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企業法務・民事実務

ビール大手4社による価格カルテル疑惑―公取委の犯則調査と独占禁止法上の争点(AI作成)

目次

第1 ビール大手4社による価格カルテル疑惑の概要第2 公取委と4社の公表資料から分かること1 公取委の説明2 調査を受けたビール大手4社はどこか3 報道と公式発表を分ける第3 価格カルテルとは何か―独立した値上げとの違い1 販売価格の共同決定と不当な取引制限2 メーカー価格,卸売価格及び店頭価格3 購入価格カルテル・再販売価格拘束との区別第4 同じ時期の値上げだけでカルテルになるか第5 「一木会」等の会合と事業者団体の責任第6 犯則調査,行政処分及び刑事告発の関係1 犯則調査とは2 告発と有罪判決は別の段階である3 排除措置命令・課徴金と民事請求第7 卸・小売業者・飲食店が保存しておくとよい資料第8 損害賠償は値上げ幅をそのまま請求できるか第9 よくある疑問1 4社が同時に値上げすれば,必ず違反となるか2 正式な会議や書面がなければ問題とならないか3 公取委の調査で消費者への返金が決まるか4 タクシーの一斉値上げとの違いは何か5 価格カルテルの何が問題なのか
6 犯則調査を受けると必ず刑事告発されるか
7 課徴金と罰金・損害賠償はどう違うのか第10 出典と確認時点
第1 ビール大手4社による価格カルテル疑惑の概要

令和8年10月7日,公正取引委員会は,酒類等を製造販売する4社による価格カルテルの疑いについて,犯則調査を行っていると説明した。
調査を受けたことを公表したのは,アサヒビール,キリンビール,サッポロビール及びサントリーである。
各社の公表資料と,発表主体・調査対象法人の違いは,第2で確認できる。

問題となるのは,各社による独立した値上げと,競争会社間で価格や値上げ時期を調整して競争を避ける行為の違いである。
同じ時期に値上げしたという結果だけで,違反が決まるわけではない。
また,調査開始は違反の認定,刑事告発,起訴又は有罪判決とは別の段階であり,メーカーから卸への価格と,卸売価格・店頭価格も区別する必要がある。

本記事は,事件について令和8年10月7日の公式資料等を基礎とし,制度説明は同月18日に確認した。
具体的な合意内容,対象商品・期間,各社の関与及び損害額を確定したものとして読むことはできない。
公式発表,報道による取材情報及び一般的な法律上の説明を分けて整理する。

第2 公取委と4社の公表資料から分かること
1 公取委の説明

公取委の令和8年10月7日付け事務総長定例会見記録は,酒類等を販売する4社の価格カルテルの疑いを対象とする犯則調査であると説明している。個別の調査内容は明らかにしておらず,調査の結果として告発するかどうかも未定としている。
したがって,「強制調査を受けた」という情報は調査の進行を示すものであり,「カルテルが認定された」「4社の告発が決まった」という意味にはならない。

2 調査を受けたビール大手4社はどこか

4社については,同日の各社の公表資料を照合すると,次のようになる。
①アサヒビールのお知らせは,同社が独占禁止法違反の疑いにより公取委の強制調査を受けたことと,調査に協力する旨を公表している。
②キリンホールディングスのお知らせ(PDF)は,子会社のキリンビール株式会社が調査を受けたことを公表している。
③サッポロビールのお知らせは,同社が独占禁止法に基づく立入調査を受けたことと,調査に協力する旨を公表している。
④サントリーのお知らせは,サントリー株式会社が調査を受けたことを公表している。

持株会社が発表した場合にも,発表主体と調査を受けた事業会社を混同しない。また,調査への協力を表明したことから,価格合意の存在や違反を認めたと読み替えることはできない。

3 報道と公式発表を分ける

会合の名称,出席者,開催場所又は具体的なやり取りを報道する記事を読むときは,情報源を確認する必要がある。例えば,テレビ朝日の令和8年10月8日の報道は,「一木会」と呼ばれる集まり等を取り上げているが,その内容を公取委による違反認定として扱うことはできない。
長年の値上げが同じ時期だったという取引先の説明も,価格改定の状況に関する情報である。それだけで,その期間のすべてについて違法な合意が続いていたと判断することはできない。

TBS NEWS DIGの令和8年10月9日の報道は,関係者への取材に基づき,一部の企業が値上げの調整を認める趣旨の説明をしていると伝えている。これは報道が述べる取材情報であり,公取委の公式な違反認定,4社すべての自認又は確定した処分として扱わない。具体的な合意内容,関与した者,対象商品及び期間は引き続き区別して確認する。

第3 価格カルテルとは何か―独立した値上げとの違い
1 販売価格の共同決定と不当な取引制限

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RSUの日本課税と確定申告―権利取得日,株式売却,配当と外国税額控除(AI作成)

目次

第1 RSUは,付与・株式取得・売却を分けて確認する1 確認する日付2 ストックオプションや譲渡制限付株式との違い第2 課税時期は,報酬契約上の権利取得を確認する1 所得税法36条と現金以外の報酬2 東京高裁平成28年5月25日判決3 東京高裁平成28年4月14日判決と公表裁決第3 給与所得の金額,円換算と申告資料1 株数,時価,為替相場をそろえる2 税金相当額の株式控除・売却を確認する3 年末調整と確定申告第4 取得後の売却と配当は別に計算する1 売却代金の全額が利益になるわけではない2 配当と,株式交付前の配当相当額3 取得後の値下がりと給与課税第5 外国税額控除,海外勤務と財産報告1 外国税が引かれていても,全額を控除できるとは限らない2 海外勤務・帰国・非永住者の場合3 年末の保有と国外転出第6 相談・申告時に保存する資料1 報酬契約と権利取得の資料2 金額と納税の資料3 勤務・居住の資料第7 主要な根拠資料
第1 RSUは,付与・株式取得・売却を分けて確認する

RSU(Restricted Stock Unit,制限株式ユニット)は,一定の勤務継続等の条件を満たした従業員に,将来,株式等を交付する株式報酬の仕組みである。ただし,その名称だけで日本の課税時期や所得区分を決めることはできない。報酬プラン,付与契約及び実際の交付方法を読む必要がある。

本記事は,日本の居住者である従業員が外国の親会社等から株式報酬を受ける場合を中心に,申告前に確認すべき事項を説明する。勤務の対価である株式報酬については,株式を売っていなくても給与所得の問題が生じ得る。取得後の売却や配当は,その給与所得とは分けて計算する。

1 確認する日付

付与日(grant),勤務条件等の充足日(vesting),株式への転換・決済日(conversion・settlement),証券口座への実際の移管日,売却日を分けて記録する。会社やプランによって用語の意味が異なり,複数の日が一致する場合もある。

特に,vestingと表示された後にも失権・取消条件が残るのか,株式の引渡しを確定的に請求できるのはいつか,株主としての権利をいつ取得するのかを確認する。「vestingと書かれている日が,どのプランでも必ず日本の課税日になる」という処理は避けるべきである。

2 ストックオプションや譲渡制限付株式との違い

ストックオプションは,定められた価格で株式を取得する権利である。RSUの株式報酬に,税制適格ストックオプションの課税繰延べをそのまま適用できるわけではない。ストックオプションの所得税―税制適格・非適格の区別も参照されたい。

また,実際の株式を先に交付する譲渡制限付株式と,将来の株式交付を約するユニットは区別する。所得税法施行令84条の特定譲渡制限付株式等には,法令上の要件と譲渡制限解除時の評価の定めがある。社内の売却禁止期間があるという理由だけで,この特例に該当するとはいえない。

第2 課税時期は,報酬契約上の権利取得を確認する
1 所得税法36条と現金以外の報酬

所得税法28条は給与所得を定め,36条は現金以外の物・権利・経済的利益による収入と,その取得又は享受時の価額を定めている。現金が銀行口座に入っていないことや,株式をまだ売却していないことだけで,給与所得の計上を先送りできるわけではない。

確認するのは,報酬の原因となる権利がいつ確定するかである。契約に残る条件,株式引渡請求権,転換の通知及び移管の手続を照合し,取引画面の日付だけで判断しないことが重要である。

2 東京高裁平成28年5月25日判決

国税庁公表の判決本文では,外国法人のストック・ユニットが平成20年9月8日に株式へ転換した事案について,給与等の収入すべき日が問題となった。

裁判所は,当該プラン・報酬証書と通知の内容を検討し,転換日が報酬の支払日・株式の引渡日であり,従業員が同日以降に株式の引渡しを求められることを重視した。口座への後日の移管は事務手続上の連絡であり,グループの従業員取引ポリシーによる売却制限も,この事案の権利取得日の判断を変更しないとした。

この判決から学ぶべきことは,口座への移管日や売却可能日を一律に課税日とすることの危険である。異なる条件のRSUにも,判決中の「転換日」という名称だけを当てはめるべきではない。

3 東京高裁平成28年4月14日判決と公表裁決

東京高裁平成28年4月14日判決も,転換と現実の引渡しを区別し,当該事案で採用された株式の終値とTTMによる円換算を合理的とした。納税者が選んだ評価方法であれば当然に認められる,という判断ではない。

国税不服審判所平成24年2月10日裁決(公表抄)でも,vesting後に転換前の取消条件が残る仕組み,転換後の株主としての地位及び口座振替の事務手続が検討されている。裁決は個別の行政上の判断であり,裁判所の判決と同じものとして扱わない。

これらの資料は,それぞれの報酬条件と平成20年の取引に関する判断である。現在の個別プランに当てはめる際には,現行法令と契約条件を改めて確認する必要がある。

第3 給与所得の金額,円換算と申告資料
1 株数,時価,為替相場をそろえる

勤務の対価として株式を取得する場合は,課税時期に対応する株数,株価,円換算の根拠をそろえる。会社が示した外貨額,報酬明細,証券会社の画面及び日本の申告書の金額を照合し,日付や通貨の違いを説明できるようにする。

外貨建取引については,所得税法57条の3の円換算の定めも確認する。前記平成28年4月14日判決の終値・TTMに関する判断は重要であるが,異なる制度や取引について,会社の画面に表示された価格・換算額を無条件で転記してよいという意味ではない。

2 税金相当額の株式控除・売却を確認する

会社が交付株数の一部を税金相当額として控除したり,株式を売却して納税資金を確保したりすることがある。入庫した純株数だけを機械的に給与収入に用いず,報酬の総額,控除・売却された株数,その法的処理,税の支払先及び給与明細への計上を確認する。

「tax withholding」と表示されていても,どの国の,誰の税が支払われたかが不明なままでは,日本の源泉徴収税額として申告できるとは判断できない。会社・税務担当者から,徴収税目,納税国及び本人に帰属する税額の資料を取得する。

3 年末調整と確定申告

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海外移住・海外在住者への贈与と相続で問題となる国外転出時課税―対象資産,納税管理人と納税猶予(AI作成)

目次

第1 売っていない株式にも所得税が生じ得る第2 対象者と対象資産を判定する1 1億円以上と国内居住期間の要件2 株式,投資信託,匿名組合持分と未決済取引3 評価日と資料第3 海外移住する本人の申告と納税管理人第4 海外在住者へ贈与する場合第5 海外在住者が相続・遺贈で取得する場合第6 納税猶予は免税ではない1 原則5年,延長により最長10年2 毎年の届出,資産移転と利子税3 帰国時の取消しも自動ではない第7 弁護士・税理士が初動で共有する事項第8 一次資料
第1 売っていない株式にも所得税が生じ得る

国外転出時課税は,一定の居住者が国外転出をする場合に,所有する有価証券等を譲渡したものとみなし,含み益に所得税を課す制度である。
対象となる株式を実際に売却していなくても申告と納税が必要となり得るため,移住前に資産と期限を確認する必要がある。

同じ仕組みは,一定の居住者から非居住者へ対象資産を贈与し,又は相続・遺贈によって移転する場合にも設けられている。贈与者又は被相続人本人が海外へ移住しなくても,検討が必要になる点が重要である。
これは,出国時に航空券等を通じて徴収される国際観光旅客税とは別の制度である。

第2 対象者と対象資産を判定する
1 1億円以上と国内居住期間の要件

所得税法60条の2・60条の3は,対象資産の価額等の合計額が1億円以上であることと,原則として直前10年以内に国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年を超えることを要件としている。
1億円は含み益の金額ではなく,対象資産の価額等の合計額で判定する。ちょうど1億円の場合も対象となり得る。

在留資格による期間除外があるため,国内居住年数を単純に合算してはならない。出入国管理法別表第一の上欄の在留資格で在留した期間や,別表第二の在留資格で在留した平成27年6月30日以前の期間について,法令・経過措置を確認する必要がある。
相続税・贈与税の納税義務者の判定とは異なる要件であり,国籍,住所履歴及び在留資格をそれぞれ整理すべきである。

2 株式,投資信託,匿名組合持分と未決済取引

対象資産は,有価証券,匿名組合契約の出資持分,未決済の信用取引・発行日取引及び未決済のデリバティブ取引である。国内保有か国外保有かだけで対象を限定しない。
預金や不動産の価額を,この制度の1億円判定にそのまま加えるものではない。他方,非上場株式も確認対象であり,「証券会社の口座には1億円ない」という理由だけで判定を終えてはならない。

NISA口座内の上場株式等も,対象資産の価額の判定から当然に除外されるわけではない。国税庁のFAQは,譲渡による所得が非課税となる一定の有価証券も対象資産に含むと説明している。1億円の判定と,実際に課税される所得の計算を分ける必要がある。
株式報酬に係る一定の有価証券には対象外となるものがあるため,ストック・オプションや譲渡制限付株式は契約内容と法令上の要件を確認する。

3 評価日と資料

国外転出日以後に申告する場合と,転出前に申告する場合では,評価時点が異なる。転出前に申告する場合には,原則として転出予定日の3か月前の価額等を用いる仕組みがある。
その後に取得した資産の扱いも含め,対象資産の明細を作成し,非上場株式の評価,取得価額,為替換算及び未決済取引の損益を確認する。申告直前に残高証明書だけを集める方法では,取得費や評価日の資料が不足し得る。

第3 海外移住する本人の申告と納税管理人

国外転出の時までに納税管理人の届出をした場合は,転出した年分の確定申告期限までに,通常の所得と国外転出時課税による所得を含めて申告・納税する。
納税管理人を届け出ずに転出する場合は,国外転出の時までに,その年の1月1日から転出時までの所得について準確定申告と納税を行う必要がある。
納税管理人を決めるのが転出後でよいと考えていると,申告期限と納税猶予の選択に影響する。

納税管理人は,申告書の提出や税務署との手続を担うための制度である。委任したことだけで本人の納税義務が免除されるわけではなく,連絡方法,資料の受渡し及び継続届出の担当も決めておくべきである。

第4 海外在住者へ贈与する場合

一定の居住者が非居住者へ対象資産を贈与すると,贈与対象資産を贈与時に譲渡したものとみなして,贈与者の所得税を計算する。
対象者かどうかの1億円判定は,贈与する部分だけでなく,贈与者が所有等している対象資産全体について行う。少額の株式贈与であっても,贈与者の資産全体によって適用が問題となる。

贈与者は,贈与した年分の確定申告期限までに,この所得を他の所得と併せて申告・納税する必要がある。
受贈者の贈与税は別に判定する。海外在住の子へ日本株を贈与する場面では,「子の贈与税だけ」を検討するのでは足りない。

(続きを読む...)海外移住・海外在住者への贈与と相続で問題となる国外転出時課税―対象資産,納税管理人と納税猶予(AI作成)

海外送金に税金はかかるか―自己資金,贈与,貸付返済と国外財産調書・CRS(AI作成)

目次

第1 送金と課税原因を分ける1 自己資金の移動2 所得の受領,贈与,貸付返済第2 居住者・非居住者と非永住者1 国籍や滞在日数だけで決めない2 非永住者の国外所得と送金第3 金融機関の国外送金等調書と本人の申告第4 国外財産調書と財産債務調書1 国外財産調書の金額・時点・期限2 外国株式の所在地を税目間で流用しない3 財産債務調書は別の制度第5 CRSと税務署からの照会第6 相談時にそろえる資料第7 根拠資料
第1 送金と課税原因を分ける

海外から日本へ,又は日本から海外へ送金したという事実だけで,送金額の全額に所得税又は贈与税が課されるわけではない。
確認すべきなのは,誰の財産を,何の原因で,誰に移したかである。過去に形成した自己資金の移動,給与や配当の受領,親族への贈与及び貸付金の返済では,課税の対象と確認資料が異なる。

本記事は個人の送金を対象に,日本の税金と財産報告の確認順序を説明する。法人の取引,外国の送金規制及び各国の課税は,別に検討する必要がある。

1 自己資金の移動

本人が実質的に所有する海外預金を本人の国内口座へ移しただけであれば,その移動そのものによって新たな所得を得たとはいえない。
ただし,送金元の預金が未申告の給与,配当又は資産売却代金から形成されていた場合は,その所得が生じた年の申告を確認する。外貨の円転等による為替差損益の判定も,預金元本の移動とは別問題である。
口座名義が同じことだけで結論を出さず,実際の資金拠出者と帰属も確認すべきである。

2 所得の受領,贈与,貸付返済

給与,配当,事業収入又は資産売却代金を送金で受け取った場合には,送金という形式ではなく,その所得の種類,発生時期及び日本の課税範囲を確認する。
親族から返還義務のない資金を受け取る場合は贈与税の検討が必要となり得る。他方,実際に存在する貸付金の元本返済は,元本部分と利息部分を分けて扱う。

親族間で「貸付け」と説明していても,返済能力や返済の実態がなければ,税務上は贈与として扱われる場合がある。国税庁は,無利子貸付けによる利益や,「ある時払いの催促なし」といった貸付けにも注意を求めている。
送金後に借用書だけを作るのではなく,当初の合意,返済計画,返済履歴及び資金使途を保存することが重要である。民事上の返還請求と消滅時効については,返済期限を決めていない貸金・親族間の貸付けの消滅時効はいつから進行するかも参照されたい。

第2 居住者・非居住者と非永住者
1 国籍や滞在日数だけで決めない

所得税法2条・7条は,居住者,非永住者及び非居住者に応じて課税範囲を定めている。居住者は,国内に住所を有し,又は現在まで引き続き1年以上居所を有する個人である。
住所は生活の本拠として事実関係から判断する。日本国籍があること,住民票を残したこと,又は一年の滞在日数の一つだけで判定を終えてはならない。二国に居住者とされる場合には,適用される租税条約も確認する。

非永住者は,居住者のうち,日本国籍を有せず,過去10年以内に国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人をいう。「永住者」という在留資格の有無だけで決まる区分ではない。

2 非永住者の国外所得と送金

非永住者については,国外源泉所得以外の所得のほか,国外源泉所得のうち国内で支払われ,又は国外から送金されたものが課税範囲に入る。
このため,「昔の貯金を送ったから常に非課税」とは限らない。国外源泉所得がある年の送金については,所得税法施行令17条の送金に関する計算も確認する必要がある。
所得の発生年,国内外の支払場所,送金額及び預金の形成過程を整理し,非永住者以外の居住者と同じ説明で処理しないことが重要である。

第3 金融機関の国外送金等調書と本人の申告

国外送金等調書法4条と同法施行令8条は,金融機関等が提出する国外送金等調書を定めている。送金又は受領の金額が100万円を超える場合が基準となる。
これは金融機関側の報告制度であり,100万円を超えたこと自体を理由に所得税又は贈与税が発生する制度ではない。反対に,100万円以下であれば,本来課税される給与,配当又は贈与について申告不要となるわけでもない。
本人の確定申告,贈与税申告及び財産報告の要否は,それぞれの要件で判定する必要がある。

金融機関から求められる本人確認,送金目的及び資金の出所の確認には,送金の実態を説明できる資料を用意する。金融機関が送金を受け付けたことも,税務申告が適正であることの証明にはならない。

第4 国外財産調書と財産債務調書
1 国外財産調書の金額・時点・期限

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中小企業はいつ弁護士に相談すべきか―相談のタイミング,費用,税理士との連携及び準備資料(AI作成)

目次

第1 紛争になっていなくても相談する理由がある1 契約や経営判断の前に相談する2 利用率の数字だけでは相談の必要性を判断できない第2 相談を考える場面と最初に伝える事項1 契約・取引・人事・事業変更の例2 期限や緊急性は資料より先に知らせる第3 相談だけ・個別依頼・顧問契約を分ける1 必要な作業に合わせて依頼する2 相手方と依頼者も明らかにする第4 費用は金額と作業範囲を一緒に確認する1 見積りで尋ねたいこと2 説明義務と契約書の例外を区別する第5 税理士との連携は役割と資料の共有を決める1 契約・紛争と税務の検討をつなぐ2 同じ資料を渡す前に共有の条件を確認する第6 最初の相談に用意する資料と相談後の確認1 目的・経緯・資料・期限を簡潔にまとめる2 相談後は次の行動を確認する第7 出典と説明の範囲

相談する弁護士の取扱分野,担当者,説明及び連絡体制を比較するときは,弁護士の選び方―取扱分野,説明,費用と相談時の確認事項をご参照ください。相談料,定額・時間報酬,顧問料及び追加費用を分けて確認する方法は,弁護士費用の見方―相談料,着手金,成功報酬,実費と見積りの確認で説明しています。社内では,相談の担当者,判断・承認する人及び次の対応期限を決め,弁護士への依頼範囲と合わせて確認すると整理しやすくなります。

第1 紛争になっていなくても相談する理由がある
1 契約や経営判断の前に相談する

中小企業の弁護士相談は,訴訟や取引先との対立が生じた後に限られない。契約を結ぶ前,取引条件を変更する前,新しい事業を始める前にも,法的な条件と対応の選択肢を確認する意味がある。
まず「何をしたいか」「いつまでに決めるか」「何が心配か」を伝え,法律相談だけを受けるのか,書面の作成や交渉まで依頼するのかを分けて確認する。

契約書に署名した後や相手方に回答した後では,選べる対応が変わる場合がある。結論を決める前に相談し,事業の目的,費用及び実行できる体制を踏まえて方針を検討する。

2 利用率の数字だけでは相談の必要性を判断できない

法務省の「令和6年度法曹の活動領域における法曹ニーズ調査業務報告書」の中小企業調査では,回答者900人のうち,弁護士を利用したことがある人は364人(40.4%),利用したことがない人は536人(59.6%)だった。
未利用者536人に理由を複数回答で尋ねたところ,「弁護士に相談する問題とは思わなかったから」が211人(39.4%)だった。「弁護士報酬の基準がわかりにくいから」という回答は59人(11.0%),「他の社外の人と比べて報酬が高いから」という回答は54人(10.1%)だった。

この調査は,全国の中小企業全体の利用率をそのまま推計する統計ではない。インターネットモニターの中小企業役員900人への調査であり,上記の理由の割合は全回答者ではなく未利用者を分母とする。複数回答のため,各理由の人数を合計して未利用者数と比べることもできない。
それでも,相談の入口では,料金だけでなく「この段階で相談してよいのか」を具体的に説明する必要があると考えられる。以下の整理は,個々の企業が相談事項を伝えるための実務上の提案であり,同報告書や法令が定める必須様式ではない。

第2 相談を考える場面と最初に伝える事項
1 契約・取引・人事・事業変更の例

次の表は相談のきっかけの例である。同じ名称の問題でも,契約内容,会社の立場,適用される法令及び期限によって対応は異なる。

場面相談前に整理すること相談するタイミング新しい契約や取引条件の変更取引の目的,相手方の要求,契約案,譲れない条件署名・発注・回答の前代金の未払い,納期や品質の問題契約,請求・入金,納品,苦情及び相手方とのやり取り問題を把握した時点。解除や強い督促の前にも確認する従業員との問題,人事制度の変更起きた事実,関係者,就業規則,既にした説明不利益となる処分や制度変更を決める前。被害防止が必要な場合は早急に連絡する新規事業,事業承継,会社や資産の移転事業の仕組み,関係者,資産・負債,予定日,税務上の検討状況契約条件や実行手順を固める前

従業員から法律用語や多数の引用を含む長い要求書面が届いたときも,回答や処分を決める前に相談する場面である。
AIを使ったかどうかだけで請求を否定せず,原書面,受領日時,要求内容,引用根拠,対象期間・金額及び関連資料を整理する。
会社側の受付と回答準備は,従業員からAIで作成した要求書面が届いたらで説明している。

2 期限や緊急性は資料より先に知らせる

裁判所や行政機関から書類が届いた場合,相手方から回答期限を指定された場合,事業の停止や資産の処分が迫っている場合には,書類の受領日,書かれた期限及び予定される行為を最初に伝える。
期限の意味や例外は手続ごとに違う。書類に記載された日付だけで適切な対応時期を自己判断せず,届いた書類を示して確認する。

資料が全部そろうまで連絡を待たない。何が手元にあり,何が不足しているかを伝え,まず必要な対応と追加資料を確認する。
相談の予約やメールの送信だけで,期限内の提出や相手方への対応まで受任されたと扱わない。誰が何をいつまでにするかについて,依頼の諾否と担当を確認する必要がある。

第3 相談だけ・個別依頼・顧問契約を分ける
1 必要な作業に合わせて依頼する

最初から顧問契約を結ぶ必要があるとは限らない。まず一つの問題について相談し,その後に契約書の確認,交渉又は継続的な相談を依頼する方法もある。どの方法で受け付けるかは各事務所の取扱いによる。

依頼の形確認する範囲別途確認する作業法律相談面談等の時間,資料を読む範囲,回答の方法長い契約書の精査,回答後の追加調査,意見書の作成個別事件・個別業務の依頼契約書作成,交渉,手続対応など今回の対象交渉から訴訟への移行,別の相手方への対応,税務上の作業顧問契約相談の対象,回数・時間,連絡方法,定例の確認訴訟,大量の契約書確認,研修,事業再編その他契約外の業務

表に挙げた作業が一律に別料金となるわけではない。契約ごとの包含範囲を確認するための項目である。
「顧問だからすべて対応する」「相談をしたから相手方への連絡も済んでいる」と決め付けず,弁護士に依頼する作業,会社が行う作業及び依頼していない作業を区別する。

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租税条約の相互協議と国内救済―二重課税の相談で確保する期限・資料・合意後の手続(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論第2 相互協議の位置付けと条約の確認1 税務当局間で解決を図る手続2 国籍だけで入口を決めない第3 申立ての期限を別々に確保する1 相互協議の期限2 国内救済の期限第4 事前相談に持参する資料と担当1 課税・取引・主張を同じ資料で説明する2 連携と記録の実務例第5 納税と合意後の実施を忘れない1 申立てと納税・猶予を分ける2 合意内容と国内手続を照合する3 源泉徴収・地方税・外国での還付第6 判断済みの事項と未解決の事項を分ける1 国内の判断が既にある場合2 外国の源泉課税を受けた相談の進め方第7 関連記事と出典1 関連記事2 出典と確認範囲
第1 この記事の対象と結論

外国で追加課税を受け,日本でも同じ所得に課税されている場合,税額の計算に加え,どの手続で,いつまでに,何を求めるかを整理する必要がある。本記事は,企業の経理・法務担当者,税理士及び弁護士が,租税条約の規定に適合しない課税について初動を検討するためのものである。基準日は令和8年10月10日である。

相互協議の申立て,国内の不服申立て・訴訟,納税・猶予は別々に確認する。相互協議の結果を待つ間に国内の期限が当然に延びると考えてはならない。また,合意が成立しても,必要な更正・還付の手続が自動的に全て終わるわけではない。

最初に,課税した国,納税者,税目,対象所得,課税年度,通知を受けた日及び既に行った救済手続を一枚にまとめる。その上で,条約の適用と各手続の期限を照合するのが実務上の出発点となる。

第2 相互協議の位置付けと条約の確認
1 税務当局間で解決を図る手続

国税庁の相互協議ガイダンスQ1-1~3によれば,相互協議(MAP)は,租税条約に基づき,締約国等の税務当局間で,条約の規定に適合しない課税等の解決を図る協議手続である。納税者が相手国を直接訴える裁判ではない。条約があっても両国の課税の扱いが食い違い,二重課税が残る場合がある。

本記事は,既に行われた課税又は行われると認められる課税についての相談を扱う。将来の移転価格等の事前確認(APA)に係る相互協議とは,準備する資料と手続の段階を分ける。

2 国籍だけで入口を決めない

日本国籍がある,外国で税を払った,又は条約の署名があるという事実だけで,申立ての可否は決まらない。適用される租税条約,居住者等の地位,対象税目・所得・期間,相互協議規定及び申立先を確認する。条約の改正議定書やBEPS防止措置実施条約による修正も点検する。

租税条約等実施特例法施行省令12条は,条約に適合しない課税を受け,又は受けるに至ると認める場合の申立書と添付書類を定めている。国内法と条約の入口を併せて確認する必要がある。個々の条約を調べず,全ての国で同じ申立先・期限が使えるとはしない。

外交的保護では,国籍国が個人の被害について他国の国家責任を援用する。これに対し,相互協議は租税条約に定められた救済経路である。外交的保護の国内救済完了の考え方を,相互協議にそのまま移して「訴訟を終えるまで申立てできない」と考えることはできない。

第3 申立ての期限を別々に確保する
1 相互協議の期限

国税庁Q2-9は,OECDモデル租税条約では,条約に適合しない課税に係る措置の最初の通知の日から3年以内とされている一方,個々の条約によって異なると説明している。3年を全ての租税条約の一律期限にしない。適用条約の原文で期間と起算点を確かめ,通知書・受領日を保存する。

2 国内救済の期限

日本の国税の不服申立てについて,国税通則法77条1項は,原則として,処分を知った日(通知を受けた場合はその受領日)の翌日から3か月という期間を定める。再調査の請求後の審査請求,同条3項の処分日からの期間,正当な理由の例外及び特別な処分の期限は別に点検する。取消訴訟もその固有の期限と不服申立て前置の要否を確認する。

国税庁の事務運営指針第2・3の注2は,不服申立て又は訴訟を行っているかどうかにかかわらず,相互協議の申立てができると説明している。両方の経路を利用する場合は,片方の申立てを他方の期限保全の代わりにしない。

第4 事前相談に持参する資料と担当
1 課税・取引・主張を同じ資料で説明する

国税庁の事務運営指針第2・6に沿って,課税通知等,取引と課税の事実関係,条約に適合しないと考える理由,対象年度,不服申立書・訴状等を整理する。相手国でも申立てをしている場合は,その資料も確認する。外国語資料には日本語訳を付ける。

契約書,請求書,送金記録,税の納付証明,申告書,居住者等の地位を示す資料と,双方の当局に出した説明を対応させる。国税庁Q1-8は,両国への説明の著しい食い違いや重要資料の未提出が円滑な解決を妨げることを指摘している。

資料がそろうのを待って期限を失わないよう,申立期限と不足資料を分け,早期に国税庁相互協議室の事前相談を利用する。相談した事実を正式申立ての代わりとせず,必要書類と提出方法を確認する。

2 連携と記録の実務例

担当の分け方は受任範囲に応じて決める。次は法律上の専属業務を網羅する表ではなく,連携のための確認例である。

担当・場面確認・共有する事項経理・税務担当課税年度,税額,納付・申告状況,証憑及び条約の適用資料を整理する。法的救済の担当国内不服申立て・訴訟の期限,主張,既存の判断,和解・取下げの影響を確認する。現地の専門家相手国の申立期限,訴訟・和解と相互協議の関係及び現地の還付手続を確認する。

各担当の期限表を一本にまとめ,誰が申立書を提出し,誰が不足資料と当局からの連絡を管理するかを決める。国ごとの説明内容を変える場合は,理由と根拠を共有してから提出する。

第5 納税と合意後の実施を忘れない
1 申立てと納税・猶予を分ける

(続きを読む...)租税条約の相互協議と国内救済―二重課税の相談で確保する期限・資料・合意後の手続(AI作成)

決算賞与の支給日在籍要件と税務―退職者への支給義務,未払賞与の損金算入及び源泉徴収(AI作成)

目次

第1 支給条件と税務上の計上条件を一緒に確認する第2 退職者への賞与支給義務をどう判断するか1 賞与の具体的な根拠と通知の意味2 在籍要件の合理性と個別の適用第3 使用人賞与の損金算入時期1 支給予定日が到来した賞与2 翌期1か月以内に支払う決算賞与3 その他の賞与第4 社員の収入年分と会社の源泉徴収時期第5 通知を出す前と決算・支払時の確認第6 関連記事と出典1 関連記事2 法令・行政資料と確認範囲
第1 支給条件と税務上の計上条件を一緒に確認する

決算前に社員へ賞与の金額を知らせ,翌期に支払う場合,支給日に在籍する社員だけに払うという条件があると,翌期1か月以内に支払う方法で通知年度の損金に算入するための通知要件を満たさない。
労働法上の支給条件として在籍要件を設けることと,法人税上の通知要件を満たすことは,別の問題である。
人事担当が作った賞与規程と,経理担当が使う支給通知書が食い違うと,退職者との支給紛争と申告上の誤りが同時に生じる。
人事・経理・決裁者は,支給対象者,金額,条件,支給予定日,決算日及び実際の支払日を同じ資料で確認する必要がある。
本稿は令和8年10月10日に確認した法令・国税庁の説明を基準とし,一般の使用人に対する賞与を中心に扱う。
役員の職務に対する賞与は,支給時期・額及び届出について別の要件が問題となるため,事前確定届出給与を届出どおり払えなかった場合―役員賞与の減額・支給日変更と損金算入(AI作成)を参照されたい。

第2 退職者への賞与支給義務をどう判断するか
1 賞与の具体的な根拠と通知の意味

賞与は,評価対象期間に働いたという一点だけで,予定額全額の請求権が当然に生じるものではない。就業規則,労働協約,個別合意,確立した慣行等から,支給対象者,計算方法,金額決定手続及び在籍条件を確認する。
金額を記載したメールでも,「見込額」「最終査定で変更」「支給日在籍者に限る」という留保がある場合と,条件を付けず確定額を支払う個別合意が成立している場合とでは意味が異なる。文書の表題だけで判断せず,規程と通知文面を合わせて読む。

2 在籍要件の合理性と個別の適用

厚生労働省の大和銀行事件の紹介によれば,支給日に在籍する者だけに賞与を払う従来の慣行を就業規則に明文化した事案で,最高裁昭和57年10月7日判決は,その内容の合理性を認め,支給日前に退職した者の請求を認めなかった。この紹介から,退職・解雇・死亡の全事案で不支給が有効になると一般化することはできない。
任意退職,定年,整理解雇,懲戒解雇,死亡では,退職日を選べるか,雇用終了の原因,賞与制度の目的及び例外条項が異なる。規定自体の合理性と,その人への適用を分けて検討する。解雇の有効性が争われている場合には,支給日の在籍という前提も確定していない。
茨城労働局の相談資料は,支給が遅れた場合の支給予定日と現実の支払日の区別にも注意を促している。会社が支払を遅らせた後,その間に退職したことだけを理由に,予定日に在籍していた者の権利が失われたと扱うことは避けるべきである。
在籍要件を外すと税務上有利になるとしても,税務担当だけで既存の労働条件を変更してはならない。規程の変更,個別合意,労使手続及び周知の要否を,変更内容に応じて検討する。

第3 使用人賞与の損金算入時期
1 支給予定日が到来した賞与

法人税法施行令72条の3第1号は,労働協約又は就業規則で定められた支給予定日が到来し,使用人に支給額を通知し,所定の年度に損金経理した賞与について,支給予定日と通知日のうち遅い日の属する事業年度に算入する扱いを定めている。支給予定日,通知及び経理の条件をそれぞれ確認する。

2 翌期1か月以内に支払う決算賞与

同条第2号の方法では,①各人別に,同時期に支給を受ける全使用人へ金額を通知すること,②通知した全使用人へ,通知年度終了日の翌日から1か月以内に通知どおりの金額を支払うこと,③通知年度に損金経理することが必要である。
国税庁の法人税基本通達9-2-43は,支給日に在職する使用人だけに払う条件付きの支給額通知について,「支給額の通知には該当しない」としている。この通知要件は,同条第2号イの要件である。未払賞与を計上したことや,支払までが1か月以内だったことだけで足りるわけではない。
例えば3月決算法人が3月25日に各人へ金額を通知し,4月20日に支払う計画でも,通知に「4月20日在籍者のみ」との条件があれば,第2号の方法で3月期の損金にできる通知とは扱われない。これは退職者分の金額だけの問題ではなく,同時期の賞与の通知・支払要件全体を点検する契機となる。
計算式だけの周知では,各人別の具体額を通知したかが不明確になる。対象者別の確定額,通知日,到達を確認できる記録,退職者への扱い及び実際の振込額を残す。

人事評価の通知,社内の賞与試算及び各人別の具体的支給額の通知は区別する。
全社の支給月数,部門配分,個人評定及び出勤係数等を使う制度では,適用する算式から具体額へ至る過程を示し,評価結果を知らせただけで施行令72条の3第2号の支給額通知をしたとは扱わない。
再評価の申立て後に額を変更した場合は,通知内容と実際の支払を取り直し,当該賞与がどの類型・要件を満たすかを確認する必要がある。

3 その他の賞与

第1号・第2号の方法に当たらない賞与は,同条第3号により,支払った日の属する事業年度に損金算入する。条件付き通知が第2号を満たさないからといって,支払後も永久に損金にできないという意味ではない。

(続きを読む...)決算賞与の支給日在籍要件と税務―退職者への支給義務,未払賞与の損金算入及び源泉徴収(AI作成)

民事再生の債権届出を忘れたら―自認,議決権,失権と記載漏れ,弁護士・税理士が確認する期限と資料(AI作成)

目次

第1 取引先の民事再生で最初に確認すること1 売掛金・前払金・損害賠償を同じ扱いにしない2 債権額と議決権額は一致するとは限らない第2 届出をしなかった債権の3つの状態1 再生債務者が認否書に自認した債権2 知っていたのに認否書から漏れた債権3 それ以外の未届債権第3 期限後に気付いた場合と金額を争われた場合1 届出の追完と付議決定の限界2 認否で争われた場合の期限第4 貸倒処理は議決権や支払の遅れと分けて判断する1 切捨額と残る請求権を分ける2 消費税と共有資料第5 出典と関連記事1 一次資料2 関連記事
第1 取引先の民事再生で最初に確認すること

取引先が民事再生を申し立てたとき,売掛金の残高が帳簿に載っているだけでは,裁判所への債権届出をしたことにはならない。債務者から通知が届いたことや,債務者が支払義務を認めていることとも区別する必要がある。

本記事は,法人企業の通常の民事再生を対象に,令和8年10月10日現在の民事再生法に基づいて整理する。個人再生には別の特則がある。債権者側では,まず債権届出期間,調査期間及び計画案を決議に付する旨の決定(以下「付議決定」という。)の有無を確認し,届出の控え・受付記録と,認否書・再生債権者表を照合することが必要である。

経理担当者は契約書,請求書,納品・役務提供の記録及び入金履歴を集め,法務担当者又は弁護士は請求権の区分と手続上の期限を確認する。税理士はその結果を受けて,税務上の貸倒れの類型,金額及び計上年度を検討する。この役割分担は実務上の提案であり,届出をしない選択を勧めるものではない。

1 売掛金・前払金・損害賠償を同じ扱いにしない

開始前の原因に基づく一般の売掛金等は再生債権となるのが基本である。他方,開始後の取引や双方未履行契約の解除に伴う既払金返還には,共益債権となる場合がある。前払金については,契約の履行状況,解除の時期及び法的根拠を先に確認する必要がある。請求書や案内の名称だけで分類することはできない。

特に,本来共益債権である請求を留保なく再生債権として届け出た場合には,後の手続外行使が制限される問題がある。詳しくは,共益債権を再生債権として届け出た場合―双方未履行契約の解除・前払金返還と最高裁平成25年11月21日判決を参照されたい。

2 債権額と議決権額は一致するとは限らない

民事再生法94条の届出では,債権の内容・原因とともに議決権の額等を届け出る。外貨建債権等の議決権は開始時の評価額によるほか,開始後の利息等には議決権がない(同法87条)。帳簿残高をそのまま投票の金額とせず,元本,利息,発生時期及び通貨を分けて確認することが必要である。

役務提供を受ける非金銭債権については,契約日,提供を受ける役務の内容と履行期を特定し,権利の内容として届け出る。
議決権は開始時の評価額によるが,議決権の金銭評価だけで,その権利が返金請求権へ変わるわけではない(民事再生法84条,87条1項3号ハ,94条)。
届出書では,法94条に加えて民事再生規則31条の氏名・住所,通知先等も照合する。

法人税基本通達9-6-1・2は金銭債権を対象とするため,役務請求権の議決権評価額をそのまま貸倒損失の額にしない。
解除等による返還請求権の発生・額と回収可能性を確認し,買主の前払金に売手側の消費税法39条の貸倒れ控除を直結させないことも必要である。
認可後の権利変動と資料の整理は,民事再生計画の取消しと手続廃止も参照されたい。

第2 届出をしなかった債権の3つの状態
1 再生債務者が認否書に自認した債権

再生債務者等は,届出がされていない再生債権があることを知っている場合,その自認する内容等を認否書に記載しなければならない(民事再生法101条3項)。ただし,届出のない約定劣後再生債権については同条4項の例外がある。

自認された債権は,調査によって内容が確定する制度の対象となり,認可決定が確定すると計画の定めに従って権利が変更される(同法104条,179条)。これは,未届債権について内容と計画上の権利を扱う仕組みである。自認だけで届出をしたことになり,当然に計画への議決権も得られるわけではない。議決権行使の制度は届出再生債権者を対象としている(同法170条・171条)。

したがって,「先方が債権を認めているから届出は不要」と判断せず,認否書に誰のどの債権が,いくらで記載されたかを確認する必要がある。

2 知っていたのに認否書から漏れた債権

再生債務者が101条3項による記載をすべきだったのに記載しなかった債権は,認可決定の確定時に,計画の一般的基準に従って変更される(民事再生法181条1項3号)。届出も記載もないという理由だけで,すべて一律に失権すると扱うのは正確ではない。

ただし,この場合の変更後の権利については,計画で定められた弁済期間の満了まで,弁済その他の消滅行為が原則として制限される(同条2項)。期間満了前に計画に基づく弁済が完了した場合や,計画が取り消された場合には,それぞれ完了時又は取消時までとなる。免除は制限の例外である。

例えば,一般的基準が95%免除・5%弁済で,弁済期間が5年の場合,元の100万円をそのまま請求できるわけではない。原則として5万円に変更された上で,同条2項による弁済の制限を受ける。ほかの債権者と同じ時期に直ちに支払を受けられるとも限らない。

この特則を主張するには,債権の存在・金額だけでなく,再生債務者が知っていたため認否書に記載すべきだったかを確認する必要がある。契約書,請求書の到達,督促への回答,残高確認書,債務者側の取引記録等が検討資料となる。帳簿にあるはずだという推測だけで結論を出さないことが大切である。

3 それ以外の未届債権

認可決定が確定すると,計画又は法律によって認められた権利を除き,再生債務者は原則として再生債権について責任を免れる(民事再生法178条)。101条3項の自認や181条の特則に該当しない未届債権は,この免責の問題となる。

181条1項には,責めに帰することのできない事由が付議決定前に消滅しなかった債権や,付議決定後に生じた債権についても特則がある。未届債権の扱いは,期限を逃した理由,その理由が解消した時期,債権の発生時期及び債務者の認識によって変わる。担当者の失念が当然に救済されるとは扱えない。

第3 期限後に気付いた場合と金額を争われた場合

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債務引受けを伴う事業譲渡―否認リスクと消費税の対価をどう分けるか(AI作成)

目次

第1 現金の入金額だけでは二つの判断をできない第2 先に契約と資金の流れを確定する1 売主の債務が本当に消えるか2 現金・引受債務・取得資産を別欄にする第3 否認では他の債権者の共同引当財産を見る1 現金と債務引受額の合計が時価でも安全とは限らない2 担保と代替案を比較する第4 相当価格の譲渡と代金弁済を分ける1 売却自体の否認と弁済の否認2 本旨弁済の意思を当然に隠匿等の意思としない第5 消費税では金銭以外の対価も確認する1 現金1000万円だけを課税対価と決めない2 土地・建物・在庫等の対価を合理的に分ける第6 契約締結前に弁護士と税理士が共有する資料1 同じ資料から異なる問いに答える2 契約を固める前に相談する条件第7 関連記事と出典1 関連記事2 確認した根拠と適用範囲
第1 現金の入金額だけでは二つの判断をできない

資金繰りが悪化した会社の事業を譲り受けるとき、「現金1000万円を支払い、銀行借入金3000万円を引き受ける」という取引が提案されることがある。弁護士と税理士は、契約上の対価総額、売主に残る責任財産、売主が受ける経済的利益を、それぞれ確認する必要がある。

破産法の否認では、特定の銀行以外の債権者が引き当てにできる財産が減ったかが問題となる。一方、消費税では、課税資産の譲渡の対価に金銭以外の経済的利益が含まれるかを判断する。同じ取引で、債務引受けを含む税務上の対価を検討しながら、他の債権者に対する詐害性も認められる可能性がある。

本記事は、令和8年10月10日に確認した現行法令と国税庁の公表取扱いに基づき、国内で法人が事業用資産を譲渡する場面の確認順序を示す。個別の税額、納税義務、仕入税額控除又は法人税上の処理は、取引日と契約・資産の内容を踏まえて別に判定する。

第2 先に契約と資金の流れを確定する
1 売主の債務が本当に消えるか

免責的債務引受けでは、引受人が元の債務と同一内容の債務を負担し、元の債務者が免れる。併存的債務引受けでは、引受人が元の債務者と連帯して同一内容の債務を負担する。これは民法470条・472条の区別である。

売主と買主が「借入金を引き受ける」と合意しただけで、銀行に対する売主の債務が必ず消滅するわけではない。弁護士は、契約当事者、銀行の承諾・通知、効力発生条件、担保と保証の扱いを確認する。買主が売主との関係で支払を約束する履行引受けも、銀行に対する免責の有無と分けて整理する。

2 現金・引受債務・取得資産を別欄にする

契約締結前に、譲渡する店舗・設備・在庫・土地・建物・営業権等の範囲と価格、現金支払額、引受対象債務、支払先、効力発生日を一つの資料で照合することを勧める。

銀行へ直接送金する方式でも、売主の代金債権を弁済に充てるのか、買主が自分の債務を履行するのか、売主の債務を免れさせる対価なのかによって意味が違う。通帳の入金額、会計上の仕訳又は契約名だけから法的効果を決めない。

第3 否認では他の債権者の共同引当財産を見る
1 現金と債務引受額の合計が時価でも安全とは限らない

破産法160条1項は、担保供与・債務消滅行為を除く、破産債権者を害する行為の否認を定めている。財産を譲渡する行為については、行為時期、債権者への不利益、売主と受益者の認識を検討する。

令和6年司法試験の採点実感2~3頁は、倒産法第1問設問3②について、価値4000万円の事業を現金1000万円と銀行債務3000万円の引受けを組み合わせて譲渡した場合を扱う。全体では資産と負債が同額減ったように見えても、引受対象の銀行以外の債権者にとって責任財産の引当てが減る点を検討すべきとしている。

したがって、「1000万円+3000万円=4000万円だから時価取引であり否認されない」という説明では足りない。銀行に対する債務の減少と、他の一般債権者のために残る資産を別々に比較する必要がある。

2 担保と代替案を比較する

銀行が譲渡資産に担保を持ち、もともとその資産から優先弁済を受けられた場合には、無担保の銀行だけを優遇する場合と共同引当財産の評価が異なり得る。担保対象、担保残高、実際の売却見込額、処分費用及び担保外の資産を確認する。

弁護士と財務担当者は、譲渡前後の一般債権者への配当見込み、事業継続価値、第三者への売却可能性、代金の管理方法を比較することが望ましい。入札や第三者評価は検討資料となるが、それだけで否認の全要件を消すものではない。

なお、採点実感は、この設問の詐害性の検討では免責的・重畳的債務引受けを区別する必要はないとしている。これは試験の検討対象に即した説明であり、実際の契約で債務引受けの類型や効力を確認しなくてよいという意味ではない。

第4 相当価格の譲渡と代金弁済を分ける
1 売却自体の否認と弁済の否認

事業を時価で売り、その代金を特定の債権者へ返済した場合には、事業譲渡と返済を別の行為として検討する。相当な対価を得た処分には破産法161条が、既存債務の弁済には同法162条が、それぞれ問題となる。

161条1項は、財産の種類変更によって隠匿等の処分のおそれが現に生じたこと、売主の隠匿等処分意思、相手方の認識をすべて要求する。代金を現金で得たことや、後に特定債権者へ支払ったことだけで、全要件が満たされるとはいえない。

2 本旨弁済の意思を当然に隠匿等の意思としない

前記採点実感2頁は、期限の到来した債務について、本来の内容に従って弁済する意思は、原則として隠匿等処分意思と同視できないとする。他方、弁済先が破産会社の取締役という事情にも配慮して検討することを求めている。

この説明から「内部者への返済であれば売却自体も必ず否認される」という結論は出ない。弁済先、期限、資金使途の合意、代表者の認識及び他の債権者への影響を検討し、売却と弁済のどちらを対象とするのかを明示する必要がある。試験の公式解説は論点を示す資料であり、個別事件を拘束する判決ではない。

第5 消費税では金銭以外の対価も確認する
1 現金1000万円だけを課税対価と決めない

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競争者との取引を理由とする供給停止・取引妨害への対応―独占禁止法,証拠保全,損害賠償と税務(AI作成)

目次

第1 供給停止の通知を受けたときに整理すること第2 直接妨害された商品と,競争が弱まる市場を分ける第3 互換性・安全性の説明は,根拠と説明先を確かめる第4 証拠を残し,事業継続と損害の調査を進める第5 公取委への申告,差止め,損害賠償を選ぶ第6 和解金の受領・支払・消費税を別々に判定する第7 相談・和解協議に持参する資料と関連記事
第1 供給停止の通知を受けたときに整理すること

「他社の商品を扱うなら供給を止める」「他社製装置では当社の商品を使えない」と告げられた場合は,通知の内容,実際の供給状況及び妨げられた取引を分けて記録する。競争者の商品を扱う販売店,購入する顧客,新規参入企業では,被害の内容も求める対応も異なる。

まず,誰が誰に,どの商品・役務について,どの条件を示したのかを図にする。卸売業者への圧力と,その先の購入者への説明を混ぜず,日時,担当者,対象地域,取引数量及び期間を対応させる。契約書に競争者との取引禁止が書かれていなくても,供給停止の通知が相手方の行動を事実上拘束したかを確認する。

供給継続が必要な場合は,契約上の義務,代替調達の可否及び事業停止の切迫性も並行して調べる。既存契約に基づく履行請求と独占禁止法上の請求は,それぞれの根拠と要件を整理する。供給拒絶の外形だけで違法性が決まるわけではなく,供給能力,信用不安,安全性等の具体的事情も必要となる。

第2 直接妨害された商品と,競争が弱まる市場を分ける

例えば,消耗品を販売する企業が,その競争者の新型装置について「使えない」と購入予定者に説明した場合を考える。調べる対象は,装置の商談が断念されたという直接の影響と,その装置を通じた消耗品の販売拡大が妨げられたという影響の双方である。

消耗品の市場への影響を説明するだけでは,装置の取引に対する妨害の検討が抜ける。一方,装置の一商談が失われたことだけで,消耗品市場の競争が実質的に制限されたとまではいえない。商品ごとの顧客,代替品,販売経路及び失われた機会を記録し,両者をつなぐ事情を示す。

不公正な取引方法の一般指定14項は,自己と国内で競争関係にある他の事業者とその取引相手との取引を不当に妨害する行為を対象とする。行為者が妨害された装置を販売していないという理由だけで検討を終えず,他の商品での競争関係,妨害された取引及び手段の不当性を確認する。

競争者との取引をしないことを条件とする取引は一般指定11項,その他の活動制限は同12項なども候補となる。排除型私的独占については,独占禁止法2条5項・3条の競争の実質的制限を別に検討する。不公正な取引方法と私的独占の要件を同じものとして扱わない。

競争品の取扱い自体は認めても,販売店の推奨をやめさせる条件によって競争者の取引機会が失われる場合がある。
販売店の説明・推奨が需要者の選択をどの程度左右するか,支援削減等の不利益がどの行動を抑えるかを調べ,形式上の併売可能性だけで検討を終えない。
推奨制限と約束の実効性を整理した事例として,令和3年司法試験経済法第2問の模範解答と解説も参照されたい。

影響の広がりを調べる際は,通知された販売店,現実に不利益を受けた販売店,その情報を知った販売店及び推奨を変更した販売店を時系列で対応させる。
一店の不利益から全店への波及を推定せず,メール,営業日報,取引先の説明,推奨・注文の変化で確かめる。
これは一般指定14項の妨害と,流通・取引慣行指針が示す競争への影響を調べるための証拠整理である。

事業者団体が供給停止に関与している場合は,団体の加入拒絶・活動制限,メーカーへの働き掛け,各メーカーによる実際の取引拒絶を分けて整理する。
団体の行為については,事業者数の制限を定める独占禁止法8条3号,構成事業者の機能・活動の不当な制限を定める同条4号,事業者に不公正な取引方法をさせるようにする同条5号の要件を,対象行為に応じて検討する。
公取委の事業者団体指針第一3(5)は,8条5号の働き掛けの相手には構成事業者以外の事業者も含まれるとしているため,メーカーが団体の会員でないことだけで検討を終えない。
団体の規約・決議,供給先への要請文と送付先,各社の回答・供給停止日を対応させ,団体の要請と各社の行為を一括して同じ行為とは扱わない。
根拠は,公取委掲載の独占禁止法第8条(https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/lawdk.html)及び事業者団体指針第一3(5)(https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/jigyoshadantai.html)であり,資料の対応付けは実務上の整理案である。

第3 互換性・安全性の説明は,根拠と説明先を確かめる

物理的な認証ロック等により使えなくした場合と,実際の互換性を確認せずに「使えない」と説明して導入をためらわせた場合では,必要な証拠が異なる。後者では,説明時点の仕様,確認試験の有無,試験条件,対象機種及び説明先への影響を調べる。「安全のため」という言葉だけで合理性を認めず,逆に試験未実施だけで説明が虚偽だったと決めつけない。

公正取引委員会の令和2年3月12日公表資料は,日本メジフィジックスについて,地域別価格での競争者との取引に対する供給停止の意思表示,特定自動投与装置を使用できないとの根拠不明確な説明及び競争者の商品を買う医療機関への当日配送拒否を,違反の疑いがある行為として示している。

この事例では,装置の確認試験結果を医療機関へ通知する措置等を含む確約計画が認定された。ただし,確約認定は独占禁止法違反を認定したものではない。個別企業についての違反断定や損害賠償責任の認定に置き換えず,説明の根拠と,説明を受けた顧客の判断を調べる際の参考とする。

第4 証拠を残し,事業継続と損害の調査を進める

通知書,電子メール,チャット,価格表,注文書,回答,見積書及び仕様書は,日時・送信者・添付資料との対応を保って保存する。口頭説明は,その直後に内容を記録し,可能であれば認識を確認する文書を送る。取引先から提供を受ける資料は,提供の権限,秘密保持及び提出できる範囲も確認する。

社内では,次の資料を営業,技術,経理及び法務で共有すると調査が進めやすい。

① 供給停止の通知と,実際に拒否・遅延された注文の一覧
② 中止された商談,顧客の説明,契約成立の見込みを示す記録

(続きを読む...)競争者との取引を理由とする供給停止・取引妨害への対応―独占禁止法,証拠保全,損害賠償と税務(AI作成)

相続したゴルフ会員権を売却するときの税務―取得費の引継ぎ,名義書換料及び損益通算(AI作成)

目次

第1 相続税評価額で取得費を置き換えない第2 被相続人の資料と相続人の支出を合わせて確認する第3 名義書換料を認めた最高裁判決の射程第4 所得の計算と損失の通算を二段階にする第5 売却前の確認順序第6 関連記事と根拠の範囲

親が買ったゴルフ会員権を相続して売却するとき,相続税評価額,親の購入代金,相続人の名義書換料及び売却時の手取額は,それぞれ役割の異なる数字である。個人が通常の相続によって取得した会員権を売却する場面について,令和8年10月10日に確認した法令,最高裁判決及び国税庁資料に基づいて整理する。

第1 相続税評価額で取得費を置き換えない

所得税法60条1項は,通常の相続や贈与によって取得した資産の売却について,「その者が引き続きこれを所有していたものとみなす」と定める。相続によって,その時の評価額で新たに購入したものとして計算する制度ではない。

被相続人の取得費と取得時期を引き継ぐため,相続した時の評価額より安く売却しても,元の取得費が低ければ譲渡益が生じ得る。相続税の評価と,売却時の所得税計算を別の表へ記録する方がよい。限定承認に係る相続は同項の通常の引継ぎから除かれるため,限定承認と税金を参照されたい。

第2 被相続人の資料と相続人の支出を合わせて確認する

被相続人の購入契約,入会時の明細,名義書換料,仲介手数料及び支払記録を集める。その上で,相続人が承継のために支出した金額と,売却のための支出を分ける。相続人が買ったわけではないという理由だけで,親の購入資料を不要としない。

所得税法38条1項は取得費を,資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の合計額とする。請求書の名称だけではなく,その支出が権利取得のために必要だったか,売却に直接対応するか,保有中の支出かを検討する必要がある。

会員権の種類,承継条件,名義変更の要否及び費用負担は,会則と個別契約で確認する。相続人が自ら会員となってから売却する場合と,相続関係を証明して第三者への売却を進める場合とで,必要な手続・支払が同じとは限らない。

第3 名義書換料を認めた最高裁判決の射程

最高裁平成17年2月1日第三小法廷判決は,父からゴルフ会員権の贈与を受けた子が,名義書換手数料を支払い,その後会員権を売却した事案である。相続そのものの事案ではない。

最高裁は,所得税法60条1項の趣旨を増加益への課税の繰延べと捉え,贈与の際の権利取得に必要な付随費用を無視する扱いを否定した。受贈者が会員権を取得するために支払った当該手数料を取得費に含めた。

相続の場合も,60条1項による取得費の引継ぎだけを理由として,相続人の付随費用を一律に除外する考え方は採れない。他方,相続後に支出した金額がすべて取得費となるわけでもない。名義書換料の支払者,支払目的,会則上の効果,承継との関係及び領収書をそろえて判断する。

同判決が譲渡時の売却手数料ではなく,贈与時の取得付随費用を扱ったことにも注意する。不動産の相続登記費用等との比較は,相続した不動産を売却したときの譲渡所得を参照されたい。

第4 所得の計算と損失の通算を二段階にする

国税庁No.3158は,ゴルフ会員権の売却益を原則として総合課税の譲渡所得とし,取得費と譲渡費用を控除した上で,保有期間に応じた計算を示している。営利目的で継続して売買する場合は,事業所得又は雑所得の問題となり,同じ計算を機械的に使わない。

取得費に名義書換料を含められるかという問題と,計算した譲渡損失を給与等から差し引けるかという問題は別である。取得費の認定に成功しても,損益通算ができるとは限らない。

現行の所得税法69条2項及び62条1項と施行令178条は,生活に通常必要でない資産の損失を制限する。主として趣味・娯楽等のために持つ会員権について,No.3158は給与所得等との損益通算を原則として認めないと説明している。取引先との利用があったという事情だけで,当然に制限を外せるとはしない。

平成17年の最高裁判決は平成9年分の課税を扱っている。そこで譲渡損失が認められたという結論を,現在の給与との通算へそのまま移すことはできない。過去の判決による取得費の解釈と,売却年に適用される損失制限を分ける必要がある。

第5 売却前の確認順序

①会員権証書,会則,相続関係資料及び相続人間の取得者を確認する。
②被相続人の取得日,購入代金と付随費用を証憑に結び付ける。
③相続人の名義書換料等を,取得,維持又は売却のどの段階の支出かに区分する。
④売却契約,売却代金,仲介手数料及び入金明細をそろえる。
⑤譲渡所得の区分・金額と,損益通算の可否を別々に判定する。
⑥申告が必要となる場合の資料と担当を,売却前に決める。

弁護士は承継権限,会則,遺産分割及び売買条件を,税理士は所得区分,取得費,保有期間及び損益通算を照合する運用が有用である。これは専門職連携の提案であり,会則や事実が異なる全案件への一律の結論ではない。

ゴルフ場の経営破綻等で預託金債権や施設利用権の内容が変わった場合は,売った権利と元の会員権の同一性から確認する。通常の相続・売却の計算だけで完結させない。

第6 関連記事と根拠の範囲

令和6年司法試験租税法第2問の模範解答と評価項目は,相続時の名義書換料と,娯楽目的の会員権の損益通算を別設問で扱っている。試験答案の検討順序を確認するための案内である。

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陸上風力発電設備の固定資産税特例―地域脱炭素化促進事業の認定,FIT・FIP認定と取得時期(AI作成)

目次

第1 計画認定と固定資産税の特例は別に確認する第2 対象となる陸上風力設備の確認順序1 再エネ特措法の認定発電設備であるか2 どの計画の設備として記載されているか3 取得時期が特例の期間内にあるか第3 軽減される割合と期間1 3分の2は課税標準に乗じる割合である2 取得期間と3年度分の適用期間を区別する第4 申告前にそろえる資料1 認定関係の資料2 資産と日付の資料第5 工事開始の条件と税務の条件を工程に組み込む第6 出典と確認範囲第7 関連記事

陸上風力発電設備の固定資産税特例を検討するときは,地域脱炭素化促進事業計画の認定だけで判断せず,発電設備の認定,計画への記載,取得期間及び課税する自治体の条例を確認する必要がある。本記事は令和8年10月10日現在の制度を扱い,事業者,弁護士及び税理士が同じ設備と日付を確認するための手順を示す。

第1 計画認定と固定資産税の特例は別に確認する

地域脱炭素化促進事業計画の認定は,温対法に基づく事業計画の認定である。関係機関との協議・同意を経た場合に許認可の特例を利用できるが,そのことと税務上の課税標準の特例を受けられることは別の判断である。

地方税法附則15条24項3号イ(2)は,対象となる風力設備について,認定地域脱炭素化促進事業計画に「整備する旨が記載された設備」と定める。単に促進区域内にあることや,事業者が別の設備について認定を受けていることだけでは足りない。地方税法(令和8年10月1日施行版)の附則15条24項を確認する。

事業計画に記載された設備の所在地,種類,規模と,取得して償却資産申告に載せる設備を照合することが出発点となる。弁護士が確認した計画認定の資料と,税理士が確認する資産台帳を設備単位でつなぐことが実務上の要点である。

第2 対象となる陸上風力設備の確認順序
1 再エネ特措法の認定発電設備であるか

同項2号及び3号イの「特定風力発電設備」は,風力を電気に変換する設備のうち,再エネ特措法上の認定発電設備に限られる。環境省の制度資料もFIT・FIP認定を要件として示している。温対法の認定通知だけでなく,発電事業計画の認定通知,設備ID及び変更認定の内容を照合する。環境省の固定資産税特例資料の1頁を参照する。

2 どの計画の設備として記載されているか

陸上風力の対象として,温対法の認定地域脱炭素化促進事業計画に記載された設備のほか,農山漁村再エネ法の認定設備整備計画に記載された設備がある(地方税法附則15条24項3号イ(3))。本記事は前者を中心に扱う。両方の計画の認定が常に必要という意味ではない。

認定後に所在地,設備構成,出力又は事業者を変更した場合には,現在有効な認定計画と実物の一致を確認する。認定があったという過去の事実だけで判断せず,変更認定や届出を含む資料をそろえる。

3 取得時期が特例の期間内にあるか

対象は,令和8年4月1日から令和11年3月31日までの間に新たに取得された設備である。契約締結日,代金支払日,納入日,検収日及び事業供用日を一覧にし,取得時期の判断を裏付ける契約書・請求書・検収資料を残す。これらの日付が異なる場合は,契約の日付だけで適用期間内と決めない。

令和8年3月31日以前に取得した設備へ,新しい制度の条件をそのまま当てはめることもできない。取得した時期の法令と経過措置を別に確認する。

第3 軽減される割合と期間
1 3分の2は課税標準に乗じる割合である

地方税法附則15条24項3号は,3分の2を参酌し,2分の1以上6分の5以下の範囲で市町村の条例が割合を定める仕組みである。したがって,全国一律に3分の2と断定せず,設備を課税する自治体の条例を確認する。同法389条の適用を受ける資産については,同号の括弧書が3分の2と定めている。

「3分の2」は通常の課税標準となるべき価格に乗じる割合であり,税額の3分の2が減るという意味ではない。条例の割合が3分の2で,他の条件が同じという計算例では,価格3,000万円に対して課税標準は2,000万円になる。実際の税額は税率その他の条件も確認して計算する。

償却資産の通常の課税標準について,地方税法349条の2は「賦課期日における当該償却資産の価格で償却資産課税台帳に登録されたもの」と定める。購入代金へ機械的に特例割合を掛けた金額を,毎年の申告・課税額と同一視しない。

2 取得期間と3年度分の適用期間を区別する

特例は,その設備に新たに固定資産税が課されることとなった年度から3年度分に限られる。取得期間の終期と,個々の設備について特例を受ける最後の年度は別の問題である。

例えば,令和8年中に取得し,令和9年度から新たに課税される設備で他の要件も満たす場合,対象となるのは令和9・10・11年度の3年度分である。認定日から3年間,契約日から3年間又は永久の免税という説明にしない。

第4 申告前にそろえる資料
1 認定関係の資料

① 温対法の認定通知書と認定計画の設備記載部分
② 認定条件,変更認定通知書及び変更届出の記録
③ FIT・FIPに係る認定通知書,設備ID及び変更内容
④ 所在地,出力及び設備構成を確認できる図面・仕様書

2 資産と日付の資料

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売買契約を解除した後の所得税―原状回復,未収代金の貸倒れ,違約金と更正の請求(AI作成)

目次

第1 解除,回収不能及び貸倒れを分ける1 本記事の対象と判断の順序2 最初に分ける四つの場面第2 当初の収入計上と手付金1 代金の未払いだけで当初の申告を誤りとしない2 手付金の受領と売買代金への充当を区別する第3 解除の効力と原状回復の実行を確かめる1 解除合意書だけで還付を決めない2 原状回復を資料で追えるようにする第4 更正の請求の根拠と期限1 通常の請求と後発的事由の請求2 回収不能等についての所得税の特例3 事業債権の貸倒れは損失の年分を確認する第5 違約金,返還利息及び差引精算1 違約金という名称だけで非課税又は一時所得としない2 返還額と新たな利益を相殺しても区分を残す第6 弁護士と税理士が共有する資料と期限1 合意前に同じ時系列と金額内訳を使う2 請求の担当者と提出完了を確かめる第7 関連記事第8 出典と確認範囲1 法令2 国税庁の公表解釈
第1 解除,回収不能及び貸倒れを分ける
1 本記事の対象と判断の順序

個人が資産を売却した後,買主が代金を支払わなくなった場合,売主は契約を解除するか,代金請求を続けるかを検討する。税務では,未払いになったという事実だけで,過去の譲渡所得が消えるわけではない。
契約の効力,資産・代金の返還,所得の種類,回収不能となった時期及び申告の年分を分けて確認する必要がある。

本記事は,令和8年10月10日に確認した法令と国税庁の公表解釈に基づき,主に個人の非事業用資産の売却を扱う。事業債権及び法人の処理との違いも示すが,具体的な税額計算や消費税・不動産取得税等を網羅するものではない。
土地・建物の譲渡所得は,原則として租税特別措置法による分離課税の対象である。司法試験の設例で租税特別措置法の適用を除外した計算を,実際の不動産取引にそのまま用いることはできない。

個人事業で使用していたトラックや機械などの固定資産を売却した場合も,棚卸資産に当たる場合や営利を目的として継続的に資産を譲渡する場合等を除き,原則として譲渡所得の問題となる。
事業に使っていたことだけで売却益を事業所得としたり,後の解除による損失を事業所得の必要経費としたりせず,所得税法27条・33条による所得区分を先に確かめる。

2 最初に分ける四つの場面

①個人の非事業用資産の売買を解除し,資産と代金を返して原状に戻す場面。過去の課税の基礎となった譲渡の成果が失われたか,過年度の所得・税額を改める根拠があるかを検討する。
②契約を維持したまま,個人の非事業用資産の未収代金が回収不能になった場面。所得税法64条1項の要件に沿って,回収不能額に対応する所得を検討する。
③個人の事業に係る売掛金等が貸し倒れた場面。原則として所得税法51条2項により,損失が生じた年分の必要経費を検討する。
④法人の過年度の取引が後に解除された場面。法人税基本通達2-2-16等による当事業年度の損金処理を検討し,個人の譲渡所得の処理と同一視しない。

第2 当初の収入計上と手付金
1 代金の未払いだけで当初の申告を誤りとしない

所得税法36条1項は,原則としてその年に収入すべき金額を収入金額とする。契約,引渡し,登記及び権利の確定を確認し,現金が入った日だけで収入計上を決めない。
資産の譲渡について,所得税基本通達36-12は引渡しの日を基準とし,納税者が契約の効力発生日で申告した場合の取扱いも認める。この行政上の取扱いを踏まえ,当初の申告で採用した時期とその裏付けを確認する。

例えば,資産を引き渡して売買代金債権が確定していた場合,その後に買主の資力が悪化したことと,当初から収入が存在しなかったことは別である。まず当初の計上が適法だったかを確かめ,その後の解除又は回収不能の処理へ進む。

2 手付金の受領と売買代金への充当を区別する

手付金を受け取ったことだけで,最終的に譲渡所得又は一時所得のいずれになるかが確定するとは限らない。売買が履行されて代金に充当された金額と,手付解除等により売主が取得する金額を分ける。
民法557条の手付解除は,相手方が履行に着手するまでの制度である。債務不履行解除と契約上の違約金を,同条の手付解除として処理してはならない。

第3 解除の効力と原状回復の実行を確かめる
1 解除合意書だけで還付を決めない

民法545条は,解除権を行使した場合の原状回復義務を定める。金銭には受領時からの利息,金銭以外の物には所定の果実の返還が問題となり,解除によって損害賠償請求が妨げられるわけではない。
税務上は,解除という表題だけでなく,解除原因,効力発生日,実際の返還及び売主に残る経済的利益を確認する。

解除権の行使,合意解除,取り消し得る行為の取消し,無効な行為の清算及び実質的な再売買では,民事上の根拠と税務上の適用条項が異なり得る。当事者が過去に遡ると合意したことだけで,過年度の税額が自動的に減るとはいえない。

2 原状回復を資料で追えるようにする

不動産では,解除通知と到達記録又は署名済み合意書,登記の回復資料,引渡し・鍵の返還記録,代金返還の振込記録を対応させる。解除時に他の権利者がいる場合や,資産の一部しか戻っていない場合は,その権利関係と残存利益も確認する。
代金返還と違約金を相殺したときは,振込額だけを資料にせず,返還義務額,違約金債権額,相殺の根拠及び差引支払額を別紙で示す。

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勤務条件付き奨学金・従業員の学費は非課税か―返還免除,通常給与への加算及び源泉徴収の確認(AI作成)

目次

第1 学資金の使途と非課税の条件を分ける第2 通常の給与を学資金へ付け替えない第3 貸与・返済免除・返済支援は別々に確認する1 使用者が貸与した奨学金の免除2 他の団体の奨学金返済を支援する場合第4 貸与者・雇用者・免除時点を記録する第5 制度設計と免除決定で残す資料第6 過大な源泉徴収をしていた場合第7 資料の位置付け

奨学金を一定期間の勤務によって免除する制度では,「勤務の対価だから必ず課税」「授業料だから必ず非課税」のいずれも判断の出発点として十分ではない。会社・病院の人事,経理,法務と税理士が確認すべき条件を,令和8年10月10日に確認した法令及び国税庁資料に基づいて整理する。

第1 学資金の使途と非課税の条件を分ける

所得税法9条1項15号は,「学資に充てるため給付される金品」を非課税所得としつつ,給与その他対価の性質を有する給付について複雑な除外と例外を置いている。支出の名称だけでなく,誰が,誰の学資のために,どの関係に基づいて給付するのかを確定する必要がある。

給与所得者が使用者から受ける場合には,通常の給与への加算か,役員又は一定の親族等の学資かを順に確認する。勤務条件が付いていることだけで,この例外の検討を終えてはならない。

第2 通常の給与を学資金へ付け替えない

国税庁No.2588及び所得税基本通達9-14は,通常の給与へ上乗せして支給する学資金と,本来支払う給与を減らして学資金という名目へ置き換える給付を区別している。後者は非課税にならない。

制度導入前後の給与規程,雇用契約,給与明細及び賞与算定を照合し,学費支援のために通常給与を減額していないかを確認する。授業料の領収書があるだけでは,給与の付け替えを否定する証拠として十分ではない。

法人では,役員本人の学資や,役員・使用人と特別の関係にある者の学資が除外の問題となる。個人事業者についても別の除外がある。所得税法施行令29条と制度対象者の属性を照合する。No.2588には特別関係者自身も使用人で,その者だけを対象としない場合の取扱いがあるが,親族が従業員であれば無条件で非課税という意味ではない。

第3 貸与・返済免除・返済支援は別々に確認する
1 使用者が貸与した奨学金の免除

国税庁の従業員に貸与した奨学金の返済免除に関する質疑応答は,資格取得に必要な授業料等を会社が学校へ直接払い込み,一定期間の勤務によって返済を免除する制度を扱っている。役員を除く従業員を対象とし,給与を減額しないという事実関係の下で,免除益の非課税を認めている。

現金を新たに手渡す場合だけが学資金となるわけではない。学資に使われた貸与金の返済免除も検討対象となる。ただし,生活費や他の借入れの返済等が混在する制度へ,この結論をそのまま移すことはできない。

2 他の団体の奨学金返済を支援する場合

奨学金返済に充てる給付に関する国税庁の質疑応答は,学資に使われた奨学金について,県が貸与財団へ直接送金し,債務残高を超えない支援を扱っている。資金の使途と返済への充当が確保された事例として読むべきであり,本人に自由に使える現金を支給する全制度の非課税を保証する資料ではない。

制度の名称よりも,元の借入れが何に使われ,誰へ送金され,残高と照合できるかが重要である。県の制度,会社の福利厚生,採用時の一時金を同じ給付として処理しない。

第4 貸与者・雇用者・免除時点を記録する

学生時代の貸与,入社,資格取得,勤務期間の満了及び免除決定を,一つの時系列へ記録する。貸与した者と雇用した者が同じか,免除時に誰の給与所得者であるかも確認する。給与その他対価の性質の有無と,使用者からの学資金についての非課税条件を別々に検討するためである。

県が複数の医療機関での勤務を条件とする制度については,名古屋国税局の文書回答資料に,貸与した県自身の下での勤務を条件としない点などが説明されている。この資料の別紙には照会者の見解も含まれるため,病院が自ら貸与する制度と事実関係を比較して用いる。

貸与時の雇用関係だけ,又は免除時の勤務条件だけを一つ抜き出して判断せず,適用年分の条文と実際の契約を組み合わせる必要がある。

第5 制度設計と免除決定で残す資料

人事は,対象資格・学校・対象者,給与との関係及び勤務条件を規程と個別契約へ記録する。経理は,学校への送金,領収書,貸与元帳,返済残高,免除額及び給与台帳を対応させる。法務と税理士は,給付の性質,対象者の属性,免除時の事情及び非課税判断の根拠を確認する。

免除を決定する前に,①学資への実際の使用,②通常給与への加算,③役員・親族等の除外,④貸与者と雇用者の関係,⑤免除の効力発生日と額を確認する運用が有用である。これは本記事の運用提案であり,国税庁が一律に指定した社内手続ではない。

退職時の返還条項,賃金からの控除及び労働契約上の有効性は,税務上の非課税とは別に検討する。税務署が非課税の取扱いを示しても,契約全体の有効性まで認めたことにはならない。

第6 過大な源泉徴収をしていた場合

非課税の給付から誤って税額を控除した場合は,支払者と受給者との精算,支払者から国への誤納額還付,受給者本人の年分の所得税を分ける。詳しくは源泉所得税に関するメモ書きを参照されたい。

給与所得の非課税判断と民事上の請求先を検討する例として,令和6年司法試験租税法第2問の模範解答と評価項目がある。同記事は試験指定の当時法を扱い,本記事は現在の制度設計・事実確認を扱う。

第7 資料の位置付け

法令の根拠は所得税法9条1項15号及び施行令29条,行政解釈は所得税基本通達9-14・9-15と上記国税庁資料である。No.2588の表示基準日は令和8年4月1日,2件の質疑応答の表示基準日は令和7年8月1日である。照会事例の事実条件を外した一般化は避け,対象年分・契約・使途・対象者に変更があれば改めて判断する。

海外取引の未回収代金―準拠法・時効・仲裁と貸倒処理を分けて確認する(AI作成)

目次

第1 対象と最初に確認すること第2 契約の準拠法と請求期限1 三つの条項を別々に読む2 物品売買ではCISGも確認する3 日本の時効ルールをそのまま当てはめない4 相殺・債権譲渡と請求相手を確認する第3 日本で訴えられるかと,回収できるか第4 仲裁合意と外国での期限保全1 仲裁条項と請求相手を確認する2 外国仲裁地に日本の仲裁法29条を直接適用しない第5 法人税の貸倒損失は別に判定する1 三つの類型と必要な事実2 期間経過や仲裁条項だけで貸倒れとしない3 相殺・譲渡・供託後の残高を確認する第6 輸出取引の消費税と専門家への資料共有1 輸出免税取引は貸倒れ控除の対象外2 期限と回収見通しを経理にも共有する第7 関連記事第8 根拠資料
第1 対象と最初に確認すること

本記事は,海外の取引先から売掛金等を回収できない日本の法人について,法務担当者・経理担当者が弁護士及び税理士と検討する際の確認事項を整理するものである。外国法の具体的な時効期間や,個別債権の損金算入可否を一律に示すものではない。法令等の確認日は令和8年10月10日である。

最初に,①どの国の法により,いつまでに,どこへ請求するか,②相手の資産や担保から回収できるか,③日本の法人税・消費税でどの時期にどう処理するかを分ける。決算処理の検討中にも請求期限は進むため,期限の確認と保全を先行させ,回収調査と税務検討を並行して進める。

第2 契約の準拠法と請求期限
1 三つの条項を別々に読む

契約書では,主契約に適用する法の条項,紛争を裁判と仲裁のどちらで解決するかを定める条項,及び仲裁合意自体の準拠法を確認する。「日本法を適用する」と書いてあることから,日本の裁判所に訴えられると結論付けてはならない。

日本の裁判所で契約の準拠法を判断する場合,法の適用に関する通則法7条は当事者の選択を出発点とする。選択がない場合には,同法8条により最も密接な関係のある地の法を検討し,特徴的な給付をする当事者の常居所地法等についての推定も確認する。外国の裁判所で同じ判断方法が採用されるとは限らない。

契約書だけでなく,発注書,承諾メール,約款の版,変更合意,請求書,納品・検収記録も揃える。契約が成立した日,支払期日,分割払い,期限延長の合意,最後の支払い及び債務の承認を時系列にする。

署名した契約書がないときは,合意の成立と契約の方式を分けて確認する。
日本の裁判所では通則法10条により,成立準拠法に加えて,隔地間の契約については申込み又は承諾の通知を発した地の法に適合する方式も検討する。
CISGが適用される売買では,11条の書面不要原則と12条・96条の宣言も確認し,法選択の条項だけで方式上の有効性を決めない。

2 物品売買ではCISGも確認する

国際的な物品売買では,国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)の適用も確認する。異なる締約国に営業所を置く当事者間の売買などが対象となり,条約には適用除外や当事者による排除の規定がある(1条~6条)。主契約の準拠法を日本法としただけで,当然に条約を排除したと扱わない。

売買に適用されるルールを確かめることと,債権の消滅時効を判断することは区別する。国際売買だからといって,すべての争点をCISGだけで解決できるわけではない。

品質不良を理由に海外の買主が支払を拒んでいる場合は,単なる未回収と,代金減額・解除・損害賠償の主張がある場合を分ける。
CISGが適用される売買では,品質・見本の合意(35条)に加え,検査・不適合通知(38条・39条),損害賠償及び損害軽減(74条~77条)を確認する。
検査資料,通知の内容・時期,修補等の提案及び残代金の計算を揃え,債権額が争われていることだけで貸倒損失と扱わない。
国際売買の品質トラブルとウィーン売買条約―準拠法,見本,検査・通知と損害賠償(AI作成)

3 日本の時効ルールをそのまま当てはめない

契約上の債権の消滅時効は,その債権に適用される法を踏まえて検討する。日本民法の期間,催告,承認,訴え提起の効果を,外国法が適用される債権にそのまま当てはめない。期間の起算点,時効と権利失効の区別,援用の要否,請求の通知方法,どの手続が期限を保全するかを確認する。

外国の弁護士には,「時効は何年か」だけでなく,資料に基づく最も早い期限と,その期限までに完了すべき手続を確認する。日本で内容証明郵便を発送したことや,日本で訴えを提起したことが,外国法上の期限保全にも有効であるとは限らない。

4 相殺・債権譲渡と請求相手を確認する

相手方が相殺を主張したり,売掛金を譲渡・担保化したりしたときは,元の売買契約,反対債権,譲渡・担保契約及び第三者との関係を分ける。
通常の債権譲渡の債務者その他の第三者に対する効力は,日本の裁判所では通則法23条により,被譲渡債権について適用すべき法による。
譲渡・担保契約の選択法を,債務者や競合する権利者との関係にも当然に適用しない。

弁済日,譲渡日,通知・承諾及び到達日を分け,現在の請求権者と債権の残高を確かめる。
日本法が適用される場合は,民法467条~469条の対抗要件・債務者の抗弁・相殺権を確認する。
国際取引の法定相殺については,自働・受働両債権と相殺に適用する法を分け,単に帳簿で差し引いたことをもって相殺成立と扱わない。

第3 日本で訴えられるかと,回収できるか

(続きを読む...)海外取引の未回収代金―準拠法・時効・仲裁と貸倒処理を分けて確認する(AI作成)

入札しない卸業者も談合の当事者になるか―商流・情報調整,課徴金及び法人税務(AI作成)

目次

第1 入札資格ではなく,合意と実際の商流を調べる1 直接の入札者だけが問題になるわけではない2 本町化学工業事件の東京高裁判決3 販売業者の責任も別に判断する第2 課徴金は利益ではなく,法定の算定基礎から計算する1 卸売差益と売上額を取り違えない2 旧法の卸売業の率を流用しない3 主導的役割の要件を事実と対応させる第3 離脱の意思と,調整が止まった事実を残す第4 法人税務では課徴金と損害賠償金を分ける1 課徴金と延滞金は損金不算入2 損害賠償金は計上年度も確認する第5 関連記事第6 出典と基準時

入札資格がなく,自社で入札していない卸業者でも,供給予定者や価格を調整し,必ず自社を通して商品を販売する取決めに参加していれば,入札談合の当事者として責任を問われ得る。卸売差益が小さいことは,課徴金を差益だけで計算できる理由にはならない。本記事は,会社の法務・営業・経理担当者と,その会社を支援する弁護士・税理士が確認する事項を整理する。

第1 入札資格ではなく,合意と実際の商流を調べる
1 直接の入札者だけが問題になるわけではない

独占禁止法2条6項の不当な取引制限は,事業者が共同して相互の事業活動を拘束し,公共の利益に反して一定の取引分野の競争を実質的に制限することをいう。同法3条はこれを禁止している。契約書への署名や,競争者同士の直接の会合だけで判断するものではない。第三者を通じた意思の連絡や,供給予定者を決めて他社が協力する仕組みも検討対象になる。

卸業者については,情報を誰から集め,誰へ伝え,受注希望の重複を誰が調整したかを調べる。さらに,メーカーが落札業者へ直接販売できたのか,必ず卸業者を経由する取決めがあったのか,卸業者自身がどの販売条件に従っていたかを確認する。売上げや利益を得たという事実だけで,共同の合意への参加を認定することはできない。

通常の仕入れ,価格改定通知の受領,又は公取委への資料提供だけで,卸業者が合意の参加者になるものではない。受注希望や価格方針を他社へ伝え,共通方針の了解を取り付け,又は商流の調整に従ったかを,役割ごとに確認する。本記事の判決は活性炭の供給調整に関するものであり,別の価格カルテル疑惑における卸業者の関与を認定する資料ではない。

2 本町化学工業事件の東京高裁判決

東京高裁令和6年10月16日判決(令和4年(行コ)第283号)は,活性炭の供給調整に関する卸業者の控訴を棄却した。判決は,受注者の決定と卸業者を経由する商流の取決めを含めて検討し,その卸業者が基本合意の対象となる取引の一部を自ら行っていたことを重視している(第3の2(1)~(5))。

この事件では,メーカーが受注者へ直接供給するか,卸業者を介して供給するかという選択も制限されていた。判決は,受注者へ供給する取引段階では卸業者とメーカーの競争関係を認めている。したがって,「入札者でない」「メーカーと同業でない」という説明だけでは足りず,どの取引段階の競争が制限されたかを調べる必要がある。

また,メーカーの供給力が強くても,卸業者が情報を一元管理し,希望の集約,予定者の提案・調整,了解の取得等を行った事情から,単なる連絡役やメーカーの手足との主張は退けられた。あらゆる仲介・取次行為を違法とする判決ではない。合意の内容と各社の関与を個別に確認することが必要である。

3 販売業者の責任も別に判断する

販売業者についても,入札名義と法人格だけで共同の合意への参加を決めない。独立して顧客や価格を決めていたのか,調整の内容を認識して他社との歩調を合わせたのか,単に指定価格を提出して一定率の手数料を受けていたのかを区別する。「指示に従った」という説明も,当然の免責理由にはならない。メール,価格承認の履歴,取引契約,請求書を照合することが有用である。

調査表では,合意内容をどこまで認識していたかと,誰を経由して情報が伝わったかを別の欄にする。
直接連絡した相手の数だけで終えず,共通の受注調整を認識してこれに応じたか,指定価格の提出や辞退によって自社の競争行動が制約されたかを確かめる。
受注希望や落札実績がないことも,それだけで合意への参加を否定する理由にはならない。

第2 課徴金は利益ではなく,法定の算定基礎から計算する
1 卸売差益と売上額を取り違えない

対価に係る入札談合等は,独占禁止法7条の2の課徴金対象となる。基本となるのは,対象商品・役務について法令に従って算定する実行期間の売上額又は購入額等である。粗利益や営業利益に率を掛ける制度ではない。密接関連業務の対価や,供給しないこと等に関して得た財産上の利益が問題になる場合もある。

例えば,課徴金の算定対象となる卸業者自身の売上額が10億円で,基本率10%,主導的役割による割増のみが適用され,減免等がないという前提なら,10億円×10%×1.5=1億5000万円となる。売上額の対象範囲,控除,期間,適用率は先に確定する必要があり,企業の総売上げに機械的に掛けるものではない。

2 旧法の卸売業の率を流用しない

公正取引委員会の課徴金制度の説明では,不当な取引制限の算定率は10%,違反事業者及びグループ会社が全て中小企業に当たる場合は4%とされている。卸売業という業種だけで,旧制度の低い算定率を当てはめない。古い事件には経過措置が関係するため,行為期間と適用法を確認する。

同説明では,繰返し又は主導的役割の場合はそれぞれ1.5倍,両方がある場合は2倍とされている。二つの1.5を掛けて2.25倍とするものではない。

3 主導的役割の要件を事実と対応させる

現行の独占禁止法7条の3第2項は,他社の求めに応じた継続的な価格・取引相手等の指定(2号)と,違反行為を容易にする重要な行為の類型(3号)等を定めている。3号ロは,自己の取引だけの指定を除き,他社の違反行為の実行としての事業活動について指定する行為を扱う。調整役という肩書だけで割増を決めず,指定の対象,継続性,情報の集中,調整の内容を条文に沿って検討する。

前記高裁判決の割増の判断は,旧法7条の2第8項2号に関するものである(第3の2(6))。旧条文の番号や課徴金率を現行案件へそのまま置き換えることはできない。

第3 離脱の意思と,調整が止まった事実を残す

違反の成立時期と,その後に離脱したかという問題を分ける。
落札者・落札価格を左右できる状態をもたらす基本合意であれば,個別工事を受注していなくても,不当な取引制限が成立し得る。
落札結果が出るまで合意への対応を待ってよいということにはならない。

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特許ライセンスの数量超過が判明したとき―許諾範囲,消尽,追加実施料及び和解金の消費税(AI作成)

目次

第1 数量超過で最初に確認すること第2 許諾範囲・支払義務・契約終了を分ける第3 転売先と消尽をどう検討するか第4 数量を把握し,出荷判断を記録する第5 超過分を精算するときの合意事項第6 実施料・侵害賠償・和解金と消費税第7 弁護士と税理士が共有する資料第8 関連記事第9 出典・適用範囲
第1 数量超過で最初に確認すること

「年1,000個まで」の特許ライセンスについて,1,100個の販売が判明した場合を考える。これは説明用の例であり,法定の数量基準ではない。超過分の実施料を支払えば販売を続けられるのか,転売先の販売まで差止めの対象になるのか,精算金に消費税を含めるのかは,それぞれ別に確認する必要がある。

まず契約原文・変更合意・数量記録を集め,対象製品と期間を特定する。許諾範囲が不明なまま追加出荷を決めず,法務,事業部,経理で暫定方針と決裁者を定める。以下の管理方法は実務上の提案であり,すべての契約に同じ法定手続があるという意味ではない。

第2 許諾範囲・支払義務・契約終了を分ける

特許法78条2項は,通常実施権者の実施を,法律の規定又は設定行為で定めた範囲内で認める。契約では,対象特許,製品,生産・使用・譲渡等の行為,地域,期間,当事者と再許諾の可否を確認する。

数量条項が,許諾する実施の範囲を画する条項なのか,販売報告・実施料計算・最低保証等の債務を定める条項なのかを読む。見出しだけでなく,超過時の追加許諾,料金変更,出荷停止,解除等の条項と交渉経緯も対応させる。「数量違反なら必ず侵害」「契約違反だから特許侵害にはならない」のいずれも,一律の結論にはできない。

実施料の不払いについても,支払債務の不履行と許諾の存否を分ける。催告,解除の要件,通知の到達及び効力発生日を確認し,支払期日の翌日から全製品が当然に無許諾になると扱わない。解除前に適法に流通へ置かれた製品と,終了後に新たに生産・販売する製品も区別する。

第3 転売先と消尽をどう検討するか

最高裁平成9年7月1日判決(BBS事件)は,特許権者又は許諾を受けた実施権者による国内譲渡と,その製品のその後の使用・譲渡等に関する消尽を示している。流通の自由と,特許権者に対価を確保する機会があることが理由である。ただし,同判決は,数量制限を超えたライセンシーの販売を直接判断した事件ではない。

数量制限に関する紛争では,最初の譲渡が許諾された範囲内か,数量条項を特許権に基づく制限として扱うべきかを検討する。転売先が契約を知らなかったことだけで,差止めを当然に排除できるとは考えない。他方,実施料が実際に未回収であることだけを理由に,既に適法に譲渡された製品の消尽を否定するのも適切ではない。

製造番号,ロット,出荷日,販売先及び返品を照合し,争われる超過分と通常の許諾品を識別する。買主への説明・返金・補償の契約問題は,特許権の効力とは別に検討する。国外で最初に販売された製品にはBBS事件の別の判断枠組みがあるため,国内の数量管理だけで輸入の可否を決めない。

第4 数量を把握し,出荷判断を記録する

締結時に数量の数え方を決める。生産数,出荷数,売上計上数又は販売数のどれか,対象年度の開始日,関連会社・委託工場の数量,無償サンプル,不良品,返品及び再販売を含むかを明記する。同じ1個を二重計上しない仕組みと,報告資料の原本への参照を用意する。

事業部・製造部は,製造番号又はロットと月別数量,出荷予定,返品記録を集計する。契約担当は,上限に近づく前の警告値と報告日を決め,追加許諾の承認者・代替担当を登録する。法務は,契約の版,超過の原因,許諾の解釈,停止・条件変更・追加許諾の選択肢を整理する。経理は,販売報告と請求済み実施料を照合し,未払額と超過分の候補額を分ける。決裁者は,追加出荷の条件,権利者への申入れ担当及び次の確認期限を記録する。

超過発覚後は原データと変更履歴を保全し,数字だけを帳尻合わせしない。停止範囲は契約・特許・製品ごとに判断し,会社全体の販売を当然に止めるという運用にしない。

第5 超過分を精算するときの合意事項

精算の合意では,対象特許・請求項,製品,期間,数量及び金額計算を別紙で対応させる。過去の超過分についての紛争解決,今後の追加許諾,既存在庫の販売猶予,取引先に流通した製品の扱いを区別する。

追加金の支払だけで,過去の侵害主張の放棄,将来の販売許諾及び第三者の販売保護まで合意したことにはならない。合意書には,誰のどの行為について請求を清算するか,権利者が第三者に対してどう対応するか,効力発生日,未払実施料,報告・監査と終了後義務を具体化する。

例えば「対象期間に販売した別紙記載の超過製品について追加実施を許諾する」案と,「侵害の有無について双方の主張を維持しつつ,特定の請求を金銭で解決する」案は,同じものではない。目的に合わせて合意内容を選び,過去の帳票や契約の日付を事実と異なる日に書き換えない。

第6 実施料・侵害賠償・和解金と消費税

ここでは,日本国内の事業者間で,日本の特許の実施許諾又はその紛争を精算する通常の取引を想定する。消費税法2条2項は,資産の貸付けに「資産に係る権利の設定」を含める。消費税法基本通達5-4-1も,特許権等に係る実施権・使用権の設定を例示する。国内の事業として対価を得て行う実施許諾は,原則として消費税の課税取引として検討する(同法2条・4条)。

さらに,消費税法基本通達5-2-5は,実質が対価となる損害賠償金の例として「無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財産権の権利者が収受する損害賠償金」を挙げる。国税庁No.6257も特許権等の侵害賠償を課税対象の例として説明している。したがって,特許侵害に係る支払を単に「損害賠償金」「解決金」と記載して,消費税の対象外と処理することはできない。

和解案では,未払実施料,追加許諾の対価,過去の侵害に係る賠償,独立した他の損害及び費用を,実際の合意と計算根拠に沿って分ける。どの項目が何の対価かを確認し,混合する和解金を全額一括で課税又は不課税と決めない。当事者が内訳に名称を付けるだけで税務当局の判断を拘束できるわけでもない。

合意前に,税込・税別,消費税相当額の負担,支払総額,請求書等の交付担当・期限を税理士と確認する。受領者の納税義務・登録と,支払者の仕入税額控除の要件は別問題であり,登録番号の記載だけで控除可能額を決めない。国外の権利・非居住者・外国法人を含む場合は,国内外判定,源泉徴収及び租税条約を追加検討する必要があり,本節の結論をそのまま当てはめない。

民事上の損害額の計算と,受領する金銭の消費税上の区分とは,別に検討する必要がある。
例えば,特許法102条2項による利益額の算定・推定覆滅の問題を検討しただけでは,和解金等が消費税の課税対象となるかは決まらない。
国税庁の消費税法基本通達5-2-5及びタックスアンサーNo.6257は,損害賠償金の実質に応じた課税関係を示す資料であり,これらを根拠として民事上認められる賠償額に税率相当額を当然に上乗せできるわけではない。
和解条項では,各金員の対象と対価性を確かめ,支払総額が税込みの合意額なのか,別途消費税等相当額を加える合意なのかを明示し,二重に加算しないようにする。
根拠:国税庁No.6257「損害賠償金」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6257.htm),消費税法基本通達5-2-5(https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shohi/05/02.htm)。

第7 弁護士と税理士が共有する資料

弁護士は,特許の対象・許諾範囲,契約違反と侵害の主張,解除・変更の効力,清算する請求及び第三者の扱いを整理する。税理士は,その事実関係と実際の支払内容を踏まえ,消費税区分,所得税・法人税の計上時期,支払側の費用処理及び必要な証憑を検討する。消費税の課税取引であることだけで,支払側の法人税上の即時損金算入まで決まるものではない。

原契約,別紙,変更合意,交渉記録,解除・催告通知と到達記録対象特許・請求項,実施の地域・期間・当事者と権利者数量の原データ,製造番号・ロット,出荷・返品・在庫と転売先の記録請求済み実施料,入出金,元の税区分・仕訳及び申告済み期間和解案の支払内訳,算定表,追加許諾の内容と効力発生日税込・税別の合意,請求書等の交付,計算・説明・再確認の担当と期限

税務の確認を支払後まで延期せず,双方が合意する前に同じ資料で判断する。紛争の解決,許諾の確保及び税引後の資金負担を,一枚の精算メモで説明できる状態にすることが有用である。

第8 関連記事

修理・再生品は特許権侵害になるか―消尽,新たな生産,交換部品及び間接侵害(AI作成)

示談金・解決金・和解金に税金はかかるか―名目ではなく補填対象・所得区分・権利確定時期で判断する(AI作成)

令和6年度司法試験知的財産法第1問の模範解答と評価項目(AI作成)(数量制限と消尽を扱う試験問題。試験上の評価と個別契約の実務判断は区別する。)

第9 出典・適用範囲

法令・行政資料は令和8年10月10日に確認した。国税庁No.6257の本文表示は令和8年4月1日現在法令等である。以下の判決は消尽の一般的な根拠として参照し,数量超過のすべての場合の結論を示す先例とは扱っていない。契約文言,許諾経緯,製品の流通及び支払内容によって個別の結論は変わる。

①特許法68条,78条,100条
②最高裁第三小法廷平成9年7月1日判決(平成7年(オ)第1988号,民集51巻6号2299頁。国内譲渡の理由は4~5頁)
③消費税法2条・4条
④消費税法基本通達5-4-1(実施権等の設定)
⑤消費税法基本通達5-2-5(損害賠償金)
⑥国税庁No.6257「損害賠償金」

建物・展示美術の写真を広告や商品に使えるか―著作権法46条と写り込みの判断(AI作成)

目次

第1 公開前に分ける四つの対象1 建物の所有権と著作権は別の権利である2 写真に入る作品と写真自体も確認する第2 建物写真の商用利用と46条1 建築の著作物は屋外展示の条件と区別する2 建築による複製は別である3 著作者人格権と施設側の条件は残る第3 屋外と屋内の美術作品を分ける1 屋外に恒常設置された美術作品2 屋内展示が外から見える場合第4 写り込みは割合だけで判断しない1 付随性,軽微性及び正当な範囲を順に検討する2 営利目的や分離可能性だけで排除しない3 印刷・販売・切抜き後の利用も確認する第5 法務担当者が公開前に行う確認1 撮影担当と広告担当で判断資料を共有する2 所有物の売買と著作権取引を混ぜない3 異議が出たら作品と行為ごとに整理する第6 出典と関連記事1 確認した一次資料2 具体的な事例と関連する解説

建物の外観を撮影して広告や商品に使う場合,建物の所有者から許可を得れば著作権もすべて処理できるとは限らない。建築の著作物,背景の絵画・彫刻,写真自体の著作権及び撮影場所の利用条件を分けて確認する必要がある。

第1 公開前に分ける四つの対象
1 建物の所有権と著作権は別の権利である

著作権法2条1項1号は思想又は感情の創作的な表現を著作物とし,10条1項5号は建築の著作物を例示する。すべての建物が当然に著作物となるわけではないが,著作物として保護される建物では,建物の所有者と設計者等の著作権者が異なることがある。所有者の撮影承諾と,著作権法上の利用の可否を一つの判断にまとめない。

2 写真に入る作品と写真自体も確認する

同じ一枚の写真でも,建物,壁画・彫刻,屋内に展示された絵画及び撮影者が創作した写真は,別々の著作物となり得る。写真を自分で撮った場合と,他人が撮影した写真を購入・転載する場合も異なる。建物の利用が46条により許されても,他人の写真の著作権まで処理されるわけではない。

対象主な確認保存する資料建築の著作物46条の利用と各号の例外建物・設計の特定,利用方法絵画・彫刻等屋外設置の条件,46条,30条の2展示場所,撮影範囲,完成画像写真自体撮影者の権利,利用許諾撮影委託・素材サイトの条件撮影場所入場・撮影・商用利用の条件掲示,利用規約,管理者の承諾
第2 建物写真の商用利用と46条
1 建築の著作物は屋外展示の条件と区別する

著作権法46条は,一定の屋外の場所に原作品が恒常的に設置された美術の著作物と,建築の著作物について,列挙された例外を除き利用を認める。屋外に恒常的に設置されているという条件を,建築の著作物にも一律に課す読み方はしない。

建築の著作物を撮影し,写真を広告やウェブサイトに掲載し,絵はがきとして印刷・販売することは,46条による利用を検討できる。4号の「専ら美術の著作物の複製物の販売」を目的とする場合の除外を,建物写真の商品販売へそのまま広げない。

2 建築による複製は別である

46条2号は,建築の著作物を建築によって複製し,その複製物を公衆へ譲渡する場合を自由利用から除く。建物写真を掲載できることから,他人の建物の創作的な形状を新築や部分改築で再現してよいとはいえない。写真利用と建築行為を分けて判断する。

3 著作者人格権と施設側の条件は残る

著作権の制限規定は著作者人格権に影響を及ぼさない(50条)。作品の同一性を害する改変や氏名表示の問題は,財産権の利用許容と別に検討する。写真の編集がすべて侵害になるという意味ではなく,改変の内容,著作者の意,該当する例外等を具体的に確認する。

また,46条は私有地への立入りや撮影禁止の条件を当然に解除する規定ではない。施設内で撮影する場合は,入場時の条件と商用利用の承諾範囲を確認する。建物を実際に増築・改築・修繕・模様替えする場合の20条2項2号については,著作権全部譲渡後の改変と著作者人格権も参照されたい。

第3 屋外と屋内の美術作品を分ける
1 屋外に恒常設置された美術作品

46条の対象となる美術作品には,原作品が街路・公園等の一般公衆に開放された屋外の場所,又は建造物の外壁等の一般公衆の見やすい屋外の場所に恒常的に設置されているという条件がある。屋外の一時的な展示を当然に同じものと扱わない。

対象となっても,彫刻の増製,所定の屋外の場所への恒常設置を目的とする複製,専ら美術作品の複製物の販売を目的とする複製・販売等は,各号により除外される。美術作品を主要な商品価値としてポスターや絵はがきにする場合には,建物写真の場合と同じ結論を使い回さない。

2 屋内展示が外から見える場合

屋内の絵画については,入口が開いていて外から見えるという事情だけで,46条が明記する屋外への恒常設置の条件を満たすと即断しない。設置位置,展示態様及び利用方法を確認し,46条の該当性,写り込み又は許諾を個別に検討する。

絵画の原作品を所有する者等が原作品を公に展示できる45条1項と,その絵画を撮影して広告や商品に利用できることも別である。絵画の購入代金を支払った事実だけでは,著作権の譲渡や写真利用の許諾まで確認したことにならない。

第4 写り込みは割合だけで判断しない
1 付随性,軽微性及び正当な範囲を順に検討する

著作権法30条の2第1項は,撮影等の対象に付随する著作物の利用について,写真等に占める割合,再製の精度等に照らした軽微性,利益を得る目的の有無,分離の困難性の程度及び作品が果たす役割等に照らした正当な範囲を求める。さらに,著作権者の利益を不当に害する利用は除かれる。

画面の小さな部分であるという一点だけでは判断できない。広告の構図,画質,作品が訴求の中心となっているか,鑑賞用の複製物の代わりになるか等も確認する。「何%以下なら許可不要」という一律の数値基準は本条にない。

2 営利目的や分離可能性だけで排除しない

広告や商品販売という営利目的があっても,直ちに30条の2の対象外とはならない。利益を得る目的の有無は,正当な範囲を判断する考慮要素である。また,現行法では,分離が不可能であることを独立した必須要件とはしていない。文化庁の令和2年改正の説明は,分離が困難でないものも対象とする一方,付随性・軽微性を維持し,濫用や権利者の市場を害する利用を防ぐ趣旨を示している。

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M&A後に経営者保証が解除されないとき―銀行からの請求,買主への補償請求と買戻し(AI作成)

目次

第1 売却後も保証が残っているときの初動1 まず現在の状態を三つに分ける2 この記事が依拠する資料第2 手元の資料を揃える1 保証契約と借入れの資料2 株式譲渡契約と解除の約束3 やり取りの記録第3 金融機関との関係と買主との約束を分ける1 買主の約束は金融機関を拘束しない2 旧経営者から金融機関へ解除を申し入れる第4 買主に具体的な実施と報告を求める1 契約上の義務を特定して書面で求める2 金融機関の判断が必要な義務と,買主が自らできる義務3 損害賠償・補償と責任の制限第5 契約の解除・株式の買戻しを検討する1 条項の有無と期限の管理2 解除と買戻しでは精算が異なる3 株式が戻っても会社が元に戻るとは限らない第6 保証債務を支払う前後の注意1 支払う前:会社への通知と事前の求償2 支払った後:会社への求償と買主への補償請求3 会社が支払えなくなったとき第7 相談の準備と急ぐべき場面1 急ぐべき場面2 相談時に持参する資料第8 よくある質問1 買主が保証を外すと約束したのに,金融機関から請求されるのか2 金融機関に直接,保証を外してほしいと頼めるか3 保証債務を支払ったら,誰に返してもらえるか4 仲介会社に解決を任せられるか第9 出典と関連記事
第1 売却後も保証が残っているときの初動
1 まず現在の状態を三つに分ける

株式を売却して代表取締役を退任した後も,会社の借入金について旧経営者の個人保証が残っていることがある。
この場合,誰に何を求めるかは,金融機関からの請求の有無と,既に支払ったかどうかで大きく変わる。
次の表で自分の状態を確認し,該当する節を先に読んでほしい。

現在の状態まず行うこと①保証は残っているが,請求はない金融機関に保証の解除を申し入れ,借入れの返済状況を確認する(第3)。買主には,契約で約束された解除の実施と報告を書面で求める(第4)。解除の約束の期限と,解除・買戻しの権利行使期間を管理する(第5)。②金融機関から請求・通知が来た請求の根拠,金額及び支払期限を確認し,支払う前に会社へ通知する(第6・1)。買主には借換え・一括弁済等の実施と補償を求め,会社に対する事前の求償も検討する(第4・第6)。③既に保証債務を支払った支払の証明書類を受け取り,金融機関の担保等を引き継げるかを確認する。会社への求償と,買主への契約上の補償請求を分けて進め,契約上の請求期限と消滅時効を管理する(第6・2)。

本記事は,株式譲渡で会社を売却した旧経営者が,売却後に保証の解除を受けられていない場面を対象とする。
売却前の予防,すなわち金融機関との事前相談,クロージング(株式の移転や代金の支払等の取引の実行)の条件及び契約書例の読み方は,中小M&Aで経営者保証を残さないためにで扱っている。

2 この記事が依拠する資料

本記事は,中小企業庁の中小M&A時の経営者保証の取扱いについて(中小M&Aガイドライン参考資料13。以下「保証資料」という。),各種契約書等サンプル(令和7年12月15日時点版)のうち株式譲渡契約書サンプル(以下「契約書サンプル」という。頁は同サンプル集の通し頁),全国銀行協会が公表する経営者保証に関するガイドライン及び事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則(以下「特則」という。)並びに民法の条文に基づいて説明する。
契約書サンプルは行政が示す規定例であり,実際の株式譲渡契約に同じ条項があるとは限らない。
本記事は,個別の紛争について責任の有無を判断した裁判例を根拠にした説明をしていないので,具体的な結論は契約書と経緯に基づいて検討する必要がある。

第2 手元の資料を揃える
1 保証契約と借入れの資料

民法446条2項は,保証契約は書面でしなければ効力を生じないと定める。
まず保証契約書を探し,どの金融機関の,どの借入れについて,どの範囲で保証したのかを確定する。
連帯保証か,極度額(保証の上限額)のある根保証か,個人の不動産に担保を設定しているかも確認する。

あわせて,金銭消費貸借契約書,返済予定表,担保の登記事項及び信用保証協会の保証の有無を確認する。
信用保証協会の保証が付いた借入れでは,金融機関だけでなく信用保証協会の判断も関係する(保証資料2頁・8頁)。

手元に資料がなくても,借入れの状況を確認する方法がある。
民法458条の2は,主たる債務者の委託を受けて保証をした保証人が請求したときは,債権者は,主たる債務の元本・利息等についての不履行の有無,残額及び弁済期が到来しているものの額に関する情報を,遅滞なく提供しなければならないと定める。
会社の依頼で保証人となった旧経営者は,この規定に基づいて金融機関に情報の提供を求めることを検討できる。

2 株式譲渡契約と解除の約束

株式譲渡契約書は,署名した最終版と,その後の変更合意・覚書を揃える。
確認する条項は,保証解除の義務,その期限と報告の方法,補償,契約の解除・株式の買戻し,責任の上限・請求期限及び通知の方法である。

通知の方法は,後の権利行使の効力に直結する。
契約書サンプル第21条(通し頁28頁)は,通知を契約書記載の住所・所在地へ行い,延着又は未着の場合には通常到達すべき日に到達したものとみなす例を示している。
実際の契約で通知先,方法及び到達の扱いを確認し,内容証明郵便等,到達日を証明できる方法を選ぶ。

3 やり取りの記録

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投資詐欺・金銭不祥事の被害と税務―損失,返金・自主補償,利息及び貸倒れの区別(AI作成)

目次

第1 被害の損失と,回収した金銭を別々に判定する1 本記事の対象と結論2 まず資料から金額を分解する第2 詐欺被害は当然に雑損控除になるわけではない1 詐欺と盗難・横領の違い2 対象資産と補填額も確認する第3 貸付元本の回収不能と,未収利息を分ける1 個人の事業債権と雑所得の基因となる資産2 既に所得に計上した未収入金の回収不能第4 返金・賠償・自主補償の税務をどう分けるか1 元本返還と所得の取得は別である2 個人が受け取る損害補填3 約定利息・遅延損害金・費用補填第5 法人の損失,賠償債権及び貸倒れ第6 補償合意前と申告前に確認する順序1 弁護士と税理士で同じ内訳を使う2 確定と入金を区別する第7 消費税と所得税・法人税を分ける第8 根拠資料と適用上の限界
第1 被害の損失と,回収した金銭を別々に判定する
1 本記事の対象と結論

投資や金銭貸付けの勧誘を受けて送金し,元本が戻らなくなった場合に,損失を税務上控除できるか,後に受け取った返金・賠償・会社の自主補償をどう扱うかを整理する。
対象は主として日本の居住者個人と内国法人であり,法令の確認基準日は令和8年10月10日である。

「被害だから控除できる」「補償金だから非課税」「振込額が元本以下だから所得はない」という判断では足りない。
①誰の資金か,②何の取引か,③どの損失か,④何を補う入金か,⑤どの年分・事業年度かを分ける。
被害者個人の所得控除と,被害法人の損金算入も同じ制度ではない。

2 まず資料から金額を分解する

送金元本,返還された元本,運用益・利息として受け取った額,未回収残高,賠償・補償の認定額,遅延損害金及び費用補填を別欄にする。
契約書,勧誘文面,入出金明細,認定通知,補償合意書,金額計算書及び過年度の申告書をそろえる。

相手が「配当」と呼んだ金銭が,本当に投資収益なのか,元本の返還なのかを確認する。
返金の民事上の充当と税務上の所得区分についても,名目だけで決めない。

第2 詐欺被害は当然に雑損控除になるわけではない
1 詐欺と盗難・横領の違い

所得税法72条の雑損控除は,対象資産に災害,盗難又は横領による損失が生じた場合の制度である。
国税庁は詐欺による損失の質疑及びNo.1110で,詐欺・恐喝の損失は対象外と説明している。

捜査機関への相談や告訴をしたことだけで控除要件が満たされるわけではない。
他方,記事や会社発表で「詐取」「横領」等の言葉が使われているだけで個々の取引を分類せず,誰がどの権限で金銭を受領・保管し,どのように処分したかを確認する。

2 対象資産と補填額も確認する

盗難・横領であっても,資産の所有者,事業用資産等との区別及び補填額の確認が必要である。
雑損控除の計算では,保険金・損害賠償金等によって補填される部分を除く。
損失の全額控除と補填額を控除しない処理を重ねない。

この説明は損失の控除に関するものであり,受け取った補償金の課税・非課税を直接決めるものではない。

第3 貸付元本の回収不能と,未収利息を分ける
1 個人の事業債権と雑所得の基因となる資産

所得税法51条2項は,不動産所得・事業所得・山林所得を生ずべき事業の遂行上生じた貸付金等の貸倒れを扱う。
個人が私的に貸した金銭へ,事業の貸倒れの規律をそのまま移さない。

同条4項は,雑所得等を生ずべき業務の用に供され,又はその所得の基因となる資産の損失について,所定の除外と補填額を確認した上で,当該年分の該当所得の金額を限度とする必要経費算入を定める。
適用には,取引の実質,所得との関係,回収不能となった時期と根拠を確認する必要がある。

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保険営業担当者から私的な投資・金銭貸借を勧められたとき―会社の補償,損害賠償請求及び証拠保全(AI作成)

目次

第1 保険契約と私的な金銭取引を分けて相談する1 本記事の対象と結論2 最初に行うこと第2 誰に,どの根拠で請求するか1 担当者本人と金銭受領者2 会社の使用者責任と会社自身の過失3 保険業法283条との違い第3 私的貸借という形式だけでは決まらない裁判例1 契約者貸付を利用した保険外務員の借入れ2 この判決から確認すべき事情第4 自主補償の審査と裁判の責任判断を分ける1 会社の補償制度を調べる2 在職中と退職後の時系列3 審査,合意,入金を区別する第5 相談前に保全する証拠と金額1 会社との関係を示す資料2 送金と返金を一件ずつ対応させる3 会社の認識と監督対応を,勧誘・送金の前後で整理する第6 補償を待つ間の時効と,合意書への署名1 申告だけで時効対策が済んだと考えない2 提示された合意書で確認すること第7 行政処分と個別の返還請求を混同しない第8 根拠資料と本記事の範囲
第1 保険契約と私的な金銭取引を分けて相談する
1 本記事の対象と結論

保険の営業担当者から「特別な運用先がある」「知人の会社へ投資してほしい」「一時的にお金を貸してほしい」などと勧められ,送金した金銭が返ってこない場合を扱う。
保険料として支払ったのか,担当者への貸付けか,第三者への投資かで,返還を求める相手と法的根拠は異なる。

担当者が保険会社に在籍していたことだけで,会社が当然に全額を賠償するとは限らない。
他方,会社が「保険業務と関係のない取引」と説明したことだけで,会社への請求が否定されるわけでもない。
会社の自主補償,担当者・金銭受領者への請求,会社の民事責任を分けて検討することが出発点である。

本記事は令和8年10月10日現在の法令と公表資料に基づく。
以下のプルデンシャル・グループの制度は,その会社の公表方針を紹介するものであり,すべての保険会社に同じ補償義務があるという意味ではない。

2 最初に行うこと

追加の投資,借換え又は「返金に必要」とされる税金・保証金の送金をいったん止め,送金先,日時,金額及び相手の説明を保存する。
詐欺が疑われる振込みは,会社の審査を待たず,金融機関と警察へ速やかに相談する。
銀行対応は詐欺で送金してしまった直後の対応を参照されたい。

会社への連絡先は,担当者が送ったリンクだけに頼らず,公式サイトや保険証券から確認する。
申告した日時,受付番号,窓口,提出資料,回答及び次の期限を残す。

第2 誰に,どの根拠で請求するか
1 担当者本人と金銭受領者

担当者が借主であれば貸金返還請求,投資先等が返還を約束していれば契約上の請求,欺罔行為があれば民法709条の不法行為責任等を検討する。
実際の送金先が第三者である場合は,担当者の勧誘,受領者の行為及び返還約束の関係を分ける。
紹介者であることだけで,受領金全額の返還義務が生じるわけではない。

複数人が関与した場合は,民法719条の共同不法行為等の要件を個別に検討する。
相手の肩書や刑事相談の有無だけで,契約違反,詐欺及び共同不法行為を一括して認定しない。

2 会社の使用者責任と会社自身の過失

民法715条は,使用関係のある被用者が「その事業の執行について」第三者に加えた損害について使用者の責任を定める。
担当者の不法行為,使用関係,事業執行との関係,損害及び因果関係を整理し,同条ただし書の選任・監督等の免責事由も確認する。

会社自身が苦情や不正の兆候を把握しながら必要な対応をしなかったという主張は,会社自身の過失による責任の問題として別に検討する。
調査報告書の管理上の指摘を見つけただけで,当該被害との因果関係や損害額まで証明できたことにはならない。

3 保険業法283条との違い

保険業法283条1項は,保険募集人が「保険募集について」「保険契約者に」加えた損害に関する所属保険会社等の責任を定め,同条2項は役員,使用人,委託先等の区分に応じた免責を定める。

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ノーベル賞の賞金に税金はかかるか―所得税法9条1項13号ホの非課税,経済学賞の例外,沿革及び受け取った後の税金(AI作成)

目次

第1 この記事の要点第2 ノーベル賞の賞金を非課税とする規定1 所得税法9条1項13号の条文2 非課税となる範囲3 住民税も課されない4 確定申告は要るか5 日本の居住者でない受賞者6 賞状・メダル,ノーベル講演及び受賞後の講演料第3 経済学賞は非課税の対象外1 経済学賞の賞金を出すのはスウェーデン国立銀行2 ホにもヘの指定にも当たらない3 課税される場合の所得の種類第4 非課税の規定ができるまでの経緯1 昭和24年の湯川秀樹博士の受賞と議員提案2 昭和25年の改正と告示による指定3 昭和43年の川端康成氏の受賞と文学賞の扱い4 昭和44年の法定化と昭和48年の現在の形5 平成2年の「芸術」の追加と令和7年のアーベル賞の指定第5 ノーベル賞以外の賞との比較1 財務大臣の指定を受けている賞2 指定を受けていない賞の賞金3 オリンピック・パラリンピックの報奨金第6 賞金を受け取った後の税金1 寄附したときの寄附金控除2 国外の口座に置いたまま年を越すとき3 家族への贈与と相続4 メダルを売却したとき・寄贈したとき第7 米国の取扱いとの比較第8 関連記事第9 出典1 法令2 告示・官報・行政資料3 国会会議録4 ノーベル財団の公表資料5 報道6 裁判例
第1 この記事の要点

本記事は,ノーベル賞の賞金に日本の所得税及び住民税がかかるか,経済学賞はどう扱われるか,非課税の規定がどのような経緯でできたか,及び賞金を受け取った後に寄附・贈与・相続をしたときの税金を整理するものである。
令和8年10月10日現在の法令,財務省告示及びノーベル財団の公表資料に基づいて記載している。

要点は,次のとおりである。
①ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品は,所得税法9条1項13号ホにより所得税が課されない。
②個人住民税の所得割は所得税法の例により所得を計算するから,ノーベル賞の賞金は住民税の課税標準にも入らないと考えられる。
③経済学賞(アルフレッド・ノーベル記念スウェーデン国立銀行経済学賞)の賞金はスウェーデン国立銀行が支払うものであり,同号ホの「ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品」に当たらず,財務大臣の指定(昭和44年大蔵省告示第96号)にも含まれていないから,日本の居住者が受け取れば課税対象になると考えられる。
④非課税の扱いは,昭和24年の湯川秀樹博士の受賞を契機とし,昭和43年の川端康成氏の文学賞受賞で文学が学術に当たるかが国会で問題となったことを経て,昭和44年の改正でノーベル賞の賞金を法律に明記する形になった。
⑤令和7年12月26日財務省告示第334号により,アーベル賞(ノルウェー科学文学アカデミーから交付される金品)が令和7年分以後の非課税の指定に加わった。
⑥非課税は所得税の話であり,受け取った賞金を家族に贈与すれば贈与税,死亡時に残っていれば相続税の対象となる。
⑦非課税所得は寄附金控除の上限(総所得金額等の40%)の計算の母数に入らないから,賞金の全額を寄附しても,他の所得が少なければ控除できる額は限られる。
⑧非課税なのはノーベル賞として交付される金品の受領までであり,受賞後に国内で受け取る講演料は課税対象となり,メダルを売却すれば譲渡所得,大学・博物館等の法人に寄贈すれば原則としてみなし譲渡の対象となる。

第2 ノーベル賞の賞金を非課税とする規定
1 所得税法9条1項13号の条文

所得税法9条1項は,「次に掲げる所得については,所得税を課さない。」と定め,その13号で「次に掲げる年金又は金品」を挙げている。
同号の内容は,次のとおりである(e-Gov法令検索で令和8年10月1日施行時点の条文を確認した。)。
イ 文化功労者年金法3条1項の規定による年金
ロ 日本学士院から恩賜賞又は日本学士院賞として交付される金品
ハ 日本芸術院から恩賜賞又は日本芸術院賞として交付される金品
ニ 学術若しくは芸術に関する顕著な貢献を表彰するものとして又は顕著な価値がある学術に関する研究を奨励するものとして国,地方公共団体又は財務大臣の指定する団体若しくは基金から交付される金品(給与その他対価の性質を有するものを除く。)で財務大臣の指定するもの
ホ ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品
ヘ 外国,国際機関,国際団体又は財務大臣の指定する外国の団体若しくは基金から交付される金品でイからホまでに掲げる年金又は金品に類するもの(給与その他対価の性質を有するものを除く。)のうち財務大臣の指定するもの

ニとヘは,財務大臣が個別に賞を指定して初めて非課税になる仕組みである。
これに対し,ホはノーベル賞だけを名指しして法律で直接非課税としており,財務大臣の指定を要しない。

2 非課税となる範囲

ホの文言は「ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品」であるから,賞金だけでなく,ノーベル賞として交付されるメダル等の物品も含むと読むのが自然である。
共同受賞の場合は,各受賞者が受け取る持分がそれぞれ非課税となる。
例えば,令和8年(2026年)のノーベル化学賞は,フランスのアンリ・カガン氏と東京理科大学の硤合憲三名誉教授の共同受賞であり,ノーベル財団の発表では,賞金1200万スウェーデン・クローナを2人で均等に分けるとされている。
参考までに,財務大臣が公示した令和8年10月中に適用される裁定外国為替相場(1スウェーデン・クローネ=17円)で換算すると,1200万クローナは2億0400万円,その半分は1億0200万円となるが,実際に受け取る円貨の額は送金時の為替相場等によって異なる。

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マンション共用部分の漏水は誰が責任を負うか―管理組合と民法717条・最高裁令和8年1月22日判決(AI作成)

目次

第1 漏水の原因と請求先を分ける1 上の階から水が来たというだけでは決まらない2 被害拡大の防止と記録第2 最高裁令和8年1月22日判決1 共用部分の亀裂による漏水事故2 管理組合の占有者該当性3 賠償の全要件を確定した判決ではない第3 民法717条の責任構造1 占有者と所有者を区別する2 必要な注意と原因についての責任第4 請求先を検討するための資料1 共用部分か専有部分か2 管理会社の責任は契約等を確認する3 修繕と損害賠償を分ける第5 損害と保険を確認する1 損害の範囲を具体化する2 保険の対象と責任の有無は同じではない第6 相談・管理組合対応の確認事項第7 出典
第1 漏水の原因と請求先を分ける
1 上の階から水が来たというだけでは決まらない

マンションの漏水では,原因箇所が専有部分か共用部分か,設備や建物が通常有すべき安全性を欠いていたか,誰が管理していたかを確認する必要がある。
水が流れ込んだ位置だけで,直上階の所有者や管理会社に責任があると決めることはできない。

本記事は,令和8年10月10日を基準日とし,最高裁令和8年1月22日第一小法廷判決(令和6年(受)第385号)を中心に,共用部分についての管理組合の責任と相談時の確認事項を整理する。
修繕の要求,損害賠償及び保険の請求は,それぞれ根拠と対象を分けて検討する。

2 被害拡大の防止と記録

まず,漏水の停止,電気設備への危険の確認及び必要な応急措置を管理者や専門業者と相談することが重要である。
安全確保を優先しつつ,発見日時,濡れた範囲,雨や設備使用との関係,写真・動画,連絡履歴及び応急措置の内容を残すのがよい。

撤去や修繕によって原因箇所が分からなくなることがあるため,可能な範囲で施工前後の写真,原因調査報告,図面及び業者の説明を保存する。
費用の見積書・請求書と,誰が作業を依頼し負担したかという記録も区別して残す必要がある。

第2 最高裁令和8年1月22日判決
1 共用部分の亀裂による漏水事故

本件では,外壁コンクリート躯体部分及び床下スラブ部分の亀裂等により,専有部分への漏水が繰り返し発生した。
最高裁公開本文は,当該部分が共用部分であり,亀裂等が工作物の設置又は保存の瑕疵に当たるという原審の確定した事実を前提としている。
管理組合の規約には,共用部分の管理,保全・保守・修繕を管理組合が行う旨の定めがあった。

原審は,管理組合が民法717条1項本文の占有者に当たらないとして,その規定による損害賠償請求を棄却した。
最高裁は,この占有者該当性の判断を是認しなかった。

2 管理組合の占有者該当性

最高裁は,民法717条1項本文の趣旨を,通常有すべき安全性を欠く工作物を支配管理し,損害を防止すべき地位にある者に責任を負わせるものと説明した。
区分所有法3条前段の区分所有者の団体は,特段の事情がない限り,共用部分について同項本文の占有者に当たるとした。

共用部分の管理を団体が行うという区分所有法の仕組みと,団体の財産から賠償することが区分所有者の通常の意思や被害者の保護に沿うことを理由としている。
管理者の選任や権限に関する規定があることだけでは,この判断は左右されない。

3 賠償の全要件を確定した判決ではない

最高裁は,損害賠償請求に関する部分を破棄し,損害額等について更に審理するため東京高等裁判所へ差し戻した。
管理組合にすべての漏水被害を無条件で賠償させた判決でも,修繕要求などのすべての請求を認容した判決でもない。

個別事案では,団体の性質,原因箇所,瑕疵,損害との因果関係,損害額及び占有者の免責に関する事情を別に確認する必要がある。
本判決の占有者該当性の判断と,差戻審で検討される問題を分けて理解することが重要である。

第3 民法717条の責任構造

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修正申告と加算税―行政指導,調査通知及び更正予知の前後で何が変わるか(AI作成)

目次

第1 この記事が扱う判断1 税額の誤りと加算税の判断を分ける2 修正申告をする前に記録を残す第2 行政指導と調査は連絡方法だけでは分からない1 担当者に位置付けを確認する2 実地調査以外の調査もある第3 修正申告の時期と過少申告加算税1 通知前と通知後を区別する2 更正予知を具体的な事実から検討する第4 正当な理由と重加算税は別の検討である1 正当な理由の位置付け2 本税・加算税・延滞税を分ける第5 修正申告,更正及び不服申立て1 修正申告の勧奨に応じる前に確認する2 争う対象を取り違えない第6 弁護士・税理士が共有する記録第7 出典
第1 この記事が扱う判断
1 税額の誤りと加算税の判断を分ける

税務署から申告内容の確認を受けたとき,まず連絡の位置付け,求められている事項及び期限を確認する必要がある。
修正すべき税額があること,過少申告加算税が課されること,重加算税が課されることは,それぞれ要件が異なる。
「自主的に修正するから加算税はない」「電話だけだから調査ではない」という判断は適切ではない。

本記事は,令和8年10月10日を基準日とし,期限内申告をした納税者の修正申告と過少申告加算税を中心に,行政指導,調査通知及び更正予知を整理する。
期限後申告と無申告加算税,源泉徴収の不納付加算税,個別の税額計算は別に確認する必要がある。

2 修正申告をする前に記録を残す

税務署の連絡日,担当部署・氏名,対象税目・期間,説明内容,求められた資料及び回答期限を記録する。
法的な評価が争われる場合には,帳簿,契約書,証憑及び申告時の資料の元の状態を保全し,指摘事項と納税者の見解を分けることが重要である。

申告の誤りを直すことと,過去の記録を事実と異なる内容へ書き換えることは同じではない。
修正の内容,発見日,根拠及び計算を別に残し,税理士・弁護士と共有するのがよい。

第2 行政指導と調査は連絡方法だけでは分からない
1 担当者に位置付けを確認する

国税庁FAQ問2は,課税標準等又は税額等を認定する目的で質問検査等を行う調査と,自発的な見直しや修正申告を求める行政指導を区別している。
同FAQは,具体的な手続に入る前に,いずれに当たるかを納税者へ明示する運用を説明している。

行政指導に基づく自主的な修正について,同FAQは過少申告加算税を賦課しない旨を説明しているが,延滞税が必要となる場合はある。
当初申告が期限後申告である場合の無申告加算税とは区別する必要がある。

2 実地調査以外の調査もある

FAQ問22は,税務署へ来署して申告内容を確認するなど,実地調査以外の調査を明示している。
この場合,法令上の事前通知は求められていないが,連絡の際などに対象税目・課税期間・目的等を説明する運用である。

国税通則法74条の9の実地調査の事前通知と,同法65条6項の調査通知に関する判断を,電話,訪問又は郵便という方法だけで代用してはならない。
通知内容と実際に行われた質問・確認を具体的に検討する必要がある。

第3 修正申告の時期と過少申告加算税
1 通知前と通知後を区別する

国税通則法65条6項は,修正申告が調査により更正があるべきことを予知してされたものではなく,かつ,所定の調査通知前に行われた場合には,同条1項を適用しないと定める。
「更正予知前」であることだけを確認して,調査通知の有無を省略してはならない。

調査通知後であっても,更正予知によらない修正申告には,同条1項の通常の場合とは異なる割合が定められている。
次の表は,同条1項・2項・6項に関する基本的な区分であり,すべての加重・特例を含む最終税額表ではない。

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いじめ重大事態調査で最初に確認すること―疑い段階の対応,安全確保,証拠保全及び第三者性(AI作成)

目次

第1 この記事の対象1 調査の開始と責任の確定を分ける2 誰の依頼で対応するかを明確にする3 弁護士へのアンケートを読む際の注意点第2 いじめと重大事態の判断1 いじめの定義は要素を落とさず確認する2 法28条は疑いの段階を対象としている3 欠席30日は待機期間ではない第3 安全確保と支援を調査と並行する1 調査結果が出るまで支援を待たせない2 本人の負担と意向を確認する第4 資料を保全し,事実と評価を分ける1 残す資料と所在を確認する2 聞き取りと報告書の記載第5 調査組織の専門性と第三者性1 専門家だから第三者とは限らない2 事前説明の内容を具体化する第6 初回相談で確認する事項第7 出典
第1 この記事の対象
1 調査の開始と責任の確定を分ける

いじめ重大事態調査は,いじめの有無や重大な被害との関係を明らかにし,対象となる子どもへの対応と再発防止に役立てるための調査である。
調査を始める段階で,いじめや因果関係が裁判と同じ程度に証明されていることを要求してはならない。
一方,重大事態として報告・調査を始めたことだけで,特定の児童生徒や学校の損害賠償責任が確定するものでもない。

本記事は,令和8年10月10日を基準日とし,いじめ防止対策推進法と文部科学省の令和6年8月改訂ガイドラインに基づき,子ども・保護者,学校・設置者及び弁護士が初動で確認する事項を整理する。
個別事件の損害賠償額,刑事責任又は個々の自治体の調査委員会条例を網羅するものではない。

2 誰の依頼で対応するかを明確にする

子ども・保護者の代理人,学校・設置者の助言者,調査委員では役割が異なる。
弁護士が関与するときは,依頼者,目的,受任範囲,情報を共有する相手及び利益相反を最初に確認する必要がある。
学校への法的助言を担当していることと,独立した第三者として学校の対応を検証できることは同じではない。

3 弁護士へのアンケートを読む際の注意点

田伏いづみ「弁護士へのアンケートから見えたいじめ重大事態調査をめぐる現状と課題」(LIBRA令和8年10月号11頁~13頁)は,重大事態調査委員の経験がある東京弁護士会の弁護士を対象に,令和7年8月から令和8年1月に実施したアンケートを紹介している。
公表された回答件数は27件であり,全国の重大事態調査全体をそのまま代表する統計として読むことはできない。

同記事では,重大事態の疑いに当たる事実の発生から第1回調査委員会までの期間について,「半年から1年以内」が40.7%,「それ以上(1年以上)の期間」が44.4%と報告されている。
これは回答された調査経験の範囲を示す結果であり,疑いを把握した全学校の対応率や,法定の調査開始期限を示す数字ではない。

この結果を実務に生かす際には,出来事の発生日,学校・設置者が把握した日,重大事態として報告した日及び委員会を開始した日を分けて記録するとよい。
その間の安全確保・学習支援,資料保全及び本人への説明について,誰が何を行い,何が未了かも確認する。

これは本記事の実務上の整理案であり,アンケートから個別の学校の違法性や因果関係を直ちに判定するものではない。
当該児童生徒の状態と意向を確認し,委員会の開始を待つ間も支援を具体化するという,第3以下の対応と併せて検討する必要がある。

LIBRA令和8年10月号の公開特集本文を参照されたい。

第2 いじめと重大事態の判断
1 いじめの定義は要素を落とさず確認する

いじめ防止対策推進法2条は,学校に在籍する児童又は生徒に対し,当該児童生徒と一定の人的関係にある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為で,対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているものをいじめと定義している。
インターネットを通じて行われるものも含まれる。
学校の範囲,行為者と対象者の関係,行為の内容及び本人の苦痛を確認し,単に不快な出来事があったという一要素だけで定義全体を説明しない。

悪ふざけ,けんか又は仲間内のやり取りという呼び方だけで,いじめではないと決めることも適切ではない。
本人が話しにくい事情や周囲の力関係にも注意し,具体的な行為と心身の状態を確認する必要がある。

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中小M&Aの売却代金と役員退職金―支払義務,後払い,税務と手取り額の確認(AI作成)

目次

第1 「総額」で合意する前に支払の内訳を決める1 株式代金と退職金を別々に確認する2 額面・支払確実性・税務を同じ資料で検討する第2 会社の支払義務と必要な決議1 買主との約束と会社の決議は別である2 契約書例の「速やかに」を具体化する第3 後払い・分割払い・価格調整の危険1 支配権を渡した後の回収を考える2 アーンアウトと補償による控除3 売主経営者が残る場合は譲渡対価と報酬を区別する第4 法人側の退職給与の税務1 損金算入の時期2 退職の実態と金額の相当性第5 受給者の退職所得と株式譲渡所得1 退職所得の2分の1計算には例外がある2 源泉徴収と実際の手取り3 株式の売却代金には別の計算がある第6 契約・税務・資金の確認を一枚にまとめる1 確認表の項目2 弁護士と税理士へ同じ資料を渡す第7 出典と関連記事
第1 「総額」で合意する前に支払の内訳を決める
1 株式代金と退職金を別々に確認する

中小企業のオーナーが株式を売却して退任する取引では,株式代金,役員退職金,役員借入金の返済等を合計して条件が提示されることがある。
しかし,受取人が同じでも,支払義務者,支払原資,必要な決議,税務及び支払時期は同じではない。

まず,株式代金は株主と買主の売買の対価,役員退職金は会社と役員との関係に基づく支払として区別する。
役員借入金の返済では,会社が役員に実際に負う債務とその残高を確認する。
事業譲渡では通常,事業の対価の受取人は譲渡会社となるため,株主個人への株式代金と混同しない。

2 額面・支払確実性・税務を同じ資料で検討する

本記事は,株式を売却して退任する個人オーナーと,その会社・買主を主な対象とする。
中小M&Aガイドライン第3版,各種契約書等サンプル(令和7年12月15日時点版)のうち株式譲渡契約書サンプル,会社法及び国税庁資料を用い,支払条件と税務確認の接点を説明する。

「売却総額」だけで判断せず,支払義務者ごとの額面,税・手数料,実際の入金時期,後払いの条件及び保証解除を確認する。
税務上の区分は名称だけで定まらず,株式の価値,退職の実態,勤務期間及び支給額の相当性を裏付ける資料が必要である。

株式代金の受領,役員退職金の支払及び経営者保証の解除は,それぞれ別に完了を確認する。
代金が入金されても,会社の借入金についての保証が解除されたことにはならず,保証の解除には金融機関の判断が必要である。
クロージングと同時の解除又は返済・借換えを実行の条件に組み込むかを,代金・退職金の支払条件と合わせて検討する。
保証が残る危険は,手取り額の試算に含める税・手数料とは別の確認項目として管理する。
具体的な手順は,中小M&Aで経営者保証を残さないためにの第3・2で整理している。

企業価値と株式代金を同じ金額として扱わず,現預金・有利子負債等をどの時点・範囲で調整する契約なのかを確認する。
次の金額は関係を説明する仮例であり,税・手数料を含まず,すべての取引に同じ計算式が当てはまるという意味ではない。

仮に,事業の価値を3億円,現預金を2000万円,有利子負債を1億円として,株式価値を「3億円+2000万円-1億円=2億2000万円」と計算する合意であったとする。
対象会社が実行前に役員退職金1000万円を支払い,その現金減少を株式価値に反映すると,株式代金は2億1000万円となり,退職金と合わせた受取総額は2億2000万円となる。
この現金減少を反映した後に,さらに同じ退職金1000万円を株式代金から差し引けば,二重控除になる。
実際には,役員退職金を未払債務として扱うか,現金減少として扱うか,価格調整から除くかを,基準日と契約の定義に即して確認する。

第2 会社の支払義務と必要な決議
1 買主との約束と会社の決議は別である

株式会社の取締役の報酬等について,会社法361条1項は,定款に定めがないときは株主総会の決議により額等を定めるとする。
退職慰労金を設ける際は,定款,退職慰労金規程,必要な決議,具体額又は算定方法,決定を委任する範囲及び支払条件を確認する。
指名委員会等設置会社等では,機関設計に応じた手続も確認する。

買主が「買収後に会社から支払わせる」と約束したことだけで,必要な会社の決議や支払の手続が済んだと扱わない。

(続きを読む...)中小M&Aの売却代金と役員退職金―支払義務,後払い,税務と手取り額の確認(AI作成)

中小M&Aの仲介・FA契約を締結する前に―手数料,利益相反,専任・テール及び免責(AI作成)

目次

第1 契約前に確認する五つのこと1 契約書の名称だけで判断しない2 説明を受ける人と決定する人を合わせる第2 仲介・FAと専門家の業務を分ける1 相手方からも報酬を受けるか2 DDや契約審査を誰が行うか第3 手数料を金額と発生時点で比較する1 料率だけでは総額が分からない2 「成功」の意味と中止時の清算第4 利益相反と買主の調査1 成約優先による不利益を確認する2 買主の履行能力を確認する体制第5 専任・直接交渉制限・テールを別々に読む1 専任条項とセカンド・オピニオン2 直接交渉を制限する相手方・目的・期間3 テール条項と二重請求第6 秘密保持・免責・登録制度の限界1 専門家と金融機関への相談を確保する2 免責と損害賠償の制限3 登録は支援品質や損害回復の保証ではない第7 締結前に残す資料と出典1 契約条件を確認した記録2 出典と関連記事
第1 契約前に確認する五つのこと
1 契約書の名称だけで判断しない

M&A仲介又はフィナンシャル・アドバイザー(FA)への依頼では,最終的な株式譲渡契約より前に,支援契約によって手数料や行動の制限が決まる。
まず,①誰を支援するのか,②どの工程を担当するのか,③いくら・いつ支払うのか,④他の相談や交渉をどこまで制限するのか,⑤不適切な支援や取引中止の際に何が残るのかを確認する。

本記事は中小M&Aガイドライン第3版を中心に,依頼者が契約締結前に確認する項目を説明する。
ガイドラインの推奨に合わない条項が当然に無効となる,又は推奨に合えば必ず有効となるという説明ではない。
個別の効力や損害賠償の可否は,契約内容と具体的な経緯に基づく検討が必要である。

2 説明を受ける人と決定する人を合わせる

担当者だけが説明を受け,決裁者は成功報酬の料率しか見ていないという状態を避ける。
ガイドラインとQ&Aは,契約締結前の重要事項の説明,工程ごとの支援内容,担当者の資格・経験及び最終契約のリスク説明を重視する。
説明書,契約書,見積り及び口頭説明の違いは,署名前に書面で確認する。

第2 仲介・FAと専門家の業務を分ける
1 相手方からも報酬を受けるか

仲介は譲渡側と譲受側の双方を支援する。
FAは一方の依頼者を支援する。
名称だけで判断せず,実際の依頼者,報酬の支払者,関係会社から受ける報酬及び紹介料を確認する。
仲介者が相手方から受ける手数料も,利益相反の判断に必要な情報となる。

相手方の手数料を確認することと,自社がその手数料を当然に負担することは別である。
両当事者の支払条件,既払金の控除,追加業務及び成約による報酬増加の仕組みを分けて読む。

2 DDや契約審査を誰が行うか

候補先の探索,企業概要書の作成,価値算定,日程調整,DD,契約起案,銀行協議及び実行後の支援について,担当者と成果物を明らかにする。
仲介者・FAの資料作成や助言が,独立した法務・税務・財務DDを当然に含むとは限らない。

ガイドライン95頁~97頁は,双方を支援する仲介者はDDを自ら実施せず,その結論も決定すべきでないとし,必要に応じて士業等専門家等の意見を求めるよう伝えることや,DDの重要性を説明することを求めている。
法律上の評価は弁護士,税務や財務の検討は税理士・公認会計士等の担当範囲を確定する。
買主が行う対象会社のDDと,売主側が買主の資力・履行能力を確認する調査も別である。

第3 手数料を金額と発生時点で比較する
1 料率だけでは総額が分からない

着手金,月額報酬,中間金,成功報酬,最低手数料,実費及び消費税を一覧にする。
レーマン方式等の取引額連動方式では,譲渡額(譲受額),移動総資産額,純資産額など,基準となる価額の違いを確認する。

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中小M&Aで経営者保証を残さないために―銀行との事前相談,クロージング条件,解除・買戻し(AI作成)

目次

第1 会社を売っても保証解除の確認が必要である1 売主・買主の約束と金融機関の判断を分ける2 最も重要なのは実行前の解決である3 経営者保証と自宅の担保の基本4 今の段階に応じて読む箇所第2 保証と借入金を一覧にする1 金融機関ごとに対象を確認する2 相談を阻む秘密保持条項を先に確認する第3 銀行との事前相談を契約と実行予定へ反映する1 相談は挨拶や日程調整で終わらせない2 クロージングの条件と代替案を決める3 買主の資力を別に調べる第4 実行後の解除義務と完了確認1 「最大限努力する」の対象を読み分ける2 解除書面と担保抹消まで確認する第5 解除・買戻し条項をどう読むか1 契約書例の期限と失権条件2 買戻し価格と会社の損害を分ける3 条項があっても回収・経営権回復には実行上の問題がある第6 担当者と残す資料1 売主・買主・専門家の分担2 保存する資料第7 よくある質問1 会社を売れば,経営者保証は外れるか2 買主が保証を引き継ぐと約束すれば足りるか3 保証が外れれば,自宅の抵当権も消えるか4 金融機関に解除を断られたまま,取引を実行してよいか第8 出典と関連記事
第1 会社を売っても保証解除の確認が必要である
1 売主・買主の約束と金融機関の判断を分ける

M&Aで株式を売却し,代表取締役を退任しても,経営者保証は自動的には解除されない。
中小企業の株式を売却して代表取締役を辞任した後も,旧経営者の個人保証が残ると,会社を支配できないまま借入金の返済リスクを負うことになる。
売買契約で買主に保証解除を約束させても,その合意だけで金融機関を拘束することはできない。
契約の相手方,対象債務,解除の条件及び解除を示す書面を確認する必要がある。

事業譲渡と旧会社の債務整理を組み合わせる場合も,会社への債務免除,担保の解除及び旧経営者の保証解除を別々に確認する。
旧商法下の特別清算に関する東京地裁平成18年6月27日判決(平成17年(ワ)第10996号,判例秘書の判例番号 L06132514)は,株式譲渡担保の解除から保証免除を導く主張を認めていない。
同判決は,協定に代わる個別和解の効力に関する判断に加え,保証存続の確約書・念書による別段の定めも認めているため,担保解除だけで保証の問題が解消すると理解すべきではない。

協定と個別和解,旧会社整理と旧商法下の特別清算の判決の違いは,会社の債務免除で個人保証も消えるかを参照されたい。
旧法下の下級審判決の射程を,現行のすべてのM&A取引へ一律に広げるものではない。

本記事は,中小企業庁の中小M&Aガイドライン第3版,中小M&A時の経営者保証の取扱いについて(以下「保証資料」という。)及び各種契約書等サンプル(令和7年12月15日時点版)のうち株式譲渡契約書サンプル(以下「契約書サンプル」という。頁は同サンプル集の通し頁)を踏まえ,主に譲渡側の確認手順を説明する。
行政資料の推奨と契約書の規定例を紹介するものであり,すべての取引で同じ条項や期限が適用されるわけではない。

2 最も重要なのは実行前の解決である

第一に,保証の全件一覧を作る。
第二に,最終契約の締結前から金融機関等への具体的な相談を進める。
第三に,可能な限りクロージング(株式の移転や代金の支払等の取引の実行)と同時の保証解除又は対象借入金の返済・借換えを目指す。
第四に,実行後の対応を残す場合は,担当者,期限,必要資料,報告義務及び不履行時の救済を具体化する。

保証資料1頁は,クロージングと同時の保証解除等を最も優先される対応と位置付けている。
事後の解除・買戻し条項は,銀行との事前相談を省略する理由にはならない。

3 経営者保証と自宅の担保の基本

経営者保証は,会社が金融機関から借り入れる際に,経営者個人がその借入れの保証人となるものである。
借入れの債務者は会社であり,保証人は,会社が返済しないときに個人として返済する責任を負う(民法446条1項)。
保証契約は書面でしなければ効力を生じない(同条2項)ので,保証契約書で保証の範囲と連帯保証かどうかを確認する。

経営者が自宅等の個人の不動産に,会社の借入れのための抵当権等を設定している場合は,保証とは別の担保の問題になる。
保証契約の解除と担保権の抹消は別の手続であり,一方が済んでも他方が当然に済むわけではない。
会社の借入金そのもの,経営者個人の保証債務及び個人の不動産の担保を,別々の行として管理する。

4 今の段階に応じて読む箇所

①売却を検討し始めた段階では,第2で保証と借入金の一覧を作り,秘密保持条項を確認する。

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ECサイトのカード情報漏えいと加盟店の義務―割賦販売法35条の16,クレジットカード・セキュリティガイドライン6.1版及び開発委託先の責任(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論1 対象2 結論3 基準日と資料第2 ECサイトのカード情報漏えいの現状1 ガイドラインの認識2 個人情報保護委員会の指導事例3 AIを使った攻撃の報告第3 割賦販売法上の加盟店の義務1 カード番号等の適切な管理(35条の16)2 事故時の調査(施行規則132条)3 ガイドラインの位置付け4 改善命令と加盟店契約による監督5 不正利用の防止(35条の17の15)第4 EC加盟店に求められる「脆弱性対策」1 5つの対策2 委託先の管理3 SQLインジェクションの根本的な対策第5 個人情報保護法の漏えい等報告第6 開発・保守委託先との責任分担1 東京地裁平成26年1月23日判決2 前橋地裁令和5年2月17日判決3 契約実務への示唆第7 相談を受けたときの確認事項第8 関連記事第9 出典1 法令2 ガイドライン等3 報告4 裁判例(裁判所HP掲載)5 裁判例(判例秘書で確認)
第1 本記事の対象と結論
1 対象

ECサイトを運営する事業者(EC加盟店)からクレジットカード情報が漏えいした場合に,加盟店がどのような法的義務を負い,サイトの開発・保守を委託した事業者との間で責任がどう分かれるかを扱う。
個人情報保護法の漏えい等報告にも触れるが,中心は割賦販売法とクレジットカード・セキュリティガイドラインである。

2 結論

① EC加盟店は,割賦販売法35条の16第1項2号の「クレジットカード番号等取扱業者」として,カード番号等の漏えい等の防止その他の適切な管理のために必要な措置を講じる義務を負う。
② クレジットカード・セキュリティガイドライン6.1版は,この義務の実務上の指針と位置付けられている。
同ガイドラインは,現在の主な漏えいを,カード情報を保持しない「非保持化」を実現したEC加盟店でWebサイトの脆弱性等を原因として窃取されるものとし,EC加盟店に「脆弱性対策」を求めている。
③ 「脆弱性対策」は,管理画面のアクセス制限と多要素認証,アップロードできるファイルの制限,脆弱性診断又はペネトレーションテストの定期実施等であり,「下記のすべての対策を講じる」ものとされている。
サイトの構築・運用を委託するときは,委託先にもこれを理解した構築・運用を求めることとされている。
④ 加盟店は経済産業大臣の改善命令の対象から除かれているが,加盟店契約を結ぶ事業者が加盟店の措置を調査し,基準に適合しないおそれがあれば,契約を結ばず,又は解除等の措置を講じる義務を負う。
⑤ ECサイトからのカード番号を含む個人データの漏えいは,個人情報保護法施行規則7条2号の報告対象事態の例としてガイドラインに挙げられており,人数にかかわらず報告対象となる。
⑥ 開発・保守の委託先が公的機関の周知していた基本的な対策を怠った場合,契約金額を上限とする責任制限条項が適用されないとした裁判例がある(東京地裁平成26年1月23日判決,前橋地裁令和5年2月17日判決)。
他方で,加盟店側が危険を知りながら放置していた事情は過失相殺の理由となる。

3 基準日と資料

本記事は,令和8年10月10日時点で,e-Gov法令検索で取得した割賦販売法,割賦販売法施行規則,個人情報保護法及び同法施行規則の条文,クレジット取引セキュリティ対策協議会の「クレジットカード・セキュリティガイドライン【6.1版】」(令和8年3月),個人情報保護委員会の資料並びに判決の全文に基づく。

第2 ECサイトのカード情報漏えいの現状
1 ガイドラインの認識

ガイドライン6.1版は,冒頭で次のように述べている(PDF9頁)。

> 「現在の主な情報漏えいは、非保持化を実現したEC加盟店においてWebサイトの脆弱性等を原因としてカード情報が窃取されているものである。」

カード情報を自社のサーバーに保存しない「非保持化」は,長く有効な対策とされてきた。
しかし,決済画面に入力される前のWebサイト自体が改ざんされると,保存していなくても入力された情報が窃取される。
そのため同ガイドラインは,6.0版から,EC加盟店に対し,カード情報を保持するかどうかにかかわらず,システムとWebサイトの「脆弱性対策」を講じることを指針対策としている。

2 個人情報保護委員会の指導事例

個人情報保護委員会の令和7年度年次報告(印字頁10頁)は,不正アクセスによる漏えい等の原因として,「VPN(Virtual Private Network)機器の脆弱性やECサイトを構築するためのアプリケーション等の脆弱性が公開され対応方法がリリースされていたにもかかわらず、事業者が放置していたこと」,推測されやすいID・パスワード,データベースのアクセス制御の設定ミス等,安全管理措置に不備があったケースが多くみられたとしている。

3 AIを使った攻撃の報告

セキュリティ企業のGambit Securityは,令和8年9月22日,攻撃者の作業用サーバーから回収したログを分析した中間報告を公表した。
同報告によれば,攻撃者は公開されているAIエージェントのツールを組み合わせ,令和8年9月10日から15日までの間に105件の攻撃を行い,少なくとも27社に程度の差はあれ侵入し,2社から合わせて60万件を超える有効なカード情報を取得していた。
攻撃者自身の集計では,完了した101件の調査にかかったAIの利用料は平均25.46ドルであった。

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クラウド事業者がランサムウェア被害を受けたとき,利用者に漏えい等報告義務はあるか―施行規則7条3号,滅失・毀損とバックアップ(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論1 対象2 結論3 基準日と資料第2 IDCフロンティアの公表から分かること1 公表の経過2 利用者側の公表の例3 公表資料だけでは分からないこと第3 クラウド事業者が個人データを取り扱うかで分かれる1 「取り扱わないこととなっている」場合2 取り扱わない場合でも報告義務は利用者にある3 取り扱う場合(委託)第4 報告対象事態に当たるか1 施行規則7条3号と「第三者の提供するサービス」2 漏えい,滅失及び毀損を分けて考える3 人数の要件4 報告対象とならない場合第5 期限,報告の方法及び本人への通知1 速報2 確報3 本人への通知4 クラウド事業者に求める情報第6 法律事務所と税理士事務所が利用者であるとき1 法律事務所2 税理士事務所第7 クラウド契約と事業者の責任1 免責・責任制限条項2 契約で確かめておく事項第8 平時に準備しておくこと第9 関連記事第10 出典1 法令・会規2 個人情報保護委員会の資料3 事業者の公表資料4 裁判例(裁判所HP掲載)5 裁判例(判例秘書で確認)
第1 本記事の対象と結論
1 対象

令和8年10月7日,クラウドサービス「IDCFクラウド」の一部がランサムウェア攻撃を受け,契約する495の企業や自治体に影響が出たことが公表された。
自社のサーバーではなく,利用しているクラウド事業者が攻撃を受けた場合に,利用者である企業,自治体,法律事務所及び税理士事務所が個人情報保護委員会への報告と本人への通知をしなければならないかが問題になる。

本記事は,この問題を,個人情報保護法26条,同法施行規則7条から10条まで,個人情報保護委員会の通則編ガイドライン及びQ&Aに沿って整理する。
クラウド事業者の公表資料は,事案の説明のための素材として用いる。
特定の利用者に報告義務があるかどうかを判断するものではない。

2 結論

① クラウド事業者が利用者の個人データを取り扱わないこととなっている場合でも,報告義務を負うのは利用者である(Q&A6-22)。
クラウド事業者は法26条1項の報告義務を負わないが,契約等に基づいて利用者に通知する等の対応を求められる。
② クラウド事業者が個人データを取り扱う場合(委託)は,委託元と委託先の双方が原則として報告義務を負う。
③ 施行規則7条3号の「不正の目的をもって行われたおそれがある当該個人情報取扱事業者に対する行為」には,利用者が使っているサービスの提供者に対する行為も含まれる(ガイドライン3-5-3-1)。
クラウド事業者へのランサムウェア攻撃は,この類型に当たり得る。
④ 3号の事態には人数の要件がない。
本人が1人でも,個人データの漏えい,滅失又は毀損が発生し,又は発生したおそれがあれば,報告対象となる。
⑤ ランサムウェアで暗号化され復元できなくなった個人データは「毀損」に当たる。
ただし,同じデータが他に保管されている場合は毀損に当たらない(ガイドライン3-5-1-4)。
利用者が自ら持つバックアップの有無が,報告対象事態に当たるかどうかを左右する。
⑥ 確報の期限は,3号の事態では,知った日を1日目として60日以内である。
速報の目安は,知った時点から概ね3~5日以内である。

3 基準日と資料

本記事は,令和8年10月10日時点で,e-Gov法令検索で取得した個人情報保護法及び同法施行規則の現行条文,個人情報保護委員会の通則編ガイドライン(令和8年6月一部改正版)並びにQ&A(令和7年7月1日更新版)に基づく。
IDCフロンティアの事案は,同社が令和8年10月7日から9日までに公表した第1報から第4報までの内容による。
侵入経路,データの窃取の有無,影響を受けた利用者の内訳等は,同日時点では公表されていない。

第2 IDCフロンティアの公表から分かること
1 公表の経過
公表主な内容第1報(令和8年10月7日)同日午前3時40分頃から,IDCFクラウドの一部のシステムに対する第三者からの不正アクセスにより,東日本第1リージョンで障害が発生した第2報(同日)障害は第三者からのランサムウェア攻撃によるものと判明した。影響範囲は「IDCFクラウドを契約している495の企業や自治体」。東日本リージョン1をネットワークから遮断してシステムを停止し,他のリージョンの管理コンソールも停止した第3報(同月8日)東日本リージョン1の一部(4つのゾーン)で仮想サーバーが停止し,再起動できない。保管されている顧客データは「取り出しや復元が困難な見通し」で,同社の見解では「データの復元はお客さま自身が保持しているバックアップデータからのみ可能」。監督省庁及び警視庁へ報告した第4報(同月9日)10月7日午前9時に緊急対策本部を設置し,親会社と連携してバックアップ手順の案内,移行環境の提案,仮想サーバーの起動・停止の代行等を行っている

第3報は,IDCFクラウドの別の型のサービス(TypeS)とプライベートクラウドは対象外であるとしている。

2 利用者側の公表の例

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借家で火事を出した賃借人の責任―失火責任法が適用されない返還義務の履行不能,家族・従業員の失火,類焼及び公務員宿舎の特則(AI作成)

目次

第1 この記事の要点第2 二つの責任を分ける1 賃貸人に対する責任と第三者に対する責任2 失火責任法は債務不履行に適用されない第3 賃貸人に対する責任1 保管義務と返還義務2 建物の全部焼失と賃貸借の終了3 無催告解除4 退去時の原状回復第4 家族・同居人・従業員の失火1 履行補助者の過失2 損害の範囲第5 火災保険金と賠償額1 損益相殺の対象にならない2 保険者代位による減額第6 隣家への類焼(第三者に対する責任)1 重大な過失の意味2 重大な過失が認められた例・否定された例3 子どもの火遊び・従業員の失火4 賃貸人と第三者で結論が分かれる第7 国家公務員宿舎の特則第8 実務上の確認事項第9 関連記事第10 出典1 法令2 判例・裁判例
第1 この記事の要点

本記事は,借りている建物(借家)から火災が発生した場合に,賃借人が誰に対してどのような責任を負うかを,民法,失火ノ責任ニ関スル法律(以下「失火責任法」という。)及び最高裁判例から整理するものである。

結論は次のとおりである。
①失火責任法は,失火者に重大な過失がなければ不法行為(民法709条)の責任を負わないとする法律であるが,債務不履行による損害賠償には適用されない(最高裁昭和30年3月25日判決)。
②そのため,賃借人は,軽過失による失火であっても,借家の焼失について,賃貸人に対し返還義務の履行不能による損害賠償責任を負いうる。
③賃借人の家族や従業員の過失による失火も,履行補助者の過失として賃借人の責めに帰すべき事由に当たる(最高裁昭和30年4月19日判決)。
④賃借人の責めに帰すべき失火は賃借物保管義務の重大な違反行為であり,過失の態様及び焼損の程度が極めて軽微である等の特段の事情がない限り,賃貸人は催告をしないで賃貸借契約を解除することができる(最高裁昭和47年2月18日判決)。
⑤賃貸人が火災保険金を受け取っても,損益相殺として控除されない。保険者が代位により賠償請求権を取得する分だけ,賃貸人が請求できる額が減る(最高裁昭和50年1月31日判決)。
⑥隣家など賃貸人以外の第三者への類焼については,失火責任法により,失火者に重大な過失がなければ損害賠償責任を負わない。
⑦国家公務員宿舎の入居者は,故意又は重大な過失によらない火災による宿舎の滅失・損傷について,原状回復義務も損害賠償義務も負わない(国家公務員宿舎法16条3項ただし書)。

本記事の基準日は令和8年10月10日である。
条文はe-Gov法令検索の現行のもの,判例は裁判所ウェブサイトの判決全文によった。
火災保険・賠償責任保険の約款の内容は保険会社ごとに異なるため,個別の商品の補償範囲は扱わない。

第2 二つの責任を分ける
1 賃貸人に対する責任と第三者に対する責任

借家から出火した場合,賃借人の責任は,相手方によって次の二つに分けて考える必要がある。
①賃貸人(建物の所有者)に対する責任:賃貸借契約に基づく債務不履行責任(民法415条)が中心となる。
②隣家の所有者・居住者など第三者に対する責任:不法行為責任(民法709条)であり,失火責任法が適用される。

この区別が重要なのは,失火責任法が「民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス」と定め,不法行為の規定だけを対象にしているからである。

2 失火責任法は債務不履行に適用されない

最高裁判所第二小法廷昭和30年3月25日判決(昭和29年(オ)第790号,民集9巻3号385頁)は,裁判所ウェブサイトの裁判要旨によれば,「債務不履行による損害賠償については『失火ノ責任ニ関スル法律』の適用はない。」とした。
事案は賃借工場の焼失であり,判決は,失火責任法の適用を求める主張について,債務不履行による損害賠償請求の本件に適用のないことは明らかであると述べている。

したがって,賃借人の失火については,賃貸人との関係では重大な過失がなくても責任を負いうる一方,第三者との関係では重大な過失がなければ責任を負わない,という差が生じる。

第3 賃貸人に対する責任
1 保管義務と返還義務

賃貸借は,賃借人が賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって効力を生ずる(民法601条)。
特定物の引渡しを目的とする債務の債務者は,引渡しをするまで,契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって,その物を保存しなければならない(民法400条)。

賃借人の失火で建物が焼失すれば,返還義務が履行不能となり,賃貸人は債務不履行による損害賠償を請求することができる(民法415条1項本文)。
賃借人が責任を免れるのは,その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときに限られる(同項ただし書)。

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著作物でない成果物の模倣はいつ不法行為になるか―バンドスコア模倣事件の最高裁令和8年10月9日判決(AI作成)

目次

第1 本判決の概要と本記事の範囲1 結論2 基準日と資料第2 事案と審級の経過1 バンドスコアと採譜2 競業者の行為3 審級の経過第3 最高裁の判断1 北朝鮮映画事件の枠組みの確認2 特段の事情を認める基準3 当てはめで考慮された事情4 補足意見第4 北朝鮮映画事件判決との関係1 著作権法6条の判例を著作物でない成果物に当てはめた2 同じ系譜の下級審裁判例第5 原審判決から分かる立証の実務1 模倣の事実の推認2 因果関係3 損害額4 役員の責任第6 射程と実務上の注意1 事例判決として読む2 差止めは別に考える3 技術の進歩と時期の限定4 相談を受けたときの確認事項第7 関連記事第8 出典1 法令2 裁判例(裁判所HP掲載)3 裁判例(判例秘書で確認)
第1 本判決の概要と本記事の範囲
1 結論

最高裁第二小法廷令和8年10月9日判決(令和6年(受)第2078号)は,著作権法上の著作物に当たらないバンドスコアの全体を細部まで模倣して自社のウェブサイトで無料公開し,広告料収入を得ていた競業者の行為について,不法行為の成立を認めた原審の判断を是認し,上告を棄却した。
これにより,競業者とその代表取締役に約1億6925万円の支払を命じた東京高裁令和6年6月19日判決が確定した。

最高裁は,著作物に当たらないものの利用行為は,著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り不法行為にならないとする北朝鮮映画事件の判例を前提にした。
そのうえで,利用行為が「社会通念上自由競争の範囲を逸脱して」相手の営業を妨害し,その営業上の利益を侵害するものといえるときは,特段の事情があり不法行為になるとした。

2 基準日と資料

本記事は,令和8年10月10日時点で,裁判所HPに掲載された本判決の全文と,判例秘書で確認した第一審判決及び原審判決の本文に基づく。
令和8年10月25日に,原審判決が模倣を推認した具体的な表記,579曲全体への推認,損害額の算定に使われた弁護士会照会の内容等を,判例秘書で確認した原審判決及び第一審判決の本文に基づいて追記した。
裁判所HPの本判決の詳細ページでは,判示事項が「著作権法2条1項1号にいう著作物に当たらないバンドスコアを模倣するなどした行為が不法行為を構成するとされた事例」とされ,裁判要旨と判例集の欄は令和8年10月25日時点でも空欄である。
本判決は事例判決として示されているので,判断の射程は事案の特徴とともに読む必要がある(第6)。

第2 事案と審級の経過
1 バンドスコアと採譜

本判決が引く原審の確定事実によれば,バンドミュージックは録音現場で演奏・録音をしながら作曲されることが多く,作曲者自身が作った完全な楽譜が存在しないことが多い。
そのため楽譜出版社は,著作権等管理事業者の許諾を得たうえで楽曲の音源を聴き取り,ボーカル,ギター,キーボード,ドラム等の各パートの演奏情報を書き起こす「採譜」をして,バンドスコアを制作・販売している。
採譜は,本判決によれば「専門的な音楽教育を受けた上で相当な修練を積んだ者が、相応の時間をかけて行う作業」である。

被上告人(第一審原告)は,自ら採譜をしてバンドスコアを制作・販売する楽譜出版社であり,579曲について多大な費用,労力及び時間をかけてバンドスコアを制作した。
ただし,このバンドスコアは音源を基に採譜して作った楽譜であり,著作権法2条1項1号にいう著作物には当たらないとされている。
被上告人自身も,第一審では,北朝鮮映画事件の判例と同じ著作権法6条の文言を用いて,バンドスコアは「著作権法6条各号所定の著作物に該当しない」としたうえで,同判例がいう特段の事情があると主張していた。
楽曲そのものの著作権は別の者にあり,被上告人は著作権によってバンドスコアを守ることができない立場にあった。

2 競業者の行為

競業者である上告人会社は,少なくとも平成23年12月から平成30年6月までの間,本件の579曲についてバンドスコアを制作し,自社のウェブサイトで無料公開して広告料収入を得た。
制作は,上告人会社の代表取締役が自ら購入した被上告人のバンドスコアを音源データとともに担当者に渡し,担当者が自ら採譜をせずに被上告人のバンドスコアに依拠して実質的に同一の表記をする方法で行われた。
本判決は,その内容を,完全に複製したとまではいえないものの「被上告人スコアの全体を細部まで模倣したということができるもの」としている。

被上告人の売上げは,無料公開が行われていた平成24年度から平成29年度までの間,平成23年度に比べて大幅に減少した。
他方,サイトが閉鎖された直後の平成30年7月から9月までの売上げは,前年の同じ時期に比べて大幅に増加した。

3 審級の経過
審級判決結論主な理由第一審東京地裁令和3年9月28日判決(平成30年(ワ)第19860号,第33090号)請求棄却(請求額5億円)原告が模倣を主張した楽曲のいずれについても模倣を認めず,売上げ減少との因果関係も認めなかった控訴審(原審)東京高裁令和6年6月19日判決(令和3年(ネ)第4643号)会社と代表取締役に連帯して1億6925万5305円模倣を認め,採譜に要する時間,労力及び費用へのフリーライドとして特段の事情を認めた上告審最高裁第二小法廷令和8年10月9日判決(令和6年(受)第2078号)上告棄却第3のとおり

第一審は,特段の事情があるかどうかの判断に入る前に,模倣の事実と損害との因果関係の段階で原告の請求を退けた。

(続きを読む...)著作物でない成果物の模倣はいつ不法行為になるか―バンドスコア模倣事件の最高裁令和8年10月9日判決(AI作成)

中小企業の顧問相談を改善につなげる方法―SDGsコンプライアンスの必須対応と自主的取組(AI作成)

目次

第1 法令上の義務と自主的な取組を分ける1 SDGsという名称だけで義務を判断しない2 人権尊重の指針の位置付けも区別する第2 点検を始める前に相談経路と確認範囲を決める1 社長の説明だけで現場の状況を確定しない2 担当者が少ない企業ほど入口を簡潔にする第3 優先順位は人への影響と対応期限を踏まえて決める1 緊急の被害防止と法令上の対応を先送りしない2 会社の損失だけで人権リスクを順位付けしない第4 点検結果を改善事項と実行管理に変える1 根拠と未確認事項を一緒に記録する2 実行担当と完了の証拠を決める第5 顧問相談を継続的な改善へつなげる1 小さな相談から繰り返す原因を探す2 相談件数だけで効果を評価しない第6 取組の説明と公表は実態に合わせる第7 関連記事第8 出典
第1 法令上の義務と自主的な取組を分ける

中小企業の顧問相談では,契約書や就業規則の確認に加え,日々の相談から,繰り返し起きる問題や社内の確認漏れを見つけることができる。
相談の都度回答するだけでなく,何を直し,誰が実行し,いつ効果を確かめるかを決めると,継続的な改善につながる。

SDGsコンプライアンスの点検は,その入口の一つとなる。
本記事では,法令上の義務,契約上の要求及び自主的な取組を分け,点検結果を担当・期限・再確認へつなぐ方法を説明する。
以下の管理表は,企業の状況に合わせて点検結果を整理するための実務上の提案である。

1 SDGsという名称だけで義務を判断しない

東京弁護士会中小企業法律支援センターSDGsプロジェクト・チーム編「SDGsコンプライアンスチェックリストの手引き」第2版は,法令遵守を基盤としてSDGs及びビジネスと人権に関する指導原則に取り組むことを「SDGsコンプライアンス」と呼んでいる。
ただし,チェックリストに掲載されていることだけで,すべての企業に同じ法的義務が生じるわけではない。

個別の項目では,適用法令,対象となる事業・規模・取引,施行日及び経過措置を確認する。
法令上の義務に加え,契約で約束した対応,取引先の調達基準や回答要求,自社の方針に基づく取組を分けて記録する。

2 人権尊重の指針の位置付けも区別する

経済産業省の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」は,それ自体に法的拘束力はないと明記している。
一方で,企業の規模や業種等にかかわらず,日本で事業活動を行う全ての企業による取組を求めている。
指針の性質と,別途適用される法令・契約上の義務を混同しないことが必要である。

自主的な取組として始めた事項でも,実際の問題に法律上の対応義務がある場合がある。
逆に,指針の推奨事項を,根拠の確認なしに一律の法的義務として説明してはならない。

第2 点検を始める前に相談経路と確認範囲を決める
1 社長の説明だけで現場の状況を確定しない

事業内容,拠点,従業員,主要な取引先,調達・販売の経路,過去の相談及び今後の事業計画を確認する。
規程や契約書が存在するかだけでなく,現場で使われているか,担当者が相談できるか,苦情や事故に対応した記録があるかを聞き取る。

問題の影響を受ける人の説明と,管理者の説明が異なる場合には,違いを残して追加確認する。
会社の事情を聴くことと,会社の説明だけで被害の有無を判断することは区別する。

2 担当者が少ない企業ほど入口を簡潔にする

相談窓口,代理担当,弁護士へ連絡する条件及び緊急時の連絡経路を決める。
担当者に多数の点検項目を一度に割り当てず,事業に関係する事項と優先事項から着手する。
ただし,負担を減らすために重大な問題を点検対象から外してはならない。

資料を収集するときは,確認目的,閲覧者,保管先及び共有範囲を指定する。
苦情を申し出た人の情報を,対応に必要な範囲を超えて社内や取引先へ広げない。

(続きを読む...)中小企業の顧問相談を改善につなげる方法―SDGsコンプライアンスの必須対応と自主的取組(AI作成)

家族・資産・会社が絡む相談の整理方法―弁護士と税理士が共有する関係図・資産表・判断事項(AI作成)

目次

第1 最初に依頼者と相談の目的を確認する1 家族と会社を一人の依頼者として扱わない2 利益相反と情報共有を先に点検する第2 関係図には所有・経営・債務のつながりを書く1 人の関係と財産の関係を分ける2 株式の金額と経営の支配を分ける第3 資産表には時価・税務評価・現金の動きを分けて記載する1 一つの評価額をすべての判断に使わない2 親・子・会社・ほかの相続人の負担を比較する第4 弁護士と税理士の連携事項を一枚にまとめる1 担当範囲と判断の前提を明示する2 資料の共有範囲を決める第5 選択肢を比べ,実行後の確認まで予定する1 結論を急がず,現状維持も比較する2 引継ぎと実行後の点検を残す第6 関連記事第7 出典
第1 最初に依頼者と相談の目的を確認する

相続対策や事業承継では,家族が所有する土地,会社の建物,親子間の貸付け,会社の株式などが一つの相談に現れる。
税額だけを比較すると,会社の資金不足や親の生活資金,ほかの相続人との対立を見落とすことがある。

相談の入口では,誰の依頼を受け,誰の財産について,何をいつまでに決めるのかを整理する必要がある。
本記事では,弁護士と税理士が連携する際の関係図,資産表及び判断事項のまとめ方を示す。
以下の表は相談を整理するための実務上の提案であり,法定の様式ではなく,特定の節税方法の適否を判断するものでもない。

1 家族と会社を一人の依頼者として扱わない

親,子,会社及びほかの相続人は,利害が一致する場面もあれば,異なる場面もある。
会社の利益を増やす方法が,親の生活資金を減らすこともある。
社長個人と会社も区別して,委任契約の相手,費用の支払者,説明を受ける人及び最終判断をする人を確認する。

例えば,親の賃貸建物を子の会社へ売る相談であれば,親が売主であり,会社が買主となる。
子が両者の連絡窓口となっても,親本人の希望と会社の意思決定を,子の説明だけで同一視してはならない。

2 利益相反と情報共有を先に点検する

弁護士職務基本規程27条・28条には,職務を行えない事件や一定の同意が問題となる事件について規定がある。
家族全員の同意があれば,どのような案件でも共同で受任できるというものではない。
既存の顧問関係,受任前の相談,関係者間の対立及び各条の条件を個別に確認する。

受任範囲を決める前に,関係者全員の資料を一括して受け取り,共有してしまうことも避ける。
家族共通の説明資料と,個別の相談で得た秘密を区別し,共有できない情報がある場合には,その制約を踏まえて連携方法を決める。

第2 関係図には所有・経営・債務のつながりを書く
1 人の関係と財産の関係を分ける

家族の続柄だけでなく,土地・建物の所有者,会社の株主・役員,借入人・保証人及び貸付先を図に記載する。
登記事項証明書,株主名簿,契約書,借入明細などで確認し,口頭説明だけの事項には「未確認」と付記する。

関係確認する資料・事項相談で確認する理由家族・相続続柄,既存の遺言,希望する承継者財産を受け取る人と説明が必要な人を把握する所有・利用不動産登記,賃貸借・使用貸借,利用実態所有者と収益・費用の負担者を区別する経営・議決権株主名簿,定款,役員,議決権の状況財産移転後に誰が経営判断をするか確認する債権・債務借入・貸付・保証・担保の資料資産額だけでは見えない負担と資金流出を把握する
2 株式の金額と経営の支配を分ける

株式の評価額が低く見える場合でも,議決権や役員選任に関わる重要な財産となり得る。
株式を誰が取得するか,経営に参加しない家族へどのような財産を配分するか,納税や代償金の資金をどこから用意するかを,別々の判断事項として整理する。

会社形態,定款,株式の種類,譲渡制限その他の事情によって必要な手続は異なる。
関係図は手続の結論を出す資料ではなく,確認すべき論点を見つける入口である。

第3 資産表には時価・税務評価・現金の動きを分けて記載する

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一般財団法人で不正が発覚したときの対応―理事・監事の監督責任,利益相反取引及び資金管理(AI作成)

目次

第1 事務局任せの運営をどう点検するか1 理事会・評議員会・監事を区別する2 関連法人でも契約・資金・責任の主体を分ける第2 発覚直後に行う証拠保全と権限の整理1 失われる資料を先に確保する2 システム権限と法人の代表権を分ける第3 利益相反取引は承認と取引実態の両方を見る1 承認機関は理事会である2 理事会が承認しても検収は省略しない第4 理事・監事の責任を個別に検討する1 構造改革の必要性と個人の責任は別である2 監事は事務局の説明を受けるだけの立場ではない第5 損害額と刑事対応を切り分ける第6 少人数でも実行できる資金管理1 一人で支出を完結させない2 規程の制定,運用及び効果を別々に確認する第7 総合研究奨励会の公表資料から読み取れること第8 関連記事と出典1 関連する実務記事2 法令と公表資料
第1 事務局任せの運営をどう点検するか

一般財団法人で不正な支出が疑われたときは,証拠を保全し,現在の支出と権限を点検するとともに,誰が法人を代表し,どの機関が対応を決めるかを確認する必要がある。
事務局長を交代させること,理事を解任すること,損害賠償を請求すること及び管理体制を改めることは,根拠と手続が異なる。

本記事は,一般財団法人の理事・監事,事務局及びその法律相談を担当する者に向けて,2026年10月10日を基準に,初動,利益相反取引,監督責任及び資金管理を整理する。
公益認定を受けた法人には,公益認定法等による規律も別に確認する必要がある。大学,学校法人,株式会社等の関連法人であっても,その法制を一般財団法人にそのまま当てはめることはできない。

1 理事会・評議員会・監事を区別する

一般法人法170条は,一般財団法人に評議員,評議員会,理事,理事会及び監事を置くことを要求する。
同法197条が準用する90条によれば,理事会は業務執行を決定し,理事の職務執行を監督し,代表理事を選定・解職する。
理事又は監事の解任は,同法176条の事由に基づく評議員会決議による。代表理事としての地位を外すことと,理事そのものの解任は別である。

最初に登記事項証明書,定款,役員の選任・就任承諾の資料,職務分掌,決裁規程,理事会・評議員会の議事録及び銀行への届出をそろえる。
大学の役職に連動する慣行や「名義だけ」という説明だけで,正式な役員就任又は法的義務の有無を決めない。

2 関連法人でも契約・資金・責任の主体を分ける

大学や研究室と共同で事業を行っていても,契約当事者,資金の所有者,雇用主,発注者及び支払者が同じとは限らない。
事業ごとに,誰の事業を誰がどの立場で実施し,誰が支払・監査・損失負担をするかを一覧化する。
会計上の「関連公益法人等」という区分だけから,公益認定,大学との法人同一性又は大学の当然の損害賠償責任を推論することはできない。

第2 発覚直後に行う証拠保全と権限の整理
1 失われる資料を先に確保する

自動削除されるメール・チャット,端末の交換予定,会計データ,契約書,稟議,請求書,検収記録,銀行明細及び送金の承認履歴を確認する。
保存担当者,対象期間,取得方法,取得日時及び保管場所を記録し,原本又は元データと調査用の複製を区別する。
本人の説明,反証,通常の取引条件及び不正を否定する資料も保全する必要がある。

調査対象者が証拠の取得先,調査範囲及び報告先を単独で決める体制は避ける。
誰が資料を取得でき,誰が調査を指揮し,理事会・監事の誰に報告するかを決定する。対象者の私物や私用アカウントまで無制限に調べてよいわけではなく,取得権限と必要な協力・同意を個別に確認する。

2 システム権限と法人の代表権を分ける

銀行振込,承認システム又は会計ソフトの利用権限を制限することと,法人法上の代表理事の解職は別の手続である。
必要な支出を止めずに不適切な支出を防ぐため,対象取引,停止権限,代替担当者及び解除条件を定める。
代表者を変更する場合は,適切な決議,後任の選定,変更登記及び金融機関・取引先への通知も確認する。

不正に関与していない理事や監事が不足する場合,重要な支出が継続する場合,又は資産処分のおそれがある場合には,外部専門家へ早期に相談し,独立した調査体制や保全手続を検討する。
疑いがあるというだけで,すべての案件に同じ調査委員会又は支払停止を必要とするわけではない。

第3 利益相反取引は承認と取引実態の両方を見る

(続きを読む...)一般財団法人で不正が発覚したときの対応―理事・監事の監督責任,利益相反取引及び資金管理(AI作成)

当事者が破産したときの民事訴訟―破産手続開始による中断・受継,破産債権に関する訴訟及び慰謝料請求訴訟(AI作成)

目次

第1 この記事の要点第2 中断の基本1 破産財団に関する訴訟手続は中断する2 訴訟代理人がいても中断する3 中断しない訴訟第3 破産者が原告の訴訟(財団に属する権利の訴訟)1 破産管財人の受継と相手方の受継申立て2 受継した場合の訴訟費用3 破産管財人が受け継がない場合4 破産手続が終了した場合第4 破産者が被告の訴訟(破産債権に関する訴訟)1 中断した後は債権の届出・調査に移る2 異議等がある場合の受継3 判決等がある債権第5 名誉毀損による慰謝料請求訴訟1 最高裁昭和58年10月6日判決2 破産手続開始と慰謝料請求訴訟3 破産手続中に金額が確定した場合第6 債権者代位訴訟・詐害行為取消訴訟第7 税務上の扱い第8 実務上の確認事項第9 関連記事第10 出典1 法令2 判例3 公式資料
第1 この記事の要点

本記事は,民事訴訟の係属中に原告又は被告について破産手続開始の決定がされた場合に,その訴訟がどう扱われるかを,破産法の条文と最高裁判例から整理するものである。
訴訟の代理人,相手方の代理人及び破産管財人のそれぞれが,開始決定の直後に何を確認すべきかを示すことを目的とする。

結論は次のとおりである。
①破産者を当事者とする「破産財団に関する訴訟手続」は,破産手続開始の決定によって中断する(破産法44条1項)。
②破産者が原告となって財団に属する権利を請求している訴訟(損害賠償請求訴訟等)は,破産管財人が受け継ぐことができ,相手方も受継の申立てをすることができる(同条2項)。
③破産者が被告となって破産債権を請求されている訴訟は,破産管財人が受け継ぐのではなく,破産債権の届出・調査に移り,異議等があった場合に限り,その訴訟を受け継いで額等を確定する(同法127条・129条)。
④名誉毀損による慰謝料請求権は,具体的な金額が当事者間で客観的に確定するまでは行使上の一身専属性を有し,差押えの対象とならないから,原則として破産財団に属さず,その請求訴訟は中断しない(最高裁昭和58年10月6日判決)。
⑤債権者代位訴訟と詐害行為取消訴訟は,債権者が当事者であっても中断し,破産管財人が受け継ぐことができる(同法45条)。
⑥破産財団に属するかどうかと所得税の課税関係は別の問題であり,心身の損害についての慰謝料や,不法行為により資産に加えられた損害についての損害賠償金は,所得税法上,非課税とされるものがある(所得税法9条1項18号,同法施行令30条)。

本記事の基準日は令和8年10月10日であり,条文はe-Gov法令検索の現行のもの,判例は裁判所ウェブサイトの判決全文によった。
本記事は破産手続を扱い,民事再生手続及び会社更生手続の場合は扱わない。

第2 中断の基本
1 破産財団に関する訴訟手続は中断する

破産法44条1項は,「破産手続開始の決定があったときは、破産者を当事者とする破産財団に関する訴訟手続は、中断する。」と定める。
破産手続開始の決定があると,破産財団に属する財産の管理処分権は破産管財人に専属するから(同法78条1項),破産者がそのまま訴訟を続けることはできない。

中断の対象には,破産者が財団に属する権利を請求する訴訟だけでなく,破産者に対する破産債権を請求される訴訟も含まれる。
同条2項が「中断した訴訟手続のうち破産債権に関しないもの」を破産管財人が受け継ぐと定めていることから,1項で中断する訴訟の中に破産債権に関するものがあることが分かる。

2 訴訟代理人がいても中断する

当事者の死亡等による中断を定める民事訴訟法124条1項は,同条2項で「訴訟代理人がある間は、適用しない」としている。
これに対し,破産法44条1項にはこのような例外が置かれていないから,訴訟代理人が選任されていても,破産手続開始の決定によって訴訟は中断する。

また,委任者の破産手続開始の決定は委任の終了事由とされ(民法653条2号),民事訴訟法58条1項は,訴訟代理権が消滅しない事由として当事者の死亡等を掲げているが,破産手続開始の決定を掲げていない。
破産者の訴訟代理人は,中断後の訴訟について,破産管財人又は破産者のいずれから改めて委任を受けるのかを確認する必要がある。

3 中断しない訴訟

破産財団に属しない財産に関する訴訟は,「破産財団に関する訴訟手続」に当たらないから,中断しない。
差し押さえることができない財産は,原則として破産財団に属しないとされている(破産法34条3項2号)。
後記第5の名誉毀損による慰謝料請求訴訟がその典型例である。

第3 破産者が原告の訴訟(財団に属する権利の訴訟)
1 破産管財人の受継と相手方の受継申立て

(続きを読む...)当事者が破産したときの民事訴訟―破産手続開始による中断・受継,破産債権に関する訴訟及び慰謝料請求訴訟(AI作成)

租税条約を適用する前に確かめる5つのこと―署名と発効,適用開始日,BEPS防止措置実施条約,終了通告及び届出書(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 署名だけでは条約を適用できない1 署名・批准・発効の関係2 署名済み・未発効の条約の例第3 発効日と適用開始日を分ける第4 BEPS防止措置実施条約による修正を確かめる1 両方の国が選んだ条約・規定だけが修正される2 適用開始の時期3 統合条文と留保・通告の一覧の使い方第5 終了通告と脱退を確かめる1 租税条約の終了2 BEPS防止措置実施条約からの脱退3 終了・脱退の規定がない条約との違い第6 届出書の提出時期と還付請求第7 実務の確認表第8 関連記事第9 出典1 財務省2 法令・条約3 確認状態
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,非居住者・外国法人への支払や,外国から日本へ来た人の給与等について,租税条約による軽減・免除を検討する税理士・弁護士の実務を念頭に,条約の条文の中身に入る前に確かめておくべき事項を整理するものである。

基準日は令和8年(2026年)10月10日である。
各国との租税条約の署名日・発効日は財務省「我が国の租税条約等の一覧」(2026年6月26日現在)により,BEPS防止措置実施条約の締約国等は財務省「BEPS防止措置実施条約に関する資料」(2026年5月6日現在の記載)による。
最新の状況は,案件ごとに財務省のページで確かめる必要がある。

2 結論

租税条約を使う前に,少なくとも次の5点を確かめる。

①その条約が署名されただけでなく,発効しているか
②発効していても,問題の所得・課税期間に適用が始まっているか(発効日と適用開始日は違う)
③BEPS防止措置実施条約によって条文が修正されていないか(修正は,両方の国が選んだ場合に限られる)
④終了の通告がされていないか(終了の効果が生じる日も条約で決まる)
⑤源泉徴収の軽減・免除を受けるための届出書を,期限までに出しているか(出していなければ還付請求で取り戻す)

これらは,条約の適用関係を条約の条文と国際法の一般的な規則(条約法に関するウィーン条約)に沿って確かめる作業であり,条約上の軽減税率や免税要件の検討より先に行う。

第2 署名だけでは条約を適用できない
1 署名・批准・発効の関係

条約に拘束されることについての国の同意は,国の代表者が批准を条件として署名した場合には,批准により表明される(条約法に関するウィーン条約14条1項(c))。
租税条約も,多くは批准(又は国会の承認と外交上の公文の交換)を経て発効する。
例えば,日米租税条約(2003年11月6日署名)30条1は,「この条約は,批准されなければならない」とし,批准書の交換の日に効力を生ずると定めている。

署名から発効までの間,署名した国は,当事国とならない意図を明らかにする時まで,条約の趣旨及び目的を失わせることとなるような行為を行わない義務を負う(条約法に関するウィーン条約18条(a))。
もっとも,これは国と国との間の義務であり,署名されたことによって,その条約が定める軽減税率や免税の規定が納税者に適用されるようになるわけではない(本記事の理解である。)。

2 署名済み・未発効の条約の例

財務省「我が国の租税条約等の一覧」(2026年6月26日現在)には,署名日だけが記載され,発効日が「未発効」とされている条約がある。

①アルゼンチンとの原条約は,2019年6月27日に署名されたが,発効日は「未発効」とされている。
②フィリピンとの新条約は,2026年5月28日に署名されたが,発効日は「未発効」とされ,1980年に発効した原条約と2008年に発効した改正議定書が併せて掲載されている。

報道や財務省の署名のお知らせで新条約を知っても,発効するまでは,その新しい規定を前提に源泉徴収を軽減したり申告したりすることはできない。
フィリピンのように旧条約がある国では,新条約の発効までは旧条約(改正議定書による改正後のもの)で確かめることになる。

第3 発効日と適用開始日を分ける

条約が発効しても,その日から全ての所得に適用されるとは限らない。

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ストライキ不参加者への慰労金・弁当代は不当労働行為か―支配介入・不利益取扱い,救済命令の限界及び給与課税(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論1 対象とする場面2 結論の要旨第2 ストライキ中の操業継続と,事後の慰労金の支給は別の問題である第3 支配介入(労働組合法7条3号)に当たるか1 判断の枠組み2 支配介入を認めた例3 判断に使われる事情第4 不利益取扱い(労働組合法7条1号)に当たるか第5 労働委員会が命じる救済とその限界1 命令例2 救済命令の裁量とその限界3 申立ての期間第6 支給した金銭の課税(給与課税と源泉徴収)1 現金の「弁当代」は原則として給与になる2 残業時の食事の非課税と,深夜勤務の夜食代の例外3 実務上の対応第7 会社・組合が確認すべき事項1 会社側2 組合側第8 関連記事第9 出典1 法令・通達等2 裁判例・労働委員会命令3 司法試験の公式資料4 確認状態
第1 この記事の対象と結論
1 対象とする場面

労働組合がストライキを行った日に,非組合員や応援の従業員が代わりに働き,業務が深夜に及ぶことがある。
その後,会社が感謝の気持ちとして,当日働いた従業員に慰労金や「弁当代」を配ることは珍しくない。
本記事は,この支給が労働組合法7条の不当労働行為(1号の不利益取扱い,3号の支配介入)に当たるか,労働委員会がどのような救済を命じ得るか,及び支給した金銭が所得税法上どう課税されるかを,労働委員会命令・裁判例と国税庁の通達等に基づいて整理するものである。
法令・通達は令和8年10月10日時点のものを確認している。

2 結論の要旨

①ストライキ中も操業を続けるための対策を講じることは使用者の自由であるが,ストライキの代替勤務に就いた者だけに後日特別な金員を支給することは,争議行為の効果を減殺し,今後の争議行為をけん制するものとして,支配介入と評価されることがある。
②支配介入に当たるかは,支給の名目・時期・方法・金額・前例の有無,時間外割増賃金との関係,同時期の使用者の言動等を総合して判断される。
③不利益取扱いに当たるかは命令例でも結論が分かれ,支給基準が組合活動と無関係に引かれているか(組合員でない者にも支給対象外の者がいるか)が分かれ目になる。
④救済としては,ポストノーティスや,今後の同種の支給を禁じる不作為命令のほか,ストライキ参加者への金銭の支払を命じた例もある。
⑤税務上は,「弁当代」の名目でも,現金で一律に支給すれば原則として給与として課税され,源泉徴収の対象となる。

第2 ストライキ中の操業継続と,事後の慰労金の支給は別の問題である

最高裁平成4年10月2日判決(集民166号1頁,御國ハイヤー事件)は,ストライキの本質は労働者が労務の提供をしないことにあるとした上で,使用者はストライキの期間中であっても業務の遂行を停止しなければならないものではなく,操業を継続するために必要とする対抗措置を採ることができると述べている。
したがって,非組合員や管理職で操業を続けること,応援の従業員に時間外勤務を命じること自体は,原則として問題とならない。

他方,ストライキが終わった後に,代わりに働いた従業員だけに特別な金員を配ることは,操業の継続そのものではない。
中央労働委員会平成17年9月7日命令(東日本旅客鉄道(千葉動労褒賞金)事件)は,会社がストライキによる影響を最小限に抑えるために対策を講じることは自由であるとしつつ,代替の臨時勤務に就いた者に褒賞金等を支給して会社の方針に協力した者を優遇することは,ストライキの権利行使の効果を減殺するものといわざるを得ないとした。
同命令は,支給がストライキの終了後であっても,今後のストライキに対する抑止力となり得ることも理由に挙げている。

第3 支配介入(労働組合法7条3号)に当たるか
1 判断の枠組み

労働組合法7条3号は,労働者が労働組合を結成し,若しくは運営することを支配し,若しくはこれに介入することを不当労働行為として禁止している。
最高裁昭和29年5月28日判決(民集8巻5号990頁,山岡内燃機事件)は,客観的に組合活動に対する非難と組合活動を理由とする不利益取扱いの暗示とを含む発言により組合の運営に影響を及ぼした事実がある以上,発言者に主観的な認識や目的がなかったとしても,組合の運営に対する介入があったものと解するのが相当であるとした。
慰労金の支給でも,会社が組合を弱めるつもりはなかったと述べるだけでは足りず,支給の客観的な意味が問われる。

2 支配介入を認めた例

青森県地方労働委員会平成3年7月10日命令(陸奥製菓事件)は,冬期一時金をめぐる24時間ストライキの当日に勤務した従業員のうち75名に対し,後日,取締役生産部長が現金入りの封筒(感謝金。1人当たり2,000円又は1,000円)を手渡した事案である。
会社は,深夜まで働いた従業員への感謝であり,金額も弁当代相当額にすぎないと主張した。
しかし,命令は,ストライキ時の時間外労働には時間外割増賃金が支払われていたこと,時間外労働をした従業員に割増賃金以外の金員を支給した前例がないこと,ストライキの翌日に社長が組合を誹謗・中傷し社長名の文書で抗議したことを併せ考えて,会社の主張を採用せず,不利益取扱い(1号)と支配介入(3号)に当たると認定した。
会社は社長個人の行為であるとも主張したが,命令は,原資の出所いかんにかかわらず会社の行為とみなさざるを得ないとした。

東日本旅客鉄道(千葉動労褒賞金)事件では,ストライキの当日及びその前後に臨時の勤務に就いた社員に1日3,000円又は5,000円の褒賞金が支給された。

(続きを読む...)ストライキ不参加者への慰労金・弁当代は不当労働行為か―支配介入・不利益取扱い,救済命令の限界及び給与課税(AI作成)

政治家の演説の切り抜き動画・要約をSNSに載せてよいか―著作権法40条1項,演説動画の著作権及び放送の著作隣接権(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論1 対象2 結論の要旨第2 演説そのもの―40条1項1 条文と要件2 要約・書き起こし・切り抜きも含まれる3 40条2項との違い4 40条1項の対象とならない話第3 演説を撮影・編集した動画の著作権1 動画は映画の著作物になり得る2 動画の著作者と著作権者3 40条1項は動画の著作権を制限しない第4 テレビ放送・同時配信から切り抜く場合1 番組の著作権と放送事業者の著作隣接権2 102条1項は40条を準用していない第5 切り抜く側が頼れる規定1 引用(32条1項)2 時事の事件の報道(41条)3 映像作品を要約した動画との違い第6 著作者人格権・名誉・肖像1 権利制限規定は著作者人格権に影響しない2 名誉毀損3 肖像第7 実務のチェックリスト1 切り抜き・要約を作る側2 削除を求める側第8 関連記事第9 出典及び確認状態1 法令2 裁判例3 公式資料4 確認状態
第1 この記事の対象と結論
1 対象

本記事は,政治家や立候補予定者が街頭や集会で行った演説を,第三者が切り抜き動画にし,又は要約してSNS・ブログ・動画サイトに載せることが,著作権法上どこまで許されるかを整理するものである。
演説をした側(政治家・陣営)から削除を求める場合と,切り抜きや要約を作る側の双方の立場から検討する。
条文は,令和8年10月10日時点の著作権法(e-Gov法令検索)による。

2 結論の要旨

①公開して行われた政治上の演説そのもの(言語の著作物)は,同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き,いずれの方法によるかを問わず利用することができる(40条1項)。
要約,書き起こし,字幕付けも含まれると解される。
②もっとも,40条1項が自由な利用を認めるのは演説という著作物である。
演説を撮影・編集した動画に撮影や編集の創作性があれば,その動画の著作権は別に問題となると考えられる。
③テレビ放送等を録画して切り抜く場合は,放送事業者の著作隣接権(98条の複製権,99条の2の送信可能化権)も問題となる。
著作隣接権の制限を定める102条1項は,40条を準用していない。
④他人が撮影した動画や放送の映像を使うときは,引用(32条1項)又は時事の事件の報道(41条)の要件を満たす必要がある。
⑤切り抜き方によって発言の趣旨を歪めれば,演説者の同一性保持権(20条1項),名誉声望を害する利用(113条11項)又は名誉毀損の問題が生じ得る。

第2 演説そのもの―40条1項
1 条文と要件

著作権法40条1項は,「公開して行われた政治上の演説又は陳述並びに裁判手続及び行政審判手続(行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続をいう。第四十一条の二において同じ。)における公開の陳述は、同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。」と定める。
演説の原稿や話した内容は,思想又は感情を創作的に表現したものであれば言語の著作物(2条1項1号,10条1項1号)であるが,同項の要件を満たす限り,著作権者の許諾なく利用できる。

(1) 公開して行われたこと

駅前や街頭での演説,誰でも参加できる集会での演説は,公開して行われたものといえる。
これに対し,後援会や支持者だけを集めた非公開の会合での話は,参加者が多くても,公開して行われたとはいえない場合がある。

(2) 政治上の演説又は陳述

40条1項の趣旨は,公開の場でされた政治上の意見の表明を広く国民に伝え,自由な批判にさらすことにあると考えられる。
そうすると,政治上の演説に当たるかは,演説者が現に議員等の地位にあるかではなく,演説の内容が国や社会のあり方についての意見の表明であるかによって判断するのが自然である。
令和7年司法試験の知的財産法第2問は,政治家を目指している者が駅前広場で日本の将来を論じた文章の要約の掲載を素材として,同項の適用を問うている。

(3) 同一の著作者のものを編集して利用する場合

同項は,同一の著作者のものを編集して利用する場合を除いている。
法務省の令和7年司法試験の採点実感(知的財産法)は,この除外について,同一の著作者による複数の演説をまとめて出版するような場合が想定されているとし,一つの演説を要約した事案もこれに当たると誤解した答案が少なからず見られたと指摘している。
一人の政治家の演説を多数集めて演説集として出版・配信するような利用は,同項によっては許されない。

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農協による系統出荷・系統利用の強制と独占禁止法―融資・共同利用施設の条件付け,22条の適用除外及び公取委の事例(AI作成)

目次

第1 結論第2 農協と独占禁止法の関係1 農協は事業者でもある2 22条の適用除外とその限界3 農業協同組合法10条の2第3 問題となる行為の類型と公取委の事例1 融資(信用事業)の条件付け2 共同利用施設・リース事業の条件付け3 出荷先の制限,除名及び差別的取扱い4 系統外出荷に対する金銭の徴収第4 違法性の判断枠組み1 「拘束」の有無2 市場の画定3 市場閉鎖効果4 正当化の主張第5 関係者別の確認事項1 農協2 組合員・商系業者第6 関連記事第7 出典1 法令2 公取委の指針・公表資料3 裁判例
第1 結論

農業協同組合(以下「農協」という。)が,販売ルートの開拓,割安な資材の提供,利用の呼びかけ等によって,組合員に自らの販売事業・購買事業の利用を促すことは,独占禁止法上問題とならない。
これに対し,融資,共同利用施設の利用,リース等に当たり,農協への出荷(系統出荷)や農協からの資材購入を条件とし,組合員と商系業者との取引を制限することは,不公正な取引方法(拘束条件付取引,排他条件付取引,抱き合わせ販売等)に当たり得る。

農協は独占禁止法22条の組合とみなされるが(農業協同組合法8条),「不公正な取引方法を用いる場合」は適用除外とならない(独占禁止法22条ただし書)。
違法となるかは,農協の地位,拘束の範囲・程度・期間,商系業者の状況等から,商系業者の取引の機会が減少するような状態をもたらすおそれ(市場閉鎖効果)があるかで判断される。
公正取引委員会(以下「公取委」という。)は,融資,共同利用施設の利用及び出荷先の制限について,警告や排除措置命令を重ねている。

本記事は,令和8年10月10日時点の法令と公取委の公表資料に基づく。
令和7年司法試験の経済法第2問は,まさにこの類型(低利融資の条件として組合員にαの8割の系統出荷を求める計画)を素材としている(令和7年度司法試験経済法第2問の模範解答と評価項目)。

第2 農協と独占禁止法の関係
1 農協は事業者でもある

独占禁止法2条1項は,「事業者」を「商業,工業,金融業その他の事業を行う者」と定義している。
公取委の「農業協同組合の活動に関する独占禁止法上の指針」(以下「農協ガイドライン」という。)は,単位農協は,事業者である組合員の結合体である点で事業者団体に当たると同時に,購買事業,販売事業,利用事業,信用事業等の事業活動を行うことから事業者にも当たるとしている(第2部第1の2)。
組合員である個人の農業者も事業者に当たる。

2 22条の適用除外とその限界

独占禁止法22条は,小規模の事業者の相互扶助を目的とすること等の要件を備え,法律の規定に基づいて設立された組合の行為には同法を適用しないとしつつ,ただし書で,「不公正な取引方法を用いる場合」等は「この限りでない」と定めている。
農業協同組合法8条は,農協を同条1号及び3号の要件を備える組合とみなしている。
農協ガイドラインは,共同購入,共同販売及び農協内での共同計算は適用除外となる一方,不公正な取引方法を用いる場合等は適用除外とならないとしている(第2部第1の3)。

土佐あき農協事件の東京高裁令和元年11月27日判決(令和元年(行コ)第131号,判例秘書の判例番号 L07420604)は,22条ただし書に当たる場合には同法の規定がそのまま適用され,協同組合が共同販売事業の事業者として不公正な取引方法に当たる行為をしたときは,19条がそのまま適用されるとした。
同判決は,22条ただし書を経由する場合に限って,共同経済事業が関連市場で有力な地位にあることを別に要件とすべきだという農協側の主張も退けている。

3 農業協同組合法10条の2

農業協同組合法10条の2は,組合は同法10条の事業を行うに当たっては「組合員に対しその利用を強制してはならない」と定めている。
農協ガイドラインは,組合員が農協の事業を利用するか否かは組合員の自由意思に委ねられており,事業の利用を強制することは農協制度の趣旨に反するとともに,商系事業者等の取引の機会を奪うことなどを通じて農業分野の競争に悪影響を及ぼすとしている(第1部の1⑴)。

第3 問題となる行為の類型と公取委の事例
1 融資(信用事業)の条件付け

農協ガイドラインは,組合員は営農に必要な資金の融資について農協への依存度が高いとして,信用事業の利用に当たり,購買事業又は販売事業の利用を事実上余儀なくさせる行為を,一般指定10項(抱き合わせ販売等),11項(排他条件付取引)又は12項(拘束条件付取引)に当たり違法となるおそれがあるものとして挙げている(第2部第2の1⑶・2⑶)。
具体例には,融資に当たり組合員が農畜産物を農協系の加工業者だけに供給することを条件とすることが含まれている。

公取委は,士幌町農業協同組合が,生産資材等を購入するための短期貸付金について,同農協から生産資材を購入する場合に限って融資を行うものとしていたこと等について,拘束条件付取引に当たるおそれがあるとして,平成18年7月21日に警告した。

2 共同利用施設・リース事業の条件付け

育苗センター,ライスセンター,カントリーエレベーター等の共同利用施設は,設備費・維持費が高く,組合員が代替施設を持つことが難しい。

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業界団体・資格者団体の「参考料金」「報酬の目安」と独占禁止法―事実上の決定,割増料金,自主基準による取引制限及び課徴金の税務(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論第2 事業者団体規制の基本1 事業者団体に当たる団体2 禁止される行為と違反の効果3 団体の「決定」は正式な議決に限られない第3 価格・料金・報酬に関する活動1 価格の制限は理由を問わず原則として違反となる2 割増料金・手数料も「価格」に当たる3 会員から求められた「参考となる金額」4 原則として許される情報提供第4 品質・安全・品位を目的とする自主基準と取引の制限1 自主規制の判断基準2 基準が認める例外の取引を団体が一律に禁止する場合3 弁護士が点検する視点4 行政の規制と民間の利用制限を分ける第5 資格者団体(弁護士会・税理士会等)の場合1 強制入会と競争への影響2 報酬の基準3 報酬についての情報提供と算定方法の解説4 広告と顧客獲得の制限第6 構成事業者に課される課徴金と税務1 課徴金は団体でなく構成事業者に課される2 法人の場合(損金不算入)3 個人事業者の場合(必要経費不算入)4 損害賠償金との区別第7 団体の会合や文書を点検するときの確認事項第8 関連記事第9 出典1 法令2 公正取引委員会の資料3 国税庁の通達4 確認状態
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象

本記事は,業界団体(独占禁止法上の事業者団体)や,弁護士会・税理士会等の資格者団体が,会員の価格・料金・報酬や取引の方法について決定,申合せ又は情報提供をする場合に,独占禁止法上どこに注意すべきかを,団体や会員から相談を受ける弁護士と,会員の申告を担う税理士の実務の観点から整理するものである。
基準日は令和8年10月10日であり,法令はe-Gov法令検索の現行条文によっている。
公正取引委員会の指針,考え方及び相談事例は,同委員会のウェブサイトの公表資料によっている。
個別の活動が独占禁止法に違反するかどうかは,業務の内容や市場の状況等を踏まえて個々に判断されるので,判断に迷う場合は,公正取引委員会の事前相談を利用することになる。

2 結論

①団体の「決定」は,総会や理事会の正式な議決に限られず,慣行上団体の決定として扱われている委員会・幹事会等の事実上の決定も含まれる。
②会員からの要請に応じて示す「参考となる金額」であっても,価格設定の基準を決めるものであれば独占禁止法上問題となり,割増料金・手数料・報酬等の名目であっても価格に当たる。
③品質,安全又は品位の確保を目的に掲げた自主基準であっても,その遵守を強制したり,基準自体が認める例外の取引を団体が一律に禁止したりすると,正当化されにくい。
④資格者団体が報酬の標準額や目標額等の共通の目安を設定することは,通常の事業者団体と同じく問題となる一方,過去の報酬の統計を需要者も含めて公表することや,単価を示さずに算定方法を解説することは,原則として問題とならない。
⑤事業者団体の独占禁止法8条1号違反(不当な取引制限に相当するもの)のうち対価に係るもの等についての課徴金は,団体ではなく構成事業者に課され,法人では損金の額に,個人事業者では必要経費に算入されない。

第2 事業者団体規制の基本
1 事業者団体に当たる団体

独占禁止法2条2項は,事業者団体を,事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする2以上の事業者の結合体又はその連合体と定義し,2以上の事業者が社員である社団法人その他の社団等を含むとしている。
公正取引委員会の「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(以下「事業者団体ガイドライン」という。)は,○○工業会,○○協会,○○組合等や,これらの連合会が事業者団体に当たるとし,「事業者としての共通の利益」は業界一般の利益でもよく,「主たる目的」は定款等の目的にとらわれず活動内容から実質的に判断されるとしている(第一の2)。
したがって,定款に「業界の健全な発展」「品質向上」「環境保全」等の公益的な目的が書かれていても,会員である事業者の経済活動上の利益に寄与する活動をしていれば,事業者団体に当たることが多い。

弁護士,税理士等の資格者も,報酬を得て業として経済活動を行う場合は事業者に当たり,資格者団体も事業者団体として独占禁止法の適用を受ける(公正取引委員会「資格者団体の活動に関する独占禁止法上の考え方」(以下「資格者団体の考え方」という。)第1)。

2 禁止される行為と違反の効果

独占禁止法8条は,事業者団体が,一定の取引分野における競争を実質的に制限すること(1号),構成事業者の機能又は活動を不当に制限すること(4号),事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること(5号)等をしてはならないと定めている。
事業者団体ガイドラインは,価格,数量,顧客・販路,設備及び参入に関する制限について,市場における競争を実質的に制限すれば8条1号に違反し,そこまで至らない場合であっても原則として同条3号,4号又は5号に違反するとしている(第二の(2))。

違反行為に対しては,公正取引委員会が事業者団体に対して行為の差止め等の排除措置を命ずることができ(8条の2第1項),特に必要があるときは,団体の役員や構成事業者に対しても必要な措置を命ずることができる(同条3項)。
課徴金は,8条1号違反のうち不当な取引制限に相当する行為等について,構成事業者に課される(8条の3)。
8条4号違反は課徴金の対象とならないが,事業者団体ガイドラインは,8条1号から4号までの違反について刑事罰の定めがあることも示している(第一の6)。

3 団体の「決定」は正式な議決に限られない

事業者団体ガイドラインは,事業者団体の「決定」は,正規の意思決定機関の議事を経た明示の決定に限られず,慣行等に基づく事実上の決定も含まれるとし,規程上は意思決定機関でない委員会や部会等の決定・合意が慣行上団体の決定として扱われている場合はこれに当たるとしている(第二の(8))。
例えば,定款上は総会の決定事項であっても,会長と有力会員から成る幹事会が総会までの事項を事実上決め,会員がこれに従い,後の総会で追認する運用があれば,追認前であっても幹事会の決定は団体の決定と評価され得る。
団体の相談を受ける弁護士は,定款や規程上の権限だけでなく,役員会,委員会,部会,懇談会等での申合せが実際にどう扱われ,会員がそれに従っているかを確認する必要がある。

会合を評価するときは,事業者間の合意と,団体自身の決定を分ける。競争会社の担当者が団体の事務所で会合を開いたという場所の事情だけで,団体の決定や独占禁止法8条違反が成立するわけではない。他方,「非公式の懇談会」という名目であっても,各社間の価格合意又は団体の事実上の決定に当たるかは,議題,出席者の権限,事務局の関与及び各社への伝達・実施状況から検討する。

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民事再生の再生計画案が否決されたとき―再生手続廃止の確定前後の破産手続への移行,給料・租税・開始前借入れの扱い及び再度の再生手続開始の申立て(AI作成)

目次

第1 この記事の対象第2 否決から再生手続廃止の決定まで1 否決されると職権で廃止決定がされる2 可決要件と棄権の効果3 書面投票では続行期日がなく,決議に付した後は修正できない第3 廃止決定の確定前後と破産手続への移行1 廃止決定は確定するまで効力を生じない2 確定前にできること3 確定後は「職権で開始することができる」第4 破産手続に移った後の調整1 否認・相殺禁止の基準時2 共益債権は財団債権となる3 給料の財団債権の範囲は「再生手続開始前3月間」に読み替わる4 租税は「破産手続開始当時」を基準に財団債権かどうかが決まる5 再生債権の届出を破産債権の届出として扱う決定第5 再度の再生手続開始の申立て1 禁止規定はなく,25条3号・4号で判断する2 判断の視点第6 実務上の確認事項1 再生債務者の代理人2 債権者・スポンサー・労働者側3 税理士第7 関連記事第8 出典
第1 この記事の対象

本記事は,法人の通常再生で再生計画案が否決されたときに,その後の手続がどう進むかを,民事再生法及び破産法の条文に沿って整理するものである。
扱うのは,①否決から再生手続廃止の決定まで,②廃止決定の確定前と確定後の破産手続への移行(いわゆる牽連破産),③破産手続に移った後の給料・租税・開始前借入れ等の扱い,④廃止後の再度の再生手続開始の申立てである。

条文は,令和8年10月時点でe-Gov法令検索に掲載されている民事再生法及び破産法により確認した。
租税の区分については,令和8年10月15日の現行施行版を踏まえて整理している。
本記事の素材は,令和7年司法試験の倒産法第2問の検討の過程で確かめた条文である。

第2 否決から再生手続廃止の決定まで
1 否決されると職権で廃止決定がされる

再生計画案が否決されたときは,裁判所は,職権で,再生手続廃止の決定をしなければならない(民事再生法191条3号)。
同号は,債権者集会の続行期日が定められた場合に,所定の期間内に可決されないときも廃止事由としている。

2 可決要件と棄権の効果

再生計画案の可決には,次の二つの同意がいずれも必要である(民事再生法172条の3第1項)。
①議決権者(債権者集会に出席し,又は書面等投票をしたものに限る。)の過半数の同意
②議決権者の議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意

①の頭数は,出席又は投票をした議決権者を分母とするが,②の金額は,議決権者全体の議決権の総額を分母とする。
そのため,投票を棄権した債権者は,①の分母からは外れるが,②では同意に数えられないまま分母に残り,結果として反対と同じ方向に働く。
反対する債権者の比率が2分の1に届かなくても,棄権が多ければ②を満たさずに否決されることがある。

3 書面投票では続行期日がなく,決議に付した後は修正できない

議決権行使の方法は,裁判所が,再生計画案を決議に付する旨の決定の中で,①債権者集会の期日で行使する方法,②書面等投票による方法,③議決権者が①②のいずれかを選ぶ方法のどれかに定める(民事再生法169条2項)。
債権者集会の続行期日の制度(同法172条の5第1項)は,①又は③が定められた場合に限られる。
②の書面等投票だけの方法で否決されたときは,続行期日で再び可決を目指すことはできない。

また,再生計画案は,裁判所の許可を得て修正できるが,決議に付する旨の決定がされた後は修正できない(民事再生法167条)。
書面投票の結果を見てから条件を改めることはできないので,再生債務者の代理人としては,計画案を提出して決議の方法について裁判所と協議する段階で,主要債権者の賛否の見込みと,否決された場合に続行期日を使えるかを比べておく必要がある。

第3 廃止決定の確定前後と破産手続への移行

以下の否決後の移行と,認可決定が確定した後の遂行不能は,段階を分けて確認する。
手続継続中に遂行の見込みがないことが明らかになった場合の廃止は民事再生法194条による必要的な判断であり,同法189条の裁量的な計画取消しとは異なる。
認可確定後の廃止だけでは,計画による権利変更は当然には消えない(同法195条6項)。

職権破産には,同法250条1項の裁量的な開始と,同条2項の先行破産手続が計画認可確定で効力を失った後の廃止・取消しについて原則として必要的な開始とする規定がある。
先行する破産開始,認可確定及び同条2項ただし書の適用を確認し,すべての類型を「職権で開始できる」とまとめない。

(続きを読む...)民事再生の再生計画案が否決されたとき―再生手続廃止の確定前後の破産手続への移行,給料・租税・開始前借入れの扱い及び再度の再生手続開始の申立て(AI作成)

外国企業に雇われて日本で働く人の労働紛争―管轄条項の効力(民訴法3条の7第6項),準拠法と日本の強行規定(通則法12条),国外払い給与の確定申告(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論の要約1 対象とする場面2 結論の要約第2 どこの国の裁判所に訴えることができるか1 労務の提供の地による管轄2 外国の裁判所だけを指定する管轄条項の効力3 特別の事情による却下第3 どの国の法律が適用されるか1 準拠法条項があっても日本の強行規定が適用される場合2 労務を提供すべき地の判断3 どの規定が「特定の強行規定」に当たるか4 意思表示をしないと適用されない5 不法行為として請求する場合第4 税務の注意点1 国外払いの給与と確定申告2 損害賠償金・保険金は非課税になり得る第5 相談を受けたときの確認事項第6 関連記事第7 出典1 法令2 行政資料3 司法試験の公式資料
第1 この記事の対象と結論の要約
1 対象とする場面

本記事は,外国の会社に雇われて日本で働いている人(外国の本社から日本へ赴任している人,日本に住んで外国の会社の業務を遠隔で行っている人等)と,その雇主との間で,賃金,解雇,労働災害,安全配慮義務等をめぐる紛争が起きた場合に,①どこの国の裁判所に訴えることができるか,②どの国の法律が適用されるか,③給与や損害賠償金の税務をどう扱うか,を整理するものである。
雇用契約書には,「一切の紛争は本国の裁判所で解決する」という管轄条項や,「準拠法は本国法とする」という準拠法条項が置かれていることが多いが,日本の民事訴訟法と法の適用に関する通則法は,労働者を守るための特則を置いている。
本記事は令和8年10月10日現在の法令によっている。

2 結論の要約

①労働者から雇主への訴えは,労務の提供の地が日本国内にあれば,日本の裁判所に提起することができる(民事訴訟法3条の4第2項)。
②雇用契約の締結時に定めた「本国の裁判所でだけ裁判をする」という条項は,将来の個別労働関係民事紛争を対象とする合意であり,労働契約の終了時の合意であるか,労働者自身がその合意に基づいて合意された国で訴えるか,雇主から訴えられた労働者がその合意を援用する場合でない限り,効力を有しない(同法3条の7第6項)。
③準拠法条項で外国法が選ばれていても,労働者が,その労働契約に最も密接な関係がある地の法(日本で継続して働いていれば,通常は日本法と推定される。)の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を雇主に表示すれば,その強行規定も適用される(法の適用に関する通則法12条1項・2項)。
もっとも,表示をしなければ適用されないので,訴状等で適用を求める規定を特定して主張することが重要である。
④日本の居住者が,源泉徴収義務のない者から給与の支払を受けている場合は,確定申告が必要になる(国税庁タックスアンサーNo.1900)。
心身に加えられた損害についての損害賠償金は,どの国の法律に基づいて支払われるかにかかわらず,所得税の非課税規定の対象になり得る(所得税法9条1項18号,同法施行令30条1号)。

第2 どこの国の裁判所に訴えることができるか
1 労務の提供の地による管轄

民事訴訟法3条の4第2項は,「労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争」(個別労働関係民事紛争)に関する労働者からの事業主に対する訴えは,「労務の提供の地(その地が定まっていない場合にあっては、労働者を雇い入れた事業所の所在地)」が日本国内にあるときは,日本の裁判所に提起することができると定めている。
外国の会社が日本に事務所や営業所を持っていなくても,この規定によって日本の裁判所に訴えることができる。
管轄の有無は,訴えの提起の時を標準として判断される(同法3条の12)。

労働者が日本で継続して働いていれば,短期間の海外出張があっても,労務の提供の地は日本にあると考えるのが自然である。
また,日本に住んで,外国にあるシステムや外国の顧客の業務を遠隔で行っている場合も,条文に明示の定めはないが,労務を現実に提供しているのは労働者が働いている日本であると考えられる。
逆に,外国で働いている人が日本の顧客のために遠隔で仕事をしているだけなら,労務の提供の地が日本にあるとはいいにくい。

なお,雇主から労働者に対する訴えには,契約上の債務の履行地等による管轄の規定(同法3条の3)が適用されない(同法3条の4第3項)。
雇主が労働者を訴えるときは,原則として,労働者の住所地の国の裁判所によることになる(同法3条の2第1項)。

2 外国の裁判所だけを指定する管轄条項の効力

民事訴訟法3条の7は,当事者が合意によりいずれの国の裁判所に訴えを提起できるかを定めることを認めているが,同条6項は,「将来において生ずる個別労働関係民事紛争を対象とする」合意は,次のいずれかの場合に限って効力を有するとしている。
①労働契約の終了の時にされた合意であって,その時における労務の提供の地がある国の裁判所に訴えを提起することができる旨を定めたもの(その国の裁判所にのみ訴えを提起できる旨の合意は,原則として,他の国の裁判所にも訴えを提起することを妨げない旨の合意とみなされる。)
②労働者が当該合意に基づき合意された国の裁判所に訴えを提起したとき,又は事業主が日本若しくは外国の裁判所に訴えを提起した場合において,労働者が当該合意を援用したとき

したがって,雇用契約の締結時に置かれた「一切の紛争は本国の裁判所で解決し,他の国の裁判所では裁判をしない」という条項は,労働者が日本の裁判所に訴えた場合には,雇主がこれを援用しても効力がなく,日本の管轄は否定されない。
令和7年司法試験の国際関係法(私法系)第1問は,まさにこの場面を出題しており,出題の趣旨は,労働契約の終了時の合意でなく,労働者が合意された国の裁判所に訴えを提起したものでもないから,同項1号・2号のいずれの要件も満たさず,合意の効力は認められないとしている。

なお,同条は平成23年法律第36号による改正で設けられた規定であり,同法の附則2条2項により,その施行前にされた合意には適用されない。

(続きを読む...)外国企業に雇われて日本で働く人の労働紛争―管轄条項の効力(民訴法3条の7第6項),準拠法と日本の強行規定(通則法12条),国外払い給与の確定申告(AI作成)

移住支援金・定住奨励金は何所得か―一時所得と雑所得の分かれ目,起業支援金及び非課税となる助成金(AI作成)

目次

第1 この記事の要点第2 所得区分の枠組み1 非課税規定を先に確認する2 一時所得の要件と雑所得第3 一括支給の移住支援金と起業支援金1 移住支援金は一時所得2 起業支援金は事業所得等の総収入金額第4 複数年にわたる定住奨励金・給付金1 東京国税局の文書回答(定住奨励金)2 国税庁の質疑応答事例(複数回支給の給付金)3 毎年申請する場合も継続的といえるか第5 実務での確認手順第6 関連記事第7 出典
第1 この記事の要点

地方公共団体から個人に支給される移住支援金,定住奨励金その他の給付金は,名称が似ていても,所得税法上の扱いは支給の仕組みによって異なる。
国税庁の公表資料を並べると,次のように整理できる。

①一括で支給される移住支援金は,一時所得とされた(国税庁の文書回答,平成31年4月10日)。
②取得の翌年度以降に毎年申請し,最高7年間交付される定住奨励金は,継続的に交付を受けるものとして雑所得とされた(東京国税局の文書回答,平成25年10月31日)。
③一度の認定で複数回支給される給付金は,継続的に生ずる所得として雑所得とされた(国税庁の質疑応答事例)。
④起業に要した経費を補助する起業支援金は,個人の場合,事業所得等の総収入金額に算入するとされた(①の文書回答)。
⑤医療費の助成を目的とする助成金のように,非課税とされるものもある(国税庁の質疑応答事例)。

一時所得になれば,50万円の特別控除と2分の1課税によって税負担が軽くなるが,雑所得になれば,必要経費がない限り全額が総所得金額に算入される。
本記事は,令和8年10月10日時点の法令と国税庁の公表資料に基づいている。

第2 所得区分の枠組み
1 非課税規定を先に確認する

所得税法は,所得の発生原因を問わず課税することを原則とし,非課税とされるものを9条等で個別に定めている。
地方公共団体の給付金一般を非課税とする規定はないが,給付の目的によっては,既存の非課税規定に当たることがある。

国税庁の質疑応答事例「地方公共団体が支給する少子化対策のための助成金等の所得税法上の取扱い」は,市が条例等に基づいて支給する不妊治療費の助成金と子の医療費の助成金を,所得税法施行令30条1号の保険金・給付金に類するものとして,非課税所得として扱うとしている(所得税法9条1項18号)。
同事例は,医療費控除の計算では,その助成金の額を医療費から控除するとしている。

給付の目的に着目した非課税規定としては,所得税法9条1項13号もあり,ノーベル賞の賞金や財務大臣が指定した学術賞・芸術賞の賞金は所得税が課されない。
その範囲と経緯は,ノーベル賞の賞金に税金はかかるかで整理している。

2 一時所得の要件と雑所得

非課税に当たらない給付金は,利子所得から譲渡所得までの各所得に当たるかを検討した上で,一時所得(所得税法34条1項)か雑所得(同法35条1項)かを判断することになる。

一時所得は,①利子所得から譲渡所得までの所得以外の所得のうち,②営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の,③一時の所得で,④労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものである(所得税法34条1項)。
いずれにも当たらない所得が雑所得である(同法35条1項)。

一時所得の金額は,総収入金額からその収入を得るために支出した金額を控除し,さらに特別控除額(最高50万円)を控除した金額であり(所得税法34条2項・3項),その2分の1が総所得金額に算入される(同法22条2項2号)。
雑所得(公的年金等以外)の金額は,総収入金額から必要経費を控除した金額である(同法35条2項2号)。

地方公共団体の給付金では,②と④は問題になりにくく,③の「一時の所得」に当たるかが分かれ目になることが多い。

第3 一括支給の移住支援金と起業支援金
1 移住支援金は一時所得

内閣府地方創生推進事務局長の照会に対する国税庁課税部審理室長の文書回答(平成31年4月10日)は,東京23区から東京圏外等へ移住して一定の中小企業等に就業した人等に対し,都道府県と市町村が共同で支給する移住支援金(単身で最大60万円,世帯で最大100万円,一括の定額渡し切り)について,照会者の見解のとおりで差し支えないと回答している。

照会者の見解は,移住支援金は,利子所得から譲渡所得までの所得のいずれにも当たらず,支給の対象から官公庁に新規就業した者が除かれていることから給与所得にも当たらず,営利を目的とする継続的行為から生じたものではなく,役務又は資産の譲渡の対価としての性質もないとともに,一時に支給されるものであるから,一時所得に当たるというものである。

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災害で自家用車や家財が損害を受けたときの所得税―雑損控除,「生活に通常必要でない資産」及び災害減免法の選択(AI作成)

目次

第1 この記事の要点第2 雑損控除の要件と控除額1 対象となる資産と所有者2 損害の原因3 控除額の計算4 他の所得控除との順序と繰越し第3 「生活に通常必要でない資産」との分かれ目1 生活に通常必要でない資産に当たるときの扱い2 施行令178条1項の読み方3 自家用車はどう判断されるか第4 災害減免法との選択第5 弁護士・税理士の実務での確認手順第6 関連記事第7 出典
第1 この記事の要点

豪雨,地震,火災等の災害で,自家用車,家財,住宅等が損害を受けたときは,所得税の確定申告で損失を考慮できる場合がある。
ただし,損害を受けた資産が「生活に通常必要でない資産」(所得税法62条1項,所得税法施行令178条1項)に当たるか否かで,使える制度が根本的に異なる。

当たらない資産(生活に通常必要な資産)の損失は,雑損控除(所得税法72条)として総所得金額等から控除でき,控除しきれない部分は翌年以後に繰り越すことができる。
これに対し,生活に通常必要でない資産(別荘,ゴルフ会員権,1個又は1組の価額が30万円を超える貴金属・書画・骨とう等)の損失は,雑損控除の対象から除かれ,損失を受けた年分又はその翌年分の譲渡所得の金額の計算上控除すべき金額とみなされるにとどまる(所得税法62条1項)。
給与所得しかない人が生活に通常必要でない資産の損失を受けても,譲渡所得がなければ,税額は減らない。

住宅や家財に大きな損害を受けたときは,雑損控除に代えて,災害被害者に対する租税の減免,徴収猶予等に関する法律(以下「災害減免法」という。)による所得税の軽減免除を選ぶこともできる。
自家用車は,使用の目的や状況によって「生活に通常必要」かどうかが分かれる資産であり,令和7年司法試験の租税法第1問でも,この判断が正面から問われた。

本記事は,令和8年10月10日時点の法令と国税庁の公表資料に基づいている。
税額の計算は個別の事情で大きく変わるので,実際の申告では,損害額の資料をそろえた上で,雑損控除と災害減免法の両方を試算して比べる必要がある。

第2 雑損控除の要件と控除額
1 対象となる資産と所有者

雑損控除の対象は,納税者本人のほか,納税者と生計を一にする配偶者その他の親族で,その年分の総所得金額等が一定額以下の人が所有する資産である(所得税法72条1項,所得税法施行令205条)。
この一定額は,令和7年分は58万円以下であり,令和8年分は62万円以下とされている(国税庁タックスアンサーNo.1110)。

対象から除かれるのは,生活に通常必要でない資産(所得税法62条1項)と,棚卸資産や事業用固定資産等の被災事業用資産(同法70条3項)である(同法72条1項括弧書き)。
事業用の資産の損失は,雑損控除ではなく,事業所得等の必要経費の問題になる(同法51条)。

2 損害の原因

雑損控除の対象となる損害の原因は,災害,盗難及び横領に限られる(所得税法72条1項)。
「災害」は,震災,風水害,火災その他政令で定める災害であり(同法2条1項27号),政令は,冷害,雪害,干害,落雷,噴火その他の自然現象の異変による災害,鉱害,火薬類の爆発その他の人為による異常な災害,害虫,害獣その他の生物による異常な災害を定めている(所得税法施行令9条)。

国税庁は,詐欺や恐喝による損失は雑損控除の対象にならないと説明している(国税庁タックスアンサーNo.1110)。
また,自家用車同士の衝突のような通常の交通事故による損傷は,上記の自然現象の異変や人為による異常な災害には当たりにくく,相手方への損害賠償請求や車両保険で回復を図るのが基本になる。

3 控除額の計算

雑損控除の額は,次の①と②のいずれか多い方の金額である(所得税法72条1項各号,国税庁タックスアンサーNo.1110)。
①(損害金額+災害等関連支出の金額-保険金等の額)-総所得金額等×10%
②(災害関連支出の金額-保険金等の額)-5万円

損害金額は,損害を受けた時の直前におけるその資産の価額(時価)を基礎として計算する(所得税法施行令206条3項)。
自家用車のように使用や期間の経過により減価する資産は,取得価額から非業務用資産として計算した減価償却費累積額相当額を控除した金額を基礎として計算することもできる(同項1号)。

災害等関連支出には,災害により滅失・損壊した資産の取壊し又は除去のための支出(廃車の費用等),土砂等の障害物の除去のための支出,原状回復のための支出等が含まれる(所得税法施行令206条1項)。
保険金,損害賠償金等で補塡される部分は,損失の金額から除かれる(所得税法72条1項)。

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特許権の存続期間満了前に後発品の参入準備としてできること・できないこと―試験研究の例外,生産・在庫,譲渡の申出(AI作成)

目次

第1 この記事の要点第2 前提となる条文1 実施行為と特許権の効力2 試験研究の例外と存続期間3 損害賠償と過失の推定第3 承認・登録のための試験は試験研究の例外に当たる1 最高裁平成11年4月16日判決2 農薬その他の登録・承認制度3 試験を外部に委託する場合4 試験に使う装置・試薬(リサーチツール)第4 存続期間中の生産・在庫の積上げ第5 存続期間中の譲渡の申出・見積り・受注1 申出は独立の実施行為である2 裁判例3 実務上の注意第6 特許権者の側の確認事項第7 チェックリスト(後発品の事業者)第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 公式資料
第1 この記事の要点

本記事は,他社の特許権の存続期間が満了した後に後発品(同じ有効成分の医薬品・農薬,同じ構成の機械等)を販売しようとする事業者が,満了前にどこまで準備をしてよいかを,特許法の条文と裁判例から整理するものである。
特許権者の側から見れば,どこからが侵害として争えるかの整理でもある。

結論は次のとおりである。
①存続期間中でも,満了後の製造販売のため,医薬品の製造承認の申請に必要な試験を行う目的で特許発明の技術的範囲に属する物を生産・使用することは,特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たり,侵害とならない(最高裁平成11年4月16日判決)。
②他方,試験に必要な範囲を超えて,満了後に譲渡する製品を存続期間中に生産することは,侵害として許されない(同判決)。
③試験の一部を大学等に委託した場合や,他社の承認申請の試験のために製造・譲渡した場合も,試験のための実施として同項の範囲内とした裁判例がある(大阪地裁平成11年9月2日判決)。
④存続期間中の「譲渡の申出」(見積書の交付を含む。)は,譲渡が満了後であっても侵害行為とされ,満了後の販売による損害も,存続期間中の申出と相当因果関係のある損害とした裁判例がある(知財高裁平成26年6月26日判決,大阪地裁令和2年1月20日判決,知財高裁令和6年4月24日判決)。
⑤試験に用いる検査・実験装置等(いわゆるリサーチツール)が他人の特許発明の実施品である場合に,その使用まで同項で免責されるとした裁判例は,裁判所ウェブサイトでは確認できなかった。

本記事の基準日は令和8年10月10日であり,条文はe-Gov法令検索の現行のもの,裁判例は裁判所ウェブサイトの判決全文によった。

第2 前提となる条文
1 実施行為と特許権の効力

特許法2条3項1号は,物の発明の「実施」として,その物の生産,使用,譲渡等(譲渡及び貸渡し),輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。)をする行為を定めている。
同法68条本文は,特許権者が業として特許発明の実施をする権利を専有すると定める。
したがって,存続期間中に業として行う生産・使用・譲渡等の申出は,それぞれが独立の実施行為であり,例外に当たらない限り特許権の侵害となる。

2 試験研究の例外と存続期間

特許法69条1項は,特許権の効力は試験又は研究のためにする特許発明の実施には及ばないと定める。
同法67条1項は,特許権の存続期間を特許出願の日から20年で終了すると定め,同条4項は,安全性の確保等を目的とする法律による許可その他の処分で政令で定めるものを受ける必要があるために特許発明を実施できなかった期間があるときは,5年を限度として延長登録の出願により存続期間を延長できるとする。
この政令である特許法施行令2条は,農薬取締法3条1項の登録等(1号)と,医薬品医療機器等法14条1項の医薬品の承認等(2号)を挙げている。

3 損害賠償と過失の推定

特許権侵害による損害賠償の根拠は民法709条であり,特許法103条は,他人の特許権を侵害した者はその侵害の行為について過失があったものと推定すると定める。
後発品の準備が侵害と判断されれば,過失がなかったことを示す事情がない限り,損害賠償の責任を負うことになる。

第3 承認・登録のための試験は試験研究の例外に当たる
1 最高裁平成11年4月16日判決

最高裁判所第二小法廷平成11年4月16日判決(平成10年(受)第153号,民集53巻4号627頁)は,第三者が,特許権の存続期間終了後に後発医薬品を製造販売する目的で,薬事法(当時)14条の製造承認申請のため,存続期間中に特許発明の技術的範囲に属する医薬品等を生産し,これを使用して申請書に添付すべき資料を得るのに必要な試験を行うことは,特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たり,特許権の侵害とならないとした。
理由として,同判決は,存続期間が終了した後は何人でも自由に発明を利用できることが特許制度の根幹の一つであること,承認の申請には一定の期間をかけて試験を行う必要があり,存続期間中にこの試験ができないとすると,存続期間の終了後もなお相当の期間,第三者が発明を自由に利用できない結果となることを挙げている。

2 農薬その他の登録・承認制度

同判決は医薬品の事案であるが,その理由は,販売の前に試験を経た行政上の承認・登録が必要であり,その試験に相当の期間を要するという制度の構造に基づいている。
特許法施行令2条が,存続期間の延長登録の理由となる処分として,医薬品の承認と並べて農薬取締法の登録を挙げていることからすると,農薬の登録のための試験にも同じ理由が当てはまると考えられる。

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株主優待・懸賞の賞品は何所得か―配当所得・一時所得・雑所得の区別,収入の時期,会社員の確定申告及び賞品を出す会社の源泉徴収(AI作成)

目次

第1 この記事の要点第2 株主優待の所得区分1 配当所得の範囲2 最高裁昭和35年10月7日判決3 所得税基本通達24-1と24-24 一時所得ではなく雑所得になる理由5 法人税法の側の判例との違い第3 懸賞・キャンペーンの賞品の所得区分1 一時所得の要件と計算2 役務の対価かどうか3 勤務先の懸賞に役員・従業員が当選した場合第4 収入として計上する年分1 収入すべき時期の考え方2 換金・処分ができる券3 譲渡できず,利用期間が後に始まる券第5 会社員の確定申告と住民税の申告1 所得税の確定申告を要しない場合2 20万円は所得金額で判定する3 医療費控除等のために申告するとき4 住民税の申告は別である第6 賞品を出す会社の源泉徴収1 広告宣伝のための賞金2 税額と賞品の評価3 会社の損金算入第7 関連記事第8 出典1 法令2 通達・国税庁の公表資料3 裁判例4 確認状態
第1 この記事の要点

本記事は,個人が会社から受け取る株主優待(宿泊券・乗車券・自社製品の割引等)と,懸賞・キャンペーンの賞品(旅行券・商品券・物品等)について,所得税法上の所得の種類,収入として計上する年分,給与所得者の確定申告と住民税の申告の要否,及び賞品を出す会社の源泉徴収を整理するものである。
令和8年10月10日現在の法令及び国税庁の公表資料に基づいて記載している。

要点は,次のとおりである。
①株主優待は,株主の地位に基づいて受ける利益であっても,会社の利益の有無にかかわらず交付されるものは配当所得に当たらず,原則として雑所得になる(最高裁昭和35年10月7日判決,所得税基本通達24-2)。
②懸賞・キャンペーンの賞品は,偶然の当選によるもので役務の対価でなければ,一時所得になる(所得税法34条1項,所得税基本通達34-1(1))。
③懸賞の賞品でも,主催者に対する役務の対価又はこれに付随して受けるもの,勤務先の役員・従業員としての立場に基づいて受けるものは,雑所得又は給与所得になり得る。
④収入の年分は,換金・処分ができる券なら受け取った年であり,譲渡できず,利用できる期間がまだ始まっていない券は,利用できる状態になった年以後に実現したと考えるのが自然である。
⑤1か所から給与を受けて年末調整を受けた会社員は,給与所得及び退職所得以外の所得金額が20万円以下なら所得税の確定申告を要しないが,住民税の申告は別に必要となることがあり,医療費控除等のために確定申告をするときは20万円以下の所得も申告する。
⑥会社が広告宣伝のために賞として支払う金品は,1回50万円を超える部分について源泉徴収の対象となるが,旅行その他の役務の提供で金品と選択できないものは除かれる。

第2 株主優待の所得区分
1 配当所得の範囲

所得税法24条1項は,配当所得を,法人から受ける「剰余金の配当」,「利益の配当」,「剰余金の分配」等に係る所得と定めている。
同項は,「剰余金の配当」から資本剰余金の額の減少に伴うもの等を除いており,所得税法は,会社法の下でも資本と利益を区別し,損益計算上の利益の株主への分配を配当所得として扱っていると読むことができる。

2 最高裁昭和35年10月7日判決

最高裁昭和35年10月7日判決(民集14巻12号2420頁)は,所得税法上の利益配当の観念は商法が前提とする取引社会における利益配当の観念(損益計算上の利益を株金額の出資に対し株主に支払うもの)と同じであるとした。
その上で,いわゆる蛸配当や株主平等の原則に反する配当のように商法上不適法な配当であっても所得税法上の利益配当に含まれるとしつつ,株主相互金融会社の株主優待金は,損益計算上利益の有無にかかわらず支払われるものであって,取引社会における利益配当と同一性質のものとは認め難いとして,利益配当に当たらないとした。

この判決からすると,株主優待が配当所得に当たるかは,株主総会の決議を経たかどうかや株主平等に適うかどうかではなく,会社の利益を出資に対する見返りとして分配するものかどうかで判断することになる。

3 所得税基本通達24-1と24-2

所得税基本通達24-1は,剰余金の配当等には,法人が株主等に対しその株主等である地位に基づいて供与した経済的な利益が含まれるとする。
他方,所得税基本通達24-2は,株主等である地位に基づいて供与した経済的な利益であっても,法人の利益の有無にかかわらず供与することとしている次のようなものは,法人が剰余金又は利益の処分として取り扱わない限り,配当等に含まれないとしている。
①旅客運送業を営む法人の株主優待乗車券等
②映画・演劇等の興行業を営む法人の株主優待入場券等
③ホテル・旅館業等を営む法人の株主優待施設利用券等
④法人が自己の製品等の値引販売を行うことにより供与する利益
⑤法人が創業記念・増資記念等に際して交付する記念品

同通達の注は,これらの利益で個人の株主等が受けるものは雑所得に該当し,配当控除の対象とならないとしている。

4 一時所得ではなく雑所得になる理由

一時所得は,営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の「一時の所得」で,役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものである(所得税法34条1項)。

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土壌汚染地の相続税評価と浄化・改善費用―区域の種類,最も合理的な措置,求償権及び対策費用の税務(AI作成)

目次

第1 この記事の要点1 対象と結論2 前提第2 土壌汚染地として評価する土地第3 評価の算式第4 浄化・改善費用の見積り―「最も合理的と認められる措置」と土壌汚染対策法1 国税庁の情報が示す基準2 要措置区域の場合3 形質変更時要届出区域の場合4 自然由来の汚染の場合5 見積りの点検第5 費用が確定している場合と,汚染原因者に対する権利1 浄化・改善費用の額が確定している場合2 汚染原因者に対する求償権3 損害賠償請求権第6 汚染土壌対策費用の所得税・法人税第7 実務上の確認事項第8 関連記事第9 出典及び確認状態
第1 この記事の要点
1 対象と結論

本記事は,相続税・贈与税の申告で土壌汚染地をどう評価するかについて,国税庁の「土壌汚染地等の評価の考え方について(情報)」(令和6年6月21日,資産評価企画官情報第3号・資産課税課情報第11号)と土壌汚染対策法の条文を突き合わせて整理するものである。
国税庁の情報は,課税実務の取扱いを整理した資料であり,法令や通達そのものではない。

土壌汚染地の価額は,汚染がないものとした場合の価額から,浄化・改善費用に相当する金額,使用収益制限による減価に相当する金額及び心理的要因による減価に相当する金額を控除して求める(原価方式)。
このうち実務上の争点になりやすいのは浄化・改善費用であり,国税庁の情報は,見積額を「課税時期において最も合理的と認められる措置」に基づいて算定し,その地域の標準的な土地利用の実現に必要な範囲に限るとしている。

土壌汚染対策法は,汚染の存在そのものではなく,汚染による人の健康被害の防止を目的とし,区域の種類によって求める措置が大きく異なる。
そのため,汚染が判明した土地について,掘削除去(汚染土壌を掘り取って搬出する方法)の見積額をそのまま控除額にする前に,区域の種類と法が求める措置を確かめる必要がある。
本記事では,あわせて,費用が確定している場合の債務控除,汚染原因者に対する求償権・損害賠償請求権の計上及び汚染土壌対策費用の所得税・法人税の扱いを説明する。

2 前提

本記事の基準日は令和8年10月10日である。
土壌汚染対策法とその施行令・施行規則は,e-Gov法令検索の現行版(令和8年7月1日施行の改正後の版)で確認した。
この改正で変わったのは権限の委任先の名称(法63条)等であり,本記事で引用する条文の内容は,令和7年7月時点の版と同じである。

第2 土壌汚染地として評価する土地

国税庁の情報によれば,土壌汚染地として評価する土地は,課税時期において,特定有害物質による汚染状態が環境省令で定める基準に適合しないと認められる土地である(情報2頁)。
次の3点に注意する。

①汚染の可能性があるという潜在的な段階では,土壌汚染地として評価することはできない。
②土壌汚染の調査・対策が義務付けられているかどうかを問わない。
③要措置区域又は形質変更時要届出区域に指定されていれば,基準に適合しないことが明らかであるから,いずれも土壌汚染地に当たる。

区域に指定されているかどうかは,都道府県知事(政令で定める市では市長)が調製する台帳で確かめる。
台帳は,正当な理由がなければ閲覧を拒めないとされている(土壌汚染対策法15条3項)。
台帳には,形質変更時要届出区域のうち汚染が専ら自然に由来する区域(自然由来特例区域)等であるかどうかも記載される(同法施行規則58条5項)。

区域の種類は,次のとおり,健康被害が生ずるおそれの有無で分かれる。
要措置区域は,土壌の汚染状態が基準に適合せず,かつ,健康被害が生じ,又は生ずるおそれがあるものとして政令で定める基準に該当する土地である(同法6条1項)。
形質変更時要届出区域は,基準に適合しないが,その政令の基準には該当しない土地である(同法11条1項)。
政令の基準は,地下水を経由する摂取については周辺に飲用井戸等の取水口があるかどうか,土壌の直接摂取については土壌含有量基準に適合せず人が立ち入ることができる土地かどうかで判断される(同法施行令5条1号,同法施行規則30条)。

調査報告義務の免除確認と,土壌の基準適合の確認は同じではない(土壌汚染対策法3条1項ただし書)。
調査・対策義務がないことだけで評価対象外にせず,反対に,廃止届,調査未実施又は汚染の噂だけで基準不適合が認められたとも扱わない。
課税時期における調査結果,免除確認書,土地利用状況及び区域指定台帳を相互に照合し,行政手続の状態と汚染の認定を別欄で記録する。

(続きを読む...)土壌汚染地の相続税評価と浄化・改善費用―区域の種類,最も合理的な措置,求償権及び対策費用の税務(AI作成)

失踪宣告と相続・相続税―死亡とみなされる時点,相続人の変動,申告期限,取消し及び外国が関わる場合(AI作成)

目次

第1 この記事の対象第2 失踪の宣告の要件と死亡とみなされる時点1 普通失踪と危難失踪2 死亡とみなされるのは審判の日ではない3 手続の概要第3 相続への影響1 相続は死亡とみなされる時点で開始する2 他の相続との先後で相続人が変わる第4 相続税の申告期限と財産の評価1 申告期限は審判の確定を知った日から数える2 財産は相続開始の時の価額で評価する3 失踪の宣告・取消しによる相続人の異動と更正の請求第5 失踪の宣告の取消し第6 外国が関わる場合1 日本の裁判所が失踪の宣告をすることができる場合2 死亡とみなされる時点と相続・婚姻への影響3 失踪の宣告の取消しの管轄4 外国の裁判所がした失踪の宣告5 不在者財産管理を選ぶ場合第7 最初に確認すること1 よくある質問第8 関連記事第9 出典1 法令2 通達・公的資料
第1 この記事の対象

本記事は,家族が行方不明となって生死が分からない場合に家庭裁判所がする失踪の宣告(民法30条)について,相続と相続税の実務で問題となる点を整理するものである。

失踪の宣告では,死亡したものとみなされる時点が審判の日ではなく過去の時点になる。
そのため,誰が相続人になるか,相続税の申告期限がいつから進むか,財産をいつの価額で評価するかの判断が,通常の死亡の場合と異なる。

行方不明者が外国籍である場合や外国に住んでいた場合には,日本の裁判所が失踪の宣告をすることができる範囲が限られることがあり,外国の裁判所がした失踪の宣告を日本でどう扱うかも問題となる。

条文はe-Gov法令検索の現行条文(令和8年10月時点)で,通達は国税庁ホームページの相続税法基本通達で確認した。

申立人,申立先,必要書類,費用及び審判確定後の届出を実行順に確認したい場合は,失踪宣告の申立て―要件,必要書類,費用,期間及び確定後の手続を参照されたい。
本記事は,死亡とみなされる時点が相続・相続税及び外国が関わる法律関係に与える影響を中心に説明する。

第2 失踪の宣告の要件と死亡とみなされる時点
1 普通失踪と危難失踪

不在者の生死が7年間明らかでないときは,家庭裁判所は,利害関係人の請求により,失踪の宣告をすることができる(民法30条1項)。
戦地に臨んだ者,沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が,戦争が止んだ後,船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後1年間明らかでないときも,同様である(同条2項)。

2 死亡とみなされるのは審判の日ではない

普通失踪の宣告を受けた者は7年の期間が満了した時に,危難失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に,死亡したものとみなされる(民法31条)。
審判は申立てから公告等を経てされるため,死亡したものとみなされる日は,審判の日や戸籍に記載される日より前になる。

失踪の宣告の裁判が確定したときは,その裁判を請求した者が,裁判が確定した日から10日以内に,裁判の謄本を添付して届け出なければならない(戸籍法94条,63条1項)。
この届書には,民法31条の規定によって死亡したとみなされる日も記載する(戸籍法94条)。

3 手続の概要

失踪の宣告の審判事件は,不在者の従来の住所地又は居所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する(家事事件手続法148条1項)。
家庭裁判所は,申立てがあったこと,不在者は一定の期間までに生存の届出をすべきこと,届出がないときは失踪の宣告がされること,及び不在者の生死を知る者は一定の期間までに届出をすべきことを公告する(同条3項)。
その期間は,普通失踪では3か月,危難失踪では1か月を下ってはならず,期間が経過しなければ失踪の宣告の審判をすることができない(同項)。
失踪の宣告の審判は,不在者に告知することを要しない(同条4項)。

第3 相続への影響
1 相続は死亡とみなされる時点で開始する

相続は,死亡によって開始する(民法882条)。
失踪の宣告を受けた者の相続は,民法31条により死亡したものとみなされる時点で開始し,相続人の範囲や相続分もその時点を基準に判断する。

2 他の相続との先後で相続人が変わる

行方不明者自身が,親などの相続人となるべき立場にある場合には,死亡したものとみなされる時点と,その親の死亡の時点との先後によって結論が変わる。

例えば,子Aが行方不明となってから12年後に親Cが死亡し,その後,Aについて普通失踪の宣告がされた場合を考える。

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裁判外の和解契約書・合意書の作り方-和解条項と債務名義化(AI作成)

目次

第1 裁判外の和解は「合意」と「実行」を分けて設計する第2 条項を書く前に合意の土台を固定する1 当事者と署名権限を確認する2 対象となる紛争を一文で特定する3 事実確認と法的責任の承認を区別する第3 和解条項は論理的な順序で並べる1 確認条項又は形成条項を先に置く2 給付条項は五つの要素を特定する3 不履行時の効果を独立して定める4 請求放棄,清算及び費用は別の役割を持つ第4 金銭以外の条項は客観的に履行を判定できるようにする1 引渡し,明渡し,撤去及び登記2 秘密保持,非公表及び誹謗中傷禁止3 削除,非使用,接触禁止及び謝罪第5 履行確保の方法を義務の種類から選ぶ1 私署の和解契約書は債務名義ではない2 執行認諾文言付き公正証書にできる範囲3 訴え提起前の和解と民事調停4 認証ADRの特定和解と執行決定第6 紛争類型に応じて定型条項を組み替える1 継続的取引及び知的財産2 交通事故,医療その他の損害賠償3 労働,家族,近隣及び安全に関わる紛争第7 後に裁判官が読むことを想定して点検する第8 署名前の最終チェックリスト1 合意の成立と対象2 履行と違反3 紛争の終了と実行第9 主な出典と本記事の位置付け
第1 裁判外の和解は「合意」と「実行」を分けて設計する

本記事は,訴訟を提起する前又は訴訟外で紛争を終わらせるために,和解契約書,合意書又は示談書を作成する場面を扱う。
書面の名称だけで効力が決まるわけではない。大切なのは,解決する紛争,成立させる法律関係,履行させる義務及び紛争を終わらせる範囲を,後から第三者が読んでも同じ意味に理解できるように定めることである。

民法上の和解は,当事者が互いに譲歩して争いをやめることを約する契約である(民法695条・696条)。裁判外の和解契約も合意として当事者を拘束し,紛争が再燃した場合の重要な証拠となるが,和解契約書を作成しただけで直ちに強制執行できるとは限らない。

そのため,①どの紛争をどの条件で終わらせるか,②誰が何をいつまでに履行するか,③履行しなかった場合に何が起きるか,④必要に応じてどの方法で債務名義を得るかを,一つの設計として検討する。
既に民事訴訟が係属しており,裁判所へ提出する条項案を作る場合は,民事訴訟の和解案・和解条項案の作り方を参照されたい。

第2 条項を書く前に合意の土台を固定する
1 当事者と署名権限を確認する

個人は氏名及び住所,法人は商号,本店及び代表者を正確に表示する。通称,店舗名又は担当部署だけでは,誰が権利義務を負うのか不明確になり得る。
法人では,代表権,社内決裁及び署名者への委任を確認する。当事者でない親会社,役員,保証人,保険会社又は共同不法行為者に義務を負わせたい場合は,その者自身が合意当事者となる必要がないかを検討する。

当事者が三者以上になる場合,甲乙丙という記号だけでは役割を見失いやすい。和解金を支払う者,請求を放棄する者,保証する者などの役割を明示し,誰と誰の間に権利義務が生じるかを条項ごとに確認する。甲乙と役割名,保証人の位置付けは,契約書の甲乙とは―どちらが上か,順番の決まり及び売主・買主など役割名の使い分けで整理している。

2 対象となる紛争を一文で特定する

契約紛争なら契約日,契約名,対象商品又は業務及び問題となった期間を,事故なら発生日時,場所,当事者及び対象事故を,知的財産なら権利,対象製品,表示,データ又は行為を特定する。
「本件」「一切の問題」といった語は,前文又は定義条項で範囲が特定されて初めて有効に働く。複数の契約,事故又は当事者関係がある場合は,和解対象に含めるものと残すものを分ける。

3 事実確認と法的責任の承認を区別する

出来事の確認,債務の存在の承認,違法性又は責任の承認,謝罪は同じではない。何を認め,何を争ったまま解決するかを合意の目的に合わせて選ぶ。
税務,会計,保険,行政届出,第三者への説明又は刑事手続に影響する表現は,民事紛争だけを見て決めない。和解金,解決金,損害賠償金等の名称だけで税務上の取扱いが決まるものでもないため,示談金・解決金・和解金に税金はかかるかも参照されたい。

紛争を早期に終えるための支払合意と,争われていた事実又は法的責任を認める合意とは,合意書の文言と交渉経過に即して区別する。
支払額や「解決金」という呼称だけから,従前の主張をすべて認めたと即断しない。
責任の有無について見解の一致を要しない解決を選ぶ場合も,合意によって成立する支払義務と清算の内容は明確に定め,履行する必要がある。

責任を認めない旨の条項と,対象紛争を清算する条項は両立する。責任不承認は事実又は法的責任を認めないことを示す条項であり,それだけで清算範囲を狭めたり,合意後の請求を当然に留保したりするものではない。紛争を最終的に終えるなら,責任不承認条項を置いた上で,どの当事者間の,どの契約・事故・物件・行為・期間について,どの請求を清算し,何を留保するかを別の条項で特定する。

将来の請求を扱うときは,合意時までに生じた原因に基づき後に判明・顕在化する損害と,合意後の新たな行為・事故から生じる損害を区別する。前者まで清算するのか,特定の損害だけを留保するのかを明記し,「将来一切」という抽象語だけに依存しない。

第3 和解条項は論理的な順序で並べる
1 確認条項又は形成条項を先に置く

既に存在する債務を明らかにするなら,誰が誰に対してどの債務を負うかを確認する。和解によって契約を終了させ,権利を移転し,債務を免除し,又は新しい利用条件を設定するなら,その法律関係の変動を先に定める。
この順序により,後に続く支払,引渡し,削除,撤去又は不作為の義務が,どの権利関係に基づくものかを読み取れるようになる。

2 給付条項は五つの要素を特定する

給付条項では,①義務者,②権利者,③金額,物,情報又は行為,④期限,⑤場所・口座・方法・費用負担を特定する。

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