第1 この記事の対象と結論
1 委嘱前から請求後までを確認する
企業不祥事の第三者委員会の費用を検討するときは,時間単価や請求総額だけでなく,何を明らかにするために,誰が,どの作業を,どれだけ行うのかを確認する必要がある。必要な調査資源を確保しながら,調査範囲,実際の作業及び費用の見通しを説明できる仕組みを作ることが重要である。
本記事は,令和8年10月13日現在,日本弁護士連合会の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(平成22年12月17日改訂)と,日本公認会計士協会の監査実務指針等を踏まえ,企業の法務担当者,監査役等及び調査を受任する弁護士が,見積り,委嘱条件,請求明細及び追加調査を確認する手順を整理する。
ガイドライン・監査実務指針に記載された事項と,本記事が提案する契約・管理上の確認事項は区別する。具体的な報酬の適法性,返還請求又は懲戒の成否は,個別の契約,実作業,説明経過及び適用される法令・会規により判断する必要がある。
2 最初に押さえる4点
①時間制報酬が原則であることと,個々の単価・作業時間・請求額が合理的であることは,別の確認事項である。
②当初の見積り,社内予算,連絡を求める水準及び契約上の上限は,同じ意味ではない。
③費用の説明を求めることと,会社に不利な調査結果を変更させることは別である。
④委員会の調査と会計監査では目的が異なるため,同じ資料の再確認があることだけで過剰調査とは判断できない。
第2 時間制報酬の原則と,費用の内訳
1 日弁連ガイドラインが示すこと
日弁連ガイドライン第2部第6の2は,弁護士である委員及び調査担当弁護士の報酬を時間制とすることを原則とし,任務を全うするには相応の人数の専門家が相当程度の時間を費やし,それに応じた費用が発生することを事前に説明するよう求めている。
本文6頁の脚注14は,委員の著名性を利用する「ハンコ代」的な報酬について,不適切な場合が多いとする。また,成功報酬型の報酬体系についても,企業等が期待する調査結果を導こうとする動機につながり得るため,不適切な場合が多いとする。
これは,時間制であれば請求内容を問わないという説明ではない。他方,ガイドライン自身は会員を拘束するものではなく,ベスト・プラクティスを示す文書である。一律の法定料金表や,すべての案件に共通する報酬方式の禁止規定として扱うべきではない。
2 委員報酬だけを比較しない
費用として何が別途発生するかを,見積書と契約で確認する。対象となり得るのは,委員及び調査担当弁護士の報酬,会計・技術等の専門家費用,データの保全・復元・レビュー,反訳・翻訳,事務局,出張,報告書作成その他の支出である。これらがすべての案件で必要という意味ではない。
委員の報酬と補助者の報酬,同じ事務所内の人件費と外部業者への実費,通常の事務所経費と事件固有の支出を分ける。消費税,費用の立替え,外注費への加算及び請求時期も確認し,見積総額に含まれる範囲をそろえて比較する。
第3 見積りを依頼するときの確認票
1 前提条件と成果物を対応させる
見積りを依頼する会社側は,判明している疑惑,対象期間・部門・拠点,保有資料,電子データ量,想定する報告先及び開示日程を整理する。まだ分からない事項は,確定した条件と分けて伝える。調査受任者側は,その前提でどこまで行う見積りかを説明する。
| 確認項目 | 確認する内容 | 残す資料 |
|---|---|---|
| 調査課題 | 解明する疑問,対象と対象外,原因分析の範囲 | 委嘱事項・調査計画 |
| 人員と役割 | 委員,調査担当者,専門家,事務局の担当分担 | 体制図・単価表 |
| 資料と手法 | データ源・期間,検索条件,聴取対象,保全方法 | 資料一覧・作業計画 |
| 時間と費用 | 段階別概算,単価,請求単位,実費,税の扱い | 見積書・契約書 |
| 成果物 | 中間報告,最終報告,説明会等の範囲 | 成果物一覧・期限 |
| 追加条件 | 新事実,対象拡大,データ欠落等による見直し | 変更条件・連絡方法 |
この表は本記事の運用提案であり,法定の書式ではない。単価が低くても必要な専門性や作業が含まれなければ目的を達成できず,総額が高くても大きな対象範囲を前提としている場合がある。比較では前提と成果物をそろえる。
2 当初の概算と上限を区別する
初期の資料収集で新しい事実が判明すれば,調査範囲も変わり得る。「概算100時間」としたことが,当然に100時間を超える作業の料金を請求できない合意を意味するわけではない。逆に,概算と説明したことだけで,追加費用の説明や契約上の制約が不要になるわけでもない。
当初見積り,社内予算,予算消化時の通知水準,上限合意の有無,上限を変更する手続を別に定める。定めが曖昧なら,追加作業を始める前に説明・協議する時点を具体化する。緊急の証拠保全については,範囲・費用・連絡先と事後報告の方法をあらかじめ整理する。
第4 委嘱契約と費用監督の設計
1 誰が費用を確認し,誰が調査を判断するか
契約上の依頼者,費用負担者,会社側の連絡担当者,予算権限者,調査対象者及び報告先を明確にする。経営陣の関与が疑われる事案では,非関与の監査役等や独立社外役員が,費用・進捗の説明を受ける経路を検討する。
日弁連ガイドラインは,調査スコープと手法を企業等と協議して定める一方,委員会の判断で範囲を拡大・変更できるとしている。また,事実認定と報告書の起案は委員会が行い,現経営陣に不利な事実・評価も記載する。会社側の費用承認を,不利な事実の削除や結論の事前承認へ結び付けない設計が必要である。
2 契約に具体化する事項
本記事では,①作業の範囲,②役割別単価と時間の集計方法,③経費と外注費,④明細の提示頻度,⑤見通し変更時の通知,⑥追加調査の説明・協議,⑦資料へのアクセスと委員会の独立した判断,⑧中途終了時の清算と資料の引継ぎを,委嘱前に確認することを提案する。
予算と期間を固定して必要な調査を実施できなくなる場合に備え,是正の協議,必要資源の確保及び委員の辞任の扱いも定める。費用管理を理由として,調査対象者が委員会を指揮できる形にしない。
第5 時間制請求の明細をどう点検するか
1 作業と実時間を確認する
請求明細では,日付,担当者・役割,作業内容,実時間,合意単価及び金額を対応させる。複数の作業を一括して「調査業務」と記載するだけでは,見積りとの違いや再作業の理由を確認しにくい。機密性に配慮しつつ,費用を理解できる粒度を契約で決めておくことが有用である。
| 明細の観点 | 会社側からの確認例 |
|---|---|
| 担当と単価 | 契約の担当区分・単価と一致するか。変更は説明されたか。 |
| 同時参加 | 複数人が会議・聴取に参加した理由と役割は何か。 |
| 再作業 | 新資料・矛盾供述への対応か,作業誤りの修正か。 |
| 集計単位 | 時間の丸め方,移動,待機,連絡の扱いは契約と一致するか。 |
| 外注と経費 | 外注費・実費が報酬にも重複計上されていないか。 |
委員会の重要な判断を複数の委員が検討することや,聴取担当と記録担当が同席することには理由があり得る。同席人数だけで重複請求と決めず,担当分担と必要性を確認する。他方,専門家の単価で単純作業を計上する場合は,担当させた理由と料金条件を説明できるかを点検する。
2 作業管理表と残作業の見通し
調査課題ごとに作業番号を付け,必要な証拠,担当,実施済み作業,得られた結果,未解明点及び残作業の時間・費用を対応させる。会社側への進捗説明では,費用の累計だけでなく,何が判明し,何を追加確認する必要があるかを示す。
結果が予想と異なったことや,結論に至らなかったことだけを料金減額の条件にすると,調査判断へ影響し得る。費用の検証は,契約,仕事の必要性,実施内容及び説明経過を基に行う。
第6 追加調査と予算超過への対応
1 変更理由と影響を記録する
新しい疑惑,関連部門,長期に及ぶ取引,データ欠落又は重要な供述の不一致が判明した場合には,追加調査によって何を明らかにするのかを確認する。範囲変更の記録には,新事実,変更理由,追加対象・手法,人員・時間・費用・期限への影響及び会社への説明経過を残す。
日弁連ガイドライン本文2頁の脚注3は,委員会による範囲拡大・変更の経緯を調査報告書で説明すべきとしている。会社側の費用管理用記録と,ステークホルダーに調査の射程を説明する記録を対応させると,変更理由をたどりやすい。
2 必要な調査を予算だけで打ち切らない
追加調査を検討するときは,放置した場合の未解明点,範囲を限定した場合の結論への影響,代替手法,追加費用及び開示日程を比較する。資料の欠落や非協力がある場合も,調査の限界として記録する。
ガイドライン本文3頁の脚注7は,当初期間内の終了に固執して不十分な調査で終えず,合理的な期間を再設定して説明する考え方を示す。単に期間を延ばすことを正当化する趣旨ではなく,延長の理由と必要な残作業を説明することが重要である。
第7 AI反訳と会計監査との連携
1 AIによる時短と証拠の確認を両立させる
反訳等にAIを使う場合は,原音を保全し,話者,否定表現,日時,金額,固有名詞,重なり発話及び聞き取れない部分を人が確認する。反訳の修正履歴と原音の該当箇所を対応させ,機密録音の外部送信については,契約,守秘,個人情報及び利用サービスの条件を確認する。
実作業時間に基づく報酬契約では,指示,検証,修正及び説明に実際に要した時間を記録し,AIを使わなければ必要だった仮想時間と混同しない。処理待ち,利用料,導入・研修及び再処理の料金は,契約と実際の作業・支出を確認する。詳しくは,AIを使う弁護士の報酬はどう決まるかを参照されたい。
2 委員会の調査と監査人の手続を分ける
JICPAの監査基準報告書560実務指針第2号は,訂正後財務諸表等の監査における調査報告書の利用を扱う。A92項は委員会の適性,能力,客観性及び監査証拠としての適切性の評価を示し,A93項は報告書だけでは十分かつ適切な監査証拠が得られたと判断できないとしている。
委員会の調査と監査では目的が異なり,必要な手続・範囲が一致するとは限らない。監査人が原資料を閲覧し,又は手続を再実施することがあるため,同じ資料の確認を直ちに過剰調査や不健全な関係の証拠と扱わない。
会社側・委員会・監査人は,会計上の重要論点,対象勘定・期間・拠点,必要な証拠,原資料へのアクセス及び追加手続を初期から対応させることが有用である。守秘と共有条件も確認する。この指針の説明を,すべての不祥事で一律に第三者委員会の設置が必要という意味に広げない。
第8 請求に疑問があるときの確認順序
1 請求項目と根拠を対応させる
まず,契約・見積書,担当者と単価,実時間の明細,成果物,追加調査の理由,経費の資料及び説明・協議記録をそろえる。疑問のある請求項目を特定し,契約との差,作業の必要性,重複,集計及び未説明の変更のどれが問題なのかを分けて質問する。
請求総額が高いという印象だけで違法性を決めず,時間制への合意があるという一点だけで問題を否定もしない。費用の争いと,調査結果への不満,委員の独立性,会社側の非協力を分けて検討する。
2 社内判断と紛争対応へ引き継ぐ
法務・経理・予算権限者が確認した内容,受任者の説明,異論が残る項目及び次の協議期限を記録する。契約上の支払義務や中途終了,資料の引継ぎについては,調査・開示への影響も含めて個別に検討する。
弁護士報酬をめぐる懲戒と金銭の清算の違いは,弁護士報酬の請求と懲戒で整理している。第三者委員会の費用についても,一般の懲戒公告の結論を,契約や事実を確認せずそのまま当てはめない。
第9 関連記事
企業不祥事の第三者委員会-設置判断,独立性,調査範囲及び報告書公表の実務
第三者委員会の委員の選び方-顧問弁護士,利益相反,専門家構成及び事務局
第三者委員会の調査報告書の読み方-独立性,調査範囲,証拠,原因分析及び再発防止策
第10 出典・参考資料
1 第三者委員会のガイドラインとプリンシプル
日本弁護士連合会「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(平成22年7月15日策定,同年12月17日改訂)。本文2頁・3頁・6頁及び脚注3・7・14を中心に参照した。
https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/opinion/2010/100715_2.pdf
日本取引所自主規制法人「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」。必要十分な調査範囲,最適な調査体制,独立性・中立性・専門性と,法令・取引所規則とは異なる位置付けを参照した。
https://www.jpx.co.jp/regulation/listing/principle/index.html
2 会計監査との関係
日本公認会計士協会「監査基準報告書560実務指針第2号 訂正報告書に含まれる財務諸表等に対する監査に関する実務指針」(最終改正令和6年9月26日,PDF表紙2025/7)。A90項~A99項,印字23頁~24頁(PDF実頁26頁~27頁)を参照した。
https://jicpa.or.jp/specialized_field/2-24-560j_2-2-20250723.pdf
現在の掲載版と適用時期の確認先:日本公認会計士協会「監査実務指針等」。
https://jicpa.or.jp/specialized_field/publication/kansa/