第1 対象となる約款と最初に確認すること
民間(七会)連合協定工事請負契約約款の2025年12月改正では,資材価格の高騰等に対応する請負代金・工期の変更協議と,適正な労務費の確保に関する規定が整備された。工事の発注者・受注者が確認すべきなのは,採用した約款の版,個別の特約,変更を必要とする事実及びその根拠資料である。
本記事は,令和8年10月26日時点で公表されている約款委員会の2025年12月改正新旧対照表のうち,第4条,第4条の2,第28条及び第29条を中心に説明する。2020年版を解説した書籍の記述を,そのまま2025年改正後の規定として扱うものではない。
改正された標準約款の公表と,個々の契約の内容とは区別する必要がある。既に締結した契約については,契約書に添付された約款,採用する版の指定及び特約を確認する。旧版の契約へ改正後の条番号や文言を当然に当てはめてはならない。
第2 資材価格の高騰と請負代金額の変更
1 変更請求と協議の申出
改正後の第29条1項eは,建設業法20条の2第2項に定める資材価格の高騰その他の請負代金額に影響する事象の発生を,代金変更の事由に加えている。同条1項は,契約に別段の定めがある場合を除き,所定の事由があるときに,発注者又は受注者が理由を示して必要な代金変更を請求し,必要に応じて協議を申し出るという構成である。
同条3項は,協議の申出を受けた側について,申出が根拠を欠く場合その他正当な理由がある場合を除き,誠実に協議に応じるよう努めると定める。これを,相手方が請求額を全額承認する義務や,請求書の送付だけで変更額が確定する仕組みと読むことはできない。
2 増減額の根拠を分けて示す
第29条2項aは,適切な価格転嫁による適正な代金設定のため,工事に係る価格等の変動内容その他の事情を考慮することを定める。同項bは,工事の減少部分には監理者の確認を受けた内訳書の単価を,増加部分には変更時の時価を用いることを原則としている。減少と増加を一つの率で処理する前に,どの部分を変更するのかを分ける必要がある。
協議資料としては,当初見積りと変更後見積り,対象資材の数量・単価,仕入先の価格改定通知,発注時期及び既に購入した数量を対応させると検討しやすい。ここで挙げた資料は実務上の整理例であり,これらをそろえれば必ず増額が認められるという要件表ではない。
例えば,追加工事の代金と,当初の工事範囲に属する資材の値上がり分が同時に請求されている場合には,請求の根拠と計算を分ける。同じ数量や費用を双方へ計上していないかも照合する。
3 1年を超える契約に関する条項
第29条1項gは,契約締結から目的物の引渡しまで1年を超える契約について,法令の制定・改廃又は物価・賃金等の変動により,契約締結から1年経過後の未履行の工事部分に対応する代金額が適当でなくなった場合を定める。
したがって,「工事が1年を超えた」という事情だけで,完成済み部分を含む代金全体を一律に増額する条項として扱うことはできない。1年経過時点の施工状況と未履行部分を区分した資料が重要になる。
第3 工期延長と価格変更は別々に整理する
第28条6項は,契約に別段の定めがある場合を除き,追加変更工事,不可抗力,主要資材の供給の著しい減少等,関連工事の調整,受注者に責任のない協議の長期化,近隣住民との紛争その他正当な理由について,理由を示した必要な工期延長の請求と,必要に応じた協議の申出を定める。同条7項には,根拠のない申出等を除く発注者の誠実協議の努力義務が置かれた。
工期に影響する事象が発生したことと,何日延長する必要があるかは,分けて説明する。資材の納入予定と実際の納入日,その資材を使う工程,並行して進められる工事及び変更後の工程表を確認するのが実務上の出発点となる。
また,第28条3項は,発注者と受注者の双方に対し,変更後の工期を,通常必要と認められる期間に比して著しく短くしてはならないと定める。納期だけを据え置く案を検討するときも,変更後の作業量と施工に必要な期間を合わせて確認する必要がある。
同じ資材不足でも,代金の増額を求める理由と,工期を延ばす理由・日数が同じになるとは限らない。協議書では,金額,完成予定日及び各変更の理由を別々の項目として整理するとよい。
第4 建設業法の契約前通知との関係
建設業法20条の2第2項は,建設業者が主要な資材の供給減少,価格高騰等の所定の事象が発生するおそれを認める場合,請負契約の締結までに,その旨と状況把握に必要な情報を注文者へ通知することを求める。
同条3項は,この通知をした建設業者について,契約締結後に通知対象の事象が発生したとき,契約で定めた工期・工事内容・請負代金額の変更に関する協議を申し出ることができると定める。同条4項は,根拠のない申出等を除く注文者の誠実協議の努力義務を定める。
この法定の仕組みでは契約前の通知が条文上の前提となる。他方,約款第28条・第29条による請求を検討するときは,採用した条項と特約の文言を別に確認する。契約前の通知がないという一事だけで,契約上のあらゆる変更請求が否定されると決め付けるべきではない。
契約締結前にはリスクの内容と根拠情報を記録し,契約後には実際に生じた事象,通知した内容との対応及び工事への影響を記録しておく。この二つの時点の資料を分けて保存すると,協議の根拠を説明しやすい。
第5 適正な労務費の確保と確認書面
1 内訳書と支払の確認
第4条2項では,請負代金内訳書に材料費,労務費,法定福利費,安全衛生経費及び建設業退職金共済契約に係る掛金を明示することとされた。
新設された第4条の2は,労務費に関する基準を踏まえた適正な労務費であることの確認,発注者による労務費を含む請負代金の支払,受注者による雇用技能者への適正な賃金の支払及び下請負人への適正な労務費の支払を定める。同約款の「下請負人」は,受注者が直接契約を締結する者をいう。
2 提出を求める資料と理由を特定する
第4条の2第4項・第5項は,発注者が,適正な労務費の確保等のためその他必要があると認められる場合に,理由を付し,相当の期間を定めて,賃金を支払った旨の誓約書や,下請契約の支払に関する部分の写し等の提出を請求し,受注者がこれを提出する仕組みを定める。
この規定から,発注者が理由も期限も示さず,関係会社を含む全従業員の給与資料一式を無制限に要求できると広げることはできない。請求の目的と条項上の資料を対応させ,提出対象を具体化する必要がある。
第6 協議を始めるときに整理する事項
以下は,約款及び建設業法の規定を踏まえた実務上の整理例である。約款委員会の公式書式や,裁判所が認定した必須の証拠一覧ではない。
– 契約の特定:契約日,採用約款の版,変更に関する特約及び現在の代金・工期。
– 事象の特定:資材の種類,価格改定又は供給減少の時期,契約前通知の内容及び通知先。
– 影響の説明:対象工事,数量,単価,変更前後の計算及び工程への影響。
– 求める変更:請求金額,延長日数,変更後の完成予定日及び協議を求める事項。
– 協議の記録:相手方の回答,争いのない項目,未合意の項目及び次に確認する資料。
金額や工期の合意が成立した場合には,どの工事・費用が合意の対象で,何が未解決かを明確にすることが望ましい。紙の変更契約書を作成するときは,印紙税の確認も必要となる。金額を変更しない文書でも,支払方法等の重要な事項を変更すれば課税が問題となるため,契約書の収入印紙も参照されたい。
第7 関連記事・出典
追加変更工事の合意や代金額の主張立証については,建築訴訟の審理モデルを参照されたい。工事完成後の不具合に関する責任は,建設業者の不法行為責任等及び契約不適合責任の期間制限で扱う。
– 民間(七会)連合協定工事請負契約約款委員会「2025年12月改正新旧対照表」:https://www.gcccc.jp/info/comparison-table-202512.pdf
– 建設業法20条の2:https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000100
– 国税庁「契約内容を変更する文書」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7127.htm