第1 結論
民事再生手続開始前後の電気料金を処理するときは、請求書の発行日や支払期日だけでなく、電気が供給された期間を、再生手続開始の申立日と開始決定日の二つの日で分ける必要がある。電気の供給は民事再生法50条の継続的給付に当たるので、申立て前の供給に係る料金は原則として再生債権となるが、申立て後・開始前の供給に係る料金は、同条2項により共益債権となる(検針期間ごとに料金を算定する契約では、申立日の属する期間の料金も含む。)。開始後の事業継続に必要な供給に係る料金は、同法119条の共益債権に当たり得る。共益債権は再生手続によらず随時弁済される(同法121条)。また、電力会社は、申立て前の料金の不払を理由として、開始後の供給を拒むことができない(同法50条1項)。
敷金がある場合は、相殺の一般規定だけで終えず、民事再生法92条3項による敷金返還請求権の共益債権化を確認する。
同項は、開始後に弁済期が来る賃料をその弁済期に実際に弁済したことなどを要件とし、賃料弁済額の寄託を請求する破産法70条とは仕組みが異なる。
同項括弧書と敷金への当然充当の関係についても、解釈の根拠と控除する対象を明示して計算する。
第2 最初に固定する日付と債権
| 確認事項 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 再生手続開始の申立日 | 申立て前の供給に係る料金(再生債権)と、申立て後の供給に係る料金(民事再生法50条2項の共益債権)を分ける基準となる。検針期間ごとに料金を算定する契約では、申立日の属する期間の料金も共益債権となる。 |
| 再生手続開始決定日 | 申立て後・開始前の供給に係る共益債権(同条2項)と、開始後の供給に係る共益債権(同法119条)を分ける基準となる。 |
| 検針期間・供給期間 | 一枚の請求書に開始前後の供給が含まれる場合の按分資料となる。 |
| 請求額・支払期日 | 弁済期と相殺適状、遅延損害金を確認する。 |
| 賃貸借と敷金の内容 | 敷金返還請求権の具体化、未払賃料等への当然充当及び92条3項による共益債権化額を計算する。 |
第3 電気料金の分類
民事再生法84条1項は、再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権を再生債権とする。開始前に供給された電気の料金も、まずこの規定から検討する。単に請求書が開始後に届いたことだけで共益債権になるわけではない。
もっとも、電気の供給契約のように「再生債務者に対して継続的給付の義務を負う双務契約」については、同法50条が特則を置いている。同条2項は、相手方が「再生手続開始の申立て後再生手続開始前にした給付に係る請求権(一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付については、申立ての日の属する期間内の給付に係る請求権を含む。)は、共益債権とする」と定める。したがって、再生債権となるのは申立て前の供給に係る料金(申立日の属する検針期間の分を除く。)であり、申立て後・開始前の供給に係る料金は共益債権となる。供給が開始決定より前であることだけで再生債権になるわけではない。
また、同条1項は、継続的給付の義務を負う相手方は「再生手続開始の申立て前の給付に係る再生債権について弁済がないことを理由としては、再生手続開始後は、その義務の履行を拒むことができない」と定める。電力会社が申立て前の未払を理由に開始後の供給を止めることは、この規定により制限される。ただし、開始後の料金の不払など、別の解除原因がある場合まで一律に供給の停止を禁じる規定ではない。
これに対し、開始後、再生債務者の事業継続のために供給された電気の料金は、同法119条の共益債権に当たり得る。共益債権は再生債権とは異なり、同法121条により再生手続によらないで随時弁済される。月をまたぐ請求では、供給期間を申立日(検針期間ごとに料金を算定する契約では、申立日の属する期間)と開始決定日を境に分け、基本料金、従量料金その他の内訳ごとに按分根拠を残す。
なお、契約が旧一般電気事業者(みなし小売電気事業者)の規制料金(特定小売供給約款による供給)であれば、みなし小売電気事業者は、当分の間、経済産業大臣が指定する区域において「正当な理由がなければ」特定小売供給を拒んではならない(電気事業法等の一部を改正する法律(平成26年法律第72号)附則16条1項。旧制度の下で既に自由化されていた高圧等の需要は対象外である。)。自由料金の契約にはこの供給義務がなく、供給の停止や解約の要件は契約と約款で決まる。規制料金と自由料金の違いは、家庭の電気料金の値上げに国の認可は必要か―規制料金(特定小売供給約款)と自由料金の違い,経過措置の現状及び争い方で扱っている。
第4 敷金と民事再生法92条3項
民事再生法92条3項は、開始時に再生債務者に対して賃料債務を負う再生債権者が、開始後に弁済期が到来する賃料を、開始後その弁済期に弁済した場合に、敷金返還請求権を一定限度で共益債権とする規定である。
開始後に期限が来ることと、その期限に現実に弁済したことを区別して確認する。
上限は、開始時の賃料の6か月分に相当する額から同条2項の相殺により免れる賃料債務額を控除した範囲内の、実際の賃料弁済額である。
①開始時の賃料債務、②開始後に来る弁済期とその弁済期の弁済、③実弁済額、④6か月分の枠、⑤2項の相殺額の控除を落とさずに検討する。
共益債権となる部分は、同法121条1項・2項により、再生手続によらず、再生債権に先立って随時弁済される。
敷金返還請求権の具体化、未払賃料等の当然充当、残る再生債権部分への計画による権利変更は、これと分けて計算する。
第5 弁済額の計算は一つに固定しない
令和5年司法試験の事例では、敷金600万円から未払賃料120万円と原状回復費用80万円を当然充当し、残額を400万円とするのが共通の出発点である。
月額賃料は60万円、6か月分の枠は360万円、必要費償還請求権による相殺は60万円、開始後の各弁済期に実際に弁済した賃料は240万円、再生債権の免除率は60%である。
同問は当然充当先行説を指定しており、600万円を先に計画で減額する構成に置き換えない。
| 構成 | 6か月分の枠と共益債権額 | 再生債権の弁済と合計 |
|---|---|---|
| α | 枠360-60=300万円。実弁済額が上限となるため共益債権240万円。 | (400-240)×40%=64万円。合計304万円。 |
| β | 相殺60万円に加え未払賃料充当分120万円も控除し、共益債権180万円。 | (400-180)×40%=88万円。合計268万円。 |
| γ | さらに原状回復費用充当分80万円も控除し、共益債権100万円。 | (400-100)×40%=120万円。合計220万円。 |
令和5年司法試験の公式「採点実感」は、問題文の数値を前提に304万円、268万円又は220万円に至る三つの一貫した構成を許容した。これは一般事件で常に三つの金額になるという意味ではなく、結論だけでなく括弧書の解釈と計算過程を示すべきことを表す。
第6 実務上の確認資料
- 開始決定書、保全処分及び監督命令
- 電力契約、約款、検針票、請求書及び支払履歴(規制料金か自由料金かの別を含む。)
- 再生手続開始の申立日と、申立日の属する検針期間
- 賃貸借契約書、敷金預り証及び精算条項
- 開始前後の未払額を分けた債権一覧
- 相殺通知、開始後の各賃料の弁済期と実際の弁済記録及び弁済許可に関する書面(破産では70条の寄託請求書面も別に確認する。)
- 開始後の事業継続に必要であったことを示す資料
第7 破産手続との違い
破産法70条後段では、敷金返還請求権を有する者が破産者に賃料を弁済する場合、後の相殺のため、その債権額を限度として弁済額の寄託を請求できる。
寄託の対象は、交付済みの敷金そのものではなく、弁済する賃料の額である。
民事再生法92条3項の共益債権化と混同しない。
令和5年司法試験の採点実感は、寄託を伴う賃料弁済を明渡しを解除条件とするものとし、明渡しによる弁済の失効、未払賃料への敷金充当、弁済していた賃料相当額の返還という順序を説明している。
返還請求を破産法148条1項5号の財団債権又は一種の取戻権として構成する説明もあるが、これは敷金返還請求権全体を財団債権とする説明ではない。
通常の停止条件付破産債権として最後配当に参加する場合には、同法198条2項の除斥期間内に権利を行使できるに至る必要があり、明渡しの時期も確認する。
これに対し、電気料金のような継続的給付については、破産法55条が民事再生法50条と同じ構造の規定を置いており、申立て後・開始前の給付に係る請求権は、破産手続では財団債権となる(同条2項)。
第8 関連記事
倒産事件の実務メモ―破産・個人再生・私的整理(AIリライト)
家庭の電気料金の値上げに国の認可は必要か―規制料金(特定小売供給約款)と自由料金の違い,経過措置の現状及び争い方(AI作成)
破産と民事再生の相殺権・相殺禁止の比較については,破産・民事再生で相殺できるか―相殺禁止,危機時期前の原因及び三者間相殺(AI作成)を参照されたい。
本記事の個別論点と区別し,適用条文,債権・債務の当事者及び時期を確認する。
令和5年司法試験倒産法第2問の模範解答と評価項目―50項目と5段階の重み付け(AI作成)
事業用物件の敷金精算と消費税―返還・未払賃料への充当・原状回復費・回収不能を分ける(AI作成)
第9 出典と確認範囲
法令は、e-Gov法令検索の民事再生法50条、84条、92条、119条及び121条、破産法55条並びに電気事業法に収録された電気事業法等の一部を改正する法律(平成26年法律第72号)附則16条1項を確認した。設問構造と複数の計算構成は、法務省の令和5年司法試験論文式試験出題の趣旨及び令和5年司法試験の採点実感(選択科目)の倒産法部分を確認した。
公式資料は出題・採点意図の一次資料であるが、個別事件の結論を直接証明する資料ではない。本記事の作成では判例秘書の新規検索をしておらず、同資料が言及する全裁判例を独立に再確認したわけではない。個別案件では契約内容、申立日、開始決定日、充当関係及び裁判所との協議を別に確認する必要がある。
令和8年10月14日の確認では、民事再生法92条3項の共益債権化と破産法70条の寄託請求を区別して説明を改めた。
同日施行中のe-Gov民事再生法92条・121条、破産法70条・148条・198条及び民法622条の2を確認した。
数値例と解除条件付弁済の説明は、令和5年の採点実感の倒産法第2問部分(PDF6・7頁)の説明として示している。
令和8年9月25日、民事再生法50条(継続的給付を目的とする双務契約)の記載が漏れていたため、料金を分ける基準日を申立日と開始決定日の二つに改め、同条、破産法55条及び規制料金の供給義務に関する記載を追加した。