第1 材料を交換すれば加工費の問題も解決するか
発注者から支給された材料を加工したところ,材料の不良が原因で完成品を使えなくなった。代替材料は支給されたが,加工済みの費用,選別費,手直し費,廃棄費及び納期の遅れをどう扱うかが残る。このような場合には,材料そのものと,加工等により生じた費用を分けて整理する必要がある。
本記事は,注文者が材料を供した請負についての民法636条を出発点に,支給材の受入れから不良発見後の精算までの確認事項を説明する。すべての製造取引が請負になるわけではなく,売買その他の契約との区別も必要である。
第2 民法636条が定めていること
1 注文者の材料・指図に起因する不適合
民法636条は,請負人が,注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって,種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を引き渡した場合について,注文者による追完,報酬減額,損害賠償及び解除の制限を定めている。
重要なのは,単に支給材を使ったことではなく,問題となる不適合が,その材料の性質又は指図によって生じたかという点である。支給材を使っていても,加工方法や保管方法の問題が原因であれば,同じ結論になるとは限らない。
2 不適当だと知って告げなかった場合
同条ただし書は,請負人が材料又は指図の不適当であることを知りながら注文者に告げなかった場合を例外としている。
そのため,不良を発見した時期,知っていた内容,発注者への連絡及びその後の指示を記録する必要がある。「支給材だから受注者は何も確認しなくてよい」という意味ではない。一方,同条の「知りながら」という要件を,契約上の検査義務の検討をせずに,あらゆる潜在不良を発見すべきだったという義務へ置き換えるべきでもない。
3 加工し直した費用の全額請求まで当然に決まるわけではない
同条は,注文者の請負人に対する権利行使を制限する規定である。支給材に不良があれば,受注者が支出したすべての費用を当然に発注者へ請求できると直接定めた規定ではない。
報酬の支払,追加加工費,材料不良に関する契約違反及び損害賠償については,契約内容,原因,必要な対応及び費用の根拠を別に検討する。損害賠償を求める場合には,民法415条・416条の要件や範囲も問題になる。
第3 費用ごとに整理する
費用を一括して「不良対応費」とすると,原因や合意との関係が分かりにくくなる。次のように分けて記録することが考えられる。
– 不良発見までに実施した加工の数量,工程,工数及び既発生費用
– 不良品と使用可能品を分けるための検査・選別費
– 再加工,手直し及び再検査の費用
– 代替材料の手配,運送及び保管の費用
– 不良材,仕掛品及び完成品の返却・廃棄費
– 生産計画の変更及び納期変更に関する対応費
受注者側で判断して支出した費用と,発注者が依頼・承認した費用も区別する。緊急時の対応を妨げないようにしつつ,対応方法と見積額を確認できる連絡手順を設けることが有用である。
第4 支給材条項で確認する事項
1 受入検査の内容と限界
誰がどの検査を行うか,検査に必要な仕様・品質証明を誰が提供するか,不良を発見した場合の通知先及び加工を止める判断を定める。
通常の受入検査で確認できる外観・数量と,破壊試験等をしなければ分からない性質を区別する。受入時に異議を述べなかったことが,潜在的な材料不良の責任まで引き受ける合意になるかも,条項の文言に即して確認する必要がある。
2 加工途中で不良が分かった場合
疑わしい材料・仕掛品を識別し,対象ロット,工程,現物及び試験結果を保存する。追加加工を続けるか,選別や再加工を行うかについて,指示を記録する。
納期に影響する場合には,不良通知と同時に,代替材の到着予定,作業再開に必要な日数及び新しい納期を協議する。従来の納期を据え置いたまま,遅延の扱いだけが残る状態を避けたい。
3 精算条件の記載例
契約を検討する際には,例えば「支給材の不良が認められた場合には,原因,既に行った加工,必要な選別・再加工及び納期への影響を確認し,追加費用と変更後の納期を協議して書面等で定める」という進め方が考えられる。
これは協議事項を落とさないための記載例であり,個々の費用請求を保証する条項ではない。金額を確定しやすい取引では,適用する工賃,段取り費,検査単価等をあらかじめ合意する方法も検討されたい。
第5 代金から一方的に差し引く前に
発注者が支給材の不良を含めた対応費を受注者の代金から差し引く場合には,受注者の責任の有無,契約上の請求根拠及び差引額を確認する必要がある。
取適法の適用がある場合には,民法上の相殺の問題だけでなく,減額等の禁止との関係も検討する。公正取引委員会のQ&Aでは,委託事業者が所有する物品の加工等に関する不良を理由とする差引きについても,検査・通知等の条件が問題になる事例が示されている。
支給材不良,受注者の加工不良及び原因未確定の状態を混同しないようにし,原因調査の途中で一方の責任と差引額を確定させない運用が必要である。
第6 根拠資料と関連記事
条文はe-Govの民法,取適法の運用は公正取引委員会のQ&Aを参照されたい。
責任上限,相殺,検査及び支払条件を含む契約全体の審査は,製造委託の取引基本契約書を受注者側から審査するポイント―取適法・損害賠償・相殺・契約終了(AI作成)を参照されたい。