第1 30日前に予告しても整理解雇が有効とは限らない
結論として,30日前に解雇を予告し,又は不足日数分の解雇予告手当を支払っただけで,整理解雇が有効になるわけではない。予告は労働基準法20条の手続であり,解雇が客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当と認められるかは労働契約法16条により別に判断される。
期間の定めのない雇用で使用者が解約の意思表示をする法律上の出発点は民法627条1項である。ただし,雇用の解約は,労働契約法16条の解雇権濫用法理,労働基準法19条・20条,雇用平等・育児介護・組合活動等を理由とする個別の解雇禁止に制約される。民法627条を書いただけで整理解雇が有効になるわけではない。
有期契約の期間途中の解雇は,労働契約法17条1項により「やむを得ない事由」を要し,期間の定めのない契約より厳しい。
整理解雇は労働者側の非違行為ではなく,経営上の事情による人員削減である。そのため,人員削減の必要性,解雇回避措置,人選の合理性及び説明・協議を,計画時から証拠化する必要がある。
第2 予告手続と解雇の有効性を分ける
| 問題 | 根拠 | 確認内容 |
|---|---|---|
| 解雇予告 | 労働基準法20条 | 原則30日前の予告又は不足日数分の平均賃金。 |
| 解雇の実体的有効性 | 労働契約法16条 | 客観的合理性と社会通念上の相当性。 |
| 解雇理由証明書 | 労働基準法22条 | 労働者から請求があれば遅滞なく交付する。 |
| 法定の解雇禁止 | 労働基準法等 | 業務災害療養中,産前産後,申告,妊娠・育休,組合活動等を理由とする禁止。 |
予告手当を支払えば自由に解雇できるという理解は,手続と実体を混同する。逆に,十分な経営上の理由があっても,予告又は予告手当等の手続を省略してよいわけではない。
第3 整理解雇の四つの考慮事項
厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」は,整理解雇について,①人員削減の必要性,②解雇回避の努力,③人選の合理性,④解雇手続の妥当性を挙げる。
裁判例には「四要件」と表現するものと「四要素」として総合判断するものがある。どれか一つの名称だけで結論を出さず,四つの事項をすべて事実と資料に結び付けるべきである。東京地裁平成18年11月29日判決(東京自転車健康保険組合事件)は四要素を考慮し,黒字・内部留保,新規採用,配置転換等の検討不足などから整理解雇を無効とした。
第4 人員削減の必要性
企業が倒産寸前でなければ整理解雇が常に許されないというわけではない。他方,売上減少又は部門閉鎖という経営判断があるだけで,直ちに特定人数の解雇が必要になるものでもない。
少なくとも,直近の月次・年次損益,資金繰り,受注見込み,固定費,削減対象部門の収支,人員計画,外注・派遣・新規採用,役員報酬及び関連会社への業務移管を確認する。解雇の直前又は直後に同種業務で採用・外注をしていると,人員削減の必要性との整合が問われる。
第5 解雇回避措置
解雇回避措置には,残業削減,新規採用停止,外注見直し,配置転換,出向,一時帰休,賃金・役員報酬の見直し,希望退職募集及び退職勧奨などがある。ただし,これらをすべて機械的に実施すべきという意味ではなく,企業規模,職種,緊急性及び労働条件変更の可否に応じて,実行可能性と効果を具体的に検討する。
希望退職又は退職勧奨は労働者の自由意思による合意退職であり,強迫的な面談,長時間・多数回の勧奨又は不利益の示唆があれば別の違法問題を生む。回避措置の名目で不当な圧力をかけてはならない。
第6 人選の合理性
対象者の選定基準は,解雇対象者を決めた後に作るのではなく,事前に客観化する。職務の消滅,技能,資格,勤務成績,懲戒歴,雇用形態,勤続年数等を用いる場合,各指標の目的,配点,評価期間及び資料を固定する。
年齢,性別,妊娠・出産,育児・介護休業,労働組合加入,労働基準監督署への申告その他の保護される事情を理由に選定してはならない。勤務成績を使う場合,評価者ごとのばらつき,直前だけの低評価,記録のない主観評価及び休業期間の扱いを検証する。
第7 説明・協議の妥当性
使用者は,労働組合又は労働者に対し,人員削減の必要性,時期,規模,選定基準,回避措置及び退職条件を具体的に説明し,質問に答える。単に結論を通知するだけでなく,資料を示し,検討時間を確保し,意見を受けて再検討した過程を記録する。
労働者の同意を常に得なければ整理解雇ができないという意味ではないが,説明内容が抽象的で,選定基準も開示せず,結論だけを急ぐと,手続の相当性を欠く方向に評価される。
第8 実施前に確認する別の規制
- 就業規則・労働協約の解雇事由,協議条項及び退職金規定
- 業務上災害の療養中及び産前産後休業中の解雇制限
- 妊娠・出産,育児介護休業,組合活動又は行政申告を理由とする不利益取扱いの禁止
- 一定数の離職者が生じる場合の再就職援助計画又は大量雇用変動の届出
- 有期契約の期間途中であれば,労働契約法17条の「やむを得ない事由」
- 障害者,高年齢者及び外国人労働者についての個別法・届出
第9 証拠化する資料
| 段階 | 主な資料 |
|---|---|
| 必要性 | 決算・試算表,資金繰り,受注・売上予測,部門別損益,取締役会資料 |
| 回避措置 | 採用・外注一覧,配置可能職,出向打診,希望退職案,検討メモ |
| 人選 | 基準策定日,評価表,配点,評価根拠,選定前後の名簿 |
| 説明・協議 | 説明資料,議事録,質問回答,労組通知,提案修正履歴 |
| 解雇手続 | 解雇通知,理由証明書,予告日,予告手当計算,退職金計算 |
第10 使用者・労働者別の確認事項
使用者側は,対象者決定前に基準と資料を固定し,回避策を実施できない理由を記録する。通知文だけを整えるのではなく,経営資料から選定・協議まで一貫して説明できるようにする。
労働者側は,解雇理由証明書を請求し,会社の説明資料,採用・外注の状況,配置可能な職務,評価資料及び同僚との取扱差を保存する。解雇無効を争う場合,地位確認,賃金請求及び労働審判・仮処分等の手続選択を早期に検討する。
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第12 出典・参考資料
①e-Gov法令検索「民法」627条
②e-Gov法令検索「労働契約法」16条~19条
③e-Gov法令検索「労働基準法」19条~22条,89条及び114条
④厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」
⑤東京地方裁判所平成18年11月29日判決(平成18年(ワ)第449号,東京自転車健康保険組合事件,裁判所ウェブサイト)
⑥中央労働委員会「調整事件解説集31」(整理解雇に係る裁判例の整理)