象とする。同じ特許について部品供給者の間接侵害を問うには,その部品が,特許製品の新たな製造(生産)と評価される加工又は交換に用いられることが前提となる。
また,直接の実施行為が「業として」の要件を欠く等の理由で直接侵害とならない場合に間接侵害が成立するかは見解が分かれるから,直接侵害を否定した理由を特定して検討する。
1号は,物の発明について,その物の生産にのみ用いる物の業としての生産・譲渡等を対象とする。「のみ」については,単に想定可能な他用途ではなく,経済的,商業的又は実用的な非侵害用途があるかを問う。
2号は,広く一般に流通している物を除き,その物の生産に用いる物であって発明による課題の解決に不可欠なものを,その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら,業として生産・譲渡等する行為を対象とする。警告書到達や訴え提起等により主観的要件が充足した時点の前後を分け,充足前の販売数量を間接侵害の損害に自動的に入れない。
また,部品の一部が適法な修理や非侵害製品にも使用されるなら,その数量は,直接に損害が発生しないこと又は特許法102条2項の推定覆滅の事由として実証する。客先別,用途別,警告前後別の販売記録が重要である。
第6 直接侵害・間接侵害・消尽を混同しない
問題対象行為主な確認直接侵害特許製品の生産・使用・譲渡等請求項の全構成要件,業としての行為,地域消尽適法に譲渡された個別製品の使用・再譲渡等適法な初回譲渡と,新たな生産の有無間接侵害専用品・不可欠品の生産・譲渡等特許法101条の各号,汎用品,知情,用途
修理行為が新たな生産に当たらない場合でも,部品供給に別の特許が及ぶことはあり得る。逆に,部品が101条に該当しないことだけで,完成した再生品の直接侵害が否定されるわけではない。
(続きを読む...)修理・再生品は特許権侵害になるか―消尽,新たな生産,交換部品及び間接侵害(AI作成)