労働者死傷病報告は,労働災害等により労働者が死亡し,又は休業した場合に,事業者が所轄労働基準監督署長へ提出する報告である。労災保険給付の請求書とは目的,提出者及び手続が異なる。この記事では,死亡・休業日数別の期限,建設業での提出者,2025年1月1日から原則義務化された電子申請,不報告・虚偽報告の罰則及び会社が報告しない場合の労働者の対応を,2026年9月23日現在の法令及び厚生労働省資料に基づいて整理する。
第1 労働者死傷病報告の役割
労働安全衛生規則97条は,事業者に対し,労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷,窒息又は急性中毒により労働者が死亡し,又は休業したときに,労働者死傷病報告を所轄労働基準監督署長へ提出することを求めている。
この報告の目的は,行政が災害の発生状況を把握し,原因調査,再発防止及び安全衛生上の指導に利用できるようにすることにある。被災労働者が治療費や休業補償等を受けるために行う労災保険給付の請求とは別の制度であり,一方の手続を行えば他方が不要になるものではない。
第2 報告が必要となる事故と休業日数
1 死亡又は休業4日以上
労働者が死亡し,又は休業4日以上となった場合,事業者は,事故の発生日時,場所,状況,被災者の職種,傷病名,休業見込期間等を記載して,遅滞なく報告しなければならない。死亡事故では休業日数を待つ必要はなく,事故発生後速やかに所轄労働基準監督署へ連絡し,必要な報告を行う。
2 休業1日から3日まで
休業が1日から3日までの場合は,四半期ごとに取りまとめて報告する。1月から3月までの事故は4月末,4月から6月までの事故は7月末,7月から9月までの事故は10月末,10月から12月までの事故は翌年1月末が提出期限である。
「休業日数」は,負傷日の翌日以後に療養のため労働できなかった日を基礎として判断する。事故当日に早退しただけで翌日以後に休業していない場合などは,通常,休業を伴う報告には当たらないが,事故態様や事業場内での発生状況によって別の報告・届出が必要となることがある。
3 通勤災害
自宅と就業場所との間の通常の移動中に発生した通勤災害は,労災保険の通勤災害給付の対象となり得るが,それだけでは労働者死傷病報告の対象ではない。他方,業務として自動車を運転していた場合や出張中の事故など,業務中の交通事故によって死亡又は休業した場合は,労災保険給付の請求とは別に労働者死傷病報告が必要となる。
第3 誰が報告するのか
1 被災労働者を雇用する事業者
報告義務を負うのは,原則として被災労働者を雇用する事業者である。被災労働者本人又はその家族が労働者死傷病報告を提出する制度ではない。労働者が労災保険給付を請求したかどうか,会社が労災該当性を認めているかどうかにかかわらず,法定の報告要件を満たせば事業者に報告義務が生じる。
2 建設業における元請と下請
建設工事の労災保険関係では,原則として元請事業者が事業主とみなされ,下請労働者も元請の労災保険の対象になる。しかし,労働者死傷病報告については,被災労働者を直接雇用する事業者が提出するのが基本である。下請労働者が被災した場合は下請事業者が提出し,報告欄には元方事業者の労働保険番号等も記載する。元請の労災保険を使うことと,元請が下請労働者の報告義務者になることを混同してはならない。
元請が下請に報告しないよう指示し,又は虚偽報告を了承した場合には,元請側の担当者についても,具体的な指示,認識及び関与の内容に応じて刑事責任が問題となり得る。
第4 提出期限と2025年からの電子申請
2025年1月1日から,労働者死傷病報告は,厚生労働省の電子申請システムによる提出が原則として義務化された。電子申請が困難な事情がある場合には,当面,所定の書面により提出することも認められている。ただし,従来の旧様式第23号及び第24号をそのまま使用するのではなく,現在の案内に従う必要がある。
提出先は,原則として災害が発生した事業場を管轄する労働基準監督署である。建設現場等で,会社の本店所在地と災害発生場所が異なる場合には,提出先を本店所在地だけで判断せず,災害発生場所を管轄する監督署に確認するのが安全である。
第5 労災保険給付の請求との違い
労働者死傷病報告は事業者の行政上の報告であるのに対し,労災保険給付の請求は,被災労働者又は遺族が,療養,休業,障害,遺族等の給付を受けるために行う手続である。事業者が報告を提出していなくても,被災労働者は労災保険給付を請求できる。
会社が請求書の事業主証明を拒否した場合も,その事情を付記し,所轄労働基準監督署に相談して請求できる。労災に当たるかどうかを最終的に判断するのは会社ではなく,労働基準監督署長である。事業主は,請求に必要な事項の証明を求められたときは速やかに証明し,事故のため労働者本人が請求手続を行うことが困難な場合には手続を助けなければならない。
第6 不報告・虚偽報告と労災かくし
厚生労働省は,労働災害の発生を隠すため,故意に労働者死傷病報告を提出しないこと,又は虚偽の内容を記載した報告を提出することを「労災かくし」と説明している。
労働安全衛生法100条に基づく報告をせず,又は虚偽の報告をした者は,同法120条5号により50万円以下の罰金に処せられることがある。また,法人の代表者,代理人,使用人その他の従業者が法人又は事業主の業務に関して違反した場合は,行為者に加えて法人又は事業主にも罰金刑を科す両罰規定がある(同法122条)。
報告が期限後になっただけで直ちに故意の労災かくしが成立するとは限らないが,遅れた理由,事故を把握した時期,社内での指示,記載内容及び訂正の経緯は確認され得る。事故を把握した後は,報告要否を放置せず,監督署に相談して速やかに報告することが重要である。
第7 会社が報告しない場合の労働者の対応
会社が「労災ではない」「健康保険を使ってほしい」「休業扱いにしない」などと述べても,労働者本人の労災保険給付請求が当然に妨げられるわけではない。労働者は,事故日時・場所・作業内容,目撃者,現場写真,防犯カメラ,救急搬送記録,診療録,勤怠記録,会社とのメールやチャット等を保存し,所轄労働基準監督署に相談することができる。
業務災害について誤って健康保険を使用した場合は,健康保険を使ったことだけで当然に労災かくしの共犯となるわけではない。加入する医療保険者と労働基準監督署に連絡し,労災保険への切替手続を確認する。医療費の返還が困難な場合には,返還前に労災保険へ請求できる取扱いがあるため,自己判断で手続を止めないことが重要である。
第8 提出前の確認事項
- 死亡又は休業の有無と休業日数
- 事故発生日,発生時刻及び発生場所
- 事故時の具体的な作業内容
- 傷病名と傷病部位
- 被災労働者を直接雇用している事業者
- 建設工事の場合の元方事業者と労働保険番号
- 死亡・休業4日以上か,休業1日から3日までか
- 電子申請の送信結果及び控えの保存
- 労災保険給付請求が別途必要か
提出後に重要な誤りが判明した場合は,記録を残した上で所轄労働基準監督署に訂正方法を確認する。事実関係を曖昧なまま整合させるために虚偽の内容を入力してはならない。
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出典・参考資料
- 労働安全衛生法 https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057
- 労働安全衛生規則 https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032
- 厚生労働省「労災かくしについて」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/faq/anzeneisei_faq8.html
- 厚生労働省「労働者死傷病報告等の電子申請が原則義務化されます」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/denshishinsei_00002.html
- 厚生労働省「建設現場における労働者死傷病報告の提出について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000207439.html
- 和歌山労働局「建設業における労働者死傷病報告」 https://jsite.mhlw.go.jp/wakayama-roudoukyoku/content/contents/002486257.pdf
- 厚生労働省「事業主が証明を拒否する場合」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei49.html
- 厚生労働省「健康保険から労災保険への切替え」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000154463.html