メインコンテンツへスキップ

企業法務・民事実務

合法な表現物でもカード決済が止まる「クレカ問題」の法律関係―割賦販売法の加盟店調査,政府答弁,国際ブランドの規則及び決済代行会社の売上金留保(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 公式の告知で確認できる事例1 マンガ図書館Z2 DLsite第3 法律は表現の内容を理由とする決済停止を規制しているか1 割賦販売法の加盟店調査と契約解除2 国会での政府答弁3 国際ブランドの規則4 独占禁止法第4 決済代行会社による売上金の留保―東京地裁令和7年2月27日判決1 事案2 判断3 実務上の意味第5 政府の動きと代替手段1 成長戦略の「コンテンツ」2 代替手段としての円建てステーブルコイン第6 決済を止められた加盟店が確認する事項第7 関連記事第8 出典
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

日本の法律に違反しない漫画,同人誌,ゲーム等を販売しているのに,カード会社や決済代行会社の判断でクレジットカード決済が使えなくなることがある。
この記事は,この問題を法律の側から整理し,販売事業者(加盟店)が決済を止められたときに確認する事項をまとめるものである。
基準日は令和8年10月25日であり,法令はe-Gov法令検索で,国会での答弁は国会会議録検索システムで,事業者・官庁の対応は各社・各庁の公表資料(Mastercardの規則はInternet Archiveの保存版)で確認した。

令和8年9月18日にデジタル大臣政務官兼内閣府大臣政務官に任命された赤松健参議院議員は,同年10月18日にX(旧Twitter)で公開した漫画「赤松健の国会にっき」第381回で,日本で合法な創作表現でも決済手段が使えないと事実上の表現規制となる場合があるとして,これを「いわゆる『クレカ問題』」と呼んでいる。
同じ漫画で,赤松政務官は,代替手段の検討を含めた解決策の研究を「公務(政府)として」行っていること,JPYC株式会社の代表者から聞き取りを行い,今後も関係事業者から聞き取りを行う予定であることを説明している。
なお,赤松政務官は,後記のマンガ図書館Zの前身「Jコミ」を立ち上げ,マンガ図書館Zの運営会社である株式会社Jコミックテラスの取締役会長を務めた経歴がある。

2 結論

結論は,次の4点である。
①割賦販売法は,加盟店と契約を結ぶ事業者に,加盟店の調査と,基準に適合しないおそれがある場合の契約締結の禁止・契約解除等の措置を義務付けているが,その目的はカード番号の適切な管理と不正利用の防止であり,取り扱う商品の表現の内容を基準とするものではない。
②国会では,令和5年に経済産業省大臣官房審議官が,割賦販売法には取扱商材の表現内容に関する規制を設けていないと答弁し,令和6年には経済産業大臣が,どのような商材の決済を行うかはカード会社の経営上の判断によるものと答弁している。
③Mastercardの規則には,同社の信用を害するおそれがあるかどうかを同社の単独の裁量で判断して取引を禁止する条項があり,表現物の決済停止の根拠は,割賦販売法よりも,契約と国際ブランドの規則の側にあると考えられる。
④決済代行会社の利用規約にある売上金の支払延期・支払留保の条項を,その趣旨に照らし,それぞれ最終決済日又は弁済期日から6か月間に限ると解釈した裁判例があり(東京地裁令和7年2月27日判決),決済を止められた加盟店の売上金の回収で参考になる。

第2 公式の告知で確認できる事例
1 マンガ図書館Z

漫画の配信サイト「マンガ図書館Z」の運営会社は,サイト停止の告知で,「先月決済代行会社から通達があり、決済サービスの契約を10月末ですべて解約せざるを得なくなりました。」と説明し,「決済代行会社とも早急に協議いたしましたが、カード会社の判断によるものであり、すでに弊社では覆すことのできない状況でした。」としている。
告知は,解約の対象を「決済サービスの契約」と書いており,特定のカードブランドに限っていない。
また,告知は,カード会社が何を理由に判断したかを書いていない。
この件は,令和6年12月11日の衆議院予算委員会でも取り上げられた。

2 DLsite

販売サイト「DLsite」の運営会社は,「2024年4月3日(水)18時より、Visa、Mastercardのご利用が一時停止いたします。」と告知し,翌日には「American Expressのご利用も一時停止」したと追記した。
この告知も,停止の理由を書いていない。
他の決済手段(PayPay,コンビニ払い,ネットバンキング等)は使えるとしている。

第3 法律は表現の内容を理由とする決済停止を規制しているか
1 割賦販売法の加盟店調査と契約解除
(1) 調査の目的は番号の管理と不正利用の防止

割賦販売法は,加盟店とクレジットカード番号等取扱契約を結ぶ事業者(クレジットカード番号等取扱契約締結事業者)に,契約前の調査を義務付けている(同法35条の17の8第1項)。
その目的は,「販売業者又は役務提供事業者によるクレジットカード番号等の適切な管理及び利用者によるクレジットカード番号等の不正な利用の防止を図るため」と定められている。

(続きを読む...)合法な表現物でもカード決済が止まる「クレカ問題」の法律関係―割賦販売法の加盟店調査,政府答弁,国際ブランドの規則及び決済代行会社の売上金留保(AI作成)

クロネコ代金後払いの情報漏えい(約526万件)―持ち出された項目,利用者・加盟店の対応と後払い決済の仕組み(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論の要旨1 本記事が扱う事案2 結論の要旨第2 公表された事実関係1 第1報から第3報まで2 第4報(令和8年10月16日)3 二次被害と不審な連絡第3 後払い決済の仕組み1 立替払契約と保証2 割賦販売法の対象にならない理由第4 個人情報保護法上の報告と本人への通知1 報告義務を負う者2 加盟店に報告義務はあるか3 本人への通知と「代わるべき措置」第5 利用者が確認すること1 不審な連絡への対応2 商品明細が含まれることの意味3 損害賠償の見通し第6 加盟店(通販事業者)が確認すること1 自社の顧客への説明2 契約と決済手段の見直し第7 関連記事第8 出典1 公表資料2 法令・ガイドライン等3 裁判例
第1 本記事の対象と結論の要旨
1 本記事が扱う事案

本記事は,ヤマト運輸株式会社が,「クロネコ代金後払いサービス」への第三者による不正アクセスを令和8年9月28日に確認し,利用者の情報等が持ち出された事案について,公表された事実を整理した上で,利用者と加盟店(後払い決済を導入している通販事業者)が確認すべき事項と,後払い決済の法的な仕組みを説明するものである。
事実関係は,ヤマトホールディングスの公式サイトに掲載された第1報から第4報までに基づく。
本記事の記載は,令和8年10月25日時点で確認できた公表資料と法令に基づく。

2 結論の要旨

①令和8年10月16日の第4報によれば,持ち出しが判明したのは,利用者の情報約526万件,お届け先の情報約5万件及び加盟店の情報約4100件であり,利用者の情報には氏名,住所,電話番号,メールアドレスのほか,商品明細(商品名,数量,単価等)が含まれる。
②クレジットカード情報とパスワード情報は含まれておらず,第2報で漏えいの可能性があるとされた請求金額,債権残高及び同社社員の氏名は,持ち出しが確認されなかったとされている。
③個別の連絡が難しい利用者については,第4報の公表をもって通知に代えるとされており,これは個人情報保護法26条2項ただし書の「代わるべき措置」として事案を公表する方法に当たると考えられる。
④同サービスの規約上,同社は購入者との間で立替払契約を結び,加盟店から購入者の個人情報と購入情報の提供を受けるとされている。
この仕組みを前提にすると,持ち出された利用者の情報は同社が自らの事業のために取り扱っていた個人データであり,個人情報保護委員会への報告と本人への通知は,加盟店ではなく同社の義務になると考えられる。
⑤割賦販売法の個別信用購入あっせんからは,契約の締結から2か月を超えない範囲内で定められた時期までに受領するものが除かれており,商品を受け取った後に届く払込票で14日以内に一括して支払う同サービスの立替払いは,通常この除外に当たると考えられる。
⑥利用者が損害賠償を求める場合の慰謝料の水準は,漏えいした情報の内容,流出の範囲,実害の有無及び事業者の事後の対応によって決まり,商品明細という購入の内容が含まれる点がどう評価されるかは,個別の事情による。

第2 公表された事実関係
1 第1報から第3報まで

第1報(令和8年9月29日)によれば,同社は,9月28日に「クロネコ代金後払いサービス」が第三者による不正アクセスを受けたことを確認し,外部からのアクセス制限等の対策を講じるとともに,同日22時28分に同サービスを停止した。
宅急便を含む他のサービスは,通常どおり利用できるとされた。

第2報(同年10月2日)は,漏えいした可能性がある主な情報として,利用者の氏名,住所,電話番号,メールアドレス,与信番号,請求金額,債権残高及び商品明細,加盟店の加盟店名及び加盟店コード並びに同サービスを担当する同社社員の氏名を挙げた。
同時に,クレジットカード情報やパスワード情報などは含まれていないとした。

第3報(同月9日)は,同日13時に同サービスを再開したことを公表した。
サービス停止期間を考慮し,9月28日以降に支払期限を迎える払込票については期限が延長され,例えば支払期限日が10月1日の払込票は,同月18日が変更後の期限とされた。

2 第4報(令和8年10月16日)

第4報は,セキュリティ専門機関の協力を得て調査した結果,同サービスに関わる一部の情報が不正に持ち出されたことが判明したとして,次のとおり公表した。

区分情報項目対象期間件数利用者の情報氏名,住所,電話番号,メールアドレス,商品明細(商品名,数量,単価など),社内管理用情報(申込番号,受注日,与信番号など)平成30年10月1日から令和8年9月28日まで約526万件(メールアドレスを含むものは約49万件)お届け先の情報お届け先の氏名,住所,電話番号,送り状番号令和3年2月5日から令和8年9月28日まで約5万件加盟店の情報加盟店名,社内管理用情報(加盟店コード)平成30年10月1日から令和8年9月28日まで約4100件

同報は,クレジットカード情報とパスワード情報は含まれていないこと,第2報で挙げた請求金額,債権残高及び同社社員の氏名は調査の結果持ち出しが確認されなかったこと,個人向けの「クロネコメンバーズ」等の他のサービスからの持ち出しは確認されていないことも明らかにしている。

3 二次被害と不審な連絡

第4報の時点で,同社は,持ち出された情報が不正利用されたことによる二次被害は確認されていないとしている。
他方で,心当たりのない不審なメール・SMSが届いた,不審な電話がかかってきたといった問合せがあるとして,メール内のアドレスへのアクセスや添付ファイルの開封をせず,不審な電話や郵便物にも慎重に対応するよう呼び掛けている。

第3 後払い決済の仕組み

(続きを読む...)クロネコ代金後払いの情報漏えい(約526万件)―持ち出された項目,利用者・加盟店の対応と後払い決済の仕組み(AI作成)

個人情報漏えいで集団訴訟はできるか―消費者裁判手続特例法が慰謝料を原則として対象外とする理由と共同訴訟(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論の要旨1 本記事が扱う場面2 結論の要旨第2 「集団訴訟」と呼ばれる手続の種類1 多数の原告による共同訴訟2 選定当事者3 特定適格消費者団体による共通義務確認訴訟第3 消費者裁判手続特例法と慰謝料1 対象となる請求2 慰謝料が対象外とされてきた理由3 慰謝料が対象となる二つの場合4 個人情報漏えいが議論された経緯5 過失による漏えいの慰謝料だけを求める場合6 財産的請求と併せる場合第4 共同訴訟で請求するときの留意点1 原告ごとの主張と証明2 訴訟の目的の価額3 認容額の水準4 消滅時効5 登録,委任契約及び提訴の区別6 参加者の住所・氏名と記録の閲覧7 住所・氏名の変更と連絡・分配の管理第5 関連記事第6 出典1 法令2 公表資料3 裁判例
第1 本記事の対象と結論の要旨
1 本記事が扱う場面

大規模な個人情報の漏えいが公表されると,被害者が集まって損害賠償を求める「集団訴訟」が話題になることがある。
本記事は,個人情報の漏えいについて多数の被害者が損害賠償を求める場合に,日本の法制度上どのような手続があり,消費者裁判手続特例法(消費者の財産的被害等の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律)の手続がどこまで使えるかを説明するものである。
本記事の記載は,令和8年10月25日時点で確認できた法令と公表資料に基づく。

2 結論の要旨

①被害者がそれぞれ原告となって同じ事業者を訴える共同訴訟(民事訴訟法38条)では,確定判決の効力は当事者となった被害者に及び,訴訟に加わらなかった被害者には及ばない。
②消費者裁判手続特例法には,内閣総理大臣の認定を受けた特定適格消費者団体が原告となる共通義務確認訴訟の制度があるが,精神上の苦痛を受けたことによる損害(慰謝料)は,原則として対象から除かれている(同法3条2項6号)。
③慰謝料が除かれてきたのは,第2段階の手続で個々の債権を適切かつ迅速に判断できること(支配性)と,事業者が被害額の見通しを把握できること(係争利益の把握可能性)を確保するために,対象を類型化したためである。
④令和4年法律第59号による改正で,慰謝料も,算定の基礎となる主要な事実関係が相当多数の消費者に共通することを前提に,財産的請求と併せて請求する場合か,事業者の故意によって生じた場合に限り,対象となった。
⑤改正に先立つ消費者庁の検討会報告書は,過失による個人情報漏えいの慰謝料を対象外とすべきとの指摘と,個人情報漏えい事案かどうかで対象を決めることは妥当でないとする個人情報保護委員会の指摘の双方を記録している。
⑥その結果,事業者の過失による漏えいについて慰謝料だけを求める場合は,同法の手続を使うことができず,被害者は,自ら原告となるか,選定当事者を選定するなどして,民事訴訟法の手続で請求することになる。

第2 「集団訴訟」と呼ばれる手続の種類
1 多数の原告による共同訴訟

民事訴訟法38条は,訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通であるとき,同一の事実上及び法律上の原因に基づくとき,又は同種であって事実上及び法律上同種の原因に基づくときは,その数人は共同訴訟人として訴えることができると定める。
同じ漏えい事故で個人情報が流出した被害者が,一つの訴えで同じ事業者に損害賠償を求めるのは,この共同訴訟に当たる。
共同訴訟でも,請求権は原告ごとに別であり,どの情報が流出したか,二次被害があったか,損害がいくらかは,原告ごとに主張し,証明する必要がある。
確定判決は当事者に対して効力を有するものであり(民事訴訟法115条1項1号),訴訟に加わらなかった被害者には及ばない。

2 選定当事者

民事訴訟法30条1項は,共同の利益を有する多数の者は,その中から,全員のために原告となるべき一人又は数人を選定することができると定める。
選定された者(選定当事者)が全員のために訴訟を追行するので,多数の被害者が全員で訴訟手続に関わる負担を減らすことができる。
選定当事者が受けた確定判決の効力は,選定をした者にも及ぶ(民事訴訟法115条1項2号)。
もっとも,選定当事者になるのは共同の利益を有する者の中の者であり,被害者でない団体が代わりに原告となる制度ではない。

3 特定適格消費者団体による共通義務確認訴訟

消費者裁判手続特例法は,特定適格消費者団体が原告となり,相当多数の消費者に共通する原因に基づいて事業者が金銭を支払う義務を負うことの確認を求める共通義務確認訴訟(第1段階)と,その後に個々の消費者の債権の存否及び内容を確定する簡易確定手続(第2段階,同法2条7号)の2段階で,消費者の被害を回復する制度を定めている。
特定適格消費者団体は,被害回復裁判手続を追行するのに必要な適格性を有する法人である適格消費者団体として,内閣総理大臣の認定を受けた者である(同法2条10号)。
個々の消費者は,第1段階の訴訟の当事者にならない。
第2段階では,簡易確定手続を申し立てた特定適格消費者団体が,対象となる消費者から授権を受けて,その債権を届け出る(同法33条1項・34条1項)。
制度の流れと最高裁判例は,消費者被害の集団的回復手続―共通義務確認訴訟と最高裁令和6年3月12日判決(AI作成)で整理している。

(続きを読む...)個人情報漏えいで集団訴訟はできるか―消費者裁判手続特例法が慰謝料を原則として対象外とする理由と共同訴訟(AI作成)

取引先から生成AIの利用に関する調査票・誓約書が届いたら―改正個人情報保護法30条の3・58条の2と回答前の確認事項(AI作成)

目次

第1 記事の対象と結論第2 取引先が調査票を送る理由1 委託元の委託先監督義務2 委託先がクラウドサービスを使う場合の注意喚起3 生成AIサービスへの入力に関する注意喚起第3 回答の前に確認すること1 預かっている情報を分ける2 契約の定めを確かめる3 社内の実際の利用状況を確かめる4 利用しているサービスの規約と設定を確かめる第4 改正法で受託者に生じる義務1 第30条の3の内容2 違反した場合3 第58条の2の特例4 契約に定める事項の検討状況5 施行までの日程第5 回答書・誓約書の書き方1 事実,予定及び約束を分ける2 規則の公表前に約束しすぎない3 全面禁止を求められたとき4 マスキングは匿名加工情報と同じではない第6 関連記事第7 出典
第1 記事の対象と結論

本記事は,業務の委託を受けて取引先から個人情報や秘密情報を預かっている事業者(以下「受託者」という。)が,取引先から生成AIの利用状況に関する調査票への回答や,生成AIへの入力を制限する誓約書・覚書への署名を求められた場合に,回答・署名の前に確認すべき事項を整理するものである。
基準日は令和8年10月25日であり,令和8年法律第56号による改正後の個人情報保護法の条文は,個人情報保護委員会が掲載する改正法の本文とe-Gov法令検索の改正後の条文で確認した。
改正法は令和8年7月17日に公布されたが,受託者の義務を定める第30条の3と,契約を条件とする特例を定める第58条の2は,公布の日から起算して二年を超えない範囲内で政令で定める日に施行され,本記事の基準日現在は施行されていない。

結論は次のとおりである。
①個人情報の取扱いの委託に伴う取引先からの調査票は,委託元が現行法第25条の委託先監督を行うための手段と位置付けられ,個人情報保護委員会も,委託先がクラウドサービスを利用している場合に,委託元がその安全性などを委託先に確認することを挙げている。
②回答の前に,預かっている情報の種類,契約の定め,社内の実際の利用状況,利用しているサービスの規約・設定を確認する。
会社として生成AIを導入していないことと,従業員が業務に使っていないことは別の事実である。
③改正法の施行後は,個人情報取扱事業者である受託者が,法令に基づく場合等を除き,委託された個人情報を委託業務の遂行に必要な範囲を超えて取り扱うことが,委託元との契約の問題にとどまらず,受託者自身の個人情報保護法違反となる(改正後の第30条の3)。
④第58条の2の特例を受けるために委託契約に定める事項は個人情報保護委員会規則で定められる予定であり,令和8年10月1日に事務局が検討の方向を示した段階であるから,現時点の回答や誓約では,確定していない事項を約束しすぎないようにすることが望ましい。

第2 取引先が調査票を送る理由
1 委託元の委託先監督義務

現行法第25条は,「個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。」と定めている。
個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」3-4-4は,必要かつ適切な措置として,適切な委託先の選定,委託契約の締結及び委託先における個人データ取扱状況の把握を挙げている。
同ガイドラインは,委託先の選定や取扱状況の把握に当たり,必要に応じて個人データを取り扱う場所に赴く又はこれに代わる合理的な方法(口頭による確認を含む。)により確認することが考えられるとしており,委託先への調査票は,この把握の方法の一つと位置付けることができる。

また,同ガイドライン3-6-3は,委託に伴って個人データの提供を受けた者について,「委託された業務以外に当該個人データを取り扱うことはできない。」としている。
現行法の下でも,同ガイドラインの解釈上,受託者が委託に伴って預かった個人データを委託業務以外に使うことは許されず,取引先は,生成AIへの入力がこの範囲を超えていないかを確かめようとすることになる。

2 委託先がクラウドサービスを使う場合の注意喚起

個人情報保護委員会は,令和6年3月25日,「クラウドサービス提供事業者が個人情報保護法上の個人情報取扱事業者に該当する場合の留意点について(注意喚起)」を公表した。
同注意喚起は,クラウドサービスの利用が個人データの取扱いの委託に当たるかどうかは,クラウドサービス提供事業者が個人データを取り扱うこととなっているか否かが判断の基準になるとし,利用規約で提供事業者が保守・運用上必要な場合にデータを監視・分析・調査できるとされていたこと,提供事業者が保守用IDを保有し,技術的なアクセス制御等が講じられていなかったこと等を,提供事業者が個人情報取扱事業者に該当すると判断した考慮要素として挙げている。

同注意喚起の第3項は,個人データの取扱いの委託先が,クラウドサービス提供事業者の提供するアプリケーションを利用して委託された個人データを取り扱っている場合について,「委託元である個人情報取扱事業者は、委託先事業者に対する監督の一内容として、当該クラウドサービスの安全性などを委託先事業者に確認することが考えられます。」としている。
同項は,委託先事業者のクラウドサービスの利用によって,委託先からクラウドサービス提供事業者に対する「再委託」となっている場合があることを念頭に置くよう求めている。
受託者が生成AIサービスを使って委託業務を処理する場合も,そのサービスの提供事業者が入力された情報をどう取り扱うかによって同じ問題が生じるから,調査票でサービス名・プラン・設定を尋ねられるのは,この確認のためであると考えられる。

個人情報保護委員会は,この注意喚起のポイントを解説する動画を,令和6年12月16日に公式YouTubeチャンネルで公開している。

3 生成AIサービスへの入力に関する注意喚起

個人情報保護委員会は,令和5年6月2日,「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表した。
同注意喚起は,個人情報取扱事業者が個人情報を含むプロンプトを入力する場合には,特定された利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認するよう求めている。
また,本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入力し,その個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合には,個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性があるとして,生成AIサービスの提供事業者が個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう求めている。

(続きを読む...)取引先から生成AIの利用に関する調査票・誓約書が届いたら―改正個人情報保護法30条の3・58条の2と回答前の確認事項(AI作成)

個人情報保護法の課徴金と罰則はどう変わるか―令和8年改正の対象行為,1000人基準,算定方法と令和9年1月17日施行の罰則強化(AI作成)

目次

第1 記事の対象と結論第2 改正の経緯と施行日1 成立と公布2 罰則の見直しは令和9年1月17日に施行される3 課徴金を含む主要部分の施行日第3 課徴金制度の骨格1 導入の目的2 対象となる行為3 課される要件4 要件を満たせば納付を命じなければならない第4 課徴金の額1 対価額2 資料が提出されない場合の推計3 10年以内に繰り返した場合の加算4 自主的な報告による減額5 合併等の場合6 7年の期間制限第5 課徴金納付命令の手続1 弁明の機会2 命令の方式と納期限3 督促・延滞金・強制執行第6 政令・規則の検討状況1 対象外とする「権利利益を害する程度が大きくない場合」2 算定方法・推計方法・自主報告の方法3 今後の日程第7 令和9年1月17日に施行される罰則の見直し1 改正前後の比較2 個人情報データベース等の不正提供等罪3 不正な手段による個人情報の取得を処罰する規定の新設4 命令違反の罰則と経過期間の読替え5 国外犯第8 事業者が今から確認しておくこと第9 関連記事第10 出典
第1 記事の対象と結論

本記事は,令和8年法律第56号「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」による個人情報保護法の改正のうち,課徴金制度の新設と罰則の見直しを扱う。
基準日は令和8年10月25日であり,条文はe-Gov法令検索に収録された改正後の条文と,個人情報保護委員会が掲載する改正法の本文で確認した。

結論は次のとおりである。
①罰則の見直しは,附則第1条第3号により,公布の日から起算して六月を経過した日である令和9年1月17日に施行される。
②課徴金制度は改正法の主要部分とともに,公布の日から起算して二年を超えない範囲内で政令で定める日に施行され,本記事の基準日現在,その日は定まっていない。
③課徴金の対象は,違法な行為又は不当な差別的取扱いが想定される第三者への個人情報の提供等,第三者提供の制限に違反する個人データの提供,統計作成等の特例に違反する取扱い及び不正に取得した個人情報の利用に限られ,本人の数が千人を超えないとき等は課されない。
④課徴金の額は,違反行為又は違反行為をやめることの対価として得た金銭等に相当する額であり,算定方法や対象外とする場合の細目は,政令及び個人情報保護委員会規則の検討段階にある。

第2 改正の経緯と施行日
1 成立と公布

改正法の法律案は令和8年4月7日に国会へ提出され,同年7月10日に成立し,同月17日に公布された。
個人情報保護委員会の改正法の特設ページも,この経緯を掲げた上で,政令・規則・ガイドライン等の検討を進めているとしている。

2 罰則の見直しは令和9年1月17日に施行される

改正法附則第1条本文は,改正法を「公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」と定める。
もっとも,同条第3号は,罰則の改正規定等について,「公布の日から起算して六月を経過した日」から施行すると定めている。
公布の日が令和8年7月17日であるから,罰則の見直しは令和9年1月17日に施行され,課徴金を含む主要部分よりも先に適用が始まる。

3 課徴金を含む主要部分の施行日

課徴金制度を定める改正後の第148条の3から第148条の17までは,附則第1条本文の政令で定める日から施行される。
e-Gov法令検索の改正履歴でも,主要部分の施行日は「公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日」と表示されており,本記事の基準日現在,施行日を定める政令は確認できない。

第3 課徴金制度の骨格
1 導入の目的

個人情報保護委員会事務局の「個人情報保護法等の一部を改正する法律について」は,現行法では,違反事業者が勧告・命令等を受けた後に違反行為を中止すれば,違反行為から得た経済的利得をそのまま保持することが可能であると説明している。
そのうえで,経済的誘因のある,大量の個人情報の取扱いによる悪質な違反行為を実効的に抑止するため,重大な違反行為により個人の権利利益が侵害された場合等について,違反行為によって得られた財産的利益等に相当する額の課徴金の納付を命ずることとしたと説明している。

2 対象となる行為

改正後の第148条の3第1項は,次の行為を課徴金の対象とする。
①個人情報を利用して違法な行為又は不当な差別的取扱いを行うことが想定される状況にある第三者に対する個人情報の提供
②第三者の求めにより行う個人情報の利用であって,その第三者が利用を通じて違法な行為又は不当な差別的取扱いを行うことが想定される状況にある場合に行われるもの
③第27条第1項の規定に違反する個人データの提供
④統計作成等の特例について定める第30条の2第4項若しくは第9項又は第31条の3第5項の規定に違反する個人情報の取扱い

(続きを読む...)個人情報保護法の課徴金と罰則はどう変わるか―令和8年改正の対象行為,1000人基準,算定方法と令和9年1月17日施行の罰則強化(AI作成)

相続した非上場株式の会社買取りと税務―売渡請求・みなし配当の特例・取得費加算の期限と書類(AI作成)

目次

第1 会社法の手続と税務を一緒に確認する第2 売渡請求の2つの期限1 会社が一般承継を知ってから1年2 売渡請求の日から20日第3 会社へ売るときのみなし配当と特例1 取得費との差額がそのままみなし配当になるわけではない2 相続した非上場株式の特例3 届出は譲渡する時までに会社へ第4 取得費加算と相続税評価額の違い1 取得費加算は別の特例である2 3つの金額を分けて整理する第5 手続を並行して進めるための資料第6 価格が未確定のときの注意点第7 関連記事第8 出典
第1 会社法の手続と税務を一緒に確認する

相続した非上場株式を発行会社へ売却するときは,株式をいくらで売るかに加え,会社が取得できる手続と,相続人の税務上の取扱いを確認する必要がある。
会社法上の売渡請求の期限に対応していても,所得税の特例に必要な届出まで済んでいるとは限らない。

本記事は,令和8年10月25日時点の法令と国税庁資料に基づき,通常の相続で個人が取得した非上場株式を,発行会社へ金銭を対価として譲渡する場面を扱う。
会社法174条以下の売渡請求と,合意による任意の自己株式取得は,会社法上の手続が同じではない。
以下の1年・20日の期限は,174条以下の制度についての説明である。
現物を対価とする取引や限定承認などは,別途の検討を要する。

第2 売渡請求の2つの期限
1 会社が一般承継を知ってから1年

会社法174条は,相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対する売渡請求を,定款で定められるとしている。
会社は,その定めを前提に,請求の都度,株式数と対象者を株主総会で決定し(175条1項),その決議に基づいて請求する。
会社が一般承継を知った日から1年を経過したときは,この請求はできない(176条1項ただし書)。

2 売渡請求の日から20日

価格は会社と対象者との協議で定めるが,会社又は対象者は,売渡請求の日から20日以内に,裁判所へ価格決定を申し立てることができる。
裁判所は,請求時の会社の資産状態その他一切の事情を考慮する。
期間内に申立てがなく,協議も成立しなかったときは,売渡請求は効力を失う(177条)。

この20日は,会社が相続を知った日からの1年とは別の期限である。
会社から請求を受けた相続人は,価格資料が十分にそろっていない段階でも,申立期限への対応を検討する必要がある。
手続の詳細は,相続した譲渡制限株式を会社が買い取る方法―会社法174条から177条,定款,株主総会,価格決定及び期限を参照されたい。

第3 会社へ売るときのみなし配当と特例
1 取得費との差額がそのままみなし配当になるわけではない

個人が非上場株式を発行会社に譲渡する場合,通常は,受取対価のうち,譲渡した株式に対応する資本金等の額を超える部分がみなし配当となる。
会社全体の資本金等の額と比較するのでも,相続人の取得費との差額をそのままみなし配当とするのでもない。
国税庁のNo.1477は,この原則と相続時の特例を説明している。

2 相続した非上場株式の特例

租税特別措置法9条の7は,相続又は遺贈について納付すべき相続税額がある個人が,相続税の課税価格に算入された非上場株式を,その発行会社へ所定の期間内に譲渡する場合の特例を設けている。
適用されると,みなし配当課税を行わず,受取対価の全額を非上場株式の譲渡所得の収入金額として扱う。
非課税になる制度ではない。

期間は,相続開始日の翌日から,相続税申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までである。

(続きを読む...)相続した非上場株式の会社買取りと税務―売渡請求・みなし配当の特例・取得費加算の期限と書類(AI作成)

宗教法人の墓地・納骨堂事業と法人税―使用料・管理料・物販・借入れを分ける(AI作成)

目次

第1 経営許可と法人税の判定を分ける第2 墳墓地の貸付けと永代使用料第3 墓地の管理料が収益事業とされた裁決第4 線香・ろうそく・供花等の販売第5 借入元本・無利息・債務免除を区別する第6 契約と経理を対応させるための確認資料第7 関連記事第8 出典及び確認範囲
第1 経営許可と法人税の判定を分ける

宗教法人が墓地や納骨堂を運営するときは,経営許可の要件を満たすかという問題と,それぞれの収入が法人税の対象になるかという問題を分けて確認する必要がある。
宗教法人の本来の目的に沿う事業であることだけから,その所得が法人税の対象外になるとは判断できない。

法人税法6条は,内国法人である公益法人等について,「収益事業から生じた所得以外の所得」には各事業年度の所得に対する法人税を課さないと定めている。
国税庁の法人税基本通達15-1-1も,本来の目的たる事業であっても,政令の定める収益事業に該当する事業から生じた所得には法人税が課されると説明している。
したがって,許可名義,法人の目的,収入の名称だけで結論を出さず,契約と実際に提供する役務を確認することが出発点となる。

本記事は,令和8年10月25日に確認した法令・通達・公表裁決に基づき,法人税の収益事業該当性を中心に整理する。
消費税,固定資産税,源泉徴収等はそれぞれ別の要件によるため,本記事の法人税の説明から結論を導くことはできない。

第2 墳墓地の貸付けと永代使用料

法人税法施行令5条1項5号ニは,宗教法人等が行う墳墓地の貸付けを,収益事業となる不動産貸付業から除外している。
法人税基本通達15-1-18は,この貸付けには,「いわゆる永代使用料を徴して行う墳墓地の貸付けが含まれる」としている。

ここで確認するのは,対象が墳墓地の貸付けであるかという点である。
「永代使用料」「永代供養料」という名称で徴収していても,契約の対象が土地の使用,遺骨の保管,供養,清掃等のどれなのかを分けて読む必要がある。
納骨堂の利用契約や,供養・管理を組み合わせた契約についても,名称だけで上記の墳墓地貸付けと同じ取扱いになるとはいえない。

契約書,使用規則,料金表及び請求書を並べ,誰が何を提供し,利用者がどの対価を負担するのかを整理する。
複数の給付を一括料金にしている場合も,実際の給付内容と対価の関係を調べることが必要である。

第3 墓地の管理料が収益事業とされた裁決

国税不服審判所の平成26年12月8日裁決は,宗教法人が永代使用料とは別に徴収した墓地の管理料について,収益事業である請負業に係る収入と判断した事例である。
審判所は,貸付けの対象となる個人使用区画と,共用部分の管理運営等とでは対象及び業務形態が異なり,対価も別に定められていることなどから,管理行為を墳墓地の貸付業とは別個独立の事業と認めた。

また,使用規定と申込み等の内容から,法人が管理役務を提供し,墓地使用権者がその対価として管理料を支払う関係にあると判断した。
宗教的性格や公益性があること,安定的な経営に不可欠であることなどの主張も,この事例での収益事業該当性を否定する理由とはされなかった。

この裁決は,管理料という名前の収入をすべて一律に課税するとしたものではない。
自らの契約でも同じ結論になるかを検討するには,個人使用区画と共用部分の関係,具体的な役務,対価の定め方,事業としての独立性等を確認する必要がある。
単に管理料を永代使用料へ改称しても,実際の契約と事業の内容を確認する作業に代わるものではない。

第4 線香・ろうそく・供花等の販売

法人税基本通達15-1-10⑴は,お守り,お札,おみくじ等について,売価と仕入原価との関係からみて実質が喜捨金と認められる場合の販売を,物品販売業に該当しないものとしている。
一方,宗教法人以外の者も一般の商品として販売できる性質の物を,一般の物品販売業者とおおむね同様の価格で販売する場合には,物品販売業に該当するとしている。
同通達は,線香,ろうそく,供花等をその例に挙げている。

確認資料は,商品の種類,仕入額,販売額,販売方法及び利用者への説明である。

(続きを読む...)宗教法人の墓地・納骨堂事業と法人税―使用料・管理料・物販・借入れを分ける(AI作成)

税務署の説明は書面でもらえるか―行政指導・事前通知・調査終了時の違い(AI作成)

目次

第1 書面の有無は手続ごとに判断する第2 行政指導の書面交付には国税の特則がある1 一般の行政指導と国税の行政指導2 説明自体が不要になるわけではない第3 事前通知と調査結果の説明1 事前通知は原則として電話で行う運用2 非違の内容と法的効果の書面を分ける3 更正決定等をすべきと認められない旨の通知第4 回答・判断に必要な記録をそろえる1 受け取った書面と自分の記録を分ける2 修正申告の判断と質問検査への対応を区別する第5 関連記事第6 出典及び確認範囲
第1 書面の有無は手続ごとに判断する

税務署から申告内容の確認や修正申告を求められたとき,「説明をすべて書面でもらえる」「税務署の説明はすべて口頭でよい」のどちらも正確ではない。
行政指導,実地調査の事前通知,調査結果の説明及び修正申告の勧奨では,書面に関する根拠と対象が異なる。

本記事は,令和8年10月25日に確認した国税通則法,行政手続法及び国税庁の公表資料に基づき,国税の申告内容の確認と調査に関する基本的な区別を整理する。
地方税,酒類の免許等及び査察手続は対象としない。

場面書面に関する基本的な扱い確認する内容国税の申告内容の見直しを求める行政指導行政手続法35条3項の書面交付規定は,国税通則法74条の14第2項により適用されない行政指導の趣旨・内容・責任者と,調査との区別実地調査の事前通知国税庁FAQ問12では原則として電話による口頭通知。希望すれば通知内容の書面が交付される扱いではない通知日時,開始日時,対象税目・期間等調査の結果,更正決定等をすべきと認められない場合実地調査について,国税通則法74条の11第1項が所定の相手方への書面通知を定めるその時点で更正決定等をすべきと認められない税目・期間更正決定等をすべきと認める調査結果の説明同条2項は額と理由を含む内容の説明を定める。FAQ問24では原則として口頭で説明する運用非違項目,額,理由及び質問への回答その説明に際して行う修正申告等の勧奨同条3項は申告後の不服申立てと更正の請求に関する説明及びその旨の書面交付を求める法的効果の説明と,その書面の交付
第2 行政指導の書面交付には国税の特則がある
1 一般の行政指導と国税の行政指導

行政手続法35条3項は,口頭の行政指導について,相手方が同条1項・2項の事項を記載した書面を求めたときは,行政上特別の支障がない限り交付しなければならないと定める。
同条4項には,その場で完了する行為を求める場合等の適用除外もある。

しかし,国税通則法74条の14第2項は,納税義務の適正な実現を図るための所定の行政指導について,行政手続法35条3項と36条を適用しないとしている。
一般の行政指導に関する書面交付の規定だけを根拠に,税務署へ書面の交付義務があると結論付けることはできない。

2 説明自体が不要になるわけではない

この特則は,行政指導の規定をすべて適用しないというものではない。
行政手続法35条1項が定める趣旨・内容・責任者の明示は,国税通則法のこの適用除外の対象ではない。
行政手続法32条の任意の協力を前提とする原則や,従わなかったことを理由とする不利益取扱いの禁止も,書面交付の適用除外とは分けて読む必要がある。

国税庁の事務運営指針第2章1も,対面・電話・書面等の方法を問わず,調査と行政指導のいずれとして行うかを明示するとしている。
連絡方法だけで区別せず,担当者がどの手続として,何を求めているかを確認する。

第3 事前通知と調査結果の説明
1 事前通知は原則として電話で行う運用

国税通則法74条の9は,所定の実地調査における質問検査等に先立つ通知を定める。
国税庁FAQ問12によれば,通知方法は法令上定められておらず,原則として電話により口頭で行う。
電話での通知が困難と認められる場合には,当局の判断で書面によることもあるが,納税者の希望に応じて通知事項の書面を交付する運用ではない。

通知を受けた側では,日時,担当者,調査の開始日時・場所,目的,対象税目・期間及び対象資料等を記録し,聞き取れなかった事項を確認するのがよい。
これは通知内容を把握するための実務上の提案であり,国税通則法65条6項の調査通知と74条の9の事前通知を同一視する趣旨ではない。

2 非違の内容と法的効果の書面を分ける

国税通則法74条の11第2項は,更正決定等をすべきと認める場合に,その額と理由を含む調査結果の内容を説明すると定める。
FAQ問24では,原則として口頭で行い,必要に応じて項目や金額を整理した参考資料を示すなどの運用が説明されている。
希望すれば調査結果の説明全文が書面化される制度ではない。

(続きを読む...)税務署の説明は書面でもらえるか―行政指導・事前通知・調査終了時の違い(AI作成)

税理士が顧客資料の提出を求められたとき―守秘義務,文書提出命令及び部分提出(AI作成)

目次

第1 まず依頼の種類と文書所持者を確認する1 相手方の要請と裁判所の手続を分ける2 顧客と税理士のどちらが所持しているか第2 守秘義務と文書提出義務を順に検討する1 税理士法38条と国税庁の解釈2 民事訴訟法197条の職種と秘密の類型第3 文書提出義務の根拠を特定する1 220条各号を一括して扱わない2 証明する事実と必要な範囲を対応させる第4 顧客の許諾と第三者の秘密を切り分ける1 許諾の対象と範囲を記録する2 顧客の利益と税理士自身の秘密を区別する第5 部分提出と秘密保護の手続を検討する1 全部提出と全部拒否の二択にしない2 イン・カメラ手続と提出後の閲覧を区別する第6 税理士と訴訟代理人が共有する確認事項1 受領時から提出までの記録2 決定への対応と役割分担第7 関連する解説と根拠資料1 関連記事2 法令と国税庁資料
第1 まず依頼の種類と文書所持者を確認する

税理士が顧客の帳簿,申告資料又は相談記録の提出を求められたときは,依頼者の秘密を守ることと,裁判所の適法な命令に対応することの双方を検討する必要がある。
「税理士の守秘義務がある」という説明だけでも,「裁判に関係する資料である」という説明だけでも,提出の可否は決まらない。

本記事は,民事訴訟で税理士が文書所持者として提出を求められる場面を対象とする。
税務調査,捜査機関の捜索・差押え及び弁護士会照会は,それぞれの根拠法と手続を別に確認する必要がある。

1 相手方の要請と裁判所の手続を分ける

相手方本人又は代理人弁護士からの任意の提出要請,裁判所による文書送付嘱託,文書提出命令の申立て及び提出を命ずる決定は,別のものである。
申立書が届いた段階で,提出を命ずる決定が出たと扱ってはならない。

受付時には,差出人,事件番号,裁判所,書面の名称,提出を求められた文書,対象期間,回答又は不服申立てに関する期限を確認する。
書面の添付資料を含めて保存し,電話での説明だけで対象を広げない。

2 顧客と税理士のどちらが所持しているか

顧客が自ら保管する帳簿と,税理士が保管する相談記録や受領資料は,所持者が異なる。
原本,写し及び電子データの所在を確認し,顧客が訴訟で述べたことと,税理士に提出義務が生じることを分けて検討する。

例えば,民事訴訟法220条1号は,当事者が訴訟で引用し,自ら所持する文書を対象とする。
顧客が資料の内容を引用したという事情だけで,第三者である税理士の所持文書について,同号の提出義務が当然に成立するわけではない。

第2 守秘義務と文書提出義務を順に検討する
1 税理士法38条と国税庁の解釈

税理士法38条は,正当な理由なく,税理士業務に関して知り得た秘密を他に漏らし,又は窃用することを禁じている。
税理士でなくなった後も同様である。

国税庁の税理士法基本通達38-1は,この「正当な理由」を,本人の許諾又は法令に基づく義務があることと説明している。
これは国税庁が示す法令解釈であり,個々の資料について文書提出義務があるかを判断する条文に代わるものではない。

したがって,まず民事訴訟法に基づく提出義務と提出範囲を検討し,その結論と守秘義務の関係を確認する。
裁判所から書面が届いたというだけで,関連する顧客資料一式を任意に開示する扱いにはしない。

2 民事訴訟法197条の職種と秘密の類型

民事訴訟法197条1項2号は,医師,弁護士等の列挙された職種について,職務上知り得た黙秘すべき事実に関する証言拒絶を定めている。
税理士は,同号の職種として列挙されていない。

他方,同項3号は,技術又は職業の秘密に関する事項について証言拒絶を定めている。
税理士が所持する資料についても,この類型に該当する具体的な秘密があるかを検討する必要がある。
税理士法上の秘密であることと,民事訴訟法上の提出拒否の要件を満たすことを,同一視しないことが大切である。

(続きを読む...)税理士が顧客資料の提出を求められたとき―守秘義務,文書提出命令及び部分提出(AI作成)

役員報酬と不動産所得の損益通算―赤字を差し引ける条件と確定申告(AI作成)

目次

第1 役員報酬と不動産所得の赤字は損益通算できるか第2 役員報酬の収入と給与所得,不動産所得を分ける1 役員報酬は給与所得として確認する2 不動産所得は家賃収入から必要経費を差し引く第3 損益通算できない損失・部分1 土地等を取得するための借入金利子2 別荘等,組合・信託,国外中古建物3 物件を売った損失は別の制度である第4 土地取得の借入利子がある場合の計算例第5 節税額だけで不動産投資の有利・不利を決めない1 減価償却と毎月の資金繰りは別の数字である2 会社の物件と役員個人の物件を混同しない第6 確定申告前に確認する資料第7 よくある質問1 役員報酬は損益通算できるか2 不動産所得で損益通算できないものは何か3 不動産所得と給与所得の損益は通算できるか4 損益通算をしない方が有利な場合はあるか第8 出典・関連記事1 法令・国税庁資料2 関連記事
第1 役員報酬と不動産所得の赤字は損益通算できるか

日本の居住者である個人が役員報酬を受け,その個人が所有する賃貸不動産について不動産所得の赤字が生じた場合は,原則として給与所得との損益通算ができる。
ただし,土地等の取得に係る借入金利子に相当する部分など,通算できない損失がある。
役員報酬の収入額から賃貸経営の赤字をそのまま差し引く計算ではない。

本記事は,令和8年10月25日に確認した法令と国税庁資料に基づき,国内の賃貸不動産を個人で保有する居住者を中心に説明する。
非居住者,法人の不動産,売却による損失は,同じ結論になるとは限らないため区別する。

確認すること判断の入口役員報酬を受ける人と物件の所有者同じ個人か,会社の物件かを確認する不動産から生じた損失の種類賃貸による不動産所得の赤字か,売却による損失かを分ける通算できない部分土地取得の借入利子,別荘等,組合・国外中古建物の特例を確認する税負担と手元資金所得の計算,税額の計算,実際の入出金を別々に確認する

所得税法69条1項は,不動産所得等の損失について「政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する」と定める。
実際の控除の順序は同法施行令198条により,不動産所得の損失はまず給与所得等の経常所得から控除する。
各種の制限を確認した上で適用する制度である。

第2 役員報酬の収入と給与所得,不動産所得を分ける
1 役員報酬は給与所得として確認する

国税庁No.2508「給与所得となるもの」は,使用人だけでなく役員に支払う給料等も給与所得の対象とする。
給与所得は,原則として給与の収入金額から給与所得控除等を反映して計算する。
源泉徴収票の「支払金額」,給与所得の金額,手取り額は同じではない。

基本的な計算の流れは,所得税とは―税率・計算方法・所得控除・住民税との違いも参照されたい。
本記事の計算例では,給与収入から給与所得を求める計算と,不動産所得の赤字を通算する計算を分ける。

2 不動産所得は家賃収入から必要経費を差し引く

不動産所得は,土地・建物等の貸付けから生じる所得であり,その年の総収入金額から必要経費を差し引いて計算する。
国税庁No.1370は,貸付資産に係る固定資産税,損害保険料,減価償却費,修繕費等を必要経費の例として挙げている。
私的な支出まで含めてよいわけではなく,業務との関係を確認する必要がある。

借入金については,返済予定表の元本と利息を分ける。
元本の返済をそのまま不動産所得の必要経費にすることはできない。
建物の取得費用は,減価償却等のルールに従って必要経費へ反映する。
土地自体は減価償却資産ではない。

第3 損益通算できない損失・部分
1 土地等を取得するための借入金利子

土地等を取得するために要した借入金の利子は,不動産所得の必要経費に算入できる場合でも,不動産所得が赤字になったときには,その利子に相当する部分を給与所得等と通算できない。
必要経費への算入と,他の所得との損益通算は別の段階である。

(続きを読む...)役員報酬と不動産所得の損益通算―赤字を差し引ける条件と確定申告(AI作成)

ドッグランで犬にぶつかられて転倒したときの損害賠償―飼主の責任・過失割合と裁判例(AI作成)

目次

第1 飼主の責任は何によって決まるか1 民法718条の動物占有者責任2 事故の発生と免責の判断を分ける第2 ドッグランでも犬の管理が必要である1 リードを外せることと管理責任は別である2 危険な動きを見た後の対応が問題になる第3 裁判例が重視した具体的な事情1 大阪高裁令和7年6月18日判決2 神戸地裁平成28年12月26日判決3 2割という数字を相場にしない第4 けがとの因果関係と後遺障害を確認する1 事故から診断までの時間だけで決めない2 傷病名と残った機能障害を分ける第5 事故後に整理する資料第6 よくある質問1 ドッグランだから自己責任なのか2 犬にかまれていなくても請求を検討できるか3 過失割合は被害者2割で決まるか4 後から肩の損傷が分かった場合はどう整理するか第7 出典・参考資料
第1 飼主の責任は何によって決まるか

ドッグランで他人の犬にぶつかられ,転倒してけがをした場合,飼主に損害賠償を請求できるかは,犬の管理状況,事故前後の具体的な行動,けがとの因果関係などによって判断される。
リードを外して遊ばせる施設であることだけで,飼主の管理責任がなくなるわけではない。

他方,事故が起きたというだけで飼主がすべての損害を負担するとも限らない。
ここでは,ドッグラン内で犬が人に直接衝突した事故を扱い,裁判所がどの事情を確認したかを整理する。
犬を避けて転倒した非接触事故は,犬を避けて転倒した事故の損害賠償――飼主・散歩者・自転車運転者の責任と証拠で説明している。

1 民法718条の動物占有者責任

民法718条1項は,動物の占有者について,その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を定めている。
ただし,動物の種類及び性質に従い,相当の注意をもって管理をしたときは免責される。
同条2項は,占有者に代わって動物を管理する者にも責任を定めている。

したがって,犬の登録上の所有者だけを確認して終わらせず,事故当時,誰が犬を連れてきて,どのように管理していたかを確かめる必要がある。
請求の検討では,管理者,犬の行動,接触・転倒の経過,受傷及び損害を順に整理する。

2 事故の発生と免責の判断を分ける

大阪高裁令和7年6月18日判決(令和7年(ネ)第351号)は,占有者が犬の種類・性質に従って相当の注意をもって管理したことを主張・立証すれば免責されるという枠組みを示している。
その注意は通常払うべき程度のものであり,異常事態に対処し得る程度の注意義務まで課すものではないとしている。

もっとも,通常どのような注意が必要かは,犬の体格,興奮の程度,他の犬や人との位置関係,事故前の危険な動き,飼主がそれを認識していたかなど,具体的な状況によって判断される。

第2 ドッグランでも犬の管理が必要である
1 リードを外せることと管理責任は別である

大阪高裁判決は,ドッグランをリードを外して自由に走らせることのできる施設としつつ,飼主の適切な管理下にある犬の利用が想定されているとして,施設の性格から通常払うべき注意義務が軽減されるものではないと判断した。

この判断は,ドッグランでは常にリードを付けなければならないという意味ではない。
犬の動きを見守るだけで足りる状況か,呼び戻し,リードを付ける,一時的に退場させるなどの対応を必要とする状況かを,事故前の経過から検討するということである。

2 危険な動きを見た後の対応が問題になる

犬が人に衝突しそうになる場面が事故前にあった場合,その後も追い掛けっこを続けていたか,飼主は見ていたか,制止する行動を取ったかが重要になる。
単に「温厚な犬だった」「普段は命令に従う」と説明するだけでは,事故当時の管理状況は明らかにならない。

第3 裁判例が重視した具体的な事情
1 大阪高裁令和7年6月18日判決

この事案では,体重約28キログラムの犬がドッグラン内で他の犬を追い掛け,人に衝突して転倒させた。
裁判所は,事故前にも衝突しそうになった場面を飼主が見ていたことや,犬が遊びに夢中になっていた状況を検討している。

その上で,リードを付ける,一時的に退場させる,犬のところへ駆け付ける,口頭で制止を試みるといった行動がうかがわれないなどとして,飼主が通常払うべき注意を尽くしたとは認めなかった。

(続きを読む...)ドッグランで犬にぶつかられて転倒したときの損害賠償―飼主の責任・過失割合と裁判例(AI作成)

能動的サイバー防御は企業の要請で発動するのか―GMOの公表事案と政府の判断を分けて読む(AI作成)

目次

第1 GMOインターネットは何を公表したか1 発表主体と対象サービス2 企業による要請と政府の決定第2 企業の要請だけで措置が決まるわけではない理由1 警察のアクセス・無害化措置2 自衛隊の通信防護措置3 被害企業自身の措置との違い第3 対象企業と施行時期の読み方1 届出・報告義務の対象は別に確認する2 全制度が同時に施行されたわけではない第4 企業・顧問弁護士が公表を読む際の確認事項第5 よくある質問1 GMOの要請は政府による発動の発表なのか2 被害企業が要請すれば必ず無害化されるのか

企業が政府に能動的サイバー防御を求めた場合,その公表だけで,国が攻撃元のサーバーに対する措置を決定したことになるわけではない。
企業が何を公表したか,法律がどの機関にどのような権限を与えているか,実際に何が決まったかを分けて確認する必要がある。

本記事は,令和8年10月24日11時50分時点のGMOインターネット株式会社の公式発表と政府資料に基づき,この区別を整理する。
政府の個別対応については,確認できた範囲を超えて断定しない。

第1 GMOインターネットは何を公表したか
1 発表主体と対象サービス

GMOインターネット株式会社(証券コード4784)は,「お名前.com デスクトップクラウドサービス」に対するサイバー攻撃について第4報を公表した。
同社は,不正アクセスと顧客情報の外部持出しを確認し,一部の利用者から取引口座の身に覚えのない取引に関する報告を受けたと説明している。
これらは同社の調査・報告内容であり,本記事で被害の全容や個々の取引との因果関係を独立して認定したものではない。

公式発表:https://internet.gmo/news/article/249/

2 企業による要請と政府の決定

同社は,警察や所管官庁への初報,捜査への協力,影響を受けたシステムのネットワーク接続停止等を説明している。
末尾の政府への具申に関する記載では,本件を能動的サイバー防御の「発動第1号」の事案と位置付け,政府関係機関に緊急要請したとしている。

ここで確認できるのは,企業がそのように位置付けて要請を公表したことである。
「発動第1号」は企業側の表現であって,政府が同事案について初めての措置を決定・実施したことを示す政府発表ではない。

要請文書の原文,具体的な宛先,政府の受理・審査状況,措置の決定・実施については,本記事で確認した公表資料からは確定できない。
政府が実施したとも,実施を拒否したとも断定できない。

熊谷正寿氏は,令和8年10月25日付ブログ(同月26日の追記を含む。)で,政府に対する働きかけについて,現行制度の対象範囲等を踏まえつつ,サイバー攻撃に対して国全体で対応するための制度・運用を求める趣旨を説明している。同氏の政策上の要望と,政府による個別の措置の決定・実施は,引き続き区別して読む必要がある。

このブログは企業の代表者による発信であり,政府の判断を示す文書ではない。対象事業者等への該当性も,企業側の説明だけで法的に確定したとは扱わず,関係法令と指定等の資料によって別に確認する。

出典:熊谷正寿氏の令和8年10月25日付ブログ。

第2 企業の要請だけで措置が決まるわけではない理由
1 警察のアクセス・無害化措置

整備法によって新設された警察官職務執行法6条の2は,警察庁長官が指名するサイバー危害防止措置執行官の権限を定めている。
同条2項は,加害関係の通信や記録等を認め,放置すれば人の生命・身体・財産に重大な危害が発生するおそれがあるため緊急の必要がある場合を対象とする。
被害企業が要請したという事実だけで,これらの要件を満たすとは判断できない。

同条4項では,サイバー通信情報監理委員会の事前承認を原則とし,承認を得るいとまがないと認める特段の事由がある場合の例外も定めている。
対象計算機が国内に設置されていると認める相当な理由がない場合の主体・協議等にも別の規定があり,要請の有無だけで処理が完結する制度ではない。

条文の確認先(令和7年法律第43号2条による改正部分):https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/21720250523043.htm

2 自衛隊の通信防護措置

(続きを読む...)能動的サイバー防御は企業の要請で発動するのか―GMOの公表事案と政府の判断を分けて読む(AI作成)

英会話教室の中途解約と返金―受講済み授業料の単価と解約料の上限(AI作成)

目次

第1 中途解約では何を差し引けるのか1 受講済みの授業料と解約料を分ける2 中途解約とクーリング・オフは扱いが違う第2 すべての英語学習サービスが同じ扱いになるのか第3 解約したときだけ単価を上げてよいのか1 最高裁が扱ったポイント制の授業契約2 契約時の単価と別の高額な精算単価第4 返金額の計算例1 契約残額の20%が5万円を下回る場合2 5万円の上限が働く場合第5 返金を求める前に残しておく資料第6 教室が倒産した場合は返金の計算と回収を分ける
第1 中途解約では何を差し引けるのか

英会話教室の授業料をまとめて前払いした後,途中で通うのをやめた場合,返金額は「未受講の回数」だけでは決まらない。
契約時の単価,受講済みの回数,解約料の約定,特定商取引法の適用を分けて確認する必要がある。

本記事では,消費者庁の特定商取引法ガイドと,最高裁の外国語会話教室の受講料清算事件を基に,受講開始後の中途解約を中心に説明する。

以下は,特定継続的役務提供契約(特定商取引法41条1項1号)の授業料を全額前払いし,同法50条の適用除外に当たらない場合を中心とする説明である。

1 受講済みの授業料と解約料を分ける

特定商取引法の対象となる語学教室では,クーリング・オフ期間の経過後でも,将来に向かって契約を中途解約できる。
受講開始後に事業者が請求できる額には制限がある。
同法49条2項1号は「提供された特定継続的役務の対価に相当する額」と,解除によって通常生ずる損害の額を分けている。

語学教室の解約によって通常生ずる損害の上限は,5万円と契約残額の20%を比べた低い方である。
ここでいう契約残額は,契約に関する役務の対価総額から,既に提供された役務の対価相当額を差し引いた額である。
契約時に解約料や違約金を約束していても,この法定の制限を超える額を請求できるわけではない。
なお,同法49条2項には法定利率による遅延損害金の加算も定められており,後掲の計算例ではこれを含めていない。

この上限額が,事業者に当然に発生する定額の解約料という意味ではない。
実際の精算では,約定の有無・内容,入学金等の扱い,関連商品の有無も確認する。

2 中途解約とクーリング・オフは扱いが違う

クーリング・オフは,法定の契約書面を受け取ってから一定期間内に行う解除であり,受講開始後の中途解約と同じ計算をする制度ではない。
本記事の計算例を,そのままクーリング・オフの精算へ使うことはできない。

消費者庁の説明:
https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/continuousservices/

第2 すべての英語学習サービスが同じ扱いになるのか

特定継続的役務提供として規制される語学教室は,語学の教授を内容とし,契約期間が2か月を超え,契約金の総額が5万円を超えるものが基本となる。
語学を教える契約であっても,入学試験の準備や学校教育の補習に当たる場合には,語学教室としての指定との区別が必要である。
また,営業のために締結する契約など,適用除外もある。
同法50条2項は,特定継続的役務等の割賦販売について,49条2項等の請求額の制限を適用しないと定めている。
これは中途解約権そのものの有無とは別の問題であり,分割払い等を利用している場合は,契約内容と支払方法を示す資料をそろえて,適用される規定を別に確認する。

対面かオンラインかだけで対象の内外は決まらない。
消費者庁は,インターネット等を用いて役務を提供する場合も広く含まれると説明している。
一方,録画教材の購入,短期間の講座,法人の研修契約などを,名称だけで同じ規制の対象と決めることはできない。

(続きを読む...)英会話教室の中途解約と返金―受講済み授業料の単価と解約料の上限(AI作成)

ARTEXとは―AIサイバー攻撃の仕組みと企業が確認すべき対策(AI作成)

目次

第1 ARTEXについて最初に押さえること第2 AIモデル・攻撃ツール・攻撃者を分ける1 AIモデルは判断や文章生成を担う2 ARTEXは複数の処理を組み合わせる基盤である3 使用ツールだけでは攻撃者を特定できない第3 韓国・国内・ConnectWiseの報告は何が違うか1 CrowdStrikeによる韓国金融分野の調査2 JPCERT/CCによる国内向けの注意喚起3 MicrosoftによるStorm-0940の調査第4 企業が点検すべきこと1 公開システムと権限を点検する2 ログと初動の担当を決める3 IPアドレスだけで断定しない第5 被害調査と責任の問題を混同しない第6 出典・関連記事
第1 ARTEXについて最初に押さえること

ARTEXは,AIを利用するペネトレーションテストのための基盤であり,特定のAIモデルそのものの名称ではない。
ペネトレーションテストとは,実際の攻撃に近い方法でシステムへの侵入の可能性などを調べる試験である。

Microsoft及びCrowdStrikeは,令和8年10月,ARTEXを悪用した攻撃について調査結果を公表した。
JPCERT/CCも同月23日の注意喚起の更新で,ARTEXなどを悪用した攻撃試行を取り上げている。

企業にとっての問題は,「中国のAIだから危険」という分類だけでは捉えられない。
公開システムの脆弱性,管理不備,外部サービスに与えた権限などを,攻撃者がAIを使って効率よく探索・悪用し得る点にある。
本稿は,令和8年10月24日までに確認した公表資料を基に,仕組みと対策を整理する。

第2 AIモデル・攻撃ツール・攻撃者を分ける
1 AIモデルは判断や文章生成を担う

AIモデルは,入力された情報を基に解析や次の行動の提案などを行う。
どのモデルを使用したかと,どの組織が攻撃したかは,別々の確認事項である。

2 ARTEXは複数の処理を組み合わせる基盤である

Microsoftの説明によれば,ARTEXは,複数のAIエージェントを用いる基盤である。
AIモデルを呼び出すだけでなく,調査や試行の処理を組み合わせて進める。
使用するモデルを変更できるため,ARTEXの悪用を特定のモデル1製品の問題に限定することはできない。

CrowdStrikeが調査した韓国向けの活動では,ARTEXの主なモデルとしてDeepSeekが使われていたと報告されている。
同報告に登場する別のモデルの利用記録まで,すべて同一のARTEX設定だったと読むべきではない。

3 使用ツールだけでは攻撃者を特定できない

同じツールを異なる攻撃者が利用することがある。
「ARTEXが見つかった」という事実だけから,国,組織,動機又は他の事件との同一性まで確定することはできない。
攻撃者の帰属に関する評価には,観測資料と評価の確度を付けて読む必要がある。

第3 韓国・国内・ConnectWiseの報告は何が違うか
1 CrowdStrikeによる韓国金融分野の調査

CrowdStrikeの令和8年10月7日付け報告は,韓国の金融分野を狙う活動について,公開状態にあった攻撃側の記録などを分析したものである。
同社は,中国語を使用し,金銭目的とみられる攻撃者との評価を示しているが,その確度は中程度とされている。
確定した捜査結果又は裁判所の認定として紹介することは適切でない。

2 JPCERT/CCによる国内向けの注意喚起

JPCERT/CCは,令和8年10月23日,注意喚起にケースEを追加した。

(続きを読む...)ARTEXとは―AIサイバー攻撃の仕組みと企業が確認すべき対策(AI作成)

Microsoft 365の外部アプリ権限と情報漏えい―ConnectWise事案から学ぶ点検事項(AI作成)

目次

第1 MFAを設定していても確認すべき経路第2 利用者の権限とアプリの権限はどう違うか1 利用者に代わるアクセスとアプリ自身のアクセス2 アプリの資格情報には証明書やシークレットがある第3 ConnectWiseに関する報告で確認できること1 既存の信頼関係が悪用されたとの報告2 認証成功とデータ取得は別の事実である第4 管理担当者に確認したいこと1 外部アプリの台帳2 利用者ログだけで調査を終えない3 条件付きアクセスの適用範囲第5 疑わしいアクセスが見つかったとき1 封じ込めと証拠保全を並行する2 事業者への質問を具体化する3 法務は事実の整理を技術担当と共有する第6 出典・関連記事
第1 MFAを設定していても確認すべき経路

Microsoft 365の不正アクセス対策では,利用者のパスワードや多要素認証(MFA)に注目しがちである。
しかし,バックアップなどの外部サービスが,利用者の操作を介さずに組織のデータへアクセスする構成もある。
利用者のログイン経路と,アプリが自身の資格情報でアクセスする経路を,分けて点検する必要がある。

Microsoftは,令和8年10月21日の調査報告で,ConnectWiseに関係するアプリケーション資格情報を悪用し,既にアクセスを許可していた顧客環境へアクセスする活動を報告した。
本稿は,同月24日までに確認した報告と公式仕様を基に,外部アプリの権限,証拠保全及び委託管理上の点検事項を整理する。
個々の企業の被害や責任を認定するものではない。

第2 利用者の権限とアプリの権限はどう違うか
1 利用者に代わるアクセスとアプリ自身のアクセス

Microsoftの公式説明は,利用者に代わって行う委任アクセスと,利用者の対話的な操作を介さず,アプリ自身のIDで行うapp-onlyアクセスを区別している。
後者は,自動処理や複数の利用者の情報を扱うバックアップなどに使われる。

アプリにどの操作を許すかは,付与されたアプリケーション権限などによって決まる。
外部サービスと契約していることだけでなく,自社環境で何を許可したかを確認しなければならない。

2 アプリの資格情報には証明書やシークレットがある

サービスプリンシパルとは,組織の環境内でアプリなどの主体を表すものである。
そのサインインでは,アプリが証明書やクライアントシークレットなどの資格情報を用いる場合がある。
利用者がその都度パスワードを入力する処理とは異なる。

したがって,利用者のパスワード変更やMFAの設定確認だけで,アプリ側の資格情報や既存の権限まで点検したことにはならない。
MFAを継続しながら,アプリのID,所有者,資格情報,付与権限及び利用状況も調べることが必要である。

第3 ConnectWiseに関する報告で確認できること
1 既存の信頼関係が悪用されたとの報告

Microsoftは,Storm-0940と呼ぶ攻撃者がARTEXを用い,侵害したアプリケーションの資格情報を通じて顧客環境へアクセスしたと評価している。
報告が説明するのは,利用者の対話型ログインを必要としない経路である。
「AIがあらゆるMFAを破った」と言い換えることは適切でない。

ConnectWiseもCloud Backup(旧SkyKick)に関連するアプリケーション資格情報への不正アクセスを公表し,調査及び復旧に関する情報を更新している。
別の製品やポータルについての復旧告知を,Cloud Backupの復旧完了と読み替えないよう注意が必要である。

2 認証成功とデータ取得は別の事実である

Microsoftは,影響するアプリの存在や攻撃者による認証成功だけで,顧客データへのアクセス又は外部への持ち出しがあったとは限らないと説明している。
これは,被害がないと確認したという意味でもない。

(続きを読む...)Microsoft 365の外部アプリ権限と情報漏えい―ConnectWise事案から学ぶ点検事項(AI作成)

電子公告がサイト停止で中断したら―PHP脆弱性対応,救済要件と決算公告の違い(AI作成)

目次

第1 サイト停止は電子公告にどう影響するか1 短時間の中断でも確認が必要となる2 サイト全体の停止と公告情報の閲覧不能を分ける第2 公告期間と電子公告調査1 すべての公告が1か月ではない2 決算公告は調査義務の例外である第3 中断が公告の効力に影響しないための要件1 善意・無重過失又は正当な事由2 中断時間の合計が公告期間の10分の1以下3 知った後速やかに当該公告へ付記する第4 PHPの脆弱性対応は正当な事由となるか1 立法時にはメンテナンスが想定されていた2 緊急性,停止範囲,時間及び従前の管理を確認する3 会社の付記は適法性の公的認定ではない第5 決算公告と440条3項の電磁的開示を分ける1 同じウェブ掲載でも法的な構成が異なる2 中断救済の当然適用を前提にしない第6 合併・減資と保守運用で注意すること1 電子公告を選んでも官報が不要になるとは限らない2 公告ごとの記録と保守担当者の役割を決める第7 出典
第1 サイト停止は電子公告にどう影響するか
1 短時間の中断でも確認が必要となる

電子公告を掲載しているウェブサイトをPHPの脆弱性対応や保守のために停止すると,会社法上の公告の中断に当たることがある。
もっとも,中断があっただけで公告の効力が当然に失われるわけではない。
会社法940条3項は,一定の要件をすべて満たす中断について,公告の効力に影響を及ぼさないと定めている。

重要なのは,停止の理由だけでなく,中断時間の合計と,中断を知った後の付記公告まで確認することである。
本稿は令和8年10月24日を基準として,国内会社の会社法上の電子公告を対象に説明する。
特定の会社の公告が有効かどうかを認定するものではない。

2 サイト全体の停止と公告情報の閲覧不能を分ける

940条3項は,情報が不特定多数の者へ提供可能な状態から外れた場合だけでなく,掲載後に情報が改変された場合も中断に含めている。
そのため,トップページの表示やサーバーの応答だけでは判断できない。
公告ページ,公告PDF及びそこへ到達する経路を,外部から実際に利用できるか確認する必要がある。

例えば,動的なサービスだけを止め,公告を同じ適切な経路で継続して閲覧できる場合と,公告PDFへのアクセスもできなくなる場合では,検討すべき事実が異なる。
メンテナンス中という案内だけを表示しても,公告内容の提供を続けたことにはならない。

なお,官報の電子化と,会社が公告方法として電子公告を選択することは別の制度である。
官報の仕組みについては,官報とは何か――電子化,法令公布・公告,閲覧方法及び沿革を参照されたい。

第2 公告期間と電子公告調査
1 すべての公告が1か月ではない

会社法939条は,定款で選べる公告方法として,官報,時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙及び電子公告を定めている。
公告方法の定めがない会社は,官報によることになる。
株式会社が電子公告を選択する場合には,911条3項27号・28号等に基づき,公告方法や情報提供に必要な事項等の登記も確認する。

電子公告の継続期間は,940条1項の区分によって異なる。
次の表の期間を,実際の公告の根拠条文と対応させる必要がある。

公告の区分継続して公告する終期特定の日の一定期間前にしなければならない公告当該特定の日440条1項の決算公告定時株主総会終結の日後5年を経過する日公告に定める期間内に異議を述べることができる旨の公告当該期間を経過する日これら以外の公告公告開始後1か月を経過する日
2 決算公告は調査義務の例外である

941条は,原則として,法務大臣の登録を受けた調査機関に,公告期間中の電子公告調査を求めるよう定めている。
調査を担当するのは登録調査機関であり,法務局へ調査を依頼するという仕組みではない。

ただし,440条1項の決算公告は,同条の調査義務から明文で除外されている。
調査義務がないことと,継続して公告する義務がないことは別である。

(続きを読む...)電子公告がサイト停止で中断したら―PHP脆弱性対応,救済要件と決算公告の違い(AI作成)

検収してもらえないと代金は請求できないのか―納品,検査,みなし検収と支払期限(AI作成)

目次

第1 納品,検査,検収と支払条件を分ける第2 検収しない理由を具体化する第3 取適法の対象取引では,検査と支払期日を別に確認する1 納期前の品質確認の扱い2 請求書が未提出の場合第4 みなし検収条項は,成立条件と効果を読む第5 請求前に,資料と連絡経過を整理する第6 関連記事第7 出典・参考資料
第1 納品,検査,検収と支払条件を分ける

納品したのに「まだ検収が終わっていない」と言われ,代金が支払われない。
制作やシステム開発などの取引では,合意した仕事の内容,納品・受領の状況,検収の手続及び支払期日を分けて確認する必要がある。

特に,取適法の対象となる情報成果物作成委託では,検査未了という理由だけで支払をいつまでも先延ばしにできるわけではない。
以下では,公正取引委員会の説明を踏まえ,支払が止まった場合にそろえたい資料と確認の順序を整理する。

契約書,発注書,見積書及び仕様書を並べ,次の事項を確認する。

確認事項確認する内容約束した仕事何を作成し,どこまで対応する契約か納品何を,いつ,どの方法で提出する約束か検査・検収誰が,何を基準に,いつまでに確認するか支払金額,期日及び検収との関係をどう定めているか

「納品後に検査する」「検収完了後に支払う」「検収方法は別途協議する」では,確認すべき点が異なる。
基本契約と個別の発注書がある場合には,両方を読み,異なる定めがある場合の優先関係も確認する。

ファイルを送信した事実と,約束した仕事の完成についての説明は分けて整理する。
送付メールに加え,合意した仕様と納品物のどの部分が対応するのかを示せるようにする。

第2 検収しない理由を具体化する

検収が進まない理由を,例えば次のように整理すると,次に確認する事項が明確になる。

相手方の説明確認したいこと合意した機能が動かない対象機能,対応する仕様,発生条件及び修正内容機能を追加してほしい当初の合意に含まれるか,追加の見積り・承認があるか社内承認が終わらない確認担当者,止まっている手続,回答予定日及び支払予定日

これは問題を整理するための分類であり,請求の可否を自動的に決める基準ではない。
「使いにくい」「まだ完成していない」という指摘については,問題箇所と合意仕様との関係を具体化してもらう。
受託者側も,すべての指摘を追加作業と決めつけず,変更前後の資料と照合する。

第3 取適法の対象取引では,検査と支払期日を別に確認する

取適法の適用対象となる情報成果物作成委託について,公取委のQ86は,検査の有無にかかわらず,受領後60日以内に定めた支払期日までに支払う必要があると説明している。
検査未了だけを理由に,その先へ支払を延ばせるという説明ではない。
公取委「よくある質問コーナー(取適法)」Q86

「60日以内」は,既に定めた支払期日を60日目まで自由に延ばせるという意味でもない。
受領日と定めた支払期日を対応させて確認する。

この説明を,すべての売買や業務委託へ一律に当てはめない。
取引内容,当事者の規模及び発注時点などから適用対象かを先に確認する。
また,給付が委託内容と異なること等を理由とする返品の扱いはQ76に別の説明があるため,実際に返品等がある場合にはその事情も確認する。
公取委「よくある質問コーナー(取適法)」Q76

1 納期前の品質確認の扱い

Q87は,一定の事前合意の下で,納期前に成果物を一時的に提出してもらい,一定の水準を満たすか確認する場合の取扱いを説明している。

(続きを読む...)検収してもらえないと代金は請求できないのか―納品,検査,みなし検収と支払期限(AI作成)

取締役会の書面決議のひな形―会社法370条の提案書・同意書・監査役確認書・議事録(AI作成)

目次

第1 取締役会の書面決議でそろえる書類1 会社法370条による決議省略2 株主総会の書面決議と分ける第2 ひな形を使う前の成立要件の確認1 定款に決議省略の定めがあるか2 議決に加わることができる取締役全員の同意3 監査役の異議の有無と機関設計第3 提案書・取締役同意書のひな形1 提案書兼同意書の例2 名義人ごとに作る同意書の例3 電子メールによる同意の例第4 監査役の異議不存在確認書のひな形1 監査役ごとに作成する例2 確認書があっても実際の異議を無視しない第5 取締役会議事録のひな形1 法定の4事項2 みなし決議の議事録の例3 署名・押印と登記の添付書面第6 日付・到達記録・契約書案の版を対応させる1 提案日,同意日,みなし決議日を分ける2 承認対象の契約書案と別紙を固定する3 同じ日に株主総会の書面決議も行う場合第7 保存とよくある質問1 同意書と議事録は何年間保存するか2 監査役確認書は必ず別ファイルにするか3 提案内容を変えたら同意を取り直すか4 報告事項も会社法370条で省略できるか第8 出典1 会社法2 会社法施行規則3 書式例の位置付け
第1 取締役会の書面決議でそろえる書類
1 会社法370条による決議省略

取締役会の書面決議は,実際に会議を開催せず,会社法370条と定款に基づいて,提案を可決する取締役会決議があったものとみなす手続である。
「みなし決議」とも呼ばれる。
以下では,令和8年10月24日時点の会社法及び会社法施行規則に基づき,一般的な取締役会設置会社で用いる書式例と確認順序を説明する。

法定の固定様式はなく,提案書と同意書を一体にすることも,別々に作ることもできる。
ただし,書類を一体化しても,必要な同意,監査役の異議の有無の確認及び議事録の作成が省略されるわけではない。

書類・記録用意する内容一体化・別紙化の考え方提案書提案者,議案,決議内容,回答先,添付資料取締役の同意欄を末尾に置いてよい。取締役の同意記録議決に加わることができる取締役全員の書面又は電磁的記録による同意1通への連署,名義人ごとの同意書,電子メール等を選べる。監査役の異議不存在を確認する記録法律上の監査役設置会社では,各監査役が異議を述べていないこと独立した確認書は実務上の選択肢であり,必須の法定様式ではない。取締役会議事録会社法施行規則101条4項1号の4事項同意書の回収で終わらせず,みなし決議に対応する議事録を作る。
2 株主総会の書面決議と分ける

株主総会の決議省略は会社法319条による別の手続である。
株主全員の同意を得ても,それだけで会社法370条の取締役の同意に代えることはできない。
同じ人物が取締役と株主の双方を兼ねていても,どの資格で,どの提案に同意するのかを区別する。

株主総会側の提案書・同意書・議事録は,株主総会の書面決議のひな形―会社法319条の提案書・同意書・議事録と登記に掲載している。

第2 ひな形を使う前の成立要件の確認
1 定款に決議省略の定めがあるか

会社法370条による取締役会の決議省略には,その旨の定款の定めが必要である。
株主総会の会社法319条と異なり,定款の確認を飛ばして全員の同意だけを集めない。
現行定款の条文と条番号を確認し,提案書に引用する。

定款の定めがなければ,書面に全員が署名したことだけをもって会社法370条の決議が成立したとは扱えない。
適切な取締役会の開催又は定款変更を含め,採用できる手続を検討する。

2 議決に加わることができる取締役全員の同意

同意が必要なのは,提案事項について議決に加わることができる取締役の全員である。
通常の取締役会の多数決と違い,過半数の賛成では足りない。
口頭や電話での賛成だけでも足りず,書面又は電磁的記録により同意を得る。

特別の利害関係を有する取締役は議決に加わることができない(会社法369条2項)。
対象議案ごとに議決参加資格を判断し,除外した者と理由を記録する。
単に不在である,返信がない,反対しそうであるといった事情で同意対象から外すことはできない。
複数議案では,議案ごとに対象者が異なる場合にも注意する。

3 監査役の異議の有無と機関設計

(続きを読む...)取締役会の書面決議のひな形―会社法370条の提案書・同意書・監査役確認書・議事録(AI作成)

会社売却後も親会社のシステムを使えるか―移行サービス契約と事業継続(AI作成)

目次

第1 株式を取得しても業務環境がそろうとは限らない1 移行サービス契約で暫定的な支援を定める2 売主との合意だけで外部の利用権は増えない第2 サービスを業務単位で具体化する1 「従来どおり」の中身を一覧にする2 品質・費用・変更を扱う3 事業譲渡では利用権限とデータの切分けも確認する第3 期間・延長・移行完了の条件を決める1 サービスごとに終了時期を設ける2 遅延した場合の延長を当然視しない3 終了計画をPMIの工程表に接続する第4 データ・秘密保持・責任分担を整える第5 参考資料
第1 株式を取得しても業務環境がそろうとは限らない

対象会社が売主グループのシステム,経理,人事,調達等を利用している場合,会社を売却した日から同じ環境を使い続けられるかが問題になる。
株式譲渡が完了しても,売主や外部ベンダーに継続提供を求める権利まで当然に取得するわけではない。
実行日から業務を止めないためには,必要な機能と利用権限を調べ,移行が完了するまでの対応を決める必要がある。

1 移行サービス契約で暫定的な支援を定める

移行サービス契約は,TSAと呼ばれ,売却後の移行期間中に提供するサービスの内容・対価・期間等を定める契約である。
売主側が対象会社や買主側へ提供する場合のほか,業務の分離状況に応じて逆方向の提供が必要になることもある。
誰が契約当事者となり,実際に誰が提供し,誰が利用するのかを特定することが出発点となる。

2 売主との合意だけで外部の利用権は増えない

売主が継続利用を認めても,外部ベンダーとの契約がグループ外利用や再提供を認めているとは限らない。
ソフトウェア,クラウド,回線,データベース等について,利用主体・利用範囲・再委託・名義変更の条件を確認する。
必要ならベンダーの承諾や新契約を準備し,その取得をTSAやM&A契約の条件とどう結び付けるかを検討する。

第2 サービスを業務単位で具体化する
1 「従来どおり」の中身を一覧にする

「従来どおり支援する」という表現だけでは,担当者が退職したときや障害が起きたときに対応範囲が分からなくなる。
サービスごとに,対象業務,利用者,処理件数等の前提,担当窓口,必要なデータ,提供時間,除外事項を整理する。
デュー・ディリジェンスには,実際のシステム運用や経理・人事の担当者も関与させ,契約一覧だけでは見えない依存関係を確かめることが望ましい。

例えば,請求書発行を継続するなら,システムへのログイン権限だけでなく,顧客マスター,締日処理,承認権限,入金消込,問い合わせ対応まで確認する。
これは業務の切分けの例であり,すべての案件で同じ支援が必要になるわけではない。

2 品質・費用・変更を扱う

処理の締切,障害時の連絡,復旧対応,保守時間など,事業継続に必要な水準を具体化する。
料金については,固定額か実費か,利用増加時の追加費用,外部ベンダー費用,税負担,請求と支払の時期を定める。
売却後に業務量や仕様が変わる場合の変更手続と,追加費用の承認者も確認する。

3 事業譲渡では利用権限とデータの切分けも確認する

事業譲渡では,売主の法人格に残るシステム契約を買主が当然に利用できるわけではない。
ライセンス,クラウド利用規約,再委託,個人情報及び秘密情報の条件を確認し,必要に応じて契約相手方の承諾又は買主名義の新契約を取得する。

売主の他事業とデータベースやアカウントが共通している場合は,対象データの抽出,アクセス権限,ログ,バックアップ及び取引終了時の消去を定める。
買主への移行が完了するまでの暫定利用は,期間,利用者,費用,障害時の責任及び終了条件をTSAに具体化する必要がある。

(続きを読む...)会社売却後も親会社のシステムを使えるか―移行サービス契約と事業継続(AI作成)

M&Aの価格調整条項―純資産・純有利子負債,異議期限と精算方法(AI作成)

目次

第1 契約した価格と最終的な支払額が異なる場合1 純資産方式と企業価値からの調整を区別する2 公表事例から分かる範囲第2 調整対象と計算ルールを定義する1 基準日・会計方針・個別項目2 事業譲渡では資産・債務別の調整を設計する3 役員退職金・配当等との重複を避ける第3 計算書の提出から異議申立てまでを決める1 提出資料と期限を対応させる2 異議の出し方と無異議の効果第4 返還・追加支払と補償請求の関係第5 参考資料
第1 契約した価格と最終的な支払額が異なる場合

株式譲渡契約の価格調整条項は,契約で決めた基準に従い,実行日時点の財務数値などを確定して売買代金を精算するための条項である。
当初の提示価格が固定額なのか,暫定額なのか,どの数値によって増減するのかを確認する必要がある。
最終的な精算を予定しない固定価格方式もあるため,M&Aなら必ず事後調整が行われるわけではない。

1 純資産方式と企業価値からの調整を区別する

純資産を基準にする方式と,企業価値から純有利子負債等を調整して株式価値を求める方式では,出発点が異なる。
前者では資産・負債の評価が,後者では現預金・有利子負債・運転資本等の定義が重要になる。
複数の調整を組み合わせる場合は,同じ項目を重複して控除・加算していないかを確認する。

例えば,説明用に企業価値を1億円,有利子負債を3000万円,現預金を1000万円とし,他の調整はないとする。
純有利子負債を有利子負債から現預金を引いた2000万円と定義するなら,株式価値は8000万円となる。
実行時に有利子負債が3500万円,現預金が800万円となれば,同じ仮定での株式価値は7300万円であり,暫定代金8000万円との差は700万円となる。

この仮例は計算の順序を示すものであり,企業価値の算定方法や実際の契約条件を示すものではない。
現預金に含める範囲,借入金以外に負債として扱う項目,運転資本調整の有無で結果は変わる。

2 公表事例から分かる範囲

ENEOSホールディングスの2025年4月1日付け海運事業の一部譲渡完了の開示は,最終譲渡価額について,契約に基づくネットデット・ネットワーキングキャピタル等の調整を行う旨を記載している。
これは価格調整が公表された事例であり,契約全文や異議申立ての期限まで公開されたことを意味しない。

第2 調整対象と計算ルールを定義する
1 基準日・会計方針・個別項目

どの時点の数値を使うか,誰が作成する計算書を使うか,会計方針に変更がある場合に何を優先するかを定める。
現預金,有利子負債,正常運転資本といった名称だけで済ませず,対象勘定と除外項目を別紙等で特定することが望ましい。
売掛金の回収可能性,在庫の評価,未払費用,取引に伴う費用も,どの調整に反映するかを確認する。

2 事業譲渡では資産・債務別の調整を設計する

事業譲渡では,営業権を固定額としつつ,棚卸資産,売掛金,買掛金,未払費用及び承継債務をクロージング時の実額で調整する方法がある。
何を譲渡対象に含めるかと価格調整項目を一致させなければ,対象外債務を代金から控除したり,同じ項目を二重に調整したりするおそれがある。

棚卸資産の評価方法,不良在庫,回収不能債権,引当金,消費税及び固定資産の評価基準を定める。
売主が計算書を作成するのか,買主が作成するのか,資料閲覧権,異議期限,専門家決定及び精算期限も契約で固定する必要がある。

事業譲渡契約全体の確認事項は,事業譲渡契約書のチェックポイント―売主・買主別に見る譲渡対象,代金,前提条件,表明保証及び補償(AI作成)を参照されたい。

(続きを読む...)M&Aの価格調整条項―純資産・純有利子負債,異議期限と精算方法(AI作成)

株式譲渡で取引先の承諾は必要か―COC条項・通知義務・解除リスク(AI作成)

目次

第1 株主が変わることと契約当事者が変わること1 COC条項が対象とする変更を読む2 事業譲渡の契約移転と区別する第2 承諾・通知・解除の条項を分けて確認する1 同じ支配権変更でも契約上の効果は異なる2 承諾取得の担当・費用・期限を決める第3 M&Aの前提条件と第三者の権利を分ける1 契約一覧に重要度と対応を記録する2 売主・買主間の条件放棄だけでは解決しない第4 許認可・個人情報・業務継続も別に確認する第5 参考資料
第1 株主が変わることと契約当事者が変わること

株式譲渡では,通常,対象会社の株主が変わっても,取引契約の当事者である対象会社自体は変わらない。
しかし,契約に株主構成や支配権の変更を対象とする条項があれば,事前承諾や通知が必要になることがある。
「契約当事者は同じだから確認不要」と判断せず,重要契約の条項を確認する必要がある。

1 COC条項が対象とする変更を読む

COC条項は,チェンジ・オブ・コントロール,すなわち支配権の変更に着目した条項である。
株式の過半数取得だけを対象とするのか,間接的な支配株主の変更,合併や会社分割,特定者への譲渡まで含むのかは,契約によって異なる。
COCという見出しがなくても,解除事由・通知事項・表明事項などに同じ趣旨の規定が置かれる場合がある。

2 事業譲渡の契約移転と区別する

契約上の地位を別の会社へ移すことは,株式譲渡による株主変更とは別の問題である。
民法539条の2は,契約当事者の一方と第三者による契約上の地位の譲渡について,相手方の承諾を定めている。
事業譲渡で契約当事者を変更する場面と,対象会社を当事者のまま維持する株式譲渡の場面を混同しないことが重要である。

事業譲渡における許認可と契約承継の具体的な確認方法は,事業譲渡で許認可・取引契約は引き継げるか―再取得,承諾,通知及びクロージング条件(AI作成)を参照されたい。

第2 承諾・通知・解除の条項を分けて確認する
1 同じ支配権変更でも契約上の効果は異なる

「事前の書面承諾が必要」,「変更後に通知する」,「相手方が解除できる」,「条件変更を協議する」という条項では,必要な行為とリスクが異なる。
通知すれば承諾を得たことになるとは限らず,回答がないことを承諾と扱えるかも契約の定めを確認する必要がある。
違反時の効果も,条項の文言と具体的事情に即して検討する。

NEDOは,委託研究開発に関係する技術のライセンスについて,支配構造の変化を契機とする解除や条件見直しを扱うCOC条項への留意を示している。
これは当該制度の文脈での留意事項であり,株式譲渡のすべてに法律上の承諾義務を課すものではない。

2 承諾取得の担当・費用・期限を決める

売主と買主の間では,誰が取引先へ説明し,どの資料を提出し,いつまでに承諾を得るかを定める。
情報開示の時期には秘密保持や取引への影響も考慮する。
承諾の条件として保証の追加,取引条件の変更,費用の支払等を求められた場合に,誰の判断と負担で応じるかも決めておくとよい。

第3 M&Aの前提条件と第三者の権利を分ける
1 契約一覧に重要度と対応を記録する

借入れ,賃貸借,販売代理,重要顧客,ライセンス,システム利用などの契約について,支配権変更を対象とする条項の有無を確認する。
対象となる変更,承諾・通知の時期,違反時の効果,担当者,取得証拠を一覧にする。

(続きを読む...)株式譲渡で取引先の承諾は必要か―COC条項・通知義務・解除リスク(AI作成)

アーンアウトとは―追加代金の条件・計算方法と売主が確認する条項(AI作成)

目次

第1 アーンアウトで追加代金が支払われる仕組み1 後払い・価格調整・補償との違い2 計算例では「超過部分」と「全額」を分ける第2 業績条件と会計処理を具体化する1 指標・対象期間・対象事業をそろえる2 買収後の費用配賦や会計方針変更を扱う第3 売却後の経営と検証手続を決める1 買主の事業運営と売主の関与を整理する2 報告・資料閲覧・異議申立てを組み合わせる第4 支払時期と他の請求との関係を確認する第5 参考資料
第1 アーンアウトで追加代金が支払われる仕組み

アーンアウトとは,会社売却後の業績など,契約で定めた条件の達成に応じて追加の売買代金を支払う仕組みである。
売主と買主で将来の事業価値の見方が異なるときに使えるが,追加分を当然に受け取れるわけではない。
条件の定義と,売却後にその条件を確かめられる仕組みが重要になる。

1 後払い・価格調整・補償との違い

確定した代金の支払日を後にするだけの後払いと,将来の条件により追加代金が発生するアーンアウトは異なる。
また,実行日時点の純資産や純有利子負債などを確定して代金を精算する価格調整,表明保証違反などの損害を埋める補償とも,支払の根拠が違う。
契約書では,名称だけで判断せず,何が起きれば,誰が,誰に,いくら支払うのかを確認する。

売却代金と役員退職金の区別,後払い代金の回収については,中小M&Aの売却代金と役員退職金―支払義務,後払い,税務と手取り額の確認(AI作成)も参照されたい。

2 計算例では「超過部分」と「全額」を分ける

例えば,対象期間の営業利益が3000万円を超えた場合に,超過額の2倍を追加代金とし,上限を2000万円とする契約を考える。
営業利益が3800万円なら追加代金は1600万円,4500万円なら上限の2000万円となる。
これは仕組みを説明するための仮例であり,標準的な料率や相場を示すものではない。

「3000万円以上になれば一定額を支払う」という条件なら,境界を少し超えるだけで支払額が大きく変わることがある。
ちょうど3000万円の場合,赤字の場合,事業売却や組織再編で単純比較ができなくなった場合も,計算例を作って確かめるとよい。

第2 業績条件と会計処理を具体化する
1 指標・対象期間・対象事業をそろえる

売上高,営業利益,顧客維持率などのどれを指標にするかで,当事者が負担するリスクは変わる。
連結か単体か,どの事業を含めるか,開始日と終了日,決算期変更時の扱いを定める。
複数年度の合計で判定するのか,各年度別に判定するのか,未達分を翌年度へ繰り越すのかも確認する。

2 買収後の費用配賦や会計方針変更を扱う

買収後に親会社への管理料が発生したり,買収に伴う一時費用が計上されたりすれば,事業そのものの成績が同じでも利益額が変わり得る。
従来の会計方針を使う範囲,例外として調整する項目,関連当事者取引の扱いを具体化する。
「従来と同様に計算する」という一文だけで処理できるかは,実際の勘定科目と計算資料で確かめる必要がある。

ASBJの「企業結合に関する会計基準」第27項は,将来の業績等に依存する条件付取得対価の会計処理を定めている。
これは契約上の追加代金の発生条件や,売主の税務上の所得区分を一律に決める規定ではない。
会計・税務の検討と,支払義務を定める契約の検討をそれぞれ行う必要がある。

第3 売却後の経営と検証手続を決める
1 買主の事業運営と売主の関与を整理する

(続きを読む...)アーンアウトとは―追加代金の条件・計算方法と売主が確認する条項(AI作成)

吸収合併の承認日程と事前開示書類―未設立・未決算の会社,備置開始日と変更時の注意(AI作成)

目次

第1 合併契約と承認の日程を分けて確認する1 原則となる承認期限2 契約締結前の株主総会承認という見解3 取締役会の決議とも区別する第2 事前開示書類の備置開始日は「最も早い日」で決める1 消滅会社と存続会社の違い2 全員同意による決議省略でも開始日を確認する3 株主・債権者による閲覧等第3 最終事業年度がない会社の財務情報を確認する1 「決算前だから財務書類なし」としない2 両社の書類を取り違えない3 対価,少数株主への配慮,債務履行の見込み第4 通知・公告と債権者保護手続を日程表へ落とし込む第5 契約や開示事項を変更したときの確認第6 不備が見つかったときは効力発生前後を分ける第7 参照資料
第1 合併契約と承認の日程を分けて確認する

吸収合併では,株主総会で合併契約を承認する日だけを決めても,手続の日程は確定しない。
消滅会社と存続会社について,契約の内容,会社の成立,社内の意思決定,事前開示書類の備置き,株主等への通知・公告及び債権者保護手続をそれぞれ確認する必要がある。

本稿は,株式会社同士の吸収合併を主な対象として,会社法と会社法施行規則に基づく確認順序を整理する。

1 原則となる承認期限

吸収合併をする会社は,吸収合併契約を締結し,会社法749条所定の事項を定める。
消滅株式会社は会社法783条1項,存続株式会社は同法795条1項により,原則として効力発生日の前日までに株主総会で合併契約の承認を受ける。

もっとも,略式合併や簡易合併等では承認を省略できる場合がある。
消滅会社側の784条と存続会社側の796条では要件が異なるため,両社を一括して「総会不要」と扱わない。
承認を省略できても,それだけで事前開示や通知・公告がすべて不要になるわけではない。

2 契約締結前の株主総会承認という見解

通常の進行順序としては,社内の意思決定を経て契約を締結し,その契約について株主総会の承認を受けることが考えられる。
他方,玉井利幸「M&A取引と差止め(3)」607頁注287は,株主総会で承認決議をした後に合併契約を締結することも可能であるとの見解を紹介している。

ただし,この見解から,具体的な契約内容や相手方が確定していない段階での一般的な了解だけで,後日の契約が当然に承認されるとはいえない。
承認対象となる契約案の特定,決議と実際の契約との一致,効力発生前の締結及び他の法定手続の履践を確認する必要がある。

また,この議論を,まだ成立していない会社が契約当事者となる場合へそのまま広げることはできない。
株式会社は設立登記によって成立する(会社法49条)。
相手方が未設立の場合には,成立日,契約名義,代表権,成立後の契約締結・承認の有無を別に確認する。

3 取締役会の決議とも区別する

株主総会の承認と,取締役又は取締役会による業務執行の決定は別の問題である。
取締役会設置会社では会社法362条等,それ以外の会社では同法348条等を踏まえ,機関設計と契約の重要性に応じて決定権限を確認する。

株主総会を先に開いたことや,後日に決議したことだけを理由に,社内の決定権限や契約の効力の問題が一律に解消すると判断しない。

第2 事前開示書類の備置開始日は「最も早い日」で決める
1 消滅会社と存続会社の違い

会社法782条・794条は,吸収合併契約の内容と法務省令所定の事項を記載・記録した書面又は電磁的記録を,本店に備え置くよう求めている。
備置開始日は,それぞれの条文が挙げる日のうち最も早い日となる。

確認項目消滅株式会社(782条)存続株式会社(794条)総会で承認を受ける場合原則として株主総会の日の2週間前の日。種類株主総会も確認する原則として株主総会の日の2週間前の日。種類株主総会も確認する319条1項による決議省略同項の提案があった日同項の提案があった日株主への通知・公告785条3項の通知又は同条4項の公告の該当日797条3項の通知又は同条4項の公告の該当日新株予約権者への通知・公告787条3項の通知又は同条4項の公告の該当日794条2項には,これに対応する独立の開始日候補はない債権者保護手続789条2項の公告又は催告の該当日799条2項の公告又は催告の該当日備置きの終期効力発生日効力発生日後6か月を経過する日

表は吸収合併に関係する事項を整理したものである。
各通知・公告の対象者や要件,承認省略の特則も,条文に即して確認する。

(続きを読む...)吸収合併の承認日程と事前開示書類―未設立・未決算の会社,備置開始日と変更時の注意(AI作成)

無償PoCをいつまで続けるのか―報酬,追加作業及び本開発に進まない場合の精算(AI作成)

目次

第1 PoCでは何を約束するのか1 検証の実施と製品の完成を分ける2 「準委任が望ましい」とする指針の意味第2 無償・低額なら独占禁止法違反になるか第3 着手前に決める事項第4 追加作業を頼まれた場合の進め方1 修正か,範囲の追加かを確認する2 着手前に金額・納期・承認者をそろえる3 既に作業を始めている場合第5 本開発に進まなかった場合の報酬・成果・データ1 本開発の不成立とPoCの報酬は別に確認する2 成果を利用してよい範囲を確認する3 終了後のデータと秘密保持義務を整理する第6 支払を求める前に整理する資料第7 よくある疑問1 契約書がなければ請求できないか2 NDAがあればPoC契約は不要か3 本開発に進まなければ違約金を請求できるか第8 出典・参考資料と関連記事1 法令・行政資料2 参考文献3 関連記事

技術検証だけのはずが,追加の実装や修正を繰り返し求められ,本開発にも進まない。
こうしたPoCの問題は,最初の金額だけでなく,どこまで行えば終わるか,追加作業を誰が承認するかを決めていない場合に起こりやすい。

無償のPoCが直ちに違法になるわけではない。
一方,「将来の大きな取引につながる」と期待して対応を続けても,後で当然に費用全額を回収できるとは限らない。
契約上の請求根拠と,不当な無償作業の要請が独占禁止法上問題になるかを分けて考える必要がある。

本記事は,令和8年10月24日までに確認した民法及び公正取引委員会・経済産業省の指針を基礎に,PoCの開始から終了までに確認する契約と記録を整理する。

第1 PoCでは何を約束するのか
1 検証の実施と製品の完成を分ける

PoCは,新しい技術や仕組みを試し,本格的な開発や導入に進めるかを判断するために行われる。
しかし,契約書にPoCと書くだけで,具体的な義務や契約類型が決まるわけではない。

合意した検証を行って結果を報告する義務と,指定された機能・性能の製品を完成する義務では,未達成の場合の扱いが異なる。
民法632条の請負と,同法656条の準委任の区別を踏まえ,実際に約束する業務を確認する。

2 「準委任が望ましい」とする指針の意味

公正取引委員会・経済産業省の「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」は,PoCについて,検証の実施と報告を業務とする準委任契約が望ましいと説明している。
これは,検証段階の不確実性を踏まえた契約設計上の考え方である。

すべてのPoCが法律上当然に準委任になるとか,契約書の表題を準委任にすれば完成義務がなくなる,という意味ではない。
見積書,提案書,仕様書,メール等に,どのような結果を約束したかも確かめる必要がある。

第2 無償・低額なら独占禁止法違反になるか

同指針は,優越的な取引上の地位にある連携事業者が,正当な理由なく無償のPoCや不当に低い対価,減額,やり直し等を求める場合に,優越的地位の濫用として問題となり得ることを示している。

ただし,無償又は低額という一事情だけで結論を出すことはできない。
ほかの支払に対価が反映されているか,十分な協議があったか,修正が当初の合意内容に含まれるか,取引への影響を懸念して応じざるを得なかったか等を具体的に確認する。

また,独占禁止法上の問題があることと,特定の金額の報酬を契約に基づいて請求できることは,同じ問題ではない。
契約上の請求と法令上の問題を,それぞれの根拠に沿って整理する必要がある。

公正取引委員会等の令和8年6月24日「知財取引指針」46頁~48頁も,技術指導,PoC及び試作品製造等の無償要請を扱っている。
スタートアップとの連携に限らず,知財・ノウハウの取引の問題として,対象となる作業と対価の協議を確認する資料となる。

原資料である同年3月の実態調査報告書52頁の事例51には,PoCの成果物の無償提供を要請されたことや,作業内容が変わらないのに月額の報酬を一方的に引き下げられたという事業者の説明がある。
無償で開始する合意,既に決めた報酬の減額,当初の範囲を超える追加作業,成果・データの引渡しの追加要求を分けて記録すると,問題となる条件を整理しやすい。

これらは聴取された事例であり,個別の違反認定又は裁判所による報酬額の確定ではない。
無償又は減額の要請の経過を残すことと,契約等に基づく具体的な請求額を算定することを区別する必要がある。

(続きを読む...)無償PoCをいつまで続けるのか―報酬,追加作業及び本開発に進まない場合の精算(AI作成)

無給インターンは違法か―労働者性,最低賃金,残業代及び受入企業の確認事項(AI作成)

目次

第1 無給という合意だけでは決まらない第2 見学・実習と企業の業務をどう区別するか1 行政資料が示す区別2 確認する事実第3 実際の仕事を確認するための具体例1 見学と振り返りを中心とする場合2 顧客対応や開発を継続して担当する場合3 教育と実業務が混在する場合第4 研修医についての最高裁判決が示すこと第5 労働者に当たる場合の賃金と労働時間1 最低賃金との比較2 残業代は「予定より長くいた時間」の一律計算ではない第6 学生が保存したい資料と相談時の整理第7 受入企業が募集前・実施中・終了時に確認すること1 募集前2 実施中3 終了時第8 よくある疑問1 学生が希望した無給インターンでも問題になるか2 交通費だけ払えばよいか3 大学の単位になる実習なら雇用ではないか第9 出典・参考資料と関連記事1 法令・行政資料・判決2 参考文献3 関連記事

無給のインターンシップが,すべて違法になるわけではない。
しかし,企業の指示を受けて実際の業務を行う学生について,「インターンだから」「勉強になるから」という理由だけで賃金を支払わない運用はできない。

実態が労働基準法上の労働者に当たる場合には,最低賃金や労働時間に関する規制が適用される。
募集要項の名称より,誰がどのように仕事を指示し,学生が実際に何をしていたかが重要である。

本記事は,令和8年10月24日までに確認した法令,厚生労働省の公表資料及び裁判所公開の判決を基礎として,学生と受入企業が確認する事項を整理する。

第1 無給という合意だけでは決まらない

労働基準法9条の労働者に当たるかどうかは,契約の名称だけで決まらない。
インターンシップの申込書や同意書に「雇用ではない」と書かれていても,実際の働き方を確認する必要がある。

最低賃金法4条は,最低賃金の適用を受ける労働者について,最低賃金額以上の賃金を支払う義務を定めている。
同額に達しない賃金を定めた部分は無効となり,最低賃金と同様の定めをしたものとみなされる。
学生が無給に同意したことだけで,この規制を排除することはできない。

反対に,労働者に当たらない見学・体験等についてまで,このことから一律に賃金が発生するわけではない。
ただし,参加者に報酬を支払う契約がある場合の請求は,労働者性とは別に検討する必要がある。

第2 見学・実習と企業の業務をどう区別するか
1 行政資料が示す区別

厚生労働省の「高い専門的知識や能力を有する学生を対象とした採用日程の設定関係Q&A」のQ3・Q4は,見学・体験的な実習と,企業の利益となる生産活動への従事とを区別し,使用従属関係を踏まえて労働者性を判断する考え方を示している。
同資料は専門活用型インターンシップ等を扱うものであり,採用日程に関する部分をすべての募集にそのまま当てはめることはできない。

労働者性の確認では,名称や参加期間だけでなく,個々の実態を調べる。
大学の単位が付くこと,参加者に学習上の利益があること,企業が教育プログラムを用意していることも,実際の労務提供を調べる代わりにはならない。

2 確認する事実
確認事項資料や具体的な問い作業の指示担当業務,手順,優先順位,修正内容を誰が決めるか。メールやチャットに具体的な指示があるか時間・場所出勤日や時間が指定され,遅刻・欠席について承認や報告を求められるか断る自由個別の仕事や追加作業を断れるか。断った場合に不利益があるか成果の利用作成した資料,コード,顧客対応等が,実際の事業にどのように使われるか教育との関係見学・講義・演習と実業務が,日程や作業内容の上でどう分かれているか金銭の支払交通費,謝礼,手当等が何を根拠に,どのように計算されているか

これは実態を調べるための整理であり,該当項目の数で結論を出す採点表ではない。
時間指定があっても見学の運営上必要なものなのか,業務を行わせるための管理なのかを区別する。

第3 実際の仕事を確認するための具体例

以下は説明のための例であり,実際の裁判例ではない。

1 見学と振り返りを中心とする場合

工場や職場の見学,担当者の講義,学生による振り返りが中心であり,会社の受注業務を担当せず,通常の従業員の代わりに作業するものでもない場合である。
参加時間が決まっているという一事情だけから,労働者と決めることはできない。

2 顧客対応や開発を継続して担当する場合

(続きを読む...)無給インターンは違法か―労働者性,最低賃金,残業代及び受入企業の確認事項(AI作成)

関連する契約をまとめて解除できるか―複数契約とクロスデフォルトの違い(AI作成)

目次

第1 一方の契約違反で別の契約も終わるとは限らない第2 最高裁平成8年11月12日判決1 マンション購入とスポーツクラブ会員契約の事案2 取引全体の目的と約束の重要性が問題となった3 異なる当事者の契約へ当然には広げられない第3 企業の取引で確認する契約と資料1 契約の組合せを図にする2 目的と約束を示す資料を保存する3 解除自体の要件と通知を確認する第4 クロスデフォルト条項と解除連動条項1 期限の利益の喪失と契約解除は別の効果である2 自動終了と解除権の発生を分ける第5 解除後の精算と残る義務第6 出典・参考資料
第1 一方の契約違反で別の契約も終わるとは限らない

システムの導入契約と保守契約,機器の売買と利用契約など,同じ取引目的のために複数の契約を結ぶことがある。
そのうち一つの契約に違反があったとき,別の契約もまとめて解除できるかは,契約の相互関係と解除の根拠を確認して判断する必要がある。

契約書が別々であることだけで解除できないと決まるわけではない。
他方,同じ日に締結した,同じ会社と取引しているというだけで,すべての契約を当然に解除できるわけでもない。
本記事では,最高裁平成8年11月12日判決を出発点として,令和8年10月24日を基準に,企業の取引担当者が確認すべき事項を整理する。

第2 最高裁平成8年11月12日判決
1 マンション購入とスポーツクラブ会員契約の事案

この判決は,リゾートマンションの区分所有権の購入と,併設されるスポーツクラブの会員となる契約が問題となった事案である。
屋内プールの完成と利用に関する約束が履行されず,購入者が売買契約等の解除を求めた。

最高裁は,同一当事者間の複数契約について,各契約の目的が相互に密接に関連し,一方だけが履行されても契約締結の目的が全体として達成されない場合には,一方の債務不履行を理由に他方の契約も解除できるとした。

2 取引全体の目的と約束の重要性が問題となった

判決は,マンションの所有権とクラブ会員資格の関係,契約に至る事情,購入者がプールを利用することの重要性等を検討している。
屋内プールの完成・利用に関する約束は,売買契約とは無関係の些細な付随事項として扱われたものではない。

したがって,実務で確認するのは,「関連契約」と呼ばれているかだけではない。
なぜ別々の契約を結んだのか,どの給付が欠けると取引全体の目的が達成できないのか,その目的を相手方との間でどのように共有していたかが重要である。

3 異なる当事者の契約へ当然には広げられない

上記判決の一般的な判断は,同一当事者間の複数契約を対象としている。
売主と保守会社が別法人である場合,グループ会社がそれぞれ契約する場合,金融機関との資金調達契約を伴う場合等に,この判決だけで同じ結論になるとはいえない。

また,同判決が扱ったのはマンションとクラブの取引である。
以下のシステム等の例は,判決の判断枠組みを踏まえた確認方法の例であり,その類型について最高裁が直接判断したという意味ではない。

第3 企業の取引で確認する契約と資料
1 契約の組合せを図にする

まず,基本契約,個別発注,ライセンス,保守,機器の貸与及び保証等を,契約当事者ごとに並べる。
それぞれの対象,対価,期間,終了事由及び終了後の義務を確認する。
販売代理店と利用企業の契約に加え,サービス提供者の規約が関係する場合には,その位置付けも明らかにする。

例えば,同じ会社と導入・保守の契約を結んでいても,保守の一部の遅れで導入契約まで解除できるかは,その保守がなければシステムを利用できないのか,代替保守が可能か,導入契約に残る利益は何か等によって検討が必要である。

2 目的と約束を示す資料を保存する

契約書だけでなく,提案書,仕様書,説明メール,価格の組合せ及び交渉記録を確認する。

(続きを読む...)関連する契約をまとめて解除できるか―複数契約とクロスデフォルトの違い(AI作成)

「間接損害は賠償しない」とは何か―逸失利益・特別損害と責任制限条項(AI作成)

目次

第1 免責の言葉だけでは負担範囲が決まらない第2 間接損害・特別損害・逸失利益を区別する1 民法416条の区分と契約の用語は一致するとは限らない2 逸失利益は損害の内容を表す3 想定する事故から費目を書き出す第3 賠償額の上限は対象と数え方を決める1 「委託料相当額」の対象を特定する2 対象となる請求を確認する3 故意・重過失等の例外を上下両方から確認する第4 ジェイコム事件の東京高裁判決から読む注意点1 重過失の判断は義務ごとに読む2 免責条項と不法行為責任の関係も問題となった第5 修正協議では事故・費目・上限・例外を一組にする第6 出典・参考資料
第1 免責の言葉だけでは負担範囲が決まらない

業務委託,システム開発,売買等の契約で,「間接損害は賠償しない」「賠償額は委託料を上限とする」という条項を見ることがある。
しかし,間接損害という言葉だけで,休業による利益の減少,代替サービスの費用,顧客への支払等がすべて除外されると判断することはできない。

責任制限条項は,責任の発生条件,対象となる損害,上限額,上限の数え方及び例外を分けて読む必要がある。
本記事は,日本法を準拠法とする企業間契約の審査を中心に,令和8年10月24日を基準として確認事項を整理する。
消費者契約等の特別な規制の検討は,取引の種類に応じて別に必要である。

第2 間接損害・特別損害・逸失利益を区別する
1 民法416条の区分と契約の用語は一致するとは限らない

民法416条1項は,債務不履行によって通常生ずべき損害を賠償の対象とし,同条2項は,特別の事情による損害でも,当事者がその事情を予見すべきであったときは賠償請求できると定める。

これに対し,「間接損害」は同条の区分をそのまま示す言葉ではない。
契約で定義しているか,例示があるか,他の条項とどのようにつながるかを確認する。
間接損害を特別損害と同義と扱ったり,直接損害ならすべて賠償されると断定したりしない。

2 逸失利益は損害の内容を表す

逸失利益は,問題となる出来事がなければ得られたはずの利益が失われたという損害の内容を表す。
これが民法416条の通常損害か,特別の事情による損害かは,具体的な契約と事情によって検討する。
逸失利益という名前だけで,特別損害又は間接損害と決まるわけではない。

したがって,逸失利益を対象外とする合意をしたい場合には,間接損害の一語に託すより,その費目を明示し,どのような損害を含めるかを協議する方が,認識の相違を減らせる。
ただし,文言を明示したことだけで,その条項があらゆる場合に有効となるわけではない。

3 想定する事故から費目を書き出す

例えば,システムが停止した架空の場面では,復旧費用,代替サービスの利用料,作業のやり直し費用,営業利益の減少及び顧客への対応費用を分ける。
その上で,契約上の給付内容,責任の根拠,因果関係,民法416条の範囲,損害額の証明及び責任制限条項を検討する。

これらの費目が当然に請求できるという意味ではない。
自社が現実に負担し得る費用と,相手方に契約上請求できる費用を分けて把握するための作業である。

第3 賠償額の上限は対象と数え方を決める
1 「委託料相当額」の対象を特定する

上限を委託料とするなら,契約全体の総額か,問題となった個別契約の金額か,事故前の一定期間に支払った金額かを明らかにする。
契約開始直後で支払実績がない場合や,無償期間を含む場合も確認する。

また,1事故ごとの上限か,契約期間中の累積上限か,関連する複数事故を1事故と数えるかによって,実際の負担は変わる。
「上限額の数字は合意したが,何に対する上限かが決まっていない」という状態を避ける必要がある。

(続きを読む...)「間接損害は賠償しない」とは何か―逸失利益・特別損害と責任制限条項(AI作成)

注文書に返事をしないと契約は成立するか―商法509条と受注管理(AI作成)

目次

第1 返事をしなければ断ったことになるとは限らない第2 商法509条が定める諾否の通知1 条文の条件を順番に確認する2 見積依頼・需要予測と申込みを区別する3 「遅滞なく」を一律の日数に置き換えない第3 受領確認と承諾,社内承認を分ける1 自動返信の意味を確認する2 社内決裁待ちを相手方との条件に反映する3 通知の発信と契約成立時期を混同しない第4 返答漏れが分かったときに集める記録第5 関連する契約成立の問題第6 出典・参考資料
第1 返事をしなければ断ったことになるとは限らない

注文書を受け取ったまま返事をしていない場合に,契約が成立しているかは,申込みの内容,従前の取引,基本契約及び担当者の行動を確認して判断する必要がある。
特に,商人が平常取引をする者から営業の部類に属する契約の申込みを受けた場合には,商法509条による承諾のみなしが問題となる。

同条は,注文書という表題の書類が届いたすべての場合に適用される規定ではない。
他方,「注文請書を返していない」「社内決裁が終わっていない」という事情だけで,契約が成立していないと処理することもできない。
以下では,企業の営業・調達・法務担当者に向け,令和8年10月24日を基準に,判断の順序と受注管理の注意点を整理する。

第2 商法509条が定める諾否の通知
1 条文の条件を順番に確認する

商法509条1項は,商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは,遅滞なく諾否の通知を発しなければならないと定める。
同条2項は,その通知を発することを怠ったときは,申込みを承諾したものとみなすと定める。

確認するのは,①申込みを受けた者が商人か,②相手方が平常取引をする者か,③申込みがその営業の部類に属するか,④具体的な契約の申込みを受けたか,⑤遅滞なく諾否の通知を発したか,である。
相手方が一方的に「返答がなければ承諾とみなす」と記載したことだけを,同条の要件を満たす根拠にしてはならない。

2 見積依頼・需要予測と申込みを区別する

見積りを求めるメール,来期の購入予定を知らせる需要予測,仕様を相談する資料が,直ちに契約の申込みになるとは限らない。
商品・業務,数量,価格,納期その他の条件と,その条件で契約を成立させようとする意思が,文書とやり取りから読み取れるかを確認する。

反対に,書類の表題が「相談」や「内示」であっても,実際には確定した注文として扱ってきた経緯がある場合には,名称だけで処理できない。
基本契約,過去の注文書と請書,受注システムの記録及び納品・請求の運用を一緒に見る必要がある。

3 「遅滞なく」を一律の日数に置き換えない

同条は,何営業日以内という固定の日数を定めていない。
取引の種類や連絡手段を考慮せず,「3日以内なら必ず間に合う」などと判断することはできない。
休暇中の個人メールや,退職した担当者のアドレスに注文が滞留する運用を避け,担当不在でも確認と返答が進む窓口を設けることが重要である。

第3 受領確認と承諾,社内承認を分ける
1 自動返信の意味を確認する

「メールを受信しました」「受付番号を発行しました」という自動返信と,「ご注文を承りました」という受注承諾は,文言と運用によって意味が異なる。
自動返信の名称ではなく,表示内容,基本契約及びその後の行動を確認する。

受領確認だけを送って保留する場合にも,それで商法509条の問題が必ず解消したとは扱わない。
承諾できない注文については,対象の注文番号・日付・内容を特定し,承諾していないことを明確に連絡した上で,変更条件を協議するなどの対応が必要になる。
実際の諾否と異なる定型文を漫然と送らない。

2 社内決裁待ちを相手方との条件に反映する

(続きを読む...)注文書に返事をしないと契約は成立するか―商法509条と受注管理(AI作成)

会社都合退職の和解と離職票―雇用保険の離職理由は誰が決めるか(AI作成)

目次

第1 会社都合と合意すれば給付の扱いも決まるか第2 会社の書類とハローワークの判断を区別する1 離職証明書と離職票2 合意書は資料となるが判断を拘束するものではない第3 「会社都合」と「自己都合」の二つだけでは整理できない1 退職勧奨や解雇にも具体的な基準がある2 本人の退職申出でも事情を確認する3 疾病・心身の障害による離職と働くことができない期間第4 和解条項で具体化する事項1 経緯と書類の内容を対応させる2 作成・提出・交付・訂正への協力を分ける3 離職票以外の退職書類も別に確認する第5 給付の見込みや不服申立ては別に確認する第6 根拠資料
第1 会社都合と合意すれば給付の扱いも決まるか

退職をめぐる紛争の和解で,「会社都合退職とする」と定めることがある。
しかし,当事者間の合意だけで,雇用保険の離職理由や給付の扱いまで確定するわけではない。
離職理由の判定は,ハローワークが,当事者の主張と確認できる資料に基づいて行う。

和解では,退職日や解決金のほか,実際の退職経緯,会社が提出する書類,労働者への書類交付,照会への協力を具体化することが重要である。
本記事は,令和8年10月24日までに確認できた厚生労働省・ハローワークの公表資料を基に整理する。

第2 会社の書類とハローワークの判断を区別する
1 離職証明書と離職票

会社が離職に伴う雇用保険の手続で提出する離職証明書と,失業給付の手続に用いる離職票を区別する。
厚生労働省の雇用保険事務手続きの手引きは,離職理由について事業主と離職者の主張が異なる場合,ハローワークが事実関係を調査した上で判定すると説明している。

会社が書類を作成したことと,行政上の判定が終わったことは同じではない。
離職理由に異議がある場合には,経緯を示す資料とともに,ハローワークへ自分の主張を伝えることになる。

2 合意書は資料となるが判断を拘束するものではない

厚生労働省の雇用保険に関するQ&AのQ21も,事業主と離職者双方の主張や,それを確認できる資料によって,ハローワークが離職理由を判定するとしている。

退職合意書や和解調書は,退職に至る経緯を示す資料として提出することが考えられる。
ただし,「会社都合」と書かれた合意書があることだけで,特定受給資格者等への該当性や給付制限の有無を確約できるわけではない。
会社に,ハローワークの判断そのものを約束させる条項と,会社自身が行う書類作成・提出・説明を約束させる条項を混同しないようにする。

第3 「会社都合」と「自己都合」の二つだけでは整理できない
1 退職勧奨や解雇にも具体的な基準がある

ハローワークの特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲には,解雇や退職勧奨のほか,賃金不払,労働条件の相違,嫌がらせ,一定の有期契約の更新に関する事情など,複数の類型が示されている。

解雇については,本人の重大な責任によるものが除かれる。
退職勧奨の類型にも,事業所に恒常的に設けられた早期退職優遇制度への応募を除くなどの条件がある。
「会社から提案された退職」という一言だけで,一律に判定できるものではない。

2 本人の退職申出でも事情を確認する

本人が退職届を出した場合でも,その背景にある事情を確認する必要がある。
厚生労働省Q&AのQ23は,上司や同僚からの著しい嫌がらせなどによる離職について,具体的事情を確認して判断する旨を説明する。

一方,職場で不快な出来事があったことだけで,直ちに公表基準へ該当するともいえない。
いつ,誰から,どのような行為を受け,どのような相談や対応があり,それが退職にどうつながったかを,記録とともに説明することが大切である。

3 疾病・心身の障害による離職と働くことができない期間

(続きを読む...)会社都合退職の和解と離職票―雇用保険の離職理由は誰が決めるか(AI作成)

裁判上の和解で連帯保証人を付けるときの注意点―保証意思宣明公正証書と例外(AI作成)

目次

第1 裁判所で保証すれば公正証書は不要か第2 対象となる保証と公正証書の時期1 事業上の債務すべてが対象ではない2 保証契約より前1か月以内の作成が必要である3 保証意思宣明公正証書と執行証書は異なる第3 裁判上の和解でも必要とされた立法時の説明1 裁判官の確認で代替できるとはされていない2 既存保証の変更も内容ごとに検討する第4 公正証書が不要となる法定の例外1 法人の役員や支配株主等2 個人事業主の共同事業者や一定の配偶者第5 和解期日までに準備する事項第6 根拠資料
第1 裁判所で保証すれば公正証書は不要か

事業用融資の返済について裁判上の和解をする際に,第三者を連帯保証人として加えることがある。
この場合,保証人が裁判所に出頭して意思を示せば,保証意思を確認する公正証書を省略できるとは限らない。

民法第465条の6の対象となる個人保証については,法定の例外に当たらない限り,保証契約に先立つ公正証書による意思確認が必要となる。
裁判上の和解を成立させる手続と,個人保証の効力に関する要件を分けて確認する。
本記事の資料確認日は令和8年10月24日である。

第2 対象となる保証と公正証書の時期
1 事業上の債務すべてが対象ではない

民法第465条の6第1項は,事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約を対象とする。
また,主たる債務の範囲に,事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約も対象となる。
同条第3項により,法人が保証人となる契約には,この規定は適用されない。

事業用融資であるか,主たる債務に貸金等債務が含まれるか,保証人が個人かを順に確認する。
事業に関係する売買代金や賃料の保証であるというだけで,直ちに同条の公正証書が必要と決まるわけではない。
ただし,同条の対象外でも,個人根保証の極度額など,別の保証規制が適用されることはある。

2 保証契約より前1か月以内の作成が必要である

同条第1項は,契約締結に先立ち,その締結の日前1か月以内に作成された公正証書で,保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ,保証契約は効力を生じないと定める。
和解で新たに保証契約を成立させるなら,その成立時点から逆算して準備する必要がある。

同条第2項は,保証人になろうとする者が,主たる債務の内容や履行意思などの法定事項を公証人へ口授し,公証人が筆記・確認する方式を定める。
法務省の「保証に関する見直し」も,保証人本人による意思確認と,保証契約締結前1か月以内という時期を説明している。

3 保証意思宣明公正証書と執行証書は異なる

保証意思宣明公正証書は,保証の意思を事前に確認するためのものである。
保証契約そのものの公正証書とは別のものであり,法務省資料は,保証意思宣明公正証書自体に執行認諾文言を付けることはできないと説明する。

したがって,保証意思宣明公正証書を作成したことと,保証人に対して直ちに強制執行できる債務名義を得たことを同一視しない。
反対に,和解調書などの債務名義を作る予定だからといって,保証契約の効力要件を省略することもできない。

第3 裁判上の和解でも必要とされた立法時の説明
1 裁判官の確認で代替できるとはされていない

平成28年12月6日の衆議院法務委員会では,裁判上の和解において新たな個人保証を加える場合にも公正証書が必要かが質問された。
小川秀樹法務省民事局長は,裁判上の和解によって保証契約を締結する場合も,原則として公正証書による意思確認を要する旨を説明している。

これは第192回国会衆議院法務委員会第13号における政府の立法時説明であり,特定事件の裁判所の判断ではない。

(続きを読む...)裁判上の和解で連帯保証人を付けるときの注意点―保証意思宣明公正証書と例外(AI作成)

準委任のシステム開発が失敗したら―報酬,開発管理義務と損害賠償(AI作成)

目次

第1 準委任でも開発の進め方が問われる第2 完成義務,注意義務と報酬条件を分ける1 契約書の表題と具体的な約束を照合する2 業務の終了確認と最終システムの稼働確認を混同しない第3 文化シヤッター事件の東京地裁判決1 準委任という条項があっても不完全履行が認められた2 ユーザー側の遅れも損害額に影響した第4 開発管理義務を具体的な出来事に落とす1 技術的な制約を把握し,計画へ反映したか2 ユーザーの判断が遅れたときに何をしたか第5 返金,報酬精算と損害賠償を分ける1 前の工程の費用が全部戻るとは限らない2 「使った時間」と「請求できる金額」は別である3 責任制限条項は対象と計算を読む第6 相談前にそろえる記録第7 関連記事と出典
第1 準委任でも開発の進め方が問われる

システムが動かないのに,「準委任だから完成の責任はない」「作業時間を使ったので報酬は全額必要」と説明されたときは,契約の名称だけで結論を出さず,約束した業務と実際の進め方を確認する必要がある。
準委任では,当然に完成品の引渡しが約束されているとは限らない。
しかし,専門業者として引き受けた調査,設計支援,進捗管理や技術上の問題への対応を適切に行う義務までなくなるわけではない。

確認する順序は,①何を行う契約だったか,②その業務にどのような不履行があったか,③それによってどの費用が無駄になったか,の3段階である。
成果が出なかった事実と,契約違反及び損害の立証を分けると,返金交渉や追加費用への対応を整理しやすい。

第2 完成義務,注意義務と報酬条件を分ける
1 契約書の表題と具体的な約束を照合する

民法632条の請負は仕事の完成を目的とする。
準委任では,同656条により委任の規定が準用され,同644条の善管注意義務や同645条の報告義務が問題となる。
ただし,「準委任」と書かれているだけで,すべての作業について同じ結論になるわけではない。
要件定義の支援,設計書の作成,プログラムの開発,移行支援やクラウド利用を工程・契約ごとに分け,仕様書や提案書を含めて何を約束したかを読む。

報酬についても,期間に応じて支払うのか,作業の履行後に支払うのか,得られた成果に対して支払うのかを確認する。
現行民法648条と648条の2は,通常の報酬と成果等に対する報酬を分けて定めている。
成果報酬型の準委任も,名称だけで請負と同じ責任になるわけではない。

2 業務の終了確認と最終システムの稼働確認を混同しない

IPAの開発モデル契約では,要件定義作成支援について,個別契約,要件定義検討会,要件定義書の確定,業務終了報告書による確認を区別している。
また,準委任型の支援業務であっても,善管注意義務違反による債務不履行責任が問題となる旨を解説している。
これは,モデル契約の条項・解説である。
自分の契約に同じ条項があるか,終了確認が何を対象とし,何を留保していたかは別に確認する。
設計書の承認や一工程の支払が,後の設計・開発上の問題をすべて解消するという意味にはならない。

要件定義では,ユーザーが業務上の優先順位を決める役割と,ベンダーが要求を整理し,実現方法,必要な工数,費用・納期への影響を説明する役割を対応させる。
契約書に「ユーザー主体」「ベンダーは支援」とあっても,実際に誰が調査・分析し,誰が設計書を起案したかを確認する。
準委任でも,予定時間を費やしたことと,引き受けた専門業務を適切に行ったことは同じではない。

第3 文化シヤッター事件の東京地裁判決
1 準委任という条項があっても不完全履行が認められた

東京地裁令和4年6月17日判決は,販売管理等に用いるシステムの開発・構築支援が頓挫した事件である。
共通約款には,顧客の管理・監督の下で業務を完成させることや,契約の性質が請負ではなく準委任であることが記載されていた。
裁判所は,ユーザーに提供された成果物について,技術的な制約等により社会通念上運用可能なものとして完成させることが困難で,合理的な期間内の本番稼働を見通せる状態になかったと判断した。

(続きを読む...)準委任のシステム開発が失敗したら―報酬,開発管理義務と損害賠償(AI作成)

M&Aの契約締結後に実行できないとき―前提条件・延期・解除・条件放棄(AI作成)

目次

第1 契約締結とクロージングは別の段階である第2 前提条件・誓約事項・解除条項を分ける1 何の義務に付された前提条件か2 条件を満たすために誰が何をするのか3 期限経過後に使える手段を確認する第3 最終契約後に取得を断念した公表例第4 実行前に作る条件確認表1 条件・担当・証拠・期限を一つの表で管理する2 株式譲渡でも同意や許認可の確認を省かない3 事業譲渡では資産・契約・従業員・許認可を同時に確認する4 経営者保証は解除の完了を別に確認する第5 延期する場合と条件を放棄する場合1 延期は日付以外も見直す2 条件放棄は第三者の承諾や法令を置き換えない第6 実行しない場合の解除と損害賠償第7 参照資料
第1 契約締結とクロージングは別の段階である

M&Aの最終契約に署名しても,その日に代金の支払と株式の移転を行うとは限らない。
必要な許認可,重要取引先の同意,借換え,経営者保証の解除等を準備し,クロージング日に実行する契約がある。
署名後にこれらの準備が整わないときは,前提条件,準備のための義務,延期・解除の規定を分けて読む。

この記事は,主として非上場会社の株式譲渡を対象に,最終契約の締結後に予定どおり実行できない場合の確認手順を説明する。
前提条件が一つ満たされないことから,契約全体が当然に無効となり,違約金や損害賠償が発生すると決め付けることはできない。

第2 前提条件・誓約事項・解除条項を分ける
1 何の義務に付された前提条件か

クロージングの前提条件(CP)は,買主又は売主が実行日に義務を履行するための条件として定められることがある。
契約自体の効力発生に付された条件なのか,代金支払等の実行義務の条件なのかを確認する。
民法127条の条件に関する規定を挙げるだけでは,個別契約のどの部分が条件付きかまでは決まらない。

例えば,取引先の同意が未取得でも,秘密保持,通常の事業運営,情報提供又は同意取得へ向けた協力の義務は既に発生していることがある。
実行義務の条件が満たされないことと,それまでの義務が存在しないことは別である。

2 条件を満たすために誰が何をするのか

「銀行の同意を得る」という条件だけでなく,誰が相談し,誰が資料を提出し,どの期限までに,どの程度の対応をする義務を負うかを定める。
第三者の判断そのものを保証する義務か,合理的な努力等を尽くす義務かによっても検討は変わる。
条件の未成就と,そのための準備義務の違反を分けて記録する。

3 期限経過後に使える手段を確認する

契約で定めた最終期限までに条件が満たされない場合,誰が解除できるか,通知・催告が必要か,自分の義務違反により未成就を招いた当事者にも解除権があるかを確認する。
契約上の解除条項とは別に法定解除を検討する場合も,民法541条・542条・543条の要件を個別に検討する必要がある。

例えば,「最終期限の経過により本契約は終了する」という条項と,「最終期限までに条件が満たされない場合,買主は通知により解除できる」という条項とでは,終了に必要な行為が異なる。
自動終了の有無,解除できる者,通知の方法・到達期限及び終了後に存続する条項を確認する。

第3 最終契約後に取得を断念した公表例

ローソンの平成21年3月14日発表は,am/pmの株式及び貸付債権の取得に関する最終契約を同月13日に締結したことを公表し,実行に向けた前提条件として商標権者との合意等を挙げていた。
しかし,同年5月19日の発表では,商標権者との合意形成が困難であること等を踏まえ,協議の結果,株式等の取得を断念した旨を公表した。

この事例は,最終契約の締結発表と買収の実行完了が同じではないことを示す。
一方,企業の発表は裁判所の判断ではなく,契約全文もこれらの発表から確認できない。
誰に契約違反や損害賠償責任があったかまでを,この発表だけで断定することはできない。

(続きを読む...)M&Aの契約締結後に実行できないとき―前提条件・延期・解除・条件放棄(AI作成)

M&Aの基本合意は撤回できるか―独占交渉・交渉打切りと損害賠償(AI作成)

目次

第1 「基本合意書」という題名だけでは拘束力は決まらない第2 どの条項が法的拘束力を持つのか1 取引条件と交渉中の義務を分けて読む2 留保を付けるなら相手方への説明もそろえる第3 独占交渉義務とUFJ事件の最高裁決定1 最終契約の義務がなくても独占交渉義務は問題になる2 「差止めが認められない」と「違反しても責任がない」は別である第4 交渉打切りと調査費用・準備費用1 契約が成立しなかっただけで費用を全額請求できるわけではない2 過大な期待を与えて支出させた事案の最高裁判決第5 交渉を続けない場合の確認手順1 打切り理由と未解決事項を記録する2 通知と交渉終了後に残る義務を確認する第6 仲介・FA契約の専任条項と混同しない第7 参照資料
第1 「基本合意書」という題名だけでは拘束力は決まらない

M&Aの基本合意書に署名した後で,DDの結果が想定と違う,資金調達ができない,又は別の候補先と交渉したいという事情が生じることがある。
この場合,取引を実行する義務,独占交渉義務,秘密保持義務及び費用の負担を分けて確認する。
最終契約を締結する義務がないことから,基本合意のすべてを自由に無視できるとは限らない。

この記事は,主として非上場会社の売主・買主間の基本合意を対象に,交渉を続けない場合の確認手順を説明する。
仲介者・FAへ支払う報酬や,その専任条項は別の契約関係である。

第2 どの条項が法的拘束力を持つのか
1 取引条件と交渉中の義務を分けて読む

基本合意では,予定価格,譲渡対象,日程等を暫定条件としながら,独占交渉,秘密保持,費用負担及び準拠法等を法的拘束力のある条項とすることがある。
ただし,これがすべての基本合意に共通する決まりというわけではない。
拘束力を定める条項が,どの条番号を挙げ,どの義務を除いているかを実際の文面で確認する。

確認する事項特に読む点最終契約の締結・買収の実行既に義務を負うのか,DDや機関決定を経て改めて合意するのか予定価格・従業員処遇確定した約束か,今後の協議条件か。拘束力条項の対象か独占交渉禁止される行為,相手方,期間及び解除条件秘密保持・資料管理交渉終了後の存続,返還・削除と法令上の保存の扱い調査費用・違約金自己負担の原則,例外,発生事由,金額又は計算方法
2 留保を付けるなら相手方への説明もそろえる

社内決裁,融資,重要取引先の同意等を前提とするなら,何が未了で,誰の判断を要し,いつ判断できるのかを明らかにする。
書面では未確定としていても,担当者が「承認は終わっている」などと説明し,相手方に大きな支出をさせた場合は,その説明と交渉経過も問題になる。

契約書への署名を成立条件にしたか等の一般的な問題は,口頭合意・契約書と契約成立の留保で扱っている。

第3 独占交渉義務とUFJ事件の最高裁決定
1 最終契約の義務がなくても独占交渉義務は問題になる

独占交渉条項については,第三者への情報提供,勧誘,提案の受領,協議及び契約のうち,何を禁じているかを読む。
「独占」という言葉だけで範囲が確定するわけではない。
既存の候補先との接触をどう扱うか,義務を負う当事者・関係会社の範囲,期限延長の手続も確認する。

最高裁平成16年8月30日決定(平成16年(許)第19号,民集58巻6号1763頁)は,UFJグループの事業に関する基本合意の独占交渉条項をめぐる仮処分の事案である。
基本合意には,最終的な合意に達する義務がない旨の条項があった。
最高裁は,独占交渉義務が当然に消滅したとはせず,他方で,この事案における仮処分の必要性を認めなかった。

2 「差止めが認められない」と「違反しても責任がない」は別である

同決定は,具体的な合意内容に即して,交渉への期待に関する利益と取引が実行された場合の利益を区別し,保全の必要性を検討したものである。
基本合意が無効だとか,独占交渉違反に損害賠償責任が生じないという一般的な判断ではない。

売主が別の候補先へ移りたいときは,まず期間満了,中途終了の事由,解除・通知の方式及び違約金を確認する。
期限を延長する場合も,無期限の拘束にならないよう,未了事項と次の期限を書面で合意することが考えられる。

(続きを読む...)M&Aの基本合意は撤回できるか―独占交渉・交渉打切りと損害賠償(AI作成)

M&Aの表明保証違反が発覚したら―簿外債務・架空売上と補償請求(AI作成)

目次

第1 表明保証違反が見つかったときに確認すること第2 契約書と開示資料を対応させる1 保証した事項・時点・当事者を特定する2 DDで開示しただけで免責されるとは限らない3 売主は開示・責任範囲・第三者請求手続を一体で確認する第3 DD不足と買主の認識に関する裁判例1 東京地裁平成18年1月17日判決2 大阪地裁平成23年7月25日判決第4 損害額は「発見した金額」と一致するとは限らない1 架空売上と買収価格の関係2 価格調整・補償・後払いを混同しない第5 期限・上限・少額免責を確認する1 通知期限と請求期限を区別する2 免責金額の仕組みによって結論が変わる第6 請求と防御のために残す資料第7 参照資料
第1 表明保証違反が見つかったときに確認すること

M&Aで会社を買った後に簿外債務,架空売上,未払税金等が見つかっても,その額をそのまま売主へ請求できるとは限らない。
契約上の表明保証,開示による例外,補償の対象,通知・請求の期限,責任上限及び損害の計算を順に確認する必要がある。

この記事は,主として非上場会社の株式譲渡を対象に,買主が補償請求を検討する手順と,売主が契約・開示の段階で確認すべき点を説明する。
「表明保証違反があるか」と「その違反について,誰が,いくら,いつまでに請求できるか」は別の問題である。

発覚直後には,契約書・開示資料・価格算定資料を確保し,期限を確認するとともに,取引の変更や税務上の修正を先に行ってよいかを検討する。
補償請求に関係する第三者との和解等について,売主への通知・協議・同意を契約が要求していることがあるためである。

第2 契約書と開示資料を対応させる
1 保証した事項・時点・当事者を特定する

まず,問題の事実がどの表明保証に反するかを特定する。
財務諸表の正確性,重要な債務の不存在,納税,許認可,重要契約,労務等の条項は,対象とする事実も例外も異なる。
契約締結時とクロージング時の両方で保証するのか,一定の日付の財務諸表だけを保証するのか,重要性や売主の認識による限定があるのかを読む。

対象会社の損失について,株式の買主自身が請求できるかも確認する。
対象会社と株主である買主は別の法人・主体であり,契約に対象会社の損失を買主の損失として扱う規定がある場合と,ない場合を一緒にしない。

2 DDで開示しただけで免責されるとは限らない

デュー・ディリジェンス(DD)で資料を渡したことと,その事項を表明保証の例外として合意したことは同じではない。
開示資料に記載した事項をどの範囲で例外とする契約なのか,例外事項を個別に列挙する必要があるのかを確かめる。

売主は,資料の名称・版・開示日時・対象条項を対応させて残す。
買主も,資料室の最終データ,質問回答及び開示リストを保存し,契約締結後に更新された資料と区別する。
膨大な資料を資料室へ入れたという事実だけで,問題が十分に開示されたかまで決まるわけではない。

3 売主は開示・責任範囲・第三者請求手続を一体で確認する

売主は,データルームに資料を置くだけでなく,開示書面で,どの表明保証の例外として何を開示するかを具体的に対応させる必要がある。
買主の現実の認識だけで補償請求を排除するのか,契約締結前に知っていた違反でも請求できるのかは,いわゆるサンドバッキング条項の有無によって結論が変わり得る。

通常の表明保証については,知識限定,重要性限定,請求期間,上限額,少額免責及びバスケットを組み合わせる。
権限・権利帰属・故意による違反等の基本事項と,通常の事業上の表明保証を同じ責任条件にする必要はない。

逸失利益・間接損害の扱い,損害軽減義務,保険金等の控除,二重回収の禁止及び第三者請求への防御参加も,補償条項で定める。
補償を契約上の唯一の救済とする場合は,詐欺・故意,差止めその他の例外をどこまで残すかを確認する。

事業譲渡では,表明保証の対象を対象事業及び譲渡対象財産に結び付ける必要がある。
事業譲渡契約全体の確認事項は,事業譲渡契約書のチェックポイント―売主・買主別に見る譲渡対象,代金,前提条件,表明保証及び補償(AI作成)を参照されたい。

(続きを読む...)M&Aの表明保証違反が発覚したら―簿外債務・架空売上と補償請求(AI作成)

個人事業主の廃業と借金―経営者保証との違いと私的整理・個人再生の選び方(AI作成)

目次

第1 個人事業主は,廃業しても本人の借金が残る第2 二つのガイドラインと,本人の借金・保証債務を区別する1 中小企業の事業再生等に関するガイドラインは,個人事業主も対象に含む2 経営者保証に関するガイドラインは,保証契約を扱う3 保証人の固有債務を含める問題も別にある第3 返済交渉・廃業型私的整理・個人再生・破産を検討する1 返済交渉では,廃業後も履行できる計画にする2 廃業型私的整理では,金融債務以外の支払も計画に反映する3 個人再生は,将来の収入等を踏まえて検討する4 返済の見通しが立たない場合は,破産・免責も検討する第4 信用情報や自宅の扱いを,一律に判断しない第5 相談前に,債務と保証関係を一覧にする第6 主な参照資料
第1 個人事業主は,廃業しても本人の借金が残る

個人事業主が営業をやめても,本人が借りた事業資金や,支払っていない仕入代金が当然になくなるわけではない。
会社と経営者が別の主体である場合とは異なり,個人事業では,事業の借入れも本人の債務である。
廃業届の提出と,債権者に対する債務の処理を分けて考える必要がある。

返済を続けられない場合には,債権者との交渉,廃業型の私的整理,個人再生,破産などについて,資産・負債と今後の収入に即して検討する。
「廃業したからすべて返済不要」「会社の経営者と同じ方法で保証だけ外せる」という理解は適切ではない。

第2 二つのガイドラインと,本人の借金・保証債務を区別する
1 中小企業の事業再生等に関するガイドラインは,個人事業主も対象に含む

令和8年3月改定の「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」Q&AのQ3は,対象となる中小企業者に個人事業主も含まれると説明している。
したがって,個人事業主であるという理由だけで,このガイドラインによる廃業型私的整理の検討ができなくなるわけではない。
ただし,対象債権者の範囲,手続の要件,合意を得られる見通しを確認する必要がある。

2 経営者保証に関するガイドラインは,保証契約を扱う

「経営者保証に関するガイドライン」は,保証契約や保証債務の整理についての準則である。
同ガイドラインのQ&AのQ3にも,主たる債務者となる中小企業等の範囲に個人事業主が含まれるとの説明がある。
この記載から,本人が直接借りた債務を,保証債務と同じ方法で当然に免除できるという結論は導けない。

例えば,個人事業主A本人の事業借入れは,Aの主債務である。
その借入れを別の人Bが保証している場合には,Bの保証債務について適用要件を検討する場面がある。
また,Aが別の会社の借入れを保証している場合には,Aの本人借入れと,Aが負う保証債務を分けて整理する。

「個人事業主には経営者保証ガイドラインが一切関係しない」と一括するのも,「本人の事業借入れがそのまま経営者保証になる」と扱うのも適切ではない。
借主欄と保証人欄を確認し,どの債務について,どの立場で責任を負っているかを整理することが出発点である。

3 保証人の固有債務を含める問題も別にある

廃業時の経営者保証の整理では,保証人自身の住宅ローンなどの固有債務が計画の履行に重大な影響を及ぼす場合,その債権者を対象に含めることが検討される。
これは,保証債務の整理に関連して固有債務を調整する問題である。
保証債務のない個人事業主が,本人借入れだけについて当然に同じ枠組みを使えるという説明ではない。

第3 返済交渉・廃業型私的整理・個人再生・破産を検討する
1 返済交渉では,廃業後も履行できる計画にする

廃業後の給与収入などから返済できる場合には,債権者との返済猶予や分割返済の交渉が選択肢になる。
ただし,返済額を決めるときは,生活費,税金・社会保険料,住居費なども考慮し,継続して履行できるかを確認する。
合意していない債権者に対して,同じ条件を当然に押し付けられるわけではない。

(続きを読む...)個人事業主の廃業と借金―経営者保証との違いと私的整理・個人再生の選び方(AI作成)

会社の債務免除で個人保証も消えるか―特別清算の協定・個別和解と保証存続合意(AI作成)

目次

第1 会社の債務免除だけで,経営者の保証が消えるとは限らない第2 特別清算の協定は,保証人への権利に影響を及ぼさない第3 個別和解の保証への影響は,2判決の手続と判断を分けて読む1 東京地裁平成11年11月26日判決は,旧会社整理の事件である2 東京地裁平成18年6月27日判決は,旧商法下の特別清算の個別和解を扱う3 現行法についての結論を,一般化しすぎない第4 担保解除・債務免除・保証解除は,別々に確認する第5 合意書と保証関係の書類で確認すること1 誰に対する,どの債務を変更するのか2 保証人が作成した確約書・念書も確認する3 保証を整理する場合には,別の合意内容を詰める第6 主な参照資料
第1 会社の債務免除だけで,経営者の保証が消えるとは限らない

会社が金融機関から債務免除を受けたとき,経営者は「元の借金がなくなったのだから,自分の保証も終わった」と考えるかもしれない。
しかし,保証への影響は,会社の債務を整理した手続と,保証人についての合意内容によって異なる。
会社に対する債権の処理と,保証人に対する請求権の処理を別に確認することが必要である。

特に,特別清算の協定,特別清算における個別和解,裁判外の個別合意は,同じ方法ではない。
また,保証の存続を認める確約書・念書が作成されている場合には,その書面自体が重要になる。
廃業手続の全体像は,私的整理・特別清算・経営者保証の進め方を参照されたい。

第2 特別清算の協定は,保証人への権利に影響を及ぼさない

会社法571条2項は,特別清算の協定が,協定債権者の保証人などに対する権利や,第三者が提供した担保に影響を及ぼさない旨を定めている。
同条3項は,協定の認可決定が確定したとき,協定債権者の権利が協定の定めに従って変更されるとしている。
会社について協定による減免が行われたというだけで,保証人も同じ割合で免除されたと考えることはできない。

これは,法律が特別清算の協定について定める効果である。
経営者についても保証を整理する場合には,そのための手続や合意を別に検討する。
協定書の会社に関する免除条項だけを見て,保証関係の確認を終えるべきではない。

第3 個別和解の保証への影響は,2判決の手続と判断を分けて読む
1 東京地裁平成11年11月26日判決は,旧会社整理の事件である

この判決は,旧会社整理の手続において,各債権者の個別の同意に基づく整理計画が保証債務に及ぼす影響を扱ったものである。
和解型の特別清算を直接判断した事件ではない。
裁判所は,個別の合意が契約としての性質を持つことなどを踏まえ,倒産手続の協定等に関する保証への特則の類推適用を認めなかった。

この判決からは,主債務の変更と保証の関係を,採られた手続と合意の性質に即して検討する必要性が分かる。
ただし,「個別合意なら,あらゆる整理手続で保証が必ず消える」という一般論を導くことはできない。
保証人との独立の合意によって保証の扱いを定める問題も残る。

東京地裁平成11年11月26日判決(平成11年(ワ)第15224号,判例秘書の判例番号 L05430391)。

2 東京地裁平成18年6月27日判決は,旧商法下の特別清算の個別和解を扱う

この判決は,旧商法下の特別清算で,協定によらず個別和解をした場合の保証の扱いを判断している。
裁判所の主たる判断は,和解が協定に代わる機能を持ち,当事者も会社の免除によって保証まで消滅することを予定していなかったことなどを踏まえ,旧商法・旧破産法の規定の準用により,保証債務に影響が及ばないとするものである。

ただし,判決はそれだけで結論を支えていない。
仮に保証の付従性を排除するために別段の定めが必要であるとしても,保証を存続させる確約書や念書から,その別段の定めを認めることができる,という判断も示している。
この書面に関する判断を落として,「和解型特別清算では何も取り決めなくても保証が必ず残る」と要約するのは適切ではない。

(続きを読む...)会社の債務免除で個人保証も消えるか―特別清算の協定・個別和解と保証存続合意(AI作成)

廃業を決めた会社は取引先に支払ってよいか―銀行返済の猶予と偏頗弁済の注意点(AI作成)

目次

第1 銀行への返済猶予と,取引先への支払は分けて考える第2 廃業型私的整理では,通常の取引債権を対象から外す場合がある第3 一時停止の要請と,実際の返済猶予は同じではない1 主要債権者等の関与と,要請への対応条件を確認する2 口座の利用や相殺も,個別に調整する第4 解散後と特別清算開始後には,別の弁済ルールがある1 解散後の債権申出期間中は,会社法500条を確認する2 特別清算開始後は,会社法537条を確認する第5 私的整理が不成立となり破産した場合のリスク第6 リース料・従業員への支払で混同しやすい点1 リースは,使用中の支払と返却後の残債務を分ける2 労働債権には,独自の優先関係や実務上の問題がある第7 支払前に整理したい資料第8 主な参照資料
第1 銀行への返済猶予と,取引先への支払は分けて考える

廃業を決めた会社でも,取引先への支払をすべて直ちに止めるとは限らない。
廃業型の私的整理では,金融債務を整理しながら,通常の商取引債務を支払って円滑な廃業を目指す場合がある。
ただし,「銀行に相談したので,取引先には自由に払ってよい」という結論にはならない。

確認するのは,整理の対象となる債権者,金融機関の同意,会社の資金繰り,解散や特別清算の段階,破産へ移行する可能性である。
手続の全体像は,借金のある会社は破産せずに廃業できるかを参照されたい。

第2 廃業型私的整理では,通常の取引債権を対象から外す場合がある

中小企業の事業再生等に関するガイドラインは,金融機関等を主な対象債権者とする枠組みである。
同Q&AのQ4は,通常の商取引債権者を対象に含めることは一般に適切でないとしつつ,多額の債権を持ち密接な関係があるなど,参加が必要となる場合も説明している。
取引先であればすべて対象外,という扱いではない。

また,金融債務の整理における対象債権者の範囲と,経営者の保証債務を整理する際の対象債権者の範囲も,区別する必要がある。
例えば廃業時のリース債権者については,ガイドラインに明示的な説明がある。
債権の名称だけで判断せず,契約と整理の対象を確認する。

取引先への支払を続ける計画には,資産の換価方針,金融債務以外の債務の弁済計画,金融債務の弁済計画を反映させる。
対象債権者にとっての経済合理性や,債権者間の衡平性も必要である。
単に「付き合いが長い」「今後も経営者個人と取引する」といった事情だけで優先的に支払う方針を決めるべきではない。

第3 一時停止の要請と,実際の返済猶予は同じではない
1 主要債権者等の関与と,要請への対応条件を確認する

令和8年3月改定の中小企業の事業再生等に関するガイドライン第三部5(1)は,廃業型私的整理の一時停止要請について定めている。
原則として主要債権者全員の同意を得た場合に要請でき,第三者支援専門家が既に選任されている場合には,主要債権者の意向を踏まえた同専門家の判断で足りるとされている。
要請先への同時性や,情報開示等に誠実に対応していることなどの条件も定められている。

このように,一時停止は会社が一方的に宣言するだけの仕組みではない。
返済猶予の対象,期間,担保権の実行や保証人への請求の扱いなどを,実際の要請書と回答で確認する。
ガイドライン上の誠実な対応と,個別債権の支払義務が法律上当然に停止することは分けて考える。

2 口座の利用や相殺も,個別に調整する

借入先の銀行に預金口座がある場合,返済猶予の協議中にその口座を従来どおり利用できるとは限らない。
預金と借入金の相殺の可否,入金先,必要な廃業費用の支出方法について,契約・法令・協議状況を確認する。
資金を動かすこと自体が債権者に不利益を与える場合もあるため,協議をせずに預金を移せば解決するという方法を一般的に勧めることはできない。

第4 解散後と特別清算開始後には,別の弁済ルールがある

(続きを読む...)廃業を決めた会社は取引先に支払ってよいか―銀行返済の猶予と偏頗弁済の注意点(AI作成)

借金のある会社は破産せずに廃業できるか―私的整理・特別清算・経営者保証の進め方(AI作成)

目次

第1 借金がある会社でも,破産以外の廃業方法を検討できる第2 私的整理・通常清算・特別清算の役割は異なる1 私的整理は,対象となる債権者との合意による整理である2 解散しても,清算が終わるまでは会社は存続する3 特別清算は,清算中の株式会社について裁判所が関与する手続である第3 金融機関との合意と,会社を終わらせる手続を組み合わせる第4 銀行返済を猶予してもらいながら,取引先に支払えるか第5 会社の借金と,経営者の保証債務を別々に整理する第6 廃業の準備から合意・清算までの進め方1 資産・負債と,当面の資金繰りを把握する2 事業や資産を譲渡する場合は,価格と代金の行方を説明できるようにする3 合意できない場合の方針を,資金が尽きる前に決める第7 相談時に確認したいこと1 費用や期間は一律に決まるか2 債務免除を受ければ税金の問題も終わるか3 初回相談には何を持参するか第8 主な参照資料
第1 借金がある会社でも,破産以外の廃業方法を検討できる

借金を全額返せない会社でも,債権者との合意や裁判所の特別清算手続を利用して,破産以外の方法で廃業できる場合がある。
ただし,営業をやめたり解散登記をしたりするだけで,借金や経営者の個人保証がなくなるわけではない。
会社の債務をどう処理するか,会社をどう清算するか,経営者の保証をどう整理するかを分けて検討する必要がある。

この記事では,金融機関に対する借入れがある株式会社を中心に,廃業型の私的整理と特別清算の関係を説明する。
個人事業主の本人名義の借金は,会社の借金と経営者保証を分ける場面とは異なる。
個人事業主の廃業と借金も参照されたい。

第2 私的整理・通常清算・特別清算の役割は異なる
1 私的整理は,対象となる債権者との合意による整理である

私的整理は,裁判所の多数決手続によって当然に債権を減額する制度ではない。
返済猶予,資産売却代金の分配,残債務の免除などについて,対象債権者との合意を形成する。
一部の債権者の同意を得たというだけで,合意していない債権者の権利まで変更することはできない。

中小企業の事業再生等に関するガイドラインには,廃業を目的とする私的整理の手続が設けられている。
この枠組みでは金融債務の整理が中心となり,通常の商取引債務を対象から外して支払うことがある。
しかし,対象債権の範囲,取引債権を支払う必要性,全体の資金繰りについて,具体的に検討することが前提である。

2 解散しても,清算が終わるまでは会社は存続する

会社法476条は,清算株式会社が清算の目的の範囲内でなお存続することを定めている。
解散は清算の入口であり,債務の消滅と同じ意味ではない。
借金の残った会社について,廃業届や解散登記だけを済ませれば責任がなくなると考えるのは適切ではない。

3 特別清算は,清算中の株式会社について裁判所が関与する手続である

会社法510条は,清算の遂行に著しい支障を来すべき事情があること,又は債務超過の疑いがあることを特別清算開始の原因として定めている。
同法511条2項は,債務超過の疑いがあるとき,清算人に開始申立てを義務付けている。
また,同法514条は,特別清算によっても清算を結了する見込みがないことが明らかな場合などを開始命令の除外事由としている。
債務超過だから必ず特別清算で終えられる,という制度ではない。

特別清算には,債権者集会の決議と裁判所の認可を経る協定を用いる方法と,個別の和解を用いる実務上の方法がある。
協定の可決要件は,出席した議決権者の過半数と,議決権総額の3分の2以上という二つの要件である(会社法567条)。
個別和解についても,特別清算開始後の和解に関する会社法535条など,裁判所の関与に関する規律を別に確認する。
「私的整理だから裁判所の手続は一切不要」とは限らない。

第3 金融機関との合意と,会社を終わらせる手続を組み合わせる

(続きを読む...)借金のある会社は破産せずに廃業できるか―私的整理・特別清算・経営者保証の進め方(AI作成)

死亡退職金と役員貸付金は相殺できるか―受給権者・相続放棄・会社の決議(AI作成)

目次

第1 会社に返すお金と会社から受け取るお金を分ける1 役員貸付金は会社側の債権である2 死亡退職金の受給権者を先に特定する第2 遺族固有の受給権を認めた最高裁判例1 最高裁昭和55年11月27日判決2 役員への支給も規程と決議を個別に読む第3 法定相殺には債権債務の対応が必要である1 同じ当事者間で向かい合う債務か2 相続債務と固有の退職金を図式化する第4 相続放棄後の受取りと精算合意書1 受給権が固有のものなら相続放棄とは分ける2 署名によって新たな負担を引き受けないか第5 会社の支給決議と精算を別に記録する1 支給額と受給者を決める手続2 従業員兼務の場合は追加確認する第6 民法上の帰属と税務を分ける1 固有財産でも相続税の対象となり得る2 差引額だけを退職金として記録しない第7 署名前に確認する資料と関連記事

会社が役員へ貸していたお金を,その役員の死亡後に支給する退職金から差し引きたい場合がある。
しかし,死亡退職金を受け取る人と,会社への借金を承継する人が同じとは限らない。
まず貸付債権の債務者と退職金の受給権者を特定し,次に相殺の要件,会社の支給手続及び税務を確認する。
遺族が精算書に署名することによって,元々負っていなかった債務まで引き受ける内容になっていないかも重要である。

第1 会社に返すお金と会社から受け取るお金を分ける
1 役員貸付金は会社側の債権である

会社が役員へ貸したお金は,会社側から見ると役員貸付金である。
役員が死亡した場合には,貸付けの存在,残高,返済期日,担保及び相続による債務の承継を確認する。
会社が社長から借りていた役員借入金とは逆である。
決算書の科目だけでなく,契約と実際の資金移動を確認する。

2 死亡退職金の受給権者を先に特定する

死亡退職金が相続財産に属するのか,規程等に基づく遺族固有の権利なのかを確認する。
名称が「退職金」であることだけで,一律に遺産となるわけでも,必ず遺族固有の権利となるわけでもない。
定款,役員退職慰労金規程,支給規程,株主総会等の決議,受給者の指定及び支給目的を確認する。
規程に受給者の記載が見当たらないという一事だけで,相続財産への帰属を決め付けない。

第2 遺族固有の受給権を認めた最高裁判例
1 最高裁昭和55年11月27日判決

最高裁昭和55年11月27日判決(昭和54年(オ)第1298号,民集34巻6号815頁)は,職員の死亡退職金に関する規程を扱った事例である。
その規程は,内縁の配偶者を含む配偶者を第一順位とするなど,民法の相続人の範囲・順位とは異なる受給者を定めていた。
最高裁は,遺族の生活保障を目的として民法とは別の立場から受給権者を定めたものと解し,遺族が直接,自己固有の権利として取得するとした。
原文:
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-53352.pdf

2 役員への支給も規程と決議を個別に読む

この判決は,全ての役員死亡退職金を一律に遺族固有の財産としたものではない。
また,会社の貸付金との相殺を直接判断した判決でもない。
役員について検討するときは,実際の規程や決議から誰にどのような請求権が生じるかを確かめる。
民法上の帰属と,相続税法がみなし相続財産として扱うかという問題も分ける必要がある。

第3 法定相殺には債権債務の対応が必要である
1 同じ当事者間で向かい合う債務か

(続きを読む...)死亡退職金と役員貸付金は相殺できるか―受給権者・相続放棄・会社の決議(AI作成)

社長死亡後の役員借入金は誰に返すのか―相続・貸付けの証拠・回収と税務(AI作成)

目次

第1 役員借入金と役員貸付金を取り違えない1 誰がお金を出したのかを確認する2 勘定科目だけで貸付けと決めない第2 相続後の返済先を特定する1 会社の債務と株式の相続は別である2 会社は請求者と権限を確認して支払う第3 貸付債権の存在を示す証拠を集める1 古い貸付けは複数の資料をつなぐ2 東京地裁平成30年3月27日判決第4 債権の存在と相続税評価を分ける1 会社が赤字でも当然にゼロとはならない2 相続開始時の回収可能性を資料化する第5 相続放棄・債務免除・返済猶予を混同しない1 相続放棄だけで会社の借金が消えるわけではない2 免除と返済条件の変更は文書で区別する第6 相談前にそろえたい資料第7 関連記事と法令

社長が会社へ貸していたお金は,社長の死亡によって当然になくなるわけではない。
会社の決算書で「役員借入金」とされているものは,会社側から見た借金であり,社長側から見ると会社に対する貸付債権となる。
死亡後は,会社の返済義務,債権を承継した人,実際に回収できる金額及び相続税の評価を分けて確認する。
相続人が後継社長になる場合も,会社と個人を同一視して帳簿から消すことはできない。

第1 役員借入金と役員貸付金を取り違えない
1 誰がお金を出したのかを確認する

会社が社長から借りたお金は,通常,会社の貸借対照表の負債に計上される役員借入金である。
これに対し,会社が社長へ貸したお金は,会社の資産である役員貸付金となる。
同じ「社長と会社の貸し借り」でも,相続人が会社へ請求する側なのか,会社から請求される側なのかが逆になる。
まず資金の流れを確認する。

取引会社の立場死亡後に確認する事項社長が会社へ貸した会社が債務者となる貸付債権の承継先,返済期日,会社の返済能力会社が社長へ貸した会社が債権者となる相続債務の承継,回収先,死亡退職金との精算
2 勘定科目だけで貸付けと決めない

社長が会社の支払を立て替えたのか,会社へ送金したのか,未払報酬を振り替えたのかによって,発生原因が異なる。
貸付けと認識していたのか,返還を求めない出資等だったのかも,帳簿の名称だけでは決まらない。
決算書,総勘定元帳,勘定科目内訳明細書,契約書,通帳及び返済記録を年月順に照合する。
会社が計上した残高と,個人側の認識が違う場合には,差額が生じた時期と根拠を確認する。

第2 相続後の返済先を特定する
1 会社の債務と株式の相続は別である

民法896条は,相続人が被相続人の財産に属した権利義務を承継することを定める。
会社に対する貸付債権も,一身専属の権利でない限り,相続の対象となる。
会社の株式を取得した人と,会社に対する貸付債権を承継した人が一致するとは限らない。
後継社長になったことだけで,会社に対する貸付債権全部を取得したことにもならない。
戸籍,遺言,遺産分割協議書,債権譲渡等の有無を確認し,誰がどの範囲で請求できるかを整理する。
共同相続された金銭債権の取扱いと,遺産分割の対象となる財産の取扱いを混同してはならない。

2 会社は請求者と権限を確認して支払う

相続人の一人から「全額を自分の口座へ振り込んでほしい」と言われても,その人が全額の受領権限を持つかを確認する必要がある。
相続関係,債権の帰属,受領代理権,支払済額を資料で確認し,受領証等を残す。
相続人間で帰属が争われているときは,会社が一方の説明だけに従って支払うことで,後に別の相続人から請求される問題が生じ得る。
誰に支払えば債務を消滅させられるかを確認してから実行する。

(続きを読む...)社長死亡後の役員借入金は誰に返すのか―相続・貸付けの証拠・回収と税務(AI作成)

ハラスメント調査のヒアリングシートの作り方―相談者・行為者・第三者別の質問,認否の記録,所見の書き分けと調査結果のまとめ(AI作成)

目次

第1 この記事の対象1 対象と基準日2 ヒアリングシートを使う目的第2 厚生労働省の資料が示す事実確認の枠組み1 指針が求める事実確認2 導入マニュアルの「パワーハラスメント相談記録票」3 協力者の保護とプライバシー第3 ヒアリングシートの共通欄1 冒頭の欄と冒頭で伝えること2 末尾の欄第4 対象者別の質問1 相談者用2 行為者用3 第三者用第5 記録の書き方1 認否の区分2 本人の発言と聴取者の所見を分ける3 生成AIによる要約の扱い第6 行為者用ヒアリングシートの記載例第7 調査結果のまとめ方1 事実ごとの認定と証拠2 厚生労働省のマニュアルが示す結果の整理3 保存と共有の範囲第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 法令に基づく指針3 厚生労働省の資料
第1 この記事の対象
1 対象と基準日

本記事は,職場のハラスメントの相談を受けた会社が,相談者,行為者とされる者及び第三者から事情を聴くときに使う「ヒアリングシート」(聴取記録の様式)の作り方を扱う。
厚生労働省の「パワーハラスメント対策導入マニュアル(第4版)」には,相談の受付に使う「パワーハラスメント相談記録票」が載っているが,行為者や第三者から聴き取るための様式は載っていない。
そこで,厚生労働省の指針と資料が求める事実確認の枠組みを確認した上で,対象者別の質問,認否の記録方法,聴取者の所見の書き分け及び調査結果のまとめ方を,記載例とともに整理する。
法令,指針及び厚生労働省の資料は,令和8年10月23日時点で確認したものである。

2 ヒアリングシートを使う目的

ヒアリングシートは,聴き漏らしを防ぐための質問表であると同時に,誰が,いつ,誰に対し,何を述べたかを後から確認できる記録である。
会社の判断(ハラスメントに当たるか,注意や懲戒をするか,配置転換をするか)は,この記録に基づいて行われ,本人が判断を争ったときは,判断の根拠として読まれる。
そのため,質問の順序よりも,本人の発言,聴取者の評価及び伝聞を混ぜずに残すことが重要になる。

第2 厚生労働省の資料が示す事実確認の枠組み
1 指針が求める事実確認
(1) 双方からの確認と相談者の認識への配慮

労働施策総合推進法31条3項に基づくパワーハラスメント指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は,事業主が講じなければならない措置として,事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認することを挙げている(4(3)イ)。
その例として,相談窓口の担当者,人事部門又は専門の委員会等が,相談者及び行為者の双方から事実関係を確認すること,その際,相談者の心身の状況や言動が行われた際の受け止めなどその認識にも適切に配慮することを示している(同①)。
ヒアリングシートを相談者用と行為者用に分けて用意するのは,この双方からの確認を,同じ事実について漏れなく行うためである。

(2) 主張が一致しないときの第三者からの聴取

同指針は,相談者と行為者との間で事実関係に関する主張に不一致があり,事実の確認が十分にできないと認められる場合には,第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずることを例に挙げている(4(3)イ①)。
第三者用のシートは,主張が食い違った事項に絞って質問を組み立てることになる。
厚生労働省の「パワーハラスメント対策導入マニュアル(第4版)」も,第三者に話を聞くと問題が外部に漏れやすくなるので,第三者にも守秘義務を十分理解してもらい,事実確認を行う人数はできる限り絞るよう求めている(同マニュアル37頁)。

2 導入マニュアルの「パワーハラスメント相談記録票」
(1) 記録票の項目

同マニュアルの参考資料11「パワーハラスメント相談記録票」は,表面に相談受付日時,相談者の情報(氏名,所属,連絡先等),「いつ」「誰から(相談者との関係)」「どのような(受けた場所,状況,パワハラと感じた具体的な言動など)」の欄と,同席者や目撃者の有無の欄を置いている(同マニュアル73頁)。
裏面には,6つの行為類型ごとの相談内容への当てはめと社内規程上の位置付け,相談者の生活・身体・精神への影響,上司・同僚・外部相談機関等への相談状況,職場環境への影響及び相談者の希望(調査してほしい,指導してほしい,配置転換等の人事上の措置,様子を見たい等)の欄がある(同74頁)。

(2) 記録票が対象とする場面

この記録票は,相談窓口が相談者から最初に話を聴く場面のためのものであり,行為者や第三者からの聴取には向いていない。
同マニュアルは,行為者に対して事実確認を行う際には中立的な立場で話を聴くこと,相談者の認識に誤解があった場合にも報復などは厳禁であることを伝えることを求めている(同マニュアル37頁)。
行為者用・第三者用のシートには,相談記録票とは別に,こうした冒頭の説明と,申告内容ごとの認否を記録する欄を設けることになる。

3 協力者の保護とプライバシー

(続きを読む...)ハラスメント調査のヒアリングシートの作り方―相談者・行為者・第三者別の質問,認否の記録,所見の書き分けと調査結果のまとめ(AI作成)

厳重注意書の書き方―懲戒処分との違い,記載事項,報復禁止条項及び受領欄(AI作成)

目次

第1 この記事の対象1 対象とする書面と基準日2 この記事で示すこと第2 厳重注意と懲戒処分の違い1 懲戒処分には就業規則の根拠と周知が必要である2 「厳重注意」が懲戒処分かどうかは就業規則で決まる3 ハラスメント防止指針は懲戒以外の措置も予定している第3 厳重注意書に書く事項1 表題,宛名,日付及び発信者2 注意の対象となった事実3 違反する規程4 懲戒処分としない理由5 今後求める行動と再発時の対応6 報復禁止と正当な権利行使7 受領欄8 非懲戒の注意指導書の文例第4 交付するときと交付した後1 交付の場で説明すること2 受領や署名を拒まれた場合3 保存と人事上の扱い4 交付後に事実認定への異議が出た場合第5 関連記事第6 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 法令に基づく指針及び施行通達4 厚生労働省の資料
第1 この記事の対象
1 対象とする書面と基準日

本記事は,民間企業が従業員の服務規律違反に対し,懲戒処分ではなく書面で注意する場合の「厳重注意書」を対象とする。
同僚に対する威圧的な言動など,ハラスメントに当たり得る事案を主な例とするが,記載事項の考え方は,他の服務規律違反の注意にも使える。
法令,裁判例及び厚生労働省の資料は,令和8年10月23日時点で確認したものである。
公務員に対する訓告・厳重注意など,民間の就業規則によらない制度は扱わない。

2 この記事で示すこと

厳重注意書を作るときに最初に決めるべきことは,その書面が自社の就業規則上の懲戒処分に当たるのか,懲戒処分ではない注意指導の記録なのかである。
懲戒処分としないなら,書面にもそのことを明記し,注意の対象とした事実を日時・場所・言動で特定し,今後求める行動と再発時の対応を書く。
ハラスメント事案では,相談者や調査に協力した者への報復を禁止する一方で,その禁止が本人の相談・受診・法的手続まで妨げるものではないことを示しておくと,後の紛争で書面の趣旨が争われにくくなる。

第2 厳重注意と懲戒処分の違い
1 懲戒処分には就業規則の根拠と周知が必要である
(1) 就業規則に懲戒の種別と事由を定める

労働基準法89条9号は,常時10人以上の労働者を使用する使用者が作成する就業規則の記載事項として,「表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項」を挙げている。
最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決(フジ興産事件)は,使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要し,就業規則が拘束力を生ずるためには,その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要すると判断した。
したがって,懲戒処分として注意するのであれば,その処分が就業規則に定めた懲戒の種類に当たり,懲戒事由に該当することが前提になる。

(2) 懲戒処分は権利の濫用と判断されることがある

労働契約法15条は,懲戒が,労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,権利の濫用として無効になると定めている。
懲戒処分とするかどうかを判断する際は,行為の内容,回数,相手への影響,本人の認否,過去の注意歴及び同種事案との均衡を,処分の重さと比べて検討することになる。
懲戒処分までは相当でないと判断した事案で,それでも本人に改善を求める必要があるときに使われるのが,懲戒処分ではない書面による注意である。

2 「厳重注意」が懲戒処分かどうかは就業規則で決まる
(1) 名称ではなく就業規則上の位置付けを確認する

「厳重注意」「訓告」「戒告」という名称から,懲戒処分かどうかが一律に決まるわけではない。
自社の就業規則が懲戒の種類として「訓告」や「厳重注意」を定めていれば,それは懲戒処分であり,就業規則所定の懲戒事由に該当することが必要になり,就業規則が弁明の機会や懲戒委員会等の手続を定めていればその手続も踏むことになる。
就業規則の懲戒の種類に含まれていない注意であれば,業務上の指導として行うものであり,書面の表題や本文でもそのことが分かるようにする。

(2) 始末書の提出を求めるかどうか

厚生労働省の「モデル就業規則」(令和7年12月版)は,第67条で懲戒の種類の一つとして「けん責」を掲げ,その内容を「始末書を提出させて将来を戒める。」としている(同資料86頁)。
同条の解説は,懲戒処分の種類は規程例に掲げたものに限定されず,公序良俗に反しない範囲内で事業場ごとに決めることも可能であるとしている(同資料87頁)。
懲戒処分ではない厳重注意書に始末書の提出命令を組み合わせると,自社の就業規則がけん責を「始末書を提出させて将来を戒める」処分と定めている場合,その書面がけん責と同じ内容になり,懲戒処分ではないという説明と食い違うおそれがある。

(続きを読む...)厳重注意書の書き方―懲戒処分との違い,記載事項,報復禁止条項及び受領欄(AI作成)

レジデンシャルプロキシとは―家庭用IoT機器が犯罪の踏み台になる仕組みと対策(AI作成)

目次

第1 レジデンシャルプロキシについての結論1 家庭の回線を第三者へ使わせる仕組み2 利用者が承知している場合と知らない場合がある第2 国内で確認された規模1 一日最大約2万7000のIPアドレス2 不正送金事件との関係第3 どのような機器が悪用されるのか1 動画視聴端末,ルーター及びカメラ2 無料VPN及び提供元不明のアプリ3 DDoSボット等が追加される危険第4 悪用されていないか確認する方法1 機器とアプリを一覧にする2 通信量と設定の変化を見る3 外部からの到達可能性を確認する第5 悪用が疑われたときの初動1 通信を止めることと電源を切ることを分ける2 初期化や更新の前に記録を残す3 連絡先を整理する第6 平時の対策1 不審な機器及びアプリを導入しない2 更新とサポート期限を管理する3 JC-STAR及びNOTICEを利用する第7 法的責任の考え方1 機器の利用者2 メーカー,販売者及びサービス提供者3 直接判例の確認状況第8 よくある質問1 レジデンシャルプロキシを使うこと自体が違法ですか2 無料VPNを削除すれば安全ですか3 家庭用ルーターを初期化すべきですか第9 出典と確認範囲
第1 レジデンシャルプロキシについての結論

家庭の動画視聴端末,ルーター,ネットワークカメラ等が,利用者の知らない間に第三者の通信を中継する「レジデンシャルプロキシ」として悪用されている。
通信先からは一般家庭のIPアドレスによるアクセスに見えるため,不正送金,不正アクセス及びサイバー攻撃の実行者を隠す基盤となり得る。
本記事では,NICT,総務省及び警察庁の令和8年7月の公式資料を中心に,仕組み,国内の観測結果,確認すべき兆候,初動及び事業者の管理を整理する。

1 家庭の回線を第三者へ使わせる仕組み

レジデンシャルプロキシは,一般家庭向けのインターネット回線に接続した機器が,第三者の通信を中継する仕組みである。
通信先のサービスには家庭へ割り当てられたIPアドレスが記録されるため,攻撃者自身の接続元を把握しにくくなる。
企業が海外のデータセンター等からのアクセスを制限していても,国内の一般家庭からの通信に見えることで,不正検知を回避されることがある。

2 利用者が承知している場合と知らない場合がある

利用規約を読んで通信帯域を提供するサービスもあれば,提供元不明のアプリやマルウェアによって,利用者が気付かないまま中継機器にされる場合もある。
無料VPN又は「通信帯域を提供すれば収益が得られる」とうたうサービスについても,誰の通信をどの目的で中継するかを確認する必要がある。
利用者の認識,表示及び同意の有無と,実際に犯罪へ利用されたかは分けて調べる。

第2 国内で確認された規模
1 一日最大約2万7000のIPアドレス

NICTは,令和8年1月以降,一日当たり最大約2万7000のIPアドレスをレジデンシャルプロキシの出口ノードとして観測した。
国内には少なくとも数万台規模のレジデンシャルプロキシが存在すると推定している。
ここでいう数値は観測されたIPアドレス等に基づく推定であり,全ての家庭用IoT機器の台数ではない。

2 不正送金事件との関係

警察庁の分析では,令和6年中のインターネットバンキング不正送金事犯のうち,少なくとも1918件,被害額約28億9000万円でレジデンシャルプロキシが利用されていた。
被害件数全体の約44%,被害額全体の約33%に当たるとされる。
これは,レジデンシャルプロキシ自体が送金を行ったとの意味ではなく,攻撃者が接続元を隠す経路として利用したとの分析である。

第3 どのような機器が悪用されるのか
1 動画視聴端末,ルーター及びカメラ

公式ファクトシートは,「テレビに接続して無料で国内外の動画を視聴できる」などとうたう動画ストリーミング機器,ルーター,ネットワークカメラ及びデジタルフォトフレーム等を挙げている。
安価で提供者又は更新方法が不明な機器,初期パスワードのままの機器,インターネットへ管理画面を公開している機器及びサポート終了後の機器は,特に確認が必要である。

2 無料VPN及び提供元不明のアプリ

パソコン又はスマートフォンへ導入した無料VPN,提供元不明のアプリ及び通信帯域提供サービスによって,端末又は家庭内の機器が中継に使われることがある。
アプリを削除しただけで,ルーターや別のIoT機器に導入されたプログラムまで消えたとは限らない。
同じネットワークに接続している機器,管理アカウント及び外部通信を併せて確認する。

(続きを読む...)レジデンシャルプロキシとは―家庭用IoT機器が犯罪の踏み台になる仕組みと対策(AI作成)

AIワームとは―スマート家電を乗っ取る「デジタル粘菌」は実現したのか(AI作成)

目次

第1 AIワームについての結論1 AIワームとは何か2 既に確認されたことと未確認のこと第2 Anthropicが行った実験1 複数のテレビ端末による分散推論2 異なる機器への推論環境の構築3 隔離環境での伝播実験第3 「2026年末にも可能」の意味第4 従来型ワーム及びAI支援型攻撃との違い1 人がAIを道具として使う攻撃2 AIエージェントが対象ごとに攻撃方法を変える場合3 モデル自体が機器間を移動する場合第5 フランスの冷凍設備攻撃とは別の問題である第6 日本法上の位置付け1 攻撃者について問題となる犯罪2 メーカー,サービス事業者及び利用者の責任第7 スマート家電やIoT機器の対策1 平時に確認すること2 異常が疑われた場合第8 よくある質問1 AIワームは既に家庭で増殖していますか2 テレビ15台が乗っ取られたのですか3 フランスの冷凍設備攻撃はAIワームですか4 感染が疑われる機器は直ちに初期化すべきですか第9 出典と確認範囲
第1 AIワームについての結論

令和8年10月,Anthropicは,小型のAIモデルがスマート家電等のIoT機器上で自らの推論環境を構築し,別の機器へ広がる「AIワーム」が現実に近付きつつあるとの実験結果を公表した。
もっとも,家庭内の機器へ侵入し,自律的に増殖を続ける完全なAIワームが実環境で確認されたわけではない。
本記事では,実証された範囲,研究上の予測及び報道や専門家が付け加えた評価を分けた上で,日本法上の問題と利用者・事業者の対策を整理する。

1 AIワームとは何か

コンピュータワームは,人による個別操作を待たず,他のコンピュータへ自らを複製して広がるプログラムである。
Anthropicが検討したAIワームは,モデルの重みを攻撃用プログラムの一部として運び,又は公開された配布元から再取得し,侵害した機器上でAIによる推論を行う仕組みである。
従来型ワームがあらかじめ組み込まれた攻撃手順を繰り返すのに対し,AIワームは,遭遇した機器の種類や状態を読み取り,その機器に合わせた手順を組み立てる可能性がある。

2 既に確認されたことと未確認のこと

Anthropicは,安価なAndroid TV端末15台を連携させ,約260億パラメータのモデルを動かした。
また,約90億パラメータのモデルは,試した9種類の機器のうち8種類で推論環境を構築した。
隔離されたクラウド環境では,認証のない接続口を通じて,実験用ワームが複数のノードへ伝播した。

他方,現実の家庭や事業所へ無差別に侵入し,機器を探し,脆弱性を発見し,推論環境を構築し,さらに増殖する全工程を一つの小型モデルが完遂したわけではない。
Anthropic自身も,完全な自律型複製体はまだ得られていないと説明している。
したがって,「AIワームが既に野外で増殖している」「テレビ15台が自動的に乗っ取られた」とは書けない。

第2 Anthropicが行った実験
1 複数のテレビ端末による分散推論

実験に用いられたのは,1台約55ドル,メモリ4GBの市販Android TV端末15台である。
端末間でモデルの処理を分担させ,約260億パラメータのモデル(Gemma4-26B-A4B)を1秒当たり約0.39トークンの速度で動かした。
これは,安価な機器を多数集めれば一定規模のAIモデルを動かせることを示すが,実用的な高速処理や自動侵入を示すものではない。

冷蔵庫,オーブン,掃除機及び芝刈り機等は,計算資源を分散配置する脅威モデル上の例である。
これら全てを実際に乗っ取ってモデルを動かしたとの実験結果ではない。

2 異なる機器への推論環境の構築

約90億パラメータのモデルは,異なる9種類の機器のうち8種類で,自分を動かすための推論環境を構築した。
この実験は,機器ごとに異なるOS,計算環境又は導入手順へAIが対応できるかを調べたものである。
対象機器へ侵入するための脆弱性の発見及び攻撃は,実験の中心から外されている。

3 隔離環境での伝播実験

端から端までの伝播実験では,ファイアウォールで隔離された仮想環境に8台のクラウドノードとAndroidエミュレータを配置し,最初の感染点を研究者が用意した。
ワームは認証のない接続口を通じてノード間を移動し,各ノードで推論環境が正しさの確認を通過すると次のワームが起動する仕組みが用いられた。

(続きを読む...)AIワームとは―スマート家電を乗っ取る「デジタル粘菌」は実現したのか(AI作成)

メタに約4兆円の制裁金―ケンブリッジ・アナリティカ事件と4389万件の「違反」の数え方(AI作成)

目次

第1 ニューメキシコ州地裁が命じた内容第2 4389万9725件の内訳第3 違反件数はどのように計算されたか第4 陪審と裁判所が問題とした5分野1 利用者によるデータ管理及び「データを売らない」との表示2 第三者アプリの調査及び利用者への通知3 誤情報及びヘイトスピーチへの対応4 政治家・著名人等に対する異なる取扱い第5 ケンブリッジ・アナリティカ事件との関係第6 上限約2195億ドルから250億ドルになった理由第7 日本の個人情報漏えい慰謝料と単純比較できない理由第8 第一審判決であり,控訴と差止めの審理が残っている第9 子どもの安全を巡る別事件との区別第10 関連記事第11 出典及び確認範囲
第1 ニューメキシコ州地裁が命じた内容

令和8年10月21日,米国ニューメキシコ州第1司法地区裁判所は,State of New Mexico ex rel. Raúl Torrez v. Meta Platforms, Inc.(事件番号D-101-CV-2021-00132)について,Facebookを運営するMeta Platforms, Inc.に対し,250億ドルの民事制裁金を命じた。
ただし,陪審が認定した4389万9725件は,個人情報が漏えいした人数でも,被害者の人数でもない。
Metaが公表した26個の表示ごとに,その表示を受けることが予想された州内の利用者数又は人口を積み上げた州消費者保護法上の違反件数である。

判決は,支払済みとなるまで年15%の利息を付すとしている。
州が求めている差止めその他の非金銭的救済については,追加の書面提出と審理に留保された。

本件は,利用者の個人情報を直接流出させたことだけに対する損害賠償請求ではない。
ニューメキシコ州が,同州のUnfair Practices Actに基づき,Facebookが利用者に向けて行った表示が不公正又は欺瞞的であったと主張した州法上の執行事件である。

本記事では,ニューメキシコ州裁判所が公開した判決及び陪審評決票に基づき,報道だけでは分かりにくい違反件数の数え方,ケンブリッジ・アナリティカ事件との関係,250億ドルの位置付け及び日本の個人情報漏えい慰謝料との違いを整理する。
これは第一審の判断であり,Metaは控訴する方針を示している。

第2 4389万9725件の内訳

陪審は,次の5分野について,合計26個の表示を不公正又は欺瞞的な取引行為と認定した。

分野認定された表示の数違反件数利用者によるデータ管理及び「データを売らない」との表示6件1045万9944件誤情報対策についての表示2件348万6648件ヘイトスピーチ対策についての表示5件764万6592件政治家・著名人等にも同じ基準を適用するとの表示3件415万9944件第三者アプリの調査及び利用者への通知についての表示10件1814万6592件不公正又は欺瞞的な表示の合計26件4389万9720件

陪審は,これとは別に,上記5分野の各1件について非良心的取引行為を認定した。
そのため,評決上の総数は4389万9725件である。

第3 違反件数はどのように計算されたか

判決によれば,Facebookのニューメキシコ州における令和2年6月30日時点の月間利用者数は138万6648人であり,同州の人口は約210万人であった。

陪審は,各表示について,表示の方法及び想定された対象に応じて,138万6648人又は約210万人を違反件数として計上した。
例えば,令和2年のFacebook投稿について138万6648件,連邦議会で広く報道された発言等について約210万件という形である。

同じ利用者が複数の表示を見た可能性があり,同一人物が複数回計上されている。
また,実際に全員が各表示を閲覧したことを個別に立証した人数でもない。
したがって,4389万9725件を「漏えいした人数」又は「被害者数」と書き換えることはできない。

第4 陪審と裁判所が問題とした5分野
1 利用者によるデータ管理及び「データを売らない」との表示

陪審は,Facebookが,利用者は自己のデータを管理できる,個人データを販売しない,広告主に利用者を識別する情報を渡さないなどと説明した6個の表示を問題とした。

ここでは,「データを販売しない」という言葉と,利用者の行動等を自社内で分析し,広告主が特定の属性又は関心を持つ利用者へ広告を表示できるようにする仕組みとを区別する必要がある。
情報を商品として広告主へ引き渡すことと,プラットフォームが情報を保持したまま広告配信に利用することは,同じではない。

2 第三者アプリの調査及び利用者への通知

平成30年3月以降,Metaは,大量のデータへアクセスしたアプリを調査し,疑わしいアプリについて監査を行い,データを不正利用した事業者を排除し,影響を受けた利用者へ通知すると公表した。

(続きを読む...)メタに約4兆円の制裁金―ケンブリッジ・アナリティカ事件と4389万件の「違反」の数え方(AI作成)

研修・勉強会・Web学習は労働時間か―厚生労働省の令和8年6月リーフレットの事例と裁判例(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 労働時間の基準第3 厚生労働省のガイドライン(平成29年)第4 厚生労働省のリーフレット(令和8年6月)1 2種類のリーフレット2 労働時間に該当しないとされた事例3 労働時間に該当するとされた事例4 あらかじめ労使で確認しておくこと第5 裁判例1 Web学習(NTT西日本ほか事件)2 美容院の始業前の練習3 教育訓練の命令の限界第6 判断の目安第7 生成AIの研修・AIエージェントの作成課題第8 労働者・会社の対応1 労働者2 会社第9 関連記事第10 出典1 法令2 最高裁判例(裁判所ウェブサイト掲載)3 裁判例(判例秘書で本文を確認)4 厚生労働省の資料
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

会社の研修,終業後の勉強会,eラーニング等のWeb学習,自宅での練習の時間が労働時間に当たるかは,残業代の請求や労働時間の管理でよく問題になる。
厚生労働省は,令和8年6月,研修・教育訓練の時間が労働時間に当たるかについてのリーフレットを2種類作成し,該当する事例と該当しない事例を示した。
本記事は,これらのリーフレット,平成29年の労働時間の把握に関するガイドライン,最高裁判例及び下級審の裁判例から,判断の基準を整理するものである。
基準日は令和8年10月23日である。
条文はe-Gov法令検索で現行の規定を確認し,最高裁判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で,同サイトに掲載のない裁判例は判例秘書で本文を確認した。

2 結論

①労働時間に当たるかは,会社が「自由参加」「自己研鑽」と呼んでいるかではなく,使用者の指揮命令下に置かれていたといえるかで客観的に決まる。
②業務上参加が義務づけられた研修,使用者の指示による業務に必要な学習,所定時間内に行われる教育・訓練は,労働時間に当たる。
③形式上は自由参加でも,不参加が減給の対象になる,参加しないと業務に就けない,正社員登用の要件になっている,日時・参加者を会社が決めてレポートを求め欠席を指導する,といった事情があれば,事実上の強制として労働時間に当たる。
④会社が学習の道具や場所を提供するだけで,受講の指示も試験もなく,人事評価にも反映させていなければ,労働時間に当たらないとされやすい。
⑤会社が奨励したWeb学習について,一審が労働時間と認め,控訴審がこれを否定した裁判例があるとおり,境界の事案では判断が分かれる。
会社は,研修ごとに業務か自由参加かを決めて,あらかじめ労使で確認し,書面にしておくべきである。

第2 労働時間の基準

最高裁平成12年3月9日判決(平成7年(オ)第2029号,民集54巻3号801頁。三菱重工業長崎造船所事件)は,労働基準法上の労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるものではない。」とした。
そして,業務の準備行為等を事業所内で行うことを使用者から「義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは」,特段の事情のない限り,その時間は労働時間に当たるとした。

同じ日に同じ事件について言い渡された最高裁平成12年3月9日判決(平成7年(オ)第2030号,集民197号75頁)は,入退場門と更衣所との間の移動,終業後の洗身・入浴,休憩時間中の作業服等の一部の着脱の時間は,使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できないとして,労働時間に当たらないとした。
義務付けられているか,又は余儀なくされているかが,結論を分けている。

第3 厚生労働省のガイドライン(平成29年)

厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)は,使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たるとし,その例の一つとして,「参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間」を挙げている。
また,労働時間を自己申告させる場合について,休憩や自主的な研修,教育訓練,学習等であるため労働時間ではないと報告されていても,実際には使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間は,労働時間として扱わなければならないとしている。

第4 厚生労働省のリーフレット(令和8年6月)
1 2種類のリーフレット

厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署は,令和8年6月,次の2種類のリーフレットを作成した。
①「労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い」(労働基準監督署への問合せが多い事項について,実際の相談事例をもとに解説したもの)
②「「研修・教育訓練」に関する労働時間の考え方」(裁判例等に基づいて事例を紹介したもの)

どちらも,研修・教育訓練について「業務上義務づけられていない自由参加のもの」であれば労働時間に該当しないとしたうえで,「研修・教育訓練への不参加について、就業規則で減給処分の対象とされていたり、不参加によって業務を行うことができなかったりするなど、事実上参加を強制されている場合には、研修・教育訓練であっても労働時間に該当します。」としている。
②は,所定時間内など業務中に行われる教育・訓練は,基本的には労働時間に該当するとしている。

(続きを読む...)研修・勉強会・Web学習は労働時間か―厚生労働省の令和8年6月リーフレットの事例と裁判例(AI作成)

会社は社員に生成AIの利用・AIエージェントの作成を命じられるか―業務命令の根拠,作成・学習の時間と労働時間,人事評価(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 ソフトバンクの「1人100本」で公表されていること1 経過2 作ったものの中身3 公表資料から分からないこと4 量の段階から質の段階へ第3 会社が生成AIの利用・作成を命じる根拠1 就業規則と労働契約2 教育訓練の定め3 命じることができる範囲第4 AIエージェントを作る時間・使い方を学ぶ時間は労働時間か1 最高裁の基準2 厚生労働省のガイドライン3 厚生労働省のリーフレット(令和8年6月)4 Web学習についての裁判例5 AIエージェントの作成課題に当てはめると第5 人事評価に反映させる場合第6 命令に従わない社員への対応第7 情報管理と社員が作ったAIエージェントの扱い第8 会社が決めておくこと第9 関連記事第10 出典1 法令2 最高裁判例(裁判所ウェブサイト掲載)3 裁判例(判例秘書で本文を確認)4 厚生労働省の資料5 ソフトバンクの公表資料・報道
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

ソフトバンク株式会社は,令和7年の夏,全社員に1人100本のAIエージェントを作ることを「夏休みの宿題」として求めた。
同じように,社員に生成AIの利用やAIエージェント・カスタムGPTの作成を求める会社は今後も増えると考えられる。
本記事は,会社がこうした取組を社員に命じることができるか,作成や学習に使った時間が労働時間に当たるか,人事評価に反映させてよいか,拒んだ社員をどう扱うかを,労働契約法,労働基準法,最高裁判例,下級審の裁判例及び厚生労働省の資料から整理するものである。
基準日は令和8年10月23日である。
条文はe-Gov法令検索で現行の規定を確認し,最高裁判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で,同サイトに掲載のない裁判例は判例秘書で本文を確認した。

2 結論

①会社は,就業規則に合理的な定めがあり,それが周知されていれば,業務の進め方として生成AIの利用を命じることができると考えられる。
ただし,命令の目的・内容・方法が不合理であったり,社員の人格権を不当に侵害する態様であったりすれば,裁量の範囲を逸脱したものとして違法になる。
②会社の指示でAIエージェントを作り,又は生成AIの使い方を学んだ時間は,業務上義務づけられていれば労働時間に当たる。
所定労働時間の外に行わせれば,割増賃金の支払が必要になる。
③会社が学習の道具を用意して推奨しただけで,受講の指示も試験もなく,人事評価にも反映させていない場合は,労働時間に当たらないとされやすい。
④作成した本数や利用状況を人事評価・目標管理に結び付けたり,未達の社員に指導をしたりすると,事実上の強制として労働時間に当たると判断される方向に傾く,と本記事では考える。
⑤ソフトバンクの取組について公表されている資料からは,命令の根拠,作業の時間帯及び未達の扱いは分からない。
人事評価については「人事評価につながるものではない」と説明されている。

第2 ソフトバンクの「1人100本」で公表されていること
1 経過

ソフトバンクのビジネスブログに掲載された講演レポート(令和7年7月16日)によれば,宮川潤一社長は,SoftBank World 2025の特別講演で次のように述べた。
「6月の朝礼で『AIエージェントはこんなに簡単に作れる』と10分ほどの実演をしました。そして今年の8月末までの夏休みの宿題として、1人100本のAIエージェントを作ろうと社員に号令をかけました。それから6週間が経ち、2万人の社員で取り組んだことで一気に90万本のAIエージェントが出来上がりました」

ソフトバンクニュース(令和7年12月4日)は,令和7年6月に全社員が生成AIを利用できる環境が用意され,全社員が1人100個のAIエージェントを作成することを「ミッション」としたプロジェクトが始まったとし,8月末には250万を超えるAIエージェントができたとしている。
事務局の担当者は,「部門により進捗は異なりました」としつつ,「目標の期日までに、ほぼ全ての社員が1人100個のAIエージェントを作成できたことには、本当に驚いています。」と述べている。
令和7年9月のアンケート(回答者9,207名)では,約9割の社員が生成AIへの理解が深まったと回答したとされる。

ソフトバンクは,この講演の動画を,自社の公式ビジネスチャンネルでYouTubeに公開している(令和7年8月31日公開)。
1人100本の「宿題」についての発言は,講演の後半にある。

2 作ったものの中身

Business Insider Japanの記事(令和7年9月24日)によれば,作成されたのは,ChatGPTの法人向けプランで使える「GPTs(カスタムGPT)」である。
人事担当者は,作成のルールについて「ガイドラインは設けているが、必ずしも業務に関連するものでなくても良かった」と述べ,趣味に特化したものを作る社員もいたとしている。

(続きを読む...)会社は社員に生成AIの利用・AIエージェントの作成を命じられるか―業務命令の根拠,作成・学習の時間と労働時間,人事評価(AI作成)

誹謗中傷・名誉毀損の慰謝料相場はいくらか―法務省の令和8年調査報告書(203件)にみる媒体別の金額と増減の要素(AI作成)

目次

第1 法務省の調査報告書(令和8年4月)の概要1 調査の目的と対象2 数字を読むときの留意点第2 慰謝料の金額の分布1 全体の平均値・中央値2 価格帯別の分布第3 媒体別にみた慰謝料の額1 媒体ごとの平均値・中央値2 平成期と令和期の比較第4 被侵害利益と当事者の属性1 名誉権侵害と名誉感情侵害2 被害者・加害者の属性第5 慰謝料を上下させる考慮要素1 判決書に頻出する増額要素と減額要素2 金額との結び付きが比較的はっきりした要素3 謝罪・削除と名誉回復処分第6 発信者情報開示費用と制度の見直し1 発信者情報開示の費用2 法務省の「不法行為法制の在り方に関する研究会」3 関連記事第7 出典
第1 法務省の調査報告書(令和8年4月)の概要
1 調査の目的と対象
(1) なぜ法務省が慰謝料の額を調べたのか

法務省民事局は,令和8年4月,「インターネット上の名誉権侵害等の損害賠償額等に関する調査報告書」(全75頁)を公表した。
報告書は,人格権侵害の分野で認容される慰謝料の額が低廉であるとの指摘があり,近時はインターネット上の誹謗・中傷事案について特にその指摘が多いことを,調査の動機として挙げている(報告書2頁)。
調査は令和6年度から令和7年度にかけて行われ,日本弁護士連合会民事司法改革総合推進本部所属の弁護士が協力した。
報告書が冒頭の脚注で引くのは,日本弁護士連合会の「慰謝料算定の適正化を求める立法提言」(令和4年9月16日)である(報告書2頁脚注1)。

(2) 対象とした裁判例

調査の対象は,名誉権又は名誉感情の侵害を認めて損害賠償請求を認容した判決である。
特定の民間の裁判例データベースから,令和4年・令和5年に言い渡された判決(以下「令和期」という。)と,10年程度前の平成24年・平成25年に言い渡された判決(以下「平成期」という。)を抽出している(報告書2頁)。
件数は令和期161件,平成期42件の合計203件であり,そのうち主にインターネット上の権利侵害(報告書の「別表Ⅰ」)が118件,主にインターネット以外の媒体による権利侵害(同「別表Ⅱ」)が85件である(報告書6頁表1)。
電子メールは配布文書に類するものとして,インターネット以外の側に分類されている(報告書3頁)。

2 数字を読むときの留意点

報告書は,対象が特定の民間データベースの登録裁判例に限られるため,我が国の同種事案全般の傾向を直接反映するものではないと明記している(報告書2頁)。
金額は第一審判決の認容額であり,控訴審で変更されたことをデータベースから覚知できていない可能性もある(報告書5頁)。
したがって,以下の数字は慰謝料の相場を確定するものではなく,裁判例の分布を示す一つの資料として読む必要がある。

第2 慰謝料の金額の分布
1 全体の平均値・中央値

対象203件で認容された慰謝料の額は,平均値64.5万円,中央値30.0万円,最大値600万円である(報告書20頁~21頁表5)。
主にインターネット上の権利侵害118件に限ると,平均値47.0万円,中央値30.0万円,最大値349万円である。
主にインターネット以外の媒体による85件は,平均値88.8万円,中央値40.0万円,最大値600万円である(報告書21頁表5)。

2 価格帯別の分布

価格帯別の分布は,次の表のとおりである(報告書9頁表3)。

認容された慰謝料の額主にネット上(118件)主にネット以外(85件)10万円未満7件(5.9%)8件(9.4%)10万円以上30万円未満48件(40.7%)17件(20.0%)30万円以上50万円未満23件(19.5%)21件(24.7%)50万円以上100万円未満21件(17.8%)9件(10.6%)100万円以上150万円未満14件(11.9%)9件(10.6%)150万円以上200万円未満1件(0.8%)3件(3.5%)200万円以上250万円未満1件(0.8%)12件(14.1%)250万円以上3件(2.5%)6件(7.1%)

主にネット上の権利侵害では,30万円未満が46.6%と約半数を占めるのに対し,ネット以外では同じ価格帯が29.4%にとどまる(報告書9頁)。
ネット上の権利侵害で50万円未満の事案は,表の上3行を合計すると66.1%(78件)になる。
この46.6%と66.1%は,平成期の6件を含む主にネット上の権利侵害(別表Ⅰ)118件についての数字であり,令和期だけの分布ではない。

第3 媒体別にみた慰謝料の額
1 媒体ごとの平均値・中央値

(続きを読む...)誹謗中傷・名誉毀損の慰謝料相場はいくらか―法務省の令和8年調査報告書(203件)にみる媒体別の金額と増減の要素(AI作成)

Web制作・保守会社にPHPを更新する責任はあるか―保守契約の範囲,サポート終了版,責任制限条項と重過失(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 前提となるPHPのサポート期間と今回の修正第3 制作・保守の契約の性質1 請負と準委任2 IPA・経済産業省のモデル契約第4 前橋地裁令和5年2月17日判決1 事案2 債務の内容の決め方3 構築時の設定の不備は債務不履行4 保守契約上の修正義務は認めなかった5 責任制限条項と重過失6 損害の範囲第5 東京地裁令和5年2月27日判決(新たな脆弱性への追従)第6 責任制限条項と重過失についてのモデル契約の考え方第7 PHP2Shellの場面への当てはめ1 保守契約にPHPの更新や脆弱性対応が含まれている場合2 保守の範囲が曖昧な場合3 サポート終了版を使い続けている場合4 レンタルサーバーのPHPの場合第8 契約で決めておくこと第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例3 モデル契約とIPAのガイド4 PHPの資料
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

令和8年10月21日,PHPの開発チームは,認証を受けていない第三者による遠隔コード実行につながり得る二つの重大な脆弱性(CVE-2026-109618及びCVE-2026-109619)を修正した版を公開した。
本記事は,ウェブサイトを発注した事業者と,制作会社・保守会社との間で,PHPの更新や脆弱性への対応を誰が行う義務を負うか,放置して侵害された場合に損害賠償責任や責任制限条項がどう扱われるかを,民法,裁判例及び情報処理推進機構(IPA)と経済産業省のモデル契約から整理するものである。
基準日は令和8年10月23日である。
民法の条文はe-Gov法令検索で現行の版を確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索に掲載された判決の全文で確認した。
修正版への更新の手順は,PHPの緊急セキュリティ更新とWordPress保守―法律・税理士事務所の確認,バックアップ,互換性試験及び復旧手順で扱っている。

2 結論

①制作会社・保守会社がPHPの更新をする義務を負うかは,契約書だけでなく,提案書・仕様書・保守の手引書等を含めた合意の内容で決まる。
②前橋地裁令和5年2月17日判決は,構築を受託した会社がファイアウォールを全ての通信を許可する設定のまま引き渡したことを債務不履行とし,責任を契約金額までに限る条項は重過失があるときは適用されないとして,約1億4300万円の賠償を命じた。
③他方,同じ判決は,保守契約に基づく修正の義務については,契約や保守手引書を見てもその修正が保守契約の対象かどうか判然としないとして,債務不履行を認めなかった。
保守契約があるだけで,PHPの更新まで当然に保守会社の義務になるとはいえない。
④東京地裁令和5年2月27日判決(ベネッセの個人情報漏えい)は,システムの保守・運用を担う会社に,技術の進歩に伴って新たに生じた脆弱性に対応して設定を見直す注意義務を認めた。
⑤PHPの公式発表が直ちの更新を求めた今回のような場面で,更新が保守の範囲に入っていながら放置した場合は,重過失として責任制限条項が働かないと判断される可能性がある,と本記事では考える。
⑥発注者は,保守の範囲(ミドルウェアの更新,脆弱性情報の収集と対応,サポート終了版の移行)と対応の期限を契約で具体的に定めておく必要がある。

第2 前提となるPHPのサポート期間と今回の修正

PHP公式の「Supported Versions」によれば,各系列は最初の安定版の公開から2年間は全面的にサポートされ,その後の2年間は重大なセキュリティ問題についてだけサポートされ,合計4年でサポートが終了する。
令和8年10月22日時点の表では,8.2のセキュリティサポートは2026年12月31日まで,8.3は2027年12月31日まで,8.4は2028年12月31日まで,8.5は2029年12月31日までとされている。
8.1は2025年12月31日にサポートが終了し,最終版は8.1.34である。

今回の修正版は,8.5.12,8.4.27,8.3.36及び8.2.35である。
PHP公式は,8.1以前はPHPプロジェクトからの更新を受けないとしつつ,今回は深刻さに鑑みて,ソースから構築する利用者等のために7.4,8.0及び8.1への最小限の修正を示した。
また,Linuxのディストリビューションや長期サポートを提供する事業者の中には,修正を取り込んだ独自の版を提供するものがある。
サポートの終了した版のPHPを使っているサイトでは,今回の修正を当てるだけでなく,サポート対象の版へ移行する作業が必要になる。

PHP Foundationが10月21日に公表した報告によれば,Linuxのディストリビューションや長期サポートを提供する事業者は,利用者が速やかに更新できるよう,修正を事前に受け取っていた。
他方で,同じ報告は,Chainguardが協調公開の6時間以上前に,公開前の情報の取扱いの取決め(エンバーゴ)を一方的に破って修正を含むイメージを公開したとしている。
保守を委託する側から見ると,委託先が脆弱性の情報を事前に受け取れる立場にあるか,受け取った情報をいつ,どの範囲で使えるかによって,対応を始められる時刻が変わる。
そのため,保守契約や秘密保持の取決めでは,事前通知の受領と利用の範囲,早期の公開を認める例外の条件及びその場合の通知の方法を,あらかじめ明文で定めておくことが望ましいと考えられる。

【令和8年10月24日追記】PHP公式の10月23日付追加告知には,特定のセッション設定とコードの組合せについての注意もある。
保守の範囲や対応期限を検討するときは,版番号だけで完了とせず,対象環境の条件とその後の公式情報も確認する。

(続きを読む...)Web制作・保守会社にPHPを更新する責任はあるか―保守契約の範囲,サポート終了版,責任制限条項と重過失(AI作成)

脆弱なPHPを使っていただけで漏えい等報告は必要か―PHP2Shellと個人情報保護法26条,施行規則7条3号の「おそれ」及び本人通知(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 今回の脆弱性で報告の判断に関係する点第3 報告・通知の対象となる事態1 個人情報保護法26条と施行規則7条2 「おそれ」の意味3 サイバー攻撃について示された例4 マルウェアを検知しただけでは直ちに「おそれ」とはしない第4 PHP2Shellの場面への当てはめ1 調べても痕跡が見つからない場合2 侵入の痕跡が見つかった場合3 ログが残っておらず判定できない場合4 メモリーの開示とパスワード5 第三者から連絡を受けた場合第5 報告・通知の期限と内容1 速報2 確報3 本人への通知第6 レンタルサーバー・クラウド・保守会社が関わる場合1 サービス事業者側への攻撃も対象になり得る2 サービス事業者が個人データを取り扱わない場合3 保守会社とパッチの適用第7 報告とは別に問われる安全管理措置第8 事業者が確認すること第9 関連記事第10 出典1 法令2 個人情報保護委員会の資料3 PHPの脆弱性に関する資料
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

令和8年10月21日,PHPの開発チームは,認証を受けていない第三者による遠隔コード実行につながり得る二つの重大な脆弱性(CVE-2026-109618及びCVE-2026-109619。発見者等は「PHP2Shell」と呼んでいる)を修正した版を公開した。
本記事は,修正版を適用する前の期間に,脆弱な版のPHPで個人データを扱うウェブサイトを運営していた事業者が,個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)26条による個人情報保護委員会への報告と本人への通知をしなければならないかを整理するものである。
基準日は令和8年10月23日である。
条文はe-Gov法令検索で現行の版(個人情報保護法は令和8年10月1日施行の版,同法施行規則は令和8年6月14日施行の版)を確認し,個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は令和8年6月一部改正の版,Q&Aは令和7年7月1日更新の版によった。
PHPの修正版と更新手順は,PHPの緊急セキュリティ更新とWordPress保守―法律・税理士事務所の確認,バックアップ,互換性試験及び復旧手順で扱っている。

2 結論

①漏えい等報告の対象は,個人データの漏えい等が「発生し、又は発生したおそれがある事態」であり,脆弱なソフトウェアを使っていたことそのものではない。
②個人情報保護委員会がサイバー攻撃について「おそれ」に当たり得る例として挙げるのは,窃取の痕跡,情報を窃取するマルウェアの感染,指令サーバーへの通信,入力ページの改ざんの痕跡,第三者からの根拠のある連絡といった具体的な兆候である。
③したがって,本記事では,侵入の痕跡を調べても見つからず,第三者からの連絡もないときは,脆弱な版を使っていたことだけを理由に直ちに報告対象になるとまではいえないと考える。
ただし,今回の脆弱性は攻撃の痕跡が残らない場合があるとされているので,調べた範囲と判断の理由を記録しておく必要がある。
④侵入の痕跡がある場合は,不正の目的による行為による漏えい等のおそれ(施行規則7条3号)に当たり得るので,知った時点から概ね3~5日以内の速報,60日以内の確報及び本人への通知が必要になる。
⑤レンタルサーバーやクラウドの事業者が個人データを取り扱わない契約になっている場合でも,報告義務を負うのはサービスを利用してサイトを運営する事業者である。
⑥報告の要否とは別に,修正ソフトウェアを適用しなかったことは,安全管理措置(個人情報保護法23条)の問題になり得る。

第2 今回の脆弱性で報告の判断に関係する点

PHPの開発チームの発表によれば,二つの脆弱性はPHP本体にあり,ウェブのリクエストを処理する全てのPHPの環境が危険の対象とされている。
CVE-2026-109619のアドバイザリは,確認された影響として,遠隔コード実行のほかに,メモリーの内容の開示を挙げている。
発見者の一つであるWizは,開示されたメモリーにパスワード,認証用のトークン,APIキー及び証明書が含まれ得ると説明している。
また,Cloudflareは,脆弱性の情報が正式な公開日より前に流出し,攻撃の通信を観測したとしている。

JPCERT/CCは,令和8年10月22日の注意喚起で,攻撃を受けた可能性を調べるために,過去のHTTPの応答で不自然に長い又は異常な形式のセッションのCookieが設定されていないか,不審なmultipart/form-data形式のリクエストの前後にPHPのメモリー上限に関するエラーやHTTP 500のエラーがないか,PHPのワーカーの予期しない異常終了や頻繁な再起動の痕跡がないかを確認するよう挙げている。
そのうえで,「上述の痕跡が確認されない場合でも、本脆弱性を悪用した攻撃を受けていないと断定することはできません。」としている。
このように,今回の脆弱性では,痕跡が見つからないことと攻撃を受けていないことが同じではない点に注意を要する。

その後,米国のサイバーセキュリティ・インフラストラクチャー安全保障庁(CISA)は,10月23日に改訂した警報で,実環境での悪用の成功は観測していないとしつつ,直ちに更新できない組織にはPHPを使うシステムを修正又は更新までオフラインにするよう求めた。
米国連邦捜査局(FBI)も,同日の公共広告(I-102326-PSA)で,機密データやネットワークが侵害されるおそれがあると警告している。
これらは米国の機関による一般的な評価であり,個々のサイトで漏えい等が発生したおそれがあるかは,前記の痕跡の調査を含め,その時点で判明している事実関係に基づいて判断することになる。

第3 報告・通知の対象となる事態
1 個人情報保護法26条と施行規則7条

個人情報保護法26条1項は,個人データの漏えい,滅失,毀損その他の個人データの安全の確保に係る事態であって,個人の権利利益を害するおそれが大きいものとして個人情報保護委員会規則で定めるものが生じたときに,個人情報保護委員会への報告を義務付けている。

(続きを読む...)脆弱なPHPを使っていただけで漏えい等報告は必要か―PHP2Shellと個人情報保護法26条,施行規則7条3号の「おそれ」及び本人通知(AI作成)