メインコンテンツへスキップ
       

役員報酬と不動産所得の損益通算―赤字を差し引ける条件と確定申告(AI作成)

第1 役員報酬と不動産所得の赤字は損益通算できるか

日本の居住者である個人が役員報酬を受け,その個人が所有する賃貸不動産について不動産所得の赤字が生じた場合は,原則として給与所得との損益通算ができる。
ただし,土地等の取得に係る借入金利子に相当する部分など,通算できない損失がある。
役員報酬の収入額から賃貸経営の赤字をそのまま差し引く計算ではない。

本記事は,令和8年10月25日に確認した法令と国税庁資料に基づき,国内の賃貸不動産を個人で保有する居住者を中心に説明する。
非居住者,法人の不動産,売却による損失は,同じ結論になるとは限らないため区別する。

確認すること判断の入口
役員報酬を受ける人と物件の所有者同じ個人か,会社の物件かを確認する
不動産から生じた損失の種類賃貸による不動産所得の赤字か,売却による損失かを分ける
通算できない部分土地取得の借入利子,別荘等,組合・国外中古建物の特例を確認する
税負担と手元資金所得の計算,税額の計算,実際の入出金を別々に確認する

所得税法69条1項は,不動産所得等の損失について「政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する」と定める。
実際の控除の順序は同法施行令198条により,不動産所得の損失はまず給与所得等の経常所得から控除する。
各種の制限を確認した上で適用する制度である。

第2 役員報酬の収入と給与所得,不動産所得を分ける

1 役員報酬は給与所得として確認する

国税庁No.2508「給与所得となるもの」は,使用人だけでなく役員に支払う給料等も給与所得の対象とする。
給与所得は,原則として給与の収入金額から給与所得控除等を反映して計算する。
源泉徴収票の「支払金額」,給与所得の金額,手取り額は同じではない。

基本的な計算の流れは,所得税とは―税率・計算方法・所得控除・住民税との違いも参照されたい。
本記事の計算例では,給与収入から給与所得を求める計算と,不動産所得の赤字を通算する計算を分ける。

2 不動産所得は家賃収入から必要経費を差し引く

不動産所得は,土地・建物等の貸付けから生じる所得であり,その年の総収入金額から必要経費を差し引いて計算する。
国税庁No.1370は,貸付資産に係る固定資産税,損害保険料,減価償却費,修繕費等を必要経費の例として挙げている。
私的な支出まで含めてよいわけではなく,業務との関係を確認する必要がある。

借入金については,返済予定表の元本と利息を分ける。
元本の返済をそのまま不動産所得の必要経費にすることはできない。
建物の取得費用は,減価償却等のルールに従って必要経費へ反映する。
土地自体は減価償却資産ではない。

第3 損益通算できない損失・部分

1 土地等を取得するための借入金利子

土地等を取得するために要した借入金の利子は,不動産所得の必要経費に算入できる場合でも,不動産所得が赤字になったときには,その利子に相当する部分を給与所得等と通算できない。
必要経費への算入と,他の所得との損益通算は別の段階である。

租税特別措置法41条の4及び同法施行令26条の6による通算対象外の金額は,不動産所得の赤字額と,必要経費に算入した土地等の取得に係る借入金利子の額のうち,少ない方の金額となる。
赤字以上の金額をさらに差し引いて,給与所得を増やす計算をするものではない。

土地と建物を一つの契約で同じ売主から取得し,借入額を土地と建物に区分することが困難であるなど,同令26条の6第2項の条件を満たす場合には,借入金をまず建物の取得対価に充てたものとして計算できる。
常に購入価格の比率だけで利子を配分するものではなく,売買契約書,土地・建物の対価,資金の使途及び借入条件を確認する。

2 別荘等,組合・信託,国外中古建物

国税庁No.1391及びNo.2250は,次の制限も説明している。
名称だけで適用を決めず,所有・利用の実態,契約内容及び減価償却の計算を確認する必要がある。

対象主な制限
別荘等主として趣味,娯楽,保養又は鑑賞の目的で所有する不動産の貸付けに係る損失は,損益通算の対象外となる
一定の組合・信託特定組合員等に該当する個人の組合事業又は信託から生じた不動産所得の損失は生じなかったものとみなされ,他の不動産所得との内部通算も,他の所得との損益通算もできない
国外中古建物令和3年分以後,簡便法等による減価償却費に対応する一定の損失について,国内不動産所得との内部通算や他の所得との損益通算を制限する特例がある

国内の通常の賃貸物件に関する説明を,リゾート物件,組合への出資又は海外の中古物件へそのまま当てはめないことが大切である。

3 物件を売った損失は別の制度である

家賃収入に係る不動産所得の赤字と,土地・建物を売ったときの譲渡損失は区別する。
土地・建物の譲渡損失は,原則として給与所得等との損益通算ができず,一定の居住用財産には別の特例がある。
賃貸物件を売って損が出たという理由だけで,本記事の賃貸赤字の計算を用いることはできない。

第4 土地取得の借入利子がある場合の計算例

給与所得の金額が800万円,不動産所得の赤字が150万円,その必要経費に含まれる土地取得の借入金利子が40万円であり,他の通算制限や所得がないと仮定する。
ここでいう800万円は,給与の額面収入ではなく,給与所得控除等を反映した後の給与所得の金額である。

計算の段階金額
不動産所得の赤字150万円
土地取得の借入利子に対応する通算対象外の部分40万円
給与所得との通算対象となる損失150万円-40万円=110万円
通算後の所得金額800万円-110万円=690万円

690万円がそのまま納税額又は最終的な課税所得になるわけではない。
この後に基礎控除や社会保険料控除等を反映し,税率,税額控除,源泉徴収税額等を確認する。
110万円がそのまま還付されるものでもない。

例えば,赤字が30万円で土地取得の借入利子が40万円なら,対象外となるのは30万円であり,他の条件が同じなら給与所得と通算できる損失は0円となる。

第5 節税額だけで不動産投資の有利・不利を決めない

1 減価償却と毎月の資金繰りは別の数字である

減価償却費は,資産の取得価額を各年の必要経費へ配分するものであり,その年に同額の現金を支払うことを意味しない。
他方,借入元本の返済は手元資金を減らすが,その全額が必要経費になるわけではない。
そのため,税務上の赤字と資金不足は一致しない。

投資判断では,家賃収入から管理費,修繕費,税金,保険料,借入金の返済等を差し引いた実際の資金収支と,減価償却費等を含む所得計算を別々に作る。
空室,修繕,金利及び売却条件が変わる場合の収支も確認することが望ましい。

2 会社の物件と役員個人の物件を混同しない

会社が所有して賃貸する不動産の損失を,役員個人の不動産所得の赤字として給与所得から差し引くことはできない。
本記事の損益通算は,役員報酬を受ける個人自身に帰属する不動産所得の損失がある場合の説明である。

役員報酬を減らすこと,会社に利益を残すこと,個人の不動産所得の損失を通算することも別の問題である。
役員報酬を0円にして非課税世帯になれるかで説明する社会保険や給付制度の判定まで,所得税の損益通算だけで結論を出すことはできない。

第6 確定申告前に確認する資料

役員報酬と不動産所得を通算して所得税の精算を行う場合は,年末調整だけで済ませず,確定申告又は還付申告について確認する。
国税庁No.2030「還付申告」は,申告義務のない人でも,源泉徴収税額や予定納税額が年間の所得について計算した税額を上回るときに,申告により納め過ぎの所得税の還付を受けられると説明している。
損益通算を反映した年間税額と納付済み税額を照合し,申告の要否と還付の有無を確認する。
給与等の金額が2,000万円を超える場合や,同族会社の役員がその会社に不動産を貸して賃料を受ける場合などは,給与以外の所得が少額でも確定申告が必要である(所得税法121条1項,同法施行令262条の2)。

資料確認する内容
源泉徴収票支払金額,給与所得控除後の金額,源泉徴収税額等
賃貸借契約書・賃料明細・帳簿不動産所得の帰属,収入計上,経費及び入出金の対応
売買契約書・精算書土地と建物の取得対価,取得時の費用
借入契約書・返済予定表借入金の使途,元本・利息,土地取得に対応する部分
減価償却の明細・前年の申告書取得日,取得価額,償却方法及び前年からの継続

収支内訳書又は青色申告決算書等に反映する数字と,通算制限の計算を照合する。
住民税,社会保険又は給付についても確認する場合は,各制度がどの所得金額・年度を用いるかを別に確認する。

第7 よくある質問

1 役員報酬は損益通算できるか

日本の居住者である個人に給与所得となる役員報酬があり,その個人の不動産所得に通算対象となる損失があれば,原則として損益通算できる。
会社の赤字を個人へ移す制度ではなく,土地取得の借入金利子等の制限もある。

2 不動産所得で損益通算できないものは何か

代表例は,土地等の取得に係る借入金利子に対応する損失,別荘等の貸付けに係る損失,特定組合員等の一定の損失及び国外中古建物の一定の損失である。
要件と対象額はそれぞれ異なるため,第3の区分に沿って確認する。

3 不動産所得と給与所得の損益は通算できるか

原則として,不動産所得の損失のうち通算が認められる部分は給与所得から控除できる。
給与収入の全額から家賃収支の赤字を引く計算ではなく,まず各所得の金額と通算制限を確認する。

4 損益通算をしない方が有利な場合はあるか

損益通算は納税者が選ぶ制度ではなく,確定申告をすれば所得税法69条1項により適用される。
確定申告の義務がある場合は,申告しないという選択もない。

不動産投資をするかという判断と,既に生じた損失を申告でどう扱うかは分けて考える。
損益通算による税負担の減少があっても,家賃収入,借入返済,修繕及び売却まで含めた投資全体の利益は保証されない。
適正な所得計算をした上で,所得税と他の制度への影響を確認する。

第8 出典・関連記事

1 法令・国税庁資料

所得税法26条・28条・37条・49条・69条・121条,所得税法施行令178条・198条・262条の2,租税特別措置法41条の4・41条の4の2・41条の4の3及び同法施行令26条の6を参照した。

① 所得税法(e-Gov法令検索)
② 所得税法施行令(e-Gov法令検索)
③ 租税特別措置法(e-Gov法令検索)
④ 租税特別措置法施行令(e-Gov法令検索)
⑤ 国税庁No.2508「給与所得となるもの」
⑥ 国税庁No.1370「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」
⑦ 国税庁No.1391「不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」
⑧ 国税庁No.2250「損益通算」
⑨ 国税庁No.2210「必要経費の知識」
⑩ 国税庁No.2100「減価償却のあらまし」
⑪ 国税庁No.2030「還付申告」

2 関連記事

① 所得税とは―税率・計算方法・所得控除・住民税との違い
② 役員報酬を0円にして非課税世帯になれるか