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ホテル・旅館の「クレームとカスハラの境界線」―宿泊拒否が許される場合と現場対応(AI作成)

第1 最初に押さえるべき三つの判断

ホテルや旅館では,客室の清掃不良,設備の故障,請求金額の誤り,騒音又は従業員の説明不足について,宿泊客から厳しい指摘を受けることがある。

しかし,宿泊客の口調が厳しいことや,従業員が不快に感じたことだけで,直ちにカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」という。)になるわけではない。

ホテル・旅館の現場では,①ホテル側に落ち度があるか,②労働法上のカスハラに当たるか,③旅館業法上,宿泊を拒否できるかを順に分けて判断する必要がある。

ホテル側に落ち度があれば,宿泊客が事実確認,説明,修理,客室変更,相当な減額又は損害への対応を求めることは,通常は正当なクレームである。

他方,当初は正当な苦情であっても,暴言,脅迫,土下座の要求,長時間の拘束又は同じ要求の執拗な繰返しに発展すれば,要求方法がカスハラに該当することがある。

さらに,労働法上のカスハラに該当することと,旅館業法に基づいて宿泊を拒否できることは同じではない。

令和8年9月23日現在,旅館業法の宿泊拒否事由に関する改正は令和5年12月13日に施行済みである一方,事業主のカスハラ対策措置義務は令和8年10月1日から施行される。

第2 正当なクレームとカスハラの境界

令和8年10月1日施行の改正労働施策総合推進法及び厚生労働省指針によれば,カスハラに当たるためには,①顧客等の言動であること,②業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えていること,③その言動によって労働者の就業環境が害されることが必要である。

クレームの判断では,宿泊客が何を求めているかという「要求内容」と,どのような方法で求めているかという「要求方法」を分けて考える必要がある。

客室が清掃されていなかったために清掃又は別の客室への変更を求めること,予約時の表示額と請求額が異なるために明細の確認や訂正を求めること及び深夜の騒音について事実確認と対応を求めることは,通常は正当な申出である。

ホテルの設備故障や手配ミスによって実際に損害が生じた場合に,事情説明や相当な補償を求めることも,要求方法が相当である限り,直ちにカスハラにはならない。

もっとも,要求内容に理由があっても,従業員を殴る,物を投げる,危害を告知する,容姿・性別・国籍等を侮辱する,土下座を要求する又は長時間フロントを占拠するなどの手段を用いれば,要求方法が社会通念上許容される範囲を超えることがある。

既に説明と回答を受けたにもかかわらず,無料の客室アップグレード,不当な宿泊料金の減額,契約に含まれない送迎,特定従業員の解雇又は経営者本人による謝罪等を繰り返し求める場合には,要求内容及び反復性の双方が問題となる。

暴行,重大な脅迫又は著しい侮辱など,労働者の就業環境を害する程度が大きい行為は,一度でも労働法上のカスハラに該当し得る。

第3 カスハラでも直ちに宿泊拒否できるとは限らない

旅館業は公共性の高い営業であるため,旅館業者は,旅館業法5条1項各号が定める場合を除き,原則として宿泊を拒否できない。

したがって,「従業員が怖いと感じた」,「ホテルのカスハラ方針に違反した」又は「利用規約で迷惑行為を禁止している」という事情だけで,当然に宿泊拒否が適法になるわけではない。

ホテルの利用規約に宿泊拒否事由を記載しても,旅館業法にない拒否事由を自由に追加することはできない。

労働法上のカスハラは,従業員の就業環境を守るための雇用管理上の判断であるのに対し,旅館業法上の宿泊拒否は,公共性のある宿泊サービスを拒否できるかという別の判断である。

そのため,現場では,警告,担当者交代,複数名対応及び警察相談等によって従業員を保護することと,宿泊契約そのものを拒否又は終了できるかを分けて検討する必要がある。

第4 旅館業法上の宿泊拒否が問題となる場合

旅館業法5条1項3号は,宿泊しようとする者が,宿泊サービスに従事する従業者に対し,厚生労働省令で定める要求を繰り返した場合を対象とする。

同号による宿泊拒否には,①省令所定の要求であること,②その要求が繰り返されたこと,③要求の実現に伴う負担が過重であること,④他の宿泊者に対する宿泊サービスの提供を著しく阻害するおそれがあることが必要である。

旅館業法施行規則5条の6は,実現が容易でない事項の要求と,粗野又は乱暴な言動その他の従業員に負担を与える言動を交えた要求を定めている。

具体例として,不当な値引き,無料の客室アップグレード,過度なアーリーチェックイン又はレイトチェックアウト,契約に含まれない送迎,周囲の客室を空室にすること,特定従業員だけに対応させること,従業員を勤務させないこと,土下座及び長時間の叱責を繰り返し求める場合が挙げられる。

旅館業法5条1項3号による拒否では,原則として一定の要求の反復が必要であるが,暴行,脅迫,器物損壊又は業務妨害等の重大な行為について,同じ行為の繰返しを待つ必要はない。

行為が違法行為又は風紀を乱す行為に当たる場合には,旅館業法5条1項2号が問題となり得るほか,警察への通報や安全確保を直ちに検討すべき場合がある。

第5 合理的配慮の申出をカスハラ扱いしない

障害者が差別的取扱いの是正又は社会的障壁を取り除くための合理的配慮を求めることは,それ自体ではカスハラに当たらない。

令和6年4月1日以降,事業者による合理的配慮の提供は,過重な負担がない限り法的義務となっている。

旅館業法施行規則も,障害に関する社会的障壁の除去を求める場合を,宿泊拒否につながる要求から除外している。

聴覚障害のある宿泊客による筆談,振動式目覚まし機器又はフロントに近い客室の希望,車椅子利用者による可能な範囲での家具の位置変更又は客室までの案内の希望,障害特性に応じた静かな客室又は室温への配慮の希望等は,実施可能性と代替措置を個別に検討する必要がある。

合理的配慮を求める権利がある場合でも暴行や脅迫が当然に許されるわけではないが,ホテルは,配慮を求める申出の内容と,申出に伴う言動を分けて評価しなければならない。

障害特性に起因する言動である可能性も踏まえ,性急にカスハラ又は宿泊拒否事由と認定しないことが重要である。

第6 フロントでの具体的な対応手順

第一に,担当者は,客室番号,発生時刻,問題となったサービス,宿泊客の希望及びホテル側の説明履歴を確認し,防犯カメラ,予約記録,請求明細,客室点検記録又は他の従業員の報告と照合する。

第二に,ホテル側のミスに関する申出か,契約上予定されていない特別対応の要求かを整理し,暴言,威圧,長時間の拘束又は同じ要求の反復を別に記録する。

第三に,「あなたはカスハラ客である」と属性を決めつけるのではなく,「ご指摘の内容は確認しますが,大声と従業員の人格を否定する発言はおやめください」など,やめるべき行為を具体的に伝える。

第四に,同じ要求が繰り返される場合には,「本件についての当館の回答は以上であり,今後は責任者が書面で対応します」など,ホテルとしての回答,今後の窓口,連絡方法及び対応時間を明確にする。

第五に,担当者を一人で対応させず,責任者への交代,複数名対応,録音・録画,警備要請又は警察相談により,従業員の安全と証拠を確保する。

第六に,説明と警告をしても暴言や拘束が続く場合には,対応を終了し,退去要請,宿泊拒否,警察への相談又は弁護士への相談を検討する。

録音又は防犯カメラを利用する場合には,利用目的,閲覧範囲,保管期間及び廃棄方法を定め,プライバシーと個人情報の取扱いにも配慮する必要がある。

第7 宿泊拒否を決める際の注意点

旅館業法5条は,基本的に「宿泊しようとする者」に対する宿泊拒否を規律している。

既に当日の宿泊契約が成立し,客室を使用している客を直ちに退去させられるかは,宿泊拒否とは別に,宿泊契約の解除,施設管理権,違法行為の有無及び警察対応を検討する必要がある。

連泊の場合には,既に一泊した者が翌日以降も宿泊しようとする段階が同条の対象になり得るが,現在進行中の宿泊を終了させる権限と混同すべきではない。

宿泊拒否の判断は客観的な事実に基づいて行い,宿泊しようとする者から求められた場合には,その理由を丁寧に説明できるようにする必要がある。

記録には「悪質客」又は「カスハラ客」という評価だけを書かず,発言内容,声量,回数,継続時間,警告内容,ホテル側の回答,他の宿泊客への影響,従業員の交代状況及び警察への相談状況を具体的に記載すべきである。

旅館業法5条1項1号又は3号に基づいて宿泊を拒否した場合には,当分の間,理由,日時,対象者,対応責任者及び拒否に至る経過等の記録を作成し,3年間保存する必要がある。

第8 令和8年10月1日までに整える体制

経営者は,正当なクレームには誠実に対応する一方,従業員への暴力,脅迫,侮辱又は長時間の拘束を容認しないという方針を明確にする必要がある。

ホテル・旅館では,通常の苦情,要注意対応,労働法上のカスハラ,違法行為及び旅館業法上の宿泊拒否候補を区分する判断表を作成することが有用である。

判断表には,合理的配慮の申出を安易にカスハラ扱いしないための確認項目も設けるべきである。

現場担当者,当直責任者,支配人及び本社担当部署について,警告,対応終了,宿泊拒否,警察通報及び弁護士相談を決定できる範囲を定める必要がある。

被害を受けた従業員を一人で対応に戻さず,交代,休憩,面談,医療機関の受診又は心理的支援を検討し,相談や事実確認への協力を理由とする不利益取扱いを防止しなければならない。

研修では,実際の警告文,責任者への引継ぎ,記録作成,合理的配慮及び警察への通報を想定した訓練を行うことが望ましい。

正当なクレーム,従業員保護,合理的配慮及び宿泊拒否を一つの印象評価に混在させず,段階を分けて判断できる体制を令和8年9月30日までに実装する必要がある。

第9 関連記事

令和8年10月1日施行のカスハラ対策義務化―全事業主が整える10項目(AI作成)では,全事業主に共通する措置義務,現場対応及び主要裁判例を整理している。

職場のハラスメント防止-種類・事業主の措置義務・主要最高裁判例(AIリライト)では,職場のハラスメントの類型,事業主の措置義務,調査実務,労災認定及び主要最高裁判例を整理している。

第10 出典・参考資料

①厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために

②厚生労働省告示第51号「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針

③厚生労働省「改正旅館業法について

④e-Gov法令検索「旅館業法

⑤e-Gov法令検索「旅館業法施行規則

⑥厚生労働省「旅館業法における宿泊拒否等に関する指針

⑦e-Gov法令検索「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律