目次
第1 前期損益修正を四つに分ける1 最初の四区分第2 会計上の処理1 過去の誤謬は修正再表示する2 見積り変更と後発的事由は過去の誤謬ではない3 会社計算規則に科目名が残ることの意味第3 税務上の処理1 申告当時から処理が誤っていた場合2 後日の解除,取消し又は返品等3 会計上の遡及処理と税務申告の関係4 更正の請求の期限第4 年度帰属を示す裁判例等1 後日の契約解除を当期の損失とした裁判例2 TFK事件とクラヴィス事件3 実際の収入と後の貸倒れを区別した最高裁判例第5 実務上の確認順序第6 関連記事第7 出典・参考資料1 法令・会計基準2 国税庁資料・通達3 裁判例・裁決4 文献5 関連記事
前期損益修正という言葉は,前期以前に関係する損益を当期に処理する場面を広く指して使われることがある。
しかし,会計上の過去の誤謬を訂正する問題と,法人税の過年度申告を直す問題は同一ではない。
さらに,過去の判断は当時の情報に照らして正しかったものの見積りの基礎が後に変わった場合や,契約の解除,取消し,返品又は債権の貸倒れが後に生じた場合も区別する必要がある。
本記事は,令和8年9月7日現在の法令,会計基準,国税庁資料及び公表裁判例を基準として,法人の決算と法人税を中心に整理するものである。
具体的な処理は,採用する会計基準,金額の重要性,申告年度,確定決算の内容及び後発的事由の証拠によって異なるため,個別案件では会計・税務の専門家による確認が必要である。
第1 前期損益修正を四つに分ける
1 最初の四区分
検討の出発点は,判明した差額を次の四つに分けることである。
①決算時に利用できた情報の不使用又は誤用による過去の誤謬
②新しい情報による会計上の見積りの変更
③当初は正しく処理した取引について後に生じた解除,取消し,返品,値引き又は貸倒れ
④法令の適用,収益・費用の年度帰属又は税額計算を誤った税務申告
①では会計上の修正再表示が問題となり,②は原則として変更した期間以後の会計処理となる。
③は後発的事由が生じた当期の損益となることが多く,④では修正申告又は更正の請求の要否を検討する。
帳簿上の仕訳名だけで結論を出さず,いつ,どの事実が存在し,決算時にどの情報を利用できたかを先に確定すべきである。
第2 会計上の処理
1 過去の誤謬は修正再表示する
企業会計基準第24号4項8号は,財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったこと又は誤用したことによる誤りを「誤謬」と定義する。
同項11号の「修正再表示」は,過去の財務諸表における誤謬の訂正を財務諸表に反映することをいう。
同基準21項により,過去の財務諸表における誤謬が発見された場合は,原則として修正再表示を行い,表示期間より前の累積的影響額を最も古い表示期間の期首の資産,負債及び純資産に反映する。
したがって,同基準を適用する企業について,過去の誤謬を発見したというだけで,その全額を当期の特別損失又は特別利益に計上するのが現在の原則ではない。
もっとも,重要性が乏しく修正再表示をしない誤謬は,内容に応じて当期の営業損益又は営業外損益に含める取扱いが示されており,重要性の判断を抜きに一律の処理をすることもできない。
既に公表した財務諸表自体の訂正期間及び訂正方法は,金融商品取引法その他の各開示制度によって別に判定する。
2 見積り変更と後発的事由は過去の誤謬ではない
企業会計基準第24号4項7号は,新たに入手可能となった情報に基づいて過去の見積りを変更することを「会計上の見積りの変更」と定義する。
同基準17項によれば,見積りの変更は,変更期間だけに影響するときは当該期間に,将来の期間にも影響するときは将来にわたって会計処理する。
決算時の情報に基づく見積りが合理的であったのに,その後の事情によって回収見込額等が変わった場合は,後知恵で過去の誤謬に置き換えてはならない。
契約が後に解除された場合や,商品が後に返品された場合も,解除又は返品の事実が当初から存在した誤りなのか,当初の処理後に新しく生じた事実なのかを区別する必要がある。
この区別は,会計処理だけでなく,後記の税務上の年度帰属にも直結する。
3 会社計算規則に科目名が残ることの意味
会社計算規則88条1項3号及び2項は,特別利益の例として前期損益修正益を,特別損失の例として前期損益修正損を掲げている。
もっとも,この表示科目が法令上残っていることは,企業会計基準第24号が過去の誤謬について定める修正再表示を排除するものではない。
どの財務報告制度と会計基準が適用されるかを確定し,誤謬の重要性を判定した上で,表示科目の可否を検討する必要がある。
第3 税務上の処理
1 申告当時から処理が誤っていた場合
法人税法22条は,各事業年度の益金と損金により所得金額を計算し,4項において,別段の定めがあるものを除き,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算する旨を定める。
同法22条の2は,資産の販売等に係る収益の計上時期と収益額を定めている。
過年度の売上げを単純に計上し忘れた場合や,法令上その年度に損金算入できない額を控除した場合は,後の年度の前期損益修正だけで税務申告の誤りが解消するわけではない。
申告税額が過少であれば,国税通則法19条に基づく修正申告を検討する。
申告税額が過大であるなど同法23条1項の要件を満たす場合は,更正の請求を検討する。
会計上の修正再表示をしたという事実だけで税務上の過年度所得が自動的に変わるのではなく,対象年度の申告が税法に従っていたかを年度ごとに判定する必要がある。
2 後日の解除,取消し又は返品等
法人税基本通達2-2-16は,前事業年度以前に益金算入した取引について,当事業年度に契約の解除,取消し又は返品等が生じた場合,その事実に基づく損失額を当事業年度の損金に算入する取扱いを示す。
これは,当初の収益計上が正しかったにもかかわらず,後に新しい事実が生じた場面の年度帰属である。
当初から売上げが存在しなかった場合や,単なる記帳漏れを当期に振り替える場面とは異なる。
収益額が値引き等で変動する可能性を当初から見積もる場面については,法人税法22条の2及び法人税法施行令18条の2の適用関係も確認する必要がある。
すべての値引きや返金を通達2-2-16だけで処理できるわけではなく,当初の収益額の算定に反映すべき変動対価か,後に生じた解除等かを分けて検討する。
個人の非事業用資産の売買について,解除と現実の原状回復により譲渡の経済的成果が失われた場合は,過年度の譲渡所得と申告税額を改める根拠があるかを,所得税と更正の請求の規定に沿って検討する。法人税基本通達2-2-16の当期損金処理を,個人へそのまま適用することはできない。契約が存続する中で未収代金が回収不能となる所得税法64条の場面とも区別する。実務上の判断と返還資料は売買契約を解除した後の所得税―原状回復,未収代金の貸倒れ,違約金と更正の請求を参照されたい。
3 会計上の遡及処理と税務申告の関係
国税庁の「法人が『会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』を適用した場合の税務処理について(情報)」は,会計上の遡及処理を行った場合の税務処理を事例形式で示している。
同資料の問5は,過年度に減価償却費の計上を失念したものの税務申告では償却限度額まで損金算入していた事例について,修正再表示後も課税所得に影響せず,当期の利益剰余金と法人税申告書別表五(一)との関係を調整することを示す。
同資料の問7は,過年度の売上計上漏れについて,会計上は修正再表示を行い,税務上は過年度の修正申告を行う例を示す。
このように,会計上の修正再表示,帳簿の利益剰余金,法人税申告書の別表調整及び修正申告・更正の請求は,別々に確認しなければならない。
一つの仕訳で会計と税務の双方が完結すると考えると,対象年度や別表五(一)の利益積立金額の連続性を誤るおそれがある。
4 更正の請求の期限
国税庁の法人税に係る更正の請求手続によれば,国税通則法23条1項による通常の更正の請求は,原則として法定申告期限から5年以内である。
同条2項の後発的事由に基づく更正の請求は,各号の起算事由に応じて原則として2月以内に行う。ただし,同項柱書括弧書きは,所定の期間の満了日が同条1項の通常の請求期間の満了後に到来する場合に限ると定める。通常の期間を延長する制度であり,通常の期間内の請求に一律に2月の期限を課すものではない。所得税法152条等による別の特例の適用は,その規定に沿って確認する。
ただし,後発的事由に関する期間内に請求したことと,過年度の申告税額が税法上過大であることとは別の要件であり,期間内であれば当然に減額更正されるわけではない。
第4 年度帰属を示す裁判例等