目次
第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 公式の告知で確認できる事例1 マンガ図書館Z2 DLsite第3 法律は表現の内容を理由とする決済停止を規制しているか1 割賦販売法の加盟店調査と契約解除2 国会での政府答弁3 国際ブランドの規則4 独占禁止法第4 決済代行会社による売上金の留保―東京地裁令和7年2月27日判決1 事案2 判断3 実務上の意味第5 政府の動きと代替手段1 成長戦略の「コンテンツ」2 代替手段としての円建てステーブルコイン第6 決済を止められた加盟店が確認する事項第7 関連記事第8 出典
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日
日本の法律に違反しない漫画,同人誌,ゲーム等を販売しているのに,カード会社や決済代行会社の判断でクレジットカード決済が使えなくなることがある。
この記事は,この問題を法律の側から整理し,販売事業者(加盟店)が決済を止められたときに確認する事項をまとめるものである。
基準日は令和8年10月25日であり,法令はe-Gov法令検索で,国会での答弁は国会会議録検索システムで,事業者・官庁の対応は各社・各庁の公表資料(Mastercardの規則はInternet Archiveの保存版)で確認した。
令和8年9月18日にデジタル大臣政務官兼内閣府大臣政務官に任命された赤松健参議院議員は,同年10月18日にX(旧Twitter)で公開した漫画「赤松健の国会にっき」第381回で,日本で合法な創作表現でも決済手段が使えないと事実上の表現規制となる場合があるとして,これを「いわゆる『クレカ問題』」と呼んでいる。
同じ漫画で,赤松政務官は,代替手段の検討を含めた解決策の研究を「公務(政府)として」行っていること,JPYC株式会社の代表者から聞き取りを行い,今後も関係事業者から聞き取りを行う予定であることを説明している。
なお,赤松政務官は,後記のマンガ図書館Zの前身「Jコミ」を立ち上げ,マンガ図書館Zの運営会社である株式会社Jコミックテラスの取締役会長を務めた経歴がある。
2 結論
結論は,次の4点である。
①割賦販売法は,加盟店と契約を結ぶ事業者に,加盟店の調査と,基準に適合しないおそれがある場合の契約締結の禁止・契約解除等の措置を義務付けているが,その目的はカード番号の適切な管理と不正利用の防止であり,取り扱う商品の表現の内容を基準とするものではない。
②国会では,令和5年に経済産業省大臣官房審議官が,割賦販売法には取扱商材の表現内容に関する規制を設けていないと答弁し,令和6年には経済産業大臣が,どのような商材の決済を行うかはカード会社の経営上の判断によるものと答弁している。
③Mastercardの規則には,同社の信用を害するおそれがあるかどうかを同社の単独の裁量で判断して取引を禁止する条項があり,表現物の決済停止の根拠は,割賦販売法よりも,契約と国際ブランドの規則の側にあると考えられる。
④決済代行会社の利用規約にある売上金の支払延期・支払留保の条項を,その趣旨に照らし,それぞれ最終決済日又は弁済期日から6か月間に限ると解釈した裁判例があり(東京地裁令和7年2月27日判決),決済を止められた加盟店の売上金の回収で参考になる。
第2 公式の告知で確認できる事例
1 マンガ図書館Z
漫画の配信サイト「マンガ図書館Z」の運営会社は,サイト停止の告知で,「先月決済代行会社から通達があり、決済サービスの契約を10月末ですべて解約せざるを得なくなりました。」と説明し,「決済代行会社とも早急に協議いたしましたが、カード会社の判断によるものであり、すでに弊社では覆すことのできない状況でした。」としている。
告知は,解約の対象を「決済サービスの契約」と書いており,特定のカードブランドに限っていない。
また,告知は,カード会社が何を理由に判断したかを書いていない。
この件は,令和6年12月11日の衆議院予算委員会でも取り上げられた。
2 DLsite
販売サイト「DLsite」の運営会社は,「2024年4月3日(水)18時より、Visa、Mastercardのご利用が一時停止いたします。」と告知し,翌日には「American Expressのご利用も一時停止」したと追記した。
この告知も,停止の理由を書いていない。
他の決済手段(PayPay,コンビニ払い,ネットバンキング等)は使えるとしている。
第3 法律は表現の内容を理由とする決済停止を規制しているか
1 割賦販売法の加盟店調査と契約解除
(1) 調査の目的は番号の管理と不正利用の防止
割賦販売法は,加盟店とクレジットカード番号等取扱契約を結ぶ事業者(クレジットカード番号等取扱契約締結事業者)に,契約前の調査を義務付けている(同法35条の17の8第1項)。
その目的は,「販売業者又は役務提供事業者によるクレジットカード番号等の適切な管理及び利用者によるクレジットカード番号等の不正な利用の防止を図るため」と定められている。
(続きを読む...)合法な表現物でもカード決済が止まる「クレカ問題」の法律関係―割賦販売法の加盟店調査,政府答弁,国際ブランドの規則及び決済代行会社の売上金留保(AI作成)