目次
第1 倒産処理では労働法を後回しにできない1 手続開始だけでは雇用契約は終了しない2 最初に固定すべき三つの時点第2 破産・民事再生・会社更生で労働債権の扱いは異なる1 破産手続における給料・退職手当2 民事再生手続における労働債権3 会社更生手続における労働債権4 優先されることと現実に支払えることは別である第3 解雇・事業休止をどの時点で行うか1 倒産は解雇を当然に有効にしない2 解雇予告と解雇予告手当を分けて検討する3 大量離職の届出等も確認する第4 未払賃金立替払制度を早期に準備する1 制度の対象2 破産申立代理人・管財人の実務第5 労働組合と従業員代表への対応1 法的倒産手続にも通知・意見聴取の場面がある2 団体交渉義務は別に残る第6 事業継続・事業譲渡と雇用の処理1 事業譲渡では個別承諾が原則である2 会社分割・合併とはルールが異なる3 スポンサー選定と雇用維持を同時に設計する第7 受任から事業譲渡までの実務チェックリスト1 申立前2 手続開始直後3 事業譲渡・終結局面第8 まとめ
会社が倒産局面に入ると、雇用の終了、未払賃金の順位、労働組合対応及び事業譲渡後の雇用承継を同時に処理する必要がある。本稿は、破産・民事再生・会社更生の違いを踏まえ、受任から事業譲渡・終結までの確認順序を整理するものである。
第1 倒産処理では労働法を後回しにできない
1 手続開始だけでは雇用契約は終了しない
会社が破産手続開始決定を受けても、それだけで従業員との労働契約が一律に終了するわけではない。事業を直ちに停止するのか、管財人が一定期間継続するのか、スポンサーへの事業譲渡を目指すのかにより、必要な雇用処理は変わる。
破産の場合、民法631条は、使用者が破産手続開始決定を受けたときは、雇用期間の定めの有無にかかわらず、労働者又は破産管財人が民法627条により解約を申し入れられると定める。ただし、管財人による労働契約の終了を検討するときも、労働契約法16条・17条、労働基準法19条・20条その他の強行法規との関係を、雇用形態と事案に応じて確認する必要がある。
民法:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
労働契約法:https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128
労働基準法:https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
2 最初に固定すべき三つの時点
倒産実務と労働法が交錯する案件では、少なくとも次の三つの時点を固定する必要がある。
① 各賃金・退職手当・解雇予告手当等の発生日及び支払期日
② 破産等の申立日及び手続開始決定日
③ 休業日、解雇日、退職日及び事業譲渡日
同じ「未払賃金」でも、手続開始前の給料か、開始後に事業を継続した期間の給料かにより、手続上の順位が変わる。弁済の可否を検討する際には、債権名だけでなく、発生日、支払期日、労務提供期間、退職日、支払原資を一覧化することが重要である。
第2 破産・民事再生・会社更生で労働債権の扱いは異なる
1 破産手続における給料・退職手当
破産法149条1項は、破産手続開始前3か月間の破産者の使用人の給料請求権を財団債権とする。民事再生手続が廃止等で終了して破産手続に移った場合には、この「破産手続開始前三月間」は、破産手続開始の日前に再生手続開始の決定があるときは「再生手続開始前三月間」と読み替えられる(民事再生法252条5項)ので、再生手続開始日から3か月さかのぼって数える(詳しくは、民事再生の再生計画案が否決されたとき―再生手続廃止の確定前後の破産手続への移行,給料・租税・開始前借入れの扱い及び再度の再生手続開始の申立て(AI作成)で整理している。)。破産法149条2項は、退職手当請求権のうち同項所定の上限額までを財団債権とする。手続開始後、労働契約が終了するまでの間に生じた使用人の請求権は、破産法148条1項8号の財団債権となる。
それ以外の雇用関係に基づく給料等については、民法306条2号及び308条の一般先取特権により、破産法98条の優先的破産債権となる範囲がある。財団債権となる部分、優先的破産債権となる部分、一般破産債権となる部分を一つの残高として扱ってはならない。
破産法:https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000075
2 民事再生手続における労働債権
民事再生では、一般先取特権で保護される雇用関係の請求権は、民事再生法122条の一般優先債権として、再生手続によらず随時弁済される。手続開始後の事業継続に必要な給料等は、同法119条の共益債権に該当し得て、同法121条により再生債権に先立って弁済される。
もっとも、「随時弁済できる」という法的地位と、資金繰り上実際に弁済できることは同じではない。再生計画の前提となる運転資金に給料・社会保険料・税を織り込み、日次の資金繰りで確認する必要がある。
民事再生法:https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000225
3 会社更生手続における労働債権
会社更生法130条は、手続開始前6か月間の給料請求権及び退職手当請求権のうち同条所定の範囲を共益債権とする。手続開始後の事業経営に必要な費用は、同法127条の共益債権となる。
破産法の「開始前3か月」と会社更生法の「開始前6か月」を混同してはならない。退職手当についても条文上の計算方法が異なるため、金額表を手続別に作成する必要がある。
会社更生法:https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000154
4 優先されることと現実に支払えることは別である
財団債権又は共益債権であっても、手続財産が不足すれば全額回収が保証されるわけではない。破産法152条は、財団不足時の弁済順位と按分を定め、同条所定の一部の財団債権を他の財団債権より優先させる。