目次第1 この記事が扱う対象と時点1 意見書の要旨2 意見書の作成名義と位置付け3 基準日と資料の範囲第2 意見書が前提とする見直しの背景1 意見書による背景の整理2 会計検査院の指摘の読み方3 「過去10年間で14件」の出所第3 令和9年度税制改正要望の文言第4 意見書の二つの柱1 影響の分析と丁寧な議論2 国の政策的方向性との関係第5 有識者会議での議論との対応関係1 国税庁事務局の立場2 日本商工会議所の主張3 三者の主張の対比第6 今後の見通しと実務上の注意1 評価水準は税制改正プロセスで決まる2 事業承継税制の特例措置の期限3 意見書を読むときの注意第7 出典1 法令2 経済産業省・中小企業庁の資料3 有識者会議の資料4 その他の公的資料
第1 この記事が扱う対象と時点
1 意見書の要旨
経済産業省・中小企業庁は,令和8年9月16日付けの「『取引相場のない株式の評価』見直しに係る意見」において,国税庁の有識者会議で進められている非上場株式の相続税評価の見直しについて,影響の分析を尽くした丁寧な議論を求め,政府の政策の方向性に逆行する見直しとならないよう要望した。
意見書は,現在の見直し案が資産規模の大きい企業,収益性の高い企業及び子会社を保有する企業の評価額を大幅に増大させ,事業承継と成長投資を妨げるおそれがあるとし,これを「政府の政策の方向性に逆行するものであると言わざるを得ない」と述べている(意見書3頁)。
見直しに反対すると述べているのではなく,現行の評価方式の枠内でとり得る対応の検討と,業種や経営状況に応じた具体的な試算・検証を求める内容である。
2 意見書の作成名義と位置付け
意見書の作成名義は,経済産業省,中小企業庁,経済産業政策局及びイノベーション・環境局であり,本文は3頁である(中小企業庁ウェブサイト掲載のPDF)。
日付の令和8年9月16日は,国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第6回会議の開催日と同じである。
同会議の委員は研究者,日本商工会議所,日本税理士会連合会及び実務家から成り,中小企業庁は全国商工会連合会とともにオブザーバーとして参加している(国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」委員名簿)。
つまり,意見書は会議の委員の提出資料ではなく,会議の外から所管官庁が示した意見である。
意見書の構成は,前文(見直しの背景と税制改正要望),「(1)評価額の変動による事業承継への影響について,業種や経営状況等に応じた,個別具体的なケース別,類型別及びマクロでの分析・試算を示し,拙速ではなく丁寧に検証・議論すべき」及び「(2)国の政策的方向性に逆行するような見直しとならないこと」の三つに分かれる。
3 基準日と資料の範囲
この記事は,令和8年9月19日現在で公表されている資料に基づく。
有識者会議の資料は第6回まで,議事要旨は第5回まで公表されており,第6回の議事要旨は国税庁の会議ページで「作成中」とされている。
したがって,意見書が第6回会議でどのように扱われたか,委員や事務局がどう応じたかは,この記事の作成時点では確認できない。
有識者会議で議論されている見直しは,国税庁事務局のたたき台の段階であり,決定されたものではない。
第5回会議の当日机上配付資料「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」自身が,「評価水準・税負担の在り方等も含め,最終的には税制改正プロセスにおいて決定いただく」としている(骨子1頁)。
会議全体の経緯と論点は,親記事である取引相場のない株式の評価に関する有識者会議にまとめている。
第2 意見書が前提とする見直しの背景
1 意見書による背景の整理
意見書は,見直しの背景を二つに整理している。
第1は,会計検査院の令和5年度決算検査報告における指摘であり,意見書は,その趣旨を「類似業種比準方式では,特に規模の大きい企業ほど申告時の株式の評価額(対純資産価額)が相対的に低く算定される傾向があり,異なる規模区分間で株式の評価の公平性が必ずしも確保されているとは言えない」旨の指摘として要約している。
第2は,「現行の評価体系が各種租税回避スキームの温床となっているとの国税庁の認識」である(いずれも意見書1頁)。
第2の点は,第4回会議で事務局が,見直しは現在の評価方法の枠組みが「各種租税回避スキームの温床」となっている状況を踏まえたものであり,「あくまで評価の適正化を目的としており,全体として相続税の増税を目的で行うものではない」と回答したことと対応する(第4回議事要旨2頁~3頁)。
2 会計検査院の指摘の読み方
意見書は,会計検査院の報告について,「異なる規模区分間の公平性に関する課題が指摘されているが,規模区分に応じて異なる評価方式を定めることや,現行の類似業種比準方式そのものが不適切であるとまでは指摘されていないものと認識している」と述べる(意見書1頁)。
この読み方を,会計検査院の報告の原文と照らし合わせる。
報告の所見は,各評価方式の間で評価額にかい離が生じていることにより,「類似業種比準価額を適用する割合がより高くなる規模の大きな区分の会社ほど評価額が相対的に低く算定されることになり,この状況は評価通達の改正等の影響により拡大したと思料される」とする。
その上で,「取引相場のない株式では各評価方式による評価額が同水準となることが必ずしも予定されていないことを考慮したとしてもなお」,異なる規模区分の株式を取得した者の間で「株式の評価の公平性が必ずしも確保されているとはいえないと思料される」と述べる。
(続きを読む...)経済産業省・中小企業庁の「取引相場のない株式の評価」見直し意見――令和8年9月16日の意見書と令和9年度税制改正要望(AI作成)