目次第1 本記事の対象と結論の要旨1 対象とする場面2 結論の要旨第2 条文上の区別と対価の判断1 無償か賃料か2 名目より実質が問われる3 公租公課の負担は使用貸借と両立する第3 公租公課程度の支払についての最高裁判所の判断1 建物の固定資産税等を負担していた事案2 土地の公租公課相当額と麦を渡していた事案3 相場の一部にとどまる金額は謝礼とされた事案4 世間並みの家賃なら賃貸借とされた事案第4 相場より安い支払についての下級審裁判例1 使用貸借とされた例2 賃貸借とされた例3 裁判例から読み取れる判断の枠組み第5 「固定資産税の何倍なら賃貸借か」という問い1 固定資産税を上回っても賃貸借とは限らない2 公租公課倍率は地代の目安にとどまる3 金額以外に考慮される事情第6 使用貸借か賃貸借かで何が変わるか1 終了と借主の死亡2 借地借家法の適用と第三者への対抗3 終了時の建物と費用の扱い4 安すぎる賃料は増額請求の対象になる5 税務上の取扱いは別の基準による第7 当事者が備えておくこと1 無償で使わせる場合2 有償にする場合3 争いになった場合に集める資料第8 出典1 法令2 国税庁の通達3 裁判例4 裁決5 文献
第1 本記事の対象と結論の要旨
1 対象とする場面
(1) 本記事で扱う支払
本記事は,親族や知人,取引先などに土地や建物を使わせ,借主から固定資産税相当額や相場より安い地代・家賃を受け取っている場合に,その関係が使用貸借と賃貸借のどちらに当たるかを,令和8年9月12日時点の法令,裁判例,裁決及び実務書に基づいて整理するものである。
支払の名目は,地代,家賃,使用料,謝礼,冥加金など様々であるが,本記事では,その金額の水準が区別にどう影響するかを中心に扱う。
(2) 関連記事で扱う問題
使用貸借の土地が売却された場合の買主との関係や土地の評価額は使用貸借の土地を借主の同意なく売却したときの評価額-買主への対抗,権利濫用及び使用借権の減価割合で,親族間で土地を使わせる場合の課税は親族間で土地を使わせる場合の課税-使用貸借と相当の地代で扱っている。
2 結論の要旨
結論は次のとおりである。
①使用貸借か賃貸借かは,借主の支払が物の使用及び収益の対価,すなわち賃料といえるかで決まり,支払の名目よりも金額の実質が重視される。
②借主が固定資産税などの公租公課を負担しているだけでは,それが対価の意味を持つ特段の事情がない限り使用貸借とされ,この点は建物についても土地についても最高裁判所の判断がある。
③公租公課を超える支払でも,近隣の相場と比べてごく一部にとどまる場合は謝礼や負担にすぎないとされることがあり,固定資産税等の約2倍の地代を払っていた土地を使用貸借とした裁判例もある。
④反対に,相場より安くても対価とみられないほど低廉とはいえない場合や,公租公課と従前の賃料を上回る場合は,賃貸借と認められている。
⑤「固定資産税の何倍を超えれば賃貸借」という基準は判例になく,公租公課倍率は地代の目安にとどまるから,最終的には相場との比較と,当事者の関係,経緯,契約書の文言などを総合して判断される。
⑥どちらに当たるかで,借主の死亡による終了,借地借家法の適用,第三者への対抗,建物買取請求,地代等の増額請求などの扱いが大きく変わる。
第2 条文上の区別と対価の判断
1 無償か賃料か
使用貸借は,当事者の一方がある物を引き渡すことを約し,相手方がその受け取った物について「無償で」使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって,その効力を生ずる(民法593条)。
賃貸借は,当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方が「これに対してその賃料を支払うこと」及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって,その効力を生ずる(民法601条)。
したがって,借主から貸主に何らかの金銭が渡されていても,それが使用及び収益の対価,すなわち賃料でなければ,契約は使用貸借である。
2 名目より実質が問われる
(1) 労務や建物の提供も対価かどうかが問われる
最高裁判所昭和26年3月29日判決(昭和24年(オ)第63号,民集5巻5号177頁)は,家屋使用の対価としてその家屋の留守管理をする旨の契約は,賃貸借契約とはいえないとした。
最高裁判所昭和35年2月12日判決(昭和31年(オ)第1022号,集民39号415頁)は,土地の使用の許諾を得る条件として建物を土地所有者に譲渡した事案で,その建物は土地の使用許可を得る代償として贈与されたもので,土地使用の対価や権利金の支払に代わるものではないとして,貸借を使用貸借と認めた原判決を是認した。
同判決は,契約書の条項だけでなく,契約の成立に至る経緯を詳しく認定した原審の判断を是認しており,金銭以外の給付であっても,それが何のために渡されたのかが問われることを示している。
(2) 金額という実質が重視される
実務書も,借主の金銭支払が使用収益の対価と評価されれば賃貸借,評価されなければ使用貸借と認定されることになり,判例は支払の名目よりも金額という実質を重視する傾向にあるとしている(埼玉弁護士会編『使用貸借の法律と実務』(ぎょうせい,2021年)35頁)。
(以下,同書を「埼玉弁護士会編」という。)
3 公租公課の負担は使用貸借と両立する