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税理士が顧客資料の提出を求められたとき―守秘義務,文書提出命令及び部分提出(AI作成)

第1 まず依頼の種類と文書所持者を確認する

税理士が顧客の帳簿,申告資料又は相談記録の提出を求められたときは,依頼者の秘密を守ることと,裁判所の適法な命令に対応することの双方を検討する必要がある。
「税理士の守秘義務がある」という説明だけでも,「裁判に関係する資料である」という説明だけでも,提出の可否は決まらない。

本記事は,民事訴訟で税理士が文書所持者として提出を求められる場面を対象とする。
税務調査,捜査機関の捜索・差押え及び弁護士会照会は,それぞれの根拠法と手続を別に確認する必要がある。

1 相手方の要請と裁判所の手続を分ける

相手方本人又は代理人弁護士からの任意の提出要請,裁判所による文書送付嘱託,文書提出命令の申立て及び提出を命ずる決定は,別のものである。
申立書が届いた段階で,提出を命ずる決定が出たと扱ってはならない。

受付時には,差出人,事件番号,裁判所,書面の名称,提出を求められた文書,対象期間,回答又は不服申立てに関する期限を確認する。
書面の添付資料を含めて保存し,電話での説明だけで対象を広げない。

2 顧客と税理士のどちらが所持しているか

顧客が自ら保管する帳簿と,税理士が保管する相談記録や受領資料は,所持者が異なる。
原本,写し及び電子データの所在を確認し,顧客が訴訟で述べたことと,税理士に提出義務が生じることを分けて検討する。

例えば,民事訴訟法220条1号は,当事者が訴訟で引用し,自ら所持する文書を対象とする。
顧客が資料の内容を引用したという事情だけで,第三者である税理士の所持文書について,同号の提出義務が当然に成立するわけではない。

第2 守秘義務と文書提出義務を順に検討する

1 税理士法38条と国税庁の解釈

税理士法38条は,正当な理由なく,税理士業務に関して知り得た秘密を他に漏らし,又は窃用することを禁じている。
税理士でなくなった後も同様である。

国税庁の税理士法基本通達38-1は,この「正当な理由」を,本人の許諾又は法令に基づく義務があることと説明している。
これは国税庁が示す法令解釈であり,個々の資料について文書提出義務があるかを判断する条文に代わるものではない。

したがって,まず民事訴訟法に基づく提出義務と提出範囲を検討し,その結論と守秘義務の関係を確認する。
裁判所から書面が届いたというだけで,関連する顧客資料一式を任意に開示する扱いにはしない。

2 民事訴訟法197条の職種と秘密の類型

民事訴訟法197条1項2号は,医師,弁護士等の列挙された職種について,職務上知り得た黙秘すべき事実に関する証言拒絶を定めている。
税理士は,同号の職種として列挙されていない。

他方,同項3号は,技術又は職業の秘密に関する事項について証言拒絶を定めている。
税理士が所持する資料についても,この類型に該当する具体的な秘密があるかを検討する必要がある。
税理士法上の秘密であることと,民事訴訟法上の提出拒否の要件を満たすことを,同一視しないことが大切である。

これらの証言拒絶に関する規定は,文書提出義務では220条4号ハとの関係で問題となる。
資格名だけで包括的に拒否するのではなく,どの記載が,誰の,どのような秘密に当たり,黙秘の義務が免除されていないのかを整理する。

第3 文書提出義務の根拠を特定する

1 220条各号を一括して扱わない

220条2号では,申立人が所持者に対して文書の引渡し又は閲覧を求めることができるかを確認する。
同条3号では,申立人の利益のために作成された文書,又は申立人と所持者との間の法律関係について作成された文書に当たるかを確認する。

相手方が顧客の取引に利害関係を持つというだけで,税理士に対する閲覧請求権や,税理士との法律関係まで当然に認められるわけではない。
契約,当事者関係,作成目的及び文書の記載内容を具体的に確認する。

同条4号による一般的提出義務を検討するときは,同号ハの秘密に関する除外事由等を確認する。
4号の除外事由に該当するという説明を,1号から3号による申立てを含む全ての場面の結論として流用しない。

2 証明する事実と必要な範囲を対応させる

民事訴訟法221条1項は,申立てに際し,文書の表示,趣旨,所持者,証明すべき事実及び提出義務の原因を明らかにすることを求めている。
同条2項は,220条4号に基づく申立てについて,書証の申出を文書提出命令の申立てによってする必要がある場合でなければ,することができないと定めている。

申立人側の弁護士は,争点となる事実と必要な記載を対応させる。
税理士側は,文書名だけでなく,対象年度,取引,関係する顧客及び記載項目ごとに,提出の可否と理由を整理すると説明しやすい。

第4 顧客の許諾と第三者の秘密を切り分ける

1 許諾の対象と範囲を記録する

本人の許諾による開示を検討する場合は,誰が,誰に対し,どの文書の,どの範囲を,何の目的で開示することを認めたかを記録する。
会社の資料なら,許諾する人の立場と権限も確認する。

顧客が一部の資料を訴訟へ提出した場合でも,別年度の帳簿,別取引の相談記録及び他の顧客の情報まで,一律に開示してよいと扱わない。
提出済みの記載と今回求められた記載を対照することが実務上の出発点となる。

2 顧客の利益と税理士自身の秘密を区別する

所持者である税理士,秘密の主体である顧客,提出を求める訴訟当事者を分けて整理する。
顧客に不利な証拠となり得ることだけを,税理士自身の職業上の秘密があるという説明に置き換えない。

例えば,対象文書中に顧客の取引資料と税理士自身の業務上のノウハウが併存すると主張する場合は,該当箇所と提出により問題となる利益を個別に説明する。
具体的な保護の可否は,提出義務の根拠及び秘密に関する要件に即して判断する必要がある。

第5 部分提出と秘密保護の手続を検討する

1 全部提出と全部拒否の二択にしない

民事訴訟法223条1項は,証拠調べの必要がない部分又は提出義務があると認められない部分があるときは,その部分を除いて提出を命ずることができるものとしている。

争点と関係のない取引,他の顧客の氏名や取引情報,別年度の記載等が混在しているときは,期間,ページ,行及び項目による限定案を作る。
マスキング案を示す場合も,命令の対象を所持者の判断だけで変更できるという意味ではなく,提出範囲について裁判所の判断を求めるための提案である。

2 イン・カメラ手続と提出後の閲覧を区別する

同条6項は,一定の提出拒否事由に該当するかを判断するために,裁判所が文書の提示をさせることができると定めている。
この場合は,何人も提示された文書の開示を求めることができない。

この判断のための提示と,証拠として訴訟記録に提出することは別の段階である。
イン・カメラ手続を利用できるからといって,提出後の訴訟記録の閲覧も当然に制限されるわけではない。
民事訴訟法92条は,訴訟記録に当事者の私生活についての重大な秘密又は当事者が保有する営業秘密が記載されている場合に,その当事者の申立てにより,秘密記載部分の閲覧等を請求できる者を当事者に限る制度である。
秘密一般を理由に,相手方当事者への開示を防げる制度として扱わないことが大切である。

第6 税理士と訴訟代理人が共有する確認事項

1 受領時から提出までの記録

実務では,受領した書面,現在所持する文書の一覧,顧客への説明と許諾の範囲,提出義務の根拠,争点との対応,部分提出案及び裁判所への提出履歴を一つの対応表に整理すると,開示範囲の取り違えを防ぎやすい。

原資料を維持した上で,提出用の写しとマスキングした版を区別する。
内容に争いがある資料を都合よく修正したり,提出要求を受けた後に対象資料を廃棄したりする対応は避ける。

2 決定への対応と役割分担

第三者に文書提出を命じる場合には,民事訴訟法223条2項による審尋の手続がある。
同条7項は文書提出命令の申立てについての決定に対する即時抗告を定めている。
命令の名宛人,主文の範囲,告知された日及び不服申立ての要否を早期に確認する。

同法225条1項は,第三者が文書提出命令に従わないときの20万円以下の過料を定めている。
守秘義務を理由とする意見を提出したことだけで,既に出た命令への対応が不要になると考えないことが大切である。

税理士は資料の作成経緯,保存状況及び顧客との関係を整理し,弁護士は民事訴訟上の提出義務,申立てに対する意見及び不服申立てを検討するという役割分担が考えられる。
顧客の税務上の問題と民事訴訟の争点が重なる場合も,どの手続について誰が対応するのかを明確にしておく必要がある。

第7 関連する解説と根拠資料

1 関連記事

文書提出命令の申立てと所持者側の対応の全体像は,「文書提出命令(AI作成)」を参照されたい。

2 法令と国税庁資料

本記事は,令和8年10月25日時点で施行されている条文を基準としている。

民事訴訟法92条,197条,220条から223条まで及び225条:https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109

税理士法38条:https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000237

国税庁「第2条《税理士業務》関係」掲載の第38条《秘密を守る義務》関係,税理士法基本通達38-1及び38-2:https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/zeirishi/02.htm