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他人の借金を代わりに返せるか―第三者弁済(民法474条)の要件,本人や債権者が拒む場合,求償と代位及び保証・債務引受・免除による方法(AI作成)

第1 この記事の対象と確認の方法

1 対象と結論の要旨

(1) 取り上げる場面

親が成人した子の借金を返してやりたい,別れた配偶者名義の住宅ローンを払い続けたい,個人再生の前に親族が債権者へ直接払いたい,といった相談がある。
いずれも,債務者本人ではない人(第三者)が他人の債務を弁済する場面であり,民法474条の第三者弁済の問題になる。
本記事では,第三者弁済ができる場合とできない場合,債務者本人や債権者が拒んでいる場合の扱い,払った人が後で本人に請求できるか(求償と代位)を整理する。
あわせて,本人が拒んでいても,債権者との合意によって債務を消滅させる方法(保証,債務引受,債権の譲受けと免除等)と,親が子の借金を払った場合の贈与税の規定を取り上げる。

(2) 結論の要旨

第三者弁済は原則としてできる。
ただし,弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は,債務者の意思に反して弁済をすることができず(債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときを除く),債権者の意思に反して弁済をすることもできない(債務者の委託を受けて弁済をし,そのことを債権者が知っていたときを除く)。
「正当な利益」は,改正前の「利害関係」の表現を改めたものであり,最高裁は改正前の規定について,物上保証人や担保不動産の第三取得者のように弁済をすることに法律上の利害関係を有する者をいうとしている。
親子等の親族関係があるだけで法律上の利害関係を認めた最高裁判例は,裁判所HPの裁判例検索では確認できず,本人が明確に拒んでいる場合には,親族が本人に代わって払うことは難しい。
他方,保証,併存的債務引受,免責的債務引受,債権の譲受けと免除,債権者による免除は,いずれも本人の同意を要件としていないので,債権者の協力が得られれば,本人が拒んでいても債務を消滅させることができる。
なお,令和2年4月1日より前に生じた債務や,同日以後に生じてもその原因となる契約等が同日より前にされた債務の弁済には改正前の民法474条が適用されるので,古い借入れや住宅ローンでは適用される条文を先に確かめる必要がある。

2 確認の方法と資料の性質

令和8年9月27日に,民法及び相続税法・租税特別措置法の現行の条文をe-Gov法令検索で取得した。
改正前の民法の条文は,e-Gov法令APIで平成28年10月13日施行版(e-Govが収録する最も古い版)の本文を取得した。
平成29年の民法改正(民法の一部を改正する法律)の経過措置は,e-Gov法令APIで取得した民法の附則(平成29年法律第44号の附則)で確認した。
最高裁判所の判例は,裁判所HPの裁判例検索で個別ページと判決全文を確認した。
裁判所HPに掲載されていない大審院の判決は,判例秘書(LLI/DB)の大審院判例検索で判決の画像を表示し,引用部分を目で読んで確認した。
国税庁の通達は,国税庁HPに掲載された相続税法基本通達で確認した。
改正の趣旨は,法務省HPに掲載された説明資料「民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-」で確認した。

第2 第三者弁済の条文

1 民法474条の4つの項

(1) 第三者も弁済できるという原則

民法474条1項は,「債務の弁済は、第三者もすることができる。」と定める。
債務者本人でなくても,他人の債務を弁済して消滅させることができるのが原則である。

(2) 債務者の意思に反する弁済

同条2項は,「弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。」と定める。
正当な利益を有しない第三者が債務者の意思に反して弁済しても,原則として弁済の効力は生じない。
ただし,債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは,弁済は有効になる。

(3) 債権者の意思に反する弁済

同条3項は,「前項に規定する第三者は、債権者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは、この限りでない。」と定める。
正当な利益を有しない第三者からの弁済は,債権者が受け取りを拒むことができる。
ただし,債務者から頼まれて払う場合で,そのことを債権者が知っていたときは,債権者は拒めない。

(4) 適用されない場合

同条4項は,「前三項の規定は、その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき、又は当事者が第三者の弁済を禁止し、若しくは制限する旨の意思表示をしたときは、適用しない。」と定める。
債務者本人でなければ意味のない債務や,契約で第三者の弁済を禁止した債務は,第三者が弁済することができない。
金銭の借入れの返済は,通常は性質上第三者の弁済を許さないものには当たらないので,契約書に第三者の弁済を禁止し又は制限する条項がないかを確かめれば足りる。

2 「正当な利益を有する者」の意味

(1) 改正前の「利害関係」との関係

改正前の民法474条2項は,「利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。」と定めていた。
法務省の説明資料は,改正について,「利害関係を有しない第三者」の表現を「弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者」に変更したと説明している(資料上の51頁)。
「弁済をするについて正当な利益を有する者」という表現は,改正前から法定代位の規定(改正前の民法500条)で用いられていたものである。

(2) 改正前の規定についての最高裁判例

最高裁昭和39年4月21日判決(民集18巻4号566頁)は,「民法第四七四条第二項にいう『利害ノ関係』を有する者とは、物上保証人、担保不動産の第三取得者などのように弁済をすることに法律上の利害関係を有する第三者をいうものと解するのが相当であり」と判示した。
この事件では,会社が別の会社の債務を弁済するについて,法律上直接の利害関係を有した事実は認められないとした原審の判断が是認されている。

最高裁昭和63年7月1日判決(集民154号245頁)は,「借地上の建物の賃借人はその敷地の地代の弁済について法律上の利害関係を有すると解するのが相当である。」と判示した。
その理由として,「土地賃借権が消滅するときは、建物賃借人は土地賃貸人に対して、賃借建物から退去して土地を明け渡すべき義務を負う法律関係にあり」,敷地の賃借権が消滅することを防止することに法律上の利益を有することを挙げている。
この判決は借地上の建物の賃借人についての判断であるが,土地賃貸人との間に直接の契約関係がなくても,敷地の賃借権が消滅すれば建物から退去する義務を負う法律関係にあることを理由に挙げている。

(3) 親族関係があるだけの場合

上記の判例の定式によれば,親子,兄弟姉妹又は元配偶者という身分関係や,本人の生活を心配するという事実上の関心だけでは,弁済をすることに法律上の利害関係があるとはいいにくい。
親族関係だけで法律上の利害関係を認めた最高裁判例は,裁判所HPの裁判例検索では確認できなかった。
他方,親族であっても,本人の借金の保証人又は物上保証人になっている場合や,担保に入っている不動産に法律上の権原に基づいて住んでいる場合には,別に検討する余地がある。
改正前の判例が改正後の「正当な利益」の解釈にそのまま及ぶかを判断した最高裁判例は確認できなかったが,法務省の説明資料は表現の変更と説明しているので,同じ基準で考えるのが自然である。

第3 改正前の規定と経過措置

1 改正前の民法474条

改正前の民法474条は,1項で「債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、又は当事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。」と定め,2項で「利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。」と定めていた。
改正前の2項には,債権者が債務者の意思を知らなかった場合の例外がなかった。
また,債権者の意思に反する弁済を制限する規定(現行の3項)もなかった。

法務省の説明資料は,改正前の規律の問題として,債務者の意思に反していることを知らない債権者が受けた弁済が後に無効になるおそれがあること,債権者は見知らぬ第三者から弁済の申出があっても拒絶できないことを挙げている(資料上の51頁)。

2 どちらの規定が適用されるか

平成29年法律第44号の附則25条1項は,「施行日前に債務が生じた場合におけるその債務の弁済については、次項に規定するもののほか、なお従前の例による。」と定める。
ここにいう「施行日前に債務が生じた場合」には,附則17条1項の括弧書により,「施行日以後に債務が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にされたとき」も含まれる。
法務省のQ&A(Q4)は,改正法は一部の規定を除き平成32年(2020年)4月1日(令和2年4月1日)から施行されると説明している。
したがって,令和2年4月1日より前に生じた債務や,同日以後に生じてもその原因となる契約等が同日より前にされた債務(それ以前に契約した借入れや住宅ローン等)の弁済には,改正前の民法474条が適用される。
その場合,正当な利益(利害関係)を有しない第三者が債務者の意思に反して弁済すると,債権者が債務者の意思を知らなかったときでも弁済は無効となり,債権者が弁済を拒む根拠となる現行の3項もない。
第三者が払う前に,対象の債務が生じた時期と,その原因となる契約をした時期を確かめる必要がある。

3 弁済による代位の改正

現行の民法499条は,「債務者のために弁済をした者は、債権者に代位する。」と定める。
改正前の民法499条1項(見出しは「任意代位」)は,債務者のために弁済をした者は,「その弁済と同時に債権者の承諾を得て」代位することができると定めていた。
正当な利益を有する者は,改正前の民法500条により弁済によって当然に代位したので,債権者の承諾が必要になるのは正当な利益を有しない者であった。
現行法では債権者の承諾は不要になったが,現行の民法500条により,正当な利益を有する者が代位する場合を除き,債権譲渡の対抗要件の規定(民法467条)が準用される。

第4 本人や債権者が拒んでいる場合

1 本人(債務者)が拒んでいる場合

本人が「親の世話になりたくない」等と明確に拒んでいる場合,正当な利益を有しない親族が払うことは,本人の意思に反する弁済になる。
現行法では,債権者がそのことを知らなければ弁済は有効になるが,本人が拒んでいることを知りながら債権者に黙って払うことを勧めることはできない。
本人の拒否を債権者が知っていれば弁済は無効であり,払った金銭は,不当利得(民法703条)として債権者に返還を求めることになる。
後で本人の意思に反していたかどうかが争われないよう,本人の同意を書面で得ておくのが安全である。

2 債権者が拒んでいる場合

現行法では,正当な利益を有しない第三者からの弁済は,債権者が拒むことができる。
この場合でも,本人から頼まれて払うこと(委託)を債権者が知っていれば,債権者は拒めないので,本人の依頼書面を債権者に示してから払うのが安全である。
正当な利益を有する者(保証人等)の弁済は,3項の制限を受けない。

3 判断の順序

第三者弁済を考えるときは,次の順序で確かめる。

確認の順序確認すること根拠
①債務の発生又はその原因となる契約が令和2年4月1日より前か平成29年法律第44号附則17条1項・25条1項
②債務の性質や契約で第三者の弁済が禁止・制限されていないか民法474条4項
③払う人が保証人・物上保証人等の正当な利益を有する者か民法474条2項・3項
④本人が反対していないか(同意書面を得たか)民法474条2項
⑤本人から頼まれたことを債権者が知っているか民法474条3項ただし書
⑥払った後に本人へ請求するのか,援助として求めないのか民法650条・702条・499条等

第5 払った人は本人に請求できるか

1 求償の根拠は本人との関係で決まる

(1) 本人に頼まれて払った場合

本人から頼まれて払った場合は,委任に基づく費用の償還の問題になる。
民法650条1項は,「受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。」と定める。

(2) 頼まれずに払った場合

頼まれていないが本人のために払った場合は,事務管理の費用償還の問題になる。
民法702条1項は,「管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる。」と定める。
同条3項は,「管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度においてのみ、前二項の規定を適用する。」と定める。
このほか,法律上の原因なく利益を受けた者に対する不当利得の返還請求(民法703条)も問題になる。

(3) 保証人として払った場合

民法459条1項は,主たる債務者の委託を受けて保証をした保証人が債務の消滅行為をしたときは,主たる債務者に対し,そのために支出した財産の額の求償権を有すると定める。
民法462条2項前段は,「主たる債務者の意思に反して保証をした者は、主たる債務者が現に利益を受けている限度においてのみ求償権を有する。」と定める。

2 弁済による代位

弁済をした者は,債権者に代位し(民法499条),債権の効力及び担保として債権者が有していた一切の権利を行使することができる(民法501条1項)。
ただし,その権利の行使は,自己の権利に基づいて債務者に対して求償をすることができる範囲内に限られる(同条2項)。
正当な利益を有しない者の代位は,債権者から債務者への通知又は債務者の承諾がなければ債務者に対抗できない(民法500条・467条)。

3 援助の趣旨なら求償しないことを書面にする

親が子の借金を払う場合のように,後で返してもらうつもりがないときは,求償権や代位で得た権利を行使しない(放棄する)ことを書面にしておくのがよい。
これを明確にしないと,本人は金融機関への債務を免れても,払った人に対する返還債務を負い続けることになり得る。
逆に,後で返してもらうつもりなら,立替えなのか,貸付けなのかを合意書に残しておく必要がある。

第6 本人が拒んでいても債務を消滅させる方法

1 保証

保証契約は,債権者と保証人の間の契約であり,主たる債務者は当事者ではない。
民法462条2項が「主たる債務者の意思に反して保証をした者」の求償権を定めていることからも分かるように,保証は主たる債務者の意思に反してもすることができる。
保証人は弁済をするについて正当な利益を有する者であるから,保証人となった後の弁済は民法474条2項・3項の制限を受けない。
保証契約は書面でしなければ効力を生じない(民法446条2項)。
また,事業のために負担した貸金等債務を個人が保証する場合は,原則として(例外は民法465条の9),契約の締結の日前1か月以内に作成された公正証書で保証債務を履行する意思を表示していなければ効力を生じない(民法465条の6第1項)。

2 併存的債務引受

民法470条1項は,「併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。」と定め,同条2項は,「併存的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。」と定める。
債権者と引受人の契約だけで成立し,本人の同意は要件になっていない。
引受人が自分の債務として弁済すれば,連帯債務の関係にある本人の債務も消滅する。

改正前は併存的債務引受について民法に規定がなかった(法務省の説明資料,資料上の49頁)。
最高裁昭和41年12月20日判決(民集20巻10号2139頁)は,改正前の事案について,「重畳的債務引受がなされた場合には、反対に解すべき特段の事情のないかぎり、原債務者と引受人との関係について連帯債務関係が生ずるものと解するのを相当とする。」と判示しており,現行の民法470条1項は,引受人が債務者と連帯して債務を負担すると明文で定めている。
改正前には,併存的債務引受を債務者の意思に反してすることができるかも問題になった。
大審院大正15年3月25日判決(大正14年(オ)第1064号,大審院民事判例集5巻4号219頁)は,併存的債務引受は実質的に債権の効力を確保する作用を有し,その点で保証債務と異ならないとした上で,「保證ハ債務者ノ意思ニ反スルトキト雖爲シ得ヘキコトハ民法第四百六十二條第二項ノ規定ニヨリ明瞭ナルヲ以テ此ノ法律ノ精神ヨリ推シテ第三者ハ原債務者ノ意思ニ反スルトキト雖有效ニ併存的債務引受行爲ヲ爲シ得ヘキモノト解スルヲ相當トス」と判示し,原債務者の意思に反することを理由に請求を棄却した原判決を破棄した。
現行の民法470条2項も,債権者と引受人となる者との契約による併存的債務引受について,債務者の同意を要件としていない。
引受人から本人への求償は,連帯債務者の間の負担部分に応じて行われる(民法442条1項)ので,援助の趣旨なら求償しないことを書面にしておく。

3 免責的債務引受

民法472条1項は,免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し,債務者は自己の債務を免れると定める。
同条2項は,「免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。」と定める。
債権者が本人に通知すれば効力を生じるので,本人の同意は要件になっていない。
同条3項は,債務者と引受人となる者が契約をし,債権者が引受人となる者に対して承諾をする方法も定めている。

民法472条の3は,「免責的債務引受の引受人は、債務者に対して求償権を取得しない。」と定める。
引受人は,本人に代わって債務者の地位に就き,その後の返済は自分の債務の弁済になる。
改正前は免責的債務引受についても民法に規定がなかった(法務省の説明資料,資料上の49頁)。
改正前の債務の引受けについて,大審院大正10年5月9日判決(大正10年(オ)第314号,大審院民事判決録27輯899頁)は,「債務ノ引受ニ付テハ民法ニ何等ノ規定ナシト雖モ之ヲ禁止シタル規定アルコトナク又之ヲ無效ト爲スヘキ理由ナキヲ以テ斯カル契約ハ契約自由ノ原則ニ照シテ之ヲ有效ナリト爲スヘク又其契約ハ債務者ノ利益トナルモノナレハ必スシモ其同意ヲ經ルコトヲ要セス債務者ノ意思ニ反セサル限リ債權者ト引受人トノ間ニ於テ之ヲ爲スコトヲ得ヘキモノト解スルヲ相當トス」と判示していた。
同判決の該当部分は,免責的債務引受か併存的債務引受かを明示しておらず,債務の引受け一般について述べたものである。
現行の民法472条2項は,債権者と引受人となる者との契約による免責的債務引受について,債務者の意思に反しないことを要件としておらず,債権者から債務者への通知を効力の発生時としている。
経過措置として,民法470条から472条の4までの規定は,施行日前に締結された債務の引受けに関する契約には適用されない(平成29年法律第44号附則23条)。

4 債権の譲受けと免除

払いたい人が債権者から債権を買い取って自分が債権者になり,本人に対して債務を免除する方法もある。
民法466条1項本文は「債権は、譲り渡すことができる。」と定め,同条2項は,譲渡制限の意思表示をしたときであっても,債権の譲渡はその効力を妨げられないと定める。
債権譲渡を本人に対抗するには,債権者(譲渡人)から本人への通知又は本人の承諾が必要である(民法467条1項)。
民法519条は,「債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権は、消滅する。」と定める。
免除は債権者の一方的な意思表示で効力を生じ,本人の同意は要らない。

5 債権者による免除

払いたい人が債権者に対価を支払い,債権者が本人に対して債務を免除する旨を合意する方法もある。
免除をするのは債権者なので,民法519条により,本人の意思にかかわらず債務は消滅する。
対価の支払と免除の意思表示の順序(先に払うのか,免除を確認してから払うのか)は合意書で決めておく。

6 更改

民法514条1項は,「債務者の交替による更改は、債権者と更改後に債務者となる者との契約によってすることができる。この場合において、更改は、債権者が更改前の債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。」と定める。
改正前の民法514条はただし書で「更改前の債務者の意思に反するときは、この限りでない。」と定めていたが,現行法にはこのただし書がない。
更改後の債務者は,更改前の債務者に対して求償権を取得しない(民法514条2項)。

7 方法の比較

方法債権者との合意本人の同意払った人から本人への請求条文
第三者弁済(正当な利益なし)不要(ただし債権者は拒める)意思に反すると原則無効委任・事務管理・不当利得による474条
保証保証契約(書面)不要意思に反する保証は現に利益を受けている限度446条・462条
併存的債務引受引受契約不要負担部分に応じた求償470条・442条
免責的債務引受引受契約と本人への通知不要求償権なし472条・472条の3
債権の譲受けと免除債権の売買不要免除すれば問題にならない466条・467条・519条
債権者による免除対価と免除の合意不要問題にならない519条
更改(債務者の交替)更改契約と本人への通知不要求償権なし514条

第三者弁済以外の方法は,いずれも債権者の協力が前提であり,債権者が応じるかどうかは債権者の判断による。

第7 親が子の借金を払った場合の贈与税

相続税法8条本文は,「対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で債務の免除、引受け又は第三者のためにする債務の弁済による利益を受けた場合」には,その利益を受けた者が,債務の金額に相当する金額を,免除,引受け又は弁済をした者から贈与により取得したものとみなすと定める。
親が子の借金を無償で払えば,子は贈与を受けたものとみなされることになる。
同条ただし書2号は,「債務者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その債務者の扶養義務者によつて当該債務の全部又は一部の引受け又は弁済がなされたとき」を挙げ,その場合には,贈与により取得したものとみなされた金額のうち「その債務を弁済することが困難である部分の金額」は贈与とみなさないとしている。
国税庁の相続税法基本通達8-3は,保証債務者が主たる債務者の弁済すべき債務を弁済した場合においてその求償権を放棄したときはその代わって弁済した金額につき,連帯債務者が自己の負担に属する債務の部分を超えて弁済した場合においてその超える部分の金額について他の債務者に対し求償権を放棄したときはその超える部分の金額につき,それぞれ相続税法8条の規定による贈与があったものとみなされるとしている。
保証人として払った後や,併存的債務引受の引受人(民法470条1項により債務者と連帯して債務を負担する)として自己の負担部分を超えて払った後に,援助の趣旨で求償権を放棄する場合も,相続税法8条による贈与の扱いが問題になり得る。
同通達8-4・7-4は,ただし書の「資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合」を,「その者の債務の金額が積極財産の価額を超えるときのように社会通念上債務の支払が不能(破産手続開始の原因となる程度に至らないものを含む。)と認められる場合」としている。
同通達8-4・7-5は,「債務を弁済することが困難である部分の金額」を,債務超過の部分の金額から,債務者の信用による債務の借換え,労務の提供等の手段により近い将来において当該債務の弁済に充てることができる金額を控除した金額としており,特に支障がないと認められる場合は,債務超過の部分の金額として取り扱ってもよいとしている。
贈与税には,課税価格から110万円を控除する基礎控除の特例がある(租税特別措置法70条の2の4第1項)。
求償しない援助として払う場合は,子の資力の状況と金額に応じて,贈与税の申告の要否を確かめる必要がある。

第8 場面別の確認事項

1 親が成人した子の借金を返したい場合

(1) 設例

親Aは,成年に達した子Bが貸主Cから借りた500万円を返してやりたいと考えているが,Bは「親の世話になりたくない」と言って拒んでいる。
借入れの契約も実行も令和2年4月1日以後であり,AはBの保証人や物上保証人ではないとする。

(2) AC間の新たな合意が要らない方法

親権は成年に達しない子について行使するものであり(民法818条1項),成年に達したBについて,Aは法定代理人としてBの名義で弁済することはできない。
AはBの親であるというだけでは弁済をするについて正当な利益を有する者に当たりにくいので,Bの意思に反するAの弁済は,Cが事情を知っていれば効力を生じない(民法474条2項)。
Cも,Aからの弁済を拒むことができる(同条3項)。
BがAに弁済を頼み(委託),そのことをCが知っていれば,Bの意思に反せず,Cも受領を拒めない(同条3項ただし書)ので,Aは第三者弁済として払える。
Bの依頼書面を用意してCに示しておくのが安全である。

(3) AC間の新たな合意による方法

Bが拒み続ける場合でも,Cが応じれば,①AがCと保証契約を書面で結んで保証債務を弁済する方法,②AがCとの契約で併存的債務引受又は免責的債務引受をして弁済する方法,③AがCから債権を買い取ってBに免除する方法,④AがCに対価を払ってCにBの債務を免除してもらう方法がある。
①と②の併存的債務引受では,AはBに対する求償権を取得し得るので,援助の趣旨ならAが求償しないことを書面にする。
②の免責的債務引受では,Aは求償権を取得しない(民法472条の3)。
③と④では,Bの債務は免除によって消滅するので,求償の問題は生じない。
Aが求償しない(求償権を放棄する)場合や,③④のように免除によって債務が消える場合には,Bは対価を払わずに債務を免れる利益を受けるので,相続税法8条による贈与税の扱いを確かめる。

2 別れた配偶者名義の住宅ローンを払いたい場合

令和2年4月1日より前に契約した住宅ローンの弁済には改正前の民法474条が適用されるので,元配偶者の同意を書面で得てから払うのが安全である。
財産分与によって担保に入っている住宅の所有権を得た場合は,前記の最高裁昭和39年4月21日判決が例に挙げる担保不動産の第三取得者に当たると考えられる。
所有権は得ていないが住み続けるための権原(財産分与の合意等)があり,ローンの不払による抵当権の実行で退去を求められる関係にある場合には,前記の最高裁昭和63年7月1日判決の考え方から,法律上の利害関係を主張する余地がある。
ローンの債務者を自分に替えたい場合は,免責的債務引受(民法472条)を金融機関と協議することになり,引受け後の返済分は元配偶者に請求できない(民法472条の3)。
詳しくは,妻が払った夫名義の住宅ローンは取り戻せるか―同居中・別居後・離婚後の3段階と財産分与・立替金の請求で扱っている。

3 個人再生の前に親族が弁済する場合

親族が債権者に直接払っても,親族が求償権や代位で得た権利を持てば,債権者が入れ替わるだけで債務の総額は減らないことがある。
正当な利益を有しない親族が払うときは,本人の依頼を債権者に示し(民法474条3項ただし書),求償しない趣旨を書面にしておく。
詳しくは,個人再生の5000万円要件―計算方法,少額超過時の弁済・免除と親族援助で扱っている。

4 確認に使う資料

①借入れの契約書(借入日,第三者の弁済を禁止・制限する条項の有無)
②保証契約書・担保の設定契約書(払う人が保証人・物上保証人か)
③本人の同意書・依頼書(本人の意思,債権者に示す書面)
④払う人と本人の合意書(立替え・貸付け・援助の別,求償権の放棄の有無)
⑤金融機関との合意書(保証,債務引受,債権譲渡又は免除の内容と効力発生の時期)
⑥本人の資力が分かる資料(贈与税の扱いを確かめるため)

第9 関連記事

他人の債務の弁済と求償が問題になる場面は,次の記事で扱っている。
①妻が払った夫名義の住宅ローンは取り戻せるか―同居中・別居後・離婚後の3段階と財産分与・立替金の請求
②ペアローンを組んだ夫婦の離婚と財産分与――評価,連帯保証・求償の帰趨及び課税
③個人再生の5000万円要件―計算方法,少額超過時の弁済・免除と親族援助
④共同不法行為の連帯責任と連帯債務―不真正連帯債務,示談,時効及び求償
⑤消滅時効を援用できるのは誰か―保証人・物上保証人・第三取得者,後順位抵当権者及び詐害行為の受益者
⑥偏頗弁済と否認権―破産法160条・161条・162条の使い分け,廉価譲渡,相当対価処分及び債務引受け

第10 出典

1 法令

①e-Gov法令検索「民法」442条,446条,459条,462条,465条の6,465条の9,466条,467条,470条,472条,472条の3,474条,499条,500条,501条,514条,519条,650条,702条,703条,818条及び附則(平成29年法律第44号)17条・23条・25条
②e-Gov法令API「民法」平成28年10月13日施行版(改正前の474条,499条,500条,514条)
③e-Gov法令検索「相続税法」8条
④e-Gov法令検索「租税特別措置法」70条の2の4

2 裁判例

①最高裁昭和39年4月21日判決(昭和37年(オ)第158号,民集18巻4号566頁)
②最高裁昭和63年7月1日判決(昭和62年(オ)第1577号,集民154号245頁)
③最高裁昭和41年12月20日判決(昭和39年(オ)第1237号,民集20巻10号2139頁)
④大審院大正10年5月9日判決(大正10年(オ)第314号,大審院民事判決録27輯899頁,裁判所HP未掲載,判例秘書の大審院判例検索で判決の画像を確認)
⑤大審院大正15年3月25日判決(大正14年(オ)第1064号,大審院民事判例集5巻4号219頁,裁判所HP未掲載,判例秘書の大審院判例検索で判決の画像を確認)

3 法務省の資料

①民法の一部を改正する法律(債権法改正)について
②民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-(資料上の49頁・51頁)
③民法(債権関係)改正Q&A(Q4)

4 国税庁の通達

①相続税法基本通達(第1章第2節 第7条関係・第8条《免除等を受けた債務》関係)(7-4,7-5,8-3,8-4)