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企業法務・民事実務

税務調査・審査請求・租税訴訟における弁護士と税理士の連携―依頼範囲,補佐人,資料及び期限の引継ぎ(AI作成)

目次

第1 連携を考える場面とこの記事の対象1 手続が変わると担当と委任を確認する2 顧問契約だけで次の手続まで受任済みとしない第2 税務代理・不服申立ての代理・訴訟の補佐人1 税務代理と不服申立ての代理2 訴訟の補佐人は訴訟代理人と異なる3 税理士法人の受託と自然人の選任第3 税務調査から処分への移行1 資料,回答及び判断を分けて管理する2 修正申告前に争い方を確認する3 更正の請求が未処理・返送の場合の連携第4 不服申立てと取消訴訟の期間1 一般的な期間と例外2 裁決を待たずに提訴できる場合3 争うことと納付・徴収の停止を分ける第5 資料と期限を引き継ぐための記録1 移行時の引継ぎ項目2 依頼者の判断と費用を明らかにする3 資料を共有する目的と範囲を記録する第6 関連記事第7 出典
第1 連携を考える場面とこの記事の対象
1 手続が変わると担当と委任を確認する

税務調査への対応,課税処分への不服申立て及び裁判所への訴えは,手続も必要な準備も異なる。
帳簿や取引を把握している税理士と,法的争点や裁判手続を担当する弁護士が連携する場合には,誰がどの範囲を受任し,どの期限までに何を行うのかを具体化する必要がある。

本記事は,令和8年10月7日に確認した法令と公的資料に基づき,通常の国税の課税処分に関する連携の基本を整理する。
地方税,国税犯則調査,刑事手続及び滞納処分に固有の不服申立期間を網羅するものではなく,具体的な税額計算や個別事件の勝敗は扱わない。

2 顧問契約だけで次の手続まで受任済みとしない

記帳・申告又は調査対応の依頼が,審査請求や訴訟の受任まで含むかは,契約と委任内容による。
処分通知を受けてから新たな担当を探している間にも期間は進むため,争いが見込まれる段階で,移行先の担当,費用,判断の期限及び資料共有の方法を確認しておくのがよい。

以下の担当表や引継ぎ項目は,連携のための運用例である。
法定の様式や,職種ごとの排他的な業務分担を定めるものではない。

第2 税務代理・不服申立ての代理・訴訟の補佐人
1 税務代理と不服申立ての代理

税理士法2条1項1号の税務代理には,税務官公署に対する申告等や不服申立て,調査・処分に関する主張又は陳述についての代理・代行が含まれる。
税務代理をする税理士は,同法30条に基づき,権限を証する書面を提出する必要がある。

国税通則法107条は,不服申立人が弁護士,税理士その他適当と認める者を代理人に選任できると定める。
ただし,不服申立ての取下げと代理人の選任は特別の委任が必要であり,税理士法31条にも同旨の規定がある。
手続上の代理人資格と,税理士業務を業として行う場合の業務制限は,別の問題として確認する必要がある。

弁護士が税理士法51条の通知によって税理士業務を行う場合には,所属弁護士会を経由した国税局長への通知と,管轄区域を含む同条の条件を確認する。
弁護士であることだけを理由に,税務代理の手続や通知の確認を省略することはできない。

2 訴訟の補佐人は訴訟代理人と異なる

税理士法2条の2第1項は,租税に関する事項について,税理士が裁判所で補佐人として,弁護士である訴訟代理人とともに出頭し,陳述することを認めている。
この規定は,税理士が弁護士の訴訟代理人に代わって単独で訴訟を代理する制度ではない。

同条2項によれば,補佐人の陳述は当事者又は訴訟代理人が自らしたものとみなされる。
ただし,当事者又は訴訟代理人が直ちに取り消し,又は更正したときは例外となる。
税額計算の説明も主張の一部になり得るため,出頭前に,帳簿・計算表・準備書面の数値と事実の説明を照合し,確認した事実と推測を分けておくことが重要である。

3 税理士法人の受託と自然人の選任

税理士法48条の6は,税理士法人が,補佐人の事務を社員又は使用人である税理士に行わせる事務の委託を受けることを認める。
その場合は,委託者に,社員等の中から補佐人を選任させなければならない。

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前払コンサルティング料・採用支援料の返金と税務―役務提供時期,法人税,消費税及び返還インボイス(AI作成)

目次

第1 返金額を決める前に確認すること1 契約と税務をつなぐ四つの日付2 採用に至らなかったことと役務未提供を分ける第2 法人税―前払いと損金算入を区別する1 まだ提供を受けていない役務2 契約期間が一年なら必ず全額損金となるわけではない第3 返金の実質と元の帳簿を対応させる1 未提供分の返還2 提供済みの役務の値引きと損害賠償3 後の返金合意と当初申告の誤りを分ける第4 消費税―役務提供時期と返還時期を確認する1 前払い時点で課税仕入れになるとは限らない2 提供済みの役務の値引きは返還等を受けた期間に調整する第5 損害賠償,解約手数料及び相殺を分ける1 損害賠償という名称だけで判断しない2 解約手続の対価と逸失利益の補填第6 返還インボイスと訂正した請求書1 返還インボイスが必要な場面2 返金の書類と申告是正を区別する第7 合意前の資料と担当者の確認事項1 契約から帳簿までを一続きにする2 弁護士と税理士が合意前にすり合わせる第8 関連記事と出典
第1 返金額を決める前に確認すること

法人がコンサルティング料又は採用支援料を前払いし,中途終了後に返金を受ける場合は,返金額だけでなく,元の支払を何の対価として,いつ,どの勘定と税区分で処理したかを確認する必要がある。
未提供の役務に対する前払金の返還,提供済みの役務の値引き及び損害賠償では,処理の出発点が異なる。
和解書に「解決金」と書くだけでは,法人税,消費税又は返還インボイスの取扱いは決まらない。

本記事は,国内の法人が事業のために役務を購入する場面を中心に,弁護士と税理士が合意前に確認する順序を整理する。
消費税の仕入税額の調整は原則課税を中心に説明する。簡易課税その他の特例,免税期間をまたぐ取引,海外取引及び個人事業者への適用は,それぞれの前提を別途確認する。

1 契約と税務をつなぐ四つの日付

①契約締結日・支払日,②役務提供日又は対象期間,③返金請求権や減額合意が具体化した日,④実際の返金日を並べる。
決算日と消費税の課税期間も併記し,「支払った年度」「サービスを受けた年度」「返金を受けた年度」を混同しない。

2 採用に至らなかったことと役務未提供を分ける

探索,接触,推薦,選考調整等の役務の対価を支払う契約では,採用が成立しなくても,役務が提供されている場合がある。
成功報酬についても,内定承諾,入社その他のどの時点を報酬発生条件としたかを確認する。
契約上の精算は,ヘッドハンティング・人材スカウト契約の中途解約と返金及び準委任契約の中途終了と報酬精算も参照されたい。

第2 法人税―前払いと損金算入を区別する
1 まだ提供を受けていない役務

国税庁No.5380は,継続的な役務のために支出した費用のうち,期末に未提供の役務に対応する前払費用について,原則として資産計上し,役務提供を受けた時に損金算入すると説明する。
前払いをしたことや請求書を受領したことだけで,未提供分まで当然に損金となるわけではない。

契約書,月次報告,納品物,検収記録及び業務日誌から,期末までに実施された業務と残存業務を確認する。
契約全体が一つの成果物を対象にしているのか,月ごとの継続役務なのか,着手業務と成功報酬を分けているのかにより,配分の前提も異なる。経過月数だけで一律に配分せず,契約と実施内容に対応する根拠を残す。

2 契約期間が一年なら必ず全額損金となるわけではない

同資料の短期前払費用の取扱いは,継続的な役務に係る前払費用について,支払日から一年以内に役務提供を受けること,支払年度の損金に継続して算入していること等を前提とする。
収益との対応が必要な費用については,例外の対象とならないことも説明されている。

したがって,「一年契約」「年度内に全額支払済み」という事情だけで適用を決めない。
成果物の完成に対する前払い,一回限りの業務又は条件付きの成功報酬を,同じ取扱いに当てはめられるかは契約の実質を確認する必要がある。
適用を検討する場合は,提供予定期間,実際の支払日及び過年度からの処理方針を税理士に示す。

第3 返金の実質と元の帳簿を対応させる
1 未提供分の返還

役務を受ける前の支払を前払金又は前払費用として資産計上していた場合は,その返還額と帳簿上の残高を照合する。
未費用化の残高を現金へ戻す部分と,損金算入済みの部分を区別することが出発点である。

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龍野高校テニス部熱中症事故判決の批判的検討―学校現場・医学的知見・注意義務の限界(AI作成)

目次第1 本判決をどのように批判すべきか1 検討の対象と結論2 法律書と専門資料の位置付け第2 判決の内容と批判の前提1 裁判所の認定と県の主張を区別する2 認めた義務と否定した義務第3 学校事故法理からみた注意義務の限界1 高校生の自主性は義務の内容に反映されるべきである2 危険一般の存在と具体的な予見可能性3 スポーツに内在する危険と結果責任の回避第4 批判1――義務を果たすための具体的な基準が薄い1 通常より軽い練習という基準の不明確さ2 飲水の機会と休息の実効性を区別する3 立会い義務を否定しても事前指示の義務は残る第5 批判2――事故後の医学的再構成と事故前の判断を混同させない1 気温,地表面温度及び暑さ指数は異なる2 日平均湿度と翌日の雨からの推認には限界がある3 試験最終日と新任主将という要因の評価第6 熱中症の専門資料が支える批判と支えない批判1 平成19年の医学資料も事故防止を保証していない2 専門家も危険要因を個別事故の確率へ機械的に変換できない3 最新の専門資料を平成19年の義務として遡及させない第7 批判3――義務違反と事故発生との因果関係の説明が短い1 疾病原因と義務違反の因果関係は別である2 必要な代替行動とその効果を特定すべきである3 落雷事故の最高裁判決との比較第8 学校現場の状況を踏まえた批判1 顧問が常時監視する前提では学校運営を設計できない2 専門知識の要求と組織的な支援を対応させる3 忙しいことは免責理由そのものではない第9 賠償額と被害者救済をどう位置付けるか1 高額の賠償と過失判断を分ける2 補償と責任の追及は別の仕組みである第10 本判決の結論を支持する反論と批判の到達点1 県の責任を認める立場の有力な根拠2 部活動を成り立たせるために必要な限定第11 出典と資料の確認範囲1 判決と学校事故の法律書2 医学・環境・学校現場の資料3 関連する論点
第1 本判決をどのように批判すべきか
1 検討の対象と結論

兵庫県立龍野高校テニス部の平成19年5月24日の事故について,大阪高裁平成27年1月22日判決(平成26年(ネ)第668号,国家賠償請求控訴事件)は,顧問の練習指示に注意義務違反があったとして,兵庫県の賠償責任を認めた。
本件控訴審の担当裁判官は,大阪高等裁判所第12民事部の裁判長裁判官・森宏司(30期),裁判官・一谷好文(38期)及び裁判官・秋本昌彦(50期)である(判決49頁)。
本記事は,公開された控訴審判決原文,学校事故の法律書及び熱中症の専門資料を用い,その理由付けを批判的に検討する。

本判決の問題は,学校に安全確保を求めたこと自体にはない。
問題は,高校生の自主性を理由として注意義務の軽減を認めながら,どの程度の練習軽減・休息・指示があればその義務を果たしたことになるのか,そして,その措置を取れば本件の重篤な事故を回避できたといえるのかについて,公開された判決理由の説明が十分とはいい難いことである。
学校が事故前に使える判断基準を示さず,事故後に判明した危険要因を積み上げて責任を認定する運用が広がれば,部活動の継続をためらわせるおそれがある。
これは本記事の評価であり,本判決によって部活動の廃止が増えたとする実証的な主張ではない。

他方,当日の練習負荷や休息の不足についての認定を前提とすれば,県の責任を認める結論には相応の根拠がある。
本判決は顧問の常時立会い義務を否定しており,「部活動中に事故が起きれば学校が必ず責任を負う」という判決でもない。
批判は,こうした限定と判決を支持する材料を明示した上で行う必要がある。

2 法律書と専門資料の位置付け

俵正市著『学校事故の法律と事故への対応(改訂版)―付 学校事故関係最高裁判例集―』(法友社)は,平成24年6月26日発行の改訂版である。
本判決より前の書籍であり,龍野高校事故の控訴審判決に対する直接の評釈として引用することはできない。
本記事では,同書の発達段階に応じた注意義務,高校生の自主性,スポーツに内在する危険,具体的な予見可能性及び補償制度についての説明を,比較検討の基礎として用いる。

熱中症の専門家の視点については,公表されたスポーツ医学・救急医学の資料を参照する。
本件の診療記録全部を用いた再鑑定や,専門医への個別照会を行ったものではない。
事故当時の予防義務,後日の医学的知見を用いた疾病原因の検討,現在の学校運営に向けた提案は,それぞれ時点と目的を区別する。

第2 判決の内容と批判の前提
1 裁判所の認定と県の主張を区別する

裁判所は,試験最終日に,通常の午後の練習より早い昼間の時間帯に約3時間の練習が設定され,連続した動作を伴う密度の高い練習となっていたと認定した。
また,初夏の晴天,日陰の乏しいコート,帽子の不着用,試験勉強による睡眠不足の可能性,新任キャプテンの配分経験等を,顧問が事前に考慮できる事情として挙げた(判決14頁~18頁・30頁~31頁)。

これに対し,県は,メニューの切替え等に飲水の機会があり,体調に応じた休止も可能であったなどと主張していた。
しかし,これは当事者の主張であり,裁判所がそのまま認定した事実ではない(判決7頁)。
判決は,水分補給について特段の指導がなく,十分な休憩時間を設定しない練習指示であったと認定している(判決31頁)。
学校側を擁護するために,県の主張を裁判所の認定事実へ置き換えることはできない。

2 認めた義務と否定した義務

県の責任は国家賠償法1条1項に基づいて認められた。

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過重労働・過労自殺と使用者の安全配慮義務―電通事件・東芝事件と予見可能性・過失相殺(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 2つの最高裁判決が扱った問題2 責任の成立と減額を分けて検討する第2 安全配慮義務の法的根拠1 現在の労働契約法5条2 電通事件の請求構成第3 電通事件―長時間労働の認識と業務量の調整1 最高裁が重視した事情2 本人の裁量や意欲だけでは業務管理の問題を解消しない第4 東芝事件―健康情報の不申告と素因減額1 過重な業務と体調悪化を認識できた状況2 精神的健康に関する情報の不申告3 通常の個性の範囲を超える事情があるか4 破棄差戻しの意味と給付の控除第5 予見可能性と因果関係の調べ方1 何を,いつ認識できたか2 保存・照合する資料第6 関連記事第7 出典・参考資料
第1 本記事の対象と結論
1 2つの最高裁判決が扱った問題

長時間労働や強い心理的負荷によって労働者が心身の健康を損なった場合,使用者が業務量や労働環境をどのように管理していたかが問題となる。本記事は,電通事件の最高裁第二小法廷平成12年3月24日判決と,東芝事件の最高裁第二小法廷平成26年3月24日判決を中心に,安全配慮義務,因果関係,予見可能性及び損害額の減額を整理する。

電通事件は従業員の過労自殺について会社の使用者責任を判断した事件である。東芝事件は,過重な業務によってうつ病を発症・増悪させた従業員の解雇無効確認等請求事件であり,最高裁で中心となったのは,健康情報の不申告や個体側の事情を理由とする減額と,保険給付の控除である。東芝事件は,従業員が自殺した事案ではない。

2 責任の成立と減額を分けて検討する

過重労働が認められることだけで,すべての疾病や死亡について直ちに使用者の責任が決まるわけではない。業務の負荷,使用者・上司の認識,実施できた負担軽減措置,疾病の発症・増悪との因果関係を検討した上で,過失相殺や素因減額の可否を別に検討する必要がある。

一方,真面目さや責任感の強さが通常想定される労働者の個性の範囲内にある場合,その性格を理由に損害額を減らすことはできない。また,過重な業務が続き体調悪化が認識できる状況では,労働者が精神科等への通院や病名を申告しなかったことだけを重視して使用者の責任を軽くすることもできない。

第2 安全配慮義務の法的根拠
1 現在の労働契約法5条

労働契約法5条は,使用者に対し,労働者が生命・身体等の安全を確保しながら働くことができるよう,必要な配慮をする義務を定めている。身体的な事故の防止だけでなく,業務の管理による心身の健康への配慮も問題となる。

具体的な義務の内容は,仕事の内容,労働時間,職責,支援体制,健康状態及び使用者が知り得た事情によって定まる。健康診断を実施したことや,就業規則に相談窓口を設けたことだけで,実際の業務を軽減する必要がなくなるわけではない。

2 電通事件の請求構成

電通事件で最高裁が是認したのは,上司の過失を前提とする民法715条の使用者責任である。現在の労働契約法5条が施行される前の事案であり,同条を直接適用して責任を認めた判決ではない。

安全配慮義務違反による債務不履行責任と,上司等の不法行為を前提とする使用者責任は,請求の法的構成が異なる。実際の訴訟では,義務違反の内容と因果関係を具体化し,適用法及び時効を確認して構成を選ぶ。時効の詳細は,安全配慮義務違反による損害賠償請求権の消滅時効で説明している。

第3 電通事件―長時間労働の認識と業務量の調整
1 最高裁が重視した事情

最高裁平成12年3月24日判決(平成10年(オ)第217号・第218号,民集54巻3号1155頁)は,日中の連絡・打合せ等に加えて,終業後に企画書や資料を作成する業務構造の下で,従業員が恒常的に長時間労働をしていた事案である。

会社では残業時間の過少申告が常態化していることが認識され,上司は当該従業員が徹夜で働く状態にあることを知り,健康状態の悪化にも気付いていた。それにもかかわらず,期限どおりに仕事を終えることを前提に睡眠や時間配分を指導するだけで,業務量を適切に調整しなかった。

最高裁は,これらの事情と,疲労・睡眠不足,うつ病の発症及び自殺に至る経過を踏まえ,業務と自殺との相当因果関係及び上司の過失を認めた原審の判断を是認した(判決本文7〜8頁)。

2 本人の裁量や意欲だけでは業務管理の問題を解消しない

仕事への意欲が高いことや,作業の時間配分に一定の裁量があることは,使用者の管理責任を当然に否定する事情ではない。同判決は,所定の期限までに業務を完了すべきことを求める包括的な指揮命令の下で,長時間の残業をせざるを得ない状態となっていた点を重視した。

実務上は,「早く帰るよう注意した」という説明だけでなく,担当案件,納期,人員配置,代替担当者及び実際の業務削減がどう変わったかを確認する必要がある。これは判決の判断から導かれる業務管理上の着眼点である。

第4 東芝事件―健康情報の不申告と素因減額
1 過重な業務と体調悪化を認識できた状況

最高裁平成26年3月24日判決(平成23年(受)第1259号,民集68巻3号261頁)では,製造ラインの立上げの工程責任者となった従業員が,日程の短縮,厳しい督促,支援の不足,担当者の減員及び新たな業務の追加等によって大きな負担を負っていた。

健康診断で頭痛・めまい・不眠等を申告し,体調不良を上司に伝えて欠勤を繰り返し,業務の軽減も申し出ていた。最高裁は,使用者が,その状態が過重な業務によって生じていることを認識し得て,業務軽減等の措置を取ることも可能な状況にあったと判断した(判決本文9〜11頁)。

2 精神的健康に関する情報の不申告

労働者が申告していなかったのは,神経科への通院,病名及び処方薬等の情報であった。最高裁は,これらが本人のプライバシーに属し,人事考課等にも影響し得るため,職場に知られずに働き続けようとすることが想定される性質の情報であることを考慮した。

その上で,過重な業務が続き体調悪化が認識できる場合には,積極的な申告が期待し難いことを前提に,必要な業務軽減等を行うべきであり,本件の情報不申告を理由とする過失相殺はできないとした。これは,労働者によるあらゆる情報不申告について,一律に過失相殺を禁止した判断ではない。判決が挙げた業務負荷と体調悪化の認識可能性を併せて読む必要がある。

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税理士事務所で生成AIを使うときの入力資料の分け方―顧客資料,国税庁の公表資料及び有料税務解説(AI作成)

目次

第1 同じ税務資料でも確認事項は異なる1 資料の性質と処理の目的を組み合わせる2 下書き,検証及び申告を分ける第2 顧客資料と税理士の守秘義務1 法人の帳簿にも秘密は含まれる2 顧客への説明と対象情報の特定第3 個人データ,学習オフ及び入力範囲1 学習に使われないこと以外の処理を確認する2 必要な情報を残し,不要な識別情報を外す3 給与資料を処理する場合のデータの流れ第4 国税庁の公表資料と有料税務解説1 公表資料の出所と適用年度2 有料解説はその契約を確認する第5 少人数の事務所で実装する運用案1 資料と処理先の台帳2 職員の利用と税理士の確認3 誤入力・誤出力が生じた場合4 出力の検証記録を残す第6 日税連ガイドラインの確認状況第7 出典・参考資料
第1 同じ税務資料でも確認事項は異なる
1 資料の性質と処理の目的を組み合わせる

税理士事務所で生成AIを利用する場合,①顧客から受領した申告書・帳簿・証憑,②法令及び国税庁の公表資料,③有料の税務解説・会員制データベースを分けて考える必要がある。
①では守秘義務や個人情報の取扱い,②では資料の適用時点と利用条件,③では取得・複製・外部送信・成果物利用の権限が,それぞれ主要な確認事項となる。

複数の種類の資料を一つの質問に添付する場合には,それぞれの条件を満たす必要がある。
公表された税務通達に顧客の元帳を添えれば,その入力全体を公開情報として扱うことはできない。
本記事は令和8年10月7日時点で確認した法令・行政資料に基づく一般的な運用の検討であり,特定のAIサービス又はプランを安全と認定するものではない。

2 下書き,検証及び申告を分ける

論点の洗い出し,資料の分類,計算の補助及び説明文の下書きは,AIを利用し得る工程である。
他方,課税要件の当てはめ,適用年度,経過措置,金額及び提出内容は,原資料と実際の事実に照らして担当税理士が確認する必要がある。

AIが示した条文・通達・裁決例は,識別情報が整っていても実在と内容を確認する。
国税庁の公表事例が似ていることと,当該顧客にも同じ税務処理が妥当であることは区別する。

第2 顧客資料と税理士の守秘義務
1 法人の帳簿にも秘密は含まれる

税理士法38条は,税理士業務に関して知り得た秘密について,正当な理由のない漏えい又は窃用を禁じている。
国税庁の税理士制度に関するQ&A・問6-24は,秘密の範囲及び本人の許諾等の正当な理由について,税理士法基本通達38-1~38-3を踏まえて説明している。

個人情報に該当しない法人の売上,資金繰り,取引条件又は調査対応方針にも,守秘義務の対象となる情報は含まれ得る。
氏名を削れば問題がなくなるという評価では,この点を見落とす。

2 顧客への説明と対象情報の特定

顧客資料を外部AIで処理する場合は,利用目的,資料の範囲,処理を行う事業者,保存・閲覧・再委託の条件及び成果物の扱いを確認する。
本人の許諾を根拠とするならば,何をどの目的で処理することへの許諾なのかを説明・記録する必要がある。

顧客が会社である場合も,給与資料等に含まれる従業員その他の個人の情報について,会社の許諾だけで個人情報保護法上のすべての問題が解消するわけではない。
顧客の許諾と,資料に含まれる別の主体の権利・秘密の取扱いを分けて検討する。

第3 個人データ,学習オフ及び入力範囲
1 学習に使われないこと以外の処理を確認する

個人情報保護委員会の生成AIサービスに関する注意喚起は,個人情報の入力と利用目的との関係,個人データが回答出力以外の目的で取り扱われる場合等への注意を示している。
学習への不使用は重要な確認事項であるが,回答生成に伴う送信,保持,ログ,人的閲覧又は外部ツールとの連携がすべて停止することを意味しない。

個人データの処理を委託と評価できる場合も,委託先の監督を含む安全管理が必要である。
利用目的,第三者提供に関する規律,国外の事業者による取扱い及び事故時の対応は,実際の契約と処理方法に即して確認する。

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弁護士・税理士が有料の法律・税務資料を生成AIで分析するとき―閲覧権限,外部送信,引用及び成果物の再利用(AI作成)

目次第1 有料資料と生成AIの利用を工程ごとに考える1 契約して読めることと外部で利用できること2 正確性,秘密保持及び利用権限は別々に確認する第2 LIBRARYの規約から確認できる事項1 閲覧,コピー,印刷及びダウンロード2 サービス内のAIアシスタントが生成する短文第3 特定の1冊を分析する場合と外部AIへ送る場合1 1冊だけであることから結論は決まらない2 外部AIという語がなくても一般条項を読む第4 著作権法上の検討と公開する文章1 情報解析という名称だけで判断しない2 引用,独自の説明及び表現の再現第5 効率を保つための実務上の運用案1 資料ごとの短い台帳を作る2 AIに任せる工程と担当者が確認する工程第6 出典・参考資料
第1 有料資料と生成AIの利用を工程ごとに考える
1 契約して読めることと外部で利用できること

法律・税務の書籍や会員制データベースを生成AIで分析する場合,①サービス内での閲覧,②資料の取得・複製,③外部AIへの送信,④分析結果の作成,⑤依頼者への交付又はブログ公開,⑥知識庫への保存・再利用を分けて確認する必要がある。
閲覧できる契約を結んでいることは重要な出発点であるが,それだけで各工程の利用権限が確認できたことにはならない。

本記事は,令和8年10月7日に確認した弁護士ドットコムLIBRARYの利用規約を具体例として,専門職が確認する事項を整理するものである。
同規約は令和8年10月5日改定のものであり,他社の税務データベース,紙の書籍又は別契約のサービスへそのまま適用されるものではない。
過去の利用行為については,当時適用された規約,個別契約及び許諾の内容を確認する必要がある。

2 正確性,秘密保持及び利用権限は別々に確認する

法的説明が正確であり,出典を明記し,個人情報を含まない文章であっても,取得した文献の複製・外部送信・公開に関する契約上の制限は残り得る。
反対に,文献の利用許諾があっても,依頼者の秘密や個人データを同じ入力に含めてよいかは別の問題である。

顧客がAI利用に同意した場合も,その顧客が出版社やデータベース事業者の権利まで処分できるとは限らない。
顧客資料の取扱いは,税理士事務所であれば税理士法上の守秘義務を含めて検討し,文献のライセンスとは別に記録するのが適切である。

第2 LIBRARYの規約から確認できる事項
1 閲覧,コピー,印刷及びダウンロード

LIBRARY利用規約第4条は,指定する利用方法に従ったライセンスを定め,コピー,印刷及びダウンロードについても提供機能と許可範囲に条件を設けている。
公式の機能があることと,取得した情報をどの用途でも利用できることは同じではない。
コピー又はダウンロードした情報については,出典表示の条件に加え,法令及び第14条等との整合性も確認する必要がある。

第13条は許諾のない転載・投稿・アップロード等を,第14条は派生物の作成,複製・改変,第三者への頒布・公衆送信等を制限している。
そのため,画面を一括保存して全文を取り出す方法や,取得した本文を外部へ送信する方法については,単に閲覧できるという理由で許諾済みと扱うことはできない。
ID・パスワード及びサービス利用権の共有については第7条も確認する。

2 サービス内のAIアシスタントが生成する短文

第20条は,サービス内のAIアシスタントによる検索支援を定めている。
同条第6項は質問等への個人情報の入力を禁じ,第8項は生成された短文についてサービス内の利用を除く利用許諾をしない旨及び利益を得る利用の禁止を定めている。
したがって,その短文をブログの原稿や顧客向け文書へそのまま転用することは,同条の利用範囲に整合しない。

利用者自身が入力した質問についての無償の自己利用許諾と,生成された短文の利用制限は区別する必要がある。
この条項はサービス内の当該機能を対象としているため,外部AIが独自に生成した文章へ機械的に拡張することも適切ではない。

第3 特定の1冊を分析する場合と外部AIへ送る場合
1 1冊だけであることから結論は決まらない

対象を1冊に絞った分析であること自体から,規約違反であるとも適法・許諾済みであるとも断定できない。

(続きを読む...)弁護士・税理士が有料の法律・税務資料を生成AIで分析するとき―閲覧権限,外部送信,引用及び成果物の再利用(AI作成)

毒物・劇物の盗難後の改善報告書の作り方―原因分析,是正措置と実施証拠(AI作成)

目次第1 改善報告書は「改善したことを確かめられる資料」にする第2 自社の法的区分と行政庁の要求を先に確認する1 営業者と要届出業務上取扱者の違い2 指導・報告要求・命令を分けて記録する第3 事実経過と原因分析を分ける1 事実の確かさを表示する2 施錠と数量管理を一緒に点検する第4 物量収支と記録単位を対応させる1 保管場所ごとに計算する2 帳票の行数を瓶数と扱わない第5 改善措置と証拠を結び付ける報告書の構成1 報告本文と添付資料の対応表2 完了の判定と例外処理第6 関連記事と出典1 役割分担と法的対応2 一次資料
第1 改善報告書は「改善したことを確かめられる資料」にする

毒物・劇物の盗難後に行政庁へ説明する場合,保管庫が施錠されていたことや,今後注意するという決意だけでは,再発防止措置の実効性を確認できない。
どの管理に問題があり,何を変え,誰がいつ実施し,どの証拠で実施と効果を確認できるかを対応させることが必要である。

本記事は,令和8年10月7日現在の法令,厚生労働省の監視指導指針及び保管管理通知に基づき,事業者が説明資料を組み立てる実務上の方法を示す。
全国一律の法定様式や,この形式で提出すれば処分を免れるという制度を説明するものではない。
行政庁から個別の提出事項・期限・様式を示された場合は,その内容を確認して対応する。

報告の段階書く内容付ける証拠の例計画対象,担当者,期限,暫定措置決裁済み計画,発注・教育予定実施設備・権限・記録方式を変更した日と範囲写真,権限表,設定・教育・点検記録効果確認改善後の差異・例外と検証方法独立棚卸し,数量照合,例外処理と再点検の結果

「発注した」「規程を改訂した」「実際に運用して確認した」は別の段階である。
未完成の措置を実施済みと書かず,未確認の原因や数量は,追加調査の方法と併せて示す。

第2 自社の法的区分と行政庁の要求を先に確認する
1 営業者と要届出業務上取扱者の違い

毒物及び劇物取締法22条4項は,要届出業務上取扱者について,盗難防止措置,事故届出,報告徴収・立入検査及び責任者変更命令等の規定を準用する。
営業者に対する登録取消し・業務停止命令を定める19条4項は準用しない。
毒物・劇物を製造・販売する営業者としての登録を別途有する場合には,その営業について別に検討する必要がある。

共通点・相違点毒物劇物営業者要届出業務上取扱者共通:盗難防止・事故届出・検査11条・17条・18条22条4項による準用共通:責任者変更命令19条3項22条4項による準用相違:登録取消し・業務停止命令19条4項の要件を満たす場合に可能当該区分だけでは19条4項による処分の対象ではない相違:必要な措置の命令営業者に対する各規定による7条・11条又は準用19条3項の処分への違反について22条6項

要届出業務上取扱者に対する22条6項の命令は,17条の届出違反だけを根拠に発するものではない。
ただし,届出違反についての罰則等と,11条の管理上の違反を理由とする措置命令は別に検討される。
詳しい適用関係は,毒物劇物営業者と業務上取扱者の違いを参照されたい。

2 指導・報告要求・命令を分けて記録する

厚生労働省の毒物劇物監視指導指針・第4の3は,盗難原因に応じた改善と,防止措置が不適切な保管施設について改善終了までの使用停止の指示を示す。
この指示と,19条4項の正式な業務停止命令を同じものとして扱わない。

要求の性質確認事項報告への反映行政指導に基づく改善報告趣旨,担当部署,対象範囲,求められた期限指導事項ごとに改善計画と実施状況を回答18条による報告徴収根拠条文,報告事項,対象期間,提出方法・期限求められた事項を漏れなく,資料番号を付けて回答22条6項等の措置命令処分の名宛人,違反とされた事実,命じられた措置,履行期限命令事項と実施証拠を対応させ,未達事項を明示

口頭のやり取りは,日時,相手,具体的な指示内容及び会社の回答を記録する。
「保健所から改善を求められた」だけで終えず,どの施設・業務が対象で,何をもって改善完了と確認するのかを確かめる。

第3 事実経過と原因分析を分ける
1 事実の確かさを表示する

盗難が起きたことだけで,会社が11条に違反したと当然に決まるわけではない。
報告書では,判明した事実,外部から伝えられた内容,分析上の推測及び未確認事項を混ぜず,証拠との対応を示す。

区分記載方法の例確認済みの事実日時・対象物・確認者を示し,写真,台帳,計測結果等の資料番号を付す外部の説明・情報誰から何を伝えられたか,資料を取得・実見したかを記載原因の仮説どの管理上の弱点と結び付くか,対立する可能性,検証方法を記載未確認事項未確定数量,未取得資料,今後の担当者・確認方法・報告予定を記載

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税務調査で従業員の盗難・横領が判明したとき―会社・税理士・弁護士の初動と法定届出(AI作成)

目次第1 税務調査で見つかった不正を,税務だけで処理しない第2 「いつ何を知ったか」を記録する1 外部からの指摘と会社の確認結果を分ける2 帳簿が合う理由を調べる第3 相談・法定届出・被害届・告訴を区別する1 毒物・劇物の盗難・紛失は直ちに警察署へ2 税務署等からの「静観」の要請があった場合第4 会社・税理士・弁護士の役割を明確にする1 共通して行うことと,担当分野の違い2 税理士の助言義務と受任範囲第5 証拠保全と税務上の訂正を並行して進める1 訂正前のデータを残す2 税務調査と刑事捜査の権限を混同しない第6 関連記事と出典1 具体的な調査・是正の進め方2 一次資料
第1 税務調査で見つかった不正を,税務だけで処理しない

税務調査で従業員による原材料の持出しや無断売却を指摘された場合,会社には,安全確保,証拠保全,警察への対応,税務上の訂正及び損害回復という異なる課題が同時に生じる。
全容が判明するまで一切動かないのではなく,法定届出の要否と消失しやすい証拠を先に確認し,調査と是正を並行して進める必要がある。

本記事は,令和8年10月7日現在の法令及び公表資料に基づき,会社・税理士・弁護士が連携する際の実務上の整理を示すものである。
以下の表は一般的な対応例であり,一律の法定手順,専門家の責任を認定する基準又は特定事件の評価ではない。

課題最初に確認すること次につなぐ資料安全・届出物質の危険性,所在不明の状況,適用法令,会社が知った内容品目・数量の判明範囲,連絡記録,応急措置の記録証拠保全映像・ログの保存期限,原帳票の所在,変更権限原本,取得条件,保管者,複製・訂正の履歴税務対象年度,帳簿価額,盗難損失と請求権,既提出申告年度別資料,仕訳案,争点と修正根拠損害回復持出し数量,取得者,残存品,請求先と財産購入・工程・売却資料,財産調査,回収記録

盗難損失・損害賠償請求権の年度帰属及び加算税は,従業員の窃盗・横領で被害を受けた会社の税務で扱っている。
本記事では,その前提となる情報の受取り方と担当者間の引継ぎを中心に説明する。

第2 「いつ何を知ったか」を記録する
1 外部からの指摘と会社の確認結果を分ける

税務署や取引先から「従業員が売却していた」と告げられたことと,会社が特定の在庫の盗難を確認したことは,同一の事実ではない。
他方,帳簿上の不足が見つからないことだけで,具体的な売却情報を抽象的な疑いとして放置することも適切ではない。
情報源,対象物,時期,会社の所有物と結び付く資料及び追加確認の結果を,別々に残す。

記録欄記載例・確認事項情報を受けた時点日時,受領者,相手の所属・氏名,電話・面談等の方法指摘された事実物品名,売却先,期間,数量,資料を実見したか,伝聞か会社の確認所有物との対応,ロット・伝票・在庫の照合,確認できなかった理由法的検討と行動相談・届出の判断,担当者,実施日時,伝えた内容,追加報告の予定

「外部担当者がそう述べた」という記録と,外部資料そのものは区別する。
取得できていない資料は未取得と記載し,後から作成する経緯書では,当時の記録に基づく部分と記憶に基づく部分を分ける。

2 帳簿が合う理由を調べる

持ち出した原材料を「使用済み」と入力できる仕組みでは,払出帳簿と使用帳簿が一致していても,実際に工程へ投入されたことは証明されない。
出力漏れのない会計データを確保する作業と,記載された取引・使用の実在を確かめる作業は分けて行う。

資料確認できること追加確認が必要なこと仕訳・払出台帳会社が記録した処理・移動実際の移動,相手,工程投入投入記録記入者が申告した使用実投入,複数本・部分使用,訂正実棚・残量計測時点の現物過去の流れ,計量方法,未確認場所売却・入金資料外部取引の記録会社の物品との同一性,数量,代金の帰属

原材料数量の立証は,工場の原材料が長期間盗まれていたときの被害立証を参照されたい。

第3 相談・法定届出・被害届・告訴を区別する
1 毒物・劇物の盗難・紛失は直ちに警察署へ

毒物及び劇物取締法17条2項は,取扱いに係る毒物又は劇物が盗難にあい,又は紛失したときに,直ちに警察署へ届け出る義務を定める。
この規定は,同法22条4項・5項により業務上取扱者にも準用される。

盗難・紛失を把握した場合に,被害数量の最終確定,従業員の自認,逮捕又は税務調査の終了を待つという条文上の猶予はない。
現在判明している内容と未確定部分を分けて伝え,追加確認後に補充する対応が考えられる。
抽象的な疑いだけで届出義務が当然に発生すると断定することもできないため,疑いの具体性とその時点の認識を速やかに確認する。

行為主な目的確認すべき違い警察への相談疑いの段階で対応・捜査への影響を相談相談したというだけで法定届出を履行したとは限らない毒劇法17条2項の届出毒物・劇物の盗難・紛失を直ちに知らせる品目・判明数量・状況を伝えた記録を残す被害届犯罪被害の事実を申告する後日の提出日だけで,それ以前の届出の有無・適時性は決まらない告訴犯罪事実を申告し処罰を求める法定の事故届出とは目的・手続が異なる

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損害賠償請求権の貸倒処理と非免責債権―破産,財産調査及び回収記録の実務(AI作成)

目次第1 請求権が残ることと回収できることを分ける第2 貸倒れの三つの取扱いと損害賠償債権第3 逮捕,退職及び破産申立てだけでは足りない第4 破産手続の段階ごとに何を確認するか第5 非免責債権なら貸倒処理できないのか1 故意の不法行為をすべて非免責としない2 法的責任の存続は回収の保証ではない3 税務処理のために権利放棄を先行させない4 現在の給与と未定の再就職を区別する5 年金収入があっても貸倒れを認めた判決の射程6 回収不能は収入の有無だけで判断しない第6 回収不能を説明する記録の作り方第7 仕訳,貸倒引当金及び後日の回収1 帳簿上の債権と税務上の債権を照合する2 貸倒引当金も会社の適用資格から確認する3 貸倒処理後も権利・回収の台帳を管理する第8 法人税の貸倒れと消費税の貸倒税額控除を分ける第9 決算前に税理士と弁護士が確認する順序第10 関連記事と根拠資料
第1 請求権が残ることと回収できることを分ける

会社が犯罪や不法行為の被害に遭い,損害賠償請求権を取得した場合,請求できる権利があることと,その債権を実際に回収できることは別である。
加害者が破産した場合も,破産申立て,手続開始,配当,免責及び非免責債権の判断を分けなければならない。
法人税の貸倒損失は,民事上の請求を続けるかという判断と対応させつつ,税法上の要件と年度を別に確認する。

本記事は,令和8年10月7日に確認した法令,法人税基本通達,国税庁資料及び裁判所の公開資料に基づき,会社の税理士と回収を担当する弁護士の連携を扱うものである。
非免責性の詳しい判断基準は,破産法253条1項2号の「悪意で加えた不法行為」も参照されたい。

第2 貸倒れの三つの取扱いと損害賠償債権
取扱い損害賠償債権で確認する内容法人税基本通達9-6-1法定の切捨て等,又は相当期間の債務超過・弁済不能を伴う書面による債務免除などの要件同9-6-2資産状況・支払能力等から債権全額の回収不能が明らかになった年度,損金経理及び担保の処分同9-6-3対象は一定の売掛債権。純粋な損害賠償債権へ取引停止1年の取扱いをそのまま適用しない

これらの原文は,国税庁「金銭債権の貸倒れ」に掲載されている。
貸倒損失を計上したいからという理由で,賠償債権の勘定科目を売掛金へ付け替えても,債権の発生原因は変わらない。
回収のために分割払の約束を得たことや,和解・公正証書を作ったことだけで,通常の売掛債権と同じ取扱いになるものでもない。

書面で請求を放棄すれば必ず貸倒損失になるわけではない。
9-6-1(4)では,債務超過が相当期間続き,弁済を受けられないことが必要である。
合理的な回収手段を捨てる無償の放棄は,寄附金等の問題も生じ得るため,民事上の合意と税務処理を同時に検討する。

法人税基本通達9-7-16・9-7-17(https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_07_04.htm)は,会社が第三者へ損害賠償金を支払った場合の,役員・使用人に対する求償債権等を扱う。
その「全部又は一部」という取扱いを,会社自身が窃盗・横領の被害を受けて取得した賠償債権へ,当然に適用することはできない。
誰が被害者で,誰へ賠償金を支払い,どの原因で社員に請求するのかを確認し,一部貸倒れの根拠を取り違えないようにする。

第3 逮捕,退職及び破産申立てだけでは足りない

加害者が逮捕された,会社を退職した,弁護士から受任通知が届いた,又は破産申立てをしたという事実だけで,賠償債権全額の回収不能が確定するわけではない。
預金,不動産,換価できる財産,収入,先順位の担保,生活状況及び他の債務を確認する。
担保や保証がある場合は,その回収経路を含めて検討する。

国税不服審判所令和元年5月16日裁決(https://www.kfs.go.jp/service/JP/115/11/index.html)の公表裁決書(抄)「4(4)」は,会社の商品を窃取・横領して転売した元従業員に対する損害賠償請求権について,平成25年1月期から平成29年1月期までの全額回収不能を否定した。
対象年度には会社が本人へ給与を支払っており,支払能力が皆無とはいえなかったことや,会社が発覚後直ちに賠償請求訴訟を提起したこと等が考慮されている。
資産に乏しく他の支払義務もあるという事情は,一部の回収が困難であることをうかがわせるにとどまると判断された。

この事案の懲戒解雇は平成29年9月15日であり,対象年度は解雇前である。
裁決は,非免責性や破産後の将来給与を直接判断したものではない。
「給与があれば常に貸倒処理できない」という一般則として読むのではなく,評価した年度と当時の具体的な支払能力を確認する必要がある。

反対に,全額回収不能を検討するため,どの事件でも必ず訴訟と強制執行を最後まで行わなければならないという一律の手順が定められているわけでもない。
財産調査で判明した内容,回収額の見込み,必要な費用・労力及び実行できる回収手段を記録する。

(続きを読む...)損害賠償請求権の貸倒処理と非免責債権―破産,財産調査及び回収記録の実務(AI作成)

従業員の窃盗・横領で被害を受けた会社の税務―盗難損失,損害賠償請求権,修正申告及び加算税(AI作成)

目次第1 被害会社でも申告の修正が必要になることがある第2 転売代金を会社の売上げと決め付けない第3 損失と賠償請求権をどの年度に計上するか1 損失と収益を別々に確認する2 発覚日,示談日及び入金日だけで決めない3 請求権の額と回収可能性を混同しない第4 税務調査はどのように進むか1 対象年度と資料の対応を確かめる2 調査結果の説明を受けて判断する第5 修正申告で直す内容第6 過少申告加算税と重加算税を分ける1 過少申告加算税の基本2 従業員が犯罪を隠したことと会社の隠蔽を分ける第7 消費税は損害賠償金の実質を確認する第8 経理処理と申告調整の組合せ第9 税理士と弁護士が共有する資料第10 関連記事と主な根拠資料
第1 被害会社でも申告の修正が必要になることがある

会社の原材料,商品又は金銭を従業員が盗んだ場合,会社は被害者である。
しかし,被害者であることだけで,法人税の修正申告や加算税の問題がなくなるわけではない。
盗難による損失,加害者に対する損害賠償請求権,実際の回収及び回収不能を,それぞれの事業年度に分けて検討する必要がある。

本記事は,令和8年10月7日に確認した法令,国税庁の公表資料及び国税不服審判所の公表裁決を基に,会社の経理担当者,税理士及び弁護士が共通の資料を作るための確認順序を示すものである。
個別会社の被害額や犯人の資力を仮定した解説ではない。

分ける問題確認する内容盗難損失失われた資産の帳簿価額,既に原価・費用へ算入した額,発生年度損害賠償請求権相手方,権利の存在・内容を客観的に把握できた時期,損害額回収・貸倒れ現物返還,入金,保険金,残高,全額回収不能が明らかになった年度税務調査本税の修正理由,税目・年度,加算税の種類,納付と争う手続
第2 転売代金を会社の売上げと決め付けない

従業員が会社のために販売し,会社の売上代金を着服した場合と,会社の商品を盗み,自分の取引として転売した場合では,検討の出発点が異なる。
販売権限,販売名義,買主の認識,請求書・領収書,入金先及び代金の最終使途を確認する。
会社所有の商品だったことや,在庫管理に不備があったことだけで,転売の主体が会社だったと決まるものではない。

国税不服審判所令和元年5月16日裁決は,元従業員が会社から盗んだ商品を個人の取引として販売した事案で,落札代金の会社への帰属を否定した。
一方,会社の損害賠償請求権については別に益金算入を検討している。
「会社の売上げではない」という結論と,「会社に課税される収益が一切ない」という結論を結び付けてはならない。

転売口座の総入金額には,従業員が自分で購入した品物の代金,返金,口座間振替等が含まれ得る。
会社の被害品との対応を付けて除外・重複を整理し,転売代金,民事上の損害額及び帳簿価額を別の列で管理する。

第3 損失と賠償請求権をどの年度に計上するか
1 損失と収益を別々に確認する

法人税法22条は,各事業年度の収益と損失の計算を定めている。
盗難損失を検討するときは,盗まれた資産が貸借対照表に残っていたか,仕入れや払出しの際に既に原価・費用となっていたかを先に確認する。
既に損金へ算入した取得価額を,発覚時に「盗難損失」としてもう一度損金にしてはならない。

不法行為に基づく損害賠償請求権は,通常,損失の発生時に発生・確定するため,損失と請求権を同じ年度の損金・益金に計上することが問題となる。
ただし,加害者や権利内容を把握することが客観的に困難で,直ちに権利行使を期待できない場合まで,機械的に損害発生年度の益金とするものではない。
上記裁決の「4(3)」は,通常人を基準に権利の存在・内容を把握できたかを判断している。

2 発覚日,示談日及び入金日だけで決めない

代表者が実際に知らなかったことと,通常の在庫照合等をしても権利を把握できなかったことは別である。
棚卸記録,異常値の報告,仕入れと売上げの不一致,調査開始,行為者の特定及び被害数量の判明を時系列にする。
発覚日にまとめて計上する案と過年度へ帰属させる案について,根拠となる資料を対応させる。

法人税基本通達2-1-43は,「他の者」から受ける損害賠償金について,実際の受領年度に益金算入している場合の取扱いも定めている。

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退職代行から通知が届いた会社の対応―権限確認,退職日・年休,最終給与,引継ぎ及び退職書類(AI作成)

目次第1 通知を受けた会社が最初に整理する事項1 到達した通知と本人の意思を保存する2 社内窓口と処理担当者を決める第2 退職の伝達,団体交渉及び個別の処分権限1 相手方の肩書と求めている行為を確認する2 交渉する権限と本人の権利を処分する権限は別である3 権限の確認を必要な範囲に絞る第3 退職日と最終出勤日を確定する1 期間の定めのない契約の解約2 有期契約では同じ説明をそのまま使わない第4 年休残数を勤務日ごとに配分する1 休日を除き,半日分の取扱いまで確認する2 引継ぎの必要性と時季変更権を分ける第5 最終給与と会社の返還請求を分ける1 争いのない賃金を支払う2 返還義務があることだけでは給与から控除できない3 代行者の返信だけで自由な相殺同意を認定しない第6 引継ぎは対象と履行状況を具体化する1 大阪地裁令和7年1月27日判決の判断2 引継ぎ依頼と完了確認を項目ごとに行う3 年休中でも雇用契約が続いている点に注意する第7 傷病手当金の申請・取下げと退職日の関係1 本人の給付を会社だけで処分しない2 退職日の実際の勤務を確認する第8 退職書類は種類ごとの期限で処理する1 退職証明書,離職票及び源泉徴収票を区別する2 離職理由は事実を記載する第9 最初の回答書と完了確認の組み立て方1 回答書に記載する事項2 合意後も実行と完了を確認する第10 出典と判断の範囲1 法令2 裁判例3 行政機関の案内等
第1 通知を受けた会社が最初に整理する事項

退職代行から連絡が来たときは,退職の意思が会社に届いたか,誰がどこまで本人を代理するか,退職日までの勤務と年休をどう扱うかを順に確認する必要がある。
会社に未返還の定期代や貸与品がある場合でも,その精算を理由に最終給与と退職書類を一括して留保する処理は避けるべきである。
本記事は,会社の人事担当者と会社側の弁護士が,通知を受けてから手続を終えるまでに確認する事項を,法令,裁判所公表判決及び行政機関の案内に基づいて整理する。

1 到達した通知と本人の意思を保存する

最初に,通知の原本,受信日時,送信元,対象従業員,退職希望日,年休取得の指定,連絡先及び添付された委任状を保存する。
電話だけの連絡であれば,担当者が日時と内容を記録し,重要な事項を文書で確認する。
民法97条1項は,相手方への通知が到達した時から意思表示が効力を生ずると定めているため,会社内で担当者が処理した日だけで到達日を決めてはならない。

本人が作成した退職届を運んだだけなのか,代行者自身が代理人として解約を申し入れたのかも区別する。
民法99条1項により,代理人の意思表示が本人に直接効力を生ずるには,代理権の範囲内で,本人のためにすることを示している必要がある。
退職届や通知の表現が曖昧な場合は,既に退職を確定的に通知しているのか,会社との合意による退職を申し込んでいるのかを確認する。

2 社内窓口と処理担当者を決める

人事,給与,社会保険及び所属部署が別々に回答すると,退職日や支払額に食い違いが生じやすい。
対外的な窓口を決めた上で,社内では年休残数,最終給与,健康保険・雇用保険,貸与品及び引継ぎの担当者を割り当てる。
回答書には,確定した事項,計算中の事項及び本人側への確認事項を分けて記載すると,単なる希望や予定が合意済みの条件として扱われることを防げる。

第2 退職の伝達,団体交渉及び個別の処分権限
1 相手方の肩書と求めている行為を確認する

退職代行の窓口には,弁護士,労働組合及び民間業者がある。
名称だけで一律に適法又は違法と決めるのではなく,退職意思の伝達なのか,労働組合による団体交渉なのか,個別の紛争について代理交渉や和解をするのかを確認する必要がある。
弁護士法72条は,弁護士等でない者が,報酬を得る目的で法律事件に関する法律事務の取扱いや周旋を業とすることを原則として禁止する一方,法律に別段の定めがある場合を除外している。

労働組合法6条は,労働組合の代表者又はその委任を受けた者に,労働組合又は組合員のために労働協約の締結その他の事項について交渉する権限を認めている。
同法7条2号は,使用者が雇用する労働者の代表者との団体交渉を正当な理由なく拒むことを不当労働行為としている。
労働組合からの申入れについて,退職代行という名称だけを理由に団体交渉を全面的に拒否する対応には危険がある。

2 交渉する権限と本人の権利を処分する権限は別である

最高裁平成31年4月25日第一小法廷判決(平成29年(受)第1889号)は,労働組合との合意によって組合員の既発生賃金債権が放棄されたといえるためには,合意の効果が本人に帰属することを基礎付ける事情を要するとした。
また,既に具体的に発生した賃金請求権の支払を,後から締結した労働協約で猶予することについても,本人による特別の授権がない限り認められないとした(判決4,PDF4・5頁)。
したがって,組合が交渉の窓口であることだけで,未払賃金の放棄,相殺への同意又は包括的な清算条項への同意まで本人に帰属すると扱ってはならない。

実務上は,次の事項を個別に確認するのが適切である。
①退職の意思と退職日を伝える権限。

(続きを読む...)退職代行から通知が届いた会社の対応―権限確認,退職日・年休,最終給与,引継ぎ及び退職書類(AI作成)

犯罪被害の賠償金を実際に回収するには―損害賠償命令,財産調査,差押え及び時効管理(AI作成)

目次第1 判決等の取得と回収を分けて計画する第2 損害賠償命令・刑事和解を利用できるか1 損害賠償命令の対象と申立期限2 刑事和解と民事訴訟第3 財産を調べる手続を選ぶ1 財産開示の要件2 第三者から得る情報の種類第4 差押えと実際の取立てを進める第5 未払いの残額と時効を管理する1 判決等の確定と手続の終了を記録する2 破産・免責と公的支援第6 政策上の要望と現行制度を区別する第7 出典
第1 判決等の取得と回収を分けて計画する

犯罪被害の損害賠償では,責任と金額を確定する手続だけでなく,加害者の財産を把握し,支払を受け,未払いの債権を管理することまで検討する必要がある。
損害賠償命令や民事判決を得ても,裁判所が自動的に賠償金を取り立てるわけではない。

本記事は,令和8年10月7日時点の現行法令,裁判所の手続案内及び第5次犯罪被害者等基本計画を基礎に,回収の流れを説明する。
被害者参加その他の刑事手続上の権利は,刑事手続及び少年審判における被害者の権利を参照されたい。

段階主な確認事項債務名義の取得損害賠償命令,刑事和解,民事訴訟等の対象・期限・効力財産の把握既知の財産,財産開示,第三者情報取得の利用条件強制執行対象財産,送達・執行文等,差押禁止範囲,費用と回収見込み継続管理支払履歴,残額,手続の終了・取下げ,時効満了候補日
第2 損害賠償命令・刑事和解を利用できるか
1 損害賠償命令の対象と申立期限

犯罪被害者等保護法24条は,所定の対象犯罪の被害者又は一般承継人が,刑事事件の係属する地方裁判所に対し,弁論終結までに損害賠償命令を申し立てる制度を定めている。
請求は,訴因として特定された事実を原因とする不法行為に基づくもの及びこれに附帯する請求である。

対象には,故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその未遂罪,所定の性犯罪,逮捕・監禁,略取・誘拐等が含まれる。
すべての犯罪被害が対象ではなく,通常の過失運転致死傷事件や財産犯罪を,当然に対象として扱うことはできない。

同法35条は,有罪言渡し後の審理について,特別の事情がある場合を除き4回以内の審理期日で終結することを定める。
同法38条は,所定の送達又は告知から2週間の異議申立期間を定め,適法な異議がなければ確定判決と同一の効力を有するとしている。
仮執行の宣言の有無や異議申立てによる効力も確認する。

条文番号は令和8年10月7日時点のものである。
電子化等の改正前の解説には別の条文番号が記載されていることがあるため,現在の条文と照合する必要がある。

2 刑事和解と民事訴訟

同法19条の刑事和解は,被告人と被害者等との間で民事上の争いについて合意が成立した場合,共同で公判調書への記載を求める制度である。
申立ては弁論終結までに行い,公判調書の記載は裁判上の和解と同一の効力を有する。
同条2項は,被告人以外の者が保証又は連帯して責任を負うことを約した場合の記載も定めるが,家族であるだけで当然に賠償義務を負うものではない。

損害賠償命令の対象外の事件や,請求の相手方・範囲が異なる事件等では,民事訴訟その他の手続を検討する。
刑事事件の進行を待っている間にも民事時効は別に問題となるため,刑事手続の期限と民事時効を並行して管理する。

第3 財産を調べる手続を選ぶ
1 財産開示の要件

民事執行法197条は,執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権者について,最近の配当等で完全な弁済を受けられなかった場合,又は既知の財産への執行でも完全な弁済を得られないことを疎明した場合等の要件を定める。
裁判所の財産開示の案内は,債務者に出頭して財産の状況を陳述してもらい,その結果を踏まえて執行を検討する手続と説明している。

原則として,申立て前3年以内に財産開示期日で陳述をした債務者への再実施には制限があり,財産の不開示,新たな財産取得,雇用終了等の例外事由を確認する。
申立てのために,全財産へ実際に差押えを行うことが常に必要というわけではなく,197条のいずれの要件によるかを明らかにする。

(続きを読む...)犯罪被害の賠償金を実際に回収するには―損害賠償命令,財産調査,差押え及び時効管理(AI作成)

毒物劇物営業者と業務上取扱者の違い―登録・届出と規制の共通点・相違点(AI作成)

目次第1 この記事の対象と読み方1 流通させる者と業務で使用・運送する者を区別する2 関連記事との役割分担第2 登録・届出が必要となる範囲1 三つの区分の比較2 届出を要するのは「事業」と「対象物」の組合せである第3 共通する規制1 盗難・紛失防止と漏えい防止2 基本的な表示と事故時の対応第4 異なる規制1 登録制度と届出制度2 毒物劇物取扱責任者3 販売・授与のための追加表示4 譲渡記録・譲受書・交付制限5 安全情報の提供第5 法律違反があった場合の行政対応1 共通する対応―調査,改善指導,事後確認及び告発2 相違する対応―営業者の登録取消しと業務上取扱者への措置命令3 違反の種類によって行政対応が変わる4 処分を行う行政庁と手続第6 運送と廃棄は事業者区分だけで判断しない1 運送には異なる三つの数量基準がある2 廃棄と有価物の譲渡を区別する第7 具体例で見る区分の違い第8 担当者が確認する順序第9 出典・参考資料1 法令2 行政資料
第1 この記事の対象と読み方
1 流通させる者と業務で使用・運送する者を区別する

毒物及び劇物取締法では,毒物・劇物を販売・授与するために製造・輸入し,又は販売・授与する者と,工場の工程等で使用し,又は運送する者とで,適用される規制が異なる。
前者には原則として営業の登録が必要であり,後者には一定の事業・物質の組合せに応じて届出が必要となる。
ただし,盗難・紛失防止,漏えい防止,基本的な表示及び事故時の届出については,共通する規制がある。

本記事では,営業の登録を受けた「毒物劇物営業者」,法22条1項の「届出を要する業務上取扱者」及び同条5項の「届出を要しない業務上取扱者」を比較する。
以下,毒物及び劇物取締法を「法」,同法施行令を「令」,同法施行規則を「規則」という。
法令・行政資料の確認基準日は令和8年10月7日であり,特定毒物研究者に対する許可・用途制限等の特別な規制は,比較の対象から除いている。

法上の毒物・劇物は,法2条・別表及び指定令によって定まるものであり,医薬品・医薬部外品は同条の定義から除かれる。
単に毒性が強い化学物質という意味ではなく,製品ごとの指定・濃度条件・除外を確認することが出発点となる。

2 関連記事との役割分担
知りたいこと参照する記事登録・届出の要否,共通する管理義務,表示・譲渡・運送及び違反時の行政対応の違い本記事。事業区分ごとの規制と,違反時に利用できる行政上の手段を比較する。盗難・紛失が判明した後の警察への届出,立入検査,措置命令,行政処分毒物・劇物の盗難・紛失が判明したとき―警察への届出,立入検査,措置命令及び行政処分工業用の薬品・貴金属含有物の買取りと,古物営業法・犯罪収益移転防止法との関係古物営業法の「古物」の範囲―未使用品・原材料・工業用貴金属と犯罪収益移転防止法の「貴金属等」の違い

事業者の区分は,会社名や業界名だけでは決まらない。
物質の名称・濃度,何のために取り扱うか,どの事業場で何をするかを確認する必要がある。
一つの法人が,工程使用については届出を行い,薬品の販売については別に販売業の登録を受けることもある。

関係者の初動と引継ぎは,税務調査で従業員の盗難・横領が判明したときで,行政庁に示す原因分析・措置の実施証拠は,毒物・劇物の盗難後の改善報告書の作り方で扱っている。

第2 登録・届出が必要となる範囲
1 三つの区分の比較
区分対象となる行為・事業手続の基本毒物劇物営業者販売・授与目的の製造・輸入,又は販売・授与等。法3条・4条による。該当する行為を始める前に,製造業・輸入業・販売業の登録を受ける。届出を要する業務上取扱者令41条の事業で,令42条の対象物を業務上取り扱う者。取り扱うこととなった日から30日以内に,事業場ごとに届出を行う。届出を要しない業務上取扱者上記の届出対象等に該当しないが,毒物・劇物を業務上取り扱う者。規則18条の2は全ての毒物・劇物を対象とする。法22条1項の届出は不要。ただし,同条5項により管理・表示・事故時の措置等が適用される。

毒物・劇物を自社の工程で使用するために製造・輸入することと,他者への販売・授与を目的として製造・輸入することは区別される。
自己使用だけを目的とする場合,製造業・輸入業の登録は不要とされるが,届出対象の事業に当たるかは別に判断する。
輸入については,自己使用であっても輸入確認等の手続が問題となるため,「営業登録が不要」と「輸入手続が不要」を同一視してはならない(厚生労働省Q&A3-1,3-5)。

また,販売・授与する物が最終的に毒物・劇物に該当しない場合と,毒物・劇物そのもの又はその製剤を販売・授与する場合も区別する。
「劇物を工程で使っている」ことだけで,完成品について毒物劇物製造業の登録が必要になるわけではない(同Q&A3-3)。

2 届出を要するのは「事業」と「対象物」の組合せである
事業届出対象となる物質等注意点電気めっき無機シアン化合物たる毒物及びこれを含有する製剤令41条・42条に,取扱量による裾切りはない。金属熱処理無機シアン化合物たる毒物及びこれを含有する製剤シアンを使わない熱処理まで,業種名だけで届出対象にしない。一定の運送事業令別表第二に掲げる毒物・劇物車両の最大積載量と,固定容器又は積載容器の条件も満たす必要がある。しろあり防除砒素化合物たる毒物及びこれを含有する製剤しろあり防除業者の全てが届出対象になるわけではない。

したがって,シアンを使わないめっき工場や,砒素系の対象物を使わないしろあり防除業者は,その業種であることだけを理由に法22条1項の届出対象とはならない。
他の毒物・劇物を業務で取り扱う場合には,同条5項の業務上取扱者として共通の管理義務が問題となる。
無機シアン化合物等に当たるかは,名称だけでなく,指定令による指定・除外と製剤の成分等も確認する。

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未成年者の性被害と民事損害賠償の時効―本人・法定代理人の認識と刑事時効との違い(AI作成)

目次第1 民事と刑事の時効を別々に確認する第2 民事の期間と「知った人」を確認する1 3年・5年・20年の構造2 本人と法定代理人の認識を分ける第3 法定代理人がいない場合・代理人に請求する場合1 民法158条の完成猶予2 代理権と利益相反の確認第4 刑事の18歳特例を民事に移し替えない第5 相談時に作る時系列と証拠1 相手方ごとに整理する2 期間満了が争われる場合の対応第6 出典
第1 民事と刑事の時効を別々に確認する

未成年者が性的被害を受けた場合,刑事事件として処罰を求めるための公訴時効と,加害者等に民事上の損害賠償を求めるための消滅時効は,別の制度である。
性犯罪について公訴時効に18歳未満の被害者の特例があることから,民事の賠償請求も一律に18歳まで時効が進行しないと考えてはならない。

本記事は,令和8年10月7日時点の民法・刑事訴訟法,法務省資料及び下記の名古屋高裁判決を基礎に,相談時に確認すべき事項を説明する。
性的被害の認定,個別の損害発生時期,法定代理人の認識,代理人自身が加害者である場合等によって結論が異なるため,年齢と被害の日付だけで時効完成を断定することはできない。

第2 民事の期間と「知った人」を確認する
1 3年・5年・20年の構造

民法724条は,不法行為の損害賠償請求権について,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しない場合と,不法行為の時から20年間行使しない場合を定めている。
人の生命又は身体を害する不法行為については,同法724条の2により,前者の3年が5年となる。

性的被害についても,どの権利・利益の侵害を原因として,どの損害を請求するかを確認する必要がある。
生命・身体侵害の5年の規定が適用されるかを検討せず,あらゆる請求を3年又は5年の一方にまとめてはならない。

被害当時の条文と経過措置も確認する。
平成29年法律第44号附則35条は,施行時に旧法の20年の期間が既に経過していた場合の取扱いと,旧法の短期時効が既に完成していた場合の724条の2の適用を定めており,現在の5年を過去の事件へ一律に適用することはできない。

2 本人と法定代理人の認識を分ける

未成年者の事案では,本人が知った時と法定代理人が知った時が一致するとは限らない。
本人の認識だけを聴取して期間計算を終えず,当時の法定代理人が誰であったか,その者が何をいつ知ったかも調べる。

名古屋高裁平成19年9月26日判決(平成18年(ネ)第1116号,判例時報2008号101頁,判例秘書L06220835)は,未成年者について法定代理人が知った時を基準とし,母親の認識,施設との委託関係,請求を期待できる状況等を具体的に検討した。
この事件は施設での体罰・テレビ放映等をめぐる事件であり,未成年者の性的被害一般について時効停止を認めた最高裁判例ではない。

不法行為法制研究会の資料1の印刷5頁~6頁は,未成年者のみの認識と法定代理人の認識の関係について最高裁判例がないと説明し,性的被害等の特例を検討課題に挙げている。
この資料の説明は,あらゆる下級審裁判例の不存在を示すものでも,新しい時効特例の成立を示すものでもない。

第3 法定代理人がいない場合・代理人に請求する場合
1 民法158条の完成猶予

民法158条1項は,時効期間の満了前6か月以内の間に未成年者に法定代理人がない場合について,行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から6か月を経過するまで時効が完成しないと定める。
法定代理人が存在するすべての未成年者について,成年になるまで時効が進行しないと定めた規定ではない。

同条2項は,未成年者がその財産を管理する父,母又は後見人に対して権利を有する場合について,行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から6か月を経過するまで,その権利の時効が完成しないと定める。
親又は後見人自身が加害者である事案では,請求の相手方と財産管理の関係を確認し,同項の適用を検討する必要がある。

2 代理権と利益相反の確認

親権者に対して損害賠償を請求する場合には,誰が本人を代理できるかも別に検討する。
民法826条は,親権を行う父又は母と子との利益が相反する行為について,子のための特別代理人の選任を家庭裁判所に請求することを定めている。

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発信者情報開示にかかった費用は相手に請求できるか―全額・一部認容の裁判例と立証資料(AI作成)

目次第1 開示費用と慰謝料を分けて請求する1 請求項目の区別2 調査の数字を全額回収の保証にしない第2 裁判例が示す費用の必要性と対象投稿の対応1 東京高裁令和2年1月23日判決2 原審と控訴審の認容額を混同しない第3 請求準備のための対応表を作る1 投稿と手続を結び付ける2 第三者の立替えと未払いを区別する第4 請求額と回収見込みを依頼者に説明する第5 出典
第1 開示費用と慰謝料を分けて請求する

匿名の投稿者を特定するために支出した発信者情報開示の費用は,投稿者に対する不法行為の損害賠償として認められる場合がある。
しかし,開示のために契約した報酬の全額が当然に回収できるわけではない。
対象投稿の違法性に加え,投稿者を特定するために必要な費用であったか,請求する投稿と費用が対応するか,誰がどのように負担したかを明らかにする必要がある。

本記事は,令和8年10月7日時点の民法709条・710条,法務省の令和8年4月の損害賠償調査報告,判例秘書掲載の下記裁判例の判断本文を基礎に,請求準備を説明する。
開示手続自体の要件やログ保存の初動は,SNSやネットで名誉毀損やプライバシー侵害があったときの法的対応を参照されたい。

1 請求項目の区別
項目主に説明・立証する事項慰謝料保護利益,投稿内容,悪質性,拡散,被害の具体的影響発信者特定費用匿名性,手続の必要性,対象投稿との対応,契約と実質的負担削除費用削除の対象・必要性と支出の対応。開示費用との重複の有無本訴の弁護士費用投稿者に賠償を求める訴訟について不法行為と相当因果関係のある範囲

開示費用を請求する場合にも,投稿者に対する本訴の弁護士費用と混同しない。
一つの契約に開示・削除・賠償請求が含まれる場合は,契約上の業務範囲と費用の内訳を確認し,同じ支出を二重に計上しない。

2 調査の数字を全額回収の保証にしない

法務省調査報告の印刷36頁の集計では,開示費用を独立して請求した調査対象35件のうち,全額認容10件,一部認容21件,弁護士費用として考慮1件,損害と認めず1件,支出の証拠がない2件とされている。
これは収録裁判例等から選定された調査対象についての集計であり,すべての開示事件の回収率ではない。
不認容や減額の理由は個別に検討しなければならず,この数字だけで請求額や受任の可否を決めることはできない。

第2 裁判例が示す費用の必要性と対象投稿の対応
1 東京高裁令和2年1月23日判決

東京高裁令和2年1月23日判決(令和元年(ネ)第3668号・第4142号,判例タイムズ1490号109頁,判例秘書L07520665)は,匿名の加害者を特定するための開示手続に係る弁護士報酬等について,必要な費用として不法行為との相当因果関係を認めた。
投稿者が分からなければその者に損害賠償を求めることができないという開示手続の役割を踏まえた判断である。

同判決で認められた開示手続費用は202万6455円であり,別の削除関係費用等を含む認容合計227万1687円とは区別する必要がある。
合計額のすべてを「発信者情報開示の弁護士報酬」と紹介してはならない。

同判決では,本訴で請求していない投稿に対応する費用,刑事告訴の費用,将来の削除請求の費用等が別に検討されている。
インターネット被害への対応として支出したという共通点だけで,すべてが賠償対象になるとはいえない。

2 原審と控訴審の認容額を混同しない

横浜地裁川崎支部令和2年5月26日判決(平成31年(ワ)第190号,判例秘書L07551325)と,その控訴審である東京高裁令和3年5月12日判決(令和2年(ネ)第2495号,判例秘書L07620156)では,認容額が次のように異なる。

項目原審控訴審慰謝料70万円100万円開示費用14万円20万円本訴の弁護士費用7万円10万円合計91万円130万円

控訴審は名誉毀損による侵害を否定した一方,名誉感情の侵害を認め,差別的で悪質な内容,児童が被害者であること,インターネット上の閲覧可能性等を考慮した。
したがって,この判決を名誉毀損の慰謝料を認めた例として紹介することも,慰謝料100万円を一般的な最低額とすることも適切でない。

原審は,主張された開示費用80万円をそのまま認めず,負担の立証と相当な範囲を検討している。
原審・控訴審の開示費用が慰謝料の20%に相当することから,あらゆる事件で開示費用を20%に限るという算定規則を導くことはできない。

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毒物・劇物の盗難・紛失が判明したとき―警察への届出,立入検査,措置命令及び行政処分(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 盗難・紛失が発生しただけで直ちに登録取消しになるわけではない2 施錠と鍵管理だけで判断は終わらない第2 最初に事業者の法的地位を確定する1 毒物劇物営業者の登録2 届出要業務上取扱者3 登録と届出は併存し得る第3 盗難・紛失防止の「必要な措置」1 法11条と厚生労働省通知2 保管場所と鍵の管理3 在庫・払出し・実使用をつなぐ第4 盗難・紛失を知った直後の対応1 警察署への直ちの届出2 流出等を伴う場合の届出と応急措置3 安全確保と証拠保全を並行する第5 報告徴収・立入検査で確認される事項1 法18条の権限2 監視指導指針が示す調査と改善3 提出資料の作り方第6 行政指導・措置命令・行政処分の分岐1 毒物劇物営業者の場合2 届出要業務上取扱者の場合3 処分の重さを左右する事情第7 原因調査と物量収支1 容器・在庫の収支2 工程の物量収支3 記録の独立性を確保する第8 実務上の対応手順1 初動のチェックリスト2 行政対応で避けるべき説明第9 出典・確認範囲1 法令2 厚生労働省の通知・指針3 本記事の根拠の範囲
第1 この記事の対象と結論
1 盗難・紛失が発生しただけで直ちに登録取消しになるわけではない

本記事は,事業所で毒物又は劇物の盗難・紛失が判明した場合に,毒物及び劇物取締法上どのような対応が必要となり,どのような監視指導・行政上の措置があり得るかを整理するものである。
盗難・紛失という結果だけから,直ちに営業登録の取消し又は業務停止になるわけではない。まず,事業者が毒物劇物営業者,特定毒物研究者,法22条1項の届出要業務上取扱者又は同条5項の業務上取扱者のいずれであるかを確定し,適用条文を分ける必要がある。

実際の行政対応では,法17条2項の警察署への届出が適切に行われたか,盗難・紛失の原因,法令違反の有無,再発のおそれ及び改善状況が確認される。
厚生労働省の毒物劇物監視指導指針は,必要な改善の指示,盗難等防止規定の見直し及び改善状況の事後確認を示している。保管施設の盗難等防止措置が適切でないと認められる場合は,改善が終了するまでその保管施設の使用停止を指示するとしている。

2 施錠と鍵管理だけで判断は終わらない

保管庫を施錠し,鍵を管理していたことは重要であるが,それだけで法11条1項の「盗難にあい,又は紛失することを防ぐのに必要な措置」を尽くしたと確定するわけではない。
保管場所,鍵の管理者・代理者・管理簿,アクセス権限,在庫帳簿,実在庫の定期点検,使用量の把握,払出し後の残量,返却・廃棄及び異常を早期に検出できる仕組みを,物質の危険性,数量,容器単位及び業務の実態に即して評価する。

他方,事後に正確な数量を確定できないという一事だけで,当然に法11条違反になるわけでもない。
当時予見できた危険,講じていた措置,記録の信頼性,アクセス権限,棚卸頻度及び不一致を検知する仕組みを総合して判断する必要がある。

第2 最初に事業者の法的地位を確定する
1 毒物劇物営業者の登録

毒物又は劇物を販売・授与の目的で製造し,輸入し,又は販売する事業については,毒物及び劇物取締法3条・4条に基づく製造業,輸入業又は販売業の登録が問題となる。
同法上の「毒物劇物営業者」は,これらの登録を受けた者をいう。毒物劇物営業者には,取扱責任者,取扱い,表示,譲渡手続,事故時の措置,報告徴収・立入検査及び登録取消し等に関する規定が適用される。

2 届出要業務上取扱者

毒物又は劇物を自社の工程で使用する事業者が,当然に製造業者・輸入業者・販売業者に当たるわけではない。
法22条1項は,政令で定める事業を行い,その業務上,政令で定める毒物・劇物を取り扱う者に,事業場ごとの届出を求めている。

毒物及び劇物取締法施行令41条は,電気めっきを行う事業,金属熱処理を行う事業,一定の運送事業及びしろあり防除事業を掲げる。
同令42条は,電気めっき事業及び金属熱処理事業について,無機シアン化合物たる毒物及びこれを含有する製剤を対象としている。したがって,電気めっき工程でこれらを取り扱う事業者については,通常,法22条1項の届出要業務上取扱者に当たるかを最初に確認する。

3 登録と届出は併存し得る

一つの法人が,ある事業場では工程使用者として届出要業務上取扱者に当たり,別の製造所・店舗では製造業又は販売業の登録を受けていることがある。
「登録票がある」ことだけで,問題となる事業場と行為に法19条4項が適用されるとは限らない。登録の種類,登録対象の製造所・営業所・店舗,届出対象の事業場,対象品目及び問題となる行為を対応させる必要がある。

反対に,法22条1項の届出要業務上取扱者であることは,法11条や17条が適用されないという意味ではない。
同条4項は,届出要業務上取扱者について,取扱責任者,盗難・紛失防止,表示,事故時の措置,報告徴収・立入検査及び取扱責任者変更命令等の規定を準用している。

登録・届出の対象,取扱責任者,表示,譲渡記録,運送・廃棄及び違反時の行政対応について,営業者と業務上取扱者の共通点・相違点を横断的に確認する場合は,毒物劇物営業者と業務上取扱者の違い―登録・届出と規制の共通点・相違点(AI作成)を参照されたい。

第3 盗難・紛失防止の「必要な措置」
1 法11条と厚生労働省通知

法11条1項は,毒物劇物営業者及び特定毒物研究者に対し,毒物・劇物が盗難にあい,又は紛失することを防ぐのに必要な措置を講ずるよう求める。

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相続人がいない共有持分は誰に帰属するか―特別縁故者,民法255条,登記手続及び相続税(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論第2 共有持分が他の共有者に帰属するまで1 相続人不存在だけでは直ちに帰属しない2 特別縁故者への分与が先行する3 区分所有建物の敷地利用権第3 民法255条による登記1 相続財産名義への表示変更2 持分全部移転と登記原因3 登記原因日と旧法の13か月注記4 共同申請と添付情報第4 特別縁故者分与との使い分け第5 相続税第6 実務上の煩雑さと準備第7 出典1 法令2 裁判例3 通達・公的資料4 参考文献
第1 この記事の対象と結論

本記事は,共有者の一人が相続人なく死亡した場合に,その共有持分が誰に帰属し,どのような登記と相続税の問題が生じるかを整理するものである。令和8年10月6日時点の法令,最高裁判例,法務省の不動産登記記録例及び国税庁資料を確認して作成した。

共有持分は,相続人の不存在が明らかになっただけで直ちに他の共有者へ移るわけではない。相続債権者・受遺者への清算を経た後,まず特別縁故者への相続財産分与の対象となり,分与がされないときに民法255条により他の共有者へ帰属する。

登記実務では,相続財産名義への登記名義人表示変更を前提に,「亡○○相続財産持分全部移転」,登記原因「特別縁故者不存在確定」とする記録例が示されている。手続は段階的であるが,必要な期間経過・審判の確定と登記資料を整理すれば,制度上予定された処理である。

第2 共有持分が他の共有者に帰属するまで
1 相続人不存在だけでは直ちに帰属しない

民法255条は,共有者の一人がその持分を放棄したとき,又は死亡して相続人がないときは,その持分は他の共有者に帰属すると定める。しかし,相続人のあることが明らかでないときは,相続財産は法人となり,相続財産清算人が相続人の捜索,債権者・受遺者への弁済その他の清算を行う(民法951条以下)。

したがって,死亡と同時に共有名義を書き換えることはできず,相続人不存在の確定と清算手続を待つ必要がある。

2 特別縁故者への分与が先行する

最高裁平成元年11月24日第二小法廷判決は,共有者の一人が死亡し,相続人の不存在が確定し,相続債権者や受遺者への清算が終了したときは,その持分が特別縁故者への財産分与の対象となり,分与がされないときに民法255条により他の共有者へ帰属するとした。

最高裁判決は,民法255条を,残余財産が国庫に帰属する原則に対する例外と位置付けた。特別縁故者分与の手続を経ないまま,共有持分が当然に他の共有者へ帰属したとして登記を求めることはできない。

3 区分所有建物の敷地利用権

専有部分と分離して処分できない敷地利用権については,民法255条は適用されない(建物の区分所有等に関する法律24条)。戸建ての共有持分と,区分所有建物の敷地利用権とを区別する必要がある。

第3 民法255条による登記
1 相続財産名義への表示変更

法務省民事局長平成28年6月8日付け法務省民二第386号「不動産登記記録例の改正について(通達)」別添85~86頁の記録例222は,まず死亡した共有者の登記名義を「亡乙某相続財産」に変更する例を掲げる。登記原因は「相続人不存在」である。

同記録例の注1は,民法255条による持分移転登記をする前提として,相続財産名義への氏名又は名称・住所の変更登記がされていなければならないとしている。

2 持分全部移転と登記原因

次の段階では,登記の目的を「亡乙某相続財産持分全部移転」,登記原因を「特別縁故者不存在確定」とし,権利者として他の共有者を記録する例が示されている。

複数の共有者がいる場合の帰属割合は,民法255条により他の共有者の持分割合に従うと解される。個別の申請では,現在の登記記録,持分割合及び当事者表示を確認する必要がある。

3 登記原因日と旧法の13か月注記

記録例222の注2は,特別縁故者への分与申立期間が満了した日の翌日,又は分与申立てを却下する審判が確定した日の翌日を登記原因日とする旨を示す。また,平成3年の先例を引用し,「原因日付は,死亡の日から13か月を経過していることを要する」と記載する。

ただし,この13か月という記載は,当時の民法958条及び958条の3による公告・申立期間を前提とした旧法の説明である。令和5年4月1日に施行された現行制度では,民法952条2項の相続人捜索公告の期間満了,民法958条の2第2項の3か月の申立期間及び,申立てがあった場合の審判確定を基準に判断すべきであり,死亡から13か月という数字を機械的に用いることはできない。

4 共同申請と添付情報

実務書では,民法255条による持分移転登記は,相続財産法人を義務者,他の共有者を権利者とする共同申請として整理されている。相続財産清算人は相続財産法人を代表する。

登記原因を証する情報として,特別縁故者分与の申立期間の経過又は申立却下審判の確定を示す家庭裁判所の証明書等を準備する。相続財産名義への表示変更,清算人の権限を示す情報,固定資産評価その他の申請資料も必要になり得るため,具体的事件では管轄法務局に確認するのが安全である。この段落は通達の記録例そのものではなく,実務書による補充説明である。

第4 特別縁故者分与との使い分け

他の共有者自身が特別縁故者分与を申し立てることはあり得るが,分与の相当性は,被相続人との生活関係,療養看護,費用負担,生前の財産管理その他の事情から判断される。民法255条の登記手続を省略できることは,民法958条の2の要件ではない。

したがって,清算人は,登記の便宜を理由として事実評価を曲げるのではなく,分与の相当性について証拠に基づく意見を述べるべきである。分与しないとの結論になった場合は,それとは別に民法255条の登記を進める。

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マレリのチャプター11と取引先の売掛金―20日商品・重要取引先(AI作成)

第1 結論―支払許可と個別の支払は別である
第2 最初に債務者法人と申立前後を分ける
第3 Docket No. 266が認めた四つの支払区分

1 Foreign Vendor Claims
2 Lien Claims
3 503(b)(9) Claims
4 Critical Vendor Claims

第4 20日商品と物品取戻請求
第5 申立前の発注と申立後の納品
第6 支払合意の条件・権利放棄・返還リスク
第7 債権届出と社内でそろえる資料
第8 関連記事との役割分担
第9 出典

マレリのチャプター11では,裁判所が申立前の一定の取引債権を支払う権限を債務者に与えている。
しかし,これはすべての取引先に対する全額払いの命令でも,特定の請求書が支払対象になったとの認定でもない。
取引先は,契約相手である債務者法人,商品の受領日,申立前後の区分,マレリ側から提示された支払対象額及び合意条件を個別に確認する必要がある。

本記事は,2026年10月6日現在の裁判所提出資料に基づき,マレリの取引先が売掛金と継続取引を整理するための考え方を説明するものである。
個別の支払実績,未公開の取引先指定又は特定会社の債権の法的評価を示すものではない。

第1 結論―支払許可と個別の支払は別である

米国デラウェア地区連邦倒産裁判所の2025年7月11日付け終局命令(Docket No. 266)は,債務者らに対し,Foreign Vendor Claims,Lien Claims,503(b)(9) Claims及びCritical Vendor Claimsの全部又は一部を,事件ごとに判断して支払う権限を与えた。
四区分の許可上限は合計約20億7000万米ドルであるが,命令は支払を義務付けておらず,各債権の有効性,金額,優先順位又は支払約束を認定していない。

したがって,「取引先向け支払命令が出た」ことから「自社の申立前売掛金が支払われる」と直ちに結論付けることはできない。
実務上の確認順序は,①正しい債務者法人,②申立前債権と申立後債権,③四区分の候補,④マレリ側の個別選定,⑤支払合意の条件,⑥残額の債権届出である。

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選択定年制・早期退職優遇制度の申出を会社は承認しないことができるか―最高裁平成19年1月18日判決と割増退職金(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論の要旨第2 事案の概要1 選択定年制の定め2 退職の申出と不承認第3 原審の判断第4 最高裁の判断1 承認がなければ割増退職金を伴う退職の効果は生じない2 不承認の理由について第5 実務上の確認事項1 会社が制度を設けるとき2 従業員が申し出るとき3 国家公務員の早期退職募集との違い第6 関連記事第7 出典1 裁判例2 法令
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,定年前に退職する従業員を定年退職の扱いとし,割増退職金を支給する選択定年制(早期退職優遇制度)について,従業員が退職を申し出たのに使用者が承認しなかった場合に,割増退職金を受け取れるかを判断した最高裁平成19年1月18日判決(平成16年(受)第380号・集民223号5頁)を紹介するものである。
判決の内容は,裁判所HPの裁判例検索に掲載されている判決全文によっている。

2 結論の要旨

①選択定年制による退職が,従業員の申出に対する使用者の承認によって効果を生ずるものとされ,承認をするかどうかに関し就業規則等で特段の制限が設けられていない場合,使用者が承認しなければ,割増退職金債権の発生を伴う退職の効果は生じない。
②割増退職金は,従業員の申出と使用者の承認とを前提に,早期の退職の代償として特別の利益を付与するものである。
③承認されなかった従業員も,選択定年制によらない退職を申し出ることは妨げられないから,退職の自由を制限されるものではない。
④この事件で,経営悪化から事業譲渡及び解散が不可避となったとの判断の下に,事業を譲渡する前に退職者の増加によりその継続が困難になる事態を防ぐために承認しなかったことは,理由が不十分であるというべきものではないとされた。

第2 事案の概要
1 選択定年制の定め

上告人は,農業協同組合法に基づいて設立された信用農業協同組合である。
上告人の就業規則13条は,従業員は満60歳をもって定年とし,定年に達した日の属する事業年度末をもって退職とすると定めた上,本人の希望により定年前の年齢で退職する者は,選択定年制実施要項の規定により定年扱いとし,特別処置を講ずると定めていた。

選択定年制実施要項は,次のように定めていた。
①対象者は,退職時点において48歳以上の職員でかつ勤続年数が15年以上の職員のうち,所定の手続によりこの制度による退職を選択し,組合が認めたものとする(2条)。
②この制度による退職は,定年扱いとし,別表の割増退職金を支給する(3条)。
③この制度による退職を希望する職員は,退職を希望する6か月前までに組合長に申し出るものとし,事業年度末をもって退職とする(4条)。

判決によれば,選択定年制を設けた趣旨は,組織の活性化,従業員の転身の支援及び経費の削減にあり,事業上失うことのできない人材の流出をとどめることができるようにすることなどを考慮して,上告人の承認を必要とすることとされたものである。

2 退職の申出と不承認

被上告人らは,平成13年7月と9月に,選択定年制により,平成14年3月31日付けで退職することを希望する旨の申出をした。

上告人は,平成13年7月に神奈川県から資産査定状況の検査において自己資本比率の低下等を指摘されて指導を受け,他の信用農業協同組合との合併の道を探ったが,同年8月,経営悪化から事業譲渡及び解散が不可避となったと判断し,事業を譲渡する前に退職者の増加によりその継続が困難になる事態を防ぐため,選択定年制を廃止する方針を立てた。
上告人は,同年9月,申出の資格を有する者全員に対し,既にされた申出についても今後される申出についても承認をしない趣旨の説明をし,同月18日の理事会で,申出を承認しないこと及び選択定年制を廃止することを決定し,同月27日,被上告人らを含む申出者に承認しない旨を告げた。

上告人は,平成14年1月23日の総会で事業の全部を譲り渡して解散することを決議し,同年3月31日,全従業員を解雇した。
被上告人らは,選択定年制により退職したものと取り扱われるべきであるとして,割増退職金債権を有することの確認を求めた。

第3 原審の判断

原審の東京高等裁判所は,上告人は申出に対して承認をするかどうかの裁量権を有するが,不承認とすることが従業員の退職の自由に対する制限となることなどからすれば,その裁量権の行使は選択定年制の趣旨目的に沿った合理的なものでなければならず,不合理な裁量権の行使により不承認とした場合には,申出のとおり選択定年制による退職の効果が生ずるとした。
その上で,不承認により被上告人らの受ける不利益は受忍し得る程度のものとはいい難く,従業員個々の具体的事情にかかわらない事由に基づいて不承認とするのは理由が不十分であるとして,被上告人らの請求を認容すべきものとした。

第4 最高裁の判断
1 承認がなければ割増退職金を伴う退職の効果は生じない

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分筆・合筆後の建物敷地をどう調べるか―古い建物図面,現在の地番及び対象外土地(AI作成)

目次第1 建物図面の地番と現在の土地登記が合わないとき1 最新の取得日でも図面の内容が最新とは限らない2 地番,家屋番号及び住居表示を分ける第2 分筆と合筆で登記記録がどう変わるか1 分筆では元の記録が一律に閉鎖されるわけではない2 合筆では吸収された土地の記録を閉鎖する3 地番の履歴と所有権の履歴を混同しない第3 各図面が示すことと示さないこと1 地図と地図に準ずる図面2 地積測量図と建物図面・各階平面図3 縮尺をそろえて重ねるときの注意第4 弁護士の調査で資料をつなぐ順序1 現在の記録から必要な過去記録へ進む2 確認できた対応と推測を分ける第5 査定対象外の土地を調べる理由1 価格に含める範囲と調査する範囲2 接道の問題と他人地を使う問題第6 登記と現況の不一致が残る場合1 所在変更等の登記が必要かを確認する2 境界,越境又は利用権の問題が残るとき第7 出典と関連記事
第1 建物図面の地番と現在の土地登記が合わないとき
1 最新の取得日でも図面の内容が最新とは限らない

建物図面を最近取得したのに,そこに記載された地番が現在の土地登記と異なることがある。
証明書や登記情報を取得した日と,図面が作成・提出された時期は異なるため,取得日だけを見て現在の敷地の形状や地番を示す図面だと判断してはならない。
図面に記載された作成日,受付年月日・番号及び訂正等の記録を確認し,どの時点の状態を示す資料なのかを整理する。

現在の土地・建物の登記事項証明書,地図等,地積測量図及び建物図面・各階平面図を組み合わせる必要がある。
建物の所在地番に複数筆が記載されている場合は,それぞれの土地を確認し,所有者や利用権まで同一だと推測しないようにする。
相続,売買又は担保評価では,この対応関係の確認が対象不動産の範囲を決める基礎となる。

2 地番,家屋番号及び住居表示を分ける

土地の地番,建物の家屋番号及び住居表示は,役割の異なる情報である。
郵便物の住所や建物名だけで,調査すべき土地を確定することはできない。
まず土地・建物の登記事項証明書で所在,地番及び家屋番号を確認し,図面や現地資料と照合する。

建物の表示に関する登記事項には,建物の所在する土地の地番が含まれる(不動産登記法44条)。
しかし,所在欄の地番の記載から,建物所有者がその土地を所有していることや,現在も同じ条件で利用できることまでは分からない。
建物の所有権と土地の所有権・利用権は,それぞれ確認する必要がある。

第2 分筆と合筆で登記記録がどう変わるか
1 分筆では元の記録が一律に閉鎖されるわけではない

不動産登記規則101条は,甲土地から乙土地を分筆するとき,乙土地について新たな登記記録を作り,甲土地の記録には残余部分と分筆の内容を記録する仕組みを定めている。
甲土地には新たな地番を付す場合と従前の地番を維持できる場合があり,変更した表題部の記載には抹消を示す記号が付される。
したがって,「分筆前の登記記録は必ず閉鎖される」として閉鎖記録だけを探すと,存続する記録に残った履歴を見落とすことがある。

以下は記録の追い方を説明するための架空例である。
もとの30番1から30番9が分筆され,30番1が残余部分として存続した場合は,30番9の「30番1から分筆」という記載と,30番1の「30番9を分筆」という記載を対応させる。
実際の記載は対象の登記記録で確認し,地番の数字の並びだけから分筆元を推測しないようにする。

2 合筆では吸収された土地の記録を閉鎖する

不動産登記規則106条は,甲土地を乙土地に合筆するとき,乙土地の表題部に合筆後の事項等を記録し,甲土地の記録を閉鎖することを定めている。
閉鎖された甲土地の「何番に合筆」という記載と,存続する乙土地の「何番を合筆」という記載をつなぐことで,現在の土地に至る経過を確認できる。
分筆と合筆では記録の扱いが異なるため,一つの説明でまとめないことが必要である。

前記の架空例で,30番9が後に30番10へ合筆されたなら,30番9の閉鎖記録から30番10の存続記録へ追う。
古い建物図面に30番1や30番9が書かれている場合は,その時点の区画が現在のどの部分に対応するのかを,登記履歴と当時・現在の図面で確かめる。

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相続・遺産分割で収益不動産の査定書を読む―対象範囲,申告所得,地代及び修繕費(AI作成)

目次第1 査定額を比較する前に確かめる事項1 金額だけを並べても比較できない2 評価時点と資料の時点を分ける第2 土地・建物と評価する権利の範囲1 一棟の収入と一筆の土地は一致するとは限らない2 所有地,借地及びその他の利用関係を整理する3 現況利用と最有効使用を分ける第3 確定申告書から査定用の収支を作る1 不動産所得とNOIは異なる2 税務上の数字と運営収支を照合する順序3 空室と滞納を二重に控除しない4 逆算した残余経費をすべて経常費用としない5 通常の減価償却と設備購入費の一括算入を分ける6 継続契約と貸与設備を査定収支に反映する第4 底地取得前後の地代と価値1 購入代金と取得後の全体価格を重ねない2 なくなる地代の範囲と残る費用第5 修繕,資本的支出及び建物の寿命1 単年度の修繕費だけでは将来負担が分からない2 大規模修繕を二つの方法で重複計上しない第6 利回りと感応度分析の読み方1 同じ純収益でも利回りで価格が変わる2 直接還元法とDCF法を使い分ける3 試算の幅と実際に売れる価格の幅を区別する4 新資料の判明と査定条件の変更を分ける第7 査定者に確認したい資料と説明1 資料を対象,権利,収支,建物及び市場に分ける2 資料が足りないときの査定条件を残す第8 関連記事と出典
第1 査定額を比較する前に確かめる事項
1 金額だけを並べても比較できない

賃貸アパートの査定書を遺産分割や売却の検討に使うときは,最初に対象不動産,評価時点,権利関係及び想定する利用状態をそろえる必要がある。
同じ建物についての資料でも,借地権付建物の価格,底地の価格,土地所有権と貸家を合わせた価格,更地を想定した価格では,評価している利益が異なる。
売出希望額,買取業者の提示額,相続税評価額及び不動産鑑定評価額についても,作成目的と前提を確認してから比較すべきである。

国土交通省の不動産鑑定評価基準は,総論第5章で対象不動産,価格時点及び価格の種類の確定を求めている。
「査定書」という名称だけで,法令に基づく不動産鑑定士の鑑定評価と同じ調査が行われたと判断することはできない。
作成者,調査範囲,現地調査の有無,採用資料及び価格の求め方を確認することが,弁護士による査定書検討の出発点である。

2 評価時点と資料の時点を分ける

相続開始時,遺産分割の検討時及び売却予定時では,権利関係,賃料,空室,修繕状況及び市場環境が変わることがある。
どの時点の価格が必要なのかを先に定め,別の時点の価格をそのまま流用しないようにする。
遺産分割で採用する評価時点と相続税の課税時点については,それぞれの目的に応じて検討する必要がある。

前年の申告書を現在の査定に用いる場合は,その後の入退去,賃料改定,底地取得,修繕及び税負担の変化を補正する。
過去時点の査定では,後日判明した資料が当時の状態を示すのか,その後の変化を示すのかも分けて説明すべきである。

第2 土地・建物と評価する権利の範囲
1 一棟の収入と一筆の土地は一致するとは限らない

建物の所在に複数の地番が記載されていても,すべての土地が同じ所有者に帰属し,すべてが査定対象になるとは限らない。
対象土地の地番,地目,地積及び所有権と,対象建物の家屋番号,構造,床面積及び所有権を,登記事項証明書で個別に確認する。
古い建物図面と現在の土地登記が合わない場合は,分筆・合筆の履歴も追う必要がある。

査定対象から除外した土地が,建物の一部の敷地,通路,階段,避難経路又は設備の設置場所として必要な場合には,利用権の有無,対価,期間及び売却後の継続利用を調べる。
対象外土地の所有権価格を加算しないことと,その土地への依存が対象不動産の価値に及ぼす影響を検討しないことは,別の問題である。
一棟全体の家賃を還元する場合は,その収入を生む建物と敷地利用権が査定対象にどこまで含まれるのかを確かめる。

2 所有地,借地及びその他の利用関係を整理する

敷地ごとに,所有権,地上権,賃借権,使用貸借又は別途の通行・設備利用の合意を分けて整理する。
登記だけでは契約内容や実際の利用条件が分からない場合があるため,契約書,更新書面,承諾書及び支払記録も照合する。
第三者への譲渡や建替えに必要な手続,期間満了時の取扱い及び費用負担は,権利の種類と契約内容に応じて確認すべきである。

対象外土地の権利が未確認であるのに,所有地と同じように永続的に使えるという前提で一つの査定額を断定することは避ける。
利用継続を前提とした試算を示す場合は,その前提,未確認資料及び前提が成立しない場合の再検討事項を明記する。

3 現況利用と最有効使用を分ける

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査定のために預けた原材料が買取り前に精製されたとき―処分権限の確認,所有権及び業者の不法行為責任(AI作成)

目次第1 受領・精製・買取りの時点を分けて検討する1 物を預かったことだけで所有権を取得したとはいえない2 公開案内で確認できる工程と,個別契約の区別第2 処分権限と所有権移転を別々に確認する1 売買の合意と加工の承諾は別の判断事項である2 何の権限を確認したかを具体化する第3 即時取得を論じる前に取得の対象と時点を特定する1 査定のための受領に192条を当然に当てはめない2 盗品回復の問題も残る第4 精製・混和後の物の所有権と償金1 元の形がなくなっても,全ての権利が消えるとは限らない2 所有権を失った場合の償金と,不法行為を分ける第5 買取り前の精製についての不法行為責任1 受領時・精製時・取得時の注意義務を分ける2 それぞれの行為が増加させた損害を示す第6 工程・権利・金額を結び付ける資料1 業者側の資料と所有者側の資料を対応させる2 発覚後に最初に確認する事項第7 出典・関連記事
第1 受領・精製・買取りの時点を分けて検討する
1 物を預かったことだけで所有権を取得したとはいえない

貴金属を含む原材料や工業用品の取引では,業者が現物を預かり,前処理・精製・分析をした後に含有量や価格を提示し,顧客の承諾を得て買い取る工程がある。
この場合,受領日,精製開始日,査定日,査定承諾日,売買成立日,所有権移転日及び支払日を区別する必要がある。
「業者が買い取った後に処分した」という前提を置くと,買取り前に行われた権利侵害や契約上の処分権限を見落とすおそれがある。

本記事は令和8年10月5日に確認した法令と公開された取引案内に基づく一般的な説明である。
特定の事業者の取引について違法性を認定するものではなく,工程,合意内容,持込者の権限及び当時の認識により結論が異なる。

2 公開案内で確認できる工程と,個別契約の区別

K.G.B.神戸ゴールドバンクの金メッキ品の買取案内及びシアン化金カリウムの買取案内には,預かり,計量・検品・前処理,精製,分析,査定報告,顧客による内容確認を経て買取りが成立し,支払に至る流れが掲載されている。
加工開始後の取消しができない旨の案内もあるため,精製の承諾を得る時点と売買の成立時点が別である可能性を検討する意味がある。

ただし,公開案内は,すべての過去の取引で同じ約款が合意されたことや,特定の段階で所有権が移転したことを証明するものではない。
即時買取りなど別方式の有無も確認し,契約書,預り証,依頼書,見積り,約款の提示・承諾及びメールを照合する。

第2 処分権限と所有権移転を別々に確認する
1 売買の合意と加工の承諾は別の判断事項である

民法555条は,財産権を移転する約束と代金を支払う約束によって売買が効力を生ずることを定める。
所有権移転については176条と契約内容を確認する必要があり,現物受領又は代金支払を常に唯一の移転時点と扱うことはできない。
買取りがまだ成立していないことから,加工の承諾も必ずなかったと結論することもできない。

例えば,適法な所有者が査定のための破壊的な分析・精製を先に承諾し,価格の合意だけを後に行うことは考えられる。
このとき問題となるのは,売買とは別の加工・保管等の合意の範囲である。
対して,持込者が会社の原材料を無断で持ち出していた場合には,その者の承諾だけで真の所有者を拘束できるとは限らない。

2 何の権限を確認したかを具体化する

確認対象は,持込者の本人確認だけではない。
①原材料の所有者,②持込者が所有者本人か代理人か,③会社物品を社外へ搬出する権限,④不可逆な精製・混和を依頼する権限,⑤売却する権限を区別する。
身分証明書があること,勤務先が分かること,代金振込口座が本人名義であることだけで,これら全てが確認できたとはいえない。

具体的な確認の程度は,品物の種類,数量,表示,取引経緯,不審な事情及び適用される業法等による。
本記事では,全ての取引に一律の証明書取得義務があるとは述べず,処分権限を疑う事情がある場合に,その事情に対応した確認を行ったかを検討する。

第3 即時取得を論じる前に取得の対象と時点を特定する
1 査定のための受領に192条を当然に当てはめない

民法192条の即時取得には,取引行為によって平穏かつ公然と動産の占有を始め,善意かつ無過失であること等が必要である。

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顧問弁護士の法務助言を実行条件に落とし込む―承認・契約・監督と判断責任(AI作成)

目次第1 助言の結論と実行の条件をセットにする第2 法的な制約と経営上の選択を分ける1 法令・契約・社内ルールを混同しない2 条件を付けても実行できない場合を示す第3 会社の判断と弁護士の職務を区別する1 相談したことだけで決裁権は移らない2 会社の責任と弁護士の注意義務は両立する第4 相談の結果を実行条件の一覧にする1 相談の前提をそろえる2 担当者・期限・確認資料を決める第5 契約と業務の両方で条件を維持する1 契約に書くだけで終わらせない2 前提が変わったときの再相談を決める第6 判断と確認の記録を残す1 結論の一文だけを保存しない2 実行判断メモの記入例第7 根拠資料と関連記事
第1 助言の結論と実行の条件をセットにする

新規事業,共同研究,業務委託や関連会社との取引について,「法律上問題はないか」と顧問弁護士に相談することは多い。
しかし,「この条件であれば進められる」という回答を得ても,条件を誰が確認するのかが決まらなければ,実際の事業では前提が失われることがある。
相談の結果を,承認,契約,担当者,実施後の点検及び再相談の条件まで具体化することが重要である。

例えば,委託先への再委託には事前承諾が必要であるという助言を受けた場合は,契約条項を入れるだけで終わらせない。
承諾の申請先,判断する者,確認資料,回答の記録及び無断再委託が判明した場合の対応まで決めることで,助言を実際の運用につなげられる。
本記事の表と記入例は,こうした平常時の事業・取引を整理するための実務上の提案であり,全国共通の法定様式ではない。

第2 法的な制約と経営上の選択を分ける
1 法令・契約・社内ルールを混同しない

相談時には,①法令により禁止され,又は許認可等が必要な事項,②既存の契約で制限される事項,③社内規程による決裁・手続,④会社が選択する事業上のリスクを分ける。
規程の改訂や相手方との合意で変更できる事項と,会社の判断だけでは変更できない法的な要件は,同じではない。
適法な別案を検討する場合も,名称を変えるだけでなく,実際の取引や業務の内容がその要件を満たすか確認する必要がある。

経済産業省の「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」は,事業を支える法務と,違反や企業価値の毀損を防ぐ法務を一体として捉えている。
同報告書の印刷10頁~12頁は,実現可能な範囲での事業の推進と,その範囲にとどめる働きの双方を説明する。
これは令和元年の政策提言であり,個別事業を許可する法令や,すべての会社に同じ体制を義務付ける規定ではない。

2 条件を付けても実行できない場合を示す

法令上の禁止がある場合や,必要な許認可・承諾を得られない場合は,そのままの計画を実行できないことを明確にする。
結論は「実行できる」「条件が整えば実行を検討できる」「資料不足のため判断できない」「現在の案では実行できない」などに分け,理由と未充足の条件を併記するとよい。
追加資料を得るまでの保留と,調査を重ねても解消できない制約を区別する。

適法性を確認した後にも,費用,納期,採算,取引先の信用や評判に関するリスクは残り得る。
残るリスクの内容,想定される影響及び対応案を決定権者に示し,会社として選択する部分を記録する。
経営者がリスクを引き受けると記録しても,法令違反を適法にしたり,第三者の権利を失わせたりすることはできない。

第3 会社の判断と弁護士の職務を区別する
1 相談したことだけで決裁権は移らない

顧問契約を締結したことだけで,外部の弁護士が会社の事業を承認する権限や,日常業務を指揮する権限を当然に取得するわけではない。
誰が社内で決定するかは,会社の機関設計,法令,定款,決裁規程及び実際の委任内容を確認する。
弁護士の意見を得ることと,必要な社内決議を経ることは別の手続である。

株式会社と役員等との関係には会社法330条が委任の規定を適用し,取締役について同法355条が忠実義務を定める。
また,同法362条の規律が適用される取締役会設置会社では,取締役会の職務に業務執行の決定と取締役の職務執行の監督が含まれ,同条4項は重要な業務執行の決定の委任を制限している。

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海外在住者の不動産登記と国籍証明―国別の住所証明・領事証明・日本語訳文(AI作成)

目次第1 海外在住者は何を証明する必要があるか1 住所・国籍等・署名を分ける2 令和8年10月5日からの国籍等の申出第2 海外在住の日本人が取得する在留証明と署名証明1 在留証明は住所の証明である2 領事による署名証明は本人の面前署名を証明する3 電子交付と紙の提出は別に確認する第3 海外在住の外国人の住所証明と旅券の写し1 外国政府が作成した住所証明を使う経路2 公証人の宣誓供述書と旅券の写しを使う経路3 旅券の有効性を目的ごとに確かめる第4 8か国・地域の公的案内と確認する書類1 米国2 カナダ3 英国4 ドイツ5 オーストラリア6 中国7 韓国8 台湾第5 日本語訳文,翻訳証明及びアポスティーユ1 住所証明に添付する日本語訳文の範囲2 在外公館の翻訳証明と登記の訳文は目的が異なる3 公証・認証・アポスティーユの役割第6 国内連絡先と転居後の登記1 日本人にも国内連絡先事項の確認が必要である2 海外居住者はスマート変更登記の対象外である3 取得前に確認する事項第7 関連記事第8 出典1 日本の登記と在外公館の一般案内2 国別・地域別の発給機関の案内
第1 海外在住者は何を証明する必要があるか

海外に住む人が日本の不動産を取得し,又は相続登記をする場合,住所を証する書類,国籍等を証する書類及び署名を証する書類を,それぞれの目的に応じて準備する必要がある。
一つの証明書で複数の事項を確認できる場合もあるが,在留証明,旅券及び公証人の認証は,名称だけで相互に代用できるものではない。
本記事は,令和8年10月5日時点の法務省,外務省,在外公館及び各国・地域の公的機関の案内に基づき,海外に住所を有する個人について,必要書類を取得する際の確認事項を説明する。

1 住所・国籍等・署名を分ける
確認する事項書類の主な役割混同しやすい点現在の住所在留証明,外国政府の住所証明,所定の宣誓供述書等で生活の本拠を示す旅券や在留資格の証明だけで現住所まで証明できるとは限らない国籍等国籍又は所定の地域について,公務員が作成した情報等で確認する居住国,出生地及び永住資格をそのまま国籍として記載しない本人の署名委任状・承諾書等への署名が本人のものであることを証する署名認証だけで住所の真実性まで宣誓したことにはならない住所・氏名のつながり日本の旧住所と海外の現住所,旧姓と現在の氏名等を結び付ける現住所だけの証明では登記簿上の住所との連続性が分からない場合がある

海外に住む日本人と,海外に住む外国人とでは,利用する証明書の取得経路が異なる。
また,米国に住む日本人の国籍は「米国」にはならず,ドイツに住む韓国籍の人についても,居住国と国籍は別に確認する。
国籍等の申出の対象や制度全体については,不動産登記の国籍申出―日本人も対象・必要書類と相続登記の注意点を参照されたい。

2 令和8年10月5日からの国籍等の申出

所有権の保存・移転等の登記申請に併せて行う検索用情報の申出には,令和8年10月5日から国籍等が加わった。
登記名義人となる申請人が海外に住んでいても対象であり,日本人も対象となる(法務省の現行案内,令和8年9月4日付け法務省民二第872号通達第2の2(1))。

日本国籍を証する情報の例には,本籍地が記載された住民票や戸籍の附票の写しがあり,外国籍を証する情報の例には,国籍・地域が記載された住民票,旅券,在留カード又は特別永住者証明書の写しがある。
海外在住者は,日本の住民票がある人を前提とした説明だけで準備を済ませず,取得できる書類に氏名,生年月日,国籍等の必要事項が記載されているか確認する必要がある。

国籍等を証する旅券の写し等については,申出人が原本に相違ない旨を証明する方法が認められているが,有効期限を超えた旅券を国籍等の証明に使うことはできない(同通達3頁)。
国籍等の情報が通常の登記事項証明書に掲載されるかについては,不動産登記で国籍は公開されるか―登記事項証明書・申請書閲覧と情報管理を参照されたい。

第2 海外在住の日本人が取得する在留証明と署名証明
1 在留証明は住所の証明である

在留証明は,外国のどこに住所を有するかを日本語で証明するものであり,不動産登記や遺産相続に使用される。
外務省の一般案内では,日本国籍を有すること,日本に住民登録がないことなどが申請条件とされ,有効な旅券と現住所を立証する資料等を用意する(外務省「在外公館における証明」)。

現在の住所のみを証する形式と,過去の住所や同居家族も証する形式がある。
日本の登記簿に記載された住所から海外の現住所への変更を証明する必要がある場合には,現在の在留証明だけでつながりが分かるか,日本の戸籍の附票・住民票の除票や過去の住所の資料も必要かを,先に登記申請を担当する専門家又は登記所に確認するのが適切である。

在外公館に提示する運転免許証,賃貸借契約書,公共料金の請求書等は,在留証明の発給を受けるための資料である。
それらをそのまま日本の登記所へ提出すれば,必要な住所証明情報になるという意味ではない。
本籍地,居住開始日,過去の住所の記載の要否も提出先に確認してから申請する必要がある。

2 領事による署名証明は本人の面前署名を証明する

印鑑証明書の添付が必要な場面で,海外居住のため取得できない場合には,日本の領事が作成した署名証明を添付する取扱いが認められている。
在外公館が遠隔地にあるなど,領事による証明の取得が困難な場合には,外国の公証人が作成した署名証明を用いる取扱いもある(法務省の署名証明の案内)。

領事による署名証明には,署名すべき書類に証明を付ける形式と,署名自体を単独で証する形式がある。

(続きを読む...)海外在住者の不動産登記と国籍証明―国別の住所証明・領事証明・日本語訳文(AI作成)

不動産登記で国籍を申し出ないとどうなるか―補正・却下と既存所有者の対応(AI作成)

目次第1 登記申請と単独申出で扱いが異なる1 国籍欄が空欄なら補正を求められる2 既存所有者の単独申出では却下になる場合がある第2 登記申請に国籍を書かなかった場合1 補正の対象と期限を確認する2 期間内に補正しなかった場合の通達上の取扱い3 申請書に「国籍不明」「日本以外」と書くことはできない第3 既に不動産を所有している人の対応1 施行日に全員が届け出直す制度ではない2 追加取得や持分取得では対象登記ごとに申し出る3 単独申出は本人確認資料も点検する4 国籍が変わった場合第4 国籍の申出と住所変更登記の義務を混同しない1 5万円以下の過料は住所等変更登記の義務違反についての規定である2 海外居住者は申出をしてもスマート変更登記の対象にならない3 国内居住者も登記完了の時期を確認する第5 申請前・補正時の確認手順第6 出典・関連記事
第1 登記申請と単独申出で扱いが異なる
1 国籍欄が空欄なら補正を求められる

令和8年10月5日から,個人が所有権の保存・移転等の登記を申請する際には,検索用情報の一つとして国籍等を申し出るものとされている。対象は外国人だけではなく,日本人や国外に住所がある個人も含む。
申請書に国籍等を書かなかった場合,登記官は補正を求める。国籍情報を提供する意思がないことを申請書に明記した場合も同じである(法務省民事局長令和8年9月4日付け民二第872号通達第2の2(1)ク。以下「872号通達」という。)。
しかし,国籍欄が空欄であるというだけで,所有権移転登記が必ず却下されるという取扱いではない。登記申請に伴う申出と,既存所有者が登記申請とは別に行う単独申出を区別する必要がある。

2 既存所有者の単独申出では却下になる場合がある

872号通達第2の2(2)ウは,既存所有者の単独申出について,審査の結果,申し出た国籍等を確認できない場合には,申出を却下するとしている。
ここで却下されるのは,検索用情報を記録するための申出である。既に完了している所有権の登記がそのために抹消されるという説明ではない。
本記事は令和8年10月5日時点の法令,872号通達及び法務省の申出案内に基づき,補正・却下と既存所有者の対応を整理する。対象者と必要書類の全体像については,不動産登記の国籍申出―日本人も対象・必要書類と相続登記の注意点を参照されたい。

第2 登記申請に国籍を書かなかった場合
1 補正の対象と期限を確認する

不動産登記規則158条の39第1項は,対象登記の申請人が,新たに所有権の登記名義人となる申請人について,氏名,氏名の振り仮名,住所,生年月日,電子メールアドレス及び国籍等を申請情報の内容として申し出るものと定めている。
同条2項は,原則として国籍等を証する情報の提供も求めている。申請書の記載と,添付情報による証明は両方確認する必要がある。
補正の連絡を受けた場合は,単なる記載漏れなのか,申出内容と資料が一致しないのか,必要な資料が不足しているのかを確認する。補正期間は登記官が定めるので,「国籍の補正は必ず何日以内」と一律に決めず,その申請について示された期限と補正方法を確認する。

2 期間内に補正しなかった場合の通達上の取扱い

872号通達第2の2(1)クは,登記官が定めた期間内に補正がされなかったとき,添付情報から知り得た国籍等を検索用情報管理ファイルに記録するとしている。
同通達第2の2(1)イは,添付情報から日本国籍を有しないことが明らかであっても,どの国籍等であるか不明な場合には「日本以外」,添付情報から国籍が不明な場合には「国籍不明」と記録する区分を示している。
この取扱いから,国籍等の記載を補正しないことだけを理由に,登記申請が当然に却下されると説明するのは適切でない。ただし,登記原因,住所証明,代理権その他の登記申請自体の不備についてまで,補正しなくても登記ができるという意味ではない。
必要な申出事項を意図的に省くことを勧める趣旨でもない。実際の国籍等を確認できる資料をそろえ,補正に応じることが通常の対応となる。

3 申請書に「国籍不明」「日本以外」と書くことはできない

「国籍不明」「日本以外」は,申出がない場合等に登記所が内部記録に用いるための区分である。872号通達第2の2(1)カは,申請情報の内容としてこれらを申し出ることはできないとしている。
無国籍の場合の「無国籍」と,特定の国籍が分からない場合の「国籍不明」も同じではない。資料上の国籍・地域表示と申出内容に疑問がある場合は,推測した国名を記入せず,資料を示して登記所に確認する必要がある。

第3 既に不動産を所有している人の対応
1 施行日に全員が届け出直す制度ではない

不動産登記規則158条の40第1項は,既に所有権の登記名義人である人が,自分の検索用情報を記録するよう申し出ることが「できる」と定めている。
今回の制度について,令和8年10月5日までに全ての既存所有者が国籍を届け出なければならない,あるいは施行日から一律に何年以内の申出義務が生じる,という期限をこの規定が設けているわけではない。
新たに対象登記を申請する場合の同時申出と,登記申請を予定していない既存所有者の単独申出を分けて考える必要がある。

2 追加取得や持分取得では対象登記ごとに申し出る

法務省「検索用情報の申出に関するQ&A」は,別の不動産を取得するときや,既に持分を有する不動産についてさらに持分を取得するときも,所有権移転登記等の申請に際して検索用情報を申し出ると説明している。

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不動産登記で国籍は公開されるか―登記事項証明書・申請書閲覧と情報管理(AI作成)

目次第1 国籍は登記事項証明書には表示されない1 国籍を申し出ることと登記簿に載ることは別である2 第三者による申請書の閲覧は別の問題である第2 登記事項証明書と附属書類の閲覧の違い1 登記事項証明書は何人も請求できる2 第三者の附属書類閲覧には正当な理由が必要である3 自己が申請人であった登記には別の規定がある第3 申請書や旅券の写しを提出するときの注意点1 申請書と添付情報には国籍が含まれる2 必要な証明を満たし,重複提出を避ける3 写しの証明と閲覧時の取扱いを混同しない第4 検索用情報管理ファイルと行政機関の情報連携1 内部管理と行政利用は区別する2 保存期間と記録の変更3 本人の情報確認も対象資料から考える第5 よくある疑問1 登記事項証明書で外国人所有の土地を探せるか2 売買の相手方に国籍を知らせる制度か3 公開されないなら申し出なくてもよいか第6 出典・関連記事
第1 国籍は登記事項証明書には表示されない
1 国籍を申し出ることと登記簿に載ることは別である

令和8年10月5日から,個人が所有権の保存・移転等の登記を申請する際は,検索用情報の一つとして国籍等を申し出ることになった。日本人も外国人も対象となり,国外に住所がある個人も含まれる。
しかし,申し出た国籍等が土地・建物の登記事項証明書に表示されるわけではない。
法務省民事局長令和8年9月4日付け民二第872号通達(以下「872号通達」という。)第2の1は,記録された国籍等を登記所の内部情報として保有し,不動産登記法に基づく公開の対象とはしないと説明している。
国籍情報の保管先は,登記記録とは別の「検索用情報管理ファイル」である。国籍等を申請書に書くこと,その情報がファイルに記録されること,第三者に登記事項証明書で公示されることを区別して理解する必要がある。

2 第三者による申請書の閲覧は別の問題である

国籍が登記事項証明書に出ないことから,申請書や添付書類も誰にも見られないと結論付けることはできない。
登記事項証明書の交付と,登記簿の附属書類の閲覧は,根拠条文と要件が異なる。国籍を記載した登記申請書や,国籍等を証するために提出した資料については,附属書類の閲覧制度の問題を別に検討する必要がある。
本記事は,令和8年10月5日時点の不動産登記法,不動産登記規則及び872号通達に基づいて,この違いを整理する。申出の対象と必要書類については,不動産登記の国籍申出―日本人も対象・必要書類と相続登記の注意点を参照されたい。

第2 登記事項証明書と附属書類の閲覧の違い
1 登記事項証明書は何人も請求できる

不動産登記法119条1項は,何人も,手数料を納付して,登記記録に記録されている事項を証明する登記事項証明書の交付を請求できると定めている。
例えば,買主が購入予定の土地について所有者や抵当権の有無を調べることは,この登記情報の公示制度に基づく。
これに対し,検索用情報として内部管理される国籍等は,通常の登記事項証明書に新たな国籍欄を設けて公示する制度ではない。証明書を取り寄せれば所有者の国籍が分かるという説明は適切でない。

2 第三者の附属書類閲覧には正当な理由が必要である

不動産登記法121条3項は,登記簿の附属書類の閲覧について,正当な理由がある部分に限って請求できると定めている。ただし,地図や建物所在図等は同条1項・2項により別に扱われる。
登記事項証明書の交付を受けられる人が,そのまま申請書や添付書類を無制限に閲覧できるわけではない。正当な理由は,閲覧したい書類の部分と関連付けて問題になる。
国籍への単なる関心を,当然に閲覧の正当な理由とみなすこともできない。閲覧の可否は,請求の目的,請求者と対象登記との関係,必要とする書類及び部分を明らかにした上で,登記所の審査を受けることになる。

3 自己が申請人であった登記には別の規定がある

不動産登記法121条4項は,自己が申請人である登記に係る附属書類について,同条3項の正当な理由による制限によらず,手数料を納付して閲覧を請求できると定めている。
したがって,本人が自分の提出した登記申請書等を確認する場合と,第三者が他人の申請書等を見ようとする場合も区別する必要がある。
もっとも,この規定は附属書類の閲覧に関するものであり,検索用情報管理ファイルについて国籍の証明書を交付することを定めた規定ではない。本人であることだけを理由に,登記事項証明書から国籍情報を取得できることにもならない。

第3 申請書や旅券の写しを提出するときの注意点
1 申請書と添付情報には国籍が含まれる

国籍等の申出では,申請情報に国籍等を記載し,原則として,それを証する公務員作成の情報等を提供する(不動産登記規則158条の39第1項6号・2項)。
外国籍の人について,872号通達は,国籍又は地域が記載された住民票の写し,旅券の写し,在留カードの写し及び特別永住者証明書の写しを例示している。日本国籍の人については,本籍地が記載された住民票の写し及び戸籍の附票の写し等が例示されている。
登記簿の国籍欄が公開されないことと,国籍を含む資料を登記所へ提出することは両立する。このため,依頼者に対しては「国籍は登記事項証明書には表示されない」と説明しつつ,申請書等の閲覧制度は別にあることも説明するのが適切である。

2 必要な証明を満たし,重複提出を避ける

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他人の土地を無断で貸した者を所有者が相続したとき―賃借人は明渡しを拒めるか,損害賠償及び留置権(AI作成)

目次第1 この記事の結論第2 他人の物の賃貸借はどこまで有効か1 貸主と借主の間では有効2 所有者には賃借権を主張できない3 無権代理との違い第3 所有者が貸主を相続した場合1 地位は併存し,所有者は履行を拒める2 信義則に反する特別の事情3 無権代理と相続の判例との関係4 所有者が追認した場合第4 借主の救済―損害賠償1 履行不能と損害賠償2 履行を拒めることと責任を負うことは矛盾しない第5 留置権で明渡しを拒めるか1 物と債権の牽連関係2 他人物売買の判例3 相続で債務者と所有者が同じ人になっても変わらない4 同時履行の抗弁も使えない第6 実務上の確認事項1 借りる側2 所有者側第7 関連記事第8 出典1 法令2 裁判例3 公式資料4 確認状態
第1 この記事の結論

本記事は,所有者に無断で他人の土地や建物を自分の名で貸した者(例えば親の土地を子が勝手に貸した場合)が死亡し,所有者がその者を相続したときに,賃借人が所有者からの明渡請求を拒めるかを,最高裁判例と民法の条文に沿って整理するものである。
結論は次のとおりである。
①他人の物を自分の名で貸す契約(他人物賃貸借)も,貸主と借主の間では有効であるが,所有者に対しては,借主は賃借権を主張できない。
②所有者が貸主を相続しても,所有者としての地位と相続した貸主としての地位は併存し,所有者は,信義則に反すると認められるような特別の事情がない限り,貸主としての債務の履行を拒むことができると考えられる(最高裁大法廷昭和49年9月4日判決の考え方による)。
③所有者が履行を拒むと,相続した貸主の債務は履行不能となり,所有者は相続人として借主に損害賠償責任を負う。
④借主は,その損害賠償請求権を理由に,土地を留置して明渡しを拒むことはできない(最高裁昭和51年6月17日判決の考え方による)。
⑤所有者が貸したことを追認すれば,賃貸借は所有者との関係でも効力を持つ。

本記事は,令和6年司法試験論文式試験民事系科目第1問がこの事例を素材としたことを機に,同試験の出題の趣旨・採点実感と判決本文を照合して作成した。
実際の事件では,契約書,登記,相続関係及び当事者の言動を確認した上で個別に判断する必要がある。

第2 他人の物の賃貸借はどこまで有効か
1 貸主と借主の間では有効

民法561条は,他人の権利を売買の目的としたときは,売主はその権利を取得して買主に移転する義務を負うと定め,同法559条により,この規定は売買以外の有償契約にも準用される。
賃貸借(民法601条)も有償契約であるから,他人の物を自分の名で貸した貸主は,所有者から貸す権限を取得し,その権限に基づいて借主に使用収益させる義務を負う。
令和6年司法試験の出題の趣旨も,このような他人物賃貸借について,民法601条,559条による561条の準用を挙げている。

2 所有者には賃借権を主張できない

所有者は,他人物賃貸借の当事者ではない。
そのため,借主は,貸主に対して賃借権を主張できても,所有者に対しては,その賃借権を占有の権原として主張することができない。
借主が土地上に登記された建物を所有していても,借地借家法10条1項は,有効に成立した借地権を第三者に対抗するための規定であるから,賃貸する権限のない者から借りた場合の問題を解決しない。
採点実感も,同項を理由に所有者へ借地権を主張できるとする答案について,そもそも有効な占有権原が成立していないから第三者への対抗も問題にならないと指摘している。

3 無権代理との違い

貸主が所有者の代理人として契約したのであれば,無権代理(民法113条)の問題になり,所有者が追認しなければ所有者に効力を生じず,代理人は無権代理人の責任(民法117条)を負う。
これに対し,貸主が自分の名で契約したときは,貸主自身が賃貸人であり,無権代理ではない。
採点実感は,自分の名で貸した事例を無権代理の事案と捉える答案を,不良の例として挙げている。
契約書の賃貸人欄に誰の名前があるか,代理人として署名したのかを最初に確認する。

第3 所有者が貸主を相続した場合
1 地位は併存し,所有者は履行を拒める

最高裁大法廷昭和49年9月4日判決は,他人の権利の売主が死亡し,その権利者が売主を相続した場合について,権利者は相続により売主の義務ないし地位を承継するが,そのために権利者自身が売買契約を締結したことになるものではなく,権利が当然に買主に移転するものでもないとした。
その上で,権利者は,相続前と同様にその権利の移転について諾否の自由を保有し,信義則に反すると認められるような特別の事情のない限り,売主としての履行義務を拒否することができると判断した。

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買主の受領拒否―契約解除と損害賠償で異なる帰責事由の確認(AI作成)

目次第1 最初に「買主が負う義務」を特定する第2 解除では債務者の帰責事由を一般的な要件としない第3 履行提供と催告を証拠でつなぐ第4 損害賠償では免責と請求類型を別に確認する第5 損害額は残る利益と重複しないよう整理する第6 契約書と社内対応で準備する事項第7 出典・関連記事

買主が商品を受け取らないとき,売主は,契約を終了させたいという問題と,生じた損失を回収したいという問題を分けて判断する必要がある。現行民法では,債務不履行による法定解除と損害賠償とで,帰責事由の扱いが異なる。

営業担当者が受領拒否の記録を集め,法務担当者が契約上の義務,履行提供,解除要件及び賠償要件を別々に確認すると,通知書と請求額の根拠を整理しやすい。本記事は,令和8年10月4日時点の現行民法を前提とする。改正前に締結した契約等では,適用法と経過措置を別途確認する必要がある。

第1 最初に「買主が負う義務」を特定する

受領拒否という事実だけで,買主が契約上の義務を履行していないと決めることはできない。目的物の受領について,民法413条の受領遅滞が生じる問題と,買主が契約上の受領義務を負い,その義務に違反する問題を分ける必要がある。

最高裁昭和40年12月3日第二小法廷判決は,特段の事由がない限り,受領遅滞を理由とする解除を認めなかった。他方,最高裁昭和46年12月16日第一小法廷判決は,継続的な全量売買の約定等を踏まえ,信義則上の引取義務を認めた。

これらの判決を,全ての売買についての受領義務の肯定又は否定へ広げることはできない。まず契約書,注文書及び引渡条件から,何を,いつ,どこで,誰が引き取る約束なのかを特定する。代金支払義務の不履行を問題にする場合は,受領義務違反とは請求の根拠を分ける。

第2 解除では債務者の帰責事由を一般的な要件としない

民法541条は,相当期間を定めた履行の催告と,その期間内に履行がないことを催告解除の要件とする。ただし,期間経過時の不履行が,契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であれば解除できない。民法542条の無催告解除を選ぶ場合も,履行不能,全部の履行を明確に拒絶したこと等,該当する号の要件を確認する。

現行法のこれらの法定解除では,債務者の帰責事由を一般的な要件としない。したがって,相手方から「故意も過失もない」と説明されたことだけで,解除できないと判断すべきではない。

しかし,民法543条は,不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるとき,その債権者による541条・542条の解除を認めない。受領義務違反を理由に売主が解除する場面では,ここでいう債権者は,受領義務の履行を求める売主である。売主側の引渡条件や対応が不履行の原因となっていないかを確認する必要がある。

引渡義務については売主が債務者,契約上の受領義務については買主が債務者となる。同じ売買でも,検討する義務によって債権者・債務者が入れ替わるため,通知書では義務の内容と当事者を具体的に書くことが有用である。

第3 履行提供と催告を証拠でつなぐ

解除通知を作成する前に,売主が契約どおりの引渡しを提供したかを確認する。民法493条本文は,債務の本旨に従った現実の提供を原則とする。品質,数量,場所,日時及び必要書類に相違があれば,「受け取らなかった」という記録だけでは足りない。

買主があらかじめ受領を拒み,又は履行に買主の行為を要するときは,同条ただし書により,弁済の準備をしたことの通知と受領の催告で足りる場合がある。この場合にも,履行の準備,その通知及び受領を求めた内容を記録する。単に準備できる状態にあったことと,法的に必要な通知・催告をしたことを混同しない。

営業担当者は,拒絶理由を含む連絡記録,検査記録及び配送・立会記録を確保する。法務担当者は,相当期間を定めた催告の対象,履行可能な条件,通知の到達及び期限経過後の状況を照合する。履行提供の適否や拒絶理由に争いがある場合は,期限の短い解除通知や再販売に進む前に,契約と証拠を確認して方針を決める必要がある。

第4 損害賠償では免責と請求類型を別に確認する

民法415条1項は,債務不履行によって生じた損害の賠償を認める一方,不履行が,契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らし,債務者の責めに帰することができない事由による場合を除く。受領義務違反に基づく賠償では,買主についてこの免責事由を検討する。

この判断を,抽象的な「過失の有無」だけで済ませることはできない。引取条件,責任分担の合意,不履行の原因及び当事者の対応を資料で確認する。契約に免責条項があれば,その有効性と対象範囲も別に検討する必要がある。

履行に代わる損害賠償を請求する場合は,415条1項により賠償を請求できることに加え,同条2項の要件が必要である。契約が解除され,又は債務不履行による解除権が発生した場合を定める2項3号だけで,1項ただし書の免責がなくなるわけではない。

民法545条4項も,解除が賠償請求を妨げないことを定める規定である。解除の成立が,賠償責任,損害の発生又は請求額を自動的に証明するものではない。解除の通知と金銭請求を同じ書面で行う場合にも,それぞれの根拠を示すことが有用である。

第5 損害額は残る利益と重複しないよう整理する

損害額を算定するときは,契約が履行された場合の利益,現実に残った目的物・利益,回避できた支出及び追加負担を整理する。総額から利益を控除する形でも,経済的な差額を示す形でも,各項目の意味と根拠が分かる資料を用意することが重要である。

目的物が売主に残るときは,残存価値と再販売による収入が同じ利益を表すのか,別の項目なのかを確認する。同じ利益を二度控除したり,目的物を保持する利益を考慮せず代金相当額をそのまま損失としたりしないよう,計算過程を明らかにする。

保管費,処分費又は別取引の逸失利益等は,発生,金額及び不履行との因果関係を確認する。特別事情から生じた損害には,民法416条2項の予見すべき事情の要件も問題となる。損害の評価時点や残存価値の採用方法は,請求内容と事案に応じて検討する必要があり,一律に解除日の価格だけで決めることはできない。

第6 契約書と社内対応で準備する事項

契約書では,引取期限,検査と受領の関係,引渡場所,保管費の負担,受領できない場合の連絡方法及び解除条項を明確にすることが有用である。再販売や処分を予定する場合は,その権限と条件を確認する。これらは個別契約を検討する際の確認事項であり,一律に同じ条項を入れれば有効になるものではない。

受領拒否への対応では,営業担当者が契約書と経過記録,物流担当者が準備・保管・配送記録,経理担当者が費用と残存価値の資料を集め,法務担当者が解除と賠償の要件へ対応させる方法が考えられる。役割分担は社内運用の提案である。

実行前には,受領義務の根拠,売主の履行提供,541条又は542条の要件,543条の解除制限,415条の免責及び損害額を順に確認する。通知の文言だけを整えても,義務の存在や履行提供が欠けていれば,問題は解消しない。

第7 出典・関連記事

(続きを読む...)買主の受領拒否―契約解除と損害賠償で異なる帰責事由の確認(AI作成)

取締役の責任免除と取引承認の違い―総株主同意・黙示免除・株主交代時の確認事項(AI作成)

目次第1 承認済みの取引でも責任免除は別に確認する第2 取引承認・任務懈怠・責任免除の三段階1 取引の承認を確認する2 会社に対する責任の成立を検討する3 責任が成立する場合の免除を検討する第3 総株主同意と黙示の免除をどう確認するか1 同意の対象と時点を記録する2 明示の書面がない場合は経過から検討する3 同型下級審判例の結論と限界4 黙示免除を主張する際に分けて立証する事項第4 一部免除・責任限定契約と第三者責任1 総株主同意による免除と他の制度を区別する2 会社債権者等の請求を別に検討する3 会社財産の保護に関する法定の制限も確認する第5 契約・交渉・訴訟で確保する資料第6 出典・関連記事
第1 承認済みの取引でも責任免除は別に確認する

会社の取引について株主又は取締役会の承認を得ていても,その承認だけで取締役の損害賠償責任まで免除されたとはいえない。
取引を実行するための承認,会社法423条1項の任務懈怠責任の有無,同法424条の責任免除は,対象と要件が異なる。
本記事は令和8年10月4日に確認した現行会社法を基準として,会社の法務担当者や取締役が保存すべき資料と,責任追及への対応を整理する。

一人会社でも,唯一株主の意向から責任の有無や免除を機械的に決めることはできない。
会社に対する責任と会社債権者等に対する責任を分け,誰が,何について,いつ同意したのかを確認する必要がある。

第2 取引承認・任務懈怠・責任免除の三段階
1 取引の承認を確認する

利益相反取引では,会社法356条1項の重要事実の開示及び株主総会の承認が問題となり,取締役会設置会社では同法365条1項により取締役会の承認が必要となる。
承認の議事録では,対象取引,開示された条件,利益相反の内容,決議機関を確認する。

これは取引についての手続的な規律である。
承認手続を経たことと,会社に損害が生じた場合の任務懈怠責任が成立しないことは別に検討する。
会社法423条3項には一定の利益相反取引について任務懈怠の推定があり,承認決議に賛成した取締役も対象に含まれる。

2 会社に対する責任の成立を検討する

会社法423条1項の検討では,取締役の具体的な任務,その懈怠,会社の損害及び因果関係を整理する。
株主の意向に沿ったことは評価材料となり得るが,会社の財務状態,取締役の私的利益及び会社債権者への影響も具体的に検討する。

3 責任が成立する場合の免除を検討する

会社法424条は,前条1項の責任を免除するには総株主の同意を要すると定める。
取締役会の承認や株主総会の多数決を,総株主の同意と取り違えてはならない。
任務懈怠がないという主張をする場合でも,その主張が認められなかった場合に備え,免除の有無を予備的に検討することには実務上の意味がある。

第3 総株主同意と黙示の免除をどう確認するか
1 同意の対象と時点を記録する
(1) 取引への賛成と責任免除の意思を分ける

同意書や議事録には,対象取引だけでなく,免除の対象となる取締役,責任の発生原因,損害及び免除する範囲を可能な限り特定する。
その記載は後日の立証に役立つが,書類の表題を「承認書」又は「免責合意書」としただけで法的要件を満たすものではない。
株主へどの事実が説明され,どの責任を免除する意思が示されたかを確認する。
さらに,会社自身による免除の意思表示と総株主の同意を分けて記録する。
民法519条は債権者の免除意思表示による債権消滅を定めており,後記東京地裁平成20年判決は,一人会社でも株主の同意だけで会社の請求権が当然に消滅するとの扱いを否定している。

(2) 株主交代前後の経過を分ける

(続きを読む...)取締役の責任免除と取引承認の違い―総株主同意・黙示免除・株主交代時の確認事項(AI作成)

株主総会決議の取消しの訴えは誰が起こせるか―株主等,決議で地位を失った株主・役員(会社法831条1項後段),提訴期間及び訴えの利益(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論第2 原告になれる者1 株主等2 決議の取消しにより株主・役員となる者(会社法831条1項後段)3 平成26年改正で「株主」となる者が加わった第3 被告・管轄・期間・担保1 被告と管轄2 決議の日から3か月以内3 担保提供命令第4 訴えの利益が失われる場合1 役員選任決議の取消しと役員の退任2 否決された決議の取消しは求められない第5 判決の効力と裁量棄却1 判決の効力2 裁量棄却第6 実務で確認すること第7 関連記事第8 出典及び確認状態1 法令2 裁判例3 確認状態
第1 この記事の対象と結論

本記事は,株主総会決議の取消しの訴え(会社法831条)について,誰が原告になれるか,誰を被告としていつまでに訴えるか,どのような場合に訴えの利益が失われるかを,条文と最高裁判例で整理するものである。
特に,その決議によって株主や役員の地位を失った者が原告になれるかという点(会社法831条1項後段)を詳しく扱う。

結論を先に示すと,次のとおりである。
①原告になれるのは「株主等」(株主,取締役,清算人のほか,監査役設置会社では監査役,指名委員会等設置会社では執行役)である(会社法831条1項前段,828条2項1号)。
②決議の取消しによって株主又は取締役・監査役・清算人となる者も原告になれる(会社法831条1項後段)。
株式の併合等で端数となって株主でなくなった者や,解任決議で解任された取締役・監査役がこれに当たる。
「株主」となる者が加わったのは,平成26年の会社法改正(平成27年5月1日施行)である。
③被告は会社であり,訴えは決議の日から3か月以内に,会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に提起する(会社法831条1項,834条17号,835条1項)。
④取消事由は3か月以内に主張しなければならず,役員選任決議の取消しを求めている間にその役員が全員退任したとき等は,訴えの利益が失われることがある。

第2 原告になれる者
1 株主等

会社法831条1項前段は,決議の取消しの訴えを提起できる者を「株主等」としている。
「株主等」は,会社法828条2項1号の括弧書で,「株主、取締役又は清算人(監査役設置会社にあっては株主、取締役、監査役又は清算人、指名委員会等設置会社にあっては株主、取締役、執行役又は清算人)」と定義されている。

株主は,自分に対する招集手続に瑕疵がなくても,他の株主に対する招集手続の瑕疵を理由に取消しの訴えを提起できる。
最高裁昭和42年9月28日判決は,「株主は自己に対する株主総会招集手続に瑕疵がなくとも、他の株主に対する招集手続に瑕疵のある場合には、決議取消の訴を提起し得る」とした。

2 決議の取消しにより株主・役員となる者(会社法831条1項後段)

会社法831条1項後段は,「当該決議の取消しにより株主…又は取締役…、監査役若しくは清算人…となる者も、同様とする。」と定めている。
この「取締役」等には,任期満了又は辞任により退任した後もなお役員としての権利義務を有する者(会社法346条1項)を含む。

この規定により,次のような者も原告になれる。
①株式の併合や全部取得条項付種類株式の取得によって株式が1株に満たない端数となり,株主の地位を失った者(決議が取り消されれば株主に戻る。)
②取締役・監査役を解任する決議によって解任された者(決議が取り消されれば役員に戻る。)

決議の効力が生じた後は株主・役員でなくなっているので,前段の「株主等」だけでは原告になれないおそれがある。
後段は,決議そのもので地位を奪われた者が,その決議を争う道を閉ざされないようにする規定である。

3 平成26年改正で「株主」となる者が加わった

平成26年の会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号)は,会社法831条1項後段の「取締役、監査役又は清算人(」を,「株主(当該決議が創立総会の決議である場合にあっては、設立時株主)又は取締役…、監査役若しくは清算人(」に改めた。
同法の施行日は平成27年5月1日である(法務省「会社法の一部を改正する法律案」のページ)。
改正前の条文には,決議の取消しにより株主となる者が書かれていなかったので,株式の併合等で締め出された株主が原告になれるかは,条文上明らかではなかった。

第3 被告・管轄・期間・担保

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出国税(国際観光旅客税)3,000円,宿泊税,免税販売のリファンド方式及びJESTA―訪日客と日本人旅行者が負担する制度(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 国際観光旅客税1 課税の仕組み2 令和8年7月1日の引上げと経過措置3 日本人の負担4 税収の使途第3 宿泊税1 法定外目的税としての宿泊税2 東京都・大阪府・京都市の現行税率第4 免税販売のリファンド方式1 令和8年10月31日までの制度2 令和8年11月1日からの制度3 免税店の実務上の注意第5 JESTA(電子渡航認証)1 改正法と施行日2 認証の要件と上陸の条件3 手数料第6 動画の主張と一次資料の対応1 制度に関する主張2 統計に関する主張第7 今後の見通しと本記事で扱わない事項1 今後の見通し2 本記事で扱わない事項第8 関連記事第9 出典1 法令2 公的資料3 外国の公表資料4 その他
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

世界経済フォーラムの旅行・観光開発指数2026年版で日本が1位になったことを素材にしたYouTube動画(海外Yパパラジオ,令和8年10月3日公開)は,宿代,税金及び混雑という観光の費用が日本人にも回ってきていると指摘し,出国税は日本人も払うこと,免税販売が出国時に持出しを確かめてから税金を返す形に変わること,入国前の審査(JESTA)の機会に日本に住んでいない旅行者から費用を受け取るべきことを述べている。

本記事は,令和8年10月4日を基準日として,e-Gov法令検索で確認した国際観光旅客税法,外国人観光旅客の来訪の促進等による国際観光の振興に関する法律(以下「国際観光振興法」という。),消費税法,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。。未施行の改正後の条文を含む。)及び地方税法の条文と,国税庁・地方公共団体の公表資料を基に,訪日客と日本人旅行者が負担する制度を整理する。
地方公共団体が観光施設やバスの料金を住民と住民以外で分けることの法的な枠組みは,観光施設の「市民料金」と「外国人料金」は許されるか―姫路城の縦覧料改定,京都市バスの市民優先価格,地方自治法244条3項と高根町簡易水道事件で扱う。

2 結論

① 国際観光旅客税の税率は,令和8年7月1日から,本邦からの出国1回につき1,000円から3,000円に引き上げられた(所得税法等の一部を改正する法律〔令和8年法律第12号〕)。
納税義務者は国籍や居住地を問わない「国際観光旅客等」であり,日本人も出国のたびに納める。
同日前に締結された運送契約で同日前に出国の日を定めたものは,運賃と別に徴収するとされている場合を除き,従前の1,000円による。

② 国際観光旅客税の収入見込額に相当する金額は,国際観光振興法12条により,国際観光旅客の円滑かつ快適な旅行のための環境の整備等の国際観光振興施策に充てるものとされている。

③ 宿泊税は,地方公共団体が条例で定め,総務大臣の同意を得て課する法定外目的税であり,宿泊者の国籍を問わない。
京都市は令和8年3月1日から1人1泊の宿泊料金が10万円以上の場合の税額を1万円とし,東京都は令和9年4月1日から定額制を宿泊料金の3%の定率制に改める。

④ 消費税の免税販売(輸出物品販売場制度)は,令和8年11月1日から,免税店が税込価格で販売し,購入日から90日以内の出国時に税関の確認を受けたときに免税が成立し,免税店が消費税相当額を返金する「リファンド方式」に移行する(所得税法等の一部を改正する法律〔令和7年法律第13号〕)。
免税を受けられるのは日本の非居住者である外国人旅行者等であり,ここには居住地による線が既に引かれている。

⑤ JESTA(電子渡航認証)は,令和8年法律第32号による入管法の改正で導入され,査証免除の対象者が短期滞在の活動のために上陸するときは,事前に電子的に情報を提供して出入国在留管理庁長官の認証を受けることが上陸の条件になる。
施行日は令和11年3月31日までの間において政令で定める日である。
認証の手数料は,実費と出入国及び在留の公正な管理に要する費用の額その他の事情を勘案して政令で定めるとされており,動画が提案するように観光地の保全費用を上乗せするには,手数料の趣旨との関係で別の法的手当てが必要になると考えられる(本記事の評価)。

第2 国際観光旅客税
1 課税の仕組み

国際観光旅客税は,国際観光旅客等の国際船舶等による本邦からの出国に課される(国際観光旅客税法5条)。
「国際観光旅客等」は,国際船舶等により本邦から出国する観光旅客その他の者であって,入管法25条1項又は60条1項の規定による出国の確認を受ける者等をいう(同法2条1項3号)。
入管法25条1項は外国人の出国,60条1項は日本人の出国に関する規定であるから,国籍を問わず課税される。

次の出国は非課税である(同法6条)。
① 航空機により本邦を経由して外国に赴く旅客で,入国後24時間以内に出国するもの(乗継ぎ旅客)として政令で定めるもの
② 天候その他やむを得ない理由により本邦に寄港した国際船舶等に乗っていた者として政令で定めるもの
③ 出国する日における年齢が2歳未満の者

航空会社等の国内事業者・国外事業者は,搭乗の時までに国際観光旅客等から国際観光旅客税を徴収して国に納付する(同法16条,17条)。
これらの特別徴収が適用されない場合,国際観光旅客等は搭乗の時までに自ら納付しなければならない(同法18条1項)。

2 令和8年7月1日の引上げと経過措置

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黄金株(拒否権付種類株式)の仕組みと実例―会社法108条1項8号・323条,INPEXの甲種類株式,USスチールの黄金株及び外為法の投資審査(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 会社法上の黄金株1 拒否権付種類株式の定め2 種類株主総会の決議がなければ効力を生じないこと3 公開会社も発行できること4 「黄金株」という言葉の使われ方第3 INPEXの甲種類株式1 導入の経緯と目的2 拒否の対象と条件3 拒否権の行使の基準4 取得請求権と取得条項による流出防止5 有価証券報告書が挙げるリスク第4 上場会社と東京証券取引所の規則第5 USスチールの黄金株1 対米外国投資委員会の審査と大統領令2 国家安全保障協定とClass G優先株式3 同意を要する事項と期間(報道による部分)4 所有と決定の分離第6 外為法による投資審査との関係第7 中小企業・事業承継で黄金株を使うときの確認事項1 設計の段階で確認すること2 紛争になりやすい場面第8 関連記事と本記事の範囲1 関連記事2 本記事で扱わない事項第9 出典1 法令2 裁判例3 国税庁・INPEX・東京証券取引所の資料4 米国の資料5 報道
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

いわゆる黄金株は,株式を1株しか持たない者が,会社の重要な決定を止めることができるように設計された株式である。
日本の会社法には「黄金株」という用語はなく,会社法108条1項8号の拒否権付種類株式がこれに当たるものとして説明されることが多い。

本記事は,令和8年10月4日を基準日として,e-Gov法令検索で確認した会社法及び外国為替及び外国貿易法(外為法)の条文,株式会社INPEXの有価証券報告書(令和7年12月期,令和8年3月26日提出),東京証券取引所の上場制度に関する公表資料,米国の大統領令・連邦官報・米国証券取引委員会(SEC)への提出書類並びに裁判所ウェブサイトの裁判例検索を基に,黄金株の仕組みと国内外の実例を整理する。
米国の国家安全保障協定は全文が公表されていないため,その内容のうち報道に基づく部分は,その旨を明記する。

2 結論

拒否権付種類株式は,株主総会又は取締役会で決議すべき事項のうち定款で定めた事項について,その種類の株主による種類株主総会の決議を別に必要とするものであり,その決議がなければ,株主総会や取締役会の決議があっても効力を生じない(会社法108条1項8号,323条)。
役員選任権付種類株式と異なり,公開会社も発行することができる(会社法108条1項ただし書)。

黄金株の効き目は,持株比率ではなく,定款に書かれた拒否の対象と条件で決まる。
INPEXの甲種類株式は,経済産業大臣が1株を保有し,取締役の選解任,重要な資産の処分,目的の変更等の定款変更,合併等,資本金の額の減少及び解散について拒否権を持つが,取締役の選解任や合併では,公的主体以外の単一の株主が議決権の100分の20以上を持つ場合に限るなど,条件付きで設計されている。
米国では,日本製鉄によるUSスチールの買収が,国家安全保障協定の締結と米国政府への黄金株(Class G優先株式)1株の発行を条件として認められた。

一方,上場会社が拒否権付種類株式を発行することは,東京証券取引所の上場廃止基準との関係で原則として認められていない。
中小企業の事業承継で黄金株を使う場合は,拒否の対象・条件,相続や譲渡で黄金株が想定外の者に移ることへの手当て,登記及び相続税評価を設計の段階で確認する必要がある。

第2 会社法上の黄金株
1 拒否権付種類株式の定め

会社法108条1項は,「株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができる。」と定め,その8号に「株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社(第四百七十八条第八項に規定する清算人会設置会社をいう。以下この条において同じ。)にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの」を掲げている。
これが拒否権付種類株式であり,一般に黄金株と呼ばれるものである。

拒否権付種類株式を発行するには,「当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項」と,「当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件」を,発行可能種類株式総数とともに定款で定めなければならない(会社法108条2項8号イ・ロ)。
つまり,拒否の対象は事項ごとに定款で特定し,必要があれば,一定の場合に限って拒否できるという条件を付けることができる。

2 種類株主総会の決議がなければ効力を生じないこと

会社法323条本文は,拒否権付種類株式の定めがあるときは,その事項は,「その定款の定めに従い、株主総会、取締役会又は清算人会の決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。」と定めている。
したがって,黄金株の株主は,株主総会で多数の議決権を持っていなくても,種類株主総会で反対することにより,定款で定めた事項の決定の効力を生じさせないことができる。
ただし,種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は,この限りでない(同条ただし書)。

黄金株の株主に,議決権のある普通株式と同様に議案を可決させる力はない。
黄金株が与えるのは,あくまで定款で定めた事項についての止める力であり,会社の経営を積極的に決める力ではない。

3 公開会社も発行できること

会社法108条1項ただし書は,「指名委員会等設置会社及び公開会社は、第九号に掲げる事項についての定めがある種類の株式を発行することができない。」と定めている。
同項9号は,種類株主総会で取締役又は監査役を選任する役員選任権付種類株式である。

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実質株主確認制度と大量保有の通知義務違反による議決権の停止―部会資料16の修正案(有事・0.5%・故意重過失)と経済産業省の対案(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 二つの制度の骨格1 確認制度2 通知制度第3 確認制度の議決権の停止(部会資料16の修正)1 第15回会議の議論2 副次的な趣旨の追加3 議決権の停止の要件4 部会資料13からの主な変更点5 0.5%の閾値と分散保有6 指図権者の手続保障7 主張立証責任第4 通知制度の議決権の停止(部会資料16の修正)1 規律の要旨2 部会資料13からの主な変更点3 協調行動と決議取消し4 仮処分と誤った停止の救済第5 実質株主による代理出席と委任状の提出期限1 部会資料16の提案2 入場資格の確認3 委任状の提出期限に関する裁判例4 議決権の不統一行使の場合第6 経済産業省の対案(参考資料36)1 確認制度2 通知制度第7 実務者検討会の意見(参考資料34)第8 実務への影響(本記事の整理)1 上場会社2 投資家・指図権者3 仲介機関第9 関連記事と本記事の範囲1 関連記事2 本記事で扱わない事項第10 出典1 法令2 裁判例3 法制審議会の資料
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会は,令和8年9月30日の第18回会議で,部会資料16「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けた補充的な検討」を審議した。
同資料の第1は,上場会社の実質株主確認制度について,①株式会社から仲介機関を通じて実質株主を確認する制度(以下「確認制度」という。)と,②株主側から株式会社に大量保有報告書等の提出を義務付ける制度(以下「通知制度」という。)の二つを取り上げ,それぞれの義務違反に対する議決権の停止の要件を修正している。

本記事は,令和8年10月4日を基準日として,部会資料16,同日に配布された参考資料34(全国銀行協会が事務局を務める実務者検討会の意見)及び参考資料36(経済産業省産業組織課の意見書),部会資料13,e-Gov法令検索で確認した現行の会社法・金融商品取引法並びに判例秘書で全文を確認した裁判例を基に,修正の内容と実務への影響を整理する。
部会資料は事務当局の検討資料であり,本文は「どのように考えるか」という問いの形で書かれているから,ここで紹介する規律は要綱案になっておらず,法律として成立していない。
第18回会議の議事録は,基準日の時点で「準備中」である。

2 結論

確認制度について,部会資料16は,制度の中核的な趣旨を「株式会社と株主との間の建設的な対話の促進」とした上で,副次的な趣旨として「有事の場面における株式会社の支配に関する重要な情報の把握」を加え,仲介機関の義務違反による議決権の停止を,株主提案や臨時株主総会の招集請求で役員の選解任等が付議される有事の株主総会に限り,違反株式が発行済株式の200分の1(0.5%)以上である場合に限って認める案を示した。

通知制度について,部会資料16は,議決権の停止の対象を故意又は重大な過失による違反に限定し,故意・重過失は議決権を停止した上場会社が主張立証責任を負うとした上で,株主総会の前に会社から議決権行使禁止の仮処分を申し立てることが促される設計であると説明している。

経済産業省は,議決権の停止を有事に限ると平時の透明性が確保されないとして,義務違反ではなく「指図権者を確認できない」という状態を基準とし,転送報告義務,確認未了通知及び指図権者の自己申告を組み合わせる対案を示している。

第2 二つの制度の骨格
1 確認制度

部会資料13で示された確認制度の基本的な規律(部会資料16は同じであるとして省略している。)は,次のとおりである。
① 上場会社は,仲介機関である名義株主に対し,その名義株主が有する株式についての直近下位仲介機関又は指図権者に係る情報の提供を請求できる。
② 請求を受けた仲介機関は,直近下位仲介機関があるときは法務省令で定める期間内に請求を受けた旨を通知(転送)し,上場会社に対し,直近下位仲介機関又は指図権者の氏名・名称,住所,確認対象株式の数等を提供しなければならない。
③ 上場会社は,名義株主又はその下位仲介機関が定めた費用を支払わなければならない。
④ 故意又は重大な過失により転送や情報提供をせず,又は虚偽の情報を提供した者は,過料に処される。

ここでいう「指図権者」は,仲介機関以外の者で,信託契約その他の契約又は法律の規定に基づき,仲介機関に対して議決権の行使について指図を行うことができる権限を有する者をいう。
「仲介機関」は,信託会社,銀行,金融商品取引業者等で,第三者のために株式の管理及び処分を業として行う者をいい,振替機関等は除かれる。

2 通知制度

通知制度は,金融商品取引法により大量保有報告書又は変更報告書(以下「大量保有・変更報告書」という。)を提出しなければならない者に,その提出期限までに,同じものを株券等の発行者である上場会社にも提出させる制度である(部会資料13の第2の2(1)から(4)まで)。
金融商品取引法27条の23第1項は,上場されている株券等の保有者で株券等保有割合が100分の5を超える者に,大量保有者となった日から5日(日曜日その他政令で定める休日の日数は算入しない。)以内の大量保有報告書の提出を求めている。
同条3項は,自己又は他人の名義で株券等を所有する者のほか,契約等に基づき議決権の行使について指図を行うことができる権限を有する者で発行者の事業活動を支配する目的を有する者や,投資一任契約等に基づき投資に必要な権限を有する者も保有者に含めている。

部会資料13の案では,金融商品取引法による内閣総理大臣への提出をもって上場会社への提出に代えることができるから,大量保有報告書を適法に提出していれば,通知制度上の義務も果たしたことになる。
したがって,通知制度で問題になるのは,大量保有・変更報告書を提出すべきなのに提出しない場合や,重要な事項に虚偽記載・記載漏れがある場合である。

第3 確認制度の議決権の停止(部会資料16の修正)
1 第15回会議の議論

部会資料13は,確認制度の趣旨を「株式会社と株主との間の建設的な対話の促進」に求めた上で,仲介機関が故意又は重大な過失により転送義務・情報提供義務に違反した場合に,上場会社の議決権停止通知から1か月を経過すると名義株主が確認対象株式について議決権を有しなくなる規律を問題提起していた。

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業務執行事項の株主提案の制限と株主総会の招集請求の5%への引上げ―法制審議会部会資料16のA案・B案と第16回会議の議論(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 現行法の枠組み1 取締役会設置会社の株主総会の権限2 株主提案権の要件3 株主総会の招集請求と裁判所の許可4 裁判例第3 業務執行事項に係る定款変更議案の提出の制限1 経緯2 規律の趣旨の整理3 A案4 B案5 部会資料14の分類表6 第16回会議の議論7 参考資料35(株主提案の分析)8 経済産業省の意見9 実務上の注意(本記事の整理)第4 株主総会の招集請求権の要件の引上げ1 部会資料16の問い2 部会資料16が挙げる立法事実3 第16回会議の議論4 経済産業省の意見5 非公開会社への影響(本記事の整理)第5 今後の見通しと関連記事1 今後の見通し2 本記事で扱わない事項第6 出典1 法令2 裁判例3 法制審議会の資料
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会は,令和8年9月30日の第18回会議で,部会資料16「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けた補充的な検討」を審議した。
同資料の第2は,株主提案権等に関する規律の見直しとして,①上場会社で業務執行事項に係る定款の変更に関する議案の提出を制限すること,②株主による株主総会の招集請求権の要件を議決権の100分の3以上から100分の5以上に引き上げることを取り上げている。

本記事は,令和8年10月4日を基準日として,部会資料16,同日に配布された参考資料35・36,同年7月22日の第16回会議の議事録,e-Gov法令検索で確認した現行の会社法及び判例秘書で全文を確認した裁判例を基に,二つの改正案の内容と実務への影響を整理する。
部会資料は事務当局の検討資料であり,本文は「どのように考えるか」という問いの形で書かれているから,改正案は要綱案になっておらず,法律として成立していない。
第18回会議の議事録は,基準日の時点で「準備中」であり,同会議での委員の発言内容は確認できない。

2 結論

業務執行事項の株主提案の制限について,部会資料16は,部会資料14の「提案をすることはできない」という形を改め,上場会社が取締役会の決議により議案を株主総会で取り上げないことができる形にした上で,法務省令で対象を限定列挙するA案と,社外取締役が過半数の上場会社に限り取締役会が業務執行の決定を委任している事項を対象とするB案を並べている。
規律の趣旨は,濫用的な提案への対応負担の軽減ではなく,業務執行に関する具体的な事項が定款に定められた場合に生ずる弊害の防止と整理された。

株主総会の招集請求権については,会社の負担の大きさ,会計帳簿の閲覧謄写請求や業務検査役の選任申立てとの比較,諸外国の水準及び大量保有報告書の提出基準(5%超)との関係を理由に,100分の3以上を100分の5以上に引き上げるかが問われている。
部会資料16の問いは上場会社に限定していないため,この形で立法されれば,同族会社などの非公開会社の少数株主にも影響する(本記事の読み方であり,部会資料はこの点に触れていない)。

いずれも現行法ではないから,現在の紛争は,会社法295条,297条,303条から305条まで及びこれらに関する裁判例によって処理することになる。

第2 現行法の枠組み
1 取締役会設置会社の株主総会の権限

株主総会は,会社法に規定する事項及び株式会社の組織,運営,管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる(会社法295条1項)。
もっとも,取締役会設置会社では,株主総会は,会社法に規定する事項及び定款で定めた事項に限り,決議をすることができる(同条2項)。

そのため,取締役会設置会社の株主が,特定の取引の中止や特定の委員会の設置のように取締役会が決める業務執行事項を株主総会で決めさせたいときは,その事項を定款に書き加える定款変更議案の形で提案することになる。
定款変更は株主総会の特別決議事項であり(会社法466条,309条2項11号),可決されれば,取締役は定款を遵守する義務を負う(会社法355条)。
部会資料16が問題にしているのは,この「定款変更の形式をとる業務執行事項に関する株主提案」である。

2 株主提案権の要件

取締役会設置会社では,株主が一定の事項を株主総会の目的とすることを請求する議題提案権(会社法303条2項)と,議案の要領を株主に通知することを請求する議案要領通知請求権(会社法305条1項ただし書)は,総株主の議決権の100分の1以上又は300個以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主に限られ,株主総会の日の8週間前までに行使しなければならない。
公開会社でない取締役会設置会社では6か月の保有期間は要らない(会社法303条3項,305条2項)。
株主総会の場で議案を提出する議案提出権(会社法304条)には持株の要件はないが,法令・定款に違反する議案や,実質的に同一の議案が総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない議案は提出できない。

令和元年改正により,取締役会設置会社の株主が議案要領通知請求をする場合,10を超える数の議案については請求が及ばないこととされた(会社法305条4項)。
役員等の選任に関する議案は数にかかわらず一つの議案とみなされ,定款変更に関する二以上の議案も,異なる議決がされると内容が相互に矛盾する可能性がある場合は一つの議案とみなされる(同項各号)。

部会資料14及び第16回会議では,300個以上という議決権数要件を廃止して100分の1以上の割合要件だけにするかも議論されたが,部会資料16はこの点を取り上げていない。

3 株主総会の招集請求と裁判所の許可

総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主は,取締役に対し,株主総会の目的である事項及び招集の理由を示して,株主総会の招集を請求できる(会社法297条1項)。

(続きを読む...)業務執行事項の株主提案の制限と株主総会の招集請求の5%への引上げ―法制審議会部会資料16のA案・B案と第16回会議の議論(AI作成)

平成27年10月の厚生労働省制度変更―被用者年金一元化,派遣法改正,労働契約申込みみなし制度及び医療事故調査制度のその後(AI作成)

目次第1 対象資料と12項目の現在1 資料の性質と確認日2 12項目の一覧第2 年金関係の3項目1 被用者年金の一元化2 厚生年金保険料率は18.3%で固定3 5年後納制度は平成30年9月で終了第3 労働者派遣法の平成27年改正1 施行日と許可制への一本化2 事業所単位と個人単位の期間制限3 雇用安定措置とキャリアアップ4 その後の改正第4 労働契約申込みみなし制度1 平成27年10月1日施行の民事的な効果2 対象となる5つの行為と善意無過失3 承諾の期間と労働条件4 裁判例第5 医療関係の3項目1 医療事故調査制度2 看護師等の届出制度3 特定行為研修第6 その他の4項目1 特定配偶者等支援金2 最低賃金3 若者雇用促進法とユースエール認定4 ジョブ・カード第7 確認の範囲1 確認した資料2 本記事で扱わない事項第8 出典1 厚生労働省資料2 法令3 裁判例4 関連記事
第1 対象資料と12項目の現在
1 資料の性質と確認日

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(平成27年10月)について」は,平成27年9月30日に政策統括官付社会保障担当参事官室が公表した一覧である。
平成27年(2015年)10月に実施される制度変更のうち,特に国民生活に影響を与える事項を,年金,医療,疾病対策及び雇用・労働の4分野に分けて掲げている。
この記事では,掲載された12項目について,その後の改正と現在の運用を一次資料で確かめ,相談や訴訟で古い資料を使うときに取り違えやすい点を整理する。
確認日は令和8年(2026年)10月4日である。
一覧は当時の制度の説明であり,その後に終了し,又は改正された制度が含まれる。
本文の条文は,確認日にe-Gov法令検索で取得した現行の条文による。

2 12項目の一覧
項目平成27年10月の変更確認日現在の状況被用者年金の一元化公務員・私学教職員も厚生年金に加入一元化後の制度が続く。職域部分は廃止され,年金払い退職給付を創設厚生年金保険料率9月分から17.828%平成29年9月分以後は18.3%で固定国民年金の5年後納時効消滅した過去5年分の納付を可能に平成30年9月30日で終了医療事故調査制度予期しなかった死亡・死産の報告と院内調査令和8年8月末までの医療事故報告は累計3,907件看護師等の届出制度免許保持者によるナースセンターへの届出努力義務のまま。届出サイトで受付特定行為研修手順書による特定行為の研修制度を創設令和8年3月現在,指定研修機関505,修了者14,266名特定配偶者等支援金退所者給与金受給者の遺族に月額12万8千円根拠はハンセン病問題基本法15条2項。現行の月額は未確認最低賃金全国加重平均798円令和8年度の改定額の全国加重平均は1,177円ユースエール認定若者の雇用管理が優良な中小企業を認定常時雇用300人以下の事業主が対象ジョブ・カードキャリア・プランニングと職業能力証明の道具に令和4年にウェブサイト「マイジョブ・カード」を公開労働者派遣法の改正許可制への一本化,期間制限の見直し等旧特定派遣の経過措置は平成30年9月29日まで。その後も改正が続く労働契約申込みみなし制度違法派遣の受入れで労働契約の申込みを擬制大阪高裁令和3年11月4日判決が契約の成立を認めた
第2 年金関係の3項目
1 被用者年金の一元化

被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成24年法律第63号)は,附則1条で「この法律は、平成二十七年十月一日から施行する。」と定めている。
同日から,公務員と私立学校教職員も厚生年金保険に加入し,共済年金は厚生年金に統一された。
日本年金機構の解説によれば,統一後の厚生年金に関する届書等は,日本年金機構又は各共済組合等のどの窓口でも受け付けるワンストップサービスとなり,共済年金にあった公的年金としての3階部分(職域部分)は廃止され,新たに「年金払い退職給付」が創設された。
厚生年金の事務は,被保険者の種別に応じて,厚生労働大臣(第1号厚生年金被保険者),国家公務員共済組合等(第2号),地方公務員共済組合等(第3号)及び日本私立学校振興・共済事業団(第4号)が実施している。
厚生労働省の資料は,平成27年9月30日までの共済年金の加入期間分については,同年10月以後も加入期間に応じた職域加算部分を支給するとしている。
離婚時の年金分割や遺族年金の相談では,公務員・私学教職員としての期間を含むかどうか,その期間が一元化の前か後かを分けて,各実施機関の記録を確かめる必要がある。

2 厚生年金保険料率は18.3%で固定

一覧は,厚生年金保険料率が平成27年9月分から0.354%引き上げられ,17.828%になると説明している。
厚生年金保険法81条4項の表は,平成27年9月から平成28年8月までの月分を「千分の百七十八・二八」とし,最終行で「平成二十九年九月以後の月分」を「千分の百八十三・〇〇」としている。
したがって,平成29年9月分以後の保険料率は18.3%で固定されている。
過去の未払保険料や損害額を計算するときは,対象となる月分の率を同条の表で確かめる必要がある。
保険料は月分ごとに率が決まるので,「納付した月」ではなく「何月分の保険料か」で率を選ぶ。

3 5年後納制度は平成30年9月で終了

一覧の5年後納制度は,政府管掌年金事業等の運営の改善のための国民年金法等の一部を改正する法律(平成26年法律第64号)附則10条1項による時限措置である。
同項は,「平成二十七年十月一日から平成三十年九月三十日までの間」に限り,承認の日の属する月前5年以内の期間で,保険料を徴収する権利が時効によって消滅したものについて,後納保険料を納付できるとしていた。
この期間は終了しており,確認日現在,時効で消滅した国民年金保険料を後から納める一般的な制度はない。
日本年金機構も,「「10年後納制度」は、平成27年9月30日をもって、「5年後納制度」は、平成30年9月30日をもって終了しています。」と案内している。

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個人宅で働く家政婦の労災―家事使用人の適用除外,家事支援従事者の特別加入と東京高裁令和6年9月19日判決(AI作成)

目次第1 家事使用人には労働基準法が適用されない1 労働基準法116条2項2 労災保険も適用されない第2 平成30年4月からの家事支援従事者の特別加入1 制度の新設2 加入の方法と保険料3 紹介所と訪問介護事業所を兼ねる事業者に登録している人第3 東京高裁令和6年9月19日判決1 事案2 第一審は請求を棄却した3 控訴審は家事業務も会社の業務と認めた4 判決の射程第4 家庭・事業者・働く人が確認すること1 契約の相手方と業務指示2 家庭が直接雇う場合3 事故が起きたとき第5 確認の範囲第6 出典
第1 家事使用人には労働基準法が適用されない
1 労働基準法116条2項

労働基準法116条2項は,「この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。」と定める。
個人の家庭に直接雇われて家事を行う家政婦(家政夫)は,原則としてこの「家事使用人」に当たる。

厚生労働省の報道発表「「家事使用人の雇用ガイドライン」を策定しました」(令和6年2月8日)は,個人宅に出向き,家庭と直接労働契約を結び,その指示のもと家事一般に従事する家事使用人は,労働契約法の適用は受けるが,労働基準法が適用除外とされていると説明している。
労働契約法21条が適用除外とするのは,国家公務員・地方公務員と,同居の親族のみを使用する場合の労働契約であり,家事使用人は除かれていない。
そのため,家庭は,使用者として,労働者がその生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする義務を負う(同法5条)。

2 労災保険も適用されない

労災保険の給付も,家事使用人には及ばないというのが行政の取扱いである。
厚生労働省労働基準局長の平成30年2月8日付け基発0208第1号「労働者災害補償保険法施行規則等の一部を改正する省令の施行について」は,「家政婦紹介所の紹介等により個人家庭に使用されるために家事使用人として労働基準法及び労災法が適用されない者」がいることを前提に,後記の特別加入制度を設けた理由を説明している。
後記第3の事件でも,労働基準監督署長は,家政婦が「家事使用人」に該当するので労働基準法及び労災保険法は適用されないという理由で,遺族補償給付等を不支給とした。

家庭で働く人がけがをし,又は過労で倒れたときに,労災保険の給付を受けられるかどうかは,①その人が誰に雇われていたか(家庭か,会社か),②家庭に雇われていたなら特別加入をしていたか,の2点で大きく分かれる。

第2 平成30年4月からの家事支援従事者の特別加入
1 制度の新設

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(平成30年4月)について」(平成30年3月23日)は,平成30年4月1日から,個人家庭に雇用され,家事,育児等の作業に従事する者を特別加入制度の対象とすると記載していた。
それまでは,家事使用人のうち介護サービスを提供する者(介護作業従事者)だけが特別加入の対象であった。
同じ時期の制度変更全体と現在の数値は,平成30年4月の厚生労働省制度変更で整理している。

前記の平成30年通達は,その理由として,家事,育児等の支援サービスの需要の増大が見込まれること,家事使用人は介護サービスと家事,育児等の作業を同時に行うことが多く,就労形態や災害の発生状況が介護作業従事者と類似していることを挙げている。

現行の労働者災害補償保険法施行規則46条の18第5号ロは,特別加入の対象となる作業として,「炊事、洗濯、掃除、買物、児童の日常生活上の世話及び必要な保護その他家庭において日常生活を営むのに必要な行為」を掲げている。
平成30年通達によれば,掃除には家具等の清掃が,児童の世話には送迎が,日常生活に必要な行為には裁縫,荷造り,荷物の受取り,寝具の整備,庭の手入れ等が含まれる。
報酬を得ないボランティアは対象とならず,交通費等の実費弁償は報酬に含まれない。

2 加入の方法と保険料

一人親方等と同様に,特別加入は団体を通じて行う。
労働者災害補償保険法35条1項は,特定作業従事者の団体が申請をして政府の承認があったときは,その団体を適用事業及び事業主とみなし,構成員を労働者とみなすと定めている。
平成30年通達によれば,第2種特別加入保険料率は1000分の5(作業の種類の番号は特18)で,介護作業と家事支援作業の両方に従事する人が別々に保険料を負担することはない。
同通達は,保険料は特別加入者自身が負担するのが原則であるが,家事支援従事者については,使用している個人家庭が実質的に負担する場合があるとしている。

特別加入団体の選び方,給付基礎日額及び保険料率の現在の一覧は,労災保険の特別加入制度で整理している。

3 紹介所と訪問介護事業所を兼ねる事業者に登録している人

平成30年通達は,有料職業紹介事業と介護保険法の指定居宅サービス事業を併せて行う事業者について,次のとおり説明している。

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国民健康保険の加入者が転居した場合の高額療養費―同一都道府県内の多数回該当の引継ぎ,転居月の限度額2分の1と令和8年8月の見直し(AI作成)

目次第1 平成30年4月の国保改革と転居1 都道府県が市町村とともに国民健康保険を行う2 保険給付と保険料の事務は市町村に残る第2 多数回該当の回数の引継ぎ1 多数回該当の仕組み2 同一都道府県内の転居では回数を引き継ぐ3 引き継がれない場合第3 転居した月の自己負担限度額の2分の11 趣旨2 条文3 計算例(本記事の試算)4 75歳到達月の特例との違い第4 令和8年8月からの見直しとの関係1 月額の限度額は引き上げられ,多数回該当は据え置かれた2 年間上限が新設された3 令和9年8月からの所得区分の細分化第5 相談を受けたときに確認すること第6 出典
第1 平成30年4月の国保改革と転居
1 都道府県が市町村とともに国民健康保険を行う

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(平成30年4月)について」(平成30年3月23日,政策統括官付社会保障担当参事官室)は,平成30年4月1日から,国民健康保険の財政運営の都道府県単位化を柱とする国保改革を施行するとしていた。
同じ資料は,この改革に伴う高額療養費の取扱いとして,①同一都道府県内の他の市町村へ住所を移した場合の多数回該当の回数の引継ぎと,②転居した月の自己負担限度額を転出元と転入先でそれぞれ2分の1にする取扱いを挙げている。
この記事は,その2点について,資料の記載と確認日(令和8年10月4日)現在の条文とを分けて整理するものである。
平成30年4月の制度変更全体と現在の数値は,平成30年4月の厚生労働省制度変更で扱っている。

現行の国民健康保険法3条1項は,「都道府県は、当該都道府県内の市町村(特別区を含む。以下同じ。)とともに、この法律の定めるところにより、国民健康保険を行うものとする。」と定める。
同法5条は,「都道府県の区域内に住所を有する者は、当該都道府県が当該都道府県内の市町村とともに行う国民健康保険の被保険者とする。」と定める。
資格の取得は「都道府県の区域内に住所を有するに至つた日」等からであり(同法7条),喪失も「都道府県の区域内に住所を有しなくなつた日の翌日」等からである(同法8条1項)。

そのため,同一都道府県内で市町村を移っても,国民健康保険の被保険者の資格は失われない。
栃木県の「制度の変更点」も,県内の他の市町村に転居した場合でも資格は継続するが,被保険者証は転居後の市町村が改めて交付すると説明している。
これに対し,他の都道府県へ転居すると,転出元の都道府県の国保の資格を失い,転入先の都道府県の国保の資格を取得することになる。

2 保険給付と保険料の事務は市町村に残る

もっとも,保険給付が都道府県単位でまとめて行われるようになったわけではない。
厚生労働省の「国保制度改革の概要(運営の在り方の見直し)」は,都道府県が財政運営の責任主体となる一方,市町村が資格管理,保険料率の決定,賦課・徴収,保険給付及び保健事業を引き続き担うとしている。
高額療養費も,「市町村及び組合は、……世帯主又は組合員に対し、高額療養費を支給する。」と定められている(国民健康保険法57条の2第1項)。

このため,同じ都道府県の国保の被保険者であり続けても,支給の事務は転居の前後で別の市町村が行う。
平成30年3月までは,市町村を移ると多数回該当の回数が数え直しになり,転居した月には転出元と転入先の両方で満額の自己負担限度額が適用されていた。
平成30年4月の取扱いは,この2つの不利益を同一都道府県内の転居に限って解消したものである。

第2 多数回該当の回数の引継ぎ
1 多数回該当の仕組み

国民健康保険法施行令29条の3第1項は,70歳未満の世帯の高額療養費算定基準額(自己負担限度額)を所得区分ごとに定めている。
例えば,区分ウ(基礎控除後の所得の合算額が210万円超600万円以下)に当たる同項1号は,令和8年8月以後,「八万五千八百円」と,医療費が28万6000円を超える部分の1%との合算額としている。
同号ただし書は,「当該療養のあつた月以前の十二月以内に既に高額療養費……が支給されている月数……が三月以上ある場合」を「高額療養費多数回該当の場合」とし,その場合の限度額を4万4400円としている。

厚生労働省の「高額療養費の多数回該当に係る該当回数の引継ぎについて」は,多数回該当を,同一保険者から過去12月以内に高額療養費が支給されている月数が3月以上ある世帯について,4月目以降の自己負担限度額を引き下げるものと説明している。
長期にわたって治療を続ける人の負担を抑えるための仕組みである。

2 同一都道府県内の転居では回数を引き継ぐ

国民健康保険法施行令29条の3第1項1号ただし書の括弧書は,支給月数について「市町村による高額療養費の支給にあつては、当該市町村の属する都道府県内の他の市町村から支給されている月数を含む。」と定めている。
この定義は,同項2号から5号まで(区分ア,イ,エ及びオ)のただし書でも用いられている。

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平成30年4月の厚生労働省制度変更―国保の都道府県単位化,障害者雇用率,労災の介護給付・家事支援従事者の特別加入と現在の数値(AI作成)

目次第1 資料の位置付けと現在との違い第2 年金と手当1 国民年金保険料と年金額2 物価スライドの手当第3 医療保険1 国民健康保険の都道府県単位化2 転居したときの高額療養費3 国民健康保険と後期高齢者医療の保険料の上限4 後期高齢者医療の保険料軽減特例と診療報酬第4 雇用・労働1 障害者の法定雇用率2 労災保険の介護(補償)給付3 家事支援従事者の特別加入4 労災保険率等の改定第5 子ども・子育て,福祉及び疾病対策第6 確認の範囲第7 出典
第1 資料の位置付けと現在との違い

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(平成30年4月)について」は,政策統括官付社会保障担当参事官室が平成30年(2018年)3月23日に公表した資料である。
同年4月に実施された変更のうち,国民生活に影響を与える事項として,年金,医療,介護,子ども・子育て,福祉,疾病対策,雇用・労働及び各種手当の8分野を挙げている。

この記事では,そのうち弁護士の相談で問題になりやすい項目について,資料の記載と確認日現在の制度とを分けて整理する。
確認日は令和8年(2026年)10月4日である。
平成30年当時の数字は,過去の保険料,給付額又は雇用義務を計算し直す場面ではそのまま使えるが,現在の相談に当てはめることはできない。

項目平成30年4月の資料の記載令和8年10月4日現在国民年金保険料(月額)1万6340円1万7920円(令和8年度)老齢基礎年金(満額・月額)6万4941円(据置き)7万608円(昭和31年4月2日以後生まれ)国民健康保険財政運営を都道府県単位化都道府県が市町村とともに行う(国民健康保険法3条1項)国保の賦課限度額93万円113万円(子ども・子育て支援納付金分3万円を含む)障害者の法定雇用率(民間)2.2%(精神障害者を雇用義務の対象に)2.7%(令和8年7月から)労災の介護(補償)給付(常時介護の最高限度額)10万5290円18万6050円家事支援従事者労災保険の特別加入の対象に追加現行の労災保険法施行規則46条の18第5号ロ児童扶養手当(第1子・全部支給)4万2500円4万8050円(令和8年度)
第2 年金と手当
1 国民年金保険料と年金額

資料によれば,平成30年度の国民年金保険料は月額1万6340円であった。
これは,法律に規定された保険料額1万6900円(平成16年度価格)に,平成16年度以降の物価や賃金の変動を反映した率0.967を乗じたものである。
同年度の年金額は,平成29年の物価変動率がプラス0.5%,名目手取り賃金変動率がマイナス0.4%であったため,法律の規定により前年度から据え置かれ,老齢基礎年金(満額)は月額6万4941円とされた。

厚生労働省の「令和8年度の年金額改定について」(令和8年1月23日)によれば,令和8年度の国民年金保険料は月額1万7920円であり,法律に規定された保険料額(平成16年度水準)は1万7000円である。
平成30年度の1万6900円から100円上がったのは,平成31年4月に国民年金第1号被保険者の産前産後期間の保険料免除制度が施行され,令和元年度分から保険料が月額100円引き上げられたためである(同資料4頁)。
令和8年度の老齢基礎年金(満額)は,昭和31年4月2日以後生まれの人が月額7万608円,同年4月1日以前生まれの人が月額7万408円である(同資料1頁)。

過去の未納期間の保険料を追納する場合や,過去の年度の年金額を基に計算する場合は,その年度の額を使う必要がある。
国民年金保険料の免除・納付猶予・追納は,国民年金保険料の免除・納付猶予・追納で整理している。

2 物価スライドの手当

資料は,児童扶養手当等の手当額を,平成29年の全国消費者物価指数の上昇(0.5%)を踏まえて0.5%引き上げるとしていた。
平成30年度と令和8年度の主な月額は次のとおりである。

手当平成30年度令和8年度児童扶養手当(第1子・全部支給)4万2500円4万8050円特別児童扶養手当(1級)5万1700円5万8450円特別児童扶養手当(2級)3万4430円3万8930円特別障害者手当2万6940円3万450円特別障害給付金(1級)5万1650円5万8650円

平成30年度の額は資料のリンク先「児童扶養手当等の手当額について」により,令和8年度の額は前記「令和8年度の年金額改定について」の5頁による。
所得制限,支給制限及び認定要件は,各手当の現行の案内で別に確認する必要がある。

第3 医療保険
1 国民健康保険の都道府県単位化

資料は,平成30年4月1日から,国民健康保険の財政運営の都道府県単位化と財政支援の拡充による財政基盤の強化を柱とする国保改革を施行するとしていた。
現行の国民健康保険法3条1項は,「都道府県は、当該都道府県内の市町村(特別区を含む。以下同じ。)とともに、この法律の定めるところにより、国民健康保険を行うものとする。」と定める。
被保険者も,「都道府県の区域内に住所を有する者」とされている(同法5条)。

平成30年3月以前の制度を前提にした書籍や記事には,国民健康保険の被保険者を「市町村の区域内に住所を有する者」と説明するものがある。

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自己都合退職の給付制限―1か月・3か月の区別,重責解雇の認定基準,教育訓練による解除と退職合意書(AI作成)

目次第1 給付制限の仕組み1 条文の定め2 給付制限は給付日数を減らさない第2 給付制限の期間の区別1 退職日と回数による区別2 期間を決めるのは退職日第3 「正当な理由」があれば給付制限はかからない1 判断の基準2 事実の細部で結論が変わる例第4 重責解雇の認定基準1 懲戒解雇なら当然に重責解雇となるわけではない2 離職票の記載と解雇の性質は別の問題である第5 離職理由の認定と争い方1 ハローワークは離職者の申立ても聴く2 審査請求と取消訴訟第6 教育訓練による給付制限の解除1 令和7年4月からの新しい解除事由2 解除される期間3 申出の期限を過ぎると遡って解除されない第7 退職合意書と退職勧奨で確認すること1 合意書の離職理由はハローワークを拘束しない2 代理人が確認する事項第8 本記事で扱わない事項第9 出典・関連記事1 検討した資料2 法令3 裁判例4 関連記事
第1 給付制限の仕組み
1 条文の定め

雇用保険法33条1項本文は,被保険者が「自己の責めに帰すべき重大な理由によつて解雇され、又は正当な理由がなく自己の都合によつて退職した場合」には,待期期間(同法21条の7日間)の満了後「一箇月以上三箇月以内の間で公共職業安定所長の定める期間」は,基本手当を支給しないと定めている。
これが,いわゆる給付制限である。

条文が定めているのは1か月以上3か月以内という幅だけである。
給付制限に当たるかどうかの認定は,公共職業安定所長が厚生労働大臣の定める基準に従って行う(同条2項)。
具体的に何か月とするかは,厚生労働省の「雇用保険に関する業務取扱要領」(以下「要領」という。)の運用で決まる。
本記事は,令和8年10月4日に公表されていた要領(令和8年8月1日以降版。給付制限の部分の改訂表示は令和8年4月)を確認して整理する。

2 給付制限は給付日数を減らさない

要領52205-1イは,給付制限は所定給付日数の短縮ではないとしている。
給付制限の期間中は基本手当が支給されず,失業の認定も行われないが,その分の日数が失われるわけではない。

ただし,基本手当を受けられる期間(受給期間)は原則として離職日の翌日から1年であるため,給付制限が長いと期間内に受け切れないことがある。
雇用保険法33条3項は,給付制限の期間等を加えると1年を超える場合に,その超える期間だけ受給期間を延ばすと定めている。

第2 給付制限の期間の区別
1 退職日と回数による区別

要領52205-1ロ・ハによれば,給付制限の期間は次のとおりである。

離職の理由給付制限の期間正当な理由なく自己都合で退職し,退職日が令和7年4月1日以降原則1か月正当な理由なく自己都合で退職し,退職日が令和7年3月31日以前原則2か月退職日から遡って5年間に2回以上,正当な理由なく自己都合で退職して求職申込みをしていた場合(令和2年10月1日以降の退職に限って数える。)3か月自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇(重責解雇)3か月

要領の「当該退職した日から遡って5年間のうちに2回以上」は,今回の退職を数えずに過去の自己都合退職を数える趣旨である。
令和2年10月に給付制限を3か月から2か月へ短縮したときの厚生労働省のリーフレットは,5年間のうち2回までは短縮後の期間とし,3回目の離職以降は,その離職から遡って5年間に2回以上の自己都合による離職があるかを確認すると説明していた。
したがって,5年以内に3回目となる自己都合退職から3か月になる。

2 期間を決めるのは退職日

給付制限が1か月か2か月かは,求職申込みの日ではなく退職日で決まる。
令和7年3月31日に退職して4月に求職申込みをした者は,原則2か月である。
相談を受けた時点で過去の退職歴を聴き取らないと,3か月になるかどうかを見誤る。

第3 「正当な理由」があれば給付制限はかからない
1 判断の基準

要領52203は,「正当な理由」とは,被保険者の状況(健康状態,家庭の事情等)や事業所の状況(労働条件,雇用管理の状況,経営状況等)からみて,その退職が真にやむを得ないことが客観的に認められる場合をいい,被保険者の主観的判断は考慮されないとしている。

同要領が正当な理由があるとする場合には,例えば次のものがある。
①倒産手続の申立てや不渡り等により事業所の倒産がほぼ確実となった場合,大量の人員整理が行われた場合,事業所が廃止された場合

(続きを読む...)自己都合退職の給付制限―1か月・3か月の区別,重責解雇の認定基準,教育訓練による解除と退職合意書(AI作成)

令和7年4月の厚生労働省制度変更―雇用保険,育児・介護休業法,年金・手当の実務確認(AI作成)

目次第1 対象資料と確認日1 資料の性質2 実務で使う変更の一覧第2 雇用保険の給付の変更1 自己都合退職の給付制限の短縮と解除2 出生後休業支援給付金3 育児時短就業給付金4 高年齢雇用継続給付の給付率の引下げ5 雇用保険料率第3 育児・介護休業法と次世代法の改正1 育児期の働き方2 育児休業取得状況の公表義務3 介護離職防止のための措置4 次世代法の一般事業主行動計画5 令和7年10月施行分との関係第4 年金・手当の金額は年度で読み替える1 令和7年度と令和8年度の比較2 金額を使うときの注意第5 医療・健康,福祉及び援護1 予防接種と医療費助成2 住居確保給付金の転居費用補助3 戦没者等の遺族に対する第十二回特別弔慰金第6 確認の範囲第7 出典・関連記事1 検討した資料2 法令3 関連記事
第1 対象資料と確認日
1 資料の性質

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(令和7年4月)について」は,令和7年(2025年)4月に実施された厚生労働省関係の制度変更のうち,特に国民生活に影響を与える事項をまとめた一覧である。
医療,健康・衛生,雇用・労働,福祉,年金,薬事,援護及び各種手当の分野ごとに,項目名,内容,主な対象者,担当部局及びリンク先が並んでいる。

一覧の項目のうち「※1」が付いたものは,作成時点では予算案が成立した場合の内容として記載されていた。
一覧は制度の要点だけを示すものであり,要件や例外は根拠法令とリンク先の案内で確かめる必要がある。

本記事の確認日は令和8年(2026年)10月4日である。
一覧から1年半が経過しているため,当時の金額と現在の金額を分け,現在も効力を持つ変更と,期間が終わった措置を区別して整理する。
なお,一覧の「出生後休業支援給付」と「育児時短就業給付」の行にあるリーフレットへのリンクは,確認日には開けなかった(HTTP 404)。
これらの給付は,厚生労働省の育児休業等給付の案内ページとQ&Aで確認した。

2 実務で使う変更の一覧
分野令和7年4月の主な変更実務での確認事項雇用保険の給付自己都合退職の給付制限を原則1か月に短縮,教育訓練による解除,出生後休業支援給付金・育児時短就業給付金の創設,高年齢雇用継続給付の最大給付率の引下げ退職日,受講開始日,申出の期限,休業・時短の開始日雇用保険料率一般の事業で14.5/1000に引下げ適用される年度と事業の種類育児・介護休業法子の看護等休暇の拡大,残業免除の対象拡大,育児休業取得状況の公表義務の拡大,介護の個別周知・意向確認等就業規則,労使協定,面談記録次世代法一般事業主行動計画の策定時に状況把握・数値目標の設定を義務付け常時雇用する労働者の数,計画期間年金・手当年金額1.9%の引上げ,各種手当の引上げ支給月がどの年度の額か医療・健康・福祉・援護帯状疱疹ワクチンの定期接種化,住居確保給付金の転居費用補助,第十二回特別弔慰金対象年齢,自治体の要件,請求期限
第2 雇用保険の給付の変更
1 自己都合退職の給付制限の短縮と解除

雇用保険法33条1項は,被保険者が自己の責めに帰すべき重大な理由によって解雇され,又は正当な理由がなく自己の都合によって退職した場合,待期期間の満了後「一箇月以上三箇月以内の間で公共職業安定所長の定める期間」は基本手当を支給しないと定めている。
期間を1か月とするか3か月とするかは,法律ではなく,厚生労働省の「雇用保険に関する業務取扱要領」の運用基準で定められている。

同要領によれば,令和7年4月1日以降に正当な理由なく自己都合で退職した場合の給付制限は原則1か月であり,同年3月31日以前の退職では原則2か月である。
退職日から遡って5年間に2回以上,正当な理由なく自己都合で退職して求職申込みをしていた場合と,重責解雇の場合は3か月となる。

令和6年改正により,雇用保険法33条1項ただし書に2号と3号が加わった。
令和7年4月1日以降に受講を開始した教育訓練給付金の対象講座等を,離職日前1年以内に受けたか,離職日以後に受ける場合には,重責解雇の場合を除き,給付制限が解除される。
解除を受けるには,受給資格決定日又は初回の失業認定日等までにハローワークへ申し出る必要がある。
申出の期限と数え方,重責解雇の認定基準及び退職合意書との関係は,自己都合退職の給付制限で詳しく整理する。

2 出生後休業支援給付金

出生後休業支援給付金は,被保険者が子の出生後の対象期間内に通算14日以上の育児休業(産後パパ育休を含む。)をし,配偶者も一定期間内に通算14日以上の育児休業をした場合に支給される(雇用保険法61条の10第1項)。
配偶者がいない場合,配偶者が雇用される労働者でない場合,配偶者が産後休業をした場合等は,配偶者の育児休業の要件が外れる(同条2項)。

支給額は,休業開始時賃金日額に出生後休業の日数(28日が上限)を乗じた額の100分の13である(同条6項)。
厚生労働省の育児休業等給付のQ&A(Q40)は,育児休業給付の67%と合わせて80%となり,社会保険料の免除や非課税を加味すると手取りで10割相当になると説明している。
一覧の「手取り10割相当」は,この合計と負担の軽減を合わせた説明であり,出生後休業支援給付金だけで賃金の全額が出るわけではない。

令和7年4月より前から続けて育児休業をしている場合は,同年4月1日に休業を開始したものとみなして要件を確認する(同Q&A・Q42)。

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平成29年10月の厚生労働省制度変更―育児休業の2歳までの延長,厚生年金保険料率の固定,療養病床の光熱水費及び最低賃金の現在(AI作成)

目次第1 資料の位置付けと現在との違い第2 厚生年金保険料率は18.3%で固定されている1 平成29年9月分で引上げが終了した2 料率が同じでも保険料額は変わる第3 療養病床に入院する65歳以上の人の光熱水費1 入院時生活療養費の対象者2 平成29年10月と平成30年4月の見直し3 令和8年6月から1日430円第4 育児休業の2歳までの延長と現在の手続1 平成29年10月の改正の内容2 育児休業給付の延長は令和7年4月から審査が厳格化された3 早期の職場復帰を促すこととハラスメント4 個別周知は令和4年4月から義務になった5 育児目的休暇は努力義務のまま,式典への参加は子の看護等休暇の対象になった第5 最低賃金は「当時の額」と「現在の額」を分ける1 平成29年度と令和8年度の地域別最低賃金2 過去の未払賃金の計算と時効第6 確認の範囲第7 出典
第1 資料の位置付けと現在との違い

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(平成29年10月)について」は,政策統括官付社会保障担当参事官室が平成29年(2017年)9月27日に公表した資料である。
同年10月に実施された変更のうち,国民生活に影響を与える事項として,年金,医療,雇用・労働の4項目を挙げている。

この記事では,4項目のそれぞれについて,資料の記載と確認日現在の制度とを分けて整理する。
確認日は令和8年(2026年)10月4日である。
資料からリンクされた厚生労働省・日本年金機構のページには,既に削除されたものがある。
平成29年当時の数字は,過去の保険料・賃金・入院費を計算し直す場面ではそのまま使えるが,現在の相談に当てはめることはできない。

項目平成29年10月の資料の記載令和8年10月4日現在厚生年金保険料率平成29年9月分から18.3%となり,引上げは終了18.3%のまま。ただし標準報酬月額の上限は令和9年9月から段階的に引上げ療養病床の光熱水費65歳以上の医療療養病床の入院患者の負担を1日370円(医療区分2・3は200円)へ平成30年4月に医療区分を問わず370円となり,令和8年6月から430円育児・介護休業法育児休業を最長2歳まで延長,個別周知と育児目的休暇の努力義務を創設2歳までの延長は維持。個別周知は義務化され,給付の延長は令和7年4月から審査が厳格化地域別最低賃金全国加重平均848円(22円~26円の引上げ)令和8年度は全国加重平均1,177円。大阪府は令和8年10月1日から1,231円
第2 厚生年金保険料率は18.3%で固定されている
1 平成29年9月分で引上げが終了した

厚生年金保険法81条4項は,保険料率を月分ごとに表で定めている。
この表は,平成16年10月分の1000分の139.34から始まり,平成28年9月分まで毎年9月分から1000分の3.54ずつ引き上げ,最後の行で「平成二十九年九月以後の月分」を「千分の百八十三・〇〇」としている。
資料が「0.118%引上げ」とするのは,平成28年9月分からの1000分の181.82と比べた差である。

保険料は,被保険者と事業主が半額ずつ負担する(同法82条1項)。
したがって,平成29年9月分以後の通常の厚生年金保険料は,本人負担と事業主負担がそれぞれ標準報酬月額等の9.15%である。
過去の保険料を計算し直す場面では,月分ごとに81条4項の表のどの行に当たるかを確認する。
引上げ途中の年度の料率と,給与から前月分の保険料を控除する取扱いは,平成26年10月の厚生労働省制度変更で整理している。

2 料率が同じでも保険料額は変わる

保険料額は,標準報酬月額及び標準賞与額に保険料率を掛けて計算する(同法81条3項)。
料率が固定されていても,標準報酬月額が変われば保険料額は変わる。

厚生労働省の「厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げについて」によれば,令和7年の年金制度改正により,標準報酬月額の上限は65万円から,令和9年(2027年)9月に68万円,令和10年9月に71万円,令和11年9月に75万円へと段階的に引き上げられる。
上限に当たる高所得の役員・従業員は,料率が変わらなくても保険料が増えることになる。
「料率の引上げは終わった」という説明を,「保険料は増えない」と言い換えてはならない。

保険料の折半,給与からの控除及び令和8年度の健康保険料率は,社会保険の加入・保険料・資格取得喪失と士業の適用で整理している。
短時間労働者の本人負担を軽減する制度は,保険料調整制度の実務を参照されたい。

第3 療養病床に入院する65歳以上の人の光熱水費
1 入院時生活療養費の対象者

健康保険法63条2項は,療養病床に入院する人のうち,65歳に達する日の属する月の翌月以後である被保険者を「特定長期入院被保険者」とし,その食事の提供と,温度・照明・給水に関する療養環境の形成を「生活療養」としている。
特定長期入院被保険者の食費と光熱水費は,療養の給付ではなく入院時生活療養費の対象となる(同法85条の2第1項)。

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平成28年4月の厚生労働省制度変更―当時の金額・基準と令和8年の現行制度(AI作成)

目次第1 資料の性質と本記事の使い方第2 20項目の当時と現在1 一覧表第3 年金・医療保険の保険料と上限額1 国民年金保険料と老齢基礎年金の額2 標準報酬月額と標準賞与額の上限3 国民健康保険の賦課限度額と後期高齢者医療の保険料第4 医療の給付と受診の仕組み1 紹介状なしの大病院受診時の定額負担2 入院時の食費3 患者申出療養と診療報酬改定第5 雇用・労働1 雇用保険料率2 障害者雇用促進法の差別禁止と合理的配慮3 女性活躍推進法4 キャリアコンサルタントの登録制度5 労災保険の介護(補償)給付第6 子育て・福祉・援護・手当・旅館業1 認可外保育施設の届出2 社会福祉法人と退職手当共済3 戦傷病者等の妻に対する特別給付金4 児童扶養手当等5 簡易宿所の客室延床面積第7 古い制度変更一覧を使うときの注意第8 確認の範囲第9 出典
第1 資料の性質と本記事の使い方

厚生労働省「厚生労働省関係の主な制度変更(平成28年4月)について」は,平成28年3月29日に政策統括官付社会保障担当参事官室が公表した一覧である。
同年4月に実施される変更のうち国民生活に影響を与える事項として,年金,医療,子ども・子育て,福祉,援護,雇用・労働,各種手当・手数料及びその他の8分野にわたり,20項目を掲げている。
本記事は,令和8年10月4日に同ページ及びリンク先の資料を確認し,各項目の当時の内容と,同日時点の現行の金額・条文とを対照するものである。

この一覧は10年前の資料であり,金額,対象範囲及び条番号の多くはその後に改められている。
他方で,過去の一定期間の保険料や給付額を計算し直す場面,例えば社会保険の資格を遡って精算する場合,平成28年度から平成29年度にかけての損害額を算定する場合又は当時の行政の取扱いが争点になる場合には,当時の額と基準を使う必要がある。
そこで本記事では,①当時の値,②現行の値,③両者の間で変わった根拠の順に整理する。
金額は,原則として,令和8年10月4日にe-Gov法令検索,厚生労働省・こども家庭庁等の公表資料で確認したものである。

元の一覧からリンクされた資料には,消えたもの,同じURLのまま現行の内容に差し替えられたもの及び当時の内容のまま残るものが混在している。
例えば,平成28年度の年金額改定の報道発表ページと後期高齢者医療の保険料率の報道発表ページは確認日には表示されなかった。
戦傷病者等の妻に対する特別給付金のページは,同じURLで令和8年の給付金の案内に差し替えられていた。
リンク先の記載を当時の資料として引用する前に,その資料の作成日を確認する必要がある。

本記事の姉妹記事として,令和8年4月の厚生労働省制度変更及び令和7年10月の厚生労働省制度変更がある。

第2 20項目の当時と現在
1 一覧表

次の表は,元の一覧の20項目について,当時の変更内容と令和8年10月時点の内容を並べたものである。
金額は1か月当たり又は1食当たり等の単位が項目ごとに異なるので,各節の説明と併せて読む必要がある。

項目平成28年4月の変更令和8年10月時点国民年金保険料月額1万6260円令和8年度は月額1万7920円,令和9年度は月額1万8290円年金額前年度から据置き。老齢基礎年金の満額は月額6万5008円令和8年度は月額7万608円(昭和31年4月1日以前生まれは7万408円)診療報酬改定本体0.49%の引上げ令和8年度改定は3.09%の引上げ(令和8・9年度の平均)。令和8年6月施行紹介状なしの大病院受診特定機能病院と一般病床500床以上の地域医療支援病院で,初診5000円以上・再診2500円以上の徴収を責務化令和4年10月から一般病床200床以上の地域医療支援病院等に拡大。初診7000円以上・再診3000円以上(医科)患者申出療養創設健康保険法63条2項4号の保険外併用療養として存続入院時の食費1食260円から360円へ。平成30年4月から460円令和8年6月1日から1食550円(一般)標準報酬月額の上限健康保険は第47級121万円から第50級139万円へ。標準賞与額の年間上限は540万円から573万円へ健康保険は第50級139万円・年間573万円のまま。厚生年金は第32級65万円で,令和9年9月から段階的に引上げ予定後期高齢者医療の保険料率広域連合ごとに2年ごとに改定令和8・9年度の医療分の全国平均は月額7989円の見込み国民健康保険の賦課限度額85万円から89万円へ令和8年度は合計113万円(子ども・子育て支援納付金分3万円を含む)認可外保育施設の届出1日に保育する乳幼児が6人以上から1人以上へ児童福祉法59条の2。届出不要の施設は同法施行規則49条の2に列挙社会福祉法人制度改革地域における公益的な取組の責務,特別の利益供与の禁止,閲覧対象の拡大等社会福祉法24条2項,27条,45条の32第4項等社会福祉施設職員等退職手当共済支給乗率の見直し,合算できる期間を2年以内から3年以内へ等社会福祉施設職員等退職手当共済法11条8項の「三年以内」戦傷病者等の妻に対する特別給付金平成28年4月1日時点の妻が対象。請求期間は平成31年4月15日まで令和8年の戦傷病者等妻給付金の請求期間は令和9年2月28日まで雇用保険料率失業等給付の料率を1.0%から0.8%へ。一般の事業の合計は11/1000令和8年度の一般の事業は合計13.5/1000(労働者負担5/1000)障害者雇用促進法差別禁止と合理的配慮の提供義務の施行同法34条~36条の3。民間企業の法定雇用率は令和8年7月から2.7%キャリアコンサルタント登録制度の創設職業能力開発促進法30条の19。登録は5年ごとの更新制女性活躍推進法全面施行。常時雇用301人以上の事業主に行動計画の策定・届出・情報公表を義務付け令和4年4月から101人以上に拡大。令和8年4月から101人以上にも男女間賃金差異と女性管理職比率の公表義務。法の期限は令和18年3月31日労災保険の介護(補償)給付常時介護の最高限度額10万4950円・最低保障額5万7030円等常時介護の最高限度額18万6050円・最低保障額9万790円等児童扶養手当等前年比0.8%の引上げ。児童扶養手当(全部支給)は月額4万2330円令和8年4月からの見込額で月額4万8050円(全部支給)旅館業法施行令簡易宿所の客室延床面積の基準に,宿泊者10人未満の場合の特例を新設現在は同令1条2項1号に規定
第3 年金・医療保険の保険料と上限額
1 国民年金保険料と老齢基礎年金の額

平成28年度の国民年金保険料は月額1万6260円であった。
元の一覧は,法律に定める平成28年度の保険料額1万6660円に,物価と賃金の変動を反映した率0.976を乗じた額と説明している。
厚生労働省が平成28年1月29日に公表した資料にも,同年度の保険料額1万6260円と老齢基礎年金の満額の月額6万5008円が記載されている。

国民年金法87条3項は,表に定める額に保険料改定率を乗じて保険料額を定める仕組みであり,同項の表の最後の区分は令和元年度以後の月分の1万7000円である。
厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」によれば,令和8年度の保険料は月額1万7920円,令和9年度は月額1万8290円である。
同資料によれば,令和8年度の老齢基礎年金の満額(1人分)は月額7万608円であり,昭和31年4月1日以前生まれの者は月額7万408円である。
基礎年金は前年度比1.9%の引上げとされている。
平成28年度に据え置かれた年金額は,その後の改定を経て,令和8年度には月額で5600円高くなっている。
もっとも,実際の受給額は納付済期間等によって異なるので,満額を個人の受給額として扱ってはならない。

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平成26年4月の厚生労働省制度変更―父子家庭の遺族基礎年金,未支給年金,育児休業給付,医療保護入院及び指定薬物の実務確認(AI作成)

目次第1 対象資料と古い制度変更一覧の使い方1 対象資料2 古い一覧は「基準日」を探すために使う第2 年金関係は死亡日で適用が分かれる1 遺族基礎年金の父子家庭への支給2 未支給年金を請求できる遺族の範囲3 産前産後休業中の保険料免除と繰下げ第3 雇用保険は暫定措置の期限を確認する1 育児休業給付の67%2 再就職手当の上乗せ3 特定理由離職者の暫定措置第4 医療・介護・障害福祉の変更1 70歳~74歳の窓口負担2 国民健康保険・後期高齢者医療の保険料3 介護報酬・障害福祉第5 精神保健福祉法:保護者制度の廃止と医療保護入院1 平成26年4月の改正2 確認日現在の条文第6 指定薬物の所持・使用は平成26年4月1日から処罰対象第7 厚生年金基金と当時の金額1 厚生年金基金2 当時の金額第8 確認の範囲第9 出典
第1 対象資料と古い制度変更一覧の使い方
1 対象資料

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(平成26年4月)について」は,平成26年3月31日付けで政策統括官付社会保障担当参事官室が公表した一覧である。
平成26年4月に実施される厚生労働省関係の制度変更のうち,国民生活に影響を与える事項を,雇用・労働,年金,医療保険,介護保険,障害者福祉,薬事,各種手当・手数料の7分野に分けて掲げている。
この記事では,一覧本文と,一覧からリンクされた説明資料7点(育児休業給付等,保険料軽減,手当額,検疫法施行令等,障害者総合支援法,介護納付金の告示,平成24年の年金改正法の概要)を確認した。
確認日は令和8年(2026年)10月4日である。

2 古い一覧は「基準日」を探すために使う

12年前の制度変更一覧は,現在の制度の説明には使えない。
他方で,弁護士の実務では,死亡日,離職日,行為日又は入院日によって適用される法律が分かれる場面が多い。
平成26年4月1日は,消費税率の8%への引上げと同時に,社会保障・税一体改革の一部が施行された日であり,遺族年金,未支給年金,精神科病院への入院手続及び指定薬物の処罰の範囲について,前後で結論が変わり得る。
この記事では,各項目について,①当時の変更内容,②施行日前の事案に旧法が適用されるかどうか,③確認日現在の条文を分けて整理する。

分野平成26年4月の変更確認日現在の状況と実務上の注意遺族基礎年金支給対象を「妻」から「配偶者」へ広げ,父子家庭にも支給平成26年4月1日以後の死亡に適用。令和10年4月から子の支給停止の規定が変わる未支給年金請求できる遺族を生計同一の3親等内の親族まで拡大平成26年4月1日以後の死亡に適用。相続財産ではない産休中の保険料厚生年金・健康保険の保険料を産前産後休業中は免除事業主の申出が必要。国民年金第1号被保険者には別の規定育児休業給付休業開始後6か月(180日)の給付率を50%から67%へ67%の部分は現行法でも維持。その後,出生後休業支援給付等が加わった雇用保険の暫定措置特定理由離職者の給付日数の拡充等を3年間延長その後も延長され,現行法では令和9年3月31日までの離職が対象70歳~74歳の窓口負担新たに70歳になる人から段階的に法定の2割負担へ現行法でも原則2割(現役並み所得者は3割)医療保護入院保護者制度を廃止し,「家族等」のいずれかの同意で入院令和6年4月から入院期間の定めと市町村長同意の範囲拡大指定薬物所持,使用,購入及び譲受けも禁止平成26年4月1日前の所持等は処罰されない。現行の法定刑は拘禁刑厚生年金基金新設を認めず,特例解散制度等を見直し当時の5年間の時限措置の対象かどうかを時期で確認手当額児童扶養手当等を0.3%引下げ当時の月額は過去の受給額の確認に限って使う
第2 年金関係は死亡日で適用が分かれる
1 遺族基礎年金の父子家庭への支給

平成26年3月までの遺族基礎年金は,子のある妻又は子に支給する制度であり,妻を亡くした夫には支給されなかった。
平成24年法律第62号(公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律)は,これを「配偶者」に改め,社会保障・税一体改革の消費税率引上げと同じ平成26年4月1日から施行した。
現行の国民年金法37条は,遺族基礎年金を死亡した者の「配偶者又は子」に支給すると定め,37条の2第1項1号は,配偶者について,死亡当時に生計を維持され,かつ,要件を満たす子と生計を同じくすることを求めている。

(1) 施行日前の死亡には旧法が適用される

平成24年法律第62号附則8条は,改正後の遺族基礎年金の規定を,施行日以後に死亡した被保険者等について適用し,施行日前の死亡については支給要件について「なお従前の例による」と定めている。
したがって,平成26年3月31日以前に妻が死亡した父子家庭では,その後に法律が改正されても,夫が遺族基礎年金を受けることはできない。
相談では,受給できるかどうかを現在の条文だけで判断せず,死亡日を最初に確認する必要がある。

(2) 令和10年4月からの変更

令和7年法律第74号による改正後の国民年金法41条2項(令和10年4月1日施行)は,子に対する遺族基礎年金の支給停止事由から,「生計を同じくするその子の父若しくは母があるとき」を削っている(e-Govの未施行版で確認)。
確認日現在の41条2項では,生計を同じくする父又は母があるときは,子に対する遺族基礎年金の支給が停止される。
離婚後に子と同居していた親が死亡し,子がもう一方の親に引き取られる場合等は,施行日の前後で結論が変わり得るため,請求の時期と経過措置を個別に確認する必要がある。
同じ改正法による遺族厚生年金の見直し(厚生年金保険法59条等)の経過措置は,この記事では検討していない。

(3) 男女差が残る制度との比較

遺族基礎年金では男女差が解消されたが,公務災害の遺族補償年金のように,妻以外の遺族にだけ年齢等の要件を課す制度は残っている(確認日現在の地方公務員災害補償法32条1項ただし書)。
最高裁平成29年3月21日第三小法廷判決(平成27年(行ツ)第375号,集民255号55頁)は,地方公務員災害補償法32条1項ただし書及び附則7条の2第2項のうち,死亡した職員の夫について一定の年齢に達していることを遺族補償年金の受給要件とする部分は,憲法14条1項に違反しないと判断した(裁判所ウェブサイト)。

(続きを読む...)平成26年4月の厚生労働省制度変更―父子家庭の遺族基礎年金,未支給年金,育児休業給付,医療保護入院及び指定薬物の実務確認(AI作成)

裁量労働制の令和6年4月改正―本人同意と撤回,労使委員会,健康・福祉確保措置及び継続導入の手続(AI作成)

目次第1 改正の概要と効力への影響1 改正の根拠と施行日2 改正後の要件を満たさない協定・決議は無効になる第2 専門業務型裁量労働制1 労使協定に加わった事項2 同意の取り方3 同意の撤回4 対象業務に加わったM&Aアドバイザーの業務第3 企画業務型裁量労働制1 決議に加わった事項2 労使委員会の運営3 定期報告第4 両制度に共通する運用上の留意点1 時間配分の裁量2 みなし労働時間と処遇3 健康・福祉確保措置第5 弁護士が確認する資料と論点1 使用者側の点検2 労働者側から残業代を請求する場面第6 本記事で扱わない事項第7 出典・関連記事
第1 改正の概要と効力への影響
1 改正の根拠と施行日

裁量労働制には,労使協定で定める専門業務型裁量労働制(労働基準法38条の3)と,労使委員会の決議で定める企画業務型裁量労働制(同法38条の4)がある。
どちらも,要件を満たせば,対象業務に就いた労働者は協定又は決議で定めた時間労働したものとみなされる。
令和6年4月1日,労働基準法施行規則等を改正する令和5年厚生労働省令第39号と,企画業務型の指針及び専門業務型の対象業務を定める告示を改正する令和5年厚生労働省告示第115号が施行・適用された(厚生労働省「裁量労働制の概要」)。
法律の条文は改正されておらず,協定事項・決議事項の具体化,労使委員会の運営及び対象業務の追加が省令と告示で行われた。

本記事は,令和8年10月4日にe-Gov法令検索の現行の労働基準法及び労働基準法施行規則,施行通達(令和5年8月2日基発0802第7号。以下「施行通達」という。)及び厚生労働省のリーフレットを確認して,改正の内容と,弁護士が使用者側・労働者側の相談で確認する事項を整理するものである。
令和6年4月の厚生労働省関係の制度変更の全体は,令和6年4月の厚生労働省制度変更―労働条件明示,裁量労働制,時間外労働の上限規制及び医療保護入院の実務確認で扱っている。

2 改正後の要件を満たさない協定・決議は無効になる

施行通達18頁は,令和6年4月1日を有効期間に含む専門業務型の労使協定及び企画業務型の決議は,改正後の省令及び告示に適合したものでない場合には,同日以降無効となるとしている。
厚生労働省のリーフレット「裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です」も,新たに又は継続して裁量労働制を導入するには,専門業務型の労使協定と企画業務型の運営規程・決議に新しい事項を加え,導入・適用までに(継続導入する事業場では令和6年3月末までに)労働基準監督署へ協定届・決議届を届け出る必要があるとしていた。

改正前から裁量労働制を続けている事業場では,令和6年4月以降の協定・決議に新しい事項が入っているかを確認しないと,みなし労働時間制が適用されているという前提自体が崩れることがある。
なお,令和6年3月31日以前に改正後の内容で協定・決議をして新様式で届け出た場合は,施行時に改めて届け出る必要はないとされた(施行通達19頁)。

第2 専門業務型裁量労働制
1 労使協定に加わった事項

労働基準法38条の3第1項6号は,同項1号から5号までの事項のほか厚生労働省令で定める事項を協定で定めるとしている。
これを受けた現行の労働基準法施行規則24条の2の2第3項は,次の事項を定めている。

①使用者は,労働者を対象業務に就かせたときは協定で定める時間労働したものとみなすことについて当該労働者の同意を得なければならないこと及び当該同意をしなかった当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと(1号)
②同意の撤回に関する手続(2号)
③労使協定の有効期間の定め(3号)
④労働時間の状況並びに健康及び福祉を確保するための措置の実施状況,苦情の処理に関する措置の実施状況並びに同意及びその撤回について,労働者ごとの記録を有効期間中及びその満了後に保存すること(4号)

使用者は,④の記録を作成して保存しなければならない(同規則24条の2の2の2)。
保存期間は,条文上は有効期間中及び満了後5年間であるが,同規則71条により当分の間は3年間とされている。

2 同意の取り方

施行通達2頁~3頁は,同意は労働者ごとに,かつ,労使協定の有効期間ごとに得る必要があるとしている。
また,制度の概要,同意した場合に適用される評価制度とこれに対応する賃金制度の内容,同意しなかった場合の配置及び処遇を,使用者が労働者に明示したうえで説明して同意を得ることを協定で定めることが適当であるとしている。
さらに,処遇等について十分な説明がなされなかったこと等により,同意が労働者の自由な意思に基づくものとは認められない場合には,労働時間のみなしの効果が生じないことがあるとしている。

この記載からすると,使用者側の点検では,同意書が存在するかだけでなく,同意を得た時期が協定の有効期間ごとになっているか,同意の前に評価・賃金制度と不同意の場合の処遇を書面で示したかを確認することになる。
労働者側からみなしの効果を争う場面では,同意書の日付,同意の前に交付された説明資料及び同意を求められた際の状況が検討の対象になる。

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令和6年4月の厚生労働省制度変更―労働条件明示,裁量労働制,時間外労働の上限規制及び医療保護入院の実務確認(AI作成)

目次第1 資料の性質と本記事の確認範囲第2 労働条件の明示と裁量労働制1 労働条件明示事項の追加2 裁量労働制の手続の見直し第3 時間外労働の上限規制と改善基準告示1 適用が猶予されていた事業・業務2 改善基準告示の改正第4 障害者の法定雇用率第5 精神保健福祉法の改正1 医療保護入院の入院期間と更新2 市町村長の同意による医療保護入院3 虐待の通報,入院者訪問支援事業及び措置入院者の退院支援4 成年後見人・保佐人が関与する場面第6 医療・年金・給付に関する変更1 新型コロナウイルス感染症の治療薬とワクチン2 難病法の改正3 医療保険の負担と財政の変更4 令和6年度の金額第7 出典・関連記事
第1 資料の性質と本記事の確認範囲

厚生労働省「厚生労働省関係の主な制度変更(令和6年4月)について」は,令和6年4月に実施される厚生労働省関係の制度変更のうち,特に国民生活に影響を与える事項を,医療,健康・衛生,雇用・労働,福祉,年金,薬事,各種手当・手数料及びその他の区分ごとに一覧にしたものである。
掲載ページに作成日又は更新日の表示はない。
一部の項目に「予算案が成立した場合」という注記が付いていることから,令和6年度予算の成立前に作られた一覧と考えられる。

本記事は,令和8年10月4日に同ページ,そのリンク先の厚生労働省資料及びe-Gov法令検索の法令を確認し,令和6年4月の変更のうち,労働相談,企業法務,成年後見及び家族からの相談で確認する機会が多い事項を整理するものである。
法令は現行の版を基本とし,改正の前後を確かめる必要がある条文は,令和6年3月31日時点と同年4月1日時点の版を比べた。
一覧の掲載から2年半が経過しており,年度ごとに改定される金額や,その後さらに引き上げられた率は,令和6年4月時点の値と現在の値が異なる。
そこで,以下では,①令和6年4月に何が変わったか,②令和8年10月時点で何が適用されているか,③実務で何を確認するかを分けて書く。

令和8年度の金額・料率は,令和8年4月の厚生労働省制度変更―雇用,年金,医療・福祉給付の実務確認で扱っている。
令和7年10月の変更は,令和7年10月の厚生労働省制度変更―育児,教育訓練,最低賃金,生活保護及び医療の実務確認で扱っている。

第2 労働条件の明示と裁量労働制
1 労働条件明示事項の追加

令和5年厚生労働省令第39号による労働基準法施行規則の改正が令和6年4月1日に施行され,労働基準法15条1項により明示すべき労働条件が追加された。
厚生労働省の案内ページ「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」は,根拠として同省令と令和5年厚生労働省告示第114号を掲げている。

現行の労働基準法施行規則5条1項1号の3は,明示事項を「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)」と定めている。
同項1号の2は,有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項について,通算契約期間又は更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含むと定めている。
無期転換申込権が発生する有期労働契約の締結の場合には,同条5項により,労働契約法18条1項の無期転換申込みに関する事項と,無期転換後の労働条件も明示事項となり,そのうち書面等で明示すべき事項は同条6項が定めている。
e-Gov法令検索で令和6年3月31日時点と同年4月1日時点の版を比べると,同規則5条は同日に改められている。

配転命令の可否を検討する場面では,令和6年4月以降に締結された労働契約であれば,労働条件通知書等に記載された就業場所・業務の変更の範囲が,職種又は勤務地の限定合意の有無を判断する資料になる。
他方,それより前に締結された労働契約では,変更の範囲の記載がないことだけから限定合意の有無を判断することはできない。
配転命令の判断枠組みは配転命令(転勤命令)の有効性―就業規則の根拠,職種・勤務地の限定合意と東亜ペイント事件の判断枠組みで,更新上限・無期転換申込権と雇止めの関係は有期労働契約の期間・更新・雇止め・無期転換ルールで扱っている。

2 裁量労働制の手続の見直し

裁量労働制についても,令和5年厚生労働省令第39号と令和5年厚生労働省告示第115号が令和6年4月1日から施行・適用された(厚生労働省「裁量労働制の概要」)。
専門業務型裁量労働制では,本人の同意を得ること,同意をしなかった労働者に不利益な取扱いをしないこと,同意の撤回の手続等が労使協定で定める事項に加わった(労働基準法施行規則24条の2の2第3項)。
企画業務型裁量労働制では,同意の撤回の手続と,評価制度・賃金制度を変更する場合の労使委員会への説明が決議事項に加わり(同規則24条の2の3第3項),労使委員会の運営規程の記載事項と定期報告の頻度も改められた。
専門業務型の対象業務には,銀行又は証券会社におけるいわゆるM&Aアドバイザーの業務が加わった。

施行通達(令和5年8月2日基発0802第7号)は,令和6年4月1日を有効期間に含む労使協定及び決議は,改正後の省令及び告示に適合したものでない場合には同日以降無効となるとしている。
したがって,残業代請求でみなし労働時間制の適用が争われる事件では,令和6年4月以降の期間について,協定・決議に新しい必要事項が定められていたかをまず確認する。
改正の内容と確認資料は,裁量労働制の令和6年4月改正―本人同意と撤回,労使委員会,健康・福祉確保措置及び継続導入の手続で詳しく扱う。

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令和6年10月の厚生労働省制度変更―被用者保険の51人以上適用,長期収載品の選定療養,コロナ定期接種,教育訓練給付及び最低賃金のその後(AI作成)

目次第1 提供資料と5項目の現在第2 被用者保険の適用拡大1 令和6年10月の企業規模要件の引下げ2 令和8年10月1日の賃金要件の撤廃3 企業規模要件の段階的縮小と個人事業所第3 長期収載品の選定療養1 令和6年10月1日に始まった仕組み2 令和8年6月1日から価格差の2分の13 公費負担医療・生活保護の扱い第4 新型コロナワクチンの定期接種1 特例臨時接種からB類の定期接種へ2 健康被害救済の水準が変わったこと第5 教育訓練給付の拡充1 令和6年10月1日の給付率の引上げ2 現在の給付率と上限額3 同時期の別の改正との区別第6 最低賃金1 令和6年度から令和8年度までの推移2 未払賃金の計算と給与の点検第7 確認の範囲1 確認した範囲2 本記事で扱わない事項第8 出典1 提供資料2 法令3 厚生労働省・日本年金機構の資料
第1 提供資料と5項目の現在

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(令和6年10月)について」は,令和6年(2024年)10月に実施された制度変更のうち,国民生活に特に影響を与える事項を,医療,健康・衛生,雇用・労働及び年金の4分野に分けて一覧にした資料である。
ページに作成日・更新日の表示はない。
掲載項目は,被用者保険の適用拡大(医療関係と年金関係に再掲),長期収載品の選定療養,新型コロナワクチンの定期接種,教育訓練給付の拡充及び最低賃金額の改定の5項目である。

この記事では,5項目それぞれについて,①一覧の記載,②根拠となる法令・告示・公的資料で確認した内容,③令和8年(2026年)10月4日現在までの変化を区別して整理する。
一覧は令和6年10月時点の説明であり,その後に割合・金額・要件が改められた項目がある。
令和6年10月の一覧を,そのまま現在の相談の根拠に使うことはできない。

項目令和6年10月の変更令和8年10月4日現在被用者保険の適用拡大短時間労働者の企業規模要件を従業員数100人超から50人超へ引下げ令和8年10月1日に月額8万8000円の賃金要件を撤廃。企業規模要件は令和9年10月から段階的に縮小長期収載品の選定療養後発医薬品のある先発医薬品を患者が希望した場合に,価格差の4分の1を「特別の料金」として負担令和8年6月1日から価格差の2分の1に引上げ新型コロナワクチン全額公費の特例臨時接種が終わり,65歳以上等を対象とするB類の定期接種として開始令和8年度も10月1日から翌年3月31日まで定期接種を実施(原則有料)教育訓練給付専門実践は最大80%,特定一般は最大50%へ追加給付同じ給付率が続いている最低賃金全国加重平均1,055円令和8年度の全国加重平均1,177円。10月1日から12月2日までに順次発効
第2 被用者保険の適用拡大
1 令和6年10月の企業規模要件の引下げ

一覧は,短時間労働者への被用者保険(健康保険・厚生年金保険)の適用について,企業規模要件を従業員数100人超から50人超へ引き下げると説明し,根拠として年金制度改正法(令和2年法律第40号)を挙げている。
同法は,企業規模要件を令和4年10月に101人以上,令和6年10月に51人以上の企業へ段階的に広げたものである。

ここでいう「従業員数」は,雇用する全員の数ではない。
日本年金機構の案内では,1年のうち6か月以上,厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まず,共済組合員を含む。)の総数が51人以上となることが見込まれる企業等を特定適用事業所とし,法人は法人番号が同じ全事業所の合計で,個人事業主は事業所ごとに数える。
パート・アルバイトの頭数で数えて対象外と判断すると,加入漏れが生じる。

令和6年10月当時,特定適用事業所で働く短時間労働者が加入する要件は,①週の所定労働時間が20時間以上,②所定内賃金が月額8万8000円以上,③2か月を超える使用の見込み,④学生でないことの4つであった。

2 令和8年10月1日の賃金要件の撤廃

令和7年の年金制度改正法(令和7年法律第74号)は,②の賃金要件の撤廃の施行日を政令に委ねた。
令和8年9月11日に公布された令和8年政令第275号は,同法附則1条1項9号に基づき,この施行日を令和8年10月1日と定めた。
現在の厚生年金保険法12条5号と健康保険法3条1項9号は,4分の3未満の短時間労働者のうち「一週間の所定労働時間が二十時間未満であること」又は学生等に当たる者だけを被保険者から除く形になっている。

厚生労働省は,令和7年度の地域別最低賃金が全都道府県で時給1,016円を超え,週20時間働けば月額8万8000円に達することを撤廃の理由として説明している。
いわゆる「106万円の壁」は,この賃金要件から生じた通称であった。

例外として,最低賃金法7条の減額特例の許可を受けた短時間労働者で,報酬が月額8万8000円未満の者は,原則として被保険者とならない(厚生年金保険法附則4条の6第1項,健康保険法附則8条の3の2第1項)。
この者は,本人の申出により被保険者となることができ,厚生労働省は申出に事業主の同意は不要と案内している。

事業主は,令和8年10月1日から加入対象となった短時間労働者について,資格取得届の提出漏れがないかを確認する必要がある。
新たに加入した短時間労働者の保険料負担を3年間軽減する保険料調整制度は,保険料調整制度の実務で整理している。

3 企業規模要件の段階的縮小と個人事業所

厚生労働省の資料では,企業規模要件は,令和9年10月に36人以上,令和11年10月に21人以上,令和14年10月に11人以上へ縮小され,令和17年10月に撤廃される。
人数の数え方は,上記1の厚生年金保険の被保険者の総数である。

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平成26年10月の厚生労働省制度変更―教育訓練給付,最低賃金,厚生年金保険料率及び中国残留邦人等の配偶者支援の現在(AI作成)

目次第1 対象資料と4つの変更第2 教育訓練給付は率と期限が変わった1 平成26年改正の内容2 現在の給付率と上限3 教育訓練支援給付金は「半額」ではない4 受給要件で誤りやすい点5 期限後の取扱いと受講中の離職・就職第3 最低賃金は年度と発効日で確認する1 平成26年度の改定2 令和8年度の改定と発効日3 過去の未払賃金を計算するとき4 平成26年度以降の推移と発効日の確認表第4 厚生年金保険料率は18.3%で固定された1 段階的引上げの終了2 前月分の保険料を控除する3 令和7年改正で変わる標準報酬月額の上限4 上限引上げによる保険料の試算と役員報酬への影響第5 中国残留邦人等の特定配偶者に対する支援1 平成25年の議員立法2 特定配偶者と配偶者支援金3 相談で確認すること4 収入認定と配偶者支援金の請求手続第6 確認の範囲第7 出典1 法令2 公的資料
第1 対象資料と4つの変更

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(平成26年10月)について」は,平成26年9月26日に政策統括官付社会保障担当参事官室が公表した資料である。
同年10月に実施される変更のうち,国民生活に影響を与える事項として,雇用・労働関係2項目,年金関係1項目,援護関係1項目の計4項目を掲げている。
本記事は,令和8年(2026年)10月4日に,この資料の全項目とリンク先の資料を確認し,現在の法令及び公的資料と照合したものである。

約12年前の資料なので,掲げられた率や金額の多くは現在と異なる。
過去の賃金・保険料・給付を計算するときは当時の資料を使い,現在の相談では現行の条文と最新の公表資料を使う,という区別が実務上の出発点となる。

制度平成26年10月の内容令和8年10月4日現在教育訓練給付専門実践教育訓練の受講費用の4割,就職等で2割追加(年48万円上限)。教育訓練支援給付金を創設(基本手当の半額,平成30年度までの暫定措置)専門実践は基本5割(年40万円),資格取得・就職で7割(年56万円),賃金上昇で8割(年64万円)。支援給付金は基本手当日額相当額の6割で,令和9年3月31日までに受講を開始した者が対象最低賃金全都道府県で13円~21円の引上げ。全国加重平均780円令和8年度の答申では54円~65円の引上げ。全国加重平均1177円。令和8年10月1日から12月2日まで順次発効厚生年金保険料率9月分から0.354%引上げ,17.474%平成29年9月分以後18.3%で固定中国残留邦人等の支援特定配偶者に対する配偶者支援金の創設支援法15条。令和8年度の月額は4万6938円
第2 教育訓練給付は率と期限が変わった
1 平成26年改正の内容

提供資料は,平成26年3月に成立した改正雇用保険法により,同年10月1日から教育訓練給付制度が拡充されると説明している。
根拠となったのは雇用保険法の一部を改正する法律(平成26年法律第13号,同年3月31日公布)であり,雇用保険法60条の2の改正と附則11条の2の新設は,同法附則1条2号により同年10月1日に施行された。

当時の内容は,厚生労働大臣が指定する専門的・実践的な教育訓練(専門実践教育訓練)を受けた場合に受講費用の4割を給付し,資格取得等の上で就職したときは2割を追加する(給付上限は年間48万円)というものであった。
一般教育訓練給付金は受講費用の2割,上限10万円と紹介されている。
また,45歳未満の離職者が専門実践教育訓練を受講する場合に,訓練中,基本手当の半額を支給する教育訓練支援給付金が平成30年度までの暫定措置として創設された。

2 現在の給付率と上限

現行の雇用保険法60条の2第4項は,教育訓練給付金の額を,受講費用に「百分の二十以上百分の八十以下の範囲内において厚生労働省令で定める率」を乗じた額としている。
具体的な率と上限は雇用保険法施行規則101条の2の7及び101条の2の8が定めている。

専門実践教育訓練は,基本が受講費用の5割(年間上限40万円)である。
資格取得等の上で就職した場合は7割(年間上限56万円)となり,さらに賃金が5%以上上昇した場合は8割(年間上限64万円)となる。
8割の区分は令和6年法律第26号による改正で設けられ,令和6年10月1日以後に受講を開始した者に適用される。
一般教育訓練は2割(上限10万円),特定一般教育訓練は4割(上限20万円)で,資格取得等の上で就職した場合は5割(上限25万円)である。

平成26年当時の4割と2割(年48万円)という説明は,現在の給付額の計算には使えない。
受講者が給付を見込んで講座を選ぶ場合は,受講開始日を基準に,どの区分の率と上限が適用されるかを厚生労働省の教育訓練給付制度の案内で確認する必要がある。

3 教育訓練支援給付金は「半額」ではない

教育訓練支援給付金の額は,平成26年の創設時は基本手当日額に相当する額の5割であった。
その後,平成29年法律第14号による改正で平成30年1月1日から8割に引き上げられ,期限も延長された。
さらに,令和6年法律第26号による改正で,令和7年4月1日から6割に改められた。
同日より前に受講を開始した者には,従前の8割が適用される。

現行の雇用保険法附則11条の2第1項は,対象を「令和九年三月三十一日以前に」専門実践教育訓練等を開始した者で,「当該教育訓練を開始した日における年齢が四十五歳未満であるものに限る」としている。

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トラックの荷役作業の墜落防止―昇降設備・保護帽の対象車両,テールゲートリフターの特別教育と白ナンバー(AI作成)

目次第1 改正の経緯と施行日1 令和5年の安衛則改正2 施行日は二段階第2 昇降設備(安衛則151条の67)1 最大積載量2トン以上の車両が対象2 昇降設備に当たるもの3 2トン未満の車両第3 保護帽(安衛則151条の74)1 対象となる3類型2 平ボディ車・ウイング車とバン3 テールゲートリフター設置車4 2トン未満の車両と高さ2メートル以上の作業第4 テールゲートリフターの特別教育(安衛則36条5号の4)1 対象となる業務2 教育の科目と時間3 科目の省略4 記録の保存と罰則第5 運転位置から離れる場合と作業開始前点検第6 白ナンバーのトラックと荷主の現場第7 荷役中の墜落事故が起きたときの確認事項第8 調査範囲第9 出典
第1 改正の経緯と施行日
1 令和5年の安衛則改正

トラックの荷台への昇り降りや荷の積み卸しの際の墜落・転落を防ぐため,労働安全衛生規則(以下「安衛則」という。)が令和5年に改正された。
施行通達(令和5年3月28日基発0328第5号)によれば,労働安全衛生規則の一部を改正する省令(令和5年厚生労働省令第33号)と,安全衛生特別教育規程の一部を改正する件(令和5年厚生労働省告示第104号)が同日公布された。

施行通達は,改正の趣旨について,陸上貨物運送事業における労働災害の発生件数が増加傾向にあり,特に荷役作業に係る労働災害が多発していることを挙げている。
この記事は,厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(令和5年10月)」に掲載された項目のうち,トラックの荷役作業を掘り下げるものであり,同月の他の変更は令和5年10月の厚生労働省制度変更で整理している。
確認日は令和8年(2026年)10月4日であり,条文はe-Gov法令検索の現行条文によった。

2 施行日は二段階

施行日は項目によって異なる。

改正項目条文施行日昇降設備の設置義務の対象を最大積載量2トン以上へ拡大安衛則151条の67令和5年10月1日保護帽の着用義務の対象を一部の2トン以上5トン未満の車両へ拡大安衛則151条の74令和5年10月1日運転位置から離れる場合の措置の一部改正安衛則151条の11令和5年10月1日テールゲートリフターの操作の業務を特別教育の対象に追加安衛則36条5号の4令和6年2月1日
第2 昇降設備(安衛則151条の67)
1 最大積載量2トン以上の車両が対象

安衛則151条の67第1項は,事業者は,最大積載量が2トン以上の貨物自動車に荷を積む作業(ロープ掛けの作業及びシート掛けの作業を含む。)又は荷を卸す作業(ロープ解きの作業及びシート外しの作業を含む。)を行うときは,「床面と荷台との間及び床面と荷台上の荷の上面との間を安全に昇降するための設備を設けなければならない」と定めている。
同条2項は,作業に従事する者に,昇降の際にその設備を使用する義務を課している。

改正前の対象は最大積載量5トン以上の車両であり,2トン以上5トン未満の車両が加わった。
施行通達は,荷台からの墜落・転落が多いことを踏まえて「床面と荷台との間」を明記したものであり,荷台には昇るが荷の上には昇らない場合は荷台への昇降設備だけで足りるとしている。

2 昇降設備に当たるもの

施行通達によれば,昇降設備には,踏み台等の可搬式のもののほか,車両に設置された昇降用のステップ等が含まれる。
テールゲートリフターを中間位置で停止させてステップとして使用する場合も,昇降設備として認められる。
もっとも,製造者が動作時の搭乗を認めていないテールゲートリフターに労働者を乗せて昇降させることは,車両系荷役運搬機械等を主たる用途以外に使用することを禁じた安衛則151条の14に当たる場合があるとされている。

施行通達は,昇降設備の構造として,手すりのあるもの,踏板に一定の幅や奥行きのあるもの,車両のステップであれば乗降グリップがあり三点支持等で安全に昇降できる形式のものが望ましいとしている。
令和5年8月1日付けの事務連絡(問答)は,あおりの内側に回転してステップとなる部分がある「あおり内側回転式ステップ」は昇降設備に含まれるとし,運転席後方のタラップは乗降を前提に安全に昇降できるものなら昇降設備として扱ってよいとする一方,巻き込み防止柵は原則として昇降設備と認められないとしている(問10・問11)。

3 2トン未満の車両

最大積載量2トン未満の車両は安衛則151条の67の対象ではない。
しかし,施行通達は,高さが1.5メートルを超える箇所で作業を行うときは安衛則526条が適用されることに留意すべきであるとしている。
同条1項は,高さ又は深さが1.5メートルを超える箇所で作業を行うときは,安全に昇降するための設備等を設けなければならないと定めている(作業の性質上著しく困難なときを除く。)。

第3 保護帽(安衛則151条の74)
1 対象となる3類型

安衛則151条の74第1項は,次のいずれかに該当する貨物自動車で荷を積み卸す作業を行うときは,墜落による危険を防止するため,労働者に保護帽を着用させなければならないと定めている。

(続きを読む...)トラックの荷役作業の墜落防止―昇降設備・保護帽の対象車両,テールゲートリフターの特別教育と白ナンバー(AI作成)

令和5年10月の厚生労働省制度変更―難病・小児慢性特定疾病の助成開始日,最低賃金,トラック荷役の墜落防止及び生活扶助の実務確認(AI作成)

目次第1 対象時点と5つの変更第2 指定難病・小児慢性特定疾病の医療費助成の開始日1 申請日から診断日へ遡る仕組み2 遡りの日を具体的に数える3 軽症高額の基準を満たした人4 診断年月日とやむを得ない理由第3 最低賃金は年度と発効日で確認する第4 トラック荷役作業の墜落防止第5 生活扶助基準の見直しと特例加算第6 確認の範囲第7 出典
第1 対象時点と5つの変更

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(令和5年10月)について」は,令和5年(2023年)10月に実施された制度変更のうち,健康・衛生,雇用・労働及び福祉の5項目をまとめた一覧である。
同ページには更新日の記載がなく,掲載されたリーフレットも令和5年当時のものである。

この記事では,5項目それぞれについて,当時の変更内容を一次資料で確かめた上で,確認日である令和8年(2026年)10月4日現在の数値や運用と区別して整理する。
対象読者としては,医療費助成の申請を支える家族・成年後見人,賃金の点検をする使用者,荷役作業のある事業者,生活保護の相談を受ける支援者を想定している。

制度令和5年10月の変更現在の確認事項指定難病の医療費助成助成の開始日を申請日から「重症度分類を満たしていることを診断した日」等へ前倒し診断日と申請日の間隔,1か月・3か月の遡り期間,軽症高額の基準日小児慢性特定疾病の医療費助成助成の開始日を申請日から「疾病の状態の程度を満たしていることを診断した日」へ前倒し医療意見書の診断年月日,遡り期間,やむを得ない理由地域別最低賃金39円~47円の引上げ,全国加重平均1,004円当時の額と令和8年度の額,都道府県ごとの発効日トラックの荷役作業昇降設備・保護帽の義務の対象を最大積載量2トン以上へ拡大車両の最大積載量と荷台の構造,テールゲートリフターの特別教育生活扶助基準検証結果の反映,月額1,000円の特例加算,従前額保障令和7年10月の1,500円,令和8年10月からの2,500円との区別
第2 指定難病・小児慢性特定疾病の医療費助成の開始日
1 申請日から診断日へ遡る仕組み

令和5年10月1日から,指定難病の特定医療費の支給認定は,申請日ではなく,指定医が病状の程度を満たしていると診断した日に遡って効力を生ずるようになった。
難病の患者に対する医療等に関する法律(以下「難病法」という。)7条5項1号は,支給認定は,指定医が「当該者の病状の程度が同号の厚生労働大臣が定める程度であると診断した日」又は「当該支給認定の申請のあった日から当該申請に通常要する期間を勘案して政令で定める一定の期間前の日のいずれか遅い日」に遡って効力を生ずると定めている。

この「一定の期間」は,難病法施行令3条1項本文により1か月である。
ただし,指定医が診断書の作成に期間を要したことその他のやむを得ない理由により,診断した日から1か月以内に申請しなかったときは,同項ただし書により3か月となる。

小児慢性特定疾病医療費についても,児童福祉法19条の3第8項が同じ構造の規定を置いている。
「一定の期間」は,児童福祉法施行令22条の2により原則1か月,やむを得ない理由があるときは3か月である。

これらの改正は,障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第104号)によるもので,難病・小慢合同委員会の令和5年7月10日の資料1(2頁~3頁)は,この部分の施行日を令和5年10月1日としている。
厚生労働省のリーフレットは,令和5年10月1日以降の申請から適用し,同日より前の医療費は対象にできないと説明している。

2 遡りの日を具体的に数える

遡る日は,診断した日と,申請日の1か月前(やむを得ない理由があれば3か月前)の日のうち遅い方である。
例えば,6月1日に指定医が重症度分類を満たすと診断し,6月20日に申請した場合は,1か月前の日が5月20日なので,遅い方の6月1日から助成の対象となる。
同じ診断で8月15日に申請した場合は,1か月前の日である7月15日が遅い方となり,6月1日から7月14日までの医療費は対象外となる。
この場合でも,やむを得ない理由があれば3か月前の日(5月15日)と比べることになり,遅い方の6月1日まで遡る。

このように,遡りは最長3か月に限られ,申請が遅れるほど対象外の期間が生ずる。
日の数え方の細部と,やむを得ない理由の認定は申請先の都道府県・指定都市(小児慢性特定疾病では中核市・児童相談所設置市を含む。)が行うため,具体的な事案では申請窓口に確認する必要がある。

3 軽症高額の基準を満たした人

重症度分類を満たさない場合でも,医療費が高額な状態が続くときは支給認定の対象となる。
難病法7条1項2号の政令で定める基準について,難病法施行令2条は,指定難病に係る医療の費用の額が「三万三千三百三十円を超えた月数が当該支給認定の申請を行った日の属する月以前の十二月以内に既に三月以上ある」ことを挙げている。

この類型では,難病法7条5項2号により,遡る日は「同号の政令で定める基準に該当することとなった日の翌日」と申請日の1か月前(やむを得ない理由があれば3か月前)の日のいずれか遅い日である。
診断日ではなく,基準を満たした日の翌日が起点になる点が重症度分類の場合と異なる。

4 診断年月日とやむを得ない理由

(続きを読む...)令和5年10月の厚生労働省制度変更―難病・小児慢性特定疾病の助成開始日,最低賃金,トラック荷役の墜落防止及び生活扶助の実務確認(AI作成)

令和5年4月の厚生労働省制度変更―中小企業の月60時間超割増賃金,賃金のデジタル払い,繰下げみなし増額及び医療保護入院の「家族等」(AI作成)

目次第1 制度変更一覧を過去の事案に当てはめる際の確認順序1 資料の性質2 過去の事案では「いつの制度か」を先に確定する第2 雇用・労働関係1 中小企業の月60時間超の時間外労働の割増賃金率2 賃金のデジタル払い3 男性労働者の育児休業取得状況の公表4 雇用保険料率5 労災保険給付の額と第14次労働災害防止計画第3 年金関係1 特例的な繰下げみなし増額2 保険料と年金額第4 医療・福祉関係1 出産育児一時金2 物価に連動する給付額3 医療保護入院の「家族等」からの虐待等の加害者の除外4 措置入院の告知事項第5 援護関係第6 確認の範囲第7 出典
第1 制度変更一覧を過去の事案に当てはめる際の確認順序
1 資料の性質

厚生労働省「厚生労働省関係の主な制度変更(令和5年4月)について」は,令和5年4月に実施される制度変更のうち国民生活に影響を与える事項を,医療・健康,雇用・労働,子ども・子育て,福祉,年金及び援護の6分野に分けて列挙した資料である。
各項目には内容,主な対象者,担当部局及び関連ページへのリンクが記載されている。
もっとも,同資料は令和5年4月の実施に先立って公表された予告的な一覧であり,給付額の引上げ等の多くの項目には「予算案が成立した場合」という注記が付されている。

本記事は,令和8年10月4日に同資料と関連する公開資料を確認し,同年4月の変更のうち,未払残業代,賃金の支払方法,企業の情報公表,年金の請求,精神科医療への入院及び給付額の年度管理について,現在の相談でも確認が必要になる事項を整理するものである。
法令の条文は,同日にe-Gov法令検索の法令APIで取得した現行条文及び施行日別の条文により確認した。
一覧に掲載された項目のうち,HPVワクチンの定期接種,薬価改定及びオンライン資格確認の原則義務化は,本記事では制度の現状まで検討していない。

2 過去の事案では「いつの制度か」を先に確定する

令和5年4月の一覧は,公表から3年以上が経過している。
保険料率,年金額及び各種手当の額は毎年度改定されているため,一覧の数値を現在の相談にそのまま用いることはできない。
逆に,令和5年度の事案(例えば同年度中の未払賃金,同年度分の給付の遡及請求)では,現在の額ではなく当時の額を用いる必要がある。

実務では,①問題となる行為又は給付の対象期間,②その期間に適用される条文の版,③その期間の金額・料率,④経過措置の有無,⑤現在の手続の窓口の順に確認する。
令和8年4月の変更は令和8年4月の厚生労働省制度変更で,令和7年10月の変更は令和7年10月の厚生労働省制度変更で整理しているので,年度ごとの比較に用いられたい。

第2 雇用・労働関係
1 中小企業の月60時間超の時間外労働の割増賃金率

労働基準法37条1項ただし書は,延長した労働時間が1か月について60時間を超えた場合には,その超えた時間の労働について通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならないと定める。
令和4年6月17日施行時点の同法には,中小事業主の事業については当分の間この37条1項ただし書を適用しないとする138条があったが,令和5年4月1日施行時点の版では同条が削除されていることを,e-Govの施行日別条文で確認した。

(1) 引上げの対象となる時間

厚生労働省のリーフレット「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」は,令和5年4月1日から労働させた時間について引上げの対象となると説明している。
したがって,中小企業の未払残業代を計算する場合,令和5年3月31日以前の時間外労働については,月60時間を超えた部分も25%以上の割増率で計算し,同年4月1日以後の時間外労働について50%以上の割増率を用いることになる。
中小企業に当たるかは,業種ごとの資本金の額若しくは出資の総額又は常時使用する労働者数のいずれかを満たすかにより,事業場単位ではなく企業単位で判断される。

(2) 60時間の数え方

同リーフレットによれば,月60時間の算定には法定休日に行った労働時間は含まれないが,それ以外の休日に行った労働時間は含まれる。
月60時間を超える時間外労働を深夜に行わせた場合は,深夜割増25%と時間外割増50%を合わせて75%となる。
また,1か月の起算日からの時間外労働時間数を累計して60時間を超えた時点から50%以上の率で計算するとされているので,就業規則等で1か月の起算日を確認する必要がある。

令和8年10月時点では,賃金請求権の消滅時効との関係で,令和5年3月以前の分が請求対象に残る事案は限られる。
もっとも,時効の完成が猶予されている事案や,既に係属している訴訟では,令和5年4月の前後で割増率を分けた計算書になっているかを確認する必要がある。
時効期間の詳細は賃金・残業代の消滅時効は3年か5年かを,割増賃金の計算方法と代替休暇は時間外労働,休日労働及び深夜労働と残業代請求を参照されたい。

(続きを読む...)令和5年4月の厚生労働省制度変更―中小企業の月60時間超割増賃金,賃金のデジタル払い,繰下げみなし増額及び医療保護入院の「家族等」(AI作成)