第1 株式併合による締出しの仕組み第2 会社が守るべき手続第3 少数株主の四つの争い方第4 目的・手続・価格を分ける第5 決議方法が著しく不公正とされた裁判例第6 出典・参考資料
第1 株式併合による締出しの仕組み
株式併合は,複数の株式を一株にまとめる手続である。
併合割合を大きく設定し,少数株主の持株を一株未満の端数にすると,その株主は株主の地位を失い,端数処理による代金を受け取ることになる。
公開買付け後のスクイーズ・アウトや非公開会社の株主整理に用いられる。
特別支配株主の株式等売渡請求(会社法179条以下)とは別制度である。
株式併合では株主総会の特別決議が必要であり,少数株主の救済条文も182条の3~5を中心に確認する。
株数の減少後に確認する二つの閾値
株式併合の影響は,株数と配当額の減少だけで終わらない。併合後の議決権割合が法定の閾値をまたぐ場合,少数株主権又は株主間の拒否力が変わる。
閾値確認する効果3%総会招集請求等,3%以上を要件とする少数株主権を失うか。公開会社の保有期間要件その他の個別要件も別に確認する。3分の1他の株主が3分の1を超えることにより,特別決議を阻止できる議決権配置が変わるか。定足数・議決要件と実際の出席状況を区別する。
令和2年度司法試験の具体的数値はこの二つの閾値をまたぐように設定されていた。全案件で同じ効果が生ずるという意味ではなく,併合前後の総議決権数と各株主の議決権を再計算する必要がある。
第2 会社が守るべき手続
会社は,併合割合,効力発生日,効力発生日における発行可能株式総数等を株主総会で定める(会社法180条2項)。
取締役は,株式の併合を決議する株主総会において,株式の併合をすることを必要とする理由を説明しなければならない(同条4項)。
この説明義務は,端数が生じる場合に限られない。
説明した理由が事実に反し,又は締出しという本来の目的を説明しなかった場合は,決議の方法の法令違反(831条1項1号)として取消事由となり得る。
決議は309条2項4号の特別決議による。
会社は,効力発生日の20日前までに株主へ通知又は公告をしなければならない(181条。株式の併合については182条の4第3項により「二週間」が「二十日」に読み替えられる。)。
また,株主総会の日の2週間前の日又は上記の通知・公告の日のいずれか早い日から,効力発生日後6か月を経過する日まで,併合に関する事項を記載した書面等を本店に備え置く(182条の2第1項)。
端数株式は競売等により換価され,代金が持株数に応じて交付される(235条が234条を準用)。
種類株式がある場合の追加確認
種類株式の権利内容が実質的に不利益を受ける場合は,普通株式だけの株式併合と同じ順序で終えない。会社法116条の反対株主による買取請求が成立するかを,182条の4の買取請求と区別して確認する。
種類株主総会について定款で不要とする定めがある場合でも,株式併合が優先配当その他の権利内容を実質的に縮減する特殊な事案では,322条1項1号・3項ただし書の趣旨を類推し,種類株主総会決議の欠缺を182条の3の「法令違反」へ接続する構成があり得る。これは令和2年度問題の事実関係に即した高度な構成であり,一般に322条が当然適用されると断定するものではない。
差止事由は,①決議取消事由を180条2項違反へ接続する構成,②権利濫用,③取締役の善管注意義務違反,④種類株主総会規定の類推適用等を分ける。他方,取消判決がされるまでは取消事由が直ちに法令違反になるわけではないとの反対説もあるため,各構成から差止要件までを独立に説明する。
第3 少数株主の四つの争い方
第1は差止請求である。
株式併合が法令又は定款に違反し,株主が不利益を受けるおそれがあるときは,効力発生前に差止めを請求できる(会社法182条の3)。
決議後に準備していては効力発生日に間に合わないため,招集通知受領時から違反内容と保全の必要性を検討する。
第2は株主総会決議取消し等の訴えである。
招集手続・決議方法の法令定款違反又は著しい不公正などがある場合,原則として決議の日から3か月以内に決議取消しを求める(831条)。
差止請求と決議取消しは,効力発生前後の関係も含めて並行して検討する。
株式併合の効力発生により株主の地位を失った者も,決議が取り消されれば株主の地位を回復する者として,決議取消しの訴えを提起できる(831条1項柱書き後段)。
効力発生日を過ぎたことだけで争う手段がなくなるわけではないが,決議の日から3か月以内という提訴期間は変わらない。
第3は反対株主の株式買取請求である。
反対株主は,①株主総会に先立って反対の旨を通知し,かつ,総会で反対した株主(議決権を行使できる者に限る。)と,②その総会で議決権を行使することができない株主であり,公正な価格での買取りを請求できる(182条の4第1項・第2項)。
基準日の後に相続等で株式を取得して名義書換えをした者が②に当たるかは,条文だけでは決まらないので,個別事案で裁判例を確認する必要がある。
請求期間は効力発生日の20日前から前日までであり,通知・反対・請求の各段階を落とさない。
第4は価格決定の申立てである。
会社と株主の間で効力発生日から30日以内に価格の協議が調わないときは,その後30日以内に裁判所へ価格決定を申し立てることができる(182条の5第2項)。
株式併合それ自体は会社法828条の列挙する会社の組織に関する行為に含まれないため,同条の無効の訴えを当然に選ぶことはできない。まず,①特別利害関係人が議決権を行使したため著しく不当な決議となったとする831条1項3号の取消し,②決議内容の法令違反を理由とする830条2項の無効確認を検討し,③828条の類推適用は補充的な構成として検討する。
決議内容の法令違反をいう場合は,違反する実体法上の根拠として,会社法109条1項の株主平等原則又は民法1条3項の権利濫用等を特定する。特別利害関係人による著しく不当な決議,決議内容の法令違反,決議方法の著しい不公正及び価格の不公正は,対象となる瑕疵と救済が異なるため,一つの「不公正」にまとめない。
831条1項3号の取消しは,①決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことにより決議が成立したことと,②決議が著しく不当であることに分けて主張する。全部取得条項付種類株式を用いた完全子会社化の事案で,東京地裁平成22年9月6日判決(平成21年(ワ)第26121号,判例秘書の判例番号 L06530452)は,この二つの要件が必要であるとし,不当性の要件について,少なくとも,少数株主に交付される予定の金員が対象会社の株式の公正な価格に比して著しく低廉であることを必要とするとした(請求は棄却)。
また,裁判所が違反する事実の重大性と決議への影響を考慮して請求を棄却できる裁量棄却(831条2項)は,招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反する場合についての規定であり,3号の取消しには適用されない。
合併の承認決議についての同様の争い方と,差止め・株式買取請求・合併無効の訴えとの関係は,吸収合併の合併比率が不公正なときの少数株主の手段で扱っている。
第4 目的・手続・価格を分ける
締出し目的があること,手続が違法又は著しく不公正であること,交付価格が低いことは別の論点である。
少数株主を排除する目的だけから直ちに決議が無効になるとは限らない。
他方,形式上の各手続だけを切り離して適法性を判断できない場合もある。
会社側は,併合の事業上の目的,代替手段,併合割合の理由,価格算定資料,利害関係の処理及び情報提供の経過を記録する。
株主側は,手続違反,議決権行使を困難にした事情,目的の不当性,算定前提及び比較対象取引を分けて主張する。
特定の株主だけを締め出す設計の株式併合もある。
例えば,併合割合を一部の株主だけが1株以上を保有するように定め,端数となった他の株主を,後の株式の分割と自己株式の処分によって株主に戻す計画は,形式上は全ての株式に同じ割合を適用していても,実質的には特定の株主の締出しである。
令和6年司法試験民事系第2問の出題の趣旨(13頁)及び採点実感(16頁)は,公開会社でない株式会社では少数株主の有する利益が株式の金銭的価値に尽きないことから,株式の併合に正当な事業目的を要求するという考え方と,会社法上株式の併合の目的は制限されていないとして,特定の少数株主を締め出すための株式の併合も許容する考え方の双方を示し,いずれの立場でも説得的に論ずることを求めている。
効力発生後に決議の取消しを求める場合の原告適格(会社法831条1項後段),提訴期間及び訴えの利益は株主総会決議の取消しの訴えは誰が起こせるか―株主等,決議で地位を失った株主・役員(会社法831条1項後段),提訴期間及び訴えの利益で,この事例を素材とした答案は令和6年度司法試験民事系第2問の模範解答と評価項目で扱っている。
第5 決議方法が著しく不公正とされた裁判例
東京地裁令和4年11月28日判決(令和2年(ワ)第18534号,判例秘書の判例番号 L07732771)は,代表取締役が,自己単独で特別決議を行えない定款を違法な定足数変更決議によって変更し,その取消訴訟の3か月の提訴期間経過後に株式併合決議を行った事案で,決議方法が著しく不公正であるとして併合決議を取り消した。
東京高裁令和5年9月28日判決(令和4年(ネ)第5998号等,判例秘書の判例番号 L07820568)は原判決を維持した。
各招集通知に議題を記載せず開催直前に発送して,他の株主の出席・議決権行使を事実上困難にしたこと,株主の地位を失わせる重大な結果を具体的に知らせなかったことなど,一連の事情を評価した。
この裁判例は,個々の手続が形式上適法かだけでなく,先行する定款変更から併合決議までの一連の方法を検討すべきことを示す。
他方,具体的な経緯を重視した事例判断であり,すべてのキャッシュアウト目的の株式併合を否定したものではない。
令和6年司法試験公式資料による補足:会社法828条・830条・831条による救済の分岐,会社法109条1項及び民法1条3項に関する補足は,第2問設問2の公式整理に基づく。
民事系科目の論文式試験問題,論文式試験出題の趣旨(民事系科目)及び採点実感(民事系科目)(法務省)を確認した。
令和2年度司法試験公式資料による補足:3%・3分の1の閾値,会社法116条・182条の3・322条・831条及び取締役の善管注意義務に関する分岐は,令和2年司法試験論文式試験出題の趣旨と同採点実感(民事系科目)を確認して追記した。公式資料が示す複数構成を,個別事件の確定的結論として一般化しない。
(続きを読む...)株式併合による少数株主の締出し―差止め・決議取消し・買取請求・価格決定(AI作成)