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企業法務・民事実務

社員のミスやAIの使いすぎで会社が損害を受けたとき,本人に請求できるか―茨石事件・福山通運事件と労働基準法16条・24条(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の要旨1 本記事が扱う場面2 結論の要旨第2 あらかじめ賠償額を決めておくことはできない(労働基準法16条)1 条文と行政解釈2 社内規程と誓約書の点検3 研修費用・留学費用の返還の約束第3 給料から差し引くことも原則としてできない(労働基準法24条1項)1 全額払の原則と控除の例外2 損害賠償債権で相殺することもできない3 社員の同意がある場合4 業務の費用を社員に負担させる合意第4 現実の損害の請求は信義則上相当な限度に制限される(茨石事件)1 事案と判断2 考慮要素の読み方3 下級審での使われ方4 請求できる期間第5 社員が被害者に賠償した場合(福山通運事件)1 事案と判断2 補足意見3 茨石事件との関係第6 生成AIの利用料が高額になった場合への当てはめ1 報道された事例2 考慮要素との対応3 会社が先に整えておくこと第7 懲戒処分・退職金との関係1 懲戒処分2 退職金の減額・不支給第8 身元保証人への請求1 身元保証法の定め2 裁判例第9 関連する山中弁護士ブログの記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 判例秘書で確認した裁判例(裁判所ウェブサイト未掲載)4 行政解釈5 報道・公表資料
第1 本記事の対象と結論の要旨
1 本記事が扱う場面

本記事は,社員が業務の遂行中にミスをして会社に損害を与えた場合に,会社がその社員に賠償を求めることができるか,できるとしてどの範囲かを,労働基準法16条・24条1項と最高裁判例に沿って説明するものである。
典型的な場面は,社用車の事故,機械や商品の破損及び取引上の損失であるが,本記事では,業務で使う生成AIの利用料が社員の使い方によって高額になった場面も取り上げる。
本記事の記載は,令和8年9月13日時点の法令,裁判例及び公表資料に基づく。

本記事は,主として過失による損害を対象とする。
故意による加害の場合も損害の公平な分担という同じ枠組みで判断されることがあるが,社員側に重い負担が認められやすく,横領の事案では全額の請求が認められた例もある(第4の3の故意による加害の項)。
あわせて,研修費用の返還の約束(第2の3),業務の費用を社員に負担させる合意(第3の4),退職金の減額・不支給(第7の2)及び身元保証人への請求(第8)も取り上げる。

2 結論の要旨

①あらかじめ「損害は本人負担」「超過分は自己負担」のように賠償額を決めておくことはできない(労働基準法16条)。
②損害の賠償を理由に,給料から一方的に差し引くこともできない(同法24条1項)。
③現実に生じた損害の賠償を求めること自体はできるが,最高裁昭和51年7月8日第一小法廷判決(いわゆる茨石事件)により,信義則上相当と認められる限度に制限され,下級審には損害の4分の1程度に制限した例や請求を全部認めなかった例がある。
④社員が被害者に賠償した場合には,逆に社員から会社へ求償できることがある(最高裁令和2年2月28日第二小法廷判決,いわゆる福山通運事件)。
⑤懲戒処分は,損害の賠償とは別に,就業規則上の根拠と労働契約法15条の枠組みで判断される。
⑥研修費用を退職時に返還させる約束は,研修が業務としての性質を持つ場合などには労働基準法16条に反し無効とされる一方,社費留学の費用を貸付けとして扱う合意の効力を認めた裁判例もある。
⑦退職金の全額不支給は,勤続の功を抹消するほどの重大な不信行為がある場合に限られるとした裁判例がある。
⑧身元保証人の責任は,身元保証法5条によって軽減され,全部免責された例もある。

第2 あらかじめ賠償額を決めておくことはできない(労働基準法16条)
1 条文と行政解釈

労働基準法16条は,「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と定めている。
同法の施行時の通達である「労働基準法の施行に関する件」(昭和22年9月13日発基第17号)は,同条について,「本条は、金額を予定することを禁止するのであつて、現実に生じた損害について賠償を請求することを禁止する趣旨ではないこと。」としている。

したがって,同条が禁止しているのは,損害が生じる前に賠償の額を決めておく契約であり,実際に生じた損害の賠償を後から求めることまでは禁止されていない。
後から請求する場合の範囲の問題は,第4で説明する茨石事件の枠組みで判断される。

2 社内規程と誓約書の点検
(1) 予定に当たるおそれがある定め

「社用車を破損した場合は1回につき〇万円を負担する」「ミス1件につき〇円を支払う」のように金額を決めておく定めは,同条の「損害賠償額を予定する契約」に当たる。
生成AIについて「月額の上限を超えた利用料は本人の負担とする」と定める場合も,実際の損害の有無や社員の過失の程度を問わずに負担額の算定方法を先に決めるものであるから,同条に反するおそれが強いと考えられる。
就業規則は法令に反してはならず(労働基準法92条1項),就業規則が法令に反する部分については,就業規則の定めを労働契約の内容とする労働契約法7条等の規定は適用されない(同法13条)。
誓約書に署名させる形をとっても,同条が禁止する契約であることに変わりはないから,その効力は認められないと考えられる。

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使用貸借と賃貸借の区別-固定資産税程度の支払,相場より安い地代・家賃は賃料か(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の要旨1 対象とする場面2 結論の要旨第2 条文上の区別と対価の判断1 無償か賃料か2 名目より実質が問われる3 公租公課の負担は使用貸借と両立する第3 公租公課程度の支払についての最高裁判所の判断1 建物の固定資産税等を負担していた事案2 土地の公租公課相当額と麦を渡していた事案3 相場の一部にとどまる金額は謝礼とされた事案4 世間並みの家賃なら賃貸借とされた事案第4 相場より安い支払についての下級審裁判例1 使用貸借とされた例2 賃貸借とされた例3 裁判例から読み取れる判断の枠組み第5 「固定資産税の何倍なら賃貸借か」という問い1 固定資産税を上回っても賃貸借とは限らない2 公租公課倍率は地代の目安にとどまる3 金額以外に考慮される事情第6 使用貸借か賃貸借かで何が変わるか1 終了と借主の死亡2 借地借家法の適用と第三者への対抗3 終了時の建物と費用の扱い4 安すぎる賃料は増額請求の対象になる5 税務上の取扱いは別の基準による第7 当事者が備えておくこと1 無償で使わせる場合2 有償にする場合3 争いになった場合に集める資料第8 出典1 法令2 国税庁の通達3 裁判例4 裁決5 文献
第1 本記事の対象と結論の要旨
1 対象とする場面
(1) 本記事で扱う支払

本記事は,親族や知人,取引先などに土地や建物を使わせ,借主から固定資産税相当額や相場より安い地代・家賃を受け取っている場合に,その関係が使用貸借と賃貸借のどちらに当たるかを,令和8年9月12日時点の法令,裁判例,裁決及び実務書に基づいて整理するものである。
支払の名目は,地代,家賃,使用料,謝礼,冥加金など様々であるが,本記事では,その金額の水準が区別にどう影響するかを中心に扱う。

(2) 関連記事で扱う問題

使用貸借の土地が売却された場合の買主との関係や土地の評価額は使用貸借の土地を借主の同意なく売却したときの評価額-買主への対抗,権利濫用及び使用借権の減価割合で,親族間で土地を使わせる場合の課税は親族間で土地を使わせる場合の課税-使用貸借と相当の地代で扱っている。

2 結論の要旨

結論は次のとおりである。
①使用貸借か賃貸借かは,借主の支払が物の使用及び収益の対価,すなわち賃料といえるかで決まり,支払の名目よりも金額の実質が重視される。
②借主が固定資産税などの公租公課を負担しているだけでは,それが対価の意味を持つ特段の事情がない限り使用貸借とされ,この点は建物についても土地についても最高裁判所の判断がある。
③公租公課を超える支払でも,近隣の相場と比べてごく一部にとどまる場合は謝礼や負担にすぎないとされることがあり,固定資産税等の約2倍の地代を払っていた土地を使用貸借とした裁判例もある。
④反対に,相場より安くても対価とみられないほど低廉とはいえない場合や,公租公課と従前の賃料を上回る場合は,賃貸借と認められている。
⑤「固定資産税の何倍を超えれば賃貸借」という基準は判例になく,公租公課倍率は地代の目安にとどまるから,最終的には相場との比較と,当事者の関係,経緯,契約書の文言などを総合して判断される。
⑥どちらに当たるかで,借主の死亡による終了,借地借家法の適用,第三者への対抗,建物買取請求,地代等の増額請求などの扱いが大きく変わる。

第2 条文上の区別と対価の判断
1 無償か賃料か

使用貸借は,当事者の一方がある物を引き渡すことを約し,相手方がその受け取った物について「無償で」使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって,その効力を生ずる(民法593条)。
賃貸借は,当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方が「これに対してその賃料を支払うこと」及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって,その効力を生ずる(民法601条)。
したがって,借主から貸主に何らかの金銭が渡されていても,それが使用及び収益の対価,すなわち賃料でなければ,契約は使用貸借である。

2 名目より実質が問われる
(1) 労務や建物の提供も対価かどうかが問われる

最高裁判所昭和26年3月29日判決(昭和24年(オ)第63号,民集5巻5号177頁)は,家屋使用の対価としてその家屋の留守管理をする旨の契約は,賃貸借契約とはいえないとした。

最高裁判所昭和35年2月12日判決(昭和31年(オ)第1022号,集民39号415頁)は,土地の使用の許諾を得る条件として建物を土地所有者に譲渡した事案で,その建物は土地の使用許可を得る代償として贈与されたもので,土地使用の対価や権利金の支払に代わるものではないとして,貸借を使用貸借と認めた原判決を是認した。
同判決は,契約書の条項だけでなく,契約の成立に至る経緯を詳しく認定した原審の判断を是認しており,金銭以外の給付であっても,それが何のために渡されたのかが問われることを示している。

(2) 金額という実質が重視される

実務書も,借主の金銭支払が使用収益の対価と評価されれば賃貸借,評価されなければ使用貸借と認定されることになり,判例は支払の名目よりも金額という実質を重視する傾向にあるとしている(埼玉弁護士会編『使用貸借の法律と実務』(ぎょうせい,2021年)35頁)。
(以下,同書を「埼玉弁護士会編」という。)

3 公租公課の負担は使用貸借と両立する

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使用貸借の土地を借主の同意なく売却したときの評価額-買主への対抗,権利濫用及び使用借権の減価割合(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の要旨1 対象とする場面2 結論の要旨第2 同意なく売却したときの法律関係1 売却に使用借主の同意は要らない2 使用借権は買主に対抗できない3 買主の明渡請求が権利濫用とされる場合4 売主(貸主)の使用借主に対する責任第3 売却の場面での土地の評価額1 法律上の評価と事実上の評価がずれる理由2 取引で用いられる減価の目安3 低すぎる価格で買った買主のリスク4 不動産鑑定評価基準には使用借権の定めがない第4 他の場面の評価との比較1 相続税・贈与税では減価しない2 遺産分割・特別受益では更地価格の1割~3割程度3 公共用地の取得では賃借権としての価格の3分の1程度4 競売不動産の評価5 使用借権を失ったときの損害第5 売主・使用借主・買主の実務上の注意点1 売主(土地所有者)2 使用借主(建物所有者)3 買主第6 出典1 法令・通達・行政基準2 裁判例3 文献4 関連記事
第1 本記事の対象と結論の要旨
1 対象とする場面

本記事は,親族等に無償で貸している土地の上に借主が自分名義の建物を持っている場合に,土地所有者がその借主の同意を得ずに土地を第三者へ売却したとき,土地の評価額がどのように考えられるかを,令和8年9月11日時点の法令,通達,行政基準,裁判例及び実務書に基づいて整理するものである。
使用貸借は,借主が無償で物を使用及び収益し,契約が終了したときに返還することを約束する契約である(民法593条)。
本記事では,土地を使用貸借で借りて建物を所有する者を「使用借主」,その土地を使用する権利を「使用借権」と呼ぶ。

建物そのものを無償で借りている場合は,建物の使用借権による減価は一般に行わないとされているため,本記事の対象から外す。
この点は,片岡武・管野眞一編著『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』(日本加除出版,2021年)218頁に記載されている(以下,同書を「片岡・管野編著」という。)。

2 結論の要旨

結論は次のとおりである。
①土地所有者は,使用借主の同意がなくても土地を売却でき,使用借権は買主に対抗できないので,買主は原則として建物収去土地明渡しを請求できる。
②もっとも,買主が使用貸借の事情を知りながら著しく低い価格で取得した場合などには,無条件の明渡請求は権利の濫用とされ,立退料との引換えでのみ明渡しが認められた高等裁判所の判決がある。
③使用借権は法律上は弱い権利であるが,他人の建物が建っている土地は事実上売りにくく,取引の場面では使用借権の負担が減価要因として扱われる。
④減価の目安は場面ごとに異なり,相続税・贈与税では減価せず,遺産分割では更地価格の1割~3割程度,公共用地の取得の補償では賃借権としての価格の3分の1程度を標準とするなど,統一された物差しはない。
⑤売主は,使用借主に土地を使用させる債務を途中で果たせなくなったとして,使用借主から損害賠償を求められる可能性がある。

第2 同意なく売却したときの法律関係
1 売却に使用借主の同意は要らない

所有者は,法令の制限内において,自由にその所有物の使用,収益及び処分をする権利を有する(民法206条)。
使用貸借は貸主と借主の間の契約にとどまるから,土地所有者が土地を売却するのに使用借主の同意は要らず,同意のない売買も有効である。

賃貸借であれば,借地借家法10条等の対抗要件を備えた賃貸借の目的である不動産が譲渡されたとき,賃貸人たる地位は譲受人に移転する(民法605条の2第1項)。
しかし,この規定は賃貸借についてのものであり,使用貸借の貸主の地位が買主に当然に移る旨の規定はない。
買主に貸主の地位を引き継がせたいときは,契約上の地位の譲渡として,契約の相手方である使用借主の承諾を得る必要があると考えられる(民法539条の2)。

2 使用借権は買主に対抗できない

借地借家法の借地権は,建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいい(同法2条1号),登記された建物を所有することによる対抗力(同法10条1項)も借地権について定められたものである。
無償の使用借権は借地権に当たらないから,これらの規定による保護を受けない。

裁判例も,使用借権は土地の第三取得者に対抗することができないとしている。
名古屋高等裁判所金沢支部平成13年12月26日判決(平成13年(ネ)第67号,裁判所HP)は,共有物分割のための競売で土地を取得した者からの建物収去土地明渡請求について,建物所有者が土地に使用借権の設定を受けていたことに争いはないとしつつ,使用借権は第三取得者に対抗できないから占有権原とは認められないとして,請求を認めた。
東京高等裁判所平成30年5月23日判決(平成29年(ネ)第4535号,判時2409号42頁)も,建物所有者の占有権原は使用貸借であって買主に対抗し得るものではないから,権利の濫用に当たる特段の事情がない限り,買主は建物収去土地明渡しを求めることができるとした。

3 買主の明渡請求が権利濫用とされる場合

権利の濫用は許されない(民法1条3項)。

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傷病手当金とは―支給要件,金額の計算,退職後の継続給付及び障害年金・失業保険との関係(AI作成)

第1 本記事の対象と要点第2 傷病手当金の位置付けと対象者1 健康保険法99条の給付2 対象とならない者第3 支給要件1 業務外の傷病の療養のためであること2 労務不能3 待期3日間4 報酬を受けないこと第4 支給額の計算1 原則の計算式2 加入期間が12か月に満たない場合第5 支給期間(通算1年6か月)1 令和4年1月1日からの通算化2 支給日数の数え方3 支給日数が減らない場合第6 退職後の継続給付1 要件2 退職日に出勤した場合と待期が完成していない場合3 いったん働けるようになった場合4 老齢年金との調整5 退職後の健康保険との関係第7 他の給付との調整1 障害厚生年金・障害手当金2 出産手当金3 労災保険4 雇用保険(基本手当・受給期間の延長・傷病手当)5 交通事故等の損害賠償第8 申請手続と時効1 申請書と添付書類2 時効第9 税・社会保険料・扶養1 税金2 休職中の社会保険料3 被扶養者の認定第10 不正受給と給付制限第11 統計に見る傷病手当金第12 実務上の留意点第13 関連記事第14 出典1 法令2 裁判例3 社会保険審査会の裁決4 通知・事務連絡5 公的な解説・統計
第1 本記事の対象と要点

本記事は,健康保険(全国健康保険協会(協会けんぽ)及び健康保険組合)の被保険者に支給される傷病手当金について,令和8年9月11日現在の法令,厚生労働省の通知・事務連絡,社会保険審査会の裁決,裁判例及び協会けんぽの公表資料に基づき,支給要件,金額,支給期間,退職後の継続給付並びに他の給付との調整を整理するものである。
休職中の社員について会社が確認すべき事項(会社の休職期間と支給期間の違い,会社が就業させない期間の扱い,事業主の証明,休職期間満了による退職)は,休職中の傷病手当金――待期,通算1年6か月,退職後の継続給付及び2年の時効で整理しており,本記事では,傷病手当金の制度そのものの要件,金額,期間及び他の給付との調整を扱う。
国民健康保険,共済組合,船員保険及び日雇特例被保険者の傷病手当金の細部は,本記事の対象外である。

要点は次のとおりである。
①業務外の傷病の療養のため本来の仕事に就けない日が3日連続した後,4日目以降の仕事に就けない日について支給される。
②日額は,原則として,直近12か月の標準報酬月額の平均の30分の1の3分の2である。
③支給期間は,同一の傷病について,支給を始めた日から通算して1年6か月である。
④退職後も受け取るには,退職日まで継続して1年以上被保険者であったことと,退職日の時点で受給中又は受給できる状態にあることが必要であり,退職日に出勤すると継続給付は受けられない。
⑤同一の傷病による障害厚生年金,出産手当金及び労災保険の給付等とは調整され,雇用保険の基本手当とは同じ日について重ねて受けることは通常できない。
⑥請求権は,労務不能であった日ごとに,その翌日から2年で時効により消滅する。

第2 傷病手当金の位置付けと対象者
1 健康保険法99条の給付

健康保険法99条1項は,次のとおり定めている。
「被保険者(任意継続被保険者を除く。第百二条第一項において同じ。)が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する。」

最高裁は,この給付について,療養のための就労不能により報酬を受けることができない被保険者に,一定の限度でその生活を保障して療養に専念できる状態を与えようとするものであると述べている(最高裁昭和49年5月30日判決・昭和42年(行ツ)第98号・民集28巻4号551頁)。
同判決は,受給要件を厳格に解しすぎると,療養中の被保険者が可能な限度を超えて働かざるを得なくなり,制度の目的に反するとも述べている。

2 対象とならない者

任意継続被保険者は健康保険法99条1項の括弧書により除かれているため,任意継続被保険者である間に発生した傷病については傷病手当金は支給されない。
これに対し,在職中に受給していた者が退職後に任意継続被保険者となった場合については,同法104条が任意継続被保険者の資格を喪失した者の被保険者期間の数え方まで定めており,継続給付の要件(第6)により判断される。

国民健康保険法58条2項は,「市町村及び組合は、前項の保険給付のほか、条例又は規約の定めるところにより、傷病手当金の支給その他の保険給付を行うことができる。」と定めるにとどまる。
したがって,国民健康保険の傷病手当金は任意給付であり,自営業者等の国民健康保険の被保険者が受けられるかどうかは,加入先の市町村又は国民健康保険組合の条例・規約による。

共済組合(公務員,私立学校教職員等)の傷病手当金は各共済組合法に基づく給付であり,本記事の説明がそのまま当てはまるとは限らない。

役員であっても,健康保険の被保険者であれば対象となり得る。
常勤の取締役として実際に労務を提供し,報酬を受け,会社の人事・労務の管理下で勤務していた者について,少なくとも事実上の使用関係があったとし,健康保険組合が被保険者資格の確認を取り消した上でした傷病手当金の不支給決定を違法として取り消した裁判例がある(大阪高裁昭和55年11月21日判決・昭和54年(行コ)第51号)。

第3 支給要件
1 業務外の傷病の療養のためであること

健康保険法55条1項により,同一の傷病について労働者災害補償保険法等による相当の給付を受けることができる場合には,傷病手当金は支給されない。
業務上の傷病及び通勤災害は,原則として労災保険の対象である。

協会けんぽの案内によれば,健康保険で受ける療養に限らず,自費で診療を受けた場合でも仕事に就くことができないことの証明があれば対象となり,自宅療養の期間も対象となる。
他方で,美容整形のように病気とみなされないものは対象外とされている。

2 労務不能

労務不能の判断について,平成26年9月1日付けの厚生労働省保険局保険課事務連絡「傷病手当金の支給に係る産業医の意見の取扱いについて」は,昭和31年1月19日保文発第340号が示した考え方として,保険者が「必ずしも医学的基準によらず、その被保険者の従事する業務の種別を考え、その本来の業務に堪えうるか否かを標準として社会通念に基づき認定する」ことを引用している。
つまり,日常生活ができるかどうかではなく,その人の本来の業務に堪えられるかどうかが基準である。

最高裁昭和49年5月30日判決は,「被保険者がたとえその本来の職場における労務に就くことが不可能な場合であつても、現に職場転換その他の措置により就労可能な程度の他の比較的軽微な労務に服し、これによつて相当額の報酬を得ているような場合は、同条所定の受給要件には該当しないものというべきである」とした。
他方で,同判決は,生計の補いとして副業又は内職のような本来の業務の代わりにならない労務に従事したり,傷病手当金の支給があるまでの一時的なつなぎとして軽微な労務に服したりして賃金を得ても,受給権を失うことはないとした原判決を正当とした。
平成15年2月25日保保発第0225007号・庁保険発第4号の通知も同じ基準を示し,報酬を得ていることだけを理由に直ちに労務不能でないと認定せず,労務の内容と報酬額を十分に検討するよう求めている。

主治医と産業医の意見が分かれる場合について,前記の平成26年事務連絡は,主治医から労務不能の意見が得られなかったときに,産業医が任意に作成した書類を保険者に提出することは差し支えないとし,主治医が就労可能と判断し産業医が休業を要すると判断した場合も,保険者は双方の意見を参酌して判断するよう求めている。

社会保険審査会は,労務不能は本来の業務に耐えられるかを標準として社会通念に基づき認定すべきであり,医学的見地のみから判断すべきではないとしつつ,「特段の事情の存しない限り、まずは、その傷病の診療に当たった医師が、その傷病の性質、病状及び治療の経過等を踏まえた結果として、労務不能か否かについてどのような医学的判断をしているかが重視されなければならない」としている(社会保険審査会令和4年1月31日裁決・令和3年(健)第249号)。
同裁決は,自覚症状があることや通院して投薬等を受ける必要があることだけで直ちに労務不能とするものではなく,症状,治療内容及び予後の見通し等を総合的に検討して保険者が判断するとも述べている。
その上で,同裁決は,初診日より前の期間であること等を理由とする一部不支給について,入院と自宅療養の経過及び複数の医師の判断から同様の病態が継続していたとして,原処分を取り消した。

医師の意見が一見消極的でも,本来の業務との関係で読むと労務不能と評価されることがある。
社会保険審査会令和2年1月31日裁決(令和元年(健)第304号)は,保険者の照会に対して医師が「療養の為労務不能ではないが患者の訴えにより労務不能とした」と回答していた事案で,回答全体からは一切の作業ができないわけではないが立位で行う本来の作業には堪えられない趣旨と読めるとして,不支給処分を取り消した。
実務上は,医師に本来の業務の内容(立ち仕事か,重量物を扱うか,対人業務か等)を具体的に伝えた上で,意見書の「労務不能と認めた期間」を記載してもらうことが重要である。

3 待期3日間

健康保険法99条1項の「起算して三日を経過した日から」の意味について,昭和32年1月31日保発第2号の2は,療養のため労務に服することができない状態が同一の傷病につき3日間連続すれば待期は完成し,それで足りるとしている。
同通知の設例では,「休休休出休」の場合は待期が既に完成しており,5日目から支給され,「休出休休」の場合は待期がまだ完成していない。
一度待期が完成すれば,その後に出勤した日を挟んでも,同じ傷病について待期をやり直す必要はない。
令和3年11月10日付け厚生労働省保険局保険課事務連絡問2の例でも,復職を挟んで再び労務不能となった期間には,改めて待期は置かれていない。

協会けんぽは,「待期には、有給休暇、土日・祝日等の公休日も含まれるため、給与の支払いがあったかどうかは関係ありません。」と案内している。
また,就労時間中に業務外の事由で発生した傷病により仕事に就くことができない状態となった場合は,その日を待期の初日として数える扱いである。

4 報酬を受けないこと

健康保険法108条1項は,傷病について報酬の全部又は一部を受けることができる者には,その期間は傷病手当金を支給しないとしつつ,報酬の額が傷病手当金の額より少ないときは差額を支給するとしている。
協会けんぽのQ&Aによれば,出勤していない日に支払われる報酬として,有給休暇の賃金,出勤の有無にかかわらず支給される通勤手当・扶養手当・住宅手当等の手当,食事・住居等の現物支給が調整の対象となり,残業手当等の出勤した日の報酬や見舞金等の一時的に支給されるものは記入が不要とされている。

したがって,年次有給休暇は待期の3日間に充てても待期は完成するが,4日目以降に年次有給休暇を使った日は,その賃金が傷病手当金の日額以上であれば傷病手当金は支給されない。
年次有給休暇との関係は,年次有給休暇の付与日数,取得方法,年5日義務及び時季変更権も参照されたい。

なお,事業主から受けることができるはずであった報酬を受けられなかった場合には,保険者が傷病手当金を支給し,その額を事業主から徴収する(健康保険法109条)。

(続きを読む...)傷病手当金とは―支給要件,金額の計算,退職後の継続給付及び障害年金・失業保険との関係(AI作成)

退職勧奨の適法性と進め方―違法となる場合,諭旨退職・解雇との違い及び配転・降格との関係(AI作成)

目次第1 退職勧奨の法的性質1 退職勧奨とは何か2 本記事の対象第2 退職勧奨が違法となる場合1 裁判例が示した判断の枠組み2 下関商業高校事件の位置付け3 法令による制約第3 退職勧奨の進め方1 面談の前に決めておくこと2 面談での説明3 労働者が拒否した場合4 合意の成立と記録第4 諭旨退職・解雇・配転・降格との関係1 諭旨退職は懲戒処分であること2 解雇との違い3 配転・降格と同じ機会に行う場合第5 雇用保険の離職理由第6 関連する山中弁護士ブログの記事第7 出典・参考資料1 法令2 裁判例

第1 退職勧奨の法的性質

1 退職勧奨とは何か

退職勧奨は,使用者が労働者に対し,合意による労働契約の終了(合意退職)又は労働者自身による退職を促す働きかけである。
使用者が一方的に労働契約を終了させる解雇とは異なり,退職勧奨に応じるかどうかは労働者の自由な意思に委ねられる。
解雇は,「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とされている(労働契約法16条)が,同法には,退職勧奨それ自体の要件を定めた規定はない。

期間の定めのない雇用では,労働者はいつでも解約の申入れをすることができ,雇用は解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する(民法627条1項)。
退職勧奨に応じた労働者が退職届を提出した場合,それが労働者からの一方的な解約の申入れなのか,使用者の承諾によって成立する合意退職の申込みなのかによって,撤回できるかどうかが問題になることがある。
退職日や条件を明確にするためにも,後記第3の4のとおり,合意の内容を書面に残しておくことが考えられる。

2 本記事の対象

本記事は,民間企業の使用者が個々の労働者に退職を勧める場面を対象として,退職勧奨が違法となる場合,面談の進め方,諭旨退職・解雇・配転・降格との関係及び雇用保険上の扱いを説明する。
希望退職の募集や整理解雇は対象としない。
本記事の記載は,令和8年9月11日時点の法令及び公表資料に基づく。

第2 退職勧奨が違法となる場合

1 裁判例が示した判断の枠組み

東京地裁平成23年12月28日判決(日本アイ・ビー・エム退職勧奨事件)は,「退職勧奨は,勧奨対象となった労働者の自発的な退職意思の形成を働きかけるための説得活動であるが,これに応じるか否かは対象とされた労働者の自由な意思に委ねられるべきものである。」とした。
その上で,使用者は,説得活動の手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り,正当な業務行為として退職勧奨を行い得るとした。
他方,社会通念上相当と認められる限度を超えて,労働者に対して不当な心理的圧力を加えたり,その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりすることによって,その自由な退職意思の形成を妨げるに足りる不当な行為ないし言動をした退職勧奨は,違法なものとして不法行為を構成するとした。

同判決は,退職勧奨の対象となった理由(業績不良の具体的事実等)を説明し,退職した場合の支援策を具体的に説明して再検討を求めることは,社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した態様でない限り許容されるとした。
また,労働者が消極的な意思を表明しただけで直ちに説得活動を終了しなければならないものではないが,退職勧奨に応じない意思が堅固であり,面談に応じられないことを明確に表明し,上司にその旨を確実に認識させた段階で,それ以降の説得活動は社会通念上相当な範囲を逸脱した違法なものと評価されることがあり得るとした。

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配転命令(転勤命令)の有効性―就業規則の根拠,職種・勤務地の限定合意と東亜ペイント事件の判断枠組み(AI作成)

目次第1 配転命令の有効性を判断する順序1 本記事の対象2 三段階の判断第2 配転命令権の根拠1 就業規則・労働協約の配転条項2 労働条件の明示と「変更の範囲」第3 職種・勤務地を限定する合意1 限定合意がある場合は配転命令権がない2 限定合意の有無を確かめる資料第4 権利の濫用の判断枠組み1 東亜ペイント事件の定式2 業務上の必要性3 不当な動機・目的4 通常甘受すべき程度を著しく超える不利益5 法令上の配慮第5 配転命令を出す前後の実務1 命令前の確認と説明2 懲戒処分と同じ機会に配転を命じる場合3 労働者が配転を拒否した場合第6 関連する山中弁護士ブログの記事第7 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料

第1 配転命令の有効性を判断する順序

1 本記事の対象

配転は,一般に,同一の使用者の下で,労働者の職種,職務内容又は勤務場所を相当の期間にわたって変更することをいい,勤務場所の変更を伴うものは転勤と呼ばれる。
本記事は,使用者が命じる配転(転勤を含む。)が有効かどうかを,命令権の根拠,職種・勤務地の限定合意及び権利の濫用の三段階に分けて説明し,配転命令を出す前後に確認すべき事項を示すものである。
他の使用者の下で就労させる出向は対象としない。
本記事の記載は,令和8年9月11日時点の法令及び公表資料に基づく。

2 三段階の判断

配転命令の有効性は,①使用者に配転を命じる権限があるか,②職種や勤務地を限定する合意があり,命令がその合意に反しないか,③命令権の行使が権利の濫用に当たらないか,の順に検討することになる。
最高裁昭和61年7月14日第二小法廷判決(東亜ペイント事件)も,まず就業規則等の定めと勤務地を限定する合意がないことから転勤を命じる権限を認め,その上で権利の濫用に当たるかを検討している。
労働契約法3条5項は,「労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。」と定めている。

第2 配転命令権の根拠

1 就業規則・労働協約の配転条項

東亜ペイント事件の会社では,労働協約に「会社は、業務の都合により組合員に転勤、配置転換を命ずることができる。」との定めがあり,就業規則にも「業務上の都合により社員に異動を命ずることがある。この場合には正当な理由なしに拒むことは出来ない。」との定めがあった。
同判決は,これらの定めがあり,現に営業担当者の転勤が頻繁に行われており,労働者が大学卒業資格の営業担当者として入社し,労働契約の成立時に勤務地を大阪に限定する旨の合意がされなかったという事情の下では,会社は「個別的同意なしに被上告人の勤務場所を決定し、これに転勤を命じて労務の提供を求める権限を有する」とした。

就業規則の定め方や周知の要件については,就業規則とは―記載事項・作成届出・周知・変更・懲戒の基本で扱っている。

2 労働条件の明示と「変更の範囲」

使用者は,労働契約の締結に際し,労働者に対して賃金,労働時間その他の労働条件を明示しなければならない(労働基準法15条1項)。
明示すべき事項には,「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)」が含まれ(労働基準法施行規則5条1項1号の3),この事項は,原則として書面の交付により明示しなければならない(同条3項,4項)。

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減給の制裁の上限と解釈例規―労働基準法91条の「1回の額」・「総額」と,降格・出勤停止・賞与との違い(AI作成)

目次第1 労働基準法91条が定める二つの上限1 条文と本記事の対象2 「1回の額」と「総額」は別々の上限である3 平均賃金と賃金総額の算定4 計算例第2 「基本給の10%以内」型の規程の点検1 1件の非違行為について月々の割合で減給する定め2 上限を超える定めの効力と罰則3 モデル就業規則の規定例第3 同条の減給に当たる措置と当たらない措置1 職務の変更を伴う格下げと,職務をそのままにした降給2 出勤停止と昇給停止3 遅刻・早退の賃金控除と賞与からの減額第4 同条の制限を受けないことと懲戒処分の相当性第5 関連する山中弁護士ブログの記事第6 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 行政解釈4 公的資料5 文献

第1 労働基準法91条が定める二つの上限

1 条文と本記事の対象

労働基準法91条は,「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」と定めている。
本記事は,同条の「1回の額」と「総額」の意味,平均賃金及び賃金総額の算定方法,並びに同条の制限を受ける措置と受けない措置の区別を,行政解釈に沿って説明するものである。
本記事で取り上げる行政解釈は,旧労働省の通達等であり,厚生労働省労働基準局編『労働基準法解釈総覧(改訂16版)』に収録されているものである。
本記事の記載は,令和8年9月11日時点の法令及び公表資料に基づく。

就業規則に定める制裁は減給に限られない。
「労働基準法の施行に関する件」(昭和22年9月13日発基第17号)は,就業規則に定める制裁は減給に限定されるものではなく,譴責,出勤停止,即時解雇等も,制裁の原因となる事案が公序良俗に反しない限り禁止する趣旨ではないとしている。
常時10人以上の労働者を使用する使用者は,表彰及び制裁の定めをする場合には,その種類及び程度に関する事項を就業規則に記載しなければならない(労働基準法89条9号)。
最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決(フジ興産事件)も,「使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する」としている。

2 「1回の額」と「総額」は別々の上限である

同条の上限は二つある。
一つは,1回の減給の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならないという上限であり,もう一つは,1賃金支払期の減給の総額がその期の賃金総額の10分の1を超えてはならないという上限である。
二つの関係について,行政解釈は,「法第九十一条は、一回の事案に対しては減給の総額が平均賃金の一日分の半額以内、又一賃金支払期に発生した数事案に対する減給の総額が、当該賃金支払期における賃金の総額の十分の一以内でなければならないとする趣旨である。」としている(昭和23年9月20日基収第1789号)。

この解釈例規の問いは,1件の非違行為について日を替え,又は月を替えれば減給を繰り返せるのではないかというものであった。
回答は,1回の事案に対する減給の総額を平均賃金の1日分の半額以内とするものであるから,1件の非違行為について減給を何回かに分け,又は複数の月にわたって続けても,その合計は平均賃金の1日分の半額を超えられない。
「10分の1」は,1賃金支払期に複数の非違行為があり,それぞれについて減給する場合に,その合計を抑える上限である。

3 平均賃金と賃金総額の算定

平均賃金は,算定すべき事由の発生した日以前3か月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を,その期間の総日数で除した金額である(労働基準法12条1項本文)。
賃金締切日がある場合は,直前の賃金締切日から起算する(同条2項)。

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破産免責決定への即時抗告と免責後の請求異議―相手方の住所が分からない場合(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 三つの手続を区別すること2 結論第2 免責許可・免責不許可決定への即時抗告1 即時抗告ができる裁判と通常の抗告人2 抗告期間3 抗告状と相手方の住所第3 破産事件記録で債権者の住所を確認する1 破産者本人は利害関係人であること2 電話照会では記録内容を確認できないこと3 確認すべき記録と限界第4 免責確定後の請求異議の訴え1 免責許可決定の効力2 非免責債権の確認3 一つの債務名義に複数の債権が含まれる場合4 請求異議の訴え5 執行停止の申立て第5 請求異議で被告の住所が不明な場合1 被告表示と送達先2 住所調査の順序3 公示送達は最後の手段であること第6 戸籍の附票・附票の除票で分かる住所1 同じ本籍と同じ戸籍は異なること2 相手方が別戸籍になった後の住所3 誰が交付を請求できるか4 附票の住所と実際の居所,DV等支援措置第7 実務チェックリスト第8 関連記事出典
第1 本記事の対象と結論
1 三つの手続を区別すること

破産者又は破産債権者が転居した場合,①免責許可又は免責不許可の裁判に対する即時抗告,②破産事件記録の閲覧・謄写,③免責許可決定の確定後に提起する請求異議の訴えを区別する必要がある。
即時抗告は係属中の破産・免責事件における不服申立てであるのに対し,請求異議の訴えは債務名義の執行力を排除するための新しい訴訟であり,相手方住所の扱いも異なる。

本記事は,令和8年9月10日現在の法令及び裁判所の公開案内に基づき,住所が分からない場合の確認順序を整理するものである。
個別事件では,裁判書の内容,事件番号,公告日,債務名義の種類,破産債権の発生原因及び裁判所からの補正指示を確認する必要がある。

2 結論

免責の裁判に対する即時抗告では,抗告人の住所,事件番号,原裁判及び抗告の趣旨・理由を明らかにする必要があるが,破産者が抗告する際に個々の破産債権者を被告として,その全員の現住所を調査・記載する手続ではない。
他方,免責許可決定の確定後に破産債権者を被告として請求異議の訴えを提起する場合,訴状の被告表示と送達先を定めるため,原則として被告の住所調査が必要となる。

相手方の現住所が分からないときは,まず自分の破産事件記録に提出された債権者一覧表,債権届出書,名義変更届その他の書類を確認するのが合理的である。
裁判所が別事件の記録に新住所を保有しているからといって,新しい訴訟で裁判所が当然にその住所を探索し,訴状の被告表示を補ってくれるわけではない。

かつて同じ本籍であっただけでは,自己の戸籍の附票又は附票の除票から,別戸籍となった相手方の現在住所が分かるとは限らない。
同じ本籍と同じ戸籍は別の概念であり,古い戸籍の附票に記録されるのは,原則としてその戸籍に在籍していた期間中の住所履歴までである。

第2 免責許可・免責不許可決定への即時抗告
1 即時抗告ができる裁判と通常の抗告人

破産法252条5項は,免責許可の申立てについての裁判に対して即時抗告をすることができると定める。
通常は,免責不許可決定に対して破産者が,免責許可決定に対して不服の利益を有する破産債権者が即時抗告をすることになる。

免責許可決定を得た破産者又は免責不許可を求めていた債権者には,通常,その結論を自己に有利に変更する不服の利益がない。
もっとも,誰に抗告権があるかは原裁判の内容と抗告によって求める結論に即して判断する必要がある。

2 抗告期間

免責許可決定は公告されるため,即時抗告期間は公告が効力を生じた日から2週間である(破産法9条,10条及び252条7項)。
官報への掲載日の翌日に公告の効力が生じ,その日から2週間を計算する。

免責不許可決定は公告されないため,破産法13条によって準用される民事訴訟法の規定により,裁判の告知を受けた日から1週間が即時抗告期間となる。
許可と不許可とで期間が異なるので,決定正本の受領日だけを見て一律に2週間と扱ってはならない。

3 抗告状と相手方の住所

抗告状には,抗告人を特定する氏名・住所,原事件の裁判所・事件番号,原裁判の表示,抗告の趣旨及び理由を記載する。
提出先は原裁判所であり,免責事件の記録と結び付けて処理される。

この手続は,破産者が各破産債権者を被告として提起する新しい訴訟ではない。
したがって,破産者が免責不許可決定を抗告する場合,個々の債権者の現在住所を一から調査して抗告状に列挙することが通常の出発点にはならない。

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金型・治具の無償保管を解消する実務―保管料・返却・廃棄承認と図面の取扱い(AI作成)

第1 型の保管と製造委託を一緒に確認する第2 所有権と事実上の管理を区別する第3 1年間の無償保管期間があるわけではない第4 最初に作る型の台帳第5 保管費用の協議を具体化する1 外部倉庫の賃料だけに限定しない2 費用計算の説明例3 過去の保管費と将来の条件を分ける4 過去の保管費を是正対象とした勧告5 民事請求の根拠を分けて組み立てる6 無償合意がある場合の処理7 金額立証のための台帳と証拠8 保管費・作業費・運送費の計算例9 時効と権利保全第6 返却・廃棄は回答期限と実行まで決める1 所有権と処分権限を確認する2 無回答後の廃棄を違法としなかった裁判例3 返還の提供と増加費用を記録する4 第三者倉庫・供託・競売代価の供託5 引取り・撤去請求と留置権6 保管継続・返還・処分の通知書案第7 型の納入と図面・CADデータの引渡しを分ける1 図面が発注内容に含まれていたか2 物の所有権と情報の利用権は別に決める第8 基本契約と社内運用に反映する第9 出典

第1 型の保管と製造委託を一緒に確認する

量産に使った金型や治具について,次の発注時期が決まらないまま受注者の倉庫で保管が続き,返却も廃棄も進まないことがある。
この問題は,型の所有者を確認するだけでは解決しない。
誰のために保管しているか,誰が廃棄を決められるか,保管期間中の費用を誰が負担するかを確認する必要がある。

本記事は令和8年9月10日現在の法令及び公正取引委員会の公表資料に基づき,取適法対象の製造委託に伴う型等の保管を中心に説明する。
台帳,費用計算及び協議手順は,本記事が示す実務上の提案である。
制度全体は,取適法の企業実務を参照されたい。

第2 所有権と事実上の管理を区別する

公取委Q&A・Q119は,部品等の発注を長期間行わない等の事情があるにもかかわらず,保管費用を支払わずに型等を保管させる場合には,不当な経済上の利益の提供要請に当たるおそれがあるとしている。
同Q&Aの型等には,金型,木型,治具,検具及び製造設備等が含まれる。

発注者所有の型だけでなく,他の者が所有し,発注者が事実上管理している型も対象となる。
例えば,受注者所有であっても,廃棄に発注者の承認が必要な場合が挙げられている。
「受注者の資産だから,保管料は一切支払わない」という処理は適切でない。

他方,型等の保管に関するこの説明と,取適法2条1項によってその型・工具自体の製造委託が対象となる範囲は,区別する必要がある。
同項が対象とするのは,所定の物品等の製造に専ら用いる成形用の型や特殊な工具等であり,あらゆる汎用機械の購入を一律に製造委託とするものではない(取適法2条1項,運用基準第2の1-1)。

第3 1年間の無償保管期間があるわけではない

Q119には,長期間発注がない場合のほか,受注者が廃棄・引取りを希望している場合,次回の具体的な発注時期を示せない場合,再使用が想定されていない場合が挙げられている。
これらは個別の事情を示すものであり,最終稼働から1年間は常に無償保管を求めてよいという基準ではない。

また,受注者が請求していないことを理由として,当然に保管費用の支払が不要になるわけではない。

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特許保証と知財紛争の責任転嫁―発注者指定の設計では誰が責任を負うか(AI作成)

第1 特許保証の条項で何を約束しているか第2 設計・仕様の決定に誰が関与したかを確認する1 発注者の指示だから受注者が全て負担するとはいえない2 責任分担の協議に使う整理表第3 非侵害保証と調査義務を分ける1 調査したことと非侵害の保証は同じではない2 調査条件を具体化する交渉文案第4 紛争対応は通知・協力・費用・和解に分ける1 非侵害保証と紛争対応を扱った一審・控訴審2 侵害が立証されなくても対応義務違反が残る3 和解・ライセンス契約の締結権限を明示する4 紛争対応で準備する資料第5 賠償範囲と上限を契約全体で確認する1 一般賠償条項との関係を明示する2 上限がないことと違法性を直結させない第6 帰属・図面の引渡しと紛争責任を混同しない第7 公的モデル契約を条文ごとに比較する1 比較対象と法的な位置付け2 保証・責任負担・上限の違い3 知財帰属・情報開示・優先関係・存続条項4 知財取引指針と裁判例の関係5 製造委託向けの補充条項案第8 修正協議に持参する資料第9 出典

第1 特許保証の条項で何を約束しているか

製造委託契約には,納入品が第三者の知的財産権を侵害しないことを受注者に保証させ,紛争が起きた場合の解決と費用負担も受注者に求める条項が置かれることがある。
審査では,非侵害の保証,事前調査,紛争への対応及び最終的な金銭負担を分け,仕様を決めた者とリスクを負担する者の関係を確認する必要がある。

本記事は令和8年9月10日現在の公表資料に基づく。
中心となる資料は,公正取引委員会・中小企業庁・特許庁が令和8年6月24日に公表した知財取引指針であり,特に同指針57頁~61頁の知財訴訟等のリスク転嫁を扱う。
指針は裁判の判決ではなく,独占禁止法等に関する行政上の考え方と,望ましい取引・契約上の対応を示した資料である。

第2 設計・仕様の決定に誰が関与したかを確認する

1 発注者の指示だから受注者が全て負担するとはいえない

指針は,発注者の指示に基づく業務について,責任の所在を考慮しないまま,第三者との知財紛争の責任・負担を受注者へ一方的に転嫁することを問題としている。
発注者だけに帰責事由がある場合と,受注者にも帰責事由がある場合を区別し,後者では双方の帰責事由の内容や得た利益等に応じた分担を示している(知財取引指針57頁~59頁)。

したがって,受注者が加工・製造を行ったという事実だけで,全ての知財責任を負担させてよいとはいえない。
反対に,発注者が仕様書を交付したというだけで,受注者独自の設計変更や技術の採用に関する責任まで当然に発注者へ移るわけでもない。

2 責任分担の協議に使う整理表

仕様等の決まり方確認する資料協議すべき事項発注者が具体的な構造・技術を指定図面,仕様書,指定理由,変更履歴指定部分の調査・許諾取得・紛争費用受注者が独自の構造・技術を提案提案書,採否の経緯,技術資料提案部分についての調査範囲と保証条件双方が設計・改良に関与会議記録,設計分担,承認記録各寄与と責任原因に応じた分担納入後に発注者等が改変・組合せ変更後の仕様,組合せ,使用方法当初の合意範囲との相違と追加の調査他社の技術・部品を使うことが指定指定書,ライセンス条件,提供元の説明許諾の取得者,対価,利用範囲の確認

この表は責任を機械的に割り振るものではなく,本記事が提案する事実確認の枠組みである。
最終的な負担は,指示内容だけでなく,危険の認識,調査の合意,対価その他の事情を踏まえて定める。

第3 非侵害保証と調査義務を分ける

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取適法の返品・やり直しと保証期間―6か月・1年・顧客保証の違い(AI作成)

第1 6か月と1年は何の期間か第2 請求する対応を先に特定する第3 返品は検査方法と不適合の発見可能性で分ける1 受注者に責任がない返品はできない2 通常の検査で分かる不適合と抜取検査3 直ちに発見できない不適合と6か月の制限4 通知した時期と実際に返品する時期を区別する第4 無償のやり直しと1年を超える保証1 不適合の原因と追加費用を確認する2 直ちに発見できない不適合の原則と例外第5 民法・商法・契約の期間と並べて読む第6 契約審査とクレーム対応で使う確認表第7 返品できないことと全ての責任が消えることは異なる第8 出典

第1 6か月と1年は何の期間か

製造委託の契約書に6か月又は1年の保証期間が書かれていても,その期間だけで返品,無償修補,代金減額及び損害賠償の可否を一括して判断することはできない。
取適法上の返品・やり直しの制限,民法・商法の通知等の期間,契約で合意した責任期間及び消滅時効は,対象と起算点が異なる。

本記事は令和8年9月10日現在の法令及び公正取引委員会の公表資料に基づき,取適法の適用を受ける製造委託を中心に説明する。
以下でいう受領は,単に発注者が検収合格を通知した日を指すものではない。
取適法の適用範囲は,取適法に関するメモ書きを参照されたい。

第2 請求する対応を先に特定する

求める対応主に確認する取適法の規定期間以外の重要事項納入された物を受け取らない5条1項1号の受領拒否受注者に責任のある理由があるか受領済みの物を引き取らせる5条1項4号の返品検査の実施・委任,不適合,返す時期修補・再製作等をさせる5条2項3号のやり直し仕様との相違,責任原因,追加費用の負担代金から差し引く5条1項3号の減額等受注者の責任,控除額,算定根拠損害賠償・補償を請求する契約・民法等と取適法の関係義務違反,帰責事由,損害,因果関係,責任制限

上表の根拠は,取適法5条及び運用基準第4である。
同じ品質クレームでも,どの対応を求めているかによって検討が変わる。
名称を損害賠償に変えるだけで,実質的な代金減額や不当な費用転嫁が適法になるわけではない。

第3 返品は検査方法と不適合の発見可能性で分ける

1 受注者に責任がない返品はできない

取適法5条1項4号は,受注者に責任のない受領後の返品を禁止する。
販売不振,発注者の顧客の都合又は在庫過多だけを理由として,合意した仕様どおりの製品を返すことはできない。
仕様が明示されていない,検査基準が不明確である,検査基準を後から恣意的に厳しくしたという場合も,受注者の不適合を当然の前提にできない。

2 通常の検査で分かる不適合と抜取検査

明示された委託内容と異なる等の理由による返品は,原則として受領後速やかに行う必要がある。

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製造委託の取引基本契約書を受注者側から審査するポイント―取適法・損害賠償・相殺・契約終了(AI作成)

第1 受注者側の契約審査で確認する三つの問題第2 基本契約だけでなく注文書・仕様書を一緒に読む1 文書相互の関係を確認する2 発注明示と受注の意思表示を混同しない第3 条項ごとに確認する事項第4 受領・検査・支払を分けて定める第5 保証・損害賠償・PLを関連付けて審査する1 契約不適合の条項だけで責任が終わるとは限らない2 責任上限は適用対象と例外まで定める3 被害者に対する責任と当事者間の費用負担を分ける4 責任制限条項の有効性と裁判例5 上限を設けても残る適用範囲の問題6 回収費用の請求根拠と立証7 PL保険の補償対象外となる費用8 リコール保険の対象と特約を照合する9 保険法と事故対応の注意点10 保険金額と契約上限の計算例11 回収費用と責任上限の交渉文案第6 クレーム代の相殺・控除を点検する第7 仕様変更・価格協議・契約終了の精算を定める第8 型・図面・知財の条項を接続する第9 契約修正を実際の運用につなげる第10 出典

第1 受注者側の契約審査で確認する三つの問題

製造委託の取引基本契約書を受注者側から審査するときは,①取適法が適用される取引か,②実際の発注・受領・支払等が同法の禁止行為に当たらないか,③受注者が契約上どの範囲の保証・損害賠償責任を負うかを順に確認する。
取適法を遵守する旨の条項を加えるだけでは,仕様変更の費用,第三者との紛争,契約終了時の精算等が具体的に決まるわけではない。

本記事は令和8年9月10日現在の日本法と公正取引委員会の公表資料に基づき,国内の製造委託を中心に,受注企業の契約担当者が確認すべき事項を説明する。
以下の条項例・管理方法は,法定のひな形ではなく,本記事が示す交渉・運用上の提案である。

取適法の適用は契約名ではなく取引実態と規模要件で決まる。
規格品の通常の購入と仕様等を指定した製造委託を区別し,資本金基準で適用が決まらない場合には従業員基準も確認する。
継続的な基本契約があっても,令和8年1月1日前後の個別発注は区別する必要がある(取適法2条及び改正法附則)。
適用範囲の詳しい説明は,取適法に関するメモ書きを参照されたい。

第2 基本契約だけでなく注文書・仕様書を一緒に読む

1 文書相互の関係を確認する

基本契約,個別注文書,仕様書,図面,品質保証協定,購買条件及び変更覚書を一組として読む。
基本契約の責任を軽減しても,注文書に別の包括的な補償義務が置かれ,その注文書が優先すると定められていれば,修正の効果が失われるおそれがある。

実務上は,優先順位を定めるだけでなく,変更する条項と対象取引を特定する。
例えば「本覚書の第○項は,本基本契約及び対象となる個別契約の損害賠償条項に優先して適用する」と定め,別の品質協定にも同じ趣旨を反映する方法が考えられる。
発注者のウェブサイトに掲載された購買条件を参照する場合には,適用する版と改定時の合意手続も確認する。

2 発注明示と受注の意思表示を混同しない

取適法4条は,委託後直ちに取引条件を明示する義務を定めている。
これは,注文の承諾があったかという契約成立の問題とは別に確認する事項である。

(続きを読む...)製造委託の取引基本契約書を受注者側から審査するポイント―取適法・損害賠償・相殺・契約終了(AI作成)

派遣元・派遣先管理台帳の不備-指導,改善命令,事業停止,許可取消し及び罰則(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 管理台帳に関する違反の範囲1 派遣元管理台帳2 派遣先管理台帳3 作成義務の例外を誤らない第3 指導・助言,報告及び立入検査1 指導・助言は派遣元と派遣先の双方が対象となる2 報告徴収と立入検査3 行政調査時に提出する資料第4 派遣元事業主に対する行政処分1 改善命令2 事業停止命令3 許可取消し4 処分命令違反には別の罰則がある第5 派遣先管理台帳の不備に対する効果1 派遣先にも指導・助言と罰則がある2 勧告・公表の対象条文を区別する3 派遣元への影響を分けて考える第6 刑事罰と両罰規定1 30万円以下の罰金2 両罰規定第7 不備が見つかったときの是正手順1 原記録を保全して対象を確定する2 補正記録を別に残す3 派遣元・派遣先間で差異を照合する4 再発防止策を運用に組み込む第8 関連記事第9 出典1 法令2 厚生労働省資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,派遣元管理台帳又は派遣先管理台帳について,未作成,記載漏れ,保存期間不足又は派遣元への通知漏れが判明した場合の行政上・刑事上の効果と,実務上の是正手順を説明するものである。
令和8年9月10日現在の労働者派遣法及び厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」の令和8年7月31日適用版を基礎とする。

厚生労働省は同年10月1日適用版の業務取扱要領も公表しているため,同日以後の調査又は処分では適用版を改めて確認する必要がある。
本記事でいう「不備」には,単なる誤字だけでなく,法定事項の全部又は一部を作成・記載しないこと,所定期間保存しないこと及び派遣先が所定事項を派遣元へ通知しないことを含む。

2 結論

派遣元管理台帳の作成・記載・保存義務違反と,派遣先管理台帳の作成・記載・保存・通知義務違反は,いずれも30万円以下の罰金の対象となり得る。
法人等の従業者が業務に関して違反行為をした場合は,行為者だけでなく法人等にも罰金刑を科す両罰規定がある。

行政対応は一律ではない。
厚生労働大臣又は都道府県労働局長による指導・助言は派遣元及び派遣先の双方を対象とし得るが,改善命令,事業停止命令及び許可取消しは,派遣元事業主の事業運営又は許可に対する制度である。
したがって,派遣先管理台帳の一つの記載漏れが直ちに派遣元の許可取消し又は派遣先の事業停止になる,という関係にはない。

不備を発見したときは,事実に反する作成日を記載して遡及的に整った外観を作らず,原記録を保存した上で,判明日,対象者,対象期間,確認資料,補正内容,補正者及び再発防止策を記録することが重要である。

第2 管理台帳に関する違反の範囲
1 派遣元管理台帳

労働者派遣法37条は,派遣元事業主に対し,事業所ごとに派遣元管理台帳を作成し,派遣労働者ごとに法定事項を記載することを求めている。
同条2項は,対象となる労働者派遣の終了日から3年間の保存を求めている。

違反となり得るのは,台帳を一切作成しない場合だけではない。
対象者又は派遣期間が欠けている,法定事項の一部を記載していない,出来事の都度記載すべき苦情処理や教育訓練等を記録していない,派遣終了後3年を経過する前に廃棄した,必要な電磁的記録を表示・出力できないなど,作成・記載・保存義務を実質的に果たしていない場合も問題となる。

2 派遣先管理台帳

労働者派遣法42条は,派遣先に対し,就業場所ごとに派遣先管理台帳を作成し,派遣労働者ごとに法定事項を記載し,3年間保存することを求めている。
派遣先は,日ごとの始業・終業時刻,休憩時間,実際に従事した業務,責任の程度及び就業場所等の所定事項を,原則として1か月ごとに1回以上派遣元へ通知する必要もある。

個別派遣契約に記載された予定をそのまま転記するだけでは,日々の就業実績を記録したことにならない。
勤怠,入退館記録,業務日報又は請求明細と異なる定型値を記載し続けている場合は,形式上欄が埋まっていても,実態を正確に記録しているかを確認する必要がある。

3 作成義務の例外を誤らない

労働者派遣法施行規則35条3項は,派遣先の事業所等における派遣労働者数と派遣先が雇用する労働者数の合計が5人以下である場合について,派遣先管理台帳の作成・記載義務の例外を定めている。
「派遣労働者が5人以下」であれば常に作成不要という基準ではない。

例外に該当すると判断した場合は,事業所等の範囲,判定時点,派遣労働者数,派遣先雇用労働者数及び合計人数を記録する。
台帳作成の例外に該当しても,労働時間管理,苦情処理,契約遵守その他の義務が当然に消滅するものではない。

第3 指導・助言,報告及び立入検査
1 指導・助言は派遣元と派遣先の双方が対象となる

労働者派遣法48条1項により,厚生労働大臣は,労働者派遣事業の適正な運営又は適正な派遣就業を確保するために必要があると認めるとき,労働者派遣をする事業主及び派遣を受ける者に対して指導・助言をすることができる。
この権限は,原則として都道府県労働局長が行使する。

厚生労働省の業務取扱要領は,違法行為が軽微である場合に直ちに行政処分又は司法処分を行わず自主的改善を促す場面のほか,法の趣旨に反する行為の改善や違法行為の予防にも指導・助言を用いると説明している。
したがって,指導を受けたことと,刑罰又は許可取消しを受けたことは同じではない。

2 報告徴収と立入検査

労働者派遣法50条により,厚生労働大臣は必要な限度で,派遣元及び派遣先に必要事項の報告を求めることができる。
同法51条1項による立入検査では,関係者への質問や帳簿・書類その他の物件の検査が行われ得る。

業務取扱要領は,検査対象となる重要書類の例として,派遣元管理台帳,派遣先管理台帳及び労働者派遣契約を明示している。
報告をしない,又は虚偽の報告をすること,立入検査を拒み,妨げ,若しくは忌避し,又は質問に答弁せず若しくは虚偽の陳述をすることは,台帳の元の不備とは別の罰則対象となり得る。

3 行政調査時に提出する資料

台帳だけを切り離して提出すると,作成単位,更新時期及び実績との一致を説明できないことがある。
対象期間の基本契約,個別契約,派遣元から派遣先への通知,勤怠,派遣元への月次通知,請求書,苦情記録,変更契約及び訂正履歴をそろえ,どの資料から各記載を確認できるかを示す。

欠落がある場合は,不存在を隠すために資料を作り替えず,欠落期間,原因,代替資料の有無及び現在の補正状況を説明する。
提出した版,提出日,提出先及び説明内容を記録し,後の説明と矛盾しないようにする。

第4 派遣元事業主に対する行政処分

(続きを読む...)派遣元・派遣先管理台帳の不備-指導,改善命令,事業停止,許可取消し及び罰則(AI作成)

派遣先が確認する労働者派遣契約書のチェックポイント-基本契約,個別契約,期間満了,中途解約及び直接雇用

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 契約審査を始める前にそろえる書類1 締結済みの基本契約2 対象期間の個別契約及び変更契約3 法定通知,管理台帳及び実績資料4 直接雇用を検討するときの追加資料第3 基本契約のチェックポイント1 契約当事者,許可及び適用範囲2 基本契約と個別契約の優先関係3 契約期間,更新及び解約4 派遣料金,請求及び不就労時間5 安全衛生,苦情及び損害賠償6 秘密保持,個人情報及び成果物7 直接雇用,職業紹介及び紹介手数料第4 個別契約の法定事項を確認する1 業務内容及び責任の程度2 就業場所,組織単位及び指揮命令者3 派遣期間,就業日及び就業時間4 安全衛生及び苦情処理5 中途解除時の雇用安定措置6 直接雇用に関する紛争防止措置7 派遣元・派遣先責任者その他の事項第5 期間満了及び更新のチェックポイント1 四つの終了日を分ける2 更新の意思決定及び書面化3 期間制限及び抵触日の確認4 期間満了後の処理第6 中途解約及び欠員補充のチェックポイント1 誰の事情で何を終了するかを特定する2 退職と個別契約の終了を同一視しない3 派遣先都合の中途解除4 費用負担及び終了合意第7 直接雇用を検討するときのチェックポイント1 派遣元との雇用関係終了後の雇用制限2 雇用関係継続中の採用3 事前通知,職業紹介及び手数料4 通常派遣から紹介予定派遣への変更5 直接雇用前の最終確認第8 派遣先用の最終チェックリスト1 契約締結前2 更新・期間満了前3 中途解約・交代時4 直接雇用時第9 関連記事第10 出典1 法令2 厚生労働省資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,労働者派遣を受け入れる企業が,派遣元から提示された基本契約及び個別契約を確認する際の実務上のチェックポイントを説明するものである。
令和8年9月10日現在の労働者派遣法,同法施行規則,厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」の令和8年7月31日適用版及び「派遣先が講ずべき措置に関する指針」を基礎とする。
厚生労働省は令和8年10月1日適用版の業務取扱要領も公表しているため,同日以後に契約を締結又は更新する場合は,適用版を改めて確認する必要がある。

2 結論

派遣先が確認すべき「労働者派遣契約書」は一通ではない。
継続取引の共通条件を定める基本契約と,具体的な業務,責任の程度,就業場所,組織単位,派遣期間及び就業時間等を定める個別契約を分け,両者の優先関係及び変更方法まで確認する必要がある。

契約開始時だけでなく,期間満了前,中途解約を検討するとき及び派遣労働者の直接雇用を検討するときにも,読み直すべき条項が異なる。
特に,①基本契約の有効期間,②個別契約の派遣期間,③派遣労働者と派遣元との雇用期間,④実際の派遣就業期間並びに⑤派遣先との直接雇用の開始日は,別の日付として管理すべきである。

派遣労働者が派遣元を退職し,又は派遣先での就業を終えたことだけで,派遣元と派遣先との個別契約が当然に終了するとは限らない。
また,派遣元との雇用関係終了後の雇用禁止と,適法な職業紹介に基づく紹介手数料又は派遣先都合の中途解約に伴う費用負担は,別の問題として検討する必要がある。

第2 契約審査を始める前にそろえる書類
1 締結済みの基本契約

最初に,派遣元と派遣先との間で現在有効な基本契約を特定する。
雛形,修正履歴付きの交渉稿,社内承認前のクリーン版及び署名欄が空白の最終案は,契約内容の候補又は交渉経過を示すにとどまり,その文面で契約が成立したことを単独では証明しない。

書面契約であれば契約日,署名又は記名押印,別紙及び覚書を確認し,電子契約であれば締結完了証明書,署名者,締結日時及び原本データを確認する。
商号変更,合併,会社分割又は事業譲渡があった場合は,旧商号と現商号の法人の同一性,契約上の地位の承継,通知先及び振込先も確認する。

2 対象期間の個別契約及び変更契約

次に,受入れを検討する派遣就業に対応する個別契約を特定する。
同じ派遣元との取引でも,業務,就業場所,組織単位,派遣期間又は人数が異なれば,確認すべき個別契約も異なる。

「直近」「最新版」等のファイル名だけで現行契約と決めず,契約期間,更新契約,注文書,覚書及び変更合意を時系列に並べる。
派遣期間の延長,業務又は就業場所の変更,指揮命令者の変更及び人数の変更が,元の個別契約の訂正で処理されたのか,新たな個別契約又は変更契約で処理されたのかを確認する。

3 法定通知,管理台帳及び実績資料

個別契約は予定された就業条件を示す書類であり,実際に誰が,いつ,どの業務に従事したかは,派遣元から派遣先への通知,派遣先管理台帳,勤怠記録及び請求書と照合する必要がある。
個別契約に人数だけが記載され,派遣労働者の氏名が記載されていないこともあるため,労働者派遣法35条の通知によって対象者を確認する。

派遣先管理台帳では,就業日,始業・終業時刻,休憩時間,実際の業務,責任の程度,就業場所,苦情処理等を確認する。
契約書と台帳又は勤怠記録が異なる場合は,直ちに契約書又は台帳の一方を正しいと決めず,変更合意,残業,休日就業,応援勤務,記載漏れその他の原因を調査する。

4 直接雇用を検討するときの追加資料

派遣先が派遣労働者の直接雇用を検討するときは,基本契約及び個別契約だけでは足りない。
①派遣元と派遣労働者との労働契約の種類及び終了日,②就業条件明示書,③職業紹介契約及び手数料表,④直接雇用に関する覚書,⑤派遣元の有料職業紹介事業の許可又は届出の状況並びに⑥採用提案及び本人の応募の経緯を確認する。

派遣元との雇用関係が終了する日,個別契約が終了する日及び派遣先での就業開始日は同一とは限らない。
口頭の了解だけで進めず,各日付と必要な通知・合意を書面又は電子メールで確認する。

第3 基本契約のチェックポイント
1 契約当事者,許可及び適用範囲

基本契約の当事者名,本店所在地,代表者及び通知先が現在の法人情報と一致するかを確認する。
派遣元については労働者派遣事業の許可番号を確認し,直接雇用に伴う職業紹介を予定する場合は有料職業紹介事業の許可又は届出を別に確認する。

基本契約が,どの事業所,部門,関連会社及び個別契約に適用されるかも確認する。
グループ会社を一括して「派遣先」と扱う条項がある場合は,各法人が契約当事者となるのか,単に利用可能な事業所を示すのかを明確にする。

2 基本契約と個別契約の優先関係

基本契約の一般条項と個別契約の就業条件が矛盾した場合に,どちらを優先するかを確認する。
個別契約を優先する条項があっても,労働者派遣法26条及び同法施行規則22条の必要事項を欠くことが許されるわけではない。

注文書,電子メール又は業務システム上の操作で契約を変更できる範囲も確認する。
契約変更は書面による当事者双方の合意に限ると定めている場合,現場担当者間の口頭了解だけでは変更の効力が争われるおそれがある。

3 契約期間,更新及び解約

基本契約の始期・終期,自動更新の有無,更新拒絶の通知期限及び基本契約全体を終了させる解約条項を確認する。
基本契約の有効期間と個別契約の派遣期間は別であり,基本契約が終了しても既存の個別契約にどこまで条項が残るか,又は個別契約が終了しても基本契約が継続するかを確認する。

(続きを読む...)派遣先が確認する労働者派遣契約書のチェックポイント-基本契約,個別契約,期間満了,中途解約及び直接雇用

派遣元・派遣先管理台帳-法定記載事項,通知及び保存期間(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 二つの管理台帳の役割1 派遣元管理台帳2 派遣先管理台帳3 個別契約及び通知書との違い第3 派遣元管理台帳の作成単位と記載時期1 事業所ごと・労働者ごとに作成する2 原則として派遣前に記載する事項3 出来事の都度記載する事項第4 派遣元管理台帳の法定記載事項1 本人・雇用区分及び派遣先2 派遣期間・就業条件及び実績3 苦情・紹介予定派遣及び責任者4 例外業務・社会保険・教育訓練・雇用安定措置第5 派遣先管理台帳の作成単位と例外1 事業所等ごと・労働者ごとに作成する2 小規模事業所等の作成不要の場合第6 派遣先管理台帳の法定記載事項1 本人・派遣元及び雇用区分2 就業実績,業務及び場所3 苦情・紹介予定派遣・教育訓練及び責任者4 期間制限の例外及び社会保険第7 派遣先から派遣元への通知1 定期通知の対象事項2 通知の頻度と方法3 通知内容の照合第8 保存期間と電磁的保存1 保存期間は3年間である2 派遣元管理台帳の起算日に関する注意3 電磁的記録による作成・保存第9 点検方法と証拠上の限界1 対象者と期間を合わせて照合する2 台帳だけでは証明できない事項3 社内点検用チェックリスト第10 関連記事第11 出典1 法令2 厚生労働省資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,派遣元管理台帳及び派遣先管理台帳について,作成主体,作成単位,法定記載事項,記載時期,派遣元への通知,保存期間及び電磁的保存の方法を説明するものである。
令和8年9月10日現在の労働者派遣法,同法施行規則及び厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」の令和8年7月31日適用版を基礎とする。

2 結論

派遣元管理台帳は派遣元が雇用管理のために作成し,派遣先管理台帳は派遣先が就業実態を把握して派遣元へ通知するために作成する。
両者は記載事項が重なるが同じ帳票ではなく,一方の写しを保存するだけでは,他方の法定義務を当然に履行したことにはならない。

保存期間はいずれも3年間であり,原則として対象となる労働者派遣の終了日が起算点となる。
派遣先は,就業日,始業・終業時刻,休憩時間,業務及び就業場所等の所定事項を,原則として1か月ごとに1回以上派遣元へ通知し,派遣元から請求されたときは遅滞なく通知する。

第2 二つの管理台帳の役割
1 派遣元管理台帳

労働者派遣法37条は,派遣元事業主に対し,派遣就業について派遣元管理台帳を作成し,派遣労働者ごとに法定事項を記載することを求める。
厚生労働省の業務取扱要領は,派遣元管理台帳を,派遣元が派遣労働者の雇用主として適正な雇用管理を行うためのものと説明している。

予定された派遣条件だけでなく,苦情処理,教育訓練,キャリアコンサルティング及び雇用安定措置も記録する。
派遣先から通知された就業実績が予定と異なる場合は,通知を受ける都度,異なる実績を記載する必要がある。

2 派遣先管理台帳

労働者派遣法42条は,派遣先に対し,派遣就業について派遣先管理台帳を作成し,派遣労働者ごとに法定事項を記載することを求める。
同要領は,派遣先管理台帳の目的を,就業日・労働時間等の実態を的確に把握するとともに,記載内容を派遣元へ通知し,派遣元の適正な雇用管理に役立てることとしている。

派遣先管理台帳は,個別派遣契約に記載された予定を転記するだけの書類ではない。
実際の就業日,始業・終業時刻,休憩時間及び従事した業務等を記録する必要がある。

3 個別契約及び通知書との違い

個別派遣契約は,派遣元・派遣先が具体的な派遣の予定条件を定める契約である。
派遣元から派遣先への労働者派遣法35条の通知は,その条件の下で実際に派遣される労働者の氏名,有期・無期の別及び社会保険等の加入状況等を知らせるものである。

これに対し,管理台帳は継続的な記録であり,日々の実績,苦情及び措置等が後から追加される。
個別契約,法35条の通知及び両管理台帳を対象者・期間ごとに照合することで,予定と実績の差が分かる。

第3 派遣元管理台帳の作成単位と記載時期
1 事業所ごと・労働者ごとに作成する

派遣元管理台帳は,派遣元事業主の事業所ごとに作成し,派遣労働者ごとに記録する。
厚生労働省の業務取扱要領は,雇用管理を円滑に行うため,有期雇用労働者と無期雇用労働者に分けて作成するものとしている。

労働基準法上の労働者名簿又は賃金台帳と合わせて調製することはできる。
もっとも,各帳票の法定記載事項及び保存期間が満たされていることを確認し,名称を統合したことだけで履行済みと判断しない。

2 原則として派遣前に記載する事項

派遣元管理台帳は,記載事項が確定する都度記載する。
苦情処理,教育訓練,キャリアコンサルティング,雇用安定措置の希望聴取及び実施内容を除く基本的な事項は,労働者派遣をする際にはあらかじめ記載しておく必要がある。

後から一括して台帳を作る運用では,派遣開始時点の契約,通知及び雇用状況を正確に再現できないおそれがある。
個別契約及び法35条の通知を起点として台帳を作成し,変更が生じる都度履歴を残す。

3 出来事の都度記載する事項

苦情の申出及び処理はその都度,教育訓練及びキャリアコンサルティングは実施の都度,雇用安定措置は希望の聴取又は措置実施の都度記載する。
派遣先から就業実績の通知を受け,予定された就業時間等と異なるときは,通知を受ける都度,その実績を記載する。

単に最新値で上書きすると,いつ,なぜ変更されたか分からなくなる。
変更前の値,変更日,根拠となる通知及び入力者を追跡できる形で管理することが望ましい。

第4 派遣元管理台帳の法定記載事項
1 本人・雇用区分及び派遣先

派遣元管理台帳の記載事項は,労働者派遣法37条1項及び同法施行規則31条に定められている。
本人及び雇用区分に関する事項は,①派遣労働者の氏名,②協定対象派遣労働者であるか否か,③無期雇用又は有期雇用の別及び有期の場合の労働契約期間並びに④60歳以上の者であるか否かである。

(続きを読む...)派遣元・派遣先管理台帳-法定記載事項,通知及び保存期間(AI作成)

派遣労働者の退職・欠員補充・労働者派遣契約の途中解除(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 最初に分ける四つの日付と三つの契約1 四つの日付2 三つの契約3 法26条上の労働者派遣契約第3 派遣労働者が退職するとき1 無期労働契約2 有期労働契約3 派遣先は退職日を決める当事者ではない第4 退職しても個別派遣契約が当然終了しない理由1 個別契約は通常,派遣人数と就業条件を定める2 個人の派遣就業終了と会社間契約の終了3 解除は将来に向かって効力を生ずる第5 欠員補充の判断と手続1 最初に基本契約と個別契約を読む2 派遣元から連絡する事項3 派遣先が補充を不要とするとき第6 派遣先都合による個別契約の途中解除1 契約で定めるべき雇用安定措置2 事前申入れは一律に30日前ではない3 新たな就業機会と費用負担4 解除理由の明示第7 派遣元側の雇用処理1 派遣契約終了と解雇は別である2 雇用安定措置第8 証拠化と実務手順1 取得する資料2 時系列表を作る3 終了合意に記載する事項第9 関連記事第10 出典1 法令2 厚生労働省資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,派遣就業中の労働者が退職する場合に,派遣元と派遣労働者との労働契約,派遣元と派遣先との個別派遣契約,欠員補充及び契約途中の解除をどのように区別して処理すべきかを説明するものである。
令和8年9月10日現在の民法,労働基準法,労働契約法,労働者派遣法及び厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」の令和8年7月31日適用版を基礎とする。

2 結論

派遣労働者の退職,その労働者の派遣就業の終了及び派遣元・派遣先間の個別派遣契約の終了は,同じ出来事ではない。
派遣労働者が派遣元を退職しても,個別派遣契約が当然に消滅するとは限らず,派遣元が代替労働者を派遣するのか,派遣先が欠員補充を不要とするのか,個別派遣契約を合意解除するのかを別に決める必要がある。

派遣先の都合で契約期間満了前に個別派遣契約を解除するときは,労働者派遣法29条の2及び派遣先指針に基づく雇用安定措置が問題となる。
他方,派遣労働者自身の退職を契機として契約を終了する場合は,派遣先都合の解除と機械的に同一視せず,退職の原因,代替派遣の可否及び当事者間の合意を確認する。

第2 最初に分ける四つの日付と三つの契約
1 四つの日付

最初に,①派遣元へ退職を申し出た日,②派遣元との雇用契約が終了する日,③派遣先での最終就業日及び④個別派遣契約が終了する日を分ける。
派遣先がその労働者を直接雇用するときは,⑤直接雇用の開始日も加え,日付の前後関係を一覧表にする。

退職申出日と雇用終了日は同日とは限らず,最終就業日と雇用終了日も一致するとは限らない。
有給休暇の取得,貸与品の返却,引継ぎ,社会保険及び雇用保険の手続がある場合は,最後に出勤した日だけで雇用終了日を決めない。

2 三つの契約

確認する契約は,①派遣元と派遣労働者との労働契約,②派遣元と派遣先との基本契約及び③具体的な派遣期間・人数・就業条件を定める個別派遣契約である。
派遣先が直接雇用する場合は,④派遣先と労働者との新しい労働契約及び⑤職業紹介又は紹介手数料に関する合意も加わる。

各契約は当事者が異なる。
一つの契約が終了したことから,他の契約も当然に終了したと推論せず,各契約の期間,解除条項,更新条項,欠員補充条項及び変更方法を確認する。

3 法26条上の労働者派遣契約

厚生労働省の業務取扱要領は,継続的な基本契約と,個々の就業条件を定める個別契約を併用する方式では,労働者派遣法26条の「労働者派遣契約」は後者の個別契約であると説明している。
したがって,中途解除時の法定措置を検討するときは,基本契約の解約日だけでなく,対象となる個別派遣契約の期間及び終了処理を特定する必要がある。

第3 派遣労働者が退職するとき
1 無期労働契約

期間の定めのない雇用について,民法627条1項は,各当事者がいつでも解約を申し入れることができ,原則として申入れの日から2週間を経過することにより雇用が終了すると定める。
もっとも,就業規則又は労働契約に退職手続が定められていることがあるため,派遣労働者は派遣先だけに退職意思を伝えるのではなく,雇用主である派遣元に明確に申し出て,受領日及び退職日を記録する必要がある。

「法律上は必ず1か月前」と一律に説明することは正確ではない。
1か月前という期間が,派遣元の就業規則,派遣元・派遣先間の中途解除条項又は基本契約の更新拒絶条項のいずれに書かれているかを確認する。

2 有期労働契約

期間の定めのある雇用では,民法628条により,やむを得ない事由があるときは期間途中でも直ちに解除できるが,その事由が一方当事者の過失により生じた場合には損害賠償の問題が生じ得る。
労働契約法17条1項は,使用者が有期労働契約の期間途中で労働者を解雇するには,やむを得ない事由を要すると定める。

労働基準法137条は,一定の事業の完了に必要な期間を定める契約等の例外を除き,1年を超える有期労働契約を締結した労働者について,契約初日から1年経過後は使用者へ申し出ることにより退職できる旨を定める。
契約期間,開始日,同法14条1項の例外該当性及び退職理由を確認せず,「有期だから辞められない」又は「いつでも即日退職できる」と決めない。

3 派遣先は退職日を決める当事者ではない

派遣労働者の雇用主は派遣元である。
派遣先は本人の転職意思を尊重しつつも,派遣元への退職申出を代行したり,派遣元との雇用終了前の就労を当然の前提として採用日を決めたりしない。

直接雇用を予定するときは,派遣元との雇用終了日,個別派遣契約の終了日又は合意解除日,職業紹介手続及び直接雇用開始日を相互に整合させる。
形式上別の求人へ応募させても,実際の採用提案及び交渉経過が消えるわけではない。

第4 退職しても個別派遣契約が当然終了しない理由
1 個別契約は通常,派遣人数と就業条件を定める

労働者派遣法26条は,派遣契約の締結に際し,業務内容,就業場所,指揮命令者,派遣期間,就業日及び就業時間等を定め,内容の差異に応じて派遣労働者の人数を定めることを求めている。
紹介予定派遣を除く通常の派遣では,派遣先は契約締結に際して派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないよう努めなければならない。

個別契約が一人の派遣を予定していても,契約上の給付が特定の個人だけによる履行なのか,同等の要件を満たす代替労働者によって履行できるのかは,契約文言及び業務の性質による。
対象労働者の退職だけで契約終了と決めず,派遣人数,資格・技能,交代手続及び派遣先の受入条件を読む。

(続きを読む...)派遣労働者の退職・欠員補充・労働者派遣契約の途中解除(AI作成)

労働者派遣契約書と管理台帳の確認方法-基本契約・個別契約・通知書の違い(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 最初に区別すべき六種類の書類1 基本契約2 個別契約3 派遣元と派遣労働者との労働契約及び就業条件の明示4 派遣元から派遣先への通知5 派遣元管理台帳6 派遣先管理台帳第3 契約書を読む順序1 締結済み文書と交渉資料を分ける2 当事者と許可・商号を確認する3 基本契約と個別契約の優先関係を確認する4 日付を一枚の表にする第4 個別契約で確認する法定事項1 業務,責任及び就業場所2 指揮命令,派遣期間及び就業時間3 安全衛生,苦情処理及び契約解除時の雇用安定4 派遣終了後の直接雇用をめぐる紛争防止措置第5 管理台帳と通知の照合1 予定と実績を分ける2 有期・無期及び期間制限を照合する3 保存期間と起算日4 台帳から分かることと分からないこと第6 中途終了,交代及び直接雇用1 派遣労働者の退職と個別契約の終了2 直接雇用を検討するときの資料3 一般派遣と紹介予定派遣第7 実務用チェックリスト1 契約書の確認2 帳票及び実態の確認3 文書の形式及び管理第8 関連記事第9 出典1 法令2 厚生労働省資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,派遣先又は派遣元が労働者派遣に関する契約書及び帳票を確認する際に,どの書類を,どの順序で,何のために読むべきかを説明するものである。
令和8年9月10日現在の労働者派遣法,同法施行規則及び厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」の令和8年7月31日適用版を基礎とする。
厚生労働省は令和8年10月1日適用版も公表しているため,同日以後は適用版を再確認する必要がある。

2 結論

労働者派遣に関する書類は,一通の「派遣契約書」だけでは完結しない。
①派遣元と派遣先との基本契約,②個々の派遣についての個別契約,③派遣元と派遣労働者との労働契約及び就業条件明示書,④派遣元から派遣先への通知,⑤派遣元管理台帳並びに⑥派遣先管理台帳を,当事者,対象期間及び作成目的を分けて確認する必要がある。

基本契約は継続的な取引条件を定めることが多いが,労働者派遣法26条の意味で中心となるのは,具体的な就業条件を定める個別契約である。
管理台帳は,実際の派遣就業及び雇用管理の記録として重要であるが,基本契約の締結,個別契約の変更又は派遣労働者の退職を単独で証明する書類ではない。

第2 最初に区別すべき六種類の書類
1 基本契約

基本契約は,派遣元と派遣先が継続して取引する場合に,共通して適用する派遣料金の決定方法,秘密保持,損害賠償,契約期間,更新,中途解除,直接雇用時の取扱い等を定める契約であることが多い。
もっとも,労働者派遣法が「基本契約」という名称の契約を必須としているわけではない。
厚生労働省の業務取扱要領は,基本契約と個別契約を締結する方式では,法26条の意味における労働者派遣契約は,具体的な就業条件を定める個別契約であると説明している。

2 個別契約

個別契約は,具体的な労働者派遣について,業務内容,責任の程度,就業場所,組織単位,指揮命令者,派遣期間,就業日及び就業時間等を定める契約である。
同じ基本契約の下でも,派遣労働者,業務,派遣期間又は就業場所が異なれば,確認すべき個別契約も異なる。

「直近」と表示された契約書でも,その後の更新契約又は変更契約が存在することがある。
ファイル名,作成日又はメールの送信日だけで現行版と決めず,契約期間,更新の有無,署名押印又は電子契約記録,後日の覚書及び実際の履行状況を確認する。

3 派遣元と派遣労働者との労働契約及び就業条件の明示

派遣労働者の雇用主は派遣先ではなく派遣元である。
派遣元と派遣労働者との労働契約は,派遣元と派遣先との個別契約とは当事者が異なる。
派遣元は,労働者派遣をしようとするとき,あらかじめ派遣労働者に対し,派遣をする旨,具体的な就業条件及び期間制限に抵触する最初の日等を明示しなければならない(労働者派遣法34条)。

派遣期間と,派遣元との雇用期間は同じとは限らない。
派遣就業が終了しても派遣元との雇用契約が継続する場合があり,反対に,派遣元との雇用契約の終了が企業間の個別契約を当然に消滅させるとも限らない。

4 派遣元から派遣先への通知

派遣元は,労働者派遣をするとき,派遣労働者の氏名,協定対象派遣労働者であるか,有期雇用又は無期雇用の別,60歳以上であるか及び社会保険等の加入状況を派遣先へ通知する(労働者派遣法35条)。
この通知は,個別契約で定めた人数及び就業条件の下で,実際に誰が派遣されるかを派遣先に伝えるものである。

個別契約が「一名」と定めていても,派遣労働者の氏名まで契約本文に記載する方式とは限らない。
個別契約と法35条の通知を組み合わせて,対象者及び期間を確認する。

5 派遣元管理台帳

派遣元管理台帳は,派遣元が,派遣先で就業する派遣労働者の雇用主として適正な雇用管理を行うために,派遣労働者ごとに作成する台帳である(労働者派遣法37条)。
氏名,有期・無期の別,派遣先,派遣期間,実際の就業時間,業務,苦情処理,教育訓練,キャリア・コンサルティング及び雇用安定措置等が記録される。

6 派遣先管理台帳

派遣先管理台帳は,派遣先が,労働日,労働時間その他の派遣就業の実態を把握し,その一部を派遣元に通知して,派遣元の雇用管理に役立てるために作成する台帳である(労働者派遣法42条)。
派遣労働者ごとに,氏名,派遣元,就業日,始業・終業時刻,休憩時間,従事した業務,責任の程度,就業場所,苦情処理等を記載する。

第3 契約書を読む順序
1 締結済み文書と交渉資料を分ける

最初に,署名押印済み契約書又は電子署名・締結ログのある契約と,雛形,修正案,コメント付き交渉稿及び最終案を分ける。
相手方が修正案へ回答したこと,変更履歴を削除したクリーン版が作られたこと,又はファイル名に「最終」とあることだけでは,その文面で契約が成立したことの証明にはならない。

契約書本体のほか,契約締結を示す電子メール,電子契約サービスの完了証明書,署名欄,契約日,別紙及び覚書を確認する。
契約成立が争われる場合は,その後の発注,派遣料金の請求・支払及び同じ条項を前提とした連絡も検討するが,履行事実だけから契約書の全文が合意されたと即断しない。

2 当事者と許可・商号を確認する

派遣元又は派遣先の商号が変更され,合併,会社分割又は事業譲渡が行われていることがある。
旧商号と現商号の法人が同一であるか,契約上の地位が承継されたか,通知先及び振込先が変更されたかを確認する。

派遣元については,労働者派遣事業の許可番号を確認する。
直接雇用時に職業紹介及び紹介手数料が問題となる場合は,有料職業紹介事業の許可,手数料表及び実際の職業紹介行為を別に確認する。

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人材紹介の紹介手数料・違約金-直接採用条項の有効性と条項例(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 紹介手数料と違約金は別の問題である2 結論3 最初に確認する資料第2 紹介手数料の法的な仕組み1 有料職業紹介には原則として許可が必要である2 上限制手数料と届出制手数料3 手数料率の「相場」の見方4 発生時点,算定基礎及び返戻金第3 直接採用・中抜きを対象とする違約金1 条項の目的と限界2 令和7年4月1日以後の明示義務3 公序良俗と損害賠償額の予定4 求職者本人に負担させる条項第4 裁判例から分かること1 派遣先による直接雇用を妨げた事例2 派遣先への紹介手数料請求が認められた事例3 内定承諾後の採用取消しで手数料が認められた事例4 意図的な迂回交渉で違約金が認められた事例5 裁判例の読み方と確認状況第5 労働者派遣からの直接雇用との違い1 雇用関係終了後の雇用制限は禁止されている2 派遣契約に定める紛争防止措置3 通常派遣から紹介予定派遣への変更4 退職・欠員補充・途中解除とは別に整理する第6 紹介手数料・違約金条項の例1 条項例を使う前提2 紹介手数料条項3 直接採用・迂回採用条項4 採用取消し及び返戻金条項5 違約金条項6 派遣契約に置く場合第7 契約審査と紛争対応の実務1 求人企業側の確認事項2 紹介会社側の確認事項3 証拠と消滅時効第8 関連記事第9 主な法令・資料
第1 この記事の対象と結論
1 紹介手数料と違約金は別の問題である
人材紹介会社が求人企業に請求する金銭には,採用が成立したときの紹介手数料と,紹介会社を外した直接採用,虚偽の不採用連絡その他の契約違反に伴う違約金がある。
紹介手数料は職業紹介という役務の対価であり,違約金は契約違反への対応であるから,発生原因も有効性の判断方法も同じではない。

本稿は,有料職業紹介事業者と求人企業との契約を中心に,紹介手数料の法的な仕組み,直接採用・中抜き条項の有効性,令和7年4月1日以後の明示義務及び条項例を整理する。
労働者派遣から派遣先が直接雇用する場面は別の法規制があるため,第5節で区別する。
2 結論
紹介手数料率や違約金額には,すべての契約に通用する一律の「相場」や安全圏はない。
紹介手数料は,紹介会社が選択して届け出た手数料制度,求人企業へ明示した手数料表,契約上の発生時点及び算定基礎に従って判断する。

直接採用・中抜きへの違約金条項も当然に無効ではないが,紹介会社の正当な利益を守る範囲を超え,長期間又は広範囲に転職を妨げる内容や,労働者派遣法が禁止する,派遣元との雇用関係終了後の直接雇用制限を金銭で実現する内容は,無効となる可能性がある。
反対に,紹介を受けた求人企業が紹介会社を意図的に外し,本来の手数料を免れようとした場面では,契約条項に基づく請求が認められた裁判例がある。

したがって,金額だけでなく,対象となる候補者,禁止行為,対象期間,関係会社の範囲,発生要件,算定式,除外事由及び契約申込み時の明示方法を具体化する必要がある。
令和7年4月1日以後に求人企業から職業紹介の申込みを受ける場合,違約金等を定めている紹介会社は,その内容を求人企業に誤解が生じないよう明示しなければならない。
3 最初に確認する資料
紛争の結論は,基本契約だけでは決まらない。
基本契約,個別の求人申込書,手数料表,返戻金制度,利用規約,申込画面と同意記録,候補者を紹介したメール,面接記録,採否連絡,内定通知書,労働条件通知書,紹介会社と候補者との契約並びに実際の入社日を一式で確認する。

ウェブサイトの規約を使う場合は,申込当時の規約本文と版,求人企業が確認できた画面,チェック操作,送信日時及び改定履歴を保存する。
単にウェブサイトのトップページへのリンクを示しただけでは,金額や発生条件について十分な明示があったかが争われやすくなる。
第2 紹介手数料の法的な仕組み
1 有料職業紹介には原則として許可が必要である
職業安定法4条1項は,職業紹介を,求人及び求職の申込みを受け,求人者と求職者との間の雇用関係の成立をあっせんすることと定義している。
この有料職業紹介事業を行うには,原則として厚生労働大臣の許可が必要である。

事業者が用いる名称ではなく,実際に雇用成立へ向けたあっせんをしたかで判断される。
業務委託,採用支援又は情報提供という名称であっても,求人者と求職者の意思疎通を加工し,雇用成立を実質的に仲介して対価を受ける仕組みであれば,職業紹介事業の規制を検討する必要がある。

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派遣社員の直接雇用-雇用禁止条項,紹介手数料及び紹介予定派遣(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論

1 対象と基準日
2 結論

第2 区別すべき四つの法律関係

1 派遣元と派遣労働者との労働契約
2 派遣元と派遣先との派遣契約
3 派遣先と派遣労働者との直接雇用契約
4 職業紹介と紹介手数料

第3 雇用禁止条項と労働者派遣法33条

1 派遣元との雇用関係が終了した後
2 派遣元との雇用関係が終了する前
3 「正当な理由」の範囲

第4 派遣労働者の退職と派遣契約

1 労働契約の種類と退職できる時期
2 派遣労働者の退職と個別派遣契約の終了
3 契約成立日と就業開始日

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AI生成画像・動画を法律事務所サイトで使う際の注意点-AI生成表示,弁護士広告,著作権・肖像権,守秘及び制作記録(AI作成)

第1 結論1 AI生成表示だけでは足りない2 五つの確認層第2 AI生成であることの表示1 通常の法律事務所サイトと表示義務2 表示するかは誤認リスクから決める3 表示文例と表示場所第3 弁護士広告としての確認1 画像と文章を一体として見る2 架空の人物・相談場面・解決場面3 広告内容を裏付ける記録第4 著作権の確認1 入力素材と生成指示2 出力とウェブ公開3 AI生成物を自ら保護できるか4 サービス規約の商用利用許可第5 肖像権・パブリシティ権の確認1 写真だけでなく識別できる似姿にも注意する2 架空の人物という指示だけでは足りない3 著名人の顧客吸引力を広告に使わない第6 守秘義務・個人情報の確認1 実在事件の事実を入力しない2 利用規約・データフロー・設定を確認する3 外部制作者にも同じ基準を適用する第7 制作記録と来歴情報1 保存する制作記録2 電子透かし・来歴情報の限界3 公開後の差替えと事故対応第8 掲載前後の実務チェック1 生成前2 掲載前3 掲載後第9 関連する記事1 肖像・パブリシティ・AI証拠2 個人情報・生成AI契約第10 出典1 法令・国会資料2 裁判例3 政府の指針・注意喚起4 職能団体の規程・委員会資料・技術資料
第1 結論
1 AI生成表示だけでは足りない

法律事務所がAI生成画像又はAI生成動画をウェブサイトに掲載するときは,「AIで作った」と表示するだけでは足りない。
表示は閲覧者の誤認を減らす一つの手段であるが,第三者の著作権・肖像権を消滅させず,弁護士広告の不正確な印象を正当化せず,守秘義務違反を治癒するものでもない。

実務では,①入力素材,②生成結果,③広告全体の印象,④守秘・個人情報,⑤制作記録を別々に確認し,最後に一つの掲載判断へ統合する必要がある。
特に,実写と見分けにくい人物画像又は動画は,架空の人物であっても,実在する依頼者,職員,弁護士,裁判所又は取扱実績を撮影したものと受け取られないかを確認すべきである。

本記事は,令和8年9月9日現在の日本法及び公表資料に基づく一般的な整理である。
個別の画像・動画,利用規約,広告文言及び掲載ページの構成によって結論は変わり得る。

2 五つの確認層
確認層主な確認事項表示だけでは解決しない理由
入力素材参照画像,写真,ロゴ,文章,プロンプトの権原無断入力又は類似物を作る目的の入力が問題になり得る
生成結果既存著作物との類似性・依拠性,実在人との識別可能性AI生成であることは侵害判断の免責事由ではない
弁護士広告実在の職員・依頼者・取扱実績・結果との誤認広告は画像,見出し,本文,配置を含む全体の印象で受け取られる
守秘・個人情報事件情報,依頼者情報,入力後の保存・学習・再利用公開画像が架空でも,制作時の入力で秘密が外部処理され得る
制作記録規約,プロンプト,候補,編集,承認,掲載版表示の正確性,権利確認及び差替え理由を後から説明する必要がある

第2 AI生成であることの表示
1 通常の法律事務所サイトと表示義務

本記事で確認したAI法及び人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針は,通常の法律事務所サイトに掲載する全てのAI生成画像・動画について,一律の可視表示義務又は統一文言を定めているわけではない。
もっとも,同指針は,透明性,アカウンタビリティ,プライバシー・個人情報及び知的財産への配慮を掲げ,AIの用途とリスクの影響度に応じた対応を求めている。

経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」は,AI利用者に対し,関係する者の性質に応じた合理的な範囲で,適正な利用方法を含む情報を平易かつアクセスしやすい形で提供することを掲げている。
ただし,これは法律事務所サイトの全てのAI生成画像・動画について,特定の文言又は表示場所を一律に定める法令ではない。

他方,表示義務が特定の場面で法制化される例もある。
令和8年法律第58号は,選挙運動又は一定期間の落選運動に使うインターネット上の文書図画について,社会通念上軽微な改変又は実写と誤認されるおそれのないものを除き,AIを利用して作成・改変した画像又は映像である旨の表示を求め,令和9年3月1日から施行される。

したがって,「日本法にはAI生成表示の義務がない」と一般化するのは正確でない。
通常の法律事務所サイトでは,法令の適用範囲に加え,利用するサービス・媒体の規約,広告の文脈及び閲覧者の誤認可能性を確認して表示方法を決める必要がある。

2 表示するかは誤認リスクから決める

表示の必要性は,AIの利用割合だけでなく,画像又は動画が伝える意味から判断するのが適切である。
実在の依頼者の体験,実際の相談風景,実在する職員,実際の裁判所,現実の解決結果又は現実の報道映像と受け取られる可能性が高いほど,画像又は動画に近接した可視表示を置く必要性が高い。

反対に,抽象的な背景模様,明らかな図解又は現実の場面と誤認されにくい装飾まで,同じ長さの注記を一律に付ける必要性は低いことがある。
ただし,表示を省略する判断をした場合も,制作記録にはAI利用の有無,利用範囲及び省略理由を残すことが望ましい。

3 表示文例と表示場所

全体をAIで生成した写実的な画像又は動画には,例えば次の表示が考えられる。
これは法定文言ではなく,実在の人物・事件・施設であるとの誤認を減らすための表示例である。

※この画像(動画)は生成AIを利用して作成したイメージであり,実在の依頼者,相談者,事件又は裁判所を示すものではない。

実写素材をAIで重要な程度に加工した場合には,例えば次のように,加工であることを示す。
実在人物の写真を用いたときは,この注記とは別に,撮影・加工・公開の同意範囲を確認する必要がある。

※この画像(動画)は生成AIを利用して加工したイメージである。

表示は,画像直下のキャプション又は動画プレーヤーの直近など,閲覧時に気付きやすい場所へ置くのが望ましい。
画像のalt属性,ファイル名又は来歴メタデータだけでは,通常の閲覧者が表示を認識できないことがある。

第3 弁護士広告としての確認

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準確定申告-4か月の期限・必要書類・書き方・e-Taxと相続税(AI作成)

第1 準確定申告の対象と最初に確認する事項1 準確定申告とは2 最初に四つの日付と資料を固定する第2 準確定申告が必要な場合と還付だけを受ける場合1 申告要否は被相続人の所得から判定する2 給与所得者について確認する基準3 公的年金等の受給者について確認する基準4 申告義務がなくても還付申告はできる第3 4か月の期限と二年分の申告が必要となる場合1 期限は相続開始を知った日の翌日から4か月以内である2 前年分と死亡年分の両方が対象となる場合がある3 期限を過ぎた場合は放置しない第4 申告する人,複数の相続人及び提出先1 相続人には包括受遺者を含む2 相続人等が複数いる場合3 提出先は被相続人の死亡当時の納税地である第5 必要書類と書き方1 提出書類と計算資料を区別する2 所得控除は死亡日までの支払と死亡日の現況で判定する3 申告書と付表を作る順序第6 書面提出とe-Taxの違い1 確定申告書等作成コーナーでは作成できない2 e-Taxで提出する書類と認証3 提出方法を決める基準第7 令和8年分の準確定申告に固有の注意1 令和8年11月30日以前に提出する場合2 令和8年12月1日以後にe-Taxで提出する場合第8 還付金・納付税額と相続税の関係1 準確定申告の還付金は相続財産になる2 準確定申告の納付税額は債務控除の対象となり得る3 4か月と10か月を一つの工程表で管理する第9 実務上の確認手順1 申告までの六段階2 早期に専門家へ確認する場面第10 関連記事第11 出典・参考資料1 法令2 所管行政機関の解説・Q&A・運用資料3 関連記事第1 準確定申告の対象と最初に確認する事項

1 準確定申告とは

準確定申告とは,所得税の確定申告をすべき人が死亡した場合に,相続人等が被相続人に代わって行う所得税の申告である。
死亡年分については,その年の1月1日から死亡日までに確定した所得金額と税額を計算する。

本記事は,令和8年9月7日現在の日本法を前提として,国内に居住していた人が死亡した場合の所得税及び復興特別所得税を扱う。
消費税の申告,国外転出時課税,非居住者の国際税務及び相続税額の具体的計算は対象外である。

2 最初に四つの日付と資料を固定する

準確定申告の作業では,①死亡日,②各相続人が相続開始を知った日,③被相続人が前年分の確定申告書を提出済みかどうか,④被相続人の死亡当時の納税地を最初に確認する。
期限と対象年分はこの四点によって決まり,提出先も相続人の住所地ではなく,被相続人の死亡当時の納税地を基準に決まる。

次に,給与・年金・事業・不動産・配当・譲渡等の収入資料,源泉徴収税額,予定納税額及び控除資料を集める。
死亡したという事実だけで申告義務が生じるわけではないため,被相続人について通常の確定申告義務があったかを計算できる資料が必要である。

第2 準確定申告が必要な場合と還付だけを受ける場合

1 申告要否は被相続人の所得から判定する

所得税法120条の確定申告義務が被相続人に生じる場合は,相続人等が準確定申告をしなければならない。
事業所得,不動産所得,譲渡所得等があるだけで常に申告義務が生じるわけではなく,各種所得,所得控除,税額控除,源泉徴収税額及び予定納税額を通じて判定する必要がある。

2 給与所得者について確認する基準

国税庁の「給与所得者で確定申告が必要な人」によれば,給与収入が2000万円を超える場合,1か所から源泉徴収対象の給与を受けていて給与・退職所得以外の所得金額が20万円を超える場合,2か所以上から給与を受けて一定の基準を超える場合等は確定申告が必要となる。
20万円の基準は収入金額ではなく,原則として必要経費等を反映した所得金額で判定する。

死亡によって退職した給与所得者は,年の中途でも年末調整の対象となることがある。
したがって,給与所得者については,勤務先から交付された源泉徴収票で年末調整の有無と源泉徴収税額を確認した上で,他の所得を合算して申告要否を判断する。

3 公的年金等の受給者について確認する基準

公的年金等の収入金額が400万円以下で,その全部が源泉徴収の対象となり,公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下である場合は,所得税の確定申告を要しない制度がある。
ただし,源泉徴収の対象とならない一定の外国年金を受給している場合はこの制度を利用できず,所得税の申告が不要でも住民税の申告が必要となることがあるため,年金額だけで一律に判断できない。

4 申告義務がなくても還付申告はできる

源泉徴収税額又は予定納税額が計算上の所得税額を上回るときは,申告義務がなくても還付を受けるための申告ができる。
所得税法125条2項には,同条1項のような4か月の期限が規定されていない。

国税庁の「還付申告」は,一般の還付申告を対象年の翌年1月1日から5年間提出できると説明している。
もっとも,期限内申告が適用要件となる青色申告特別控除等もあるため,還付見込みであっても4か月以内に申告内容を確認するのが安全である。

第3 4か月の期限と二年分の申告が必要となる場合

1 期限は相続開始を知った日の翌日から4か月以内である

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企業不祥事の「分岐点」と内部統制―例外運用,違和感の記録及び取締役の責任(AI作成)

第1 結論第2 「不正の分岐点」という着眼点1 A&Sニューズレターの位置付け2 法的義務と問題発見の着眼点を分ける第3 会社法上の内部統制システム1 取締役会設置会社2 取締役会を置かない会社3 取締役の責任と会社の責任第4 最高裁平成21年7月9日判決1 事件及び結論2 存在していた体制3 不正手法と予見可能性4 判決の射程第5 不正の端緒となり得る例外運用1 例外と不正を同一視しない2 確認を開始すべき兆候第6 例外対応レジスター1 記録項目2 運用上の要点第7 善意,不正及びデータ不備という競合仮説1 一つの筋書きへ飛びつかない2 証拠の保全と独立した確認第8 公益通報制度との接続第9 JPX資料の位置付け1 不祥事予防のプリンシプル2 内部統制強化ハンドブック第10 例外運用を点検するための質問第11 関連記事第12 出典1 法令2 裁判例3 行政資料及び実務資料
第1 結論

企業不祥事を防ぐ内部統制は,不正を一件も生じさせないことを保証する仕組みではない。
実務上の例外対応も,それ自体が不正であるわけではない。
しかし,「今回だけ」という例外が反復され,通常の承認経路が迂回され,説明が変遷し,又は判断資料が残っていない場合,その例外は調査又は再評価を始める端緒となり得る。

会社法上は,取締役会設置会社の内部統制システムについて,会社法362条4項6号及び5項並びに会社法施行規則100条が中心となる。
もっとも,法令は,あらゆる例外対応を記録する特定名称の台帳まで一律に義務付けているわけではない。
本記事で示す「例外対応レジスター」は,法令上の義務をそのまま転記したものではなく,例外の理由,承認及び事後評価を後から検証できるようにするための実務上の整理である。

最高裁平成21年7月9日判決は,不正発生という結果だけで代表取締役のリスク管理体制構築義務違反の過失を認めたものではなく,当時の体制,実際の運用,不正手法の巧妙性及び予見可能性を具体的に検討した。
反対に,過去の同種不正,合理的に説明できない異常又は統制の形骸化が認識できる状況であれば,同判決と同じ結論になるとは限らない。

第2 「不正の分岐点」という着眼点
1 A&Sニューズレターの位置付け

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業が令和8年6月に公表した「企業はどこでつまずくのか―多数の不正・紛争事案から考える『不正の分岐点』」は,裁判官及び弁護士として不正・紛争事案に携わった経験から,問題が大きくなる前の小さな判断に着目するニューズレターである。
同資料は,法令,裁判例又は統計的研究ではなく,実務家の経験に基づく問題発見の着眼点として読む必要がある。

同ニューズレター3頁~6頁は,例外を設けること自体を否定せず,通常運用との違い,例外の理由,判断者,記録の有無及び反復の有無を後から確認できることの重要性を指摘する。
また,現場が抱いた違和感を直ちに不正と決め付けるのではなく,その違和感を言語化し,説明可能な形で残すという視点を示している。

2 法的義務と問題発見の着眼点を分ける

ニューズレターの指摘は,例外運用を確認する際の有用な手掛かりとなる。
しかし,個別事件における取締役の責任は,会社の規模,機関設計,事業内容,想定されるリスク,既存の統制,認識できた兆候及び対応経過を踏まえて判断されるため,ニューズレターの着眼点だけから責任の有無を決めることはできない。

本記事では,①法令が定める体制,②最高裁判決が具体的事案で検討した事情,③実務資料が示す点検の着眼点,及び④本記事が提案する記録方法を分けて整理する。

第3 会社法上の内部統制システム
1 取締役会設置会社

会社法362条2項は,取締役会の職務として,業務執行の決定,取締役の職務執行の監督並びに代表取締役の選定及び解職を定める。
同条4項6号は,取締役の職務執行の法令・定款適合性を確保する体制その他会社及び企業集団の業務の適正を確保するために必要な体制の整備を,取締役へ委任できない重要な業務執行の決定としている。
大会社である取締役会設置会社では,同条5項により,取締役会がこの事項を決定しなければならない。

会社法施行規則100条1項は,①取締役の職務執行に係る情報の保存及び管理,②損失の危険の管理,③取締役の職務執行の効率性,④使用人の職務執行の法令・定款適合性,並びに⑤企業集団の業務の適正を確保する体制を掲げる。
同条3項は,監査役設置会社について,監査役への報告,報告者に対する不利益取扱いの防止及び監査の実効性確保等も定める。

取締役会が基本方針を決議していることと,現場で統制が実際に機能していることは同じではない。
取締役会には取締役の職務執行を監督する権限があるため,決議済みの規程が実際の業務で使われているか,事業又はリスクの変化に応じて見直されているかという運用面も重要となる。

2 取締役会を置かない会社

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スキャン代行は著作権侵害になるか-自炊代行訴訟の確定判決と,許諾なしにできる範囲(AI作成)

第1 この記事の対象と結論1 対象と調査の基準日2 結論3 三つの類型を分けて考える第2 自炊代行訴訟で何が判断されたか1 三つの判決と確定までの経過2 東京地方裁判所平成25年9月30日判決(1) 事業の内容(2) 訴訟前の経緯(3) 複製の主体についての判断(4) 複製物の数は増えていないという主張(5) 結論3 東京地方裁判所平成25年10月30日判決4 知的財産高等裁判所平成26年10月22日判決(1) 判断の枠組みが第一審と異なる(2) 著作権法30条1項の趣旨についての判示(3) 控訴人の主張が排斥された理由(4) 裁判体と判決要旨の誤記5 第一審と控訴審で理由づけが異なる意味第3 誰が責任を負い,何を請求されるか1 差止めの主文は作品を特定したもの2 損害は弁護士費用相当額である3 代表者個人も責任を負う4 刑事責任と親告罪5 依頼した側はどうなるか6 期間制限第4 許諾なしにできる範囲1 自分でスキャンする2 仕事のための複製と他の権利制限3 そもそも著作物でない書類4 保護期間が満了した著作物5 図書館等における複製6 店舗設置型と著作権法30条1項1号7 著作権者の許諾を得る第5 実務上の確認手順1 書籍の電子化を業者に頼みたいという相談を受けたとき2 事務書類の電子化を外注するとき3 利用規約では回避できない第6 残る論点第7 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 所管行政機関の資料4 審議会に提出された関係団体の意見
第1 この記事の対象と結論
1 対象と調査の基準日

この記事は,紙の書籍又は書類を第三者の事業者に預けてスキャンさせ,電子ファイルを受け取る行為(スキャン代行)について,日本の著作権法上どのような評価を受けるかを扱う。
調査の基準日は令和8年9月7日であり,法令の条文は同日現在のe-Gov法令検索で確認した現行条文による。
裁判例は,同日に裁判所ウェブサイトで実在及び全文を確認したものを用いる。
電子帳簿保存法上のスキャナ保存の要件,個人情報保護法上の委託先監督義務及び秘密保持契約上の問題は扱わない。
生成AIの学習のための複製(著作権法30条の4)は主題としないが,第6で,書籍の裁断・スキャンがAI学習の目的で行われる場合との違いに触れる。

2 結論

書籍のスキャン代行は,著作権者の許諾がなければ複製権(著作権法21条)の侵害となる。
これは,東京地方裁判所平成25年9月30日判決,東京地方裁判所平成25年10月30日判決及び知的財産高等裁判所平成26年10月22日判決が一致して判断したところであり,控訴審判決は上告受理申立てが不受理となって確定している。

依頼者が私的使用の目的であっても,この結論は変わらない。
私的使用のための複製を認める著作権法30条1項は,①個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とすること,及び②その使用する者が複製すること,という二つを要件とする。
スキャン代行では複製の主体が事業者であるところ,事業者は営利目的で不特定多数の顧客へ納品するために複製しているから①を欠き,電子ファイルを私的に使用するのは依頼者であって事業者ではないから②も欠く。

自炊代行訴訟が直接判断したのは,利用者の所有する書籍を事業者が裁断・スキャンして電子ファイルを納品する商業サービスであり,許諾なしにできる利用一般を網羅したものではない。
本記事で扱う主要な例としては,自分で私的使用のためにスキャンする場合,対象がそもそも著作物でない場合,保護期間が満了している場合及び著作権法31条の要件を満たす図書館等の複製がある。
仕事のための複製は私的使用に当たらないが,そのことから直ちに常に許諾が必要になるのではなく,対象と利用目的に応じて,他の権利制限,利用規約又は個別許諾を確認する必要がある。

3 三つの類型を分けて考える

「スキャン代行」という同じ語で呼ばれるサービスには,法的な検討事項が異なる三つの類型が含まれている。
同じ語が,書籍の電子化を指して使われることも,事務書類の電子化を指して使われることもある。
どの類型の話をしているのかを最初に確定しないと,判決の射程を誤ることになる。

第一は,利用者が所有する書籍を業者へ送り,業者が裁断してスキャンし電子ファイルを納品する類型であり,いわゆる自炊代行である。
判決が集積しているのはこの類型であって,本記事の第2及び第3は主にこれを扱う。

第二は,企業が保有する契約書,請求書,図面,カルテ等の事務書類を業者へ委託して電子化する類型である。
対象文書に著作物性がなければ著作権法上の問題は生じないが,購読している新聞,購入した書籍,学術論文,規格票等が混在すると別の評価になる。

第三は,店舗に裁断機とスキャナーを設置し,客が自ら作業する類型である。
この類型を直接扱った裁判例は,裁判所ウェブサイトで確認した範囲では見当たらないが,第4の6で述べるとおり別の条文上の論点がある。

第2 自炊代行訴訟で何が判断されたか
1 三つの判決と確定までの経過

小説家,漫画家又は漫画原作者である7名が原告となり,複数のスキャン事業者を被告として提起した訴訟について,東京地方裁判所で二つの判決が言い渡された。

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令和8年改正個人情報保護法と委託契約-クラウド・生成AI利用で見直す事項(第30条の3・第58条の2)(AI作成)

第1 記事の対象と結論第2 現行法上の三類型1 サービス提供者が個人データを取り扱わないクラウド利用2 サービス提供者が委託業務として個人情報を取り扱う場合3 サービス提供者が自己の目的でも利用する場合第3 改正法第30条の31 委託先等に対する直接の利用範囲制限2 対象情報と必要な範囲第4 改正法第58条の21 契約を基礎とする特例の条件2 特例によっても残る義務3 現時点で確定していない事項第5 クラウド及び生成AIへの当てはめ1 「学習利用なし」だけでは足りないこと2 契約,設定及び実装を一体で確認すること3 国外処理及び再委託第6 委託契約の確認事項1 目的,対象及び二次利用2 安全管理,再委託及び国外処理3 報告,削除及び変更管理4 認可仕様及び受入試験第7 導入及び見直しの手順第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 個人情報保護委員会の解説・Q&A・運用資料

第1 記事の対象と結論

令和8年改正個人情報保護法の施行に備えた委託契約の見直しでは,サービス提供者が実際に何をするかが出発点となる。
本記事では,クラウド及び生成AIの利用を機能ごとに三類型へ分け,二次利用,ログ,再委託,国外処理,報告及び削除を契約へ反映する方法を検討する。
特に,改正法第30条の3は委託先等に委託業務の必要範囲を超える利用を直接禁止し,改正法第58条の2は一定の処理者について契約及び実際の取扱いを条件とする特例を設けるものであるから,契約書の名称又は「学習利用なし」という表示だけで結論を出すべきではない。

本記事は,令和8年9月7日時点で公表されている令和8年法律第56号,個人情報保護委員会の改正法資料及び現行Q&Aに基づく一般的な整理である。
同法は令和8年7月10日に成立し,同月17日に公布されたが,第30条の3及び第58条の2を含む主要部分の具体的な施行日は,公布の日から2年以内の政令で定める日とされており,本記事の基準日現在では確定していない。
また,第58条の2の契約事項及び取扱方法の細目は個人情報保護委員会規則等に委ねられているため,今後の規則,ガイドライン及びQ&Aによって契約実務を更新する必要がある。

第2 現行法上の三類型

1 サービス提供者が個人データを取り扱わないクラウド利用

クラウドサービスの利用が個人データの第三者提供又は取扱いの委託に当たるかは,サーバに個人データを保存するという外形だけでなく,サービス提供者が当該個人データを取り扱うこととなっているかによって判断される。
個人情報保護委員会のQ&A7-53は,契約条項によってサービス提供者が個人データを取り扱わないこと及び適切なアクセス制御が確保されている場合には,個人データの提供に当たらず,現行法第25条の委託先監督義務も生じないとする。

もっとも,この場合でも利用者である事業者自身の安全管理措置義務がなくなるわけではない。
Q&A7-54が示すとおり,クラウド環境を利用する事業者は,保存した個人データについて自ら安全管理措置を講ずる必要がある。

2 サービス提供者が委託業務として個人情報を取り扱う場合

サービス提供者が,入力,集計,保管,検索,要約又は応答生成等のために個人情報を取り扱う場合は,取扱いの委託に当たるかを検討する必要がある。
現行法上,個人データの取扱いを委託する場合には,第25条による必要かつ適切な監督が必要となり,委託先の選定,契約及び取扱状況の把握を組み合わせることになる。

個人情報保護委員会のQ&A5-11は,定型的業務の委託について,外部事業者の約款等を吟味し,その遵守によって個人データの安全管理が図られると判断できる場合,自己の社内規を守らせる覚書の追加締結までは必須でないと説明する。
しかし,改正法第58条の2の特例を用いる場合には同条所定の契約事項が必要となるため,現行法上の委託先監督の方法と同条の適用条件を混同してはならない。

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死後のパブリシティ権は相続・遺言の対象になるか-故人の声・肖像を生成AIで利用する場合(AI作成)

目次

第1 結論第2 パブリシティ権の法的性質と相続性1 最高裁判決による位置付け2 相続性を否定する裁判例3 譲渡性に関する反対方向の裁判例4 法務省報告書の到達点第3 遺言に書けば承継できるか1 民法896条及び964条2 遺言で分けて記載すべき事項3 生前契約の確認第4 故人の声・肖像を生成AIで利用する場合1 声も検討対象となること2 学習と生成物の利用を分けること3 法務省報告書の生成AI設例第5 死後にも別に問題となる権利1 生前に発生した損害賠償請求権2 遺族固有の敬愛追慕の情3 不正競争防止法4 著作権及び実演家人格権第6 外国法との違い1 カリフォルニア州及びニューヨーク州第7 実務上の三層チェック1 本人意思の層2 権利主体の層3 利用範囲の層第8 出典
第1 結論

日本法上,死後のパブリシティ権が当然に相続され,遺言によって自由に承継先を指定できると確定しているわけではない。
大阪高裁平成29年11月16日判決(平成29年(ネ)第1147号・判時2409号99頁。Ritmix事件)は,パブリシティ権は一身に専属し,譲渡又は相続の対象とならないと述べたが,本人死亡後の利用が直接争われた事案ではない。

他方,譲渡性を一律に否定することは困難であるとした裁判例や,譲渡を受けた会社への損害帰属を認めた裁判例もある。
法務省が令和8年8月7日に公表した検討会報告書も,譲渡性及び相続性について一致した見解を導くことは困難であり,承継される権利の内容,保護期間及び請求権者を解釈だけで定めることには困難があるとしている。

したがって,遺言書に「パブリシティ権を相続させる」と記載するだけで,第三者に対する排他的権利が確実に発生するとはいえない。
もっとも,①著作権,商標権,原盤その他の財産権,②利用許諾料等の金銭債権,③利用許諾契約又は管理契約上の地位,④生前の侵害により発生済みの損害賠償請求権は,パブリシティ権そのものとは分けて,相続及び遺言の対象となるかを検討できる。

生成AIで故人の声又は肖像を利用する場合は,「本人の意思」だけでなく,「どの権利を誰が持つか」及び「契約が当該利用をどこまで許すか」を別々に確認する必要がある。

第2 パブリシティ権の法的性質と相続性
1 最高裁判決による位置付け

最高裁平成24年2月2日第一小法廷判決(平成21年(受)第2056号・民集66巻2号89頁。ピンク・レディー事件)は,パブリシティ権を,肖像等の顧客吸引力を排他的に利用する権利であり,肖像等それ自体の商業的価値に基づく人格権由来の権利の一内容と位置付けた。
同判決は,肖像等を独立した鑑賞商品として使用する場合,商品等の差別化のために付す場合又は広告として使用する場合など,専ら顧客吸引力の利用を目的とする無断使用を不法行為法上違法としたが,譲渡性,相続性又は死後の存続期間は判断していない。

パブリシティ権の一般的な成立要件については,「パブリシティ権の要件と裁判例」で整理している。

2 相続性を否定する裁判例

Ritmix事件は,パブリシティ権について,人格権に由来する権利の一内容であり,一身に専属して譲渡又は相続の対象とならないと述べた。
同時に,同判決は,肖像等の商業的価値を利用する契約まで不合理とはいえないとして利用許諾契約の有効性を認め,現実に市場を独占していた独占的利用許諾先について,警告後も無断利用が継続したことによる固有の損害を認めた。

もっとも,Ritmix事件で直接問題となったのは,外国人マスタートレーナーの画像利用と独占的利用許諾先の損害であり,本人死亡後の相続人による権利行使ではなかった。
そのため,同判決は重要な否定方向の資料であるが,死後のパブリシティ権に関する最高裁判例ではない。

3 譲渡性に関する反対方向の裁判例

東京地裁令和4年12月8日判決(令和3年(ワ)第13043号・判タ1510号229頁。愛内里菜事件)は,パブリシティ権が財産的利益に着目して認められていることから,第三者への帰属を一律に否定することは困難であるとした。
ただし,契約終了後も無期限に芸名に係る権利を事務所へ帰属させる条項について,事務所の保護の必要性,本人の不利益及び代償措置を考慮し,公序良俗に反して無効とした。

知財高裁令和4年12月26日判決(令和4年(ネ)第10059号。FEST VAINQUEURグループ事件)は,これと異なり,パブリシティ権は人格権に基づく権利であって会社に譲渡できるとは考え難いと述べた。
また,知財高裁令和7年8月28日判決(令和6年(ネ)第10085号。Rちゃん事件)は,マネジメント会社が本人からパブリシティ権の譲渡を受けたとの前提事実及び弁論の全趣旨に基づき,同社への損害を認めた。

以上の裁判例は譲渡性について方向が分かれており,相続性を直接判断したものでもない。
譲渡を認めることと相続を認めることは同じ問題ではないため,譲渡性肯定例だけから死後の相続性を肯定することもできない。

4 法務省報告書の到達点

「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会取りまとめ報告書」45頁~49頁は,裁判例及び学説の対立を整理した上で,パブリシティ権の譲渡性及び相続性について,現時点で一致した見解を導き出すことは困難であり,裁判例等の動向を踏まえて引き続き検討するのが相当であるとした。
相続性を肯定する見解にも,故人の明示的又は推定的意思による制約,一定の保護期間及び請求権者の範囲等の課題が残る。

同報告書は現行法及び判例法理を整理した解釈指針であり,法律又は拘束的な裁判例ではない。

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米国政府はAI学習を「合法」としたのか―OpenAI著作権訴訟と取得・学習・出力の違い(AI作成)

第1 本記事の結論

第2 米国政府意見書の位置付け

1 裁判所の判断ではないこと

2 意見書が主として扱う範囲

第3 取得・保管・学習・出力を分ける理由

1 四つの段階

2 アクセス許可と著作権処理も同じではないこと

第4 米国政府が主張するフェアユース

1 四つの考慮要素

2 学習は高度に変容的であるとの主張

3 市場への影響を狭く捉える主張

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パブリシティ権の要件と裁判例-顧客吸引力,「専ら」要件及び肖像権との違い(AI作成)

目次

第1 結論1 判断の骨格2 本記事の対象第2 パブリシティ権の法的性質と三類型1 人格権に由来する経済的利益2 三類型は典型例であること第3 顧客吸引力の認定1 全国一般の知名度は独立の要件ではないこと2 顧客吸引力を裏付ける資料3 特定分野で知られているだけでは足りない場合第4 「専ら」要件の意味1 他の目的が少しでもあれば侵害が否定されるわけではないこと2 記事又は著作物を補足する利用(1) ピンク・レディー事件(2) 中田英寿事件3 写真又は標識が中心となる利用(1) ENJOY MAX事件(2) Ritmix事件及びエンリケ事件第5 肖像権及びプライバシーとの違い1 保護する利益と成立要件が異なること2 パブリシティ権侵害がなくても別の侵害が成立し得ること第6 主要裁判例の比較第7 救済と権利主体1 損害賠償,差止め及び廃棄2 独占的利用許諾先の損害第8 実務上の確認順序1 利用前に確認する資料2 紛争時の検討順序第9 出典1 法令2 裁判例

第1 結論

1 判断の骨格

パブリシティ権とは,氏名,肖像等が商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合に,その顧客吸引力を排他的に利用する権利であり,人格権に由来する権利の一内容を構成する。
最高裁平成24年2月2日判決は,無断利用が不法行為となる典型例として,①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合,②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合,③肖像等を商品等の広告として使用する場合を挙げ,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合にパブリシティ権を侵害するとした。

したがって,実務上は,①利用された氏名,肖像等から本人を識別できるか,②その本人の肖像等が問題となる需要者層に対して顧客吸引力を有するか,③利用態様が最高裁の三類型又はこれらと同程度に顧客吸引力へ依存するものか,④記事,作品又は批評部分に肖像等とは独立した意味があるか,⑤承諾又は利用許諾の範囲内かを順に確認することになる。

2 本記事の対象

本記事は,令和8年9月6日現在の日本法を対象として,パブリシティ権の成立要件,下級審における具体的な認定,肖像等をみだりに利用されない人格的利益との違い及び主な救済を整理するものである。
故人の権利,声の模倣,生成AIの学習段階,不正競争防止法,商標権及び著作権の詳細は対象外とし,生成AIによる声・肖像の利用については,AIによる声・肖像の無断模倣を参照されたい。

本人死亡後のパブリシティ権,相続及び遺言による承継については,死後のパブリシティ権は相続・遺言の対象になるかを参照されたい。

AI生成の人物画像・動画を法律事務所サイトへ掲載する場合の表示,弁護士広告,守秘及び制作記録については,AI生成画像・動画を法律事務所サイトで使う際の注意点で整理している。

第2 パブリシティ権の法的性質と三類型

1 人格権に由来する経済的利益

最高裁平成24年2月2日判決(平成21年(受)第2056号・民集66巻2号89頁)は,肖像等が商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,この顧客吸引力を排他的に利用する権利がパブリシティ権であるとした。
同判決は,パブリシティ権を人格権に由来する権利の一内容と位置付ける一方,保護対象を肖像等それ自体の商業的価値に着目した利用に限定した。

このため,著名人の氏名又は肖像が無断で使われたという事実だけでは足りず,利用された媒体全体の目的,肖像等の大きさ,配置,回数,説明文との関係及び取引上の役割を検討する必要がある。

2 三類型は典型例であること

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有期雇用契約における試用期間-設定と契約終了の法的整理(AI作成)

第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 試用期間を置けば解雇しやすくなるわけではないこと第2 有期契約と試用期間の二つの組合せ1 有期契約の中に別の試用期間を置く場合2 有期契約そのものを適性判断の期間とする場合3 無期契約への移行条件を明確にすること第3 試用期間を設定するときに書面で分ける事項1 契約期間と試用期間を別々に記載すること2 終了場面まで区別して記載すること3 評価基準と運用を一致させること4 長さと延長を自動的に決めないこと第4 試用期間中に雇用を終了する場合1 労働契約法17条1項の「やむを得ない事由」2 試用契約における留保解約権の限界3 採用後14日以内は自由解雇期間ではないこと第5 試用結果を契約期間満了時に扱う場合1 期間満了と雇止めの制限2 更新申込み又は異議を遅らせないこと第6 紛争になったときに先に確認する資料1 共通して確認する資料2 使用者側と労働者側で確認する事実3 高負担の調査へ進む条件第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 行政機関の解説及び掲載資料4 文献
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,有期労働契約の契約期間内に別の試用期間を置く場合と,有期労働契約そのものを適性判断のために用いる場合を区別し,令和8年9月6日現在の法令及び裁判例に基づいて,設定時と契約終了時の問題を整理する。
有期労働契約の期間,更新,雇止め及び無期転換の一般的な制度は,有期労働契約の期間・更新・雇止め・無期転換ルール(AI作成)で別に扱っている。

2 試用期間を置けば解雇しやすくなるわけではないこと

試用期間の設定可否及び長さを一律に定める一般的な条文はなく,中央労働委員会サイトに掲載された令和7年度労使関係セミナー資料も,設定の可否及び長さ等について現行法上特別の規制はないと整理している。
もっとも,契約書に「試用期間」と書くだけで,契約期間途中の解雇又は期間満了時の雇止めが容易になるわけではない。

有期労働契約に試用期間を設けるときは,①契約の存続期間,②適格性を評価する期間,③試用期間中に雇用を終了する場合,④契約期間満了後の更新又は無期契約への移行を分けて設計する必要がある。
特に,試用期間中の解雇は有期労働契約の期間途中の解雇であるから,少なくとも労働契約法17条1項の「やむを得ない事由」が必要となる。

第2 有期契約と試用期間の二つの組合せ
1 有期契約の中に別の試用期間を置く場合

例えば,契約期間を令和8年4月1日から令和9年3月31日までの1年間とし,そのうち最初の3か月を試用期間とする設計がある。
この場合,試用期間の満了は1年間の労働契約の満了ではなく,試用期間を通過した後も同じ有期労働契約が残りの期間について続くのが基本である。

試用期間満了後に無期契約又は別の職種へ移行させる予定がある場合は,同じ有期契約が続く場面と,新しい契約を締結する場面を区別しなければならない。
「本採用」という一語だけでは,試用終了後も同じ有期契約が続くのか,無期契約又は正社員契約へ切り替わるのかが明らかにならない。

2 有期契約そのものを適性判断の期間とする場合

「まず6か月の有期契約を締結し,適性があれば無期契約へ移行する」という設計では,6か月が契約の存続期間なのか,無期契約に付された試用期間なのかが問題となり得る。
最高裁平成2年6月5日第三小法廷判決(平成元年(オ)第854号,民集44巻4号668頁,神戸弘陵学園事件)は,新規採用の際に設けた期間の趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断することにある場合,期間満了によって契約が当然に終了する旨の明確な合意等の特段の事情がない限り,その期間を契約の存続期間ではなく試用期間と解するのが相当であるとした。

同判決では,契約期間が「一応」1年と説明されたこと,長期勤務を期待させる発言があったこと,1年で当然に終了すると記載した契約書への署名が就労開始後であったこと等が問題となり,原判決が破棄されて更に審理するため差し戻された。
したがって,契約書の名称だけでなく,募集時及び面接時の説明,契約締結の時期,期間を定めた業務上の理由,無期契約への移行手続並びに実際の運用を整合させることが重要となる。

3 無期契約への移行条件を明確にすること

最高裁平成28年12月1日第一小法廷判決(平成27年(受)第589号,福原学園事件)は,1年の有期労働契約を締結し,更新限度を3年とした事案を扱った。
同事件の規程は,勤務成績を考慮して使用者が任用を必要と認め,かつ,労働者が希望した場合に無期の職種へ異動できると定めており,最高裁は,3年の経過だけで当然に無期労働契約へ移行したとする原審の判断を破棄した。

同判決は,期間満了後の無期契約への移行が自動であるのか,使用者の判断及び労働者の希望を要するのかを,規程と契約締結時の認識から区別したものである。
もっとも,この判断は,更新に関する労働契約法19条の適用を一般に否定するものではなく,契約の更新と無期契約への移行は別の問題である。

第3 試用期間を設定するときに書面で分ける事項
1 契約期間と試用期間を別々に記載すること

労働基準法15条及び労働基準法施行規則5条により,使用者は,労働契約の締結時に,契約期間,更新する場合があるときの基準,更新上限がある場合の内容,賃金,労働時間,就業場所及び業務並びに退職に関する事項等を明示しなければならない。
試用期間中に賃金,職務又は勤務場所を異ならせる場合は,その労働条件も明確にする必要がある。

労働契約法4条2項は,期間の定めに関する事項を含む労働契約の内容について,労働者と使用者ができる限り書面で確認するものとしている。
本記事では,有期契約に試用期間を置く場合,法令上の明示事項と同じ書面又は相互に参照できる書面に,契約期間と試用期間を別々に記載することを基本形とする。

2 終了場面まで区別して記載すること

設定時に区別する事項は,①有期契約の開始日と満了日,②試用期間の開始日と満了日,③評価の目的・項目・時期,④試用期間中の労働条件,⑤試用期間満了後も同じ有期契約が続くのか,⑥有期契約を更新する可能性及び判断基準,⑦無期契約又は正社員契約への移行制度がある場合の申込み・判断・契約締結の手続である。
「試用期間中又は満了時に不適格と判断したときは契約を終了する」とだけ定めても,期間途中の解雇に関する労働契約法17条1項を排除することはできない。

3 評価基準と運用を一致させること

適格性の評価は,担当業務と採用時に示した職務要件に結び付け,評価者,中間面談,指導又は支援,説明の機会及び最終判断日をあらかじめ設計することが考えられる。
評価記録には「能力がない」「協調性に欠ける」という結論だけでなく,いつ,どの業務について,何を求め,どのような行動と結果があり,本人がどのように説明したかを残すことが有用である。

評価資料は解雇を正当化するためだけの記録ではない。
契約内容との不一致,教育又は情報の不足,評価者ごとの基準の違いを早期に発見し,契約を続けられるかを判断する資料でもある。

4 長さと延長を自動的に決めないこと

中央労働委員会サイト掲載の前記セミナー資料は,採用後3か月から6か月程度を試用期間とすることが企業実務では一般に行われていると説明する一方,適格性の評価に必要な期間を超えて労働者を長期間不安定な状態に置くことは適当でないと整理している。
3か月又は6か月であれば当然に有効となるわけではなく,職務内容,採用時に確認できた事項,実際の観察機会及び有期契約全体の長さに照らして設定する必要がある。

延長についても,判断を先送りするために自動的に行うのではなく,就業規則又は契約上の根拠,採用時に予見できなかった事情,観察できなかった項目,延長期間及び延長後の判断日を確認することが考えられる。
延長が有期契約の満了日を越える場合は,試用期間の延長だけでは処理できず,契約更新又は新しい契約の問題となる。

第4 試用期間中に雇用を終了する場合

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米国チャプター11と知的財産ライセンス――ライセンサー・ライセンシー別の§365対応(AI作成)

目次第1 結論第2 §365の基本構造1 未履行契約であること2 引受け,拒絶及び譲渡第3 債務者がライセンサーである場合1 §365(n)の対象2 ライセンシーの選択3 商標ライセンスとMission Product判決4 SaaS及びソフトウェアの限界第4 債務者がライセンシーである場合1 §365(c)(1)の制限2 仮想テストと実際テスト第5 契約当事者別の実務対応1 ライセンシーの対応2 ライセンサーの対応3 契約締結時の共通チェック第6 主要裁判例第7 本記事の範囲と限界第8 出典1 法令2 裁判例3 実務解説・関連資料

第1 結論

米国のチャプター11で知的財産ライセンスを検討するときは,債務者がライセンサーであるのか,ライセンシーであるのかを最初に分ける必要がある。
その上で,①破産申立て時に未履行契約であったか,②対象が「知的財産」の法定定義に入るか,③契約と適用される非破産法がどの権利を残すか,④事件がどの巡回区で係属するかを確認することになる。

債務者の立場
中心となる条文
第一の確認事項

ライセンサー
11 U.S.C. §365(a),(g),(n)
拒絶後にライセンシーが使用権を維持できるか

ライセンシー
11 U.S.C. §365(b),(c),(f)
契約の引受け又は譲渡にライセンサーの同意が必要か

債務者がライセンサーである場合,特許,著作権,営業秘密等のライセンシーは,拒絶による契約違反を理由に終了を選ぶか,所定の支払と権利放棄を伴って破産申立て直前の契約上の権利を維持するかを§365(n)に基づき選択できる。
ただし,§365(n)は継続的な開発,保守,クラウド運用又はデータ移行を一般的に保証する制度ではない。

商標は11 U.S.C. §101(35A)の「知的財産」に列挙されていないため,§365(n)の法定保護にそのまま入るとはいえない。
もっとも,連邦最高裁のMission Product Holdings, Inc. v. Tempnology, LLC,587 U.S. 370 (2019)は,拒絶の効果を破産外の契約違反と同様に扱い,拒絶だけで既に付与された商標使用権を消滅させることはできないとした。

債務者がライセンシーである場合,契約の引受けにはデフォルトの治癒,金銭損失の補償及び将来の履行に関する十分な保証が問題となる。
さらに,適用される非破産法が第三者への履行又は第三者からの履行の受領を相手方に強いることを許さず,相手方が同意しないときは,§365(c)(1)が引受け又は譲渡を制限する。

第2 §365の基本構造
1 未履行契約であること

11 U.S.C. §365(a)の引受け又は拒絶の対象は「executory contract」である。
連邦破産法典に一般定義はないが,Mission Product判決は,当事者双方に少なくとも一定の履行が残っている契約と説明している。

ライセンスという名称だけで未履行性が決まるわけではない。
In re Exide Technologies,607 F.3d 957 (3d Cir. 2010)とIn re Interstate Bakeries Corp.,751 F.3d 955 (8th Cir. 2014) (en banc)は,資産譲渡取引に組み込まれた永久的・ロイヤルティ無料の独占的商標ライセンスにつき,統合された取引全体と残存する重要な義務を検討し,未履行契約ではないと判断した。

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税務調査に関するメモ書き-事前通知,帳簿データ,質問応答記録書及びAI活用(AI作成)

第1 この記事の対象第2 税務調査と行政指導の区別1 連絡の法的な位置付けを先に確認する2 帳簿と申告の元の状態を保全する第3 事前通知と無予告調査1 実地調査の事前通知2 事前通知をしない場合3 通知範囲以外の確認と反面調査第4 質問検査権とその限界1 質問,検査及び提示・提出要求2 罰則と理解・協力による運用3 職業上の秘密と帳簿書類の留置き第5 帳簿・電子データの提示と提出1 電磁的記録の提示・提出方法2 提出範囲と再現性3 摘要欄と消費税の帳簿記載事項第6 質問応答記録書への対応1 署名・押印と質問への答弁を分ける2 記録内容を一文ずつ確認する第7 国税庁によるAI利用の公表範囲1 予測AIは調査選定を支援する2 生成AIは令和8年度中の利用開始予定である3 個別の判定語やモデル仕様は公表されていない第8 調査終了時の手続1 更正等を要しない場合と要する場合2 新たな情報による再度の質問検査第9 調査手続と後の争い1 質問検査で得た資料の刑事手続での利用2 調査手続の瑕疵と課税処分の取消し第10 関連記事第11 出典・参考資料1 法令2 裁判例・行政裁決3 所管行政機関の解説・Q&A・運用資料
第1 この記事の対象

本記事は,令和8年9月6日を調査基準日として,所得税,法人税,地方法人税及び消費税に関する通常の税務調査を中心に整理するものである。
国税犯則調査の強制処分,個別の税額計算及び不服申立ての具体的な期限は扱わない。

本文は,e-Gov法令検索,裁判所ウェブサイト,国税不服審判所及び国税庁の公表資料を照合し,その探索・整理と文章作成にAIを利用したものである。
予定納税,国税の納付方法,電子帳簿保存制度そのもの,記帳代行及び給与計算は税務調査と検索意図が異なるため,本記事では説明しない。

第2 税務調査と行政指導の区別
1 連絡の法的な位置付けを先に確認する

国税庁の税務調査手続に関するFAQ問2は,特定の納税者の税額等を認定する目的で質問検査等を行って申告内容を確認する「調査」と,自発的な見直しや修正申告を求める行政指導を区別している。
同FAQによれば,担当者は具体的な手続に入る前に,調査と行政指導のいずれに当たるかを明示する運用である。

行政手続法35条1項は,行政指導をする者に,その相手方に対して当該行政指導の趣旨・内容及び責任者を明確に示すことを求めている。他方,国税通則法74条の14第2項は,国税に関する行政指導について,行政手続法35条3項の書面交付規定及び同法36条を適用しないと定める。したがって,口頭の行政指導であっても趣旨・内容・責任者を確認して記録すべきであるが,行政指導の書面が常に法的に交付されると一般化することはできない。

連絡を受けたときは,①担当官署・部署・氏名・連絡先,②調査か行政指導か,③対象税目・期間・目的,④求められた資料・データ・期限・提出方法,⑤税務代理人への連絡の有無を記録するのがよい。
これは国税庁が列挙した法定様式ではなく,本記事が事実関係の取り違えを避けるために示す初動の整理である。

2 帳簿と申告の元の状態を保全する

事前通知又は行政指導を受けた後に,実在しない取引資料を作り,帳簿を事実と異なる内容に書き換え,又は応答対象の記録を削除してはならない。
申告又は記帳の誤りに気付いた場合は,元データを保全した上で,誤りの内容,発見日,根拠資料及び修正内容を別に記録するのが安全である。

第3 事前通知と無予告調査
1 実地調査の事前通知

国税通則法74条の9第1項は,実地調査で質問検査等を行う場合,原則として,あらかじめ納税義務者と税務代理人に次の事項を通知するものとしている。
①調査開始日時,②調査場所,③調査目的,④対象税目,⑤対象期間,⑥対象となる帳簿書類その他の物件,⑦そのほか調査の適正かつ円滑な実施に必要な政令事項である。

国税庁FAQ問12・問13によれば,通知は原則として電話による口頭通知であり,何日前という一律の法定期間はない。
同法74条の9第2項とFAQ問16・問17によれば,日時又は場所について合理的な理由があるときは協議の対象となり,申出は口頭でも差し支えない。

2 事前通知をしない場合

国税通則法74条の10は,申告内容,過去の調査結果,事業内容その他の保有情報に照らし,事前通知によって違法又は不当な行為が容易になり,正確な税額把握が困難になるおそれ,又は調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合,事前通知を要しないと定める。
無予告であることと,国税犯則調査として令状に基づく強制処分が行われることは同じではない。

国税庁FAQ問20・問21は,事前通知がない場合でも,運用上は臨場後速やかに対象税目・期間・目的等を説明するとしている。
事前通知をしなかったこと自体は不服申立ての対象となる処分ではない,というのが同FAQの説明である。

3 通知範囲以外の確認と反面調査

国税通則法74条の9第4項は,調査により通知事項以外の非違が疑われた場合に,その事項について質問検査等を行うことを妨げない。
国税庁FAQ問9も,通知対象年度の申告内容を確認するために必要であれば,資産の取得年度等の帳簿書類を求める場合があると説明している。

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準自己破産とは-破産法19条の申立権者・疎明・費用(AIリライト)

目次

第1 準自己破産とは1 破産法19条による役員等の申立て2 法人の自己破産及び債権者申立てとの違い第2 準自己破産の申立権者1 法人の種類ごとの申立権者2 一人の取締役による申立てと機関決定3 監査役,株主及び従業員第3 破産原因と疎明1 支払不能又は債務超過2 一部の役員等が申し立てる場合の疎明3 裁判所の調査と不誠実な申立て第4 申立書と準備資料1 申立書及び債権者一覧表2 役員資格と破産原因を示す資料3 会社の協力を得られず資料が不足する場合第5 管轄,特別代理人及び取下げ1 管轄裁判所2 特別代理人が問題となる場合3 申立ての取下げと即時抗告第6 申立費用と予納金1 申立人の予納義務2 国庫仮支弁は例外である3 法人財産からの支出と役員の立替え第7 申立てを検討する順序1 初期確認と資料保全2 直ちに申し立てず追加確認をする場合3 公開裁判例で確認できる事実経過第8 特定非常災害による債務超過の特例第9 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所・行政機関の運用資料4 文献5 関連記事

第1 準自己破産とは

本記事は,令和8年9月6日現在の破産法,破産規則及び裁判所の公開資料に基づき,法人の準自己破産を説明するものである。
準自己破産とは,法人の取締役等が,破産法19条によりその法人について破産手続開始を申し立てることをいう実務上の呼称である。
破産する債務者は法人であり,申立人となる取締役等が個人として自己破産する制度ではない。

1 破産法19条による役員等の申立て

破産法18条1項は,債権者又は債務者に破産手続開始の申立権を認めている。
これとは別に,同法19条は,法人の理事,取締役,業務を執行する社員又は清算人に,その法人について固有の申立権を認めている。
条文は「準自己破産」という名称を用いていないため,実際の手続を確認するときは,申立人が誰であり,18条又は19条のいずれに基づくのかを区別する必要がある。

2 法人の自己破産及び債権者申立てとの違い

三つの申立ては,いずれも法人を債務者とする破産手続であるが,申立人と申立時の疎明事項が異なる。

区分申立人申立時に問題となる疎明根拠法人の自己破産法人破産原因と財産状態を示す資料が必要であるが,破産法19条3項の対象ではない破産法18条1項準自己破産取締役等一部の取締役等による申立てでは破産原因となる事実の疎明が必要である破産法19条3項債権者申立て法人に対する債権者自己の債権と破産原因となる事実の双方の疎明が必要である破産法18条2項

債権者申立ての要件,予納金及び回収上の限界は,債権者による法人破産申立て―要件・予納金・回収リスク(AI作成)で説明している。

第2 準自己破産の申立権者

1 法人の種類ごとの申立権者

破産法19条1項が明示する申立権者は,次のとおりである。
①一般社団法人又は一般財団法人については理事
②株式会社又は相互会社については取締役
③合名会社,合資会社又は合同会社については業務を執行する社員

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自然災害債務整理ガイドライン-対象・メリット・デメリットと手続(AIリライト)

目次第1 自然災害債務整理ガイドラインの位置付け1 法的拘束力のない自主的な準則であること2 制度の中心となる三つの利点とその限界第2 対象となる災害,債務者及び債務1 対象となる災害2 対象となる債務者3 対象となる債務及び債権者第3 利用するための七つの要件1 ガイドライン本文が定める要件2 返済困難と災害との因果関係を示す資料第4 メリットと誤解しやすい限界1 個人信用情報に関する取扱い2 手元に残せる財産と500万円3 保証人の取扱い4 登録支援専門家の費用第5 手続の流れ1 最大元本債権者への着手申出2 登録支援専門家の委嘱と全対象債権者への申出3 一時停止4 調停条項案と特定調停第6 デメリット及び注意点1 多数決又は強制認可の制度ではないこと2 返済困難なら誰でも利用できるわけではないこと3 一時停止と費用に限界があること4 不成立時に他の債務整理を検討する必要があること第7 個人事業主と税務1 個人事業主の事業継続2 債務免除益の所得税上の取扱い第8 新型コロナウイルス感染症の特則第9 利用状況第10 被災後の初動第11 出典1 ガイドライン及び運用資料2 法令3 行政機関等の資料

自然災害によって住宅,勤務先又は事業に被害を受け,住宅ローンや事業性ローンを返済できなくなった個人は,「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」により,破産手続や個人再生手続によらずに債務の減免を受けられる場合がある。
もっとも,この制度は申出だけで債務を強制的に減免するものではなく,利用要件を満たした上で,対象債権者との合意を形成し,特定調停を経る必要がある。
本記事では,令和8年9月6日現在のガイドライン本文及びQ&Aに基づき,対象,要件,メリット,デメリット及び手続を整理する。

第1 自然災害債務整理ガイドラインの位置付け
1 法的拘束力のない自主的な準則であること

自然災害債務整理ガイドラインは,自然災害の影響によって既往債務を弁済できなくなった個人について,金融機関等との合意により,債務の全部又は一部の減免,返済猶予その他の債務整理を行うための自主的な準則である。
法令ではなく法的拘束力もないが,対象債権者,債務者その他の利害関係人が自発的に尊重し,遵守することが期待されている(自然災害債務整理ガイドライン本文2頁~3頁)。

2 制度の中心となる三つの利点とその限界

この制度では,①ガイドラインに基づく債務整理の事実等を信用情報登録機関へ報告・登録しない取扱い,②自由財産等を手元に残せる可能性,③登録支援専門家による無料の手続支援が用意されている。
他方,債務減免には対象債権者の合意形成が必要であり,保有できる財産額,新たな借入れ,保証人の責任又は手続成立が保証される制度ではない。

第2 対象となる災害,債務者及び債務
1 対象となる災害

対象は,東日本大震災及び平成27年9月2日以後に災害救助法の適用を受けた自然災害である。
東日本大震災については,令和3年4月1日から現在のガイドラインの対象に追加された(運営機関のガイドライン案内)。
個別の災害が対象に含まれるかは,更新される被災された皆さまへの案内で確認する必要がある。

2 対象となる債務者

対象となるのは,災害の影響により,既往債務を弁済できない状態又は近い将来に弁済できなくなることが確実と見込まれる状態にある個人であり,個人事業主も含まれる。
返済困難かどうかは,収入,財産,信用,債務総額,返済期間,利率及び家計の状況等を総合して判断される(ガイドラインQ&A10頁~13頁)。

住所が災害救助法の適用市町村外にあることだけで,当然に対象外となるわけではない。
住居又は事業所の直接被害に限らず,勤務先の被災による減収,取引先の被災による売上減少等であっても,災害と返済困難との合理的な因果関係を説明できれば対象となり得る。

3 対象となる債務及び債権者

対象となるのは,原則として災害発生前に負担していた住宅ローン,住宅のリフォームローン,事業性ローンその他の既往債務である。
災害発生後の借入れは,通常の自然災害ガイドラインでは対象とならない。

対象債権者は,銀行,信用金庫,信用組合,労働金庫,農漁協,政府系金融機関,貸金業者,リース会社,クレジット会社,債権回収会社及び保証会社等であり,必要があるときはその他の債権者を含めることができる。
債権者数による制限はなく,債権者が1名の場合でも利用できる(ガイドライン本文3頁~4頁及びガイドラインQ&A8頁)。

第3 利用するための七つの要件
1 ガイドライン本文が定める要件

ガイドラインを申し出るためには,次の要件を全て満たす必要がある。

①災害の影響により,既往債務を弁済できないこと,又は近い将来に弁済できなくなることが確実と見込まれること。

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休職期間中の無給と休業手当の区別――民法536条2項,労働基準法26条及び就業禁止条項(AI作成)

第1 無給扱いと休業手当を区別する第2 関連記事第3 出典・参考資料1 法令2 実務書

私傷病により労務を提供できず,契約上も有給とする定めがない場合,原則として賃金は発生しない。もっとも,会社の側が就労を拒んでいる場面を,これと同じ無給扱いにすることはできない。以下では,休職を命じた場合と労務の受領を拒む場合との違い,及び就業規則の就業禁止条項の限界を整理する。

第1 無給扱いと休業手当を区別する

私傷病のため労務を提供できず,契約上も有給とする定めがない場合,原則として賃金は発生しない。
この原則は欠勤中にも当てはまるが,療養の必要性と発令要件を確認して適法な無給休職を命じ,合理的な復職手続を明確にしておけば,欠勤扱いのまま復帰の申出に対して労務の受領を拒否する場合に比べ,賃金紛争のリスクを低減し得ると考えられる。
休職中の取扱いの契約上の根拠を明らかにし,休職事由の消滅を確認する手順と医学的資料を整えられるためである。
ただし,この差が現れるのは,本人が療養期間中に就業を申し出た場合である。
会社の判断による号の休職を先に命じることには,長期欠勤を要件とする号との接続の問題が伴うため,発令の時期は,休職事由の号の選び方で整理した点と併せて検討する。

もっとも,民法536条2項の帰責性の問題があるため,会社が就労を拒否している場面を,当然に同じ無給扱いにすることはできない。
休職命令が有効であっても,復職可能な状態となった社員の受入れを正当な理由なく拒む場合や,必要な確認を超えて判断を引き延ばす場合には,賃金請求の問題が残る。
復職の申出を受けたときは,他の業務への配置可能性も含めて速やかに検討し,確認中の期間を当然に無給としないことが必要である。

欠勤中の社員との面談で,会社が「無理して働く必要はない」「療養に専念した方がよい」と勧めることにも注意を要する。本人が就業を希望していた場合,会社が就労を控えさせたと評価される材料になり得るからである。就業の可否は主治医と産業医等の意見を聴いて判断するという形をとり,本人が「軽い仕事ならできる」等と述べたときは,その場で可否を答えず,発言をそのまま記録して検討する。

労働基準法26条は,使用者の責めに帰すべき事由による休業について,平均賃金の60%以上の休業手当を定めている。

会社が休職を命じたという形式だけで支給の有無は決まらず,休業の実質的な理由を確認する必要があり,民法上の賃金請求が成立する場合の額を当然に60%へ減らす規定でもない。

就業規則に「傷病者に対する就業禁止」等の条項が置かれていることがある。この種の条項は,労働安全衛生規則61条1項の内容をそのまま採り入れた項,会社が心身の状況を判断して就業を禁止できるとする項,及びその期間を無給とする項の組合せになっていることがある。

このうち法令の内容を採り入れた部分の対象は,同項が定める疾病等に限られる。会社の判断による就業禁止を定める部分は,これに対応する法令上の根拠がなく,就業可能であると主張する労働者の労務の受領を会社の判断で拒む場面となるため,前記の民法536条2項及び労働基準法26条の問題が正面から生じる。

無給とする定めがあっても,就業を禁止する措置自体が正当と認められなければ,賃金支払義務は残る。また,労働基準法26条の定める基準は同法13条により労働契約をもって下回ることができないから,規則に無給と定めたことだけを理由に休業手当の支払を免れることもできない。

第2 関連記事

休職の開始時に確認すべき事項の全体像は,社員が私傷病休職を開始する際に使用者が注意すべき事項(AI作成)で整理している。

復職の申出を受けた場合の配置可能性の検討は,元の仕事ができない社員の配置可能性――片山組事件と職種限定合意(AI作成)で整理している。

無給期間の生活を支える傷病手当金は,休職中の傷病手当金――待期,通算1年6か月,退職後の継続給付及び2年の時効(AI作成)で整理している。

傷病手当金の支給要件,金額の計算及び退職後の継続給付を含む制度全体は,傷病手当金とは―支給要件,金額の計算,退職後の継続給付及び障害年金・失業保険との関係で整理している。

第3 出典・参考資料
1 法令

①e-Gov法令検索「民法」536条

②e-Gov法令検索「労働基準法」13条,26条

③e-Gov法令検索「労働安全衛生法」及び同規則61条

2 実務書

①野口大『全訂版 労務管理における労働法上のグレーゾーンとその対応』(日本法令,令和5年)108頁~133頁,208頁,213頁~220頁,262頁~263頁。

休職時の情報確認,規程・合意及び説明の実務を検討するために参照し,刊行後の法令・指針・裁判例と照合した。

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主治医に何を伝え何を尋ねるか――勤務情報提供書,就業の可否,制限の程度と再評価の時期(AI作成)

第1 医師に伝える仕事と尋ねる事項

1 主治医,産業医等及び事業主の役割
2 診療情報提供への同意と追加照会

第2 関連記事第3 出典・参考資料1 法令に基づく指針2 公的な解説・行政資料3 実務書

「療養を要する」「就労可能」とだけ記載された診断書では,就業の可否を判断する材料が足りない。会社が実際の作業と実施可能な配慮を伝えたうえで,制限の内容と,その制限を続ける期間とを分けて尋ねる必要がある。以下では,主治医に提供する情報と,尋ねる事項を整理する。

第1 医師に伝える仕事と尋ねる事項

治療と就業の両立支援指針5(1)~(3)は,仕事の情報を主治医に伝えて意見を得た上で,産業医等の意見,本人の意向及び職場の状況を踏まえて事業主が判断する流れを示している。

産業医等がいない場合は主治医から提供された情報を参考とするのであって,会社だけで医学的な判断を代行するという意味ではない。

なお,令和7年5月14日に公布された労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)により,労働者数50人未満の事業場についてもストレスチェックの実施が義務化される。施行日は公布後3年以内の政令で定める日とされており,現時点では未施行であるが,小規模事業場の健康管理体制は今後変わることになる。

「療養を要する」「就労可能」との記載だけでは判断に必要な情報が不足する場合,次の事項を確認する。

質問は休職又は就業のどちらかへ誘導せず,実際の作業と実施可能な配慮を示した上で行う。

確認する事項
医師に伝える情報・尋ねる内容

①作業内容と負荷
実際の作業,作業時間,反復の程度,通勤,安全上の危険を伝える。

②可能な勤務の条件
通常勤務,時間短縮,作業の変更等について,就業の可否と必要な条件を尋ねる。

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休職事由の号の選び方――満了時の効果,欠勤要件の通算及び就業規則の不利益変更(AI作成)

第1 会社の規程と本人の適用条件第2 関連記事第3 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的な解説・行政資料4 実務書

休職を命じる場面では,どの休職事由を適用するかによって,休職期間の上限だけでなく,期間が満了したときの効果まで変わることがある。長期欠勤を要件とする号と,会社の判断による号とが併記された規程では,先にどちらを使うかが,後に退職へ至る経路を左右する。以下では,規程の確認事項と,二つの号の接続の問題を整理する。

第1 会社の規程と本人の適用条件

厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)16頁は,休職の定義,期間の制限及び復職等について労働基準法に定めはないと説明している。

したがって,同モデルの空欄を埋めた期間が法律上の標準になるわけではなく,まず自社の就業規則,雇用契約及び適用対象を確認する。

労働契約法7条は,合理的な労働条件を定めた就業規則を周知していた場合の契約内容への取込みを定めている。

実務上は,休職事由,必要な欠勤日数,勤続期間による違い,申請又は命令の手続,休職期間及び再休職時の通算規定に加え,休職中の賃金の取扱いと復職手続の適用対象を確認し,今回の事実がどの条項に該当するかを記録しておくのが適切である。
欠勤中の社員に休職者向けの復職条項をそのまま適用できるとは限らないため,休職への移行に命令を要するのか,自動的に移行するのかを確認するとともに,診断書提出や医師面談については健康管理に関する別の条項の有無と適用条件も確認する。

休職事由が複数の号に分かれている場合,どの号を適用するかによって,休職期間の上限だけでなく,期間満了時の効果も変わることがある。長期欠勤を要件とする号については満了時に退職とする一方,会社の判断による号については満了時に復職を命じるものとする規程もあるため,退職に至る経路がどの号を経由するかを,発令の時点で確認する。また,会社の判断による号について満了時に条件を付けずに復職を命じる旨を定める一方,復職の基準を別の条項で列挙している規程では,満了時に基準を満たさず療養がなお必要な場合の扱いが文言上定まらないため,発令の時点でこの点の解釈と理由を整理しておく。

あわせて,会社の判断による号の休職を先に命じると,その期間の不就労は労働義務が免除された状態であって「欠勤」ではないため,長期欠勤を要件とする号の日数が積み上がらなくなることがある。早期に休職を命じるほど後にその号を適用できなくなるという関係が生じ得るので,二つの号の接続を先に確認する。本人が診断書を提出して療養している期間は,休職を命じなくても就労しない状態に変わりはないから,会社の判断による号の休職を先に命じる実益は,主として,その期間中に本人が就業を申し出た場合の取扱いにあり(休職期間中の無給と休業手当の区別参照),休職を命じる時期は,この実益と二つの号の接続の問題とを比べて決めることになる。なお,通知書に規程の文言の読替えを記載しても,就業規則の内容が変わるわけではない。会社の解釈を示すのであれば,その理由も併せて記載する。

長期欠勤を要件とする号の日数を数えるときは,欠勤期間の途中に入った年次有給休暇の日にも注意する。労働基準法39条6項の労使協定による計画年休日は,協定で対象外としていない限り,私傷病で欠勤中の社員についても年休の日となり,欠勤には当たらないと考えられる。本人が残りの年休を使った日も同様である。そのため,要件を満たす日はその分だけ後ろにずれ得る。規程に数え方の定めがないときは,発令前に数え方を決め,その理由とともに記録しておく。

休職制度の不備が見つかった場合でも,今回の事案に対応するために休職期間を短縮したり,再休職の通算条件や復職要件を不利益に変更したりして,そのまま適用できるわけではない。

労働契約法9条及び10条により,合意のない就業規則による不利益変更は原則として認められず,例外的に変更が認められるには,変更後の規則の周知に加え,不利益の程度,変更の必要性,内容の相当性及び交渉の状況等に照らした合理性が必要となる。

現在適用される規程とその周知状況を確認する作業と,将来に向けて制度を整備する作業を分け,就業規則の変更では変更しないとした個別合意の有無も確認する必要がある。

東京高裁平成7年8月30日判決(平成6年(ネ)第2275号・富国生命事件)は,復職後に約3か月通常勤務をしていた社員について,未治癒で症状が再燃する可能性があるだけでは当該規則の休職事由に当たらないとして,会社の控訴を棄却した。

この判決は当該就業規則と勤務状況についての判断であり,病気なら休職させられるとも,本人が働きたいと言えば必ず就業させるとも述べていない。

なお,同事件では,会社が業務外の傷病として扱う一方,労働者側は業務起因性を争っていた。事案の位置づけを確認せずに引用すると,争点を取り違えることになる。

第2 関連記事

休職の開始時に確認すべき事項の全体像は,社員が私傷病休職を開始する際に使用者が注意すべき事項(AI作成)で整理している。

就業規則の記載事項・作成届出・周知・変更は,就業規則とは―記載事項・作成届出・周知・変更・懲戒の基本(AIリライト)で説明している。

通知書に記載すべき事項は,休職通知書に記載すべき事項――適用条項,期間,賃金,復職手続及び満了時の取扱い(AI作成)で整理している。

休職に入る日と年次有給休暇の関係は,休職と年次有給休暇の関係――休職前の取得,年5日の時季指定,出勤率及び2年の時効(AI作成)で整理している。

就業規則の不利益変更の考え方を定年制の新設に当てはめた場合については,就業規則による定年制の新設――既存の従業員に適用できるか,労働契約法10条と合理性の判断要素で整理している。

第3 出典・参考資料
1 法令

①e-Gov法令検索「労働契約法」7条,9条,10条

②e-Gov法令検索「労働基準法」39条

2 裁判例

①東京高裁平成7年8月30日判決・平成6年(ネ)第2275号(富国生命事件)。

判決本文PDF1頁~3頁。

(続きを読む...)休職事由の号の選び方――満了時の効果,欠勤要件の通算及び就業規則の不利益変更(AI作成)

休職と年次有給休暇の関係――休職前の取得,年5日の時季指定,出勤率及び2年の時効(AI作成)

第1 年休・欠勤・休職の日付を分ける第2 関連記事第3 出典・参考資料1 法令

休職に入れば労働義務のない日となるため,年次有給休暇を取得することも,使用者が時季を指定して与えることもできなくなる。休職の開始日を決める場面では,年休の残日数,次の基準日の出勤率及び時効を併せて確認しておく必要がある。

第1 年休・欠勤・休職の日付を分ける

診断書の作成日,療養を要するとされた期間の初日,実際の欠勤開始日及び就業規則上の休職開始日は,同じとは限らない。

年休の申出と残日数,欠勤期間の算定方法及び休職への移行条件を別々に確認し,開始日と満了予定日を計算する。

最終出勤日,欠勤開始日,休職開始日,休職期間の満了予定日,他の休職事由へ移行する場合の移行日,退職日及び社会保険の資格喪失日は,いずれも別の概念である。これらを一覧にして定義し,通知書,社会保険の届出及び賃金計算の各書面をその一覧に合わせる。同一の事案について書面ごとに日付が食い違うと,後に事実関係の確認が困難になる。また,当初の休職期間を規程より短く定めて後に発令し直すと,起算日が後ろにずれて満了時期が当初の想定より遅くなることがあるため,発令前に勤続年数と適用条項を確定させる。

労働基準法39条5項は,原則として労働者の請求する時季に年休を与える仕組みを定めている。

病気による欠勤を自動的に年休へ振り替えたり,年休を全て消化した日を当然の休職開始日としたりせず,本人の申出と適用規程を確認することが必要である。

欠勤中に計画年休日が来た場合(協定で対象外とされていない場合)や本人が残りの年休を使った場合,その日は欠勤ではなく年休となり,長期欠勤を要件とする休職事由の日数計算に影響する。

この点は,休職事由の号の選び方――満了時の効果,欠勤要件の通算及び就業規則の不利益変更(AI作成)で整理している。

他方,同法39条7項は,年10労働日以上の年休が付与される労働者について,そのうち5日を,基準日から1年以内の期間に,労働者ごとに時季を定めて与えなければならないとしており,この義務は同法120条1号の罰則の対象とされている。同条8項により,同条5項又は6項の規定によって既に与えた年休の日数(5日を超えるときは5日)については,時季を定めて与えることを要しない。

休職に入れば労働義務のない日となり,使用者が時季を指定して年休を与えることはできなくなるほか,本人が請求して取得することもできない。労働基準法施行規則24条の7の年次有給休暇管理簿により,当該労働者の基準日と当年度の取得実績を休職開始前に確認しておく必要がある。

また,同法39条10項が出勤したものとみなすのは,業務上の負傷若しくは疾病による療養のための休業,育児休業,介護休業及び産前産後の休業の各期間であり,私傷病による欠勤及び休職の期間はこれに含まれない。欠勤が長期化すると次の基準日に全労働日の8割以上出勤したという要件を満たさないことがある。他方,年次有給休暇の請求権は,労働基準法115条により2年で時効消滅する(賃金の請求権と異なり,同法143条3項による当分の間の読替えの対象ではない。)。年休を消化せずに残すかどうかを本人が判断する場面では,次の基準日の出勤率と併せて,この点も説明するのが適切である。

未消化の年休を多く残したまま休職に入ると,休職期間の満了や退職の場面で,その消化又は代償を求められることがある。年次有給休暇の買取りは,労働基準法39条が定める年次有給休暇の趣旨に反するため,原則として許されないと解されている。残日数の多い労働者について休職を検討するときは,休職開始前の取得の意向を確認し,回答期限を定めて書面で受け取っておくのが適切である。

年5日の時季指定義務の具体的な計算方法及び時季変更権については,年次有給休暇の付与日数,取得方法,年5日義務及び時季変更権(AIリライト)で整理している。

第2 関連記事

休職の開始時に確認すべき事項の全体像は,社員が私傷病休職を開始する際に使用者が注意すべき事項(AI作成)で整理している。

年休の付与日数,取得方法,年5日義務及び時季変更権は,年次有給休暇の付与日数,取得方法,年5日義務及び時季変更権(AIリライト)で整理している。

第3 出典・参考資料
1 法令

②e-Gov法令検索「労働基準法」13条,19条,24条,26条,39条,115条,120条,143条

⑪e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」5条1項1号の3,24条の7

元の仕事ができない社員の配置可能性――片山組事件と職種限定合意(AI作成)

第1 他の業務への配置可能性第2 関連記事第3 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 法令に基づく指針4 公的な解説・行政資料

傷病により従前の業務を通常どおり遂行できなくなった社員について,元の仕事ができないという一事から労務の受領を拒むことはできない。他方,職種を限定する合意がある場合には,別の業務への配置を一方的に命じることもできない。以下では,この二つの制約の関係を整理する。

第1 他の業務への配置可能性

最高裁平成10年4月9日第一小法廷判決(平成7年(オ)第1230号・片山組事件)は,職種等を限定しない契約について,現に命じられた業務を十分にできなくても,現実に配置される可能性のある他の業務を遂行でき,その提供を申し出ている場合には,契約に沿った労務提供があるとした。

最高裁は,他業務への配置可能性を十分に検討しなかった原判決を破棄し,差し戻している。

同事件は自宅治療を命じられた期間の賃金等が問題となったものであり,休職期間満了時の復職要件を直接判断した事件ではない。

実務上は,契約上の職種限定,本人の能力・経験,企業の規模及び実際の配置・異動の状況を確認し,元の仕事ができないという理由だけで検討を終えないことが重要である。

治療と就業の両立支援指針5(5)ウは,職場復帰の可否について,①主治医の意見を求め,②これを産業医等に提供して意見を聴取し(産業医等がいない場合は主治医から提供を受けた情報を参考とし),③本人の意向を確認し,④復帰予定の職場の意見を聴取した上で,⑤これらを総合的に勘案し,配置転換も含めた職場復帰の可否を判断する,という順序を示している。

ただし,同判決から,存在しない仕事を常に新設する義務まで導くことはできない。

他方,最高裁令和6年4月26日第二小法廷判決(令和5年(受)第604号)は,職種や業務内容を限定する合意がある場合,労働者の同意を得ずにされた異なる職種等への配置転換命令について,使用者が命令権を有することを前提として権利濫用に当たらないとした原審の判断には違法があるとして,原判決を破棄し差し戻した。

同判決は私傷病休職の事件ではないが,休職回避のために別業務への配置を検討する際にも,限定合意に反する命令をすることと,本人との合意によって別業務に従事する可能性を検討することを区別する必要がある。

職種限定があることだけから,他業務の検討が全て不要になるとも,元の職務ができなければ直ちに退職となるともいえない。

労働基準法施行規則5条1項1号の3及び厚生労働省の改正案内によれば,令和6年4月1日以降,契約締結時及び有期契約更新時の労働条件明示では,就業場所及び従事すべき業務の変更の範囲も対象となっている。

労働条件通知書だけでなく,採用時の説明や個別合意も確認するのが適切であり,この改正は全ての在職者に休職開始時の通知書再交付を一律に命じる制度ではない。

障害者である労働者については,障害者雇用促進法36条の3の措置も検討対象となるが,過重な負担となる場合の例外がある。

同法2条1号は,障害者を,身体障害,知的障害,精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害があるため,長期にわたり,職業生活に相当の制限を受け,又は職業生活を営むことが著しく困難な者と定義しており,障害者手帳の交付や特定の病名の確定診断を要件としていない。

したがって,診断が確定していない段階であっても,心身の機能の障害によって職業生活に長期の制限が生じている場合には,同法36条の3による措置の要否を検討する余地がある。

具体的職務についての能力と行政上の認定の区別は,障害者手帳・障害年金の認定と労務提供能力の記事で説明している。

第2 関連記事

休職の開始時に確認すべき事項の全体像は,社員が私傷病休職を開始する際に使用者が注意すべき事項(AI作成)で整理している。

改善指導・配置転換・解雇回避措置との関係は,能力不足・協調性不足による普通解雇―改善指導・配置転換・解雇回避措置と裁判例(AI作成)で整理している。

職種・勤務地の限定合意がない場合の配転命令権の根拠と,権利の濫用の判断枠組みは,配転命令(転勤命令)の有効性―就業規則の根拠,職種・勤務地の限定合意と東亜ペイント事件の判断枠組み(AI作成)で整理している。

行政上の認定と労務提供能力の区別は,障害者手帳・障害年金の認定と労務提供能力は同じか―雇用紛争で区別すべき四つの判断層(AI作成)で説明している。

第3 出典・参考資料
1 法令

⑦e-Gov法令検索「障害者の雇用の促進等に関する法律」2条,36条の3

⑪e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」5条1項1号の3,24条の7

2 裁判例

②最高裁平成10年4月9日第一小法廷判決・平成7年(オ)第1230号・集民188号1頁(片山組事件)。

判決本文4頁~5頁。

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休職中の傷病手当金――待期,通算1年6か月,退職後の継続給付及び2年の時効(AI作成)

第1 傷病手当金の申請と時効第2 関連記事第3 出典・参考資料1 法令2 公的な解説・行政資料

休職中の社員の生活を支えるのは,多くの場合,健康保険の傷病手当金である。会社が休職と呼ぶ期間と給付の対象となる期間は一致しないため,待期の数え方,支給期間の通算,退職後の継続給付及び時効を,それぞれ分けて確認する必要がある。

支給要件,金額の計算,支給期間の数え方,退職後の継続給付並びに障害年金,出産手当金,労災保険及び雇用保険との調整の詳細は,傷病手当金とは―支給要件,金額の計算,退職後の継続給付及び障害年金・失業保険との関係で整理しており,本記事では,休職中の社員について会社が確認すべき点に絞って説明する。

第1 傷病手当金の申請と時効

健康保険法99条は,被保険者が療養のため労務に服することができない場合,連続する3日間の待期を経た4日目以降の対象日について傷病手当金を支給する仕組みを定めている。

協会けんぽの案内では,待期には年次有給休暇や公休日も含まれるとされており,会社が休職と呼ぶ期間の初日から数えるとは限らない。

また,傷病手当金は療養のため労務に服することができない場合の給付であるから,主治医が就業可能とする一方で会社の判断により就業させない期間について,この要件を当然に満たすとはいえない。労務不能の判定は保険者が行うが,就業を止めるかどうかを検討する際は,賃金請求の問題だけでなく,本人が賃金も給付も受けられない状態となる可能性も併せて確認する必要がある。

1日当たりの額は,原則として,支給開始月以前の直近の継続した12か月間の標準報酬月額の平均額を30で除した額の3分の2である。

加入期間が12か月未満の場合には別の算定規定があり,端数処理もあるため,単純に現在の手取り給与の3分の2として案内しないことが重要である。計算例と,加入期間が12か月未満の場合に用いる平均額は,傷病手当金とは―支給要件,金額の計算,退職後の継続給付及び障害年金・失業保険との関係の第4で示している。

健康保険法108条により,報酬を受けられる期間は傷病手当金との調整が行われ,報酬額が傷病手当金より少なければ差額支給の対象となる。

したがって,給与が少しでも出れば必ず全額不支給になるとは限らず,年休を含め,対象日ごとの給与の取扱いを正確に確認する。

年次有給休暇の付与日数,年休賃金及び傷病手当金との調整については,年次有給休暇の付与日数,取得方法,年5日義務及び時季変更権を参照されたい。

同一の傷病についての支給期間は,支給開始日から通算して1年6か月であり,会社の休職可能期間とは別である。

実務上は,休職制度が終了する日と給付が終了する日を,別々に説明することが重要である。

例えば,「傷病手当金は1年6か月出るので,無理して働く必要はない」といった説明は,本人に,雇用も1年6か月続くと受け取られるおそれがある。

休職期間が3か月等と短い規程では,後に休職期間満了による退職が争われたときの材料にもなるので,給付の期間と休職期間を並べて示すのが適切である。

また,健康保険法104条は,資格喪失日の前日まで引き続き1年以上被保険者であった者が,その資格を喪失した際に傷病手当金の支給を受けているときは,被保険者として受けることができるはずであった期間,継続して同一の保険者からその給付を受けることができるとしている。

休職期間の満了により退職する可能性がある場合も,退職すれば当然に給付が終了すると案内せず,被保険者期間の長さと,資格喪失時に傷病手当金を受けているか,報酬を受けているために支給が停止されているにとどまるかを確認する必要がある。

協会けんぽは,退職日に出勤したときは継続給付を受ける条件を満たさないとしている。また,退職後にいったん労務可能となった場合は,治癒しているか否かを問わず,同一の傷病により再び労務不能となっても傷病手当金は支給されない。

休職期間の満了日に挨拶や引継ぎのための出社を求めると,本人の継続給付を失わせることになる。継続給付の要件は,傷病手当金とは―支給要件,金額の計算,退職後の継続給付及び障害年金・失業保険との関係の第6で整理している。

健康保険法193条及び協会けんぽのFAQ問2によれば,傷病手当金は労務不能であった日ごとにその翌日から2年で時効となる。

このため,休職の終了まで申請を待つ運用は避け,対象期間の勤務・給与の記録を確認して申請を進めるのが適切である。

健康保険法施行規則84条は,申請に必要な療養担当者の意見と,労務に服さなかった期間や報酬等についての事業主の証明を定めている。

実務上は,本人,医療機関及び会社の担当部分を開始時に説明し,勤務・給与の記録に基づいて申請書を作成できる体制を整えるのが適切である。

休職期間中も使用関係が続く限り被保険者資格は失われず,事業主と被保険者は,賃金の支給が停止される前の標準報酬に基づく保険料を折半して負担する(健康保険法161条,昭和26年3月9日保文発第619号)。無給の期間に給与から控除できない本人負担分の支払方法と,復職後の給与から立替金を控除する場合の制約は,社員が私傷病休職を開始する際に使用者が注意すべき事項の第6の3で整理している。

健康保険法55条1項により,同一の傷病について労災保険の相当する給付を受けられる場合には,健康保険の給付との調整が問題となる。

私傷病として傷病手当金を申請した後に業務上の傷病と判断された場合も,保険者及び労働基準監督署に手続を確認し,会社だけで返還額を確定したり,申請を一律に止めたりしないことが適切である。業務上か業務外かの判断がつかない間も,労災保険の請求と並行して傷病手当金を申請することができ,健康保険の給付を受ける権利の時効は労災保険の決定を待たずに進むので,申請を止めると本人が給付を失うおそれがある。関係する裁判例は,傷病手当金とは―支給要件,金額の計算,退職後の継続給付及び障害年金・失業保険との関係の第7の3で説明している。

第2 関連記事

休職の開始時に確認すべき事項の全体像は,社員が私傷病休職を開始する際に使用者が注意すべき事項で整理している。

社会保険の加入・保険料・資格取得喪失は,社会保険の加入・保険料・資格取得喪失と士業の適用で説明している。

(続きを読む...)休職中の傷病手当金――待期,通算1年6か月,退職後の継続給付及び2年の時効(AI作成)

休職通知書に記載すべき事項――適用条項,期間,賃金,復職手続及び満了時の取扱い(AI作成)

第1 休職通知で伝える事項第2 関連記事第3 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 法令に基づく指針4 公的な解説・行政資料5 実務書

休職を命じるときは,適用する条項と期間だけでなく,賃金の取扱い,連絡の方法,復職の手続及び満了時の取扱いを,交付した日付とともに書面で残しておく必要がある。後に効力が争われる場面では,発令時にどの条項を適用し,本人に何を説明したかが確認されることになり,書面に残っていない事項は,発令の時点で会社がそのように判断していたことを示しにくくなるからである。

第1 休職通知で伝える事項

治療と就業の両立支援指針5(5)アは,長期休業の開始前に,制度,賃金,手続,休業可能期間及び職場復帰の手順を説明する対応を示している。

同アは,これらの情報提供とともに休業申請書類を提出させて休業を開始することを示しており,また,治療の見込みが立てやすい傷病の場合には,休業開始の時点で主治医や産業医等の専門的な助言を得ながら休業終了の目安も把握することを示している。休職への移行に本人の申請を要するのか,会社の命令によるのかは規程ごとに異なるため,自社の手続と照合する。

説明の食い違いを防ぐため,次の事項を通知書又は説明書にまとめ,本人に交付した内容と日付を残す。

項目
通知・説明する内容

①根拠と開始日
適用する規程,休職事由,休職開始日及びその算定の基礎。

②期間
満了予定日,延長の有無と条件,再休職時の通算方法。診断書の記載期間を超えて期間を定める場合は,その期間を定めた根拠。

③金銭
給与の取扱い,傷病手当金の申請手順,社会保険料の本人負担分及び住民税の支払方法。

④連絡
担当窓口,連絡方法,予定する連絡時期,病状により連絡が難しい場合の相談方法。

(続きを読む...)休職通知書に記載すべき事項――適用条項,期間,賃金,復職手続及び満了時の取扱い(AI作成)

休職・欠勤中の社員に受診を命じられるか――指示に従う義務の根拠,指定医の受診及び拒まれた場合の対応(AI作成)

第1 受診を求める場面と拒まれた場合の対応

1 指定医の受診と診療情報提供への同意を分ける
2 拒否と条件付き同意への対応
3 協成事件から分かることと分からないこと

第2 関連記事第3 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 法令に基づく指針4 実務書

社員が療養中で,会社が医学的な資料を得たい場面では,本人に受診や情報提供を求めることになる。本人が応じない場合に,何を根拠にどこまで求められるかは,休職中か欠勤中かによって使える条項が異なり,裁判例の射程も限られている。以下では,その順序と限界を整理する。

第1 受診を求める場面と拒まれた場合の対応

本人が受診や追加の情報提供に応じない場合も,確認の目的,不足している事項及び規程上の根拠を示し,より限定した確認方法を検討する。

検討の順序としては,裁判例を参照する前に,自社の規程に,休職者に限らず適用される健康管理上の条項がないかを確認する。傷病による欠勤が一定日数以上に及ぶ場合の診断書提出義務,会社が必要と認めた場合に指定医の診断を受けさせることができる旨の定め,健康管理上必要と認めたときに受診及び結果の報告を命じることができる旨の定めが置かれていることがある。復職手続に関する条項が休職者にしか及ばないのに対し,これらは在籍者一般に及ぶ形で置かれていることが多い。その場合,拒否したときの効果が定められているかも併せて確認する。

精神的不調による欠勤が疑われるときは,直ちに懲戒の問題として処理しないことが重要である。

受診や資料提出が進まないときは,本人が拒否しているのか,病状,費用,予約事情又は説明の不明確さによって対応できないのかを確認する。

必要性を説明し,質問範囲の限定や提出時期の調整等を検討した経緯も記録する。

受診命令の有効性,取得できる医療情報の範囲,労務提供能力及び懲戒・雇用終了の有効性は,それぞれ検討すべき問題である。

受診を求める措置そのものの適否は,懲戒の適否とは別に検討する。最高裁昭和61年3月13日第一小法廷判決(昭和58年(オ)第1408号・集民147号237頁)は,健康管理規程等により労働契約上その健康回復を目的とする健康管理従事者の指示に従う義務がある職員について,当該検診が疾病の治癒回復という目的との関係で合理性ないし相当性を肯定し得る限り,病院又は担当医師の指定及び実施時期の指示を含めて,これに従う義務があるとした。

したがって,受診を求める場合は,①労働契約上その指示に従う義務の根拠と,②求める検査又は面談が目的との関係で合理性・相当性を有することを,それぞれ確認する必要がある。

もっとも,就業規則に定めがなければおよそ求められないというわけではない。東京高裁昭和61年11月13日判決(昭和59年(行コ)第74号・労働判例487号66頁。裁判所HP未掲載)は,休職中の従業員が自らの疾病は業務に起因すると主張したのに対し,会社が専門医を指定して受診を指示した事案について,就業規則等に指定医受診の定めがないことを前提としつつ,労使間における信義則ないし公平の観念に照らし合理的かつ相当な理由のある措置であるとして,指定医の受診を指示することができ,労働者はこれに応ずる義務があるとした。同判決は,最高裁昭和63年9月8日第一小法廷判決(昭和62年(行ツ)第32号,第33号・労働判例530号13頁。裁判所HP未掲載)により維持されている。

ただし,同事件で合理的かつ相当な理由が認められたのは,業務起因性の有無が以後の処遇に直接影響したことに加え,本人が当初提出した診断書を作成した医師自身が,会社に対して業務に起因するものではないと説明したという食い違いがあったためである。また,同事件は労働組合法7条の不当労働行為の成否が争われたものであり,受診の指示に関する判断は理由中でされている。会社と主治医の判断が食い違っていない段階について,同判決から一般に指定医の受診を求め得るとまでいうことはできない。

会社が自らの判断のために指定医の受診を求めるときは,費用を会社負担とし,主治医の受診とは建付けを分けておくと,措置の相当性を説明しやすい。

最高裁平成24年4月27日第二小法廷判決(平成23年(受)第903号・日本ヒューレット・パッカード事件)は,当該精神的不調の下での欠勤について,健康診断や治療・休職等の検討を経ずに行った諭旨退職を,懲戒事由を欠くものとして無効とした。

この判決は,あらゆる受診拒否や欠勤を免責する判断ではなく,当該欠勤の原因・経緯と会社の対応を踏まえたものである。

なお,労働安全衛生法68条及び同規則61条による就業禁止は,病気一般を対象とするものではなく,規則に定める疾病等に該当するかが問題となる。

同規則による就業禁止には,あらかじめ産業医その他専門の医師の意見を聴く必要があり,安全確保の措置を検討することと,無給休職の根拠・期間を決めることは分けて考えるべきである。

この点,治療と就業の両立支援指針2は,同法68条及び同規則61条1項の就業禁止について,これらの規定が「当該労働者の疾病の種類,程度及びこれらについての産業医等の意見を勘案の上,可能な限り配置転換,作業時間の短縮その他の必要な措置を講ずることによって就業の機会を失わせないようにし,やむを得ない場合に限り就業を禁止するものとする趣旨であり,種々の条件を十分に考慮して慎重に判断すべきものである」としている。同指針は,労働安全衛生法62条が,中高年齢者その他労働災害の防止上その就業に当たって特に配慮を必要とする者について,心身の条件に応じた適正な配置を求めていることにも言及している。

1 指定医の受診と診療情報提供への同意を分ける

会社が指定する医師の診察を受けることと,主治医が保有する診療情報を会社の産業医等へ提供することは,別の行為である。受診指示に労働契約上の根拠がある場合でも,それだけで主治医に対する無制限の照会に同意したことにはならない。

病歴その他の健康情報は要配慮個人情報に当たり得る。会社が主治医への照会を求める場合は,①復職判断又は就業上の配慮という利用目的,②不足している情報,③質問項目,④対象期間,⑤提供先と実際の取扱者,⑥保存期間,⑦本人経由の意見書等の代替方法を具体化し,判断に必要な範囲を超えて取得しないことが重要である。

厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」も,主治医の診断書だけでは情報が不足する場合,産業医等が労働者の同意を得た上で,職場復帰支援に必要な内容を主治医から収集する流れを示している。

2 拒否と条件付き同意への対応

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約束手形利用廃止と支払条件の見直し―取適法・支払告示・銀行期限(AI作成)

第1 三つの期限を混同しない第2 取適法対象発注では手形払自体が禁止される1 発注日で新旧法を分ける2 支払期日は受領日等から数える3 電子化するだけでは足りない第3 令和9年施行の支払告示は取適法の単純な規模拡張ではない1 対象取引と施行日2 取引上の地位が劣るかを個別に判断する3 正当な理由は形式的な合意だけでは足りない第4 令和8年9月2日要請には三つの層がある1 法的義務・施行準備・行政要請を分ける2 制度対象外でも60日以内化と現金払化が求められている第5 銀行期限を確認して決済実務を切り替える1 電子交換所の交換終了日2 最終振出期限は金融機関ごとに確認する3 紙から電子への置換えで終わらせない第6 企業実務の確認表1 支払手段の切替えと資金繰り2 クレーム代の控除と有償支給材の決済第7 関連記事第8 出典1 法令2 公正取引委員会及び中小企業庁の資料3 決済制度の資料

第1 三つの期限を混同しない

約束手形の利用廃止を進める際は,令和8年1月1日,令和8年9月30日及び令和9年3月31日という三つの日付を区別する必要がある。
それぞれは,取適法の施行,多くの金融機関が設定した最終振出期限及び電子交換所における手形・小切手の交換終了という異なる事柄に関する日付である。

令和8年1月1日は,中小受託取引適正化法(以下「取適法」という。)の施行日である。
同日以後に行われた取適法対象の発注では,手形サイトの長短を問わず,約束手形による支払自体が禁止される。

令和8年9月30日は,公正取引委員会及び中小企業庁が令和8年9月2日に公表した要請文で,多くの金融機関が手形・小切手の最終振出期限として設定していると説明された日である。
全金融機関に共通する法定期限ではないため,自社が利用する金融機関の受付期限を個別に確認しなければならない。

令和9年3月31日は,電子交換所における手形・小切手の交換終了日である。
手形法が廃止される日でも,手形債権が一律に消滅する日でもない。

第2 取適法対象発注では手形払自体が禁止される
1 発注日で新旧法を分ける

取適法の手形払禁止は,令和8年1月1日以後に行われた対象発注に適用される。
同日前の発注には原則として改正前の下請法が適用されるため,支払日だけで新旧法を振り分けてはならない。

取適法の対象となるかは,製造委託,修理委託,情報成果物作成委託,役務提供委託又は特定運送委託のいずれに当たるかを確認した上で,資本金基準を確認し,それで決まらない場合に従業員基準を確認して判断する。
通常の商品購入や自社利用の役務など,対象となる委託に当たらない取引まで一律に処理する必要はない。

2 支払期日は受領日等から数える

取適法3条は,給付を受領した日から起算して60日の期間内で,かつ,できる限り短い期間内に支払期日を定めることを求める。
役務提供委託では,役務が提供された日が起算点となる。

請求書の到着,検査の終了,締日,元請からの入金又は従前の手形満期を起算点へ置き換えることはできない。
受注者から支払時期の希望が示された場合や,当事者間に合意がある場合でも,それだけで取適法違反が解消するわけではない(公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」Q77~Q79)。

3 電子化するだけでは足りない

取適法5条1項2号は,手形だけでなく,支払期日までに代金相当額の金銭と引き換えることが困難な支払手段も支払遅延に含める。
電子記録債権,一括決済方式又はファクタリングに切り替えても,受注者が支払期日までに代金全額の現金を取得できない設計は原則として認められない。

公正取引委員会のQ&Aは,満期日が支払期日より後で,受注者が割引操作をしなければ支払期日に現金を得られない仕組みについて,発注者が割引料を負担しても支払遅延に当たるとしている。
受取手数料その他の費用を受注者へ負担させることも,当事者間の合意の有無にかかわらず問題となる(同Q&A・Q80~Q82)。

第3 令和9年施行の支払告示は取適法の単純な規模拡張ではない
1 対象取引と施行日

製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法(令和8年公正取引委員会告示第3号。以下「支払告示」という。)は,令和9年4月1日に施行される。
対象となる「製造委託等」は取適法2条6項の取引類型と同じであるが,取適法の資本金基準又は従業員基準を満たすことは要件とされていない。

もっとも,支払告示は取適法の全ての義務及び禁止行為を規模要件外の取引へ広げる制度ではない。
支払告示が規制するのは,対象となる製造委託等について,正当な理由なく,受領日又は役務提供日から60日を経過した後も代金を支払わない行為である。

2 取引上の地位が劣るかを個別に判断する

支払告示は,受託事業者の取引上の地位が委託事業者に対して劣っていないと認められる場合を除外している。
したがって,資本金又は従業員数だけで適用を決めることはできない。

支払告示の運用基準は,①委託事業者に対する取引依存度,②委託事業者の市場における地位,③取引先変更の可能性,④その委託取引を行う必要性を総合考慮するとしている。
取引基本契約だけでなく,売上構成,代替取引先,設備・人員の専用性及び取引継続の必要性を確認することになる。

3 正当な理由は形式的な合意だけでは足りない

運用基準は,支払期日について事前の実質的な協議により合意し,60日を超えることに合理的な理由がある場合などを,正当な理由が認められ得る例としている。
発注者が一方的に定めた支払条件,形式的な同意書又は業界慣行だけで,当然に正当な理由が認められるわけではない。

受託事業者の事前の同意を得た上で,60日超の支払に伴う金利負担その他の損失を補填することなども例示されている。
実務では,協議の経過,合理的理由,受託者の同意及び損失補填の内容を記録しておく必要がある。

第4 令和8年9月2日要請には三つの層がある
1 法的義務・施行準備・行政要請を分ける

公正取引委員会及び中小企業庁は,令和8年9月2日,約束手形等の利用の廃止及び支払の適正化に向けた取組等に関する要請を公表した。
この要請は,①施行済みの取適法上の法的義務,②令和9年4月1日に施行される支払告示への準備,③これらの対象外の取引も含めた支払条件改善の行政上の要請を重ねて示したものである。

(続きを読む...)約束手形利用廃止と支払条件の見直し―取適法・支払告示・銀行期限(AI作成)

小規模宅地等の特例-貸付事業用宅地等の三年要件と例外(AI作成)

第1 三年要件は土地の所有期間を問うものではない第2 特定貸付事業の例外と五棟十室基準第3 相続による承継と購入・贈与の違い1 相続取得した宅地等を新規供用として扱わない特則2 先代の特定貸付事業の期間を後継者の期間とみなす特則3 売主の貸付歴と,贈与に関する留保第4 空室・建替え・再開発と貸付けの継続1 空室期間の短さだけでは判断できない2 建替え前後の継続と追加敷地3 再開発による中断を扱った東京国税局の文書回答第5 買換えで特定貸付事業が途切れる場合第6 経過措置と相続後の要件1 平成30年改正の経過措置は適用期間が限られる2 事業の承継・保有と申告を別に確認する第7 適用判断のために整理する資料第8 出典・参考資料1 法令2 国税庁の通達・解釈運用資料3 裁決4 個別執筆者による解説
第1 三年要件は土地の所有期間を問うものではない

貸付事業用宅地等の三年要件は,土地を三年間所有していなければ適用できないという要件ではない。
原則として問題になるのは,その宅地等が相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供されたかであり,三年を超えて継続している特定貸付事業や,相続による承継には別の取扱いがある。
本記事は,令和8年9月4日を基準として,この原則と例外,空室・建替え・買換えがある場合の判定を説明する。

租税特別措置法69条の4第3項4号は,相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等を,原則として貸付事業用宅地等から除外している。
長年所有していた土地でも,貸付けを始めたのが最近であれば,この制限が問題になる。
登記上の取得日だけでなく,誰が,いつから,その宅地等を貸付事業に使っていたかを確認することになる。

以下では,建物又は構築物の敷地であることなどの基本要件を満たす宅地等を前提に,三年要件と主な例外の関係を整理する。
以下は三年制限についての整理であり,相続後の事業継続・保有など,他の要件の充足を前提とする。

貸付けの状況
三年制限との関係

三年を超えて引き続き貸付けに供している
事業的規模に達しない貸付けでも対象となり得る

三年以内に新たに貸付けを始めた
原則として対象外。ただし,特定貸付事業の例外や相続特則を確認する

三年を超えて特定貸付事業を継続し,その事業に新たな宅地等を追加した
追加した宅地等の貸付期間が三年以内でも対象となり得る

最近の相続で取得し,貸付けを継続している
相続取得した宅地等に関する特則を別途検討する

貸付事業用宅地等だけを選択する場合の限度面積は200㎡,減額割合は50%である。
減額するのは宅地等の課税価格への算入額であって,相続税額そのものが半分になるわけではなく,他の小規模宅地等と併用する場合には限度面積の調整がある(同条第1項・第2項)。

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弁護士登録初年度の確定申告-給与・弁護士報酬・源泉徴収票・必要経費(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と確認時点1 本記事が扱う場面2 個人弁護士を前提とすること第2 最初に給与と弁護士報酬を分ける1 給与として受け取る金員2 個人名義で受け取る弁護士報酬第3 弁護士報酬と源泉徴収税額の集計1 源泉徴収は必要経費ではないこと2 支払者ごとに照合すること3 報酬と消費税等の区分第4 売上げを計上する年と預り金1 未収報酬も確認すること2 実費及び預り金を売上げと混同しないこと第5 必要経費と開業前後の支出1 必要経費の基本2 登録費用及び開業費第6 申告前の実務チェックリスト1 収入資料2 経費及び申告区分第7 関連記事第8 出典

第1 本記事の対象と確認時点

1 本記事が扱う場面

本記事は,弁護士登録をした最初の暦年に,法律事務所等からの給与と個人名義の弁護士報酬が併存する場合の所得区分,源泉徴収及び必要経費を,令和8年9月2日現在の公表資料に基づいて整理するものである。
司法修習給付金を含む司法修習終了年全体の申告は,「司法修習終了翌年の確定申告―修習給付金・給与・弁護士報酬(AIリライト)」を参照されたい。

2 個人弁護士を前提とすること

本記事は,自然人である弁護士の確定申告を対象とする。
弁護士法人の収入及び経費は法人税等の問題となるため,個人弁護士の申告と混同してはならない。

第2 最初に給与と弁護士報酬を分ける

1 給与として受け取る金員

雇用契約等に基づき,勤務時間,勤務場所及び業務遂行について使用者の指揮命令を受けて支給される給与は,給与所得として申告する。
年の途中で勤務先が変わった場合又は退職後に独立した場合も,その年中の全ての勤務先から給与所得の源泉徴収票を集める必要がある。

給与所得の源泉徴収票は,現在,確定申告書への添付又は提示を要しないが,給与収入,源泉徴収税額及び社会保険料等を正確に入力するため保管すべき資料である。
前職分が年末調整に含まれているか,未済であるかも確認する必要がある。

2 個人名義で受け取る弁護士報酬

自己の計算と危険において独立性をもって継続的に行う弁護士業務の報酬は,通常,事業所得の総収入金額として整理される。
もっとも,給与か報酬かは契約書又は振込名義だけで決まるものではなく,指揮命令,勤務場所,報酬の定め方,費用負担その他の実態により判断する必要がある。

勤務先から給与を受けながら個人事件又は国選事件の報酬も受け取った場合は,給与所得と事業所得を区分して同じ確定申告書へ記載する。

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弁護士の独立開業時の税務手続-開業届・青色申告・消費税・インボイス(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と確認時点1 本記事が扱う範囲2 弁護士会上の独立と税務上の開業日を区別すること第2 開業時に最初に決める事項1 事業の形態と納税地2 帳簿と請求書を開業日から整えること第3 個人事業の開業届1 令和8年から提出期限が変わったこと2 提出方法と保存第4 青色申告の承認申請1 提出期限2 控除額と記帳方法第5 従業員等へ給与を支払う場合1 給与支払事務所等の開設届出2 源泉所得税及び納期の特例第6 消費税とインボイスの選択1 新規開業時の原則と例外2 インボイス登録の効果3 請求書と源泉徴収の関係第7 最初の確定申告と地方税1 所得税の確定申告2 消費税,住民税及び個人事業税3 独立した年の予定納税第8 開業時のチェックリスト1 開業前後に確認する事項第9 関連記事第10 出典

第1 本記事の対象と確認時点

1 本記事が扱う範囲

本記事は,個人弁護士が独立開業するときに検討すべき所得税,源泉所得税,消費税,インボイス及び地方税の主な手続を,令和8年9月2日現在の公表資料に基づいて整理するものである。
弁護士法人を設立する場合の法人税,登記及び社会保険の手続は対象外である。

2 弁護士会上の独立と税務上の開業日を区別すること

所属事務所の変更日,事務所登録日,賃貸借契約日及び税務上の事業開始日は,必ずしも同じ日になるとは限らない。
開業日は,自己の計算と危険において継続的に業務を開始した実態を踏まえて決め,最初の受任,広告,設備購入,事務所使用開始その他の資料と整合させる必要がある。

第2 開業時に最初に決める事項

1 事業の形態と納税地

個人事業として開業するのか,弁護士法人を設立するのか,共同事務所で経費を分担するのかを最初に区別する。
個人事業の場合は,納税地,事務所所在地,屋号,開業日及び事業内容を整理し,所轄税務署を確認する。

共同事務所の賃料,人件費,複合機代その他の共通経費は,誰が契約者となり,誰が立替払いをし,どの基準で負担するかを文書化するのが望ましい。
依頼者から受け取る預り金は売上げと区分し,事業用口座,預り金口座及び私用口座を可能な範囲で分ける必要がある。

2 帳簿と請求書を開業日から整えること

青色申告の特別控除又は消費税の仕入税額控除を適切に検討するには,後日まとめて復元するのではなく,開業日から帳簿及び証憑を保存することが重要である。
請求書番号,事件又は顧客の管理番号,報酬,消費税等,源泉徴収税額,実費及び預り金を対応させると,確定申告時の照合が容易になる。

守秘義務の対象となる事件情報を会計ソフト又は外部サービスへ入力するときは,税務上必要な記録と事件情報を分け,サービスの権限,保存場所及び委託先を確認する必要がある。

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試し出勤が有効な場合と有効でない場合-疾患別・職種別の復職判断(AI作成)

第1 試し出勤の有効性は疾患名ではなく確認できる事実で決まる1 結論2 本記事の対象と基準時3 五つの条件を満たす場合に有効性が高い第2 疾患と職務を掛け合わせる判断方法1 疾患名から一律の結論を出さない2 疾患側の四つの軸3 職務側の四つの軸4 変動性と危険性の四象限第3 休職原因となった疾患ごとの分析1 うつ病,適応障害,不安障害等のメンタルヘルス不調2 がん及びがん治療後3 脳卒中,脳外傷及び高次脳機能障害4 心疾患及び循環器疾患5 糖尿病6 肝疾患7 難病その他の症状が変動する慢性疾患8 腰痛,頸肩腕障害その他の筋骨格系疾患9 疾患別分類に載っていない疾患第4 職種及び職務負荷ごとの分析1 一般事務,経理,IT及び知識労働2 接客,電話,窓口,営業及び苦情対応3 介護,看護,製造,建設,運搬その他の身体負荷が高い仕事4 運転,高所,危険機械,医療安全その他の安全上重要な仕事5 夜勤,交替制,不規則勤務,出張及び長時間労働6 在宅勤務及びハイブリッド勤務7 管理職,専門職及び職種限定のある社員第5 有効な試し出勤の設計1 仮説,観察事項及び判断後の対応を先に決める2 実際の職務との一致を示す3 中止基準を失敗扱いしない4 一回の結果を合否にしない5 試し出勤を行わない方がよい場合第6 法的な位置付けと裁判例1 試し出勤は一律の法定義務ではない2 東京高裁平成28年9月12日判決3 東京地裁八王子支部平成6年5月25日判決4 片山組事件最高裁判決第7 医学研究から分かることと分からないこと1 直接分かること2 直接分からないこと第8 実務上の確認順序1 実施前2 実施中3 実施後第9 出典1 法令2 法令に基づく指針3 所管行政機関の解説・運用資料4 裁判例5 医学文献
第1 試し出勤の有効性は疾患名ではなく確認できる事実で決まる
1 結論

試し出勤が有効であるのは,復職可否を判断するために残っている具体的な不確実性を,安全な方法で減らせる場合である。
例えば,通勤を継続できるか,現実の職場で注意・集中を保てるか,作業後の疲労が翌日までに回復するか,勤務条件を調整すれば安定して働けるかが,診察や自宅生活だけでは分からない場合には,目的を絞った試し出勤が役立つ。

反対に,試し出勤をしても判断に必要な情報が増えない場合,実際の職務と異なる活動しか行わない場合又は試すこと自体に許容できない危険がある場合には,試し出勤の有効性は低い。
一度出勤できたことを完全復職の証明としたり,予定を一部こなせなかったことを復職不可の自動的な根拠としたりする運用も適切ではない。

本記事でいう「有効」とは,制度又は合意の法的な有効・無効ではなく,復職判断に必要な情報を得る方法として有用であるという意味である。
試し出勤中の給与,最低賃金,労災・通勤災害及び傷病手当金については,「休職中の試し出勤制度―給与・最低賃金,労災・通勤災害及び傷病手当金の取扱い(AI作成)」で扱っている。

2 本記事の対象と基準時

本記事は,民間企業における私傷病休職中の社員について,正式な復職決定の前に行う職場での試し出勤を中心に,模擬出勤及び通勤訓練も必要に応じて扱う。
令和8年9月2日現在の法令,公表資料及び医学文献に基づく整理であり,就業規則,労働契約,疾患の状態及び職務内容によって個別の結論は異なる。

3 五つの条件を満たす場合に有効性が高い

試し出勤の有効性が高いのは,①確認したい事項が具体的であること,②復職後に予定される職務又は職場環境と対応していること,③安全に中止又は変更できること,④必要な配慮を試して比較できること,⑤結果を一回の合否ではなく他の資料と合わせて評価することという五つの条件を満たす場合である。
この五条件は前記指針の文言をそのまま列挙したものではなく,本記事が公的資料及び医学研究を横断して整理した実務上の評価枠組みである。

厚生労働省の「治療と就業の両立支援指針」は,試し出勤制度を,長期休業者の勤務時間又は勤務日数を短縮して円滑な復帰を支援し,本人と職場の不安を解消して具体的な準備を行うための事業主の自主的な制度としている。
したがって,単に出勤日数を消化させるのではなく,何を確認し,どの条件を整えるための期間であるかを決める必要がある。

第2 疾患と職務を掛け合わせる判断方法
1 疾患名から一律の結論を出さない

同じ疾患でも,症状,治療内容,副作用,後遺症,回復経過及び日内・日間の変動は人によって異なる。
また,同じ「事務職」でも,定型入力を自分のペースで行う仕事と,締切の下で複数案件を判断しながら顧客対応をする仕事とでは,必要な能力及び失敗時の影響が異なる。

前記指針は,疾病を理由に安易に就業を禁止せず,主治医及び産業医等の意見を勘案して,可能な限り配置転換,作業時間の短縮その他の措置を検討する一方,就業による増悪,再発及び労働災害を防止することを就業の前提としている。
このため,診断名の一覧表ではなく,社員の現在の機能と具体的な職務負荷を照合する必要がある。

2 疾患側の四つの軸

疾患側では,①症状及び機能制限が現在どの程度安定しているか,②一日の中又は日ごとの変動があるか,③治療及び服薬による時間的制約又は副作用があるか,④負荷による増悪又は重大な事故の可能性があるかを確認する。

医学的な就業可否は主治医等が判断する事項であり,会社が試し出勤によって診断又は治療効果を判定するものではない。
会社が確認するのは,医学的意見で許容された範囲内で,具体的な職務及び配慮が継続可能かという職務適合の事実である。

3 職務側の四つの軸

職務側では,①身体的負荷,②認知的・心理的負荷,③勤務時間及び通勤を含む時間的負荷,④失敗が本人,同僚,顧客又は公衆に与える危険の大きさを確認する。

厚生労働省の「治療と就業の両立支援指針・解説及び疾病別留意事項」の様式例は,立位,重量物,暑熱・寒冷・屋外,振動工具,不特定多数との対面,病原体,呼吸用保護具,単独作業,高所,危険な機械操作,自動車運転,残業,出張及び夜勤を職務情報として主治医に伝える構造である。

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試し出勤を拒否・中止・失敗した社員の復職可否-協力義務,判断資料及び休職期間満了(AI作成)

第1 試し出勤の拒否・中止・失敗だけで復職不可とは決まらない

1 最初に確認すべき結論

2 三つの問題を分ける

3 本記事の対象と基準時

第2 試し出勤への協力を求める範囲

1 就業規則と個別計画が出発点となる

2 両立支援は社員本人の申出と対話を基礎とする

3 一般的な協力義務と個別の法的義務を区別する

4 障害に関係する場合は合理的配慮の手続を重ねる

第3 拒否・中止・失敗を同じ事実として扱わない

1 試し出勤を拒否した場合

2 試し出勤を中止した場合

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休職中の試し出勤制度―給与・最低賃金,労災・通勤災害及び傷病手当金の取扱い(AI作成)

第1 試し出勤で最初に区別すべきこと1 この記事の対象と結論2 模擬出勤,通勤訓練及び職場での試し出勤第2 制度の法的位置付けと実施手順1 令和8年4月からの法定指針2 開始前に書面で決める事項第3 給与と最低賃金1 実際の労務提供がない場合2 実際の労務提供がある場合3 最低賃金と従前の契約賃金は別の問題である第4 労災と通勤災害1 職場で事故が起きた場合2 通勤訓練中の事故第5 傷病手当金1 出勤した事実だけで直ちに支給が止まるわけではない2 労務不能の判断と報酬による調整を分ける3 申請時に会社が残す記録第6 就業規則と個別計画の点検事項1 制度規程に置く基本事項2 実施中に越えてはならない境界第7 出典・参考資料1 法令・告示2 裁判例・行政裁決3 法令に基づく指針4 所管行政機関の解説・Q&A・運用資料5 関連記事
第1 試し出勤で最初に区別すべきこと
1 この記事の対象と結論

本記事は,私傷病で休職中の社員が正式な復職決定の前に行う模擬出勤,通勤訓練及び職場での試し出勤について,令和8年9月1日現在の法令及び公表資料に基づき,給与,最低賃金,労災・通勤災害並びに傷病手当金の取扱いを整理するものである。
短時間勤務等による正式な復職後は通常の就労であり,休職中の試し出勤とは区別する。

「試し出勤」という名称だけで無給か有給か,労災保険が適用されるか,又は傷病手当金が支給されるかが決まるわけではない。
使用者の指示の有無,行った作業の内容,会社の事業への有用性,時間及び場所の拘束,賃金又は報酬の有無,主治医等の意見並びに制度の目的を具体的に確認する必要がある。

2 模擬出勤,通勤訓練及び職場での試し出勤

厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」は,正式な職場復帰決定前の取組を,①図書館やデイケア等で軽作業を行う模擬出勤,②自宅から職場付近まで移動して帰宅する通勤訓練,③本来の職場等へ試験的に継続して出勤する試し出勤に分けている。
この区別は,会社施設へ入ったかどうかだけでなく,実際の業務を行ったかを検討する出発点となる。

職場に滞在しても,私物の読書や体調記録だけで,使用者が業務上の指示をせず,成果を会社が利用しない場合は,労務提供に当たらないことがある。
反対に,資料作成,電話対応,データ入力,顧客対応又は同僚の業務補助等を命じ,通常業務の一部として成果を受け取る場合は,「訓練」と呼んでいても労務提供と評価される可能性が高くなる。

第2 制度の法的位置付けと実施手順
1 令和8年4月からの法定指針

労働施策総合推進法27条の3第1項は,治療を受ける労働者について,事業主が相談対応の体制整備その他の必要な措置を講ずる努力義務を定めている。
同条2項に基づく「治療と就業の両立支援指針」は令和8年4月1日から適用され,試し出勤制度を,長期間休業した労働者の円滑な職場復帰を支援するため,勤務時間又は勤務日数を短縮して試し出勤等を行う自主的な勤務制度と位置付けている。

同指針は,支援を労働者本人の申出から始めることを基本とし,事業主が措置を一方的に判断しないこと,主治医及び産業医等の意見を踏まえること,本人の同意を得た上で必要な健康情報を共有することを求めている。
試し出勤も,会社が一方的に命じる適性試験ではなく,治療と就業の両立を支える個別の計画として実施するのが適切である。

2 開始前に書面で決める事項

本記事では,試し出勤の制度根拠を就業規則等で定め,個々の社員については開始前に実施計画を作成する形を基本とする。
私傷病休職の開始時の取扱いは,私傷病休職の開始時に使用者が確認すべき事項で整理している。

実施計画では,①目的,②開始日及び終了予定日,③出勤日,滞在時間及び場所,④行う活動と禁止する業務,⑤指揮命令者,⑥給与,交通費及び社会保険上の取扱い,⑦事故時の連絡及び受診手順,⑧主治医又は産業医等の意見,⑨健康情報を扱う者の範囲,⑩中止基準,⑪評価日,⑫正式な復職判断とは別手続であることを明確にする。
実施中に予定外の業務を依頼した場合は,その時点から労働時間,賃金,災害補償及び傷病手当金への影響を再検討する必要がある。

第3 給与と最低賃金
1 実際の労務提供がない場合

模擬出勤又は通勤訓練として,社員が任意に生活リズムや通勤可能性を確認するだけで,会社の指揮命令下における作業を行わない場合は,その時間について当然に賃金請求権が発生するとは限らない。
もっとも,就業規則,労働契約又は実施計画で手当,交通費その他の支給を約束したときは,その定めに従うことになる。

無給で行う場合は,会社の利益となる仕事をさせないことを実際の運用でも徹底しなければならない。
名称だけを「リハビリ」「見学」又は「試し」としながら,通常業務の一部を割り当てる運用は,無給とする根拠にはならない。

2 実際の労務提供がある場合

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総付景品の上限見直し――決まったことと,まだ決まっていないこと(AI作成)

第1 総付景品の上限は既に変わったのか第2 現在の200円・20%という上限第3 閣議決定で決まった検討の内容1 何を調べ,公表するのか2 令和9年の結論と施行日の違い3 閣議決定だけで上限変更や廃止が生じるのか第4 業界団体が示した二つの300円案第5 見直しをめぐる意見と判断材料1 定額と割合で異なる論点2 執行件数や利用率から分かる範囲第6 今後の企画で確認する公表資料第7 出典1 法令・告示2 行政機関の解説・運用資料3 閣議決定・会議記録・行政説明資料4 業界団体の提案資料
第1 総付景品の上限は既に変わったのか

令和8年8月31日現在,消費者庁が掲載する総付景品の一般的な数値上限は,取引価額が1000円未満の場合は200円,1000円以上の場合は取引価額の20%である(総付景品告示1項)。

令和8年7月21日に閣議決定された規制改革実施計画163頁~164頁は,上限の引上げについて調査・検討を進める方針と日程を定めたものである。
新しい金額・割合や具体的な施行日を定めたものではなく,本記事で確認した公表資料の範囲でも,これらを定めた改正告示は確認できない。

項目
決まったこと
まだ確定していないこと

検討対象
200円の定額部分と20%の定率部分の双方
改定後の金額・割合

日程
令和8年度に検討開始,令和9年に結論,結論後速やかに措置
改正告示の具体的な施行日

将来の点検
措置後の再点検の実施・時期を検討する
再点検までの年数,規制を廃止するかどうか

本記事は,日本の一般的な総付景品規制と今回の見直しの現在地を扱い,個別企画の適法性やすべての業種別規制を判定するものではない。
景品表示法全体の仕組みは,本ブログの「景品表示法の仕組み―景品規制・不当表示・ステマ規制・法執行(AI作成)」を参照されたい。

第2 現在の200円・20%という上限

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「1個買うと1個無料」は適法か―景品・値引き・セット販売の違い(AI作成)

第1 「1個買うと1個無料」は一律に禁止されない第2 同じ商品を追加する「増量値引き」の条件1 「1個購入して1個追加」への当てはめ2 同じ値段なら同一商品といえるか3 購入数を超える追加や抽選は別に扱う第3 無料引換券・割引券とセット販売1 後日の無料引換券と金額割引券は区別する2 セット販売は「購入特典」と何が違うか第4 景品に当たる場合の上限と価額1 一般の総付景品は200円又は取引価額の20%が上限2 仕入値ではなく通常の購入価格で比較する第5 「無料」「半額」の広告表示は別に判断する第6 出典1 法令・告示2 行政機関の通達・価格表示の解説3 消費者庁のQ&A
第1 「1個買うと1個無料」は一律に禁止されない

「1個買うと1個無料」は,景品表示法が一律に禁止する販売方法ではない。
同じ対価で同じ商品を追加する場合には,正常な商慣習に照らして値引きと認められ,景品規制の対象外となることがある。
ただし,商品の同一性,追加数量,提供方法などによって結論が変わり,景品に当たらなくても「無料」などの広告表示の適否は別に問題となる。

本記事は,令和8年8月31日現在の日本の景品表示法について,一般的な小売販売を中心に説明するものである。
特定企業のキャンペーンの適法性を判定するものではない。

景品類とは,顧客を誘引するため,事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して相手方に提供する経済上の利益で,内閣総理大臣が指定するものをいう(景品表示法2条3項)。
もっとも,景品類の指定告示1項は,正常な商慣習に照らして値引きと認められる利益を景品類から除外している。

区分
判断の中心
景品規制との関係

値引き・増量値引き
対価を下げるものか,同じ対価で同一商品を追加するものか
正常な商慣習に照らして値引きと認められれば,景品類に含まれない

セット販売
複数の商品を組み合わせて販売することが明らかか
原則として取引に付随する提供ではない。ただし,景品と認識される提供方法などは別である

景品の提供

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定年後再雇用の更新時に勤務日数・賃金を引き下げられるか(AI作成)

第1 条件変更を断っただけで契約終了になるわけではない第2 契約途中の変更・更新拒絶・変更への同意を分ける1 契約途中では勤務表だけを変えても足りない2 更新時には労働契約法19条の要件を確認する3 署名があっても同意の経緯を確認する第3 結論が分かれた西田通商事件と東光高岳事件1 西田通商事件――週5日から週3日への変更と雇止め無効2 東光高岳事件――更新期待を認めた上で更新拒絶を有効とした例3 二つの判決から確認できる比較の視点第4 65歳までの雇用確保と同一労働同一賃金との関係1 65歳までの雇用確保は旧賃金の当然の保障とは異なる2 本人の前年との比較と通常の労働者との比較は別である第5 労働者が更新前に行う確認と記録1 旧条件での更新希望と就労意思を伝える2 手元の資料を先にそろえ,説明を求める3 就労を拒まれた期間の賃金と時効を確認する第6 会社側の提案準備と,交渉・手続へ進む判断第7 出典・参考資料1 法令・告示2 裁判例3 所管行政機関のQ&A・改正案内4 法律事務所の事件紹介
第1 条件変更を断っただけで契約終了になるわけではない

定年後再雇用の契約更新時に,会社が勤務日数や賃金を引き下げる条件を提案することは,一律に禁止されていない。
しかし,労働者がその提案に同意しなかったという理由だけで,会社が従前の条件による更新を自由に拒絶できるわけではない。
変更の合意が成立するかという問題と,労働契約法19条によって雇止めが制限されるかという問題を分けて考える必要がある。

週5日勤務を週3日に減らし,月給を日数に比例して減らす場合も,日給・時給が変わらないことだけでは結論は決まらない。
西田通商事件では,このような変更を拒否した労働者の雇止めが無効とされた一方,東光高岳事件では,事情の異なる条件変更の提案について更新拒絶が有効とされている。

本記事は,令和8年8月31日現在の法令と確認できた裁判例に基づき,民間企業の定年後の有期再雇用契約を更新する場面を扱う。
定年直後に初めて再雇用契約を結ぶ場面や,勤務日数の最低保証がない変動シフトについては前提が異なるため,まず契約上の日数・時間・賃金を確認する。

第2 契約途中の変更・更新拒絶・変更への同意を分ける
1 契約途中では勤務表だけを変えても足りない

労働契約法8条は,労使の合意による労働条件の変更を認めている。
契約上,週5日勤務と月給が定められている場合に,会社が勤務表を週3日に書き換えただけで,契約上の日数と賃金も当然に変更されたことにはならない。

同意のない就業規則による不利益変更は,同法9条の原則と10条の例外に従って判断する。
10条では,変更後の就業規則の周知に加え,不利益の程度,変更の必要性,内容の相当性,労働組合等との交渉状況その他の事情に照らした合理性が問題となる。
就業規則の変更によっては変更しないと個別に合意した条件には,同条ただし書の検討も残る。

また,同法12条により,就業規則の基準に達しない条件を定めた個別契約は,その部分について無効となり,就業規則の基準による。
したがって,会社と本人が合意したかだけでなく,適用される再雇用規程・賃金規程との関係も確認する。

2 更新時には労働契約法19条の要件を確認する

更新時に新条件で合意できなかった場合は,労働者の旧条件による更新申込みを会社が拒絶してよいかが問題となる。
労働契約法19条による保護を検討する順序は,次のとおりである。

①反復更新の実態から雇止めを無期契約の解雇と社会通念上同視できる場合(1号),又は更新への期待に合理的な理由がある場合(2号)に当たるか。
②労働者が,契約満了日までに更新を申し込み,又は満了後遅滞なく有期契約の締結を申し込んだか。
③会社の拒絶が,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないか。

これらの要件を満たすと,会社は「従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす」とされる。
更新期待があるだけで旧条件の更新が決まるわけではないが,新条件を提示しただけで同条の適用を避けられるわけでもない。
更新期待・不更新条項・無期転換の一般的な説明は,有期労働契約の期間・更新・雇止め・無期転換ルールを参照されたい。

3 署名があっても同意の経緯を確認する

最高裁平成28年2月19日第二小法廷判決(平成25年(受)第2595号,山梨県民信用組合事件)は,不利益変更への同意について,労働者の自由意思に基づくと認めるに足りる客観的に合理的な理由があるかを慎重に判断すべきであるとした。
不利益の内容・程度,同意に至る経緯,事前の情報提供や説明等が問題となる。

これは退職金の変更に関する破棄差戻し判決であり,再雇用契約への署名を一律に無効としたものではない。
再雇用の更新でも,署名の有無に加え,変更後の勤務日数・年収・賞与が説明されたか,検討の機会があったか,異議や留保をどのように伝えたかを確認することが考えられる。

第3 結論が分かれた西田通商事件と東光高岳事件
1 西田通商事件――週5日から週3日への変更と雇止め無効

横浜地裁令和6年6月27日判決(令和4年(ワ)第1403号,労働判例1346号17頁)は,定年後の再雇用者に対し,週5日・基本賃金月額20万0998円から,週3日・月額12万0599円への変更が提案された事案である。
労働者は旧条件での更新を求めたが,会社は契約を更新しなかった。
裁判所HP未掲載であり,判例秘書で判決本文を確認した。

裁判所は,再雇用に関する規程,契約内容,更新の経過等から,雇用継続への合理的期待を認めた。
契約書に,更新時には個別合意の上で労働条件を変更することがあると記載されていても,合意できなければ当然に契約が終了するとは扱わなかった。

日給・時間給に換算した賃金単価は変わらなかったが,裁判所は,月額約12万円で家計を維持することや,空いた曜日に別の仕事を確保することの難しさを考慮した。
会社の業績悪化についても,雇止め後に別の労働者を再雇用し,役員報酬を増額した事情や,本人が売上げに直結しない業務にも従事していた事情を検討し,提示条件を不合理と判断した。

結論として,雇止めを無効とし,旧条件による契約の更新を認め,労働者の地位確認及び未払賃金の請求を認容した。
ただし,鈴悠法律事務所の事件紹介には控訴後和解と記載されており,本判決の判断がそのまま確定したと扱うことはできない。

2 東光高岳事件――更新期待を認めた上で更新拒絶を有効とした例

東京高裁令和6年10月17日判決(令和6年(ネ)第2731号,労働判例1323号5頁)は,定年後再雇用の契約満了と吸収合併が重なり,存続会社の制度に合わせた条件変更が提案された事案である。
提案には,週4日から週5日に勤務を増やしながら基本賃金を約15%減らす案と,週4日勤務のまま賃金を月額換算で約51%減らす案があり,業務内容を修正した案も提示された。
裁判所HP未掲載であり,判例秘書及び掲載誌の判決本文を確認した。

高裁は,労働契約法19条2号の更新期待は,同一条件での更新への期待に限らず,条件変更を伴う更新への期待も含むとした。
その上で,65歳までの継続雇用を原則とする規程等から更新期待を認め,労働者の旧条件による更新申込みを会社が拒絶したと判断した。

もっとも,高裁は,従前と同一の条件で更新されるとの期待に合理的理由があるとは認め難いとした。
被吸収会社の経営悪化,存続会社の再雇用者との条件統一の必要性,他の再雇用者の同意,担当事業からの撤退予定,事前説明と複数案の提示等を検討し,存続会社自体の業績が堅調であることや大幅な減額も考慮した上で,更新拒絶を有効として控訴を棄却した。

原審の東京地裁令和6年4月25日判決(令和4年(ワ)第6348号,労働判例1318号27頁。裁判所HP未掲載。判例秘書により確認)は,19条2号の更新期待を同一条件によるものに限定していたが,高裁はこの限定を採用していない。
また,高裁判決は約51%の減額を一般的に許容したものでも,低い条件の契約が本人の同意なしに成立するとしたものでもない。

3 二つの判決から確認できる比較の視点

本記事では,両判決の分岐を,次の資料を比較する際の視点として整理する。
いずれも個別の事情を組み合わせた判断であり,一つの事情があれば必ず有効・無効になるという基準ではない。

(続きを読む...)定年後再雇用の更新時に勤務日数・賃金を引き下げられるか(AI作成)