目次
第1 鑑定評価額を読む前に固定する事項1 依頼目的と利用者を先に確認する2 鑑定評価書と査定書等を区別する第2 対象不動産,価格時点及び価格の種類1 対象となる物と権利を確定する2 価格時点と資料時点を分ける3 正常価格・限定価格等と条件を読む第3 資料と前提条件を点検する1 確認済みの事実と仮定を分ける2 法律・物理・収支の資料を対応させる3 利害関係と独立性を確認する第4 評価手法と試算価格の調整を読む1 原価法・取引事例比較法・収益還元法2 直接還元法とDCF法3 複数の試算額を単純平均しない第5 前提が変わる場合の感応度を確かめる1 結論を動かす入力値を特定する2 別の前提による試算を求める場面第6 裁判・相続・財産分与での使い方1 鑑定意見と法的判断を分ける2 相手方の評価書と同じ土俵で比較する3 不動産鑑定士へ確認する事項第7 確認チェックリスト第8 関連記事と出典
第1 鑑定評価額を読む前に固定する事項
【基準日:令和8年10月15日】
不動産鑑定評価書は,一つの不動産に唯一の正解となる金額を付ける文書ではなく,特定した対象,時点,権利,条件及び利用目的の下で,不動産の経済価値について専門家の判断を示す文書である。
したがって,結論額の高低を論ずる前に,何を,いつの時点で,どの権利状態として,何のために評価したのかを固定する必要がある。
1 依頼目的と利用者を先に確認する
国土交通省の価格等調査ガイドラインは,価格等調査の契約までに,依頼目的,依頼が必要となった背景及び利用者の範囲等を確認して確定するものとしている。
売買の参考,担保評価,訴訟提出,遺産分割,財産分与又は会計目的では,必要な基準時,対象範囲,説明の程度及び許容される条件が異なる。
依頼書,業務委託契約,鑑定評価書の表紙・前文及び提出先の記載を照合し,当初の依頼目的と現在の利用目的が一致するかを確認すべきである。
依頼者内部の参考資料として作成された価格等調査を,説明なく訴訟や第三者取引へ転用してはならない。
2 鑑定評価書と査定書等を区別する
書面の題名が「査定書」,「価格意見書」又は「調査報告書」であっても,作成者,調査範囲,現地調査,採用資料及び手法は書面ごとに異なる。
価格等調査ガイドラインは,不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価と,基準に則らない価格等調査を区別し,後者では基本的事項又は手順の相違により結果が異なる可能性を記載するものとしている。
不動産業者の売却査定額,買取提示額,固定資産税評価額,路線価及び相続税評価額は,それぞれ目的と算定の仕組みが異なり,個別不動産の市場価値と当然に一致するものではない。
比較するときは,書面の名称ではなく,目的,対象,時点,条件,手法及び根拠資料をそろえる必要がある。
第2 対象不動産,価格時点及び価格の種類
1 対象となる物と権利を確定する
最初に,土地の所在・地番・地目・地積,建物の家屋番号・構造・用途・床面積及び評価対象となる権利を登記事項証明書,公図,地積測量図,建物図面その他の資料で照合する。
同じ土地建物でも,更地,自用の建物及びその敷地,貸家及びその敷地,借地権付建物,底地又は区分所有建物では,評価対象となる権利利益が異なる。
共有持分,賃借権,地上権,通行・配管等の利用権,越境,未登記部分又は対象外土地への依存がある場合は,評価対象に含めた範囲と,価値へ反映した方法を確認する。
現況と登記が一致しないときは,鑑定評価書がどちらを採用し,その理由と価格への影響をどう説明したかを読む必要がある。
2 価格時点と資料時点を分ける
価格時点は,評価対象の価格を判定する基準日であり,現地調査日,資料作成日及び鑑定評価書の発行日とは異なることがある。
相続開始時,別居時,口頭弁論終結時,売却予定時その他の法的な基準時と,鑑定評価書の価格時点が一致するかを先に確認する。
取引事例,賃貸事例,収支実績及び工事見積りの時点が価格時点と異なる場合は,時点修正又は事情変更の説明が必要である。
後に判明した資料を過去時点の評価に用いるときは,その資料が価格時点当時の状態を示すのか,価格時点後の変化を示すのかを分けなければならない。
3 正常価格・限定価格等と条件を読む
鑑定評価書では,正常価格,限定価格,特定価格又は特殊価格など,求めた価格の種類を確認する。
例えば,借地権者が底地を取得して完全所有権とする取引では,併合による経済合理性を反映した限定価格が問題となることがある。
対象確定条件,想定上の条件及び調査範囲等条件が設定されている場合は,条件の内容,設定の必要性,実現性及び条件が成立しない場合の影響を確認する。