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仕入価格を公表されたら止められるか―営業秘密と秘密保持契約(AI作成)

第1 仕入価格の公表では何を確認するか

取引先が自社からの仕入価格を公表した場合,価格が非公表だったという事情だけで,直ちに差止めや損害賠償が認められるとは限らない。公表された情報の内容,取得の経緯,秘密保持の合意及び公表の態様を分けて検討する必要がある。

例えば,双方が交渉して決めた契約価格と,交渉のために渡した原価計算表・利益率・他社向け価格表では,情報の性質も取得経緯も異なる。「価格情報」という一括りで扱うと,守りたい情報と契約上の義務が対応しなくなる。

本記事は,東京高裁平成16年9月29日判決と現行の不正競争防止法を踏まえ,価格公表が問題になった場合の確認事項と,契約段階の備えを説明する。

第2 大正製薬とダイコクの事件で判断されたこと

1 対象となった価格と裁判の結論

東京高裁平成16年9月29日判決(平成14年(ネ)第1413号)は,医薬品等のメーカーと販売店の取引について,仕入価格の開示等をめぐって判断した裁判例である。メーカーが一方的に提供した内部資料の漏えい一般を扱った事件ではない。

裁判所は,当該取引で当事者の合意により成立した仕入価格(売買代金額)について,販売店がメーカーから営業秘密を「示された」場合に当たるとはいえないと判断した。また,本件の契約関係等の下で,販売店に当該価格の秘密保持義務があるとの主張も認めなかった。

判決が採った判断は,情報の成り立ちと,本件で秘密保持義務を認める根拠があるかを検討したものである。「価格はすべて営業秘密にならない」「秘密保持契約はすべて無効」という結論ではない。

2 適法な秘密保持の合意まで否定していない

判決末尾では,価格に関する秘密保持の合意が適法に行われることまで否定する趣旨ではないことが示されている。価格の公表や仕入価格に近い販売を,どのような場合でも適法とする判断でもない。

したがって,この裁判例を理由に,既存の秘密保持条項を確認せず「公表してよい」と判断することも,反対に秘密保持条項があるだけで差止めが確実だと判断することも避けるべきである。根拠は裁判所公開の判決原文で確認できる。

第3 営業秘密の問題と契約違反の問題

1 不正競争防止法の要件を確認する

不正競争防止法2条6項は,営業秘密について,秘密として管理されていること,事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること,公然と知られていないことを要件としている。

さらに,同条1項7号を根拠にする場合には,保有者から営業秘密を示されたという取得経緯に加え,不正の利益を得る目的又は保有者に損害を加える目的で使用・開示したかという要件も問題になる。単に「秘密の情報を公表された」と説明するだけでは,これらの検討を尽くしたことにならない。

公表されたものが契約価格そのものか,リベート等を含めて算出した実質的な仕入価格か,原価その他の内部情報かも特定する。資料名だけでなく,情報の内容ごとに取得経緯と管理方法を整理することが必要である。

2 契約上の秘密保持義務は別に検討する

営業秘密としての保護を主張できるかという問題と,契約でどの範囲の秘密保持義務を負わせたかという問題は,検討する根拠が異なる。

秘密保持契約では,対象情報の定義,秘密表示の要否,口頭開示後の確認方法,既知情報・公知情報等の除外,利用目的,開示できる相手及び存続期間を確認する。「本取引に関する一切の情報」という文言だけで,当該価格が当然に対象になると決め付けるべきではない。

価格情報を守る条項であっても,競争法その他の問題がなくなるわけではない。販売価格を拘束する目的や運用がある場合には,秘密保持の合意とあわせて個別に検討する必要がある。

第4 価格公表が判明したときの証拠と対応

まず,公表された文章・画像・掲載場所・掲載日時を保存する。ウェブ上の表示では,URL,画面全体,当該箇所及び確認日時を対応させ,転載先と元の掲載先を区別する。画面を削除させる連絡を先にすると,後から内容や範囲を確かめにくくなることがある。

そのうえで,次の資料を時系列で整理する。

– 価格交渉のメール,見積書,価格表,リベート等の合意
– 秘密保持契約,基本契約,個別契約及び後日の変更合意
– 情報を渡した相手・方法・日時と,秘密であることを伝えた記録
– 公表前に同じ情報が開示されていた範囲
– 公表後の顧客対応,取引への影響及び具体的な損害に関する資料

削除,訂正,再開示の停止,証拠保全及び金銭請求のどれが必要かを分ける。取引上困ったという事情と,法的請求を支える要件・損害の立証は,それぞれ確認する必要がある。

第5 契約段階で価格情報を守るための工夫

1 守る価格情報を具体化する

契約上の秘密情報として,契約単価,数量別単価,割戻し,リベート,原価内訳等のどれを扱うかを明記する。相手方も交渉・形成に関わる価格と,一方当事者の内部情報を区別して記録することが有用である。

顧問弁護士,監査人,金融機関,行政機関等への必要な開示や,法令上求められる開示をどう扱うかも定める。例外を設けずに広く禁止すると,通常の業務との調整が問題になりやすい。

2 表示と運用を一致させる

秘密表示を義務付けた契約なのに価格表に表示しない,開示先を限定したのに多数の取引先へ同じ資料を送る,といった不一致を避ける。閲覧権限,送信先,版管理及び退職・取引終了時の返却等も対応させる。

違反時の連絡,拡散防止への協力及び返却・削除の方法を定めることも考えられる。ただし,これらは契約上の備えの例であり,記載すれば差止めや損害賠償が必ず認められるというものではない。

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現行法はe-Govの不正競争防止法を参照されたい。図面や生産データの提供範囲については,図面・ノウハウ・生産データを無償で求められたとき―知財取引指針と契約・証拠の実務(AI作成)も参照されたい。