第1 何の変更を,どの処分に対して争うか
土地区画整理事業の計画変更に疑問がある場合,まず施行者,変更前後の事業計画,認可・決定・公告,変更によって自分の権利に及ぶ影響を特定する必要がある。事業計画の変更,都市計画の変更,換地計画の変更は異なる手続である。
事業計画決定には処分性が認められる場合があるが,計画に不満があることだけで取消しが認められるわけではない。また,縦覧を省略できる「軽微な変更」であることと,取消訴訟の対象となる処分かどうかは別の問題である。
本記事は,市施行の事業計画変更を扱った東京地裁平成31年2月22日判決及び東京地裁令和6年12月20日判決を中心に,違法性の承継,原告適格,出訴期間と必要資料を整理する。平成31年判決は控訴審で取り消されているため,一審の結論を現在の確定した結論として紹介しない。事業一般の救済は,土地区画整理事業に反対できるかを参照されたい。
第2 施行方式と変更対象を特定する
1 市施行の変更決定と知事の認可を区別する
土地区画整理法52条は,市町村等が施行規程・事業計画を定めることを規定し,55条は事業計画の決定及び変更の手続を定めている。市の変更決定と,設計の概要の変更についての知事の認可は,主体と根拠条文が異なる。
同法55条12項は,設計の概要の変更について,政令で定める軽微な変更を除き,市町村は知事の認可を受けることを定める。一方,同条13項は,事業計画の変更に関する縦覧等と,変更の公告等の準用を定める。資金計画又は期間の変更を,設計の概要の変更認可と同じものとして扱ってはならない。
| 施行方式 | 変更を確認する主な規定・資料 |
|---|---|
| 個人施行 | 法10条の変更認可。規準・規約,関係権利者の同意等と変更申請の対象 |
| 組合施行 | 法39条の変更認可。定款・総会等の議決,新たな施行地区と同意,縦覧・意見書 |
| 区画整理会社 | 法51条の10の変更認可。規準,会社の議決,変更内容と申請資料 |
| 市町村・都道府県 | 法55条の変更決定・所定の認可・公告。設計,期間,資金計画の変更を分ける |
| 国土交通大臣・機構等 | 法69条・71条の3等。決定又は認可の主体と施行規程を確認する |
この表は手続を特定する入口であり,各方式のすべての変更について処分性を一律に認める一覧ではない。公告の題名だけでなく,どの主体がどの条文に基づいて何を変更したかを,申請書・決定書・認可書で確認する。
2 変更前後を四つの項目で対照する
事業計画は,施行地区,設計の概要,事業施行期間及び資金計画を定める(法6条1項)。市施行にも54条により6条が準用される。地区の編入・除外,道路・公園・排水等の配置,終期,収入・支出のどれが変わるかを対照する。
複数回の変更がある場合,争いたい内容が第何次変更で初めて定められ,どの部分が後の変更で上書きされたかも確認する。同じ事業であるという理由だけで,当初計画・第2次変更・第3次変更を一つの処分として扱うことはできない。
第3 軽微変更,縦覧・意見書と処分性
1 縦覧等を省略できる変更
土地区画整理法施行令4条1項は,法55条13項等における縦覧手続等の対象から除かれる軽微な変更を列挙する。事業施行期間の変更及び資金計画の変更も同項4号・9号に含まれる。
したがって,期間が大きく延びた,又は事業費が増えたというだけで,直ちに縦覧をしなかった手続が違法になるとはいえない。設計の変更なども同時に行われる場合には,列挙された軽微変更の範囲に実際の変更が収まるかを図面と計画で検討する。
設計の概要について認可を要しない軽微変更は施行令4条の2による。縦覧省略の4条1項と条文の目的が異なる。都市計画の変更に伴う変更等を含む具体的な列挙を確認し,単に「施行者が軽微と呼んでいるから」で結論を出さない。
2 縦覧省略と裁判の対象性は別である
東京地裁令和6年12月20日判決は,市が事業施行期間と資金計画を変更した第3次変更決定について,取消訴訟の原告適格と本案を判断している。施行令が期間・資金計画の変更を縦覧等の省略対象としていることから,「軽微変更だから裁判では一切争えない」と導くことはできない。
逆に,公告が存在することだけで,あらゆる変更認可に新たな処分性があると決めることもできない。市街地再開発に関する判決の結論を,区画整理の変更決定へそのまま移すことは特に注意を要する。
3 意見書の期間・提出先を取り違えない
市施行の事業計画で所定の縦覧を行う場合,法55条は2週間の縦覧,縦覧期間満了の翌日から起算して2週間を経過する日までの知事への意見書提出を定める。都市計画に定められた事項には同条2項ただし書がある。
都市計画法17条の都市計画案への意見書は縦覧期間内であり,換地計画についても土地区画整理法88条の期間・提出先が別に定められている。説明会で質問したこと,署名を出したこと,行政へ相談したことを,これらの法定手続や取消訴訟の代わりとしない。
第4 平成31年判決,控訴審,令和6年判決の関係
1 第2次変更を取り消した一審判決
東京地裁平成31年2月22日判決(平成27年(行ウ)第351号)は,市施行の駅西口土地区画整理事業の第2次変更決定を扱った。一部原告の訴えを却下し,他の原告の請求について変更決定を取り消した(判決本文1頁)。
取消しの理由は,資金計画及び事業施行期間の設定である。裁判所は,財源の確実性,市の負担,実際の進捗・執行額,移転実施計画,議会答弁等を検討し,計画と実現可能性の乖離を問題にした(35~51頁,結論54頁)。住民の反対が多いから取り消したのでも,事業の公益性や都市計画の違法を認めて取り消したのでもない。
同判決は,今後適切な期間へ見直す予定があるという事情だけで,現に不適切な期間を記載してよいとはしなかった。資金計画は,土地区画整理法施行規則10条の収支の確実な見込み等の基準が重要となる。
2 一審取消判決は控訴審で維持されていない
令和6年12月20日判決の前提事実には,東京高裁が令和4年8月8日に上記一審判決を取り消し,第2次変更決定の取消請求を棄却する旨の判決をし,その判決が後に確定したことが記載されている(同判決3頁)。
したがって,平成31年判決を「現在も変更決定が取り消されたままの確定判例」として引用してはならない。ここで確認した控訴審の経過は,令和6年判決の記載に基づく。控訴審判決全文における判断理由を,この経過記載だけから推測しない。
3 第3次変更については令和6年判決が請求を棄却した
東京地裁令和6年12月20日判決(令和元年(行ウ)第577号)は,令和元年5月20日の第3次変更決定を対象とする別の訴訟で,原告らの請求をいずれも棄却した。対象は平成31年判決の第2次変更とは異なる。
事業期間について,同判決は,古い移転実施計画の期間だけを固定的な基準にしなかった。新たな補助金,集団移転手法,年度ごとの事業量の増加等に基づいて期間を短縮した事情を検討し,裁量権の逸脱・濫用は認められないとした(8~12頁)。反対者との交渉が難しい等の主張についても判断している。
資金計画については,補助金に関する事前の調整,交付の見込み,市の財政状況・負担,市債償還金と事業計画の支出予算の関係等を検討し,違法を認めなかった(13~19頁)。財政指標が悪い,又は総額が大きいという単一の事情だけではなく,変更決定時にどの財源・工程を見込んでいたかが重要となる。
同判決の控訴・確定状況は,掲載された判決本文だけからは確認できない。地裁の本案判断として紹介する。
4 資料の時点と審査対象を対応させる
| 比較する点 | 実務上の確認 |
|---|---|
| 対象処分 | 第何次変更か。期間,設計,資金のどの変更を取り消す請求か |
| 工程の前提 | 古い報告書の手法が維持されたか。集団移転等の変更と実施条件があるか |
| 財源の前提 | 補助金の制度,事前調整,市負担・保留地収入,交付決定等の資料 |
| 審査基準時 | 変更決定時の判断資料と,後に作成された説明・実績を分ける |
| 判決の経過 | 一審だけでなく控訴審,後続変更,別訴の対象と結論を確認する |
後日の資料は,決定時の見込みや当時の資料の意味を裏付けることがあるが,後日の不振が直ちに決定時の違法を証明するわけではない。他方,後で計画を直したことだけで,旧処分に対する訴訟の審査対象が当然に同じになるとも限らない。
第5 都市計画の違法と先行処分の違法性の承継
1 先行する都市計画を変更決定の訴訟で争う問題
平成31年判決は,土地区画整理事業に関する先行の都市計画決定について,その段階では処分性がないとし,事業計画変更決定の取消訴訟でその違法を争い得ると述べた(24~25頁)。当初事業計画が確定しても,先行都市計画の適法性を確定する効力があるわけではないという説明である。
ただし,同判決は,実際に都市計画の違法を認めたわけではない。事業の公益性,公聴会等の手続及び道路都市計画について主張を検討した上で,各違法の主張を退けている。しかも,前記のとおり判決自体は控訴審で取り消されている。この一審の理由付けを,最高裁の確定した一般命題として扱わない。
ここで問題となるのは,非処分とされた先行都市計画を後行処分の前提問題として検討する場面である。処分性のある当初事業計画を出訴期間経過後に争う場面と区別する。都市計画という名称でも種類・法的効果が異なるため,他のすべての都市計画に処分性がないとする説明でもない。
2 当初事業計画の違法を仮換地・換地の訴訟へ持ち込む問題
最高裁大法廷平成20年9月10日判決は,市町村施行の事業計画決定に処分性を認め,早期の救済の必要性を説明した。多数意見は,事業が進行した後では事情判決により取消しが得られない可能性も重視している。
事業計画決定から仮換地指定・換地処分への違法性の承継を否定する説明は,同判決の近藤崇晴裁判官の補足意見に記載され,今井功裁判官がその部分等に同調している(15~16頁,19頁)。これを多数意見そのもの,又は藤田宙靖裁判官の補足意見として引用してはならない。
実務では,当初事業計画自体の取消事由,現在の変更決定独自の取消事由,仮換地指定・換地処分の照応・手続等の取消事由を分ける。後の処分がされたことだけで,当初計画の出訴期間が復活したとは考えない。
3 最高裁平成21年12月17日判決をどう参照するか
最高裁平成21年12月17日判決は,東京都建築安全条例の安全認定と建築確認の関係を扱い,建築確認の取消訴訟で先行する安全認定の違法を主張することを認めた。
判決は,双方が安全確保という同じ目的のために行われ,結合して効果を発揮することに加え,安全認定を周辺住民へ通知する仕組みがなく,先行段階の手続保障が十分でないこと,建築確認まで争わない判断が不合理ではないことを考慮している(3~4頁)。
これは区画整理の事業計画と換地について直接判断した判決ではない。区画整理への応用を検討するには,先行・後行処分の目的と法的効果,公告・周知,誰がいつ不利益を受けるか,先行段階で争う機会があったかを個別に整理する必要がある。「一連の事業だから必ず承継する」という結論は導けない。
4 変更処分,先行処分の無効,後行処分の独自違法を分ける
取消事由の承継を主張すること,先行処分の無効を前提とする主張,現在の処分自体の違法を主張することは異なる。取消しと無効では要件・訴訟類型・訴えの利益等の検討が別に必要であり,期間を過ぎたから無効という言い方へ変えればよいわけではない。
例えば,変更決定時の財源の確実性や変更後の工程の合理性は,変更決定の内容に即して主張する。仮換地の位置・形状・接道又は清算金算定を争うときは,それらを定めた処分と評価資料に即して主張する。平成31年判決も,清算金額への不服は換地処分の清算金を定めた部分を争う問題とし,事業計画変更訴訟で争う問題と区別している(54頁)。
第6 原告適格は土地所有者だけの問題ではない
令和6年判決は,施行地区内の宅地上に正当な権原で建物を所有する者について,借地権以外の権原でも,建築等の制限や換地による影響を受けるため原告適格を認めた。土地区画整理法85条の申告の有無と,原告適格は同じ問題ではないとした(5~7頁)。申告義務や権利の取扱いが不要になるという意味ではない。
また,地区内建物の賃借人・使用借主に加え,正当な占有権原を有する者の占有を補助し,建物を平穏に自己の居住の用に供する者についても,居住の利益が法律上保護されるとして原告適格を認めた(7~8頁)。「家族なら全員当然に原告になれる」「地区外の住民にも同じ判断になる」という一般化はできない。
登記,賃貸借・使用貸借の契約,居住実態,建物の所有関係,移転・除却による影響を本人ごとに整理する。行政事件訴訟法9条に基づく法律上の利益と,事業への一般的な反対意見を区別する。
第7 出訴期間,審査請求の除外と執行停止
1 計画変更でも審査請求ができるとは限らない
土地区画整理法127条は,市町村等の事業計画決定・変更,組合等の所定の認可その他の処分について,審査請求の適用除外を列挙している。計画の意見書,不採択通知,変更決定・認可,仮換地指定・換地処分を区別して適用を確認する。
審査請求ができない処分について,行政への相談や不服の申出をしたことを理由に,取消訴訟の期限が延びると考えてはならない。処分性と審査請求の可否も別の判断である。
2 原則は知った日から6か月,処分の日から1年
行政事件訴訟法14条による取消訴訟の原則的出訴期間は,処分があったことを知った日から6か月,処分の日から1年であり,正当な理由に関する例外がある。認可日,決定日,公告日,通知到達日,効力発生日及び実際に知った日を別々に記録する。
変更前の処分の期間と,現在の変更決定の期間を混同しない。資料の開示請求,説明要求又は交渉を続けていることだけでは期間は止まらない。期間経過の例外や無効確認の可能性を見込んで放置することも避ける。
3 訴訟中にさらに変更されたとき
新たな変更があれば,その取消しを求める必要,旧処分に対する訴えの利益,請求の追加・変更又は別訴,それぞれの出訴期間を直ちに検討する。新たな変更後の計画を,従来の訴訟が自動的に全部カバーするとは限らない。
本記事で紹介する第2次変更と第3次変更にも別の訴訟がある。担当者は,新旧の計画対照表と各訴訟の請求を並べ,どの事項がどの審査対象に残るかを確認する必要がある。
4 提訴しただけでは工事は止まらない
行政事件訴訟法25条は,提訴だけでは処分の効力・執行・手続の続行が止まらないことを定める。停止が必要であれば,重大な損害を避ける緊急の必要性等に基づく執行停止を別に検討する。
移転・除却通知,工事日程,居住・営業への影響,代替措置の有無を資料で具体化する。事業計画の争いと目前の個別処分・工事との関係を特定し,話合いの継続と正式な停止を区別する。事業が進んだ後の救済には,事情判決や訴えの利益の問題もあるため,初動を遅らせない。
第8 違法の主張を支える資料をそろえる
| 問題 | 主な確認資料 |
|---|---|
| 対象と期間 | 全変更履歴,決定・認可・公告,通知・封筒,変更前後の計画,訴状の請求 |
| 処分性・原告適格 | 施行方式,規制の根拠,地区の編入・除外,所有・居住・契約と個人への影響 |
| 軽微変更・手続 | 新旧設計図,縦覧公告,意見書・回答,総会等の議事録,省略の根拠条項 |
| 期間の合理性 | 残りの移転棟数,年度工程,移転方法,実績,報告書,人的・施工体制 |
| 資金の確実性 | 資金計画の新旧対照,補助金資料,保留地収入の根拠,市負担・起債,議会資料 |
| 違法性の承継 | 先行・後行行為の法的効果,公告・周知,先行段階の救済機会,既存の訴訟経過 |
| 停止の必要性 | 移転・除却予定,工程,写真,居住・営業への損害と代替措置 |
裁量を争う場合は,「長すぎる」「費用が高い」という評価だけでなく,重要な事実の誤認,考慮すべき事情の欠落,又は合理性を欠く評価・工程・財源を示す。施行者の判断時点の資料と住民側の反証を対応させる。
自治体の公開計画・議会会議録・予算決算・補助金資料を確認し,不足する部分は情報公開請求等を検討する。ただし,資料の取得を待つことと出訴期間の確保は同時に進める。提出資料が足りないことを,違法性がない,又はあるという結論に置き換えてはならない。
第9 再開発判例との比較と一次資料
第一種市街地再開発事業の事業計画変更を争う方法及び東京地裁平成20年・東京高裁平成21年の再開発判例解説は,都市再開発法の事業計画等の認可,権利変換,明渡請求を扱う。区画整理の換地とは制度と公告の法的効果が異なる。
本記事の主な判決資料は,裁判所の平成31年判決全文,令和6年判決全文,最高裁平成20年大法廷判決全文,最高裁平成21年安全認定事件判決全文である。本文の頁数は判決本文に表示された頁による。令和6年判決の判決理由と,別紙に整理された当事者の主張は区別して参照した。
法令は令和8年10月12日時点の土地区画整理法,同法施行令・施行規則,都市計画法及び行政事件訴訟法を確認した。判決は各事案の当時の法令と資料に基づく判断である。証拠の対照表と相談時の確認事項は,これらを踏まえた実務上の整理であり,任意の計画変更の違法又は訴訟の結果をあらかじめ判定するものではない。